説明

粘着剤組成物および粘着シート

【課題】ソーダライムガラスに対して貼合させた状態で、例えば、80℃の乾燥環境下に100時間といった所定の耐熱条件下に曝した場合であっても、近赤外線吸収性能の低下を効果的に抑制できる粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートを提供する。
【解決手段】下記成分(A)〜(C)を含むことを特徴とする粘着剤組成物等。
(A)(メタ)アクリル酸エステル重合体 100重量部
(B)イモニウム塩系化合物 0.01〜30重量部
(C)酸価調整剤 0.1〜30重量部

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物および粘着シートに関する。
特に、近赤外線吸収性能の低下を効果的に抑制できる粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマディスプレイパネル(PDP)は、大きく分けて、発光部であるモジュールと、当該モジュールの前面に積層される前面フィルタとから構成されている。
このうち、前面フィルタは、モジュールから発せられる光のうち不要な光を遮断したり、外光の反射を防いで画像の視認性を向上させたりするために設けられており、例えば、近赤外線吸収フィルム、防眩フィルムおよび光拡散フィルム等の各種フィルムや、これらを貼合するための粘着剤等によって構成されている。
【0003】
また、前面フィルタを構成する各種フィルムのうち近赤外線吸収フィルムは、モジュールから発せられる近赤外線に起因したテレビの誤作動を防止するために必要となる。
すなわち、テレビのリモコンは近赤外線を用いてテレビの操作を行っているため、モジュールからの発光に含まれる近赤外線がディスプレイからそのまま放射された場合、リモコンから発せられた近赤外線との間で干渉が生じる可能性があるためである。
【0004】
そこで、フタロシアニン系化合物、イモニウム塩系化合物、チオール錯体系化合物およびセシウム酸化タングステン系化合物といった近赤外線吸収色素を含有させてなる近赤外線吸収フィルムが提案されているが、特に、近赤外線吸収性能に優れたイモニウム系化合物が広く用いられている(例えば、特許文献1)。
【0005】
すなわち、特許文献1には、下記一般式(1)で示される少なくとも一種の化合物、および、それを含有することを特徴とする近赤外線吸収フィルタ等が開示されている。
【0006】
【化1】

【0007】
(一般式(1)中、R1〜R8は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、その少なくとも1つは分岐鎖状のアルキル基であり、環AおよびBは置換基を有していてもよく、Xは電荷を中和させるのに必要なアニオンを表わす。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−96040号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前面フィルタの薄層化やその製造工程の簡略化を目的として、引用文献1等に記載のイモニウム塩系化合物を、フィルムに対してではなく、粘着剤に対して含有させた場合、所定の条件下において、近赤外線吸収性能が著しく低下してしまうという問題が見られた。
すなわち、イモニウム塩系化合物を含有する粘着剤をソーダライムガラスに対して貼合し、例えば、80℃の乾燥環境下に100時間曝した場合、近赤外線透過率が著しく増加する現象が確認されている。
かかる現象は、ソーダライムガラスに由来したナトリウムイオン等が粘着剤中に侵入し、イモニウム塩系化合物の分子構造を変化させることによって生じると推定される。
したがって、ソーダライムガラスに対して貼合させた状態で、所定の耐熱環境下に曝した場合であっても、近赤外線吸性能の低下を効果的に抑制できる粘着剤組成物が求められていた。
【0010】
そこで、本発明者らは、以上のような事情に鑑み、鋭意努力したところ、粘着剤組成物に対し、イモニウム塩系化合物とともに、酸価調整剤を所定の割合で含有させることにより、ソーダライムガラスに由来したナトリウムイオン等によるイモニウム塩系化合物の分子構造の変化を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の目的は、ソーダライムガラスに対して貼合させた状態で、所定の耐熱条件下に曝した場合であっても、近赤外線吸収性能の低下を効果的に抑制できる粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、下記成分(A)〜(C)を含むことを特徴とする粘着剤組成物が提供され、上述した問題を解決することができる。
(A)(メタ)アクリル酸エステル重合体 100重量部
(B)イモニウム塩系化合物 0.01〜30重量部
(C)酸価調整剤 0.1〜30重量部
すなわち、本発明の粘着剤組成物であれば、イモニウム塩系化合物とともに、酸価調整剤を所定の割合で含むことから、粘着剤組成物中にナトリウムイオン等が侵入した場合であっても、それによってイモニウム塩系化合物の構造が変化することを効果的に抑制することができる。
したがって、粘着剤組成物を被着物としてのソーダライムガラスに対して貼合させた状態で、所定の耐熱環境下に曝した場合であっても、近赤外線吸収性能の低下を効果的に抑制することができる。
なお、本発明における「粘着剤組成物」とは、例えば、未架橋の粘着剤組成物であっても、架橋後の粘着剤組成物であっても、上述した組成を有する粘着剤組成物であれば、全て含まれる広い意味である。
但し、架橋剤を含む粘着剤組成物については、架橋後の粘着剤組成物を、特に「粘着剤」と記載する場合がある。
【0012】
また、本発明の粘着剤組成物を構成するにあたり、(B)成分としてのイモニウム塩系化合物における極大吸収波長を600〜1,200nmの範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、近赤外線吸収性能の低下をより効果的に抑制することができる。
【0013】
また、本発明の粘着剤組成物を構成するにあたり、(C)成分としての酸価調整剤の酸価を50〜500KOHmg/gの範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、粘着剤組成物中にナトリウムイオン等が侵入した場合であっても、それによってイモニウム塩系化合物の構造が変化することを、より効果的に抑制することができる。
【0014】
また、本発明の粘着剤組成物を構成するにあたり、(C)成分としての酸価調整剤が、ロジン樹脂及び/又はロジン樹脂の誘導体であることが好ましい。
このように構成することにより、(B)成分としてのイモニウム塩系化合物の構造が変化することを、より効果的に抑制することができる一方で、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体との相溶性にも優れることから、低ヘイズの粘着剤組成物を得ることができる。
【0015】
また、本発明の粘着剤組成物を構成するにあたり、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体が、1分子中に活性水素基を2個以上有することが好ましい。
このように構成することにより、(A)成分同士を好適な範囲で架橋させて、粘着剤特性を所望の範囲に調整することができる。
【0016】
また、本発明の粘着剤組成物を構成するにあたり、さらに(D)成分として、(A)成分を架橋するための架橋剤を含むとともに、(D)成分の配合量を、(A)成分100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、(A)成分同士をより好適な範囲で架橋させて、粘着剤特性を所望の範囲に調整することができる。
【0017】
また、本発明の粘着剤組成物を構成するにあたり、酸価を5〜300KOHmg/gの範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、粘着剤組成物中にナトリウムイオン等が侵入した場合であっても、それによってイモニウム塩系化合物の構造が変化することを、さらに効果的に抑制することができる。
【0018】
また、本発明の別の態様は、基材上に、下記成分(A)〜(C)を含む粘着剤組成物を粘着剤層として備えた粘着シートである。
(A)(メタ)アクリル酸エステル重合体 100重量部
(B)イモニウム塩系化合物 0.01〜30重量部
(C)酸価調整剤 0.1〜30重量部
すなわち、本発明の粘着シートであれば、所定の粘着剤層を備えることから、被着物としてのソーダライムガラスに対して貼合させた状態で、所定の耐熱条件下に曝した場合であっても、近赤外線吸収性能の低下を効果的に抑制することができる。
【0019】
また、本発明の粘着シートを構成するにあたり、基材がディスプレイ用光学フィルムであることが好ましい。
このように構成することにより、ディスプレイから発せられる近赤外線に起因したテレビの誤作動等を効果的に抑制することができる。
【0020】
また、本発明の粘着シートを構成するにあたり、基材が剥離フィルムであるとともに、粘着剤層における当該剥離フィルムの反対面に対し、別の剥離フィルムを積層してなることが好ましい。
このように構成することにより、粘着シートの取り扱い性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1(a)〜(d)は、粘着剤組成物等の使用態様、および粘着シートの製造方法を説明するために供する図である。
【図2】図2は、粘着シートの態様を説明するために供する別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態は、下記成分(A)〜(C)を含むことを特徴とする粘着剤組成物である。
(A)(メタ)アクリル酸エステル重合体 100重量部
(B)イモニウム塩系化合物 0.01〜30重量部
(C)酸価調整剤 0.1〜30重量部
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を適宜参照して、具体的に説明する。
【0023】
1.(A)成分:(メタ)アクリル酸エステル重合体
(1)種類
(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、および所望によりその他のビニル単量体を単量体成分とし、それらを重合して得られる重合体であれば、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用することができる。
ここで、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルおよびメタアクリル酸エステルのいずれをも意味する。
【0024】
また、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体が、1分子中に活性水素基を2個以上有することが好ましい。
より具体的には、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体を、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、分子内に活性水素基を有するビニル化合物(b)とを含む単量体成分に由来した共重合体とすることが好ましい。
この理由は、このような(A)成分であれば、単量体成分(a)および(b)を好適な配合範囲で共重合させることができることから、(A)成分を好適な範囲で架橋させて、粘着剤特性を所望の範囲に調整することができるためである。
なお、単量体成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と言った場合、分子内にアルキル基を有し、かつ、水酸基やカルボキシル基等の官能基を有しない(メタ)アクリル酸アルキルエステルを意味する。
【0025】
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)としては、そのアルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを使用することが好ましい。
この理由は、かかるアルキル基の炭素数が12よりも大きな値となると、側鎖同士が配向・結晶化することにより、得られる粘着剤組成物の粘着性が失われる場合があるためである。
また、このようなアルキル基の炭素数が1〜12の範囲内の値である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の一種単独または二種以上の組み合わせからなる単量体が挙げられる。
なお、貯蔵弾性率をより好適な範囲に調節しやすいことから、(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素数を1〜10の範囲内の値とすることとがより好ましく、1〜8の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0026】
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成する主成分であるため、通常、(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成する全単量体の80〜99.99重量%の範囲内の値であることが好ましく、90〜99.9重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、95〜99.8重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0027】
また、アルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシル、あるいはいずれか一方を含むことが、特に好ましい。
この理由は、これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルであれば、粘着剤組成物の粘着性を効果的に向上させることができるためである。
そればかりか、特にアクリル酸2−エチルヘキシルであれば、(メタ)アクリル酸エステル重合体を低極性化させて、ソーダライムガラスに起因したイオンが粘着剤組成物中に侵入することを効果的に抑制することができる。
【0028】
また、分子内に活性水素基を有するビニル化合物(b)としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレート;1,4−ジ(メタ)アクリロキシエチルプロメリット酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸等の分子内にカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート;アミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、エチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の分子内に第1〜第2級アミノ基を有する(メタ)アクリレート;2−(メチルチオ)エチルメタクリレート等の分子内にチオール基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸が挙げられる。
【0029】
また、分子内に活性水素基を有するビニル化合物(b)は、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体1分子中に活性水素基を2個以上有するように、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成する全単量体の0.01〜20重量%の範囲内の値とすることが好ましく、0.1〜10重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.2〜5重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
この理由は、分子内に活性水素基を有するビニル化合物の含有量が0.01重量%未満の値となると、十分な架橋点を確保することが困難になる場合があるためである。一方、分子内に活性水素基を有するビニル化合物の含有量が20重量%を超えた値となると、耐久性が低下する場合があるためである。
【0030】
また、分子内に活性水素基を有するビニル化合物(b)の活性水素基は、水酸基、第1〜第2級アミノ基またはチオール基であることが好ましく、水酸基であることがより好ましい。
この理由は、分子内に活性水素基を有するビニル化合物(b)を、かかる構成とすることにより、(A)成分がカルボキシル基を有しないことになり、(A)成分と、後述する(C)成分としての酸価調整剤との機能分離が明確になり、粘着力等の粘着剤特性をより安定化させることができるためである。
【0031】
(2)重量平均分子量
また、(A)成分である(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量を20万〜200万の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる重量平均分子量が20万未満の値となると、粘着剤組成物の耐久性が不十分となる場合があるためである。一方、かかる重量平均分子量が200万を超えた値となると、粘度増大等による加工適性の低下を抑制することが困難になる場合があるためである。
したがって、(A)成分である(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量を30万〜150万の範囲内の値とすることがより好ましく、50万〜120万の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグララフィー(GPC)法により測定することができる。
以上、(メタ)アクリル酸エステル重合体について説明してきたが、本発明における(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体は、一種単独で用いてもよいし、単量体成分の組成や重量平均分子量の異なる二種以上を併用してもよい。
さらにまた、共重合形態についても特に制限されるものではなく、ランダム、ブロック、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0032】
2.(B)成分:イモニウム塩系化合物
(1)種類
本発明の粘着剤組成物は、(B)成分としてイモニウム塩系化合物を含むことを特徴とする。
この理由は、イモニウム塩系化合物を含むことにより、粘着剤組成物に対し近赤外線吸性能を付与することができるためである。
すなわち、近赤外線吸収性能を有する色素としては、イモニウム塩系化合物のほかに、フタロシアニン系化合物、チオール錯体系化合物、セシウム酸化タングステン系化合物等が存在するが、これらの化合物と比較して、イモニウム塩系化合物の方が近赤外線吸収性能に優れるためである。
一方、粘着剤組成物中にイモニウム塩系化合物を含有させた場合、かかる粘着剤組成物をソーダライムガラスに対して貼合し、所定の耐熱環境下に曝すと、粘着剤組成物における近赤外線吸収性能が著しく低下してしまう傾向がある。
この点、本発明の粘着剤組成物であれば、後述する(C)成分として酸価調整剤を含むことにより、かかる問題を効果的に解決することができる。
なお、この点についての詳細は、(C)成分の項において詳細に説明する。
【0033】
また、イモニウム塩系化合物としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジメチルアミノフェニル)−p−ベンゾキノンビスイモニウム、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジエチルアミノフェニル)−p−ベンゾキノンビスイモニウム、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ−n−プロピルアミノフェニル)−p−ベンゾキノンビスイモニウム、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ−n−ブチルアミノフェニル)−p−ベンゾキノンビスイモニウム、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ−n−ヘキシルアミノフェニル)−p−ベンゾキノンビスイモニウム、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ−n−ペンチルアミノフェニル)−p−ベンゾキノンビスイモニウム等の塩素酸塩、フッ化ホウ素酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、過塩素酸塩、硝酸塩、ヘキサフルオロアンチモン酸塩等の一種単独、または二種以上の組み合わせが挙げられる。
なお、粘着剤組成物中には、イモニウム塩系化合物とともに、光吸収機能を有する化合物を添加してもよい。
このような化合物としては、例えば、金属錯体系化合物、シアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、ピロメテン系化合物、スクアリリウム系化合物等が挙げられる。
【0034】
(2)極大吸収波長
また、(B)成分としてのイモニウム塩系化合物における極大吸収波長を600〜1,200nmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、イモニウム塩系化合物における極大吸収波長をかかる範囲内の値とすることにより、近赤外線吸収性能の低下をより効果的に抑制することができるためである。
【0035】
(3)配合量
また、(B)成分としてのイモニウム塩系化合物の配合量を、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、イモニウム塩系化合物の配合量が0.01重量部未満の値となると、粘着剤組成物に対して十分な近赤外線吸収性能を付与することが困難になる場合があるためである。一方、イモニウム塩系化合物の配合量が30重量部を超えた値となると、析出する場合があるためである。
したがって、(B)成分としてのイモニウム塩系化合物の配合量を、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部に対して、0.1〜20重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜15重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0036】
3.(C)成分:酸価調整剤
本発明の粘着剤組成物は、(C)成分として酸価調整剤を含むことを特徴とする。
この理由は、酸価調整剤を含むことにより、粘着剤組成物中にナトリウムイオン等が侵入した場合であっても、それによってイモニウム塩系化合物の構造が変化することを効果的に抑制することができるためである。
したがって、粘着剤組成物を被着物としてのソーダライムガラスに対して貼合させた状態で、所定の耐熱環境下に曝した場合であっても、近赤外線吸収性能の低下を効果的に抑制することができるためである。
【0037】
(1)酸価調整剤の作用
すなわち、粘着剤組成物中に酸価調整剤が含まれていない場合、ソーダライムガラスの構成成分であるナトリウムイオン等のイオンが、特に耐熱環境下において、粘着剤組成物中に侵入してくることになる。
そして、かかるイオンによって、近赤外線吸収色素としてのイモニウム塩系化合物の構造が変化してしまい、結果的に粘着剤組成物およびそれを用いて製造された粘着シートにおける近赤外線吸収性能が低下してしまうことになる。
しかしながら、粘着剤組成物中に酸価調整剤が所定の割合で含まれている場合、ソーダライムガラスから粘着剤組成物中に侵入してきたイオンと、酸価調整剤とが反応することにより、イモニウム塩系化合物の構造変化を防止することができると推定される。
したがって、本発明の粘着剤組成物であれば、被着物としてのソーダライムガラスに貼合させた状態で、所定の耐熱環境下に曝した場合であっても、近赤外線吸収性能の低下を効果的に抑制できるものと推定される。
【0038】
(2)種類
また、酸価調整剤の種類としては、その化合物自体が所定の酸価を有することにより、粘着剤組成物に対する酸価調整剤としての機能を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ロジン樹脂、テルペン樹脂、カルボン酸変性石油樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、変性エポキシ樹脂及びこれらの誘導体からなる群から選ばれるカルボキシル基を含有する樹脂を挙げることができる。
また、上述した中でも、ロジン樹脂及び/又はロジン樹脂の誘導体を用いることが、特に好ましい。
この理由は、ロジン樹脂及び/又はロジン樹脂の誘導体であれば、(B)成分としてのイモニウム塩系化合物の構造が変化することを、より効果的に抑制することができる一方で、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体との相溶性にも優れることから、低ヘイズの粘着剤組成物を得ることができるためである。
また、ロジン樹脂の種類としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンのいずれからなる樹脂であってもよい。
【0039】
また、ロジン樹脂は、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸およびイソピマール酸等の樹脂酸を含む樹脂であることが好ましい。
【0040】
また、ロジン樹脂の誘導体の例としては、カルボキシル基の一部をポリオールでエステル化したロジンエステル、不飽和結合の一部または全部を水素化した水素化ロジンなどであることが好ましい。
【0041】
(3)酸価
また、酸価調整剤の酸価を50〜500KOHmg/gの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、酸価調整剤の酸価をかかる範囲内の値とすることにより、粘着剤組成物中にナトリウムイオン等が侵入した場合であっても、それによってイモニウム塩系化合物の構造が変化することを、より効果的に抑制することができるためである。
すなわち、酸価調整剤の酸価が50KOHmg/g未満の値となると、粘着剤組成物中に侵入したナトリウムイオン等によりイモニウム塩系化合物の構造が変化することを抑制することが困難になり、そのため、粘着剤組成物における近赤外線吸収性能が過度に低下する場合があるためである。一方、酸価調整剤の酸価が500KOHmg/gを超えた値となると、粘着剤組成物の耐久性が低下する場合があるためである。
したがって、酸価調整剤の酸価を80〜400KOHmg/gの範囲内の値とすることがより好ましく、100〜300KOHmg/gの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0042】
(4)軟化点
また、酸価調整剤の軟化点を0℃以上の値とすることが好ましい。
この理由は、酸価調整剤の軟化点を0℃以上の値とすることにより、粘着剤組成物中に安定的に保持されるからである。
すなわち、酸価調整剤の軟化点が0℃未満の値となると、経時的にブリードする場合がある。
したがって、酸価調整剤の軟化点を30℃以上の値とすることがより好ましく、40℃以上の値とすることがさらに好ましい。
【0043】
(5)配合量
また、(C)成分としての酸価調整剤の配合量を、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、酸価調整剤の配合量をかかる範囲内の値とすることにより、粘着剤組成物中にナトリウムイオン等が侵入した場合であっても、それによってイモニウム塩系化合物の構造が変化することを、効果的に抑制することができるためである。
すなわち、酸価調整剤の配合量が0.1重量部未満の値となると、粘着剤組成物中に侵入したナトリウムイオン等によりイモニウム塩系化合物の構造が変化することを抑制することが困難になり、そのため、粘着剤組成物における近赤外線吸収性能が過度に低下する場合があるためである。一方、酸価調整剤の配合量が30重量部を超えた値となると、粘着剤組成物の耐久性が低下する場合があるためである。
したがって、(C)成分としての酸価調整剤の配合量を、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部に対して、1〜25重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、3〜20重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0044】
4.(D)成分:架橋剤
また、本発明の粘着剤組成物は、さらに(D)成分として、(A)成分を架橋するための架橋剤を含むことが好ましい。
より具体的には、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体が有する活性水素基等との反応性を有する官能基を、1分子中に2個以上有する架橋剤を含むことが好ましい。
この理由は、このような架橋剤を含むことにより、(A)成分同士を架橋させて、粘着剤特性を所望の範囲に調節することができるためである。
【0045】
(1)種類
また、活性水素基との反応性を有する官能基を1分子中に2個以上有する架橋剤としては、多官能アミノ化合物、多官能イソシアネート化合物、多官能エポキシ化合物および多官能金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0046】
また、多官能アミノ化合物としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂等のメラミン樹脂;メチル化尿素樹脂、ブチル化尿素樹脂等の尿素樹脂;メチル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチル化ベンゾグアナミン樹脂等のベンゾグアナミン樹脂;エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジフェニルエチレンジアミン、p−キシリレンジアミン等のジアミン類等が挙げられる。
【0047】
また、多官能イソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジシソシアネート(TMDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリメチロールプロパン(TMP)アダクトTDI、TMPアダクトHDI、TMPアダクトIPDI、TMPアダクトXDI等が挙げられる。
【0048】
また、多官能エポキシ化合物としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラグリシジルメタキシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
また、多官能金属化合物としては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート等のアルミキレート化合物;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、テトライソプロポキシチタン、テトラメトキシチタン等のチタンキレート化合物;トリメトキシアルミニウム等が挙げられる。
【0049】
(2)配合量
また、(D)成分としての架橋剤の配合量を、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、架橋剤の配合量が0.01重量部未満の値となると、(A)成分同士を十分に架橋させることが困難となって、十分な粘着力や貯蔵弾性率を得ることが困難になる場合があるためである。一方、架橋剤の配合量が30重量部を超えた値となると、(A)成分同士の架橋が過剰になって、逆に粘着力が低下し易くなる場合があるためである。
したがって、(D)成分としての架橋剤の配合量を、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部に対して、0.1〜20重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜10重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0050】
5.光硬化性成分
また、本発明の粘着剤組成物は、光硬化性成分を含んでもよい。
すなわち、粘着剤組成物の貯蔵弾性率を増加させる等の目的で、例えば、多官能(メタ)アクリレート系モノマー等の光硬化性成分を所定量含んでもよい。
具体的には、光硬化性成分の配合量を、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部に対して、0.1〜5重量部の範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜3重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、光硬化性成分を所定量含む場合、それに対応させて、所定量の光重合開始剤を配合することが好ましい。
【0051】
6.希釈溶剤
本発明の粘着剤組成物において、各成分の分散性を改善したり、剥離フィルム等に粘着剤組成物を塗布する際に、適切な粘度に調整したりする観点から、希釈溶剤を使用することができる。
かかる希釈溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が好ましく、希釈溶剤を加えた際の粘着剤組成物の濃度は、5〜30重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
【0052】
7.添加剤
また、粘着剤組成物には、上述した以外の成分として、例えば、防錆剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを、本発明の効果を損なわない限りで添加することができる。
また、防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、トリアゾール系化合物、リン系化合物、亜硝酸塩系化合物等が挙げられる。
また、これらの添加剤を加える場合には、添加剤の種類にもよるが、その含有を、(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0053】
8.粘着剤組成物の酸価
また、本発明の粘着剤組成物の酸価を、5〜300KOHmg/gの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、粘着剤組成物の酸価をかかる範囲内の値とすることにより、粘着剤組成物中にナトリウムイオン等が侵入した場合であっても、それによってイモニウム塩系化合物の構造が変化することを、さらに効果的に抑制することができるためである。
すなわち、粘着剤組成物の酸価が5KOHmg/g未満の値となると、粘着剤組成物中に侵入したナトリウムイオン等によりイモニウム塩系化合物の構造が変化することを抑制することが困難になり、そのため、粘着剤組成物における近赤外線吸収性能が過度に低下する場合があるためである。一方、粘着剤組成物の酸価が300KOHmg/gを超えた値となると、耐久性が低下する場合があるためである。
したがって、粘着剤組成物の酸価を10〜200KOHmg/gの範囲内の値とすることがより好ましく、20〜100KOHmg/gの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、本発明において、粘着剤組成物の酸価とは、シーズニングによる架橋を行う前の段階の粘着剤組成物を溶剤に溶解して測定される酸価を意味する。
【0054】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態は、基材上に、下記成分(A)〜(C)を含む粘着剤組成物を粘着剤層として備えた粘着シートである。
(A)(メタ)アクリル酸エステル重合体 100重量部
(B)イモニウム塩系化合物 0.01〜30重量部
(C)酸価調整剤 0.1〜30重量部
すなわち、本発明の粘着シートであれば、所定の粘着剤層を備えることから、被着物としてのソーダライムガラスに対して貼合させた状態で、所定の耐熱環境下に曝した場合であっても、近赤外線吸収性能の低下を効果的に抑制することができる。
以下、本発明の第2の実施形態を、第1の実施形態と異なる点を中心に、図1および2を参照しつつ、具体的に説明する。
【0055】
1.粘着剤層
粘着剤組成物は、下記工程(1)〜(3)を経て、所定特性を有する粘着剤層として構成することができる。
(1)(A)〜(C)成分を含む所定の粘着剤組成物を準備する工程
(2)粘着剤組成物を、剥離フィルムに対して塗布して、塗布層を形成する工程
(3)粘着剤組成物を架橋させて、塗布層を粘着剤層とする工程
以下、粘着剤層を構成するに至る工程につき、図面を適宜参照して、具体的に説明する。
【0056】
(1)工程(1)(粘着剤組成物の準備工程)
工程(1)は、(A)〜(C)成分を含む所定の粘着剤組成物を準備する工程である。
より具体的には、例えば、(A)成分を所望により希釈溶剤で希釈し、撹拌下、(B)成分および(C)成分を添加して、均一な混合液とすることが好ましい。
続いて、得られた混合液に対し、所望により(D)成分やその他の添加剤を添加した後、均一になるまで撹拌しつつ、所望の粘度になるように、必要に応じて希釈溶剤をさらに加えることにより、粘着剤組成物の溶液を得ることが好ましい。
なお、各成分の詳細および配合割合等は第1の実施形態で記載した通りであるので省略する。
【0057】
(2)工程(2)(粘着剤組成物の塗布工程)
工程(2)は、図1(a)に示すように、粘着剤組成物を、剥離フィルム2に対して塗布して塗布層1を形成する工程である。
剥離フィルム2としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、トリアセチルセルロース、ポリノルボルネンなどの樹脂からなる樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、シリコーン樹脂などからなる剥離層を有するものが好ましく挙げられる。
なお、かかる剥離フィルム2の厚さは、通常、20〜150μmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0058】
また、剥離フィルム2上に粘着剤組成物を塗布する方法としては、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を用いて、溶剤を加えた粘着剤組成物を塗布して塗布層1(塗膜)を形成した後、乾燥させることが好ましい。
このとき、塗布層1の厚さを、乾燥時基準において、1〜100μmの範囲内の値とすることが好ましく、5〜50μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、塗布層1の厚さが薄すぎると、十分な粘着特性が得られない場合があり、逆に、厚すぎると、残留溶剤が問題となる場合があるためである。
また、乾燥条件としては、通常、50〜150℃で、10秒〜10分の範囲内とすることが好ましい。
【0059】
(3)工程(3)(塗布層の架橋工程)
工程(3)は、粘着剤組成物の塗布層1を架橋させて、塗布層1を粘着剤層10とする工程である。
すなわち、図1(b)に示すように、剥離フィルム2上で乾燥させた状態の塗布層1の表面に対し、ディスプレイ用光学フィルム基材等の基材101を積層させた状態で架橋させて、粘着剤層10とすることが好ましい。
あるいは、剥離フィルム2上に塗布した粘着剤組成物の塗布層1を、先に架橋させ、粘着剤層10とした後、基材101に対して積層させてもよい。
【0060】
また、図2に示すように、剥離フィルム2に対して粘着剤組成物を塗布して乾燥させ、塗布層1を形成した後、さらに別の剥離フィルム2を、塗布層1上に積層させ、架橋することにより、2つの剥離フィルム2の剥離層側が、それぞれ粘着剤層10と接するようにして挟持された粘着シート100bも好ましい。
また、かかる態様の粘着シート100bは、剥離フィルム2に対して粘着剤組成物の塗布層1を形成して、乾燥および架橋させた後に、さらに別の剥離フィルム2を、粘着剤層10となった粘着剤組成物上に積層させることで、2つの剥離フィルム2に挟持された粘着シート100bであってもよい。
【0061】
また、粘着シート100bは、2つの剥離フィルム2のうちの一方における剥離力が、他の一方における剥離力と異なることが好ましい。
この理由は、剥離力が異なることにより、得られた粘着シート100bを使用するに際し、粘着剤層10を傷つけることなく、一方の剥離フィルム2を剥がすことができるためである。
また、かかる態様の粘着シート100bは、一方の剥離フィルム2を剥離して、現れた粘着剤層10を、基材101に対して密着させて貼合することにより、粘着シート100aを得ることができる。
このとき、所望により、粘着剤層10面あるいは基材101面を、コロナ処理、プラズマ処理およびケン化処理等の表面処理を行うことができる。
かかる態様は、粘着剤層10の製造と、かかる粘着剤層10の使用とが、別の場所で行われる等の理由により、粘着剤層10のみを輸送しなければならない場合等に必要とされる。
【0062】
なお、粘着剤組成物の塗布層1における架橋は、上述した乾燥工程と、シーズニング工程と、を通して行われる。
かかるシーズニング工程の条件としては、粘着剤組成物の塗布層1や基材101にダメージを与えることなく、かつ、粘着剤組成物の塗布層1を均一に架橋する観点から、20〜50℃とすることが好ましく、23〜30℃とすることがより好ましい。
また、湿度としては、30〜75%RHとすることが好ましく、45〜65%RHとすることがより好ましい。
さらに、期間としては、3〜20日とすることが好ましく、5〜14日とすることがより好ましい。
【0063】
2.基材
本発明においては、基材101が、ディスプレイ用光学フィルム基材であるとともに、当該ディスプレイ用光学基材フィルムの少なくとも一方に、上述した粘着剤層10を備えることが好ましい。
本発明の粘着シート100における基材101としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、液晶ポリマー、シクロオレフィン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、脂環式構造含有重合体、芳香族系重合体等の光学フィルム基材が好ましく挙げられる。
また、用途の面から説明すれば、偏光板、偏光層保護フィルム、視野角拡大フィルム、防眩フィルム、位相差板、コントラスト向上フィルム、電磁波遮断フィルム、紫外線吸収フィルム等のディスプレイ用光学フィルム基材が挙げられる。
【0064】
また、基材101の厚さとしては特に制約はないが、通常1〜1000μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる基材101の厚さが1μm未満となると、機械的強度や取り扱い性が過度に低下したり、均一な厚さに形成することが困難となったりする場合があるためである。一方、かかる基材101の厚さが1000μmを超えると、取り扱い性が過度に低下したり、経済的に不利益となったりする場合があるためである。
したがって、基材101の厚さを5〜500μmの範囲内の値とすることがより好ましく、10〜200μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0065】
また、基材101の塗布層1が形成される面側に表面処理を施してあることも好ましい。
このような表面処理としては、例えば、プライマー処理、コロナ処理、火炎処理などが挙げられるが、特に、プライマー処理であることが好ましい。
この理由は、このようなプライマー層を形成した基材101を用いることにより、基材101に対する粘着剤層10の密着性をさらに向上させることができるためである。
なお、このようなプライマー層を構成する材料としては、セルロースエステル(例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースニトレート、およびそれらの組み合わせ)、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルブチラール、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
また、プライマー層の厚さについても、特に限定されないが、通常、0.05μm〜10μmの範囲内の値とすることが好ましい。
なお、最終的に得られた粘着シート100を被着体200に貼合する方法としては、図1(c)〜(d)に示すように、まず、粘着剤層10に積層してある剥離フィルム2を剥離し、次いで、現れた粘着剤層10の表面を、被着体200に対して密着させることにより貼合することが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【0067】
[実施例1]
1.粘着剤組成物の調製
下記(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部と、(B)成分としてのイモニウム塩系化合物(日本カーリット(株)製、CIR−1085F)2.4重量部と、(C)成分としてのロジン樹脂の誘導体A(荒川化学工業(株)製、パインクリスタルKE−604、酸価240KOHmg/g、軟化点129℃)17.2重量部と、(D)成分としてのキシリレンジイソシアネート系架橋剤(東洋インキ製造(株)、BHS8515)1.3重量部と、メチルエチルケトン103.4重量部とを混合して、粘着剤組成物を調製した。
なお、上述した配合量および表1中の数値は、固形分換算された値を示す。但し、溶剤としてのメチルエチルケトンについてはこの限りでない。
また、使用したイモニウム塩系化合物、酸価調整剤および架橋剤は、表1中においてそれぞれ「CIR−1085F」、「KE−604」および「BHS8515」と表記する。
【0068】
また、(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体は、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)79重量部と、メタクリル酸メチル(MMA)20重量部と、アクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEA)1重量部とを用い、常法である溶液重合法(溶媒:酢酸エチル)に従って重合し、下記(A)成分として示す重量平均分子量80万の(メタ)アクリル酸エステル重合体を得た。
(A)成分:EHA/MMA/HEA(79/20/1) Mw=80万
次いで、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体につき、酢酸エチルを用いてその固形分濃度を調整し、29重量%の(メタ)アクリル酸エステル重合体溶液とした。
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(以下、GPC法と略記する。)にて測定した。
すなわち、まず、ポリスチレンを用いて検量線を作成した。以降、重量平均分子量は、ポリスチレン換算値で表す。次いで、(メタ)アクリル酸エステル重合体等の測定対象の濃度が1重量%のテトラヒドロフラン(THF)溶液を準備し、東ソー(株)製、GEL PER MEATION CHROMATOGRAPH HLC−8020(TSKGEL GMHXL、TSKGEL GMHXL、TSKGEL G2000HXLからなる3連カラム)にて40℃、THF溶媒、1ml/分の条件にて重量平均分子量を測定した。そして、ガードカラムとして、東ソー(株)製、TSK GUARD COLUMNを使用した。
【0069】
2.粘着剤組成物の塗布
次いで、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム(リンテック(株)製、SP−PET38T103−1)の剥離層上に、得られた粘着剤組成物を、乾燥後の厚さが25μmになるように、ナイフ式塗工機で塗布し、塗布層を形成した。
次いで、塗布層を100℃、1分間の乾燥処理を施した後、塗布層の露出面に対して厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム(リンテック(株)製、SP−PET381031)を貼合した。
【0070】
3.粘着剤組成物のシーズニング
次いで、上述のようにして得られた粘着剤組成物の塗布層と、2枚の剥離フィルムからなる積層体を、23℃、50%RHの条件下に14日間放置(シーズニング)し、粘着剤組成物を十分に架橋させ、塗布層を粘着剤層とし、実施例1の粘着シートを得た。
【0071】
4.評価
(1)近赤外線透過率の評価
(1)−1 試験用サンプルの作成
得られた粘着フィルムから一方の剥離フィルム(リンテック(株)製、SP−PET381031)を剥離し、露出した粘着剤層に対しPETフィルム(東洋紡績(株)製、コスモシャインPET10A4300)を貼付した。
次いで、他方の剥離フィルム(リンテック(株)製、SP−PET38T103−1)を剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス(日本板硝子(株)製)に貼付し、試験用サンプル(PETフィルム/粘着剤層/ソーダライムガラス)とした。
【0072】
(1)−2 近赤外線透過率の測定
得られた試験用サンプルの近赤外線透過率(%)を測定した。
すなわち、分光光度計(SHIMADZU(株)製、UV−VIS−NIR SPECTROPHOTOMETER UV−3600)を用いて、波長600〜1200nmの領域の光に対する近赤外線透過率(初期透過率)を測定した。
また、80℃、dryの耐熱条件下に試験用サンプルを投入し、100時間後に取り出して23℃、50%RHの標準環境下に1時間放置した後においても、分光光度計を用いて、波長600〜1200nmの領域の光に対する近赤外線透過率(耐熱後透過率)を測定した。
なお、波長850、900および950nmの光に対する初期透過率および耐熱後透過率の値を、表2に示す。
【0073】
(1)−3 近赤外線透過率の変化の評価
また、波長850、900および950nmの光に対する初期透過率の値と、耐熱後透過率の値から、下記式(1)に従って近赤外線透過率の変化率(近赤外線透過率変化率)(%)を算出した。
次いで、得られた近赤外線透過率変化率の値を、下記基準に沿って評価した。得られた結果を表2に示す。
○:近赤外線透過率変化率が4.0%未満の値である。
×:近赤外線透過率変化率が4.0%以上の値である。
【0074】
【数1】

【0075】
(2)粘着剤組成物の酸価の評価
試料として得られたシーズニング前の粘着剤組成物0.3g(固形分)を正確に秤量し、溶媒としてトルエンを加えて、粘着剤組成物の1重量%溶液を得た。
次いで、得られた溶液に対し、指示薬としてのフェノールフタレイン/アルコール溶液を2〜3滴加えた後、0.1N水酸化カリウム/アルコール溶液で滴定し、溶液の赤色が約30秒で消えなくなった時を終点とし、このときの滴定量と試料重量から酸価(KOHmg/g)を求めた。得られた結果を表1に示す。
なお、酸価調整剤の酸価も、粘着剤組成物の酸価と同様にして測定した。
【0076】
[実施例2]
実施例2では、粘着剤組成物を調製する際に、(A)成分として下記(メタ)アクリル酸エステル重合体を用いたほかは、実施例1と同様に粘着シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
なお、BAはアクリル酸n−ブチルを意味する。
(A)成分:BA/MMA/HEA(79/20/1) Mw=80万
【0077】
[実施例3]
実施例3では、粘着剤組成物を調製する際に、(C)成分としてロジン樹脂の誘導体B(荒川化学工業(株)製、パインクリスタルKR−614、酸価175KOHmg/g、軟化点89℃)を用いたほかは、実施例1と同様に粘着シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
なお、使用した酸価調整剤は、表1中において「KR−614」と表記する。
【0078】
[実施例4]
実施例4では、粘着剤組成物を調製する際に、(C)成分としてロジン樹脂の誘導体C(荒川化学工業(株)製、パインクリスタルKR−85、酸価170KOHmg/g、軟化点84℃)を用いたほかは、実施例1と同様に粘着シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
なお、使用した酸価調整剤は、表1中において「KR−85」と表記する。
【0079】
[実施例5]
実施例5では、粘着剤組成物を調製する際に、防錆剤としての1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール(城北化学(株)製)1.7重量部と、紫外線吸収剤(シプロ化成(株)製、SEESORB 107)6.9重量部とをさらに添加したほかは、実施例1と同様に粘着シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
なお、使用した防錆剤および紫外線吸収剤は、表1中においてそれぞれ「ベントリ」および「SEESORB」と表記する。
【0080】
[実施例6]
実施例6では、粘着剤組成物を調製する際に、(A)成分として下記(メタ)アクリル酸エステル重合体を用いたほかは、実施例1と同様に粘着シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
(A)成分:EHA/MMA/HEA(77/20/3) Mw=80万
【0081】
[実施例7]
実施例7では、粘着剤組成物を調製する際に、(A)成分として下記(メタ)アクリル酸エステル重合体を用いたほかは、実施例1と同様に粘着シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
(A)成分:EHA/MMA/HEA(79.5/20/0.5) Mw=80万
【0082】
[比較例1]
比較例1では、粘着剤組成物を調製する際に、酸価調整剤である(C)成分を加えなかったほかは、実施例1と同様に粘着シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
なお、表2より、次の事項がわかる。
実施例1〜7の粘着剤組成物は、波長850、900および950nmの光に対する近赤外線透過率の変化率が4.0%未満であり、いずれも良好であった。
一方、比較例1の粘着剤組成物は、波長850nmの光に対する近赤外線透過率の変化率が4.0以上と高く、近赤外線吸収性能の低下が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上、詳述したように、本発明によれば、粘着剤組成物に対し、イモニウム塩系化合物とともに、酸価調整剤を所定の割合で含有させることにより、ソーダライムガラスに由来したナトリウムイオン等によるイモニウム塩系化合物の分子構造の変化を効果的に抑制できるようになった。
その結果、ソーダライムガラスに対して貼合させた状態で、所定の耐熱条件下に曝した場合であっても、近赤外線吸収性能の低下を効果的に抑制できる粘着剤組成物を得ることができるようになった。
したがって、本発明の粘着剤組成物等は、プラズマディスプレイパネル等に適用される近赤外線吸収粘着シートの高品質化に、著しく寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0087】
1:塗布層、2:剥離フィルム、10:粘着剤層、101:基材、200:被着体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)〜(C)を含むことを特徴とする粘着剤組成物。
(A)(メタ)アクリル酸エステル重合体 100重量部
(B)イモニウム塩系化合物 0.01〜30重量部
(C)酸価調整剤 0.1〜30重量部
【請求項2】
前記(B)成分としてのイモニウム系化合物における極大吸収波長を600〜1,200nmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記(C)成分としての酸価調整剤の酸価を50〜500KOHmg/gの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記(C)成分としての酸価調整剤が、ロジン樹脂及び/又はロジン樹脂の誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記(A)成分としての(メタ)アクリル酸エステル重合体が、1分子中に活性水素基を2個以上有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
さらに(D)成分として、前記(A)成分を架橋するための架橋剤を含むとともに、前記(D)成分の配合量を、前記(A)成分100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
酸価を5〜300KOHmg/gの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
基材上に、下記成分(A)〜(C)を含む粘着剤組成物を粘着剤層として備えた粘着シート。
(A)(メタ)アクリル酸エステル重合体 100重量部
(B)イモニウム塩系化合物 0.01〜30重量部
(C)酸価調整剤 0.1〜30重量部
【請求項9】
前記基材がディスプレイ用光学フィルムであることを特徴とする請求項8に記載の粘着シート。
【請求項10】
前記基材が剥離フィルムであるとともに、前記粘着剤層における当該剥離フィルムの反対面に対し、別の剥離フィルムを積層してなることを特徴とする請求項8に記載の粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−201841(P2012−201841A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69383(P2011−69383)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】