説明

粉末組成物及びそれを含む食品

【課題】再溶解時の良好な透明性及び吸収性を有すると共に滲みの発生が抑制された粉末組成物及びこれを含む食品を提供する。
【解決手段】高度不飽和脂肪酸、酸化防止剤、乳化剤及び賦形剤を含み、前記乳化剤の50質量%以上95質量%以下が炭素数12〜18の脂肪酸のショ糖エステルであるエマルション組成物を乾燥して得られる粉末組成物であって、前記高度不飽和脂肪酸が該粉末組成物の全質量の10質量%以上30質量%以下である粉末組成物と、この粉末組成物を含む食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション組成物を乾燥して得られる粉末組成物及び該粉末状組成物を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度不飽和脂肪酸類などの油性成分の機能性に着目して、これらを含有する組成物が多く開発されている。このような油性成分を食品や化粧品の有効成分として使用する場合、製品の外観、嗜好性、或いは、機能性油性成分の皮膚や消化器からの吸収性の観点から、乳化物として用い、且つ、乳化粒子ができるだけ小さいことが望ましい。油性成分を乳化物に適用する際の原料として、安定性、輸送性が良好であるという観点から、水を主成分とする水性媒体に分散させると微細な乳化分散物を形成しうる粉末組成物が使用される。
【0003】
例えば特許文献1には、特定のレシチンを油脂に対して特定の重量比として含む高度不飽和脂肪酸含有油脂粉末が開示されている。この高度不飽和脂肪酸含有油脂粉末では、風味及び酸化安定性が良好であると記載されている。
また、特許文献2及び3には、化工澱粉と油溶性物質と水など用いて乳化して、これを乾燥することにより得られた乳化粉末等が開示されている。この乳化粉末は、打錠時に油の滲みだしがないものであると記載されている。
【0004】
一方、高度不飽和脂肪酸は酸化しやすいため、酸化耐性であることも必要である。例えば、特許文献4及び5では、粉末組成物ではないものの、30質量%もの高い濃度の油成分と、ポリソルベートエステルなどの乳化剤と、キサンタンガムなどの安定化剤を含み、安定性に優れた油エマルジョンが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−298969号公報
【特許文献2】特開平11−193229号公報
【特許文献3】特開2007−204494号公報
【特許文献4】特開2005−529728号公報
【特許文献5】特開2006−305569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末組成物では、吸収性を高めるためには再溶解時の分散粒子を微細化することが必要であるが、一方で、高度不飽和脂肪酸を高濃度に含有する粉末組成物では、分散粒子の粒子径を微細にすると粉末状態での保管時に油等の滲みが発生することがある。
従って本発明は、再溶解時の良好な透明性及び吸収性を有すると共に滲みの発生が抑制された粉末組成物及び食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の通りである。
[1] 高度不飽和脂肪酸、酸化防止剤、乳化剤及び賦形剤を含むエマルション組成物を乾燥して得られる粉末組成物であって、前記乳化剤が、当該乳化剤の全質量の50質量%以上95質量%以下の炭素数12〜18の脂肪酸のショ糖エステルを含み、前記高度不飽和脂肪酸が該粉末組成物の全質量の10質量%以上30質量%以下である粉末組成物。
[2] 前記高度不飽和脂肪酸が、DHA及びEPAの少なくとも一方を含有する精製魚油、又はDHAを含有する藻類由来の油脂である[1]記載の粉末組成物。
[3] 前記乳化剤が、ポリグリセリン酸脂肪酸エステル及びリン脂質の少なくとも一方を更に含む[1]又は[2]記載の粉末組成物。
[4] 前記乳化剤が、前記高度不飽和脂肪酸を含む油性成分の全質量に対して0.6倍量以上1.6倍量以下である[1]〜[3]のいずれか1に記載の粉末組成物。
[5] 前記粉末組成物を水に分散させたときの分散粒子の体積平均粒子径が30nm以上200nm以下である[1]〜[4]のいずれか1に記載の粉末組成物。
[6] 前記賦形剤が、前記高度不飽和脂肪酸を含む油性成分の全質量に対して0.7倍量以上2.0倍量以下である[1]〜[5]のいずれか1に記載の粉末組成物。
[7] 前記賦形剤が多糖類である[1]〜[6]のいずれか1に記載の粉末組成物。
[8] 前記乳化剤が、該乳化剤の全質量の20質量%以下のリン脂質を含む[1]〜[7]のいずれか1に記載の粉末組成物。
[9] 前記酸化防止剤が、トコフェロール、トコトリエノールおよびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種以上を含む[1]〜[8]のいずれか1に記載の粉末組成物。
[10] [1]〜[9]のいずれか1に記載の粉末組成物を含む食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、再溶解時の良好な透明性及び吸収性を有すると共に滲みの発生が抑制された粉末組成物及び食品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の粉末組成物は、高度不飽和脂肪酸、酸化防止剤、乳化剤及び賦形剤を含むエマルション組成物を乾燥して得られる粉末組成物であって、前記乳化剤が、該乳化剤の50質量%以上95質量%以下の炭素数12〜18の脂肪酸のショ糖エステルを含み、前記高度不飽和脂肪酸が該粉末組成物の全質量の10質量%以上30質量%以下のものである。
【0010】
本粉末組成物では、乳化剤の50質量%以上95質量%以下をショ糖脂肪酸エステルとし、当該エマルション組成物を乾燥して得られる粉末組成物中に10質量%以上30質量%以下の濃度で高度不飽和脂肪酸が含まれるので、粉末組成物を水性媒体等に再溶解した時には、微小な分散粒子を含み良好な透明性を示す分散物を提供すると共に、粉末状態での保管時に滲みがなく、良好な保存安定性も示す。更には、本発明の粉末組成物は、水性媒体等への再溶解時に微小な分散粒子とすることができるので、例えば腸管での吸収性も良好であり、高度不飽和脂肪酸による機能が期待できる食品を提供する。
以下、本発明の粉末組成物について説明する。
【0011】
<高度不飽和脂肪酸>
本発明における高度不飽和脂肪酸としては、炭素数10以上、好ましくは18〜30の一価高度不飽和脂肪酸(ω−9、オレイン酸など)又は多価高度不飽和脂肪酸(ω−3、ω−6)が挙げられる。
不飽和脂肪酸類の好ましい態様である多価脂肪酸のうち、ω−3油脂類としては、リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)並びにこれらを含有する魚油などを挙げることができる。これらは単独で又は組み合わせ使用してもよい。特に好ましい例として、DHA及びEPAの少なくとも一方を含有する精製魚油、又はDHAを含有する藻類由来の油脂が挙げられる。
【0012】
高度不飽和脂肪酸の含有量は、本発明の粉末組成物の全質量に対して10質量%以上30質量%以下である。高度不飽和脂肪酸が粉末組成物の全質量に対して30質量%を超えると、粉末での保存時に滲みが生じ、また粉末組成物を水性媒体に再溶解させたときに分散粒子の増大を引き起こす。一方、高度不飽和脂肪酸が粉末組成物の全質量に対して10質量%未満では、高度不飽和脂肪酸による機能が期待できないことがある。
【0013】
<その他の油性成分>
本発明では、上記の高度不飽和脂肪酸以外の油性成分を含んでもよい。なおここで「油性成分」とは、化粧品及び食品等の分野で一般に「油性成分」として認識され、使用される機能性の油溶性成分を意味する。
【0014】
本発明の粉末組成物では、上記高度不飽和脂肪酸を含む油性成分の総量として、再溶解時の乳化粒子径の微細化及び乳化安定性の観点から並びに粉末からの滲み出し抑制の観点から、粉末組成物の全質量の10質量%〜50質量%であることが好ましく、10質量%〜40質量%であることがより好ましく、10質量%〜30質量%であることが更に好ましい。油性成分の含有量が前記範囲において、機能性の油性成分による効果を十分に得ることができ、また、保存経時による粉末表面への油性成分の滲み出しが効果的に抑制され、取り扱い性の向上が可能となり、好ましい。
【0015】
本発明における他の油性成分としては、特に制限はなく、目的に応じた物性や機能性を有するものを適宜選択して使用することができ、例えば、脂溶性カロチノイド、脂溶性ビタミン、ユビキノン類、上述した高度不飽和脂肪酸以外の不飽和脂肪酸類、油脂類などが挙げられる。
【0016】
その他の油性成分としては、食品に適用しうる機能性を有することから、カロチノイド類より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
本発明におけるカロチノイド類としては、天然色素を含むカロチノイド類を好ましく挙げることができ、これには、黄色から赤色のテルペノイド類の色素であり、植物類、藻類、及びバクテリアのものが含まれる。
また、天然由来のものに限定されず、常法に従って得られるものであればいずれのものも、本発明におけるカロチノイドに含まれる。例えば、後述のカロチノイド類のカロチン類の多くは合成によっても製造されており、市販のβ−カロチンの多くは合成により製造している。
【0017】
カロチノイド類としては、炭化水素類(カロテン類)及びこれらの酸化アルコール誘導体類(キサントフィル類)が挙げられる。
これらの例として、アクチニオエリスロール、アスタキサンチン、ビキシン、カンタキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、β−8’−アポ−カロテナール(アポカロテナール)、β−12’−アポ−カロテナール、α−カロテン、β−カロテン、”カロテン”(α−及びβ−カロテン類の混合物)、γ−カロテン、β−クリプトキサンチン、エキネノン、ルテイン、リコピン、ビオラキサンチン、ゼアキサンチン、及びそれらのうちヒドロキシル又はカルボキシルを含有するもののエステル類が挙げられる。
【0018】
カロチノイド類の多くは、シス及びトランス異性体の形で天然に存在するが、合成物はしばしばシス・トランス混合物である。
カロチノイド類は一般に植物素材から抽出することができる。これらのカロチノイド類は種々の機能を有しており、例えば、マリーゴールドの花弁から抽出するルテインは家禽の餌の原料として広く使用され、家禽の皮膚及び脂肪並びに家禽が産む卵に色を付ける機能がある。
【0019】
本発明において用いられるカロチノイド類は乳化粒径の微細化の観点から、好ましくは常温で油状のものである。特に好ましい例としては、酸化防止効果、抗炎症効果、皮膚老化防止効果、美白効果などを有し、黄色から赤色の範囲の着色料として知られているアスタキサンチン及びアスタキサンキチンのエステル等の誘導体(以下、「アスタキサンチン類」と総称する。)から選択された少なくとも1種を含むことができる。
これらのアスタキサンチン類は、超臨界炭酸ガスを用いて天然素材から抽出したものが、臭気の点でより好ましい。
【0020】
前記アスタキサンチン及びそのエステル(アスタキサンチン類)は、アスタキサンチン及び/又はそのエステルを含有する天然物から分離・抽出したアスタキサンチン含有オイルとして、本発明に係るエマルション組成物に含まれていてもよい。このようなアスタキサンチン含有オイルとして、例えば、赤色酵母ファフィア、緑藻ヘマトコッカス、海洋性細菌等を培養し、その培養物からの抽出物、ナンキョクオキアミ等からの抽出物を挙げることができる。
ヘマトコッカス藻抽出物(ヘマトコッカス藻由来色素)は、オキアミ由来の色素や、合成されたアスタキサンチンとはエステルの種類及びその含有量の点で異なることが知られている。
【0021】
本発明において用いることができるアスタキサンチン類は、前記抽出物(抽出エキス)、またさらにこの抽出物を必要に応じて適宜精製したものでもよく、また合成品であっても良い。前記アスタキサンチン類としては、ヘマトコッカス藻から抽出されたもの(以下、ヘマトコッカス藻抽出物ともいう。)が、品質、生産性の点から特に好ましい。
【0022】
本発明に使用できるヘマトコッカス藻抽出物の由来としては、具体的には、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)、ヘマトコッカス・ラキュストリス(Haematococcus lacustris)、ヘマトコッカス・カペンシス(Haematococcus capensis)、ヘマトコッカス・ドロエバゲンシス(Haematococcus droebakensis)、ヘマトコッカス・ジンバビエンシス(Haematococcus zimbabwiensis)等が挙げられる。
【0023】
また、本発明において、広く市販されているヘマトコッカス藻抽出物を用いることができ、例えば、武田紙器(株)製のASTOTS−S、同−2.5O、同−5O、同−10O等、富士化学工業(株)製のアスタリールオイル50F、同 5F等、東洋酵素化学(株)製のBioAstinSCE7等が挙げられる。
本発明において、ヘマトコッカス藻抽出物中のアスタキサチン類の色素純分としての含有量は、抽出コストの観点から好ましくは0.001〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜25質量%である。
【0024】
ユビキノン類としては、コエンザイムQ10のようなコエンザイムQ類等が挙げられる。コエンザイムQ10は、「ユビデカレノン」として日本薬局方に記載されている補酵素の一種であり、ユビキノン10、補酵素UQ10等と呼ばれることもある。自然界においては、酵母、鯖、鰯、小麦胚芽等の天然物に多く含まれており、熱水、含水アルコール、アセトン等の溶媒によってコエンザイムQ10を抽出することができる。工業的にも製造可能であり一般的には発酵法や合成法が知られている。本発明で使用されるコエンザイムQ10は、天然物から抽出されたものであってもよく、工業的に合成されたものであってもよい。また、コエンザイムQ10として市販品を使用してもよく、日清ファルマ社製のコエンザイムQ10や、日本油脂社製のコエンザイムQ10粉末等を挙げることができる。
【0025】
脂溶性ビタミン類としては、脂溶性ビタミンE類、レチノイド類、ビタミンD類、アスコルビン酸及びエリソルビン酸の油溶化誘導体を挙げることができ、この内でも、抗酸化機能が高くラジカル捕捉剤(酸化防止剤)としても使用可能な脂溶性ビタミンE類であることが好ましい。
【0026】
ビタミンE類としては、特に限定されず、例えばトコフェロール及びその誘導体からなる化合物群、並びにトコトリエノール及びその誘導体からなる化合物群から選ばれるものを挙げられる。これらは単独で用いても、複数併用して用いてもよい。またトコフェノール及びその誘導体からなる化合物群とトコトリエノール及びその誘導体からなる化合物群からそれぞれ選択されたものを組み合わせて使用してもよい。
【0027】
トコフェロール及びその誘導体からなる化合物群としては、dl−α−トコフェロール、dl−β−トコフェロール、dl−γ−トコフェロール、dl−δ−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロール、ニコチン酸−dl−α−トコフェロール、リノール酸−dl−α−トコフェロール、コハク酸dl−α−トコフェロール等が含まれる。これらの内で、dl−α−トコフェロール、dl−β−トコフェロール、dl−γ−トコフェロール、dl−δ−トコフェロール、及び、これらの混合物(ミックストコフェロール)がより好ましい。また、トコフェロール誘導体としては、これらの酢酸エステルが好ましく用いられる。
トコトリエノール及びその誘導体からなる化合物群としては、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール等が含まれる。また、トコトリエノール誘導体としては、これらの酢酸エステルが好ましく用いられる。トコトリエノールは麦類、米糠、パーム油等に含まれるトコフェロール類似化合物で、トコフェロールの側鎖部分に二重結合が3個含まれ、優れた酸化防止性能を有する。
【0028】
これらのビタミンE類は、油溶性酸化防止剤としてエマルション組成物の特に油相に含まれていることが、効果的に油性成分の酸化防止機能を発揮することができるため好ましい。上記ビタミンE類の中でも酸化防止効果の観点から、トコトリエノール及びその誘導体からなる化合物群から選択されたものを少なくとも1種を含有することが更に好ましい。
【0029】
レチノイド類としては、レチノール,3−ヒドロレチノール,レチナール,3−ヒドロレチナール,レチノイン酸,3−デヒドロレチノイン酸,ビタミンAアセテート等のビタミンA類;α,β,γ−カロチン,β−クリプトキサンチン,エキネノン等のカロチノイドやキサントフィル等のプロビタミンA類を挙げることができる。ビタミンD類としては、ビタミンD乃至D等のビタミンD類を挙げることができる。
またその他の脂溶性ビタミン物質としては、ニコチン酸ビタミンE等のエステル類;ビタミンK乃至K等のビタミンK類を挙げることができる。
【0030】
アスコルビン酸、エリソルビン酸などの油溶化誘導体には、ステアリン酸L−アスコルビルエステル、テトライソパルミチン酸L−アスコルビルエステル、パルミチン酸L−アスコルビルエステル、パルミチン酸エリソルビルエステル、テトライソパルミチン酸エリソルビルエステル、ジオレイン酸アスコルビル等のビタミンCの脂肪酸エステル類、ジパルミチン酸ピリドキシン、トリパルミチン酸ピリドキシン、ジラウリン酸ピリドキシン、ジオクタン酸ピリドキシン等のビタミンBの脂肪酸エステル類等が挙げられる。これらのうち、アスコルビン酸、エリソルビン酸の油溶化誘導体は、本発明の粉末組成物では、ラジカル捕捉剤としても使用可能である。
【0031】
上記以外の油脂としては、常温で、液体の油脂(脂肪油)及び固体の油脂(脂肪)が挙げられる。
前記液体の油脂としては、例えばオリーブ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油、アボガド油、月見草油、タートル油、トウモロコシ油、ミンク油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、サザンカ油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、茶実油、カヤ油、コメヌカ油、シナギリ油、日本キリ油、ホホバ油、胚芽油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルチミン酸グリセリン、サラダ油、サフラワー油(ベニバナ油)、パーム油、ココナッツ油、ピーナッツ油、アーモンド油、ヘーゼルナッツ油、ウォルナッツ油、グレープシード油、スクワレン、スクワラン等が挙げられる。
また、前記固体の油脂としては、牛脂、硬化牛脂、牛脚脂、牛骨脂、ミンク油、卵黄油、豚脂、馬脂、羊脂、硬化油、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム硬化油、モクロウ、モクロウ核油、硬化ヒマシ油等が挙げられる。
上記の中でも、エマルション組成物の粒子径、安定性の観点から、中鎖脂肪酸トリグリセライドであるココナッツ油が好ましく用いられる。
【0032】
本発明における油性成分としては、エマルション組成物中での物性を向上させるために、脂溶性ビタミン類に包含される油性成分であるトコフェロール、トコトリエノールおよびそれらの誘導体からなる群より選択される化合物(以下、適宜、トコフェロール類と称する)を、他の機能性油溶成分とともに含有することが好ましい。
機能性の油性成分中に、前記トコフェロール類を併用する場合には、機能性油性成分の総量に対し、好ましくは5質量%〜35質量%、より好ましくは7質量%〜20質量%の範囲で併用することができる。
【0033】
<乳化剤>
本発明の粉末組成物に含まれる乳化剤は、炭素数12〜18の脂肪酸のショ糖エステルを含む。このショ糖脂肪酸エステルは、乳化剤の全質量の50質量%以上95質量%以下を構成する。
乳化剤中のショ糖脂肪酸エステルの含有量は、粉末組成物の再分散後の分散粒子の微細性の観点から、50質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0034】
本発明におけるショ糖脂肪酸エステルは、炭素数12〜18の脂肪酸を有する。ショ糖脂肪酸エステルの炭素数を12以上とすることにより、適度な融点を示し、平均粒子径のより小さい分散粒子(エマルション粒子)が得られる。炭素数が18を超えると融点が上昇して粉末組成物の溶解性が低下して乳化安定性に劣る。ショ糖脂肪酸エステルに含まれる脂肪酸としては、ラウリル、ミリスチル、ステアリル、オレイルが好ましく挙げられ、これらを単独で、または組み合わせて含んでいてもよい。
【0035】
本発明おいて乳化剤として使用されうるショ糖脂肪酸エステルとしては、ショ糖ジオレイン酸エステル、ショ糖ジステアリン酸エステル、ショ糖ジパルミチン酸エステル、ショ糖ジミリスチン酸エステル、ショ糖ジラウリン酸エステル、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステル等が挙げられ、これらの中でも、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステルがより好ましい。
【0036】
ショ糖脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、三菱化学フーズ(株)社製リョートーシュガーエステル S−070、S−170、S−270、S−370、S−370F、S−570、S−770、S−970、S−1170、S−1170F、S−1570、S−1670、P−070、P−170、P−1570、P−1670、M−1695、O−170、O−1570、OWA−1570、L−195、L−595、L−1695、LWA−1570、B−370、B−370F、ER−190、ER−290、POS−135、第一工業製薬(株)社製の、DKエステルSS、F160、F140、F110、F90、F70、F50、F−A50、F−20W、F−10、F−A10E、コスメライクB−30、S−10、S−50、S−70、S−110、S−160、S−190、SA−10、SA−50、P−10、P−160、M−160、L−10、L−50、L−160、L−150A、L−160A、R−10、R−20、O−10、O−150等が挙げられる。
上記の中で、好ましくは、リュートーシュガーエステルS−1170、S−1170F、S−1570、S−1670、P−1570、P−1670、M−1695、O−1570、L−1695、DKエステルSS、F160、F140、F110、コスメライクS−110、S−160、S−190、P−160、M−160、L−160、L−150A、L−160A、O−150である。
【0037】
また乳化剤は、前記ショ糖脂肪酸エステル以外に目的に応じて他の乳化剤を含んでいてもよく、粉末組成物の原料となるエマルション組成物の分散粒子の微細性及び分散性向上の観点から、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びリン脂質の少なくとも一方を更に含むことが好ましい。
【0038】
本発明の粉末組成物においてポリグリセリン脂肪酸エステルは、粉末組成物の分散安定性及び再溶解時の微細性の観点から、ショ糖脂肪酸エステルに対して質量比で1.0倍量以下であることが好ましく、0.2倍量以上1.0倍量以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、平均重合度が2以上、好ましくは6〜15、より好ましくは8〜10のポリグリセリンと、炭素数8〜18の脂肪酸、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸とのエステルを挙げることができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ヘキサグリセリンステアリン酸エステル、テトラグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンパルミチン酸エステル、デカグリセリンベニン酸エステル等が挙げられる。
これらの中でも、より好ましくは、デカグリセリンステアリン酸エステル(HLB=12)、デカグリセリンパルミチン酸エステル(HLB=13)などである。
【0040】
市販品としては、例えば、三菱化学フーズ(株)社製、リョートーポリグリエステルHS11、HS9、TS4,TS2、S24D、P8D、及び、日光ケミカルズ(株)社製、NIKKOL Decaglyn 1-SV,Tetraglyn 1-SV,Hexaglyn 1-SV等が挙げられる。
【0041】
これらのショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、更にHLB8以上を有するものが好ましく、10以上を有するものがより好ましく、12以上を有するものが特に好ましい。HLB値の上限値は、特に限定されないが、一般的には18以下であり、17以下が好ましい。
【0042】
ここで、HLBは、通常界面活性剤の分野で使用される親水性−疎水性のバランスで、通常用いる計算式、例えば川上式等が使用できる。本発明においては、下記の川上式を採用する。
HLB=7+11.7log(M/M
ここで、Mは親水基の分子量、Mは疎水基の分子量である。
【0043】
また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
また、上記の式からも分かるように、HLBの加成性を利用して、任意のHLB値の界面活性剤を得ることができる。
【0044】
本発明の粉末組成物においてリン脂質は、再溶解時の分散粒子の粒子径の観点から、総乳化剤の全質量の20質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上18質量%以下であることが更に好ましい。
【0045】
本発明で用いることができるリン脂質としては、例えば、レシチン、ホスファチジン酸、ビスホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルメチルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセリン、ジホスファチジルグリセリン(カルジオリピン)等のグリセロレシチン;スフィンゴミエリン等のスフィンゴレシチン等を挙げることができる。またこれらの成分を含む大豆、トウモロコシ、落花生、ナタネ、麦等の植物由来のものや、卵黄、牛等の動物由来のもの及び大腸菌等の微生物等由来の各種レシチンを挙げることができる。これらのリン脂質の由来は特に限定されないが、精製したものが特に好適である。本発明では、これらのリン脂質を、単独、又は併用して用いることができる。
これらのリン脂質の内で、入手の容易性、安全性、及び乳化性の点から、レシチンが、好ましい。
【0046】
レシチンは、分子内に親水基と疎水基を有しているため、従来から、食品、医薬品、化粧品分野で、広く乳化剤として使用されている。産業的にはレシチンの純度60%以上のものがレシチンとして利用されており、本発明でも利用できるが、微細な油滴粒径の形成及び脂溶性物質の安定性の観点から、好ましくは一般に高純度レシチンと称されるものであり、これはレシチン純度が80質量%以上、より好ましくは90質量%以上のものである。
【0047】
レシチンとしては、植物、動物及び微生物の生体から抽出分離された従来公知の各種のものを挙げることができる。市販品のレシチンとしては、理研ビタミン(株)製レシオンシリーズや、レシマールELなどを挙げることができる。
【0048】
また、本発明においては、上記の高純度レシチン以外にも、水素添加レシチン、酵素分解レシチン、酵素分解水素添加レシチン、ヒドロキシレシチン等を使用することができる。このような水素添加、ヒドロキシル化されたレシチンは、化粧品用途への応用に特に好ましい。前記水素添加は、例えば、レシチンを触媒の存在下に水素と反応させることにより行われ、脂肪酸部分の不飽和結合が水素添加される。水素添加により、レシチンの酸化安定性が向上する。
【0049】
前記酵素分解レシチンは、リゾレシチンとも呼ばれ、レシチンにホスホリパーゼA2を作用させ、β位のエステル結合を加水分化し、水酸基を増やすことにより、親水性を増大させたものである。
また、前記ヒドロキシル化は、レシチンを高濃度の過酸化水素と酢酸、酒石酸、酪酸などの有機酸と共に加熱することにより、脂肪酸部分の不飽和結合が、ヒドロキシル化される。ヒドロキシル化により、レシチンの親水性が改良される。
本発明で用いることができるこれらのリン脂質は、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
【0050】
本発明の粉末組成物では、その他の乳化剤として、他のイオン性、両性、その他の非イオン性界面活性剤などを単独で又は組み合わせて用いてもよく、中でもその他の非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0051】
本発明の粉末組成物で使用可能なその他の非イオン性界面活性剤としては、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。より好ましくは、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである。また、これらの界面活性剤は蒸留などで高度に精製されたものであることは必ずしも必要ではなく、反応混合物であってもよい。
【0052】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸の炭素数が8以上のものが好ましく、12以上のものがより好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルの好ましい例としては、モノカプリル酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、セスキステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、イソステアリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
本発明においては、これらのソルビタン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
【0053】
ソルビタン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、日光ケミカルズ(株)社製、NIKKOL SL−10,SP−10V,SS−10V,SS−10MV,SS−15V,SS−30V,SI−10RV,SI−15RV,SO−10V,SO−15MV,SO−15V,SO−30V,SO−10R,SO−15R,SO−30R,SO−15EX,第一工業製薬(株)社製の、ソルゲン30V、40V、50V、90、110、花王(株)社製の、レオドールAS−10V、AO−10V、AO−15V、SP−L10、SP−P10、SP−S10V、SP−S30V、SP−O10V、SP−O30Vなどが挙げられる。
【0054】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸の炭素数が8以上のものが好ましく、12以上のものがより好ましい。また、ポリオキシエチレンのエチレンオキサイドの長さ(付加モル数)としては、2〜100が好ましく、4〜50がより好ましい。
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ポリオキシエチレンモノカプリル酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンセスキステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンイソステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンセスキイソステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンセスキオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
これらのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
【0055】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、日光ケミカルズ(株)社製、NIKKOL TL−10、NIKKOL TP−10V、NIKKOL TS−10V、NIKKOL TS−10MV、NIKKOL TS−106V、NIKKOL TS−30V、NIKKOL TI−10V、NIKKOL TO−10V、NIKKOL TO−10MV、NIKKOL TO−106V、NIKKOL TO−30V、花王(株)社製の、レオドールTW−L106、TW−L120、TW−P120、TW−S106V、TW−S120V、TW−S320V、TW−O106V、TW−O120V、TW−O320V、TW−IS399C、レオドールスーパーSP−L10、TW−L120、第一工業製薬(株)社製の、ソルゲンTW−20、TW−60V、TW−80V等が挙げられる。
【0056】
本発明の粉末組成物における乳化剤の含有量は、ショ糖脂肪酸エステルを含む全乳化剤として、高度不飽和脂肪酸を含む油性成分の全質量に対して0.6倍量以上1.6倍量以下で用いられることが、粉末組成物を水性媒体に溶解、分散して得られる乳化物の乳化粒子径を適切に維持するといった観点から好ましく、0.85倍量以上1.0倍量以下であることがより好まし好ましい。
【0057】
<賦形剤>
本発明の粉末組成物は、打錠適性や顆粒化適性等を持たせるため賦形剤を含む。賦形剤としては1種単独で又は2種以上を組み合わせ含んでもよい。
賦形剤は一般的に用いられている水溶性物質であればよく、グルコース、果糖、乳糖、麦芽糖、ショ糖、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、マルトース、トレハロースや、アラビアガム、グアーガム、ペクチン、プルランなどの増粘多糖類などの単糖及び多糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクトース、マルトトリイトール、キシリトールなどの糖アルコール;塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;デンプンにエステル化、エーテル化処理、末端還元処理を施したデンプン誘導体;その他に加工澱粉、ゼラチン分解物、寒天、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。この中でも、溶解性の面から単糖、多糖類、糖アルコール、無機塩が好ましい。
【0058】
賦形剤の中でも特に多糖類であることが好ましく、上記の多糖類の中でも果糖単位を含む糖単位からなる果糖ポリマー及びオリゴマーから選ばれた少なくとも1種である多糖類(以下、単に「果糖ポリマー又はオリゴマー」と称する)がより好ましい。
このような果糖ポリマー又はオリゴマーは、粉末組成物の乾燥時の粉末化過程や粉末保存時に油滴を保護することができ、この結果、油滴粒径を微細な状態に保つと共に油滴中の油性成分の劣化を小さくすることができると共に、粉末組成物を水に再溶解したときには油性成分の水分散性を良好なものにし、再溶解後の透明性も良好なものにすることができる。
【0059】
本発明における果糖ポリマー又はオリゴマーは、果糖(フルクトース)を繰り返し単位として含むと共に、複数の糖単位が脱水縮合で結合した糖単位からなるポリマー又はオリゴマーを指す。本発明では、果糖単位を含む糖の繰り返し単位が20個未満のものを果糖オリゴマー、20個以上のものを果糖ポリマーと称する。
この糖単位の繰り返し個数は、乾燥適性と再溶解性時の油滴微細化の観点から好ましくは2〜60個であり、より好ましくは4〜20個である。繰り返し個数(果糖の重合度)が2個以上であれば吸湿性が強すぎることがなく、乾燥過程で乾燥容器に付着して回収率が低下するといったことを効果的に防止することができ、一方、60個以下であれば水再溶解時における油滴粒径の粗大化を効果的に防止することができる。
【0060】
果糖ポリマー又はオリゴマーには、果糖以外に、分子の末端または鎖中に他の単糖類を含んでもよい。ここで含むことのできる他の単糖単位としては、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、マンノース、イドース、アルトロース、グロース、タロース、アロース、キシロース、アラビノース、リキソース、リボース、トレオース、エリトロース、エリトルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、ソルボース、タガトース等があるが、これに限定されることはない。これらの単糖のうちグルコースが入手の容易性の観点から好ましい。また、結合位置は果糖鎖の末端に存在することが再溶解時の油滴微細化の観点から好ましい。
果糖以外の糖類を含む場合、その含有比率は乾燥適性と再溶解性時の油滴微細化の観点から果糖単位数に対して重合度で50%以下であり、好ましくは30%以下である。
【0061】
色素の保存安定性及び入手の容易性等の観点から本発明に好ましく用いられる水可溶性包括剤としては、イヌリンが挙げられる。本発明におけるイヌリンは、末端にブドウ糖を1個有する果糖ポリマーまたは果糖オリゴマーをいう。イヌリンは広く自然界に存在することが知られており、チコリ、キクイモ、ダリア、ニンニク、ニラ、タマネギなどに多く含まれる。イヌリンの詳細に関してはHandbook of Hydrocolloids, G.O.Phillips,P.A.Williams Ed.,397-403,(2000) CRC Pressに記載されている。一般に、ブドウ糖単位をG、果糖単位をFとして鎖長を表現する。本発明のイヌリンには、GFで表記されるスクロースは含まれない。
通常天然から抽出されるイヌリンは、GF2(ケストース)、GF3(ニストース)、GF4(フラクトシルニストース)からGF60程度までのポリマーかオリゴマー、またはそれらの混合物である。
【0062】
本発明では、イヌリンはチコリ、キクイモ、ダリアなどの根から分離熱水抽出され、この水溶液を濃縮、スプレードライにより粉末化販売されているものを含むことができる。この例としては、チコリ根から抽出されたFrutafit(SENSUS社製)、同じくチコリ根から抽出されたベネオ(オラフティ社)、ダリア根由来試薬((株)和光純薬、シグマ社)、チコリ根抽出試薬(シグマ社)等を挙げることができる。
また、本発明における果糖オリゴマー及びポリマーには、β−フルクトフラノシダーゼのフラクタン転移活性を利用して、ショ糖(スクロース)から調製するものも含むことができる。この例としては、フジFF(フジ日本精糖(株)製)、GF2(明治製菓(株))を挙げることができる。
【0063】
本発明に用いられるイヌリンは、再溶解時の油滴の微細化の観点から、果糖の繰り返し数(重合度)で2〜60であることが好ましく、より好ましくは、噴霧乾燥時の装置への付着性と水への溶解性の観点から、果糖の重合度は4〜20である。
本発明の果糖ポリマー又はオリゴマーは、乳化時に添加されていることが好ましいが、その一部または全部を乳化後に添加することもできる。
【0064】
また果糖ポリマー又はオリゴマーと併用して、他の水溶性ポリマーやオリゴマーを用いてもよい。他の水溶性ポリマー、オリゴマーの例としては、アガロース、澱粉、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ジェランガム、ガラクトマンナン、カゼイン、トラガンドガム、キシログルカン、βーグルカン、カードラン、水溶性大豆繊維、キトサン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本発明の粉末組成物における賦形剤は、形状維持と溶解性の観点から本発明の粉末組成物における油性成分の全質量に対して0.7倍量以上2倍量以下、好ましくは1.2倍量以上1.7倍量以下である。
また、上記果糖ポリマー又はオリゴマーを他の水溶性ポリマー及びオリゴマーと併用する場合には、果糖ポリマー又はオリゴマーの配合量は、再溶解時の油滴の微細化の観点から、賦形剤の全量の50質量%〜100質量%とすることができ、70質量%〜100質量%であることが更に好ましい。
【0066】
<ラジカル捕捉剤>
本発明の粉末組成物には、上述した酸化防止剤の他に他の酸化防止剤(ラジカル捕捉剤)を含んでもよい。ラジカル捕捉剤は、ラジカルの発生を抑えるとともに、生成したラジカルをできる限り速やかに捕捉し、連鎖反応を断つ役割を担う添加剤である(出典:「油化学便覧 第4版」、日本油化学会編 2001)。
前記ラジカル捕捉剤としての機能を確認する直接的な方法としては、試薬と混合して、ラジカルを捕捉する様子を分光光度計やESR(電子スピン共鳴装置)によって測定する方法が知られている。これらの方法では、試薬として、DPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)や、ガルビノキシルラジカルが使用される。
本発明においては、以下の実験条件下で、油脂の自動酸化反応を利用して、油脂の過酸化物価(POV値)を60meq/kgに引き上げるまでに要する時間が、ブランクに対し2倍以上である化合物を「ラジカル捕捉剤」と定義する。油脂の過酸化物価(POV値)は常法により測定する。
<条件>
油脂:オリーブ油
検体添加量:油脂に対し0.1質量%
試験方法:試料を190℃にて加熱し、時間を追ってPOV値を常法により測定し、60meq/kgとなる時間を算出した。
【0067】
本発明におけるラジカル捕捉剤は、エマルションの酸化に対する安定性の観点から、前記POV値60meq/kgになるまでに要する時間がブランクに対し5倍以上であるラジカル捕捉剤が好ましい。
本発明のラジカル捕捉剤として使用できる化合物は、「抗酸化剤の理論と実際」(梶本著、三書房 1984)や、「酸化防止剤ハンドブック」(猿渡、西野、田端著、大成社 1976)に記載の各種酸化防止剤のうち、ラジカル捕捉剤として機能するものであればよく、具体的には、フェノール性OHを有する化合物、フェニレンジアミン等のアミン系化合物、また、アスコルビン酸及びエリソルビン酸の油溶化誘導体等を挙げることができる。
【0068】
以下に好ましいラジカル捕捉剤としては、例えば、(I)アスコルビン酸またはエリソルビン酸またはその塩、あるいはアスコルビン酸誘導体またはエリソルビン酸誘導体またはその塩からなる化合物群、(II)ポリフェノール類からなる化合物群より選ばれる少なくとも2種の化合物を挙げることができる。
本発明の粉末組成物におけるラジカル捕捉剤(酸化防止剤)の含有量は一般的には0.001〜5.0質量%であり、好ましくは0.01〜3.0質量%、より好ましくは0.1〜2.5質量%である。
【0069】
(I)アスコルビン酸またはエリソルビン酸またはその塩
アスコルビン酸またはアスコルビン酸誘導体またはその塩として、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸Na、L−アスコルビン酸K、L−アスコルビン酸Ca、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩、L−アスコルビン酸硫酸エステル、L−アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸2−グルコシド、前述の油溶化誘導体、L−アスコルビル酸パルミチン酸エステル、テトライソパルミチン酸L−アスコルビル等が挙げられる。これらのうち、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸Na、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸2−グルコシド、L−アスコルビル酸パルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩、L−アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩、テトライソパルミチン酸L−アスコルビルが特に好ましい。
【0070】
エリソルビン酸またはエリソルビン酸誘導体またはその塩として、エリソルビン酸、エリソルビン酸Na、エリソルビン酸K、エリソルビン酸Ca、エリソルビン酸リン酸エステル、エリソルビン酸硫酸エステル、前述の油溶化誘導体等が挙げられる。これらのうち、エリソルビン酸、エリソルビン酸Naが特に好ましい。
【0071】
本発明に用いる化合物群(I)に属するラジカル捕捉剤は、一般に市販されているものを適宜用いることができる。例えば、L−アスコルビン酸(武田薬品工業、扶桑化学、BASFジャパン、第一製薬ほか)、L−アスコルビン酸Na(武田薬品工業、扶桑化学、BASFジャパン、第一製薬ほか)、アスコルビン酸2−グルコシド(商品名 AA−2G:林原生物化学研究所)、L−アスコルビン酸燐酸Mg(商品名 アスコルビン酸PM「SDK」(昭和電工)、商品名 NIKKOL VC−PMG(日光ケミカルズ)、商品名 シーメート(武田薬品工業))、パルミチン酸アスコルビル(DSM ニュートリション ジャパン、金剛薬品、メルク、ほか)等が挙げられる。
【0072】
(II)ポリフェノール類からなる化合物群
ポリフェノール類からなる化合物群として、フラボノイド類(カテキン、アントシアニン、フラボン、イソフラボン、フラバン、フラバノン、ルチン)、フェノール酸類(クロロゲン酸、エラグ酸、没食子酸、没食子酸プロピル)、リグナン類、クルクミン類、クマリン類などを挙げることができる。また、これらの化合物は、以下のような天然物由来の抽出物中に多く含まれるため、抽出物という状態で利用することができる。
【0073】
例えば、カンゾウ抽出物、キュウリ抽出物、ケイケットウ抽出物、ゲンチアナ(リンドウ)抽出物、ゲンノショウコ抽出物、コレステロール及びその誘導体、サンザシ抽出物、シャクヤク抽出物、イチョウ抽出物、コガネバナ(オウゴン)抽出物、ニンジン抽出物、マイカイカ(マイカイ、ハマナス)抽出物、サンペンズ(カワラケツメイ)抽出物、トルメンチラ抽出物、パセリ抽出物、ボタン(ボタンピ)抽出物、モッカ(ボケ)抽出物、メリッサ抽出物、ヤシャジツ(ヤシャ)抽出物、ユキノシタ抽出物、ローズマリー(マンネンロウ)抽出物、レタス抽出物、茶抽出物(烏龍茶、紅茶、緑茶等)、微生物醗酵代謝産物、羅漢果抽出物等が挙げられる(かっこ内は、植物の別名、生薬名等を記載した。)。これらのポリフェノール類のうち、特に好ましいものとしては、カテキン、ローズマリー抽出物、グルコシルルチン、エラグ酸、没食子酸を挙げることができる。
【0074】
本発明に用いる化合物群(II)に属するラジカル捕捉剤は、一般に市販されているものを適宜用いることができる。例えば、エラグ酸(和光純薬ほか)、ローズマリー抽出物(商品名 RM−21A、RM−21E:三菱化学フーズほか)、カテキン(商品名 サンカトールW−5、No.1:太陽化学、ほか)、没食子酸Na(商品名 サンカトール:太陽化学、ほか)、ルチン・グルコシルルチン・酵素分解ルチン(商品名 ルチンK−2、P−10:キリヤ化学、商品名 αGルチン:林原生物化学研究所、ほか)等が挙げられる。
【0075】
本発明の粉末組成物には、上記成分に加え、本発明の効果を損なわない限りにおいて、食品用、医薬品用などの用途に通常使用可能な他の成分を、目的に応じて併用してもよい。
【0076】
<製造方法>
本発明の粉末組成物は、上述した各成分を含むエマルション組成物を製造し、これを乾燥することによって得ることができる。
即ち、本発明の粉末組成物の製造方法は、粉末組成物の全質量の10質量%以上30質量%以下である高度不飽和脂肪酸を、50質量%以上95質量%以下が炭素数12〜18の脂肪酸のショ糖エステルである乳化剤の存在下で水性媒体に乳化して(乳化工程)、高度不飽和脂肪酸、乳化剤、酸化防止剤及び賦形剤を含むエマルション組成物を得ること、得られたエマルション組成物を乾燥すること(乾燥工程)を含む。
【0077】
本製造方法における乳化工程では、上述した各種成分のうち油性成分を含む油滴が水中に微細分散された水中油滴型エマルション組成物が得られる。この時、賦形剤は乳化工程の前に水相に添加されていてもよいし、乳化後に添加されてもよいが、油滴を包括する観点から乳化前に添加される方が好ましい。
【0078】
ここで原料となるエマルション組成物の製造方法は、特に限定されないが、たとえば、a)水性媒体に、水溶性乳化剤等を溶解させて水相を得、b)油性成分及び他の油性成分を混合・溶解して、油相を得、c)攪拌下で水相と油相を混合して、乳化分散を行い、エマルション組成物を得る、各ステップからなる製造方法が好ましい。
前記製造方法における油相、水相に含有される成分は、前述の本発明に係るエマルション組成物の構成成分と同様であり、好ましい例及び好ましい量も同様であり、好ましい組合せがより好ましい。
【0079】
前記乳化分散における油相と水相との比率(質量)は、特に限定されるものではないが、油相/水相比率(質量%)として0.1/99.9〜50/50が好ましく、0.5/99.5〜30/70がより好ましく、1/99〜20/80が更に好ましい。
油相/水相比率を0.1/99.9以上とすることにより、有効成分が低くならないためエマルション組成物の実用上の問題が生じない傾向となり好ましい。また、油相/水相比率を50/50以下とすることにより、界面活性剤濃度が薄くなることがなく、エマルション組成物の乳化安定性が悪化しない傾向となり好ましい。
【0080】
前記乳化分散は、1ステップの乳化操作を行うことでもよいが、2ステップ以上の乳化操作を行うことが均一で微細な乳化粒子を得る点から好ましい。
具体的には、剪断作用を利用する通常の乳化装置(例えば、スターラーやインペラー攪拌、ホモミキサー、連続流通式剪断装置等)を用いて乳化するという1ステップの乳化操作に加えて、高圧ホモジナイザー等を通して乳化する等の方法で2種以上の乳化装置を併用するのが特に好ましい。高圧ホモジナイザーを使用することで、乳化物を更に均一な微粒子の液滴に揃えることができる。また、更に均一な粒子径の液滴とする目的で複数回行ってもよい。
【0081】
ここで使用可能な乳化手段は、自然乳化法、界面化学的乳化法、電気乳化法、毛管乳化法、機械的乳化法、超音波乳化法等一般に知られている乳化法のいずれも使うことができる。
【0082】
エマルションを微細化するための有用な方法として、PIT乳化法、ゲル乳化法等の界面化学的乳化法が知られている。この方法は消費するエネルギーが小さいという利点があり、熱で劣化しやすい素材を微細に乳化する場合に適している。
【0083】
また、汎用的に用いられる乳化法として、機械力を用いた方法、すなわち外部から強い剪断力を与えることで油滴を分裂させる方法が適用されている。機械力として最も一般的なものは、高速、高剪断攪拌機である。このような攪拌機としては、ホモミキサー、ディスパーミキサーおよびウルトラミキサーと呼ばれるものが市販されている。
【0084】
また、微細化に有用な別な機械的な乳化装置として高圧ホモジナイザーがあり、種々の装置が市販されている。高圧ホモジナイザーは、攪拌方式と比べて大きな剪断力を与えることが出来るために、乳化剤の量を比較的少なくても微細化が可能である。
高圧ホモジナイザーには大きく分けて、固定した絞り部を有するチャンバー型高圧ホモジナイザーと、絞りの開度を制御するタイプの均質バルブ型高圧ホモジナイザーがある。
チャンバー型高圧ホモジナイザーの例としては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、アルティマイザー((株)スギノマシン製)等が挙げられる。
均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等が挙げられる。
【0085】
比較的エネルギー効率の良い分散装置で、簡単な構造を有する乳化装置として超音波ホモジナイザーがある。製造も可能な高出力超音波ホモジナイザーの例としては、超音波ホモジナイザーUS−600、同US−1200T,同RUS−1200T、同MUS−1200T(以上、(株)日本精機製作所製)、超音波プロセッサーUIP2000,同UIP−4000、同UIP−8000,同UIP−16000(以上、ヒールッシャー社製)等が挙げられる。これらの高出力超音波照射装置は25kHz以下、好ましくは15〜20kHzの周波数で使用される。
【0086】
また、他の公知の乳化手段として、外部からの攪拌部を持たず、低エネルギーしか必要としない、スタチックミキサー、マイクロチャネル、マイクロミキサー、膜乳化装置等を使う方法も有用な方法である。
【0087】
本発明における乳化分散する際の温度条件は、特に限定されるものでないが、機能性油性成分の安定性の観点から10〜100℃であることが好ましく、取り扱う機能性油性成分の融点などにより、適宜好ましい範囲を選択することができる。
また、本発明において高圧ホモジナイザーを用いる場合には、その圧力は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは50〜280MPa、更に好ましくは100〜280MPaで処理することが好ましい。
また、乳化分散された組成物である乳化液はチャンバー通過直後30秒以内、好ましくは3秒以内に何らかの冷却器を通して冷却することが、分散粒子の粒子径保持の観点から好ましい。
【0088】
乳化により得られた水中油滴型エマルション組成物は、次いで粉末化工程において、乾燥して粉末化される。
本水中油滴型エマルション組成物では、機能性油性成分が水可溶性包括剤に包括されているので、エマルションを乾燥することにより水易分散性乾燥粉末を得ることができる。この結果、機能性油性成分の微細油滴状態が保持された機能性粉末とすることができる。
【0089】
また、本発明の機能性粉末の製造方法により得られた粉末組成物は、エマルションにおける水分の大半を除かれるので、油滴の合一による粗大化を防止し、機能性油性成分の加水分解等による変質を防止し、保存中の腐敗や黴防止を図ることが可能となる。また、エマルションにおける水分を除いて機能性粉末を得ることで軽量化できるため、輸送コストを大幅に低減することが可能となるものである。
【0090】
乾燥手段としては、公知の乾燥手段を用いることができ、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥、高周波乾燥、超音波乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。これらの手段は単独で用いてもよいが、2種以上の手段を組み合わせて用いることもできる。
本発明では熱に比較的弱い機能性素材を含むことが多いため、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥が好ましい。また、真空乾燥の一つであるが、0℃以下氷結温度以上の温度を保ちながら真空(減圧)乾燥する方法も好ましい。
真空乾燥又は減圧乾燥する場合、突沸によるエマルションの飛散を回避するため、徐々に減圧度を上げながら濃縮を繰り返しつつ、乾燥させることが好ましい。
【0091】
本発明のエマルションの乾燥手段としては、凍結状態にある材料から氷を昇華させて水分を除去する凍結乾燥が好ましい。この凍結乾燥方法では、通常、乾燥過程が0℃以下、通常は−20℃〜−50℃程度で進行するため、素材の熱変性が起こらず、復水過程で味、色、栄養価、形状、テクスチャーなどが乾燥以前の状態に復元し易い事が大きなメリットとして挙げられる。
市販の凍結乾燥機の例としては、凍結乾燥機VD−800F(タイテック(株))、フレキシドライMP(FTSシステムズ社)、デュラトップ・デュラストップ(FTSシステムズ社)、宝真空凍結乾燥機A型((株)宝エーテーエム)、卓上凍結乾燥機FD−1000(東京理化器械(株))、真空凍結乾燥機FD−550(東京理化器械(株))、真空凍結乾燥機((株)宝製作所)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0092】
また、本発明では、乾燥手段として、生産効率と品質を両立する観点から噴霧乾燥法が特に好ましい。噴霧乾燥は対流熱風乾燥の一種である。液状のエマルションが熱風中に数100μm以下の微小な粒子として噴霧され、乾燥されながら塔内を落下して行くことで固体粉末として回収される。素材は一時的に熱風に曝されるが、曝されている時間が非常に短いことと水の蒸発潜熱のため余り温度が上がらないことから、凍結乾燥同様に素材の熱変性が起きにくく、復水による変化も小さいものである。非常に熱に弱い素材の場合、熱風の代わりに冷風を供給することも可能である。その場合、乾燥能力は落ちるが、よりマイルドな乾燥を実現できる点で好ましい。
【0093】
市販の噴霧乾燥機の例としては、噴霧乾燥機スプレードライヤSD−1000(東京理化器械(株))、スプレードライヤL−8i(大川原化工機(株))、クローズドスプレードライヤCL−12(大川原化工機(株))、スプレードライヤADL310(ヤマト科学(株))、ミニスプレードライヤB−290(ビュッヒ社)、PJ−MiniMax(パウダリングジャパン(株))、PHARMASD(ニロ社)等が挙げられるがこれに限定されることはない。
また、例えば流動層造粒乾燥機MP−01((株)パウレック)、流動層内蔵型スプレードライヤFSD(ニロ社)等のように。乾燥と造粒とを同時に行える装置で、乾燥と同時に取り扱い性の優れた顆粒状にすることも好ましい。
【0094】
本発明の粉末組成物は、復水性、すなわち再び水の中に再溶解(再分散)させたとき、乾燥前のエマルションの状態を復元する性質を有する。
【0095】
本発明の水中油滴型エマルションの粒径は市販の粒度分布計等で計測することができる。エマルションの粒度分布測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。
本発明における粒径範囲および測定の容易さから、本発明のエマルション粒径測定では動的光散乱法が好ましい。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))等が挙げられる。
また、エマルション組成物の粒子径は、エマルション組成物の成分以外に、製造方法における攪拌条件(せん断力・温度・圧力)や、油相と水相比率、などの要因によって調整することができる。
本発明における粒径は、前記動的光散乱式粒径分布測定装置を用いて25℃で測定した値を採用する。
【0096】
本発明の粉末組成物では、前記乾燥装置を用いて乾燥を施した後、1質量%の水溶液としたとき(再溶解時)の油滴粒径が、透明性の観点及び吸収性の観点から30nm以上200nm以下であることが好ましく、透明性の観点から、より好ましくは30nm以上130nm以下、最も好ましくは30nm以上90nm以下である。
【0097】
本発明の粉末組成物は、再溶解時の乳化安定性、透明性に優れたエマルション組成物を提供するのみならず、保存時の外観(滲み抑制)も良好なものである。このため、食品組成物、化粧品組成物、医薬品組成物に好ましく適用しうる。
【0098】
本発明の粉末組成物は、粉末として長期保存が可能であり、特に再溶解して水溶性製品、例えば飲料(食品の場合)や化粧水、美容液、乳液、クリームパック・マスク、パック、洗髪用化粧品、フレグランス化粧品、液体ボディ洗浄料、UVケア化粧品、防臭化粧品、オーラルケア化粧品等(化粧品の場合)などに使用した場合には、透明感のある製品が得られる。
特に食品に用いた場合には、粉末状の食品として長期保存が可能であり、保存時に滲み等がなく好ましい外観を提供する。また本発明の粉末組成物を含む粉末状の食品では、水性媒体に溶解したときには、微細な分散粒子を有する透明性に優れた分散組成物となり、外観上好ましいだけでなく良好な吸収性も示し得る。
【0099】
ここで、本発明の機能性食品の形態としては、栄養ドリンク、滋養強壮剤、嗜好性飲料、冷菓などの一般的な食品類のみならず、錠剤状・顆粒状・カプセル状の栄養補助食品なども好適に挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
本発明の機能性食品は、本発明の粉末組成物と、所望の目的を達成するための添加可能な任意の成分とを、常法により混合等して、得ることができる。
【0100】
機能性食品として用いられる場合には、本発明の粉末組成物の添加量は、製品の種類や目的などによって異なり一概には規定できないが、製品に対して、0.01〜10質量%、好ましくは、0.05〜5質量%の範囲となるように添加して用いることができる。
添加量が0.01質量%以上であれば目的の効果の発揮が期待でき、10質量%以下であれば、適切な効果を効率よく発揮できることが多い。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」と「%」表示してあるものは、特に断らない限り質量基準である。
【0102】
[実施例1]
<粉末組成物の調製>
下記及び表1に示される水相成分を、70℃で加熱しながら、混合攪拌して溶解した後、600W超音波ホモジナイザー((株)日本精機製作所社製 US−150T)にて90秒間、粗分散して、水性組成物Aを得た。また下記及び表1に示される油相成分を、70℃で加熱しながら、混合攪拌して溶解して、油相組成物Aを得た。
なお、ショ糖ラウリン酸エステルはリョートーシュガーエステルL−1695(三菱化学フーズ製)、モノラウリン酸デカグリセリルは日光ケミカルズNIKKOL Decaglyn 1−L、レシチンはレシオンP(理研ビタミン(株)製)、イヌリンはフジFF(フジ日本精糖(株)製)を、DHAはDHA−70(DHA=70%、EPA=3.6%:マルハ(株)製)、ミックルトコフェロールは理研Eオイル800(理研ビタミン(株)製)を用いた。
【0103】
作製した水相組成物Aに油相組成物Aを添加して、600W超音波ホモジナイザーにて3分間分散を行い、粗分散乳化物Aを得た。
次いで、粗分散乳化物Aを、ミニラボアルティマイザー HJP−25001(株式会社スギノマシン製)を用いて、245MPaの圧力及び60℃の温度での高圧乳化処理を3回繰り返して、乳化物Aを得た。
【0104】
[水相成分A]
・ショ糖ラウリン酸エステル 12.7g
・モノラウリン酸デカグリセリル 3.5g
・レシチン 0.5g
・イヌリン 55.0g
・水 200.0g
【0105】
[油相成分A]
・DHA 25.9g
・ミックストコフェロール 1.6g
【0106】
得られた乳化物Aを次いで、スプレードライ(ミニスプレードライヤADL−310:YAMATO製)にて、温度140℃、エア圧力0.15MPaの条件で乾燥処理を行い、サイクロンで粉末を捕集し、粉末組成物Aを得た。
【0107】
<評価>
乾燥工程前の乳化物と、得られた粉末組成物の評価は、以下のとおりに行った。これらの評価結果を表2に示す。
(1)粒径測定
水相成分及び油相成分により得られた乳化物中の乳化粒子の体積平均粒径は、純水で20倍希釈し、また粉末組成物は固形分濃度が1%となるように純水で希釈し濃厚系粒径アナライザー FPER1000(大塚電子(株)社製)を使用して測定した。
【0108】
再分散エマルション組成物における乳化粒子の体積平均粒径は、1.0gの粉末組成物を、99.0gの純水に添加して、マグネチックスターラーにて5分間攪拌を行った。得られた水性エマルションについて、動的光散乱粒径分散測定装置FPAR−1000(大塚電子(株)製)を使用して、25℃にて粒径測定を行った。平均粒径の値はメジアン径で示した。
【0109】
(2)透明性
透明性は目視での性状変化に基づいて行った。乳化直後と、再溶解時の水性エマルションの性状を目視観察して、下記の評価基準によって評価した。
透明 :混合直後品と見た目の性状変化が認識できない。
ほぼ透明 :液に若干濁りが感じられる。
白濁・析出:激しく濁りが生じている。液が分離している。析出が起こっている。
【0110】
(3)滲み
粉末組成物を30日間室温で保存後、目視にて観察した。
滲みなし :何ら変化が目視で確認されない
若干の滲み:目視で僅かな不均一性(色調変化)が確認できる
滲みあり :面積比でおおよそ10%以上の不均一性(色調変化)が確認できる
【0111】
[実施例2〜7]
実施例1における各相成分を以下のように変更した以外は実施例1と同様にして、乳化物B〜G及び粉末組成物B〜Gを得た。粒径、透明性及び滲みに関する評価を実施例1と同様に行った。各評価結果を表2に示す。
なお、ショ糖ステアリン酸エステルはリョートーシュガーエステルS−1670(三菱化学フーズ製)、ショ糖ミリスチン酸エステルはリョートーシュガーエステルM−1695(三菱化学フーズ製)、ショ糖オレイン酸エステルはリョートーシュガーエステルL−1570(三菱化学フーズ製)、1−ケストースはGF−2(オリゴ糖:明治製菓製)を用いた。またDHA−22(マルハ(株)製)はDHA=22%、EPA=6%の混合物である。
【0112】
[比較例1〜5]
実施例1における各相成分を以下のように変更した以外は実施例1と同様にして、乳化物H〜L及び粉末組成物H〜Lを得た。粒径、透明性及び滲みに関する評価を実施例1と同様に行った。各評価結果を表2に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
表2の結果より、実施例1〜7の粉末組成物A〜Gはいずれも30日間の保管後であっても滲みがなく、再分散させて得られた水性エマルションでは200nm以下の粒子径の分散粒子を含むと共に良好な透明性を示した。従って、本発明の粉末組成物は、良好な保存安定性を示すと共に、再溶解では透明性に優れ、油性成分の良好な吸収性を示す水性エマルションを提供することができた。
これに対して、高度不飽和脂肪酸の含有量が30質量%以上の場合(比較例1)では保管時の安定性に欠け、滲みが生じた。また、ショ糖脂肪酸エステルの含有量が乳化剤に対して50質量%未満の場合(比較例2)及び、95質量%超の場合(比較例3)では、再溶解時の粒子径が200nmを超え、安定性と吸収性に劣ることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度不飽和脂肪酸、酸化防止剤、乳化剤及び賦形剤を含むエマルション組成物を乾燥して得られる粉末組成物であって、前記乳化剤が、当該乳化剤の全質量の50質量%以上95質量%以下の炭素数12〜18の脂肪酸のショ糖エステルを含み、前記高度不飽和脂肪酸が該粉末組成物の全質量の10質量%以上30質量%以下である粉末組成物。
【請求項2】
前記高度不飽和脂肪酸が、DHA及びEPAの少なくとも一方を含有する精製魚油、又はDHAを含有する藻類由来の油脂である請求項1記載の粉末組成物。
【請求項3】
前記乳化剤が、ポリグリセリン酸脂肪酸エステル及びリン脂質の少なくとも一方を更に含む請求項1又は請求項2記載の粉末組成物。
【請求項4】
前記乳化剤が、前記高度不飽和脂肪酸を含む油性成分の全質量に対して0.6倍量以上1.6倍量以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の粉末組成物。
【請求項5】
前記粉末組成物を水に分散させたときの分散粒子の体積平均粒子径が30nm以上200nm以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の粉末組成物。
【請求項6】
前記賦形剤が、前記高度不飽和脂肪酸を含む油性成分の全質量に対して0.7倍量以上2.0倍量以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の粉末組成物。
【請求項7】
前記賦形剤が多糖類である請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の粉末組成物。
【請求項8】
前記乳化剤が、該乳化剤の全質量の20質量%以下のリン脂質を含む請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の粉末組成物。
【請求項9】
前記酸化防止剤が、トコフェロール、トコトリエノール及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種以上を含む請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の粉末組成物。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項記載の粉末組成物を含む食品。

【公開番号】特開2010−155799(P2010−155799A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334600(P2008−334600)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】