説明

糖質摂取制限食用素材

【課題】糖質摂取制限食用素材であるように、糖質を高める乳成分(乳糖)を配合することなく糖質摂取制限がされており、しかも長期間常用しても安全性の高い成分のみで構成される糖質摂取制限食用素材もしくは糖質摂取制限食用素材からなる麺類、餅または饅頭類の包皮に用いる食用生地・菓子生地・発酵生地もしくはパンまたはこのような糖質摂取制限食用素材の製造方法とすることである。
【解決手段】メトキシル基含有量7重量%未満の低メトキシルペクチン(LMペクチン)、麦類の外皮粉及び小麦グルテンなどのグルテンを必須成分として含有する糖質摂取制限食用素材とし、それらの麦類の外皮粉に対するグルテンの配合重量比が、8:2から4:6の範囲とする。更に、麦類の外皮粉及び小麦グルテンなどのグルテンの合計量に対し、メトキシル基含有量7重量%未満の低メトキシルペクチンを1〜3重量%含有する水溶液の混合割合が、重量比で6:4から3:7の範囲となるように混和して生地を製造する。LMペクチンがゲル化して保水性および増粘性を発揮する際に必要な2価の金属イオンとして、麦類の外皮粉に豊富に含まれるカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンが利用され、乳成分(乳糖及びカルシウムイオン含有)などの糖質の上昇を招く成分の添加を必要としない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、糖尿病患者用の食材やダイエットに適した糖質摂取制限のための食用素材に関し、例えばこのような糖質摂取制限食用素材を用いた麺類、餅または饅頭類の包皮に用いる食用生地、菓子生地、発酵生地もしくはパン、またはこのような糖質摂取制限食用素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低糖質のふすま入りパンなどの食品を作る技術として、食感に影響の大きい保水性を保持するために、オオバコの種皮粉末(サイリウム)を使用することが知られている(特許文献1)。
【0003】
この特許文献1に記載された食品では、実質的に澱粉などの糖質を含有しない食品素材とするために、素材を焙煎することによって糖質を含まない焙煎されたふすまを使用し、さらに繋ぎの役目をする材料として、植物性タンパクであるグルテンを用いている。また、発酵のためイースト菌の栄養源として牛乳に含まれる乳糖を利用している。
【0004】
また、「ペクチンの製パン性に関する研究」と言う論文が公知であり、これは強力小麦粉に0.5〜1.5重量%のペクチンを添加した小麦粉を使用して、(i)ペクチン添加小麦粉の水分吸着量、(ii)起泡容量、(iii)ローフボリューム、(iv)ペクチンを添加した各パンのローフボリュームと、各小麦粉生地の圧縮に対する応力、各小麦粉生地の附着性との関係について研究がなされたものである(非特許文献1)。
【0005】
非特許文献1では、使用されたペクチン(和光純薬社製:164−00552)は、おそらくメトキシル基3.0〜7.0重量%程度の低メトキシルペクチン(LMペクチン)に、分類されるものであると考えられる。
【0006】
因みに、非特許文献1に記載された市販強力小麦粉(日清製粉(株)カメリア)100g中の成分は、タンパク質12g、脂質1.8g、炭水化物72gであり、また添加されたスキムミルクは雪印乳業社製であって、その100g中の成分はタンパク質36.3g、脂質0.6g、炭水化物51.5g、カルシウム1200mgである。さらに、砂糖が添加されており、小麦粉、スキムミルク中の炭水化物及び砂糖がパン生地の糖質を増加させている。
【0007】
一例としてパン用原料配合を、強力小麦粉200g、砂糖12g、塩4g、スキムミルク4g、ドライイースト2g、水144mlとすれば、これらの材料から得られるパン生地の糖質は、計算により約43重量%となる。
【0008】
【特許文献1】特許第3687049号公報
【0009】
【非特許文献1】「ペクチンの製パン性に関する研究」、筒井知己 金井節子:聖徳栄養短期大学紀要No.27、1996年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記した従来技術の特許文献1に記載される技術では、毎日のように摂取するパンのような食品素材に、オオバコ種皮(サイリウム)粉末を配合するのは不適切であると考えられる。
【0011】
その理由は、厚生労働省のホームページ(「健康食品」の素材情報データベース)の「オオバコ」についての説明
(http://www.nih.go.jp/eiken/hfnet_mirror/contents/detail.php%3Fno=122&mode=normal.html)にも記載されているように、オオバコ種皮(サイリウム)粉末は、日常的に多量に摂取するパンに、食品添加物として使用されることが適当なものとはいえず、一般的な主食として、長期間日常的に摂取するような場合には充分に安全性の高い成分であるとはいえないものだからである。
【0012】
上記の「オオバコ」について記載されたホームページには、以下の1〜7の記載もある。1)アレルギーの可能性、2)禁忌対象者:腸に障害を有するもの、I型かII型の判別が難しい糖尿病者、3)鉄の吸収抑制、4)オオバコの長期摂取による一般の食品からの栄養素(ビタミン、ミネラルなど)の吸収抑制、5)オオバコはII型糖尿病患者の血糖値を低下させるため、糖尿病薬を併用した場合に薬剤の効果を増強する可能性がある、6)米国ハーブ製造協会においてオオバコはクラス2d(特定の使用制限のあるハーブ)に分類されている、7)妊婦には使用を避けたほうが良いという報告もある。
【0013】
また、前記した特許文献1には、焙煎により食品素材のデンプンは除去されると記載されているが、ふすまを焙煎すると、濃縮した糖質が生成されることから、これをグルテンの残留糖質と合わせてイーストの発酵に利用している。
【0014】
因みに、イーストは乳糖を分解できず、特許文献1の食品素材にはラクターゼが存在しないので、これではイーストが利用可能なブドウ糖が生産されない。特許文献1の食品素材でイーストが発酵している理由は、焙煎ふすま(例えば日清ファルマ社製の小麦ふすま)の濃縮された約19重量%の糖質と、グルテン(例えば協和発酵フーズ社製のレギュラーグルテンA)の約8.5重量%の糖質とが利用されているからであると推察される。
【0015】
また、特許文献1では多量の牛乳が用いられており、これにより食品素材中の糖質(乳糖)が上昇していると考えられ、結果的には糖質摂取制限食用素材の低糖質性を阻害している。
【0016】
例えば、特許文献1の実施例5において、食品素材の総合計重量は、ふすま60部に対しグルテン40部、さらに牛乳90部を加え、バター10部とで約200部になっている。それに基づいて糖質量を計算すると、約9.4重量%[{(60×0.190)+(40×0.085)+(90×0.045)}÷200≒0.094]になり、さらに焼き上げると、水分が全重量に対し、少なくとも約10重量%が蒸発するので9.4÷0.9≒10.4重量%という糖質値となる(但し、バターの糖質は、1重量%未満であるから未算入である)。
【0017】
一方、厚生労働省によって低糖質食の表示が許可されているのは、100g中の糖質が5g以下のものである。このように、特許文献1に記載された糖質摂取制限食用素材は、糖質(乳糖)量が多く充分に糖質摂取制限食用素材として改善された食用生地であるとはいえない。
【0018】
次に、非特許文献1に記載されたペクチンは、製パン性について、マグネシウムやカルシウムといった二価の金属イオンを添加すればゼリー化し、このものは増粘性や乳化安定性を発揮するものである。しかし、非特許文献1には、上述のようにスキムミルクと併用して添加することしか開示されておらず、本願の発明のように糖質量を増加させないようにして糖質摂取制限食用素材を製造する場合に、スキムミルク(カルシウムイオン含有)と併用せずに、麦類の外皮粉に豊富に含有するカルシウムイオン及びマグネシウムイオンを利用し、ペクチンをゼリー化して用いることは、非特許文献1から推察する事は困難である。
【0019】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、糖質を高める乳成分(乳糖)を配合せずに糖質摂取制限ができるものであり、しかも長期間常用しても安全性の高い成分のみで構成される糖質摂取制限食用素材からなる麺類、餅または饅頭類の包皮に用いる食用生地とし、もしくはこれを用いた菓子生地、発酵生地もしくはパンまたはこのような糖質摂取制限食用素材の製造方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決するために、この発明では、メトキシル基含有量7重量%未満の低メトキシルペクチン(以下、LMペクチンと略記する。)、麦類の外皮粉及び小麦グルテンなどのグルテンを必須成分として含有する糖質摂取制限食用素材としたのである。
【0021】
上記したように構成されるこの発明の糖質摂取制限食用素材は、LMペクチンがゲル化して保水性および増粘性を発揮する際に必要な2価の金属イオンとして、麦類の外皮粉に豊富に含まれるカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンが利用され、2価の金属イオンとして乳成分(カルシウムイオン及び乳糖含有)などの糖質(乳糖)を上昇させる成分の添加を必要としない。また、麦類の外皮粉および小麦グルテンなどのグルテンに含有されている糖質はデンプンであり、これはイーストの栄養源として利用可能なものであり、その発酵に際して必要なアミラーゼは麦類の外皮粉に含まれている。
【0022】
このように上記の低糖質成分のみにより、小麦グルテンなどのグルテンが焼き菓子やパンなどの食用素材として充分に満足できる食感と、糖尿病患者用の食材やダイエットに適した低糖質性を備えた糖質摂取制限食用素材が得られる。
この発明に用いられる小麦ふすまなどの麦類の外皮粉、小麦グルテンなどのグルテン、LMペクチンは、既にそれぞれ長期間使用されてきたものばかりであり、これら材料を組み合わせた食品素材についても長期的に安心して摂取できるものと言える。
【0023】
上記のように優れた特性を有する糖質摂取制限食用素材として、より充分に好ましい食感が得られるように、麦類の外皮粉に対する小麦グルテンなどのグルテンの配合重量比が、8:2から4:6の範囲である糖質摂取制限食用素材としたものを採用できる。すなわち、麦類の外皮粉および小麦グルテンなどのグルテンの総重量中、グルテンが20重量%未満では、食品素材の成形が作業性よく行ない難くなり、また食感もパサパサとして硬くなり好ましくない。また、グルテンが60重量%を超える多量では、弾力が強くなりすぎて塑性変形させ難くて成形が困難になって好ましくない。
【0024】
このような糖質摂取制限食用素材からなる好ましい態様としては、麺類、餅または饅頭類(皮で餡を包んだ食品であり、ギョーザ、シュウマイなどの包子も含めていう)の包皮に用いる糖質摂取制限食用の食用生地であり、または糖質摂取制限食用の菓子生地であり、さらにこのような糖質摂取制限食用素材にイーストを添加して発酵させてなる発酵生地が挙げられる。上記の糖質摂取制限食用発酵生地を成形し、焼成してパンを製造することもできる。
【0025】
上記の糖質摂取制限食用素材の製造方法としては、麦類の外皮粉及び小麦グルテンなどのグルテンの合計量に対し、メトキシル基含有量7重量%未満の低メトキシルペクチンを1〜3重量%含有する水溶液の混合割合が、重量比で6:4から3:7の範囲となるように混合して生地を製造する糖質摂取制限食用素材の製造方法、好ましくはパン生地の製造方法を採用することができる。
LMペクチン1〜3重量%水溶液の配合量が上記重量比の範囲未満、すなわちLMペクチン1〜3重量%水溶液が、麦類の外皮粉および小麦グルテンなどのグルテンの総重量中40重量%未満では、生地が硬く弾力性を失い、多数のクラックが入りクラック部よりイーストから発生した炭酸ガスは飛散してしまい、生地は膨化しない。また、LMペクチン1〜3重量%水溶液の配合量が上記重量比の範囲を超える多量、すなわちLMペクチン1〜3重量%水溶液が、麦類の外皮粉および小麦グルテンなどのグルテンの総重量中70重量%を超えて多量に配合すると、生地が軟らかく過ぎ、イーストから発生した炭酸ガスは生地表面上に集まり飛散しまい、生地は膨化しないので好ましくない。
【発明の効果】
【0026】
この発明は、LMペクチン、麦類の外皮粉及び小麦グルテンなどのグルテンを必須成分として含有する糖質摂取制限食用素材としたので、糖質を高める乳成分(乳糖)を配合することなく糖質摂取制限がされており、しかも長期間常用しても安全性の高い成分のみで構成される糖質摂取制限食用素材からなる麺類、餅または饅頭類の包皮に用いる食用生地、もしくは糖質摂取制限食用素材を用いた菓子生地、発酵生地もしくはパンまたはこのような糖質摂取制限食用素材の製造方法となる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
この発明の実施形態は、LMペクチン、麦類の外皮粉及び小麦グルテンなどのグルテンを必須成分とするパン生地などの糖質摂取制限食用素材とする。
麦類の外皮粉に対する小麦グルテンなどのグルテンの配合重量比は8:2から4:6で用途に応じ使い分ける。例えば、パン生地の様な中間的な粘度の場合、麦類の外皮粉および小麦グルテンなどのグルテンの総重量に対しグルテンが40〜50重量%が適量である。
【0028】
この発明で用いる麦類の外皮粉は、主成分が食物繊維である小麦粒の表皮を使用したものであり、焙煎したものであってもよく(ただし糖質は濃縮される。)、またはそのような加熱処理(焙煎)をされていないものであってもよい。要するに、低糖質パンの生地等に用いる糖質摂取制限食用素材を作成する際に、小麦粒から可能な限り糖質(デンプン)をなくしたものが採用されるべきであり、好ましくは、市販の麦類の外皮粉の中でも残留糖質が少ない埼玉県産農林61号の小麦の外皮粉(残留糖質7.9重量%)を採用することが推奨され、その他にもライ麦、オート麦などを含む穀物の外皮(ふすま)を採用することもできる。
【0029】
このような麦類の外皮粉(小麦、ライ麦、オート麦などから得られる「ふすま、ブラン(Bran)」)には、2価の金属イオンとして、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンが豊富に含まれている。
【0030】
この発明に用いるグルテンは、主として小麦由来であるが、必要に応じてライ麦、オート麦などを含む穀物の胚乳内の貯蔵タンパク質であるグリアジンとグルテニンを、水分の介在下で反応させて得られたものである。この発明に使用することが好ましい市販の小麦グルテンなどのグルテンとしては、特に残留糖質が少ない協和発酵フーズ社製のレギュラーグルテンA(残留糖質8.5重量%、粉状)を採用することが好ましい。
このような麦類の外皮粉、小麦グルテンなどのグルテンに含有する糖質はデンプンであり、それはイーストの栄養源として利用され、発酵に際し必要なアミラーゼは、麦類の外皮粉に含まれている。
【0031】
この発明は麦類の外皮粉及び小麦グルテンなどのグルテンを主要成分とし、それらにLMペクチンを添加する。その際に、LMペクチン粉のダマ化を避ける為、この発明に用いるLMペクチンは、熱湯水(約90℃以上)をLMペクチン粉に加えて加熱溶解後、常温まで冷却し、1〜3重量%LMペクチン水として使用することが好ましい。また、麦類の外皮粉及び小麦グルテンなどのグルテン粉とLMペクチン粉を一緒に予め良く混合し、この混合粉に水を加えてもLMペクチン粉のダマ化を避けることができる。
【0032】
この1〜3重量%LMぺクチン水は、麦類の外皮粉、小麦グルテンなどのグルテンおよびLMペクチン1〜3重量%水溶液の総重量に対して40重量%から70重量%で用途に応じ使い分けることができるが、パン生地の場合50〜60重量%が適量である。この発明においては、麦類の外皮粉に豊富に含有されているカルシウムイオン及びマグネシウムイオンを利用してLMペクチン水をゲル化することができる。
【0033】
因みに、ペクチンは大きく分けてHMペクチン、LMペクチンに二分類され、前者のHMペクチンは糖度55重量%以上かつPH3.0付近でゲル化するのに対して、後者のLMペクチンは糖度、PHに関係なく金属二価イオン(Caイオン、Mgイオン等)の存在下でゲル化する。すなわち、HMペクチンはゲル化するのに多量の糖(糖度55重量%以上)を必要とするのに対し、LMペクチンは金属二価イオン(Caイオン、Mgイオン等)を必要とし糖は必ずしも必要でない。
【0034】
麦類の外皮粉、小麦グルテンなどのグルテン(粉状)の混合物に対し、LMペクチン水を加え捏ね合わせた物の色彩はベージュ色で人の耳たぶの様な柔らかさを持ち、デンプン(糖質)を使用して作られる色々な食品生地となんら相違はない。
【0035】
パン生地などの糖質摂取制限食用素材を低糖質に仕上げるために必要最低限の構成素材として、麦類の外皮粉であるふすま粉末(例えば小麦粒の表皮部分:埼玉県産農林61号の小麦の外皮粉:糖質7.9重量%)、小麦グルテンなどのグルテン粉(例えば小麦等の植物性タンパク:協和発酵フーズ社製のレギュラーグルテンA:糖質8.5重量%)、及びLMペクチン粉(例えばリンゴ由来:ユニテックフーズ社製のUNIPECTINE LM SN325:糖質20重量%)の3素材を利用できる。
【0036】
得られた糖質摂取制限食用素材は、例えばイースト、オリーブ油、食塩を加え発酵、成形しパンやピザとして焼き上げる。またはイーストを加えないでオリーブ油、食塩を加え成型してパスタ生地とし、またはオリーブ油の代わりにバターと卵を加え成形しクッキーとして焼き上げてもよい。
【0037】
また、これらに重曹を加えればケーキ生地となり、焼き上げればスポンジが得られる。イーストを加えないで、食塩を添加してそのまま捏ねてうどん生地、もち生地、中華麺生地、その他の生地(餃子、シュウマイ、肉まん、あんまん、饅頭等)にする。
【0038】
さらに用途に応じ、風味を付ける意味で牛乳の追加(ケーキ、クッキー)、油脂、卵、甘味料、食塩を使用する。油脂としてはオリーブ油、バター等であり、甘味料としてはカロリーゼロのラカント、ステビア、アスパラテーム等を使用しても良い。
【0039】
このようにして使用されるLMペクチンと、麦類の外皮粉(例えば小麦ふすま)と、小麦グルテンなどのグルテン(例えば小麦グルテン)からなるパン生地などの糖質量は、後述する様に、計算により約3.6重量%程度になる。これは、一般的なパン生地の糖質が前述のように約43重量%であるのに対し、約十分の一以下の低糖質(約3.6重量%)である。
【0040】
イーストを発酵させる為には、麦類の外皮粉、小麦グルテンなどのグルテン粉及びLMペクチン粉に含有している糖質を利用し、すなわち、残留デンプン(麦類の外皮粉及び小麦グルテンなどのグルテンに含有)及び残留アミラーゼ(麦類の外皮粉に含有)を利用する。
【0041】
また、LMペクチン水をゲル化させるための金属二価イオンとして、麦類の外皮粉中に豊富に含有するカルシウムイオン及びマグネシウムイオンを相補的に利用し合い、カルシウムイオン源として糖質の上昇を招くスキムミルク(乳糖)や牛乳(乳糖)を使用せずに保水性保持された低糖質パンとする。
【0042】
なお、LMペクチンに含まれる糖質は、20重量%であるが使用量は大変少ない。それに対し、麦類の外皮粉(例えば小麦ふすま)、小麦グルテンなどのグルテン(例えば小麦グルテン、粉状)の糖質は、一例を挙げればそれぞれ7.9重量%、8.5重量%であり、生地の大部分の糖質が麦類の外皮と小麦グルテンなどのグルテン素材より除去出来なかったデンプン(糖質)由来である。この糖質を利用してパン生地、ピザ生地を発酵させ焼き上げる。
【0043】
例えば、2重量%LMペクチン水100gに対し、麦類の外皮粉(例えば小麦ふすま)40g、小麦グルテンなどのグルテン粉(例えば小麦グルテン)30gを加えることにより得られる生地にはそれぞれの糖質0.40g、3.16g、2.55gの合計6.11gの糖質が含まれる。この糖質は、生地全重量の3.6重量%に当たるが、焼き上げることにより、パン、ピザ(クッキーについても同じ)などでは10〜20重量%の水分が蒸発するので、3.6/0.9または3.6/0.8の計算値から4.0〜4.5重量%の低糖質パンやピザが得られることになる。
【0044】
この様にこの発明の糖質摂取制限食用素材を用いて得られるパンやピザの糖質は、例えば4.0〜4.5重量%以下になる。厚生労働省が低糖質食の表示を許可しているのは、100g中糖質が5g以下のものであり、本発明の食品素材は低糖質食と言えるものである。
【0045】
発酵の必要がないパスタ、クッキー、うどん生地、もち生地、中華麺生地、その他の生地(餃子、シュウマイ、肉まん、あんまん、饅頭等)においてはイーストを添加せず、膨化の必要なケーキには重曹を使用する。
【0046】
これらには風味付けのため、用途に応じ牛乳(糖質約4.5重量%前後:乳糖)、卵、バター(糖質約1重量%以下)、オリーブ油、食塩等を使用し、甘味が必要な場合は糖質ゼロの甘味料であるラカント、ステビア、アスパラテーム等を使用してもよい。なお、食事パン用にはハーブとしてフェンネル、コリアンダー、キャラウェイ等を加えれば更に風味が増す。
【実施例1】
【0047】
[2%LMペクチン水の調製]
LMペクチン粉のダマ化を避けるために、LMペクチン粉2gに対して熱湯水(約90℃以上)100gを加え加熱溶解後常温に冷却し、2重量%のLMペクチン水約100gを得た。
[パンまたはピザ、糖質摂取制限食用発酵生地]
2重量%LMペクチン水100gに対し、小麦の外皮粉(ふすま)40gと小麦グルテン粉30gを加え、更に発酵させる為にイースト3g、風味の為に塩2g、オリーブ油5g等を必要に応じ加え約10〜20分捏ねた。この様にして出来上がった糖質摂取制限食用発酵生地であるパン又はピザ生地を成形し、室温(25℃〜30℃)で約一時間前後発酵させた後、200℃に予備加熱したオーブンで約18分放置し、糖質が約4.0〜4.5重量%の低糖質パンやピザを焼き上げた。
【実施例2】
【0048】
[麺類(パスタ)]
2重量%LMペクチン水100gに対し、小麦の外皮粉(ふすま)40gと小麦グルテン粉50gを加え、風味付けのため、塩2g、オリーブ油5g、全卵1/3個等を必要に応じ加えて約10〜20分捏ね、糖質が約4.1重量%のパスタ生地を得た。
【実施例3】
【0049】
[焼き菓子(クッキー)]
2重量%LMペクチン水100gに対し、小麦の外皮粉(ふすま)40gと小麦グルテン粉20gを加え約5分前後捏ねた。風味付けのため、塩1g、バター10g、卵黄二分の一ヶ、甘味を出すため、ラカント、アスパラテーム、ステビア等の甘味料を加えた。更に牛乳を適量必要に応じ加えた。この様にして出来上がったクッキー生地を成型「成形」し、180℃に予備加熱したオーブンで約30分放置し焼き上げ、糖質が約3.7〜4.1重量%のクッキーを製造した。
【実施例4】
【0050】
[焼き菓子(ケーキ)]
2重量%LMペクチン水100gに対し、小麦の外皮粉(ふすま)40gと小麦グルテン粉10g、及び生地の膨化の為重曹を1g加えて約5分前後捏ねた。風味付けのため、塩1g、バター10g、卵黄二分の一、甘味を出す為、ラカント、アスパラテーム、ステビア等の甘味料を加えた。更に牛乳を適量必要に応じ加えた。このようにして出来上がったケーキ生地を成形し、180℃に予備加熱したオーブンで約30分放置し、糖質が約3.2〜3.6重量%のケーキを焼き上げた。
【実施例5】
【0051】
[麺類(うどん)]
2重量%LMペクチン水100gに対し、小麦の外皮粉(ふすま)40gと小麦グルテン粉50g及び塩2gを加え、10〜20分捏ねた。この様にして出来上がったうどん生地は、周知の手法により裁断し、糖質が約4.1重量%の麺を得た。
【0052】
[オート麦ふすまパン(オートブランブレッド)]
2重量%LMペクチン水100gに対し、オート麦ふすま粉40gと小麦グルテン粉30gを加え、更に発酵させるためにイースト3g、風味の為に塩2g、オリーブ油5g等を必要に応じ加え約10〜20分捏ねた。この様にして出来上がった糖質摂取制限食用発酵生地であるパンを成形し、室温(25℃〜30℃)で約一時間前後発酵させた後、200℃に予備加熱したオーブンで約18分放置し、糖質が約4.0〜4.5重量%の低糖質のオート麦ふすまパンを焼き上げた。
【0053】
このようにして得られた各実施例の食品は、いずれも安全性の高い成分のみで構成される糖質摂取制限食用素材からなるものであり、充分に満足できる食感と、糖尿病患者用の食材やダイエットに適した低糖質性を備えたものであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトキシル基含有量7重量%未満の低メトキシルペクチン、麦類の外皮粉及びグルテンを必須成分として含有する糖質摂取制限食用素材。
【請求項2】
麦類の外皮粉に対するグルテンの配合重量比が、8:2から4:6の範囲である請求項1に記載の糖質摂取制限食用素材。
【請求項3】
麦類の外皮粉が、小麦ふすまである請求項1または2に記載の糖質摂取制限食用素材。
【請求項4】
グルテンが、小麦グルテンである請求項1または2に記載の糖質摂取制限食用素材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の糖質摂取制限食用素材からなる麺類、餅または饅頭類の包皮に用いる食用生地。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の糖質摂取制限食用素材からなる菓子生地。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の糖質摂取制限食用素材にイーストを添加して発酵させてなる発酵生地。
【請求項8】
請求項7に記載の糖質摂取制限食用発酵生地を成形し焼成してなるパン。
【請求項9】
麦類の外皮粉及びグルテンの合計量に対し、メトキシル基含有量7重量%未満の低メトキシルペクチンを1〜3重量%含有する水溶液の混合割合が、重量比で6:4から3:7の範囲となるように混和して生地を製造する糖質摂取制限食用素材の製造方法。

【公開番号】特開2010−57394(P2010−57394A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224823(P2008−224823)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【特許番号】特許第4393566号(P4393566)
【特許公報発行日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(508265561)
【Fターム(参考)】