説明

立体形状を持つサンプルへの露光方法及び露光装置

【課題】 フォトリソグラフィ加工技術を立体サンプルに拡張する際に、均一な光照射を
サンプル基板平面に施す露光方法では、レジスト膜厚の不均一と界面反射の問題に対処で
きないため、露光エネルギ密度が立体上に用意されるレジストに対して適切な値から外れ、
場所によるオーバードーズやアンダードーズからなる露光ムラや、反射光による異常パタ
ーンが生じる課題があった。
【解決手段】 液浸露光の液体に、光減衰の機能を加えることにより、立体サンプル上の
レジスト膜に到達する光強度を、立体の上部にも底部にも適正な値にでき、サンプル表面
上の全体に適正な露光強度分布を形成できるので、反射光による異常パターンの発生を確
実に低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィを応用した立体形状を持つサンプルの製作方法に関する。
本発明の立体形状を持つサンプルへの露光方法及び露光装置は、レジスト膜厚よりも深い
凹凸を持つ立体形状を持つセンサやマイクロ流路などを含むMEMSデバイス、3次元L
SIなどが応用分野となる。
【背景技術】
【0002】
半導体微細加工技術は、ほぼ平面のサンプルを対象としてきた。フォトリソグラフィにお
ける露光工程は一般に、ほぼ平面のサンプル基板を平面マスクと平行に配置し、基板にほ
ぼ垂直に入射する紫外光を照射することで、マスク上の微細パターンを転写することが出
来、様々なパターンを一括形成できる。
フォトレジスト膜厚は変動幅が数%以下まで均一に用意できるという前提から、露光も空
間的に均一な光強度を持った光束を利用して行うことが一般的である。フォトリソグラフ
ィ加工の高い生産性は、上記均一性を最大限に生かした一括処理によって得られる。
【0003】
基板上に立体的な構造物を構築しデバイスを製作するMEMS技術の発展もあり、生産性
の高いフォトリソグラフィ技術を、平面だけでなく深い凹凸が存在する立体サンプルに拡
張する試みが近年行われている。
立体的構造を持つデバイスでは、立体構造を越える配線等も必要となる。マイクロTAS
(Total Analysis Systems)分野ではトレンチ構造に液体を流す構成で、多くの分析デバ
イスが組み合わされる。デバイス内で、電気的変調や検出を行いたいニーズがある。
トレンチの中に電極構造を製作し、配線電極を従来のLSIのようにウェハ上面から取り
出すには、底面や壁面と基板上面をつなげることができれば有用である。
【0004】
立体サンプル中の斜面や垂直壁面にも一括してパターニングするために、基板面の法線方
向に対して斜め方向から露光することが試行されていた。単に影になる領域ができないよ
う紫外光を照射すれば目的に合致した結果が得られる訳ではない。
立体表面に成膜したフォトレジスト膜に伝達する光エネルギは、入射角と共に変化し、均
一とならない。平面では考慮されていなかった光強度分布や反射などの現象に対処するこ
とが必要となる。加えて、立体サンプルに対しては、均一な膜厚のフォトレジスト膜を用
意することが難しい。レジスト膜厚が薄くなりがちな部分には、オーバードーズとなり易
く、また他領域からの反射光の入射が重なり合い、パターン劣化が顕著となる。これらが、
高品位なパターン転写を、立体サンプルに対して得難い原因となっていた。
【0005】
強度を減衰させた紫外光を利用する露光方法という点では、位相シフトマスクの一種であ
り産業応用されているハーフトーンマスクがある。光干渉を利用した高解像パターンを得
る際に、意図しない部分に光干渉の影響が生じることを避けつつ、レジストが光に反応す
る閾値以下に光強度を下げる効果がある。
また、白黒のみならず灰色の中間的な透過率をもつグレースケールマスクは、露光エネル
ギの空間分布を作り、厚膜レジストに立体的なパターンを形成するものである。いずれも、
固体であるマスクに減衰率が異なる領域を用意する。また、マスクと立体サンプル間の空
間で減衰させるものではない。
【0006】
【特許文献1】特願平10−18858、「実装基板およびその製造方法」
【特許文献2】特願2006−273326、「露光方法及び露光装置」
【非特許文献1】TAKAFUMI HOSONO, SHINYA KUMAGAI,MINORU SASAKI, "Liquid immersion angled exposure technique for 3Dphotolithography", Proceedings of First International Symposium on AdvancedPlasma Science and its Applications (ISPlasma2009) (2009.3.9 名古屋) Poster, Mo-20, p.142.
【非特許文献2】久保裕慎、熊谷慎也、佐々木実「3次元フォトリソグラフィにおける光減衰を伴う液体を用いた液浸斜め露光」日本機械学会 東海学生会 第41回学生員卒業研究発表講演会 講演前刷集 pp.286-287(開催日 平成22年3月8日、発行日平成22年3月1日)
【0007】
特許文献1は、サンプル立体形状と関連がある形で、局所的にレジスト膜厚分布が変化す
るという、基本的に同じ問題への対処を示すものである。パターン形成の際にレジスト残
渣を低減する手法を、サンプル上のダミーパターンを用意することで解決を図ってい
る。スプレー方式が静電塗布である点も異なっているが、サンプル側にダミーパターン分
の素子面積が許される場合でのみ有効である。
特許文献2は、立体サンプルの壁などにパターン転写するために斜め露光を行う際に、紫
外光のエネルギ伝達率の違いに注目したものである。一般的なサンプル形状を想定し、光
エネルギがレジスト膜に比較的伝達し易い角度を明示したもので、入射光がサンプル基板
面の法線方向に対して、10°以上、60°以下の範囲で傾斜させることと、サンプル内
の場所に応じて露光量と偏光方向を変える露光方法及び露光装置を示したものである。
非特許文献1は、発明者らが国際会議ISPlasma2009にて発表したもので、目的は本発
明と同一である。純水をマスクとサンプルの間に入れて露光する方法を示した。純水は、
空気とレジストの屈折率のほぼ中間の値をもつため、全ての入射角に対して反射率を、空
気との界面と比べて減らすことができる。加えて、光をp偏光に制御すると、反射の少な
い条件を選ぶことができ、反射光によるパターン劣化を抑制できることを見出した内容で
ある。ただし、プロセスマージンが狭く、アスペクト比が高くなると、その効果は応用に
は不十分と判断された。後述する図4(b)や図5(a)に対応する。
非特許文献2は、発明者らが日本機械学会の催しにて発表したもので、本発明の内容と同
じである。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
平面サンプルを前提とするフォトリソグラフィ加工技術を、立体サンプルに拡張する際に、
平面リソグラフィ用に開発された均一な光照射をサンプル基板平面に施す露光方法では、
レジスト膜厚の不均一と界面反射の問題に対処できない。
露光エネルギ密度が立体上に用意されるレジストに対して適切な値から外れ、場所による
オーバードーズやアンダードーズからなる露光ムラや、反射光による異常パターンが生じ
る課題があった。パターンの微細化に伴い露光条件は厳しくなり、微細パターンを形成で
きないボトルネックとなっている。
例えばスプレー成膜によって、レジスト薄膜を立体サンプル上に用意すると、均一な膜
厚を用意することが難しい。立体形状と相関を示しながら膜厚分布が変化する。特に問題
となるのは、立体サンプル中の奥まった領域の下部に、十分な膜厚のレジストを供給する
ことが難しいことである。アスペクト比の高い立体では、凹部のレジスト膜厚がより薄く
なる。凸部は厚くなる。一括露光を行うことは難しいという課題がある。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、立体サンプル中の奥まった領域に堆積したレジストの膜厚が薄く、少ないドー
ズ量で適正露光量に到達することに着目し、液浸露光の液体に、光減衰の機能を加えるよ
うにして、レジスト膜厚よりも深い凹凸を持つ立体サンプルにフォトリソグラフィ加工を
行う際に、塗布したレジストにパターニングを行う露光工程において、光減衰を伴う液体
中を光が伝搬して露光することを特徴とする、露光方法と露光装置を実現したものである。
本発明では、光減衰率は任意に調節が可能で、立体サンプル上のレジスト膜に到達する光
強度を、立体の上部にも底部にも適正な値にできる。従って、均一な光強度分布を持つ光
束を照射する従来からの一括露光でありながら、立体サンプル上のレジスト膜全体にとっ
て適正な露光強度分布を形成できる。加えて、斜め露光によって壁面にパターニングを施
す場合を考えると、反射光も液体中を伝搬中に強度が減衰する。反射光によっては、パタ
ーニングを正常に施す光よりも伝搬距離がより長くなる。従って、反射光の影響を更に低
減することができる。
本発明によれば、レジスト膜厚よりも深い凹凸を持つ立体サンプルにフォトリソグラフィ
加工を行う際に、レジストを塗布してパターニングを行う露光工程において、光減衰を伴
う液体中を光が伝搬して露光することを特徴とする、露光方法が利用できる。
また本発明によれば、表面に凹凸のある立体サンプルにフォトリソグラフィ加工を行う際
に、レジストを塗布してパターニングを行う露光工程において、減衰率を調節した液体を
光が伝搬して露光することを特徴とする、露光方法が利用できる。
また本発明によれば、レジスト膜厚よりも深い凹凸のある立体サンプルにフォトリソグラ
フィ加工を行う際に、レジストを塗布してパターニングを行う露光工程において、光減衰
のための液体供給機構を備えたことを特徴とする、露光装置が構成できる。

【発明の効果】
【0010】
立体サンプルの形状やアスペクト比は、応用によって変わるため、上部と底部の膜厚比、
または最適露光量の比は様々となる。このような任意性があっても、光を吸収する材料の
濃度を調節することで、減衰率αを立体サンプルおよびレジスト膜厚分布に応じて自在に
調節できる。また反射光の強度も小さくなる。上記効果を利用することにより、露光工程
において適切なパターンを得ることができる露光範囲を広くでき、プロセスの安定化が可
能である。扱うことのできる立体形状の高アスペクト比化など、広範なサンプル形状を扱
うことができることとなる。レジスト膜厚よりも深い凹凸を持つ立体サンプルへのフォト
リソグラフィ加工技術の基盤となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図は例示であり、光減衰を発
生させる材料や濃度、機器の構成などには自由度がある。
図1は本発明の実施による、現象を説明した模式図である。図1(a)は、光減衰を伴わ
ない媒体(具体的には空気や純水)を介して、トレンチ上部、壁面、底部を斜め露光する
様子を示した模式図である。1は立体サンプルである。3は光減衰を伴わない媒体である。
4は1の上に用意されたフォトレジスト膜であり、凹凸の上部では厚く、底部では薄い膜
厚分布を模式的に示している。5はパターニングのための紫外線であり、7の波線の大き
さによって、5の強度を模式的に表している。光の強度に変化は無く、凹凸の上部・底部
ともにほぼ同じとなる。従って、上部で適正露光量に合わせると、底部ではオーバードー
ズとなり易い。6は反射光であるが、その強度も比較的大きなものとなる。図1(b)は、
光減衰を伴う液体を介して、トレンチ上部、壁面、底部を斜め露光する様子を示した模式
図である。パターニングのための紫外線5は、2の光減衰を伴う液体を伝搬する間に、7
の大きさで示すように、強度を減衰させる。立体サンプル1の上部では強度が大きく、底
部では強度が小さくできる。底面や壁面で発生した反射光6の強度も小さくできる。底面
で反射した光が壁面に入射する場合には、伝搬距離がより長くなるため、影響をより少な
くできる。
図2は本発明の実施の形態による、光減衰を伴う液体をマスクとサンプル間に導入し、
マスクとサンプルの位置合わせ、および斜め露光を可能とした、露光装置の模式図である。
11はマスクである。平面リソグラフィ用に製作される、ガラス基板上に形成されたエマ
ルジョンやクロム膜を利用することが可能である。
露光装置はマスクをサンプルに近接させるアライナに限らず、投影方式のものもありえる。
光を斜め方向から照射する方法も、光源側を斜めにする方法、サンプル側を斜めにする方
法、ミラーやプリズム等で光束を曲げる方法、など自由度がある。12は露光用光源であ
る。13は偏光制御を行う場合に挿入する偏光子である。マスクとサンプルの位置あわせ
は平面リソグラフィ用のアライナを利用して行った後、機械的に互いを固定してから、斜
め露光用の光学系にセットすることが可能である。サンプル近傍の様子を拡大して、挿入
図により示している。
【0012】
1は立体サンプルである。4はレジスト膜である。5は露光のための紫外線である。
2または3は紫外線が伝搬する媒体である。光減衰を伴わない媒体でも、伴う媒体でも良
い。液体を立体サンプル内部にまで気泡無く導入するには、表面張力の小さな液で気泡を
無くしておいてから液の置換を行ったり、真空脱泡を行ったりすることで可能である。
例えば、垂直壁をもつアスペクト比〜1、深さ100μmのトレンチ上部と底部ではレジ
スト膜厚が異なるので、ポジレジスト膜にパターンを抜くには垂直露光相当のパワー密度
で、上部では212mJ/cm、底部中央部では63mJ/cmの露光量が適量となる。
大気中から45°の斜め露光を行うと、純水と同じ程度の屈折を仮定して、約118μm
の伝搬距離が底部に到達するまでに発生する。この間に30%程度にまで光減衰を行う必
要があることとなる。
【0013】
図3(a)は、光減衰を伴う液体に、万年筆の水性黒インクを利用した際の、透過光強度
と伝搬距離の関係であり、減衰の様子を示す。減衰がほとんど無い純水によって希釈した
溶液を3種類用意した。光減衰率を求めるために、溶液の伝搬距離の増加に伴う光強度の
減少を再現性良く観察することが可能である。体積比で0.1、0.5、および1%に希
釈した溶液での光減衰のデータを示している。
石英セルの中に溶液を入れておき、石英ロッドから、光減衰を伴う液体を通り、石英セル
の底面を透過した光強度である。石英ロッドを石英セル底面に密着させれば、伝搬距離は
0mmである。石英ロッドの変位量は、接触式ゲージ等でμmオーダの精度で観察できる。
これらのデータから、黒インク原液の光減衰率と、求めるべき光減衰率を持つ溶液の体積
濃度を求めることができる。
図3(b)は光減衰率10.2/mmを得ようと、体積濃度12.5%で用意した溶液の
光減衰の効果を調べたものである。4種類の溶液の実験値であるが、平均で光減衰率9.
89/mmを得ている。底面には31%のパワーが到達することとなり、目標値30%
に近い値が再現性良く得られている。
【0014】
図4は本発明の効果を検証した結果である。
斜め露光と現像を施して得られた、立体サンプル上のレジストパターンの電子顕微鏡写真
である。トレンチ深さは100μm、アスペクト比は0.74である。転写パターンは、
トレンチ長手方向に対して45°傾いた幅70μmのライン−アンド−スペースである。
目標としたパターニング結果の模式図を図4(d)に示す。□で囲った範囲が、観察範囲
に対応する。
垂直壁を持つトレンチを斜め方向から観察した。紫外光は垂直入射相当で300mJ/cmのエネルギ密度で照射した。
図4(a)は図1(a)の系に対応し、空気を介して斜め露光によるパターニングを行っ
た結果である。反射光の影響が大きく、底面と壁面の両方で、本来つながっているべきラ
イン状パターンが寸断されている。
図4(b)は純水を利用した液浸斜め露光に、偏光方向制御を加えることで反射光の影響
を少なくしたときの結果である。トレンチ底部では、パターン劣化は抑制されている。壁
面では、パターン劣化が生じている。転写したい斜めの向きとは逆方向に斜めのパターン
が壁に現れている。この影響は、本来つながっているべきレジストが途切れるくらいにま
で、パターニング結果を劣化させている。これを立体配線等に利用することは不適である。
図4(c)は図1(b)の系に対応し、光減衰を伴う液体を利用した、液浸斜め露光の結
果である。底面部のパターン劣化が少ないのは図4(b)と同じである。加えて、壁面部
のレジストパターンが、形状劣化を伴うことなく、真直ぐに製作できている。この結果は、
偏光制御を行うことなく得られた。
光減衰率を適切に施せば、露光装置側の光学部品を減らして、シンプルな装置で適切なパ
ターニング結果を得ることが可能である。
【0015】
図5は、本発明の実施の形態による、英数字パターンによるデモンストレーションで、斜
め露光と現像を施して得られた立体サンプル上のレジストパターンの電子顕微鏡写真であ
る。トレンチ深さは100μm、アスペクト比は0.74である。
図5(a)は、比較のため純水と偏光方向制御を利用したパターニング結果である。
図5(b)は光減衰を伴う液体を利用した斜め露光によるパターニング結果である。「A」
の字を構成する太い線幅はマスク上で30μmである。
トレンチ上面、壁面、底面にパターン転写されている。「A」の字の真ん中の「−」の左側
は、マスク上でつながっていない。分離幅は5μmである。この様子は、トレンチ上部で
あれば、図5(a)、(b)いずれでも正確に転写されている。しかし、図5(a)のトレ
ンチ底部では分離線が無くなっており、幅30μmの線とつながっていることが分かる。
純水を利用した偏光方向制御では、オーバードーズが著しく、パターン幅がマスクの値よ
りも太くなっている。対して、図5(b)のトレンチ底部では分離線がほぼ忠実に転写さ
れている。
【0016】
比較のために、図1(a)に光減衰の効果が無い場合の斜め露光の模式図を示す。1は立
体サンプルである。立体形状は任意であるが、例として、垂直壁をもつアスペクト比〜1、
深さ100μmのトレンチを考える。トレンチに成膜したレジスト膜の膜厚分布も模式的
に示す。詳細は、スプレー成膜の条件によっても変化するが、レジスト膜厚は上部で6.
01μm、底の中央部で2.38μm、底のコーナ部で2.17μmとなる。立体底部に
堆積するレジスト膜厚は、上部に堆積するレジスト膜厚に比べて薄くなる。3は空気や純
水のように、光減衰を伴わない媒体である。5はパターニングのための紫外線である。7
の波線の大きさによって、5の強度を模式的に表す。トレンチ上部に到達する光強度と、
トレンチ内部に到達する光強度は同じである。トレンチ上部のレジストをパターン転写す
るための必要最小限の露光量であっても、トレンチ底部にとってはオーバードーズとなる。
6は反射光である。レジストにとっては、オーバードーズの上に、反射光によるパターン
が重なり、パターン異常を引き起こす。
【0017】
図1(b)に光減衰を伴う液体を利用した液浸斜め露光の模式図を示す。5はパターニン
グのための紫外線である。7の波線の大きさによって、5の強度を模式的に表す。例えば、
マスクを立体サンプル近傍に配置する近接露光で行う場合、マスクと立体サンプル間のギ
ャップには、光減衰を伴う液体で充填できる。パターニングのために照射された紫外線は、
立体サンプルの底部に到達するまでに、トレンチ内部に充填された液体を伝搬する。2の
光減衰を伴う液体を伝搬する間に、強度は減衰する。この様子を7の波線の大きさが小さ
くなることで表している。光強度はLambert-Beerの式 I=I-αL にしたがって減衰する。1は伝搬距離0での光強度、Iは減衰した光強度、Lは伝搬距離、αは減衰率であ
る。これにより、光強度の変化を安定に予測できる。立体サンプル上部のパターニングに、
ある露光量(I0に相当)が必要であり、底部では別の露光量(Iに相当)としたい場合に
は、ある減衰係数を設定することで、両者を満足できる。
【0018】
立体サンプルの形状やアスペクト比は、応用によって変わるため、上部と底部の膜厚比、
または最適露光量の比は様々となる。このような任意性があっても、光を吸収する材料の
濃度を調節することで、減衰率αを立体サンプルおよびレジスト膜厚分布に応じて自在に
調節できる。また反射光6の強度も小さくなる。上記効果を利用することにより、露光工
程において適切なパターンを得ることができる露光範囲を広くでき、プロセスの安定化が
可能である。扱うことのできる立体形状の高アスペクト比化など、広範なサンプル形状を
扱うことができることとなる。レジスト膜厚よりも深い凹凸を持つ立体サンプルへのフォ
トリソグラフィ加工技術の基盤となる。

【産業上の利用可能性】
【0019】
立体サンプルにフォトリソグラフィを適用し、配線など微細なパターンを形成して製作
しているデバイスが、わずかながらある。垂直壁や、アスペクト比が高いものなど、より
多くの立体サンプルにもフォトリソグラフィ加工が可能となれば、応用が広がる。平面リ
ソグラフィで製作される工程と接続して利用することも可能で、集積度向上にもつながる。
垂直壁を持つ工業製品は多く、任意のパターニングができた際のメリットは大きい。
また、パターニング特性の優れた装置が実現できれば、装置としての市場を広げる。立体
サンプルをフォトリソグラフィ加工する際の特性が評価を受ければ、新規立体デバイスの
創出につながるといった相乗効果が期待できる。

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、光減衰を伴わない媒体(具体的には空気や純水)を介して、トレンチ上部、壁面、底部を斜め露光する様子を示した模式図である。(b)は、光減衰を伴う液体を介して、トレンチ上部、壁面、底部を斜め露光する様子を示した模式図である。
【図2】光減衰を伴う液体をマスクとサンプル間に導入し、マスクとサンプルの位置合わせ、および斜め露光を可能とした、露光装置の模式図である。
【図3】(a)は、光減衰を伴う液体の、ある伝搬距離だけ紫外光が通った際の強度減少の関係を示したデータである。傾きによって減衰率αが分かる。万年筆用水性黒インクを原液とし、純水による希釈の割合を変化させた3種類の液体のデータを示す。(b)は、減衰率α=10.2/mmを目標として体積濃度12.5%に希釈した溶液の、実際の減衰の様子を示している。
【図4】斜め露光と現像を施して得られた、立体サンプル上のレジストパターンの電子顕微鏡写真である。(a)は、液体を使わず、空気を介した斜め露光によるパターニング結果。(b)純水を利用した液浸露光において壁面に対してp偏光制御を加えたパターニング結果。(c)光減衰を伴う液体を介して、偏光制御は加えず行ったパターニング結果。(d)目標としたパターニングの模式図。□で囲った範囲が、写真観察範囲に対応する。
【図5】斜め露光と現像を施して得られた立体サンプル上のレジストパターンの電子顕微鏡写真である。(a)は、純水を利用した液浸露光において、壁面に対してp偏光制御を加えたパターニング結果。(b)は、光減衰を伴う液体を介して、偏光制御は加えずに行ったパターニング結果である。
【符号の説明】
【0021】
1・・・立体サンプル
2・・・光減衰を伴う液体
3・・・光減衰を伴わない媒体(例えば、空気や純水)
4・・・1の上に用意されたフォトレジスト膜
5・・・パターニングのための紫外線
6・・・反射光
7・・・5の強度を模式的に表す波
11・・・マスク
12・・・露光用光源
13・・・偏光素子




【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジスト膜厚よりも深い凹凸を持つ立体サンプルにフォトリソグラ
フィ加工を行う際に、塗布したレジストにパターニングを行う露光工程において、
光減衰を伴う液体中を光が伝搬して露光することを特徴とする、露光方法。

【請求項2】
レジスト膜厚よりも深い凹凸のある立体サンプルにフォトリソグラ
フィ加工を行う際に、塗布したレジストにパターニングを行う露光工程において、
減衰率を調節した液体中を光が伝搬して露光することを特徴とする、露光方法。

【請求項3】
レジスト膜厚よりも深い凹凸のある立体サンプルにフォトリソグラ
フィ加工を行う際に、塗布したレジストにパターニングを行う露光工程において、
光減衰のための液体供給機構を備えたことを特徴とする、露光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−211064(P2011−211064A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78956(P2010−78956)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月 1日発行の日本機会学会東海学生会の講演前刷集に発表、平成22年3月8日開催の日本機会学会東海学生会で前刷集をもって発表、
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省知的クラスター創成事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(500194865)
【出願人】(506356209)学校法人 トヨタ学園 豊田工業大学 (6)
【Fターム(参考)】