説明

糖尿病の微小血管合併症における治療上の標的としてのGM3合成酵素

本発明は、糖尿病の微小血管合併症の処置のためのGM3合成酵素遺伝子の発現または活性の阻害薬の使用に関し、これらの合併症の処置および/または予防に有用な化合物をスクリーニングする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病の微小血管合併症を処置するためのGM3合成酵素阻害剤の使用、およびこの酵素の阻害剤をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小血管障害は、微小血管の構造上および機能上の変化を特徴とする、糖尿病の慢性合併症である。網膜および腎臓は、病理学的状態の2つの主な標的であり、糖尿病性網膜症および糖尿病性腎症をもたらす。
【0003】
糖尿病性網膜症は、先進国において失明を引き起こす2番目の原因である。殆ど全ての1型糖尿病患者、および60%を超える2型糖尿病患者が、罹患後約20年で、この微小血管合併症を発症する(Fongら、2003年)。毛細血管は、基底膜の肥厚、および周皮細胞の特異的な損失などの進行性の構造上の変化を受け、それに続いて内皮細胞における増殖および機能が変更を受ける。これらの変化は、虚血と結びつき、微小血管壁を損傷し、過剰の毛細血管透過性を促進し、浮腫、微細動脈瘤、および視力を脅かす出血をもたらす(Foresterら、1997年)。
【0004】
腎症には、糖尿病の病歴が20から30年の患者の50から60%が罹患する。腎症は、これらの患者の死亡率の主要な原因であると考えられている(Krolewskiら、1997年)。病理学的状態の主な特徴の1つには、糸球体の腫大があるが、これは増殖が停止したメサンギウム細胞の増生により、また細胞外マトリックスのタンパク質の蓄積により基底膜が肥厚しメサンギウムが拡大した結果である。これらの事象は、血行動態の欠失と結びついて、糸球体硬化、糸球体ろ過、または糸球体ろ過のレベルの変化、およびミクロアルブミン尿症を引き起こし、重症の腎不全をもたらす(Wolfら、2000年)。
【0005】
糖尿病の対象が腎症を発症する危険性は、一般的に、ミクロアルブミン尿症を調べることにより評価される。糖尿病性腎症の出現および/または進行を遅らせるために現在用いられている予防上のまたは治療上の手段には、糖血症のモニタリング、血圧降下薬、特にアンジオテンシン転換酵素阻害剤の投与、低タンパク質食の採用、またはスタチンなどの脂質低下薬の投与が含まれる(Rippinら、2004年)。
【0006】
公衆衛生および経済に関するこれらの影響を考慮すると、糖尿病の微小血管合併症を予防し、治療する新規な方法を同定することが、主な治療上の難題を構成している。
【0007】
糖尿病性網膜症および糖尿病性腎症の病因の細胞上および分子上の基盤は完全に理解されていないが、細胞の増殖の調節、ならびに細胞−細胞間および細胞−マトリックス間の相互作用が重要な役割を果たしているようである。糖尿病の微小血管合併症の発症、特に糖化最終産物(AGE)の形成に関わる機序を説明するために数々の生化学上の仮説が提唱されている(Singhら、2001年)。
【0008】
グルコースなどの糖が減少すると、Sciff塩基およびAmadori生成物を形成する一連の反応によりタンパク質のアミノ基、脂質、および核酸と非酵素的に反応し、最終的にAGEを生成する。糖化は、グルコース濃度に依存し、糖尿病で増加する。これは、細胞外マトリックスのタンパク質または循環タンパク質などの、血中グルコースに曝露されている長寿命のタンパク質に優先的に起こり、それによってこれらの構造およびこれらの機能を変更する。
【0009】
さらに、AGEは、膜の受容体に結合して、酸化ストレスの生成による細胞の反応(Lalら、2002年;Schmidtら、1994年)、核因子κBの活性化(Singhら、2001年;Schmidtら、1994年)、および炎症誘発性サイトカインまたは接着分子などの様々な遺伝子の発現(Hofmannら、1999年;Schmidtら、1995年)を引き起こすことができる。
【0010】
これらの変更は全て、糖尿病の微小血管合併症に見られる多くの変化、特に、血管透過性の上昇、細胞外マトリックスの生成および硬性の増大、および細胞−マトリックス間相互作用および細胞の増殖の変化を説明することができる重要な生物学的効果を有する(Stittら、2003年)。実際、多くのin vivoおよびin vitroの研究では、AGEが、糖尿病に付随する網膜症および腎症の発症に関与していることが示唆されている(Stittら、2003年;Wautierら、2001年)。
【0011】
ガングリオシドは、原形質膜のマイクロドメインに集中しており、その構造にシアル酸が存在することを特徴とするスフィンゴ糖脂質である。ラクトシルセラミドを継続的にシアル化するとモノシアロガングリオシド(GM3)、ジシアロガングリオシド(GD3)、およびトリシアロガングリオシド(GT3)を生成する。これらのガングリオシドは、次いで、グリコシルトランスフェラーゼおよびシアルトランスフェラーゼが連続して作用することにより、より複雑なガングリオシドに転換され、それぞれa、bおよびcシリーズを形成する(Van Echtenら、1993年)。ガングリオシドは、インテグリンもしくはマトリックスタンパク質(コラーゲンおよびフィブロネクチン)などの接着レセプターと、または他のスフィンゴ糖脂質と相互作用することにより、細胞−細胞間および細胞−マトリックス間認識で主要な役割を果たすことが知られている。また、ガングリオシド、特にaシリーズのものは、様々な増殖因子の活性を調整することにより、細胞増殖の調整に関与している(Hakomoriら、1990年)。
【0012】
AGEは、網膜微小血管の周皮細胞および内皮細胞におけるスフィンゴ糖脂質の代謝の変更を引き起こすことが報告されている(Natalizioら、2001年)。これらの変化には、特に、GM3合成酵素の活性の上昇が伴う(A.Daleme−Natalizio、Institut National des Sciences Appliquees de Lyonにおける博士論文、2002年2月8日)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、現在、DRおよびDNの病理学的状態をもたらすAGEが媒介する効果にガングリオシドが関与することを示している。したがって、本発明者らは、それぞれ糖尿病性網膜症および糖尿病性腎症に関与する2つの細胞型である網膜周皮細胞および腎臓メサンギウム細胞の増殖をAGEにより阻害することは、GM3合成酵素の活性の上昇およびシリーズaのガングリオシドの蓄積に少なくとも部分的に基づくことを実証している。GM3合成酵素の活性の上昇は、さらに、AGEが与えられている糖尿病マウスモデルに観察されている。これらの結果により、糖尿病の微小血管合併症を処置するための標的として、GM3合成酵素およびシリーズaのガングリオシドが同定されている。
【0014】
定義
「糖尿病の微小血管合併症」は、微小血管の構造上のおよび機能上の変化を特徴とする、I型またはII型糖尿病の慢性合併症を意味する。これらの合併症は、主に、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、および糖尿病性神経障害を含む。末梢神経障害は身体の四肢の神経を冒し、脚の感覚の喪失は最も蔓延している形態の1つである。不快感および疼痛(錯感覚および知覚過敏)も非常に一般的な衰弱性の症状である。この神経障害は、切断を必要とすることがある、脚の潰瘍および重症の組織損傷を引き起こすことがある。
【0015】
本特許出願の枠組み内で、「GM3合成酵素」は、シアル酸ドナーからシアル酸アクセプターのガラクトース残基の3−ヒドロキシル基にシアル酸残基を転移することを触媒する、酵素ラクトシルセラミドα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(EC2.4.99.9)を意味する。好ましくは、シアル酸ドナーはCMP−N−アセチルノイラミン酸であり、シアル酸アクセプターはラクトシルセラミド(LacCer)などの糖脂質のガラクトース残基である。触媒される反応は、CMP−N−アセチルノイラミン酸+β−D−ガラクトシル−1,4−β−D−グルコシルセラミド=Cmp+α−N−アセチルノイラミニル−2,3−β−D−ガラクトシル−1,4−β−D−グルコシルセラミドであってもよい。好ましくは、本発明のGM3合成酵素は、ヒトのGM3合成酵素であり、またはげっ歯動物(例えば、ラットもしくはマウス)、ネコ科動物、イヌ科動物、霊長類(サル)などの非ヒトの哺乳動物のGM3合成酵素である。例えば、ヒトおよびネズミ科動物のGM3合成酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、GenbankデータベースにNM_003896(配列ID番号1)およびNM_011375(配列ID番号3)のアクセション番号で寄託されている。対応するアミノ酸配列は、それぞれ配列ID番号2および配列ID番号4に記載されている。
【0016】
本特許出願の枠組み内で、「GM3合成酵素阻害剤」は、(i)in vitroおよび/またはin vivoでGM3合成酵素の活性および/または発現を阻害し、かつ/または(ii)シアル酸ドナーからのシアル酸アクセプターのガラクトース残基の3−ヒドロキシル基へのシアル酸残基の転移を、特にガングリオシドのGM3の形成を阻止し、かつ/または(iii)ガングリオシドのGM3の細胞内合成を阻止する化合物を意味する。阻害または阻止は、部分的でも全体的でもよい。
【0017】
「ガングリオシド」は、1つまたは複数のシアル酸残基を含むスフィンゴ糖脂質を意味するものと理解される。より詳しくは「シリーズaのガングリオシド」は、ラクトシルセラミドのガラクトース上にシアル酸残基を1つだけ有するガングリオシドを意味する。シリーズaのガングリオシドには、化合物GM3(α−N−アセチルノイラミニル−2,3−β−D−ガラクトシル−1,4−β−D−グルコシルセラミド)、GM2、GM1、GD1a、およびGT1aが含まれる(図2を参照されたい)。
【0018】
治療上の適用
本発明者らは、糖尿病の微小血管合併症の発症に関与する糖化最終産物(AGE)は、GM3合成酵素の酵素活性を上昇させることによりその効果を媒介することを実証している。
【0019】
したがって、本発明は、GM3合成酵素遺伝子の発現または活性の阻害剤を患者に投与する、糖尿病の微小血管合併症を処置する方法を提唱するものである。
【0020】
本発明は、糖尿病の微小血管合併症を処置することを目的とする薬物を製造するための、GM3合成酵素遺伝子の発現または活性の阻害剤の使用にさらに関する。
【0021】
好ましくは、糖尿病の微小血管合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、および糖尿病性神経障害を含む群から選択される。糖尿病の微小血管合併症が糖尿病性腎症であることが特に好ましい。
【0022】
本発明の枠組み内で、「処置」は、疾患の予防的処置または治癒的処置、すなわち、疾患の、またはこの疾患に付随する1つもしくは複数の症状の進行を逆行させ、遅くし、または阻害する行為、または発症を予防する行為を意味する。
【0023】
「患者」は、糖尿病の微小血管合併症に罹患し、または罹患しやすいヒト、またはマウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、もしくはサルなどの非ヒトの哺乳動物を意味する。好ましくは、本発明に関する患者は、糖尿病が検出されている対象である。
【0024】
好ましくは、阻害剤は、GM3合成酵素遺伝子の発現または活性の特異的阻害剤、すなわちGM3合成酵素以外の遺伝子またはタンパク質に対する効果が実質的にない阻害剤である。
【0025】
第一の実施形態では、本発明の方法または使用は、GM3合成酵素遺伝子および/またはタンパク質の発現の阻害剤に採用する。このような阻害剤は、遺伝子の転写および/または転写物メッセンジャー(mRNA)の翻訳を阻害し、または抑制することができる。当業者であれば、この目的に最も適する戦略を選択することができる。
【0026】
アンチセンス戦略を用いて、GM3合成酵素の発現を阻害することができる。この取組みは、例えば、mRNAをアンチセンス核酸でマスキングすることにより、またはリボザイムでmRNAを切断することにより、特定のmRNAの転写を阻止するアンチセンス核酸またはリボザイムを利用することができる。本発明の文脈では、「アンチセンス」は、RNA−RNA間相互作用、RNA−DNA間相互作用、リボザイム、干渉RNA、アプタマー、およびRNAseHにより媒介される阻害を広く含む。アンチセンス治療法は、一般的に、ウィルスのベクターなど、アンチセンス配列を有するベクターを使用し、その後、ベクターはゲノムに統合されるので阻害は概ね安定している。発現の一時的な阻害をもたらすアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用も可能である。アンチセンス技術の一般的なプレゼンテーションは、「アンチセンスDNAおよびRNA(Antisense DNA and RNA)」(Cold Spring Harbor Laboratory、D.Melton編集、1988年)に見られる。
【0027】
好ましくは、GM3合成酵素遺伝子および/またはタンパク質の発現の阻害剤は、したがって、アンチセンス核酸、リボザイム、干渉RNA、およびアプタマーを含む群から選択される。
【0028】
「アンチセンス核酸」または「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は、相補的なDNAまたはRNA分子と細胞質の条件下でハイブリダイズする場合、後者の機能を阻害する一本鎖核酸分子である。アンチセンス核酸は、組み替え遺伝子にコードして細胞で発現することができ(例えば、米国特許第5814500号、および第5811234号)、または合成により調製することができる(例えば、米国特許第5780607号)。GM3合成酵素のアンチセンス核酸は、GM3合成酵素をコードする相同の配列と特異的にハイブリダイズするように、例えば、配列ID番号1に示すヒトGM3合成酵素の配列、または配列ID番号3に示すネズミ科動物GM3合成酵素の配列と特異的にハイブリダイズするようにデザインすることができる。
【0029】
「核酸の配列と特異的にハイブリダイズすることができる配列」は、参照の核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を意味する(Sambrookら、1989年)。ストリンジェントな条件を規定するパラメーターは、一致する鎖の50%が分離する温度(Tm)に、およびイオン強度に依存する。30を超えた塩基を含む配列では、Tmは以下の等式により規定される:Tm=81.5+0.41(%G+C)+16.6log(陽イオン濃度)−0.63(ホルムアミドの%)−(600/塩基数)(Sambrookら、1989年)。30未満の塩基の配列では、Tmは以下の等式により規定される:Tm=4(G+C)+2(A+T)。非特異的な配列がハイブリダイズしない、適度にストリンジェントな条件下では、ハイブリダイゼーション温度は、好ましくはTmを5から10℃下回ることができ、用いるハイブリダイゼーション緩衝剤は、6×SSC溶液など、イオン強度の高い溶液であることが好ましい。例えば、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、Tmに、また50%ホルムアミドおよび5×または6×SCCを含む溶液(0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム)で得られるようなイオン条件に対応する。
【0030】
本発明のアンチセンス核酸を、例えば、ヒトまたは動物に注射した後に、保護作用を引き起こすために、または糖尿病の微小血管合併症を処置するために用いることができる。特に、国際特許出願第WO90/11092号パンフレットに記載されている技術により、これらを裸のDNAの形態で注射することができる。これらは、例えば、デキストラン−DEAE(Paganoら、1967年)、核タンパク質(Kanedaら、1989年)、もしくは脂質(Felgnerら、1987年)との複合体の形態で、リポソームの形態で(Fraleyら、1980年)、または他の同様の方法により投与することもできる。
【0031】
核酸配列がベクターの部分を形成することが好ましい。ベクターの使用により、核酸の処理すべき細胞への投与を改善するのが可能になり、また、これらの細胞における安定性を改善し、治療効果を延長することができる。
【0032】
「ベクター」は、それを通して宿主細胞を形質転換し、導入されている配列の発現を得る(すなわち、転写および翻訳)ためにDNAまたはRNAの配列を宿主細胞中に導入することができる媒体を意味する。ベクターには、プラスミド、ファージ、ウィルスなどが含まれる。
【0033】
「リボザイム」は、DNA制限エンドヌクレアーゼにかなり類似した方法で他の一本鎖RNA分子を特異的に切断することができるRNA分子である。リボザイムは、ある種のmRNAがそれ自体のイントロンを切断できることを実証することにより発見された。これらのリボザイムのヌクレオチド配列を変更することにより、RNA分子における特異的なヌクレオチド配列を認識し、それらを切断する分子を生成することが可能である(Cech、1989年)。この特異性のために、特定の配列を有するmRNAだけが不活化される。
【0034】
GM3合成酵素の転写を可逆的に阻害することは、干渉RNAを用いて実現することもできる。RNA干渉(RNAi)の技術は、「低分子干渉RNA」(siRNA)などの低分子RNA分子を用いることにより、遺伝子の発現を妨げる。この技術は、RNA干渉が植物から昆虫および哺乳動物まで多くの生存する生物体の大多数の細胞における遺伝子の消滅の自然な生物学的機序である、という事実から利益を得ている(Sharp、2001年)。RNA干渉は、中間体mRNAの破壊をもたらすことにより、遺伝子からの機能上のタンパク質の生成を防ぐ(Bass、2000年;Sharp、2001年)。siRNAは、裸の形態で、またはベクター中に組み込んで用いることができる。GM3合成酵素の転写を阻止する干渉RNAが、配列GGGUUAUUCUGAACAUGUUtt(配列ID番号5)を有することができることが好ましい。
【0035】
アプタマーも、GM3合成酵素の転写を阻害するのに用いることができる。アプタマーは、実質的にあらゆるクラスの標的分子を、高い親和性および特異性で認識することができるオリゴヌクレオチド配列である。このようなリガンドは、TuerkおよびGold(1990)に記載された、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)と呼ばれるスクリーニング方法により、ランダム配列ライブラリーから分離することができる。ランダム配列ライブラリーは、コンビナトリアル化学を用いてDNA合成により得ることができる。このようなライブラリーでは、各メンバーは、独特な配列に対応している直鎖状オリゴマー(場合により化学的に修飾されている)である。このクラスの分子の、可能な変更、適用、および利点については、Jayasena(1999)により再考されている。
【0036】
別の一実施形態では、本発明の方法または使用は、GM3合成酵素タンパク質の活性の阻害剤の使用に関する。GM3合成酵素活性の阻害剤は、本特許出願に記載するように、in vitroの細胞のまたは生化学的な試験を含むスクリーニング方法により容易に同定することができる。阻害剤は、ペプチドの性質のもの、ペプチド模倣物(peptidomimetic)、または非ペプチド模倣物(Rubin−Carrez、2000年)とすることができ、例えば、ドナーからシアル酸アクセプターへのシアル酸基の転移を阻止しもしくは減少させ、および/またはGM3合成酵素を阻止しもしくは減少させることにより、GM3合成酵素の酵素活性に干渉することができる小型の有機分子などである。
【0037】
GM3合成酵素の阻害剤は、抗体、特に、配列ID番号2に示すヒトGM3合成酵素、または配列ID番号4に示すネズミ科動物のGM3合成酵素に対する阻害剤であることもできる。前記の抗体は、ポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体、またはそれらのフラグメント、あるいはキメラの抗体、特にヒト化され、または免疫複合したものであることができる。
【0038】
ポリクローナル抗体は、タンパク質に対して免疫化した動物の血清から慣例の手順によって得ることができる。例えば、用いる抗原は、タンパク質(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、KLH)または別のペプチドに反応性の残基により結合しているGM3合成酵素の複合体など、適切なペプチド複合体であることができる。Benoitら(1982年)が記載した手順にしたがって、ウサギを、1mgのペプチドの抗原の等量で免疫化する。4週間の間隔で、動物に抗原200μgの注射で処置し、10から14日後に採血する。第3回目の注射後、クロラミン−T法により調製した、ヨウ素で放射標識したペプチド抗原に結合する能力を判定するために、抗血清を試験し、次いでカルボキシメチルセルロース(CMC)イオン交換カラム上のクロマトグラフィーにより精製する。次いで、抗体分子を哺乳動物から回収し、例えばIgG分画を得るためのDEAE Sephadexを用いるなど、当業者にはよく知られている方法により、望ましい濃度に分離する。ポリクローナル血清の特異性を上げるために、抗体を、固相に免疫ポリペプチドを用いたイムノアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。固相に免疫学的複合体を形成させるために、ポリペプチドが抗体分子と免疫反応を行うことをもたらすのに十分な時間、抗体を固相の免疫ポリペプチドと接触させる。
【0039】
モノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein(1975年)が記載した、従来のリンパ球融解法およびハイブリドーマ培養法により得ることができる。モノクローナル抗体を調製する他の方法も知られている(Harlowら、1988年)。モノクローナル抗体は、哺乳動物(例えば、マウス、ラットもしくはウサギ、またはヒトなども)を免疫化することにより、またハイブリドーマを生成するためのリンパ球融解法を用いて調製することができる(KohlerおよびMilstein、1975年)。この慣例の技術には代替が存在する。例えば、ハイブリドーマからクローンした核酸を発現することにより、モノクローナル抗体を生成することが可能である。抗体は、抗体のcDNAをベクター中に導入することにより、ファージディスプレイ技術により生成することもでき、後者は、通常、ファージの表面上にV遺伝子ライブラリーを有する糸状のファージである(例えば、大腸菌(E.coli)に対するfUSE5、ScottおよびSmith、1990年)。これらの抗体ライブラリーを構築するためのプロトコールは、Marksら(1991年)に記載されている。
【0040】
本発明の抗体または抗体フラグメントは、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはFabおよびF(ab’)2フラグメントであることができる。これらは、免疫複合体または標識された抗体の形態もとることができる。
【0041】
アプタマーは、分子の認識に関して、抗体の代替を表すクラスの分子を構成する。
【0042】
GM3合成酵素の発現または活性の阻害剤は、1つまたは複数の薬学的に許容できる賦形剤と調合することができる。先に記載したように、これらの阻害剤は、化学的に合成された化合物、アンチセンスRNAもしくは干渉RNA、または抗GM3合成酵素抗体であることができる。
【0043】
「賦形剤」または「薬学的に許容できるビヒクル」は、ヒトまたは動物に2次反応、例えばアレルギー反応を生成しない、あらゆる溶剤、分散媒、吸収遅延剤などを意味するものと理解される。
【0044】
投与量は、問題の作用物質、投与様式、治療上の適応ならびに患者の年齢および状態に当然依存する。タンパク質または抗体の投与量は、好ましくは1日あたり0.1から250mg/kgであり、特に好ましくは1日あたり1から100mg/kgである。薬剤組成物が核酸を含む場合、投与する核酸(配列またはベクター)の投与量は、特に投与様式、標的にする病理学的状態、および処置の期間によっても適合される。一般的に、組換えウィルスを用いる場合、これらは、約104から1014pfu/mlの、好ましくは106から1010pfu/mlの投与量として調合され、投与される。「pfu」(プラーク形成単位)は、ウィルスの溶液の感染力に相当し、適切な細胞培養物に感染させ、一般的には48時間後に感染した細胞のプラークの数を測定することにより求めることができる。ウィルスの溶液のpfuの力価を求めるための技術は、文献に詳細に記載されている。
【0045】
非経口投与、より詳しくは注射による投与を考慮する場合、有効成分を含む本発明の組成物は、ゆっくりと潅流するためのアンプルまたはボトルに包装されている、注射可能な溶液および懸濁液の形態をとる。注射は、特に、皮下の、筋肉内の、または静脈内の経路により行うことができる。
【0046】
経口投与の場合には、本発明の組成物は、ゼラチンカプセル、発泡錠、コーティング錠もしくは素錠、小袋、糖衣錠、経口投与のためのアンプルまたは溶液、微粒剤、または持続性放出形態の形態をとることができる。
【0047】
非経口用投与のための形態は、有効成分を、緩衝剤、安定化剤、保存剤、可溶化剤、等張化剤、および懸濁化剤と混合することにより、従来の方法で得ることができる。周知の技術を用いて、これらの混合物を引き続き滅菌し、次いで静脈内注射の形態に包装する。
【0048】
当業者が用いる緩衝剤は、有機のリン酸塩をベースにするものであってもよい。
【0049】
懸濁化剤の例には、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアゴム、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムが含まれる。
【0050】
さらに、本発明による有用な安定化剤は、亜硫酸ナトリウムおよびメタ重亜硫酸ナトリウムであり、挙げてもよい保存剤は、p−ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、クレゾール、およびクロロクレゾールである。経口用の溶液または懸濁液を調製するには、有効成分を適切なビヒクルに、分散剤、湿潤剤、懸濁化剤(例えば、ポリビニルピロリドン)、保存剤(例えば、メチルパラベン、またはプロピルパラベン)、矯味剤、または着色剤とともに溶解し、または懸濁する。
【0051】
マイクロカプセルを調製するには、有効成分を適切な希釈剤、適切な安定化剤、有効物質の長時間放出を促進する物質、または中央のコアを形成するためのあらゆる他のタイプの添加剤と組み合わせ、次いでこれを適切なポリマー(例えば、水溶性樹脂、または水不溶性樹脂)で被覆する。当業者に周知の技術をこの目的で用いる。
【0052】
得られたマイクロカプセルを、次いで場合により、適切な投与単位に調合する。
【0053】
眼の経路による投与も、考慮することができる。
【0054】
その場合には、本発明の薬剤組成物は、洗眼剤または眼用クリームなど、眼に局所投与するための眼科の組成物の形態をとる。
【0055】
阻害剤をリポソームとして調合することもできる。リポソームは、水性媒体中に分散され、自発的にマルチラメラ同心性二分子膜小胞を形成するリン脂質から形成される。これらの小胞は、概ね、直径25nmから4μmであり、超音波分解することができ、コア中に水溶液を含む直径200から500Åのより小型の単層膜小胞の形成をもたらす。
【0056】
リポソームは、有効成分を正確な細胞の標的または組織の標的に投与するのに特に有利であり得る。これは、脂質を、標的とするペプチド(例えば、ホルモン)または抗体などの、標的とする分子に化学的に結合させることにより行うことができる。
【0057】
スクリーニング方法
本発明は、糖尿病の微小血管合併症の処置および/または予防に有用な化合物をスクリーニングし、または同定するin vitroの方法にさらに関し、GM3合成酵素活性を阻害する少なくとも1つの試験化合物の能力を評価し、この酵素の活性のレベルの低下により、糖尿病の微小血管合併症の処置および/または予防に有用な化合物が示唆される。
【0058】
糖尿病の微小血管合併症が、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、および糖尿病性神経障害を含む群から選択されることが好ましい。糖尿病の微小血管合併症が糖尿病性腎症であることが、よりさらに好ましい。
【0059】
試験化合物はあらゆるタイプであることができる。試験化合物は、天然のもしくは合成の化合物、またはこのような化合物の混合物であることができる。試験化合物は、また、構造的に規定された物質であることもでき、または知られていない構造の物質、例えば生物学的抽出物であることもできる。
【0060】
試験化合物の存在下でのGM3合成酵素の活性のレベルを、試験化合物の非存在下での活性の対照のレベルと比較することができる。
【0061】
第一の実施形態では、スクリーニング方法は、少なくとも1つの試験化合物を、GM3合成酵素を発現する細胞と接触させること、前記の化合物がガングリオシドのGM3の細胞内合成を阻害する、すなわち阻止しまたは減少させる能力を判定することとから成るステップを含む。試験化合物に曝露されていない細胞と比較して、細胞におけるガングリオシドのGM3の合成のレベルが低下していれば、糖尿病の微小血管合併症の処置および/または予防に有用な化合物であることが示される。
【0062】
細胞は、GM3合成酵素を内生的に発現する細胞、例えば、網膜の周皮細胞または腎臓のメサンギウム細胞であることができる。細胞は、GM3合成酵素遺伝子の生成物を発現するためのベクターの助けで、一時的なまたは安定した方法でGM3合成酵素を発現するように形質移入された細胞であることもできる。これらの細胞は、原核生物または真核生物の宿主細胞中に、GM3合成酵素をコードする配列を含むベクターに挿入されたヌクレオチド配列を導入し、次いで前記の細胞を、形質移入したヌクレオチド配列を複製しかつ/または発現させる条件下で培養することにより得ることができる。
【0063】
GM3合成酵素をコードする配列を含むDNAベクター、例えばプラスミドベクターを、当業者に周知のあらゆる技術により、宿主細胞中に導入することができる。特に、DNAベクターを裸の形態で、すなわちベクターの細胞中への形質移入を促進するあらゆる種類のビヒクルまたはシステムの助けなしに、導入することが可能である(欧州特許第465529号)。他の利用可能な技術は、マイクロインジェクション、電気穿孔法、リン酸カルシウム沈降法のもの、またはナノカプセルもしくはリポソームの助けでの製剤である。生分解性のポリアルキルシアノアクリレートのナノ粒子は、特に有利である。リポソームの場合には、陽イオン性の脂質を使用すると、陰性に荷電した核酸のカプセル化に好都合であり、陰性に荷電した細胞膜の融解を促進する。
【0064】
他の方法では、ベクターは、そのゲノムに挿入された、GM3合成酵素をコードする核酸配列を含む、組換えウィルスの形態であることができる。ウィルスのベクターは、好ましくは、アデノウィルス、レトロウィルス、特に、レンチウィルス、アデノ随伴ウィルス(AAV)、ヘルペスウィルス、サイトメガロウィルス(CMV)、痘苗などから選択することができる。これらのリコンビナント発現技術の実施は、当業者にはよく知られている。宿主細胞の例には、特に、CHO、COS−7、293、およびMDCK細胞などの哺乳動物の細胞、SF9細胞などの昆虫の細胞、大腸菌などの細菌、および酵母菌系が含まれる。
【0065】
発現のレベルは、遺伝子の転写のレベル、またはこのGM3合成酵素の遺伝子がコードするタンパク質の翻訳のレベルを、直接または、例えばレポーター遺伝子により判定することにより評価することができる。
【0066】
標的遺伝子(この場合はGM3合成酵素の遺伝子)またはレポーター遺伝子の転写の後のための最も一般的な試験(すなわち、転写のレベルの判定)は、ノーザンブロティング技術に基づくものである。GM3合成酵素のタンパク質またはレポータータンパク質の翻訳の後のための試験(すなわち、翻訳のレベルの判定)は、イムノアッセイ技術に特に基づくことができ、または、蛍光定量的な、発光の、またはレポータータンパク質(緑色蛍光タンパク質、GFP;ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、CAT、など)を検出するための他の技術を用いることができる。
【0067】
イムノアッセイ技術は、例えば、ELISA、ラジオイムノアッセイ、in situイムノアッセイ、ウェスタンブロッティング、免疫蛍光など、当業者にはよく知られている様々な型式により行うことができる。GM3合成酵素タンパク質を検出するのに有用な抗GM3合成酵素タンパク質抗体は、以下に記載するように生成することができる。
【0068】
別の一実施形態では、スクリーニング方法は、少なくとも1つの試験化合物を天然の、突然変異した、もしくはリコンビナントのGM3合成酵素、または生物学的起源のGM3合成酵素と接触させることと、前記化合物がシアル酸ドナーからシアル酸アクセプターのガラクトース残基の3−ヒドロキシル基へのシアル酸残基の転移を阻害、すなわち阻止または減少させる能力を判定することとからなるステップを含む。前記化合物の非存在下でシアル酸転移のレベルに比べて、前記化合物の存在下でのシアル酸転移の活性のレベルが低下していれば、GM3合成酵素を阻害する化合物であることを示しており、糖尿病の微小血管合併症の処置および/または予防に有用である。
【0069】
GM3合成酵素活性のレベルは、シアル酸をドナーからアクセプターへの転移を可能にする適切な条件下で、GM3合成酵素を、シアル酸ドナーおよびシアル酸アクセプターと接触させることにより評価すると有利である。一般的に、「適切な条件」は、触媒反応が起こることのできる反応媒体を意味する。媒体は、例えば、緩衝剤、酸化剤および/または還元剤、ならびに補助因子を含むことができる。媒体のpH、温度、およびイオン濃度は、一般的に調節される。好ましくは、GM3合成酵素の活性は、6と7の間の、好ましくは6.5と6.7の間のpHにバッファリングされた媒体で、35と39℃の間の、好ましくは37℃の温度で評価される。反応は、10mMのMn2+、例えば10mMのMnCl2を含む媒体中で行うと有利である。GM3合成酵素の活性の試験は、特に、国際公開第WO97/47749号パンフレット、米国特許第6555371号明細書、またはWakarchukら(1996年)による文献に記載されている。
【0070】
好ましくは、GM3合成酵素の活性は、CMP−N−アセチルノイラミネートなどのシアル酸ドナーからラクトシルセラミド(LacCer)のガラクトース残基の3−ヒドロキシル基へシアル酸を転移してガングリオシドのGM3を形成することを定量することにより評価する。CMP−N−アセチルノイラミネートおよび/もしくはラクトシルセラミドの消失が減少し、かつ/またはGM3の形成が減少すれば、GM3合成酵素を阻害する化合物であることを示す。したがって、本発明の方法は、試験物質の存在下または非存在下で、CMP−N−アセチルノイラミネートからラクトシルセラミドへのシアル酸の転移のレベルを判定することを含む。
【0071】
シアル酸のドナーおよび/またはアクセプターを、検出可能な方法で標識すると有利である。標識化は、当業者にはよく知られているあらゆる適切な技術により行うことができる。これは、例えば、放射活性の、酵素的な、発光の、もしくは蛍光の標識化、またはこれらの技術の組合せであることができる。
【0072】
本発明による好ましいスクリーニング試験を、図7に記載してある。この試験では、GM3合成酵素を[14C]−CMP−シアル酸と、およびビオチンと結合したラクトシルセラミドと接触させる。SPA(登録商標)技術(Amersham Biosciences)は、ある種の放射活性の元素の壊変によるβ粒子の放出に基づくものである。放射活性のある分子がSPAシンチレーションビーズに十分近い場合は、放射活性のある崩壊がビーズにおける閃輝性の基を刺激し、蛍光の放出を生成する。シグナルは、シンチレーションカウンターおよび/またはCCD撮像装置により検出することができる。他方では、SPAビーズを含む溶液中の遊離の放射活性の分子、すなわちSPAビーズと相互作用をしない放射活性の分子の場合には、放射活性の分子の崩壊に付随するβ放出は、SPAビーズに到達する十分なエネルギーを持たず、光の放出は生成されない。本試験の文脈では、したがって、発光のシグナルの測定値はGM3の量を反映することになり、それは、反応媒体ではこの化合物だけが、ビオチン/ストレプトアビジン複合体によりSPAビーズに付随し、放射活性のあるシアル酸基を有するからである。
【0073】
以下の実施例および図は、本発明を説明し、限定的なものを意味するものではない。
【0074】

図1は、AGEによる周皮細胞(BRP)および腎臓のメサンギウム細胞(RMC)の増殖の阻害を示す。細胞は、4日間(RMC)または7日間(BRP)、3μMのBSAまたはAGEに曝露した。次いで、細胞をトリプシン処理し、血球計算機を用いて計数し、タンパク質の全量を測定した。結果はBSA対照のパーセント値として示し、各々2回ずつ行った、6個(BRP)または9個(RMC)の独立した実験の平均±SEMを表している。*はBSA対照に対し、p<0.05である。
【0075】
図2は、van Echtenら(1993年)による文献をもとに、変更されたガングリオシドの生合成経路を示す。シリーズaおよびbのガングリオシドのみが、BRPおよびRMCで検出されている(丸で囲んだガングリオシド)。
【0076】
図3は、周皮細胞およびメサンギウム細胞における、ガングリオシドプロファイルの変化を示している。周皮細胞(A)またはメサンギウム細胞(B)を、3μMのBSAまたはAGEにそれぞれ4または7日間曝露し、次いで回収した。「材料と方法」の段落で記載するように、ガングリオシドを抽出し、精製し、HPTLCにより分析し、レゾルシノールで染色することにより展開した。結果は、BSA対照のパーセントとして表し、各々2回ずつ行った、6個(BRP)または9個(RMC)の独立した実験の平均±SEMを表している。*はBSA対照に対しp<0.05である。(C)および(D)では、ガングリオシドを1μCi/mlの[14C]−ガラクトースで代謝により標識し、抽出し、HPTLCにより分離し、オートラジオグラフィーにより分析した。結果を、BSA対照のパーセントで表し、3回の独立の実験の平均±SEMを表している。
【0077】
図4は、AGEによって引き起こされた、分離された糸球体および細胞におけるGM3合成酵素活性の上昇を示している。(A)細胞を、4日間(RMC)または7日間(BRP)、3μMのBSAまたはAGEで処理した。GM3合成酵素の活性を、「材料と方法」の段落に記載するように細胞ホモジネートで測定した。対照の活性は、BRPおよびRMCで、それぞれ2.7および5.1pmol/h/mgタンパク質であった。結果はBSA対照のパーセントとして表し、4または5個の独立の実験の平均±SEMを表している。(B)GM3合成酵素の活性を、対照のマウス(db/m)およびdb/dbマウスの糸球体の高度に精製したホモジネートについて測定した。対照の活性は、4.7pmol/h/mgタンパク質であった。結果は対照のパーセントで表し、4〜5匹の動物の平均±SEMを表している。*はBSA対照または対照マウスに対しp<0.05である。
【0078】
図5は、外因性のシリーズaのガングリオシドによって引き起こされる細胞の増殖の阻害を図示している。周皮細胞(A)またはメサンギウム細胞(B)を、それぞれ4または7日間、ガングリオシドとBSAを複合したもので処理した。処理の終わりに、全タンパク質を測定した。結果はBSA対照のパーセントとして表し、各々3回ずつ行った、5〜6個の独立の実験の平均±SEMを表している。*はBSA対照に対しp<0.05である。
【0079】
図6は、AGEの効果に対する抗−シリーズaガングリオシドGM2およびGM1抗体の保護作用を示す。周皮細胞(A)またはメサンギウム細胞(B)を、1ウェルあたり5μgの抗−GM2または抗−GM1ポリクローナル抗体の存在下または非存在下で、3μMのBSAまたはAGEで処理した。処理の終わりに、細胞を洗浄し、溶解し、タンパク質の全量を測定した。結果はBSA対照のパーセントとして表し、各々3回ずつ行った、5〜6個の独立の実験の平均±SEMを表している。*はAGEで処理した細胞に対しp<0.05である。
【0080】
図7は、シンチグラフィーおよび発光により、反応生成物であるガングリオシドのGM3の検出を結びつける試験による、GM3合成酵素活性の検出を示す。GM3合成酵素は、[14C]−CMP−シアル酸から、ビオチンに結合しているラクトシルセラミド(Biotin−LacCer)への標識したシアル酸の転移を触媒する。次いで、ストレプトアビジンに結合しているSPA(シンチレーション近接アッセイ、Amersham Biosciences)ビーズを、ビオチンに結合しており14Cで標識されている得られたガングリオシドのGM3に接触させる。GM3放射活性とSPAビーズの間の相互作用によりもたらされるSPAシグナルを、次いで測定する。
【0081】
図8は、GM3合成酵素siRNAで形質移入すると、RMCを保護することを示している。400nMのGM3合成酵素siRNAでRMCを形質移入して24時間後、細胞を3μMのBSA対照またはAGEで処理した。処理の終わりに全タンパク質を測定した。結果はBSA対照のパーセントとして表し、6個の独立の実験の平均±SEMを表している。*はAGEで処理した細胞に対しp<0.05である。
【0082】
図9は、GM3およびGD3合成酵素の活性、ならびにGM3レベルは、糖尿病マウスの腎皮質で調整されることを示している。GM3合成酵素活性(A)およびGD3合成酵素活性(B)を、対照のマウス(db/m)および糖尿病マウス(db/db)の腎皮質のホモジネートで測定した。対照のマウス(db/m)および糖尿病マウス(db/db)におけるGM3(C)のレベルを示す。対照のマウスでは、GM3レベルは、66±9ng/mlのタンパク質であった。結果はBSA対照のパーセントとして表し、4〜6匹の動物の平均±SEMを表している。*はAGEで処理した細胞に対しp<0.05である。
【0083】
実施例
【0084】
実施例1−材料と方法
細胞の分離と培養
以前に記載されているように(Lecomteら、1996年)、ウシ網膜微小血管から、ウシ網膜周皮細胞(BRP)を分離した。簡単に述べると、地方の屠殺場から入手した、脱核したウシの目から無菌の条件下で解剖して、網膜を得た。汚染性の色素性の網膜の上皮細胞を取り除いた後、網膜(培養皿1個につき2個)をスライスして小片にし、Hanksで平衡にした食塩水(Hepes10mM、pH7.4、抗生物質1%、ウシ血清アルブミン(BSA、フランス、Fallavier、Saint−Quentin、Sigma)0.5%を追加した、Ca2+/Mg2+を含まない酸素処理したHBSS)中、Dounceホモジナイザーでホモジナイズした。ホモジネートを、4℃で5分間1000gで遠心分離し、残渣をコラゲナーゼ/ディスパーゼ(ドイツ、Mannheim、Roche Diagnostics)(Ca2+/Mg2+を含まない酸素処理したHBSS、Hepes10mM、pH7.4、抗生物質1%、DNase20U/ml、およびNα−トシルリシンクロメチルケトン(TLCK)150ng/ml、シグマ、中に1mg/ml)を含む酵素溶液中に再懸濁した。消化後(37℃で20分)、微小血管の断片を40μmのナイロンフィルター上に置き、フィブロネクチンで覆った6cmのディシュに堆積させた。初代培養を、10%ウシ胎児血清(米国、ニューヨーク、Gibco、Invitrogen Corporation)、1%のグルタミン、および1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を追加したDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)で培養し、培地は2日ごとに交換した。接着期間の後、微小血管から周皮細胞の異常増殖物が48時間後に生じ、約10日で細胞はコンフルエンスに到達した。BRP培養物は、その偽足のある多角形の不規則な形態、および増殖して非付着細胞になることにより特徴付けられるように、またα1−アクチンおよび特異的な糖脂質の抗原(3G5抗原)の両方に対する陽性の標識化により、ならびに上皮細胞で発現されるvon Willebrand因子に対する陰性の標識化により評価されるように(Lecomteら、1996年)、100%純粋であった。細胞は、トリプシン−EDTA(Sigma)(1:3)で継代培養され、第2継代まで同じ培地で培養を継続し、その間BRPを処理した。
【0085】
若年オスWistar系ラット(フランス、l’Arbresle、Charles River)の精製した糸球体から、ラット腎メサンギウム細胞(RMC)を得た。簡単に述べると、無菌条件下で除去してすぐのラットの腎臓から皮質の断片を分離した。小片をHBSS緩衝剤で、230μmのメッシュを機械的に無理やり通過させた。糸球体を、このメッシュを通過させ、次いで73.7μmのメッシュを無理やり通過させた。最終的に、これらを70μmのメッシュ上に置き、20%のウシ胎児血清、1%のグルタミンおよび1%のペニシリン/ストレプトマイシンを追加したDMEM中に含まれるフィブロネクチンで覆われた6cmのディッシュに配置した(2個の腎糸球体に対し4ディッシュ)。付着期間の後、3週間後に糸球体からRMCの異常増殖物が生じ、次いで、残留する上皮細胞および内皮細胞を除去するために細胞を第5継代まで培養した。RMCは、形態学的判定基準(コンフルエントの場合は、星型、芯型により)、また、ビメンチン、平滑筋α−アクチンおよびThy−1抗原での陽性の標識化により特徴付けられる。次いで、細胞を、15%のウシ胎児血清、1%のグルタミンおよび1%のペニシリン/ストレプトマイシンを追加したDMEMで培養した。これらは、第5継代と第15継代の間で使用した。
【0086】
マウス糸球体の分離
糖尿病の(db/db)または対照の(db/m)11週齢のマウス(Charles River)から、Takemotoらが記載した(Takemotoら、2002年)磁気ビーズ灌流技術により、高度に精製した糸球体を得た。簡単に述べると、マウスをDynabeads溶液(フランス、Compiegne、Dynal)で心臓を通して灌流し、次いで腎臓を除去し、細かくスライスして、コラゲナーゼ(Roche Diagnostics)で消化した。ろ過後、それらの毛細血管にビーズを蓄積させた糸球体を、磁気により保持し、ホモジェナイズする前に2回洗浄した。この技術により、組織の汚染度の低い、糸球体の純粋な標本が提供される。
【0087】
マウス腎皮質の分離
糖尿病の(db/db)または対照の(db/m)11週齢のマウス(Charles River)の腎臓から、腎皮質の断片を分離した。簡単に述べると、動物を麻酔し、屠殺し、腎臓を取り出した。次いで、解剖により腎皮質の断片を得、DounceホモジナイザーでEDTA1mMおよびプロテアーゼ阻害剤10μl/mlを含む25mMHepes緩衝剤中で機械的にホモジナイズした。
【0088】
AGEの調製
ウシ血清アルブミン(最終濃度7.2mg/ml)(Sigma)を、メチルグリオキサル(Sigma)100mMと、37℃で50時間インキュベートしてAGEを調製した。ウシ血清アルブミン(BSA)をメチルグリオキサルの非存在下の、同じ条件下でインキュベートし、対照の調製物として用いた(BSA対照)。AGEおよびBSA対照を、PD10 Sephadex G25カラム(スウェーデン、Uppsala、Amersham Biosciences)で精製して、塩および未反応のカルボニルを除去し、次いでろ過滅菌し、使用するまで−20℃に保った。
【0089】
AGEでの処理
接種24時間後に、AGEおよびBSA対照(最終濃度3μM)を、培地に添加した。各細胞タイプを1継代(BRPでは約7日、RMCでは約4日)処理した。培地は、2日ごとに新しい培地と交換した。
【0090】
細胞増殖の測定
処理の終わりに、細胞をトリプシンで回収し、細胞の残渣はリン酸緩衝食塩水(氷冷PBS)(Sigma)で2回洗浄した。各サンプルに対し、細胞数を求めるために、血球計算機を用いて、1つのアリコートの細胞を計数した。別のアリコートを、Bradford技法によりタンパク質を測定するのに使用した。
【0091】
ガングリオシドの分析
ガングリオシドを代謝標識するために、特異性の高い活性の標識実験(GM2およびGM1測定実験)に、0.2μCi/mlまたは1μCi/mlの[14C(U)]−D−ガラクトース(329.5mCi/mmol)(マサチューセッツ州、Boston、PerkinElmer Life Sciences)を培地に一夜加えた。細胞(周皮細胞5〜8×105、またはメサンギウム細胞12〜20×105)を、次いで、トリプシン化により回収し、PBS中で3回洗浄した。ガングリオシドを、Bouchonら(Bouchonら、1990年)が記載し、Natalizioら(Natalizioら、2002年)が変更した方法で、細胞残渣から抽出した。簡単に述べると、細胞残渣を、クロロホルム(C)/メタノール(M)(1:1、v/v)2ml中に分散し、激しく混和し、4℃で一夜抽出した。遠心分離後、残渣を同じ溶剤の2mlで2回抽出した。プールした全脂質の抽出物を蒸発により乾燥し、1mMのC/M/PBS溶液(10:10:7、v/v/v)の助けで分離した。ガングリオシドを含む上相を、次いで、C18シリカゲルカラム(マサチューセッツ州、Milford、Waters Corporation)で脱塩し、HPTLC(ドイツ、Darmstadt、Merck)により分析した。プレートを、0.2%C/M/CaCl2(55:45:10、v/v/v)中で展開した。ガングリオシドは、リンのスクリーンおよびStorm 820(米国、Piscataway、Molecular Dynamics、Amersham Pharmacia Biotech)を用いてオートラジオグラフィーにより、およびImage Master VDS−CL(AmershamPharmacia Biotech)を用いてレゾルシノール(ガングリオシドに特異的な染色:レゾルシノール0.3%(Sigma)、CuSO40.03%、HCl 30%)で標識化することにより視覚化した。Image Quant(Molecular Dynamics)を用いて、定量を行った。GT1bは、BRPおよびRMCの両方のガングリオシドプロファイルには存在しなかったので、脂質抽出の前に内部標準としてそれをサンプルに加えた。
【0092】
GM3合成酵素活性の測定
処理の終わりに、細胞をPBSで洗浄し、溶解緩衝剤(20mMカコジル酸ナトリウム、pH6.6(Sigma)、0.2%のTriton X−100、1mM EDTA、10μl/mlのプロテアーゼ阻害剤、米国、California、La Jolla、Calbiochem)50μl中4℃で20分間インキュベートし、次いで掻き取って回収した。BRPの4ディッシュ(約2〜3×106細胞)、RMCの3ディッシュ(約3〜6×106細胞)をプールした。細胞溶解物を10000gで5分間遠心分離し、上清のタンパク質を用いてGM3合成酵素活性を測定した。糸球体の残渣を、1mM EDTAおよびプロテアーゼ阻害物質10μl/mlを含む25mM Hepes中、シリンジで機械的にホモジナイズした。ホモジネートを、次いで、1000gで2分間遠心分離し、核成分を分画した後の上清を用いてGM3合成酵素活性を測定した。各サンプル(細胞に対し約500μg、および糸球体に対し約100μg)に等量のタンパク質を用いて試験を行った。最終濃度0.1mMのラクトシルセラミド(フランス、Marne la Vallee、Biovalley、Matreya)、4μCi/mlの[シアリック(sialic)−4,5,6,7,8,9−14C]−CMP−シアル酸(325.2mCi/mmol)(PerkinElmer Life Sciences)、100μM CMP−シアル酸(Sigma)、10mM MgCl2、0.2%のTriton X−100、および100mMカコジル酸ナトリウム、pH6.6を含む、等体積の反応緩衝剤とサンプルを混合した。撹拌後、反応混合物を37℃で50分間インキュベートした。サンプルをシリカゲル60カラム(Merck)に添加して、過剰の基質を生成物から分離することにより、反応を停止した。カラムを水で洗浄した後、ガングリオシドをC/M(1:1、v/v)で溶出し、溶剤を窒素下で乾燥させた。最後に、ガングリオシドを薄層クロマトグラフィー(Merck)により分離し、反応生成物をオートラジオグラフィーにより現像した。GM3合成酵素活性を、生成されたGM3のpmol/h/タンパク質のmgで表した。
【0093】
外因性ガングリオシドでの処理
外因性ガングリオシドのBRPおよびRMCの増殖に対する効果を評価するために、細胞を96ウェルのプレートで培養した。外因性の糖脂質であるGM3、GM2、GM1、およびGD1a、グルコシルセラミド、ならびにラクトシルセラミド(Matreya)を、完全培地に、DMEM/10mM Hepes、pH7.4中1:1の比でBSAと複合した形態で最終濃度50μMで加えた。処理の終わりに、細胞をPBSで2回洗浄し、50μlのRipa溶解緩衝液(PBS10mM、NP40 1%(フランス、Brebieres、Perbio Science、Pierce)、デオキシコール酸ナトリウム0.5%、SDS 0.1%、プロテアーゼ阻害物質10μl/ml)で37℃で30分間溶解した。我々の実験における細胞数は全タンパク質濃度と相関しているので(図1を参照されたい)、細胞の増殖を評価するために、BCAタンパク質試験(Pierce)を用いて全タンパク質を測定した。
【0094】
抗−シリーズaガングリオシド抗体での処理
シリーズaのガングリオシドの潜在的な作用を阻止するために、細胞を96ウェルのプレート中で培養し、AGEまたは対照のBSA3μMで、50μg/mlの抗−GM2ポリクローナル抗体(Calbiochem)または抗−GM1ポリクローナル抗体(Matreya)の存在下または非存在下で処理した。処理の終わりに、細胞をPBSで2回洗浄し、50μlのRipa溶解緩衝液中に溶解し、細胞の増殖を定量するためにタンパク質を測定した。
【0095】
GM3合成酵素siRNAでのRMCの形質移入
GM3合成酵素の活性を阻止するために、RMCを6ウェルの培養皿で30%までのコンフルエンスで培養し、次いで、オリゴフェクタミン試薬(Invitrogen Corporation)を用いてラットのcDNA配列(英国、Huntingdon、Ambion)に対してデザインされた、GM3合成酵素に特異的な干渉RNA(siRNA)を形質移入した。用いたGM3合成酵素のアンチセンス配列は、GGGUUAUUCUGAACAUGUUtt(配列番号5)であった。予備実験で、濃度の高いsiRNA(0〜800nM)で細胞に形質移入することにより、用量−反応試験を行った。形質移入72時間後、形質移入された細胞のホモジネートでGM3合成酵素活性を測定した。次いで、siRNAで形質移入した細胞で、増殖を評価した。この目的では、400nMのsiRNAで形質移入して24時間後に、細胞を3μMのBSA対照またはAGEで(3日)処理した。次いで、細胞をPBSで2回洗浄し、Ripa溶解緩衝剤に溶解し、細胞の増殖を評価するために、タンパク質を測定した。
【0096】
統計学的分析
データは、平均±SEMとして表し、対照のパーセント値で表した。細胞の試験では、Wilcoxonの順位検定を用いて、群間の差の有意性を評価した。マウスに対する実験では、GM3合成酵素の活性にStudentのt検定を用いた。p<0.05を、統計学的に有意とみなした。
【0097】
実施例2−結果
<1−AGEは、周皮細胞およびメサンギウム細胞の増殖を阻害する>
周皮細胞およびメサンギウム細胞の増殖に対するAGEの効果を比較するために、細胞を3μMの濃度のBSAまたはAGEで4日から7日間処理した。細胞の計数により、AGEは、周皮細胞およびメサンギウム細胞の数を、それぞれ33および40%減少させたことが示された(図1)。全タンパク質も測定し、細胞数と相関して減少したことが見出された。これらの結果はAGEが周皮細胞の増殖にも、メサンギウム細胞の増殖にも同様の有害効果があることを実証し、この結果により本発明者らが、これら両方の細胞タイプでのAGEに対する反応に関与する共通のメカニズムが解明できるようになった。
【0098】
<2−AGEは、周皮細胞およびメサンギウム細胞におけるシリーズaのガングリオシドを増加させる>
本発明者らの先の結果は、AGEは、網膜の微小血管細胞におけるガングリオシドのプロファイルを調整することができることを示唆していた(Natalizioら、2001年)。ガングリオシドのプロファイルは、BRPおよびRMCにおけるBSA対照またはAGEに対する反応について分析した。ガングリオシドのプロファイルは、細胞のタイプに特異的である。対照の条件下では、周皮細胞における主なガングリオシドは、シリーズaのガングリオシドのGM3(検出された全ガングリオシドの63%)およびGM1(9%)、ならびにシリーズbのガングリオシドのGD3(28%)であった。メサンギウム細胞におけるプロファイルは、GD3(5%)が大変少量であるところが異なり、シリーズaの場合ではGD1a(20%)が存在するところが異なるが、GM3は依然として主要なガングリオシドであった(75%)。
【0099】
シリーズaのガングリオシドの増加、およびシリーズbのガングリオシドの減少は、AGEで処理した両方の細胞タイプに観察された(図3)。周皮細胞では、シリーズaのガングリオシドのGM3およびGM1は約40%増加し、一方シリーズbのガングリオシドのGD3は24%減少した(図3A)。メサンギウム細胞では、GM3は33%増加したがGD3は30%減少し、GD1aのレベルは影響を受けなかった(図3B)。同様の結果が、ガラクトースで標識化した後のオートラジオグラフィーにより得られた。BRPにおけるシリーズaのガングリオシドのGM2、ならびにRMCにおけるGM2およびGM1は、レゾルシノールでの標識化により検出することが難しかったので、細胞を特異的活性の高い[14C]−D−ガラクトースで標識し、次いで、対照の細胞およびAGEで処理した細胞でガングリオシドを分析した。結果は、BRPではGM2が55%増加し(図3C)、RMCではGM2およびGM1が25から35%増加した(図3D)ことを示している。これらの結果は、周皮細胞でもメサンギウム細胞でも、AGEはガングリオシドのプロファイルに同様の調整を引き起こすことを指摘していた。これらはまた、シリーズaのガングリオシドの増加は、細胞の増殖の低下の根源となる共通の機序であるかもしれないことを示唆している。
【0100】
<3−AGEは周皮細胞およびメサンギウム細胞におけるGM3合成酵素の活性を上昇させる>
シリーズaのガングリオシドに観察される増加の原因となる機序を説明しようと、シリーズaのガングリオシドの合成の制限的酵素であるGM3合成酵素の活性を、対照の細胞および処理した細胞で測定した。図4に表した結果は、AGEで処理すると、ほとんどが酵素反応の最大速度を増大させることにより、周皮細胞では約1.8、メサンギウム細胞では約1.5のファクターでGM3合成酵素の活性を上昇させることを示している。これらの結果は、AGEが、GM3合成酵素を調節することにより、RMCおよびBRPに共通の機序を働かせることを示唆している。
【0101】
<4−外因性のシリーズaのガングリオシドは周皮細胞およびメサンギウム細胞の増殖を阻害する>
本発明者らは、シリーズaのガングリオシドを外因性に添加すると、周皮細胞およびメサンギウム細胞の増殖に影響を及ぼすか否かを試験した。細胞を1継代(BRPでは7日間、RMCでは4日間)50μMガングリオシドで、ならびに対照として非シアリル化のグルコシルセラミドおよびラクトシルセラミド前駆物質で処理した。図5は、GM2、GM1、およびGD1aが周皮細胞およびメサンギウム細胞の増殖を最も効果的に(約15から30%)阻害することを示している。GM3は周皮細胞の増殖を弱く阻害したが、メサンギウム細胞には著しい効果がなかった。対照として用いたグルコシルセラミドおよびラクトシルセラミドは、効果がなかった。これらの結果は、シリーズaのガングリオシドは、周皮細胞およびメサンギウム細胞の増殖を阻害することを指摘している。特に、GM2およびGM1は、AGEに反応してBRPおよびRMCで増加し、これらはこれら両方の細胞タイプの増殖を低下させる。これらのシリーズaのガングリオシドは、したがって、AGE効果の共通のメディエーターであり得る。
【0102】
<5−抗−シリーズaのガングリオシド抗体はAGEが引き起こす増殖の阻害から周皮細胞およびメサンギウム細胞を保護する>
GM2およびGM1がAGEの効果を媒介するか否かを試験するために、細胞を、抗−GM1および抗−GM2抗体の存在下でAGEで処理した。BSAで処理した対照の細胞では、増殖は、抗−ガングリオシド抗体の存在下または非存在下で異ならなかった。細胞を抗−GM2および抗−GM1抗体の存在下でAGEと処理すると、周皮細胞およびメサンギウム細胞の増殖の低下を部分的に防いだ(図6)。外因性ガングリオシドの効果を考えると、これらの所見は、シリーズaのガングリオシド、特にGM1およびGM2は、周皮細胞およびメサンギウム細胞でAGEが引き起こす増殖の阻害の共通のメディエーターであることを示唆している。
【0103】
<6−GM3合成酵素の活性は糖尿病マウスの糸球体で上昇する>
in vivoでGM3合成酵素の活性に対する糖尿病の環境の効果を評価するために、db/db糖尿病マウスモデルの高度に精製した糸球体で酵素活性を測定した。図4Bに表した結果は、GM3合成酵素活性は、対照(db/m)に比べて糖尿病細胞の糸球体で50%上昇したことを示している。
【0104】
<7−GM3合成酵素siRNAはAGEが引き起こす効果から部分的に保護する>
AGEの効果の媒介におけるシリーズaのガングリオシドの役割をより詳しく解明するために、RMCをGM3合成酵素siRNAで形質移入した。予備実験では、siRNAはRMCにおけるGM3合成酵素の活性を効果的に阻害することが示された。形質移入された細胞および処理された細胞の増殖を、次いで測定した。図8に示すように、RMCの増殖に対するAGEの効果は、GM3合成酵素siRNAで形質移入された細胞において部分的に阻害される。これらの結果は、ガングリオシドがAGE効果の媒介に関与することを明らかに実証している。効果の部分的な性質は、(i)形質移入の有効性を上げるために細胞をコンフルエンスのより進行したレベルに処理すると、AGEの効果は前の実験より弱く、(ii)GM3合成酵素の活性は50%だけ阻害されるという事実により説明することができる。
【0105】
<8−GM3およびGD3合成酵素の活性およびGM3のレベルは、糖尿病マウスの腎皮質で変更される>
ガングリオシド生合成経路に対する糖尿病の環境の効果をex vivoで評価するために、db/db糖尿病マウスモデルの腎皮質のホモジネートについてGM3およびGD3合成酵素活性を測定した。図9A〜Bに表した結果は、糖尿病マウスの腎皮質では、対照(db/m)に比べて、GM3合成酵素の活性は80%上昇しているが、GD3合成酵素の活性は50%低下していることを示している。ガングリオシドも分析し、db/db糖尿病マウスの腎皮質におけるGM3レベルが、統計的に有意ではないが上昇することが示された(図9C)。全般的に、したがって、これらの結果は、AGEで処理したRMCおよびBRPで得られた結果の生理病理学的意義を実証している。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】AGEによる周皮細胞(BRP)および腎臓のメサンギウム細胞(RMC)の増殖の阻害を示すグラフである。
【図2】van Echtenら(1993年)による文献をもとに変更されたガングリオシドの生合成経路を示す図である。
【図3】周皮細胞およびメサンギウム細胞における、ガングリオシドプロファイルの変化を示すグラフである。
【図4】AGEによって引き起こされた、分離された糸球体および細胞におけるGM3合成酵素活性の上昇を示すグラフである。
【図5】外因性のシリーズaのガングリオシドによって引き起こされる細胞の増殖の阻害を示すグラフである。
【図6】AGEの効果に対する抗−シリーズaガングリオシドGM2およびGM1抗体の保護作用を示すグラフである。
【図7】シンチグラフィーおよび発光により、反応生成物であるガングリオシドのGM3の検出を結びつける試験による、GM3合成酵素活性の検出を示す図である。
【図8】GM3合成酵素siRNAで形質移入すると、RMCを保護することを示すグラフである。
【図9】GM3およびGD3合成酵素の活性、ならびにGM3レベルは、糖尿病マウスの腎皮質で調整されることを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病の微小血管合併症の処置を目的とする薬物を製造するためのGM3合成酵素阻害剤の使用。
【請求項2】
糖尿病の微小血管合併症が糖尿病性腎症である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
阻害剤が、GM3合成酵素の遺伝子またはタンパク質の発現の阻害剤である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
阻害剤が、アンチセンス核酸、リボザイム、干渉RNA、およびアプタマーを含む群から選択される、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
阻害剤が、高度にストリンジェントな条件下で配列ID番号1の配列と特異的にハイブリダイズするアンチセンス核酸配列である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
阻害剤が、GM3合成酵素の活性の阻害剤である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項7】
阻害剤が、ヒトGM3合成酵素に対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
少なくとも1つの試験化合物のGM3合成酵素の活性を阻害する能力を評価し、GM3合成酵素の活性レベルの低下により、糖尿病の微小血管合併症の処置および/または予防に有用な化合物であることが示される、糖尿病の微小血管合併症の処置および/または予防に有用な化合物をスクリーニングし、または同定するin vitroの方法。
【請求項9】
糖尿病の微小血管合併症が糖尿病性腎症である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記スクリーニング方法が、少なくとも1つの試験化合物をGM3合成酵素を発現する細胞と接触させることと、前記化合物がガングリオシドのGM3の細胞内合成を阻害する能力を判定することとから成るステップを含み、細胞におけるガングリオシドのGM3の合成レベルの低下により、糖尿病の微小血管合併症の処置および/または予防に有用な化合物であることが示される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記スクリーニング方法が、少なくとも1つの試験化合物をGM3合成酵素と接触させることと、前記化合物がシアル酸ドナーからシアル酸アクセプターのガラクトース残基の3−ヒドロキシル基へのシアル酸残基の転移を阻害する能力を判定することとから成るステップを含み、シアル酸転移の活性のレベルの低下により、GM3合成酵素を阻害し、糖尿病の微小血管合併症の処置および/または予防に有用な化合物であることが示される、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
CMP−N−アセチルノイラミン酸からラクトシルセラミドへのシアル酸の転移のレベルを判定する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
シアル酸のドナーおよび/またはアクセプターが、検出可能な方法で標識されている、請求項11または12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−536292(P2007−536292A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511904(P2007−511904)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003647
【国際公開番号】WO2005/108600
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】