説明

窒素酸化物の選択的還元触媒

【課題】 酸素過剰雰囲気下、排ガス中に含まれるNOxをCOを用いて、幅広い、温度、空間速度等の反応条件において、高い活性を長期間に渡り安定に示す触媒を提供する。
【解決手段】 酸素存在下で、一酸化炭素により窒素酸化物を選択的に還元する還元用触媒であって、周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属から選ばれる1種以上の金属とイリジウムを、酸化タングステン及びシリカからなる担体に担持することからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過剰酸素を含有する排ガス中の窒素酸化物を除去する触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃焼器や種々のエンジン等の燃焼排ガス中には、酸化性の有害成分である窒素酸化物(NOx)が含まれている。これを、触媒を用いて還元して無害化するためには種々の還元剤が使用されるが、その中では排ガス中に含まれる還元剤と反応させることが、還元剤を別に供給する必要がなく望ましい方法であり、特に、ほとんどの排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)を用いることが実用的に好ましい。
しかしながら、燃焼排ガスのうち、ボイラー、リーンバーンエンジン、ディーゼルエンジン排ガス中のNOxを除去する場合、排ガス中には一酸化炭素(CO)と同時に過剰の酸素が含まれているため、このような条件においても選択的に一酸化炭素(CO)を用いてNOxを還元できる触媒が必要である。
【0003】
すなわち、酸素存在下、窒素酸化物(NOx)として一酸化窒素(NO)、還元剤として一酸化炭素(CO)を用いる場合には、化1に示す反応式(1)、(2)により進行すると推測される。
【0004】
(化1)
2NO+2CO → N+ 2CO2 (1)
O2 + 2CO → 2CO2 (2)
【0005】
式(1)により、NOを高い割合でNまで還元させるには、COがNOによってCO2まで酸化されることが必要であり、COの酸化が進行しなければ、NOのNへの還元も進行しない。一方、式(2)でCOの酸素による酸化が進むと、COは式(1)の反応に関与しなくなり、その結果としてNOのNへの還元率も低下する。したがって、NOを高い割合で還元するには、NOの還元剤であるCOが、高濃度で存在する酸素と式(2)により反応するよりも、低濃度で存在するNOと式(1)により選択的に反応する触媒機能が必要となる。
【0006】
これまで、COによるNOx選択還元にはイリジウムを含む触媒が活性を示すことが知られている。
例えば、SO1ppm以下の条件下に、NOx転化率が80%を超す触媒として、Ir/シリカライトを用いるもの(非特許文献1)が報告されているが、活性は不十分である。
また最近、酸素過剰雰囲気下、SOの存在下で良好な還元性能を発揮するイリジウム/シリカ触媒とロジウム/シリカ触媒(特許文献1)が開発されている。
これらの触媒は、いずれも、酸素1.3%の条件でも最大NOx転化率が65%と比較的高い活性を有するが、高濃度酸素雰囲気下で活性が著しく低下する。またSOが存在しない場合には活性が発現しないなどの欠点を有する。
【0007】
イリジウム触媒では、他に酸化タングステンおよび酸化亜鉛(非特許文献2、3)などの金属酸化物に担持したものも報告されている。これらの触媒は、酸素2%の酸素過剰雰囲気下でも90%以上の高いNOx転化率を示すものの、空間速度が非常に低く、SOによる阻害も受けるため(非特許文献2)、実用条件下で性能を発揮するとは言い難い。
その他にも、Ir/WO-SiOを用いるもの(非特許文献4)では、空間速度数万h−1以上の条件でNOx転化率は80%を超すが、高い活性を示す温度域が50℃未満と狭く、広範囲な温度となる実用条件下では効果的なNOx除去が行えない可能性がある。
【0008】
以上のように、これまで知られている触媒は、すべて実用的な性能を有するとは言い難く、そのため、より高い活性、広い活性温度、実ガス条件下での高い耐久性を有する触媒の開発改良が望まれていた。
【特許文献1】特開2004−73921号
【非特許文献1】”Catalytic Activity of Ir for NO-COReaction in the Presence of SO2 and Excess Oxygen”, Masaru Ogura, Aya Kawamura, Masahiko Matsukata, Eiichi Kikuchi,Chem. Lett. 146-147 (2000)
【非特許文献2】”Selective Catalytic Reduction of NOby CO over Supported Iridium and Rhodium Catalysts”, Masahide Shimokawabe, Noriyoshi Umeda, Chem.Lett, 33, 534-535 (2004)
【非特許文献3】”Ir/WO3を用いたNO-CO反応に対するSO2の反応阻害と共存O2濃度の影響”, 新津 美裕,下川部 雅英,岩佐 信弘,荒井 正彦,第96回触媒討論会 2P25 (2005)
【非特許文献4】”Ir/WO3-SiO2上でのCOによるNO選択還元”, 篠原 智,難波 哲哉,内澤 潤子,大井 明彦,小渕 存,第96回触媒討論会 3G16(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、酸素過剰雰囲気下、排ガス中に含まれるNOxをCOを用いて、幅広い、温度、空間速度等の反応条件において、高い活性を長期間に渡り安定に示す触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術に存在する問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酸化タングステン(WO)とシリカ(SiO)からなる担体に、イリジウムと、活性助剤として周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属のうち1種以上とを担持した触媒が、SO含有あるいは存在しないにかかわらず、幅広い温度範囲と空間速度条件で、NOxを酸素過剰雰囲気下でもCOによって効率よく選択的に長期間にわたり還元できることを見出した。
すなわち、NOxと還元剤としてのCOとの、より選択的な反応を促すために、本発明の周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属から選ばれる1種以上の金属とイリジウムを、酸化タングステンおよびシリカからなる担体に担持した触媒を使用することが重要となるものである。そして、このことは、従来技術であるシリカを担体としてイリジウムと活性助剤を担持した触媒の性能と、酸化タングステンとシリカからなる担体にイリジウムを担持した触媒の性能を、単に組み合わせただけの効果とは明らかに異なるものである。
【0011】
本発明によると、以下の発明が提供される。
(1)酸素存在下で、一酸化炭素により窒素酸化物を選択的に還元する触媒であって、周期律表第1,2,3,9、11及び12族金属から選ばれる1種以上の金属とイリジウムを、酸化タングステンおよびシリカからなる担体に担持したことからなることを特徴とする還元触媒。
(2)前記酸化タングステン及びシリカからなる担体において、タングステンの含有量が1〜50wt%であることを特徴とする(1)の還元触媒。
(3)前記酸化タングステン及びシリカからなる担体に対する前記イリジウムの担持量が、0.1〜10wt%であることを特徴とする(1)又は(2)の還元触媒。
(4)前記周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属から選ばれる1種以上の金属の担持量が、前記イリジウムの担持量に対して原子比で1/30〜10であることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかの還元触媒。
【発明の効果】
【0012】
本発明により得られる触媒は、COによる窒素酸化物の選択的還元反応において、酸素過剰雰囲気下でSOを含有するもしくは存在しないに拘わらず、90%を超えるNOx転化率が得られるとともに、約50%を超えるNOx転化率が約100℃の広範な温度範囲にわたり得られ、かつ幅広い空間速度でも高い活性を発揮し、さらに高活性を長時間維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の触媒は、周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属のうち1種以上とイリジウムを酸化タングステンおよびシリカからなる担体に担持した触媒である。
本発明触媒の構成主成分であるシリカ(SiO)は、耐熱、耐水性に優れた金属酸化物であり、合成は従来公知の方法により行われる。
【0014】
本件発明における担体を構成する1成分であるシリカそのものは、COを還元剤に使用してもNOx還元活性を全く示さない。また、該シリカにイリジウムあるいはイリジウムと活性助剤を担持した触媒では、SO存在下でのみNOx還元活性を示すものの、活性温度域が狭い上に活性劣化も著しい。さらに、酸化タングステン(WO)とシリカからなる担体にイリジウムを担持した触媒も、NOx還元活性は示すものの、活性温度域が狭く、活性の劣化も著しい。
これに対し、本発明の、酸化タングステン(WO)とシリカ(SiO)を複合化し、イリジウム(Ir)と、周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属のうち1種以上を担持した触媒は、幅広い温度及び高い空間速度で、SOが含有あるいは存在しない場合でも、長期間にわたり著しく高いNOx除去性能を維持する。このような特異的な活性は、酸化タングステンとシリカとからなる担体に、イリジウム及び周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属のうち1種以上が組み合わさることによって始めて発現するものである。
【0015】
上記の周期律表第1族金属としては、Li,Na,K,Cs等があげられ、周期律表第2族金属としてはMg,Ca,Ba,Sr等があげられ、周期律表第3族金属としてはLa,Sc,Y,Ce,Pr,Eu等があげられ、周期律表第9族金属としてはCo,Rh等があげられ、周期律表第11族金属としてはCu,Ag,Auがあげられ、周期律表第12族金属としてはZn等があげられる。
【0016】
上記WO含有量は、WO-SiO重量に対して1〜50重量%、好ましくは10重量%である。上記Irの含有量は、0.1〜10wt%、好ましくは0.5〜5wt%である。
周期律表第1,2,3,9、11及び12族金属のうち1種以上の金属の含有量として、Ir含有量に対して原子比で1/30〜10、好ましくは1/20〜1の広範囲で効果を示す。
【0017】
酸化タングステンとシリカからなる担体を調製する方法は、タングステン化合物の水溶液にシリカを浸漬する含浸法や、シリカ化合物ならびにタングステン化合物の混合溶液を用いるゾルゲル法等で行うことができる。特に、含浸法の場合は、タングステン化合物のクエン酸およびリンゴ酸水溶液を用いることが好ましい。たとえば、タングステン化合物のクエン酸水溶液にシリカを浸漬し、乾燥した後、空気中で焼成することにより、酸化タングステンとシリカの複合担体が得られる。複合担体では、シリカ上にタングステンが酸化物の状態で層状に存在する。
【0018】
イリジウム(Ir)の担持方法は、前記の手順に従って調製したWO-SiO担体に、イリジウム(Ir)の化合物からなる水溶液を含浸する方法等が採用される。担体にイリジウム(Ir)化合物を含浸させた後、乾燥、焼成する。このときのIr化合物は、水に可溶であればどのようなものでもよいが、通常は、残存陰イオンを空気中の焼成処理により比較的低温で分解できる六塩化イリジウム酸等が用いられる。
周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属のうち1種以上の金属を担持する際も、イリジウムの場合と同様の方法が採用され、同様に水に可溶な化合物であれば特に限定するものではないが、上記のように残存陰イオンを空気中の焼成処理によって比較的低温で分解除去できる金属硝酸塩化合物が好ましく用いられる。
【0019】
いずれの場合も、含浸は、室温〜100℃で、1〜24時間で行い、通常は、室温で1〜3時間行う。含浸後は、通常は、乾燥した後、空気中で焼成する。空気中の焼成は、約300〜900℃、好ましくは約400〜700℃で、約1〜10時間で行い、低温、短時間であると、化合物の分解が十分に進行せず、高温、長時間であると、含有成分の凝集やシンタリングが起きて、触媒の活性が低下してしまう。焼成後には、Irや周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属のうち1種以上の金属は、主にシリカ上の酸化タングステンの層の上に酸化物として存在すると考えられる。
Irと、活性助剤として機能する周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属のうち1種以上の金属の酸化タングステンとシリカの複合担体への担持順序は特に限定するものでなく、Irを先に担持し、それを焼成した後に活性助剤を追加担持する方法、Irと活性助剤を同時に担持する方法等があげられる。
【0020】
本発明の触媒は、粉状、粒状、ペレット状、ハニカム状等、種々の形状で使用することができる。
本発明の触媒は、使用前に、約400〜800℃、好ましくは約500〜700℃で、約5〜20%の水素を含むガスで約1〜3時間還元処理を行う。
【0021】
本発明において、処理の対象となるNOx含有ガスは、ディーゼル車や定置式ディーゼル機関等のディーゼル排ガス、リーンバーンガソリン車等の排ガスをはじめ、各種燃焼設備等の排ガスをあげることができる。
これら排ガス中のNOxの除去は、上記した本発明の触媒を用いて、該触媒に、酸素を含む酸化雰囲気中、COの存在下で、排ガスを接触させることにより行う。
ここで、酸化雰囲気とは、排ガス中に含まれるCOを、完全に酸化してCOに変換するのに必要な酸素量よりも過剰な酸素が含まれる雰囲気である。
上記のCOは、排ガス中に残存するものであり、COの量は特に制限されない。ただし、必要な理論量より過剰とした方が還元反応はより進行されるので、一般には、過剰に存在させるのが好ましい。COを還元剤とする場合、NOxの還元除去に必要な理論量の約2倍〜14倍量(NO500ppmに対して1000〜7000ppm)の過剰、好ましくは約4〜10倍量の過剰とするのが適している。
【0022】
本発明において、SO濃度は特に制限されない。本発明の触媒は、SO濃度が0ppm〜20ppmの範囲で、その活性を全く低下させることがない。 このことは、本発明の触媒が、SOの含有もしくは存在しないことにかかわらず燃焼排ガスのNOx処理に対応可能であることを意味しており、さらに耐SO性を有することを示している。
【0023】
本発明の触媒を用いたNOxの還元除去は、上記の触媒を配置した反応器を用意し、SOの含有する、もしくは存在しない酸化雰囲気中で、COを存在させて、NOx含有排ガスを通過させることにより行う。このときの反応温度は、一般には、約100〜800℃、好ましくは約200〜600℃である。反応圧力は特に制限されず、加圧下でも減圧下でも反応は進行するが、通常の排気圧で排ガスを触媒層へ導入し、反応を進行させるのが簡便である。
空間速度は特に制限しないが、約10,000〜500,000h−1、好ましくは約40,000〜300,000h−1である。
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0024】
水50gにクエン酸3gを溶かした溶液にパラタングステン酸アンモニウムを1.24g入れ室温にて溶かし溶液Aを調製した。次に溶液Aに、WOとSiO重量比が1:9となるように分量を調節してシリカ粒(富士シリシア化学社製商品名“CARIACT G-10”300m/g <比表面積>)を混合した。その後、この混合溶液を90℃以下で蒸発乾固させ、110℃、空気中で一晩乾燥し、500℃で4時間焼成することで、WO重量が10重量%のWO-SiOを得た。
得られた10重量%WO-SiO、2gに対してIr重量が5重量%となるよう濃度を調整した塩化イリジウム酸水溶液4gを含浸し、110℃空気中で一晩乾燥し、その後、600℃で6時間焼成することで、Ir/WO-SiOを得た。
得られたIr/WO-SiO、1gに対し、Ba/Ir原子比が1/10となるように濃度を調整した硝酸バリウム水溶液2gを含浸し、110℃空気中で一晩乾燥し、その後、600℃で6時間焼成することにより、周期律表第2族金属であるバリウムとイリジウムを、酸化タングステン及びシリカからなる担体に担持した触媒(Ba/Ir/WO-SiO)を得た。
【0025】
上記のようにして得られた本発明の触媒0.004gを常圧流通式反応装置に充填した。触媒床温度を測定するための熱電対を触媒床中心付近に配置した。
触媒は反応前に10%H/H気流中、600℃、2時間還元を施した。500ppm NO、3000ppm CO、5%O、6%HO、1ppmSOを含むHe希釈混合ガスの模擬排ガスを反応ガスとし、流量90ml/min(SV約75000h−1に相当)で触媒床に流通し、その生成ガスを、ガスクロマトグラフ(CO,CO2,N,NO分析)で分析した。
活性評価は、次式に示すNO転化率により行い、その結果を表1に示した。
NO転化率 = [2×(N濃度+NO濃度)/NO入口濃度]×100 (%)
【実施例2】
【0026】
実施例1において、イリジウム担持量を2重量%とした以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表1に示した。
【実施例3】
【0027】
実施例1において、イリジウム担持量を0.5重量%とした以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表1に示した。
【実施例4】
【0028】
実施例1において、バリウム担持量をイリジウム担持量に対して原子比が1/20とした以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表1に示した。
【実施例5】
【0029】
実施例1において、バリウム担持量をイリジウム担持量に対して原子比が1/5とした以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表1に示した。
【実施例6】
【0030】
実施例1において、バリウム担持量をイリジウム担持量に対して原子比が1/1とした以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表1に示した。
【比較例1】
【0031】
実施例1において、硝酸バリウムを使用しない以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表1に示した。
【比較例2】
【0032】
実施例1において、担体としてシリカのみを使用する以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、実施例1の本発明の触媒活性は、比較例1ならびに比較例2に示す従来技術の触媒の活性に比べて広い温度範囲にわたって著しく高いことがわかる。このことは、本発明の触媒性能が従来技術である比較例1と比較例2を単に組み合わせただけのものではないことを示している。
本発明の触媒では、Ir担持量が大きいほど、特に低温にて高い活性を示すことがわかる。また、Ba/Ir原子比が1/20〜1/1に至るまで著しく高い活性が得られ、特に実施例5においては最大NOx転化率が94%に達し、約50%以上の転化率が得られる温度領域が約100℃(260〜360℃)と非常に広く、比較例1の約20℃(280〜300℃)と比べると約5倍、比較例2と比べても約3倍にまで拡大している。
以上のことから、WO-SiO担体とIrとBaが組み合わさることにより、広範な温度域で非常に高い活性を持つこれまでにない触媒性能が現れることがわかった。
【実施例7】
【0035】
硝酸バリウムを硝酸リチウムに代えた以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表2に示した。
このとき触媒に対するイリジウム(Ir)の担持量は5.0重量%、 周期律表第1族金属であるリチウム(Li)の担持量はイリジウム(Ir)の担持量に対して原子比で1/10であった。
【実施例8】
【0036】
硝酸バリウムを硝酸カリウムに代えた以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表2に示した。
このとき触媒に対するイリジウム(Ir)の担持量は5.0重量%、周期律表第1族金属であるカリウム( K)の担持量はイリジウム(Ir)の担持量に対して原子比で1/10であった。
【実施例9】
【0037】
硝酸バリウムを硝酸カルシウムに代えた以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表2に示した。
このとき触媒に対するイリジウム(Ir)の担持量は5.0重量%、周期律表第2族金属であるカルシウム(Ca)の担持量はイリジウム(Ir)の担持量に対して原子比で1/10であった。
【実施例10】
【0038】
硝酸バリウムを硝酸ランタンに代えた以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表2に示した。
このとき触媒に対するイリジウム(Ir)の担持量は5.0重量%、周期律表第3族金属であるランタン(La)の担持量はイリジウム(Ir)の担持量に対して原子比で1/10であった。
【実施例11】
【0039】
硝酸バリウムを酢酸コバルトに代えた以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表2に示した。
このとき触媒に対するイリジウム(Ir)の担持量は5.0重量%、周期律表第9族金属であるコバルト(Co)の担持量はイリジウム(Ir)の担持量に対して原子比で1/10であった。
【実施例12】
【0040】
硝酸バリウムを塩化金酸に代えた以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表2に示した。
このとき触媒に対するイリジウム(Ir)の担持量は5.0重量%、周期律表第11族金属である金(Au)の担持量はイリジウム(Ir)の担持量に対して原子比で1/10であった。
【実施例13】
【0041】
硝酸バリウムを硝酸亜鉛に代えた以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表2に示した。
このとき触媒に対するイリジウム(Ir)の担持量は5.0重量%、周期律表第12族金属である亜鉛(Zn)の担持量はイリジウム(Ir)の担持量に対して原子比で1/10であった。
【0042】
【表2】

【0043】
表2から、WO-SiO担体にIrを担持した触媒にLi,K,Ca,Ba,La,Co,Au,Zn等の金属を加えることで、加えない場合よりも活性が向上することがわかる。
このことから、高いNOx除去活性を得るためには、周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属のいずれか1種以上を添加すればよく、特に広い温度範囲で高い触媒性能を発揮するには、周期律表第2族金属の添加が好ましいことがわかる。
【実施例14】
【0044】
原料ガスにSOを使用しない以外は、実施例5と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表3に示した。
【実施例15】
【0045】
原料ガスのSO濃度を20ppmとした以外は、実施例5と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表3に示した。
【比較例3】
【0046】
原料ガスにSOを使用しない以外は、比較例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表3に示した。
【比較例4】
【0047】
原料ガスにSOを使用しない以外は、比較例2と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表3に示した。
【0048】
【表3】

【0049】
表3から明らかなように、SOが高濃度で存在しても、存在しなくても活性はほとんど変わらず、高い活性を示す。従って、本発明の触媒はSOが含有する、もしくは存在しないにかかわらず非常に高いNOx除去活性を示すことがわかった。一方、Ir/WO-SiO触媒では、SOが存在しない場合でもNOx除去活性は最大でも50%程度である。またIr/SiOにBaを添加した触媒に至ってはSOが存在しない場合には活性が発現しない。すなわち、活性助剤の添加は、SO共存下でのみ有効である。したがって、本発明のWO-SiO担体とIrとBa添加の組み合わせは、従来技術からは予測することのできない触媒性能を生み出すことがわかった。
【実施例16】
【0050】
触媒量を0.01g (SV約300,000h−1に相当)とした以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表4に示した。
【0051】
【表4】

【0052】
表4から本発明の触媒は、SVが75,000〜300,000h−1という幅広い処理ガス量の条件下でも効果的に機能することがわかる。
【実施例17】
【0053】
WO-SiOに塩化イリジウム酸と硝酸バリウムを同時に含浸した以外は、実施例1と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表5に示した。
【0054】
【表5】

【0055】
表5の結果から、調製法としては、Irの化合物を含浸し、乾燥、焼成した後にバリウム化合物を含浸しても、Irの化合物とバリウム化合物を同時に含浸しても、どちらでも最大NOx転化率が80%以上と高い活性を示すことがわかる。
【実施例18】
【0056】
原料ガスのCO濃度を1000ppmとした以外は、実施例5と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表6に示した。
【実施例19】
【0057】
原料ガスのCO濃度を5000ppmとした以外は、実施例5と同様にしてNOの還元反応を行い、その結果を表6に示した。
【0058】
【表6】

【0059】
表6から、CO濃度が1000ppmでは活性が著しく低下することから、原料ガス中のCO濃度は少なくとも1000ppmより高い濃度で使用することが望ましいことが分かった。
【実施例20】
【0060】
実施例1で調製した触媒について、活性の安定性を調べるため、反応時間100時間相当の活性劣化試験を行った。100時間相当後の触媒活性維持率を(試験終了時のNO転化率)/(試験開始直後のNO転化率)(%)として表7に示す。
【比較例5】
【0061】
比較例1で調製した触媒について、活性の安定性を調べるため、反応時間100時間相当のaging試験を行った。100時間相当後の触媒活性維持率を(試験終了時のNO転化率)/(試験開始直後のNO転化率)(%)として表7に示す。
【比較例6】
【0062】
比較例2で調製した触媒について、活性の安定性を調べるため、反応時間100時間相当のaging試験を行った。100時間相当後の触媒活性維持率を(試験終了時のNO転化率)/(試験開始直後のNO転化率)(%)として表7に示す。
【0063】
【表7】

【0064】
表7から、本発明の触媒は、従来技術のIr/WO-SO触媒、Ba/Ir/SO触媒に比べて明らかに長時間にわたり高い触媒性能を発揮できることがわかる。従って、WO-SO担体とIrとBa添加を組み合わせることが、触媒活性の高さという点ばかりでなく触媒性能の安定性という点でもこれまでにない効果をもたらすことがわかった。
【産業上の利用の可能性】
【0065】
本発明の触媒は、過剰酸素を含む排ガス中のNOxの低減に有効な活性を示すものであり、排ガス規制強化が進められつつあるディーゼル車あるいはディーゼル車と同じく排ガス中に酸素が存在しNOxの還元無害化が難しいリーンバーンガソリン車、さらには燃焼器の排ガス処理技術として利用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素存在下で、一酸化炭素により窒素酸化物を選択的に還元する触媒であって、周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属から選ばれる1種以上の金属とイリジウムを、酸化タングステン及びシリカからなる担体に担持したことからなることを特徴とする還元触媒。
【請求項2】
前記酸化タングステン及びシリカからなる担体において、タングステンの含有量が1〜50重量%であることを特徴とする請求項1に記載の還元触媒。
【請求項3】
前記酸化タングステン及びシリカからなる担体に対する前記イリジウムの担持量が、0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の還元触媒。
【請求項4】
前記周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属から選ばれる1種以上の金属の担持量が、前記イリジウムの担持量に対して原子比で1/30〜10であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の還元触媒。

【公開番号】特開2007−175654(P2007−175654A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379356(P2005−379356)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的次世代低公害車総合技術開発 新燃焼方式の研究開発及び燃料の最適化/革新的後処理システムの研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】