説明

粗紡機における異常検出装置

【課題】紡出中の粗糸の張力状態が適正張力からずれている場合に、適正張力に調整して紡出を継続する粗紡機において、本来紡出すべき粗糸重量とは違う品質不良の粗糸巻が後工程に供給されるのを抑制する。
【解決手段】異常検出装置は、フロントローラの回転速度を検出可能なフロントローラ回転速度検出手段と、巻き取り回転速度を検出する巻き取り回転速度検出手段とを備えている。また、フロントローラ回転速度検出手段及び巻き取り回転速度検出手段の検出信号に基づいて各層の巻き取り時における実粗糸巻径を算出可能な実粗糸巻径算出手段と、実粗糸巻径算出手段により算出された実粗糸巻径に基づいて粗糸重量異常を検知する粗糸重量異常検知手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗紡機における異常検出装置に係り、詳しくは紡出中の粗糸張力を検出する張力検出装置を備えるとともに、粗糸張力が所定の範囲内になるようにボビンホイールの回転速度を変化させて粗糸の巻き取りを行う粗紡機における異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に粗紡機においては、フロントローラから一定速度で送り出される粗糸を、一定速度で回転しているフライヤとそれより高速で回転するボビンホイールに嵌挿されたボビンの表面速度との差によってボビン上に巻き取って粗糸巻を形成する。ボビンホイールの回転速度が同じでもボビンに巻き取られた粗糸の層数の増加に伴ってボビンの表面速度は増加するため、粗糸に加わる張力が増加する。そのため、粗糸巻の直径(粗糸巻径)とボビン回転速度の関係を示す変速パターンを制御装置に記憶させておき、粗糸巻径の増加に伴ってボビンホイールの回転速度を変速制御する。また、紡出中の粗糸の張力状態を検出する張力検出装置を設け、粗糸張力が適正張力からずれている場合はボビン回転速度の調整によって適正張力となるようにして紡出を継続するようにしている(例えば、特許文献1参照)。このような制御を行うことにより、外乱(温度や湿度等の変動)があっても安定した紡出運転が可能になる。
【0003】
また、連続スラブの原因となる太さが極端に太い(例えば、基準値より50%以上太い)粗糸(粗紡糸)や未開繊の繊維塊の混入により太さが太くなった粗糸、所謂欠点糸を検出して、粗糸の品質管理を行う粗糸の品質管理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この品質管理方法では、ドラフトされた粗糸がフロントローラを離れるニップ点とフライヤトップの間に静電容量式の糸ムラ検知器を設けて走行する粗糸の誘電率をモニターする。そして、得られたモニター値が基準値に対して50%以上大きいときに粗紡機を非常停止させ、欠点糸を取り除くことにより、粗糸への欠点糸混入を防止するようにしている。
【特許文献1】特開平4−327222号公報
【特許文献2】特開平6−33327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の粗紡機のように粗糸張力が適正範囲からずれた場合に適正張力になるように張力調整を行うテンションコントローラを備えた粗紡機では、異常な重量のスライバが供給されても、適正張力に調整して紡出が継続されるため、本来紡出すべき粗糸重量とは違う品質不良の粗糸巻が後工程に供給される可能性がある。一方、テンションコントローラを備えず、予め設定された巻き取りパターンをトレースしてボビンホイールの回転速度を変速して紡出するタイプの粗紡機では、異常な重量のスライバが供給されると、粗糸層が増える度に粗糸張力が異常になり、最終的に紡出運転不可能な状態に陥るため、スライバ重量の異常に気づく。しかし、テンションコントローラを備えない場合は、外乱(温度や湿度等の変動)により紡出が不安定になる。異常な重量のスライバが供給される場合としては、本来供給すべきスライバと別の紡出条件で製造されたスライバを誤って原料に使用した場合や、前工程(練条工程)で異常が発生した場合等がある。しかし、外乱の発生に比較して、異常な重量のスライバが供給される可能性は低いため、テンションコントローラを備える方が好ましい。
【0005】
一方、特許文献2の品質管理方法は、太さが一定で全体として重量が異常のスライバ、即ち紡出原料として誤ったスライバが使用された場合を想定しているのではなく、紡出原料としては正しいスライバであっても、部分的に極端な太さムラが存在するスライバが原料として使用された場合を想定している。そのため、特許文献2の品質管理方法を本発明が問題としている、本来紡出すべき粗糸重量とは違う品質不良の粗糸巻が後工程に供給されるのを防止するという目的には対応することができない。
【0006】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、紡出中の粗糸の張力状態が適正張力からずれている場合に、適正張力に調整して紡出を継続する粗紡機において、本来紡出すべき粗糸重量とは違う品質不良の粗糸巻が後工程に供給されるのを抑制することができる粗紡機における異常検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、フライヤと独立してボビンホイールの回転速度を変更可能に構成されるとともに、紡出中の粗糸張力を検出する張力検出装置を備え、かつ粗糸張力が所定の範囲になるように前記ボビンホイールの回転速度を変化させて粗糸の巻き取りを行う粗紡機における異常検出装置である。そして、フロントローラの回転速度を検出可能なフロントローラ回転速度検出手段と、巻き取り回転速度を検出する巻き取り回転速度検出手段と、前記フロントローラ回転速度検出手段及び前記巻き取り回転速度検出手段の検出信号に基づいて各層の巻き取り時における実粗糸巻径を算出可能な実粗糸巻径算出手段と、前記実粗糸巻径算出手段により算出された実粗糸巻径に基づいて粗糸重量異常を検知する粗糸重量異常検知手段とを備えている。
【0008】
この発明では、粗紡機は、紡出条件に対応した粗糸巻径とボビン回転速度の関係になるように巻き取られた粗糸層数の増加に伴ってフライヤ駆動系及び巻き取り駆動系が制御される。また、フロントローラ回転速度検出手段によって検出されたフロントローラ回転速度及び巻き取り回転速度検出手段によって検出された巻き取り回転速度に基づいて、実際の粗糸巻径が算出される。そして、算出された実粗糸巻径に基づいて巻き取られた粗糸巻の粗糸重量異常が検知される。したがって、紡出中の粗糸の張力状態が適正張力からずれている場合に、適正張力に調整して紡出を継続する粗紡機において、本来紡出すべき粗糸重量とは違う品質不良の粗糸巻が後工程に供給されるのを抑制することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記粗糸重量異常検知手段は、1層当たりの粗糸巻径増加量と、正常紡出時の1層当たりの粗糸巻径増加量とを比較して、両者の差が予め設定された所定割合以上の場合に異常と判断する。ここで、「正常紡出時の粗糸巻径増加量」とは、予め記憶装置に記憶された基準値とは限らず、同一紡出条件にて紡出された過去の数回分の平均値や、過去の紡出運転から学習した数値であってもよい。
【0010】
粗糸の原料によっては、満粗糸巻(満ボビン)の粗糸重量(粗糸ゲレン)が同じでも層数が異なる場合がある。したがって、単純に満粗糸巻の実粗糸巻径を比較するのではなく、1層当たりの粗糸巻径増加量を比較した方が精度良く粗糸重量の異常を検出することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記粗糸重量異常検知手段は、玉揚げ停止時毎に粗糸重量異常を検知する。この発明では、1回の玉揚げ毎に粗糸重量異常の有無を検知することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記粗糸重量異常検知手段は、少なくとも粗糸巻層が増加する毎に粗糸重量異常を検知する。粗糸重量異常の判断を1回の粗糸巻の形成毎、即ち玉揚げ毎に行う場合は、粗糸巻径増加量が全層で平均化された値となるため、紡出中のある期間、例えば、数層だけ粗糸重量異常が発生した場合の異常検出を行うことが難しい。しかし、この発明では、そのような場合でも粗糸重量異常を検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紡出中の粗糸の張力状態が適正張力からずれている場合に、適正張力に調整して紡出を継続する粗紡機において、本来紡出すべき粗糸重量とは違う品質不良の粗糸巻が後工程に供給されるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
先ず、粗紡機の構成を説明すると、図1に示すように、ドラフト装置10のフロントローラ11はその回転軸11aの一端と、メインモータMにより回転駆動されるドライビングシャフトとの間に配設された歯車列(何れも図示せず)を介して回転駆動されるようになっている。フライヤ12の上部には被動歯車13が一体回転可能に嵌着固定されている。前記ドライビングシャフトの回転がベルト伝動機構(図示せず)を介して伝達される回転軸14の回転により、回転軸14に嵌着された駆動歯車15を介して被動歯車13がフライヤ12とともに回転駆動される。
【0015】
ボビンレール16上に装備されたボビンホイール17には被動歯車17aが固着されている。被動歯車17aと噛合する駆動歯車18が嵌着固定された回転軸19には、ドライビングシャフトの回転力と、巻き取り用モータ21による回転力とが差動歯車機構22により合成されて伝達されるようになっている。差動歯車機構22は、巻き取り用モータ21からの回転入力がない状態ではボビンホイール17をフライヤ12と同じ回転数(回転速度)で回転させる出力となり、巻き取り用モータ21からの回転入力がある状態では、巻き取り用モータ21からの回転入力に対応してボビンホイール17の回転数が変更されるようになっている。
【0016】
ボビンレール16にはリフターラック23が固定されている。リフターラック23と噛合する歯車24が嵌着された回転軸25には、昇降用モータ26により駆動される駆動軸27の回転が切換機構28及び歯車列を介して伝達される。切換機構28は中間軸29と、該中間軸29と前記駆動軸27との間に設けられた一対の歯車列30,31と、歯車列30,31の回転を中間軸29に伝達する電磁クラッチ32,33とから構成されている。そして、電磁クラッチ32,33の励消磁により回転軸25の回転方向、即ちボビンレール16の昇降動の方向が変更されるようになっている。
【0017】
回転軸25の端部にはボビンレール16の移動方向を検知するセンサとしてのロータリエンコーダ34が接続されている。ロータリエンコーダ34は回転軸25の正転、逆転に対応してそれぞれ別のパルス信号を出力するようになっており、ボビンレール16の上昇、下降の区別がパルス信号からも確認できるようになっている。
【0018】
フロントローラ11と一体回転する被動歯車11bの近傍には、フロントローラ11の回転速度を検出するフロントローラ回転速度検出手段としてのセンサ35が配設されている。ボビンホイール17の被動歯車17aの近傍には、ボビンホイール17、即ちボビンBの回転速度を検出する巻き取り回転速度検出手段としてのセンサ36が配設されている。フロントローラ11とフライヤトップ12aとの間には、フロントローラ11からフライヤトップ12aに至る粗糸Rの位置を連続的に非接触で検出して粗糸張力を検出する張力検出装置としての張力検出器37が設けられている。張力検出器37は、例えば、特許文献1に開示されたものと同様な構成で、対向して配置された発光部と受光部とを備え、発光部と受光部との間に粗糸Rが位置するようになっている。
【0019】
メインモータM、巻き取り用モータ21及び昇降用モータ26は、制御装置38の指令に基づいて制御されるそれぞれ独立のインバータ20a,20b,20cを介して駆動制御されるようになっている。
【0020】
制御装置38は、CPU(中央処理装置)39、プログラムメモリ40、作業用メモリ41、入力装置42及びディスプレイ43を備えている。CPU39はプログラムメモリ40に記憶された所定のプログラムデータに基づいて動作し、図示しないインタフェース、駆動回路及び各インバータ20a〜20cを介してメインモータM、巻き取り用モータ21及び昇降用モータ26を制御する。また、CPU39は図示しないインタフェース及び駆動回路を介して電磁クラッチ32,33を励消磁制御する。ボビンレール16は電磁クラッチ32が励磁されたときに上昇移動され、電磁クラッチ33が励磁されたときに下降移動されるようになっている。両電磁クラッチ32,33が同時に励磁されることはない。
【0021】
CPU39は、図示しない出力インタフェースを介して表示装置としてのディスプレイ43に接続されている。ディスプレイ43の表示部はタッチパネルで構成され、CPU39は図示しない入力インタフェースを介してタッチパネルに接続されている。CPU39は、センサ35,36の検出信号に基づいて粗糸巻径を算出する。また、CPU39は、算出した実粗糸巻径と粗糸巻層数から1層当たりの粗糸巻径増加量(=実粗糸巻径/層数)を演算し、粗糸巻径増加量と、正常紡出時の1層当たりの粗糸巻径増加量とを比較して、両者の差が予め設定された所定割合以上の場合に異常と判断する。なお、1層当たりの粗糸巻径増加量は、任意の粗糸巻層間の実粗糸巻径の差に基づいて演算してもよい。
【0022】
CPU39は、センサ35,36の検出信号に基づいて各層の巻き取り時における実粗糸巻径を算出可能な実粗糸巻径算出手段と、実粗糸巻径算出手段により算出された実粗糸巻径に基づいて粗糸重量異常を検知する粗糸重量異常検知手段とを構成する。この実施形態では、CPU39は、玉揚げ停止時毎に粗糸重量異常を検知する。
【0023】
巻き取り時におけるボビン回転数(回転速度)NBは次式で与えられる。
NB=NS+K・V/(πD)…(1)
ここで、Vはフロントローラの周速、NSはフライヤ回転数、Dは粗糸巻径、Kは定数(フロントローラとボビン間の延伸比)である。したがって、粗糸巻径Dは(1)式を変形した次式で表される。
【0024】
D=K・V/(NB−NS)/π…(2)
CPU39は作業用メモリ41に記憶されたデータに基づいてディスプレイ43に、紡出履歴を表示させる。プログラムメモリ40にはディスプレイ43に種々の画面を表示するための表示パターンフォーマットが記憶されている。表示パターンフォーマットの一つとして、例えば図3に示す紡出履歴表示画面44がある。紡出履歴表示画面44には、玉揚げ回数n、満粗糸巻径an、層数bn、粗糸巻径増加量cn、紡出粗糸重量異常(正常の場合は○、異常の場合は×)が最新のものから順に表示されるようになっている。
【0025】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。機台の運転に先立って先ず、繊維種、紡出粗糸重量(ゲレン)、フライヤ回転数、撚り数、粗糸張力目標値、プレッサ巻き数等の紡出条件が入力装置42により入力される。
【0026】
機台の運転が開始されると、メインモータM、巻き取り用モータ21及び昇降用モータ26がそれぞれ駆動される。メインモータMの駆動によりフライヤ12が回転駆動される。また、差動歯車機構22に入力されたメインモータMの回転力と、巻き取り用モータ21の回転力とが差動歯車機構22で合成され、合成された回転力により回転軸19が駆動されてボビンホイール17が回転駆動される。その結果、ドラフト装置10から紡出された粗糸Rがフライヤ12により加撚され、フライヤ12より高速で回転するボビンBに層状に巻き取られる。また、昇降用モータ26の駆動により、切換機構28、回転軸25等を介してリフターラック23とともにボビンレール16が昇降動される。
【0027】
CPU39はロータリエンコーダ34からの出力信号によりボビンレール16の昇降切替えを検知し、巻き取り粗糸層が1層増加する毎に、ボビン回転速度が所定量減速するようにインバータ20bを介して巻き取り用モータ21を駆動制御する。また、昇降用モータ26の速度も巻き取り用モータ21の速度に対応して減速制御され、ボビンレール16の移動速度が巻取り速度に同期して減速される。
【0028】
制御装置38には張力検出器37の出力信号が常に入力され、CPU39はその信号から粗糸Rの位置を演算するとともに、検出粗糸位置が目標粗糸位置から所定の範囲内、即ち、粗糸張力が所定の範囲内となるようにインバータ20bを介して巻き取り用モータ21を駆動制御する。即ち、粗糸Rが適正張力状態となるように巻き取り用モータ21の駆動速度が変速制御される。
【0029】
CPU39は、所定時間毎にセンサ35の検出信号からフロントローラ11の回転速度を演算するとともに、センサ36の検出信号からボビンBの回転速度を演算して、それらの値を作業用メモリ41に記憶させる。この作業は少なくとも粗糸巻の層数が増加する毎に少なくとも1回行われる。
【0030】
粗糸Rが所定量ボビンBに巻き取られて粗紡機の運転が停止される玉揚げ停止時になると、CPU39は図2のフローチャートにしたがって粗糸重量異常検知作業を行う。
CPU39は、ステップS1において、実粗糸巻径及び層数から1層当たりの粗糸巻径増加量ΔΦを演算する。詳述すると、CPU39は、最終層の巻き取り時に、センサ35の検出信号からフロントローラ11の周速Vを演算し、センサ36の検出信号からボビンBの回転速度NBを演算し、メインモータMの回転速度からフライヤ回転数NSを演算する。次に(2)式により、粗糸巻径Dを演算して、その値を満管時の実粗糸巻径Φとする。そして、CPU39は、実粗糸巻径Φを満管時の粗糸巻の層数で割って、粗糸巻径増加量ΔΦを演算する。なお、CPU39は、演算した粗糸巻径増加量ΔΦを、作業用メモリ41の所定の記憶領域に記憶させる。粗糸巻径増加量ΔΦは、通算玉揚げ回数の値と共に記憶される。したがって、各玉揚げ時における粗糸巻径増加量ΔΦは、後から確認可能となっている。
【0031】
次にCPU39は、ステップS2において、同一紡出条件における過去所定回数(この実施形態では3回)の粗糸巻径増加量ΔΦの平均値ΔΦaveを演算する。この実施形態では、過去3回の粗糸巻径増加量ΔΦの平均値を平均値ΔΦaveとして演算する。過去の各玉揚げ時の粗糸巻径増加量ΔΦは作業用メモリ41に記憶されているため、CPU39はそのデータのうちから最近の3回のデータを用いて平均値ΔΦaveを演算する。なお、最近の3回のデータには、異常発生の場合のデータは含まれず、異常発生データを除いた最近の3回のデータで平均値ΔΦaveが演算される。また、同じ紡出条件における紡出回数が少なく、最近の3回のデータの平均が取れない場合は、3回よりも少ない回数の平均で平均値ΔΦaveを演算する。
【0032】
次にCPU39は、ステップS3に進み、最新の(今回の)粗糸巻径増加量ΔΦnewと、過去所定回数の粗糸巻径増加量ΔΦの平均値ΔΦaveとの差を演算した後、ステップS4に進み、ステップS4において、最新の粗糸巻径増加量ΔΦnewと、平均値ΔΦaveとの差が設定値以上か否かを判断する。具体的には、今回の粗糸巻径増加量ΔΦnewと、過去3回の粗糸巻径増加量ΔΦの平均値ΔΦaveとの差の絶対値を演算し、その値を今回の粗糸巻径増加量ΔΦnewで割った値を設定値と比較する。設定値としては、例えば、0.1(即ち百分率としては10%)、好ましくは0.03〜0.06(即ち、百分率としては数%)が使用される。
【0033】
CPU39は、ステップS4において、差が設定値以上であればステップS5に進み、ステップS5で異常と判断するとともに異常表示の指令信号を出力する。CPU39は、ステップS4において、差が設定値未満であれば、粗糸重量異常検知作業を終了する。
【0034】
異常表示の指令信号が出力されると、例えば、図示しない警告灯が点灯されたり、ディスプレイ43の表示部に異常メッセージが表示されたりする。なお、異常表示がされても直ちに粗紡機の運転を中止するのではなく、作業者の注意を喚起する役割を果たす。
【0035】
張力検出器37の検出信号に基づいて適正張力となるようにボビンBの回転速度を制御するテンションコントローラを備えた粗紡機では、間違ったスライバ重量の紡出原料が供給されても、紡出を継続することができ、本来紡出すべき粗糸重量とは違う品質不良の粗糸巻が形成される。従来はこのような異常表示がなされなかったため、本来紡出すべき粗糸重量とは違う品質不良の粗糸巻が後工程に供給され、作業者がその事態を認識するのが遅れがちであった。しかし、この実施形態では粗糸巻径増加量ΔΦが所定の範囲から逸脱すると異常表示がなされるため、作業者が早期にその事態に気付き、必要な処置を行うことができる。
【0036】
この実施形態では以下のような効果を得ることができる。
(1)粗紡機は、フライヤ12と独立してボビンホイール17の回転速度を変更可能に構成されるとともに、紡出中の粗糸張力を検出する張力検出器37を備え、かつ粗糸張力が所定の範囲になるようにボビンホイール17の回転速度を変化させて粗糸の巻き取りを行う。異常検出装置は、フロントローラ11の回転速度を検出可能なセンサ35と、巻き取り回転速度(ボビン回転速度)を検出するセンサ36と、センサ35,36の検出信号に基づいて各層の巻き取り時における実粗糸巻径Φを算出し、算出された実粗糸巻径Φに基づいて粗糸重量異常を検知する粗糸重量異常検知手段(CPU39)とを備えている。したがって、紡出中の粗糸の張力状態が適正張力からずれている場合に、適正張力に調整して紡出を継続する粗紡機において、本来紡出すべき粗糸重量とは違う品質不良の粗糸巻が後工程に供給されるのを抑制することができる。また、粗糸重量異常の原因としては、前工程(練条工程)でのスライバの品質不良が考えられるため、前工程(練条工程)を調査して前工程での品質不良を発見することができる。さらに、ドラフト装置10の異常やチェンジギアの交換ミス等による粗糸重量変動も検出することができる。
【0037】
(2)粗糸重量異常検知手段(CPU39)は、今回の紡出における1層当たりの粗糸巻径増加量ΔΦと、正常紡出時の粗糸巻径増加量ΔΦとを比較して、両者の差が予め設定された所定割合以上の場合に異常と判断する。したがって、単純に満粗糸巻の実粗糸巻径を比較するのではなく、1層当たりの粗糸巻径増加量ΔΦを比較するため、精度良く粗糸重量の異常を検出することができる。
【0038】
(3)粗糸重量異常検知手段(CPU39)は、玉揚げ停止時毎に粗糸重量異常を検知する。したがって、粗糸巻層が増加する度に粗糸巻径増加量ΔΦを演算する必要がないため、演算が容易になる。
【0039】
(4)CPU39は、最新の(今回の)粗糸巻径増加量ΔΦnewと、同一紡出条件における過去所定回数の粗糸巻径増加量ΔΦの平均値ΔΦaveとの差に基づいて、粗糸重量異常の有無を判断する。したがって、予め記憶装置に基準値(データベース)を記憶させなくても、同じ紡出条件で紡出を繰り返すことにより、比較のための対象が記憶装置に記憶される。
【0040】
(5)CPU39は、最新の(今回の)粗糸巻径増加量ΔΦnewと、同一紡出条件における過去所定回数の粗糸巻径増加量ΔΦの平均値ΔΦaveを演算する際、異常データを除いた所定回数の平均値を演算するため、単純に過去所定回数の平均値を演算する場合に比較して精度が高くなる。
【0041】
(6)ディスプレイ43の紡出履歴表示画面44には、玉揚げ回数n、満粗糸巻径an、層数bn、粗糸巻径増加量cn、紡出粗糸重量異常の有無が最新のものから順に表示されるようになっている。したがって、作業者は警告灯の点灯により異常発生に気付いたとき、紡出履歴表示画面44を見ることにより、異常がどの程度かを確認することができ、異常に対する処置を直ちに行うべきか否かの判断を行い易くなる。
【0042】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
○ 粗糸重量異常の有無判断を、粗糸巻径増加量ΔΦの比較に基づいて行うのではなく、実粗糸巻径Φの比較で行うようにしてもよい。
【0043】
○ 粗糸重量異常の有無判断を行う際の対象(基準値)は、理論的に演算した値を用いてもよい。
○ 粗糸重量異常の有無判断を行う際の対象(基準値)は、最新の所定複数回の玉揚げ時の粗糸巻径増加量ΔΦに限らず、過去の紡出運転から学習した粗糸巻径増加量ΔΦとしてもよい。例えば、同じ紡出条件で粗紡機の運転が何度も行われた場合、それらのうちの正常紡出時の粗糸巻径増加量ΔΦの平均値を基準値として定め、その後は、紡出が行われても基準値をその都度更新せずに使用するようにしてもよい。
【0044】
○ 粗糸重量異常検知手段(CPU39)は、玉揚げ毎に粗糸重量異常の有無判断を行うのではなく、少なくとも粗糸巻層が増加する毎に粗糸重量異常を検知する構成にしてもよい。例えば、粗糸巻層が増加する毎に実粗糸巻径Φを算出するとともに、算出した実粗糸巻径Φとそのときの層数から粗糸巻径増加量ΔΦを演算する。そして、その粗糸巻径増加量ΔΦと基準となる値との間に10%(好ましくは数%)以上の差が有るか否かを判断する。粗糸重量異常の判断を1回の粗糸巻の形成毎、即ち玉揚げ毎に行う場合は、粗糸巻径増加量が全層で平均化された値となるため、紡出中のある期間、例えば、数層だけ粗糸重量異常が発生した場合の異常検出を行うことが難しい。しかし、粗糸巻層が増加する毎に粗糸重量異常を検知する構成にした場合は、数層だけ粗糸重量異常が発生した場合でも精度良く粗糸重量異常を検出することができる。
【0045】
○ 粗糸重量異常の判断を粗糸巻層が増加する毎に行うのではなく、粗糸巻層が複数層(例えば、数層)巻き取られる毎に粗糸重量異常を検知する構成にしてもよい。この場合、粗糸巻層が増加する毎に粗糸重量異常を行う場合に比較して演算の手間が少なくなるばかりでなく、誤検知の可能性が低くなる。
【0046】
○ 粗糸重量異常の有無判断を行う際の対象(基準値)として、最新の所定複数回の玉揚げ時の粗糸巻径増加量ΔΦを使用する場合、過去に紡出を行っていない新たな紡出条件の場合、所定回数に達するまでは、異常なしと判断するようにしてもよい。
【0047】
○ 粗糸重量異常の有無判断を行う際の対象(基準値)との差は、数%より小さくてもよい。しかし、あまり小さくすると、操業上、支障のない変動でも異常と判断されるようになるため、好ましくない。
【0048】
○ リフターラック23を昇降動させる構成は、一定方向に回転駆動される駆動軸27の回転方向を切換機構28を介して変更する構成に限らない。例えば、昇降用モータ26として正逆回転可能なモータを使用するとともに、切換機構28を省略して、昇降用モータ26の回転方向を変更することで回転軸25の回転方向を変更する構成としてもよい。
【0049】
○ メインモータMにより駆動されるドライビングシャフトの回転を歯車列でドラフト装置に伝達して駆動する構成に代えて、ドラフト装置10を専用のドラフト用モータで駆動する構成としてもよい。
【0050】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記フライヤ駆動系及び巻き取り駆動系は差動歯車機構を備える駆動機構で連結され、前記差動歯車機構への巻き取り用モータの回転入力がない状態でメインモータのみが駆動されると、フライヤ及びボビンホイールが同一速度で回転され、巻き取り用モータの回転入力によってボビンホイールの回転速度がフライヤの回転速度より高速に変更される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】一実施形態における粗紡機の駆動系の概略図。
【図2】粗糸重量異常検出手順を示すフローチャート。
【図3】ディスプレイに表示される履歴表の一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0052】
R…粗糸、11…フロントローラ、12…フライヤ、17…ボビンホイール、37…張力検出装置としての張力検出器、39…実粗糸巻径算出手段及び粗糸重量異常検知手段としてのCPU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライヤと独立してボビンホイールの回転速度を変更可能に構成されるとともに、紡出中の粗糸張力を検出する張力検出装置を備え、かつ粗糸張力が所定の範囲になるように前記ボビンホイールの回転速度を変化させて粗糸の巻き取りを行う粗紡機において、
フロントローラの回転速度を検出可能なフロントローラ回転速度検出手段と、
巻き取り回転速度を検出する巻き取り回転速度検出手段と、
前記フロントローラ回転速度検出手段及び前記巻き取り回転速度検出手段の検出信号に基づいて各層の巻き取り時における実粗糸巻径を算出可能な実粗糸巻径算出手段と、
前記実粗糸巻径算出手段により算出された実粗糸巻径に基づいて粗糸重量異常を検知する粗糸重量異常検知手段と
を備えていることを特徴とする粗紡機における異常検出装置。
【請求項2】
前記粗糸重量異常検知手段は、1層当たりの粗糸巻径増加量と、正常紡出時の1層当たりの粗糸巻径増加量とを比較して、両者の差が予め設定された所定割合以上の場合に異常と判断する請求項1に記載の粗紡機における異常検出装置。
【請求項3】
前記粗糸重量異常検知手段は、玉揚げ停止時毎に粗糸重量異常を検知する請求項1又は請求項2に記載の粗紡機における異常検出装置。
【請求項4】
前記粗糸重量異常検知手段は、少なくとも粗糸巻層が増加する毎に粗糸重量異常を検知する請求項1又は請求項2に記載の粗紡機における異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−7715(P2009−7715A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171787(P2007−171787)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】