説明

筒内直噴式火花点火内燃機関

【課題】筒内直噴式火花点火内燃機関において、低コストな手段で、排気中の粒子状物質やスモークの発生を抑制する。
【解決手段】筒内直噴式火花点火ガソリン機関10Aにおいて、排気弁28側に設けられた冷却水ジャケット36をインジェクタ32側に設けられた冷却水ジャケット34より底浅にして、容積を小さくする。これによって、冷却水ジャケット36の冷却効果を抑制し、排気弁側ピストン頂面16を高温状態に保持し、排気弁側ピストン頂面16に噴射された液体燃料の気化率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストな手段で粒子状物質(PM;particulate matter)やスモークの排出を低減可能にした筒内直噴式火花点火内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
筒内直噴式火花点火内燃機関は、液体燃料をシリンダの燃焼室内に直接噴射し、該噴射燃料をピストンの頂面に衝突させて気化させ、着火性の良好な濃度の高い混合気を形成する。この可燃混合気を点火プラグ近傍へ導き、燃焼室内全体としては希薄な混合気の燃焼を可能にする成層燃焼を行なう。燃料噴射時点は圧縮行程後半である。
【0003】
ここで、燃焼室内に噴射された液体燃料が完全に気化することが望ましい。しかし、一般に、ピストン本体やシリンダは熱伝導性が高いアルミニウムを素材としており、ピストン本体やシリンダ壁面から熱が逃げやすい。そのため、それらの表面温度を高温のまま維持し難く、噴射燃料の全てが気化し得ない、という状況が生じることがある。これによって、ピストン頂面やシリンダ壁面に液体燃料が残存してしまい、かかる状態で燃焼が起こると、粒子状物質やスモークを発生させてしまう。
【0004】
図8に、筒内直噴式火花点火ガソリン機関の概略を示す。図8の筒内直噴式火花点火ガソリン機関100において、シリンダ102の内部にピストン104が設けられ、ピストン頂面104aの上方には燃焼室bが形成されている。シリンダヘッド106には、吸気管108及び排気管110が接続されている。シリンダヘッド106と吸気管108の接続部には吸気弁112が設けられ、シリンダヘッド106と排気管110との接続部には排気弁114が設けられている。シリンダヘッド106の吸気弁側周縁部には、液体燃料(ガソリン)を燃焼室bに噴射するインジェクタ116が設けられ、シリンダヘッド106の中央部には、点火プラグ117が設けられている。
【0005】
液体燃料は、燃料タンク118からフィードポンプ120によって燃料供給管122に送られる。液体燃料は、さらに高圧ポンプ124によって、吸気マニホールドを構成するデリバリパイプ126に送られ、デリバリパイプ126から各シリンダ102に設けられたインジェクタ116に送られる。液体燃料は、インジェクタ116から燃焼室bに噴射される。一方、吸気管108から吸気が燃焼室bに供給される。
【0006】
噴射された液体燃料は、ピストン頂面104aに衝突し、ピストン頂面104aの保有熱で気化し、着火性の良好な濃度の高い混合気を形成する。この可燃混合気は、ピストン頂面104aに形成されたキャビティの曲面に沿って、点火プラグ117の近傍へ導かれ、燃焼室内全体としては希薄な混合気の燃焼を可能にする成層燃焼を行なう。燃焼後の排気は、排気管110に排出され、排気管110に設けられた排気浄化触媒128によって浄化された後、外部へ排出される。
【0007】
インジェクタ32から噴射された液体燃料は、排気管110側のピストン頂面104aやシリンダ壁面に当る。これらの領域で放熱があり、高温を維持できないと、液体燃料の気化率が悪くなり、燃焼後の排気中に粒子状物質やスモークを発生させてしまう。
粒子状物質は人体への悪影響を危惧され、既にディーゼル機関では、その排出量が規制されている。直噴式火花点火ガソリン機関でも、今後排出量が規制される可能性がある。この解決策として、排気管に粒子状物質を除去するフィルタを設ける案がある。しかし、この案では、排気の流動性を阻害することで、内燃機関の性能低下を招き、またコストアップを招くという問題がある。
【0008】
図9は、空燃比(A/F)と排気中に発生する粒子状物質との関係を示す線図である。曲線Aは、筒内直噴式火花点火ガソリン機関の例であり、曲線Bは、吸気マニホールドの吸気ポート付近に、シリンダ毎にインジェクタを配置し、吸気と液体燃料とを均一に混合して燃焼させ、均質燃焼を行なう方式の例である。図9から、筒内直噴式ガソリン機関の場合、空燃比がリッチの状態で粒子状物質の発生が多くなることがわかる。
【0009】
特許文献1には、噴射燃料が衝突するピストン頂面に熱伝導率が小さいチタン等の低熱伝導部材を設け、これにより、ピストン頂面の高温状態を保って噴射燃料の気化を促進させ、粒子状物質やスモークの発生を抑制するという解決策が開示されている。特許文献1(図2)に開示されたピストンの断面図を図10に示す。
【0010】
図10において、筒内直噴式火花点火内燃機関に適用されたピストン200は、アルミニウムで成型されたピストン本体202のピストン頂面204に、凹状のキャビティ204aが形成されている。キャビティ204aの底面に凹部206が設けられ、この凹部206に、熱伝導率が低い板状の低熱伝導部材208が嵌合固定されている。低熱伝導部材206は、例えばチタン製である。低熱伝導部材208を設けることで、キャビティ204aをピストン本体202より高温にし、キャビティ204aに衝突した液体燃料の気化を促進している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−337135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示された手段は、ピストン頂面に低熱伝導部材を形成するため、そのための加工工程を必要とすると共に、低熱伝導部材として高価なチタンを用いるため高コストになるという問題がある。また、シリンダ壁面を高温に保持することができないので、シリンダ壁面に付着した液体燃料の気化率を向上させることはできないという問題がある。
【0013】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、筒内直噴式火花点火内燃機関において、低コストな手段で、液体燃料が当るピストン頂面及びシリンダ壁面の保温効果を高くして、噴射燃料の気化を促進可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するため、本発明の筒内直噴式火花点火内燃機関は、液体燃料が当る側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットの容積を、燃料噴射弁が設けられた側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットより低減させ、液体燃料が当る側のピストン頂面及びシリンダ内面を燃料噴射弁設置側のピストン頂面及びシリンダ内面より高温に維持し、該液体燃料の気化率を増大させるように構成したものである。
【0015】
本発明では、液体燃料が当る側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットの冷却性能を、燃料噴射弁設置側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットより低下させることにより、液体燃料が当る側のシリンダ壁を高温に維持させるようにしている。これによって、冷却水ジャケットの容積を変更するだけの低コストな手段で、液体燃料の気化率を増大させ、燃焼を促進し、粒子状物質やスモークの発生を抑制できる。
【0016】
本発明において、燃料噴射弁が吸気弁設置側のシリンダヘッド周縁部に設けられ、液体燃料が当る側のシリンダヘッドに排気弁が設けられているとよい。燃料噴射弁が吸気弁の近くに設けられることで、液体燃料と吸気との混合が促進され、良好な燃焼を可能にする。
【0017】
本発明において、液体燃料が当る側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットが、燃料噴射時点でピストンリングの高さより上方に設けられているとよい。ピストンの保有熱は、主としてピストンリングを介してシリンダ壁面に伝達される。圧縮行程後半に行なわれる燃料噴射時点で、液体燃料が当る側の冷却水ジャケットをピストンリングの高さより上方に設けることで、ピストンリングに対する冷却性能を低下させることができる。これによって、ピストンリングからシリンダ壁面へ伝達する熱量を抑制できるので、ピストン頂面の温度を高温に維持でき、ピストン頂面に当る液体燃料の気化率を低減できる。
【0018】
本発明において、液体燃料が当る側の冷却水ジャケットが、燃料噴射時点でピストン頂面の高さより上方に設けられているとよい。圧縮行程後半に行なわれる燃料噴射時点で、液体燃料が当る側の冷却水ジャケットをピストン頂面の高さより上方に設けることで、ピストン頂面に対する冷却性能を低下させることができる。これによって、ピストン頂面の温度を高温に維持でき、ピストン頂面に当る液体燃料の気化率を向上できる。
【0019】
本発明において、シリンダブロックに複数のシリンダボアが隣接配置され、液体燃料が当る側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットの容積を、燃料噴射弁から噴射される液体燃料の噴射方向から外れたシリンダボア間の領域で、燃料噴射弁が設けられた側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットの容積と同等にするとよい。これによって、液体燃料の気化率を低下させることなく、特に高温となりやすいシリンダボア間領域の冷却性能を高く維持できる。
【0020】
本発明において、冷却性能を低減するための冷却水ジャケットの構成に加えて、液体燃料が当る領域のピストン頂面に、ピストン本体を構成する材料より熱伝導性が悪い材料からなる被覆層を形成するとよい。これによって、ピストン頂面からの放熱を抑制し、ピストン頂面を高温状態に維持できるので、冷却水ジャケットによる冷却性能の低減効果との相乗効果によって、液体燃料の気化率をさらに向上できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリンダ壁内に冷却水ジャケットが設けられ、液体燃料を燃焼室内に直接噴射し、この噴射燃料をピストン頂面に衝突させて気化させ、高濃度の混合気を点火プラグ近傍へ導くようにした筒内直噴式火花点火内燃機関において、液体燃料が当る側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットの容積を、燃料噴射弁が設けられた側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットより低減させ、液体燃料が当る側のピストン頂面及びシリンダ内面を燃料噴射弁設置側のピストン頂面及びシリンダ内面より高温に維持し、該液体燃料の気化率を増大させるように構成したので、噴射された液体燃料が当る側のピストン頂面及びシリンダ内面を高温に維持でき、これによって、噴射された液体燃料の気化率を増大できる。そのため、冷却水ジャケットの容積を変更するだけの低コストな手段で、燃焼室での良好な成層燃焼を可能し、排気中の粒子状物質やスモークの発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第1実施形態の正面視断面図である。
【図2】図1中のA―A線に沿う断面図である。
【図3】本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第2実施形態の正面視断面図である。
【図4】本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第3実施形態の正面視断面図である。
【図5】本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第4実施形態の正面視断面図である。
【図6】本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第5実施形態の平面視断面図である。
【図7】本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第6実施形態の正面視断面図である。
【図8】従来の筒内直噴式火花点火ガソリン機関の概略図である。
【図9】筒内直噴式火花点火ガソリン機関の粒子状物質排出量を示す線図である。
【図10】特許文献1に開示された、低熱伝導部材を設けたピストンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0024】
(実施形態1)
本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第1実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。本実施形態は、6気筒V型エンジンに適用した例であり、図2は、片側バンクを示す。図1の筒内直噴式火花点火ガソリン機関10Aにおいて、シリンダブロック12の内部にピストン14が往復動可能に配置されている。ピストン頂面16には、キャビティ18が設けられ、ピストン頂面16の上方には燃焼室bが形成されている。ピストン14の上方領域の外周面には、3箇所にリング状溝が設けられ、該リング状溝に3個のピストンリング19a〜cが装着されている。シリンダ12の上方には、シリンダヘッド20が設けられ、シリンダヘッド20には、吸気ポート22及び排気ポート24が設けられている。
【0025】
吸気ポート22が燃焼室bに接続する部分に吸気弁26が設けられ、排気ポート24が燃焼室bに接続する部分に2個の排気弁28が設けられている。シリンダヘッド20の中央部には、燃焼室bに突出して点火プラグ30が設けられている。シリンダヘッド20の吸気ポート22側周縁部に、ノズル先端が斜め下方のキャビティ18に向けて、インジェクタ32が装着されている。
【0026】
インジェクタ32からキャビティ18の排気弁側領域に向けて、液体燃料(ガソリン)fが噴射される。圧縮行程後半の時点で、液体燃料がキャビティ18の排気弁側ピストン頂面及びシリンダ壁面に向けて噴射される。キャビティ18内に噴射された液体燃料は、キャビティ18の底壁18aと、インジェクタ32に対して対向配置された対向側壁18bとに沿って進行する。
【0027】
図2に示すように、対向側壁18bは、平面視において円弧形状を有する。液体燃料の噴射流fは、底壁18aで幅方向に扇形に広がり、ピストン頂面16から吸熱して気化する。次に、対向側壁18b上を進行する際に、対向側壁18bの平面視円弧形状によって、対向側壁18bの中央部へ集合する。こうして、対向側壁18bの中央部上方に位置する点火プラグ30近傍に、可燃混合気を形成できる。
【0028】
図2に示すように、シリンダブロック12にはシリンダボア12aが3個設けられ、シリンダボア12aの周囲に、冷却水ジャケット34及び36が設けられている。冷却水ジャケット34、36は、シリンダボア12aの形状に沿い、シリンダボア12aから等間隔に円弧形状に形成されている。インジェクタ32側に設けられた冷却水ジャケット34は、シリンダブロック12の表面から下方へ深く設けられ、排気弁28側に設けられた冷却水ジャケット36は、冷却水ジャケット34よりシリンダブロック12の表面から下方へ浅く設けられている。冷却水ジャケット34及び36の断面積は同一であり、従って、冷却水ジャケット34の容積を冷却水ジャケット34の容積より大きくしている。冷却水ジャケット34、36の境界では、冷却水ジャケット34、36の底面同士が傾斜面38で繋がっている。
【0029】
冷却水は、水通路40から冷却水ジャケット34、36を通り、シリンダヘッド20へ流通している。本実施形態では、排気弁28側の冷却水ジャケット36の容積を、インジェクタ32側冷却水ジャケット34の容積より小さくしているので、冷却水ジャケット36の冷却性能は冷却水ジャケット34の冷却性能より低下している。そのため、排気弁側ピストン頂面16及びシリンダ壁面が高温状態となっている。インジェクタ32から噴射流された液体燃料は、排気弁側のピストン頂面及びシリンダ壁面に当るため、噴射された液体燃料の気化が促進される。そのため、かかる状態で燃焼が起こると、粒子状物質やスモークの発生を抑制できる。
【0030】
(実施形態2)
次に、本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第2実施形態を図3によって説明する。本実施形態の筒内直噴式火花点火ガソリン機関10Bは、冷却水ジャケット34及び36を、シリンダブロック表面からの深さが同一となるように形成している。冷却水ジャケット34、36の断面積は、上方領域では同一とするが、冷却水ジャケット36の先端部36aの断面積を上方領域より小さく形成している。これによって、冷却水ジャケット36の冷却性能を冷却水ジャケット34の冷却性能より低下させている。その他の構成は前記第1実施形態と同一である。
【0031】
本実施形態によれば、冷却水ジャケット36の深さを浅くせず、冷却水ジャケット34と同一深さとしたことで、シリンダブロック12の冷却領域を同一とすることができる。一方、液体燃料噴射時点でのピストン位置で、ピストン頂面16から下方の冷却水ジャケット36の断面積を小さくして、ピストン頂面下方の冷却性能を抑えることができる。これによって、ピストン頂面16の高温状態を維持できるので、排気弁側ピストン頂面16に当る液体燃料の気化率を向上できる。
【0032】
(実施形態3)
次に、本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第3実施形態を図4によって説明する。本実施形態の筒内直噴式火花点火ガソリン機関10Cは、排気弁28側に設けられた冷却水ジャケット44の深さを特に既定したものである。即ち、冷却水ジャケット44の深さを、液体燃料噴射時に、ピストンリング19a〜cのうち、最上部に位置するピストンリング19aにまで達しない深さとしている。なお、冷却水ジャケット34及び44の断面積は同一とする。その他の構成は前記第1実施形態と同一である。
【0033】
本実施形態によれば、排気弁側冷却水ジャケット44の深さを前述のように既定したことにより、燃料噴射時点でのピストンリング19a〜cの冷却効果を抑えることができる。そのため、ピストン頂面付近の熱がピストンリング19a〜cを介してシリンダブロック12に逃げるのを抑制できる。これによって、ピストン頂面16を高温状態にできるので、液体燃料の気化効率を向上できる。
【0034】
(実施形態4)
次に、本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第4実施形態を図5によって説明する。本実施形態の筒内直噴式火花点火ガソリン機関10Dは、排気弁側冷却水ジャケット46を前記第3実施形態よりさらに浅く形成したものである。即ち、冷却水ジャケット46の底を、液体燃料噴射時のピストン頂面16より上方に配置したものである。その他の構成は前記第1実施形態と同一である。
【0035】
本実施形態によれば、燃料噴射時、冷却水ジャケット46の設置位置がピストン頂面16に達していないので、冷却水ジャケット46の冷却効果がピストン頂面16にまで及ばない。そのため、燃料噴射時点で、ピストン頂面16を高温状態に保持できるので、第3実施形態と比べて、液体燃料の気化率をさらに向上できる。
【0036】
(実施形態5)
次に、本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第5実施形態を図6によって説明する。本実施形態の筒内直噴式火花点火ガソリン機関10Eは、冷却水ジャケット34のうち、シリンダボア12a間の領域48を、インジェクタ32側の冷却水ジャケット34と同一の深さに形成したものである。この底深領域48は、インジェクタ32から噴射された液体燃料の噴射流fの噴射角θの外側に位置する領域である。その他の領域の冷却水ジャケット36の深さは、前記第1実施形態と同様に、冷却水ジャケット34より浅く形成されている。冷却水ジャケット36以外の構成は、前記第1実施形態と同一である。
【0037】
本実施形態において、冷却水ジャケット36の幅寸法は冷却水ジャケット34と同一であり、底深領域48の深さは冷却水ジャケット34と同一であるので、底深領域48の容積は冷却水ジャケット34と同一となる。従って、底深領域48の冷却効果は、冷却水ジャケット34と同一となる。本実施形態によれば、第1実施形態と同様に液体燃料の気化率を高く維持しながら、シリンダボア間の底深領域48の冷却性能を高くすることができる。そのため、液体燃料の気化率を高く維持しながら、特に高温となりやすいシリンダボア間領域の冷却効果を良好に維持できる。これによって、排気中の粒子状物質やスモークの発生を抑制できる。
【0038】
(実施形態6)
次に、本発明を筒内直噴式火花点火ガソリン機関に適用した第6実施形態を図7によって説明する。本実施形態の筒内直噴式火花点火ガソリン機関10Fは、燃料噴射時に液体燃料が当るキャビティ18の対向側壁18bに、例えばチタン、銅、金、銀のような、熱伝導率が小さい低熱伝導部材からなる被覆層50を形成させたものである。ピストン14はアルミニウムで製造されている。被覆層50はアルミニウムより熱伝導率が小さい材質を用いる。その他の構成は前記第1実施形態と同一である。
【0039】
対向側壁18bに被覆層50を形成したことにより、ピストン頂面16に燃焼室bの保有熱を蓄積できる。そのため、対向側壁18bに噴射された液体燃料の気化率を向上できる。本実施形態によれば、冷却水ジャケット46による冷却性能低減効果に加えて、熱伝導率が小さい被覆層50を形成したことによる熱保有効果により、液体燃料を速やかに気化できる。これによって、燃焼後の排気に発生する粒子状物質やスモークの発生を効果的に低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、筒内直噴式火花点火内燃機関で、低コストな手段で、排気中の粒子状物質やスモークの発生を低減できる。
【符号の説明】
【0041】
10A、10B、10C、10D、10E、10F、100 筒内直噴式火花点火ガソリン機関
12 シリンダブロック
12a シリンダボア
14,104,200 ピストン
16,104a、204 ピストン頂面
18,204a キャビティ
18a 底壁
18b 対向側壁
19a〜c ピストンリング
20,106 シリンダヘッド
22 吸気ポート
24 排気ポート
26,112 吸気弁
28、114 排気弁
30,117 点火プラグ
32,116 インジェクタ(燃料噴射弁)
34,36、42,44,46 冷却水ジャケット
38 傾斜面
40 水通路
42a 先端部
48 底深領域
50 被覆層
102 シリンダ
108 吸気管
110 排気管
118 燃料タンク
120 フィードポンプ
122 燃料供給管
124 高圧ポンプ
126 デリバリパイプ
128 排気浄化触媒
202 ピストン本体
206 凹部
208 低熱伝導部材
b 燃焼室
f 噴射流
θ 噴射角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ壁内に冷却水ジャケットが設けられ、液体燃料を燃焼室内に直接噴射し、この噴射燃料をピストン頂面に衝突させて気化させ、高濃度の混合気を点火プラグ近傍へ導くようにした筒内直噴式火花点火内燃機関において、
液体燃料が当る側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットの容積を、燃料噴射弁が設けられた側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットより低減させ、液体燃料が当る側のピストン頂面及びシリンダ内面を燃料噴射弁設置側のピストン頂面及びシリンダ内面より高温に維持し、該液体燃料の気化率を増大させるように構成したことを特徴とする筒内直噴式火花点火内燃機関。
【請求項2】
前記燃料噴射弁が吸気弁設置側のシリンダヘッド周縁部に設けられ、前記液体燃料が当る側のシリンダヘッドに排気弁が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の筒内直噴式火花点火内燃機関。
【請求項3】
前記液体燃料が当る側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットが、燃料噴射時点でピストンリングの高さより上方に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の筒内直噴式火花点火内燃機関。
【請求項4】
前記液体燃料が当る側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットが、燃料噴射時点でピストン頂面の高さより上方に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の筒内直噴式火花点火内燃機関。
【請求項5】
シリンダブロックに複数のシリンダボアが隣接配置され、前記液体燃料が当る側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットの容積を、前記燃料噴射弁から噴射される液体燃料の噴射方向から外れたシリンダボア間の領域で、前記燃料噴射弁が設けられた側のシリンダ壁内に設けられた冷却水ジャケットの容積と同等にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の筒内直噴式火花点火内燃機関。
【請求項6】
液体燃料が当る領域のピストン頂面に、ピストン本体を構成する材料より熱伝導性が悪い材料からなる被覆層を形成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の筒内直噴式火花点火内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−241605(P2012−241605A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112052(P2011−112052)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】