説明

管状体の内径加工装置および方法

【課題】ラッピングワイヤの断線を生ずることなく、高精度に内径を加工できる内径加工装置および方法を提供する。
【解決手段】互いに離間配置されたテンション装置12、13間に懸架されたラッピングワイヤ14と、このラッピングワイヤ14が挿通される管状体24を保持し、前記ラッピングワイヤ14の周りに回転させる回転チャック21と、この回転チャック21を前記ラッピングワイヤ14に沿って微小振動させる加振機20と、この加振機20とともに前記回転チャック21を載置し、前記ラッピングワイヤ14に沿って一方向に移動する加工テーブル15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラッピングワイヤを用いて微小な管状体の内径を高精度に加工する装置に関し、特に光ファイバーを接続するために用いられるフェルールの内径加工装置および加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光ファイバー接続用のフェルールは、たとえば外径が2.5mm、内径が0.125mm、長さが10.5mmのセラミックス製の管状体部品である。このフェルールは、特にシングルモード光ファイバーの接続においては接続される光ファイバーの端面を高い精度で合致させる必要があるため、その中心孔の加工においては孔径およびその真円度に高い精度が要求される。
【0003】
従来このようなフェルールの内径の加工装置として、ラッピングワイヤを用いた加工装置が知られている(特許文献1参照)。このワイヤ式内径加工装置は、円筒状のホルダー内に複数個のフェルールを半田等により固定収納し、これらのフェルールの中心孔を長さが約20mのテーパー状のラッピングワイヤを通過させる。そして円筒状のホルダーをラッピングワイヤの周りに回転させ、ダイヤモンド砥粒がその表面に供給されるラッピングワイヤをフェルールの中心孔を通して移動させることにより、内径が研磨加工される(特許文献1参照)。ダイヤモンド砥粒は通常潤滑油に混ぜてスラリーとして供給される遊離砥粒が用いられるが、最近では、ラッピングワイヤにニッケルコーティングを施したダイヤモンド砥粒をメッキにより固定した固定砥粒も開発されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−113523号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記、従来のフェルールの内径加工装置においては、次のような不具合がある。すなわち、遊離砥粒を用いた場合、スラリー中の油がフェルールの内径に付着して汚染し、光ファイバーの光伝送に障害となる怖れがあった。また、砥粒がフェルールの微細な孔内に付着して、内径の計測を不可能とし、その結果均一な内径が得られないという問題があった。さらに、微細な孔径のため、内部に付着した砥粒の除去も困難であった。
【0006】
固定砥粒の採用は上記のような遊離砥粒の使用における問題点は解決できるが、ラッピングワイヤがフェルールの内径に食い込み、ホルダーの回転によりねじれが生じ、ワイヤが断線するという問題を生じた。このような問題は、ラッピングワイヤのテーパーを小さくすることによりある程度解決されるが、ワイヤの全長が長くなり、自動化が困難になるという問題もあった。
【0007】
したがって、本発明は上記のような従来の遊離砥粒あるいは固定砥粒を用いた内径加工装置の問題点を解決し、ラッピングワイヤの断線を生ずることなく、高精度に内径を加工できる内径加工装置および方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の管状体の内径加工装置は、互いに離間した2点間に張架されたラッピングワイヤと、このラッピングワイヤが挿通される管状体を保持し前記ラッピングワイヤの周りに回転させる手段と、この回転手段を前記ラッピングワイヤに沿って相対的に移動する手段と、この手段による相対的な移動とともに、前記管状体を前記ラッピングワイヤに沿って相対的に微小振幅で振動させる手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の管状体の内径加工装置は、互いに離間配置されたテンション装置間に張架されたラッピングワイヤと、このラッピングワイヤが挿通される管状体を保持し前記ラッピングワイヤの周りに回転させる回転チャックと、この回転チャックを前記ラッピングワイヤに沿って微小振動させる加振機と、この加振機とともに前記回転チャックを載置し、前記ラッピングワイヤに沿って移動する加工テーブルとを備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、上記本発明の管状体の内径加工装置においては、前記ラッピングワイヤは、固定砥粒型のワイヤであることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、上記本発明の管状体の内径加工装置においては、前記ラッピングワイヤは、一端から他端に向かってテーパー状に形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、上記本発明の管状体の内径加工装置においては、前記振動の振幅は0.1乃至5mmであり、振動の周波数は40乃至200Hzであることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の管状体の内径加工装置は、テンション装置間に張架されたラッピングワイヤと、このラッピングワイヤが挿通される管状体を保持し前記ラッピングワイヤの周りに回転させる回転ローラとを備え、前記テンション装置を前記ラッピングワイヤに沿って移動するとともに、微小振動させることを特徴とするものである。
【0014】
また、上記本発明の管状体の内径加工装置においては、前記ラッピングワイヤは、固定砥粒型のワイヤであることを特徴とするものである。
【0015】
さらに、上記本発明の管状体の内径加工装置においては、前記ラッピングワイヤは、一端から他端に向かってテーパー状に形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、上記本発明の管状体の内径加工装置においては、前記振動の振幅は0.1乃至5mmであり、振動の周波数は40乃至200Hzであることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の管状体の内径加工方法は、ラッピングワイヤが挿通される管状体を前記ラッピングワイヤの周りに回転させるとともに、この管状体を前記ラッピングワイヤに対して相対的に一方向に移動する手段と、この相対的な移動の際に、前記管状体を前記ラッピングワイヤに沿って相対的に微小振動する手段とを備えることを特徴とするものである。
【0018】
また、上記本発明の管状体の内径加工方法においては、前記ラッピングワイヤは、固定砥粒型のワイヤであることを特徴とするものである。
【0019】
さらに、上記本発明の管状体の内径加工方法においては、前記ラッピングワイヤは、一端から他端に向かってテーパー状に形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の管状体の内径加工装置の実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の管状体の内径加工装置の側面図、図2はその正面図である。
【0021】
図1に示すように、基台11上の離間した位置に一対のテンション装置12、13が対向配置されており、その間にラッピングワイヤ14が所定のテンションを以って緊張懸架されている。基台11上にはまた、この基台11上でラッピングワイヤ14に沿って移動可能に設けられた加工テーブル15が設けられている。この加工テーブル15は、基台11上に設置された加工テーブル送りねじ16とこれに螺合し加工テーブル15の下面に固定された加工テーブル送りナット17により移動される。
【0022】
次に、加工テーブル15上には、断面がL字型の振動テーブル18が設置されている。この振動テーブル18は、同じく加工テーブル15上に固定されたテーブル支持台19上に、ラッピングワイヤ14に沿って振動可能に支持されている。この振動テーブル18は、同じく加工テーブル15上に固定された電磁加振機20により、微小振動される。この場合の振動の振幅は0.1〜5mmの範囲の任意の値に選定され、振動の周波数は40〜200Hzの範囲の任意の値に選定される。
【0023】
振動テーブル18上には、円筒状の回転チャック21がラッピングワイヤ14の周囲で回転可能に設置されている。この回転チャック21は、同じく加工テーブル15上に固定された回転チャック駆動モータ22により、ベルト23を介して回転される。この回転速度は例えば、毎分100,000回転である。
【0024】
円筒状の回転チャック21はその中空部内には、被加工物であるフェルール24が挿入されている。このフェルール24は、図3に示されるように、たとえば、外径が2.5mm、内径が0.125mm、長さが10.5mmのセラミックス製の管状体部品である。
【0025】
このフェルール24は、円筒状の回転チャック21の中空部内に挿入され、回転チャック21の回転とともに回転するように固定される。ラッピングワイヤ14は回転チャック21の中空部内に挿入されたフェルール24の中空部を通過し、さらに、断面がL字型の振動テーブル18の垂直な壁面に形成された孔(図示せず)を通過してテンション装置13にその一端が固定されている。
【0026】
図4はラッピングワイヤ14の形状を示す一部切欠側面図である。ラッピングワイヤ14は全長が例えば100〜1000mmで、始端14−1から終端14−2に向かってその直径が徐々に細くなる、いわゆるテーパー状になっている。図1に示される一対のテンション装置12側の始端14−1から約20mmの長さの範囲においてはその直径は一定であり、加工すべきフェルール24の内径に等しく、例えば、125μmである。また、テンション装置13側の終端14−2の直径は例えば90μmである。さらに、このラッピングワイヤ14の表面には図示しないが、ニッケルコーティングされたダイヤモンド砥粒がメッキにより固着されている。
【0027】
このように構成された内径加工装置の動作について説明する。フェルール24が挿入固定された回転チャック21は回転チャック駆動モータ22により回転され、同時に、振動テーブル18は電磁加振機20により振動される。この状態において、加工テーブル15が図1に示されるテンション装置13側の位置からテンション装置12側に向かって、加工テーブル送りねじ16の回転により移動される。これによって、フェルール24が挿入固定された回転チャック21は、ラッピングワイヤ14に沿って移動し、フェルール24の内径はラッピングワイヤ14の表面に固着された砥粒により研磨される。加工テーブル15がテンション装置13側に移動するとともに、ラッピングワイヤ14の直径が大きくなり、ラッピングワイヤ14はフェルール24の中空穴内に圧入される。このとき、振動テーブル18により回転チャック21がラッピングワイヤ14に沿って高速に振動するため、ラッピングワイヤ14はフェルール24の中空穴内に食い込むことなく、円滑に通過することができる。このように上記のような構造の加工装置を用いることにより、固定砥粒型のラッピングワイヤを用いても、ワイヤの断線を生ずることなく、フェルール24の内径加工が可能である。また、固定砥粒型のラッピングワイヤを用いたセラミックフェルールの内径加工においては、フェルールの内径にスラリー等が付着しないため、光学系を汚染することがなく、高精度の内径加工ができる。
【0028】
また、回転チャック21をラッピングワイヤ14に沿って高速に振動することにより、ラッピングワイヤ14の長さを短くしてテーパーの傾きを大きくしてもラッピングワイヤ14がフェルール24の回転とともに回転してねじれることがなく円滑に通過できる。したがって、ラッピングワイヤ14の長さを短くでき、装置を小型化できるとともに、装置の自動化が容易になる。
【0029】
本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0030】
例えば、上記の実施形態においては、ラッピングワイヤ14の位置を固定して、フェルール24が挿入固定された回転チャック21を加工テーブル15により移動したが、加工テーブル15を固定してラッピングワイヤ14を移動させてもよい。また、ラッピングワイヤ14の位置を固定して、フェルール24が挿入固定された回転チャック21を振動テーブル18に載置しこれを電磁加振機20により振動させたが、同様に、フェルール24が挿入固定された回転チャック21を固定配置し、ラッピングワイヤ14を振動させてもよい。
【0031】
図5はフェルール24に対してラッピングワイヤ14を振動させる内径加工装置の実施形態を示す概略構成図である。ラッピングワイヤ14は複数個のフェルール24の中空部を貫通して、その両端がコ字型のテンション装置31に支持される。このテンション装置31は、矢印32で示されるように、ラッピングワイヤ14に沿って高速に微小振動するとともに、全体として矢印33で示す方向に移動する。このとき、フェルール24はそれらの両側に接触して同じ方向に回転する駆動ローラ34、35により、支持板36上で回転される。なお、この実施形態においては、フェルール24に対してテンション装置31を矢印33で示す方向に移動したが、フェルール24および駆動ローラ34、35を図1に示す実施形態と同様に、加工テーブル上に一体に設置して、この加工テーブルをラッピングワイヤ14に沿って矢印33と反対の向きに移動してもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、ラッピングワイヤ14としてテーパーつきのワイヤを用いたが、必ずしもテーパー付でなくても用いることができる。さらに、上記実施形態では、ラッピングワイヤ14として固定砥粒型のワイヤを用いたが、従来から用いられている遊離砥粒型のワイヤを用いても円滑な加工が可能である。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の内径加工装置および加工方法によれば、ラッピングワイヤが管状体の内径に食い込むことなく、円滑な加工ができる。特に、固定砥粒型のラッピングワイヤを用いたセラミックフェルールの内径加工においては、フェルールの内径にスラリー等が付着しないため、光学系を汚染することがなく、高精度の内径加工ができる。
【0034】
また、本発明の内径加工装置および加工方法によれば、ラッピングワイヤ14の長さを短くできるため、装置を小型化できるとともに、装置の自動化が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る管状体の内径加工装置の構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る管状体の内径加工装置の構成を示す正面図である。
【図3】本発明の実施形態に使用されるセラミックフェルールの一例を示す側面図である。
【図4】本発明の実施形態に使用されるラッピングワイヤの一例を示す側面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る管状体の内径加工装置の概略構成を示す側面図である。
【符号の説明】
11……基台
12……第1のテンション装置
13……第2のテンション装置
14……ラッピングワイヤ
15……加工テーブル
16……加工テーブル送りねじ
17……加工テーブル送りナット
18……振動テーブル
19……テーブル支持台
20……電磁加振機
21……回転チャック
22……回転チャック駆動モータ
23……ベルト
24……フェルール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間した2点間に張架されたラッピングワイヤと、このラッピングワイヤが挿通される管状体を保持し前記ラッピングワイヤの周りに回転させる手段と、この回転手段を前記ラッピングワイヤに沿って相対的に移動する手段と、この手段による相対的な移動とともに、前記管状体を前記ラッピングワイヤに沿って相対的に微小振幅で振動させる手段と、を備えることを特徴とする管状体の内径加工装置。
【請求項2】
互いに離間配置されたテンション装置間に張架されたラッピングワイヤと、このラッピングワイヤが挿通される管状体を保持し前記ラッピングワイヤの周りに回転させる回転チャックと、この回転チャックを前記ラッピングワイヤに沿って微小振動させる加振機と、この加振機とともに前記回転チャックを載置し、前記ラッピングワイヤに沿って移動する加工テーブルとを備えることを特徴とする管状体の内径加工装置。
【請求項3】
前記ラッピングワイヤは、固定砥粒型のワイヤであることを特徴とする請求項1または2記載の管状体の内径加工装置。
【請求項4】
前記ラッピングワイヤは、一端から他端に向かってテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項3記載の管状体の内径加工装置。
【請求項5】
前記振動の振幅は0.1乃至5mmであり、振動の周波数は40乃至200Hzであることを特徴とする請求項4記載の管状体の内径加工装置。
【請求項6】
テンション装置間に張架されたラッピングワイヤと、このラッピングワイヤが挿通される管状体を保持し前記ラッピングワイヤの周りに回転させる回転ローラとを備え、前記テンション装置を前記ラッピングワイヤに沿って移動するとともに、微小振動させることを特徴とする管状体の内径加工装置。
【請求項7】
前記ラッピングワイヤは、固定砥粒型のワイヤであることを特徴とする請求項6記載の管状体の内径加工装置。
【請求項8】
前記ラッピングワイヤは、一端から他端に向かってテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項7記載の管状体の内径加工装置。
【請求項9】
前記振動の振幅は0.1乃至5mmであり、振動の周波数は40乃至200Hzであることを特徴とする請求項4記載の管状体の内径加工装置。
【請求項10】
ラッピングワイヤが挿通される管状体を前記ラッピングワイヤの周りに回転させるとともに、この管状体を前記ラッピングワイヤに対して相対的に一方向に移動する手段と、この相対的な移動の際に、前記管状体を前記ラッピングワイヤに沿って相対的に微小振動する手段とを備えることを特徴とする管状体の内径加工方法。
【請求項11】
前記ラッピングワイヤは、固定砥粒型のワイヤであることを特徴とする請求項10記載の管状体の内径加工方法。
【請求項12】
前記ラッピングワイヤは、一端から他端に向かってテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項11記載の管状体の内径加工方法。

【図1】
image rotate



【図2】
image rotate



【図3】
image rotate



【図4】
image rotate



【図5】
image rotate


【公開番号】特開2004−249395(P2004−249395A)
【公開日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−42049(P2003−42049)
【出願日】平成15年2月20日(2003.2.20)
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【Fターム(参考)】