説明

糖尿病を治療する方法

この出願は、糖尿病の治療のための、哺乳動物における酵素PTP1Bの選択的阻害のためのステロイド化合物の使用を目的とする。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
[0001]本願は、その内容全体が参照によって組み込まれる、2007年9月6日に出願の米国特許仮出願第60/970,467号明細書に対する優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
[0002]本願は、糖尿病を治療するための、哺乳動物における酵素PTP1Bの選択的阻害のための、ステロイド化合物の使用を対象とする。
【背景技術】
【0003】
[0003]いくつかのアミノステロール化合物が、ツノザメ(dogfish shark)(アブラツノザメ(Squalus acanthias))の肝臓から単離されている。これらの化合物のうちの1つは、1436と名付けられており、その構造を図1に示す。化合物1436は、これまで、例えば、米国特許第5,763,430号明細書;第5,795,885号明細書;第5,847,172号明細書;第5,840,936号明細書、及び第6,143,738号明細書(それぞれ、その内容全体が参照によって組み込まれる)に記載されており、体重増加を阻害及び食欲を抑制して、動物モデルにおける体重減少をもたらすことが示されている。
【0004】
[0004]糖尿病は、米国における重大な医学的問題であり、他の先進国でも、ますますそうなりつつある。II型糖尿病は特に、座りがちな生活様式及び高脂肪食の影響によって、主に引き起こされる。糖尿病の個人は、血清コレステロールの上昇、高血圧、(先天的なレプチン、プロオピオメラノコルチン(POMC)、及びメラノコルチン4受容体(MC4R)の欠損を含めた)先天性肥満症候群、及び睡眠時無呼吸、特にピックウィック症候群におけるものなど、その個人の疾患に直接的に関連する医学的問題を被りやすい。さらに、肝臓における脂肪の蓄積は、非アルコール性脂肪性肝炎及び肝硬変に進行する可能性がある。肥満性糖尿病の個人に関する別の問題は、高度に血管新生が起こるゆえに出血しやすい厚い層の脂肪組織を通して切開しなければならない手術でリスクが増大することである。この糖尿病患者が、手術のリスクが許容できるようになるだけ十分に体重を減少することができるまで、必要な手術が、延期されることがしばしばある。
【0005】
[0005]インスリンは、様々な代謝プロセスの重要な調節因子であり、血糖制御において主要な役割を果たしている。インスリンの合成及びシグナル伝達に関連する異常は、真性糖尿病をもたらす。インスリン受容体(IR)にインスリンが結合することによって、β−サブユニットの細胞内部分においていくつかのチロシン残基の迅速な自己リン酸化が起こる。インスリン受容体基質−1(IRS−1)及びインスリン受容体基質−2(IRS−2)を含めた他の細胞内基質のチロシンリン酸化を介してさらなるシグナルを伝達するインスリン受容体チロシンキナーゼ(IRTK)の最大の活性を得るためには、密接に位置した3つのチロシン残基(チロシン−1150ドメイン)がリン酸化されなければならない。
【0006】
[0006]タンパク質リン酸化は、細胞機能の様々な段階においてシグナルを変換及び調節するための、よく認識された細胞機序である(例えば、Hunter,Phil、Trans.R.Soc.Lond.B.353:583〜605(1998);Chanら、Annu.Rev.Immunol.12:555〜592(1994);Zhang、Curr.Top.Cell.Reg.35:21〜68(1997);Matozaki及びKasuga、Cell.Signal.8:113〜119(1996)を参照のこと)。少なくとも2つの主な認識されたクラスのホスファターゼが存在する:(1)セリン又はトレオニン部分上にリン酸基(1つ又は複数)を含有するタンパク質を脱リン酸化するもの(Ser/Thrホスファターゼ又は二重特異性ホスファターゼ又はDSPと称される)、及び(2)アミノ酸チロシンからリン酸基(1つ又は複数)を除去するもの(タンパク質チロシンホスファターゼ又はPTPアーゼ又はPTPと称される)。
【0007】
[0007]いくつかの研究では、自己リン酸化されたIRTKの活性を、in vitroの脱リン酸化によって、逆転できることが明確に示されており(Goldstein、Receptor 3:1〜15(1993)に概説されている)、三リン酸化されたチロシン−1150ドメインは、PTPアーゼの最も感受性が高い標的である。この三リン酸化されたチロシン−1150ドメインは、IRTK活性の制御スイッチとして機能すると考えられ、また、IRTKは、in vivoのPTP介在性脱リン酸化によってしっかりと調節されると考えられる(Faureら、J.Biol.Chem.267:11215〜11221(1992))。
【0008】
[0008]PTP1Bは、in vitroでの研究(Seelyら、Diabetes 45:1379〜1385(1996))と、PTP1B中和抗体を使用したin vivoでの研究(Ahmadら、J.Biol.Chem.270:20503〜20508(1995))で行われる両方によって、IRTK調節に関与する主なホスファターゼのうちの少なくとも1つと同定されている。3つの独立した研究では、PTP1Bノックアウトマウスは、高脂肪食の場合に、糖耐能が増大し、インスリン感受性が増大し、体重増加が低下したことが示されている(Elcheblyら、Science 283:1544〜1548(1999)、Klamanら、Mol.Cell.Biol.20:5479〜5489(2000)、及びBenceら、Nature Med(2006))。チロシンホスファターゼPTP1Bの過剰発現又は活性の変更化は、インスリン抵抗性及び糖尿病を含めた様々な障害の進行に関与する可能性がある(Ann.Rev.Biochem.54:897〜930(1985))。さらに、タンパク質チロシンホスファターゼPTP1Bの阻害が、I型及びII型糖尿病、肥満、自己免疫異常、急性及び慢性炎症、骨粗鬆症、及び様々な形の癌などの障害の治療のために治療上有益であることを示唆する証拠が存在する(Zhang ZYら、Expert Opin.Investig.Drugs 2:223〜33(2003);Taylor SDら、Expert Opin.Investig.Drugs 3:199〜214(2004);J.Natl.Cancer Inst.86:372〜378(1994);Mol.Cell.Biol.14:6674〜6682(1994);The EMBO J.12:1937〜1946(1993);J.Biol.Chem.269:30659〜30667(1994);及びBiochemical Pharmacology 54;703〜711(1997))。ホスファターゼ活性を阻害し、それによってインスリンシグナル伝達経路の脱リン酸化を阻害する薬剤は、全身のインスリン感受性を増大させる。これは、II型糖尿病及び肥満に伴うインスリン抵抗性の治療において治療上有益である。
【0009】
[0009]さらに、脳内のニューロンPTP1Bは、体重、肥満症、及びレプチン作用を調節することが示されている(Bence KKら、Nat Med 8:917〜24(2006))。したがって、PTP1B阻害剤が、血液脳関門を通過することができれば、インスリンの効果の感度を高めるだけでなく、体重減少、すなわちII型糖尿病の治療、さらに肥満及びその合併症の治療における追加の利益をもたらすであろう。
【0010】
[0010]PTP1B阻害活性を有する薬剤が有用な治療薬であろうI型糖尿病におけるインスリン抵抗性も報告されている。早期のI型糖尿病又は前糖尿病性状態におけるインスリン増感剤は、インスリンに対する感受性を増大させ、それによって、膵臓内の残留インスリン産生β細胞からのインスリンの過度な分泌の必要性を低下させる、すなわち、これらの細胞を、その後の「バーンアウト」及び死から免れさせることによって、糖尿病の開始を遅らせることができる。PTP1Bの阻害剤は、腫瘍の増殖を予防することができ、したがって、癌の治療に有用であり得ることも示されている(Jiang ZX及びZhang ZY、Cancer Metastasis Rev.2:263〜72(2008))。
【0011】
[0011]PTPアーゼファミリーの酵素は、次の2つのサブ群:(1)細胞内型又は非膜貫通型PTPアーゼ、及び(2)受容体型又は膜貫通型PTPアーゼに分類することができる。大部分の既知の細胞内型PTPアーゼは、220〜240個のアミノ酸残基からなる単一の保存された触媒ホスファターゼドメインを含有する。PTPアーゼドメインの外側の領域が、細胞内PTPアーゼを細胞内に局在化するのに重要な役割を果たすと考えられている(Mauro,L.J.及びDixon J.E.、TIBS 19:151〜155(1994))。精製及び特徴づけされるべき第1の細胞内PTPアーゼは、PTP1Bであった(Tonksら、J.Biol.Chem.263:6722〜6730(1988))。細胞内PTPアーゼの他の例としては、(1)T細胞PTPアーゼ(TCPTP)(Coolら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5257〜5261(1989))、(2)ニューロンホスファターゼSTEP(Lombrosoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7242〜7246(1991))、(3)PTP1C/SH−PTP1/SHP−1(Plutzkyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1123〜1127(1992))、(4)PTP1D/Syp/SH−PPT2/SHP−2(Vogelら、Science 259:1611〜1614(1993);Fengら、Science 259:1607〜1611(1993))が挙げられる。
【0012】
[0012]受容体型PTPアーゼは、(a)推定上のリガンド結合細胞外ドメイン、(b)膜貫通部分、及び(c)細胞内触媒領域からなる。受容体型PTPアーゼの推定上のリガンド結合細胞外ドメインの構造及びサイズは、かなり多岐にわたる。対照的に、受容体型PTPアーゼの細胞内触媒領域は相互に、また細胞内型PTPアーゼと非常に類似している。大部分の受容体型PTPアーゼは、2つの縦列重複した触媒的PTPアーゼドメインを有する。同定された最初のPTPアーゼ受容体サブタイプは、(1)CD45(Ralph,S.J.、EMBO J.6:1251〜1257(1987))、及び(2)LAR(Streuliら、J.Exp.Med.168:1523〜1530(1988))であった。それ以来、例えば、PTPα、PTPβ、PTPδ、PTPε、及びPTPξを含めた、さらに多くの受容体サブタイプが、単離され、特徴づけられている(Kruegerら EMBO J.9:3241〜3252(1990))。
【0013】
[0013]PTP1B阻害剤としての使用のために、国際公開第01/19831号パンフレット、国際公開第01/19830号パンフレット、及び国際公開第01/17516号パンフレットに記載される、ヘテロアリール−及びアリール−アミノ酢酸などの薬剤が特定されているが、これらの薬剤は、PTP1BとTCPTPとの間の阻害活性に相違を示さない。さらに、TCPTPを阻害することに起因する潜在的な免疫抑制効果のため、TCPTPよりPTP1Bを選択的に阻害することにより、こうした非選択性に起因する望まれない副作用を減少又は排除することができるので、こうした薬剤は薬物開発により適したものになるであろう。
【0014】
[0014]したがって、PTP1Bの選択的阻害によって糖尿病を安全に治療することができる薬物が必要とされている。さらに、ニューロンPTP1Bが阻害されると、肥満した個人において、迅速な体重減少を誘発することができ、したがって、肥満の影響を治療して、神経変性又はアルツハイマー病も予防することができる。このタイプの薬物はまた、肥満に起因する合併症、すなわち、II型糖尿病における肥満、高血清コレステロール、(特にピックウィック症候群における)睡眠時無呼吸、及び非アルコール性脂肪性肝炎の治療、並びに肥満した患者のための手術に有用であろう。最後に、PTP1B阻害剤は、癌の治療にも有用であり得る。
【発明の概要】
【0015】
[0015]本発明は、タンパク質ホスファターゼ1B(PTP1B)を阻害する様々なアミノステロイドに関する。本発明はまた、これらのアミノステロイドを含有する組成物、及び哺乳動物、特にヒトにおける糖尿病を治療するためのその使用方法に関する。
【0016】
[0016]本発明の一態様は、酵素PTP1Bの阻害剤である以下の式のステロイド化合物、又は薬剤として許容されるその塩に関する。
【0017】
【化1】


(式中:
=−NH(CH1〜4−NH−R、−OH、=O、H、ピペラジン又はアミノピペリジン;
=(CH1〜4−NH−R、C〜Cアルキル、フェニル又はH;
=−(CH1〜4−N−R
=C〜Cアルキル、ベンジル、1〜3個のR基を有するベンジル又はH;
=−OH、−OCH、−C〜Cアルキル;
=−OH又はH;
=−OH又はH;
=−OH又はH;

【0018】
【化2】


10=H又はC〜Cアルキル)
【0019】
[0017]本発明の別の態様は、表1に列挙される化合物から選択される化合物又は薬剤として許容されるその塩である。
【0020】
[0018]本発明の別の態様は、表1に列挙される化合物と、希釈剤又は担体とを含む医薬組成物である。
【0021】
[0019]本発明の別の態様は、哺乳動物、特にヒトにおける糖尿病を治療又は予防する方法であって、前記哺乳動物に、治療有効量の上式の化合物又は表1に列挙される化合物を投与することを含む方法である。
【0022】
[0020]本発明の別の態様は、タンパク質チロシンホスファターゼPTP1Bの阻害によって仲介される、哺乳動物における障害を治療するための方法であって、それを必要とする哺乳動物に治療有効量の上式の化合物又は表1の化合物を投与することを含む方法である。
【0023】
[0021]例示的な実施形態では、上式の化合物又は表1の化合物の投与によって治療される障害には、II型糖尿病における肥満、高血清コレステロール、睡眠時無呼吸、及び非アルコール性脂肪性肝炎が含まれるが、それだけには限らない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】MSI−1701及び1873で処置したob/obマウスは、生理食塩水で処置した対照と比較して、空腹時血糖値が低いことを示す図である。
【図2】図3中のデータをもたらしたブドウ糖負荷試験のグラフである。
【図3】MSI−1701及び1873で処置したob/obマウスは、生理食塩水で処置した対照よりも、ブドウ糖負荷試験において有意に速く応答することを示す図である。
【図4】MSI−1436は、ラット視床下部において、IRβのインスリン刺激性チロシンリン酸化のレベルを増大させることができることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[0026]表1に列挙した化合物は、列挙した化合物の薬剤として許容されるすべての塩を含むことが意図される。さらに、任意の所与の炭素原子での立体化学が規定されていない場合、それぞれ個々の立体異性体及びラセミ混合物が包含されることが意図される。
【0026】
[0027]本発明のアミノステロイドは、単独で、又は医薬組成物の一部として投与することができる。本発明に従ってin vitro又はin vivoで使用するための医薬組成物は、活性化合物の、薬学的に使用することができる調製物への加工を容易にする賦形剤及び添加剤を含む、1種又は複数の生理的に許容される担体を使用して、従来の方式で製剤化することができる。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。担体又は賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、及びポリエチレングリコールなどのポリマーが挙げられるが、それだけには限らない。
【0027】
[0028]本発明の医薬組成物はまた、担体に加えて、安定剤、保存剤、及び/又は補助剤を任意選択で含むことができる。当業者に知られている典型的な担体、安定剤、及び補助剤の例については、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、Lippincott、Williams&Wilkins、第21版(2005)(その内容全体が参照によって組み込まれる)を参照のこと。
【0028】
[0029]任意選択で、当業者に知られている他の治療法を本発明のアミノステロイドの投与と組み合わせることができる。2種以上のアミノステロイドが、単一の組成物中に存在することができる。
【0029】
[0030]本発明のアミノステロイドのin vivo投与は、治療の過程全体を通して、単回投与、多回投与、連続的、又は断続的に実施することができる。用量は、単回用量又は分割された1日用量で、約0.01mg/kgから約10mg/kg、好ましくは約0.01mg/kgと約1mg/kg、最も好ましくは約0.1mg/kgと約1mg/kgとの間の範囲である。投与の最も有効な手段及び投薬量を決定する方法は、当業者によく知られており、治療に使用する組成物、治療の目的、治療する標的細胞、及び治療する対象によって変動することとなる。単回又は多回投与は、治療する医師によって選択される用量レベル及びパターンを用いて実施することができる。
【0030】
[0031]本発明のアミノステロイドを含有する医薬組成物は、経口、直腸、鼻腔内、(経皮、エアロゾル、眼、口内、及び舌下を含めて)局所、(皮下、筋肉内、静脈内を含めて)非経口、腹腔内、並びに肺を含めた、任意の適切な経路によって投与することができる。好ましい経路は、レシピエントの状態及び年齢、並びに治療される疾患によって変動することとなることが理解されよう。
【0031】
[0032]経口投与については、本発明のアミノステロイドは、これを、当分野でよく知られた薬剤として許容される担体と組み合わせることによって、容易に製剤化することができる。こうした担体によって、本発明の化合物は、治療する患者が経口摂取するための、錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ジェル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして製剤化できるようになる。経口使用のための医薬製剤は、活性化合物を固体賦形剤と組み合わせ、得られた混合物を任意選択ですりつぶし、必要に応じて適切な添加剤を加えた後、顆粒の混合物を加工し、錠剤又は糖衣錠コアを得ることによって得ることができる。適切な賦形剤としては、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、又はソルビトールを含めた、糖などの充填剤;トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース調製物、並びにポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤を加えることができる。
【0032】
[0033]吸入による投与については、本発明のアミノステロイドは、適切な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、又は他の適切なガスを用いる、加圧パック又はネブライザーからのエアゾールスプレー調製の形で送達されることが好都合である。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、一定量を送達するための弁を提供することによって決定することができる。該化合物とラクトース又はデンプンなどの適切な粉末ベースとの粉末混合物を含有する、例えば吸入器又は注入器で使用するためのゼラチンなどのカプセル及びカートリッジを調製することができる。
【0033】
[0034]アミノステロイドは、注入による非経口投与、例えば、ボーラス注射又は持続注入のために製剤化することもできる。注入のための製剤は、単位剤形で、例えば、アンプル中に、又は保存剤が添加された多回投与容器中に提供することができる。該組成物は、油性又は水性の媒体中の懸濁液、溶液、又はエマルジョンなどの形をとることができ、緩衝剤、静菌剤、懸濁剤、安定化剤、増粘剤、分散剤、又はそれらの混合物などの製剤化を含有することができる。
【0034】
[0035]非経口投与用の製剤としては、水溶性の形の活性化合物の水溶液が挙げられる。さらに、活性化合物の懸濁液を、適切な油性の注射用懸濁液として調製することもできる。適切な親油性溶媒又は媒体としては、ゴマ油などの脂肪油、又はオレイン酸エチル若しくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、又はリポソームが挙げられる。水性の注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストランなどの、懸濁液の粘度を増大させる物質を含有することができる。任意選択で、懸濁液はまた、適切な安定剤、又は調製化合物の溶解度を増大させて高度に濃縮された溶液の調製を可能にする作用剤を含有することもできる。好ましい実施形態では、本発明のアミノステロイドを、デキストロースなどの5%糖溶液に溶解した後、非経口的に投与する。
【0035】
[0036]注射のために、本発明のアミノステロイドを、水溶液中に、好ましくは、ハンクス液、リンガー液、又は生理食塩緩衝液などの生理的に適合性のある緩衝液中で製剤化することができる。経粘膜投与については、透過すべき障壁に適した浸透剤を、製剤中に使用する。こうした浸透液は一般に、当技術分野で知られている。
【0036】
[0037]該アミノステロイドを、例えば、カカオバター又は他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を含有する、坐剤又は保留浣腸などの直腸用組成物中に製剤化することもできる。
【0037】
[0038]該アミノステロイドを、少なくとも1つのさらなる治療剤と組み合わせることもできる。
【0038】
[0039]さらなる説明を行わなくとも、当業者は、前述の説明及び以下の実例を使用して、本発明の化合物を作製及び利用し、特許請求された方法を実施できると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に指し示すものであり、いかなる形であれ、開示の残部を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0039】
[0040]実施例1−ステロイド類似体によるPTP1Bの阻害
[0041]ステロイド類似体を、市販品として入手できる完全長のチロシンホスファターゼPTP1Bの阻害について試験した。10μMのステロイド類似体の存在下で、PTP1Bの活性を阻害する各類似体の能力を測定した。この分析は、パラ−ニトロ−フェニル−ホスフェート(pNPP)、すなわち、ホスファターゼ活性を評価するための非特異的基質を使用する。ホスファターゼ活性は、pNPPのP−ニトロフェノール(pNP)への加水分解を触媒するPTP1Bの能力に基づいていた。活性は、405nmでの単一点分光吸光度(single point spectrophometric absorbance)(色素性生成物であるパラニトロフェノール(pNP)の吸光度)を使用して測定した。阻害剤の非存在下で観察される最大応答のpNP形成に対する、阻害剤の存在下でのpNP形成の部分応答によって、ステロイド類似体によるチロシンホスファターゼ活性の阻害率を決定した。これらの分析の結果を、表1、C列に示し、これは、5μM濃度で50%よりも大きい阻害を引き起こす多くの類似体を示す。
【0040】
[0042]実施例2−ステロイド類似体によるTCPTPの阻害
[0043]ステロイド類似体を、免疫応答の阻害によるその潜在毒性の指標としての、チロシンホスファターゼTCPTPを阻害するその能力についても試験した。TCPTP阻害アッセイは、酵素として完全長TCPTPを使用し、阻害剤が200μMの濃度であったこと以外は、PTP1B分析と同様に行った。TCPTP阻害分析の結果を、表1、D列に示し、これは、20倍高い濃度でさえ、阻害されるTCPTPが50%未満である3つの化合物を示す。
【0041】
[0044]実施例3−糖尿病マウスにおける体重、血糖値、及び経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)に対するステロイド類似体の影響
[0045]ステロイド類似体のin vivoでの有効性を決定するために、Db/db(Leprdb)マウスモデルを使用した。Db/dbマウスは、抗糖尿病薬剤のスクリーニングのために広範囲に使用されている。Db/dbマウスを、ip注入により、合計4回の投与について、3日おきに、生理食塩水、又は5若しくは10mg/kgのステロイド類似体で処置した。研究中の各群について、体重、糖耐能、及び空腹時血中糖値を測定した。各群のNは、少なくとも4匹であった。すべての試薬及び実験動物は、市販品として入手できる。
【0042】
[0046]体重測定は、試験第0日に開始し、各群について毎日、30日間まで行った。試験第0日の元の体重に対して、試験第X日の体重の部分応答としての体重の変化の割合を算出した。体重の減少を示す動物は、下の実施例4でMSI−1436について示すように、ステロイド類似体がニューロンPTP1Bを阻害していることを示唆する。表1、G列は、いくつかの1436類似体についての体重の変化(%)を示す。MSI−1431は、1436と同様に、体重減少を引き起こすが、1701及び1873は、PTP1Bを阻害することが可能であるが、体重減少を引き起こさないことがわかる。
【0043】
[0047]試験第13日目に、すべての動物群を、終夜、絶食させた。試験第14日目に、25μLの全血を収集し、ブドウ糖分析器を使用して、ブドウ糖レベル(mg/dL)について分析した。生理食塩水対照と比較したFBGレベルの有意な減少を、図1及び表1、D列に、MSI−1431、1436、1701、1814、及び1873について示す。
【0044】
[0048]また、試験第14日目に、糖耐能を評価するためにOGTTを実施した。時間0で、経口ブドウ糖チャレンジ(1.5g/kg)を、経口胃管栄養法によって投与した。ブドウ糖負荷後0、15、30、60、90、120分の時点で、25μlの全血を動物の尾静脈から採取し、ブドウ糖分析器を使用して、ブドウ糖レベルを測定した。時間に対してブドウ糖濃度をプロットした(図2)。ブドウ糖変動の時間曲線の基線上曲線下面積(ABAUC)を台形則分析を使用して決定した。生理食塩水対照と比較したABAUCの有意な減少(p<0.05)を、図3及び表1、F列に、MSI−1431、1436、1701、1814、及び1873について示す。
【0045】
[0049]実施例4 ラット視床下部におけるIR−βのリン酸化に対するMSI−1436の影響
[0050]雄SDラットを、1群4匹のラットを含む8群に分けた。すべてのラットに、通常のげっ歯類食及び通常の水道水を無制限に与えた。第0日目に、ラットに、10mg/kgのMSI−1436又は0.9%生理食塩水を、腹腔内(i.p.)注入で投与した。ラットを、第0日目から第1日目まで終夜絶食させた。1日目に、動物に、0.9%生理食塩水又は100U/kgのインスリンをi.p.で投与した。投与の15又は30分後に(第1日目)、動物を屠殺し、視床下部を採取し、1.5mLのエッペンドルフ管に移し、液体窒素で凍結させた。さらなる分析まで、サンプルを−80℃で保管した。視床下部をプールし(群あたり3〜4個)、2mLのホイートン(Wheaton)バイアル及びダンス型(Dounce)ホモジェナイザー中で、ホスファターゼ及びプロテアーゼ阻害剤を加えた1mLの組織抽出試薬中でホモジナイズした。ライセートを、4℃で10分間遠心分離し(14,000rpm)、上清を新しい1.5mLエッペンドルフ管に移した。ライセート(500μg)は、4℃でインスリン受容体βについて終夜、免疫沈降させた。次いで、これらのサンプルを、標準のプロトコルに従って、4℃で4時間、プロテインAに結合させた。次いで、サンプルを、RIPA/エンピゲン(Empigen)緩衝液で4回洗浄し、4×LDSサンプル緩衝液中に溶出させた。溶出後、サンプルを、5分間95℃で煮沸した。
【0046】
[0051]各サンプルからの500μgの全タンパク質を、1.5mmの4〜12%ビス−トリス・ノベックス(Novex)ゲル上に装填し、1×MOPS緩衝液中で、約1時間175Vで流した。ゲルは、ノベックス転写ブロット装置中で、4℃及び10Vでニトロセルロース膜に終夜転写し、翌朝、室温で1時間、5%BSA中でブロッキングした。次に、この膜を、1%BSA中に1μg/μLに希釈した抗pTyr 4G10一次抗体中で、室温で2時間保温した。TBST中で3回の10分間洗浄した後、この膜を、1%BSA中に1:80,000に希釈したヤギ抗マウス二次抗体中で、室温で1時間保温した。最後に、この膜を、TBST中で3×10分、ピコ純水中で5×2分洗浄し、スーパーシグナルウェストピコ(SuperSignal West Pico)ECL試薬を使用して顕色させた。膜は、様々な時点でフィルムに露出させた。関心が持たれているバンドの濃度測定分析を、イメージJ(ImageJ)を使用して実施した。IRβバンドに対するpTyr−IRβバンドの比を、エクセル(Excel)で計算し、IRリン酸化の倍率変化を決定した。データは、MSI−1436での処置が、視床下部におけるインスリン刺激されたIR−βで認められるホスホチロシンの量をほぼ2倍にすることを示す(図4)。この場合に推測されるのは、MSI−1436が、血液脳関門を視床下部へと通過し、PTP1Bに対する阻害によって、IR−β上の蛍光体−チロシンの量を増大させたということである。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

【0056】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群から選択される化合物又は薬剤として許容されるその塩。
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


【化7】

【請求項2】
請求項1に記載の化合物と、薬剤として許容される希釈剤又は担体とを含む医薬組成物。
【請求項3】
哺乳動物における糖尿病を治療するための方法であって、それを必要とする哺乳動物に治療有効量の次式の化合物、又は薬剤として許容されるその塩を投与することを含む方法。
【化8】


(式中:
=−NH(CH1〜4−NH−R、−OH、=O、H、ピペラジン又はアミノピペリジン;
=−(CH1〜4−NH−R、C〜Cアルキル、フェニル又はH;
=−(CH1〜4−N−R
=C〜Cアルキル、ベンジル、1〜3個のR基を有するベンジル又はH;
=−OH、−OCH又は−C〜Cアルキル;
=−OH又はH;
=−OH又はH;
=−OH又はH;

【化9】


10=H又はC〜Cアルキル)
【請求項4】
哺乳動物における糖尿病を治療するための方法であって、それを必要とする哺乳動物に治療有効量の請求項1に記載の化合物、又は薬剤として許容されるその塩を投与することを含む方法。
【請求項5】
糖尿病がI型糖尿病である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
糖尿病がII型糖尿病である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質チロシンホスファターゼPTP1Bの阻害によって仲介される、哺乳動物における障害を治療する方法であって、それを必要とする哺乳動物に治療有効量の次式の化合物、又は薬剤として許容されるその塩を投与することを含む方法。
【化10】


(式中:
=−NH(CH1〜4−NH−R、−OH、=O、H、ピペラジン又はアミノピペリジン;
=−(CH1〜4−NH−R、C〜Cアルキル、フェニル又はH;
=−(CH1〜4−N−R
=C〜Cアルキル、ベンジル、1〜3個のR基を有するベンジル又はH;
=−OH、−OCH又は−C〜Cアルキル;
=−OH又はH;
=−OH又はH;
=−OH又はH;

【化11】


10=H又はC〜Cアルキル)
【請求項8】
タンパク質チロシンホスファターゼPTP1Bの阻害によって仲介される、哺乳動物における障害を治療する方法であって、それを必要とする哺乳動物に治療有効量の請求項1の化合物を投与することを含む方法。
【請求項9】
障害が、肥満、高血清コレステロール、睡眠時無呼吸、及び非アルコール性脂肪性肝炎から選択される、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
肥満が、II型糖尿病に関連する請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−538072(P2010−538072A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524047(P2010−524047)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/010455
【国際公開番号】WO2009/032321
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(505175799)ジェナエラ コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】