説明

紡機におけるドラフト装置の制御方法及び制御装置

【課題】起動時における糸むらの発生を抑制することができる紡機におけるドラフト装置の制御方法を提供する。
【解決手段】ドラフト装置11は、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14がそれぞれ独立して駆動モータ15,16a,16b,17a,17bにより駆動される。そして、少なくとも機台停止過程において、ドラフト装置11のブレーキドラフト比が定常運転時の所定の値より負荷トルクを低減するように変更される。機台の再起動過程において機台停止過程に変更されたブレーキドラフト比が元の値に復帰するように制御される。ブレーキドラフト比の変更は、ミドルボトムローラ13の速度を変更することにより行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機におけるドラフト装置の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リング精紡機や粗紡機等の紡機においては機台の長手方向に沿って多数の紡績錘を備えており、ドラフト装置は複数本のボトムローラを機台の一端側(ギヤエンド側)で駆動する。これらのボトムローラはその長さが非常に長いため、起動時にギヤエンドと反対側のアウトエンド側で捩れ遅れが発生する。特に各錘毎にエプロンが巻き掛けられたボトムエプロンローラ(ミドルボトムローラ)は捩れが大きくなり、捩れ遅れに起因して糸むらや糸切れが発生する場合がある。また、糸むらは起動時のボトムローラの捩れ遅れに起因するものだけではなく、停止期間中のボトムローラの捩れ戻りの挙動に起因して発生することがある。
【0003】
また、近年、高速のリング精紡機においてはスピンドルは25000回転/分程度の高速の回転速度で駆動されている。そして、巻き始めより2〜3分玉までの間の糸切れ等のトラブル防止と、高速回転で紡出される紡糸が所望の番手より細くなる糸ヤセを防止する精紡機の運転制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の制御方法では、ボビンに巻き取られる紡糸の巻取り度合を検出し、この巻取り度合に応じてスピンドルの回転速度を変化させるとともに、スピンドルの速度変動に対応してトータルドラフト比を変化させ、紡出される紡糸の番手変動を防止する。
【特許文献1】特開平2−269814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、紡出運転中にドラフト装置のドラフト比を本来の番手に対応したドラフト比ではないドラフト比に変更することは記載されている。しかし、その変更は、スピンドルの速度変動に対応してトータルドラフト比を変化させ、同一管糸内での番手変動を防止することを目的としている。従って、ドラフト装置のボトムローラの捩れに起因する糸むらの発生に関しては配慮がなされていない。
【0005】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は起動時における糸むらの発生を抑制することができる紡機におけるドラフト装置の制御方法及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、フロントボトムローラ、ミドルボトムローラ及びバックボトムローラがそれぞれ独立してモータにより駆動されるドラフト装置を備えた紡機におけるドラフト装置の制御方法である。そして、少なくとも機台停止過程において、前記ドラフト装置のブレーキドラフト比を定常運転時の所定の値より前記ドラフト装置の負荷トルクを低減するように変更する。ここで、「定常運転時の所定の値」とは、紡出条件の番手に対応して、ボトムローラの捩れを考慮せずに設定されたブレーキドラフト比を意味する。
【0007】
この発明では、ドラフト装置を構成する各ボトムローラがそれぞれ独立してモータにより駆動される。そして、少なくとも機台停止過程において、ドラフト装置のブレーキドラフト比が定常運転時の所定の値より前記ドラフト装置の負荷トルクを低減するように変更される。即ち紡出停止時にボトムローラを駆動するトルクが低減されるため、各ボトムローラを駆動するモータが停止した状態において、ボトムローラの捩れ戻りの量が少なくなる。その結果、機台停止中におけるボトムローラの捩れ戻りによる繊維の過剰送りが抑制され、機台の再起動時における糸むらの発生が抑制される。
【0008】
請求項2に記載の発明は、フロントボトムローラ、ミドルボトムローラ及びバックボトムローラがそれぞれ独立してモータにより駆動されるドラフト装置を備えた紡機におけるドラフト装置の制御方法である。そして、少なくとも機台停止過程において、前記ドラフト装置のブレーキドラフト比を定常運転時の所定の値より負荷トルクを低減するように変更する。また、機台の再起動過程において前記機台停止過程に変更されたブレーキドラフト比を元の値に復帰させる。
【0009】
この発明では、少なくとも機台停止過程は、請求項1の発明と同様にドラフト装置が制御され、請求項1の発明と同様な作用、効果を奏する。また、機台の再起動過程において、ブレーキドラフト比が定常運転時の所定の値よりボトムローラを駆動するトルクが低減される状態で駆動が開始された後、ブレーキドラフト比が定常運転時の所定の値となるように変更される。従って、機台の再起動時におけるボトムローラの捩れ遅れが抑制され、糸むらがより抑制される。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記定常運転時の所定の値が、ブレーキドラフト比を横軸に、ブレーキドラフトに要するトルクを縦軸にして表した曲線において前記トルクのピーク値に対応するブレーキドラフト比より大きい場合は、ブレーキドラフト比が増大するように変更する。また、前記定常運転時の所定の値が、前記トルクのピーク値に対応するブレーキドラフト比より小さい場合は、ブレーキドラフト比が減少するように変更する。
【0011】
この発明では、機台停止過程においておいて、ブレーキドラフト比を変更する際、確実にボトムローラを駆動するトルクが低減するように変更される。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記ブレーキドラフト比の変更は、ミドルボトムローラの速度を変更することにより行われる。ブレーキドラフト比を変更する方法としては、ミドルボトムローラの速度を変更する方法、バックボトムローラの速度を変更する方法、ミドルボトムローラ及びバックボトムローラの速度を変更する方法がある。バックボトムローラの速度を変更した場合、フロントボトムローラの速度をそれに対応して変更しないとトータルドラフト比が変化する。しかし、この発明では、バックボトムローラの速度は本来の速度として、ミドルボトムローラの速度を変更してブレーキドラフト比を変更するため、ブレーキドラフト比を変更してもトータルドラフト比は一定のため、制御が容易となる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、フロントボトムローラ、ミドルボトムローラ及びバックボトムローラがそれぞれ独立してモータにより駆動されるドラフト装置を備えた紡機におけるドラフト装置の制御装置である。そして、少なくとも機台停止過程において、前記ドラフト装置のブレーキドラフト比を所定の値より前記ドラフト装置の負荷トルクを低減するように変更するブレーキドラフト比変更手段を備えている。この発明の装置を使用することにより、請求項1に記載の発明の制御方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、起動時における糸むらの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明をドラフト装置が機台の長手方向に沿って左右一対設けられたリング精紡機に具体化した一実施形態を図1に従って説明する。図1はトップローラを省略したドラフト装置の模式平面図、図2はブレーキドラフト比とドラフトに要するトルクとの関係を示すグラフ、図3は機台の運転時のボトムローラの速度変化を示すグラフである。なお、図1における上側が機台の左側、下側が機台の右側となる。
【0015】
図1に示すように、ドラフト装置11は、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14を備えた3線式の構成となっている。フロントボトムローラ12は、図示しないローラスタンドに対して所定位置に支持され、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14はローラスタンドに対して前後方向に位置調整可能に固定された支持ブラケット(図示せず)を介して支持されている。ミドルボトムローラ13はエプロン(図示せず)を備えている。また、各ボトムローラ12〜14に対応してフロントトップローラ、ミドルトップローラ及びバックトップローラ(いずれも図示せず)が公知の構成で設けられている。
【0016】
左右のフロントボトムローラ12は、それぞれ機台全長にわって延びる1本のローラシャフト12aで形成されている。左右のミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14はそれぞれ2本のローラシャフト13a,13b,14a,14bに分割されるとともに、各2本のローラシャフト13a,13b,14a,14bはそれぞれ同軸上に配置されている。この実施形態では、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14はそれぞれ長手方向の中央において分割され、各2本のローラシャフト13a,13b,14a,14bは対称に形成されている。
【0017】
各フロントボトムローラ12は、機台の一端側(図1において左側となるギヤエンド側)からフロントローラ駆動モータ15により駆動されるようになっている。フロントローラ駆動モータ15の回転は図示しない歯車列を介して各ローラシャフト12aに伝達されるようになっている。
【0018】
各左右一対のミドルボトムローラ13は、図1において左側に位置する一対のローラシャフト13aが機台の一端側から第1のミドルローラ駆動モータ16aにより駆動され、図1において右側に位置する一対のローラシャフト13bが機台の他端側(アウトエンド側)から第2のミドルローラ駆動モータ16bにより駆動されるようになっている。第1のミドルローラ駆動モータ16aの回転は図示しない歯車列を介して各ローラシャフト13aに伝達され、第2のミドルローラ駆動モータ16bの回転は図示しない歯車列を介して各ローラシャフト13bに伝達されるようになっている。
【0019】
各左右一対のバックボトムローラ14も、図1において左側に位置する一対のローラシャフト14aが機台の一端側から第1のバックローラ駆動モータ17aにより駆動され、図1において右側に位置する一対のローラシャフト14bが機台の他端側から第2のバックローラ駆動モータ17bにより駆動されるようになっている。第1のバックローラ駆動モータ17aの回転は図示しない歯車列を介して各ローラシャフト14aに伝達され、第2のバックローラ駆動モータ17bの回転は図示しない歯車列を介して各ローラシャフト14bに伝達されるようになっている。
【0020】
各駆動モータ15,16a,16b,17a,17bには、それぞれサーボモータが使用されている。各駆動モータ15,16a,16b,17a,17bはロータリエンコーダ15r,16ar,16br,17ar,17brをそれぞれ備えている。各駆動モータ15,16a,16b,17a,17bはサーボドライバ18,19a,19b,20a,20bにそれぞれ接続され、制御装置21によりサーボドライバ18,19a,19b,20a,20bを介して制御される。
【0021】
制御装置21は、CPU(中央処理装置)22、プログラムメモリ23、作業用メモリ24、入力装置25及び入力インタフェース、出力インタフェース、モータ駆動回路(いずれも図示せず)を備えている。CPU22は入力インタフェースを介してロータリエンコーダ15r,16ar,16br,17ar,17brとそれぞれ接続されている。CPU22は出力インタフェース及びモータ駆動回路を介してサーボドライバ18,19a,19b,20a,20bにそれぞれ接続されている。
【0022】
CPU22は、リフティング駆動系及びスピンドル駆動系を駆動するモータ(図示せず)の制御も行い、制御装置21は精紡機の制御装置としても機能する。
プログラムメモリ23にはプログラムデータと、その実行に必要な各種データとが記憶されている。前記各種データには種々の繊維原料、紡出糸番手及び撚り数等の紡出条件と、定常運転時のスピンドル回転速度、ドラフト駆動系及びリフティング駆動系のモータの回転速度との対応データ等がある。また、プログラムメモリ23には、機台停止過程におけるブレーキドラフト比の変更値が紡出条件に対応して記憶されている。
【0023】
作業用メモリ24は入力装置25により入力されたデータやCPU22における演算処理結果等を一時記憶する。入力装置25は紡出糸番手、繊維種(原料)、紡出運転時の最高スピンドル回転数、紡出長、リフト長、チェイス長、使用ボビン長等の紡出条件データの入力に使用される。作業用メモリ24はバックアップ電源(図示せず)を備えている。
【0024】
CPU22は、紡出条件に対応して予め設定されたブレーキドラフト比及びトータルドラフト比となるように、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13、バックボトムローラ14を回転駆動させるように、各駆動モータ15,16a,16b,17a,17bを制御する。
【0025】
CPU22は、機台の停止過程において、ドラフト装置11のブレーキドラフト比を、定常運転時の所定の値よりドラフト装置11の負荷トルクを低減するように変更する。ドラフト装置11のブレーキドラフト比と、ドラフトに要するトルクとの関係は単純な比例関係にあるのではなく、図2に示すように、紡出条件によって決まるピーク値(極大値)が存在する。そして、ピーク値に対応するブレーキドラフト比の値Bpを境にして、前記トルクのピーク値に対応するブレーキドラフト比Bpより大きい場合は、ブレーキドラフト比が増大するに従って負荷トルクが減少し、前記トルクのピーク値に対応するブレーキドラフト比Bpより小さい場合は、ブレーキドラフト比が減少するに従って負荷トルクが減少する。そのため、CPU22は、定常運転時のブレーキドラフト比が前記ピーク値に対応するブレーキドラフト比Bpより大きければブレーキドラフト比が大きくなるように変更し、小さければブレーキドラフト比が小さくなるように変更する。この実施形態では定常運転時のブレーキドラフト比は1.25で、前記ピーク値に対応するブレーキドラフト比Bpより大きいため、ブレーキドラフト比が大きくなるように、例えば、1.6に変更する。CPU22は、少なくとも機台停止過程においてドラフト装置11のブレーキドラフト比を所定の値よりドラフト装置11の負荷トルクを低減するように変更するブレーキドラフト比変更手段を構成する。
【0026】
ブレーキドラフト比の変更は、ミドルボトムローラ13の速度を変更することにより行われる。ブレーキドラフト比の変更は、機台停止のためにボトムローラの速度変更を開始した後の減速途中で行われる。ブレーキドラフト比の変更時期は、バックローラとミドルローラとの間に存在する繊維が全て変更後のブレーキドラフト比でドラフトされたものと置き換わるのに必要な時間が機台停止までに確保できるように設定される。
【0027】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。精紡機の運転に先立って繊維原料、紡出糸番手、撚り数等の紡出条件が入力装置25により制御装置21に入力される。そして、精紡機の運転が開始されると、制御装置21からの指令に基づき、サーボドライバ18,19a,19b,20a,20bを介して各駆動モータ15,16a,16b,17a,17bが、紡出条件に対応して予め設定されたトータルドラフト比及びブレーキドラフト比となる回転速度で回転するように制御される。また、図示しないスピンドル駆動系及びリフティング系の駆動モータも所定の回転速度となるように制御される。
【0028】
精紡機が運転されると、粗糸はドラフト装置11のバックローラ、ミドルローラ及びフロントローラの間を通過してドラフトされた後、図示しない巻取り部において、スピンドルと一体回転されるボビンに巻き取られる。
【0029】
玉揚げあるいは途中停止のため機台が停止される際、ドラフト装置11のブレーキドラフト比が定常運転時の所定の値(例えば、1.25)から、そのブレーキドラフト比での駆動時より負荷トルクを低減する値(例えば、1.6)に変更される。CPU22は、ブレーキドラフト比が1.6になるように、即ち、ミドルボトムローラ13の回転速度が本来の回転速度より高くなるように、ミドルボトムローラ13の減速度を低くする。そして、ブレーキドラフト比が1.6に変更された後は、そのブレーキドラフト比を維持するように、ミドルボトムローラ13が減速される。即ち、図3に示すように、ミドルボトムローラ13は、機台停止過程における減速の際、本来のブレーキドラフト比(1.25)を維持する一定の減速度で減速された後、減速途中において減速度が低減される。そして、ブレーキドラフト比が1.6に変更された後、ブレーキドラフト比が1.25の場合より高い一定の減速度で停止時まで減速される。なお、図3において二点鎖線で示す部分が本来の減速状態を示す。また、フロントボトムローラ12及びバックボトムローラ14は、減速開始から停止時まで一定の減速度で減速され、トータルドラフト比は変化しない。
【0030】
機台の再起動過程において、機台停止時のブレーキドラフト比(1.6)となる状態でミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14が駆動された後、加速途中で本来のブレーキドラフト比(1.25)になるようにミドルボトムローラ13の加速状態が変更される。即ち、ミドルボトムローラ13は、二点鎖線で示す本来の加速状態より高い加速状態で加速を開始した後、低加速に変更される。そして、所定のブレーキドラフト比(1.25)になった後は、そのブレーキドラフト比を維持するように、所定の回転速度まで加速される。
【0031】
機台停止のための減速時に、ミドルボトムローラ13を駆動するトルクが低減されるため、ミドルボトムローラ13を駆動する第1及び第2のミドルローラ駆動モータ16a,16bが停止した状態において、ミドルボトムローラ13、即ちローラシャフト13a,13bの捩れ戻りの量が少なくなる。その結果、機台停止中におけるボトムローラの捩れ戻りによる繊維の過剰送りが抑制され、機台の再起動時における糸むらの発生が抑制される。
【0032】
機台の再起動過程において、始めは機台停止過程において変更されたブレーキドラフト比(1.6)でミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14が駆動される。即ち、ボトムローラを駆動するトルクが低減される状態で駆動が開始された後、ブレーキドラフト比が定常運転時の所定の値(1.25)となるように変更される。従って、機台の再起動時におけるボトムローラの捩れ遅れが抑制され、糸むらがより抑制される。
【0033】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(1)ドラフト装置11は、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14がそれぞれ独立して駆動モータ15,16a,16b,17a,17bにより駆動され、少なくとも機台停止過程において、ドラフト装置11のブレーキドラフト比を定常運転時の所定の値よりドラフト装置11の負荷トルクを低減するように変更する。従って、各ボトムローラを駆動するモータが停止した状態において、ボトムローラの捩れ戻りの量が少なくなる。その結果、機台停止中におけるボトムローラの捩れ戻りによる繊維の過剰送りが抑制され、機台の再起動時における糸むらの発生が抑制される。
【0034】
(2)ドラフト装置11は、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14がそれぞれ独立して駆動モータにより駆動され、少なくとも機台停止過程において、ドラフト装置11のブレーキドラフト比を定常運転時の所定の値より負荷トルクを低減するように変更する。そして、機台の再起動過程において前記機台停止過程に変更されたブレーキドラフト比を元の値に復帰させる。従って、機台の再起動時の初期段階においてボトムローラを駆動するトルクが本来のブレーキドラフト比で駆動する場合に比較して低減される状態で駆動が開始された後、ブレーキドラフト比が定常運転時の所定の値となるように変更される。その結果、機台の再起動時におけるボトムローラの捩れ遅れが抑制され、糸むらがより抑制される。
【0035】
(3)定常運転時のブレーキドラフト比が、ブレーキドラフト比を横軸に、ブレーキドラフトに要する負荷トルクを縦軸にして表した曲線において前記トルクのピーク値に対応するブレーキドラフト比Bpより大きい場合は、機台の停止過程においてブレーキドラフト比が増大するように変更される。また、前記定常運転時のブレーキドラフト比が、前記トルクのピーク値に対応するブレーキドラフト比Bpより小さい場合は、機台の停止過程においてブレーキドラフト比が減少するように変更される。従って、機台停止過程において、ブレーキドラフト比を変更する際、確実にボトムローラを駆動するトルクが低減するように変更される。
【0036】
(4)ブレーキドラフト比の変更は、ミドルボトムローラ13の速度を変更することにより行われる。ブレーキドラフト比を変更する方法としては、ミドルボトムローラ13の速度を変更する方法の他に、バックボトムローラ14の速度を変更する方法、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14の速度を変更する方法がある。バックボトムローラ14の速度を変更した場合、フロントボトムローラ12の速度をそれに対応して変更しないとトータルドラフト比が変化する。しかし、この実施形態では、バックボトムローラ14の速度は本来の速度として、ミドルボトムローラ13の速度を変更してブレーキドラフト比を変更する。従って、ブレーキドラフト比を変更してもトータルドラフト比は一定のため、制御が容易となる。
【0037】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 少なくとも機台停止過程において、ドラフト装置11のブレーキドラフト比を定常運転時の所定の値よりドラフト装置11の負荷トルクを低減するように変更すればよく、機台の再起動過程において、必ずしも機台停止過程において変更されたブレーキドラフト比からドラフト装置11の駆動を開始しなくてもよい。例えば、ブレーキドラフト比が定常運転時の所定の値となるようにドラフト装置11の駆動を開始したり、ブレーキドラフト比が機台停止過程において変更されたブレーキドラフト比と定常運転時の所定の値との中間の値となるようにドラフト装置11の駆動を開始したりしてもよい。
【0038】
○ ブレーキドラフト比を変更するのに、ミドルボトムローラ13の速度を変更する代わりにバックボトムローラ14の速度を変更してもよい。バックボトムローラ14の速度を変更する場合、ドラフト比を増大させる場合にはバックボトムローラ14の速度を減速し、ドラフト比を減少させる場合にはバックボトムローラ14の速度を増速する。この場合、トータルドラフト比を一定に保つためには、バックボトムローラ14の速度変更に対応してフロントボトムローラ12の速度を変更する必要がある。図4にバックボトムローラ14を変速してブレーキドラフト比を変更した場合の各ボトムローラの速度変化を示す。図4において、二点鎖線で示す部分は本来の加速あるいは減速を行った場合の回転速度の変化を示す。
【0039】
○ ブレーキドラフト比を変更するのに、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14の両方の速度を変更してもよい。
○ 定常運転時のブレーキドラフト比は、ブレーキドラフト比を横軸に、ブレーキドラフトに要するトルクを縦軸にして表した曲線において前記トルクのピーク値に対応するブレーキドラフト比Bpより大きい値に限らず、小さい値に設定してもよい。その場合は、機台停止過程においてブレーキドラフト比の変更は、ブレーキドラフト比が減少するように変更される。
【0040】
○ 機台停止過程においてブレーキドラフト比を変更する時期は、必ずしも各ボトムローラの減速途中に限らない。例えば、各ボトムローラの減速開始と同時にブレーキドラフト比の変更を開始したり、各ボトムローラの減速開始前にブレーキドラフト比の変更を完了し、減速時には変更後の一定のブレーキドラフト比で減速するようにしたりしてもよい。
【0041】
○ 機台停止過程において変更後のブレーキドラフト比の値は、予めプログラムメモリ23に記憶させておいた値を使用する代わりに、機台の紡出条件を入力する際に、入力装置25で入力するようにしてもよい。
【0042】
○ フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13、バックボトムローラ14を駆動する各駆動モータ15,16a,16b,17a,17bは、サーボモータに限らず回転速度制御可能なモータであればよい。例えば、インバータで制御される誘導モータを使用してもよい。
【0043】
○ 3線式のドラフト装置11に限らず、4線式以上のドラフト装置に適用してもよい。4線式ドラフト装置ではエプロンが巻き掛けられたセカンドボトムローラ及びサードボトムローラがミドルボトムローラとなる。また、4線式ドラフト装置でエプロンがセカンドボトムローラにのみ巻き掛けられている構成ではセカンドボトムローラがミドルボトムローラとなり、サードボトムローラがバックボトムローラとなる。
【0044】
○ ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14を機台の両側から駆動モータ16a,16b,17a,17bで駆動する構成に限らず、一部のボトムローラ(例えば、ミドルボトムローラ13)を機台の両側から駆動し、バックボトムローラ14は機台の片側から駆動する構成としてもよい。また、機台の錘数によっては、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14全てを機台の片側からのみ駆動する構成としてもよい。
【0045】
○ 粗糸から紡出するリング精紡機に限らず、粗糸を経ずにスライバをドラフトして精紡糸を直接紡出するリング精紡機や、結束紡績機あるいは粗紡機等の紡機のように、ボトムローラのローラシャフトが長く、ミドルボトムローラにエプロンが巻き掛けられた構成のドラフト装置を備えた他の紡機に適用してもよい。
【0046】
前記各実施の形態から把握できる技術的思想(発明)について以下に記載する。
(1)請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記紡機はリング精紡機である。
【0047】
(2)請求項5に記載の発明において、前記ブレーキドラフト比変更手段は、機台停止過程におけるブレーキドラフト比と、それに対応するミドルボトムローラ及びバックボトムローラの速度が記憶されたメモリを備え、その速度となるようにミドルボトムローラ及びバックボトムローラを駆動するモータを制御する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】トップローラを省略したドラフト装置の模式平面図。
【図2】ブレーキドラフト比とドラフトに要するトルクとの関係を示すグラフ。
【図3】機台の運転時におけるボトムローラの速度変化を示すグラフ。
【図4】別の実施形態における機台の運転時のボトムローラの速度変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0049】
11…ドラフト装置、12…フロントボトムローラ、13…ミドルボトムローラ、14…バックボトムローラ、15…モータとしてのフロントローラ駆動モータ、16a…同じく第1のミドルローラ駆動モータ、16b…同じく第2のミドルローラ駆動モータ、17a…同じく第1のバックローラ駆動モータ、17b…同じく第2のバックローラ駆動モータ、21…制御装置、22…ブレーキドラフト比変更手段を構成するCPU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントボトムローラ、ミドルボトムローラ及びバックボトムローラがそれぞれ独立してモータにより駆動されるドラフト装置を備えた紡機におけるドラフト装置の制御方法であって、
少なくとも機台停止過程において、前記ドラフト装置のブレーキドラフト比を定常運転時の所定の値より前記ドラフト装置の負荷トルクを低減するように変更する紡機におけるドラフト装置の制御方法。
【請求項2】
フロントボトムローラ、ミドルボトムローラ及びバックボトムローラがそれぞれ独立してモータにより駆動されるドラフト装置を備えた紡機におけるドラフト装置の制御方法であって、
少なくとも機台停止過程において、前記ドラフト装置のブレーキドラフト比を定常運転時の所定の値より前記ドラフト装置の負荷トルクを低減するように変更し、機台の再起動過程において前記機台停止過程に変更されたブレーキドラフト比を元の値に復帰させる紡機におけるドラフト装置の制御方法。
【請求項3】
前記定常運転時の所定の値が、ブレーキドラフト比を横軸に、ブレーキドラフトに要するトルクを縦軸にして表した曲線において前記トルクのピーク値に対応するブレーキドラフト比より大きい場合は、ブレーキドラフト比が増大するように変更し、前記トルクのピーク値に対応するブレーキドラフト比より小さい場合は、ブレーキドラフト比が減少するように変更する請求項1又は請求項2に記載の紡機におけるドラフト装置の制御方法。
【請求項4】
前記ブレーキドラフト比の変更は、ミドルボトムローラの速度を変更することにより行われる請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の紡機におけるドラフト装置の制御方法。
【請求項5】
フロントボトムローラ、ミドルボトムローラ及びバックボトムローラがそれぞれ独立してモータにより駆動されるドラフト装置を備えた紡機におけるドラフト装置の制御装置であって、
少なくとも機台停止過程において、前記ドラフト装置のブレーキドラフト比を所定の値より前記ドラフト装置の負荷トルクを低減するように変更するブレーキドラフト比変更手段を備えている紡機におけるドラフト装置の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−23435(P2007−23435A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209133(P2005−209133)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】