説明

筒状金型の製造方法

【課題】低コストでしかも高精度な内面を有する筒状金型の製造方法を提供する。
【解決手段】筒状金型を形成するに際し、鋳鉄製パイプ8の内面8bを機械加工したあと、鋳鉄製パイプ8の内面8bにメッキを施し、その後、研削加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ローラの成形等に用いられる筒状金型を製造する方法に関し、特に、安価でかつ高精度な成形が可能な金型を製造するものに関する。
【背景技術】
【0002】
金型を用いて、芯金の周囲に弾性層を配置してなる導電性ローラを成形する場合、図1に断面図で示すような筒状部よりなる金型10を準備して芯金16をこの金型10の半径方向内側に配置したあと、樹脂製のキャップ11、12で金型10の両端を閉止するとともに、芯金16の両端をキャップ11、12を介して金型10に固定し、次いで、キャップ11に形成されている注入口13から、弾性層となる材料をキャビティ15内に注入して加熱し固化させる。このとき、キャビティ内のエアは、キャップ12に形成されているベント穴14から排出される。
【0003】
弾性層17の外周面の精度は導電性ローラの品質において極めて重要であり、そのためには、以上に説明した製造方法から明らかなように、弾性層17の外周面に転写される金型の内面10aの精度を向上させることは重要な課題である。
【0004】
従来、上記のような導電性ローラ用の金型10を製造するための方法として、主に2つの方法が実施されており、第1の方法は、棒状鋼材をガンドリルを用いて穴あけ加工する方法であり(例えば、特許文献1参照。)、第2の方法は、配管などに用いられる引抜鋼管を用いる方法である(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−12020号公報
【特許文献1】特開平6−269842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、第1の方法は、ガンドリルを用いたことによって同軸度がφ0.01mmの内面を得ることができるが、加工時間が膨大なものとなり、その結果、金型を製作する際のコストが極めて高くなってしまうという問題がある。また、第2の方法は、引抜鋼管を用いるのでコストは安いが、引抜鋼管の製作の際の曲矯正工程で内面にうねりが発生しており、このうねりを除去するためにホーニング仕上げを行っているが、通常のホーニング仕上げでは、このうねりを効果的に取ることは難しく、同軸度がφ0.03mm程度の内面しか得ることができないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、低コストでしかも高精度な筒状金型の製造方法を提供することを目的とし、具体的には、第1の方法と同程度の同軸度の内面を形成することができ、しかも、第2の方法と同程度のコストで製作できることのできる筒状金型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1>は、鋳鉄製パイプの内面を機械加工したあと、前記鋳鉄製パイプ内面にメッキを施し、その後、研削加工することを特徴とする筒状金型の製造方法である。
【0009】
<2>は、<1>において、完成した前記筒状金型の内径を第1の径とし、前記メッキ施工後の内径を第2の径として、前記研削加工を行うに際し、第2の径を有するフロントガイド部と、周方向に間隔をおいて砥粒が配設された砥石部と、第1の径を有するバックガイド部とが先端から順に軸方向に並べられたホーニングツールの先端を、前記鋳鉄製パイプの半径方向内側の一端に差し込んだあと、該ホーニングツールを軸方向他端まで前進させることにより、前記筒状部内面を加工することを特徴とする筒状金型の製造方法である。
【0010】
<3>は、<2>において、前記研削加工を行うに際し、前記鋳鉄製パイプの半径方向内側の他端から一端に向かって潤滑液を流動させることを特徴とする筒状金型の製造方法である。
【0011】
<4>は、<1>〜<3>のいずれかにおいて、前記メッキの厚さを20μm以上とする筒状金型の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
<1>によれば、前記筒状部の主材料として加工しやすい鋳鉄製パイプを用いるので、加工時間を短くして加工コストを低減することができ、しかも、鋳鉄材料を用いた場合、機械加工後に空洞部分となっていた巣が内側表面に表出してしまうという現象を、内側表面にメッキを施することにより解消することができ、さらに、メッキ処理後に研削加工を行うことにより、メッキ処理の際、巣に対応するメッキ部分に生じた突起を無くして滑らかな表面にすることができる。
【0013】
<2>によれば、前記研削加工を行うに際し、第2の径を有するフロントガイド部と、周方向に間隔をおいて砥粒が配置された砥石部と、第1の径を有するバックガイド部とが先端から順に軸方向に並べられたホーニングツールの先端を、前記鋳鉄製パイプの半径方向内側の一端に差し込んだあと、該ホーニングツールを軸方向他端まで前進させることにより、前記筒状部内面を加工するので、メッキ後の表面を精度良くホーニング加工することができる。
【0014】
<3>によれば、前記研削加工に際して、前記鋳鉄製パイプの半径方向内側の他端から一端に向かって潤滑液を流動させるので、加工により発生した切り粉の目詰まりを防止することができ、これによって軸方向長さの長い金型であってもこれを問題なくホーニング加工することができる。
【0015】
<4>によれば、前記メッキの厚さを20μm以上としたので、巣の大きさが通常の10μmであれば、巣によって形成された凹部を完全に覆うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】導電性ローラを形成するのに用いられる筒状金型を示す断面図である。
【図2】筒状金型の製造方法における製造工程を説明するための、筒状金型の変化を示す断面図である。
【図3】筒状金型加工機を模式的に示す断面図である。
【図4】筒状金型加工機を構成するホーニングツールを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る実施形態の筒状金型の製造方法を、図を参照して説明する。図2(a)〜(d)は、導電性ローラを成形用の筒状金型を例にして、筒状金型の製造工程における、筒状金型の変化を示す断面図であり、図中、8は筒状金型の材料である鋳鉄製パイプを、8aは、鋳鉄製パイプの外周面を、8bは、鋳鉄製パイプの内周面を、それぞれ表す。
【0018】
この製造方法においては、まず、図2(a)に示すような鋳鉄製パイプ8を準備し、次いで、鋳鉄製パイプ8の内面8bを旋盤等を用いて、図2(b)に示すよう機械加工する。このとき、金型10の内面の仕上がり径をD1とすると、機械加工の仕上がり径は、D1より大きいD0とする。次いで、このとき、パイプ8は鋳鉄製であるので、内部に隠れていた鋳造時の巣が凹部26となって露出する可能性がある。ここで、鋳鉄製パイプ8の外面8aも、鋳放しの面なので、内面8bの機械加工に前後して粗加工をしておくのがよい。
【0019】
次いで、機械加工した面8bの上に(内周側に)メッキ9を施す。メッキ9の厚さは、これが薄ければ、凹部26に対応する部分のメッキ9の表面は、凹部26の影響によって凹んでしまうので、所定の厚さ以上が必要である。メッキ9の厚さは、凹部26の深さの2倍以上とするのが好ましく、凹部26の深さを一般的な10μmとすると、メッキ厚さを20μmとするのが好ましい。また、メッキの厚さは、メッキの表面における内径が、仕上がり径D1より小さいD2とすることも考慮して設定する必要がある。
【0020】
このとき、メッキ9の、凹部26に対応した表面には、図2(c)に示すように、突起27ができる。メッキ後、この突起27を削り落とすため、併せて、金型10の内面を所定の内径寸法D1にするため、図2(d)に示すように、研削加工を施す。
【0021】
研削加工の際、メッキ9が鋳鉄製パイプ8と剥離することがあり、これを防止するためには、メッキ処理をする前の酸洗いといわれる前処理を標準よりも強めに又多めに行うのが好ましい。また、メッキ9と鋳鉄製パイプ8との剥離を防止するためには、通常の無電解ニッケルメッキよりもボロン添加タイプの無電解ニッケルメッキを用いるのが好ましい。
【0022】
研削加工にはワンパスホーニングと言われる方法を用いると仕上がり精度を高めることができ好ましい。以下にワンパスホーニングを用いた方法について説明する。図3は、ワンパスホーニングの方法に用いられる筒状金型加工機を模式的に示す断面図であり、筒状金型加工機20は、金型10の内面10aをワンパスホーニング加工するホーニングツール1と、ホーニングツール1に軸方向の微振動を与えつつ回転させながら軸方向他端まで前進させるツール駆動装置40と、潤滑液35を収容する密閉タンク31と、金型10の一端10bを上にして潤滑液に浸漬される金型の他端10cを支持するストッパ治具32と、金型10の一端10bの、軸方向と直交する方向の変位を抑制する金型上端固定治具と、潤滑液35を加圧して密閉タンク31に送り込む加圧ポンプ(図示せず)と、を具えて構成される。
【0023】
以下の説明において、金型10の内面の仕上がり時の直径D1を第1の径と呼び、金型10がワンパスホーニング加工される前の内径、すなわち、メッキ後の内径を第2の径D2と呼ぶこととする。ホーニングツール1は、第2の径D2を有するフロントガイド部2と、周方向に間隔をおいて砥粒7が電着された砥石部3と、第1の径D1を有するバックガイド部4とが先端から順に軸方向に並べて構成される。
【0024】
図4(a)、(b)、(c)は、3種類のホーニングツール1a、1b、1cを例示する側面図であり、いずれの例においても、軸方向後端側に第1の径D1を有するバックガイド部4が配置され、それらの間に砥石部3が設けられていている。砥石部3に電着される砥粒7はいずれも周方向に間隔をおいて配置されているが、その配置パターンが図4(a)、(b)、(c)で異なっていて、図4(a)に示したものは、砥粒7を軸方向にストレートに配置したもの、図4(b)に示したものは、砥粒7をらせん状に配置したもの、また、図4(c)に示したものは、ストレート配置であるが、軸方向に2段に分かれて配置されている。
【0025】
また、ツール駆動装置40は、ホーニングツール1の中心軸線に回転中心を合致させて取り付けられる駆動軸5を、回転させる回転駆動部41と、せながら軸方向に往復駆動する駆動部41と、駆動軸5を軸方向に加振する加振手段42と、回転駆動部41および加振手段42を支持する支持プレート49を、駆動軸5の回転と同期させて上下させる上下駆動部(図示せず)とを具え、ツール駆動装置40は、この構成により、ホーニングツール1に軸方向の微振動を与えつつ回転させながら金型10の軸方向一端から他端まで前進後退させることができるようになっている。
【0026】
加振手段42は、例えば、回転するカム43と、ストッパ45によって回転を規制されるとともに軸方向の移動を許容されたカムフォロア44と、カムフォロア46をいつも上に引き上げるバネ46を具えて構成することができ、この場合、カムフォロア44と駆動軸5とを、相互の回転を許容し、軸方向の相対変位を拘束するような形態で連結することにより、カム43が回転するのに伴って、カムフォロア44はバネ46の力によって引っ張られて上下に振動し、その結果、カムフォロア44に上下方向の変位を拘束された駆動軸5を上下に振動させることができる。
【0027】
ツール駆動装置40に関して重要な点は、ツール駆動装置におけるホーニングツール回転中心と、金型上端固定治具の軸中心との同軸度を小さく抑えることであり、好ましくは、これをφ0.01mm以下とすることにより、金型の内面10aの同軸度を0.01mm以内に収めることができる。
【0028】
ここで、ストッパ治具32を、金型10を内側に収容する筒状部材で構成し、筒状部材の上部に、密閉タンク31の上蓋に気密に取り付けられる取付部36を配設し、筒状部材の下部に、金型10の他端10cの端面を支持する下端支持部37を設ければ、ストッパ治具32を簡易に構成することができ、このとき、筒状部材の長さ方向中央部に、潤滑液を筒の内外に連通させる開口部38を形成することにより、潤滑液をタンク31内で対流させることにより、金型10を冷却することができ好ましい。
【0029】
また、取付部36のさらに上側には、金型上端10bを半径方向内側に嵌合させて支持するリング支持部39を設けてパイプ部材30の上端を固定する固定治具とすることが好ましく、これによって、金型上部の中心軸の変位を抑えるとともに、半径方向内側に加える力を周方向で均一にすることができる。ここで、リング支持部39として、周方向に切り込みが4つ以上あるコレットチャックを用いることができる。これにより、例えば、スクロールチャックのように周方向3カ所で中心の位置を決める手段に対比して、金型を多角形的に変形させることがない。なお、図3において、符号33は、コレットチャックを締める締め付けリングを表す。
【0030】
そして、加圧ポンプから供給される潤滑液35を液槽31に流入させるための潤滑液流入口21を液槽31の側面に取付けるのが好ましい。
【0031】
また、パイプ部材30の一端30bから噴出する潤滑液35aを回収する回収タンク(図示なし)を設け、加圧ポンプを、この回収タンクの潤滑液を吸い込んで加圧するように構成し、潤滑液経路の、加圧ポンプの前又は後に潤滑液を冷却するクーラー(図示なし)を配設することにより、潤滑液を循環利用することができ、しかも、その際の潤滑液を昇温を抑えることができる。その際、回収タンク内には、切り粉を吸着させる磁石を配設して、切り粉23が潤滑油に混ざらないようにするのが好ましい。
【0032】
このような筒状金型加工機20を用いて、金型をホーニング加工するには、次のようにする。すなわち、ホーニングツール1の先端を、第2の径D2の内径を有するメッキ処理後の鋳鉄製パイプ8の内側の一端に差し込んだあと、ツール駆動装置40を駆動させて、ホーニングツール1に軸方向の微振動を与えつつこれを回転させながら金型10の軸方向他端まで前進させればよく、これによって高精度の内面ホーニングを行うことができる。
【0033】
この加工において、例えば加圧ポンプを作動させて、パイプ8の内側の他端から一端に向かって潤滑液35を流動させることにより、長さの長いパイプ8の加工が可能となる。すなわち、パイプ8の長さが、本発明が対象としている200mmを越えるものになると、単にホーニングツール1に潤滑油を注ぐだけでは、切り粉が十分に排出できず最後まで加工することができないので、パイプ8の内側の他端から一端に向かって潤滑液35を流動させることは重要である。
【符号の説明】
【0034】
1、1a、1b、1c ホーニングツール
2 フロントガイド部
3 砥石部
4 バックガイド部
5 駆動軸
7 砥粒
8 鋳鉄製パイプ
8a 鋳鉄製パイプの外面
8b 鋳鉄製パイプの内面
9 メッキ
10 金型
10a 金型の内面
11、12 キャップ
13 注入口
14 ベント穴
15 キャビティ
17 弾性層
20 筒状金型加工機
21 潤滑液流入口
25 巣
26 凹部
27 突起
31 密閉タンク
32 ストッパ治具
33 締め付けリング
35、35a 潤滑液
36 ストッパ治具の取付部
37 ストッパ治具の下端支持部
38 ストッパ治具の開口部
40 ツール駆動装置
41 回転駆動部
42 加振手段
43 カム
44 カムフォロア
45 ストッパ
46 バネ
49 支持プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄製パイプの内面を機械加工したあと、前記鋳鉄製パイプ内面にメッキを施し、その後、研削加工することを特徴とする筒状金型の製造方法。
【請求項2】
完成した前記筒状金型の内径を第1の径とし、前記メッキ施工後の内径を第2の径として、前記研削加工を行うに際し、第2の径を有するフロントガイド部と、周方向に間隔をおいて砥粒が配設された砥石部と、第1の径を有するバックガイド部とが先端から順に軸方向に並べられたホーニングツールの先端を、前記鋳鉄製パイプの半径方向内側の一端に差し込んだあと、該ホーニングツールを軸方向他端まで前進させることにより、前記筒状部内面を加工することを特徴とする請求項1に記載の筒状金型の製造方法。
【請求項3】
前記研削加工を行うに際し、前記鋳鉄製パイプの半径方向内側の他端から一端に向かって潤滑液を流動させることを特徴とする請求項2に記載の筒状金型の製造方法。
【請求項4】
前記メッキの厚さを20μm以上とする請求項1〜3のいずれかに記載の筒状金型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−84002(P2011−84002A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239565(P2009−239565)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(505060495)株式会社伸和製作所 (2)
【Fターム(参考)】