説明

立毛布帛

【課題】カーボンニュートラルな素材であるポリ乳酸繊維からなり、既存のポリアミドや芳香族ポリエステルからなる立毛布帛と同等の製織性及び加工性を有し、かつソフトな表面タッチとボリューム感も有する立毛布帛を提供すること。
【解決手段】DSC測定による融点が195℃以上である、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントからなり、立毛角度が90°±20°である立毛布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸繊維からなり、ソフトな表面タッチとボリューム感を有する立毛布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇や、地球温暖化を引き起こす空気中の二酸化炭素増加が懸念されるようになったことから、原料を石油に依存せず、また燃焼させても二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラルが成り立つバイオマス資源が大きく注目を集めるようになり、ポリマーの分野においても、バイオマス資源から生産されるバイオマスプラスチックが盛んに開発されている。バイオマスプラスチックの代表例がポリ乳酸であり、該ポリ乳酸は、バイオマスプラスチックの中でも比較的高い耐熱性、機械特性を有するため、衣料用途や産業資材用途などに広く利用されつつある(例えば、特許文献1、2、3等参照)。しかし、ポリ乳酸繊維は、従来から使用されているポリアミドや芳香族ポリエステルなどの合成繊維に比べ耐熱性が低いため、ポリ乳酸繊維を用いて立毛布帛を得ようとした場合、ヒートセットや染色の際に受ける熱によって、立毛糸が部分的に凝集し、または立毛糸が同一方向に倒伏することにより立毛部表面の外観品位が損なわれるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3731538号公報
【特許文献2】特開2007−247076公報
【特許文献3】特開2007−89956公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の背景技術を鑑みなされたものであり、その目的は、カーボンニュートラルな素材であるポリ乳酸繊維からなり、既存のポリアミドや芳香族ポリエステルからなる立毛布帛と同等の製織性及び加工性を有し、かつソフトな表面タッチとボリューム感も有する立毛布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
即ち、本発明の目的は、DSC測定による融点が195℃以上である、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントからなり、立毛角度が90°±20°である立毛布帛により、達成することができる。
その際、立毛布帛が、これを構成する立毛部と地組織部のうち少なくとも地組織部を構成するフィラメントを熱収縮させてなる立毛布帛であって、熱処理前の立毛布帛において地組織部を構成するフィラメントが、沸水収縮率が15〜50%であるステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントであることが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、既存のポリアミドや芳香族ポリエステルからなる立毛布帛と同等の製織性及び加工性を有し、かつソフトな表面タッチとボリューム感も有する立毛布帛を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリ乳酸フィラメントは、ポリL−乳酸成分及びポリD−乳酸成分よりなるステレオコンプレックスポリ乳酸繊維からなるフィラメントであり、特に、結晶性のあるポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分を用いることが好ましく、光学純度の高いポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分よりのステレオコンプレックスポリ乳酸繊維からなるフィラメントが好ましい。とりわけ好ましくは、融点が160℃以上の結晶性のポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分を好適に用いることができる。
【0008】
本発明で用いるポリL−乳酸成分は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%のL−乳酸単位、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%、加えてステレオ化度を優先するならば95〜99モル%のL−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0009】
ポリD−乳酸成分は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%のD−乳酸単位、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%、加えてステレオ化度を優先するならば95〜99モル%のD−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0010】
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテオラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0011】
ポリL−乳酸成分およびポリD−乳酸成分は、共に重量平均分子量が、5万〜50万、好ましくは10万〜35万、より好ましくは15万〜30万である。ポリL−乳酸およびポリD−乳酸は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器を単独、または並列して使用することができる。また、回分式あるいは連続式あるいは半回分式のいずれでも良いし、これらを組み合わせてもよい。
【0012】
重合開始剤として、アルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0013】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは、固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンのように容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で上記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0014】
ポリ乳酸重合時、使用された金属含有触媒は、従来公知の失活剤で不活性化しておくのが好ましい。かかる失活剤としては、例えばイミノ基を有し、かつ重合金属触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド及びジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)酸、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸、式、xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタリン酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エスエテル、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体などが例示される。
【0015】
触媒失活能から、式、xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタリン酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステルリンオキソ酸あるいはこれらの酸性エステル類、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体及び上記のメタリン酸系化合物が好適に使用される。
【0016】
本発明で使用するメタリン酸系化合物は、3から200程度のリン酸単位が縮合した環状のメタリン酸あるいは立体網目状構造を有するウルトラ領域メタリン酸あるいはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩を包含する。なかでも、環状メタリン酸ナトリウムやウルトラ領域メタリン酸ナトリウム、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体のジヘキシルホスホノエチルアセテート(以下「DHPA」と略称することがある)などが好適に使用される。
【0017】
本発明で用いるステレオコンプレックスポリ乳酸組成物のラクチド含有量は、0から700ppmの範囲が選択される。さらに好ましくは0から500ppm、より好ましくは0から200ppm、特段に好ましくは0から100ppmの範囲が選択される。ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物がかかる範囲のラクチド含有量を有することにより、溶融時の安定性を向上させ、効率よく安定に紡糸できる利点及び繊維製品の耐加水分解性を高めることが出来るからである。ラクチド含有量をかかる範囲に低減させるには、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸の重合時点からステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂製造の終了までの任意の段階において、従来公知のラクチド軽減処理あるいはこれらを組み合わせて実施することによって達成することが可能である。
【0018】
本発明で用いるステレオコンプレックスポリ乳酸組成物の重量平均分子量は、10万〜50万である。より好ましくは10万〜30万である。さらにより好ましくは10.5万から25万である。ステレオコンプレックスポリ乳酸組成物の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比を分子量分散(Mw/Mn)という。分子量分散が大きいことは、平均分子量に比較し、大きな分子や小さな分子の割合が多いことを意味する。即ち、分子量分散の大きなステレオコンプレックスポリ乳酸組成物、例えば重量平均分子量が25万程度で、分子量分散が3超の組成物では、重量平均分子量値25万より大きい分子の割合が大きくなる場合があり、この場合、溶融粘度が大きくなり、紡糸、延伸工程上好ましくない。また、10万程度の比較的小さい重量平均分子量で分子量分散の大きなポリ乳酸組成物では、重量平均分子量値10万より小さい分子の割合が大きくなる場合があり、この場合、繊維の機械的物性の耐久性が小さくなり、使用上好ましくない。かかる観点より、分子量分散の範囲は、好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.5〜2.5、さらに好ましくは1.6〜2.5の範囲である。重量平均分子量、数平均分子量は、溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量値である。
【0019】
ステレオコンプレックスポリ乳酸組成物におけるポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分との重量比は、90:10〜10:90の範囲である。75:25〜25:75の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60の範囲であり、できるだけ50:50に近いことが好ましい。
【0020】
ステレオコンプレックスポリ乳酸組成物は、ポリL−乳酸成分およびポリD−乳酸成分からなり、ステレオコンプレックス結晶を含有するが、ステレオコンプレックス結晶の含有率、すなわちステレオ化度は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、ステレオコンプレックス結晶の融解に対応するピークの割合であり、下記式(a)で表され80〜100%、より好ましくは95〜100%である。ステレオコンプレックス結晶融解温度は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜240℃、結晶融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。
【0021】
ステレオ化度=
[(ΔHms/ΔHms)/(ΔHmh/ΔHmh+ΔHms/ΔHms)]
(a)
(ただし、ΔHms=203.4J/g、ΔHmh=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
【0022】
ステレオコンプレックスポリ乳酸組成物は、ポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。
混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。また、混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。あるいは、ポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが結合している、ステレオブロックポリ乳酸も、本発明のポリ乳酸組成物として好適に用いることが出来る。
【0023】
ステレオブロックポリ乳酸は、ポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが分子内で結合してなる、ブロック重合体である。このようなブロック重合体は、例えば逐次開環重合によって製造する方法や、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてあとで鎖交換反応や鎖延長剤で結合する方法、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてブレンド後固相重合して鎖延長する方法、立体選択開環重合触媒を用いてラセミラクチドから製造する方法など、上記の基本的構成を持つブロック共重合体であれば製造法によらず用いることができる。しかしながら、逐次開環重合によって得られる高融点のステレオブロック重合体、固相重合法によって得られる重合体を用いることが、製造の容易さからより好ましい。本発明で用いるポリ乳酸組成物およびステレオブロックポリ乳酸は、そのステレオ化度が、90%以上であることが好ましく、より好ましくは100%である。ステレオ化度は、DSC測定において融点のエンタルピーを比較することによって上記式(a)によって決定することができる。
【0024】
本発明で用いるポリ乳酸成分には、ステレオコンプレックス結晶の形成を安定的かつ高度に進めるために特定の添加物を添加することが好ましい。例えば、下記式(1)に示すリン酸エステル金属塩および/または下記式(2)に示すリン酸エステル金属塩が好ましい例として挙げることができる。
【0025】
【化1】

【0026】
式(1)において、Rは水素原子、又は炭素数1から4個のアルキル基を表す。Rで表される炭素原子数1から4個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基,iso−ブチル基等が例示される。R,Rは各々独立に水素原子、炭素数1から12個のアルキル基を表す。炭素数1から12個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基,iso−ブチル基、tet−ブチル基、アミル基、tet−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tet−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tet−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tet−ドデシル基などが挙げられる。
はNa,K,Liなどのアルカリ金属原子、Mg,Ca等のアルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表す。pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、Mがアルミニウム原子のときは1または2を表す。
式(1)で表されるリン酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、Rが水素原子、R,Rが共にtet−ブチル基のものが挙げられる。
【0027】
【化2】

【0028】
式(2)において、R,R,Rは各々独立に水素原子、炭素数1から12個のアルキル基を表す。R,R5,で表される炭素数1から12個のアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tet−ブチル基、アミル基、tet−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tet−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tet−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tet−ドデシル基などが挙げられる。
はNa,K,Liなどのアルカリ金属原子、Mg,Ca等のアルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表す。pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、Mがアルミニウム原子のときは1または2を表す。
【0029】
式(2)で表されるリン酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、R4,がメチル基、Rがtet−ブチル基のものが挙げられる。
リン酸エステル金属塩の具体例としては、株式会社ADEKA製の商品名、「アデカスタブ」NA−10、NA−11、NA−21、NA−71、NA−30、NA−35等がリン酸エステル金属塩として用いることができるし、公知の方法により合成することができる。
【0030】
これらの(1)成分や(2)成分であるリン酸エステル金属塩は、ポリ乳酸成分[(A)成分と(B)成分の合計量]100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.05〜0.5重量部、特に好ましくは0.05〜0.2重量部用いる。少なすぎる場合には、ステレオ化度を向上する効果が小さく、多すぎると樹脂自体を劣化させるので好ましくない。
【0031】
本発明に用いるポリ乳酸成分には、耐湿熱性改善剤として、特定官能基を有するカルボキシル基封止剤が好適に適用できる。中でも、特定官能基がカルボジイミド基であるカルボジイミド化合物がカルボキシル基を効果的に封止できるとともに、ポリ乳酸繊維構造物の色相、ステレオコンプレックス相の形成促進、耐湿熱性等の観点より好ましく選択される。
【0032】
すなわち、カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブイチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−ニトロフェニル)カルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミドビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボシイミド、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド等のモノまたはジカルボジイミド化合物が例示される。
【0033】
なかでも、反応性、安定性の観点から、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カーボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。またこれらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドの使用も好適である。また、ポリ(1,6−シクロヘキサンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(p−トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチルジソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。カルボジイミド化合物の含有量は、(A)成分と(B)成分からなるポリ乳酸組成物100重量部当たり、好ましくは0.1〜5.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.0重量部である。
【0034】
また、従来公知のカルボキシ末端封止剤の適用も好ましく選択される。本発明においてかかるカルボキシル基反応性の末端封止剤は、ポリ乳酸樹脂の末端カルボキシル基を封止するのみでなく、ポリ乳酸樹脂や各種添加剤の分解反応で生成するカルボキシ基や乳酸、ギ酸等の低分子化合物のカルボキシル基を封止することができる。また上記封止剤はカルボキシル基のみならず熱分解により酸性低分子化合物が生成する水酸基末端、あるいは樹脂組成物中に侵入する水分を封止できる化合物であることが好ましい。
【0035】
カルボキシ末端封止剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、なかでもエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物が好ましい。
エポキシ化合物として、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。末端カルボキシル基末端封止剤を含有することで、カルボジイミド化合物の作用を向上させることができるのみならず、紡糸性、力学特性、耐熱性、耐久性に優れた繊維を得ることができる。
【0036】
本発明のポリ乳酸組成物中、上記の剤及び後述する各種添加剤の配合方法は、開環重合法においては重合の任意の段階で、好ましくは重合後期に直接反応容器内に添加混練することもできる。ポリ乳酸組成物中の均一分散、色相悪化防止能を考慮すると、エクストルーダーやニーダーでの混練が好ましい。すなわち、反応器のポリマー吐出口を一軸、あるいは多軸のエクストルーダーに連結し、添加することもできる。また、重合後、チップ化されたポリ乳酸組成物あるいは固相重合後のポリ乳酸粉粒体に各種剤を添加、エクストルーダーやニーダーで混練する方法などが例示される。このとき、各種添加剤は、溶融液体、水溶液あるいは有機溶媒溶液あるいは分散液として直接エクストルーダーやニーダー中に計量添加するか、あるいはいわゆるサイドフィーダーよりポリ乳酸中に添加することもできる。またチップあるいは微粉状のマスターバッチとしてエクストルーダーやニーダーでポリ乳酸組成物と混練することも好ましい実施態様である。
【0037】
本発明において、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントの強度は2.5cN/dtex以上であることが好ましい。さらに好ましくは、3.5cN/dtex以上、特に好ましくは、3.5〜4.5cN/dtexの範囲である。上記フィラメントの強度が2.5cN/dtexより低いと、紡糸工程、延伸工程、製織工程での工程通過性が低くなり、また逆に、該フィラメントの強度が4.5cN/dtexより高いと風合いが硬化するおそれがあるため、好ましくない。
【0038】
本発明の立毛布帛においては、該立毛布帛が、以上に説明した融点が195℃以上であるステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントからなり、立毛角度が90°±20°であることが肝要である。すなわち、本発明者らは、環境面からカーボンニュートラルな素材であるポリ乳酸フィラメントで立毛布帛を製造する方法を検討してきたが、通常のポリ乳酸繊維では、立毛糸の凝集や倒伏の問題があった。そこで、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントに着目しこれを用いることで、耐熱性の面では改善は見られたが立毛糸の凝集や倒伏の点については十分とは言えなかった。そこで、さらに研究を進めた結果、立毛布帛を特定の温度でヒートセットを施した後、さらに特定の温度で加熱しながら起毛開繊処理を行うことで、立毛角度を90°±20°、さらには90°±10°とすることも可能となり、しかも凝集がなく、ソフトなタッチとボリューム感を有するポリ乳酸フィラメントからなる立毛布帛を得るに至ったものである。
【0039】
本発明の立毛布帛は、立毛部と地組織部とからなるが、いずれもステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントで構成される。
地組織部にはポリ乳酸フィラメントからなるマルチフィラメント糸条を用いることができ、布帛の風合いを損なわない観点から、該マルチフィラメント糸条の繊度(総繊度)は、好ましくは30〜200dtex、より好ましくは30〜90dtex、さらに30〜85dtex、特に好ましくは33〜85dtexであり、これを構成するポリ乳酸フィラメントの繊度(単繊維繊度)は、好ましくは0.5〜5.0dtex、より好ましくは1.0〜4.0dtex、さらに好ましくは1.0〜3.0dtexである。一方、立毛部を構成するポリ乳酸フィラメントの立毛糸の繊度(単繊維繊度)は、柔軟な風合いと立毛性を両立させる観点から、好ましくは0.5〜5.0dtex、より好ましくは1.0〜4.0dtex、さらに好ましくは1.0〜3.0dtexである。
ポリ乳酸フィラメントの断面形状には制限はなく、通常の丸型断面のほかに三角、扁平、くびれ付扁平、十字形、六葉形、あるいは中空形の断面形状であってもよい。さらに、かかるマルチフィラメント糸条は、仮撚捲縮加工糸や2種以上の構成糸条を空気混繊加工や複合仮撚加工させた複合糸、さらには芯部に弾性糸、鞘部に非弾性糸が位置するカバリング糸であってもよい。
【0040】
本発明の立毛布帛には、経パイル織物または緯パイル織物、あるいはモケット織物を製織し、センターカットすることで地組織部の表面に立毛部を形成した立毛布帛を例示することができ、特に経パイル織物から成形したものが好ましい。
【0041】
本発明の立毛布帛においては、立毛部の立毛糸密度が30,000〜300,000本/cmの範囲内であることが好ましい。立毛部の立毛糸密度が30,000〜300,000本/cmの範囲内であると、高級外観および滑らかなタッチが得られ好ましい。上記立毛糸密度が30,000本/cmよりも小さいと立毛糸の直立状態を保持することが困難となるため、高級外観が損なわれるおそれがあり、また逆に、上記立毛糸密度が300,000本/cmよりも大きいと、風合いが硬化するだけでなく製造コストも高くなるおそれがあり、好ましくない。
【0042】
また、本発明の立毛布帛において、立毛糸の立毛高さは、好ましくは1.0〜5.0mm、さらに好ましくは2.0〜5.0mmの範囲内、特に好ましくは3.0〜4.0mmの範囲内である。かかる立毛高さが1.0mmより小さいと風合いが硬化し、また逆に、上記立毛高さが5.0mmよりも大きいと毛倒れが起こり易くなるため、好ましくない。
【0043】
さらに、本発明の立毛布帛において、目付は、好ましくは50〜800g/m、好ましくは200〜800g/mの範囲内である。上記目付が50g/mより小さいと十分なボリューム感が得られず、また逆に800g/mよりも大きいと、衣料用途としての身体への追従性が低くなるだけでなく、製造コストも高くなるおそれがあり、好ましくない。
【0044】
本発明の立毛布帛においては、地組織部に沸水収縮率が好ましくは15〜50%、より好ましくは20〜50%の範囲内である高熱収縮糸を用いることが望ましい。このような高熱収縮糸を使用することにより、該織物に熱処理を施すと上記地組織部が収縮し、地組織部表面において立毛糸がより密集することで立毛性が上がり、該地組織部表面がソフトな表面タッチを呈することとなる。
本発明においては、上記高熱収縮糸として、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントからなる高収縮糸を用いることが好ましく、かかるポリ乳酸フィラメントからなる高収縮糸は、例えば、ポリ乳酸フィラメント糸条の製糸の延伸工程において延伸倍率を下げることで得ることができる。
【0045】
本発明の立毛布帛は、例えば以下の製造方法により製造することができる。
地組織の経糸と緯糸、及び立毛糸に、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントからなるマルチフィラメント糸を用いて、地組織を上下に所定の間隔を空けて、経糸密度80〜120本/inch、緯糸密度80〜120本/inchとなるよう平織に織成し、2つの地組織の間に、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントからなる立毛糸を地組織に織り込んだ後、2つの地組織の中間位置で立毛糸を切断(センターカット)する。得られた布帛を、シャーリング工程で立毛糸の先端部をカッターにより切断し、所望の立毛高さに揃えることで地組織の表面に立毛糸を有する、すなわち地組織部と立毛部と有する布帛を得ることができる。
上記地組織の製織する際、経方向からみてW字型になるよう立毛糸を織り込むようにするのが望ましい。V字型になるよう立毛糸を織り込む方が上記立毛密度を達成するのが容易であるが、立毛糸が地組織から抜け易くなり、好ましくない。
【0046】
得られた布帛には、以下の条件でヒートセット及び起毛開繊処理を行うことで立毛性、開繊性を向上させることができ、立毛角度が90°±20°、開繊率が90%以上(好ましくは95%以上)である立毛布帛を得ることができる。なお、布帛を染色する場合は、かかるヒートセットをした後、染色加工を行い、起毛開繊処理を行う。
上記ヒートセットの温度としては150〜180℃の範囲内であることが望ましい。ヒートセットの乾熱温度が150℃より低いと、立毛糸の開繊性が悪くなるため、好ましくない。また、ヒートセットの乾熱温度が180℃より高いと、立毛糸が熱により軟化して立毛性が悪くなり、かつ熱により布帛の物性が低下するため、好ましくない。染色加工の温度としては60〜135℃の範囲内であることが望ましい。染色加工の温度が60℃より低いと、布帛の染色性が低くなるため、好ましくない。また、染色加工の温度が135℃より高いと、立毛糸が熱により軟化して立毛性が悪くなり、かつ熱により布帛の物性が低下するため、好ましくない。
【0047】
また、起毛開繊処理としては、ブラシを用いたブラッシングを好ましく例示でき、該ブラシの針金の直径は0.1〜0.5mmの範囲内であることが望ましい。針金の直径が0.1mmより小さいと針金の強度が低く立毛糸を十分に梳くことができないため好ましくない。一方、針金の直径が0.5mmより大きいと、立毛糸を細かく梳くことができず十分な風合いを出すことができないため好ましくない。また、上記ブラシの針金の密度は50〜500本/inch四方の範囲内であることが望ましい。針金の密度が50本/inch四方より小さいと、立毛糸を細かく梳くことができず十分な風合いを出すことができないため好ましくない。一方、針金の密度が500本/inch四方より大きいと、1本当たりの針金が細くなり、針金の強度が低く立毛糸を十分に梳くことができないため好ましくない。上記の起毛開繊処理は、立毛布帛を40〜110℃の範囲内で加熱しながら行うことが望ましい。立毛布帛の加熱温度が40℃より低いと、立毛糸を十分に開繊及び立毛させることができないため、好ましくない。一方、立毛布帛の加熱温度が110℃より高いと、立毛糸が熱により軟化して立毛性が悪くなるため好ましくない。
【0048】
本発明の立毛布帛の地組織部において、立毛部と反対側の面には、公知のバックコーテイング層やパイル層などが形成されていてもよい。さらには、常法のエッチングによる模様づけ、エンボス加工、アルカリ減量加工、着色プリント、撥水加工、紫外線遮蔽剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)重量平均分子量(Mw)
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
(2)ガラス転移点、融点、ステレオ化度
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。
測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで、ホモ結晶融解温度、ステレオコンプレックス結晶融解温度を求めた。ステレオ化度は、下記式により算出した。
【0050】
S(%)=[(ΔHms/ΔHms)/(ΔHmh/ΔHmh+ΔHms/ΔHms)]
(ただし、ΔHms=203.4J/g、ΔHmh=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
(3)フィラメント強伸度
JIS−L−1013に基づいて定速伸長引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
(4)沸水収縮率
JIS L−1013−8.18.1に基づき、n数3で測定した。
(5)立毛布帛の目付
JIS−L―1096―8.4.2に基づいて測定した。
(6)立毛布帛強伸度
JIS−L−1096に基づいて定速伸長引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、試験片の幅5cm、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
【0051】
(7)立毛糸の立毛高さL(mm)
キーエンス(株)製マイクロスコープ(型式:VH−6300)を用いて、立毛布帛の断面を撮影(倍率50倍)し、全体厚みおよび地組織部の厚みを測定して、下記式により立毛糸の立毛高さを算出した。なお、全体厚みは地組織部の最底部から立毛糸の最高部までの距離を測定した。
立毛高さL(mm)=全体厚み(mm)−地組織部厚み(mm)
(8)立毛部の立毛糸密度
キーエンス(株)製マイクロスコープ(型式:VH−6300)を用いて、立毛布帛の表面を撮影(倍率500倍)し、1cm(1cm×1cm)あたりの立毛糸本数を測定した。
(9)立毛糸の立毛角度
キーエンス(株)製マイクロスコープ(型式:VH−6300)を用いて、立毛布帛の断面を撮影(倍率50倍)し、地組織に対する立毛糸の立毛角度を測定した。
(10)立毛糸の開繊率
立毛布帛1m四方において、立毛糸が開繊している箇所の面積の割合を測定した。
(11)風合いのソフト性
試験者3人が官能評価により、(4級)非常にソフトである、(3級)ソフトである、(2級)普通である、(1級)硬い、の4段階に評価した。
【0052】
[製造例1](ポリL−乳酸の製造)
Lラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加し、その後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。
得られたL−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0053】
[製造例2](ポリD−乳酸の製造)
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加し、その後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリD−乳酸を得た。得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0054】
[製造例3](ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の製造)
製造例1で得られたポリL−乳酸ならびに製造例2のポリD−乳酸を各50重量部と、リン酸エステル金属塩(株式会社ADEKA製「アデカスタブ」NA−11)0.1重量部を230℃で溶融混練し、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のMwは13.5万、融点(Tm)は217℃、ステレオ化度は100%であった。
【0055】
[製造例4](ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントの製造)
上記製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を110℃で2時間、150℃で5時間乾燥し樹脂の水分率を80ppmとしたのち、0.27φmmの吐出孔36ホールを有する紡糸口金を用いて、紡糸温度255℃で20g/分の吐出量で紡糸した後に500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。巻き取られた未延伸糸を延伸機にて予熱80℃で4.9倍に延伸し延伸糸を巻き取った後、180℃で熱処理を行った。紡糸工程、延伸工程での工程通過性は良好であり、巻き取られた延伸糸は繊度84dtex/36filのマルチフィラメントであり、強度3.6cN/dtex、伸度23%、沸水収縮率6%であった。
【0056】
[製造例5](高熱収縮なステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントの製造)
上記製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を110℃で2時間、150℃で5時間乾燥し樹脂の水分率を80ppmとしたのち、0.27φmmの吐出孔36ホールを有する紡糸口金を用いて、紡糸温度255℃で20g/分の吐出量で紡糸した後に500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。巻き取られた未延伸糸を延伸機にて予熱80℃で4.6倍に延伸し延伸糸を巻き取った後、130℃で熱処理を行った。紡糸工程、延伸工程での工程通過性は良好であり、巻き取られた延伸糸は繊度84dtex/36filのマルチフィラメントであり、強度3.8cN/dtex、伸度28%、沸水収縮率20%であった。
【0057】
[実施例1]
地組織の経糸と緯糸、及び立毛糸に、いずれも[製造例4]で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを用いて、地組織を上下に所定の間隔を空けて経糸密度105本/inch、緯糸密度105本/inchとなるよう平織に織成し、2つの地組織の間に、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントからなる立毛糸を地組織に織り込んだ後、2つの地組織の中間位置で立毛糸を切断していき、立毛糸を織り込んだ織布を作成した。このようして作成された織布を、シャーリング工程で立毛糸の先端部をカッターにより切断し、立毛高さを3.5mmに揃えた。そして、150℃で1分間ヒートセットを行った後、スターフレームに巻き取り、80℃×40分で染色を行った。そして立毛布帛を90℃で加熱しながら立毛部の経糸方向及び緯糸方向へ起毛開繊処理(ブラッシング;針金直径0.25mm、針金の密度300本/inch四方)を行って立毛布帛を作成した。その結果、立毛密度が41,000本/cm、目付が360g/m、強度及び伸度が、経方向が96.9N/cm、40.2%、緯方向が116.1cN/cm、38.2%の立毛布帛が得られた。この立毛布帛は、ヒートセットや染色の際に受ける熱によっても硬くならず、ソフトな表面タッチとボリューム感を有していた(立毛角度78°、開繊率98%、風合い3級)。
【0058】
[実施例2]
地組織の経糸及び緯糸に、[製造例5]で得られた高収縮タイプのステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを用い、立毛糸に[製造例4]で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを用いた以外は実施例1と同様にして立毛布帛を作成した。その結果、立毛密度が64,000本/cm、目付が560g/m、強度及び伸度が、経方向が94.7N/cm、38.7%、緯方向が109.5cN/cm、35.6%の立毛布帛が得られた。この立毛布帛は、ヒートセットや染色の際に受ける熱によっても硬くならず、かつ、加工の際受ける熱により地組織部が収縮する事で立毛性が増し、[実施例1]で得られた布帛よりソフトな表面タッチとボリューム感を有していた(立毛角度90°、開繊率98%、風合い4級)。
【0059】
[実施例3]
ヒートセットの温度を170℃にした以外は実施例1と同様にして立毛布帛を作成した。その結果、立毛密度が41,000本/cm、目付が360g/m、強度及び伸度が、経方向が79.4N/cm、33.1%、緯方向が91.6cN/cm、30.9%の立毛布帛が得られた。この立毛布帛は、ヒートセットや染色の際に受ける熱によっても硬くならず、ソフトな表面タッチとボリューム感を有していた(立毛角度72°、開繊率98%、風合い3級)。
【0060】
[比較例1]
地組織の経糸と緯糸、及び立毛糸に、ポリL−乳酸のみからなるポリ乳酸フィラメントを用いて、[製造例6]に従い立毛布帛を作成した。その結果、目付が600g/m、強度及び伸度は、経方向が30.5N/cm、9.1%、緯方向が32.1cN/cm、7.2%の立毛布帛が得られた。また、この布帛は、ヒートセットや染色の際に受ける熱によって、立毛糸が同一方向に倒伏した上、糸同士が部分的に凝集し硬いものであった(立毛密度、立毛角度、及び開繊率はいずれも立毛糸が凝集しているため測定不能、風合い1級)。
なお、使用したポリ乳酸フィラメントの繊度、フィラメント数などは、実施例1と同様とした。
【0061】
[比較例2]
ヒートセットの温度を130℃にした以外は実施例1と同様にして立毛布帛を作成した。その結果、立毛密度が41,000本/cm、目付が360g/m、強度及び伸度が、経方向が97.8N/cm、43.1%、緯方向が120.5cN/cm、41.3%の立毛布帛が得られた。の立毛布帛が得られた。この立毛布帛は、ヒートセット温度が低いために立毛糸が十分に開繊せず、ソフトな表面タッチとボリューム感が得られなかった(立毛角度は一様でないため測定不能、開繊率49%、風合い1級)。
【0062】
[比較例3]
ヒートセットの温度を190℃にした以外は実施例1と同様にして立毛布帛を作成した。その結果、立毛密度が41,000本/cm、目付が360g/m、強度及び伸度は、経方向が46.5N/cm、21.2%、緯方向が56.8cN/cm、17.7%の立毛布帛が得られた。この立毛布帛は、ヒートセット温度が高いために立毛糸が軟化して十分に立毛せず、ソフトな表面タッチとボリューム感が得られなかった(立毛角度20°、開繊率98%、風合い2級)。
【0063】
[比較例4]
起毛開繊処理時の立毛布帛の加熱温度を90℃から130℃に変更した以外は、実施例1と同様にして立毛布帛を作成した。その結果、立毛密度が41,000本/cm、目付が360g/m、強度及び伸度は、経方向が87.2N/cm、37.5%、緯方向が104.7cN/cm、34.8%の立毛布帛が得られた。この立毛布帛は、乾燥処理温度が高いために立毛糸が軟化して十分に立毛せず、ソフトな表面タッチとボリューム感が得られなかった(立毛角度33°、開繊率97%、風合い2級)。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によるステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを用いることにより、既存のポリアミドや芳香族ポリエステルからなる立毛布帛と同等の製織性及び加工性を有し、かつソフトな表面タッチとボリューム感も有する立毛布帛が提供され、これは高い実用性を備えたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DSC測定による融点が195℃以上である、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントからなり、立毛角度が90°±20°である立毛布帛。
【請求項2】
ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントが、(i)重量平均分子量5万〜50万のポリL−乳酸[(A)成分]、(ii)重量平均分子量5万〜50万のポリD−乳酸[(B)成分]および(iii)(A)成分と(B)成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)で表わされるリン酸エステル金属塩および/または下記式(2)で表されるリン酸エステル金属塩を含有するフィラメントである、請求項1に記載の立毛布帛。
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子のときは1または2を表す。)
【化2】

(式中、R、R及びRは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子のときは1または2を表す。)
【請求項3】
ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントの総繊度が30〜200dtexの範囲内である、請求項1または2に記載の立毛布帛。
【請求項4】
ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントの強度が2.5cN/dtex以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の立毛布帛。
【請求項5】
立毛部の立毛糸密度が30,000〜300,000本/cmの範囲内である、請求項1〜4いずれかにに記載の立毛布帛。
【請求項6】
立毛糸の立毛高さが1.0〜5.0mmの範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の立毛布帛。
【請求項7】
目付が50〜800g/mの範囲内である、請求項1〜6のいずれかに記載の立毛布帛。
【請求項8】
立毛布帛が、これを構成する立毛部と地組織部のうち少なくとも地組織部を構成するフィラメントを熱収縮させてなる立毛布帛であって、熱処理前の立毛布帛において地組織部を構成するフィラメントが、沸水収縮率が15〜50%であるステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントである、請求項1〜7のいずれかに記載の立毛布帛。
【請求項9】
立毛糸の開繊率が布帛全体の95%以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の立毛布帛。

【公開番号】特開2010−280996(P2010−280996A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133106(P2009−133106)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(393028302)揚原織物工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】