説明

窒化物結晶の製造方法

【課題】本発明は、種結晶の反りや歪が、該種結晶上に成長された結晶に及ぼす影響を低減し、大型で低転位、低歪みの窒化物結晶を製造し得る方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、種結晶上に成長結晶をa軸方向に成長させて窒化物結晶を得る窒化物結晶の製造方法であって、成長面として実質的にA面を出現させずに前記成長結晶を前記種結晶のa軸方向に成長させることを特徴とする、窒化物結晶の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウムや窒化アルミニウム等窒化物の単結晶は、アモノサーマル法などを利用し、結晶を成長させることで得ることができる。アモノサーマル法は、超臨界状態及び/又は亜臨界状態にあるアンモニアなどの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、アンモニアなどの溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる方法である。
【0003】
種結晶を核として結晶成長を開始する場合、種結晶に含まれる転位のうち、成長面に露出する転位は成長した結晶中に引き継がれる。このため、種結晶を成長させた結晶中にも同程度の転位が含まれることになる。
加えて、種結晶を用いた結晶成長方法を大型結晶の成長に適用すると、種結晶の反りや歪の影響によって、結晶にクラックなどの欠陥が導入され、低転位、低歪み、かつ大型の窒化物結晶を得ることが難しい。例えば、アモノサーマル法で窒化ガリウム(GaN)結晶を成長させるための種結晶としてハイドライド気相成長法(HVPE法)で成長させたGaN単結晶ウェハーを用いる場合、種結晶に含まれる高密度の転位、反り、内在する歪みが原因で高品質の結晶を製造することが困難であった。
【0004】
これに対し、ELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)法などの横方向成長を利用した方法が知られている。種結晶に含まれる転位は、成長方向に略同一な方向にのみ伸びる。このため、種結晶の横方向成長した部分から更に垂直方向に成長させることにより大幅に転位を減少させることができる。
【0005】
アモノサーマル法においても、横方向に成長した部分の転位密度が低下すること利用した方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、横方向成長でもA面の成長が早いことを利用して、A面成長で大型の結晶を作製する方法や、M面種結晶を用いた方法も提案されている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7859008号公報
【特許文献2】特表2008−521737号公報
【特許文献3】国際公開第2010−005914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載される方法は極めて小さな寸法の種結晶にのみ適用されており、結晶を大型化した場合に問題となる反りや歪の影響については対処されていない。上記特許文献2および特許文献3に記載される方法によれば大型な結晶を得ることができるが、A面やM面を成長面としてそのまま法線方向に成長させても種結晶の成長面に存在する転位、反り、歪みの影響は軽減されるわけではないことが本発明者らの検討により明らかとなった。このため、単に横方向成長を利用しても結晶性を向上させることはできないという課題が見出された。
【0008】
本発明者らは、種結晶の反りや歪が、該種結晶上に成長された結晶に及ぼす影響を低減し、大型で低転位、低歪みの窒化物結晶を製造し得る方法を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討を進めた結果、特定の条件の下にa軸方向へ結晶を成長させることにより、大型で低転位、低歪みの窒化物結晶を得ることができることを見出し、以下に記載する本発明を提供するに至った。
【0010】
[1] 種結晶上に成長結晶をa軸方向に成長させて窒化物結晶を得る窒化物結晶の製造方法であって、成長面として実質的にA面を出現させずに前記成長結晶を前記種結晶のa軸方向に成長させることを特徴とする、窒化物結晶の製造方法。
[2] 前記成長結晶を前記種結晶のa軸方向へ成長させたときに出現する成長面と前記種結晶のC面との成す角度が90°未満であり、前記成長面は複数の結晶面が集合した面から成る[1]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[3] 前記成長結晶は、成長面として[11−2−4]面、[11−24]面、[10−1−2]面、[10−12]面、[0001]面、及び、[000−1]面の少なくとも一つを出現させながら前記種結晶のa軸方向へ成長する[1]または[2]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[4] 前記成長結晶に含まれる転位の伸展方向が、[11−2−4]面、[11−24]、[10−1−2]面、及び、[10−12]面の少なくとも一つの面に略垂直な方向である[1]〜[3]のいずれかに記載の窒化物結晶の製造方法。
[5] 前記種結晶は、a軸方向の寸法が5mm以下、m軸方向の寸法が20mm以上、c軸方向の寸法が2mm以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の窒化物結晶の製造方法。
[6] 前記成長結晶における前記種結晶のa軸方向への成長寸法が、前記種結晶におけるa軸方向の寸法の2倍以上である[1]〜[5]のいずれかに記載の窒化物結晶の製造方法。
[7] 前記種結晶が周期表第13族窒化物を含み、前記種結晶の+C面以外の面をマスキングして前記成長結晶を+c軸方向に成長させた後、前記種結晶の+c軸方向に成長した部分の成長結晶を、前記種結晶のa軸方向にさらに成長させる[1]〜[6]のいずれかに記載の窒化物結晶の製造方法。
[8] 少なくともフッ素元素と、塩素、臭素、ヨウ素から構成される他のハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つとを含む鉱化剤を用いて、超臨界状態及び/又は亜臨界状態の溶媒中で前記成長結晶を成長させる[1]〜[7]のいずれかに記載の窒化物結晶の製造方法。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載の窒化物結晶の製造方法により得られた窒化物結晶からC面を主面とする板状窒化物結晶を切り出してウェハーを得る、窒化物結晶ウェハーの製造方法。
[10] [9]に記載の製造方法により得られた前記窒化物結晶ウェハーを種結晶として、該種結晶上に窒化物結晶をc軸方向に成長させる窒化物結晶の製造方法。
[11] [10]に記載の製造方法により得られた前記窒化物結晶を、C面に垂直な方向に切り出してウェハーを得る窒化物結晶ウェハーの製造方法。
[12] [11]に記載の製造方法によりA面又はM面が主面となるように切り出した窒化物結晶ウェハーを種結晶として、該種結晶上に窒化物結晶を成長させる窒化物結晶の製造方法。
[13] 前記窒化物結晶から前記種結晶および前記種結晶からc軸方向に成長した領域を切除して、C面を主面とする板状窒化物結晶を切り出す、[9]に記載の窒化物結晶ウェハーの製造方法。
[14] [13]に記載の製造方法により得られた窒化物結晶ウェハーを種結晶として用いて、さらに[1]〜[8]のいずれか1項に記載の製造方法により成長結晶を成長させる、窒化物結晶の製造方法。
[15] [14]に記載の製造方法により得られた前記窒化物結晶から、C面、A面またはM面を主面とする板状窒化物結晶を切り出す窒化物結晶ウェハーの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、高品質な窒化物結晶を作製することができる。また、前記製造方法により得られた窒化物結晶から種結晶を作製し、これを用いてさらに高品質で大型の窒化物結晶を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】六方晶系の結晶構造の軸と面を説明する図である。
【図2】種結晶と、成長結晶と、前記結晶中に存在する転位との関係を示す断面図である。
【図3】本発明における種結晶の一態様を示す模式図である。
【図4】本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
【図5】ウェハーを切り出して再成長させる一態様を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の窒化物結晶の製造方法、及び、前記製造方法から得られた窒化物結晶から種結晶を作製し、これを用いた窒化物結晶の製造方法について説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0014】
(定義)
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
まず、図1を用いて、六方晶系の結晶構造の軸と面との関係について説明する。図1は、六方晶系の結晶構造の軸と面を説明する図である。本明細書において種結晶または窒化物結晶の「主面」とは、当該種結晶または窒化物結晶における最も広い面であって、通常は結晶成長を行うべき面を指す。本明細書において「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{0001}面と等価な面であり、極性面である。例えば、図1の[2−1]に示す(0001)面とその反対面である(000−1)面を指し、それぞれ+C面、−C面と称することがある。周期表第13族窒化物結晶では、+C面は周期表第13族面で−C面は窒素面であり、窒化ガリウムではそれぞれGa面又はN面に相当する。また、本明細書において「M面」とは、{1−100}面、{01−10}面、[−1010]面、{−1100}面、{0−110}面、{10−10}面として包括的に表される非極性面であり、具体的には図1の[2−2]で示す(1−100)面や、(01−10)面、(−1010)面、(−1100)面、(0−110)面、(10−10)面を意味する。さらに、本明細書において「A面」とは、{2−1−10}面、{−12−10}面、{−1−120}面、{−2110}面、{1−210}面、{11−20}面として包括的に表される非極性面である。具体的には図1の[2−3]で示すような(11−20)面や、(2−1−10)面、(−12−10)面、(−1−120)面、(−2110)面、(1−210)面、を意味する。本明細書において「c軸」「m軸」「a軸」とは、それぞれC面、M面、A面に垂直な軸を意味する。
また、本明細書において「非極性面」とは、表面に周期表第13族元素と窒素元素の両方が存在しており、かつその存在比が1:1である面を意味する。具体的には、M面やA面を好ましい面として挙げることができる。本明細書において「半極性面」とは、例えば、周期表第13族窒化物が六方晶であってその主面が(hklm)で表される場合、[0001]面以外で、m=0ではない面をいう。すなわち(0001)面に対して傾いた面で、かつ非極性面ではない面をいう。表面に周期表第13族元素と窒素元素の両方あるいはC面のように片方のみが存在する場合で、かつその存在比が1:1でない面を意味する。h、k、l、mはそれぞれ独立に−5〜5のいずれかの整数であることが好ましく、−2〜2のいずれかの整数であることがより好ましく、低指数面であることが好ましい。窒化物結晶が有する表面として好ましく採用できる半極性面として、例えば(10−11)面、(10−1−1)面、(10−12)面、(10−1−2)面、(20−21)面、(20−2−1)面、(20−2−1)面、(10−12)面、(10−1−2)面、(11−21)面、(11−2−1)面、(11−22)面、(11−2−2)面、(11−24)面、(11−2−4)面などを挙げることができる。
【0015】
[本発明の窒化物単結晶の製造方法]
(特徴)
本発明の窒化物結晶の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と称する場合がある。)は、種結晶上に成長結晶をa軸方向に成長させて窒化物結晶を得る窒化物結晶の製造方法であって、実質的にA面を出現させずに前記成長結晶を前記種結晶のa軸方向に成長させる。
本発明の製造方法は、種結晶上に成長結晶をa軸方向に成長させる。但し、a軸方向に成長結晶を成長させたとしても、成長面としてA面を出現させると種結晶のA面に存在する転位や、種結晶中の反り、歪みの影響を成長結晶がそのまま引き継いでしまう。ここで、成長面に含まれる転位等の欠陥は、アモノサーマル法等で種結晶上に成長結晶を成長させる場合、成長面の法線方向に延びるようにして結晶が成長する。このため、本発明の製造方法では、a軸方向への成長先端部分に出現する面を制御することによって、成長した領域に転位の伝搬を効果的に抑制することができ、結果的に、低転位であることにより大型の反りや歪みの小さい結晶を得ることができる。なお、本明細書において、成長面とは結晶の成長中に出現している結晶面のことをいう。
【0016】
本発明の製造方法によって成長した窒化物結晶と、種結晶に存在する転位等に起因して成長結晶中に伸展する転位等の関係について図2を用いて説明する。図2は、種結晶と、成長結晶と、前記結晶中に存在する転位との関係を示す断面図である。
図2に示すように、本発明の製造方法においては、種結晶S上に成長結晶Gを成長させて窒化物結晶を得ることができる。結晶成長Gの成長に伴って、種結晶Sに存在する転位や反りなどに起因して成長結晶G中にも複数の転位Cdや転位CdA(A面から発生する転位)が成長する。図2に示すように種結晶Sから成長する転位Cdは、各成長面の法線にほぼ直交する面内にて拡大成長する。本発明の製造方法は、図2に示すようにa軸方向に実質的にA面を出現させずに前記成長結晶を成長させる。換言すると、a軸方向に成長結晶Gが成長することによって出現する面Seが半極性面(Semi−Polar面)になるように制御する。本発明の製造方法によって成長した窒化物結晶では、種結晶Sのa軸方向に出現した成長面(面Se)は、種結晶SのC面との成す角度が90°未満であることが好ましく、図2に示す窒化物結晶ではおおよそ38°であって(11−2−4)面にほぼ一致する面となっている。この際、面Seを、詳細に観察すると、複数の結晶面が集合した面であってもよい。図2において面Seは、マクロ的に見ると(11−2−4)面にほぼ一致する方向に傾斜しており、ミクロ的に詳細に観察すると、[10−1−2]面及びそこから微傾斜した面の集合である。即ち、前記成長結晶は、成長面として[11−2−4]面、[11−24]面、[10−1−2]面、[10−12]面、(0001)面、及び、(000−1)面の少なくとも一つを出現させながら前記種結晶のa軸方向へ成長することが好ましく、前記成長面はこれら複数の結晶面が集合した面であることが好ましい。
【0017】
このように種結晶Sのa軸方向に成長させる面を実質的にA面ではなく半極性面とすることで、図2におけるCdAのように、種結晶Sに起因する転位などの欠陥が面Seの法線方向に伸びるように、a軸方向から傾斜させて成長させることができる。これにより、種結晶のa軸方向には転位などの欠陥が伸展することなく大型化することができ、低転位、低反りを実現した高品質な窒化物結晶を成長させることができる。上述のように、面Seは複数の結晶面が集合した面であり、成長結晶は、主に、(11−2−4)面、(11−24)面、(10−1−2)面、(10−12)面、(0001)面、及び、(000−1)面の少なくとも一つを出現させながら成長する。このため、前記成長結晶の成長に伴う転位の伸展方向は、(11−2−4)面、(11−24)面、(10−1−2)面、及び、(10−12)面の少なくとも一つの面に略垂直な方向となる。ここで、略垂直とは垂直方向から±5°の範囲内であることが好ましい。
【0018】
(a軸方向に出現する面の制御)
前記面Seの制御は、種結晶Sのa軸方向に出現した面Seが種結晶SのC面との成す角度が90°未満になるようにできるものであれば適宜好ましく適用することができる。
例えば、後述する鉱化剤として、少なくともフッ素元素と、塩素、臭素、ヨウ素から構成される他のハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つとを含む鉱化剤を用いることが好ましい。前記鉱化剤としては、特にフッ素とヨウ素とを含むものが好ましい。このように鉱化剤としてフッ素を含むものを用いると、A面を出現させた成長を抑制しながら、成長結晶をa軸方向に成長させることができる。これに対し、例えば、鉱化剤として塩素のみを用いると、種結晶のa軸方向に成長結晶を成長させた場合に、純粋なA面が出現しやすい傾向にある。
【0019】
また、成長結晶中の不純物の濃度を低減する成長条件にすることで成長面を半極性面とする成長を促すことができる。この際、前記不純物濃度としては酸素濃度やアルカリ金属、Ni等の遷移金属等の濃度を基準とすることができる。例えば、成長結晶中の酸素濃度を1020atoms/cm3未満とすることで成長面を半極性面とする成長を促すことができるため好ましい。
【0020】
更に、前記種結晶として周期表第13族窒化物を用いる場合、前記種結晶の+C面以外の面をマスキングして前記成長結晶を+c軸方向に成長させた後、前記種結晶の+c軸方向に成長した部分を、前記種結晶のa軸方向にさらに成長させてもよい。このように、種結晶の+C面のみを成長するように他の面をマスキングすると、−C面などの他面から拡大成長した部分の結晶と干渉することがなく、大きな結晶を得ることができる。中でも、+C面の一部も併せてマスキングして、種結晶の露出面積を小さくすることが好ましい。たとえば、+C面上にa軸方向に10〜500μmの幅を有する開口部を形成するようにマスキングして、該開口部から前記成長結晶を+c軸方向に成長させた後、前記種結晶の+c軸方向に成長した部分を、前記種結晶のa軸方向にさらに成長させてもよい。
反対に、−C面以外の面をマスキングして前記成長結晶を−c軸方向に成長させた後、前記種結晶の−c軸方向に成長した部分を、前記種結晶のa軸方向にさらに成長させてもよい。中でも、−C面の一部も併せてマスキングして、種結晶の露出面積を小さくすることが好ましい。たとえば、−C面上にa軸方向に10〜500μmの幅を有する開口部を形成するようにマスキングして、該開口部から前記成長結晶を−c軸方向に成長させた後、前記種結晶の−c軸方向に成長した部分を、前記種結晶のa軸方向にさらに成長させてもよい。a軸方向に成長した領域からさらに+c軸方向に成長し、マスキングした種結晶の+C面を覆うように成長することで+C面全面を高品質結晶化することができる。
上述のようにc軸方向に成長させた後、a軸方向にさらに成長させる方法としては、結晶成長の初期段階では、温度勾配を小さくして前記種結晶の+c軸方向に低成長速度で高品質に結晶成長させた後、温度勾配を大きくして成長速度を上げることにより、a軸方向の成長を促進させることもできる。その場合、初期の温度勾配に対して1.1〜3.0倍に温度勾配を大きくすることが好ましい。
【0021】
また、後述するように、種結晶の形状、加工方法などを適宜選択することによっても、成長面を半極性面とする成長を促すことができる。
成長面を半極性面に制御するための手段としては、上述の方法に限られず、またこれらの方法を適宜組み合わせることによって達成し得る。
【0022】
以下に前記窒化物単結晶の結晶成長方法に用いられる種結晶について説明し、更に、前記結晶成長方法に用いることのできる、鉱化剤、溶媒、原料について説明する。
【0023】
(種結晶)
前記種結晶は、六方晶系の結晶構造を有する。種結晶としては、成長結晶として成長させる窒化物の単結晶が用いられる。前記種結晶の具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)またはこれらの混晶等の窒化物単結晶が挙げられる。
【0024】
前記種結晶は、成長結晶との格子整合性などを考慮して決定することができる。例えば、種結晶としては、サファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、Gaなどの金属からNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、液相エピタキシ法(LPE法)を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、溶液成長法に基づき作製された単結晶及びそれらを切断した結晶などを用いることができる。前記エピタキシャル成長の具体的な方法については特に制限されず、例えば、ハイドライド気相成長法(HVPE)法、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)、液相法、アモノサーマル法などを採用することができる。
【0025】
前記種結晶上に、成長結晶が成長する。本明細書において、種結晶の成長結晶が成長する面を「成長結晶成長面」と称する場合がある。前記種結晶としては、C面を主面とする種結晶を用いることが好ましい。ここでいう主面とは、結晶を構成する面のうち最大面積を有する面を意味し、側面とは主面に隣接して交差する面を意味する。
種結晶としては、形状は特に限定されないが、大面積の成長結晶を効率よく得ることができるので主面の外形が長方形や楕円形などのように長手方向と短手方向を有する形状であることが好ましく、長手方向に伸びる直線と短手方向に伸びる直線とが略垂直に交わることがより好ましい。種結晶の側面は平面でも曲面であってもよい。種結晶の形状としては例えば、直方体、三角板状、五角板状、六角板状、円板状、三角柱、五角柱、六角柱、円柱などが挙げられる。
【0026】
種結晶の主面および側面の結晶面はいずれも特に限定されないが、主面はA面以外の面であることが好ましい。また、主面の長手方向に伸びる直線とA面のなすc軸回転角度は±15°以下であることが好ましい。例えば種結晶が図3に示すような長い板状である場合には、主面の長方形の長辺とA面のなすc軸回転角度が±15°以下であることが好ましく、より好ましくは±10°以下、さらに好ましくは±5°以下である。
種結晶の作成は、ワイヤーソー、ダイヤモンドカッター、ダイシング、などで切断して作成することができる。好ましくは、切断面にチッピングが発生しないように、番手の細かいワイヤーソー等を利用するなどチッピングが発生しない条件で切断することが好ましい。
また、切断表面の加工変質層を取り除くために、リン酸、硫酸などの酸を利用したエッチング工程や研磨工程を行うことが好ましい。
【0027】
種結晶の側面は劈開して形成してもよい。例えば、種結晶の側面が劈開して形成したA面であると、未研磨のA面を有する種結晶を用いて結晶成長させた場合に比べて、成長面を半極性面とする成長を促すことができ、高品質の窒化物結晶を速い成長速度で製造することができる。また種結晶界面から発生する転位が未研磨の場合よりも減少するため、成長した結晶中の転位密度をさらに低減することができる。
【0028】
図3を用いて、種結晶の好ましい形状について説明する。図3は、本発明における種結晶の一態様を示す模式図であり、側面は必ずしも主面と直交する面である必要はない。図3に示すように、前記種結晶は、C面を主面とし、m軸方向が長い板状のものが好ましいが、後述するサイズなどは種結晶の形状が、三角板状、五角板状、六角板状、円板状、三角柱、五角柱、六角柱、円柱などの形状であっても同様に考えることができる。前記種結晶のサイズとして、好ましくは、a軸方向の寸法が5mm以下(更に好ましくは3mm以下)、m軸方向の寸法が20mm以上(更に好ましくは30mm以上)、c軸方向の寸法が2mm以下(更に好ましくは1mm以下)である。
【0029】
また、前記種結晶の厚さ(C面を主面とする場合にはc軸方向の寸法)は、取り扱い性の観点から0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上が更に好ましい。また、種結晶の厚さが厚すぎる(剛性が高い)と、a軸方向への成長の際に種結晶の反りを矯正しきれずに、成長結晶中に欠陥が増殖したり、クラックが発生する場合がある。このため、前記種結晶の厚さは、2mm以下が好ましく、1mm以下が更に好ましい。
【0030】
前記種結晶は、結晶成長後のクラック発生の抑制や成長中の結晶破損防止の観点から、内在する内在する転位密度数が1x108/cm2以下であることが好ましく、1x107/cm2以下が更に好ましく、5x106/cm2以下が特に好ましい。
前記種結晶の主面の結晶格子面の曲率半径は、結晶成長後のクラック発生の抑制や成長中の結晶破損防止の観点から、0.5m以上であることが好ましく、1m以上が更に好ましく、2m以上が特に好ましい。
【0031】
種結晶として本発明の製造方法によって得られる窒化物結晶を用いて、さらに成長結晶を成長させることが好ましい。この場合、種結晶として用いる窒化物結晶はスライス、研削や研磨などの加工を施すことなくアズグロウン状態のまま用いてもよい。また、本発明の製造方法によって得られる窒化物結晶にスライス、研削や研磨などの加工を施して、成長結晶の一部を種結晶として用いてもよい。
【0032】
(成長結晶)
前記成長結晶は、種結晶上に成長する窒化物結晶である。前記成長結晶は、種結晶と同種の窒化物単結晶を成長させることで得られる。
前記成長結晶を種結晶上に成長させる具体的な方法については特に限定はなくハイドライド気相成長法(HVPE)法、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)などの気相法;液相エピタキシ法(LPE法)などの液相法;アモノサーマル法などが挙げられるが、好ましくはアモノサーマル法を採用することができる。前記アモノサーマル法としては、特にフッ素元素と、塩素、臭素、ヨウ素から構成される他のハロゲン元素から選ばれる少なくとも一種とを含む鉱化剤を用いたアモノサーマル法が好ましい。前記アモノサーマル法については後述する。
【0033】
前記成長結晶のc軸方向の厚みは、種結晶の反りの矯正と結晶成長後の結晶破損抑制の観点から、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましく、5mm以上であることが特に好ましい。
また、前記成長結晶の前記種結晶のa軸方向への成長寸法は、前記種結晶のa軸方向の寸法の2倍以上であることが好ましく、3倍以上が更に好ましく、5倍以上が特に好ましい。
成長結晶における不純物原子として酸素原子を含有する場合の酸素原子濃度は、1×1020atoms/cm3以下であることが好ましく、5×1019atoms/cm3以下であることがより好ましい。
【0034】
(本発明の窒化物結晶)
本発明の窒化物結晶は、六方晶系の結晶構造を有するものであれば特に限定されないが、周期表第13族金属窒化物結晶であることが好ましい。例えば、種結晶及び成長結晶を構成する周期表第13族窒化物として、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムやこれらの混晶などを用いたものが好ましく、この中でも窒化ガリウムがさらに好ましい。
【0035】
本発明の窒化物結晶中のフッ素濃度は、高い結晶品質と成長速度のバランスの観点から、1x1020cm-3未満が好ましく、1x1019cm-3未満が更に好ましく、5x1018cm-3未満が特に好ましく、1x1015cm-3以上が好ましく、5x1015cm-3以上が更に好ましく、1x1016cm-3以上がとくに好ましい。
【0036】
本発明の窒化物結晶中の塩素、臭素及びヨウ素の合計濃度は、結晶品質を維持する観点から、1×1017cm-3以下であることが好ましく、1×1016cm-3以下であることがより好ましく、5×1015cm-3以下であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明の窒化物結晶を製造する際に、種結晶の形状を適宜選択することにより、所望の形状を有する窒化物結晶を得ることができる。本発明の窒化物結晶は、そのまま使用してもよいし、加工してから使用してもよい。
本発明の窒化物結晶は、種結晶として用いたり、光デバイスや電子デバイスに好適に用いるための観点から、内在するGa面に貫通する転位密度が1x104cm-2以下であることが好ましく、1x103cm-2以下が更に好ましく、5x102cm-2以下が特に好ましい。
本発明の窒化物結晶は、前記と同様の観点から、内在する内在するクラック数が5本以下であることが好ましく、3本以下が更に好ましく、0本が特に好ましい。
【0038】
(鉱化剤)
本発明におけるアモノサーマル法による窒化物結晶の成長に際しては、鉱化剤を用いることが好ましい。アンモニアなどの窒素を含有する溶媒に対する結晶原料の溶解度が高くないために、溶解度を向上させるための鉱化剤を用いる。
【0039】
前記鉱化剤として、フッ素元素と、塩素、臭素、ヨウ素から構成される他のハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つとを含む鉱化剤を用いることが好ましい。
前記鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせは、塩素とフッ素、臭素とフッ素、ヨウ素とフッ素といった2元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とフッ素、塩素とヨウ素とフッ素、臭素とヨウ素とフッ素といった3元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とヨウ素とフッ素といった4元素の組み合わせであってもよい。好ましいのは、上述のようにa軸方向に発現する面を半極性面に制御する観点から、ヨウ素とフッ素を少なくとも含む組み合わせである。本発明で用いる鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせと濃度比(モル濃度比)は、成長させようとしている窒化物結晶の種類や形状やサイズ、種結晶の種類や形状やサイズ、使用する反応装置、採用する温度条件や圧力条件などにより、適宜決定することができる。
例えば、ヨウ素とフッ素を含む鉱化剤の場合、フッ素濃度に対してヨウ素濃度を0.1倍以上にすることが好ましく、0.5倍以上にすることがより好ましく、1倍以上にすることがさらに好ましい。また、フッ素濃度に対してヨウ素濃度を100倍以下にすることが好ましく、50倍以下にすることがより好ましく、20倍以下にすることがさらに好ましい。
【0040】
一般に鉱化剤のフッ素濃度を高くすると、窒化物結晶のm軸方向及びa軸方向の成長速度が速くなる傾向にあり、相対的にc軸方向の成長が遅くなる傾向にある。さらにフッ素濃度を高くしていくと、原料の溶解度が温度に対して負の相関を示すようになるため、高温領域で結晶成長が起こるようになる。一方、鉱化剤の塩素濃度、臭素濃度、ヨウ素濃度を高くすると、原料の溶解度が温度に対して正の相関をより強く示すようになり、また、相対的にC面の成長速度が速くなる傾向にある。塩素、臭素、ヨウ素の順番にこの傾向が強まってゆく。
【0041】
ハロゲン元素を含む鉱化剤の例としては、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素、アンモニウムヘキサハロシリケート、及びヒドロカルビルアンモニウムフルオリドや、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジプロピルアンモニウム、及びハロゲン化イソプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム塩、フッ化アルキルナトリウムのようなハロゲン化アルキル金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化金属等が例示される。このうち、好ましくはハロゲン化アルカリ、アルカリ土類金属のハロゲン化物、金属のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素であり、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アンモニウム、周期表第13族金属のハロゲン化物、ハロゲン化水素であり、特に好ましくはハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化水素である。
【0042】
前記製造方法では、ハロゲン元素を含む鉱化剤とともに、ハロゲン元素を含まない鉱化剤を用いることも可能であり、例えばNaNH2やKNH2やLiNH2などのアルカリ金属アミドと組み合わせて用いることもできる。ハロゲン化アンモニウムなどのハロゲン元素含有鉱化剤とアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤とを組み合わせて用いる場合は、ハロゲン元素含有鉱化剤の使用量を多くすることが好ましい。具体的には、ハロゲン元素含有鉱化剤100質量部に対して、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を50〜0.01質量部とすることが好ましく、20〜0.1質量部とすることがより好ましく、5〜0.2質量部とすることがさらに好ましい。アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を添加することによって、c軸方向の結晶成長速度に対するm軸の結晶成長速度の比(m軸/c軸)を一段と大きくすることも可能である。
【0043】
前記製造方法で成長させる窒化物結晶に不純物が混入するのを防ぐために、必要に応じて鉱化剤は精製、乾燥してから使用することができる。前記鉱化剤の純度は、通常は95%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。
前記鉱化剤に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、前記結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい。
【0045】
鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は0.1mol%以上とすることが好ましく、0.3mol%以上とすることがより好ましく、0.5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は30mol%以下とすることが好ましく、20mol%以下とすることがより好ましく、10mol%以下とすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎるため制御が困難になるなどの傾向がある。
【0046】
(溶媒)
前記アモノサーマル法に用いられる溶媒としては、窒素を含有する溶媒を用いることができる。窒素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒が挙げられる。前記溶媒としては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0047】
前記溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0048】
(原料)
前記製造方法においては、種結晶上に成長結晶として成長させようとしている窒化物結晶を構成する元素を含む原料を用いる。例えば、周期表第13族金属の窒化物結晶を成長させようとする場合は、周期表第13族金属を含む原料を用いる。好ましくは13族窒化物結晶の多結晶原料及び/又は13族金属であり、より好ましくは窒化ガリウム及び/又は金属ガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては13族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
【0049】
前記多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属又はその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0050】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性又は吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0051】
(反応容器)
本発明の窒化物結晶の製造方法は、反応容器中で実施することができる。
前記反応容器は、窒化物結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択することができる。前記反応容器としては、特表2003−511326号公報(国際公開第01/024921号パンフレット)や特表2007−509507号公報(国際公開第2005/043638号パンフレット)に記載されるように反応容器の外から反応容器とその内容物にかける圧力を調整する機構を備えたものであってもよいし、そのような機構を有さないオートクレーブであってもよい。
【0052】
前記反応容器は、耐圧性と耐食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41(Teledyne Allvac, Incの登録商標)、Inconel718(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標)、ハステロイ(Haynes International,Incの登録商標)、ワスパロイ(United Technologies,Inc.の登録商標)が挙げられる。
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、及び系内に含まれる鉱化剤及びそれらの反応物との反応性及び/又は酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらを反応容器の内面を構成する材料として用いるには、反応容器自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒として薄膜を形成して耐圧性容器内に反応容器として設置してもよく、任意の反応容器の材料の内面にメッキ処理を施してもよい。
【0053】
反応容器の耐食性をより向上させるために、貴金属の優れた耐食性を利用して、貴金属を反応容器の内表面をライニング又はコーティングしてもよい。また、反応容器の材質を貴金属とすることもできる。ここでいう貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、及びこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でも優れた耐食性を有するPtを用いることが好ましい。
上述のような方法を用いることにより、反応容器に由来するNiなどの不純物や酸素のなどの不純物を低減した窒化物結晶を成長することができる。
【0054】
本発明の窒化物結晶の製造方法に用いることのできる反応容器を含む結晶製造装置の具体例を図4に示す。図4は、本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。図4に示される結晶製造装置においては、オートクレーブ1中に反応容器(内筒)として装填されるカプセル20中で結晶成長を行う。カプセル20中は、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6から構成されている。原料溶解領域9には原料8とともに溶媒や鉱化剤を入れることができ、結晶成長領域6には種結晶7をワイヤーで吊すなどして設置することができる。原料溶解領域9と結晶成長領域6の間には、2つの領域を区画バッフル板5が設置されている。バッフル板5の開孔率は2〜60%であるものが好ましく、3〜40%であるものがより好ましい。バッフル板の表面の材質は、反応容器であるカプセル20の材料と同一であることが好ましい。また、より耐食性を持たせ、成長させる結晶を高純度化するために、バッフル板の表面は、Ni、Ta、Ti、Nb、Pd、Pt、Au、Ir、またはこれらの合金、pBNであることが好ましく、Pd、Pt、Au、Ir、またはこれらの合金、pBNであることがより好ましく、Pt、またはその合金であることが特に好ましい。図4に示される結晶製造装置では、オートクレーブ1の内壁2とカプセル20との間の空隙には、第2溶媒を充填することができるようになっている。ここには、バルブ10を介して窒素ボンベ13から窒素ガスを充填したり、アンモニアボンベ12からマスフローメーター14で流量を確認したりしながら第2溶媒としてアンモニアを充填することができる。また、真空ポンプ11により必要な減圧を行うこともできる。なお、本発明の窒化物結晶の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、マスフローメーター、導管は必ずしも設置されていなくてもよい。
【0055】
前記オートクレーブにより耐食性を持たせるためにライニングを使用することもできる。ライニングする材料として、Pt、Ir、Ag、Pd、Rh、Cu、Au及びCのうち少なくとも一種類以上の金属又は元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金又は化合物であることが好ましく、より好ましくは、ライニングがしやすいという理由でPt,Ag、Cu及びCのうち少なくとも一種類以上の金属又は元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金又は化合物である。例えば、Pt単体、Pt−Ir合金、Ag単体、Cu単体やグラファイトなどが挙げられる。
【0056】
(製造工程)
本発明の窒化物結晶の製造方法の一例について説明する。本発明の窒化物結晶の製造方法を実施する際には、まず、反応容器内に、種結晶、窒素を含有する溶媒、原料、及び鉱化剤を入れて封止する。
【0057】
前記材料を反応容器内に導入するのに先だって、反応容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。反応容器内への種結晶の装填は、通常は、原料及び鉱化剤を充填する際に同時又は充填後に装填する。種結晶は、反応容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
【0058】
図4に示す製造装置を用いる場合は、反応容器であるカプセル20内に種結晶、窒素を含有する溶媒、原料、及び鉱化剤を入れて封止した後に、カプセル20を耐圧性容器(オートクレーブ)1内に装填し、好ましくは耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第2溶媒を充填して耐圧性容器を密閉する。
その後、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態及び/又は亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
【0059】
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)及びP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0060】
超臨界条件では、窒化物結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性及び熱力学的パラメータ、すなわち温度及び圧力の数値に依存する。窒化物結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は結晶性および生産性の観点から、120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は安全性の観点から、700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度及び反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、及び自由容積の存在によって多少異なる。
【0061】
反応容器内の温度範囲は、結晶性および生産性の観点から、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、安全性の観点から、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。本発明の窒化物結晶の製造方法では、反応容器内における原料溶解領域の温度が、結晶成長領域の温度よりも高いことが好ましい。原料溶解領域と結晶成長領域との温度差(|ΔT|)は、結晶性および生産性の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0062】
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、及び種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは40〜70%とする。
【0063】
反応容器内での窒化物結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態及び/又は超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度については特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
なお、前記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、及び/又は外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。
【0064】
本発明の窒化物結晶の製造方法においては、種結晶に前処理を加えておくことができる。前記前処理としては、例えば、種結晶にメルトバック処理を施したり、種結晶の成長結晶成長面を研磨したり、種結晶を洗浄するなどが挙げられる。
【0065】
本発明の窒化物結晶の製造方法においては、オートクレープを昇温する際に、一定の温度を保持して、種結晶の成長結晶成長面にメルトバック処理を施してもよい。当該メルトバック処理によって、種結晶の成長結晶成長面や、装置中の白金部材に付着した結晶核を溶解することができる。前記メルトバック処理の条件としては、温度差(|ΔT|)が0℃以上であることが好ましく、10℃以上が更に好ましく、20℃以上が特に好ましい。また、100℃以下が好ましく、80℃以下が更に好ましく、60℃以下が特に好ましい。また、メルトバック処理の際の結晶成長領域の温度としては、500℃以上であることが好ましく、550℃以上であることがより好ましく、600℃以上であることがさらに好ましい。また、650℃以下が好ましく、630℃以下がより好ましい。原料溶解領域の温度としては、500℃以上であることが好ましく、550℃以上であることがより好ましく、590℃以上であることがさらに好ましい。また、650℃以下が好ましく、630℃以下がより好ましい。
【0066】
メルトバック処理時の反応容器内の圧力は、100MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがさらに好ましく、180MPa以上にすることが特に好ましい。また、メルトバック処理の処理時間は、1時間以上が好ましく、5時間以上が更に好ましく、10時間以上が特に好ましい。また、200時間以下が好ましく、100時間以下が更に好ましく、50時間以下が特に好ましい。
【0067】
前記前処理において、種結晶の表面(成長結晶成長面)を研磨するには、例えば、ケミカルメカニカルポリッシング(CMP)等で行うことができる。前記種結晶の表面粗さは、例えば、原子間力顕微鏡によって計測した二乗平均平方根粗さ(Rms)が、メルトバックとそれに続く結晶成長を均等に行うとの観点から、1.0nm以下であることが好ましく、0.5nmが更に好ましく、0.3nmが特に好ましい。
【0068】
本発明の窒化物結晶の製造方法における窒化物結晶のc軸方向の成長速度は反りの矯正を効果的に行ないながら結晶を破損しないようバランスを取るの観点から、100μm/day以上であることが好ましく、150μm/day以上であることがより好ましく、200μm/day以上であることがさらに好ましい。また、800μm/day以下であることが好ましく、700μm/day以下であることがより好ましく、600μm/day以下であることがさらに好ましい。
【0069】
本発明の窒化物結晶の製造方法における窒化物結晶のm軸方向の成長速度は特に制限はないが、安定な結晶モルフォロジーを達成するにはM面方向もバランスよく成長するほうが好ましいための観点から、50μm/day以上であることが好ましく、70μm/day以上であることがより好ましく、100μm/day以上であることがさらに好ましい。また、600μm/day以下であることが好ましく、500μm/day以下であることがより好ましく、400μm/day以下であることがさらに好ましい。
【0070】
本発明の窒化物結晶の製造方法における窒化物結晶のa軸方向の成長速度は経済性と結晶品質のバランスの観点から、400μm/day以上であることが好ましく、500μm/day以上であることがより好ましく、600μm/day以上であることがさらに好ましい。また、2500μm/day以下であることが好ましく、2000μm/day以下であることがより好ましく、1500μm/day以下であることがさらに好ましい。
ここで、各軸方向の成長速度は、表裏の関係にある両軸方向の成長速度の合計を、それぞれの軸方向成長の成長速度として定義する。
【0071】
本発明の窒化物結晶の製造方法による窒化物結晶の−c軸方向の成長速度は+c軸方向の成長速度よりも速く、5〜15倍である。−c軸方向の成長速度と+c軸方向の成長速度の合計をc軸方向成長(両面)の成長速度として定義する。
本発明の窒化物結晶の製造方法による窒化物結晶のm軸方向の成長速度はc軸方向の成長速度の0.2倍以上であることが好ましく、0.3倍以上であることがより好ましく、0.4倍以上であることがさらに好ましい。また、1.5倍以下であることが好ましく、1.2倍以下であることがより好ましく、0.9倍以下であることがさらに好ましい。
本発明の窒化物結晶の製造方法による窒化物結晶のa軸方向の成長速度はc軸方向の成長速度の0.5倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることがさらに好ましい。また、5.0倍以下であることが好ましく、4.0倍以下であることがより好ましく、3.5倍以下であることがさらに好ましい。
【0072】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温又は降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0073】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、反応容器に接続したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶及び未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0074】
なお、本発明の窒化物結晶の製造方法にしたがって窒化ガリウムを製造する場合、前記以外の材料、製造条件、製造装置、工程の詳細については特開2009−263229号公報を好ましく参照することができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
本発明の窒化物結晶の製造方法においては、種結晶上に窒化物結晶を成長させた後に、後処理を加えてもよい。前記後処理の種類や目的は特に制限されない。例えば、ピットやクラックなどの結晶欠陥を容易に観察できるようにするために、育成後の冷却過程で結晶表面をメルトバックしてもよい。
【0075】
(ウェハー)
本発明の窒化物結晶を所望の方向に切り出すことにより、任意の結晶方位を有するウエハ(半導体基板)を得ることができる。
本発明の製造方法によって得られた窒化物結晶から、C面を主面とするウェハーを切り出して例えば、種結晶として用いることで、高品質な窒化物結晶を製造することができる。本発明の製造方法によって得られた窒化物結晶は上述のように低転位、低反りを実現し高品質な結晶である。このため、本発明の製造方法によって得られた窒化物結晶を種結晶として用いてアモノサーマル法等により例えばc軸方向に窒化物結晶を成長させることで高品質な結晶の大型化を実現することができる。このように、前記C面を主面とするウェハーを種結晶として結晶をc軸方向に成長させた窒化物結晶からは、C面に垂直な方向に切り出して例えばA面を主面とするウェハーやM面を主面とするウェハーを得ることができる。このようにして得られたA面又はM面を主面とするウェハーを更に種結晶として用い、結晶を成長させて大型のA面又はM面を主面とするウェハーを製造してもよい。
【0076】
本発明の製造方法によって得られた窒化物結晶から、C面を主面とするウェハーを切り出す場合には、例えば図5に示すような手順でウェハーを切り出すことが好ましい。種結晶部分32はa軸方向に成長した部分31よりも品質が劣るため、種結晶部分32を切除してから用いることができる。例えば、種結晶のa軸方向の幅が3mmであった場合、得られた窒化物結晶のa軸方向の中心付近には約3mmの幅で直線状に低品質領域が存在することになる。この低品質領域を切除することで得られるC面ウェハー33の面積は約半分になるが、この半分になったウェハーを再度a軸方向に結晶成長させることにより切除前と同等の面積まで拡大成長させることができる。このようにして得られた結晶は中央部に元の種結晶が存在しないため、C面全面が高品質な結晶となる。
【0077】
(デバイス)
本発明の窒化物結晶やウェハーは、デバイス、即ち発光素子や電子デバイスなどの用途に好適に用いられる。本発明の窒化物結晶やウェハーが用いられる発光素子としては、発光ダイオード、レーザーダイオード、それらと蛍光体を組み合わせた発光素子などを挙げることができる。また、本発明の窒化物結晶やウェハーが用いられる電子デバイスとしては、高周波素子、高耐圧高出力素子などを挙げることができる。高周波素子の例としては、トランジスター(HEMT、HBT)があり、高耐圧高出力素子の例としては、サイリスター(IGBT)がある。本発明の窒化物結晶やウェハーは、均一で高品質であるという特徴を有することから、前記のいずれの用途にも適している。中でも、均一性が高いことが特に要求される電子デバイス用途に適している。
【実施例】
【0078】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。以下に記載する実施例及び比較例では、図4に示す結晶製造装置を用いて窒化物単結晶を成長させた。
【0079】
<実施例1>
RENE41製のオートクレーブ1を耐圧性容器として用い、Pt−Ir製のカプセル20を反応容器として結晶成長を行った。原料8として多結晶GaN粒子を、カプセル下部領域(原料溶解領域9)内に設置した。次に鉱化剤として十分に乾燥した純度99.999%のNH4Iと純度99.999%のGaF3とをそれぞれ充填NH3量に対してI濃度が1.5mol%、F濃度が0.75mol%となるよう秤量しカプセル内に投入した。
さらに下部の原料溶解領域9と上部の結晶成長領域6との間に白金製のバッフル板5を設置した。種結晶7としてHVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶から切り出した板状のウェハー(c軸方向:0.3mm、m軸方向:50mm、a軸方向:2.0mm)を用いた。種結晶のGa面とN面とはchemical mechanical polishing(CMP)仕上げされており、M面、A面はダイヤモンドソーにより切断したままの面であった。種結晶を温度100℃、濃度48%KOH溶液で3時間エッチングをした。種結晶7を直径0.2mmの白金ワイヤーにより白金製種結晶支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域6に設置した。
つぎにカプセル20の上部にPt−Ir製のキャップをTIG溶接により接続したのち、重量を測定した。キャップ上部に接続されたチューブに図4のバルブ10と同様のバルブを接続し、真空ポンプ11に通ずるようバルブを操作し真空脱気した。その後バルブを窒素ボンベ13に通ずるように操作しカプセル内を窒素ガスにてパージを行った。前記真空脱気、窒素パージを5回行った後、真空ポンプに繋いだ状態で加熱をしてカプセル内の水分や付着ガスの脱気を行なった。カプセルを室温まで自然冷却したのちバルブを閉じ、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却した。
続いてNH3ボンベ12に通ずるように導管のバルブを操作したのち再びバルブを開け外気に触れることなくNH3を充填した。
【0080】
つづいてバルブ10が装着されたオートクレーブ1にカプセル20を挿入した後に蓋を閉じた。次いでオートクレーブに接続されたバルブ10を介して導管を真空ポンプ11に通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した。カプセルと同様に窒素ガスパージを複数回行った。その後、真空状態を維持しながらオートクレーブ1をドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブ10を閉じた。次いで導管をNH3ボンベ12に通じるように操作した後、再びバルブ10を開け連続して外気に触れることなくNH3をオートクレーブ1に充填した。
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。オートクレーブ外表面の結晶成長領域6の温度が617℃、原料溶解領域9の温度が635℃になるよう昇温し、設定温度に達した後、その温度にて20日間保持した。オートクレーブ内の圧力は216MPaであった。また保持中のオートクレーブ外面制御温度のバラツキは±0.3℃以下であった。
その後、オートクレーブ1の外面の温度が室温に戻るまで自然冷却し、オートクレーブに付属したバルブ10を開放し、オートクレーブ内のNH3を取り除いた。その後オートクレーブ1を計量しNH3の排出を確認した後、オートクレーブの蓋を開け、カプセル20を取り出した。カプセル上部に接続されたチューブに穴を開けカプセル内部からNH3を取り除いた。カプセル内部を確認したところ種結晶に窒化ガリウム結晶が析出していた。以上の工程により、実施例1の窒化ガリウム結晶を取得した。成長した結晶の寸法は、c軸方向:5.88mm、m軸方向:54mm、a軸方向:18.0mmであった。成長速度はそれぞれの面方位により異なり、c軸方向(Ga面側とN面側との合計):280μm/day、a軸方向(両側合計):800μm/day、であった。
【0081】
また、得られた結晶は、a軸方向へ成長した領域にはA面は出現しておらず、複数の半極性面が複合した面が出現していた。前記半極性面は、主に(10−1−2)面の複合面であり、部分的に(10−1−1)面も出現していた。マクロ的に観察すると、(10−1−2)面の複合面の平均的な面方位は(11−2−4)面方向を向いていた。
次いで、取得したGaN結晶のa軸方向へ成長した領域から、m軸方向に長い板状のサンプルをワイヤーソーにて切り出し、C面及びA面を研磨した。
X線回折法を用いて格子面の曲率半径を測定したところ、C面の曲率半径が64.0m、A面の曲率半径が69.3mであった。
さらに、X線回折法によりC面の半値幅を測定したところ、(002)面反射で17.9秒、(006)面反射で32.8秒、(102)面反射で14.8秒であった。転位密度を測定するために、X線トポグラフィーによる観察を行なった。Ga面から観察したところ転位と見られる像は1×102cm-2以下であった。
【0082】
<実施例2>
図5に示すように、実施例1にて得られた結晶から種結晶部分32(a軸方向のほぼ中央2mm幅)を切除し、Ga面(+C面)はアズグロウン状態のまま、N面(−C面)を研削し約1.5mmの厚さのウェハー33を作製した。作製したウェハー寸法はc軸方向:1.5mm、m軸方向:54mm、a軸方向:5.5mmであった。本ウェハーを種結晶として実施例1と同様の条件にて30日間の結晶成長を行なって、再成長部分34を成長させた。その結果得られた結晶の寸法はc軸方向が12mm、m軸方向が60mm、a軸方向が30mmであった。得られた結晶のGa面は全面にわたり低転位であり、元の種結晶の影響による低品質領域が消滅していた。結晶成長終了後にオートクレーブ中でエッチングされたエッチピットを光学顕微鏡で観察したところ、全面にわたりGa面のエッチピット密度は5×101cm-2〜5x102cm-2であった。エッチピットは貫通転位と対応していることから、極めて低転位密度の結晶であることが確認された。
【0083】
<比較例1>
RENE41製のオートクレーブ1を耐圧容器として用い、鉱化剤としてClのみを用いた。ClはHClガスとして導入した。種結晶としてHVPE法にて育成したGaN結晶から切り出した10x10mmのC面を主面とするウェハーを用いた。ウェハーの側面はそれぞれm軸方向とa軸方向に対応している。そのほかは実施例1と同様に結晶成長を行なった。成長期間は14.7日であった。得られた結晶の寸法は、c軸方向:4.05mm、a軸方向:11.14mm、m軸方向:10.52mmであった。成長速度はc軸方向:255μm/day、a軸方向:78μm/day、m軸方向:35μm/dayであった。
a軸方向への成長は前述のように極めて遅く平坦なA面が出現していた。出現したA面を光学顕微鏡で観察すると多数のピットが観察された。A面のピット密度をカウントしたところ1×107/cm2程度であり、種結晶と同等の転位密度であったことから、A面成長領域は種結晶から引き継がれていることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1 オートクレーブ
2 オートクレーブの内壁
5 バッフル板
6 結晶成長領域
7 種結晶
8 原料
9 原料溶解領域
10 バルブ
11 真空ポンプ
12 アンモニアボンベ
13 窒素ボンベ
14 マスフローメーター
20 カプセル
31 a軸方向に成長した部分
32 種結晶部分
33 ウェハー
34 再成長部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶上に成長結晶をa軸方向に成長させて窒化物結晶を得る窒化物結晶の製造方法であって、成長面として実質的にA面を出現させずに前記成長結晶を前記種結晶のa軸方向に成長させることを特徴とする、窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記成長結晶を前記種結晶のa軸方向へ成長させたときに出現する成長面と前記種結晶のC面との成す角度が90°未満であり、前記成長面は複数の結晶面が集合した面から成る請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記成長結晶は、成長面として[11−2−4]面、[11−24]面、[10−1−2]面、[10−12]面、[0001]面、及び、[000−1]面の少なくとも一つを出現させながら前記種結晶のa軸方向へ成長する請求項1または2に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記成長結晶に含まれる転位の伸展方向が、[11−2−4]面、[11−24]、[10−1−2]面、及び、[10−12]面の少なくとも一つの面に略垂直な方向である請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記種結晶は、a軸方向の寸法が5mm以下、m軸方向の寸法が20mm以上、c軸方向の寸法が2mm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記成長結晶における前記種結晶のa軸方向への成長寸法が、前記種結晶におけるa軸方向の寸法の2倍以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記種結晶が周期表第13族窒化物を含み、前記種結晶の+C面以外の面をマスキングして前記成長結晶を+c軸方向に成長させた後、前記種結晶の+c軸方向に成長した部分の成長結晶を、前記種結晶のa軸方向にさらに成長させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
少なくともフッ素元素と、塩素、臭素、ヨウ素から構成される他のハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つとを含む鉱化剤を用いて、超臨界状態及び/又は亜臨界状態の溶媒中で前記成長結晶を成長させる請求項1〜7のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法により得られた窒化物結晶からC面を主面とする板状窒化物結晶を切り出してウェハーを得る、窒化物結晶ウェハーの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法により得られた前記窒化物結晶ウェハーを種結晶として、該種結晶上に窒化物結晶をc軸方向に成長させる窒化物結晶の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法により得られた前記窒化物結晶を、C面に垂直な方向に切り出してウェハーを得る窒化物結晶ウェハーの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法によりA面又はM面が主面となるように切り出した窒化物結晶ウェハーを種結晶として、該種結晶上に窒化物結晶を成長させる窒化物結晶の製造方法。
【請求項13】
前記窒化物結晶から前記種結晶および前記種結晶からc軸方向に成長した領域を切除して、C面を主面とする板状窒化物結晶を切り出す、請求項9に記載の窒化物結晶ウェハーの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法により得られた窒化物結晶ウェハーを種結晶として用いて、さらに請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により成長結晶を成長させる、窒化物結晶の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法により得られた前記窒化物結晶から、C面、A面またはM面を主面とする板状窒化物結晶を切り出す窒化物結晶ウェハーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107819(P2013−107819A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−251369(P2012−251369)
【出願日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】