説明

精密プレス装置

【課題】高精度で平行度に倣う機構を有しており、特に、ナノインプリント装置にも適用可能な精密プレス装置を提供する。
【解決手段】精密プレス装置は、ガイドポスト4に固定されている受圧部1、ガイドポストに保持器5を介して摺動案内される加圧部2、受圧部1と加圧部2との各対向面に装着されるプレスステージ7a,7b、及び加圧部2を軸受部材(フリー軸受)9を介して駆動させる駆動部8を備えている。受圧部1とガイドポスト4との間及び/又は前記加圧部と保持器との間には弾性体6が介装されており、弾性体6が変形することで両プレスステージ7の面同士が互いに倣い両プレスステージに掛かる荷重を均一にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高平坦度で微細構造転写可能な精密プレス装置、特に、表面に微細な凹凸パターンが形成された転写元となる原板(微細構造転写モールド)を転写先となる基板(被転写体)に押し付け、基板表面に微細な凹凸パターンを転写・形成するための微細構造転写モールド及び微細構造転写装置に適用される精密プレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、上記微細構造転写装置においては、比較的安価なナノレベルのインプリント装置が発売されている。微細構造転写装置はナノレベルの転写が可能であり、一般的にそれらの装置はナノインプリント装置と呼ばれている。被転写体の素材は主に樹脂やガラス等が使用されており、ナノインプリントの方式については、それら素材特性により、紫外線を利用した光ナノインプリント装置と、熱を利用した熱ナノインプリント装置の大きく2つに分類されている。また、転写方式としては一般的なプレス装置の原理を利用した平行平板方式と、ローラタイプのシートナノ装置等が挙げられる。
【0003】
ここで、平行平板タイプのナノインプリント装置においては、プレスステージ部の平坦度、及び平行度の高精度化が特に重要である。現在見受けられる装置の平行度調整機構としては、プレス機構の受圧側か加圧側のどちらか片方のプレスステージ直下に、球面形状の軸受機構を設置し球面上を摺動させ調整する方式や、バネなどの弾性体をプレスステージ直下に取り付ける方式が挙げられる。
【0004】
近年、微細構造転写装置においては、大型化、高タスク化の需要が増えてきている。しかし、平行平板タイプのナノインプリント装置においては、大形化するにつれ、平坦度、平行度の精度低下といった問題や、転写対象物のサイズ、及び素材によって、必要圧力、必要温度等が大きく異なり、適用範囲が広く、制御が複雑化している。
【0005】
プレス方式としては、エアシリンダを採用している装置も見受けられるが、高度な制御が容易に行えるサーボプレスが一般化してきている。ナノインプリントの装置自体は主として、半導体関連で扱われる部類の装置であり、クリーンルーム内での使用が一般的であるため、発塵、汚染の面から油圧シリンダを採用しているところは多くはない。
【0006】
対向する2面により部品をはさんで加圧するプレス機において、一方の面を含むモールド保持板を、その面の垂線上に中心をもつ球面軸受を介し回転可能に支持させ、且つ、そのモールド保持板の上記回転を止める固定手段を付設するとともに、当該一方の面に、着脱容易に弾性シートを取り付けることで、加圧対象物の厚さの不均一に対する追従性(補正性能)を備え、加圧後の部品を分離して取り出すことを可能にしたプレス機が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、下成形型を、素材に形状を転写する光学面と反対側の面を凸球面状に形成し、下成形型を保持する母型を、下成形型の球面形状に対応する凹球面状に形成し、凸球面と凹球面の曲率中心を、成形型の中心軸上において、プレスされた成形品の占める位置ないし成形品の中心軸上の端面から成形品の中心軸上厚以内の位置とし、プレス成形時に胴型が上成形型に当接することで、下成形型が揺動し、それにより両成形型の軸線同士を一致させて傾きを自動調整したプレス成形装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
更に、ナノインプリンティングにおいて、情報に相当するパターンを有する原盤を保持する原盤保持手段と、原盤のパターンが転写される基板を保持する基板保持手段と、原盤と基板間を固定する固定手段と、原盤と基板間に圧力を印加する圧力印加手段と、原盤保持手段と基板保持手段間に介在しかつ原盤及び基板の周囲に配置された弾性体を有し、固定手段による原盤と基板間の固定を解除して引き離しを行う固定解除手段とを備えており、原盤と基板に均一に圧力を印可することができ、且つ転写後に原盤と基板を容易に剥離することができる転写装置及び転写方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0009】
ところで、高荷重が必要な場合や、被転写物が大形化した場合において、特許文献1や特許文献2に記載のナノプリント技術のように、球面で受ける構造では、球面機構自体が大形化し、摩擦や磨耗、かじり現象が発生する可能性が高くなる。また、傾斜に倣った後の球面軸受を、元の水平状態に戻すために、バネなどの弾性体を使用しなければならず、特にプレスステージの近傍における機構が複雑化し、さらには大形化に伴い高価格となる。特許文献3においては、バネにて荷重を受ける場合は必要な荷重が大きい場合において、バネが極端に大きくなってしまう。また、均熱化が困難であり、昇温時間が長くなるといった問題点も挙げられる。特に、熱式ナノプリント用プレスには、受圧部と加圧部の面が平行に当たることが必須である。しかし、加圧部又は受圧部を高精度に加工し、更には、受圧部や加圧部のガイドを高精度に加工・調整するのは大変困難である。現在、高精度な平行度を得るため、加圧部又は受圧部直下に球面体からなる軸受けを設ける、空気又はそれに準じた流体、弾性体を用いクッションにする、受圧部をリンク機構とし平行に圧を受ける工夫をプレスステージの直下に設ける、という対策が取られてきた。しかし、プレスステージにはヒータ、冷却路など様々な細工を行う必要があり、前記機構はその殆どが大形化、複雑化しやすいと言った問題があった。
【特許文献1】特開2005−52841号公報
【特許文献2】特開2003−54963号公報
【特許文献3】特開2002−100079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、ナノレベルオーダの部品加工や組立が困難であることや、剛体同士でのプレスだからこその、ナノレベルプレスの困難性に着目し、原盤保持側と基板保持側の両側において、両者を保持又は摺動可能に係合するガイド部との間で傾きや撓みを吸収することで、原盤と基板に均一に圧力を掛けることを可能にする点で解決すべき課題がある。
【0011】
本発明の目的は、微細又は極微細な加工パターンを持つ製品の製造工程を持ち、微細な形状の構造体を形成するためのパターン転写技術であるナノプリント法において、プレスステージの周囲での構造が簡素で、平行度調整が優れた微細構造転写装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明による精密プレス装置は、ガイドポストに保持器を介して摺動案内される加圧部、前記ガイドポストに固定されている受圧部、前記加圧部と前記受圧部との各対向面に装着されるプレスステージ、及び前記加圧部を軸受部材を介して駆動させる駆動部を備え、前記加圧部と前記保持器との間及び/又は前記受圧部と前記ガイドポストとの間には弾性体が介装されており、前記弾性体が変形することで前記両プレスステージの面同士が互いに倣い前記両プレスステージに掛かる荷重を均一にすることを特徴としている。
【0013】
この精密プレス装置によれば、平行度調整を行う機構がプレスステージの近傍には配置されておらず、ガイドポストと加圧部及び/又は受圧部との間で弾性体として設けられているので、加圧部と受圧部との相対的な傾きや撓みがこの弾性体で吸収される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の精密プレス装置によれば、簡素な構造にて安価で、高精度の平行度が得られる微細構造転写装置を実現することができる。また、平行度調整を行う機構それ自体の構造が簡単であるのみならず、プレスステージの周囲の構造も簡素化される。プレスステージの周囲には、プレス状態を検知するセンサを配置する、或いはヒータや冷却路等の熱管理を行う手段を配置することができ、温度管理が容易になって昇降温の妨げにならず、低圧から高圧、また被転写物サイズの大小に関わらず、平行度の追従を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明による精密プレス装置の実施形態を、図1及び図2を参照して説明する。本精密プレス装置の実施形態は、極微細なパターンのプレス成形を行う微細構造転写装置(ナノインプリント装置)として適用されている。図1に示す精密プレス装置は、基本的に、複数本(3本、好ましくは図示のように4本)の互いに平行に配置されたガイドポスト4a,4b,4c,4d(以下、総称として符号4を用いる。他の構成要素についても同様。)の一端部に固定されている受圧部1と、受圧部1に対向して配置されており且つガイドポスト4上を摺動して受圧部1に対して接離可能に配置されている加圧部2と、フリー軸受9を介して加圧部2を受圧部1に向かって駆動する駆動部8とを備えている。
【0016】
受圧部1は、ガイドポスト4に対して調整ナット3によって固定されている。調整ナット3には、細目ネジ、又はそれ以外のネジを使用することができる。調整ナット3によって、組立時において、受圧部1のガイドポスト4に対する取付け高さは1/100mmレベルでの調整可能であり、組立て後においても受圧部1の平坦度をナノレベルで調整することができる。ガイドポスト4を3本以上、好ましくは図示のように4本とすることによって、受圧部1の均一なガイドを可能にしている。互いの平行性を確保できるのであれば、ガイドポストは2本で済ますことも可能である。
【0017】
加圧部2は、ガイドポスト4に対して保持器5及び弾性体6を介して摺動可能に配置されている。加圧部2には各ガイドポスト4を挿通させる摺動孔が形成されており、弾性体6が当該摺動孔に嵌入する態様で固定されている。保持器5としては、例えば、直動ガイド軸受等を使用することができ、成形型と転写対象物が接触するまで、高アライメント性を備えることができる。弾性体6は、例えばウレタン樹脂からなる筒状形状を有しており、一端側にフランジ部が設けられており、加圧部2の上面に当接して位置決めされている。弾性体6には、その筒状内部に嵌入する態様で保持器5が取り付けられている。保持器5も一端側にフランジ部が設けられた筒状形状に形成されており、当該フランジ部が弾性体6のフランジ部に当接して位置決めされている。保持器5の筒状内部にガイドポスト4が挿通されているので、保持器5はガイドポスト4上を摺動可能であり、その結果、加圧部2は保持器5及び弾性体6を介して、ガイドポスト4上を摺動可能である。
【0018】
受圧部1と加圧部2との対向面側には、それぞれプレスステージ7a,7bが設けられている。プレスステージ7a,7bには、一方において表面に微細加工が形成されている原板が配置され、他方には基板が配置されており、基板には、プレス時に原板に押し当てられることで原板の微細加工が転写される。
【0019】
弾性体6は、プレス時の平坦度をナノレベルで合せるために、ガイドポスト4に設置されている。弾性体6としては、加圧部2のラム全体を弾性体6に保持させることで、プレスステージ7b又は加圧部2全体を弾性体6にて保持し、加圧部2の傾き及び撓みを吸収し、受圧部1に倣うようにしたものである。
【0020】
本精密プレス装置の作動として、加圧部2は、保持器5及び弾性体6にてガイドポスト4にガイドされており、加圧するまでの揺動時においては、弾性体6は歪まないため、高精度のアライメント性がある。加圧部2を駆動させる駆動部8はフリー軸受9を介して加圧部2を押圧する。フリー軸受9の先端部は球面となっており、プレス作動時に受圧部1と加圧部2とが倣う、即ち、後述するプレスステージ7a,7bが弾性体6の弾性変形によって倣った場合においても、加圧部2に対して単一点で荷重を作用させることが可能である。加圧時においては弾性体6が弾性変形をすることによって、受圧部1と加圧部2の相対的な傾きや撓みが吸収される。したがって、受圧部1と加圧部2の倣いが維持され、プレスステージ7に均一な荷重が作用し、高平坦度の精度にてプレス成形を行うことができる。
【0021】
加圧部2と駆動部8はボルト固定されておらず、ストリッパボルト、ダンパ、又はバネのような、ある程度の揺動が可能な状態で取り付けられており、フリー軸受9に乗せられている。なお、駆動部8と加圧部2との当接を行う介在手段としてフリー軸受9としたが、これに代えて球体と球面との組み合わせた球面軸受を備えたフリージョイントとすることも可能である。
【0022】
本精密プレス装置においては、駆動部8の駆動源として、サーボモータ、エアシリンダ、油圧シリンダ等を使用することができる。
【0023】
本精密プレス装置においては、弾性体6として、一種類若しくは弾性率の異なる弾性体を複数種類同時に使用することができる。図3は、弾性体6として弾性率の異なる2種類の弾性体6a、6a’を同時に使用した精密プレス装置の要部を示す断面図である。この例では、弾性体6a、6a’を入れ子式に内外の二重筒体として構成されている。こうした複数種類の弾性体を用いることにより、プレス成形の素材種類による必要圧の変化に対応し、成形型の傾きにも追従することができる。また、弾性体6には、ウレタン以外の樹脂(シリコン、ポリイミド、ふっ素、ポリエチレン等)、バネ、又はダンパを使用することもできる。
【0024】
本精密プレス装置において、弾性体6の形状は、一端にフランジが形成されたフランジ付き筒状体として説明したが、これに限らず、筒状、円状、四角状等の筒体とすることができ、受圧部1と加圧部2での倣いが得られる弾性体の形状にすることもできる。
【0025】
本精密プレス装置においては、駆動部8が加圧部2を押すときにフリー軸受9が加圧部2に当接する当接部は単一点であるとしたが、複数点が均等に配列された構成とすることもできる。複数点を配列する場合にも、各点は均等に配置されているので、加圧部2、及びプレスステージ7bには荷重が均一に掛けられるようになっている。
【0026】
図4は、この発明による精密プレス装置の別の実施形態を示す縦断面図である。図4に示す実施形態においては、図1に示す実施形態に比して、ガイドポスト4に対してプレスステージ7a,7bの成形型の傾きに追従するための弾性体6A,6Bが、加圧部2に設けるのに代えて受圧部1に設けられている。弾性体6A,6Bはフランジ型の筒状体に構成されており、調整ナット3a,3a’によって挟まれることで受圧部1に固定されている。この実施形態では、受圧部1と加圧部2との相対的な傾き及び撓みは、受圧部1側にのみ設けられている弾性体6A,6Bが吸収する。加圧部2は、保持器5を介してガイドポスト4に対して摺動可能とされている。その他の構成は、図1及び図2に示す実施形態と同様であるので、再度の説明を省略する。
【0027】
図5は、この発明による精密プレス装置の更に別の実施形態を示す縦断面図である。図5に示す実施形態においては、図1に示す実施形態に比して、ガイドポスト4に対してプレスステージ7a,7bの成形型の傾きに追従するための弾性体6が、加圧部2に設けるのに加えて受圧部1においても設けられている。受圧部1側では、弾性体6A,6Bがフランジ型の筒状体に構成されており、調整ナット3a,3a’によって挟まれることで受圧部1に固定されている。この実施形態では、加圧部2側においても弾性体6a,6bが設けられている。したがって受圧部1と加圧部2との相対的な傾き及び撓みは、受圧部1と加圧部2とにそれぞれ設けられている弾性体6A,6B、弾性体6a,6bが吸収する。加圧部2は保持器5を介してガイドポスト4に対して摺動可能とされている。その他の構成は、図1及び図2に示す実施形態と同様であるので、再度の説明を省略する。
【0028】
図6は、この発明による精密プレス装置の更に別の実施形態を示す縦断面図である。図6に示す実施形態では、図3に示す実施形態において、駆動部8及びフリー軸受9が図3に示す例における加圧部2とされている側から受圧部1とされている側に移設されている。したがって、図6に示す実施形態では、符号1が可動部としての加圧部を示しており、符号2が固定部としての受圧部を示す。なお、駆動部8で移動される可動部は、上下左右のどちらの方向にも設置することができ、いずれの場合もプレス成形が可能である。
【0029】
本精密プレス装置において、プレスステージ7a,7bには、熱電対、ヒータ、冷却路、スタンパなどを取り付ることができる。即ち、本精密プレス装置においては、受圧部1と加圧部2との相対的な傾き及び撓みは、プレスステージ7a,7bとその周囲で吸収するのではなく、ガイドポスト4と加圧部2及び/又は受圧部1との間で吸収されるので、プレスステージ7a,7bとその周囲のスペースに余裕が生じ、熱電対、ヒータ、冷却路、スタンパなどを配設する自由度が増し、本種類の精密プレス装置の設計においても大幅な余裕を与えることができる。
【0030】
本発明である精密プレス装置が適用されたナノプリント装置の正面図を図7に示す。図7において、1はガイドポスト4に固定されている受圧部、2はガイドポスト4に保持器を介して摺動案内される加圧部、3は調整ナットで、ガイドポスト4に対して高さ調整可能に固定する。5は保持器、16は操作パネルで、チャンバ内の加圧部や受圧部の圧力の昇圧・降圧、温度の昇温・降温、また、チャンバの真空制御、さらにメニュー、レシピを設け、圧力や温度の自動制御の設定等を行う。17は受圧部及び加圧部のヒータ温調器で、18は加圧部の圧力を表示する圧力表示器、19はチャンバ内の真空度を表示する表示器である。20は真空チャンバを示し、内部を真空にして原板から基板への転写を行う室である。21は、フレーム又はカバーを示し、装置内に塵埃等が侵入しないようにしている。22はキャスタで、装置全体を移動するときに使用する。23はアジャスタで、本装置を設置する場合水平度を出すため高さ調整をするものである。24はアンカー座で、アジャスタの高さ調整により水平度がでたら、ベースに固定するものである。25は操作釦で、電源ON,OFFの機能を有する。
【0031】
図8及び図9に本発明装置のプレスステージ7a,7bの構造を示し、図8はプレスステージの断面図を、図9は斜視図を表す。
図8において、10はトッププレート、11は冷却加熱プレートで、この冷却加熱プレート11の内部にヒータ15及び冷却用通路を設置する。12は冷却加熱プレート11に接続した断熱材で、ヒータ15により加熱された熱が放熱しないようにしている。また、この断熱材12に冷却用の孔を設け、冷却加熱プレート11を経由して再度、断熱材12に設けた別の孔から冷却用冷媒が戻るようにしている。図8では、13が冷却媒体入口で、14が冷却媒体出口を示す。冷却媒体として、エア、ガス、水、油などがある。
【0032】
ヒータ15は、冷却加熱プレート11に概略等間隔で配置されており、冷却用の通路(管)もヒータ間にほぼ等間隔に配置されている。このように等間隔に配置することによって、トッププレート上の熱の分布を均一にする効果、すなわち温度ムラをなくす効果がある。また、図9に示すように、ヒータ15は直線状のヒータを用い、片側から電源ラインに接続し、電源をオン、オフすることにより温度上昇や下降を制御する。
【0033】
また、トッププレート10及び冷却加熱プレート11は、これまで材質ステンレスがあったが、Cu合金を採用することにより熱伝導率が高いため、プレスステージの昇降温の制御が短時間にでき、転写時間の短縮化を図ることができ、効率向上の効果がある。
【0034】
図10は、本発明装置のプレスステージの冷却加熱プレート11の平面図を示す。図10において、15はヒータで、空白部分である13,14が冷却用の通路を示し、13は冷却媒体入口で、14が冷却媒体出口を示す。冷却媒体を左上の冷却媒体入口から入れ、右上の冷却媒体出口から出た媒体を2段目の冷却通路の右側から入れ、2段目の冷却通路の左側から出た冷媒を3段目の冷却通路に入れ、この構成は冷却媒体を冷却通路の順次に送る構成である。このような構成により、トッププレートの温度を均一に、且つ短時間で冷却できる効果を有する。
【0035】
また、図11は、冷却媒体の流れを変えた別の実施例である。図11の構成は、左側から第1段目の冷却通路(図の空白部分)、第3段目の冷却通路(図の空白部分)及び第5段目の冷却通路(図の空白部分)に冷媒を流し、右側から第2段目の冷却通路(図の空白部分)、第4段目の冷却通路(図の空白部分)及び第6段目の冷却通路(図の空白部分)に冷却媒体を流入する構成である。このように左右から冷却冷媒を流すことにより、プレスステージの冷却効果を高めることができる。また、トッププレートの温度ムラを小さくする効果も有する。
【0036】
本発明の装置は、これまでに、ナノスケール(ナノメートルは、10億分の1メートル)の凹凸パターンを成形する技術である熱ナノインプリントおよび光ナノインプリントの技術として研究・開発されてきている。この度の開発に係る熱ナノインプリント装置は、加熱/冷却機構を改良することで、転写ステージ面内の温度バラつきを抑えつつ、120°の昇降温時間を4分に大幅低減するとともに、装置構造と部品の見直しを図ることで、同水準のナノインプリント装置としては、小型化かつ低価格化を実現した。本装置を使用することにより、Φ150mm迄のワークサイズに対してナノスケールの構造体を10分以内で成形することが可能となる。今回のナノインプリント装置の仕様は次のとおりである。
【表1】

【0037】
次世代の微細加工技術の一つとして注目を浴びているナノインプリント技術は、日米欧を中心に実用化に向けた様々な研究・開発が行なわれている。ナノインプリントとは、ナノスケールの凹凸パターンを成形したモールド(金型、スタンパ、テンプレートとも呼ぶ)を、ポリマー等の被転写材に押し当てて、凹凸パターンを成形する加工技術である。本技術を用いて、半導体や光デバイス、次世代ストレージデバイス、バイオデバイス等の開発が進められており、その実用化にあたっては生産性向上が一つの課題になっている。特に、熱ナノインプリントでは、ガラス転移温度以上まで加熱することで軟化させた被転写材にモールドをプレスする技術であるため、その昇降温時間が高スループット化のボトルネックになっている。
【0038】
このような背景から、高スループット化を目標に、新たな熱ナノインプリント装置の開発を行った。熱解析に基づくヒータ構造及び部材の大幅見直しにより、加熱時の温度バラつきを抑えるとともに、加熱時間の短縮を実現した。さらに、射出成形光ディスク用金型で培われてきた冷却制御技術を活用することで、冷却時間を大幅に短縮した。その他、従来機の真空チャンバ構造を再設計することで、チャンバ内容積を縮小させ、装置の小型化と脱気時間の大幅な短縮が可能になった。
【0039】
また、本出願人が持つプラスチック成形金型の精密加工技術を駆使し、転写ステージ表面は平面度数μm、面精度数nmの高精度ステージとなっている。さらに、モールドのセット作業や転写ステージ交換等の作業を考慮し、ワーク取り出し部を従来機よりも大きくすることで、メンテナンス性を向上している。
【0040】
本発明装置の特徴は、加熱・冷却機構を改良し、業界トップクラスの昇降温時間4(60°→180°→60°)を実現していることにある。さらに、装置構造と部品を見直し、同水準(Φ6inch)の装置としては、小型化かつ低価格化となっている。転写サイズ(幅、長さ、シート厚み)については、本装置はmax6inchΦ対応である。シート厚みについては、不問である。また、両面転写が可能である。転写材質は、PS(ポリスチレン),PC(ポリカーボネート),PMMA(ピーエムエムエイ)などの熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂への転写が可能である。
【0041】
加熱最大温度は、300℃である。冷却方法は、高精度の温度調整を行うため、水冷(急冷)とN2(窒素)ガス冷却(除冷)の2つの方法を採用している。真空度は、1.33kPa(10Torr)以下とする。本装置の最大荷重は、98kN(10t)になる。転写スピードは、転写するパターン形状にもよるが、基本プロセスにて10分以下で転写が可能である。プロセス条件等の最適化により、さらなる短縮も可能である。
【0042】
加圧方法としては、微細なナノ構造を高精度に転写するため、2段階圧力制御方法が採用されている。2段加圧とは、ステージ上昇に伴うサーボモータのトルク制御で第一加圧を行い、その後本加圧を行う加圧方法である。
【0043】
大面積への転写は、本装置は、最大Φ6inch対応であるが、これまでの本出願人による装置開発では、最大Φ12inchへの転写実績がある。高アスペクト比の転写は、通常、アスペクト比2以下の転写をする。最小転写サイズは、最小転写サイズとしては、Φ70nm、H110nmのドットパターンを転写した実績がある。貫通穴の転写は、一般的に、ナノインプリント技術を用いての貫通穴の加工は不可能であると考えられる。被転写材料の温度分布、モールド形状凹パターンへの気泡溜まりの影響により、転写精度が落ちることが考えられるので、本装置では真空雰囲気にしている。また、オプション対応により、自動剥離機構を設けることで、自動剥離対応が可能である。
【0044】
被転写材については、熱可塑性材料や熱硬化性樹脂に対応可能であるが、結晶性の樹脂については転写が難しくなるものの、可能である。基板上に塗布した樹脂への転写については、Si(シリコン)基板やガラス基板へ熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を塗布し、転写することは可能である。モールドの材料としては、モールド材料としては、Si(シリコン)、Ni(ニッケル)、石英等になる。モールドの製作については、半導体製造技術であるフォトリソグラフィーや電子線直接描画法を用いて製作可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本精密プレス装置は、加圧力や被転写物のサイズによらず、平行で均一な加圧を行うことができ、光学デバイス、ディスプレイデバイス、バイオデバイスやストレージメディア等の分野において、微細、或いは超微細なパターンを基板に転写することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による精密プレス装置の一実施形態を示す概略断面図。
【図2】図1に示す精密プレス装置の概略斜視図。
【図3】図1に示す精密プレス装置の弾性体設置と別の弾性体設置を示す部分図。
【図4】本発明による精密プレス装置の別の実施形態を示す概略断面図。
【図5】本発明による精密プレス装置の更に別の実施形態を示す概略断面図。
【図6】本発明による精密プレス装置の更に別の実施形態を示す概略断面図。
【図7】本発明によるナノプリント装置の本体概略図。
【図8】本発明による精密プレス装置のプレステージの概略図。
【図9】本発明による精密プレス装置のプレステージの鳥瞰図。
【図10】本発明のプレスステージの平面図。
【図11】本発明の別のプレスステージの平面図。
【符号の説明】
【0047】
1 受圧部 2 加圧部
3 調整ナット 4 ガイドポスト
5 保持器 6 弾性体
7 プレスステージ 8 駆動部
9 フリー軸受 10 トッププレート
11 加熱冷却プレート 12 断熱材
13 冷却媒体入口 14 冷却媒体出口
15 ヒータ 16 操作パネル
17 ヒータ温調器 18 圧力表示機器
19 真空度表示器 20 真空チャンバ
21 フレーム 22 キャスタ
23 アジャスタ 24 アンカー座
25 操作釦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドポストに保持器を介して摺動案内される加圧部、前記ガイドポストに固定されている受圧部、前記加圧部と前記受圧部との各対向面に装着されるプレスステージ、及び前記加圧部を軸受部材を介して駆動させる駆動部を備え、
前記加圧部と前記保持器との間及び/又は前記受圧部と前記ガイドポストとの間には弾性体が介装されており、前記弾性体が変形することで前記両プレスステージの面同士が互いに倣い前記両プレスステージに掛かる荷重を均一にすること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項2】
請求項1記載の精密プレス装置において、
前記ガイドポストは、2本又はそれ以上の複数本が互いに平行に且つ前記プレスステージの周囲において均等配列されていること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の精密プレス装置において、
前記軸受部材は、前記加圧部に対して単一点又は均等配列された複数点で当接し、それにより前記加圧部に掛かる荷重を均一にするフリー軸受であること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項4】
請求項3記載の精密プレス装置において、
前記フリー軸受の先端部は、前記加圧部と前記単一点で当接する球面に形成されており、前記駆動部の駆動による前記加圧部への加圧時において、前記弾性体が撓むことに起因して前記受圧部が前記加圧部に対してずれた場合においても、前記加圧部に対して前記単一点で荷重を掛ける状態を維持すること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
前記弾性体は、前記加圧部と当該加圧部を前記ガイドポストに摺動案内する前記保持器との間、及び/又は前記受圧部と当該受圧部を前記ガイドポストに対して高さ調整可能に固定する調整ナットとの間に装着されており、加圧時に前記加圧部と前記受圧部との相対的な傾きを吸収し、高平坦度の精度にてプレス成形を可能にすること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
前記弾性体は、一種類又は弾性率の異なる複数種類の弾性体から構成されていること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
前記弾性体は、一端部にフランジを有する、円、楕円、四角、多角、等の断面多種形状の筒状体に形成されていること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
前記加圧部を前記ガイドポストに摺動案内する前記保持器は直動ガイド軸受であることを特徴とする精密プレス装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
前記加圧部又は前記受圧部に前記弾性体を設置することにより、平行度を得るため、可動方向については、上下左右自由に設置可能とすること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
一方の前記プレスステージには表面に極微細パターンが施された転写元となる原板が装着され、他方の前記プレスステージには前記原板の前記極微細パターンの転写先となる基板が装着されており、前記原板の前記極微細パターンの前記基板へのプレス成形を行う微細構造転写装置に適用されていること
を特徴とする精密プレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−89136(P2010−89136A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262699(P2008−262699)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】