説明

粘液付着性ポリマー、その使用およびその製造法

【課題】標的部位における安定した供給を可能とする、粘膜層中に活性物質を標的導入することを可能にする改良された粘液付着性ポリマーを提供する。
【解決手段】チオール化したアクリル酸およびジビニルグリコールのコポリマー、チオール化キトサン、チオール化ナトリウムカルボキシメチルセルロース、チオール化ナトリウムアルギネート、チオール化ナトリウムヒドロキシプロピルセルロース、チオール化ヒアルロン酸およびチオール化ペクチンまたはこれらのチオール化ポリマーの誘導体から選択される、10未満の異なるモノマーおよび、末端に位置しない少なくとも一つのチオール基を含む粘液付着性ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘液付着性ポリマー、該ポリマーを含む薬剤ならびに粘液付着性ポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬文献にバイオ付着の概念が紹介されて以来、種々のポリマーのバイオ付着特性を改良するために多くの試みが大学および工業分野でなされてきた。これらの試みには、イオン生成ポリマーを中和する試み(Tobyn et al., Eur.J.Pharm.Biopharm. 42 (1996) 56-61)、ポリマーを有機溶媒中で沈殿させ、それを凍結乾燥に代わって風乾する試み(Bernkop-Schnurch et al., Int.J.Pharm. 165(1998) 217-225)、ポリマー-レクチン複合体を開発する試み(Naisbett et al., Int.J.Pharm. 107(1994) 223-230)ならびに、ポリマーと細菌アドヘジンの複合体(Bernkop-Schnurch et al., J.Pharm.Sci. 3(1995) 293-299)を開発する試みが含まれる。
【0003】
すでに開示されているこれらのシステムは全て、非共有結合、例えば水素結合またはイオン相互作用の形成に基づいており、このシステムでは、多くの場合、活性物質-送達システムを所定の標的部位で満足して局在化するには不充分な弱い結合しか得られない。
GI上皮を覆う粘膜層は主に、多くのO-結合オリゴ糖鎖を有する1の中心領域と、その両側に2つの隣接する、システインに富むサブドメインを含む粘膜糖タンパク質から成る。これらシステインに富むサブドメインは、ムチンモノマーが結合してジスルフィド結合によりオリゴマーを供給する場合に関与するその一次構造中に、10%を超すCysを含む。この方法で、粘膜ゲル層の三次元ネットワークが構築される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、標的部位における安定した供給を可能とする、粘膜層中に活性物質を標的導入することを可能にする改良された粘液付着性ポリマーを提供することにある。本発明により、有効かつ効率のよい活性物質送達システムが可能となり、これにより、薬物の改良された、およびさらにまた、粘膜上での広い付着を達成することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、この目的はそれが10以下の異なるモノマーで組み立てられており、少なくとも一つの末端以外のチオール基を含むことに特徴を有する粘液付着性ポリマーにより達成される。粘液付着特性を有することが知られているポリマー中にチオール基を標的導入することによりまたは、全く新規なチオール含有ポリマーを創製することにより、粘液層の特定構造が特定の方法で利用される。例えば、N-アセチルシステインのようなチオールの粘液溶解活性は、粘液中の糖タンパク質と粘液溶解的に活性な薬剤の間のジスルフィド交換反応に基づくことが知られている。そのような交換反応に基づき、粘液の糖タンパク質構造における分子外およびまた分子内ジスルフィド結合の両方が開裂し、それにより粘液層を溶解する。この観察に基づき(これによると、粘液溶解性物質は、粘液中の糖タンパク質に共有結合する)、本発明では、他のチオール含有化合物、特にチオール基を有するポリマーも粘膜層に共有結合することができるという仮説が立てられた。意外にも、この仮説は完全に確かであるだけでなく、非常に特異的に働くので、それにより、有効な薬物送達システムが提供されることが見出された。特に、粘液溶解性チオールと反対に、本発明によるポリマーはいずれの実質的な粘液溶解性活性も有さないことがわかった。
【発明の効果】
【0006】
本発明によるポリマーが粘液糖タンパク質のシステインに富むサブドメインと可逆的な、共有結合を形成することができ(図1を参照されたい)、そのような結合により粘液中の所定の粘膜にポリマーを安定して局在化させることが可能となることが明らかにされた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のポリマーの粘液層への共有結合の原理を示す。
【図2】非修飾ポリマーと比べたチオール化ポリマーの分解を示す。
【図3】チオール化および非チオール化CMCからの(図3A)および、チオール化および非チオール化PCPからの(図3B)リファンピシンの放出プロフィールを示す。
【図4】腸粘膜を経る浸透効果を示す。
【図5】粘液付着特性を測定する装置を示す。
【図6】図6は、L-システインのチオール化PCPへの結合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
好ましくは、本発明によるポリマーは、ポリマー1gに付き少なくとも0.05μmol、詳細には少なくとも0.1μmolの共有結合チオール基を含む。通常、本発明によるポリマーは、ポリマー1グラムあたり1-500μmol、詳細には10-100μmolのチオール基を含む。これにより、粘液糖タンパク質への有効な結合が可能となるだけでなく、有利な水和効果および内部付着によるその粘液付着性特性がさらに高まる。
【0009】
好ましくは、本発明によるポリマーは、粘液付着特性を有することがすでに知られているポリマーのチオール化により調製する。そうすることにおいて、そのような粘液付着特性が実質上高まり、改善される。それゆえ、本発明のポリマーは、好ましくはチオール化ポリカルボフィル(アクリル酸とジビニルグリコールのコポリマー)、チオール化キトサン、チオール化ナトリウムカルボキシメチルセルロース、チオール化ナトリウムアルギネート、チオール化ナトリウムヒドロキシプロピルセルロース、チオール化ヒアルロン酸およびチオール化ペクチンから選択される。非チオール化ベースポリマーに関しては、粘液付着特性は、例えばSmart et al. (J.Pharm.Pharmacol. 36(1984) 295-299)に開示されている。
【0010】
もちろん、前記ポリマーのチオール化誘導体も好ましい。そのような誘導体の例には、特に負に荷電した基、例えばCOO基を含むポリマーの場合には、オートクロスリンキング、官能基の導入、錯化剤(例えばEDTAなど)の付着、酵素インヒビターのカップリングなどにより得られる誘導体が含まれる。
本発明によれば、そのようなチオール化はあらゆる型の化学反応により行うことができ、それによりチオール基をポリマーに、特に水溶性ポリマーに結合させることができる。経済的理由のため、後者は得るのが容易でかつ値が張らないために、チオール化にはシステイン基の使用が役立つ。システイン基はアミド結合によりポリマーに結合させることが好ましい。
他方、本発明によるポリマーは、少なくとも一つのモノマーがチオール基と(共)-重合しているポリマーを製造する間に、そのモノマーがポリマー中に遊離チオール基を含む、すなわち、チオール基は重合反応において直接は反応していないように調製することもできる。ポリマー中に遊離チオール基を有する少なくとも一つのモノマーを含むそのようなポリマーも、本発明によれば好ましい。
【0011】
本発明による好ましいポリマーは、付着の総仕事量(TWA)として測定して120μJより高い、特に150μJより高い(pH7にて)腸粘膜への高い結合能力によっても特徴付けられる。そのようなTWAを測定するのに適したシステムを実施例に記載する。
【0012】
本発明によれば、非チオール化ポリマーのTWAと比較して、高いTWAを有するポリマーを使用することが好ましい。好ましくはTWAのこの増加は、チオール化ポリマーのTWAのpH最適条件で測定して50%またはそれ以上、特に100%またはそれ以上である。
さらなる態様において、本発明は、本発明によるポリマーと粘膜を通って吸収される少なくとも一つの活性物質から成る薬剤に関する。活性物質の粘液層における標的適用が本発明のポリマーを用いて可能となるので、本発明による薬物は、粘液層へ活性物質を送達する、これまで知られている全てのシステムよりも、その特異性とその汎用性の両方に関して優れている。
【0013】
活性物質は標的部位で拡散により投与されるように、ポリマーに非共有結合することが好ましい。活性物質およびポリマーと混ぜ合わされ、あるいは連結させる方法は重要ではなく、一般に共-凍結乾燥が風乾、ゲル化などと同じ位有用である。また、薬物を最終的に調製する方法は重要ではない。しかし、それは錠剤、坐薬、ペレット、点眼、点鼻、点耳剤またはゲルとして、吸入により投与されるべき形態または微(ナノ)粒子の形態で提供されることが好ましい。
活性物質としては、好ましくは、粘液層にて活性を有することが知られている物質、詳細には血液中で比較的短い、例えば3時間未満の半減期を有する物質が考えられる。本発明のチオール化ポリマーに基づく活性物質送達システム(このシステムはさらに活性物質の数時間にわたる制御放出を可能にする)にて改良、および拡大された活性物質の付着のために、そのような活性物質の摂取の頻度を劇的に減じることができる。
【0014】
好ましい態様に従い、本発明の薬物は、チオール基により高められる活性物質、好ましくはチオール依存性酵素、詳細にはパパインおよびサブチリシンを含む。
さらなる態様において、本発明は、薬物としての本発明のポリマーおよび薬物、詳細には粘液付着性薬物のための本発明のポリマーの使用に関する。好ましくはこの薬物は、経口で投与することができる。
改良された投与形態により、例えばポリマー錠剤中に活性物質を提供することによる活性物質の遅延放出も可能となり、ここで、遅延放出は、活性物質をポリマー皮膜を通して浸透させることにより成し遂げられる。この点において、チオール基によりもたらされる本発明のポリマーの改良された膨潤(swelling)作用が重要な役割を果たす。
【0015】
本発明に従い、患者への該薬物の投与が有効な投与量で成し遂げられ、ここで該投与量は各活性物質に関して当該分野で開示されている投与量と調和したものであってもよい。この点において、しかし、2つの態様を考慮に入れなければならない。一つは、本発明による投与形態により公知の投与(同じ投与経路による)よりもかなり標的化され、より有効となり、もう一つは、粘膜を経た活性物質の浸透が本発明のポリマーにより高めることができることである。
【0016】
従って、本発明の好ましい具体例は、活性物質、詳細には高分子の、親水性物質、例えば活性(ポリ)ペプチド物質の、粘膜、好ましくは腸粘膜を通過する浸透力を高めるための薬剤の調製における本発明のポリマーの使用に関する。
本発明によるポリマーが、ある種のイオン、詳細には亜鉛イオンとの結合能があることも明らかにされた。本発明のポリマーを投与することにより、ポリマーの亜鉛イオンが付着部位にて結合し、それにより、酵素、詳細には亜鉛イオンに依存する酵素が阻害される。酵素の阻害は、酵素が本発明によるポリマーに直接結合することによっても達成することもできる。さらに本発明は、酵素、詳細には亜鉛イオンに依存する酵素を阻害するための薬剤を調製するための本発明によるポリマーの使用に関する。その例は特に、胃腸管における亜鉛依存性酵素、例えばカルボキシペプチダーゼAおよびBなどである。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、非粘液接触層における本発明によるポリマーの使用であって、生物(タンパク質性)物質に対する改良された付着特性も利用する使用に関する。詳細には、粘性物質-手術(眼内手術介入、白内障処置)における適用、皮内適用(美容、さらに医薬品、例えばしわのスムーザー、または組織増強)、さらにまた関節内特に滑液における適用が考慮される。
前記のように、本発明のポリマーの調製は重要ではない。本発明によるポリマーを調製するための好ましい方法は、10未満の異なるモノマーから組み立てられたベースポリマーを、末端以外のモノマーの少なくとも一つがポリマー内にて遊離している末端官能基Iを含む、少なくとも一つの更なる官能基IIを含むチオール含有化合物と反応させ、官能基IおよびIIがこの反応の間に、所望によりカップリング試薬の使用を用いて相互に共有結合を形成させることを特徴とする。
【0018】
好ましくはこの方法における官能基Iはカルボキシル基であり、官能基IIはアミノ基、好ましくは第一アミノ基であり、アミド結合が形成される。カップリング試薬、特にカルボジイミドを好ましくは反応に用いてもよい。
好ましい具体例によれば、第一アミノ基、好ましくはシステインまたはシステイン誘導体を有するメルカプト化合物をチオール含有化合物として用いる。
好ましくは、反応は4〜8、詳細には5.5〜6.5のpHで行う。
本発明に従い調製されるポリマーは所定のpH、好ましくは5〜9のpH、詳細には6.5〜8.5に調整してもよい。
さらなる態様において、本発明はさらに、ポリマーの粘液付着性を改良する方法にも関し、この方法は、外部より配置したチオール構造基をこれらのポリマーに導入し、ポリマーおよび粘液層間にジスルフィド結合の形成を生じることで特徴付けられる。
【0019】
本発明をここに、より詳細におよび以下の実施例および図を引用して記載する。
【実施例1】
【0020】
実施例1:本発明によるポリマーの調製
10gのポリカルボフィル(Noveon AA1, BF Good-richから)を、数回に分けて100mlの4%(m/m)メタノール性NaOH溶液中に連続攪拌しながら懸濁した。得られたポリマーのナトリウム塩を濾去し、濾液が中性のpHを有するまでメタノールで洗浄する。続いて、ポリマーを乾燥器中で室温にて乾燥させる。中和したポリカルボフィルの1gを250mlの脱イオン水で水和し、該ポリマーのカルボン酸基を室温で45分間、攪拌しながら、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロライド(50mMの最終濃度まで添加する)を用いて予め活性化させる。続けて添加されるL-システインの酸化を妨げるために、溶液のpHを5NのHClでpH4に調整し、15分間Nガスでパージする。0.5gのL-システイン添加後、溶液のpHを所望により、各々、HClまたはNaOHを用いて4-5のpHに調整し、反応混合液を3時間室温にて、Nガスの供給下で攪拌する。ポリカルボフィル-システイン複合物を1mMのHClおよび2μMのEDTA水溶液に対して透析し、さらに追加的に1%のNaClを含む同じ透析媒質に対して2回および、0.5mMのHClに対して続けて徹底的に空気の除外下10℃にて透析する。その後、複合物のpHを1NのNaOHを用いてpH5に調整する。単離した複合物を−30℃にて凍結乾燥する。貯蔵は4℃にて行う。
【0021】
次のチオール基濃度(μmol/ポリマー1g)を有する種々のポリカルボフィル(PCP)-システイン複合物を調製した:PCT-Cyst(1:4):142.2±38.0μmol/gポリマー;PCP-Cyst(1:2):12.4±2.3;PCP-Cyst(2:1):5.3±2.4;PCP-Cyst(4:1):3.2±2.0;PCP-Cyst(8:1):2.9±1.4;PCP-Cyst(16:1):0.6±0.7;PCP-Cyst(32:1):0.3±0.5;対照:(PCP+Cyst反応なし):0.00±0.00(これにより、精製の効果が立証される)。
【0022】
特にPCP-Cyst複合物1:2および1:4は、非修飾ポリマーと比較して、有意な(>100%)、より高い水の摂取能を示した。
ムチン結合研究(ポリマーへの豚ムチンの結合)において、ムチンは試験されるポリマー-システイン複合物に対して有効に結合することを立証することができた(非修飾ポリマーと比較して)。
本発明のポリマーの腸粘膜のムチンに対する結合強度(TWA)を、実質上、Ch'ng et al. (J.Pharm.Sci.74(1985)399-405)にあるように試験し、Bernkop-Schnurch et al(Pharm. Res. 16(6)(1999), 876-881)に開示されているように行った。
0.9%のNaClを含む50mMのTris-HClバッファー、pH6.8から成る合成腸分泌液中の、豚小腸から摘出した粘膜における付着試験およびエキソビボ試験の両方において、本明細書に記載するポリマー(ポリカルボフィル)-システイン複合物は、同じ方法で予め処理したポリカルボフィル(しかしシステインは全く共有結合していない)よりも明らかに高い付着力を示した。
【0023】
本発明によるポリマーを用いて、非修飾ポリマー(PCP)に対する付着作用(PCP)は少なくとも100%まで増大し得た。つまり、ポリマーシステイン複合物16:1を用いて、191±47μJのTWAおよび、2:1複合物を用いて、280±67μJのTWAを得ることができ、一方、非修飾ポリマーは104±21μJのTWAを有した。
TWAの増加はpH6.8にて最適条件を有し、さらにpH3ですらチオール化した化合物のポジティブな効果が出発ポリマーに対して生じることがわかった。
【0024】
実施例2:本発明によるポリマーの分解に関するアッセイ。
本発明により調製されたカルボキシメチルセルロース-システイン複合物(CMC-システイン複合物)およびPCP-システイン複合物を凍結乾燥し、鋳型錠剤形態にした。同様に、対応する非修飾ポリマーを含む錠剤を調製した。5mlの50mMトリス-HClで緩衝剤処理した生理的食塩水溶液(TBS)中のポリマー錠剤(30mg)のpH6.8、37℃における安定度を、ヨーロッパ薬局方に従い0.5/秒の振動数を有する分解アッセイ装置を用いて分析した。
チオール化ポリマーの錠剤は、非修飾ポリマーよりも実質的に高い安定度を有することが示されている。このアッセイにおいて、CPC-システイン複合物を含む鋳型錠剤は数日経過してもなお安定であった。結果を図2に示し、分解時間は時間にてy軸上で与える。
【0025】
薬物中の結合を破壊することにより粘膜からの薬物の分離を高度に減じることができるので、本発明によるポリマーの錠剤のこの高い安定度は、ポリマー中のジスルフィド結合の形成(これにより、基質システムの改良された付着も間接的に可能となる)により説明することができる。この改良された安定度はかなり実質的な関連性をも有し、公知のポリマー-キャリアシステムと比較して、主として腸における活性ポリペプチド物質のプレシステミックな代謝の低下に関して様々な利点を提供する。
【0026】
実施例3:放出試験
本発明に従い調製された複合物(CMC-システイン複合物およびPCP-システイン複合物)を脱塩水中で水和し、アセトンまたは1NのNaOHそれぞれの中に入れ、こうして粘度を高度に上昇させた。アセトンまたはメタノールそれぞれで洗浄した後、それを風乾および粉末化した。
モデル活性物質として1mgのリファンピシンおよび29mgのCMC-システイン複合物またはPCP-システイン複合物それぞれ、ならびに対応する非修飾ポリマーから成る錠剤を製造した。続いてこの活性物質送達システムのインビトロでの放出速度を、錠剤を10mlの放出媒体(50mMTBS、pH6.8)を含む25mlのコンテナに入れることにより分析した。コンテナを閉め、37±0.5℃にて振動電流水浴上でインキュベートした。600μlのアリコートを1時間間隔で採取し、等容量の放出媒質で置き換えた。放出されたリファンプシンを470nmにて検量線を用いて光学的に定量した。
【0027】
結果を(CMCに関して)図3Aおよび(PCPに関して)図3Bに示し、時間を時間(hour)にてx軸に、放出されたリファンピシンの割合をy軸上にプロットする。
本発明によるシステムを用いて、実質上より有効な放出が得られ、主として崩壊結果を考慮して、本発明のポリマーの高い可能性が立証された。制御された活性物質の放出は、長期間有効に達成された。
【0028】
実施例4:浸透エンハンサーとしての本発明のポリマーの活性
2mgのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を1mlのDMSOに溶解し、25μlのアリコート容量にて40mgのバシトラシン(20mlの、0.1M、NaCOに溶解)に添加した。8時間後、4℃にてカップリング反応を停止するために、塩化アンモニウムを50mMの終濃度にて添加した。形成されたFITC複合物を、Sephadex G15によるゲル濾過により単離し、凍結乾燥した。
浸透試験をこの修飾ペプチドを用いて37℃にて、モルモットの小腸の小片中の区画を用いて行った。ドナーとアクセプターのチャンバーをそれぞれ1mlの250mM塩化ナトリウム、2.6mMの硫酸マグネシウム、10.0mMの塩化カルシウム、40.0mMのグルコースおよび50mMの炭酸水素ナトリウム(pH7.2)を含む1mlの溶液で満たした。バシトラシン-FITC複合物をドナーの区画に0.1%(m/v)の終濃度で添加した。200μlのアリコート容積を所定の時点でアクセプターの区画から取り、同じ培地で置き換えた。修飾ペプチドの浸透作用への本発明に従い調製されたPCPおよびチオール化PCP(PCP-Cyst)の影響を、0.5%(m/v)のPCPおよび0.5%(m/v)のPCP-Cystの添加により試験した。浸透したバシトラシン-FITC複合物の量を蛍光計を用いて測定した。同様に、上皮組織貫通電気抵抗の変化を測定した。
【0029】
1422Daの分子量を有するバシトラシンがある程度まで腸粘膜を貫通することができることを立証することができた。消化酵素による分解は、その酵素阻害活性のために無視することができた。0.5%PCPの添加により膜を通過するモデルペプチドの輸送の1.2倍の増加が導かれ、一方、本発明により調製されたポリマーの使用により、浸透の有意に高い増加(約1.5倍)が可能となった。比較実験として、システインそれ自体は浸透に全く影響を持たず、それにより本発明のポリマーの有意な影響が明らかであることを示すことができた。
この実験の結果を図4に示し、時間を分で、x軸上に示し、浸透を全投与量の割合にてy軸上に示した(○:PCP ■:PCP-Cyst ◆:対照)。
【0030】
実施例5:インビトロ-粘液付着試験
PCP(700kDa以上の分子量)をNaOHで中和した。水和し、中和したPCPおよび水和したCMC(分子量約1000kDa)のカルボン酸基を、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド-ヒドロクロライド(EDAC;Sigma)を50mMの終濃度で添加することにより45分間活性化させた。塩酸L-システインを添加し、反応混合液のpHを4-5に調整した。L-システインに対するEDACのモル比は、PCPおよびCMCそれぞれを用いたカップリング反応に関して50:3.2および50:1であった。CMCを用いたカップリング反応のpHを1NのHClを添加することにより一定に保った。反応混合液を3時間室温にてインキュベートした。得られたポリマー-システイン複合物を10℃、暗中での1mNのHClに対する透析により単離した。続いて、これらのポリマーのpHを1NのNaOHを用いてpH3、pH5またはpH7に調整し、凍結乾燥した。得られたチオール化ポリマーは、12.3μmol(PCP複合物)および22.3μmol(CMC複合物)チオール基/ポリマー1gを有した。
【0031】
粘液付着試験をU.S.薬局方(cf.図5)に従う装置を用いて行った。新たに摘出したブタ由来の腸粘膜をスチール製のシリンダー(直径4.5cm、高さ5.1cm、装置4シリンダー、USPXXII)上で伸ばした。このシリンダーを100mMのTBS、pH6.8を含む分解装置中に37℃にて導入し、250rpmにて回転させた。ポリマーを5.0mmの直径を有する30mgの錠剤にプレスし、粘膜に適用して10時間観察した。結果を以下の表に示す。
【0032】
【表1】

dis..分解
det..分離
【0033】
本発明によるポリマーが、非チオール化出発ポリマーに対して明らかに改良された特性を有することが示された。本発明によるシステムにおいて、特性の協同作用:粘膜への付着能力、本発明のポリマーの粘膜への結合メカニズム、増加した付着力および膨潤作用により最適の付着作用が生じ、粘液層への最適の付着による優れた薬物の供給が可能となる。
【0034】
実施例6:酵素阻害効果
PCP-システイン複合物および非修飾中和PCPの、カルボキシペプチダーゼAおよびカルボキシ-ペプチダーゼBに対する阻害効果を試験した。そうすることに関して、以下のものをこれらの酵素に関して記載される酵素活性試験において試験した。
0.5mgのポリマーおよびL-システインそれぞれおよび、0.5ユニットのウシのすい臓由来のカルボキシ-ペプチダーゼAを400μlの2.9%のNaClを含む25mMトリス-HCl、pH6.8中で30分間室温にてインキュベートした。遠心分離後、300μlの上清を300μlの2mMヒプリル-L-フェニル-アラニンに入れ、吸収の増加を254nmにて1分間隔で測定した。
【0035】
ウシのすい臓からのポリマー(1mg)およびカルボキシ-ペプチダーゼB(0.62ユニット)を600μlの全容積にて30分間37℃でインキュベートした。遠心分離後、400μlの上清を400μlの2mMヒプリル-L-アルギニンに入れ、吸収の増加を258nMにて1分間隔で測定した。
カルボキシペプチダーゼAおよびBに対するPCPの既存の阻害効果はポリマー上でシステインを固定することにより有意に増加し得ることが示された。亜鉛に対するPCPの結合アフィニティは、システインをポリマーに固定することにより1.13倍まで増大することができ(68.7±1.9%の亜鉛がPCPに結合し、それに対して97.8±0.5がPCP-システインに結合する)、これらのエキソペプチダーゼはポリマーに結合しないため、阻害効果の増加が本発明によるポリマーの高い亜鉛アフィニティによるものであることは明らかである。
【0036】
実施例7:本発明によるポリマーに対するシステインの結合
システイン結合研究において、調製した0.5%(m/v)のPCP-システイン複合物および0.1%(m/v)のL-システインを37℃にて様々なpH値でインキュベートした。結果を表6に示す;x軸上に時間を時間(hour)にて示し、y軸上に結合システインをポリマーに結合することができる理論的最大値の%で示す。
これらの結合研究から、本発明によるポリマーが生物システムにおいてシステイン部分構造に共有結合することができ、こうして、即ち皮内、関節内および眼内適用において、非粘液接触領域への改良された付着が適当である用途にも適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多くとも10個の異なるモノマーで組み立てられ、少なくとも一つの末端以外のチオール基を含むこと;
を特徴とする粘液付着性ポリマー。
【請求項2】
ポリマー1gに付き少なくとも0.05μmol、特に、少なくとも0.1μmolの共有結合したチオール基を含むことを特徴とする請求項1記載のポリマー。
【請求項3】
ポリマーが、チオール化したアクリル酸およびジビニルグリコールのコポリマー、チオール化キトサン、チオール化ナトリウムカルボキシメチルセルロース、チオール化ナトリウムアルギネート、チオール化ナトリウムヒドロキシプロピルセルロース、チオール化ヒアルロン酸およびチオール化ペクチンまたはこれらのチオール化ポリマーの誘導体から選択されることを特徴とする請求項1または2記載のポリマー。
【請求項4】
チオール基が、好ましくはアミド結合によりポリマーに結合するシステイン基であることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載のポリマー。
【請求項5】
ポリマー中に、遊離チオール基を含む少なくとも一つのモノマーを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項6】
pH7にて120μJ、特に150μJより大きな腸粘膜への付着の総仕事量(TWA)を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項7】
非チオール化ポリマーのTWAと比較して、チオール化ポリマーのTWAが最適であるpH条件で測定した場合、TWAが少なくとも30%増加し、好ましくはTWAが50%またはそれ以上、特に100%またはそれ以上増大することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリマーおよび粘膜を経て摂取される少なくとも一つの活性物質を含む薬物。
【請求項9】
活性物質がポリマーに非共有結合することを特徴とする請求項8記載の薬物。
【請求項10】
錠剤、坐薬、ペレット、点眼、点鼻、点耳剤またはゲルとして吸入により投与されるべき形態にてまたは微(ナノ)粒子の形態にて服用されることを特徴とする請求項8または9記載の薬物。
【請求項11】
チオール基、好ましくはチオール依存性酵素、特にパパインおよびサブチリシンにより高められる活性物質を含むことを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の薬物。
【請求項12】
薬物を調製するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリマーの使用。
【請求項13】
粘液付着薬物を調製するための請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリマーの使用。
【請求項14】
経口投与のための薬物を調製するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリマーの使用。
【請求項15】
活性物質を遅延にて放出する薬物を調製することを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のポリマーの使用。
【請求項16】
粘膜、特に腸粘膜を経た活性物質、特に活性(ポリ)ペプチド物質の浸透を亢進させるための薬剤を調製するための請求項1〜7いずれか一項に記載のポリマーの使用。
【請求項17】
内皮、眼内または関節内適用のための薬剤の調製のための請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリマーの使用。
【請求項18】
酵素、特に亜鉛イオン依存性酵素の阻害のための薬剤を調製するための請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマーの使用。
【請求項19】
多くて10個の異なるポリマーで組み立てられるベースポリマー(ここで、少なくとも一つの末端以外のモノマーはポリマー中で遊離している末端官能基Iを含む)を、少なくとも一つのさらなる官能基IIを含むチオール含有化合物と反応させ、官能基IおよびIIがこの反応の間に所望によりカップリング試薬を用いて互いに共有結合を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマーの調製方法。
【請求項20】
官能基Iがカルボキシル基であり、官能基IIがアミノ基、好ましくは第一アミノ基であって、カップリング試薬、特にカルボジイミドを該反応において用い、アミド結合を形成させることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
第一アミノ基、好ましくはシステインまたはシステイン誘導体を有するメルカプト化合物をチオール含有化合物として用いることを特徴とする請求項19または20記載の方法。
【請求項22】
反応を4〜8のpH、特に5.5〜6.5のpHにて行うことを特徴とする請求項19〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
調製されるポリマーを、5〜9のpH、特に6.5〜8.5のpHに調製することを特徴とする請求項19〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項8〜11のいずれか一項に記載の薬物の調製方法であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリマーを活性物質と組み合わせることを特徴とする方法。
【請求項25】
結合において、活性物質がポリマーに共有結合していないことを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
ポリマーおよび活性物質を共-凍結乾燥することを特徴とする請求項24または25記載の方法。
【請求項27】
外部より配置したチオール基をこれらのポリマーに導入し、ポリマーおよび粘液層間にジスルフィド結合の形成を生じることを特徴とするポリマーの粘液付着を改善する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−140655(P2011−140655A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−47953(P2011−47953)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【分割の表示】特願2000−579261(P2000−579261)の分割
【原出願日】平成11年11月4日(1999.11.4)
【出願人】(501177610)
【氏名又は名称原語表記】Andreas BERNKOP−SCHNUERCH
【Fターム(参考)】