説明

粘性ガスケット

【課題】剛性と柔軟性とを兼ね備えた粘性ガスケットを提供すること。
【解決手段】スチレン系エラストマーからなる基材樹脂と、軟化剤と、基材樹脂と相溶性を有する粘着付与樹脂とを含有する粘性ガスケット5である。該粘性ガスケット5は、基材樹脂を100重量部に対して、軟化剤を50〜60重量部、粘着付与樹脂を500〜2000重量部含有する。軟化剤は、温度40℃における動粘度100mm2/s以上のパラフィン系プロセスオイルであることが好ましい。また、粘着付与樹脂は水添石油樹脂であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部材の対向面間をシールするための粘性ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば自動車の内燃機関、コイン型(ボタン型)電池、携帯電話、パソコン等においては、構造部材間の封口部分を密閉させるために、ガスケットが用いられていた(特許文献1〜6参照)。このように、封口部分にガスケットを配置することにより、構造部材の構成を安定に保持させることが行われていた。
【0003】
一方、近年の携帯電話、PDA、ノートパソコン等の携帯情報端末機器等においては、その表示部に液晶表示パネルが用いられている。この液晶表示パネルは、一般に耐衝撃性が悪く、落下等により衝撃が加わると容易に破損することが知られている。そのため、液晶表示パネルと基材等の他部材との間には、特に、柔軟性や弾力性に優れたガスケットが用いられていた。そして、ガスケットにより、外部からの衝撃を吸収させて液晶表示パネルの破損の防止が図られていた。
【0004】
上記のようなガスケットとしては、一般に、構造部材間の封口部分を充分に密閉できるように、弾力性や粘着性を有するものが望まれている。具体的には、例えば表面にシール材や粘着部を形成してなるガスケットがある(特許文献1〜3参照)。
また、液晶表示パネルやハードディスクドライブ用のガスケットには、例えばウレタン等のように、低硬度で弾力性の高いものが用いられている(特許文献4〜6参照)。
【0005】
しかしながら、柔軟性及び弾力性が高い一方で剛性が非常に低いウレタン等からなるガスケットは、液晶表示パネル等のように耐衝撃性の低い部材に用いると、外部からの衝撃によっては、衝撃を充分に吸収できない場合があった。即ち、落下等により、外部から瞬間的に大きな応力が加えられると、柔軟性に優れたガスケットが瞬間的に大きく変形し、加えられた衝撃を充分に吸収できずに、液晶表示パネル等に破損が生じやすいという問題があった。
【0006】
また、携帯電話においては、非接触ICを内蔵し、電車や地下鉄等の自動改札機や券売機、又はコンビニエンスストア等のレジ等に設けられたリーダー/ライターにかざす又は軽く触れさせるだけで、入出場や切符の購入ができるという端末の開発が進められている。この場合、例えば混雑時に改札機、券売機、レジ等のリーダー/ライターに携帯電話を期せずして叩き付けるような動作になってしまい、これにより液晶表示パネル等に衝撃が加わり破損が生じることが懸念されている。
そのため、外部からの様々な衝撃を充分に緩衝できる、新たなガスケットの開発が望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−346200号公報
【特許文献2】特開2000−145969号公報
【特許文献3】特開2001−222983号公報
【特許文献4】特開平11−143396号公報
【特許文献5】特開2000−284699号公報
【特許文献6】特開2000−344987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、剛性と柔軟性とを兼ね備えた粘性ガスケットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、スチレン系エラストマーからなる基材樹脂と、軟化剤と、上記基材樹脂と相溶性を有する粘着付与樹脂とを含有する粘性ガスケットであって、
該粘性ガスケットは、上記基材樹脂100重量部に対して、上記軟化剤を50〜600重量部、上記粘着付与樹脂を500〜2000重量部含有していることを特徴とする粘性ガスケットにある(請求項1)。
【0010】
上記粘性ガスケットは、上記基材樹脂と上記軟化剤と上記粘着付与樹脂とを、上記特定量含有している。
そのため、上記粘性ガスケットは、剛性と柔軟性という相反する特性を兼ね備えることができ、擬似的なダイラタンシーとしての挙動を示すことができる。
【0011】
即ち、上記粘性ガスケットは、瞬間的に加えられた応力、即ち大きな速度で加えられた応力に対しては、粘度が大きい材料としての挙動を示し、優れた剛性を発揮できる。一方、緩やかに加えられた応力、即ち小さな速度で加えられた応力に対しては、粘度が小さい材料としての挙動を示し、高い柔軟性を発揮することができる。
したがって、上記粘性ガスケットは、該粘性ガスケットを例えば液晶表示パネル等と、該液晶表示パネルを嵌め込むケース等の他部材との間に配置させることにより、液晶表示パネルに対する様々な衝撃を緩衝することができる。
【0012】
また、上記粘性ガスケットは、高い粘着性を有している。
そのため、上記粘性ガスケットは、他部材に対して高い密着性で貼り付けることができ、構造部材間の封口部分を充分に密閉させることができる。
また、上記粘性ガスケットは、上述のごとく、小さな速度で加えられた応力に対しては、高い柔軟性を発揮することができる。そのため、上記粘性ガスケットを配置するための空隙、即ち例えば液晶表示パネル等と、該液晶表示パネルを嵌め込むケース等との間の空隙が、液晶表示パネルやケース等の設計公差の累積により、上記粘性ガスケットの大きさとずれてしまった場合においても、上記粘性ガスケットの優れた柔軟性を生かして、上記空隙に上記粘性ガスケットを容易に配置させることができる。
【0013】
このように、本発明によれば、剛性と柔軟性とを兼ね備えた粘性ガスケットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の粘性ガスケットは、上記基材樹脂100重量部と、上記軟化剤50重量部〜600重量部と、上記粘着付与樹脂500〜2000重量部とを含有する。
【0015】
上記軟化剤の含有量が50重量部未満の場合には、上記粘性ガスケットの柔軟性が低下し、上記粘性ガスケットは衝撃を充分に吸収することができなくなるおそれがある。一方、600重量部を超える場合には、軟化剤がブリードしたり圧縮永久歪特性が大きくなってしまうおそれがある。好ましくは、上記軟化剤の含有量は、100〜300重量部がよい。
また、上記粘着付与材の含有量が500重量部未満の場合には、大きな速度で加えられた応力に対する剛性が充分に発揮できないおそれがある。一方、2000重量部を超える場合には、上記粘性ガスケットの柔軟性が低下するおそれがある。好ましくは、上記粘着付与樹脂の含有量は、500〜800重量部がよい。
【0016】
また、上述のごとく、上記粘性ガスケットは、擬似的なダイラタンシーとしての挙動を示すことができる。
ダイラタンシー(性)は、もともと変形により体積の増加を示す分散系が流動性を低下させる現象をいう。例えば均一粒径の粒子が密に充填されているとき等において、せん断により生じる流動は粒同士の隙間を押し広げながら流出する。そのため、流体の体積は膨張し、見かけ上物質の粘度が上昇するのである。
しかし、近年においては、せん断速度の増加によって粘度が上昇するような非ニュートン流動に対しても拡張して使用される。したがって、ダイラタンシー(性)は、本来の体積の増加を伴うような現象のみではなく、広くはせん断速度の増加によって粘度が上昇する現象をさしていう。
【0017】
次に、上記基材樹脂は、スチレン系エラストマーからなる。このようなスチレン系エラストマーとしては、例えばスチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)、及びスチレンイソブチレンスチレン共重合体(SIBS)等から選ばれる1種以上を用いることができる。等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0018】
また、上記軟化剤としては、例えばパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ポリαオレフィン(PAO)、液状ポリブテン、及び液状ポリイソブチレン等から選ばれる1種以上を用いることができる。
好ましくは、上記軟化剤は、温度40℃における動粘度100mm2/s以上のパラフィン系プロセスオイルがよい(請求項2)。
この場合には、上記基材樹脂と上記軟化剤との相溶性が高くなり、オイルブリードの発生を抑制することができる。また、オイルブリードにより発生したオイルが上記粘性ガスケットの被着体(他部材)に移行して被着体が汚染されてしまうことを抑制することができる。
【0019】
上記軟化剤の動粘度が100mm/s2未満の場合には、軟化剤が揮発し易くなるため、高温時に上記粘性ガスケットの重量が減少したり、臭気が強くなるおそれがある。また、この場合には、圧縮永久歪が大きくなるおそれがある。
上記軟化剤の動粘度は、例えばJIS K 2283に規定された「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」等により測定することができる。
【0020】
また、上記粘着付与樹脂としては、例えばロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、石炭樹脂、フェノール樹脂、及びキシレン樹脂等から選ばれる1種以上を用いることができる。
上記ロジン樹脂としては、例えばガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、及び変性ロジン等がある。
【0021】
テルペン樹脂としては、例えばα−ピネン系テルペン樹脂、β−ピネン系テルペン樹脂、ジペンテン系テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、及び水素添加テルペン樹脂等を用いることができる。
石油樹脂としては、例えば脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9系)石油樹脂、脂環族系(水素添加系、ジシクロペンタジエン(DCPD)系)石油樹脂、及びスチレン系(スチレン系、置換スチレン系)石油樹脂等を用いることができる。
石炭樹脂としては、例えばクマロン・インデン樹脂等を用いることができる。
【0022】
また、上記粘着付与樹脂は、上記基材樹脂と相溶性を有する。
相溶性を支配する因子としては、例えば溶解度パラメータ(SP値)等がある。
一般的に、上記粘着付与樹脂は、そのSP値が上記基材樹脂のSP値に近く、低分子量、かつ狭分布である程、上記基材樹脂との相溶性が高い。
上記スチレン系エラストマーからなる基材樹脂のSP値は、およそ8〜9である。したがって、上記粘着付与樹脂としては、SP値が7〜10であるものを用いることが好ましい。より好ましくは、上記粘着付与樹脂と上記基材樹脂とのSP値の差が1以下であることがよい。
【0023】
SP値(δ)は、モル蒸発エネルギー(ΔE)及びモル体積(V)に基づいて、例えば以下の式(1)に基づいて算出できる。
δ=(ΔE/V)1/2 ・・・・(1)
【0024】
また、上記粘着付与樹脂は、耐熱性に優れるものであることが好ましい。具体的には、上記粘着付与樹脂はJIS K 2207に規定の石油アスファルト軟化点試験法(環球法)による軟化点が100℃以上であることが好ましい。環球法による軟化点が100℃未満の場合には、上記粘着付与樹脂の耐熱性が低下するため、上記粘性エラストマー材料の使用環境温度の上限が低くなり過ぎてしまうおそれがある。
【0025】
好ましくは、上記粘着付与樹脂は水添石油樹脂であることがよい(請求項3)。
この場合には、上記基材樹脂と上記粘着付与樹脂との相溶性をより向上させることができる。また、この場合には、上記粘性ガスケットの耐候性を向上させることができる。
【0026】
また、上記粘性ガスケットは、上記基材樹脂、上記軟化剤、及び上記粘着付与樹脂の他に、流動性向上樹脂、フィラー、及び着色顔料等を含有することができる。
上記流動性向上樹脂は、上記基材樹脂100重量部に対して、1〜50重量部含有させることができる。
この場合には、上記粘性ガスケットの流動性を高め、上記粘性ガスケットの成形性を向上させることができる。
上記流動性向上樹脂の含有量が1重量部未満の場合には、上記粘性ガスケットの流動性の向上効果が充分に得られないおそれがある。一方、50重量部を超える場合には、上記粘性ガスケットが硬くなり、柔軟性が低下するおそれがある。
また、上記流動性向上樹脂としては、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、変性ポリオレフィン、ポリペンテン、及びフッ素系ポリマー等から選ばれる1種以上を用いることができる。好ましくはポリプロピレンがよい。
【0027】
また、上記フィラーは、上記基材樹脂100重量部に対して、100重量部以下含有させることができる。
この場合には、上記粘性ガスケットが有する、上述の擬似的なダイラタンシー特性を維持しつつ、上記粘性ガスケットの製造コストを低下させることができる。
フィラーの含有量が100重量部を超える場合には、上述の擬似的なダイラタンシー特性が充分に発揮できなくなるおそれがある。
【0028】
また、上記着色顔料は、上記基材樹脂100重量部に対して、0.1〜50重量部含有させることができる。
この場合には、上記基材樹脂に所望の色を付与することができる。
上記着色顔料の含有量が0.1重量部未満の場合には、所望の着色を充分に付与することができないおそれがある。一方50重量部を超える場合には、着色顔料が凝集して分散不良を起こし、被着体に色が移行してしまうおそれがある。
【0029】
上記着色顔料としては、例えば天然無機顔料、合成無機顔料、天然有機顔料、合成有機顔料等がある。
天然無機顔料としては、例えばイエローオーカー、テールベルト、ローシェンナ、ローアンバー、カッセルアース、白亜、石膏等の土系顔料、バーントシェンナ、バーントアンバー等の焼成土、ラピスラズリ、アズライト、マラカイト、オーピメント、辰砂等の鉱物性顔料、珊瑚末、胡粉等がある。
合成無機顔料としては、例えばコバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、ライトレッド、クロムオキサイドグリーン、マルスブラック等の酸化物顔料、ビリジャン、イエローオーカー、アルミナホワイト等の水酸化物顔料、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、バーミリオン、リトポン等の硫化物顔料、ウルトラマリーン、タルク、ホワイトカーボン、クレー等の珪酸塩顔料、ミネラルバイオレット、ローズコバルトバイオレット等の燐酸塩顔料、シルバーホワイト、炭酸カルシウム等の炭酸塩顔料、金粉、ブロンズ粉、アルミニウム粉等の金属粉顔料、アイボリーブラック、ピーチブラック、ランプブラック、カーボンブラック等の炭素顔料、プルシャンブルー、オーレオリン、雲母チタン等がある。
【0030】
天然有機顔料としては、例えばマダーレーキ、ピンクマダー、ガンボージ、龍の血等の植物性顔料、コチニール、ケルメスレーキ、チリアンパープル、セピア等の動物性顔料、ビチューメン等の鉱物性顔料等がある。
合成有機顔料としては、例えばアリザリンレーキ、ローダミンレーキ、キノリンイエローレーキ等の染付レーキ顔料、レーキレッドC、ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、ファーストイエロー、ジスアゾイエロー、ナフトールレッド等の不溶性アゾ顔料、クロモフタルイエロー、クロモフタルレッド等の縮合アゾ顔料、ニッケルアゾイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー等のアゾ錯塩顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン顔料、チオインジゴ、ペリレンレッド、ジオキサジンバイオレット、キナクリドンレッド−アントラキノン、ペリノン、イソインドリノン、アゾメチン等の縮合多環顔料、蛍光顔料等がある。
【0031】
上記粘性ガスケットは、必須成分としての上記基材樹脂、上記軟化剤、及び上記粘着付与樹脂をニーダーや押出機などを用いて加熱溶融・混練することにより作製することができる。また、上記粘性ガスケットには、該粘性ガスケットが有する上述の剛性及び柔軟性を損ねない範囲で、上記必須成分以外の副成分として、上記流動性向上樹脂、フィラー、着色顔料、後述の機能性フィラー及び導電性材料等を加えることができる。混練後、例えば射出成形、コンプレッション成形、Tダイ押出成形等により、シート状等の所望の形状成形することができる。
【0032】
上記機能性フィラーとしては、例えば可塑剤、滑剤、難燃剤、、加硫剤、加硫助剤、安定剤、亀裂防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、防カビ剤、防鼠剤、分散剤、着色剤、帯電防止剤、充填材、流動改質剤、熱伝フィラー、及び導電性材料等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0033】
好ましくは、上記粘性ガスケットは、熱伝導率10W/m・K以上の熱伝フィラーを含有することがよい。この場合には、上記粘性ガスケットの熱伝導性を向上させることができ、上記粘性ガスケットを放熱性に優れたものにすることができる。熱伝フィラーの熱伝導率が10W/m・K未満の場合には、上記粘性ガスケットの放熱性が充分に発揮されないおそれがある。
上記熱伝フィラーとしては、例えばアルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、銅、銀、及びSUS等がある。
【0034】
また、上記機能性フィラーは、上記基材樹脂100重量部に対して200〜20000重量部含有させることができる。
上記機能性フィラーの含有量が200重量部未満の場合には、各種機能性フィラーが有する所望の効果を上記粘性ガスケットに充分に付与することができないおそれがある。一方、20000重量部を超える場合には、上記粘性ガスケットの剛性や柔軟性が損なわれるおそれがある。
【0035】
次に、上記粘性ガスケットは、その表面又は/及び内部に導電性材料を有していることが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記粘性ガスケットは、導電性を示すことができる。そのため、上記粘性ガスケットは、上述のごとく優れた剛性及び柔軟性を発揮すると共に、外部からの電磁波や静電気等を遮断することができる。即ち、この場合には、上記粘性ガスケットは、電磁波等により悪影響を受けやすい、例えば携帯電話、パソコン、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、ノートパソコン、PDA類等のような精密機器に好適に用いることができる。そして、上記粘性ガスケットは、優れた耐衝撃性を発揮できると共に、機器開口部所以の外来ノイズ、放射ノイズ、静電気の発生を防止することができ、所謂EMC対策を図ることができる。
上記導電性材料としては、例えば導電性フィラー、導電布、金属メッシュ、導電ポリマー、導電ペースト等がある。
【0036】
上記粘性ガスケットの内部に上記導電性材料を含有させる場合には、例えば上記粘性ガスケットに上記導電性フィラー等を含有させることにより実現できる。
上記導電性フィラーとしては、例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラファイト等のカーボン類や、金、銀、銅、ニッケル、ステンレス等の導電性金属等がある。また、メッキやコーティング等により、表面に上記カーボン類や導電性金属等からなる導電性被覆層が形成された導電性粉末等がある。これらは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、カーボン類としては、導電性金属をコーティングしたものを用いることもできる。また、導電性金属としては、上記にて列挙した金属以外にも、上述の導電性金属と他の金属との合金等がある。
【0037】
また、上記粘性ガスケットの表面に上記導電性材料を形成する場合には、例えば上記粘性ガスケットの表面に、上記導電ポリマーや上記導電インクを塗布又は印刷することにより実現できる。また、上記粘性ガスケットの表面に導電布や金属メッシュを被覆することによっても実現できる。また、蒸着やスパッタリング等により粘性ガスケットの表面に導電性材料を形成することもできる。
上記導電ポリマーや導電インクは、上記導電性金属と有機バインダー等の樹脂材料とを含有するものである。上記導電布は、布に上記導電性金属をメッキしたものである。また、金属メッシュは、例えば印刷等によりメッシュ状に形成された導電性金属である。
【0038】
上記粘性ガスケットは、上記導電性材料としての導電性フィラーを上記基材樹脂100重量部に対して200〜20000重量部含有することが好ましい(請求項5)。
上記導電性材料の含有量が200重量部未満の場合には、上記粘性ガスケットが充分な導電性を発揮できないおそれがある。一方、20000重量部を超える場合には、上記粘性ガスケットの硬度が高くなり過ぎて、柔軟性が充分に発揮されなくなるおそれがある。
【0039】
上記粘性ガスケットの表面には、上記導電性材料としての導電布又は金属メッシュが形成されていることが好ましい(請求項6)。
この場合には、上記粘性ガスケットの表面部分に導電性を付与することが容易にできる。また、この場合には、上記粘性ガスケットが本来有する柔軟性と剛性とをほとんど損ねることなく、上記粘性ガスケットに導電性を付与することができる。
【0040】
上記粘性ガスケットは、例えば携帯電話やパソコン等の液晶表示パネル、液晶ディスプレイ(LCD)用カバー、自動車の内燃機関、コイン(ボタン)型電池等のガスケットとして用いることができる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、図1及び図2を用いて説明する。
本例の粘性ガスケットは、スチレン系エラストマーからなる基材樹脂と、軟化剤と、上記基材樹脂と相溶性を有する粘着付与樹脂とを含有する。この粘性ガスケットは、基材樹脂100重量部に対して、軟化剤を200重量部、及び粘着付与樹脂を500重量部含有する。基材樹脂としては、SEEPSを、軟化剤としては、パラフィン系プロセスオイルを、粘着付与材としては、水添石油樹脂を用いた。
【0042】
また、本例の粘性ガスケットは、さらに、流動性向上樹脂27重量部と、フィラー68重量部と、着色顔料14重量部とを含有する。
流動性向上樹脂としてはポリプロピレンとエチレンとのランダム重合体を、フィラーとしては炭酸カルシウムを、着色顔料としては着色カーボンブラックを用いた。
さらに、粘性ガスケットは、導電性材料として導電性フィラー(Niコーティンググラファイト)を909重量部含有する。
【0043】
本例の粘性ガスケットの製造にあたっては、まず、原料として、SEEPS(数平均分子量が20万程度でスチレン含有量が30wt%のもの)、パラフィン系プロセスオイル(温度40℃における動粘度が400mm2/sのもの)、水添石油樹脂(脂環属系水添石油樹脂で軟化点が100℃のもの)、ランダムポリプロピレン(MFRが33g/10minのもの)、重質炭酸カルシウム(平均粒子径が2.7μmのもの)、及びカーボンブラック(粒子径が16nmで窒素吸着比表面積が250m2/gのもの)、及びNiコーティンググラファイト(平均粒径60μmのグラファイトに、Ni含有量が40wt%になるようにNiをコーティングしたもの)を準備した。
次いで、これらの原料をニーダーや押出機等を用いて加熱溶融・混練した。混練後、射出成形により厚み1mmのシート状に成形し、粘性ガスケットを得た。
【0044】
次に、この粘性ガスケットを用いて、図1及び図2に示すごとく、液晶表示装置1を作製した。
具体的には、本例の液晶表示装置1は、液晶表示パネルを嵌め込むためのケース3に、粘性ガスケット5を嵌め込み、この粘性ガスケット5の上からさらに液晶表示パネル2をケース3に嵌め込むことにより作製した。
【0045】
この液晶表示装置1においては、上述のごとく、液晶表示パネル2とケース3との間に、本例において作製した粘性ガスケット5が配置されている。
そして、粘性ガスケット5は、上述のごとく、基材樹脂と軟化剤と粘着付与樹脂とを、上記特定量含有しているため、剛性と柔軟性という相反する特性を高レベルで兼ね備えている。そのため、液晶表示装置1に、落下等による瞬間的な大きな応力が加えられた場合においても、粘性ガスケット5が剛性を示した後、柔軟性を示し、衝撃を充分に緩和することができる。それ故、液晶表示パネル2の破損を抑制又は防止することができる。
【0046】
また、粘性ガスケット5は、導電性材料を含有している。
そのため、粘性ガスケット5は、外部からの電磁波等を遮断することができる。それ故、本例の液晶表示装置1を例えば携帯電話やパソコン等の精密機器に適用すると、外来ノイズ、放射ノイズ、静電気の発生を防止することができる。
【0047】
(実施例2)
本例は、組成や厚みの異なる複数の粘性ガスケットを作製し、その特性を調べる例である。
具体的には、まず、実施例1と同様の組成を有する粘性ガスケットを実施例1と同様にして作製した。これを試料E1とする。
即ち、試料E1は、スチレン系エラストマーからなる基材樹脂100重量部と、軟化剤200重量部と、粘着付与樹脂500重量部と、流動性向上樹脂27重量部と、フィラー68重量部と、着色顔料14重量部と、導電性フィラー909重量部とを含有する。基材樹脂、軟化剤、粘着付与樹脂、流動性向上樹脂、フィラー、着色顔料、及び導電性フィラーの種類は、実施例1と同様である。
試料E1は、これらを原料として、実施例1と同様に加熱溶融・混練し、厚み1mmのシート状に成形することにより作製した。
【0048】
また、本例においては、上記試料E1とは組成及び厚みが異なる2種類の粘性ガスケットを作製した。これらを試料E2及びE3とする。
即ち、試料E2は、スチレン系エラストマーからなる基材樹脂100重量部と、軟化剤200重量部と、粘着付与樹脂500重量部と、流動性向上樹脂27重量部と、フィラー68重量部と、着色顔料14重量部と、導電性フィラー303重量部とを含有する。基材樹脂、軟化剤、粘着付与樹脂、流動性向上樹脂、フィラー、着色顔料、及び導電性フィラーの種類としては、実施例1と同様である。
試料E2は、これらを原料として、実施例1と同様に加熱溶融・混練し、厚み1.5mmのシート状に成形することにより作製した。
【0049】
また、試料E3は、導電性材料を含有しないものである。
即ち、試料E3スチレン系エラストマーからなる基材樹脂100重量部と、軟化剤200重量部と、粘着付与樹脂500重量部と、流動性向上樹脂27重量部と、フィラー68重量部と、着色顔料14重量部とを含有する。基材樹脂、軟化剤、粘着付与樹脂、流動性向上樹脂、フィラー、及び着色顔料の種類としては、実施例1と同様である。
試料E3は、これらを原料として、実施例1と同様に加熱溶融・混練し、厚み1mmのシート状に成形することにより作製した。
【0050】
さらに、本例においては、上記試料E1〜試料E3の粘性ガスケットの優れた特性を明らかにするため、比較用のガスケットを作製した。これを試料C1とする。
即ち、試料C1は、基材樹脂としてのスチレン系エラストマーを100重量部、軟化剤としてのパラフィン系プロセスオイルを350重量部、流動性向上樹脂としてのランダムポリプロピレンを20重量部、フィラーとしての炭酸カルシウムを40重量部、着色顔料としてのカーボンブラックを8重量部含有するものである。試料C1は、これらを原料として、上記試料E1と同様に加熱溶融・混練し、厚み1mmシート状に成形することにより作製した。
【0051】
次に、上記試料E1〜試料E3、及び試料C1について、その圧力緩和特性を、万能引張圧縮試験機(ミネベア(株)製のTCM−50)を用いて調べた。測定は、室温24℃、湿度45%RHという条件で行った。
具体的には、まず、縦20mm×横20mmのサイズに調整した各試料(試料E1〜試料E3及び試料C1)を万能引張圧縮試験機の圧縮板に取り付けた。次いで、各試料の厚みに対し20%という設定圧縮幅、即ち各試料(厚み1mm)が厚み0.8mmまで圧縮されるように、圧縮速度10mm/minで各試料の圧縮を開始した。圧縮は、万能引張圧縮試験機のクロスヘッド(圧縮面:φ10mm、円形)により行った。そして、各試料について、経時毎の荷重の変化を測定した。その結果を図3及び図4に示す。
【0052】
図3及び図4において、横軸は圧縮を開始してからの経過時間(sec)を表し、縦軸は、各試料の荷重(N)を表す。また、図4は、図3における経過時間0〜20秒の部分を拡大したものである。
【0053】
図3及び図4より知られるごとく、上記試料E1〜E3においては、圧縮開始直後約6秒以下という短時間においては荷重が大きくなって極大(ピーク)を示し、圧縮開始から150秒後においては15N未満という小さな値まで荷重が緩衝されていることがわかる。即ち、試料E1〜E3は、大きな速度で加えられた応力に対しては高い剛性を発揮し、小さな速度で加えられた応力に対しては高い柔軟性を発揮できることがわかる。
【0054】
一方、試料C1は、試料E1〜試料E3と同様に短時間で荷重がピークを示し、剛性には優れているが、150秒後においても約23Nという大きな荷重を示した。即ち、試料C1は、試料E1〜試料E3に比べて荷重を充分に緩衝できないことがわかる。
【0055】
このように本例の粘性ガスケット(試料E1〜試料E3)は、試料C1に比べて、剛性と柔軟性という相反する性質を高いレベルで兼ね備えたものであることがわかる。そのため、試料E1〜試料E3は、例えば液晶表示パネル等の耐衝撃性の低い部材に対するガスケットとして好適であることがわかる。
【0056】
次に、本例においては、導電性材料を含有する上記試料E1の粘性ガスケットについて、その圧縮時の電気抵抗値を、万能引張圧縮試験機(ミネベア(株)製のTCM−50)を用いて調べた。測定は、室温25.6℃、湿度52%RHという条件で行った。
【0057】
具体的には、まず、縦20mm×横20mmのサイズに調整した試料E1を万能引張圧縮試験機の圧縮板に取り付けた。次いで、試料E1の厚みに対し20%という設定圧縮幅、即ち試料E1(厚み1mm)が厚み0.8mmまで圧縮されるように、圧縮速度10mm/minで各試料の圧縮を開始した。圧縮は、万能引張圧縮試験機のクロスヘッド(圧縮面:φ10mm、円形)により行った。そして、試料E1について、経時毎の電気抵抗値の変化を測定した。その結果を図5に示す。なお、電気抵抗値は、4端子法により、0.1Aの定電流で電流を流したときの電圧を測定することにより算出した。
【0058】
図5において、横軸は圧縮を開始してからの抵抗測定開始からの経過時間(sec)を示し、縦軸は試料E1の電気抵抗値(Ω)を示す。
図5より知られるごとく、試料E1は、圧縮時、即ち荷重が付加された状態においても、導電性を発揮できることがわかる。
したがって、試料E1の粘性ガスケットは、優れた剛性及び柔軟性を発揮すると共に、圧縮時においても電磁波等を遮断することができる。そのため、携帯電話、パソコン等の精密機器用のガスケットとして好適に用いることができる。
【0059】
(実施例3)
本例は、熱伝フィラーを含有する粘性ガスケットを作製する例である。
本例の粘性ガスケットは、実施例2において作製した試料E2と同様の組成に対して、さらに熱伝フィラーとしてのアルミナを含有するものである。これを試料E4とする。
【0060】
即ち、試料E4は、スチレン系エラストマーからなる基材樹脂100重量部と、軟化剤200重量部と、粘着付与樹脂500重量部と、流動性向上樹脂27重量部と、フィラー68重量部と、着色顔料14重量部と、導電性フィラー303重量部と、熱伝フィラー606重量部とを含有する。基材樹脂、軟化剤、粘着付与樹脂、流動性向上樹脂、フィラー、着色顔料、導電性フィラーの種類としては、実施例1と同様である。また、熱伝フィラーとしては、熱伝導率30W/m・Kのアルミナを用いた。
試料E4は、これらを原料として、実施例1と同様に加熱溶融・混練し、厚み1.5mmのシート状に成形することにより作製した。
【0061】
次に、試料E4について、その熱伝導率を測定した。熱伝導率は、京都電子工業株式会社製のQTM−500を用いて測定した。
その結果、試料E4は、熱伝導率0.65W/m・Kという高い熱伝導率を示した。このように、高い熱伝導率を示すため、試料E4は、放熱性に優れている。したがって、試料E4は、液晶表示パネル等に用いられるガスケットのように、発熱し易い電子部品等の近くに配置されるガスケットに適しており、電子部品等の熱を外部に放出することができる放熱性に優れたものとなる。
【0062】
また、本例においては明示してないが、試料E4についても、実施例2と同様にその圧力緩和特性を調べたところ、上記試料E2と同様の圧力緩和特性を示した(図3及び図4参照)。即ち、試料E4は、上記試料E2と同様に剛性と柔軟性とを兼ね備えるものであった。
このように、試料E4は、剛性と柔軟性とを高いレベルで兼ね備えると共に、放熱性にも優れている。そのため、試料E4は、液晶表示パネル等のガスケットとしてより最適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1にかかる、液晶表示装置の全体を示す説明図。
【図2】実施例1にかかる、液晶表示装置の断面図。
【図3】実施例2にかかる、4種類の粘性ガスケット(試料E1〜試料E3及び試料C1)の圧力緩和特性を示す線図。
【図4】図3における部分拡大図。
【図5】実施例2にかかる、粘性ガスケット(試料E1)の圧縮時における抵抗値の変化を示す線図。
【符号の説明】
【0064】
1 液晶表示装置
2 液晶表示パネル
3 ケース
5 粘性ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマーからなる基材樹脂と、軟化剤と、上記基材樹脂と相溶性を有する粘着付与樹脂とを含有する粘性ガスケットであって、
該粘性ガスケットは、上記基材樹脂100重量部に対して、上記軟化剤を50〜600重量部、上記粘着付与樹脂を500〜2000重量部含有していることを特徴とする粘性ガスケット。
【請求項2】
請求項1において、上記軟化剤は、温度40℃における動粘度100mm/s2以上のパラフィン系プロセスオイルであることを特徴とする粘性ガスケット。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記粘着付与樹脂は水添石油樹脂であることを特徴とする粘性ガスケット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記粘性ガスケットは、その表面又は/及び内部に導電性材料を有していることを特徴とする粘性ガスケット。
【請求項5】
請求項4において、上記粘性ガスケットは、上記導電性材料としての導電性フィラーを上記基材樹脂100重量部に対して200〜20000重量部含有することを特徴とする粘性ガスケット。
【請求項6】
請求項4又は5において、上記粘性ガスケットの表面には、上記導電性材料としての導電布又は金属メッシュが形成されていることを特徴とする粘性ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−111758(P2006−111758A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301481(P2004−301481)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】