説明

粘着力兼厚み測定装置及びその測定方法

【課題】従来の携帯用の粘着力測定装置と固定型の粘着力測定装置の問題点を解消した、測定作業が容易で、短時間で正確な粘着力の測定を行うことのできる粘着力兼厚み測定装置及びその測定方法を提供する。
【解決手段】基盤5上に載置した被測定物4の表面に接触させる接触端子22を被測定物4の表面と平行な平面の任意の位置に移動可能なXY軸方向駆動手段7と、接触端子22を垂直方向に移動させることで被測定物4が接触端子22に作用する押圧力及び引張力を測定する測定手段とを備えた粘着力測定装置であって、XY軸方向駆動手段7には、接触端子22が接触する箇所の被測定物4の表面にレーザ光を照射して被測定物4の厚みを測定する非接触式厚み測定装置24を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粘着性を有する部材、例えば、シリコーンゴム板等の粘着力を測定する粘着力兼厚み測定装置及びその測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、未加硫ゴムシートをタイヤ部品に巻き付けて生タイヤを製造する際、未加硫ゴムシートの粘着力が作業性及び、その後の品質に影響を及ぼすため、粘着力が或る範囲を外れないようにすることが重要であり、所定ロット毎等に未加硫ゴムシートの一部を切り取って、粘着力測定用の被測定物を作製し、その被測定物の粘着力の測定を行っていた。
【0003】
この場合の粘着力測定装置としては、例えば、生タイヤの製造に種々の未加硫ゴムシートの未加硫ゴムの粘着力を測定するための押圧力及び引張力を測定可能な手で把持できる小型の携帯可能な粘着力測定装置(例えば、日本計測システム(株)製のハンディーフォース・ゲージHFシリーズ等)が使用されていた(特許文献1を参照)。
【0004】
この携帯用の粘着力測定装置を使用した粘着力の測定は、図6に示したように、粘着力測定装置本体100から突出するシャフト102の先端には円板状の粘着力測定用接触端子104が取り付けられ、この粘着力測定用接触端子104を測定対象である未加硫ゴムシート106に所定の荷重で平行に押し付け、その後、ハンディーフォースゲージ本体100を手で把持しながら未加硫ゴムシート106から離れる方向へゆっくりと移動し(図7(a)参照)、粘着力測定用接触端子104が未加硫ゴムシート106から離れる瞬間の引張荷重を読取っていた。
【0005】
しかしながら、正確な粘着力を測定するには、粘着力測定用接触端子104の接触面を未加硫ゴムシート106の表面と平行に保ったまま移動する必要があり、図7(b)に示すように未加硫ゴムシート106の測定表面に対して斜めに引っ張ると測定値が大きく変動する問題があるため、正確な粘着力を測定することは熟練者でも困難であった。
【0006】
そのため、携帯用の粘着力測定装置を使用した粘着力の測定方法は、担当者レベルの確認作業としての利用に留まり、実際の品質管理にあたっては、測定者の熟練度に左右されることのない固定型の大型の粘着力測定装置が使用されていたが、従来の固定型の粘着力測定装置は設備が大がかりなものであって、操作が面倒で設備費が高いといった問題があった。
【特許文献1】特開2001−159598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、従来の携帯用の粘着力測定装置と固定型の粘着力測定装置の問題点を解消した、測定作業が容易で、短時間で正確な粘着力の測定を行うことのできる粘着力兼厚み測定装置及びその測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような課題を実現するため、請求項1に係る発明は、基盤上に載置した被測定物の表面に接触させる接触端子を前記被測定物の表面と平行な平面の任意の位置に移動可能なXY軸方向駆動手段と、前記接触端子を垂直方向に移動させることで前記被測定物が前記接触端子に作用する押圧力及び引張力を測定する測定手段とを備えた粘着力測定装置であって、前記XY軸方向駆動手段には、前記接触端子が接触する箇所の前記被測定物の表面にレーザ光を照射して被測定物の厚みを測定する非接触式厚み測定装置を備えていることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成に加え、前記接触端子を垂直方向に昇降させるためのZ軸方向駆動手段と、予め設定された条件で前記接触端子が昇降するように、前記Z軸方向駆動手段に対して制御信号を供給する制御手段と、前記接触端子に加わる応力を検出するための前記接触端子と結合されたセンサと、前記センサからの検出信号を処理して一つの前記被測定物に対する複数の測定点における前記接触端子に作用する押圧力及び引張力の測定値及び厚みの測定値を表示装置に一覧表示するためのデータ処理手段とを備えていることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記被測定物は磁力又は真空力によって吸着することのできる試料板に粘着固定されたものであり、前記基盤にはその表面に吸着力を発生し又は吸着力を消去させることのできる切替手段を有する吸着固定装置を備えていることを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の粘着力兼厚みの測定方法の発明は、基盤上に載置した被測定物の表面に接触させる接触端子を前記被測定物の表面と平行な平面の任意の位置に移動可能なXY軸方向駆動手段と、前記接触端子を垂直方向に移動させることで前記被測定物が前記接触端子に作用する押圧力及び引張力を測定する測定手段とを設けた粘着力兼厚み測定装置を使用した測定方法であって、前記接触端子を前記被測定物に接触させてその厚みを測定する工程と、前記被測定物の厚みを測定した位置で、前記接触端子を前記被測定物側に押し込んで所定の圧力を加えたときに前記接触端子に生じる応力を測定する工程と、前記接触端子を前記被測定物から引き上げるときに前記接触端子に生じる応力を測定する工程とを有することを特徴としている。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記XY軸方向駆動手段には、レーザ光を照射して被測定物の厚みを測定する非接触式厚み測定装置を備えており、該非接触式厚み測定装置から発射されるレーザ光を前記接触端子が接触する箇所の前記被測定物の表面に照射して被測定物の厚みを測定するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
この発明は以上のような構成を有するため、請求項1に記載の発明によれば、XY軸方向駆動手段によって被測定物の表面の任意の位置に移動した後、接触端子を垂直方向に移動させることで被測定物が接触端子に作用する押圧力及び引張力を測定することができる。しかも、接触端子の表面が被測定物の表面に対して平行な状態で移動可能であるから被測定物が接触端子に作用する押圧力及び引張力を正確に測定することができる。さらに、XY軸方向駆動手段には、接触端子が接触する箇所の被測定物の表面にレーザ光を照射して被測定物の厚みを測定する非接触式厚み測定手段を備えているので、被測定物の粘着力の測定のみならず被測定物の厚みも同時に測定することができる。しかも、被測定物の厚みの測定はレーザ光を照射して被測定物の厚みを測定するといった非接触式であるため、接触端子を被測定物の表面に接触させる必要がないので測定に際して被測定物に接触圧力が加わることがなく、弾性を有する粘着性部材に対して正確な厚みを測定することが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、表示装置に一つの被測定物に対する複数の測定点における接触端子に作用する押圧力及び引張力の測定値及び厚みの測定値が逐次一覧表示されるので、請求項1の発明の効果に加えて、複数の測定値のばらつきを逐次確認できるから、被測定物の設置不良やその他の不慮の事故による測定不良を早期に発見し測定作業を中断することが可能となり、無駄な測定作業の発生を防止することができる。また、押圧力及び引張力の測定値及び厚みの測定値が一覧表示されているデータを使って、これらの測定値の統計的処理を既存の表計算ソフト等容易に行うことができるから、試験報告書等の試験資料の作成が迅速に行える。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、被測定物は磁力又は真空力によって吸着することのできる試料板に粘着固定されたものであり、基盤にはその表面に吸着力を発生し又は吸着力を消去させることのできる試料板に粘着固定されたものであり、吸着力を発生し又は吸着力を消去させることのできる切替手段を有する吸着固定装置を備えているので、請求項1又は2の発明の効果に加えて、被測定物を基盤に固定する場合には被測定物を粘着固定した試料板を基盤に載置して基盤の表面に吸着力を発生させ、被測定物を基盤から取り外す場合には基盤の表面の吸着力を消去させてから被測定物を粘着固定した試料板を基盤から持ち上げればよい。したがって、被測定物の基盤に対する固定作業と取り外し作業が吸着力の発生・消去の切替手段のみでよいので、機械的なクランプを使用する場合のような調整作業が不要であるから、初心者でも取り扱うことができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、接触端子を被測定物に接触させてその厚みを測定した直後に、被測定物の厚みを測定した位置で、接触端子を被測定物側に押し込んで所定の圧力を加えてから接触端子を被測定物から引き上げるときに接触端子に生じる応力を測定するようにしているので、接触端子を被測定物の表面に接触させて被測定物の厚みを測定することと、接触端子に作用する押圧力及び引張力から被測定物の粘着力を測定することとが、同一の測定点での1サイクルの測定動作として実行されるため、同一の測定点における粘着力の測定と厚みの測定との間でXY軸方向駆動手段を使用することがない。そのため、同一の測定点における粘着力と厚みを測定する際の測定点の座標のずれが生じることがない。したがって、複数箇所の粘着力と厚みとを測定しなければならない場合であっても、迅速で正確な測定が可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、接触端子が接触する箇所の被測定物の表面にレーザ光を照射して被測定物の厚みを測定する非接触式厚み測定装置をXY軸方向駆動手段に備えており、接触端子が接触する箇所の被測定物の表面にレーザ光を照射して被測定物の厚みを測定するようにしているので、請求項4の発明の効果に加えて、接触端子を被測定物の表面に接触させる必要がないため測定に際して被測定物に接触圧力が加わることがなく、弾性を有する粘着性部材に対して正確な厚みを測定することが可能となるとともに、レーザ光による厚みの測定値は接触端子を被測定物に接触させて測定した厚みの値より大きな値となるといった性質があるため、その逆の関係になっている測定点があればその測定点における厚みの値は誤りとして採用しないようにすることで、厚みの測定値の信頼性が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[発明の実施の形態1]
以下、この発明の実施の形態1について図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1はこの発明の実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置を示した斜視図であり、図2はこの発明の実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置の接触端子と被測定物との接触状態を示した要部断面図である。
【0020】
図1において、1はこの発明の実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置であって、土台2の上に剛性を有する水平に設置された定盤3を有している。定盤3の上の中央部には、被測定物4を載置する表面が平滑な基盤5が設けられている。実施の形態1では、基盤5の表面に磁力を発生し又は磁力を消去させることのできる切替手段を有する電磁石による吸着固定装置(商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)を採用している。他方、被測定物4は磁力によって吸着することのできるステンレス製の試料板6に粘着固定したものを使用することで、磁力の発生と消去とを磁力吸着装置の電気的な切替手段で実現し、被測定物4を基盤5に固定することと被測定物4を基盤5から取り外す操作を容易なものとしている。
【0021】
ここで、実施の形態1として、吸着固定装置に電磁石の磁力を使用したものについて説明したが、この発明はこれに限らず、大気圧を応用した真空力を使用した真空チャックであってもよい。真空チャックであれば、非磁性材料の吸着が可能であるから、樹脂材料の被測定物4を直接基盤5に固定することも可能となる。さらに、多孔質セラミック真空チャックを使用すれば、ミクロンサイズの気孔径を有しているため、被測定物4がフィルムなどの薄物であっても、基盤5上に変形なく均一に吸着固定することが可能となる。
【0022】
定盤3には、基盤5の表面と平行な平面内を任意の方向に移動できるXY軸方向駆動手段7を有している。XY軸方向駆動手段7は、X軸方向(左右方向)を案内するX軸ガイドレール8が、基盤5の背後の位置に左右の支柱9,10によって水平に支持された状態で定盤3に固定されている。定盤3の手前側の右隅には、人間の目の高さの位置に測定条件及び動作条件を設定できるタッチパネルキー11と、設定した測定条件が確認できる数値表示部12等が備えられた制御モニタ13が取り付けられている。
【0023】
X軸ガイドレール8にはX軸ガイドレール8を自在に移動できる駆動装置(図示せず)を備えたX方向スライダ14が設けられており、X方向スライダ14にはX軸ガイドレール8と直交するY軸方向(前後方向)を案内するY軸ガイドレール15が設けられている。つまり、Y軸ガイドレール15の一端はX方向スライダ11に固定されており、Y軸ガイドレール15の他端には垂直下方に伸びる可動支柱16が固定され、この可動支柱16によってY軸ガイドレール15が水平に支持された状態でX方向スライダ11がX軸方向に移動自在となっている。可動支柱16の下端部には、定盤3に直接固定された補助X軸ガイドレール17上を移動自在である補助スライダ18が設けられている。
【0024】
以上のようなX軸ガイドレール8、X方向スライダ14、Y軸ガイドレール15、可動支柱16、補助X軸ガイドレール17とを組み合わせたX軸方向駆動装置により、Y軸ガイドレール15を基盤5の表面と平行な平面内のX軸方向の任意の位置に位置決めすることができる。
【0025】
Y軸ガイドレール15には、Y軸ガイドレール15を自在に移動できる駆動装置(図示せず)を備えたY方向スライダ19が設けられている。これにより、Y方向スライダ19を基盤5の表面と平行な平面内のY軸方向の任意の位置に位置決めすることができるY軸方向駆動装置が完成されている。
【0026】
Y軸ガイドレール15を基盤5の表面と平行な平面内のX軸方向の任意の位置に位置決めすることができるX軸方向駆動装置と、Y方向スライダ19を基盤5の表面と平行な平面内のY軸方向の任意の位置に位置決めすることができるY軸方向駆動装置とにより、Y方向スライダ19を基盤5の表面と平行な平面内のX軸及びY軸方向の任意の位置に位置決めすることができるXY軸方向駆動手段7が完成されている。
【0027】
Y方向スライダ19には、Z軸方向(上下方向)を案内するZ軸ガイドレール20が垂直に固定されており、Z軸ガイドレール20にはZ軸ガイドレール20を自在に移動できる駆動装置(図示せず)を備えたZ方向スライダ21が設けられている。これにより、Z方向スライダ21を基盤5の表面と垂直な平面内のZ軸方向の任意の位置に位置決めすることができるZ軸方向駆動装置が完成されている。
【0028】
Z方向スライダ21には、接触端子22を備えた粘着力測定装置23と、レーザ光による非接触式厚み測定装置24が固定されている。
【0029】
実施の形態1では、粘着力測定装置23には引張、圧縮を一軸にて測定しその測定結果をデジタル表示できるデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)を採用し、接触端子22には直径10mmの円柱形状をしたステンレス製のものを使用している。
【0030】
粘着力測定装置23は、接触端子22を被測定物4の表面へ押し付ける際の押圧力と被測定物4の表面から接触端子22を引き離す際の引張力とを測定することができるものであって、さらに、接触端子22を被測定物4の表面に接触させることで試料板6の表面との差から
被測定物4の厚みも測定できる。
【0031】
なお、粘着力測定装置23として実施の形態1で採用したデジタルフォースゲージは、接触端子22と粘着力測定装置23に内蔵されたセンサとが直接接続されているものであるが、接触端子22と粘着力測定装置23に内蔵されたセンサとの間に緩衝部材を介在させたものであってもよい。この緩衝部材を介在させたものの場合には、接触端子22を被測定物4の表面に接触させてからセンサに荷重が作用するまでに時間的な遅れを持たせることができるので、センサに衝撃荷重が働くことを防止できるため、粘着力測定装置23の安全な使用が保証される。
【0032】
レーザ光による非接触式厚み測定装置24には、被測定物4の微細な表面凹凸による乱反射を平均化し、データのばらつきを防ぐことができるとともに、被測定物4の表面をセンジングしてレーザ光量を最適に調整できる高速・高精度CCDレーザ変位計(商品名:LK−G35、(株)キーエンス製)を採用している。そのため、レーザ計測が苦手とされていた透明体、半透明体の被測定物4であっても実用的な計測が可能となっており、シリコーンゴムのような材料の厚み測定に最適なものといえる。
【0033】
粘着力測定装置23による被測定物4の厚みと粘着力を測定する場合には、図2のように、粘着力測定装置23の接触端子22の中心が被測定物4の表面の測定点25と一致するようにXY軸方向駆動装置7によって位置決めされるが、このとき非接触式厚み測定装置24から発射されるレーザ光26も、粘着力測定装置23の接触端子22の中心と対応する被測定物4の表面の測定点25に照射されるように予め調整しておく。
【0034】
図3は、この発明の実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置のシステム構成を示すブロック図である。
【0035】
粘着力兼厚み測定装置1には、X方向スライダ14がX軸ガイドレール8を自在に移動するための駆動源としてX軸用ステッピングモータ27が備えられている。また、X軸用ステッピングモータ27の回転軸には、X軸ガイドレール8に回転可能な状態で組み込まれているボールねじ(図示せず)が連結されており、X方向スライダ14に回転不能な状態で組み込まれているねじ部材(図示せず)とが螺合されている。これにより、X軸用ステッピングモータ27が回転すると、ボールねじが回転することでX方向スライダ14に取り付けられているねじ部材がボールねじの軸方向に移動することとなり、結果として、X軸用ステッピングモータ27の回転量に応じてX方向スライダ14がX軸ガイドレール8の軸方向に移動することができる。
【0036】
また、粘着力兼厚み測定装置1には、Y方向スライダ19がY軸ガイドレール15を自在に移動するための駆動源としてY軸用ステッピングモータ28が備えられている。Y軸用ステッピングモータ28の回転軸には、Y軸ガイドレール15に回転可能に組み込まれているボールねじ(図示せず)が連結されており、Y方向スライダ19に回転不能に組み込まれているねじ部材(図示せず)とが螺合されている。これにより、Y軸用ステッピングモータ28が回転すると、ボールねじが回転することで回転不能な状態でY方向スライダ19に取り付けられているねじ部材がボールねじの軸方向に移動することとなり、結果として、Y軸用ステッピングモータ28の回転量に応じてY方向スライダ19がY軸ガイドレール15の軸方向に移動することができる。
【0037】
さらに、粘着力兼厚み測定装置1には、Z方向スライダ22がZ軸ガイドレール20を自在に移動するための駆動源としてY軸用ステッピングモータ29が備えられている。Z軸用ステッピングモータ29の回転軸には、Z軸ガイドレール20に回転可能に組み込まれているボールねじ(図示せず)とZ方向スライダ22に回転不能に組み込まれているねじ部材(図示せず)とが螺合されている。これにより、Z軸用ステッピングモータ29が回転すると、ボールねじが回転することで回転不能な状態でZ方向スライダ22に取り付けられているねじ部材がボールねじの軸方向に移動することとなり、結果として、Z軸用ステッピングモータ29の回転量に応じてZ方向スライダ22がZ軸ガイドレール20の軸方向に移動することができる。
【0038】
粘着力測定装置23の接触端子22の先端に加わる応力を粘着力測定装置23に内蔵されているセンサによって検出し、その応力信号がマイクロコンピュータ30に供給される。マイクロコンピュータ30に供給された応力信号は、増幅器及びA/D変換器を介してデジタル信号に変換して、粘着力測定装置23に備えられている液晶表示装置31、マイクロコンピュータ30に接続されている制御モニタ13、パソコン32に接続されているディスプレイ33に数値データとして表示される。
【0039】
なお、応力信号は増幅器及びA/D変換器を介して表示装置の仕様に適したデジタル信号に変換されるが、増幅器及びA/D変換器は粘着力測定装置23又はマイクロコンピュータ30のいずれに組み込まれていてもよい。
【0040】
以下、この発明の実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置の使用方法について図面を参照しながら説明する。
【0041】
図4は、この発明の実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置の一部である制御モニタの自動設定画面の一例である。図5は、この発明の実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置の一部である制御モニタの自動運転画面の一例である。
【0042】
被測定物4は、被測定物4より一回り大きい四角形をした磁石に吸着されるステンレス製の試料板6に粘着固定されているものを使用する。
【0043】
実施の形態1の試料板6は平面形状が正方形で、縦110mm、横110mm、厚み0.8mmであり、被測定物4は平面形状が長方形で、縦90mm、横100mm、厚み1.8mmである。また、測定点25は、X軸方向ピッチ32mm、Y軸方向ピッチ35mmの9点とし、測定環境としては、温度20℃(実測値:19〜23℃)、湿度50%(実測値:40〜60%)とする。
【0044】
最初に、被測定物4が粘着固定されている試料板6の4辺のうちの隣り合う2辺を、予め基盤5の所定位置に固定されているL字型の位置決めゲージ(図示せず)の内側に宛うようにして基盤5上に設置し、基盤5の電磁石による磁力吸着装置を機動させて磁力によって試料板6を基盤5に固定させる。
【0045】
次に、被測定物4の粘着力と厚みを測定する前に、試料板6の表面に粘着測定装置23の接触端子22の先端を接触することでZ軸方向の0点を設定する。非接触式厚み測定装置24についても同様に、レーザ光を試料板6の表面に照射することでZ軸方向の0点を設定する。
【0046】
粘着力兼厚み測定装置1を機動させた初期段階では、制御モニタ13には図4に示したような自動設定画面G1が表示されている。
【0047】
そこで、粘着力を測定するために粘着力測定装置23の接触端子22を被測定物4の表面に接触させて、押し込んで、引き離す、といった動作を行わせるために、制御モニタ13に写し出されているタッチパネルキー11を操作することで、被測定物4の測定位置を決めるX軸方向の数値(mm)とY軸方向の数値(mm)、測定回数(回)、測定間隔(分)、Z方向スライダ21の測定下降速度の数値(mm/min)と測定上昇速度の数値(mm/min)、停止時間(sec)等の測定条件を入力する。
【0048】
制御モニタ13のタッチパネルキー11で入力された数値は制御モニタ13上の数値表示部12で確認できるため、表示されている数値に間違いがなければ、入力した測定条件のデータをマイクロコンピュータ30に記憶させる。
【0049】
測定を開始する場合には、測定開始のタッチパネルキー11を押すことで、マイクロコンピュータ30から既に記憶されている測定条件に対応した制御信号が粘着力兼厚み測定装置1に送られ、所望の測定条件に従った動作を自動的に実行する。
【0050】
マイクロコンピュータ30に記憶された測定条件のデータに基づいて、マイクロコンピュータ30からモータドライバ34に対して入力された測定条件に対応したモータ制御信号が供給され、モータドライバ34からのドライブ信号がX軸用ステッピングモータ27、Y軸用ステッピングモータ28、Z軸用ステッピングモータ29に供給される。X軸用ステッピングモータ27によってX方向スライダ14がX軸ガイドレール8を移動し、Y軸用ステッピングモータ28によってY方向スライダ19がY軸ガイドレール15を移動することで測定点25のXY座標に位置決めされ、Z軸用ステッピングモータ29によってZ方向スライダ22がZ軸ガイドレール20を移動することで粘着力測定装置23の接触端子22が昇降する。
【0051】
最初に、接触端子22が被測定物4に押し付けられ、所定時間その状態を維持し、次に、接触端子22を引き上げて行き、この工程で粘着力測定装置23に内蔵されたセンサの出力の変化が測定される。接触端子22が押し付けるときの力も粘着力測定装置23に内蔵されたセンサからの応力信号をマイクロコンピュータ30が受け、設定された値で押し付けるように制御される。以上の動作は測定点25の数(9点)だけ繰り返される。
【0052】
具体的には、接触端子22を被測定物4の表面に向けてゆっくりと移動(被測定物4の表面から1mmの間で20mm/min)させ、制御モニタ13の押圧力測定値を確認しながら予め決めておいた押圧力(弱粘着(粘着力1.2kg)の場合に200g、強粘着(粘着力2.7kg)の場合に2kg)で被測定物4の表面に接触端子22を押圧したまま所定時間(3秒間)維持する。
【0053】
所定の押圧時間が経過したら、接触端子22を被測定物4の表面から被測定物4から離れる方向へ一定の速度(被測定物4の表面から1mmの間で180mm/min)でゆっくりと移動し、接触端子22が被測定物4の表面から剥離した瞬間の引張力を粘着力測定装置23に内蔵されたセンサで測定する。そして、このときの引張力をもって粘着力とする。
【0054】
所望の測定動作が実行される自動運転の結果、粘着力測定装置23に内蔵されたセンサによって測定された接触端子22に働く応力信号は、粘着力測定装置23及び/又はマイクロコンピュータ30によってディジタル信号に変換処理され、押圧力、引張力の数値及び厚みの数値が、粘着力測定装置23に備えられている液晶表示装置31と制御モニタ13に表示される自動運転画面G2(図5参照)上の数値表示部12に表示されるとともに、粘着力測定装置23に接続されているパソコン32のディスプレイ33に測定点25のXY座標位置の値に対応させて、測定点の数に応じた数の数値データが一覧表示される。非接触式厚み測定装置24には表示装置が備えられておらず、非接触式厚み測定装置24によって測定された被測定物4の厚みの数値は、制御モニタ13に表示されるとともに、非接触式厚み測定装置24に接続されているパソコン32のディスプレイ33に測定点25のXY座標位置の値に対応させて、測定点の数に応じた数の数値データが一覧表示される。
【0055】
通常、一つの被測定物4について、同一条件での測定を数回から数十回繰り返して行い、得られたデータに統計的処理を行って粘着力のデータとして採用するが、複数の測定点の測定値及び複数回の測定値から平均値を求めることは、パソコン32にインストールされている一般の表計算ソフトを利用することで簡単に実現できるので、試験データの整理が容易となり試験報告書を迅速に作成することができる。
【0056】
なお、実施の形態1では、Z軸用ステッピングモータ29によってZ方向スライダ21がZ軸ガイドレール20を移動することで、Z軸方向に粘着力測定装置23の接触端子22が移動する機構を採用しているが、この発明はこれに限らず、Z軸ガイドレール20とZ方向スライダ22によるZ軸方向駆動手段を採用せず、XY軸方向駆動手段7のY方向スライダ19に粘着力測定装置23を直接固定し、基盤5側を昇降するようにして、粘着力測定装置23の接触端子22がZ軸方向の移動を実現するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明の実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置を示した斜視図である。
【図2】同実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置の接触端子と被測定物との接触状態を示した要部断面図であり、(a)は接触端子が接触した状態を示し、(b)は接触端子を引き上げる状態を示している。
【図3】同実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図4】同実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置の一部である制御モニタの自動設定画面の一例である。
【図5】同実施の形態1に係る粘着力兼厚み測定装置の一部である制御モニタの自動運転画面の一例である。
【図6】従来の携帯用の粘着力測定装置の斜視図である。
【図7】同携帯用の粘着力測定装置の接触端子を被測定物から引き上げる状態を示した要部断面図であり、(a)は接触端子を被測定物から垂直に引き上げる接触状態を示し、(b)は接触端子を被測定物から斜めに引き上げる接触状態を示している。
【符号の説明】
【0058】
1 粘着力兼厚み測定装置
3 定盤
4 被測定物
5 基盤
6 試料板
7 XY軸方向駆動手段
8 X軸ガイドレール
13 制御モニタ
14 X方向スライダ
15 Y軸ガイドレール
19 Y方向スライダ
20 Z軸ガイドレール
21 Z方向スライダ
22 接触端子
23 粘着力測定装置
24 非接触式厚み測定装置
25 測定点
27 X軸用ステッピングモータ
28 Y軸用ステッピングモータ
29 Z軸用ステッピングモータ
30 マイクロコンピュータ
32 パソコン
33 ディスプレイ
34 モータドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤上に載置した被測定物の表面に接触させる接触端子を前記被測定物の表面と平行な平面の任意の位置に移動可能なXY軸方向駆動手段と、前記接触端子を垂直方向に移動させることで前記被測定物が前記接触端子に作用する押圧力及び引張力を測定する測定手段とを備えた粘着力測定装置であって、前記XY軸方向駆動手段には、前記接触端子が接触する箇所の前記被測定物の表面にレーザ光を照射して被測定物の厚みを測定する非接触式厚み測定装置を備えていることを特徴とする粘着力兼厚み測定装置。
【請求項2】
前記接触端子を垂直方向に昇降させるためのZ軸方向駆動手段と、予め設定された条件で前記接触端子が昇降するように、前記Z軸方向駆動手段に対して制御信号を供給する制御手段と、前記接触端子に加わる応力を検出するための前記接触端子と結合されたセンサと、前記センサからの検出信号を処理して一つの前記被測定物に対する複数の測定点における前記接触端子に作用する押圧力及び引張力の測定値及び厚みの測定値を表示装置に一覧表示するためのデータ処理手段とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の粘着力兼厚み測定装置。
【請求項3】
前記被測定物は磁力又は真空力によって吸着することのできる試料板に粘着固定されたものであり、前記基盤にはその表面に吸着力を発生し又は吸着力を消去させることのできる切替手段を有する吸着固定装置を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘着力兼厚み測定装置。
【請求項4】
基盤上に載置した被測定物の表面に接触させる接触端子を前記被測定物の表面と平行な平面の任意の位置に移動可能なXY軸方向駆動手段と、前記接触端子を垂直方向に移動させることで前記被測定物が前記接触端子に作用する押圧力及び引張力を測定する測定手段とを設けた粘着力兼厚み測定装置を使用した測定方法であって、前記接触端子を前記被測定物に接触させてその厚みを測定する工程と、前記被測定物の厚みを測定した位置で、前記接触端子を前記被測定物側に押し込んで所定の圧力を加えたときに前記接触端子に生じる応力を測定する工程と、前記接触端子を前記被測定物から引き上げるときに前記接触端子に生じる応力を測定する工程とを有することを特徴とする粘着力兼厚みの測定方法。
【請求項5】
前記XY軸方向駆動手段には、レーザ光を照射して被測定物の厚みを測定する非接触式厚み測定装置を備えており、該非接触式厚み測定装置から発射されるレーザ光を前記接触端子が接触する箇所の前記被測定物の表面に照射して被測定物の厚みを測定するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の粘着力兼厚みの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−101402(P2007−101402A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292502(P2005−292502)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】