説明

粘着シート製造用乾燥装置

【課題】
帯状の基材に粘着剤層が形成された粘着シートを製造すべく、基材に形成されたエマルション粘着剤溶液を乾燥するための粘着シート製造用乾燥装置であって、粘着シートの乾燥装置へのセッティングや乾燥装置のメンテナンスが簡便に行えるとともに、粘着シートの自重による撓みを抑制し、粘着シートの乾燥装置への接触を防止することを課題とする。
【解決手段】
粘着シート製造用乾燥装置には、搬送コンベア、マイクロ波導波路部材が備わっており、マイクロ波導波路部材は、2枚の鋼板に設けられた溝を対向させることによってマイクロ波導波路が形成されたものであり、マイクロ波導波路部材には、搬送コンベアと粘着シートを通過させるためのスリットが設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の基材に粘着剤層が形成された粘着シートを製造すべく、前記基材の片面に塗布されたエマルション粘着剤溶液を乾燥させるための粘着シート製造用乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、帯状の基材に塗布された粘着剤溶液を乾燥させる方法として、高温の気体を乾燥対象物である粘着剤溶液へ作用させ、粘着剤溶液中の溶媒を乾燥させる方法(以下、熱風乾燥法という)が用いられている。しかし、このような熱風乾燥法では、基材に塗布された粘着剤溶液の最表面が、粘着剤溶液の内部よりも先に乾燥し、粘着剤溶液の最表面に皮膜が形成するため、粘着剤溶液の内部の乾燥が十分に行えなかったり、或いは、粘着剤溶液の内部に残存する溶媒が抜けきれずに発泡が生じ、乾燥後の粘着剤層に不均一な凹凸が発生する場合があった。
【0003】
熱風乾燥法におけるこのような不具合を改善するために、粘着剤溶液に作用させる気体の温度を下げたり、或いは、気体の流量を低下させる等の、緩やかな条件によって乾燥させる方法が試みられた。しかしながら、このような緩やかな条件によって乾燥させるためには長い乾燥時間を必要とするので、長大な乾燥塔といった大規模な乾燥設備が必要になったり、或いは、乾燥時間を長くするために生産速度を遅くすることで生産効率が低下する等の課題があった。
【0004】
一方、従来より、装置のコンパクト化と乾燥時間の短縮化を図るために、電磁波の一種であるマイクロ波を乾燥対象物である粘着剤溶液に照射して、粘着剤溶液中の溶媒を乾燥させる方法(以下、マイクロ波乾燥法という)が用いられている(特許文献1参照)。特許文献1には、マイクロ波発生装置と他の加熱装置を併用したことを特徴とする水中分散液を塗布したコーテッドフィルムの乾燥装置が開示されている。
【0005】
このマイクロ波乾燥法とは、熱風乾燥法のような物質の外側から加熱する方法とは異なって、誘電加熱の原理により被加熱物自身(誘電体)が発熱体となる内部加熱方式である。この誘電加熱の加熱原理は、被加熱物をマイクロ波の電界の中に置くと、被加熱物を構成している分子(永久双極子)が電波(電界)の力を受け、電気的に中性状態であった永久双極子を変位・分極させ、マイクロ波の周波数に応じ激しく振動する。このとき、各分子間で摩擦熱が発生し誘電体全体が発熱・昇温するという原理に基づくものである。このため、分極構造を有する分子を含む被加熱物であれば加熱可能であるが、特に水や水酸基を有する分子を含有する被加熱物の加熱に効果的であるという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭47−6051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、マイクロ波導波管が一本の管状に連結されており、さらに、乾燥対象物であるコーテッドフィルムを、前記マイクロ波導波管を横切るように通すという複雑な構造を有しているため、コーテッドフィルムをマイクロ波導波管内に通しにくく、コーテッドフィルムを装置にセッティングしづらいものであった。また、特許文献1に記載の装置において乾燥作業中にトラブルが生じると、上記したような複雑な構造のためマイクロ波導波管内を簡便に点検することが難しいものであった。さらに、特許文献1に記載の装置にて粘着性を有する粘着シートを乾燥する場合に、マイクロ波導波管内には例えば支持ロールのような粘着シートを保持する設備が存在しないため、マイクロ波導波管内を搬送中の粘着シートが自重により撓むと、粘着シートがマイクロ波導波管に接触する等の不具合が発生するおそれがあるという課題があった。
【0008】
そこで、本発明はこのような従来技術に鑑みてなされたものであり、帯状の基材に粘着剤層が形成された粘着シートを製造すべく、基材に形成されたエマルション粘着剤溶液を乾燥するための粘着シート製造用乾燥装置であって、乾燥装置への粘着シートのセッティングや乾燥装置のメンテナンスの簡便さと、粘着シートの自重による撓みを防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意検討して見出したものであり、下記に示すとおりである。
(1)帯状の基材の片面に塗布されたエマルション粘着剤溶液を乾燥させるための粘着シート製造用乾燥装置であって、電磁波遮蔽材からなる筐体に、搬送コンベアと、マイクロ波導波路部材が備わっており、マイクロ波導波路部材は、2枚の鋼板に設けられた溝を対向させることによってマイクロ波導波路が形成されたものであり、マイクロ波導波路部材には、搬送コンベアと粘着シートを通過させるためのスリットが設けられていることを特徴とする粘着シート製造用乾燥装置、
(2)マイクロ波導波路は、粘着シートを横断するように粘着シートの幅方向に沿って折り返して形成されている(1)に記載の粘着シート製造用乾燥装置、
(3)マイクロ波導波路に供給されるマイクロ波が、粘着シート製造用乾燥装置の出口側から入口側に向けて伝送される(1)に記載の粘着シート製造用乾燥装置、
(4)粘着シート製造用乾燥装置にはさらに給気装置と排気装置が備わっていて、マイクロ波導波路部材には通気口を有する(1)に記載の粘着シート製造用乾燥装置、
(5)基材が、不織布、織布、編布、又は多孔質フィルムである(1)に記載の粘着シート製造用乾燥装置、
(6)粘着シートが皮膚用貼付材である請求項1に記載の粘着シート製造用乾燥装置、
を提供するものである。
【0010】
なお、本発明において、「幅方向」とは、粘着シートの搬送方向に対して直角をなす方向、「長手方向」とは、粘着シートの搬送方向を意味し、「入口側」とは、粘着シートが乾燥装置内へ搬入される側、「出口側」とは、粘着シートが乾燥装置内から搬出される側を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粘着シート製造用乾燥装置は、マイクロ波発生装置によって発生したマイクロ波が、マイクロ波導波路部材に形成されたマイクロ波導波路を伝送し、マイクロ波導波路内を通過する粘着シートに照射され乾燥されるという原理に基づいている。
【0012】
本発明の粘着シート製造用乾燥装置に備わっているマイクロ波導波路部材は、2枚の鋼板にそれぞれ溝を設け、前記溝を対向させることによってマイクロ波導波路が形成されたものである。このように本発明のマイクロ波導波路部材は、上下に分割可能な構造を有しているので、上下に分割することにより簡便に粘着シートを乾燥装置にセッティングすることができる。万が一、乾燥中にトラブルが生じた場合でも、マイクロ波導波路部材を上下に分割することにより、簡単にマイクロ波導波路内の点検を行うことができる。
【0013】
また、本発明のマイクロ波導波路部材は、2枚の鋼板を対向させ一体化したものなので、形成されたマイクロ波導波路の歪みを小さくすることができ、その結果、マイクロ波導波路内におけるマイクロ波の照射ブレが小さくなり、乾燥対象物である粘着剤溶液にマイクロ波が均一、且つ、効率的に照射することが可能となる。
【0014】
さらに、本発明の粘着シート製造用乾燥装置には搬送コンベアを備えていることにより、粘着シートが搬送コンベアによってしっかり保持されるので、粘着シートを乾燥装置内へ搬送する際に粘着シートの自重による撓みを抑制し、粘着シートが乾燥装置に接触する等の不具合を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係る粘着シート製造用乾燥装置の一例の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示す粘着シート製造用乾燥装置の入口側(粘着シート通紙側)から見た側面図である。
【図3】図3は、図1に示す粘着シート製造用乾燥装置において、マイクロ波導波路部材の上半分を上部へ移動させた後、上部から粘着シートへ向かって見下ろした平面図である。
【図4】図4は、図2において、マイクロ波導波路部材のみを描画したマイクロ波導波路部材の側面図である。
【図5】図5は、図4において、X−Y面で切断したマイクロ波導波路部材の断面図である。
【図6】図6は、図5に示すマイクロ波導波路部材において、マイクロ波導波路となる溝が形成された鋼板を、溝側から見た平面図である。
【図7】図7は、図6に示す鋼板の反対側(溝が形成されていない側)から見た平面図である。
【0016】
なお、図中のハッチングは、本発明のマイクロ波導波路部材を明示したものである。また、図中の各寸法は、本発明の特徴を明らかにするため、誇張して記載している場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般に、エマルション粘着剤溶液を塗布してなる粘着シートにおいて、塗布厚みが厚い場合に通常の熱風乾燥法による乾燥ではエマルション粘着剤溶液の溶媒である水が残存するおそれがある。従って、本発明は、エマルション粘着剤溶液の内部まで透過、作用するマイクロ波を照射することによってエマルション粘着剤溶液の溶媒を効率的に乾燥させる粘着シート製造用乾燥装置に関するものであり、特に水を溶媒とするエマルション粘着剤溶液を乾燥させるために好適に用いられる。
【0018】
本発明に用いられるエマルション粘着剤溶液としては、アクリル系ポリマーやウレタン−アクリル系ポリマー等の水分散体、スチレン−ブタジエン共重合体等の合成ゴムや天然ゴム等のゴム系ポリマーの水分散体が挙げられる。本発明においては、必要に応じて架橋剤、粘着付与樹脂、充填剤、オイル、顔料等の添加剤を配合してもよい。
【0019】
基材に塗布するエマルション粘着剤溶液の乾燥後の塗布厚みは、マイクロ波による乾燥効率を向上させる観点から、10μm〜300μmに設定することが好ましく、20μm〜100μmに設定することがより好ましい。粘着剤層の厚みが10μm未満だと、一般的な熱風乾燥法でも乾燥できるため、本発明を実施する利点はない。一方、粘着剤層の厚みが300μmを超えると、粘着剤層が厚すぎるため、熱風乾燥法だけでなく本発明の乾燥装置を用いても、粘着剤溶液内部の溶媒である水が蒸発する前に粘着剤溶液の最表面に皮膜が生じる場合があり、粘着剤層中に水が残存する可能性がある。
【0020】
また、本発明に用いられるエマルション粘着剤溶液の固形分濃度は、基材に塗布する際の粘着剤溶液の粘度や、塗布時の塗布厚みを考慮して適宜調節されるが、通常、エマルション粘着剤溶液の全重量に対して、10〜80重量%に調整することが好ましく、30〜70重量%に調整することがより好ましい。
【0021】
本発明に用いられる基材は特に限定されるものではないが、粘着剤溶液の溶媒である水を短時間で、且つ、均一に乾燥させるために、透湿度の高い不織布、織布、編布、または、多孔質フィルムを用いることが好ましい。透湿度の高い基材を用いることによって、粘着剤層表面からの乾燥だけでなく、基材を通して基材背面からも粘着剤溶液に含有する水を乾燥させることができるため、より短時間に乾燥を行うことができるという利点がある。このような基材の透湿度は、500g/(m2・24hrs)以上であることが好ましい。
【0022】
本発明の粘着シート製造用乾燥装置の具体例について図1〜7に示しながら以下に説明する。なお、本発明の粘着シート製造用乾燥装置は図に示した例に限定されるものではない。
【0023】
図1、2に示したように、本発明の粘着シート製造用乾燥装置は、電磁波遮蔽材からなる箱型の筐体1に、搬送コンベア2と、マイクロ波導波路部材4が備わったものである。また、本発明の粘着シート製造用乾燥装置には、乾燥装置内へ気体を供給するための給気装置8と、乾燥装置内の気体を排出するための排気装置9が備わっていることが好ましい。図3に示したように、粘着シート3は搬送コンベア2上に載置され、搬送コンベア2と共にマイクロ波導波路部材4内へ搬送される。マイクロ波発生装置10にて発生したマイクロ波は、マイクロ波導波路6内を伝送することによって、粘着シート3を乾燥させる。マイクロ波導波路6の終端には、マイクロ波を反射させるための短絡板11を設置してもよい。図4、5に示したように、マイクロ波導波路部材4は、2枚の鋼板5に設けられた溝を対向させることによってマイクロ波導波路6が形成される。マイクロ波導波路部材4には搬送コンベアと粘着シートを通過させるためのスリット7が設けられている。すなわち、鋼板5には、最表面から深さDのスリット7が形成され、さらに最表面から深さHのマイクロ波導波路6に相当する溝が形成されている。深さDと深さHの関係は、D<Hである。図6、7はマイクロ波導波路部材4を構成する1枚の鋼板を示したものであり、それぞれの鋼板は上下対称の形状を有している。図6、7に示したように、マイクロ波導波路6は粘着シート3を横断するように粘着シート3の幅方向に沿って折り返して形成されていることが好ましい。また、マイクロ波導波路部材4の上底および下底には、マイクロ波導波路6に通じる通気口12を有することが好ましい。
【0024】
次に、本発明の粘着シート製造装置を構成する各設備について以下に説明する。
【0025】
本発明に用いられる搬送コンベアは、帯状の基材に粘着剤溶液を塗布してなる乾燥前の粘着シートを、粘着シート製造用乾燥装置の入口側から出口側へ向けて搬送するためのものであって、乾燥前の粘着シートを搬送コンベア上に載置することによって粘着シート製造用乾燥装置内へ容易に搬送することができる。また、搬送コンベア上に粘着シートが載置、保持されているので、前記乾燥装置内の風向や粘着シート自体の自重によって粘着シートが下に撓む心配が無く、粘着シートが誤って乾燥装置に接触するおそれはない。さらに、搬送コンベアがマイクロ波の干渉位置に設置されることによって、搬送コンベア上に載置された乾燥対象物である粘着シートにマイクロ波が適切に照射され、効果的にエマルション粘着剤溶液を乾燥することができるという効果を奏する。
【0026】
マイクロ波を伝送する導波路としては、一般的に方形導波管、円形導波管、リッジ型導波管等の管状の導波路が用いられるが、このような管状の導波路の場合、導波路が長大になると構造が複雑化するため、フィルムやシートを管状の導波路に通すことが難しくなる。従って、本発明のマイクロ波導波路部材は、2枚の鋼板にそれぞれマイクロ波導波路となる溝を設け、前記溝を対面させることによって形成されることを特徴とするものであって、このような構造を有するマイクロ波導波路部材は上下に分割可能であるので、粘着シートの乾燥装置へのセッティングや乾燥装置のメンテナンスを簡便に行うことができる。マイクロ波導波路部材に用いられる鋼板としては、一般にマイクロ波導波路用として用いられている金属(非磁性金属)であれば特に制限されず、例えば、真鍮、非磁性ステンレス鋼、アルミニウム等の金属を挙げることができる。本発明に用いられるマイクロ波導波路は、基材に塗布された粘着剤溶液に満遍なくマイクロ波が照射され、粘着剤溶液を均一に乾燥させるために、粘着シートを横断するように粘着シートの幅方向に沿って折り返して設けられるのが好ましい。粘着シートを横断するマイクロ波導波路の横断回数としては、粘着シートに照射させるマイクロ波の照射強度の急激な減衰を抑え、且つ、粘着シートの幅方向に対して均一に照射させる観点から、粘着シートの長手方向の長さ50cmに対して、5回〜20回に設定するのが好ましい。
【0027】
本発明に用いられるマイクロ波導波路部材には、搬送コンベアと搬送コンベアに載置された粘着シートを通過させるためのスリットが存在する。このスリットは、マイクロ波の干渉位置であるマイクロ波導波路部材の中央付近に設けられることが好ましい。スリットを通過する搬送コンベア上に載置された粘着シートには、マイクロ波の干渉によって出力の高いマイクロ波が照射されるため、効率的に乾燥可能となる。このスリットの大きさは、乾燥装置外へのマイクロ波の漏洩防止と、粘着シートを載置させた搬送ベルトと乾燥装置との接触防止の観点から、適宜設定される。
【0028】
マイクロ波発生装置にて発生したマイクロ波は、粘着シートを横断するマイクロ波導波路内を伝送しながら粘着シートに照射されるものである。粘着シートに照射されたマイクロ波は、粘着シートに含まれる水の蒸発・乾燥のためにエネルギーが消費され、マイクロ波の照射強度は減衰する。
【0029】
一方、乾燥装置内の粘着シートの水分率について、乾燥装置の入口側の粘着シートには多量の水を含むのに対し、乾燥装置の出口側の粘着シートにはほとんど水が存在せず、乾燥装置内の粘着シートには乾燥装置の入口側と出口側との間で水分率の濃度勾配が存在するものである。
【0030】
このため、マイクロ波導波路内のマイクロ波の伝送方向に関して、乾燥装置の入口側から出口側に向けてマイクロ波を伝送させると、マイクロ波発生装置にて発生した照射強度の高いマイクロ波が乾燥装置の入口側の多量に水を含有する粘着シートに照射され、粘着シートに含まれる多量の水が急激に蒸発・乾燥するため粘着剤層に発泡が発生するおそれがある。これに対し、乾燥装置の出口側から入口側に向けてマイクロ波を伝送させる場合には、照射強度の高いマイクロ波が乾燥装置の出口側のほとんど水を含有しない粘着シートに照射されても、ほとんど水を有さないため発泡するおそれはなく、また、出口側から入口側の粘着シートの水分率の増加に応じて、マイクロ波の照射強度が徐々に減衰すると考えられるため、乾燥装置の入口側の粘着シートにおいても、急激な水の蒸発・乾燥は生じず粘着剤層に発泡が発生する心配はない。
【0031】
従って、本発明の粘着シート製造用乾燥装置において、粘着剤層の発泡を防止する観点から、マイクロ波の伝送方向としては乾燥装置の出口側から入口側へ向けて設定することが好ましい。
【0032】
粘着シート製造用乾燥装置には、粘着シートの乾燥を促進するために、さらに、乾燥装置内へ気体を供給するための給気装置と、乾燥装置内の気体を排出するための排気装置を有し、マイクロ波導波路部材には、給気装置からマイクロ波導波路へ気体を導入するための通気口と、マイクロ波導波路内に導入した気体および蒸発した溶媒を排出するための通気口が存在することが好ましい。給気装置から供給される気体としては、例えば、空気や不活性ガス等が使用され、水等の溶媒の含有量が少ない乾燥した気体を用いることが好ましい。マイクロ波導波路内へ導入された気体は、基材に塗布されたエマルション粘着剤溶液の表面上に流れ、エマルション粘着剤溶液の溶媒である水の乾燥を促進させる。そして、エマルション粘着剤溶液の表面上に流れた気体は、マイクロ波の照射によって蒸発した水とともにマイクロ波導波路部材に設けられた通気口を通してマイクロ波導波路から排出され、最終的に排気装置によって粘着シート製造用乾燥装置の外部へ排出される。
【0033】
粘着シート製造用乾燥装置内に供給される気体は、粘着シートの特性を損ねない程度で、且つ、乾燥を促進するために、外気温度〜180℃の気体を使用することが好ましく、50℃〜150℃の気体を使用することがさらに好ましい。気体の温度が180℃を超えると、粘着剤溶液中の溶媒が急激に蒸発するため、発泡が発生し乾燥後の粘着剤層表面に凹凸が生じるおそれがある。気体の温度が外気温度未満では、粘着剤溶液乾燥の促進効果がほとんど得られない。なお、気体の温度は乾燥させる溶媒の沸点等を考慮して適宜設定される。
【0034】
給気装置から供給される気体の流量は、高い方が粘着剤溶液の乾燥に有利であるが、高すぎると粘着剤溶液表面に波立ちが発生し、乾燥後の粘着剤層に凹凸が生じ外観不良となるため、粘着剤溶液に波立ちを生じさせない程度の流量が好ましい。一方、気体の流量が低いと粘着剤溶液の乾燥促進効果がほとんど得られない。よって、気体の流量は、粘着剤溶液の波立ち防止効果と乾燥促進効果の観点から適宜調節される。
【0035】
さらに、マイクロ波導波路の終端には、マイクロ波を反射させるための短絡板を設置してもよい。マイクロ波導波路の終端に短絡板を設置することによって、マイクロ波導波路を伝送したマイクロ波は短絡板で反射して戻り波となり、入射波と戻り波が干渉し安定的な定在波が得られ、マイクロ波の出力が小さくても効率よく乾燥させることができ、経済的に有利である。
【0036】
本発明の粘着シート製造用乾燥装置は、さらに熱風乾燥装置、赤外線乾燥装置、および、つる巻き型乾燥装置等から選ばれる1種以上の乾燥装置を併設することによって、基材に塗布されたエマルション粘着剤溶液をより効果的に乾燥することができる。ここで、前記赤外線乾燥装置とは、遠赤外線乾燥装置、中赤外線乾燥装置、近赤外線乾燥装置を含むものであり、乾燥対象物の種類、厚み等によって適宜選定される。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を示し、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
(実施例1)
図1〜3に示したように、電磁波遮蔽材からなる筐体1(幅方向:77cm×長手方向:70cm×高さ:80cm)に、搬送コンベア2と、マイクロ波導波路部材4を備え、さらに筐体1の上部に給気装置8、筐体1の下部に排気装置9を備えた粘着シート製造用乾燥装置を設置した。図4〜7に示したように、マイクロ波導波路部材4は、幅方向:50cm×長手方向:47cm×高さ:5cmの2枚のアルミニウム鋼板5に、それぞれW2.7cm×L45cm×H4.8cmの溝を幅方向に沿って折り返して設け、前記溝を対向させることによって、粘着シートを10回横断するようなマイクロ波導波路6を形成した。さらに、マイクロ波導波路部材4には、搬送コンベア2と粘着シート3を通過させるためのスリット7(M35cm×D1cm)を設け、マイクロ波導波路部材4の上部および下部には、マイクロ波導波路6に通じる通気口12を設けた。
【0038】
マイクロ波発生装置10にて、マイクロ波の波長を122mm、マイクロ波の出力を1.0kWに設定し、マイクロ波導波路6内のマイクロ波が乾燥装置の出口側から入口側へ伝送するように、マイクロ波導波路部材4に接続するマイクロ波発生装置10および短絡板11を、それぞれ乾燥装置の出口側および入口側に設置した。また、給気装置8から乾燥装置内へ供給される気体を120℃の乾燥した空気とした。
【0039】
冷却管、窒素導入管、温度計及び攪拌装置を備えた反応容器内に、蒸留水100重量部、乳化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム3重量部、アクリル酸2−エチルヘキシル90重量部、アクリル酸4重量部、メタクリル酸メチル10重量部、連鎖移動剤である1−ドデカンチオール0.03重量部、重合開始剤である2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物0.05重量部の配合にて、重合温度60℃で乳化モノマー逐次添加法により4時間反応させ、その後60℃で3時間熟成させることにより反応を完結させ、アクリル系エマルション粘着剤を得た。
【0040】
帯状のセルロール系不織布(製品名:NS3500、坪量:35g/m2、日本紙業(株)製、透湿度3500g/(m2・24hrs))の片面にエマルション粘着剤溶液(組成比:前記アクリル系エマルション粘着剤/ソルビタントリオレート=100重量部/30重量部)を乾燥後の塗布厚みが50μmになるように塗布した後、塗布面を上にした状態で搬送コンベア2上に載置し、搬送コンベア2によって乾燥装置内へ2m/分の速度で搬送、乾燥して(乾燥時間:14秒)、粘着シートを得た。
(実施例2)
実施例1において、マイクロ波の出力を1.5kW、供給される気体を60℃の乾燥した空気に変更した以外は、実施例1と同様の方法にて粘着シートを得た。
(実施例3)
実施例1において、マイクロ波導波路6内のマイクロ波が乾燥装置の入口側から出口側へ伝送するように、マイクロ波導波路部材4に接続するマイクロ波発生装置10と短絡板11の配置を入れ替えた以外は、実施例1と同様の方法にて粘着シートを得た。
(比較例1)
実施例1において、マイクロ波の出力を0kWに変更した(マイクロ波を照射しなかった)以外は、実施例1と同様の方法にて粘着シートを得た。
(比較例2)
実施例1において、搬送コンベア2を備えていない粘着シート製造用乾燥装置を設置した。このような乾燥装置に粘着シートをセッティングしようとしたが、粘着シートが乾燥装置内に接触したため、乾燥作業を行うことができなかった。
(比較例3)
実施例1のマイクロ波を用いた粘着シート製造用乾燥装置に代えて、熱風乾燥機にて乾燥した以外は、実施例1と同様の方法にて粘着シートを得た。なお、熱風乾燥機による乾燥条件としては、熱風温度は160℃、搬送速度は2m/分、熱風乾燥機の長手方向の長さは2m、乾燥時間は60秒であった。
(外観の評価)
乾燥後の粘着シートの粘着剤層の外観を、粘着シートの長手方向1m分をサンプリングして、目視で判定した。外観の判定は、粘着剤層表面に発泡による凹凸がほとんど見られなかった場合(凹凸の発生面積がサンプリングした面積に対して5%未満)を○、粘着剤表面に発泡による凹凸が僅かに見られた場合(凹凸の発生面積がサンプリングした面積に対して5%以上20%未満)を△、粘着剤表面に発泡による凹凸が広範囲に見られた場合(凹凸の発生面積がサンプリングした面積に対して20%以上)を×として評価した。評価結果を表1に示した。
(粘着シートの水分率)
乾燥後の粘着シートの水分率をIRセンサーにて測定した。評価結果を表1に示した。
(操作性の評価)
乾燥装置に粘着シートをセッティングする際の操作性を判定した。操作性の判定は、短時間で容易にセッティングすることができた場合を○、乾燥装置内に粘着シートが接触し、粘着シートをうまくセッティングできなかった場合を×とした。評価結果を表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
マイクロ波を照射しなかった比較例1の粘着シートは、粘着シート中の水分率が高く、乾燥が不十分であった。比較例2では、乾燥装置に搬送コンベアが備わっていないため、乾燥装置に粘着シートをうまくセッティングすることができず、乾燥を行うことはできなかった。よって、比較例2については、操作性以外の評価を行わなかった。比較例3では、実施例の場合と比較して、低水分率まで乾燥させるのに時間を要した。
【0043】
これに対し、実施例では、粘着シートを短時間で低水分率に乾燥することができ、且つ、乾燥装置への粘着シートのセッティング等、操作性にも優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明した通り、帯状の基材の片面にエマルション粘着剤溶液を乾燥させるための粘着シート製造用乾燥装置において、搬送コンベア、マイクロ波導波路部材が備わっており、マイクロ波導波路部材は、2枚の鋼板にそれぞれ設けられた溝を対向させることによってマイクロ波導波路が形成されたものであり、マイクロ波導波路部材には、搬送コンベアと粘着シートを通過させるためのスリットが設けられていることを特徴とする。このような構造によって、粘着シートの乾燥装置へのセッティングや乾燥装置のメンテナンスが簡便になるとともに、粘着シートの自重による撓みを抑制し、粘着シートの乾燥装置への接触を防止することが可能になる。
【符号の説明】
【0045】
1 筐体
2 搬送コンベア
3 粘着シート
4 マイクロ波導波路部材
5 鋼板
6 マイクロ波導波路
7 スリット
8 給気装置
9 排気装置
10 マイクロ波発生装置
11 短絡板
12 通気口



【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の基材の片面に塗布されたエマルション粘着剤溶液を乾燥させるための粘着シート製造用乾燥装置であって、電磁波遮蔽材からなる筐体に、搬送コンベアと、マイクロ波導波路部材が備わっており、マイクロ波導波路部材は、2枚の鋼板に設けられた溝を対向させることによってマイクロ波導波路が形成されたものであり、マイクロ波導波路部材には、搬送コンベアと粘着シートを通過させるためのスリットが設けられていることを特徴とする粘着シート製造用乾燥装置。
【請求項2】
マイクロ波導波路は、粘着シートを横断するように粘着シートの幅方向に沿って折り返して形成されている請求項1に記載の粘着シート製造用乾燥装置。
【請求項3】
マイクロ波導波路に供給されるマイクロ波が、粘着シート製造用乾燥装置の出口側から入口側に向けて伝送される請求項1に記載の粘着シート製造用乾燥装置。
【請求項4】
粘着シート製造用乾燥装置にはさらに給気装置と排気装置が備わっていて、マイクロ波導波路部材には通気口を有する請求項1に記載の粘着シート製造用乾燥装置。
【請求項5】
基材が、不織布、織布、編布、又は多孔質フィルムである請求項1に記載の粘着シート製造用乾燥装置。
【請求項6】
粘着シートが皮膚用貼付材である請求項1に記載の粘着シート製造用乾燥装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−88039(P2013−88039A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229417(P2011−229417)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】