説明

粒間交換強化層を含む多層記録構造を備えた垂直磁気記録媒体

【課題】記録層構造中の他の強磁性層における粒間交換結合を仲介するための強磁性粒間交換強化層を含む多層記録層構造を備えた垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】記録層構造は、グラニュラ多結晶コバルト合金及びTa酸化物から成る強磁性層1、グラニュラ多結晶コバルト合金及びSi酸化物から成る強磁性層2、強磁性層2の上部に接して配置された、強磁性層1と強磁性層2における粒間交換結合を仲介するための酸化物を含まずCoCr合金から成るキャッピング層によって構成された多層構造である。或いは、記録層構造は、いずれも粒間交換結合を減少させた、或いは粒間交換結合が無い二層の強磁性層1と強磁性層2とその間に挟まれた粒間交換強化中間層によって構成された多層構造とすることもできる。中間層は強磁性層1と強磁性層2に直接接して設けられているので、強磁性層1と強磁性層2それぞれにおける粒間交換結合を直接仲介することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広く、磁気記録ハードディスクドライブにて用いられる垂直磁気記録ディスク等の垂直磁気記録媒体に関し、特に、最適な粒間交換結合を有した多層記録層を備えた垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
書き込み或いは記録ビットがディスク基板や平面記録層の表面と実質的に平行に配向された水平或いは面内磁気記録媒体が、従来より磁気記録ハードディスクドライブにて用いられてきた。記録ビットが記録層の実質的に垂直な方向或いは面外方向(即ち、ディスク基板や記録層の表面と平行ではない)に蓄えられた垂直磁気記録媒体は、磁気記録ハードディスクドライブにおける超高記録密度を達成するために有望な手段だと考えられている。垂直磁気記録装置の一般的な例としては二層媒体を用いたものがあげられ、そのような垂直磁気記録装置としては図1に示されるように単磁極書き込み型の記録ヘッドを有しているものが知られている。二層媒体は、基板上に設けられた軟磁性の或いは保磁力が比較的小さな磁気透過性下地層(軟磁性下地層)の上に垂直磁気データ記録層(記録層)を有している。
【0003】
軟磁性下地層は磁界において記録ヘッドの書き込み磁極からリターン磁極への磁束帰還路として機能する。図1では、記録層が矢印にて示されるように垂直方向に記録或いは磁化された領域とそれに隣接した磁化方向が反対である領域とから成る例が示されている。磁化方向が反対である隣り合う領域間での磁化転移は再生素子或いはヘッドにより記録ビットとして検知される。再生ヘッドは通常は磁気透過性材料から成るシールドに挟まれて配置されており、再生されているビット以外の記録ビットが再生ヘッドに影響を与えないようになっている。
【0004】
図2は従来の垂直磁気記録ディスクの断面の概略図である。図2に示された従来の垂直磁気記録ディスクは、複数の層を蒸着するための実質的に平面状の表面を有したハードディスク基板を有している。基板の表面上に形成された実質的に平面状な複数の層としては、軟磁性下地層を設けるためのシード層或いはオンセット層、軟磁性下地層、軟磁性下地層を構成する複数の磁気透過性層と記録層との間の磁気交換結合を妨げ記録層のエピタキシャル成長を引き起こす交換ブレーク層、記録層及び保護上塗り層が設けられている。
【0005】
記録層に従来より用いられている材料の一種としては、CoPtCr合金等のグラニュラ多結晶強磁性コバルト合金があげられる。そのような材料の強磁性粒子は六方最密(hcp)結晶構造を有し、その六方最密(hcp)結晶構造のc軸が層平面に垂直になるように蒸着された結果、面外或いは垂直な磁気異方性を有する。そのような六方最密(hcp)結晶構造の記録層のエピタキシャル成長を引き起こすために、記録層をその上に形成する交換ブレーク層も通常は六方最密(hcp)結晶構造の材料から成る。
【0006】
水平磁気記録媒体も垂直磁気記録媒体も、グラニュラ多結晶強磁性コバルト合金から成る記録層を用いると、線記録密度が増加すると共に、固有媒体ノイズが増加する。媒体ノイズは記録された磁気転移の不規則性が原因で生じるものであり、再生信号のピークの不規則な変化をもたらすものである。媒体ノイズが高いと、ビット誤り率が高くなる。従って、面記録密度を高めるためには記録媒体の固有媒体ノイズを減少させる、即ち、SN比(信号対ノイズ比)を増加させる必要がある。従って、記録層を構成するグラニュラコバルト合金は十分に単離された微粒子構造を有し、高固有媒体ノイズの原因となる粒間交換結合を減少させることが好ましい。例えばSi, Ta, Ti, Nb, Cr, V, Bの酸化物といった分離剤を含有させることにより、コバルト合金から成る記録層における粒子分離を促進させることができる。これらの分離剤は粒界に堆積して、コバルト合金の成分と共に非磁性粒間材料を形成しやすいものである。例えば、非特許文献1にはCoPtCr-SiO2複合ターゲットからのスパッタ蒸着によってSiO2をCoPtCrグラニュラ合金に加えることが開示されている。又、非特許文献2にはTa2O5をCoPtグラニュラ合金に加えることが開示されている。
【0007】
SN比を改善するための酸化物や他の分離剤を含有した記録層を備えた垂直磁気記録媒体は熱減磁の影響を受けやすい。磁性粒子は超高記録密度を達成するために小さくなるにつれて熱減磁の影響を受けやすくなる、即ち、磁化された領域が自発的に磁化を減少させ、データの喪失を招くこととなる。この原因は小さな磁性粒子の熱活性化(超常磁性効果)にある。磁性粒子の熱安定性は大部分はKuV(ここでKuは磁気記録層の磁気異方性定数を表し、Vは磁性粒子の体積を表す)によって決定される。従って、Kuは記録層への書き込みを妨げるほど大きくすることはできないものの、記録層のKuを大きくすることは熱安定性にとって重要なことである。
【0008】
水平記録媒体においては、粒間交換結合が全くない場合に最適なSN比が得られる。しかしながら、垂直記録媒体においては、記録層での粒間交換結合が中程度の場合に最適なSN比が得られる。更に、粒間交換結合は媒体粒子の磁化状態の熱安定性を向上させるものである。従って、垂直記録媒体においては、粒間交換結合がある程度あることが望ましい。粒間交換結合を増加させる一つの方法としては、例えば非特許文献3に開示されているように連続粒間交換を強化する層(キャッピング層とも呼ばれる)を酸化物含有グラニュラコバルト合金の層の上部に設けることがあげられる。キャッピング層は通常はCoCr合金に酸化物やその他の分離剤を加えずに形成される。
【0009】
【非特許文献1】IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 39, No.4, July 2003, pp. 1914-1918, “CoPtCr-SiO2 Granular Media for High-Density Perpendicular Recording”(H. Uwazumi, et al.)
【非特許文献2】Journal of Magnetism and Magnetic Materials, Vol. 287, February 2005, pp. 161-171, “Structure and magnetic properties of Co-Pt-Ta2O5 film for perpendicular magnetic recording medium” (T. Chiba et al.)
【非特許文献3】IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 41, No.10, October 2005, pp. 3172-3174, “Perpendicular Recording CoPtCrO Composite Media With Performance Enhancement Capping Layer”(Choe et al.)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば酸化物含有グラニュラコバルト合金層などの粒間交換結合を減らした、或いは粒間交換結合のない強磁性層を単層で設け、その上を粒間交換結合を強化するための連続酸化物無キャッピング層で覆った構造の記録層にはいくつかの問題がある。下部の強磁性層がTa酸化物含有層である場合には、記録層は耐食性が不十分な構造となってしまう。又、下部の強磁性層がSi酸化物含有層である場合には、記録層は記録性能が不十分な構造となってしまう。そのような全ての記録層構造において、粒間交換結合は上層のキャッピング層とその下の酸化物含有層の上面との間での相互作用によってのみ起こるので、キャッピング層は粒間交換結合を最適な量とするために比較的厚く形成する必要がある。そのように記録層を厚みの大きな構造とすることは遷移幅(或いはaパラメータ)を増加させ、高記録密度にてリードバックする際に隣接遷移部を益々干渉させるので、分解能や記録性能に悪影響を与えることがある。
【0011】
そこで、優れた耐食性と最適な記録性能と最適な粒間交換結合を有した記録層構造を備え、SN比と高い熱安定性を示し、キャッピング層に起因して要求される大きな厚みを必要としない垂直磁気記録媒体が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、記録層構造中の他の強磁性層における粒間交換結合を仲介するための強磁性粒間交換強化層を含む多層記録層構造を備えた垂直磁気記録媒体を提供する。本発明の第1の実施形態においては、記録層構造はいずれも粒間交換結合を減少させた、或いは粒間交換結合がない二層の下部強磁性層(強磁性層1と強磁性層2)及び粒間交換強化層として上側の強磁性層(強磁性層2)の上部に接して配置された強磁性キャッピング層から成る多層構造となっている。強磁性層1はグラニュラ多結晶コバルト合金及びTaの一種又は二種以上の酸化物から形成することができ、強磁性層2はグラニュラ多結晶コバルト合金及びSiの一種の酸化物から形成することができ、キャッピング層は酸化物を含まずにCoCr合金から形成することができる。良好な記録特性を有するものの耐食性が不十分な下側のTa酸化物含有強磁性層1は腐食の影響を受けにくくするためにディスク表面から離れて配置し、記録特性が不十分なものの耐食性が優れているSi酸化物含有強磁性層2はキャッピング層と接して配置される。
【0013】
本発明の第2の実施形態においては、記録層構造はいずれも粒間交換結合を減少させた、或いは粒間交換結合がない二層の強磁性層(強磁性層1と強磁性層2)とその間に挟まれた粒間交換強化中間層から成る多層構造となっており、当該中間層による粒間交換強化が二つの接触面に作用する。強磁性層1と強磁性層2の合計の厚みは上部にキャッピング層が設けられた同程度の記録層一層の厚みとほぼ同じなので、中間層は同程度の記録層一層の厚みの半分に作用すればよく、従って、キャッピング層よりも厚みを薄く形成することができる。本第2の実施形態においては、中間層は第1の実施形態におけるキャッピング層と同じように酸化物を含有しないCoCr合金から形成することができ、強磁性層1と強磁性層2はCoPt合金やCoPtCr合金等のグラニュラ多結晶コバルト合金及びSi, Ta, Ti, Nb, Cr, V, Bの一種又は二種以上の酸化物といった適切な分離剤から形成することができる。更に、第1の実施形態と同じように、強磁性層1はコバルト合金及びTaの酸化物から形成することができ、強磁性層2はコバルト合金及びSiの酸化物から形成することができる。しかしながら、強磁性層1と強磁性層2は互いに同一の組成と厚みを有してもよい。又、強磁性層1と強磁性層2のいずれか或いは両方は、グラニュラ多結晶コバルト合金の代わりに公知の非晶質或いは結晶質の物質、垂直磁気異方性を示す構造によって形成してもよい。
【0014】
本発明は更に、上記の媒体や磁気記録ヘッドを含んだ垂直磁気記録装置にも関する。
【0015】
本発明の本質や効果を十分に明らかにするために、以下に図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた耐食性と最適な記録性能と最適な粒間交換結合を有した記録層構造を備え、SN比と高い熱安定性を示し、キャッピング層に起因して要求される大きな厚みを必要としない垂直磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
記録層が単一の強磁性層の上部にキャッピング層を有した構成である従来の垂直磁気記録媒体が、図3の概略断面に示してある。強磁性層は通常は、CoPtやCoPtCr合金等のグラニュラコバルト合金及びSi, Ta, Ti, Nb, Cr, V, Bの一つ以上の一種以上の酸化物等の適切な分離剤によって形成される。キャッピング層は、強磁性層の上部に直接接するように蒸着されている。キャッピング層内の強磁性合金は、強磁性層内の強磁性合金よりもかなり強固な粒間交換結合を有している。キャッピング層の材料は、キャッピング層内で粒間交換結合を低減する傾向がある相当量の酸化物或いは他の分離剤を通常は一切含まないCoCrPtB合金等のコバルト合金とすることができる。キャッピング層の粒界が概ね分離個体化され結合解除された強磁性層の粒子の境界に接して重畳してあって、キャッピング層の粒子と強磁性層の粒子が垂直方向に強く結合しているため、キャッピング層は強磁性層内に効果的な粒間交換結合をもたらす。このことは、キャッピング層がない場合(図4A)とキャッピング層がある場合(図4B)の強磁性層内の粒子及び磁化を概略的に示した図4A,4Bに描かれている。
【0018】
本発明の垂直磁気記録ディスクの第1の実施形態が、ディスクの概略断面図として図5に示してある。この記録層構造は、いずれも粒間交換結合を減少させた、或いは粒間交換結合がない二層の下部強磁性層(強磁性層1と強磁性層2)及び上側の強磁性層(強磁性層2)の上部に接して配置されたキャッピング層から成る多層構造となっている。
【0019】
強磁性層1は、CoPt或いはCoPtCr合金等のグラニュラ多結晶コバルト合金とTaの1種以上の酸化物によって形成されている。強磁性層2は、CoPt或いはCoPtCr合金等のグラニュラ多結晶コバルト合金とSiの1種以上の酸化物によって形成されている。キャッピング層は、Coや、或いはCoCr合金等の強磁性コバルト合金によって形成することができる。キャッピング層を形成するコバルト合金は、PtとBの一方又は両方を含む。キャッピング層は強磁性層2の上に直接蒸着させ、強磁性層2は強磁性層1上に直接蒸着させてある。強磁性層1と強磁性層2は酸素の存在下で比較的高圧(例えば、10〜20mTorr)でスパッタリング蒸着させる。或いは、強磁性層1と強磁性層2はスパッタリングチャンバ内で酸素の有無のいずれかのもとで酸化物含有ターゲット(例えば、強磁性層1の場合はTa、強磁性層2の場合はSiO)からスパッタリング蒸着させることができる。キャッピング層は通常は、酸素の存在なしで低圧(例えば、2〜5mTorr)にてスパッタリング蒸着させる。キャッピング層内の強磁性合金は、強磁性層1と強磁性層2内の強磁性合金よりもかなり強固な粒間交換結合を有する。キャッピング層を形成する合金には、好ましくはキャッピング層内の粒間交換結合を低減させる傾向を有する酸化物や他の分離剤を一切含めるべきではない。
【0020】
図5に示された実施形態は、キャッピング層を被覆した単一のTa酸化物含有強磁性層の耐食性が不十分であるとの発見に基づくものである。従来の電子−化学腐食電流試験ではTa酸化物含有強磁性層はTa酸化物をSi酸化物で置き換えた同様の強磁性層の約10倍の腐食感受性を呈した。キャッピング層を被覆した単一のTa酸化物含有強磁性層の記録層構造は、キャッピング層を被覆した単一のSi酸化物含有強磁性層からなる記録層構造よりも、具体的には信号対ノイズ比(SN比)とオーバーライト(OW)の点で良好な記録性能を呈する。従って、図5に示された実施形態では、良好な記録特性ながら耐食性が不十分なTa酸化物含有強磁性層である強磁性層1をディスク表面からより遠くに配置し、腐食をより受けにくくし、記録特性が不十分ながら良好な耐食性を有するSi酸化物含有強磁性層である強磁性層2をキャッピング層に接するように配置している。本発明の第1の実施形態の一つの態様では、強磁性層1は厚さが5nmのCo65Cr19Pt14(Ta2O5)2から成る層であり、強磁性層2は厚さが8nmのCo57Cr17Pt18(SiO2)8から成る層であり、キャッピング層は厚さが7nmのCo63Cr14Pt12B11から成る層である。
【0021】
図3に示された従来技術を再度参照するに、最適量の粒間交換結合を生じさせるためには比較的大きな厚みのキャッピング層が必要である。このキャッピング層の厚みは、強磁性層の厚みが約10〜15nmであるのに対して、約8nmとすることができる。比較的厚いキャッピング層は解像度と記録性能に対し悪影響を及ぼすが、それは遷移幅(或いは「a」パラメータ)を増大させ、高記録密度にて再生する際に隣接遷移部を益々干渉させるからである。十分なキャッピング層の厚みが必要な理由の1つは、図4Bに示したように、キャッピング層と強磁性層の上面との間の境界における相互作用を通じてのみ粒間交換結合が生じることにある。
【0022】
本発明の垂直磁気記録媒体の第2の実施形態では、図6に示されているように、記録層構造は二層の強磁性層(強磁性層1と強磁性層2)とその間に挟まれた粒間交換強化中間層から成る多層構造となっている。強磁性層1と強磁性層2の厚さの合計は、図3に示された従来技術における強磁性層の厚さと同じである。中間層は、キャッピング層と同様に機能する。しかしながら、中間層からの粒間交換は一つでなく二つの境界に対し作用する。また、中間層が図3に示された従来技術における磁性層の厚みの半分に作用するため、本実施形態においては中間層を更に薄くすることができる。従って、従来技術にて達成されるのと同じか或いはそれよりも良好な効果をより小さな記録層構造の総厚によって達成することが可能である。
【0023】
図6に示された実施形態では、強磁性層1と強磁性層2は、好ましくはCoPtやCoPtCr合金等のグラニュラ多結晶コバルト合金及びSi, Ta, Ti, Nb, Cr, V, Bの一種又は二種以上の酸化物等の適切な分離剤によって形成される。また、図5に示された実施形態と同様に、強磁性層1はCoPtCr-Ta酸化物材料によって形成することができ、強磁性層2はCoPtCr-Si酸化物材料によって形成することができる。しかしながら、図5に示された実施形態とは異なり、強磁性層1と強磁性層2を同じ組成と同じ厚みにすることも可能である。また、グラニュラ多結晶コバルト合金に代えて、強磁性層1と強磁性層2の一方又は両方を公知の非晶質或いは結晶質の材料、垂直磁気異方性を示す構造によって形成することも可能である。従って、強磁性層1及び/又は強磁性層2は、前記した材料等の適当な分離剤を含んだCo/PtやCo/PdやFe/PtやFe/Pd多層構造等の垂直磁気異方性を有する多層構造にて構成することができる。加えて、CoSm合金やTbFe合金やTbFeCo合金やGdFe合金等の希土類元素を含む垂直磁性層が、強磁性層1及び/又は強磁性層2として使用可能である。
【0024】
中間層は、Coや、或いはCoCr合金等の強磁性コバルト合金によって形成することができる。コバルト合金には、PtとBの一方又は両方を含ませることができる。中間層は強磁性層1の上に直接蒸着させ、強磁性層2は中間層の上に直接蒸着させる。強磁性層1と強磁性層2は、それらが酸化物含有コバルト合金によって形成されている場合、酸素の存在下で比較的高圧(例えば、10〜20mTorr)でスパッタリング蒸着させる。或いは、強磁性層1と強磁性層2は酸化物含有ターゲットから、ただし酸素の存在無しで、スパッタリング蒸着させることも可能である。中間層は通常は酸素の存在無しで低圧(例えば、2〜5mTorr)でスパッタリング蒸着させる。中間層内の強磁性合金は、強磁性層1と強磁性層2内の強磁性合金よりもかなり強固な粒間交換結合を有する。中間層を形成する合金は、好ましくは中間層内の粒間交換結合を低減する傾向がある酸化物或いは他の分離剤を一切含ませるべきではない。中間層の粒界が二つの境界において概ね分離されて結合解除された強磁性層1と強磁性層2の粒子の境界に重畳していて、一方の面の中間層の粒子と強磁性層2の粒子及び他方の面の中間層の粒子と強磁性層2の粒子が垂直に強固に結合されているため、中間層は強磁性層1と強磁性層2内に効果的な粒間交換結合をもたらす。この結果として、調整可能な粒界交換レベルを有した強磁性層1+中間層+強磁性層2の複合系が得られる。このことは図7に図示してあり、同図は中間層を有した強磁性層1と強磁性層2における粒子と磁化とを概略的に示すものである。図7に示されているように、本発明の記録層構造における中間層の厚さは従来技術の記録層構造(図3)のキャッピング層の厚さの約1/2とすることが可能である。
【0025】
強磁性層1+中間層+強磁性層2の厚みの合計は、約10〜20nmの範囲とするのが好ましく、13〜17nmの範囲とするのが更に好ましい。強磁性層1+中間層+強磁性層2の厚みの合計に対する中間層の厚みの割合は約3〜25%とするのが好ましく、6〜15%とするのが更に好ましい。最適な中間層の厚みは、厚みを変更しながらディスクの性能を計測してどの厚みが強磁性層1+中間層+強磁性層2の複合系に対し最適なレベルの粒間交換結合をもたらすかを決定することで、実験的に決定することができる。
【0026】
例えば約200ギガビット/平方インチを超す超高記録密度の高性能垂直磁気記録ディスクを得るために、記録層は低い固有媒体ノイズ(高信号対ノイズ比(SN比))と、約400Oeを上回る保磁力Hcと、約−1500Oeを(より負側に)上回る核生成磁界Hnを有する必要がある。核生成磁界Hnは反転磁界であり、好ましくはM−Hヒステリシスループの第2象限において、磁化がその飽和値Msから低下し始める反転磁界のことをいう。より負の核生成磁界の場合には、磁化を変化させるにはより大きな反転磁界が必要になるので、残留磁気状態がより安定する。
【0027】
本発明の第2の実施形態において記録性能がどの程度改善されたかを試験するため、様々な構造のディスクを作製し、HcとHnをキャッピング層の厚み(図3に示したのと同様の従来技術構造について)と中間層の厚み(図6に示したのと同様の本発明に係わる構造について)との関数として測定した。強磁性層1は厚さが5nmのCo65Cr19Pt14(Ta2O5)2から成る層であり、強磁性層2は厚さが8nmのCo57Cr17Pt18(SiO2)8から成る層とした。比較のため、図3に示された従来技術の強磁性層は強磁性層1と強磁性層1に直接接している強磁性層2との二層構造とした。中間層とキャッピング層は、Co63Cr14Pt12B11から成る層とした。
【0028】
図8と図9は、これら二つの記録層構造のそれぞれの保磁力Hcと核生成磁界Hnを、従来技術におけるようにキャッピング層が強磁性層の上部に配置されている場合にはキャッピング層の厚さの関数として、又、中間層が本発明におけるように強磁性層1と強磁性層2の間に配置されている場合には中間層の厚さの関数として示すものである。キャッピング層が上部にあるときは、保磁力はわずかに増大した後、粒間交換結合がキャッピング層の厚さと共に増大するにつれて徐々に減少する。粒間交換結合は、図9に示されているように核生成磁界の増加に現れる。粒界交換強化層が上部にあるときは、Hnはキャッピング層の厚さが増えるにつれて増加した(より負となった)後、Hcが減少してもそのまま大きな値のままである。この挙動は追加された粒間交換結合の痕跡であり、従来技術においてキャッピング層を付加して性能を改善する理由である。これとは対照的に、粒界交換強化層(中間層)を強磁性層1と強磁性層2の間に配置すると、図8に示すように、中間層の厚みが小さいうちはHcがまず劇的に増大する。この挙動は、この記録層構造が良好に成長することを実証するものである。酸化物を含み、高圧で成長した強磁性層2が、酸化物を含まず低圧で成長した中間層の上で高保磁力でもって成長できることは驚きである。より重要なことに、中間層を設けた場合は、図9に示されるように中間層の厚みが小さいうちは中間層の厚さの増大に合わせキャッピング層を設けた従来技術よりもずっと急速にHnは劇的に増大する。この増大は、キャッピング層よりも中間層ではずっと小さな厚みにて生ずる。かくして、図8と図9は記録層構造の中央に粒界交換強化層を追加することが記録層構造の上部にキャッピング層として追加することよりも粒間交換結合を増大させるより効果的な方法であることを実証するものとなる。
【0029】
図5と図6に示す本発明の代表的なディスク構造を、ここで説明することにする。ハードディスク基板は市販のガラス基板とすることができるが、NiP表面被覆を施した従来のアルミニウム合金や、或いはシリコンやカナサイトや炭化ケイ素等の基板によって代替することもできる。
【0030】
軟磁性下地層を成長させるための接着層又はオンセット層は、AlTi合金やそれに類した材料により約2〜5 nmの厚さで形成することができる。軟磁性下地層はCoNiFe, FeCoB, CoCuFe, NiFe, FeAlSi, FeTaN, FeN, FeTaC, CoTaZr, CoFeTaZr, CoFeB, CoZrNbといった合金等の磁気透過性材料により形成される。軟磁性下地層はAlやCoCrから成る導電性フィルム等の非磁性フィルムにより隔てられた複数の軟磁性フィルムが積層化或いは重層化されて形成されていてもよい。又、軟磁性下地層は反強磁性交換結合を仲立ちするRu, Ir, Cr又はそれらの合金から成る中間層により隔てられた複数の軟磁性フィルムが積層化或いは重層化されて形成されていてもよい。
【0031】
交換ブレーク層は、軟磁性下地層の上部に配置されている。交換ブレーク層は、軟磁性下地層の磁気透過性フィルムと記録層との間の磁気交換結合を妨げ、記録層のエピタキシャル成長を引き起こすものである。交換ブレーク層は必ずしも必要なものではないが、使用した場合には非磁性チタン層、Si合金やGe合金やSiGe合金等の非導電材料、CrやRuやWやZrやNbやMoやVやAl等の金属、非晶質CrTiやNiP等の合金、CNXやCHXやC等の非晶質炭素、SiとAlとZrとTiとBからなる群から選択した元素の酸化物や窒化物や炭化物とすることができる。交換ブレーク層を使用する場合、交換ブレーク層を蒸着させる前に軟磁性下地層の上部にシード層を用いることができる。例えば、交換ブレーク層の材料としてRuを用いる場合、1〜8nmの厚さのNiFe或いはNiWから成るシード層を軟磁性下地層の上部に蒸着し、3〜30nmの厚さのRuから成る交換ブレーク層をその上に形成させる。交換ブレーク層は、多層構造とすることも可能である。
【0032】
記録層の上部に形成する上塗り層は、非晶質のダイヤモンド状炭素フィルム或いは窒化ケイ素等の公知の保護上塗り材料により形成することができる。
【0033】
以上のように、本発明を好ましい態様に即して部分的に記載したが、当業者であればこの発明の精神と範囲から逸脱しない範囲内で発明の形態や詳細を変更することが可能である。従って、本明細書に開示された発明は単なる実施例として理解し、本発明は添付の請求項に記された範囲にのみ限定されると理解すべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来の垂直磁気記録装置の概略図である。
【図2】従来の垂直磁気記録ディスクの断面の概略図である。
【図3】記録層構造の上部にキャッピング層を設けた、従来の垂直磁気記録ディスクの断面の概略図である。
【図4A】従来のキャッピング層を設けない記録層中の粒子及び磁化を図式的に示した図である。
【図4B】従来のキャッピング層を設けた記録層中の粒子及び磁化を図式的に示した図である。
【図5】いずれも粒間交換結合を減少させた、或いは粒間交換結合がない二層の下部強磁性層(強磁性層1と強磁性層2)及び上側の強磁性層(強磁性層2)の上部に接して配置されたキャッピング層から成る多層構造の記録層構造を示した、本発明の第1の実施形態の垂直磁気記録ディスクの断面の概略図である。
【図6】二層の強磁性層(強磁性層1と強磁性層2)とその間に挟まれ、記録層構造の中央部に配置された粒間交換強化中間層から成る多層構造の記録層構造を示した、本発明の第2の実施形態の垂直磁気記録ディスクの断面の概略図である。
【図7】図6に示された態様の強磁性層1と強磁性層2及びその間に挟まれた粒間交換強化中間層における粒子及び磁化を図式的に示した図である。
【図8】従来の記録層構造における保磁力Hcをキャッピング層の厚みの関数として示し、中間層の厚みの関数として示された本発明の第2の実施形態の多層記録層構造における保磁力Hcと比較した図である。
【図9】従来の記録層構造における核生成磁界保磁力Hnをキャッピング層の厚みの関数として示し、中間層の厚みの関数として示された本発明の第2の実施形態の多層記録層構造における核生成磁界保磁力Hnと比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた、面外磁化容易軸を有し、粒間交換結合を減少させるための分離剤を含有した第一の強磁性層と、
前記第一の強磁性層上に設けられた、面外磁化容易軸を有し、粒間交換結合を減少させるための分離剤を含有した第二の強磁性層と、
少なくとも前記第一の強磁性層及び前記第二の強磁性層のいずれかと接した強磁性粒間交換強化層と、
を有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記第二の強磁性層が前記第一の強磁性層の上に直接接して設けられており、前記第一の強磁性層と前記第二の強磁性層が実質的に異なった組成を有し、前記粒間交換強化層が前記第二の強磁性層の上に直接接して設けられたキャッピング層であることを特徴とする請求項1記載の媒体。
【請求項3】
前記第一の強磁性層がグラニュラ多結晶コバルト合金とTa酸化物を含有し、前記第二の強磁性層がグラニュラ多結晶コバルト合金とSi酸化物を含有することを特徴とする請求項2記載の媒体。
【請求項4】
前記キャッピング層がCr及び、BとPtから成る群より選択される元素を含有した強磁性コバルト合金を含んだ実質的に酸化物を含有しない層であることを特徴とする請求項3記載の媒体。
【請求項5】
前記粒間交換強化層が前記第一の強磁性層の上に直接接して設けられた中間層であり、前記第二の強磁性層が当該中間層の上に直接接して設けられていることを特徴とする請求項1記載の媒体。
【請求項6】
前記中間層がコバルト及び強磁性コバルト合金から成る群より選択される材料から成ることを特徴とする請求項5記載の媒体。
【請求項7】
前記中間層が基本的にコバルト及びクロムのみを含んだ強磁性合金から成ることを特徴とする請求項6記載の媒体。
【請求項8】
前記中間層が実質的に酸化物を含有しない強磁性コバルト合金から成ることを特徴とする請求項6記載の媒体。
【請求項9】
前記第一の強磁性層と前記第二の強磁性層のそれぞれが、グラニュラ多結晶コバルト合金及びSi, Ta, Ti, Nb, Cr, V, Bから選ばれる一種類以上の酸化物を含有していることを特徴とする請求項5記載の媒体。
【請求項10】
前記第一の強磁性層と前記第二の強磁性層が実質的に同じ組成を有していることを特徴とする請求項5記載の媒体。
【請求項11】
前記第一の強磁性層がCoPtCr合金とTa酸化物を含有し、前記第二の強磁性層がCoPtCr合金とSi酸化物を含有することを特徴とする請求項5記載の媒体。
【請求項12】
前記第一の強磁性層と前記第二の強磁性層が実質的に同じ厚みを有していることを特徴とする請求項5記載の媒体。
【請求項13】
前記第一の強磁性層と前記第二の強磁性層のそれぞれが、Co/Pt、Co/Pd、Fe/Pt、Fe/Pd多層構造のいずれかから選択された多層構造であることを特徴とする請求項5記載の媒体。
【請求項14】
更に、前記基板の上に設けられた磁気透過性材料から成る下地層と、当該下地層と前記第一の強磁性層との間に設けられた当該下地層と前記第一の強磁性層との間の磁気交換結合を妨げるための交換ブレーク層を含むことを特徴とする請求項1記載の媒体。
【請求項15】
ほぼ平面状な表面を有した基板と、
前記基板表面上に設けられた磁気透過性材料から成る下地層と、
前記下地層上に設けられた、面外磁化容易軸を有し、グラニュラ多結晶コバルト合金及びSi, Ta, Ti, Nb, Cr, V, Bの一種類以上の酸化物を含有した第一の強磁性層と、
前記第一の強磁性層に接して設けられた、CoとCrを含んだ酸化物を含有しない強磁性合金を含有した強磁性中間層と、
前記中間層に接して設けられた、面外磁化容易軸を有し、グラニュラ多結晶コバルト合金及びSi, Ta, Ti, Nb, Cr, V, Bの一種類以上の酸化物を含有した第二の強磁性層と、を有することを特徴とする垂直磁気記録ディスク。
【請求項16】
前記中間層に含まれる合金がBとPtから成る群より選択される元素を含有していることを特徴とする請求項15記載のディスク。
【請求項17】
更に、前記下地層と前記第一の強磁性層との間に設けられた前記下地層と前記第一の強磁性層との間の磁気交換結合を妨げるための交換ブレーク層を含むことを特徴とする請求項15記載のディスク。
【請求項18】
請求項15記載のディスクと、
前記ディスクの前記第一の強磁性層、前記中間層及び前記第二の強磁性層を含んだ記録層中の領域を磁化するための記録ヘッドと、
前記磁化された領域間の遷移を検出するための再生ヘッドと、
を有することを特徴とする垂直磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−146816(P2008−146816A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313302(P2007−313302)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】