説明

管状脆性材料の内表面研摩方法および該研摩方法で得られた管状脆性材料

【目的】内表面の最大粗さRmaxが0.1μm以下、中心線平均粗さRaが0.01μm以下の高面精度の管状脆性材料を比較的短時間で製造できる研摩方法及び該研摩方法で得られた高精度の管状脆性材料を提供すること。
【解決手段】管状脆性材料の内表面を面精度よく研摩する方法において、研磨用ヘッド(2)を有するホーニングマシンで前記内表面を前研削したのち、ダイヤモンド砥粒を付着したシート材料(4)で研摩することを特徴とする研摩方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状脆性材料の内表面研摩方法および該研摩方法で得られた管状脆性材料に関し、特に光ファイバ製造用石英ガラス管の内表面を面精度よく研摩する方法および内表面精度の高い石英ガラス管に関する。
【背景技術】
【0002】
管状脆性材料、特に高純度の石英ガラス管は、光ファイバを製造するための内付法(MCVD法)の反応管として、また、MCVD法、軸付け法(VAD法)又は外付け法(OVD法)のいずれかの方法で作成したプレプリフォームのジャケット管として用いられている。プレプリフォームのジャッケット管として使用される高純度の石英ガラス管の内表面に凹凸やクラックが存在すると、プレプリフォームと石英ガラス管の溶融一体化時に気泡が発生し、それが光ファイバの線引き時の断線や光ファイバの接続不良を起すなどの問題があった。そのため石英ガラス管の内表面の面精度を高いものにする必要があり、従来、高純度の石英ガラスインゴットの内外周面をダイヤモンド砥石で機械的研削加工したのち、内表面を酸化セリウム砥石で機械的研摩加工する方法が採られていた(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−119034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、研摩時に酸化セリウム砥石のエッジ部から大きな破片が発生し、それが砥石と被研摩面の間に咬み込まれ、被研摩物の内表面にキズをつけることが起こった。このキズの発生を防ぐため酸化セリウム砥粒を研削液に分散させ、ブラシ等で被研削面を削る方法が開発されたが、研摩時間が非常に長く生産性に劣るものであった。また、酸化セリウム砥粒を付着させたシート材料(以下酸化セリウムペーパーという)を用いる研摩法も開発されたが、酸化セリウムペーパーは初期の研摩能力、すなわち前段階の研削による凹凸を削り取る能力が低く、前研摩段階で内表面粗さをより小さくする必要がある上に、酸化セリウムペーパーの消耗が激しくしばしば取り替える必要がありコスト高になる欠点があった。
【0004】
それ故、本発明は、管状脆性材料の内表面にキズを発生させることがなく高面精度に研摩できる研摩方法を提供することを目的とする。
【0005】
また、本発明は、研摩時間を短縮できる研摩方法を提供することを目的とする。
【0006】
さらに、本発明は、内表面精度の高い管状脆性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
こうした現状に鑑み、本発明者等は、鋭意研究した結果、ホーニングマシンで前研削した管状脆性材料の内表面をダイヤモンド砥粒が付着したシート材料(以下ダイヤモンドペーパー又はダイヤモンドシート材料という)を用いて研摩することで、酸化セリウムによる研摩と同等以上の内表面粗さを有する管状脆性材料が得られ、かつ研摩時間を大幅に短縮できることを見出して、本発明を完成したものである。
【0008】
上記目的を達成する本発明は、管状脆性材料の内表面を面精度よく研摩する方法において、ホーニングマシンで管状に前研削した脆性材料の内表面をダイヤモンドシート材料で研摩することを特徴とする研摩方法および内表面精度の高い管状脆性材料に関する。
【0009】
上記脆性材料とは、材料に外力を加えて破壊させるときに、破壊ヒズミの小さい材料をいい、具体的にはガラス、セラミックスなどが挙げられる。この脆性材料から管状体を成形するため、ホーニングマシンにダイヤモンド砥石を取り付け、研削加工すると、研削が進行するに従って砥石から脱落したダイヤモンド砥粒と研削された被研削物の粒子が砥石表面に付着し目詰まりを起す。目詰まりが起きると、研削能力が落ちるばかりでなく、砥石と被研削物間の抵抗が変化し、振動が発生する。著しい場合には砥石に大きな応力が加わって砥石の破損を起こすことがある。これらはより粒度の小さい研摩仕上げにおいて顕著である。ところが、前記ダイヤモンド砥石の代わりにダイヤモンド砥粒を付着したシート材料を使用すると、目詰まりが発生してもシート材料自体の弾性で振動が発生しない上に、シート材料の破れも起こらず研摩加工が継続できることがわかった。しかもこの目詰まり状態で研摩すると、研摩粒子の番手以上に良好な研摩が進行することもわかった。これは脆性材料の研摩をダイヤモンドシート材料の目詰まりのまま継続すると、シート材料の表面はすべて研摩された被研削物の粒子で覆われるが、その粒子が被研削物と同一であることから、いわゆる共摺り状態となり、研摩粒子自体も削られ、徐々に微細化して良好な研摩が達成できる。このようにダイヤモンドシート材料を用いると、高い面精度を有する管状脆性材料が得られることからダイヤモンド砥粒の番手を小さいものに代える必要がなく、研摩時間を大幅に短縮できる。
【0010】
“ダイヤモンドシート材料”の基材はペーパー、繊維又はプラスチックホイルであってよい。
【0011】
管状脆性材料の研摩には研摩用ヘッド付きホーニングマシンを用いることが一般的であるが、研摩用ヘッドを管状脆性材料内表面の全面に押し付けるように拡張することは困難で部分的な拡張がなされる。そして、拡張部分に砥石が取り付けられる。この研摩用ヘッド付きホーニングマシンで管状脆性材料を研摩すると砥石のエッジ部が被研削面に引っかかり大きな破片が発生することがある。この破片は、砥石のエッジ部と被研削面に咬み込まれ、被研削面に深いキズを付ける。然し、ダイヤモンドシート材料で研摩用ヘッド全体を覆うと、拡張部にエッジがあってもダイヤモンドシート材料が連続していることから、破片の浸入がなく脆性材料の内表面にキズを付けることがない。
【0012】
上記ダイヤモンドシート材料のダイヤモンドの粒径は、#500〜#10000の範囲のものが用いられる(前記“#”はシート材料に付着する砥粒のメッシュ径をいう)。
【0013】
本発明の好ましい態様として、ダイヤモンド砥粒を有するシート材料をフック又はループファスナーを使用して研磨用ヘッドに固定するのがよい。フック又はループファスナーはダイヤモンドシート材料の取替えを容易にする。ダイヤモンド砥粒がノッブ付き又は波形材料の表面に付着させると、これらが研磨されたガラス粒子の移転や除去のための補助的研磨剤として作用し流体の流れを容易にする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の研摩方法では、内表面の最大粗さRmaxが0.1μm以下、中心線平均粗さRaが0.01μm以下の高面精度の石英ガラス管が比較的短時間で製造でき、それをプレプリフォームのジャケット管又はMCVD法の反応管として使用することで高品質の光ファイバが容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
最大粗さRmax及び中心線平均粗さRは、日本工業規格(JIS)B0601の定義により、その測定法は、接触式簡易粗さ計(東京精密(株)製、Surfcom 300B)で10mmの長さ毎に測定される。
【実施例】
【0017】
実施例1
OVD法を用い、四塩化珪素を気化し、酸水素炎中で火炎加水分解し、回転する基体の周囲にシリカガラス微粒子を堆積させて大型多孔質スート体を作成した。この多孔質スート体を電気炉に入れ、コアガラスロッドの屈折率等の条件を考慮し、He、Cl2混合ガスにより1100℃で加熱脱水し、引き続きHe雰囲気中で1600℃で透明ガラス化し、円筒状石英ガラスインゴットを製造した。この円筒状石英ガラスインゴットの両端を切断し、その内径を、マントル面に均一に配置され、長さ方向に伸びる拡張部3を有する図2に示す研磨用ヘッド付き縦型ホーニングマシンで研削した。前記拡張部3には長さ25cm、幅5mmであり、#800のレジンボンドダイヤモンド砥石がセットされている。この研削で内径50mm、長さ2mの石英ガラス管が作成された。前記研摩用ヘッドの拡張部3全体にダイヤモンドペーパー4を巻き付け、フック又はループファスナーで図3のように固定した。ダイヤモンドペーパー4の基材は、繊維材料でダイヤモンド砥粒が付着しやすい波形面とする。巻き付けたダイヤモンドペーパー4のダイヤモンド粒径を最初は#1200、次は#2000、最後は#3000と3回取り替えた。研摩用ヘッドを石英ガラス管内に挿入し、図1に示すように研摩用ヘッドの回転数を100rpm、速度を3m/minにして石英ガラス管の全長にわたって80回往復させた。得られた石英ガラス管の内表面の最大粗さRmaxは0.08μm、中心線平均粗さRaは0.007μmであった。この研摩加工に要した時間は、ダイヤモンドペーパーの取り替え時間も含めて6時間弱であった。前記石英ガラス管の内表面を更に#6000のダイヤモンドペーパーを80回往復させ研磨したところ、石英ガラス管の内表面の最大粗さRmaxは0.06μm、中心線平均粗さRaは0.005μmであった。
【0018】
実施例2
ダイヤモンドペーパー4を4方向に拡張部3を有する研磨用ヘッド4の表面に均一に配置した以外、実施例1と同様にして研磨仕上げを行った。得られた石英ガラス管の内表面の最大粗さRmax及び中心線平均粗さRaは実施例1のそれとほぼ同じであった。しかし、1つのらせん状の傷が観測された。これは多分砥石又は削られた石英ガラスの破片の発生があったことによるものと考えられる。それ故、低品質の装置では許容できるが本発明の方法の最適な形態とはいえない。
【0019】
比較例1
実施例1と同寸法の石英ガラスインゴットを研削して得た内径50mm、長さ2mの石英ガラス管の内表面を研摩するため、ナイロン植毛ブラシを取り付けたホーニングマシンのヘッドを石英ガラス管内にセットし、上部から酸化セリウム砥粒を純水に攪拌して得た研摩液を流し込みながら、前記ブラシを回転数500rpm、ヘッド速度3m/minで石英ガラス管全長に渡って連続して240回往復させた(80往復×3回)。得られた石英ガラス管の内表面の最大粗さRmaxは0.5μm、中心線平均粗さRaは0.2μmであった。この石英ガラス管の内表面精度を実施例1の石英ガラス管の内表面と同様にするには960回往復させる22時間弱を要した。
【0020】
比較例2
実施例1において、ダイヤモンドペーパーの替わりに酸化セリウムペーパーを用いて、研摩用ヘッドの回転数を100rpm、速度を3m/minとして石英ガラス管全長にわたって80回往復させ、ペーパーを交換して3回繰り返した。得られた石英ガラス管の内表面の最大粗さRmaxは0.35μm、中心線平均粗さRaは0.15μmであった。この研摩方法で実施例1と同様の内表面を得るには、ペーパーを交換して80回の往復を合計7回行う必要があった。研摩加工に要した時間はペーパー交換を含めて約13時間であった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の研摩方法を示す概略図である。
【図2】4方向の拡張部を有する研摩用ヘッドの概略図である。
【図3】拡張部全体にダイヤモンドペーパーを巻き付けた研摩用ヘッドの概略図である。
【符号の説明】
【0022】
1:石英ガラス管
2:研摩用ヘッド
3:拡張部
4:ダイヤモンドペーパー
5:シャンクバー
6:プッシュロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状脆性材料の内表面を面精度よく研摩する方法において、研磨用ヘッド(2)を有するホーニングマシンで前記内表面を前研削したのち、ダイヤモンド砥粒を付着したシート材料(4)で研摩することを特徴とする研摩方法。
【請求項2】
ダイヤモンド砥粒を付着したシート材料(4)をホーニングマシンの研摩用ヘッド(2)に巻き付けることを特徴とする請求項1記載の研摩方法。
【請求項3】
ダイヤモンド砥粒を付着したシート材料(4)をホーニングマシンの研摩用ヘッド(2)にフック又はループファスナーで固定することを特徴とする請求項2記載の研摩方法。
【請求項4】
ダイヤモンド砥粒の粒径が#500〜#10000の範囲であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の研摩方法。
【請求項5】
ダイヤモンド砥粒がノッブ付き又は波形のシート材料に固定されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の研摩方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の研摩方法で得た内表面の最大粗さRmaxが0.1μm以下、中心線平均粗さRaが0.01μm以下であることを特徴とする内表面精度の高い管状脆性材料。
【請求項7】
管状脆性材料が光ファイバ製造用石英ガラス管であることを特徴とする請求項6記載の内表面精度の高い管状脆性材料。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−517471(P2006−517471A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501810(P2006−501810)
【出願日】平成16年2月11日(2004.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2004/001267
【国際公開番号】WO2004/071709
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】