説明

立体駐車場が内部に取り込まれた建築物

【課題】立体駐車場が内部に取り込まれた建築物において、地震時の緩衝装置の衝突による音や振動が問題となることを防止して、建物の平面計画に与える制約を軽減する。
【解決手段】平面視矩形状に構築された立体駐車場鉄骨3をその周囲に構築された建物躯体5と分離して自立させ、且つ、両者間に緩衝装置6a〜6gを設けて地震力による立体駐車場鉄骨の水平移動が前記緩衝装置を介して建物躯体で支えられるように構成した建築物において、立体駐車場鉄骨の少なくとも一側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置6c、6dを、正逆二方向に機能する構成とすることにより、立体駐車場鉄骨の反対側の側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられるべき緩衝装置を省略する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体駐車場が内部に取り込まれた建築物に関し、詳しくは、平面視矩形状に構築された立体駐車場鉄骨をその周囲に構築された吹抜け状の空間を形成する建物躯体(中央コア部)と分離して自立させ、且つ、両者間に緩衝装置を設けて地震力による立体駐車場鉄骨の水平移動が前記緩衝装置を介して建物躯体で支えられるように構成した建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都心部では超高層集合住宅の建設が増加しており、これらの超高層集合住宅においては、タワー式の立体駐車場が建物の内部に取り込まれる計画が多い。この場合、立体駐車場の設置部分は吹抜け状の空間となる。
【0003】
即ち、特許文献1にも見られるように、吹抜け状となる空間に、平面視矩形状の立体駐車場鉄骨が構築され、その周囲には、内部耐震壁や防火区画壁となる建物躯体(中央コア部)が構築される。立体駐車場鉄骨は、立体駐車設備の機械音や車の出し入れに起因する振動等が居住部に伝播しないように、周囲の建物躯体と分離して構築される。
【0004】
また、立体駐車場鉄骨は、自立する状態に、換言すれば、鉛直荷重を周囲の建物躯体に支持させない状態に構築されるが、地震時には、立体駐車場鉄骨が周囲の建物躯体で支えられ、立体駐車場鉄骨の一定以上の揺れ(水平移動)が周囲の建物躯体で阻止されるようになっている。そして、立体駐車場鉄骨と周囲の建物躯体との間には、地震時における立体駐車場鉄骨と建物躯体の衝突による衝撃を緩和するために緩衝装置が設けられている。
【0005】
ところで、従来では、特許文献1に記載されているとおり、平面視矩形状をなす立体駐車場鉄骨の周囲四側面に、夫々、ゴム製の緩衝装置を設け、地震力による水平移動によって立体駐車場鉄骨が建物躯体(中央コア部)に一定以上接近することにより、その移動方向に有る緩衝装置が建物躯体で圧迫されて、緩衝作用するように構成されていた。そのため、次のような問題点があった。
【0006】
即ち、地震時に、立体駐車場鉄骨が建物躯体に一定以上接近することにより、ゴム製の緩衝装置が建物躯体で圧迫されて、弾性変形し、衝撃を緩和するとはいえ、緩衝装置の衝突による音や振動はかなり大きなものであり、地震時の不安感・不快感を助長する騒音となる。従って、建物躯体(中央コア部)の壁1枚を隔てて居室が形成されていると、地震時の緩衝装置の衝突による音や振動が問題となる。そのため、建物躯体(中央コア部)の周囲には、機械室、階段室、ホール、廊下等を配置することが必要とされ、建物の平面計画に与える制約が大きい。
【0007】
尚、特許文献1には、緩衝装置を硬質ゴムと低反発ゴムとで構成し、低反発ゴムだけは常時建物躯体と接触させておき、地震時に、立体駐車場鉄骨が建物躯体に接近するにつれて先ず低反発ゴムを弾性変形させて緩衝作用を発揮させ、しかる後、立体駐車場鉄骨の接近が進むにつれて硬質ゴムが建物躯体に衝突して、最終的に必要な緩衝作用を発揮させることにより、地震時の緩衝装置の衝突による衝撃力を緩和することも記載されている。
【0008】
しかしながら、立体駐車場鉄骨の側面には、緩衝装置を各階毎に、或いは、1〜2階おきに設置することが必要とされる一方、地震による立体駐車場鉄骨の揺れは、1階から最上階まで均等に生じるわけでもないから、硬軟二種類のゴムを各階の揺れに合わせてバランスよく配置することは、実際上、困難であり、何れかの階では、地震時の緩衝装置の衝
突による音や振動が問題とならざるを得ない。
【0009】
また、従来では、特許文献1にも記載されているとおり、平面視矩形状をなす立体駐車場鉄骨の周囲四側面に、夫々、緩衝装置が設けられていたので、立体駐車場鉄骨が周囲の建物躯体(中央コア部)に対し大きく偏心して設けられる建築物である場合、建物躯体(中央コア部)との間隔が広い側面に設けられる緩衝装置の張出し長さが長くなるという問題がある。即ち、建物躯体(中央コア部)と近接する立体駐車場鉄骨の側面に設けられる緩衝装置は、張出し長さの短いもので足りるが、反対側の側面に設けられる緩衝装置としては、上から下まで立体駐車場鉄骨と建物躯体(中央コア部)の間隔が広いため、立体駐車場鉄骨の側面から水平方向に長く張り出した状態に設置する必要がある。そのため、各緩衝装置の支持に鉄骨による補強が必要であり、施工が複雑化する上、鉄骨重量が増大し、不経済である。
【0010】
【特許文献1】特開2003−56189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたものであって、その主たる目的とするところは、地震時の緩衝装置の衝突による音や振動が問題となることを防止して、建物の平面計画に与える制約を軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術手段は次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明による立体駐車場が内部に取り込まれた建築物は、平面視矩形状に構築された立体駐車場鉄骨をその周囲に構築された建物躯体と分離して自立させ、且つ、両者間に緩衝装置を設けて地震力による立体駐車場鉄骨の水平移動が前記緩衝装置を介して建物躯体で支えられるように構成した建築物において、立体駐車場鉄骨の少なくとも一側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置を、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成し、立体駐車場鉄骨の反対側の側面とそれに対面する建物躯体との間の緩衝装置を省略したことを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の立体駐車場が内部に取り込まれた建築物であって、立体駐車場鉄骨の一側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置を、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成し、立体駐車場鉄骨の反対側の側面とそれに対面する建物躯体との間の緩衝装置を省略し、これらの側面に対して直角に隣り合う立体駐車場鉄骨の二側面とそれに対面する建物躯体との間には、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材のみからなる緩衝装置を設けてあることを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の立体駐車場が内部に取り込まれた建築物であって、立体駐車場鉄骨の互いに直角な二側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置を、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成し、立体駐車場鉄骨の反対側の二側面とそれに対面する建物躯体との間の緩衝装置を省略したことを特徴としている。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の立体駐車場が内部に取り込まれた建築物であって、前記立体駐車場鉄骨の平面中心が前記建物躯体中空部の平面中心に
対し偏心して設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、平面視で矩形状を呈する立体駐車場鉄骨の周囲四側面のうち、建物躯体(中央コア部)に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成した緩衝装置が配設された側面においては、立体駐車場鉄骨が正逆何れの方向に水平移動しても、当該緩衝装置による緩衝作用(第一緩衝材による緩衝作用又は第二緩衝材による緩衝作用)が発揮されることになる。換言すれば、立体駐車場鉄骨の一側面に設けられた緩衝装置における第二緩衝材が、立体駐車場鉄骨の反対側の側面とそれに対面する建物躯体との間に配置されるべき緩衝装置の役目を果たすことになる。それ故、立体駐車場鉄骨の反対側の側面とそれに対面する建物躯体との間には、緩衝装置が不要となり、省略されることになる。
【0017】
そして、立体駐車場鉄骨の周囲四側面のうち、緩衝装置が省略されている側面においては、地震時に立体駐車場鉄骨が建物躯体と接近する方向に水平移動しても、衝突する緩衝装置自体が存在しないので、緩衝装置の衝突による音や振動が原理的に発生しない。
【0018】
従って、緩衝装置が省略されている側面においては、たとえ、建物躯体(中央コア部)の壁1枚を隔てて居室が形成されていても、地震時の緩衝装置の衝突による音や振動が問題となる虞がなく、建物の平面計画に与える制約を軽減できることになる。
【0019】
尚、請求項1に記載の発明において、立体駐車場鉄骨の少なくとも一側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置を、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成し、立体駐車場鉄骨の反対側の側面とそれに対面する建物躯体との間の緩衝装置を省略するとは、次の二つの態様を包含し得る意味である。
【0020】
その一つは、請求項2に記載の発明のように、立体駐車場鉄骨の一側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置を、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成し、立体駐車場鉄骨の反対側の側面とそれに対面する建物躯体との間の緩衝装置を省略し、これらの側面に対して直角に隣り合う立体駐車場鉄骨の二側面とそれに対面する建物躯体との間に、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材のみからなる緩衝装置を設ける場合である。
【0021】
他の一つは、請求項3に記載の発明のように、立体駐車場鉄骨の互いに直角な二側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置を、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成し、立体駐車場鉄骨の反対側の二側面とそれに対面する建物躯体との間の緩衝装置を省略する場合である。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、立体駐車場鉄骨が建物躯体(中央コア部)に対し偏心して設けられていることにより、立体駐車場鉄骨と建物躯体(中央コア部)との間隔が狭い箇所と、間隔の広い箇所とが生じるが、建物躯体と近接する立体駐車場鉄骨の側面に、第一緩衝材と第二緩衝材とから構成した緩衝装置を設けることにより、反対側の緩衝装置、つまり、建物躯体と立体駐車場鉄骨の間隔が広いために水平方向に長く張り出す方の緩衝装置を省略することができる。
【0023】
従って、緩衝装置が水平方向に長く張り出すことに起因する補強鉄骨とその工事が不要と成り、施工が複雑化せず、鉄骨重量も増大しないので、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1〜図6は、本発明の一実施形態を示す。図1、図2において、1は、タワー式の立体駐車場2が内部に取り込まれた建築物を示す。3は、吹抜け状の空間4に構築された平面視矩形状の立体駐車場鉄骨であり、立体駐車場鉄骨3には自動車用の昇降機及びターンテーブル(図示せず)等の駐車設備が設けられている。立体駐車場鉄骨3の周囲には、吹抜け状の空間4を形成する建物躯体(中央コア部)5が構築され、内部耐震壁や防火区画壁として構成されている。
【0025】
立体駐車場鉄骨3は、周囲の建物躯体(中央コア部)5と分離して自立させた状態に構築されているが、地震時には立体駐車場鉄骨3を建物躯体(中央コア部)5で支持するように構成されている。即ち、立体駐車場鉄骨3と建物躯体(中央コア部)5との間には、複数の緩衝装置6a、6b、6c、6d、6e、6f、6gが設けられており、地震力による立体駐車場鉄骨3の水平移動が前記緩衝装置6a〜6gを介して建物躯体(中央コア部)5で支えられるように構成してある。尚、前記緩衝装置6a〜6gは、各階毎に設けてもよいが、1〜2階おきに設けることが、施工性、コストの両面から望ましい。
【0026】
この実施形態においては、図2に示すように、立体駐車場2が吹抜け状の空間4に偏心して配置されている。具体的には、図3に示すように、平面視矩形状を呈する立体駐車場鉄骨3の平面中心が周囲の建物躯体(中央コア部)5の平面中心に対し偏心して設けられている。立体駐車場鉄骨3の四方の側面は、それと対面する建物躯体(中央コア部)5の壁面と平行に配置されるが、それらの間隔は、図3において、左側が最も広くなっている。そして、間隔が最も広くなっている側面には緩衝装置が設けられていない。図3において、S1は、例えば、機械室、階段室、ホール、廊下など、居室以外の用途に供せられるスペースを示し、S2は居室に供せられるスペースを示している。
【0027】
前記緩衝装置6a〜6gのうち、図3のA部に示す緩衝装置6bは、図4に示すように、立体駐車場鉄骨3の柱鉄骨3aから水平方向に且つ梁鉄骨3bと直角に張り出した支持杆(H型鋼を用いている)7の先端に、建物躯体5に対して立体駐車場鉄骨3が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材としての防振ゴム8を取り付けて構成したものである。9は防振ゴム8の支持プレートであり、背面に4本のネジ軸10aが突設されている。これらのネジ軸10aは、支持杆7の先端に設けられた垂直プレート11を貫通させ、両側からナット10bで締付け固定してある。
【0028】
尚、図3において、A部に示した緩衝装置6bの右側(立体駐車場鉄骨3の右端)に設けられた緩衝装置6aと、A部とは反対側の側面に設けられた三つの緩衝装置6e、6f、6gは、A部に示した緩衝装置6bと同じ構造である。
【0029】
前記緩衝装置6a〜6gのうち、図3のB部に示す緩衝装置6cは、図5に示すように、立体駐車場鉄骨3の隅部の柱鉄骨3aから水平方向に且つ梁鉄骨3bと直角に張り出した支持杆(H型鋼を用いている)7の先端に、防振ゴム8を取り付けて、A部に示した緩衝装置6bと同様な構造とすると共に、支持杆7から左右に突出した水平支持杆(H型鋼を用いている)7a、7bを設け、左側の水平支持杆7aの先端に、建物躯体5に対して立体駐車場鉄骨3が接近する方向(図3、図5において左方向)へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材としての防振ゴム8aを取り付け、右側の水平支持杆7bの先端に、立体駐車場鉄骨3が逆方向(図3、図5において右方向)へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材としての防振ゴム8bを取り付けて構成したものである。
【0030】
尚、建物躯体5の壁面には、図5に示すように、立体駐車場鉄骨3が逆方向(図3、図5において右方向)へ水平移動することにより防振ゴム8bが当接する当接用板部12aと、取付け用板部12bと、補強用板部12cとからなる受圧金物12が建物躯体5に埋設されたアンカーボルト13aとそれに螺合するナット(二重ナット)13bを介して取り付けられている。14は下地調整用の無収縮モルタルである。防振ゴム8aの支持プレート9は、背面に突設された4本のネジ軸10aとナット10bを介して水平支持杆7a
先端の垂直プレート11に取り付けられているが、防振ゴム8bの支持プレート9は水平支持杆7bの先端に溶接して取り付けられている。
【0031】
前記緩衝装置6a〜6gのうち、図3のC部に示す緩衝装置6dは、図6、図7に示すように、立体駐車場鉄骨3の隅部の柱鉄骨3aから水平方向に且つ梁鉄骨3cと直角に張り出した支持杆(H型鋼を用いている)7の先端に垂直に立ち上がった垂直支持杆(H型鋼を用いている)7cを設け、垂直支持杆7cの左側面に、建物躯体5に対して立体駐車場鉄骨3が接近する方向(図3、図6、図7において左方向)へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材としての防振ゴム8aを取り付け、垂直支持杆7cの左側面に、立体駐車場鉄骨3が逆方向(図3、図6、図7において右方向)へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材としての防振ゴム8bを取り付けて構成したものである。
【0032】
尚、建物躯体5の壁面には、図6、図7に示すように、立体駐車場鉄骨3が逆方向(図3、図6、図7において右方向)へ水平移動することにより防振ゴム8bが当接する当接用板部15aを備えた水平杆15bと、その両端に連結された一対の水平杆15cとからなる平面視コの字状の受圧枠体15が建物躯体5に埋設されたアンカーボルト13とそれに螺合するナット(二重ナット)13を介して取り付けられている。14は受圧枠体15の端板を支持する下地調整用の無収縮モルタルである。防振ゴム8a、8bの支持プレート9は、背面に突設された4本のネジ軸10aとナット10bを介して垂直支持杆7cのフランジに取り付けられている。
【0033】
上記の構成によれば、正逆二方向に機能する緩衝装置6c、6d、つまり、平面視で矩形状を呈する立体駐車場鉄骨3の周囲四側面のうち、第一緩衝材としての防振ゴム8aと第二緩衝材としての防振ゴム8bとから構成した緩衝装置6c、6dが配設された側面においては、立体駐車場鉄骨3が正逆何れの方向に水平移動しても、換言すれば、地震力によって、立体駐車場鉄骨3が図3において左方向に揺れても、右方向に揺れても、前記緩衝装置6c、6dによる緩衝作用(防振ゴム8aの弾性変形による衝撃緩和又は防振ゴム8bの弾性変形による衝撃緩和)が発揮されることになる。
【0034】
従って、立体駐車場鉄骨3の前記緩衝装置6c、6dが設けられた側面とは反対側の側面においては、緩衝装置が不要となり、省略されることになる。そして、緩衝装置が省略されている側面においては、地震時に立体駐車場鉄骨3が建物躯体(中央コア部)5と接近する方向に水平移動しても、衝突する緩衝装置自体が存在しないので、緩衝装置の衝突による音や振動の発生する可能性がない。そのため、図3に示したように、建物躯体(中央コア部)5の周囲のうち、緩衝装置6a、6b、6c、6d、6e、6f、6gが設けられている側面と対面する位置においては、例えば、機械室、階段室、ホール、廊下など、居室以外の用途に供せられるスペースS1とされるが、緩衝装置が省略されている側面と対面する位置においては、壁1枚を隔てて居室用のスペースS2とすることが可能であり、建物の平面計画に与える制約を軽減できることになる。
【0035】
殊に、上記の構成によれば、立体駐車場鉄骨3を建物躯体(中央コア部)5に対し偏心して設け、立体駐車場鉄骨3と建物躯体(中央コア部)5との間隔が最も広い側面とは反対側の側面に、正逆二方向に機能する緩衝装置6c、6dを設けたので、建物躯体(中央
コア部)5との間隔が最も広いため水平方向に最も長く張り出す必要がある方の緩衝装置を省略することができる。従って、緩衝装置が水平方向に長く張り出すことに起因する補強鉄骨とその工事が不要と成り、施工が複雑化せず、鉄骨重量も増大しないので、経済的である。
【0036】
図8、図9は、各々、本発明の他の実施形態を示す。これらの実施形態は、立体駐車場鉄骨3の互いに直角な二側面に、図6、図7で示した緩衝装置6dと同じ構造の正逆二方向に機能する緩衝装置6dを複数ずつ設け、反対側の二側面とそれに対面する(中央コア部)5との間の緩衝装置を省略した点に特徴がある。尚、図8の実施形態においては、立体駐車場鉄骨3が建物躯体(中央コア部)5に対し偏心して設けられ、立体駐車場鉄骨3の互いに直角な二側面のうち、建物躯体(中央コア部)5との間隔が狭い二側面に緩衝装置6dが設けられている。図8の実施形態においては、立体駐車場鉄骨3が建物躯体(中央コア部)5の中央に、偏心しないように設けられている。
【0037】
これらの実施形態によれば、正逆二方向に機能する緩衝装置6dを設けた二側面と反対側の二側面においては、地震時に衝突する緩衝装置自体が存在しないので、この二側面に対応する建物躯体(中央コア部)5の周囲二面を居室用のスペースS2とすることが可能であり、建物の平面計画に与える制約を一層軽減できることになる。
【0038】
また、立体駐車場鉄骨3の二側面において、緩衝装置の支持鉄骨や補強鉄骨等が省略されることになり、施工し易く、鉄骨重量も軽減されるので、経済的である。
【0039】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態を採用できることは勿論である。例えば、上記の実施形態では、何れも、緩衝装置が立体駐車場鉄骨3の側面に設けられているが、これとは逆に、建物躯体(中央コア部)5の壁面に緩衝装置を設けて、地震時に立体駐車場鉄骨3と当接させるように構成して実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】立体駐車場が内部に取り込まれた建築物の概略縦断側面図である。
【図2】立体駐車場が内部に取り込まれた建築物の概略横断平面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す要部の横断平面図である。
【図4】図3のA部詳細図である。
【図5】図3のB部詳細図である。
【図6】図3のC部詳細図である。
【図7】図6のa矢視図である。
【図8】本発明の他の実施形態を示す要部の横断平面図である。
【図9】本発明の他の実施形態を示す要部の横断平面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 建築物
2 立体駐車場
3 立体駐車場鉄骨
4 吹抜け状の空間
5 建物躯体(中央コア部)
6a〜6g 緩衝装置
7 支持杆
7a、7b 水平支持杆
7c 垂直支持杆
8 第一緩衝材としての防振ゴム
8a 第一緩衝材としての防振ゴム
8b 第二緩衝材としての防振ゴム
9 支持プレート
10a ネジ軸
10b ナット
11 垂直プレート
12 受圧金物
12a 当接用板部
12b 取付け用板部
12c 補強用板部
13a アンカーボルト
13b ナット(二重ナット)
14 無収縮モルタル
15 受圧枠体
15a 当接用板部
15b、15c 水平杆
S1、S2 スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視矩形状に構築された立体駐車場鉄骨をその周囲に構築された建物躯体と分離して自立させ、且つ、両者間に緩衝装置を設けて地震力による立体駐車場鉄骨の水平移動が前記緩衝装置を介して建物躯体で支えられるように構成した建築物において、立体駐車場鉄骨の少なくとも一側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置を、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成し、立体駐車場鉄骨の反対側の側面とそれに対面する建物躯体との間の緩衝装置を省略したことを特徴とする立体駐車場が内部に取り込まれた建築物。
【請求項2】
立体駐車場鉄骨の一側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置を、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成し、立体駐車場鉄骨の反対側の側面とそれに対面する建物躯体との間の緩衝装置を省略し、これらの側面に対して直角に隣り合う立体駐車場鉄骨の二側面とそれに対面する建物躯体との間には、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材のみからなる緩衝装置を設けてあることを特徴とする請求項1に記載の立体駐車場が内部に取り込まれた建築物。
【請求項3】
立体駐車場鉄骨の互いに直角な二側面とそれに対面する建物躯体との間に設けられる緩衝装置を、建物躯体に対して立体駐車場鉄骨が接近する方向へ水平移動することにより緩衝作用する第一緩衝材と、逆方向へ水平移動することにより緩衝作用する第二緩衝材とから構成し、立体駐車場鉄骨の反対側の二側面とそれに対面する建物躯体との間の緩衝装置を省略したことを特徴とする請求項1に記載の立体駐車場が内部に取り込まれた建築物。
【請求項4】
前記立体駐車場鉄骨の平面中心が前記建物躯体中空部の平面中心に対し偏心して設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の立体駐車場が内部に取り込まれた建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−91791(P2009−91791A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262813(P2007−262813)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】