説明

細胞シグナル伝達経路のサイトメトリー解析のための全血製剤

本願発明は、細胞内タンパク質エピトープの保存、及びエピトープの一過性の活性状態を捕らえる能力に基づくシグナル伝達経路の検出を可能にするタンパク質エピトープ計測用の生物学的サンプルの調製方法に向けられる。本発明によって提供される方法は、シグナル伝達分子のエピトープと他の細胞内タンパク質エピトープを活性な状態で保存するのを保証するために、赤血球を含めた生物学的サンプルの迅速な固定を可能にする。更に、本発明の方法は赤血球の溶解を可能にし、それにより、当該方法を、生物学的サンプル、例えば全血、骨髄吸引物、腹水、及びその他の赤血球を含むサンプルのサイトメトリー解析に有用な方法にする。本発明は、サンプルを固定するのに必要な架橋固定剤が接近できないようにした細胞内抗原上のエピトープを回復するか、又は「アンマスク」する方法もまた提供する。重要なことには、本発明の方法は、疾患に特異的な特徴を究明するために患者から直接採取された生物学的サンプル中のリン酸-エピトープ・レベルの保存及び分析を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、幅広くサイトメトリーのためのサンプル調製の分野、そしてより詳しく述べると、フローサイトメトリー及びイメージ・サイトメトリーによるシグナル伝達計測のための生物学的サンプル調製が可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フローサイトメトリーは、細胞の混成集団の中のサブセットを識別する能力によって臨床的及び基礎的な免疫学的研究において必須のツールとなった。現在、可能な同時解析パラメーターの数が13個以上にまで広がって、フローサイトメトリーの計装及び用途の両方で重要な躍進があった。より多くのパラメーターが利用可能なため、研究者は、表面エピトープ染色に基づいてさらに多くの十分に規定され、且つ、生物学的に注目のリンパ球サンプルのサブセットを同定し始めた。
【0003】
フローサイトメトリーは、表面表現型に基づく細胞集団の識別のために日常的に使用され、そして、例えば、特に細胞毒性、生存率、及びアポトーシスといった細胞ベースのアッセイにも使用される。フローサイトメトリーは、例えば末梢血液といった混成集団で存在する細胞サブセットの不均一性を評価する能力を提供することは十分に理解されている。表面染色は細胞を特徴づけるのに効果的な手段であるかもしれないが、細胞内事象に対する即座の反射によるものである、刺激に対するそれらの細胞の機能的応答に関する情報を提供しない。使用されるマーカーがサイトカイン受容体又は受容体チロシンキナーゼである場合でさえ、抗原レベルが特定のリガンドに対する細胞応答と常に相関するわけではない。それにより、細胞内エピトープ:サイトカイン、DNA、mRNA、酵素、ホルモン受容体、細胞周期タンパク質、及びリン酸化シグナル伝達分子のレベルを計測することによって細胞を特徴づける方法が開発された。その結果、フローサイトメトリーの調査用途は、細胞突起を調整する細胞内タンパク質の測定にますます適用され、そして新規抗癌剤のために重要な治療標的を示す。
【0004】
例えば、タンパク質の翻訳後修飾の2次元SDS-PAGE及び質量分析法といった現在のプロテオミクスのアプローチは、非常に有力であり、且つ、多くの細胞内活性化過程への貴重な洞察を提供した。しかしながら、細胞が溶解されているので、これらの実験の読み取りは細胞集団全体のタンパク質活性化状況の平均であることは明らかである。集団内の個々の細胞におけるタンパク質活性化の分布に対する情報の収集についての定めが全くなく、そして、検出可能なレベルの活性タンパク質に対応する細胞集団を遡及して同定する能力がないので、顕著な生物学的事象はそのような平均化で覆い隠される可能性がある。それにより、規定された細胞集団、そして異なる細胞サブタイプ全体の両方に存在する免疫細胞集団のばらつきに関する有効な情報は検出されず、タンパク質分析のために細胞溶解を必要とする方法論によって対処されることができない。結局、タンパク質活性化シグナル伝達カスケードは、適切な、且つ、人為的な影響のないそれらの生物学的状況の中で計測されなければならない。
【0005】
特に興味深いのは、リン酸化状況に特異的な抗体の使用に基づいたシグナル伝達経路の分析のための最近の技術開発である。多パラメーター・フローサイトメトリー解析は、細胞表面マーカーを使用することで識別される−異なった細胞サブセット、分化又は活性化状況を示す−小さい亜集団を可能にする。シグナル伝達事象を特徴づけるための単一細胞技術の使用は、それ自体、規定された白血球集団内の特定の分子のはっきりと識別できるシグナル伝達の連結を同定するための、そして単一細胞レベルにおいてシグナル伝達カスケードに同時に関与するいくつかの活性なキナーゼを相関させることによってシグナル伝達ネットワークの範囲に関する全体的な理解を得るための多様性実験を実施する能力を提供する。更に、従来の臨床的なフローサイトメトリー・プロトコールへのこれらの方法の組み込みは、非常に特異的な分子的癌治療のため、及び患者における薬物効果を観察するための患者の選別を含めた血液学的悪性度の分類のための広範囲の用途がある。
【0006】
フローサイトメトリーによるシグナル伝達経路の分析は、日常的な臨床適用においてこれまで遭遇しなかった技術的問題を提示する。個々のシグナル伝達因子のリン酸化状態は、特定のキナーゼ及びホスファターゼに対応して急激に修飾され、そのため、サンプル保存及び調製の間の人為的変化に晒される。活性化又は阻害的入力に対する細胞応答は、リン酸化状態の定常状態測定に比べてより有益である可能性が高い。多くの抗癌剤がそれらの分子標的への可逆的結合を示している。その結果、薬力学的観察は、単離された白血球よりも全血サンプルの計測をしなければならない。結局、免疫系の発達とシグナル伝達の特徴づけ、抗原特異的T細胞の応答、薬物スクリーニング、及び疾患の表現型のタイピングを含めた臨床現場へのリン酸-特異的(phospho-specific)フローサイトメトリーの存在及び潜在的適用は、リン酸化がシグナル伝達タンパク質の活性状態の指標となる一過性の、可逆的な事象であることを考慮に入れなければならない。
【0007】
よって、一般的な臨床適用に強く、且つ、好適な、そしてシグナル伝達タンパク質の活性状態を示すリン酸化事象を捕らえることができるフローサイトメトリーによるシグナル伝達計測のための生物学的サンプル調製ができる方法を開発する必要性が存在している。本発明は、この必要性を満たし、その上、関連する利点も提供する。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本願発明は、細胞内タンパク質エピトープの保存、及びエピトープの一過性の活性状態を捕らえる能力に基づくシグナル伝達経路の検出を可能にするタンパク質エピトープ計測用の生物学的サンプルの調製方法に向けられる。本発明によって提供される方法は、シグナル伝達分子のエピトープと他の細胞内タンパク質エピトープを活性な状態で保存するのを保証するために、赤血球を含めた生物学的サンプルの迅速な固定を可能にする。更に、本発明の方法は赤血球の溶解を可能にし、それにより、当該方法を、生物学的サンプル、例えば全血、骨髄吸引物、腹水、及びその他の赤血球を含むサンプルのサイトメトリー解析に有用な方法にする。本発明は、サンプルを固定するのに必要な架橋固定剤が接近できないようにした細胞内抗原上のエピトープを回復するか、又は「アンマスク」する方法もまた提供する。重要なことには、本発明の方法は、疾患に特異的な特徴を究明するために患者から直接採取された生物学的サンプル中のリン酸-エピトープ・レベルの保存及び分析を可能にする。
【0009】
発明の詳細な説明
本願発明は、細胞内タンパク質エピトープの保存、及びエピトープの一過性の活性状態を捕らえる能力に基づくシグナル伝達経路の検出を可能にするタンパク質エピトープ計測用の生物学的サンプルの調製方法に向けられる。本発明によって提供される方法は、シグナル伝達分子のエピトープと他の細胞内タンパク質エピトープを活性な状態で保存するのを保証するために、赤血球を含めた生物学的サンプルの迅速な固定を可能にする。更に、本発明の方法は赤血球の溶解を可能にし、それにより、当該方法を、生物学的サンプル、例えば全血、骨髄吸引物、腹水、及びその他の赤血球を含むサンプルのサイトメトリー解析に有用な方法にする。本発明は、サンプルを固定するのに必要な架橋固定剤が接近できないようにした細胞内抗原上のエピトープを回復するか、又は「アンマスク」する方法もまた提供する。重要なことには、本発明の方法は、疾患に特異的な特徴を究明するために患者から直接採取された生物学的サンプル中のリン酸-エピトープ・レベルの保存及び分析を可能にする。
【0010】
本発明によって提供される方法は、1つには、サイトメトリー解析を使用したシグナル伝達経路の研究への全血サンプルの使用が赤血球をその後の溶解の影響を受けなくすることなしに細胞エピトープの活性な状態の保存を実現する初期固定ステップによって達成され得るという発見に基づいている。この発見は、固定前に密度勾配分離又は溶解によってサンプルから赤血球を取り除くため固定を遅らせる処理時間のためシグナル伝達エピトープの脱リン酸化を引き起こすことがある従来の方法において直面する問題を克服する。対照的に、本発明の方法は、固定を遅らせる時間がかかる分離又は溶解ステップの排除を可能にする、赤血球を含む生物学的サンプルの迅速な固定方法を提供することによって、使用者が活性状態でタンパク質エピトープを捕え、そして計測することを可能にする。
【0011】
特定の態様において、本発明は、初期段階として迅速に細胞を固定し、光散乱計測を持続し、特定の血液学的細胞集団を同定するのに使用される主要な細胞表面エピトープを維持し、且つ、最適のリン酸-エピトープ計測を提供する、全血固定方法、透過処理方法、及び赤血球溶解方法を提供する。
【0012】
本発明の方法は、サイトメトリーによる細胞エピトープ測定用の生物学的サンプルを調製することを目的とする。サイトメトリーの利点は、例えばT細胞についてはCD3、B細胞についてはCD19といったそれらの表面染色特性に基づく細胞型を識別する能力である。本発明の方法が検出のための細胞内エピトープの保存を可能にする一方で、細胞型の識別に必要な表面エピトープ認識を維持するという重要な目標もまた本発明の方法を通じて達成できる。よって、本明細書中に記載の方法は、使用者がサイトメトリーによる検出のための表面及び細胞内エピトープの両方の物理的な保全を可能にする。
【0013】
本発明によって提供される方法は、更に部分的に、特定の標的エピトープ、例えばp-ERK、p-STAT1、p-STAT5を含めたリン酸-特異的エピトープの検出がアルコール・ステップにより最適化されることができるという発見に基づいている。
【0014】
1つの態様において、本発明は、その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持する、タンパク質エピトープの測定のための赤血球含有生物学的サンプルを調製する方法を提供する。その方法は、サンプルを、タンパク質、脂質、及び核酸分子を架橋するのに十分な終濃度を達成する量の固定剤と接触させることを含めた固定ステップ;赤血球を溶解し、且つ、白血球を透過化するのに十分な終濃度を達成する量でのディタージェントの生物学的サンプルへの添加を含めたディタージェントステップ;そしてサンプルを1つ以上のエピトープに特異的な検出可能な結合因子と接触させる標識ステップを含む。
【0015】
1つの態様において、本発明は、その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持する、タンパク質エピトープの測定のための赤血球含有生物学的サンプルを調製する方法を提供する。その方法は、サンプルを、タンパク質、脂質、及び核酸分子を架橋するのに十分な終濃度を達成する量の固定剤と接触させることを含めた固定ステップを含む。固定剤の濃度は、約0.1%〜約20%、約0.5%〜約15%;約1%〜約10%、約1%〜約8%、約1%〜約4%、約1%〜約2%であることができる。固定剤を、所望の濃度を達成するために濃縮溶液、又は希釈された形態のいずれかで加えることができる。例えば、固定剤は、使用者によって所望されるあらゆる適切な作用物質、例えばホルムアルデヒド若しくはパラホルム、又はホルマリンであるかもしれない。
【0016】
その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持する、タンパク質エピトープの測定のための赤血球含有生物学的サンプルを調製する本発明の方法は、ディタージェントが、赤血球細胞を溶解し、且つ、白血球細胞を透過化するのに十分な終濃度を達成するための量で添加されるディタージェントステップを更に含む。ディタージェントの濃度は、様々な条件に基づいて使用者によって選択されることができ、そして約0.1%〜約8%;約0.1%〜約7%;約0.1%〜約6%;約0.1%〜約5%;約0.1%〜約4%;約0.1%〜約3%;約0.1%〜約2%;約0.1%〜約1%の範囲におよぶかもしれない。
【0017】
ディタージェントは、様々な要因に基づいて選択でき、そしてイオン性又は非イオン性ディタージェントであるかもしれない。ディタージェントは、好ましくは、非イオン性ディタージェントの中から選択される。1つの、現在のところ好ましいディタージェントは、エトキシル化オクチルフェノールであり、商品名のTriton X-100(Sigma T9284)で呼ばれる。好ましい態様において、前記方法はTriton X-100を用いて実施される。本発明の方法に好適なディタージェントは、細胞を透過性にし、且つ、表面エピトープを保持することができる。Brij-58、本発明において有用なイオン性ディタージェントは、Igepal(登録商標)CA-630(Sigma N-6507)又はNonidet P-40(NP-40)(Sigma)として市販のオクチルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール、及びPlurafac(登録商標)A-38(BASF Corp)又はPlurafac(登録商標)A-39(BASF Corp)として市販の直鎖アルコール・アルコキシラートを更に含む。
【0018】
混成細胞集団、例えば、未希釈の末梢血液、骨髄吸引物、及び腹水において、表面マーカーによって細胞サブセットを識別し、そしてある手順で染色した細胞内リン酸-エピトープを検出することは、有用であるかもしれない。その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持する、タンパク質エピトープの測定のための赤血球含有生物学的サンプルを調製するための本発明によって提供される方法は、細胞内エピトープの検出を細胞表面エピトープの検出と組み合わせるのに使用されやすい。本発明によって提供される方法において、細胞内エピトープ及び細胞外エピトープの両方が、サイトメトリー解析によるその後の測定を可能にするような元の状態を維持することができる。例えば、CD4、CD3、CD62L、及びCD8を含めた典型的なT細胞マーカーの表面検出を、細胞内エピトープ検出と組み合わせることができる。
【0019】
更なる態様において、本発明の方法は、生物学的サンプルを、固定ステップ中の架橋により失われた細胞エピトープをアンマスキングするのに十分な終濃度を達成する量のアルコールと接触させることを含めた更なるアルコール・ステップを含む。本明細書中に説明したように、アルコール・ステップは、細胞外エピトープの大部分を維持でき、そして維持すべきエピトープに依存してインキュベーションの長さ、温度、及び濃度が使用者によって調整されてもよい。
【0020】
多パラメーター・サイトメトリー解析にかかわる臨床的適用に関して、例えば、CD3、CD35、HLA DR、CD4、HLA DP、HLA DQ、CD5、CD10、CD11a、CD29、CD32、CD36、CD38、CD40、CD45、CD49、CD54、CD55、CD56、CD58、CD59、CD71、CD83、CD85i(ILT2)、CD85j(ILT3)、CD85f(ILT-4)、CD86、CD87、CD99、CD103、CD116、CD126、CD135、CD206、CD208(DC-LAMP)、b2-ミクログロブリン、cBcl2、CCR5、CXCR4、HLA ABC、L25、MPO、CD3、CD79、及び表面CD2、CD4、CD8、CD11b、CD13、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD23、CD24、CD25、CD28、CD33、CD34、CD35、CD41、CD42b、CD61、CD62L、CD64、CD65、CD66b、CD69、CD72、CD94、CD106、CD122、CD138、CD154、CD158a、CD161、NKbI、並びに使用者の目的に基づいて選択される可能性のある当該技術分野で知られている他のものを含むかもしれない特定の生物学的マーカーに関連する細胞外エピトープのサブセットの検出のために、アンマスクし、そして維持することが望ましいことは、当該技術分野で理解される。
【0021】
当業者は、例えばインキュベーション時間、温度、及びアンマスキング及び計測の標的となる特定のエピトープを含めた他の変数に基づく最終的なアルコール濃度を選択できる。最終的なアルコール濃度は、約25%〜約75%、約30%〜約70%、約35%〜約65%、約40%〜約60%、約45%〜約55%であるかもしれない。アルコールは、エタノール及びメタノールから成る群から更に選択され得る。所望であれば、アセトンが、アルコール・ステップにおけるアルコールと置き換わってもよい。サンプルを、例えば、約−30℃、約−20℃、約−10℃、約−5℃、約0℃、約4℃、約6℃、約8℃の温度、あるいは細胞表面エピトープの反応性を下げることなく細胞内エピトープのアンマスキングを容易にするいずれか他の温度にてアルコール又はアセトンと接触させることができる。
【0022】
所望であれば、本発明の方法によって調製された生物学的サンプルは、アルコール・ステップの後に氷点下にて、例えば約−40℃、約−30℃、約−20℃、約−10℃、約−5℃の温度にて保存され、そして最長で2カ月間、接近可能性を低下させず、又は細胞内エピトープの活性な状態を変化させずに、細胞外エピトープの光散乱特性と完全性を維持できる。シグナルの損失率が、例えば残留する水分及び標的エピトープの割合を含めた様々な要因に関連することが理解されている。好ましい態様において、サンプルは、約−20℃にて2日間以上、3日間以上、5日間以上、10日間以上、12日間以上、14日間以上、16日間以上、20日間以上、30日間以上、40日間以上、50日間以上、60日間以上の保存されることができる。アルコール中のリン酸-エピトープの安定性は、当該技術分野で知られている様々な要因、例えばサンプル中に残留する水及び標的エピトープの割合に基づいて変化する可能性がある。よって、本発明の方法は、アルコール中のリン酸-エピトープの安定性を提供し、そして分析前に最長で2〜3週間以上までの数日間、生物学的サンプルの長期保存を可能にする。
【0023】
本発明の様々な態様において、赤血球含有生物学的サンプルは、例えばウイルス粒子、免疫グロブリン、エストロゲン受容体、サイトカイン、及び特定の細胞内タンパク質を含むことができるエピトープの測定のために調製される。長期実験において静的タンパク質分子の染色が刺激に対する細胞応答への洞察を提供できることが理解される。本発明の方法は、細胞内シグナル伝達事象又は互いのシグナル伝達事象に伴う細胞外マーカーの相関が、1つの細胞において同時に事象を観察することなく気付くことが不可能な免疫細胞の役割及びシグナル伝達の複雑さへの洞察を形成できるという効果がある。
【0024】
細胞内のリン酸-エピトープに関して本明細書中に例示されているが、本発明の方法は、例えばユビキチン化、グリコシル化、メチル化、アセチル化、パルミトイル化、又はタンパク質−タンパク質相互作用を含めた他の翻訳後修飾を計測することを目的とした生物学的サンプルの調製についても同様に適用できる。よって、本発明は細胞の中の様々なタンパク質の非リン酸-エピトープの検出を可能にし、当該方法の有用性を更に広げる。標識された結合因子は、研究される特定の細胞事象に基づいて使用者によって選択されることができる。本発明によって提供される方法は、これまで利用できなかった詳細な経時変化及び経路特異的な様式における経路の試験を可能にする。フローサイトメトリー解析のために多様な細胞内エピトープを選択できるが、使用者は、例えば局在性、立体構造/構造、抗体による接近可能性、及びエピトープの安定性を含めた要素を考慮に入れることによって問題の特定のエピトープのために本明細書中に提供されている方法を最適化し、そして調整できることが理解される。本明細書中に提供された方法は、一般に、多色、多パラメーターのサイトメトリーによる分析に適切である。
【0025】
リン酸化はシグナル伝達タンパク質の活性な状態を示す一過性の、可逆的な事象である。そのため、フローサイトメトリーによるタンパク質のリン酸化の状態を計測することによって、当業者は、特定の刺激、例えばサイトカイン又は成長因子、シグナル伝達の動態学、及び転写される下流の標的に対する応答にシグナル伝達カスケードが使用されることを断定できる。更に、患部細胞を健康なサンプルと比較すると、異常なシグナル伝達事象、癌の表現型タイピングに有用な特性、及び免疫異常を容易に同定できる。よって、診断の場において、本発明の方法は、例えばリン酸-タンパク質状態に基づく病理学的ヒト・サンプルの診断的フローサイトメトリー・アッセイのための生物学的サンプルを調製するのに使用できる。さらなる適用において、本発明の方法は、キナーゼ・シグナル伝達カスケードの新規阻害剤及びアクチベーターを発見するための分子ライブラリに対する初代細胞集団のスクリーニングのための生物学的サンプルを調製するのに使用できる。
【0026】
その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持すると同時に、タンパク質エピトープ測定用の赤血球含有生物学的サンプルを調製するための本発明の方法は、例えば、発達するT、B、又は他の系統特異的細胞のリン酸-サイン(phospho-signatures)を観察して、細胞内活性を細胞分化の段階と相関させることによる免疫細胞の発達;急性又は慢性の感染下の応答についてリンパ球サブセットを観察する可能性をもったウイルス性及び/又は細菌感染症において抗原特異的T細胞を研究するために細胞内シグナル伝達の評価と四量体染色を組み合わせることを含めた免疫系疾患病態の特性分析;疾患徴候とリン酸-サインとの関連付けるためのマウス疾患モデル又は患者におけるリンパ球集団、例えば血液感染性白血病、又は自己免疫疾患、例えば関節リウマチの観察;従来の生化学的技術によって分析できない樹枝状細胞、未処置細胞、及びメモリー・エフェクター細胞、幹細胞を含めた希少な細胞集団の生化学的サイン;細胞機能を理解するための細胞のシグナル伝達ネットワークの多次元的評価;異種シグナル伝達カスケードの間のシグナル伝達の閾値と連絡の検証;変性した機能及び細胞内シグナル伝達に関するウイルス感染細胞の観察;並びにサイトカイン及び細胞外刺激に対する免疫細胞応答パターンの特徴づけを含む免疫系の特徴づけを対象とした適用に更に有用である。
【0027】
その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持すると同時に、タンパク質エピトープ測定用の赤血球含有生物学的サンプルを調製するための本発明の方法は、例えば、標的キナーゼの特異的な阻害剤/モジュレーターの迅速な同定のための細胞内キナーゼのスクリーン;サブセットに特異的な有効性と副作用を測定するための初代細胞における薬物スクリーニング;同時に多数の細胞内経路を分析することによる化合物特異性の標的バリデーション;着目の細胞集団に対する薬物処置中のそれらの効果について特定の化合物を観察することによる臨床試験;追加の臨床的パラメーターと細胞内の生化学的相違を相関させることによる疾病の進行に関する診断指標としてのキナーゼのリン酸-エピトープの同定;並びに細胞レベルで有効性を観察するためのワクチン接種プロトコール中のリン酸-エピトープ分析を含む薬力学的観察及び薬物スクリーニングを対象とした適用において更に有用である。
【0028】
先に説明したように、本発明の方法は、薬力学的特性分析ための生物学的サンプルを調製するのに有用性がある。例えば、リン酸に特異的なフローサイトメトリーを、それらのシグナル伝達状態及び特定の化合物に対する応答を介した病態の特性分析に使用できる。疾患の進行に対するリン酸-エピトープ・サインの相関を、疾患の初期又は末期にある個々の患者に合わせた療法の開発に使用できる。例えば、FIt-3、PDGF-R、EGF-R、及びHER2を含めた様々なチロシンキナーゼ受容体は、白血病及び乳癌の疾病の重症度及び予後に相関しているので、薬物療法の標的である(Drevsら、Curr Drug Targets 4:113-21ページ、2003年;Fjallskogら、Clin Cancer Res 9:1469-73ページ、2003年)。いくつかの細胞内の分子、例えばTashiroら、Cancer Res 63:424-31ページ、2003年、及びKmetら、Cancer 97:389-404ページ、2003年によって説明されたp53及びサイクリン・タンパク質は、活発に分裂する癌の指標であることも当該技術分野で知られている。cDNAマイクロアレイ及びタンパク質アレイが多数の分子に関する情報を提供する一方で、これらのアッセイは活性状態に関する情報を提供しない。低濃度で存在するタンパク質は、それらが構成的に活性である、リン酸に特異的な分析によってのみ特徴づけされ得る特性である場合、疾病の進行において大きな役割を担っている可能性がある。よって、検出のための細胞内タンパク質エピトープを保つ赤血球含有生物学的サンプルの調製のために本発明によって提供される方法は、特定の病態におけるタンパク質のレベルとそれらの活性を相関させる能力を使用者に与える。
【0029】
本明細書中に説明したように、本発明によって提供される方法は、例えば、腫瘤の検出、生検、及びサイトメトリー解析のために赤血球含有生物学的サンプルを調製する能力に基づいた組織由来のサンプルの分析を含めた様々な臨床現場における有用性を有する。使用者が異常なシグナル伝達の特性分析、それに続いて臨床試験前と臨床試験中に療法の有効性及び特異性を分析するのを可能にすることによって、その方法は癌及び免疫系疾患の研究及び療法における有用性を拡大する。発症されていて、より多くのリン酸-エピトープ特異的抗体が発生され、そしてフローサイトメトリーのための正当性を立証される場合、生物学的サンプルは、医薬品開発のための可能性のあるリード物質を見つけるためにスクリーニングされ、そして特定の疾患の原因を更に調査されるかもしれない。希釈されていない末梢血液を含む赤血含有生物学的サンプルに対するそれらの適用性に基づいて、本発明の方法は、疾患特異的な特徴を決定するために患者から直接採取した生物学的サンプル中のリン酸-エピトープ・レベルの維持と分析を可能にする。
【0030】
本発明によって提供される方法は、例えば、慢性骨髄性白血病(CML)における分子標的療法に対する個々の患者の応答性の観察;臨床的に明らかになる前にCML患者で一般的に見られる薬効の損失を予測するための、薬物のインビトロでの活性のマーカーとして全血又は骨髄にサンプル中のSTAT5のリン酸化を抑制するGleevec(商標)の能力の観察;STAT、MAPK、及びPKB/AKTを含めた下流経路の観察による、AML(急性骨髄性白血病)におけるFlt-3阻害剤の観察;MARK、PI3K、STAT、及びWnt経路の観察による、多発性骨髄腫(MM)における新規に開発された分子標的阻害剤の観察を含む臨床現場においてもまた有用性を有する。
【0031】
本発明によって提供される方法は、特定のタイプの腫瘍に対する多剤併用療法の効果を観察する際にも有用性を有する。例えば、ほとんどのCML患者が結局Gleevec(商標)を用いた単剤療法に失敗することが知られているので、ほとんどの施設が複合療法を必要としている。本明細書中に提供された方法は、インビボにおける潜在的有効性を持つ組み合わせを選択するのに役立つように、下流のシグナル伝達経路、例えばMAPK、STATs、アポトーシスの観察によって他の作用物質、例えばフラボピリドール又はシタラビンと組み合わせたGleevec(商標)のインビトロにおける効果を観察するために使用できる。本明細書中に提供された方法は、AML及びMMの患者のそれぞれのシグナル伝達経路を研究するのに使用できる。この態様において、血液又は骨髄サンプルを、特定の経路の刺激、及び/又は阻害剤、例えばAMLに関してはFlt-3リガンド、PMA、及びSteele因子+/-UO-126(MAPK阻害剤)、ラパマイシン(mTOR阻害剤)で処理して、その後、細胞表面マーカーと共に複数の経路でのリン酸化(活性化)された重要タンパク質のベースライン、誘導レベル、及び生息可能レベルを計測することができる。
【0032】
本明細書中に説明したとおり、好ましい態様において、本発明の方法は、例えばERK、p38、JNK、並びにシグナルトランスデューサー及び転写活性化因子3(STAT3)、STAT1、STAT5、STAT6、AKT/PKB、mTOR、S6キナーゼ、ヒストン・タンパク質(例えば、ヒストンH3)、ATM、NFκB、GSK3などを含む検出のための細胞内のリン酸-エピトープの維持を可能にするような、タンパク質エピトープ測定用の赤血球含有生物学的サンプルを調製するのに使用できる。よって、本発明によって提供される方法は、シグナル伝達経路に関与する細胞内リン酸-エピトープの維持を可能にする。赤血球含有生物学的サンプルを調製するための本発明によって提供される方法は、1つには、タンパク質のリン酸化状態を効果的に「止める」急速な細胞固定ステップを通じて検出のための細胞内リン酸-エピトープの維持を達成する。更に、溶解及び透過処理ステップは、単独のステップで組み合わされるか、又は別々に実施されることができるものであって、検出可能な結合因子に関してそれらの同族エピトープへの接触を提供するが、上記エピトープは適切な変性されていない又は変性された高次構造において浸透化された標的細胞内で維持されなければならない。シグナル伝達カスケードが、多くの場合、役割を実行するようにエフェクターを活性化する下流エフェクター上のタンパク質のリン酸化によって駆動されることは、当該技術分野で理解されている。よって、リン酸特異的な標識結合因子、例えば抗体は、活性タンパク質を認識すること、及びシグナル発生事象の「オン-オフ」状態を識別するのに有用であるかもしれない。
【0033】
下流エフェクターを活性化する手段としてリン酸化を利用するカスケードが、当該技術分野で周知である。多重シグナル伝達カスケードは、リガンド又は阻害剤の特異性を測定するために、例えば異なったフルオロフォア標識の使用を通じて同時に測定されることができ、そして、例えば態様、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ・カスケード、ヤヌス・キナーゼ-シグナルトランスデューサー、及び転写(Jak-Stat)経路のアクチベーターに含まれることができる。MAPキナーゼ、細胞外調節キナーゼ(ERK)、c-Jun N末端キナーゼ(JNK)、及びp38は、(Thr及びTyr残基の)二重リン酸化され、次に、様々な転写因子をリン酸化するために核内に移行する。STATタンパク質は、成長因子及びサイトカイン、例えばIFN-γ、IL-4、及びGM-CSKによって活性化される。Jaksによるリン酸化によって、STATタンパク質は二量化し、そして核内に入り、そこで直接DNAに結合して、転写を調節する。よって、その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持すると同時に、タンパク質エピトープの測定用の赤血球細胞含有生物学的サンプルを調製するための本発明の方法は、細胞刺激又は細胞ストレスの後に急速に起こる動的なシグナル伝達事象を計測することを対象にした適用において有用である。
【0034】
マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ・カスケードにおいて、シグナル伝達は、細胞表面で始まって、MAPキナーゼ・キナーゼ・キナーゼ(MEKK)からMAPキナーゼ・キナーゼ(MAPK)へ、MAPキナーゼへ、そして最終的に転写因子に伝えられる。このカスケードの各メンバーは、上流のメンバーによるリン酸化によって活性化される。転写因子のリン酸化は、多くの場合、DNA結合親和力を高めるか、又は二量体化及びDNA結合を引き起こすようにそれらの高次構造を変更する。JAK-Statカスケードにおいて、サイトカイン受容体の二量体化は、結局、二量化STATsが核内に入り、そして転写を活性化することとなる、その次に二量体化ドメインにおいてSTATsをリン酸化するJAKsの活性化をもたらす。リン酸化は、例えば受容体チロシンキナーゼによるチロシン・モチーフのリン酸化のように、結合して特定の細胞内位置に局在するように他のタンパク質の結合部位を提供することもできる。リン酸化事象は、通常、「陽性」の活性をもたらす一方で、リン酸化が酵素活性を抑制するT細胞タンパク質Lckのように陰性の結果をもたらすこともあり、そしてそれはLckのシグナル伝達を引き起こすホスファターゼによる脱リン酸化事象である。
【0035】
唯一リン酸化事象のみを計測するために、タンパク質のリン酸化形態に特異的な標識結合パートナーが調達されるかもしれない。これは、通常、担体タンパク質と結合された乏しいリン酸化ペプチド免疫原を使用することによって行われる。よって、同じシグナル伝達タンパク質内の異なったリン酸残基に特異的な検出可能な結合因子が、本発明によって提供される方法において利用される可能性があり、それに続く測定は特定のシグナル発生事象に重要な残基に関する洞察を提供する。リン酸特異性は、静止細胞対刺激細胞を比較し、分析前のホスファターゼでサンプルを処理し、リン酸化ペプチドに対して非リン酸化ペプチドを競合させ、そして合計タンパク量に対してリン酸-タンパク質レベルを標準化することによって確認できる。
【0036】
本発明によって提供される方法は、生物学的サンプルを1つ以上のエピトープに特異的な検出可能な結合因子と接触させる標識ステップを含む。サイトメトリーによって生物学的サンプル中に1つ以上のエピトープの存在を計測するために、結合因子は、1つ以上の標的エピトープ、並びに抗体断片、例えば酵素的に作製された1価(fab)又は二価(F(ab'2)の抗原結合フラグメントに特異的な抗体の状態に吸収、及び/又は親和精製されたか、あるいは他の方法で濃縮されたモノクローナル抗体、ポリクローナル抗血清であるかもしれない。加えて、結合因子は、抗体のような分子又は模倣物であってもよい。
【0037】
当該技術分野で一般的に染色ステップとも呼ばれる標識ステップにおいて、サンプルを、飽和量の、エピトープを発現する細胞に結合する標識結合因子、好ましくはフルオロフォア結合抗体と接触させる。その次に、エピトープを発現する細胞は、適切な波長のレーザー光によって励起された時にフルオロフォアによって発せられたサイン蛍光シグナルによって同定される。好ましいフルオロフォアは、フィコビリタンパク質B-フィコエリトリン(B-PE)、R-フィコエリトリン(R-PE)、及びアロフィコシアニン(APC)を含み、それらは、高感度又は同時の多色検出のいずれかを必要とする適用に好適である。所望であれば、2つの標識を含むタンデム型コンジュゲート、例えば、緑色蛍光検出試薬と組み合わせたフィコエリトリン標識結合試薬が、計器レーザーのスペクトル線による同時励起を使用して2つの異なるシグナルを検出するために使用できる。所望であれば、ホスファターゼ特異的捕捉デバイスとして、例えばα-ブロモベンジルホスホナート、並びにKumarら、Prod. Natl. Acad. USA 101:7943-48ページ、(2004年)によって説明される可視化及び精製のためのビオチン・タグを有する捕捉デバイスを接続するリンカーから成る活性基準の標識が設計され、そして合成されるかもしれない。
【0038】
リン酸特異抗体は、本発明によって提供される方法を実施するのに好適な検出可能な結合因子である1次標識抗体を作製するためにフルオロフォアに結合させてもよい。結合のためのフルオロフォア標識を選ぶ時、フルオロフォア標識の吸光度スペクトルは、血球計算器で使用されるレーザー線に一致しなければならず、そして、その放出は検出フィルタ・セットの範囲内に収まらなければならない。更に、標識は、細胞構造を通じて結合因子、例えば、抗体の結合特性又は透過性に干渉することができない。PE又はAPCのような巨大タンパク質フルオロフォアは、細胞内への抗体の移行を遅くし、そしてその結合特徴に影響することが理解されている。小分子標識、例えば、FITC、Alexa488、及びAlexa647といったフルオロフォアは、フルオロフォア-対-タンパク質の比の適切な管理を提供した最良の染色特徴を提供できる。フローサイトメトリーでのフルオロフォアの使用及び適用に関する幅広い議論は、Petitら、Biol. Cell 78:1-13ページ、1993年;Mullins, Methods MoI Biol 34:107-16ページ(1994年);及びShapiro, Methods Cell Biol 63:107-29ページ、2001年の中に見ることができる。
【0039】
フローサイトメトリー・デバイス及びプロトコールは、当該技術分野で周知であり、非常に多くの刊行物に十分に記載されている。例えば、Flow Cytometry and Sorting、第2版(1990年)M. R. Melamedら編、Wiley-Liss;Flow Cytometry and Cell Sorting、第2版(2000年)A. Radbruch, Springer-Verlag;及びIn Living Color:Protocols in Flow Cytometry and Cell Sorting(2000年)Diamond and Demaggio編、Springer-Verlagを参照のこと。フローサイトメトリー方法は米国特許番号第5,968,738号及び同第5,804,387号の中にも説明されており;上記文献の開示を本明細書中に援用する。
【0040】
よって、本発明は、サイトメトリー、例えば、フローサイトメトリー又はレーザー走査サイトメトリーのために細胞内タンパク質エピトープの維持を可能にするタンパク質エピトープ測定用の赤血球含有生物学的サンプルを調製するための方法を提供する。サイトメトリーは、リン酸特異的、及びその他の非リン酸エピトープを分析するための非常に強力な多重パラメーター方法であり、例えばウェスタンブロット法又はELISAといった方法による分析を上回る様々な利点を持っている。精度及び半定量的結果を維持するために、サイトメトリーによる検出は、例えばウェスタンブロット法及びELISAsといった従来の方法との比較によって妥当性を検証することができる。
【0041】
サイトメトリーは、あらゆる事前の細胞選別又は喪失なしに、T細胞対B細胞、罹患/癌細胞対正常細胞、発生のある段階の細胞対別の段階の細胞の分析を可能にする。検出のための細胞内エピトープを維持する様式での生物学的サンプルの調製を可能にすることによって、本発明の方法は細胞型間の迅速な比較を可能にする。いくつかのシグナル伝達カスケード又は1つの特定のカスケードのメンバーを、選ばれた検出可能な作用物質に基づいて同時に分析できることが理解されている。多重エピトープの検出が目的とされる態様において、例えば2、4、6、8、又はそれ以上の異なる色の多色分析が可能であるフローサイトメーターを使用することができる。よって、前記方法は、それらのシグナル伝達の状態に基づいて、又は刺激に対するそれらの反応を正常で健康な細胞と比較することによって疾患の特性分析を可能にする。この点で、腫瘍性障害は、しばしば、過剰に発現されたか、又は構成的に活性なシグナル伝達分子を特徴とする。本発明の方法は、フローサイトメトリーによる細胞ベースの薬物スクリーニングのための生物学的サンプルの調製のための更なる適用可能性を持ち、薬物特異性を測定するためにいくつかのシグナル伝達カスケードの同時観察を取り込むことができる。
【0042】
サイトメトリーによる検出は、使用者が混成集団内の細胞の希少なサブセットを分析することを可能にする。異種集団中の希少な細胞サブセットの分析を可能にすることによって、フローサイトメトリーは、特に多くの細胞型の存在下、インビトロにおけるそれらを最もよくシミュレートする環境内のシグナル伝達事象を観察するために使用できる。本明細書中に説明したように、本発明の方法は、その後の染色のためにほぼどの時点であってもシグナル伝達事象を止める赤血球細胞含有生物学的サンプルの調製を可能にする。
【0043】
本発明の方法が、細胞内シグナル伝達事象を迅速に計測するために、例えば96ウェル・プレートの様式で、多くのサンプルを用いて並行して実施されることは理解されている。様々な態様において、生物学的サンプル、例えば未希釈の末梢血液、骨髄吸引物、又は腹水を、様々なサイトカインで刺激し、そしていくつかの異なる細胞型、例えばT細胞、B細胞、及びNK細胞におけるMAPキナーゼ、例えばERK、p38、及びJNKのリン酸化、又はSTAT転写因子について計測することができる。よって、リン酸特異的なフローサイトメトリー法によって、たった1つの特定のリンパ球サブセット、例えば、B細胞又はT細胞のみを、他の亜集団によって示されなかった刺激に対する応答に基づいて標的化することができる。サンプル内に存在する細胞亜集団を見分けて、そして細胞型を検出する能力は、集団全体の状況で見られる場合に、小さく見え、且つ、検出されないかもしれない変化を個別にはっきりさせることができる。
【0044】
本発明によって提供される方法は、例えば、固定ステップとディタージェントステップの間、並びにディタージェントステップとそれに続く標識ステップの間に1以上のインキュベーション・ステップを組み込んでもよい。生物学的サンプルと固定剤との接触に続く約30秒間〜約1時間におよぶ時間のインキュベーション・ステップが想定される。第2インキュベーション・ステップが、サンプルとディタージェントの接触に続き、且つ、標識ステップに先行し、そして約30秒間〜約1時間におよぶ時間続く。現在の好ましい態様において、第2インキュベーション・ステップの時間は約10分である。
【0045】
本発明の方法は、1以上の遠心分離ステップを更に組み込むことができる。本明細書中に例示されるように、ディタージェントの除去を目的とした最初の遠心分離ステップは、標識ステップの前に実施されるかもしれない。更に、更なる遠心分離ステップが、アルコールを取り除くためにアルコール・ステップの後に実施されるかもしれない。洗浄ステップ、及び適切なバッファー、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中への再懸濁が、使用者によって望まれる様々なステップにて実施できることは理解されている。
【0046】
本明細書中に説明したように、本発明は、赤血球の除去(溶解)及び標的白血球細胞の透過処理の前に固定剤の添加を含む方法を提供する。その結果、本発明によって提供される方法は、標識された結合因子、例えば抗体、その断片、又は抗体様分子による細胞内又は核内区画への接近を可能にする。更に、本発明は、固定によって接近できないようになったタンパク質エピトープを「アンマスク」する手段を提供する本明細書中に説明したアルコール・ステップであって、重要なシグナル伝達タンパク質、例えばERK1、2のリン酸化の検出に必要であることが示されたステップを含む方法の態様を提供する。
【0047】
値域が提供される場合には、それぞれの介在値、別段の明確に指示する文脈がない限り下限値の10分の1の単位まで、その範囲の上限値と下限値の間、及び規定された範囲内のいずれか他の規定値又は介在値が、本発明の範囲内に含まれることは理解されている。これらのより細かい範囲の上限値及び下限値は、独立に、より細かい範囲内に含まれることができ、且つ、規定された範囲内のあらゆる特定の排除限度を前提として、本発明の範囲内に含まれる。規定された範囲が一方又は両方の限度を含む場合には、限度に含まれたそれらのいずれか又は両方を除く範囲が同様に本発明に含まれる。
【0048】
別段の規定のない限り、本明細書中に使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中では、別段の明確に指示する文脈がない限り、単数形「a」、「and」、及び「the」は複数の指示対象を含む。
【0049】
本願発明の様々な態様の活性に実質的に影響しない修飾もまた本明細書中に提供された発明の規定の範囲内に含まれることは理解される。従って、以下の実施例は、本発明を例証することを目的としているが、制限することはない。
【実施例】
【0050】
実施例I
全血サンプルの赤血球溶解、固定、及び透過処理
この実施例は、低浸透圧性溶解とそれに続く固定と、固定後のディタージェント溶解による全血サンプルの調製を説明し、そして比較する。
【0051】
つまり、酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA、Sigma Chemical Corp., St. Louis, MO)を、100%の無水エタノール中、40Mの使用溶液として調製し、そして、400nMの終濃度にて全血に使用した。実施例で使用されるTriton X-100及び他のディタージェントを、Pierce Biotechnology(Rockford, IL)からSurfact-Pak(商標)ディタージェント詰め合わせキットとして購入した。前記詰め合わせキットは、7種類の異なる非イオン性ディタージェント(Tween-20、Tween-80、Triton X-100、Triton X-114、Nonidet P-40、Brij-35、及びBrij-58、全て水中に10%溶液として提供した)、並びに3種類の粉剤(非イオン性オクチル-B-グルコシド、オクチル-B-チオグルコピラノシド、及び両性イオン性CHAPS)を含む。粉状ディタージェントを、PBS(Ca++及びmg++不含)中に溶解させて、10%の溶液を作製した。全てのディタージェントを、PBS中に使用直前に希釈した。
【0052】
リン酸特異的エピトープの細胞内染色について、(メタノール処理の有無にかかわらず)固定及び浸透化された細胞を、冷たい洗浄バッファーで1回洗浄し、そして遠心分離した。その細胞ペレットに、洗浄バッファーで希釈した抗体(単独又は複数の抗体)を、100μl中の所定の終量まで加え、そして40℃で15〜30分間インキューベートした。リン酸-ERK1/2(Thr 202/Tyr 204、クローンE10)に対するモノクローナル抗体を使用し(Cell Signaling Technologies, Beverly, MA)、製造業者の指示に従ってAlexa Fluor(商標)488(Molecular Probes, Eugene, OR)と結合させた。複合リン酸-ERK1/2は、4.3〜6.3のタンパク質対色素比を有し、そして事前の抗体力価実験によって決定した最適の抗体濃度(100μl中、106細胞あたり0.2μgの複合リン酸-ERK1/2)にて使用した。抗チューブリン(FITCコンジュゲート、クローンTB1A337.7)をBeckman Coulter, Inc.から調達し、100μl中、106細胞あたり0.5μgの濃度にて使用した。抗体染色後に、サンプルを、2mlの洗浄バッファー中に再懸濁し、35μmのナイロンメッシュ(小部品、PA某所)を通して濾過し、遠心分離し、そして150〜300μlの洗浄バッファー中に再懸濁した後にBeckman Coulter Epics(登録商標)Elite(商標)フローサイトメーターを使用して分析した。
【0053】
細胞表面及び細胞内染色のために、全血サンプル(100μl)を、50%の冷メタノール処理を伴う又は伴わない、製造業者指示に従ったQ-Prep(商標)処理(Beckman Coulter, Inc., Miami, FL)、あるいは方法Bの後に選択したモノクローナル抗体で染色するための加工をした。(方法B又はB'を使った細胞サンプル調製後に加えた)モノクローナル抗CD抗体は、CD45(クローンJ.33)、CD3(クローンUCHT-1)、CD19(クローンJ4.119)、CD13(クローンSJZD1)、CD14(クローンRMD52)、及びCD33(クローンD3HL60.251)を含む。全ての抗CD抗体を、Beckman Coulter, Inc.(Miami, FL)から入手し、そして製造業者によって推薦された抗体濃度にてPEコンジュゲートコンジュゲートとして使用した。室温での30分間の抗体インキュベーションの後に、試験管を遠心分離(645×Gで4分間)にかけ、1mlの洗浄バッファー中に再懸濁し、そしてFC-500(商標)又はEpics XL(商標)フローサイトメーター(Beckman Coulter, Inc., Miami, FL)のいずれかを使用してすぐに分析した。
【0054】
リン酸特異的エピトープの変化を計測する実験のために、フローサイトメトリーによる計測を、20mW、488nmの照射を使用する空冷アルゴン・レーザーを備えたEpics Elite(商標)フローサイトメーター(Beckman Coulter, Inc.)を使用して実施した。FITC又はAlexa fluor(商標)488蛍光を、525+/-10nmの帯域通過フィルターを通して採取し、そしてPEを、PEチャンネル内のFITC又はAlexa Fluor(商標)488シグナルを排除するために使用される最小限の補償を伴って、575+/-10nmの帯域通過フィルターを通して採取した。2000〜10000の陽性事象(一般にCD3陽性)を得、そしてリスト方式のファイルに保存した。データ分析を、Epics Elite(商標)ソフトウェアを使用し、平均蛍光強度(MFI)及び陽性事象の割合を計算して実施した。
【0055】
FALS及び側方散乱光の計測を使用したリンパ球、単球、及び顆粒球の相対分解能を比較する実験、及び3種類の異なる技術(Q-Prep(商標)、ホルムアルデヒド/Triton(アルコールなし)[方法B]、又はアルコールを伴うホルムアルデヒド/Triton[方法B’])を使用して調製した全血サンプル中の選択した表面マーカーの相対蛍光強度を計測する実験において、FC-500(商標)又はEpics XL(商標)フローサイトメーター(Beckman Coulter, Inc.)のいずれかを、製造業者によって提供された標準的な構成で使用した。照射を、488nm(のみ)を使って行い、そしてPEチャンネル(575+/-10nm)に関する機器の設定を同一の値で維持して、各計測について合計45,000個の細胞をカウントした。血小板の大部分及び小さな残骸を排除するように設定したFALS識別器を使用した。
【0056】
Q-Prep(商標)、方法B、又は方法Bと50%のMeOH処理(方法B’と表示される)に続く光散乱集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)の回復の際の定量的差異を、集団を測定したフローサイトメトリー・ベースの光散乱によるCBC分析の結果を比較することによって測定した。光散乱に基づく集団の検定を、Lokenら、Cytometry 11:453-459ページ、1990年に記載のとおり、CD45(FITC)対側方散乱光の同時計測を使用して実施した。
【0057】
図2に示されるとおり、低浸透圧性溶解技術(方法A)は、ごく通常に、非刺激全血と刺激したPMAとを比較して、リン酸-ERK1/2に関して20〜25倍増加したシグナルを与えた。CD3陽性末梢血リンパ球上のリン酸特異的ERKのレベルを、Chowら、Cytometry 46:72-78ページ、2001年による記載のとおりリンパ球が計測の対照となるように計測する。これは、1つには、低浸透圧性溶解技術に続く光散乱による白血球細胞集団の不十分な分解能が原因で行われた(図2、左のパネル)。PBC溶解直後にホルマリン固定を用いた修飾した低浸透圧性溶解技術(図2、下のパネル)と比較して、方法A(図2、上のパネル)を使用したリン酸-ERKシグナル(刺激したPMA対非刺激サンプルの比)における有意差は観測されなかった。これらの結果は、全血サンプルの固定の遅延がリン酸-ERKの計測レベルに有意な影響をもたらさないことを実証する。
【0058】
低浸透圧性赤血球溶解技術に関連する技術的困難を踏まえて、ディタージェント溶解とそれに続く固定を行った。架橋固定剤の濃度増大、インキュベーションの時間、又は高温は、赤血球細胞をディタージェント溶解に対してより耐久力のあるものとする要因である。一連の実験を、架橋固定の後に赤血球細胞を溶解するそれらの能力を評価して様々なディタージェントを選別するために行った。これらの実験について、100ulの全血を、35ulの10%ホルムアルデヒド(終濃度2%)によって室温で10分間、固定した。固定した全血サンプルを、次に、(固定剤の除去なしに)それぞれのディタージェントの3種類の異なる濃度(0.001、0.01、及び0.1%)のうちの1つで室温にて処理し、そして最長で2時間、赤血球の溶解を検出するために視覚的に観察した。
【0059】
ディタージェントで処理したサンプルを、白血球細胞集団の相対完全性及び分離を測定するために前方角散乱光(FALS)対側方散乱光(SS)を使用して分析した。図3に示されるように、0.1%のTriton X-100による固定全血の処理は、リンパ球、単球、及び顆粒球のはっきりと識別できる集団を示した(左のパネル)。対照的に、0.001%の終濃度のTriton X-100による処理は、はっきりと識別できるWBC集団を示さなかった(右のパネル)。0.01%のTriton X-100による固定サンプルの処理は、光散乱による同様に不足なWBC集団の分離を示した(結果未掲載)。同様の結果は、顕著な赤血球溶解を実証した3種類のディタージェント(Triton X-100、NP-40、及びBrij58)に関して見られ、3種類のディタージェントの全てがディタージェントの終濃度に依存する赤血球溶解及びWBC集団分離に関する類似パターンを示した(ここで、ディタージェントの特定の終濃度だけがWBC集団の明確な分離を実証し、同じディタージェントの他の濃度は、はっきりと識別できる分離を示さなかった)。
【0060】
RBC溶解を実証した3種類のディタージェント(Triton X-100、NP-40、及びBrij58)について、(試験した3つの濃度の中の)0.1%のディタージェント終濃度が、光散乱によるWBC集団の分離を示した。これらの3種類のディタージェントについて、0.01%にて、RBC溶解は見かけ上は見られず、そして、0.001%のディタージェントで処理したサンプルに関して、一部だけの溶解が見かけ上は見られた。
【0061】
ホルムアルデヒド固定(2%、室温で10分間)及び0.1%のディタージェント処理の使用によって、低浸透圧性溶解法(方法A)を使用して調製した全血サンプルにおける20倍以上のレベルと比べた場合に、PMA刺激した全血におけるリン酸-ERKレベルは、非刺激対照を2.5〜3.5倍上回っただけである(図4を参照のこと)。
【0062】
図4で実証されたとおり、2つの異なる方法(方法A対ホルムアルデヒド/Triton(方法B))で調製し、そして抗チューブリン-FITCでインキューベートした細胞は、同じ割合の陽性細胞(CD3陽性細胞の本質的には100%)、及び抗チューブリン染色に関して類似したMFIを示し(図4、右のパネル)、いずれかの方法を使用して調製された細胞内の細胞内抗原への同等な接近を示し、且つ、ホルムアルデヒド/ディタージェント法は、細胞内部への抗体の接近を可能にするのに十分な細胞浸透性を提供しない可能性を排除する。
【0063】
抗チューブリンではなく、リン酸-ERKの染色における主要な相違点は、チューブリンではなく、リン酸-ERKエピトープが、架橋固定に続いてアンマスキング又は変性を必要とすることを示唆し、過程は低浸透圧性溶解(方法A)技術においてアルコール処理によって提供された。しかしながら、図2及び4に示されるように、ホルムアルデヒド固定に続くアルコール処理は、光散乱特徴を維持せず、且つ、全ての白血球集団の識別を可能にしなかった。ホルムアルデヒド/ディタージェント技術は、光散乱を維持する一方で、リン酸-ERKをアンマスクしなかった。
【0064】
その結果、変性条件としての高塩濃度、低pH、及び熱の使用が、リン酸-ERK発現を潜在的にアンマスクできるかどうかを調査した。
高塩濃度、低pH、又は温度を使用した抗原のアンマスク
【0065】
4%のホルムアルデヒド(室温で10分間)中の全血サンプルの固定、そして0.1%のディタージェントでの室温で30分間の処理(Triton X-100、NP-40、又はBrij58)に続いて、サンプルを、可視的なRBC溶解後にディタージェント溶液への濃厚原液(5Mストック)の直接添加によってNaCl又は尿素中、1M又は2Mの濃度にした。低pHに晒すサンプルに関しては、(30分間のインキュベーション後に)遠心分離によってディタージェントを取り除き、そして、細胞をpH5に調整したPBS中に再懸濁した。全てのサンプルを、室温で30分間、高塩濃度又は酸に晒し、遠心分離し、そして洗浄バッファー中に再懸濁した。
【0066】
変性要因としての高温に晒されるサンプルについて、固定した全血サンプル(4%のホルムアルデヒドに室温で10分間)を、室温で30分間、0.1%のTriton X-100で処理し、次に、70℃の水浴中で10分間インキューベートし、遠心分離し、そして洗浄バッファー中に再懸濁した。全ての条件について、サンプルを、CD3-PE及びリン酸-ERK-Alexa 488で染色し、洗浄し、そしてEpics Elite(商標)を使用して分析した。
【0067】
図5に示され、そして表1にまとめられた結果は、低浸透圧性溶解技術によって調製された全血サンプルが(最上列、図5)、非刺激サンプルと刺激したサンプルを比較して、CD3陽性リンパ球におけるリン酸-ERK発現の26〜34倍の差異を示すことを実証する。1若しくは2NのNaCl又は1若しくは2Mの尿素のいずれかで処理したサンプルは、ディタージェントのみで処理したサンプルと比べて、リン酸-ERK発現の小さいが、わずかな増加を実証し、更に、pH5への暴露は、7倍の差異を示し、そして70℃処理は6倍の差異を示した(PMA刺激対非刺激)。いずれかのディタージェントで処理された、NaCl、尿素、又は低pHに晒された全血サンプルの散乱パターン(FALS対SS)は、白血球細胞集団の不十分な分解能を示した(図5、各ディタージェント処理に関する最初の列)。示された結果は、3つの異なる全血サンプルに対して実施された同一の実験を代表する。
【表1】

【0068】
これらの結果は、変性条件がホルムアルデヒド/ディタージェントで処理した細胞におけるp-ERK発現を改善した一方で、発現のレベルは、低浸透圧性赤血球溶解、固定、そしてアルコール処理によって処理された全血サンプル(方法A)で見られたものよりはるかに低かった。
実施例II
白血球細胞の光散乱に対する固定剤及びディタージェント濃度の影響
【0069】
この実施例は、白血球の分解能及び回復に対する固定剤及びディタージェントの両方の濃度とインキュベーション時間の影響を実証する。
【0070】
高濃度の架橋固定剤が、白血球細胞集団の光散乱の特性分析と分解能を維持するのを助けることを示唆した先の研究に基づいて、異なる固定剤濃度の影響を調査した。 全血サンプルを、室温又は37℃で10分間、濃度を高めたホルムアルデヒド(1%〜10%の終濃度)中で固定し、次に、(室温にて)1mlの0.1%TX-100と一緒に直ちにインキューベートした。図6に示されるように、(室温インキュベーションに関して)2%〜4%の高いホルムアルデヒド濃度は、白血球細胞集団の分解能を顕著に改善した(左のパネル)。同様に、37℃でのホルムアルデヒドによる全血サンプルの処理は、CD3発現に対する重大な影響なしに光散乱を使用したWBC集団の改善された分離をもたらした(両方の処理温度に関して類似したMFFs、図6、中央のパネル)。しかしながら、(4%を上回る)より高い濃度のホルムアルデヒドは、RBCsの不完全な溶解、及び白血球細胞集団の分解の失敗をもたらした(データ未掲載)。図6(右のパネル)に示されるように、37℃での処理は、リン酸-ERK発現に関して改善されたS/N比をももたらした(室温で2.5〜37℃の処理で5.2)。
【0071】
WBC回復、光散乱ベースの分離、及びp-ERK発現に対するディタージェント濃度の影響を測定するために、全血アリコート(100ul)を、室温で又は37℃で10分間の4%のホルムアルデヒド(終濃度)を使用して固定し、次に、0.1〜1.0%のディタージェント濃度を使用した1mlのTX-100と一緒にインキューベートした。これらの実験について、ディタージェントを遠心分離、及び洗浄(洗浄バッファーで3回)によって取り除き、そして細胞を抗CD3-PEで染色した。
【0072】
図7に示されているように、0.1%を超える高いディタージェント濃度は、残骸量の増加を伴うWBC集団の不十分な分解能、及び光散乱を使用したリンパ球からの単球の分解能の顕著な損失をもたらした(図7の左のパネルを参照のこと)。更に、高いディタージェント濃度の使用によって、CD3対側方散乱ヒストグラム(図7の中央のパネル)は、リンパ球で見られるより顕著に高い側方散乱特性を伴った高い割合のCD3陽性事象を示した。図7に示されるように、室温での固定は、ディタージェントの全ての濃度によるRBC溶解をもたらす一方で、37℃で固定したサンプルは、全てのディタージェント濃度で細胞凝集、及び不完全な赤血球溶解を実証した。
【0073】
これらの結果は、高いディタージェント濃度によって、CD3陽性リンパ球が単球又は顆粒球に結合するか、あるいは溶解されたCD3陽性リンパ球が単球及び顆粒球に結合する膜断片であるかのいずれかであることを示唆する(後者はSS特性とより合致する、図7の中央のパネルを参照のこと)。固定剤の力価に関するデータと共に、これらのデータは、最適の赤血球溶解とWBC回復が4%のホルムアルデヒド及び0.1%のTX-100処理を使用することで得られることを示唆する。しかしながら、先に議論した一連のホルムアルデヒド及びTX-100で処理した細胞のp-ERK染色を用いた研究は、非刺激対照サンプル(元々説明した低浸透圧性溶解処理の-28倍と比較した)に比べて7.4倍を超えて上回るp-ERKシグナル(PMA刺激した全血サンプルに関する)を提供できなかった。
【0074】
固定剤を伴う全血サンプルのインキュベーション時間の効果を、4%のホルムアルデヒド(10〜30分間)を使用して、次に調査した。更に、(先に説明したように)固定剤の存在下、又は固定剤の除去後のいずれかで、ディタージェントと一緒に(固定剤の添加後の)サンプルをインキューベートする効果を調査した。10分間を超える時間、固定剤中でインキューベートしたサンプルは、不完全なRBC溶解と細胞凝集を示した(結果未掲載)。固定剤の存在下、ディタージェントで処理したサンプルは、固定剤と一緒に10分間インキューベートし、洗浄し、そして、ディタージェントで処理した(10〜30分間の時間)サンプルに比べて、より完全な赤血球溶解と白血球細胞集団のより良好な分解能を示した(結果未掲載)。この時点で、全血サンプルは、良好なRBC溶解、並びにリンパ球、単球、及び顆粒球の良好な分解能を示したが、リン酸-ERK1/2に関するシグナル対ノイズの比は依然として5〜8のままであり、この細胞内抗原エピトープのかなりのマスキングがまだ存在していることを示唆している。
実施例III
アルコール・アンマスキング剤のP-ERKに対する影響、及びCD3発現に対する影響
【0075】
この実施例は、リンパ球回復と表面エピトープのアンマスキングに対するアルコールの影響を実証する。
【0076】
架橋固定剤を用いた固定に続いて、不活性化されたリン酸-タンパク質(など)のエピトープを「アンマスク」するために、一連の実験を、ディタージェント処理に続くアルコール処理の影響を評価するために行った。ディタージェントへの30分間の暴露に続いて、固定した全血サンプルを、冷たい(4℃)バッファー(PBS w/o Ca++又はMg++)で洗浄し、そして4℃の、一連の異なる濃度のメタノール又はエタノール中に再懸濁した。それぞれのサンプルの1つのアリコートを、4℃で一晩保持して、アルコール溶液中への保存の影響を調査した。これまでのように、(遠心分離によるアルコールの除去、そしてPBSでの洗浄に続いて)サンプルを、(T-リンパ球の回復と染色を評価するための)CD3-PEに対する抗体、及び(エピトープのアンマスキングを評価するための)リン酸-ERKに対する抗体で染色した。
【0077】
図8に示した結果に示されるように、メタノール処理(40〜60%の終濃度)は、WBC光散乱特性を維持する一方で、良好なCD3染色を維持している。エタノール処置は、より高い割合の残骸(図8、左下のパネル)、並びに単球の損失をもたらした。多くの研究室が日常的にサンプルを4℃にて様々な時間、アルコール中で保持しているので、これらの研究の一環として、我々は、2連のサンプルを分析前にアルコール溶液中に一晩保持した。図8(右のパネル)に示されるとおり、結果は、メタノール中に一晩保持した溶液中の残骸の割合のいくらかの増大があった一方で、メタノールで処理したサンプルにおける光散乱又はCD3発現のいずれにも顕著な悪化がなかったことを実証した。対照的に、エタノール中に一晩保持したサンプル(図8、右下のパネル)は、顕著な残骸、光散乱の悪化、及びCD3染色の喪失を示した。
実施例IV
白血球細胞集団に対するアルコール処理の影響
【0078】
この実施例は、リンパ球集団の散乱分離に対するアルコール処理の影響について説明する。
【0079】
先の実施例I〜IIIは、フローサイトメトリーのために細胞内抗原を染色するための全血サンプルの固定、RBCsの溶解、及び細胞の透過化の2つの方法を説明している。固定/ディタージェント溶解技術と呼ばれる基本的な方法の1つの態様において、全血サンプルを室温で10分間、4%のホルムアルデヒドを使用し、それに続いて固定剤を除去することなく室温で1mlの0.1%のTriton X-100を添加して固定化することができる(方法B)。冷たい(4℃)(蒸留水又はバッファー中の)50%メタノールでの更なる処理を、変性ステップを必要とするタンパク質エピトープをアンマスクするために利用することができる(方法B’)。
【0080】
図9に示されるように、方法Bによる全血サンプルの処理は、WBC集団の良好な光散乱分離、T-リンパ球での高レベルのCD3発現をもたらしたが、しかし、我々の独自の低浸透圧性溶解技術で処理した全血(方法A、図9、一番上のパネル・セット)と比較して低レベルのp-ERK発現(図9の2番目のパネル・セット)をもたらした。ディタージェント処理後に50%のメタノールで処理した全血サンプル(方法B'、図9の3番目のパネル・セット)は、WBC光散乱特性、CD3発現、及び比較的高いレベルのp-ERKを維持した(ここで、方法B’に関してS/N=19.1、方法Bに関してS/N=8.1、そして方法Aに関してS/N=29)。
【0081】
白血球細胞集団の分解能に対する2つの技術(方法BとB’)の影響を測定するために、一連の実験を実施し、Q-Prep(商標)システム(Beckman Coulter, Inc.)、固定/ディタージェント溶解技術(方法B)、又は固定/ディタージェント溶解とそれに続く50%の冷メタノール(方法B’)を使用して処理した全血サンプルを比較した。
【0082】
個々の健常な提供者からのサンプルを、これらの3つの異なる技術を使用して処理し、そして(FALS対SSを使用する)フローサイトメトリーによって計測して、Riley、Statistical analysis and optimal classification of blood cell populations using Gaussian distributions、Ph, D. dissertation:Florida International University;(2003年)によって説明されるとおり、光散乱集団間のフィッシャー・ディスタンス(Fisher Distances)の計測値を使用してリンパ球、単球、及び顆粒球の相対的分離を測定した。
【0083】
手短に言うと、主要な白血球細胞集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)の回復と識別に対する異なる全血調製技術の相対的効果を測定するために、実験を実施し、Riley、上記、2003年に説明されているとおりフィッシャー・ディスタンスの計測を使用して前方対90度の光散乱パラメーター(共に線形)によってこれらの3つの集団の分離を比較した。
【0084】
図1に図解されるように、この技術は、2つの長軸(XとY)に従ってそれぞれの光散乱ベースの集団の質量中心を計測し、そして、直角三角形の斜辺を算出する、ここで、
【数1】

である。リンパ球(A)と単球(B)に間のフィッシャー・ディスタンスは、
【数2】

であり、ここで、SD=標準偏差である。それぞれの集団を、Xと共にY軸に従って各集団のSDを足し算し、そして2で割ることによって計算した。この計算は正確な集団SDを提供しないがその一方で、容易に計算できる有効、且つ、有用な近似値を提供する。フィッシャー・ディスタンスを計算するために、先に述べたとおり、3つの技術のそれぞれによって調製したサンプルを、唯一FC-500(商標)フローサイトメーターを用いて分析し、合計45,000の事象をカウントした。アルコールなしのQ-Prep(商標)又は方法Bを使用して調製されたサンプルについては、増幅率及び高電圧に関して同一の設定を、FALS及び側方散乱の検出装置の両方に使用した。アルコール処理を使用して調製したサンプル(方法B’)については、3つの集団の分解を可能にするために、より高い電圧を両方の散乱検出装置に使用した(両方の電圧については3.3倍高い)。
【0085】
リンパ球、単球、及び顆粒球の計数を、FALS及び側方散乱を使用して得、個々のサンプルについて構成比を計算した。全血液検査(LH-750(商標)から得られた)CBCを使用してその提供者に対して得られたWBCを、個々の値(%)に乗じた。試験精度(再現性)を評価するために、平均、標準偏差、及び変動係数を、それぞれの一連の反復について計算した(CD45、3、19、13、14、及び33で染色した試験管)。
【0086】
サンプル調製方法を、フィッシャー・ディスタンス、CBCパラメーター、及び表面マーカーのMFFsについて比較した。分散分析及びTukey-Kramer試験を、フィッシャー・ディスタンスの比較方法に使用した。方法を、Bland and Altman、Lancet 1:307-31ページ(1986年)に記載のとおり、MFIを使用して個々のCDに関して、及び差異プロットを使用してCBCパラメーターに関して、差異と総バイアスに関して比較した。各血液標本について2つの方法の間の差異は、以下の通り統計的にモデル化できる。
D=TB+E
ここで、Dが差異であり、TBが総バイアス、及びEが偶然誤差である。Eが不正確性に主に関連するので、その標準偏差の値もまたアッセイの不正確性を推定する。TBの推定に関する詳細は、Magari、Journal of Biopharmaceutical Statistics、2004年(印刷中)の中に見ることができる。95%信頼及び99%範囲の許容限界を、標準誤差の推定に基づいて計算した。SAS(SAS Institute Inc., Carry, NC)を、全ての統計的分析に使用した。
【0087】
3つの技術の全てを比較した24人の健常な提供者の計測の結果を表2にまとめる。リンパ球と単球の間のフィッシャー・ディスタンスは、Q-Prep(商標)を使用して調製したサンプルについて最大であり(フィッシャー・ディスタンス=2.19)、この技術が、試験した3つの技術に関してリンパ球からの(そして顆粒球からの単球の分離に関して)単球の最良の分離をもたらすことを示唆した。分析は、Q-Prep(商標)及び方法Bを使用して調製したサンプルのフィッシャー・ディスタンスを比較して有意差を実証した。しかしながら、方法B対方法B’に関してリンパ球から単球へのフィッシャー・ディスタンスを比較した有意差は、存在しなかった。各サンプルを6つの異なるCDマーカーで染色したので、我々はサンプル内、並びに技術間のサンプル変動性も分析した。この分析は、同じ技術によって調製されたサンプル間の変動性と比べた場合に大きなアッセイ間の変動性を実証した。
【0088】
単球と顆粒球の間のフィッシャー・ディスタンスを比較する際に(表2)、3つの技術の全てが有意に異なる結果を与え、Q-Prep(商標)によって、最良の分離が実証され、方法Bがそれに続いた。我々の総合的な分析は、使用法B及びB’が、Q-Prep(商標)によって提供されたものほど良くないWBC集団の分離を提供し、方法B及びB'を使用して調製された全血サンプルの散乱計測(FALS対SS)が、WBC集団を明確に分離するのに十分な分解能を提供し、一般に、我々独自の低浸透圧性溶解技術によって提供されるものに比べて顕著に良好な分解能を提供することを示唆した(上のパネル、図9を参照のこと)。
【表2】

【0089】
3つの技術の全てで調製した全血サンプルのアリコートを、LH-750(商標)(Beckman Coulter, Inc.)アナライザーを使用して計測して、いずれの血球細胞集団がサンプル調製の結果として減少(喪失)したかどうかを測定するために、リンパ球、単球、及び顆粒球のカウント(CBC)を得た(低い固定濃度を使用した先の実験、と共にディタージェント及びアルコール処理は、単球の顕著、且つ、選択的な喪失を示した)。バイアス・プロット(図10)を使用して分析を実施して、様々なWBC集団の回復に有意差があったかどうか測定した。リンパ球集団(図10、上のパネル)は、3つの全血技術を比較した場合にリンパ球測定において有意差のないCBC測定と比較した場合に、3つの全血調製技術の全てについて一貫して過剰に推定された。3つのフローサイトメトリーによるリンパ球測定とCBCの間のこの差異は、リンパ球ゲート内の低散乱を伴う事象(残骸、血小板)を含めた結果として説明できる。単球(図10、中央のパネル)及び顆粒球(図10、下のパネル)の回復の比較は、単球に関していずれの全血技術についても顕著な変化を示さず、そしてCBCと比較した3つの全血技術の全てについて顆粒球の回復の小さいが、しかしわずかな減少を示した。
実施例V
代表的なCDマーカーの発現に対する全血固定技術の影響
【0090】
この実施例は、代表的な一連の細胞表面マーカーに対する50%の冷メタノールの添加のあり又はなしでの種々固定、RBC溶解、及び透過処理技術の影響を実証する。
【0091】
最後の一連の実験は、リンパ球(CD3、19)、単球(CD13、14)、及び顆粒球(CD13、33)の細胞表面マーカーに対する(50%の冷メタノールの添加のあるなしにかかわらず)固定、RBC溶解、及び透過処理技術の影響を調査した。先に説明したとおり、全血サンプルを、アルコールのあるなしにかかわらずQ-Prep(商標)又は固定/ディタージェント溶解を使用して調製した。洗浄後に、サンプルを、(全てPEコンジュゲートとして)単一抗体と一緒にインキューベートし、そしてフローサイトメトリーによって分析して、陽性細胞の割合、及び平均蛍光強度(MFI)を測定した。
【0092】
24人の個々の提供者のCDマーカー測定の結果を表3及び図11に示す。表3に示されるように、3つの異なる全血調製技術を比較すると、いずれのマーカーについてもMFIにおいて多少の変化があったがその一方で、染色強度の唯一の顕著な減少が、50%のメタノールで処理した全血サンプル中のCD19に関して見られた(方法B’)。
【0093】
CD19発現のバイアス・プロット(図11、3番目のパネル)に示されるとおり、方法B又はB’を使用して調製したサンプル中のこのマーカーの発現について相当な変動性があり、個々の血液提供者におけるホルムアルデヒド/Triton(そして、メタノール)処理に対するこのエピトープの感受性差を示唆した。使用される全血調製技術にかかわらず全ての提供者においてCD19陽性細胞を容易に検出できた。他のマーカーが別の方法を比較すると染色強度(MFI)のいくらかの増大又は減少を示す一方で、全ての場合で、これらの6つの代表的CDマーカーに関して陽性対陰性細胞集団を容易に同定するのに十分な染色強度があった。
【表3】

【0094】
当該出願全体を通じて、様々な刊行物が括弧内に参照された。本願発明が関係する技術分野の状況をより完全に説明するために、これらの刊行物の開示の全体を当該出願中に援用する。
【0095】
本発明は開示された態様に関して説明されるが、当業者は、先に説明された特定の実施例及び研究が本発明を例証するだけであることを容易に理解する。本発明の本質から逸脱することなく様々な修飾を加えることができることが理解されるべきである。従って、本発明は以下の請求項によってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】フローサイトメトリーによって計測された全血サンプルからの光散乱測定を使用したWBC集団についてのフィッシャー・ディスタンスを計算するのに使用される技術に関する説明図を提供する。
【図2】全血活性化直後の固定なし(上のパネル)、又はあり(下のパネル)での低浸透圧性溶解の影響を示している。修正法A(下のパネル)において、サンプルは、RBCsの低浸透圧性溶解直後に固定された。両方の方法とも、リン酸-ERKに関して類似したシグナル対ノイズ(S/N)を示している。即時型の固定方法は、一般に、光散乱集団のより良好な分解能を提供するが、しかし低率のCD3陽性のT細胞しか提供しない。
【図3】全血の光散乱計測に対する異なるディタージェントの影響を示している。データを示したTriton X-100で処理された全血サンプルは、他の2つのディタージェントを代表するものである。
【図4】方法A(低浸透圧性溶解技術)(上のパネル)と対比して、2%のホルムアルデヒド固定とそれに続く0.1%のTriton X-100(下のパネル)を使用して調製した全血サンプルの結果の比較を示す。ここに示された典型的な結果は、光散乱によるWBC集団の不十分な分解能、CD3染色の低い強度、ところが方法Aから見て高いP-ERKに関するS/Nを実証した。両方法の類似した抗チューブリン染色強度は、両方法についての細胞内区画への類似した接近可能性を示している。
【図5】光散乱計測、CD3発現、及びP-ERK染色強度に対する異なった変性剤(列)、及び異なったディタージェント(TX-100、右のパネル;Brij-58、中央のパネル;NP-40、左のパネル)の効果を示している。
【図6】光散乱計測、CD3発現、及びP-ERK染色強度に対する様々な濃度のホルムアルデヒド固定剤、及びインキュベーション温度の影響を示している。
【図7】光散乱計測、CD3発現、及びP-ERK染色強度に対する様々な濃度のTriton X-100(0.1%〜1.0%、上のパネルから下のパネルへ)の影響を示している。
【図8】光散乱計測、及びCD3発現に対する、「アンマスキング」のために使用した様々なアルコール濃度(メタノール又はエタノール)の効果を示している。対を成すサンプルは、CD3染色前に各アルコール濃度にて15分間インキューベート、又は4℃で一晩保持した。
【図9】光散乱計測、CD3発現、及びP-ERKレベルに対する全血溶解(上の列)、方法B(中央の列)、又は方法B’(下の列)の影響を示す、様々な細胞調製法の効果の比較を示している。
【図10−1】3種類の異なる技術(Q-Prep(商標)、方法B、又は方法B’)によって調製した全血サンプルのフローサイトメトリーによる光散乱計測によって測定される様々なWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)の総バイアス・プロットを示している。3種類の異なる技術についての値は、各サンプルにおいてLH-750(商標)を使用することで得られる白血球分画(differential counts)と比較した。
【図10−2】3種類の異なる技術(Q-Prep(商標)、方法B、又は方法B’)によって調製した全血サンプルのフローサイトメトリーによる光散乱計測によって測定される様々なWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)の総バイアス・プロットを示している。3種類の異なる技術についての値は、各サンプルにおいてLH-750(商標)を使用することで得られる白血球分画(differential counts)と比較した。
【図11−1】3つの異なる技術(Q-prep、方法B(「省略」)、又は方法B’(「完全」))で調製した全血サンプルの異なるWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)についてのMFI(蛍光強度を意味する)の計測に基づく総バイアスの推定値を示している。概算の許容限界が、使用した6つの異なるCDマーカーの各々に関してWBC集団を数えるための2つの方法の間の平均値に対してプロットされている。
【図11−2】3つの異なる技術(Q-prep、方法B(「省略」)、又は方法B’(「完全」))で調製した全血サンプルの異なるWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)についてのMFI(蛍光強度を意味する)の計測に基づく総バイアスの推定値を示している。概算の許容限界が、使用した6つの異なるCDマーカーの各々に関してWBC集団を数えるための2つの方法の間の平均値に対してプロットされている。
【図11−3】3つの異なる技術(Q-prep、方法B(「省略」)、又は方法B’(「完全」))で調製した全血サンプルの異なるWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)についてのMFI(蛍光強度を意味する)の計測に基づく総バイアスの推定値を示している。概算の許容限界が、使用した6つの異なるCDマーカーの各々に関してWBC集団を数えるための2つの方法の間の平均値に対してプロットされている。
【図11−4】3つの異なる技術(Q-prep、方法B(「省略」)、又は方法B’(「完全」))で調製した全血サンプルの異なるWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)についてのMFI(蛍光強度を意味する)の計測に基づく総バイアスの推定値を示している。概算の許容限界が、使用した6つの異なるCDマーカーの各々に関してWBC集団を数えるための2つの方法の間の平均値に対してプロットされている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出のための細胞内タンパク質エピトープの維持を可能にする、タンパク質エピトープ計測用の赤血球含有生物学的サンプルの調製方法であって、以下のステップ:
(a)上記サンプルを固定剤と接触させることを含む固定ステップであって、当該固定剤を、タンパク質、脂質、及び核酸分子の架橋に十分な終濃度を達成するような量で加える上記ステップ;
(b)上記サンプルへのディタージェントの添加を含むディタージェントステップであって、当該ディタージェントを、上記赤血球細胞の溶解、及び白血球細胞の透過化に十分な終濃度を達成するような量で加える上記ステップ;及び
(c)標識ステップであって、上記サンプルを1つ以上のエピトープに特異的な検出可能な結合因子と接触させる上記ステップ、
を含む前記調製方法。
【請求項2】
細胞表面エピトープの反応性を低下させることなく前記細胞内エピトープをアンマスクするのに十分な終濃度を達成するような量のアルコールと前記サンプルとを接触させることを含むアルコール・ステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルコール濃度が約25%〜約75%である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルコール濃度が約40%〜約60%である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アルコールが、エタノール及びメタノールから成る群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アルコールがメタノールである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)及び(b)が室温で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(a)及び(b)が37℃で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプルを、前記細胞内エピトープの接近可能性を低下させることなく氷点下の温度で保存できる、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記の温度が約−20℃である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
T-リンパ球の酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)活性化から成る初期ステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞内エピトープがリン酸化エピトープを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞内タンパク質がシグナル伝達経路に関与する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記検出がサイトメトリーによって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記サイトメトリーがフローサイトメトリーである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記サイトメトリーがレーザー走査サイトメトリーである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記サイトメトリーがイメージ・サイトメトリーである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(a)に続いてステップ(b)の前に前記サンプルのインキュベーションを含む第1インキュベーション・ステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記第1インキュベーション・ステップが、約30秒〜約1時間にわたる時間である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(b)に続いてステップ(c)の前に前記サンプルのインキュベーションを含む第2インキュベーション・ステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記第2インキュベーション・ステップが、約30秒〜約1時間にわたる時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記時間が約10分である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記固定剤濃度が、約0.1%〜約20%である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記固定剤濃度が、約2%〜約4%である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記固定剤がホルムアルデヒドである、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記ディタージェント濃度が、約0.1%〜約8%である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記ディタージェント濃度が、約0.1%〜約1%である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ディタージェントがイオン性ディタージェントである、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記イオン性ディタージェントが、Triton X-100、Nonidet P-40(NP-40)、及びBrij-58から成る群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ディタージェントがTriton X-100である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(b)に続いてステップ(c)の前に前記サンプルの遠心分離を含む第1遠心分離ステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
ステップ(e)に続いて前記サンプルの遠心分離を含む追加的な遠心分離ステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記生物学的サンプルが、血液、骨髄吸引物、及び腹水から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記生物学的サンプルが未希釈の末梢血液を含む、請求項33に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図11−4】
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【公表番号】特表2008−511829(P2008−511829A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529916(P2007−529916)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2005/028563
【国際公開番号】WO2006/026109
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(503179779)ベックマン コールター,インコーポレーテッド (4)
【出願人】(500501546)ユニバーシティー ヘルス ネットワーク (3)
【Fターム(参考)】