説明

立軸ポンプおよび該立軸ポンプに用いられる水中軸受の監視方法

【課題】ポンプケーシングを分解することなく、信頼性の高い水中軸受の摩耗検知を行うことができ、かつ水中軸受の摩耗を正確に監視することができる機構を備えた立軸ポンプを提供する。
【解決手段】立軸ポンプは、羽根車10と、羽根車10に連結された回転軸6と、羽根車10および回転軸6を収容するポンプケーシング2と、回転軸6を回転自在に支持する水中軸受12と、回転軸6の径方向の変位を測定する変位測定器30と、変位測定器30の測定値に基づいて水中軸受の摩耗を監視する監視装置31とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川水や排水などの液体を汲み上げる立軸ポンプおよび該立軸ポンプに用いられる水中軸受の監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、一般的な立軸ポンプを示す模式図である。図1に示すように、立軸ポンプは、水槽上部のポンプ据付床500に設置され、吊下管502を介して羽根車504を収容するケーシング506が吊り下げられる。このような立軸ポンプは、水中軸受508が水中に浸漬された状態で運転され、使用時間の経過とともに水中軸受508が徐々に摩耗する。このため、立軸ポンプの点検作業を定期的に行って水中軸受508の摩耗状況を確認し、必要に応じて水中軸受508の補修または交換が行われる。
【0003】
水中軸受508の摩耗は、ポンプの異常振動の原因となり、最終的にポンプ故障(運転不能)に至る原因となる。このため、水中軸受508の点検は重要点検項目の1つである。一般に、水中軸受の点検整備間隔は約10年とされる。したがって、10年に1回程度、ケーシング506を分解して水中軸受508を露出させ、すきまゲージなどを用いて水中軸受508の摩耗量を測定し、水中軸受508の交換を行うべきか否かを判断する。
【0004】
立軸ポンプの分解方法としては、天井クレーンを用いてポンプを引き上げて行う方法がある。しかしながら、この方法は費用がかかり、点検にかかる時間も長くなってしまう。例えば、天井クレーンを用いて立軸ポンプを引き上げるときにはクレーンオペレータも必要になるなど、引き上げのために相当の作業費用を要する。また、重量物であるポンプの引き上げは危険作業といえる。
【0005】
また、立軸ポンプの点検整備の後は、立軸ポンプを再び組み立てる必要がある。この組立作業には、駆動源とポンプ回転軸との芯出し、立軸ポンプの試運転という工程が含まれ、かなりの日数を要する。さらに、ポンプ機場によっては、点検時でも、常に必要量の排水をできる状態にしておく必要があり、点検期間中は、仮設ポンプを設置するなどして、排水能力を確保する必要がある。
【0006】
そこで、以下に示す特許文献1乃至4に開示されているように、ポンプを引き上げずに水中軸受の摩耗を検出する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、水中軸受に隣接してダミー部材を設け、その中に埋設された導線に電流を流し、ダミー部材の摩耗に起因して導線が切れたことを検出することで水中軸受が摩耗したことを検知する方法が開示されている。しかしながら、水中軸受の寿命は一般に10年以上と長く、またポンプ内部は通常は液体で満たされているため、導線自体が腐食し、断線するおそれがある。
【0007】
特許文献2,3には、空気流量、圧力、振動値などの間接的な物理量を測定することで軸受の摩耗量を推定する技術が開示されている。しかしながら、これらの技術は、軸受の摩耗量を計算により推測するものであり、正確な軸受交換時期を判断するには信頼性が低い。この点、特許文献1に記載の方法では、水中軸受の摩耗量を定量的に捉え、交換時期を的確に判断することは可能である。しかしながら、水中軸受の摩耗を検出する回数は1度限りであり、何らかの原因で水中軸受の摩耗を誤検知したときは、ポンプを無駄に引き上げてしまうことになる。
【0008】
特許文献4には、回転軸と導体との接触により導体間が電気的に導通し、これにより導体に隣接する水中軸受の摩耗を検知する方法が開示されている。この方法によれば、水中軸受が摩耗しているときにポンプを運転すると、ポンプ回転軸の振れにより導体間が電気的に導通するので、何度でも水中軸受の摩耗を検知することができる。しかしながら、導体に接続される導線は水中に配置されるため、導線自体の腐食や断線などの欠陥が原因で、水中軸受の摩耗が検知されないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−161790号公報
【特許文献2】特開2004−218578号公報
【特許文献3】特許3567140号公報
【特許文献4】特開2008−75625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたもので、ポンプケーシングを分解することなく、信頼性の高い水中軸受の摩耗検知を行うことができ、かつ水中軸受の摩耗を正確に監視することができる機構を備えた立軸ポンプを提供することを目的とする。また、本発明は、かかる立軸ポンプに使用される水中軸受の監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、羽根車と、前記羽根車に連結された回転軸と、前記羽根車および前記回転軸を収容するポンプケーシングと、前記回転軸を回転自在に支持する水中軸受と、前記回転軸の径方向の変位を測定する少なくとも1つの変位測定器と、前記変位測定器の測定値に基づいて前記水中軸受の摩耗を監視する監視装置とを備えたことを特徴とする立軸ポンプである。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記監視装置は、所定の単位時間内に前記測定値が所定のしきい値を超えた回数、または前記測定値が前記しきい値を超えた積算時間が、所定の基準値を上回ったか否かを判定するように構成されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記監視装置は、前記回数または積算時間が前記所定の基準値を上回ったときに警報を発するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の好ましい態様は、前記しきい値は、摩耗した、または摩耗状態を模した仮軸受を前記水中軸受に代えて前記立軸ポンプに取り付け、前記立軸ポンプを吸込水槽に設置した状態で運転したときに前記変位測定器により測定された前記回転軸の径方向の変位であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記監視装置は、前記水中軸受が摩耗していないときに測定された前記回転軸の径方向の変位を正常値として記憶することを特徴とする。
【0014】
本発明の好ましい態様は、前記監視装置は、前記測定値と該測定値が取得されたときの前記立軸ポンプの運転時間とを記憶し、記憶された複数の前記測定値および運転時間から近似曲線を生成し、前記近似曲線から前記回転軸の径方向の変位が所定のしきい値に達する運転時間を推定することを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記ポンプケーシングの外側には、前記回転軸を回転自在に支持する外軸受が配置され、前記回転軸は、前記水中軸受および前記外軸受のみによって支持されており、前記水中軸受は、前記羽根車の下方に配置されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の他の態様は、羽根車と、前記羽根車に連結された回転軸と、前記羽根車および前記回転軸を収容するポンプケーシングと、前記羽根車の下方に配置される水中軸受と、前記ポンプケーシングの外側に配置される外軸受とを有し、前記回転軸は前記水中軸受および前記外軸受のみによって支持されている立軸ポンプの前記水中軸受の監視方法であって、摩耗した、または摩耗状態を模した仮軸受を前記水中軸受に代えて前記立軸ポンプに取り付け、前記立軸ポンプを吸込水槽に設置した状態で運転したときの前記回転軸の径方向の変位を変位測定器により測定し、測定された前記回転軸の径方向の変位をしきい値として記憶し、前記水中軸受によって支持されているときの前記回転軸の径方向の変位を前記変位測定器により測定し、前記変位測定器の測定値と前記しきい値とを比較することによって前記水中軸受の摩耗を監視することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
回転中の回転軸の径方向の変位は、水中軸受の摩耗に応じて増加する。したがって、水中軸受に支持される回転軸の径方向の変位(すなわち、回転軸の振れ回りの大きさ)を直接測定することにより、水中軸受の摩耗を正確に監視することができる。また、得られた回転軸の変位に基づき、水中軸受の摩耗の傾向や水中軸受の交換時期などを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一般的な立軸ポンプを示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る立軸ポンプの全体構成を示す断面図である。
【図3】2つの変位センサの配置を示す模式的平面図である。
【図4】外軸受および水中軸受によって支持されている回転軸の動きを説明する模式図である。
【図5】図5(a)は水中軸受が摩耗していない、または摩耗が少ない状態で測定された回転軸の変位を示すグラフであり、図5(b)は水中軸受が許容限度にまで摩耗した状態で測定された回転軸の変位を示すグラフである。
【図6】図6(a)および図6(b)は、回転軸のX方向またはY方向の変位のみを時間軸に沿って表した波形グラフである。
【図7】監視装置の発報装置を示す模式図である。
【図8】監視装置の発報動作を説明するためのフローチャートである。
【図9】図9(a)は、水中軸受が摩耗していないときに取得された、正常状態を表すリサジュー図形を示し、図9(b)は、水中軸受が摩耗しているときに取得された、摩耗状態を表すリサジュー図形を示し、図9(c)は立軸ポンプの排水運転中に取得されたリサジュー図形を示す。
【図10】水中軸受の好ましい配置位置を示す図である。
【図11】監視装置に記憶された回転軸の変位と立軸ポンプの運転時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図2は本発明の一実施形態に係る立軸ポンプの全体構成を示す断面図である。
図2に示すように、立軸ポンプは、吸込ベルマウス1a及びポンプボウル1bを有するインペラケーシング1と、インペラケーシング1を吸込水槽5内に吊り下げる吊下管3と、吊下管3の上端に接続される吐出曲管4と、インペラケーシング1内に収容される羽根車10と、羽根車10が固定される回転軸(立軸)6とを備えている。吊下管3は、吸込水槽5の上部のポンプ据付床22に形成された挿通孔24を通して下方に延び、吊下管3の上端に設けられた据付用ベース23を介してポンプ据付床22に固定される。回転軸6は、吐出曲管4、吊下管3、及びインペラケーシング1内を通って鉛直方向に延びている。ポンプケーシング2は、インペラケーシング1、吊下管3、及び吐出曲管4により構成される。
【0019】
吸込ベルマウス1aは下方を向いて開口し、吸込ベルマウス1aの上端はポンプボウル1bの下端に固定されている。羽根車10は回転軸6の下端に固定されており、羽根車10と回転軸6とは一体的に回転するようになっている。この羽根車10の上方(吐出側)には複数のガイドベーン14が配置されている。これらのガイドベーン14はポンプボウル1bの内周面に固定されている。回転軸6は外軸受11および水中軸受12により回転自在に支持されている。水中軸受12はポンプボウル1b内に収容されており、羽根車10の上方に位置している。水中軸受12を支持する支持部材7はボウルブッシュ13の内面に固定されており、さらに、ボウルブッシュ13はガイドベーン14を介してインペラケーシング1に支持されている。外軸受11はボールベアリングなどの転がり軸受であり、水中軸受12は、接水部に設けられ、回転軸6に滑り接触する、いわゆる滑り軸受である。符号19はハンドホールである。
【0020】
回転軸6は吐出曲管4から上方に突出して、駆動源18に連結されている。駆動源18により回転軸6を介して羽根車10を回転させると、吸込水槽5内の水(取扱液)が吸込ベルマウス1aから吸い込まれ、ポンプボウル1b、吊下管3、吐出曲管4を通って吐出配管20に移送される。なお、立軸ポンプの運転時においては、羽根車10を収容するインペラケーシング1は、液面よりも下に位置している。
【0021】
外軸受11は吐出曲管4の外側に配置されている。吐出曲管4の外面には軸受ケーシング25が固定されており、外軸受11はこの軸受ケーシング25内に配置されている。軸受ケーシング25には切り欠き25aが形成されており、この切り欠き25aに近接して2つの変位センサ30,30が設けられている(図2には1つの変位センサ30のみを示す)。図3は、2つの変位センサ30,30の配置を示す模式的平面図である。図3に示すように、変位センサ30,30は、互いに直交するように配置されている。すなわち、変位センサ30,30のうちの一方は、回転軸6のX方向の変位を測定し、他方は回転軸6のY方向の変位を測定する。この変位センサ30,30は、非接触型の変位測定器であり、切り欠き25aを通して露出している回転軸6の径方向の変位を測定する。変位センサ30,30の位置は、外軸受11の下方であり、ポンプ据付床22よりも上方である。
【0022】
変位センサ30,30は監視装置31に接続されており、変位センサ30,30の測定値(すなわち回転軸6の径方向の変位)は監視装置31に送られるようになっている。監視装置31は、変位センサ30,30からの測定値を記憶し、測定値に基づいて水中軸受12の摩耗量を監視する。図4は、外軸受11および水中軸受12によって支持されている回転軸6の動きを説明する模式図である。なお、図4では、2つの変位センサ30,30のうちの1つのみを示す。この実施形態では、ポンプケーシング2内には1つの水中軸受12のみが設けられており、この水中軸受12と、ポンプケーシング2の外に設けられた外軸受11とにより回転軸6が支持されている。図4に示すように、水中軸受12が摩耗すると、その摩耗量に応じて回転軸6が振れ回る。この回転軸6の振れ回りの大きさは、回転軸6の径方向の変位として表すことができる。したがって、回転軸6の径方向の変位は、水中軸受12の摩耗の程度を直接反映した値である。
【0023】
監視装置31は、変位センサ30,30の測定値を記憶し、さらに測定値に基づいて回転軸6の変位を表すグラフを作成する。図5(a)は水中軸受が摩耗していない、または摩耗が少ない状態で測定された回転軸の変位を示すグラフであり、図5(b)は水中軸受が許容限度にまで摩耗した状態で測定された回転軸の変位を示すグラフである。図5(a)および図5(b)に示すグラフは、横軸を回転軸6のX方向の変位とし、縦軸を回転軸6のY方向の変位としており、互いに直交するX方向およびY方向への回転軸6の振動を合成することで得られるリサジュー図形を示す。X方向およびY方向は、回転軸6に垂直な方向である。図5(a)および図5(b)に示すリサジュー図形から、水中軸受12が摩耗していると、回転軸6が大きく変位することが分かる。なお、設置される変位センサは1つでもよく、1つの変位センサ30によって回転軸6の径方向の変位を測定してもよい。この場合も、同様に監視装置31によって回転軸6の変位を表すグラフが作成される。図6(a)および図6(b)は、1つの変位センサによって測定された回転軸6のX方向またはY方向の変位のみを時間軸に沿って表した波形グラフである。このように時間軸に沿って表した波形グラフを作成して、水中軸受12の摩耗状態の進捗を判断してもよい。
【0024】
図4の模式図から分かるように、変位センサ30,30(図4では1つの変位センサ30のみを示す)は、外軸受11と水中軸受12との間に設置する必要がある。ただし、変位センサ30,30の動作を保証する観点から、変位センサ30,30を水没させないことが好ましい。図2に示すように、本実施形態では、変位センサ30,30はポンプケーシング2の外であって、ポンプ据付床22よりも上方に配置されている。変位センサ30,30がポンプ据付床22の上方に配置されているので、変位センサ30,30の点検、較正、修理が容易に行える。変位センサがポンプ据付床22の下方に配置され、水中に没しているとすると、センサの点検や修理などのために立軸ポンプを引き上げる作業が必要となるが、本実施形態によれば、このような引き上げ作業をなくすことができ、立軸ポンプが運転不能となる状態を回避して、信頼性の高い立軸ポンプとすることができる。
【0025】
回転軸6の振動の大きさは、水中軸受12の摩耗量に応じて変化するので、回転軸6の径方向の変位は、水中軸受12の摩耗量を直接反映した値といえる。したがって、回転軸6の径方向の変位を変位センサ30,30により直接測定することにより、水中軸受12の摩耗を正確に検知し監視することができる。また、本実施形態によれば、立軸ポンプを吸込水槽5から引き上げることなく水中軸受12の摩耗量を監視することが可能であり、経済的な水中軸受12の監視システムを構築することができる。なお、回転軸6の変位測定および水中軸受12の摩耗監視は、立軸ポンプが実際に排水運転を行っているとき、吐出配管20に設けられた図示しない吐出弁を閉じた締切運転を行っているとき、または排水を伴わないドライ運転を行っているときのいずれの運転パターンで行ってもよい。
【0026】
図7に示すように、監視装置31は発報装置32を備えており、変位センサ30,30の測定値(回転軸6の径方向の変位)に基づいて警報を発するように構成されている。変位センサ30,30の測定値には所定の共通するしきい値が予め設定されており、所定の単位時間内に測定値がしきい値を超えた回数、または測定値がしきい値を超えた積算時間が、所定の基準値を上回ったときに、発報装置32から警報(警報音および/または警告表示)が発せられるようになっている。しきい値は、水中軸受12の摩耗の許容限度に対応した値であり、水中軸受12の交換時期を示す値である。
【0027】
図8は、監視装置31の発報動作を説明するためのフローチャートである。立軸ポンプの運転が開始されると、変位センサ30,30により回転軸6の径方向の変位が測定される(ステップ1)。測定値は変位センサ30,30から監視装置31に送られる。監視装置31は、測定値と所定のしきい値とを比較し、測定値がしきい値より大きいか否かを判定する(ステップ2)。測定値がしきい値以下の場合は、処理フローはステップ1に戻る。一方、測定値がしきい値よりも大きい場合は、カウントを1つ増やすか、または測定値がしきい値を超えた時間を積算する(ステップ3)。監視装置31は、測定値が単位時間内にしきい値を超えた回数(カウント)または積算時間が所定の基準値を超えたか否かを判定する(ステップ4)。そして、単位時間当たりの回数または積算時間が基準値を上回った場合は、警報を発する(ステップ5)。一方、単位時間当たりの回数または積算時間が基準値以下である場合は、処理フローはステップ1に戻る。
【0028】
測定値が単位時間内にしきい値を超えた回数がカウントされるので、塵芥などにより瞬間的に回転軸6が大きく変位しても、警報が発せられることはない。したがって、信頼性の高い立軸ポンプとすることができる。また、本実施形態によれば、水中軸受12が許容限度を超えて摩耗した状態で立軸ポンプが運転されることが防止される。したがって、重大な故障に至る前に水中軸受12の交換を行うことができ、より信頼性の高い立軸ポンプとなる。
【0029】
一般に、立軸ポンプは、その揚水量、全揚程、回転軸6の長さ、軸受の位置および個数、立軸ポンプの設置状態によって、振動モードが変化する。このため、上述したしきい値を適正に設定することが難しい。そこで、立軸ポンプを吸込水槽5に実際に据え付けた状態で立軸ポンプを運転し、運転中の回転軸6の変位から上記しきい値を決定することが好ましい。具体的には、摩耗した、または摩耗を模した仮軸受(図示せず)を用意し、吸込水槽5に設置されている立軸ポンプにこの仮軸受を水中軸受12に代えて取り付け、そして立軸ポンプを運転して回転軸6の径方向の変位を計測する。用意される仮軸受の摩耗量は、立軸ポンプを安全に運転するための摩耗量の許容限度である。したがって、仮軸受に支持されているときに測定された回転軸6の径方向の変位は、水中軸受12の摩耗量の許容限度に対応した変位であり、水中軸受12の交換時期を示す値である。なお、計算や解析などにより水中軸受12の摩耗時の回転軸6の変位を推定する方法もあるが、回転軸6の剛性(たわみ)や水中軸受12の弾性、外軸受11のがたつき、立軸ポンプの設置現場での据え付け状態などの種々の影響因子を正確に反映することが難しく、満足なしきい値を得ることは実質的に不可能である。
【0030】
監視装置31は、この仮軸受を取り付けたときに取得された測定値を、上述したしきい値として登録し、記憶する。このようにして決定されたしきい値は、立軸ポンプが吸込水槽5に据え付けられた状態を反映した水中軸受12の摩耗の許容限度ということができる。つまり、決定されたしきい値は、立軸ポンプの揚水量、全揚程、回転軸6の長さ、軸受の位置および個数、立軸ポンプの設置状態によって変化する振動モードを反映した値である。したがって、変位センサ30,30によって測定される回転軸6の径方向の変位としきい値とを比較することにより、水中軸受12の交換時期を正確に決定することができる。
【0031】
上記仮軸受を用いて取得されたしきい値に加え、摩耗していないときの水中軸受12に支持されている回転軸6の径方向の変位を変位センサ30,30により測定することが好ましい。水中軸受12が摩耗していない状態で取得された回転軸6の変位は、正常値として上記しきい値とともに監視装置31に登録され、記憶される。そして立軸ポンプの運転中に取得された変位センサ30,30の測定値(実測値)を、正常値およびしきい値の両方と比較することにより、水中軸受12の摩耗の進行具合を判断することができる。
【0032】
図9(a)は、水中軸受が摩耗していないときに取得された、正常状態を表すリサジュー図形を示し、図9(b)は、水中軸受が摩耗しているときに取得された、摩耗状態を表すリサジュー図形を示し、図9(c)は立軸ポンプの排水運転中に取得されたリサジュー図形を示す。図9(c)において、正常状態を示すリサジュー図形と摩耗状態を示すリサジュー図形とで囲まれた範囲は、水中軸受12が正常であることを示す範囲である。したがって、リサジュー図形として表された回転軸6の変位の実測値(点線で示す)が、正常状態を示すリサジュー図形と摩耗状態を示すリサジュー図形とで囲まれた範囲内にあるときは、水中軸受12の摩耗は正常範囲内にあると判断される。
【0033】
監視装置31は、変位センサ30,30の測定値から図9(c)に示すリサジュー図形を作成し、図示しない表示部に作成したリサジュー図形を表示する。管理者は、表示されたリサジュー図形から水中軸受12の摩耗具合を判断することができ、また水中軸受12の交換時期を推測することができる。なお、リサジュー図形に代えて、図6(a)および図6(b)に示すように、監視装置31は回転軸6のX方向またはY方向の変位のみを時間軸に沿って表した波形グラフを作成してもよい。
【0034】
図10は水中軸受の好ましい配置位置を示す図である。上述した立軸ポンプでは、水中軸受12はポンプボウル1b内に収容されているが、図10に示す例では水中軸受12はポンプボウル1b内には設けられておらず、羽根車10の下方に配置されている。すなわち、図10に示すように、羽根車10から下方に突出している回転軸6の先端部が水中軸受12によって支持されている。水中軸受12は、ベルマウス1aの内周面に固定された複数の支持部材15によって支持されており、水中軸受12はベルマウス1aの吸込口の近くに配置されている。ポンプケーシング2の内部には、水中軸受12以外に他の水中軸受は設けられていなく、回転軸6は、外軸受11と、羽根車10の下方の水中軸受12の2つの軸受のみによって支持されている。
【0035】
この例では水中軸受12はポンプボウル1bの外に配置されており、さらに吸込口に近接して配置されているので、作業員は吸込口から水中軸受12に容易にアクセスできる。したがって、ポンプケーシング2を引き上げて分解することなく、速やかに水中軸受12を交換することができる。具体的には、従来一週間程度であった作業時間を2〜3時間程度にまで短縮することができる。さらに、軸受交換時間を短縮することができるので、上述した仮軸受の設置およびしきい値の取得作業を、立軸ポンプ設置時の試運転中に行うことができる。
【0036】
監視装置31は、変位センサ30からの測定値を運転時間に関連して記憶するように構成されている。具体的には、監視装置31は、変位センサ30の測定値と、その測定値が取得された運転時間とを記憶する。記憶される変位センサ30の測定値は、2つの変位センサ30,30の測定値の平均、または変位センサ30,30のいずれかの測定値とすることができる。さらに監視装置31は、得られた複数の測定値および対応する運転時間から近似曲線を作成し、その近似曲線から測定値が上述のしきい値に達する時期を推定するように構成されている。図11は、監視装置31に記憶された回転軸6の変位と立軸ポンプの運転時間との関係を示すグラフである。図11のグラフにおいて、縦軸は測定値(すなわち回転軸6の径方向の変位)を表し、横軸は立軸ポンプの運転時間を表している。変位センサ30の測定値は水中軸受12の摩耗を反映した値であるので、図11に示すように、運転時間とともに変位センサ30の測定値は増加する。
【0037】
監視装置31は、複数の測定値とその対応する運転時間とによって特定される複数の座標から近似曲線を生成し、回転軸6の変位がしきい値(水中軸受12の摩耗の許容限度に相当)に達する運転時間を近似曲線から求める。一般に、立軸ポンプの水中軸受12は汎用品ではなく、その立軸ポンプ専用に製造されたものであるため、新たな水中軸受を用意するには数ヶ月かかることがある。本実施形態によれば、水中軸受12の交換時期が予測できるので、事前に新たな水中軸受を製作し、準備しておくことができ、摩耗した水中軸受12を新たな水中軸受に速やかに交換することができる。なお、本発明は、変位センサが1つのみ設けられる実施形態にも同様に適用されることは言うまでもない。この場合も、監視装置31は同様の処理フローに従って動作することができる。
【0038】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0039】
1 インペラケーシング
1a 吸込ベルマウス
1b ポンプボウル
2 ポンプケーシング
3 吊下管
4 吐出曲管
5 吸込水槽
6 回転軸
7 支持部材
10 羽根車
10a インペラハブ
10b インペラ
11 外軸受
12 水中軸受
13 ボウルブッシュ
14 ガイドベーン
18 駆動源
17 支持部材
19 ハンドホール
20 吐出配管
22 ポンプ据付床
23 据付用ベース
24 ポンプ挿通孔
30 変位センサ
31 監視装置
32 発報装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根車と、
前記羽根車に連結された回転軸と、
前記羽根車および前記回転軸を収容するポンプケーシングと、
前記回転軸を回転自在に支持する水中軸受と、
前記回転軸の径方向の変位を測定する少なくとも1つの変位測定器と、
前記変位測定器の測定値に基づいて前記水中軸受の摩耗を監視する監視装置とを備えたことを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項2】
前記監視装置は、所定の単位時間内に前記測定値が所定のしきい値を超えた回数、または前記測定値が前記しきい値を超えた積算時間が、所定の基準値を上回ったか否かを判定するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の立軸ポンプ。
【請求項3】
前記監視装置は、前記回数または積算時間が前記所定の基準値を上回ったときに警報を発するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の立軸ポンプ。
【請求項4】
前記しきい値は、摩耗した、または摩耗状態を模した仮軸受を前記水中軸受に代えて前記立軸ポンプに取り付け、前記立軸ポンプを吸込水槽に設置した状態で運転したときに前記変位測定器により測定された前記回転軸の径方向の変位であることを特徴とする請求項2または3に記載の立軸ポンプ。
【請求項5】
前記監視装置は、前記水中軸受が摩耗していないときに測定された前記回転軸の径方向の変位を正常値として記憶することを特徴とする請求項4に記載の立軸ポンプ。
【請求項6】
前記監視装置は、前記測定値と該測定値が取得されたときの前記立軸ポンプの運転時間とを記憶し、記憶された複数の前記測定値および運転時間から近似曲線を生成し、前記近似曲線から前記回転軸の径方向の変位が所定のしきい値に達する運転時間を推定することを特徴とする請求項1に記載の立軸ポンプ。
【請求項7】
前記ポンプケーシングの外側には、前記回転軸を回転自在に支持する外軸受が配置され、
前記回転軸は、前記水中軸受および前記外軸受のみによって支持されており、
前記水中軸受は、前記羽根車の下方に配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の立軸ポンプ。
【請求項8】
羽根車と、
前記羽根車に連結された回転軸と、
前記羽根車および前記回転軸を収容するポンプケーシングと、
前記羽根車の下方に配置される水中軸受と、
前記ポンプケーシングの外側に配置される外軸受とを有し、
前記回転軸は前記水中軸受および前記外軸受のみによって支持されている立軸ポンプの前記水中軸受の監視方法であって、
摩耗した、または摩耗状態を模した仮軸受を前記水中軸受に代えて前記立軸ポンプに取り付け、前記立軸ポンプを吸込水槽に設置した状態で運転したときの前記回転軸の径方向の変位を変位測定器により測定し、
測定された前記回転軸の径方向の変位をしきい値として記憶し、
前記水中軸受によって支持されているときの前記回転軸の径方向の変位を前記変位測定器により測定し、
前記変位測定器の測定値と前記しきい値とを比較することによって前記水中軸受の摩耗を監視することを特徴とする水中軸受の監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−58447(P2011−58447A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210233(P2009−210233)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】