説明

粒状肥料等の散布装置

【課題】作業開始時や作業途中で累計繰出量を適正に確認でき、書き込み頻度を少なくして耐用期間の確保を図る。
【解決手段】設定散布量情報及び走行機体の走行伝動部の回転検出によって出力される車速情報から前記繰出ロール(20a,20b,20c,20d)の繰出回転数を算出するコントローラ(15)を設け、この繰出回転数で前記ロール駆動軸(21)を駆動する駆動手段(25)を備えた粒状肥料等の散布装置において、繰出ロールの累積回転数と該繰出ロールの単位回転毎の既定の繰出量とによって累計繰出量を算出する手段と、前記コントローラ(15)が電源入りから電源切りになったことを検出し前記累計繰出量を不揮発メモリ(63)に書き込む構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タンクに収容された粒状肥料等の粒体を繰出装置で繰り出しながら、墳管によって繰出粒体を圃場に散布する粒状肥料等の散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外部からの入力要素として、面積当りに散布する散布量を設定する散布量、散布幅、散布速度、散布物の密度、繰出ロールの大きさを夫々設定することにより、墳口からの1分間の吐出量を知って、繰出ロールの回転数を求める構成が公知である(特許文献1)。
【0003】
また、散布量の累計値を算出して表示する構成がある(特許文献2)。
このように構成すると、上記外部入力要素をツマミ等操作により入力することにより、ロール軸の回転数が制御され、さらに、散布量の累計値が知れて作業状態の適否等を把握できることとなり便利である。
【特許文献1】特許第2706758号公報
【特許文献2】特開2006−20507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の散布装置では、散布量の累計値の表示については所定の操作を行う必要があって、オペレータが認識している場合においてのみ表示される構成であった。したがって、累計値情報としてオペレータが入手するタイミングを失してしまい、適切な累計値確認を行えないこととなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、タンク(10)の下方に、ロール駆動軸(21)上に単位回転当りの繰出量を大小異ならせた複数又は複数組の繰出ロール(20a,20b,20c,20d)を備える繰出装置(11)を設け、散布量設定手段(58,59U,59D)の設定散布量の大小に対応して予め設定された前記繰出ロール(20a,20b,20c,20d)又は繰出ロール組を繰出駆動するよう構成し、前記設定散布量情報及び走行機体の走行伝動部の回転検出によって出力される車速情報から前記繰出ロール(20a,20b,20c,20d)の繰出回転数を算出するコントローラ(15)を設け、この繰出回転数で前記ロール駆動軸(21)を駆動する駆動手段(25)を備えた粒状肥料等の散布装置において、繰出ロールの累積回転数と該繰出ロールの単位回転毎の既定の繰出量とによって累計繰出量を算出する手段を設けると共に、前記コントローラ(15)が電源入りから電源切りになったことを検出し前記累計繰出量(QT)を不揮発メモリ(63)に書き込む構成とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記コントローラ(15)への電源入り時に不揮発メモリ(63)に記憶された累計繰出量(QT)を一定時間表示部(56)に表示出力する構成とした。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2において、駆動手段(25)によって作動される左右一対の繰出装置(11,11)を備え、一対の繰出装置(11,11)と駆動手段(25)との間に、繰出装置(11,11)を各別に駆動し又は非駆動とするクラッチ手段(28L,28R)を設け、該クラッチ手段(28L,28R)による片側散布状態を検出する片側散布検出手段(70)を設け、片側散布検出時は累計繰出量算出の係数を1/2に設定する。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3に記載の発明において、前記コントローラ(15)に入力される走行機体の車速情報が異常であるか否かを検出する手段を備え、異常時には車速代替値を付与して散布作業を継続しこの作業継続中においても累計繰出量を算出し表示出力する構成とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明は、キースイッチオフで累積繰出量を不揮発メモリに書き込むことで、書き込み頻度を少なくでき耐用期間を長期に維持できる。
請求項2に記載の発明は、累計繰出量の確認忘れを防止し、作業時の累計値表示の適正化が図れる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、一筆圃場で両側、片側散布を行うとき、圃場当たりの累計繰出量の精度が向上する。
請求項4に記載の発明は、車速入力異常で散布を継続するとき、散布量の目安を確認できるものとなるが、ロール駆動モータ25の回転数を検出し、ひいてはロール回転数を算出するものであるから、走行機体の速度の変動に関わりなく、累計繰出量を算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいてこの発明の実施態様について説明する。
まず、図1と図2に示すように、粒状散布装置1は、乗用管理機2の後部に装着される。前部にエンジン3を搭載し、エンジン回転を適宜に変速して前後車輪4,5を伝動する乗用管理機2機体の後部には、左右一対のタンク10,10を装着する。上記粒状散布装置1は、該タンク10、繰出装置11、送風装置12、第1噴管13、第2噴管14、制御部15等からなる。
【0012】
前記一対のタンク10,10の夫々に該タンク10から所定量の散布粒剤を繰出す繰出装置11が設けられる。繰出装置11は複数形態のロール20をロール駆動軸21に構成するもので、繰出凹部を同じ容量として周方向に複数形成した第1ロール20a、該第1ロール20aと同形態の第2ロール20b、第3ロール20c、及びこれらロールよりも短く且つ凹部深さを浅く形成した第4ロール20dを1組とし、このうち第1,第2ロール20a,20bをワンウェイクラッチ22,22を介してロール駆動軸21に装着し、第3ロール20c及び第4ロール20dは該ロール駆動軸21に一体的に装着される構成である。
【0013】
従って、ロール駆動軸21が正転駆動するときは、ワンウェイクラッチ22,22の連動作用をもって第1,第2ロール20a,20bが駆動されるため、第1〜第4ロール20a〜20d全部が駆動される構成である。逆にロール駆動軸21が逆転駆動するときは、第1,第2ロール20a,20bは停止し、第3ロール20c,第4ロール20dが駆動される。
【0014】
一方前記タンク10内は平面視コ型の仕切壁10aを備え、繰出装置11の第1〜第3ロール20a〜20cに対応する区画Aと第4ロール20dに対応する区画Bとに区分される構成となっている。区画Aには一般的な施肥用粒剤用として、区画Bには少量散布が要求される除草剤用として使用されるよう設けられている。従って、ロール駆動軸21が正転するときは、第1ロール20a〜第3ロール20cが回転連動し区画Aの粒剤が繰出状態とされ、逆転するときは区画Aの第3ロール20cのみの繰出し状態となる。なお、区画Bに除草剤を投入するときは、この逆転連動によって少量散布がなされる。
【0015】
以下の説明においては、第1〜第3ロール20a,20b,20cの繰出し状態を大供給状態、第3ロール20cの繰出し状態を中供給状態、第4ロール20dの繰出し状態を小供給状態という。また、これら大・中・小の3形態の繰出し状態において用いるロール又はロール組をもってロール種類が設定される。
【0016】
左右一対のロール駆動軸21,21はこれ等と直交するモータ連動軸23にベベルギヤ24群によって連動される構成である。モータ連動軸23は、駆動手段としてのロール駆動モータ25のモータ駆動軸26にカップリング27で連結されるものである。なおロール駆動モータ25は正・逆転切り替え連動する構成である。
【0017】
また、前記モータ連動軸23と左右の各ロール駆動軸21,21との間には、クラッチ手段28L,28Rを備え、モータ連動軸23の回転を左側のロール駆動軸21へ伝達し又は非駆動の状態に切換え、該モータ連動軸23の回転を右側のロール駆動軸21へ伝達し又は非駆動の状態に切換できる構成とし、該クラッチ手段28L,28Rは、運転席近傍の左・右ブーム散布レバー29L,29Rによって各別に操作できる構成としている。
【0018】
前記一対の繰出装置11,11の下方には夫々通気筒30,30をのぞませ、該通気筒30,30の一端は送風装置12を備えた送風筒31に連通される。そして下流側他端は第1噴管13に連通接続される構成である。
【0019】
上記送風装置12は、乗用管理機2のPTO軸32に電磁クラッチ12bを介して連動する送風ファン12aによって構成され、その噴風は前記送風筒31を経由して通気筒30に入り繰出粒状物を気流に乗せて移送し第1噴管13に至る構成である。この送風筒31の途中には風量調節弁33を備え、風量調節レバー34によって軸回りに回動調節できる構成としている。
【0020】
第1噴管13には移送上流側から側壁部に設ける整流板35、底部に設けるジャンプ台36、同じく底部の衝突板37を配設している。38はジャンプ台36と衝突板37との間に形成する所定口径の噴口である。
【0021】
前記左右各第1噴管13には夫々蛇腹管40を介して屈曲自在に第2噴管14を接続する。即ち、蛇腹管40の先端に筒体42を設け、該筒体42はアーム体43を介して縦支軸44周りに回動自在に構成され、該アーム体43と機枠側との間に電動式の伸縮シリンダ45を介在し、電動モータ46の正転による伸び出しによって第2噴管14を作業姿勢となるよう横向きに拡げ、逆転による短縮によって第2噴管14を機体に沿う状態に収納する構成である。電動モータ46は左右一対に設けられ、左・右ブーム開閉スイッチ41L,41Rの操作によって正転又は逆転に切り替えできる構成である。
【0022】
上記筒体42には横支軸47を設け、第2噴管14はこの支軸47を介して連結されていて、上記収納姿勢への動きのほか、横支軸47周りに回動させることによって上下に回動しうる構成となり、垂直の収納姿勢と水平の作業姿勢とに姿勢切り替えできるもので、手元の左・右調整レバー(図示せず)の操作に基づき左側又は右側の第2噴管14L,14Rを垂直姿勢(非作業姿勢)又は水平姿勢(作業姿勢)に切り替えることができる。49L,49Rは第2噴管14Lまたは14Rを連動操作するための牽引ロープである。
【0023】
前記第2噴管14には所定間隔毎に所定口径の噴口50,50…を形成している。
次いで上記構成の粒状散布装置1の制御部15について説明する。制御部15は、施肥コントローラ15A,モータコントローラ15B、及び本機コントローラ15Cを夫々接続して備え(図7)、このうち施肥コントローラ15Aは、施肥や除草剤散布に必要なデータ、例えば前記ロール駆動モータ24のモータ回転パルス、左・右ブーム散布レバー48L,48Rによる選択情報、送風ファン12aの駆動情報、前記タンク10に設ける残量センサ54,54検出信号等を入力する一方、モータコントローラ15Bへモータ回転出力パルス信号、モータ回転方向切替信号等を出力する(図8)。
【0024】
上記本機コントローラ15Cは車速を検出する手段からの車速データを施肥コントローラ15Aに送信する構成である。
また、施肥コントローラ15Aは、操作パネル55に配設するスイッチ類の情報を入力する。前記図の操作パネル55における液晶表示部56の近傍には、可変スイッチ57、施肥設定スイッチ58、増・減スイッチ59U,59D、累計リセットスイッチ60を配設し、これらの操作スイッチ信号は施肥コントローラ15Aに入力される構成である。なお、液晶表示部56の表示内容は、施肥量設定値、比重値、メモリー値、累計値を夫々表示でき、表示切換スイッチ61のオン操作で順次切換表示すべく出力される。
【0025】
図11のフローチャートに基づき詳細に説明する。機体のキースイッチを操作しコントローラ15が電源オンされると、所定短時間だけ表示セグメントがすべて点灯し(ステップ101〜103。図10(1))、次いで不揮発メモリ63に記憶された累計繰出量が所定時間表示される(ステップ104,105。図10(2))。また所定時間が経過すると記憶されている設定施肥量(kg/10a)が表示され(ステップ106。図10(3))、工場出荷時の入力値又は前回作業終了時に設定された値となる。なお適宜変更設定によって異なる数値が表示される(図10(4))。その後、表示切換スイッチ61の操作に従って順次、比重→メモリーモード→累計繰出量を繰り返し表示できる構成である(ステップ107〜ステップ111。図10(5)、(6)、(2))なお、設定施肥量は整数表示であり、増・減スイッチ59U,59Dの操作によって設定できる。比重(kg/1000cm)表示は小数点以下2桁表示であり(同(4))、同様に増・減スイッチ59U,59Dで大小値に設定変更できる。
【0026】
メモリーモードの表示(図10(6))は、後記のメモリーモードで設定されたメモリー番号を表示する構成である。累計繰出量表示(図10(2))は、累計リセットスイッチ60で累計量を0にリセットしてからの累計繰出量を算出して表示する構成である。算出手段等については後述するが、累計繰出量はコントローラ15への電源オフ、即ちキースイッチ62オフ後、不揮発メモリ63に累計繰出量が書き込み記憶される。
【0027】
上記のほか、前記ロール駆動モータ24の停止異常や回転異常を検出すると、現在選択の表示項目を数秒間、エラー表示(図10(7))を数秒間交互表示する構成である。図10(8)は、非常運転モードに入ったときに現れる表示であり、可変スイッチ57を押しながらキースイッチ62をオンすることで施肥量設定値表示としている。図10(9)は後記システム設定モードの表示であり、施肥設定スイッチ58押したままをキースイッチオン時に移行するときの表示、図10(10)は、同じく通信運転モードに入ったときの表示であり、表示切換スイッチ61を押しながらキースイッチ62をオンすることで表示切換できる。
【0028】
施肥コントローラ15Aは、6種の異なる制御モードが組み込まれている。即ち、自動モード、可変モード、メモリモード、非常運転モード、システム設定モード、及び通信運転モードである(図9)。
(自動モード)
各種設定モードの選択設定を行なわず単にキースイッチ62をオンすると自動モードに入る。この自動モードは、単位面積当たりの施肥量が一定になるよう、施肥量設定値および車速に対応して繰出装置11のロールを駆動する前記モータコントローラ15Bにモータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)を出力する構成である。
【0029】
作業開始前に施肥設定スイッチ58をオンして現在設定の施肥量(反当り施肥量(kg))を表示させ、これからの作業に見合う施肥量であるか否か確認し、相違するときは増スイッチ59U又は減スイッチ59Dによって1kg単位で変更し、再度施肥設定スイッチ58を所定時間以上(例えば2秒以上)オンするとその値A(kg)が記憶される(図12、ステップ201)。
【0030】
次いで比重設定を行なう(ステップ202)。表示切換スイッチ61をオンし「比重」を選択すると、現在の設定値が表示される。これからの作業に見合う比重値であるか否か確認し、相違するときは増スイッチ59U又は減スイッチ59Dによって0.01単位で変更し、再度施肥設定スイッチ58を所定時間以上(例えば2秒以上)オンするとその値D(g/cm)が記憶される。
【0031】
前記のように、上記施肥量Aが予め設定された設定値大、中、小のいずれの範囲に該当するかによって、前記繰出装置11のどのロールを用いるか、即ちロール種類が判定される。本実施例の場合には、施肥量の判定がなされると(ステップ202〜ステップ205)、ロール駆動モータ24の回転方向が決定されるよう構成している。即ち、施肥量Aが例えばa1(例えばa1=25kg)以上の大散布量に該当するときは、前記第1ロール20a、第2ロール20b、及び第3ロール20cが作動するようロール駆動モータ24に正転信号が出力される(ステップ206、208)。
【0032】
同様に施肥量Aがa2≦A≦a1(例えばa2=5kg)の中散布量に該当するときは、前記第3ロール20cが作動するようロール駆動モータ24に逆転信号が出力される(ステップ204、207)。
【0033】
そして施肥量AがA<a2の小散布量に該当するときも第4ロール20dが作動するようロール駆動モータ24に逆転信号が出力される(ステップ205、207)。なお、中散布量とは同じモータ逆転信号が出力されるが、区画A又は区画Bのいずれに散布物が貯留されるかによって繰出装置11からの繰出散布物が決定されるものである(ステップ208、209)。
【0034】
上記のように、散布物の散布量設定によって大小に繰出量が異なるように設定されまたは用いる繰出ロールの組合せを変更設定することによりロール種類1、種類2又は種類3が判定され駆動状態に設定される。
【0035】
上記実施例では、ロール種類判定後のロール駆動軸21の駆動を正転又は逆転によって異ならせ、繰出装置11による繰出量を設定変更するよう構成したが、同軸芯の複数のロール駆動軸毎に繰出量を異ならせた繰出ロールを設け、散布量の設定によって判定されたロール種類に該当するロールを接続するロール駆動軸を駆動出力すべくモータ出力したり、複数の駆動モータに代替してクラッチ機構を介在して必要なクラッチを選択することによって必要なロールを駆動するよう構成してもよい。
【0036】
また、本実施例では、タンク内を区画A、区画Bに仕切ってロール種類の選択設定を行なう構成としたが、ロール駆動軸21の回転、停止や回転方向の選択のみにて行なう構成でもよい。
【0037】
前記のようにモータ駆動回転方向の判定がなされた後は、車速信号の入力、設定比重の判定の後、ロール回転数が決定される(ステップ210〜212)。
即ち、前記設定施肥量A(kg/10a)、比重D(g/cm)を用い、ロール回転数Rb(min−1)とすると、
A=1000×{2×(C×D/1000)×Rb}/(60×W×S)
=(2×C×D×Rb)/(60×W×S)
となる。ここで、Wは散布幅(m)、Sは作業速度(車速)(m/sec)、Cはロール容積(cm/rev)を示す。従って、ロール回転数Rbは、
Rb=(A×60×W×S)/(2×C×D)
=(A×W×S×30)/(C×D)
によって算出される。
【0038】
ここで、車速Sは、乗用管理機2のミッションケース6内に設ける走行系伝動軸65に車速検出用ギヤ66を配設し、外周の凹凸に伴うパルス数をピックアップセンサ67で検出し本機コントローラ15Cに出力すると共に、該センサ出力は施肥コントローラ15Aに送信され、スリップ率α、タイヤ径に関連するタイヤ係数K1を用い、
S=z×n×(1−α)×K1
によって、算出される。なお、zは定数、nは検出パルス数を示す。
【0039】
前記のように車速S他に基づき施肥コントローラ15Aで算出されたロール回転数Rbは、モータコントローラ15Bに出力され、この算出値に基づきロール駆動モータ25を回転連動する。
【0040】
なお、機体走行開始によって車速Sが規定値に達するとモータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)を出力し、規定値以下になると走行停止と判定してモータ回転出力パルスを出力停止する。また、走行中であっても、散布スイッチ69がオフされたり、ファンスイッチ70「切」のときはモータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)を出力停止する。さらに、車速が高速になり、モータ回転数計算値が予め設定した上限値を超えたときは、長音間欠でブザー71をオンする。
【0041】
前記モータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)出力中は、設定値や施肥量累計値が変更の都度E2PROMに記憶され、キーオフ検出による電源オフ直後の施肥量累計値が書き込み記憶される。
【0042】
図14はモータ逆転処理のタイムチャートである。施肥量設定値Aが少量範囲、例えば25kg以下のときは、モータ回転方向が切り替えられ、ロール駆動モータ25を逆転させるモータ回転方向切替出力をオンする。このモータ回転方向切替出力はモータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)の出力又は出力停止に関わらず、施肥量設定値が上記少量範囲を越えるまではオンしたままとしている。
【0043】
モータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)出力中に設定施肥量が変更され少量範囲からこれを超える範囲に変更されたとき(又は逆の状態)は、回転方向切替をそのままとしモータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)を出力停止して、所定短時間(例えば100msec)経過後に回転方向切替の出力と、モータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)を再出力する構成である。
(可変モード)
前記のように予め設定した施肥量による自動モードで作業中に、一時的に施肥量の設定を変更するもので、可変スイッチ57をオンすることにより当該可変モードに移行し、再度可変スイッチ57をオンすることにより可変モードを終了し、自動モードに復帰する。
【0044】
可変モード期間中は可変ランプ72を点灯させる。
なお、施肥量の設定変更は、施肥設定スイッチ58をオンして現在設定の施肥量(反当り施肥量(kg))を表示させ、可変モードによる施肥量を増スイッチ59U又は減スイッチ59Dによって1kg単位で変更し、再度施肥設定スイッチ58を所定時間以上(例えば2秒以上)オンすると変更施肥量値A´が記憶される。なお変更設定した値は可変モード期間中のみの設定値とし、E2PROMへの書き込みは行なわないよう構成している。
【0045】
また、変更施肥量A´によるロール回転制御は前記自動モードに準じる構成である。
なお、当該可変モード中においても、施肥量設定値が所定少量範囲内におけるときはモータ回転方向切替をオン出力する一方、次のような制限を設けている。即ち、可変モード中に表示切換スイッチ61で表示インジケータを切換えたときは、通常モードとは異なり、施肥量設定と累計の切り換えだけで、比重、メモリの表示は行なわない構成とし、また可変モード期間中はメモリーモードへの移行は行なわない構成である(図15)。
(メモリーモード)
圃場データとして、設定施肥量Aと比重Dとをセットで予めE2PROMに記憶させておき、作業時にそのデータを読み出して設定する。
【0046】
設定変更した施肥量に対する車速連動制御は自動モードに準じる。
表示切換スイッチ61でメモリーインジケータを点灯し、液晶表示部56に圃場コード「H−01」を表示し、増・減スイッチ59U,59Dを押すと表示値が1単位で増減する。所定の圃場コードに設定するときは施肥設定スイッチ58を所定時間、例えば2秒以上押すことで実行される。
【0047】
なお、メモリーモード中に施肥量設定、比重、累計のインジケータが点灯していない状態で施肥設定スイッチ58を所定時間、例えば2秒以上押すとメモリーモードを終了し通常のモードに戻る構成である。
【0048】
メモリーモード中に表示切換スイッチ61でデジタルLCDを施肥量設定および比重に変更した後、増・減スイッチ59U,59Dで自動モードと同様に設定値の変更を行なうことができる。
【0049】
メモリーモードにて運転中においても、可変スイッチ57の操作にて可変モードに移行でき、施肥量の設定変更を行なうことができる。
(非常運転モード)
本機コントローラ15Cから車速パルス信号が入力されない場合、非常運転モードに移行することでモータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)をモータコントローラ15Bに出力し、施肥作業を行なうことを可能にするモードである(図16、17)。
【0050】
該非常運転モードへの移行は前記可変スイッチ57を押しながらキースイッチをオンすることにより行なう。
本機の走行および停止に関わらず、モータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)を出力する。ここで、施肥コントローラ15Aは、前記自動モードと同様施肥量設定値からロール回転数を算出し、モータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)を決定するが、ロール回転数算出時の車速に代えて予め記憶させた固定値S´を用いて計算する。
【0051】
従って、例え車速パルスを入力してもこれを無視して固定値S´に基づくモータ回転出力パルスを出力するものである。なお、計算結果がロール回転数範囲外になったときは、ロール回転数の上限値および下限値に基づくモータ回転出力パルスとする。
【0052】
施肥量および比重の設定は、自動モードと同様の操作で比重設定を行なうことができるが、設定した値は非常運転モードにおいてのみ有効で、E2PROMへの書き込みは行なわない。また、設定値が変更されてから所定時間(例えば1秒間)スイッチ操作がなければ、その値を施肥量設定値として表示し、モータ回転数の変更を行なう。
【0053】
前記車速パルス信号の正規の入力の有無は車速表示器の車速とオペレータの体感車速との相違による判定のほか、以下のように自動判定することもできる。
図18に示す例は、車速センサと本機コントローラ15Cとの接続の有無を自動検知することによって車速パルスの有無を判定しようとする。車速センサにセンサ付きの信号を併設し、その信号をコントローラで車速付き入力として読込み、車速センサ付きになっていないときは、車速を固定値として繰出し回転数を計算し、モータ出力を行なうものである。このように構成すると、車速センサを取り外すことにより、非常運転モードに入ることができるため、車速センサ故障時でも散布作業を継続することができる。
【0054】
また、図19に示す例は、車速センサに異常があり車速検出が正常に行なわれない場合、一時的なもので復帰した場合は、回転数変化に追従しないことで作業性能を低下させず、異常が続いた場合は警報で知らせることで、オペレータは適切な処置を行なうことができる。
【0055】
前記のように、車速センサを備えず又は車速センサに異常があるとき、コントローラへは車速データに代替して固定値が付与され、散布作業を継続できる。この継続散布作業中にあっても、液晶表示部56へ累積施肥量を表示すべく出力するものである。累計施肥量の算出については、後述のとおりである。
(システム設定)
施肥量設定値と比重からモータ回転出力パルス周期を算出するときの「散布幅」、「タイヤ径」、「スリップ率」等の設定を行うモードで、前記施肥設定スイッチ58を押しながらキースイッチをオンすることによって移行する構成としている。
【0056】
散布幅、タイヤ径、スリップ率の夫々設定は、表示切換スイッチ61操作に伴い液晶表示部56を、夫々施肥量設定インジケータ、比重インジケータ、メモリーインジケータに設定し、増・減スイッチ59U,59D操作によって所定の設定値に変更できる構成としている。
(通信運転モード)
コントローラ15外部からの通信データにより施肥量設定値をコントローラ15に入力し、その設定値により施肥作業を行なうもので、前記表示切換スイッチ61を押してキースイッチをオンさせることにより移行する。
【0057】
次いで、前記各モード運転中に共通の回転数異常について説明する。
施肥量設定値と車速等から算出した設定ロール回転数(Rc)とモータ回転パルスから所定時間毎に算出した検出ロール回転数(Rn)とを比較し、例えば以下の状態が所定時間継続するとモータ停止異常またはモータ回転異常と判定するように構成している。なお、係数は適宜に変更設定できる。
【0058】
Rc×1.1<Rn
Rc×0.9>Rn
ただし、散布開始時にモータ回転出力パルスをオンしてから所定時間(例えば1秒間)、及び散布中に施肥量設定値を変更してから所定時間(例えば1秒間)は上記判定を行なわないようにし、誤判定を防止している。
(施肥量累計表示)
前記モータコントローラからの繰出モータの回転パルスとロールの種類により実際に繰出された繰出量を算出し、累計値として前記液晶表示部56に表示するものである。
【0059】
なお、ロールの回転数Rd(回/分:rpm)は、次式によって算出する。即ち、
Rd=60/td
ここで、tdはロール1回転時間(秒)であり、繰出モータの回転パルス数をカウントして、施肥ロールの1回転を判定するものとしており、例えば、ロール駆動モータ25の1回転当たりのパルス数をp、ロール減速比を1/Zとすると、ロール1回転=p×Z(パルス)となる。
【0060】
なお、上記tdは、このp×Z(パルス)に要する時間(秒)である。
そして、ロール1回転当たりの繰出量Q(kg)とすると、理論的には、
Q=D×Cn/1000
であらわされる(Dは比重(g/cm)、Cはロール容積(cm/rev))。
【0061】
しかしながら、粒状肥料がホッパから繰出ロール20へ進入する具合はロール回転数に影響されて変動するなどから、補正量{(cf/Cn)×Rd}の影響を除去する必要がある。cfは補正係数で、(cf/Cn)は繰出ロール20の種類毎に設定された定数である。nは(=1,2又は3)、前記ロール種類1,2及び3に対応するものであり、C1,C2,C3は各ロール種類毎に設定された定数である。
そして、これを考慮すると、
Q=D×Cn×{1−(cf×Rd)/Cn}/1000
=D×(Cn−cf×Rd)/1000
となる。
【0062】
更に、累計繰出量QT(kg)は、前回までの累計繰出量Q´(kg)とすると、
QT=QT´+2×{D×(Cn−cf×Rd)/1000}
となる。この累計繰出量は、コントローラ15の電源をオフする際、即ちキースイッチ62をオフ操作したときのタイミングで不揮発メモリ63に記憶させる構成としている。なお、コントローラ15の電源をオフするとコンデンサの機能によって所定時間電気的機能を継続できるよう構成しており、不揮発メモリ63への記憶時の電源を確保できる構成としている。
【0063】
上記式において、定数2は左右2連のタンク10,10及び繰出機構11,11を備えるための数値である。従って片側散布のときは、
QT=QT´+×{D×(Cn−cf×Rd)/1000}
によって算出する構成とし、即ち、係数1/2を掛けることによって算出する構成である。なお、片側散布であるか否かは、前記左・右ブーム散布レバー29L,29Rの操作圏内に設ける片側散布検出手段70の片側検出結果に基づく。具体的には、左・右ブーム散布レバー29L,29Rの夫々停止操作側にリミットスイッチ形態の検出部を備え、いずれか一方のリミットスイッチがレバー29L又は29Rを検出しているときが片側散布状態となる。
【0064】
ところで前記累計繰出量の表示は、前記液晶表示部56に前記に記載したように表示されるが、前記のように構成すると便利である。
即ち、キースイッチ62をオンしたとき、累計繰出量QTが不揮発メモリ63に記憶されているときは、その内容を一定時間だけ液晶表示部56に表示させる構成とするものである。このように構成すると、累計繰出量の確認忘れを防いで作業時の累計洗浄値表示の適正化が図れる。なお、前回作業終了時に累計リセットスイッチ60操作されて記憶された累計繰出量が0のときは表示を省略してもよい。
【0065】
機体の車速情報が入力されないときは、散布継続のため、予め設定した固定値を当てはめてロール回転数を求めるものである。散布量の目安を確認できるものとなるが、ロール駆動モータ25の回転数を検出し、ひいてはロール回転数を算出するものであるから、走行機体の速度の変動に関わりなく、累計繰出量を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】粒状施肥装置を装着した乗用管理機の平面図
【図2】粒状施肥装置を装着した乗用管理機の背面図
【図3】粒状施肥装置の繰出装置の平面図
【図4】粒状施肥装置のタンク部平面図
【図5】粒状施肥装置の繰出装置の側面図
【図6】操作パネル部平面図
【図7】コントローラ接続一例を示す概要図
【図8】施肥コントローラの制御ブロック図
【図9】フローチャート
【図10】液晶表示部の表示一例を示す図である(1)〜( )
【図11】フローチャート
【図12】フローチャート
【図13】タイムチャート
【図14】タイムチャート
【図15】タイムチャート
【図16】タイムチャート
【図17】フローチャート
【図18】フローチャート
【図19】フローチャート
【符号の説明】
【0067】
10,10 タンク
15A 施肥コントローラ(ロール種類判定手段、繰出ロール回転数算出手段)
15B モータコントローラ
15C 本機コントローラ
20a 繰出ロール
20b 繰出ロール
20c 繰出ロール
20d 繰出ロール
21 ロール駆動軸
25 ロール駆動モータ(駆動手段)
58 可変スイッチ(散布量設定手段)
59U 増スイッチ(散布量設定手段)
59D 減スイッチ(散布量設定手段)
62 キースイッチ
63 不揮発メモリ
70 片側散布検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク(10)の下方に、ロール駆動軸(21)上に単位回転当りの繰出量を大小異ならせた複数又は複数組の繰出ロール(20a,20b,20c,20d)を備える繰出装置(11)を設け、散布量設定手段(58,59U,59D)の設定散布量の大小に対応して予め設定された前記繰出ロール(20a,20b,20c,20d)又は繰出ロール組を繰出駆動するよう構成し、前記設定散布量情報及び走行機体の走行伝動部の回転検出によって出力される車速情報から前記繰出ロール(20a,20b,20c,20d)の繰出回転数を算出するコントローラ(15)を設け、この繰出回転数で前記ロール駆動軸(21)を駆動する駆動手段(25)を備えた粒状肥料等の散布装置において、繰出ロールの累積回転数と該繰出ロールの単位回転毎の既定の繰出量とによって累計繰出量を算出する手段を設けると共に、前記コントローラ(15)が電源入りから電源切りになったことを検出し前記累計繰出量を不揮発メモリ(63)に書き込む構成とした粒状肥料等の散布装置。
【請求項2】
前記コントローラ(15)への電源入り時に不揮発メモリに記憶された累計繰出量を一定時間表示部(56)に表示出力する構成とした請求項1に記載の粒状肥料等の散布装置。
【請求項3】
駆動手段(25)によって作動される左右一対の繰出装置(11,11)を備え、一対の繰出装置(11,11)と駆動手段(25)との間に、繰出装置(11,11)を各別に駆動し又は非駆動とするクラッチ手段(28L,28R)を設け、該クラッチ手段(28L,28R)による片側散布状態を検出する片側散布検出手段(70)を設け、片側散布検出時は累計繰出量算出の係数を1/2に設定する請求項1又は請求項2に記載の粒状肥料等の散布装置。
【請求項4】
前記コントローラ(15)に入力される走行機体の車速情報が異常であるか否かを検出する手段を備え、異常時には車速代替値を付与して散布作業を継続しこの作業継続中においても累計繰出量を算出し表示出力する構成とする請求項1〜請求項3に記載の粒状肥料等の散布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−212085(P2008−212085A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56067(P2007−56067)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【出願人】(303060354)有限会社東製作所 (6)
【Fターム(参考)】