説明

細胞受容体への結合が除去された改変アデノウイルス繊維

本発明は、少なくとも1つのグリコサミノグリカン、および/またはシアル酸含有細胞受容体と相互作用するアデノウイルス繊維の1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす少なくとも1つの変異を含有する改変アデノウイルス繊維に関し、かつそのような改変アデノウイルス繊維の三量体に関する。また本発明は、改変アデノウイルス繊維をコードするDNA断片、発現ベクターにも関する。また本発明は、野生型繊維を欠きかつ改変アデノウイルス繊維の三量体を含むアデノウイルス粒子に関し、そのようなアデノウイルス粒子を産生する方法にも関する。本発明はまた、そのようなアデノウイルス粒子を含む組成物、およびその治療的使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの細胞表面グリコサミノグリカンまたはシアル酸含有受容体の認識および/または受容体への結合に関与している領域または残基において変異したアデノウイルス繊維タンパク質に関する。本発明は、そのようなグリコサミノグリカンまたはシアル酸含有受容体と相互作用する能力が減少または除去された(ablated)、そのような繊維変異体を表面に有するアデノウイルス粒子にも関する。本発明は、そのようなグリコサミノグリカンまたはシアル酸含有受容体およびコクサッキー-アデノウイルス受容体(CAR)の両方の認識および受容体両方への結合に関与している領域または残基において変異したアデノウイルス繊維タンパク質も提供する。本発明は、CAR並びにそのようなグリコサミノグリカンおよび/またはシアル酸含有細胞受容体と相互作用する能力が減少または除去された、そのような二重変異繊維を表面に有するアデノウイルス粒子にも関する。そのようなアデノウイルス粒子は、任意で、改変されたまたは再標的とされる宿主特異性を与えるリガンドと選択的に組み合わせることができる。本発明は、癌疾患、心血管系疾患、遺伝子疾患、および炎症性疾患を含む多数の遺伝子治療用途で用いることができるアデノウイルス標的化(adenovirus targeting)および標的ベクターの開発に関連してとりわけ価値がある。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルスは、多くの動物種で検出されており、非組込み型であり(non-integrative)、病原性が低い。ウイルスは、分裂中の細胞および休止状態の細胞などの種々の細胞型に感染することができる。ウイルスは、気道上皮に対し生来の向性(tropism)を有している。さらに、アデノウイルスは、優れた安全性プロフィールを有する腸用の生ワクチンとして多年にわたって用いられている。最後に、ウイルスは、容易に増殖し、大量に精製することができる。これらの特徴のため組換えアデノウイルスは、非常に広範な治療およびワクチン用途のための遺伝子治療ベクターとしての使用に特に適切である。
【0003】
アデノウイルスゲノムは、完全なウイルスサイクルに必要な約30個を上回る遺伝子を保有するおよそ36kb(慣用的には100マップ単位(mu)に分けられる)の直鎖状の二本鎖DNA分子からなる。生産的なアデノウイルス感染の際、3つのクラスのウイルス遺伝子が初期(E)、中期、および後期(L)の順で時系列的に発現する。初期遺伝子は、アデノウイルスゲノム中に分布した4つの領域(E1〜E4)に分けられる。E1、E2、およびE4領域はウイルスの複製に必須であるが、この点に関してE3領域は必須ではない。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムの転写調節の原因となるタンパク質をコードする。E2領域遺伝子(E2AおよびE2B)の発現により、ウイルスの複製に必要なポリペプチドが合成される(Pettersson and Roberts, 1986, In Cancer Cells (Vol 4): DNA Tumor Viruses, Botchan and Glodzicker Sharp Eds pp 37-47, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N. Y.)。E3領域によりコードされるタンパク質は、細胞障害性T細胞および腫瘍壊死因子による細胞溶解を妨げる(Wold and Gooding, 1991, Virology 184, 1-8)。E4領域によりコードされるタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現、スプライシング、および宿主細胞のシャット・オフ(shut off)に関与している(Halbert et al., 1985, J. virol. 56, 250-257)。後期遺伝子(L1〜L5)は、主要後期プロモーター(MLP)からほとんど転写される。後期遺伝子は、少なくとも部分的に初期転写単位と重複し、その大部分ではウイルスカプシドを構成する構造タンパク質をコードしている。さらに、アデノウイルスゲノムは、両末端において、それぞれ5'および3'ITR(逆方向末端反復)というDNA複製に必須のシス作用領域を保有し、ITRはDNA複製開始点および5'ITRに直ぐ近接しているパッケージング配列を保持する。
【0004】
遺伝子治療プロトコルで現在用いられているほとんどのアデノウイルスベクターは、環境中および宿主生物中での伝播(dissemination)を回避するために、複製欠損(replication-defective)ウイルスである(すなわち、それらが感染した宿主細胞中で分裂または増殖することができない)。E1欠失ベクターを用いたインビボでの種々の組織中への遺伝子の移入(transfer)の容易性が実証されている(例えば、Yei et al., 1994, Hum. Gene Ther. 5, 731-744; Dai et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 1401-1405; Howell et al., 1998, Hum. Gene Ther. 9, 629-634; Nielsen et al., 1998, Hum. Gene Ther. 9, 681-694を参照されたい)。しかしながら、ベクターの使用は、多くの動物モデルでの急性の炎症および毒性に関連するのみならず(Yang et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 4407-4411; Zsengeller et al., 1995, Hum. Gene Ther. 6, 457-467)、ウイルスベクターおよび遺伝子産物に対する宿主免疫応答にも関連し(Yang et al., 1995, J. Virol. 69, 2004-2015)、それにより感染細胞が排除され、一過性の遺伝子発現を生ずる結果となる。アデノウイルスによって仲介される免疫原性を克服するために追加のウイルス遺伝子を欠失した第2世代アデノウイルスベクターが現在詳細に調べられている(Engelhardt et al., 1994, Hum. Gene Ther. 5, 1217-1229; Engelhardt et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 6196-6200)。E1を欠失し、かつ、部分的にE4を欠失したアデノウイルスベクターのインビボでの評価では、肝毒性および炎症が減少したことが示されている(Christ et al., 2000, Human Gene Ther. 11, 415-427)。
【0005】
アデノウイルス粒子の細胞表面への最初の吸着は、遍在する(ubiquitous)細胞表面受容体にウイルス繊維タンパク質のノブ領域が結合することにより仲介される。免疫グロブリンスーパーファミリーに属する2つの異なるタンパク質は、アデノウイルス血清型C繊維の一次受容体:コクサッキーウイルス-アデノウイルス受容体(CARと呼ぶ)(Bergelson et al., 1997, Science 275, 1320-1323; Tomko et al., 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 3352-3356)、および主要な組織適合性複合体クラスI分子のα2ドメイン(Hong et al., 1997, EMBO J. 16, 2294-2306)として報告されている。しかしながら、アデノウイルス向性におけるCARの主要な役割は、細胞表面でのMHCクラスI重鎖のレベルとアデノウイルス感受性との間での不調和(discordance)を実証したMcDonaldらの研究成果(1999, Gene Ther. 6, 1512-1519)によって示唆されている。サブグループCのアデノウイルス繊維に加えて、CARはサブグループA、D、E、およびFの繊維に結合する(Roelvink et al., 1998, J. Virol. 72, 7909-7915)が、血清型3および7の繊維などのサブグループBのアデノウイルス繊維には結合しないことも示されている(Krasnykh et al., 1996, J. Virol. 70, 6839-6846; Santis et al., J. Gen Virol. 80, 1519-1527)。
【0006】
さらに近年、細胞表面ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSG)は、アデノウイルス血清型5(Ad5)と相互作用することが示され、これらの分子によってウイルスが細胞に結合することが容易になり得ることも示唆されている(Dechecchi et al., 2000, Virology 268,382-390 ; Dechecchi et al., 2001, J. Virol. 75,8772-8780)。
【0007】
付着したアデノウイルス粒子の細胞中への内在化は、ウイルスのペントンベースタンパク質に位置するArg-Gly-Asp(RGD)配列が細胞αvインテグリンによって認識されることにより仲介される(Mathias et al., 1994, J. Virol. 68, 6811-6814)。この相互作用により細胞内在化が引き起こされ、それによりビリオンはエンドソーム内での局在化を達成する。エンドソームの酸性化によりカプシドタンパク質のコンフォメーション変化が引き起こされ、それにより小胞崩壊及び粒子の脱出がなされる形式でエンドソーム膜と相互作用することが可能になる。エンドソーム分解後に、ビリオンは核に移行し、ここでウイルス生活環のその後の過程が起こる。
【0008】
CAR細胞受容体がほとんど遍在して分布していることは、ヒト血清型Cアデノウイルスの細胞向性が広いことの主要な原因であると思われる。この考えと一致して、この受容体の非存在または発現の減少は、アデノウイルス形質導入に対するある種の細胞型(例えば、リンパ球、平滑筋細胞)の感受性が乏しいことと相関することが示されている(Leon et al., 1998,, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 13159-13164; March et al., 1995, Hum. Gene Ther. 6,41-63)。さらに、数多くの研究では、一次腫瘍細胞はほんの低いレベルのCARしか発現しないことが報告されている(Li et al., 1999, Cancer Res. 59,325-330; Miller et al., 1998, Cancer Res, 58, 5738-5748)。
【0009】
アデノウイルスが広いスペクトルの分裂細胞および非分裂細胞型の感染を仲介する能力は、代替となる遺伝子トランスファーベクターよりも有利である。しかしながら、潜在的に有害なタンパク質(例えば、サイトカイン、細胞毒性タンパク質、自殺遺伝子産物)をコードする遺伝子が周囲の正常な組織中で発現したとき、この広い組織向性は不利になり得る。さらに、インビボでの全遺伝子送達効率が、非標的細胞の形質導入による生物中のウイルスの有意な希釈により低下しうる。したがって、定められた標的進入経路を有するアデノウイルスベクターの開発は、いくつかの現在の遺伝子治療戦略の安全および効能を大きく改善するであろう。したがって、標的アデノウイルスベクターは、形質導入不応性細胞(例えば、一次腫瘍細胞)に対する感染力を増大するか、あるいはウイルス向性を対象の特異的組織に制限することにより、遺伝子治療の手順を改善することができる。
【0010】
これに関し、ここ数年、アデノウイルス向性をその天然受容体から特異的細胞表面分子に指向し直す努力が増大している。繊維およびペントンベースとそれらの対応する細胞受容体との相互作用はウイルス向性の鍵となる決定基(determinant)を提示するので、アデノウイルスを再標的にすることは、原則的には、遺伝学的、免疫的、または化学的にカプシドタンパク質を変えることにより達成することができる(例えば、国際公開公報第94/10323号、および総説としてBarnett et al., 2002, Biochemica et Biophysica Acta 1575, 1-14を参照されたい)。そのような改変は、ウイルスとその天然受容体との相互作用をなくすこと、および標的とする細胞上で特異的に発現する分子を認識する新しいリガンドを提供することを目的とする。
【0011】
Ad5繊維タンパク質は、ビリオン表面から突出している長い三量体タンパク質である。各々の繊維単量体は、ペントンベースタンパク質と会合するテール(tail)、長さが種々の血清型の間で変動し、かつ、およそ15残基の繰り返しモチーフにより特徴づけられるシャフト(shaft)(Green et al.,1983, EMBO J.2, 1357-1365; Signas et al., 1985; J. Virol. 53,672-678)、および細胞受容体と相互作用するノブ(Henry et al., 1994, J. Virol. 68, 5239-5246)の3つの領域からなる。Ad2では、ノブ中のC末端の40アミノ酸残基および最後のシャフトの繰り返しがAd2繊維の三量体形成に必要である(Hong and Engler, 1996. J. Virol. 70, 7071-7078; Novelli and Boulanger, 1991, Virol. 185, 365-376)。
【0012】
Ad5繊維ノブの結晶構造は、細菌中で発現されたタンパク質から決定されている。構造は、3つの羽を持つプロペラおよび表面凹部を有する三量体である。各々のノブ単量体は、8本鎖の逆平行βシート構造として組織され、βシートはループおよびターンにより繋がっている(Xia et al., 1994, Structure 2, 1259-1270)。4つのβシート(C、B、A、およびJ)は、ビリオンに面したVシートを構成する。その他の4つのβシート(G、H、I、およびD)はRシートを形成し、細胞受容体に面していると予測されている。Vシートは、繊維構造の三量体形成に重要な役割を果たしているようである一方、Rシートは受容体との相互作用に関与していると思われる。
【0013】
近年、CARとの相互作用をなくす特異的変異が同定され、精製組換えタンパク質の第四級構造および全コンフォメーションに悪影響を及ぼすことなく繊維ノブドメインのCAR結合部位を変異することができることが実証された(国際公開公報第98/44121号、国際公開公報第01/16344号、および国際公開公報第01/38361号)。例えば、ABループにおけるアミノ酸置換(Ser408およびPro409が関与する)、DGループにおけるアミノ酸置換(例えば、Tyr477、Tyr491、Ala494、またはAla503が関与する)、およびβ鎖Fにおけるアミノ酸置換(例えば、Leu485が関与する)を保有する繊維タンパク質、またはDGループ中の2個の連続するアミノ酸を欠失した繊維タンパク質が、CAR結合を変化させることが示された(Bewley et al., 1999, Science 286, 1579-1583; Kirby et al., 1999, J. Virol 73, 9508-9514; Kirby et al., 2000, J. Virol. 74, 2804-2813; Leissner et al., 2001, Gene Ther. 8, 49-57)。これらのデータを拡大適用して、CAR結合ドメイン中で変異した三量体繊維を保有する生存能力があり十分に成熟したウイルスが産生できることが示されている(Leissner et al., 2001, Gene Ther, 8, 49-53; Roelvink et al., 1999, Science, 286, 1568-1571; Jakubczak et al., 2001, J. Virol., 75, 2972-2981)。これらのウイルスは、天然(native)ウイルスと構造的に同一であり、したがって、繊維変異体に標的リガンドを挿入するための適切な基質を構成する。これに関し、新規な標的リガンドを繊維のノブドメインに導入するため、繊維タンパク質中のある特異的な位置が同定されている。
【0014】
例えば、ガストリン放出ペプチドを含有する24アミノ酸を繊維のC末端に付加しても繊維の三量体形成は妨げられなかった(Michael et al., 1995, Gene Ther. 2, 660-668)。同様に、同じ位置で種々の長さのペプチド(17個、21個、または32アミノ酸)を付加すると、生存能力のあるウイルスが生ずることが示された(Wickham et al., 1997, J. Virol 71, 8221-8229)。ノブのC末端においてリシン残基のストレッチを挿入することにより、マクロファージ、内皮細胞、平滑筋細胞、またはTリンパ球などのCAR欠損細胞の感染効率が10〜300倍増加したことにより特徴づけられる高い力価のウイルスを産生できたことがいくつかのグループにより報告されている(Wickham et al., 1997, J. Virol 71, 8221-8229; Yoshida et al., 1998, Hum. Gene Ther. 9, 2503-2515 ; Wickham et al., 1996, Nature Biotechnology 14. 1570-1573; Bouri el al., 1999, Hum. Gene Ther, 1O, 1633-1640)。
【0015】
繊維のカルボキシ末端以外では、ノブドメイン中のHIループを用いて、ウイルスの生存能力を変えることなく少なくとも63アミノ酸に標的リガンドを挿入することに成功したことがKrasnykhらにより実証されている(Krasnykh et al., 1998, J Virol. 72, 1844-1852; Krasnykh et al., 2000, Cancer Res. 60, 6784-6787)。例えば、HIループにRGDモチーフを挿入することにより、CAR非依存性細胞進入機構を利用することによってベクターの向性が拡大し(Dmitriev et al., 1998. J. Virol. 72, 9706-9713)、これにより異なる一次腫瘍への遺伝子送達が増大することが示されている。さらに、このモチーフをHIループに付加することにより、全身投与されるベクターの導入遺伝子発現プロフィールが変わり、肝臓で発現が減少すると同時に肺、心臓、および脾臓では増加することが示された(Reynolds et al., 1999, Gene Ther. 6, 1336-1339)。トランスフェリン受容体と結合するペプチドリガンドをHIループに導入することによって、この受容体を過剰発現する細胞への遺伝子の移行が容易になった(Xia et al., 2000, J. Virol. 74, 11359-11366)。同様に、HUVEC細胞結合ペプチドにより、形質導入に対して通常は不応性であるこれらの細胞への再標的ベクター(retargeted vector)の形質導入効率が有意に増加した(Nicklin et al., 2000, Circulation 102,231-237)。
【0016】
このような変異したアデノウイルスベクターは、インビトロではCAR発現細胞の形質導入の減少を示すが、インビボではCARに依存しない有意な感染力を保持する。残りの形質導入は、アデノウイルスペントンベースタンパク質と細胞インテグリンとの間の相互作用を介して仲介され得ると予測されている。より最近では、アデノウイルスの天然向性を無くすために、CARおよびインテグリン結合能力の双方を欠如している二重除去(doubly albated)アデノウイルスベクターが提案されている(Einfeld et al., 2001, J. Virol. 75, 11284-11291; Van Beusechem et al., 2001, J. Virol. 76, 2753-2762)。
【0017】
したがって、従来技術では、アデノウイルスの吸着または内在化に関与する代替細胞受容体(CARおよびインテグリン以外の)、特に、新たに同定されたアデノウイルス、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSG)の一次受容体との相互作用を減少させることができる変異アデノウイルス繊維タンパク質を欠いていた。本発明は、当技術分野における長年の必要性および要望を満足するものである。
【発明の開示】
【0018】
したがって、本発明は、具体的には以下の性質を有するウイルスの粒子の産生を可能とするアデノウイルス繊維の新規な変異体を提供する。(i)改変繊維を含むアデノウイルス粒子は、少なくともシアル酸含有受容体および/またはグリコサミノグリカン含有受容体(ヘパリン/ヘパラン硫酸含有受容体など)、より具体的にはHSG受容体を欠如しているか、受容体への結合の実質的な減少を実質的に示す。改変繊維を有するこれらのアデノウイルス粒子の宿主特異性は、非変異(すなわち、野生型)繊維を保有するアデノウイルス粒子の宿主特異性と比較して減少しているか、阻害さえされる。(ii)変異アデノウイルス粒子がCAR結合を無効にする変異を含む場合、二重変異繊維(dual mutated fiber)を含むアデノウイルス粒子は、CAR受容体並びにシアル酸および/またはグリコサミノグリカン含有受容体(ヘパリン/ヘパラン硫酸含有受容体など)、より具体的にはHSG受容体の双方を欠如しているか、受容体への結合の実質的な減少を示す。CARおよびHSG受容体の双方との相互作用を変えることは、アデノウイルスの天然向性を有意に制限するのに必須であり得る。このような粒子は、特異的な標的リガンドを導入することにより指向し直した基本ベクターの最良の候補を提示する。(iii)改変繊維を含むアデノウイルス粒子が細胞表面抗リガンド(例えば、腫瘍特異的または組織特異的抗原)に特異的なリガンドも含む場合、非変異アデノウイルス粒子と比較して、表面において抗リガンドを提示する1つまたは複数の特異的細胞型に対して新規な向性を与えることができる。
【0019】
本発明は、具体的には、投与されるアデノウイルス粒子の治療量を減少し、宿主生物中での希釈を減少し、かつ、治療される細胞へのウイルス感染を標的とすることができる性質を有する新規なアデノウイルス粒子を提供する利点を有する。細胞毒性遺伝子を発現するアデノウイルスベクターを用いる場合、健康かつ標的としていない細胞/組織に対する細胞毒性の効果の広がりを回避するために、この宿主特異性は特に必須である。さらに、本発明の教示により、組換えウイルスおよび非ウイルスベクターに依る治療方法の開発が意図される他の標的化システムが可能になる。
【0020】
本発明の他の態様およびさらなる態様、特徴、並びに利点は、以下の本発明の好ましい態様の記載から明らかであろう。これらの態様は、開示目的で付与する。
【0021】
したがって、本発明は、少なくとも1つのグリコサミノグリカンおよび/またはシアル酸含有細胞受容体と相互作用するアデノウイルス繊維の1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす少なくとも1つの変異を含有する改変アデノウイルス繊維に関する。
【0022】
「および/または」という用語には、本明細書のどこで用いられても、「および」、「または」、および「その用語によって接続される要素のすべてまたは任意の他の組み合わせ」の意が含まれる。
【0023】
本明細書中で用いられる「約」または「およそ」という用語は、与えられた値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。
【0024】
「アミノ酸」および残基という用語は同義語である。この用語は、D光学異性体またはL光学異性体、改変アミノ酸、およびアミノ酸類似体を含む天然、非天然、および/または合成アミノ酸を指す。
【0025】
「変異」という用語は、1つまたは複数の残基の欠失、置換、もしくは付加、またはこれらの可能性の任意の組み合わせを指す。いくつかの変異が企図される場合、連続した残基および/または連続していない残基に関することができる。繊維コード配列から酵素で切断し、続いて定義された断片を改変および連結する工程を含む組換え技術を用いて、または部位指向的突然変異により、特にSculptor(商標)インビトロ突然変異誘発系(Amersham、Les Ullis、フランス)により、またはPCR技術により、当業者に既知の多数の方法で変異させることができる。欠失変異は、約1〜20アミノ酸残基、好ましくは11個以下のアミノ酸を含むことができる。1〜3アミノ酸の欠失が好ましい。好ましい態様によれば、変異は、別のアミノ酸残基による少なくとも1つのアミノ酸の置換である。変異は、置換されたアミノ酸残基の電荷を変えることが好ましい。
【0026】
本明細書中で用いられる「アデノウイルス繊維」とは、ウイルスと細胞との間の早期の接触を仲介することが知られているアデノウイルスカプシド(pIVとも呼ぶ)の表面に存在する構造タンパク質を指す。本発明は、完全なコード配列(すなわち、ATG開始コドンから終結コドンまで)によりコードされる全長アデノウイルス繊維を包含する。しかしながら、本明細書中に記載される性質を有している内部欠失または切断(truncation)により生じるその断片を用いることができる。例示目的のため、慣用の組換え技術により、繊維コード配列をアデノウイルスゲノムから単離することができる。繊維遺伝子は、E3とE4領域との間に位置するアデノウイルスゲノムの右端、例えば、Ad5ゲノム中のヌクレオチド(nt)31042〜nt32787およびAd2ゲノム中のnt31030〜nt32778に存在する。
【0027】
本発明の改変アデノウイルス繊維は、ヒトまたは動物起源(例えば、イヌ、トリ、ウシ、マウス、ヒツジ、ブタ、ネコ、サルなど)のアデノウイルスに由来する(から得られる)か、あるいは多様な起源の断片を含むハイブリッドであることができる。例えば、アデノウイルスは、サブグループA(例えば、血清型12、18、31)、サブグループB(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34、35、50)、サブグループC(例えば、血清型1、2、5、6)、サブグループD(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22〜30、32、33、36〜39、42〜47、51)、サブグループE(血清型4)、サブグループF(血清型40、41)、または任意の他のアデノウイルス血清型であることができる。しかしながら、本発明の改変繊維は、好ましくは、サブグループCのアデノウイルスに由来し、特に好ましくは、Ad2またはAd5血清型である。
【0028】
種々のヒトおよび動物アデノウイルスの繊維は、データベース(例えば、GenBank)および刊行物で利用可能である。情報目的で、ヒト血清型2(AAA92223)、3(CAA26029)、5(M18369)、31(CAA54050)、41(X17016)、50および51(De Jong et al., 1999, J. Clinical Microbiology 37, 3940)、ウシBAV-3(AF030154;国際公開公報第98/59063号、およびReddy et al., 1998, J. Virol. 72, 1394-1402も参照されたい)、およびイヌCAV-2(Rasmussen et al., 1995, Gene 159, 279-280)の繊維配列については、GenBankおよび文献に言及されている。
【0029】
Ad2の繊維は582アミノ酸(aa)を含み、その配列はHerisseらに開示されている(1981, Nucleic Acid Res. 9, 4023-4042;参照として本出願に組み入れられる)。Ad5繊維配列は、ChroboczekおよびJacrotにより決定されており(1987, Virology 161, 549-554;参照として組み入れられる)、開始Met残基を含めて581アミノ酸長である(配列番号:1に示す通りである)。
【0030】
Ad5繊維のノブドメインの結晶構造は、Xiaらにより決定された(1994, Structure 2, 1259-1270;参照として組み入れられる)。本発明の目的のため、「βシート」および「ループ」という用語は、Xiaら(1994)で定義されている。これらの用語は、タンパク質生化学の分野で慣用であり、基本となる研究成果において定義されている(例えば、Stryer, Biochemistry, 2nd edition, Chap 2, p 11-39, Ed Freeman and Company, san Franciscoを参照されたい)。より具体的には、各ノブ単量体はA〜DおよびG〜Jと称する8つの逆平行βシート、および8〜55残基の6つの主要なループを含む。例えば、ループABは、βシートAとβシートBとを繋いでいる。小さいシートEおよびFは、βシートDとGとを繋いでいるループDGの一部を形成していると考えられていることが示されている。表示目的で、表1は、配列番号:1に示される野生型Ad5繊維のアミノ酸配列中におけるこれらの構造の位置を示している。+1はMet開始残基を表す。
【0031】
(表1)

【0032】
本出願の提示説明を簡単にするために、Ad5に関する位置だけを具体的に与える。しかしながら、本発明をその他のアデノウイルス繊維に適合させることは当業者の範囲内である。
【0033】
本発明の改変アデノウイルス繊維中に含有される1つまたは複数の変異は、テール、シャフト、および/またはノブドメイン、特に好ましくはノブに位置するアミノ酸残基に影響を及ぼすことができる。本発明の改変繊維は、テール、シャフト、およびノブを含むことが好ましい。種々の繊維領域は同じ血清型であり得る。または、「キメラ」繊維タンパク質を用いることもできる。例えば、ある血清型の(例えば、Ad2またはAd5などのサブグループCのアデノウイルスの)テールおよびシャフトであって、別の血清型の(例えば、Ad3またはAd7などのサブグループBのアデノウイルスの)ノブであってもよい。
【0034】
本発明に関連して、「グリコサミノグリカン含有細胞受容体」との用語は、1つまたは複数の共有結合したグリコサミノグリカン側鎖(例えば、グリコサミノグリカンの長いフィラメントを形成するための直鎖状側鎖)を含有するコアタンパク質からなる任意の細胞表面分子を包含する。「グリコサミノグリカン」という用語は、当技術分野で慣用であり、アミノ糖であるグルコサミンまたはガラクトサミンのいずれかの誘導体を含有する二糖繰り返し単位(繰り返し単位中に負の電荷を持つカルボン酸基または硫酸基を有する少なくとも1つの糖を有している)を含むものとして定義することができる。好適なグリコサミノグリカンには、コンドリチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロナート、およびそれらの種々のアイソフォーム含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0035】
グリコサミノグリカン含有細胞受容体は、ヘパリン含有細胞受容体またはヘパラン硫酸含有細胞受容体であることが好ましい。ヘパリンおよびヘパラン硫酸の構造は、例えば、Biochemistry(4th edition, Lubert Stryer; ed Freeman and Compagny, New York)の図18-15に図示され、種々の硫酸化改変および/またはアセチル化改変を有するグルコサミンとグルクロン酸またはイズロン酸とのコポリマーとして定義することができる。ヘパラン硫酸は、N-硫酸基およびO-硫酸基がより少ないことならびにN-アセチルがより多いことを除き、ヘパリン様である。ヘパリンおよびヘパラン硫酸含有細胞受容体は、文献、例えば、LiuおよびThorp(2002, Medical Research Reviews 22(1), 1-25;参照として本出願に組み入れられる)に広範に図示されている。それらは、多くの生物学的プロセス(例えば、血液凝固、傷の治癒、胚の発達、ウイルス感染など)に関与している。本発明に包含される種々のヘパラン硫酸含有受容体の構造および糖側鎖は、それらの組織分布または生物活性によって種々のものであり得る。そのようなヘパラン硫酸含有受容体は、当技術分野で慣用の技術、ウイルス学、糖生化学、分子生物学、および質量分析から組み合わせた技術により同定することができる。
【0036】
好ましい一つの態様において、本発明に包含されるヘパリン含有またはヘパラン硫酸含有受容体は、通常は野生型アデノウイルス繊維と相互作用してアデノウイルスの宿主細胞への吸着を仲介するヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSG)受容体である。HSG受容体は、Dechecchiら(2000, Virology 268, 382-390 and 2001, J. Virol. 75, 8772-8780)において定義されている。
【0037】
本発明に関連して、「シアル酸含有細胞受容体」という用語は、1つまたは複数の多糖側鎖(この多糖はシアル酸を含む)を含有するコアタンパク質からなる任意の細胞表面分子を包含する。もちろん、そのような受容体は、シアル酸の他に追加の残基および多様な糖質残基を含有する複雑なパターンのグリコシル化を示すことができる。「シアル酸」(N-アセチルノイラミン酸(N-acetyl neuraminate)とも称される)という用語は、当技術分野で慣用であり、カルボキシレート基を有する炭素9個の糖を示し、その式は、例えば、Biochemistry(4th edition, Lubert Stryer; ed Freeman and Compagny, New York)の図18-18に与えられている。
【0038】
繊維と天然グリコサミノグリカン含有細胞受容体(より具体的には、HSG受容体)および/またはシアル酸含有細胞受容体との間の相互作用を仲介または補助する任意の天然アミノ酸残基が、変異には好適である。例えば、改変するための天然アミノ酸残基は、受容体結合に関連するコンフォメーション変化に関与することができる。または、変異によって、細胞受容体への結合を変化させる荷電改変、特定の化学基の改変、または転写後改変を生じる結果となってもよい。本発明の改変繊維は、繊維が三量体形成する能力を保持する限り、任意の数のそのような天然アミノ酸残基で変異させることができる。変異させるアミノ酸残基は、繊維(例えば、シャフトおよび/またはノブ)の任意の領域内にあることができ、ノブに関する限り、βシート内または2つのβシートと結合しているループ内である。第1のアデノウイルスに起源を持つ繊維の1つまたは複数の残基(残基は、天然グリコサミノグリカン(例えば、HSG)またはシアル酸含有受容体への結合を直接または間接的に仲介する)を、そのようなグリコサミノグリカンまたはシアル酸含有受容体と相互作用することができない第2のアデノウイルスの繊維に起源を持つ同等の残基に置き換えることも可能である。
【0039】
当技術分野での任意の方法により、変異させる天然アミノ酸残基を選択することができる。例えば、異なるアデノウイルス血清型由来の(当技術分野で既知である)配列を比較して、グリコサミノグリカンまたはシアル酸含有細胞受容体、より具体的にはHSG受容体への結合を仲介する可能性の高い保存された残基を推定することができる。または、あるいは組み合わせて、配列をタンパク質の3次元表示上でマッピングして、そのような結合の原因になっている可能性が非常に高い残基を推定することができる。これらの分析は、タンパク質構造機能相互作用を推定するための任意の汎用アルゴリズムまたはプログラムの助けを借りることにより補助し得る。または、ランダム変異をクローニングされたアデノウイルス繊維発現カセットに導入することができる(例えば、部位特異的突然変異、PCR反応中の二価カチオンの濃度を変動させることによるPCR増幅により、転写物のエラー率はおおよそ予め決定することができる(Weiss et al., 1997, J. Virol. 71, 4385-4394 又は Zhou et al., 1991, Nucleic Acid Res. 19, 6052に記載の通りである))。次いで、変異配列を鋳型ベクター中にサブクローニングし直して、繊維のライブラリーが生じるが、そのうちのいくつかはグリコサミノグリカン(例えば、HSG)および/またはシアル酸含有細胞受容体への結合を減少させる変異を保持している。
【0040】
好ましい態様によれば、本発明の改変アデノウイルス繊維は、グリコサミノグリカンおよび/またはシアル酸含有細胞受容体に対して、野生型アデノウイルス繊維より少なくとも約1桁小さな親和性を有する。グリコサミノグリカンまたはシアル酸含有細胞受容体への結合、具体的には受容体への結合を減少または無効にすることは、本発明の改変繊維またはそのような改変繊維を保持するウイルス粒子により提供される感染力または細胞吸着を当技術分野での技術を用いて測定することにより評価することができる。オートラジオグラフィー(例えば、放射性ウイルスまたは放射性標識した繊維タンパク質を用いた)、免疫化学、もしくはプラーク形成、細胞毒性を測定することにより、または遺伝子送達を評価する(例えば、レポーター遺伝子を用いた)ことにより、モニタリングすることができる。例えば、好適な技術には、競合物(competitor)(すなわち、本出願の実験セクションに記載されている通り、ヘパリン/ヘパラン硫酸含有受容体のコンテクストではヘパリン、またはシアル酸含有受容体のコンテクストではシアル酸)の存在下および不存在下で行われる好適な細胞の感染実験が含まれる。例えば、HSG結合のために欠損または変化したアデノウイルスは、HSG発現細胞の感染に対し、野生型アデノウイルスと比較して競合物との競合の度合いが少ないか、競合が存在しない。実際、ヘパリンとともに野生型アデノウイルス粒子をインキュベーションした後、HSG仲介経路は野生型繊維を競合物で飽和することにより阻害されるが、本発明の改変繊維を提示する粒子の感染力は、競合物により実質的に改変されない。放射性標識ウイルス(例えば、Roelvin et al., 1996, J. Virol. 70, 7614-7621に記載されているようにして、3Hチミジンで標識されている)または組み換えにより生じた放射性標識繊維を用いた細胞吸着の評価により、生来の特異性の変化を研究することもできる。または、Biacore技術を用いて、適切な支持体上に固定化された基質(例えば、ヘパリン/ヘパラン硫酸含有受容体に関してはヘパリン、またはシアル酸含有受容体に関連してはシアル酸)に結合することができる能力につき、本発明の改変繊維の親和性をアッセイすることができる。ヘパリナーゼ(ヘパリン/ヘパラン硫酸含有受容体に関連しては)またはシアリダーゼ(シアル酸含有受容体に関連しては)によって好適な細胞を予め処理した後、感染力を評価することも可能である。
【0041】
グリコサミノグリカン(例えば、HSG受容体)またはシアル酸含有細胞受容体に結合する本発明の改変繊維の能力は、そのような受容体をそのような改変繊維を有するアデノウイルスとともに含有する細胞の残留感染が野生型アデノウイルス繊維を有するアデノウイルスで観察される感染より少なくとも約1桁少ない場合に、実質的に減少するか無効になる。感染は、対応する野生型アデノウイルスで観察される感染より少なくとも約2桁少ないことが好ましく、少なくとも約3桁少ないことがより好ましく、少なくとも約4桁少ないことがさらにより好ましい。
【0042】
一つの態様において、本発明の改変アデノウイルス繊維は、シャフトおよび/またはノブ内、特にノブのABループ、CDループ、DGループおよび/またはβシートI内で1つまたは複数の残基に影響を及ぼす少なくとも1つの変異を含むという点に特徴がある。もちろん、本発明の改変繊維は、1つまたは複数の先に引用した領域で、例えば、ノブABループおよび/またはCDループおよび/またはDGループおよび/またはβシートIで起こるいくつかの変異を組み合わせることができる。
【0043】
本発明の改変繊維中で変異されるアミノ酸残基は、野生型Ad5繊維(配列番号:1)の404位〜406位、449位〜454位、505位〜512位、551位〜560位の残基に対応するアミノ酸のうちの約5アミノ酸以内であることが有利である。利用可能な配列データベースに基づき、別のアデノウイルス繊維中でこれらのAd5繊維残基の同等の位置を同定することは当業者の範囲内である(例えば、Ad2、Ad5、Ad3、Ad7、Ad40、Ad41、およびCAVの繊維ノブ領域のアラインメントを示すXia et al., 1994, Structure 2, 1259-1270の図9、またはVan Raaij, 1999, Virology 262 (2), 333を参照されたい)。より好ましい変異は、配列番号:1に示される野生型Ad5繊維タンパク質の404位のトレオニン、406位のアラニン、452位のバリン、506位のリシン、508位のヒスチジン、および555位のセリンからなる残基の群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす。本発明のさらに好ましい改変繊維タンパク質は、野生型Ad5繊維(配列番号:1)の404位、406位、452位、506位、508位、および/または555位の残基に対応する残基の置換変異を少なくとも1つ含む。最も好ましくは、Ad5繊維の変異は以下を含む:
アラニン、プロリン、もしくはグリシンなどの小さな脂肪族残基(特に好ましくはグリシン)による404位のトレオニンの置換、
リシン、アルギニン、もしくはヒスチジンなどの塩基性残基(特に好ましくはリシン)による406位のアラニンの置換、
リシン、アルギニン、もしくはヒスチジンなどの塩基性残基(特に好ましくはリシン)による452位のバリンの置換、
グルタミンもしくはアスパラギンなどの弱塩基性アミド残基(特に好ましくグルタミン)による506位のリシンの置換、
リシンもしくはアルギニンなどの塩基性残基(特に好ましくはリシン)による508位のヒスチジンの置換、
リシン、アルギニン、もしくはヒスチジンなどの塩基性残基(特に好ましくはリシン)による555位のセリンの置換、または
任意のその組み合わせ。
【0044】
先に言及した通り、本発明は、1つまたは複数の変異を有する改変アデノウイルス繊維をも包含する。グリコサミノグリカン含有受容体(例えば、HSG受容体)および/またはシアル酸含有受容体との相互作用に関与する2つ以上の残基を変異することは、これらの受容体の一方または双方に対するその結合能力をさらに減少させるか完全に無くすのに有利でありうる。例えば、リシンによる450位のグリシンの変異、アスパラギンによる451位のトレオニンの変異、およびリシンによる452位のバリンの変異は、これに関して有利である。さらに例示するため、以下を含む、Ad5の繊維の例に言及することができる:
グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(K506Q/H508K);
グリシンによる404位のトレオニンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(T404G/K506Q/H508K);
リシンによる406位のアラニンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(A406K/K506Q/H508K);
リシンによる452位のバリンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(V452K/K506Q/H508K);
グルタミンによる506位のリシンの置換、リシンによる508位のヒスチジンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換(K506Q/H508K/S555K)。
【0045】

などのその他の組み合わせなども、本発明により企図される。
【0046】
別の代替として、本発明の改変アデノウイルス繊維は、野生型Ad2繊維タンパク質に起源を持つ(から得る)ことができ、野生型Ad2繊維タンパク質の404位のトレオニン、406位のアスパラギン酸、452位のバリン、506位のリシン、508位のグルタミン、および556位のトレオニンからなる残基の群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の少なくとも1つの変異を含む。さらにより好ましい本発明の改変繊維タンパク質は、野生型Ad2繊維の404位、406位、452位、506位、508位、および/または556位の残基に対応する残基の置換変異を少なくとも1つ含む。Ad5に対して先に定義された残基のタイプにより、Ad2の先に引用した残基についてこのような置換をすることができる。
【0047】
本発明によれば、本発明の改変アデノウイルス繊維は、上記の改変以外に、少なくとも1つの追加の改変(例えば、アミノ酸の置換および/または欠失)をさらに含むことができる。しかしながら、三量体形成の性質および対応するウイルスの粒子の成熟機能を保存するために、アデノウイルス繊維の3次元構造を大幅に改変することは好ましくない。これに関連して、特別な構造(例えば、屈曲(bend))を形成するアミノ酸を、Xiaら(1994)で言及されている構造などの同様の構造を形成する残基に置き換える。これによって、本発明の改変繊維の構造を維持することが可能になる一方で、同時に、第2のアデノウイルスの性質に対応する性質(例えば、宿主特異性)が構造に付与される。
【0048】
有利な態様によれば、本発明の改変アデノウイルス繊維は、CAR細胞受容体と相互作用する1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす少なくとも1つの追加の変異をさらに含む。これに関し、改変アデノウイルス繊維は、CAR細胞受容体並びにグリコサミノグリカン含有細胞受容体(例えば、HSG受容体)および/またはシアル酸含有細胞受容体に対して、野生型アデノウイルス繊維(特に三量体の形態の野生型アデノウイルス繊維)より少なくとも約1桁小さな親和性を有することが好ましい。上記の通り、「変異」という用語は、欠失、付加、もしくは置換、または任意のその組み合わせを、特に好ましくは置換を指す。CAR結合を無効にするか減少することを目的とした変異は、本発明の改変繊維のABループおよび/またはCDループに位置する1つまたは複数の残基に影響を及ぼすことが好ましい。
【0049】
Xiaら(1994)に示されている通り、CAR仲介経路に関して、Ad2およびAd5の宿主特異性はAd3およびAd7の宿主特異性とは異なる。したがって、CAR受容体に結合する繊維の能力を減少するために、CAR結合に関与しているサブグループC(例えば、Ad5またはAd2)繊維の1つまたは複数の残基をサブグループB(例えば、Ad3またはAd7)繊維の同等の位置に位置する1つまたは複数の残基に置き換えることが有利であろう。例示のため、好適なCAR除去変異(CAR-ablating mutations)には、国際公開公報第98/44121号、国際公開公報第01/16344号、国際公開公報第/0138361号、および国際公開公報第00/15823号、並びにKirbyら(2000, J. Virol. 74, 2804-2813)およびLeissnerら(2001, Gene Ther. 8, 49-57)に記載されている変異が含まれる。
【0050】
好ましくは、追加の変異(CAR結合を減少するか無効にすることを目的とした)は、野生型Ad5繊維タンパク質(配列番号:1)の408位のセリン、409位のプロリン、412位のアルギニン、417位のリシン、420位のリシン、477位のチロシン、481位のアルギニン、485位のロイシン、491位のチロシン、494位のアラニン、497位のフェニルアラニン、498位のメチオニン、499位のプロリン、および503位のアラニンからなる群から選択される1つまたは複数の残基に影響を及ぼす。さらにより好ましくは、追加の変異は、野生型Ad5繊維タンパク質(配列番号:1)の408位、409位、412位、417位、420位、477位、481位、485位、491位、494位、497位、498位、499位、または503位の残基に対応する1つまたは複数の残基の置換変異である。最も好ましくは、追加の変異は以下を含む:
グルタミン酸による408位のセリンの置換(S408E)、
リシンによる409位のプロリンの置換(P409K)、
アラニンによる477位のチロシンの置換(Y477A)、
リシンによる485位のロイシンの置換(L485K)、
アスパラギン酸による491位のチロシンの置換(Y491D)、
アスパラギン酸による494位のアラニンの置換(A494D)、
アスパラギン酸による497位のフェニルアラニンの置換(F497D)、
アスパラギン酸による498位のメチオニンの置換(M498D)、
グリシンによる499位のプロリンの置換(P499G)、
アスパラギン酸による503位のアラニンの置換(A503D)、または
任意のその組み合わせ。
【0051】
本発明の改変アデノウイルス繊維は、天然グリコサミノグリカン含有受容体(例えば、HGS受容体)および/またはシアル酸含有受容体への結合に影響を及ぼす任意の変異並びにCARへの結合に影響を及ぼす任意の追加の変異と組み合わせることができる。本発明に関連して、CAR結合に影響を及ぼす単一変異S408EもしくはA494DもしくはA503D、または二重変異A494D/A503Dの組合せ、およびHSG結合に影響を及ぼす二重変異K506Q/H508K、または三重変異T404G/K506Q/H508K、もしくはA406K/K506Q/H508K、もしくはV452K/K506Q/H508K、もしくはK506Q/H508K/S556Kが好適である。好ましい例には、(i)グルタミン酸による408位のセリンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(S408E/K506Q/H508K)、(ii)アスパラギン酸による503位のアラニンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、リシンによる508位のヒスチジンの置換(A503D/K506Q/H508K)、(iii)グルタミン酸による408位のセリンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換(S408E/S555K)、または(iv)アスパラギン酸による503位のアラニンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換(A503D/S555K)を含む改変アデノウイルス繊維が含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0052】
本発明の改変繊維により提供されるCAR受容体への結合が減少するか除かれることは、先に記載した通り、感染力または細胞吸着(例えば、放射性標識ウイルスまたは組み換えにより産生された放射性標識繊維を用いた細胞吸着研究、Biacore技術、免疫化学、またはプラーク形成、細胞毒性、もしくは(例えば、レポーター遺伝子を用いた)遺伝子送達の測定)により評価することができる。放射性標識したCARで複製リフト(replica lift)をプローブすることが可能である。そのような技術は、例えば、国際公開公報第01/16344号、国際公開公報第01/38361号、およびLeissnerら(2001, Gene Ther. 8, 49-57)に記載されている。例えば、競合物(すなわち、可溶性ノブまたは抗ノブ抗体)存在下および非存在下におけるCAR+細胞(例えば、CAR発現プラスミドでトランスフェクションされた293細胞またはCHO細胞)での感染力を研究することができる。CAR結合が欠損または改変されたアデノウイルスの感染力または細胞吸着は、競合物の存在下または非存在下で実質的に改変されないが、非改変(例えば、野生型)アデノウイルスの感染力または細胞吸着は、競合物の存在下で劇的に減少する。
【0053】
有利なことに、そのような改変繊維を有するアデノウイルスで測定したCAR+細胞の残りの感染が野生型アデノウイルスで観察される感染より少なくとも約1桁少ない場合、本発明の改変繊維のCARに結合する能力は実質的に減少するか無効になる。感染は、野生型アデノウイルスで観察される感染より、少なくとも約2桁少ないことが好ましく、少なくとも約3桁少ないことが好ましく、少なくとも約4桁少ないことがさらに好ましい。
【0054】
本発明の改変アデノウイルス繊維は、例えばシャフト領域中でさらに改変することができる。
【0055】
好ましくは、本発明の改変アデノウイルス繊維は、真核宿主細胞中で産生される場合に三量体形成する。
【0056】
本発明の改変アデノウイルス繊維タンパク質は、任意の好適な方法により産生することができる。例えば、固相合成(例えば、Merrifield, 1963, J. Am. Chem. Soc. 85, 2149-2154 およびBarany et al., 1987, Int. J. Peptide Protein Res. 30, 705-739)などによる標準的な直接ペプチド合成技術(例えば、Bodanszky, 1984, Principle of Peptide Synthesis; Springer-Verlag, Heidelbergに概説されている通りである)を用いて、改変アデノウイルス繊維を合成することができる。または、オリゴヌクレオチド部位特異的突然変異誘発手順も、野生型アデノウイルス繊維タンパク質またはペプチド断片をコードする配列をベクター中にクローニングした後に所望の変異を導入するのに適切である(Bauer et al., 1985, Gene 37,73およびSculptor(商標)インビトロ突然変異誘発系、Amersham、Les Ullis、フランス)または、部位特異的変異をPCR技術により導入することができる。操作した改変アデノウイルス繊維タンパク質またはそのペプチド断片をコードする配列を、周知の分子技術を用いて、適切なベクター中にサブクローニングすることができる。
【0057】
本発明は、本発明の改変繊維タンパク質のペプチド断片にも関する。本発明に関連して、「ペプチド断片」という用語は、改変繊維タンパク質の少なくとも最小の6個連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも約10個連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約20個連続したアミノ酸、さらにより好ましくは少なくとも約40個連続したアミノ酸、最も好ましくは少なくとも約60個連続したアミノ酸を含むペプチドを包含し、このような連続したアミノ酸は本明細書中に記載される変異を少なくとも1つ有することを意図する。このようなペプチド断片が所定の野生型アデノウイルス繊維の同等なペプチド断片の代わりに導入されたとき、天然グリコサミノグリカン(例えば、HSG)および/またはシアル酸含有細胞受容体に対して所定の野生型アデノウイルス繊維(具体的には、三量体形態の野生型アデノウイルス繊維)より少なくとも約1桁減少した親和性がペプチド断片によって付与される。
【0058】
本発明は、先に定義した改変アデノウイルスタンパク質を含む三量体にも関する。
【0059】
任意の好適なアッセイを用いて、ペントンベースを三量体形成させるおよび/またはペントンベースと会合するその能力を評価することができる。例えば、標準的な組換え技術により改変アデノウイルス繊維を産生することができ、これらの性質を組換え産物で試験することができる。任意の適切なクローニングベクターまたは発現ベクターおよび対応する好適な宿主細胞(細菌(例えば、大腸菌)、酵母、哺乳動物、または昆虫の宿主細胞系、および確立された細胞系を含むが、これに限定されるわけではない)を本発明に関連して用いることができる。
【0060】
不正確に折り畳まれた単量体は一般的に可溶性であることが示されているので(In Protein Purification, 3rd Ed., 1994, Chap 9, p 270-282; Springer-Verlag, New york)、三量体形成に対するアッセイの1つはその溶解度を評価することである。繊維の溶解度の決定は、合成の際に放射性アミノ酸をタンパク質に導入した後の放射性標識した組換え繊維タンパク質を用いて実施することができる。組換え改変アデノウイルス繊維を発現する宿主細胞由来の溶解産物を遠心分離することができ、上清およびペレットをシンチレーションカウンターによりアッセイすることができる。細胞溶解物から得られた上清およびペレットを用いて実施される(例えば、SDS-PAGEゲル上での)ウエスタンブロット分析により、三量体形成を評価することができる。上清(可溶性)から検出される繊維タンパク質の量に対してペレット(不溶性)から検出される繊維タンパク質の量を比較することにより、改変アデノウイルス繊維が可溶性であるかが示される。または、三量体の形態だけを認識するモノクローナル抗体を用い、(例えば、免疫沈降法、ウエスタンブロッティングなどを介して)三量体形成をアッセイすることができる(例えば、Henry et al., 1994, J. Virol. 68, 5239-5246を参照されたい)。三量体形成の別の評価は、三量体だけが相互作用することができるので、ペントンベースと複合体を形成する改変繊維の能力である(Novelli and Boulanger, 1995, Virol. 185, 1189)。共免疫沈降法、ゲル移動度シフトアッセイ、SDS-PAGEなどにより、この性向をアッセイすることができる。別の手段は、単量体として対照的に、三量体の分子量の相違を検出することである。例えば、煮沸されて変性した三量体は、安定した非変性三量体より低い分子量として働く(Hong and Angler, 1996, J. Virol. 70, 7071-7078)。
【0061】
好ましい態様によれば、本発明による三量体は、天然グリコサミノグリカンおよび/またはシアル酸含有受容体、特にHSG受容体に対して、野生型アデノウイルス繊維の三量体より少なくとも約1桁小さな親和性を有する。そのような測定方法は以前に示されている。本発明の三量体に対する親和性は、対応する野生型三量体で観察される親和性より少なくとも約2桁小さいことが好ましく、少なくとも約3桁小さいことがより好ましく、少なくとも約4桁小さいことがさらに好ましい。
【0062】
別の好ましい態様によれば、先に定義した追加の変異を有する改変アデノウイルス繊維を含有する本発明による三量体は、天然CAR細胞受容体に対して、野生型アデノウイルス繊維の三量体より少なくとも約1桁小さな親和性をさらに有する。CAR結合の減少を先に記載されるようにアッセイすることができる。
【0063】
本発明は、本発明の改変繊維またはその断片をコードするDNA断片または発現ベクターにも関する。
【0064】
本発明に関連して、「DNA断片」および「ポリヌクレオチド」という用語は、互換可能に用いられ、任意の長さのデオキシリボヌクレオチド(DNA)の高分子体を定義する。本発明のDNA断片は、直鎖状または環状であることができる。DNA断片は、メチル化ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体などの改変されたヌクレオチド(改変の例として、米国特許第5,525,711号、米国特許第4,711,955号、または欧州特許出願第302175号を参照されたい)も含むことができる。ヌクレオチド構造に対する改変は、存在する場合、(標識成分との接合などにより)ポリマーの組み立て前または後に加えることができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチドエレメントにより分断することもできる。本発明のDNA断片は、アデノウイルス血清型の改変された全長繊維をコードすることができ、繊維から得られる制限エンドヌクレアーゼより生じる断片およびPCRにより生じる断片をも包含する。本発明は、合成断片(例えば、オリゴヌクレオチド合成により産生される)も包含する。
【0065】
プラスミドまたはウイルス起源の組み換え型または非組み換え型の任意のタイプのベクターを、本発明に関連して用いることができる。そのようなベクターは、市販されているか、文献に記載されている。同様に、当業者は、本発明のDNA断片の発現に必要な調節エレメントを調節することできる。ベクターは、本発明による改変繊維を表面に有するアデノウイルス粒子を好適な培養条件下で産生することができるアデノウイルスベクターであることが好ましい(本明細書中で以後に記載される通りである)。
【0066】
本発明は、野生型繊維を欠如し、かつ、本発明による改変アデノウイルス繊維タンパク質、特に本発明の三量体を含む、粒子のアデノウイルスにも関する。改変アデノウイルス繊維タンパク質は、アデノウイルスゲノム自体から発現されるか、本明細書中で以後に定義されるものなどの補完細胞系(complementation cell line)によりイントランスで(in trans)提供することができる。アデノウイルス粒子は、先に言及した粒子中に存在する繊維の親和性の減少に起因して、天然グリコサミノグリカン(例えば、HSG)および/またはシアル酸含有細胞受容体と相互作用する能力が野生型粒子と比較して減少している。
【0067】
さらに、アデノウイルス吸着および/または許容細胞への進入にも関与しているグリコサミノグリカン(例えば、HSG)受容体またはシアル酸含有受容体以外の天然細胞受容体に対して減少した親和性を示すように、本発明のアデノウイルス粒子をさらに改変することができる。これに関連して、改変繊維中または粒子の表面に存在するその他のウイルスのタンパク質中に追加の変異を入れ込むことにより、本発明のアデノウイルス粒子をさらに改変することができる。上述の通り、アデノウイルス粒子は、CAR細胞受容体と相互作用するウイルス粒子の能力を減少するためにも、CAR細胞受容体と相互作用するアデノウイルス繊維領域内の1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす少なくとも1つの追加の変異を含むことができる。さらに、本発明のアデノウイルス粒子は、細胞結合または細胞インテグリンを介した進入を減少するために、少なくとも1つの天然RGD配列に影響を及ぼす(好ましくは天然RGD配列が欠如された)変異を有する1つまたは複数のペントンベースをさらに含むことができる(例えば、米国特許第5,559,099号および米国特許第5,731,190号を参照されたい)。しかしながら、インテグリン経路は、本発明の改変繊維の三量体を表面で提示するアデノウイルス粒子でも阻害されることが観察されている。
【0068】
好ましい態様によれば、本発明のアデノウイルス粒子は、先に引用した改変が天然アデノウイルス向性を変えるため、例えば、所望の細胞または細胞集団への感染を標的とするリガンドをさらに含む。さらに、リガンドを用いて、ウイルスを精製することができ、(例えば、リガンドに対する基質にウイルスを吸着させることにより)ウイルスを不活性化することができ、あるいはリガンドにより認識される受容体を有する細胞系でウイルスを増殖することができる。
【0069】
本発明の目的のため、リガンドという用語は、好ましくは高親和性で、抗リガンドを認識および結合することができる任意の実体を定義する。リガンド結合は、野生型アデノウイルスの吸着および/または取込みを通常仲介する天然細胞受容体(例えば、CAR、グリコサミノグリカン(例えば、HSG)および/またはシアル酸含有細胞受容体)以外に少なくとも1つの細胞表面抗リガンドと結合することは、本明細書を読むことにより明らかである。この抗リガンドを、標的にすることが所望される特定の細胞の表面上で発現または曝露することができる。より具体的には、腫瘍細胞、感染細胞、特異的細胞型、またはあるカテゴリーの細胞を標的にすることが有利であり得る。したがって、好適な抗リガンドには、細胞特異的マーカー、組織特異的受容体、細胞受容体、抗原ペプチド(例えば、組織適合性抗原により提示される)、腫瘍関連マーカー、腫瘍特異的受容体、疾患特異的抗原(例えば、ウイルス抗原)、および標的細胞の表面上で特異的に発現する抗原などからなる群から選択されるポリペプチドが含まれるが、これに限定されるわけではない。そのような抗リガンドは、標的細胞の表面で生来的に曝露されることができ、あるいは標的細胞の改変の後に続いて曝露されることができる(例えば、グリコシル化またはリン酸化を減少する処理などに際して)。標的細胞の表面に局在する抗リガンドは、野生型アデノウイルス粒子が結合しない抗リガンドであるか、あるいは結合するが本発明のアデノウイルス粒子よりも低い特異性で結合する抗リガンドであることが好ましい。リガンドとその対応する抗リガンドとの間の結合特異性は、ELISA、免疫蛍光、および表面プラスモン共鳴法をベースとした技術(Biacore AB)を含む当技術分野における技術により決定することができる。
【0070】
本発明によれば、リガンドは、特許請求の範囲に記載されているアデノウイルス粒子の表面に局在している。一般には、本発明に関連して用いることができるリガンドは、文献に広範に記載されている。リガンドは、少なくとも1つの標的細胞の表面に局在している所定の抗リガンドまたは抗リガンドのクラスに結合する能力を本発明のアデノウイルス粒子に与えることができる部分である。
【0071】
本発明による探求される目的によれば、リガンドは、脂質、糖脂質、ホルモン、糖、ポリマー(例えば、PEG、ポリリシン、PEIなど)、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、ビタミン、抗原、レクチン、例えばJTS1(国際公開公報第94/40958号)などの標的の性質を示すポリペプチド部分、抗体、またはその組み合わせなどであることができる。「抗体」という用語には、モノクローナル抗体、抗体断片(例えば、FabおよびdAb抗体断片など)、一本鎖抗体(scFv)、およびその最小認識単位(すなわち、抗原性特異性をなお示す断片)(免疫学のマニュアル(例えば、Immunology, 3rd edition 1993, Roitt, Brostoff and Male, ed Gambli, Mosbyを参照されたい)で詳述されている最小認識単位など)が含まれるが、これに限定されるわけではない。選択された抗原に対する好適なモノクローナル抗体は、例えば、"Monoclonal Antibodies: A manual of techniques", H. Zola (CRC Press, 1988)および"Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications", J. G. R. Hurrell (CRC Press, 1982)に記載される技術などの既知の技術により調製することができる。好適に調製された非ヒト抗体は、既知の方法で、例えば、マウス抗体のCDR領域をヒト抗体の骨格に挿入することにより、「ヒト化」することができる。さらに、抗体の可変重鎖(VH)ドメインおよび可変軽鎖(VL)ドメインが抗原認識に関与しているので、げっ歯類起源の可変ドメインをヒト起源の定常ドメインに融合することができ、その結果、生じた抗体はげっ歯類の親抗体の抗原特異性を維持している(Morrison et al (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 6851-6855)。
【0072】
または、リガンドを同定するための周知の戦略を用いて、本発明で用いられるリガンドは種々のタイプのコンビナトリアルライブラリーに由来することができる(米国特許第5,622,699号を参照されたい)。Scott and Smith, 1990, Science 249, 386-390; Cwirla et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 6378-6382; Devlin et al., 1990, Science 249, 404-406に記載されている通り、1つの手法では、組換えバクテリオファージを用いて大きなライブラリーを作る。第2の手法では、Geysen方法(Geysen et al., 1986, Molecular Immunology 23, 709-715 ; Geysen et al., 1987, J. Immunologic Method 102, 259-274)、またはFodorらの方法(1991, Science 251, 767-773)などの主に化学的な方法を用いる。Furkaら(1991, Int. J. Peptide Protein res. 37, 487-493)、米国特許第4,631,211号および米国特許第5,010,175号は、標的リガンドとして試験することができるペプチド混合物の産生方法について記載している。別の態様において、合成ライブラリー(Needels et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 10700-10704; Ohlmeyer et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 10922-10926;国際公開公報第92/00252号および国際公開公報第94/28028号)を用いて、標的リガンドのスクリーニングをすることができる。
【0073】
本発明で用いられるリガンドは、最小の長さである6アミノ酸を有するポリペプチドであることが好ましい。リガンドは、天然ポリペプチドまたは天然ポリペプチドに由来するポリペプチドのいずれかである。「由来する」とは、(i)天然配列に関する1つまたは複数の改変(例えば、1つまたは複数の残基の付加、欠失および/または置換)、(ii)天然に存在しないアミノ酸を含むアミノ酸類似体、または(iii)結合の置き換えおよび(vi)当技術分野で既知であるその他の改変を含有することを意味する。リガンドは、種々の起源の配列(例えば、プロテアーゼ認識部位に融合された細胞表面抗リガンドに選択的に結合するペプチド)、または所定のタンパク質のアミノ酸鎖中で隣接していない配列を含むことができる。これに関連して、例えば、隣接した配列および隣接していない配列を互いに近くに持ってくるような方法でタンパク質の特定のコンフォメーションを模倣するリガンドを用いることは有利であろう。リガンドは、アデノウイルス繊維の三量体形成と相互作用しないように、オリゴマー形成ドメイン(oligomerization domain)を含まないことが好ましい。さらに、リガンドは、直鎖状の構造または環状の構造を有することができる(例えば、システイン残基により両末端においてポリペプチドリガンドを側面に配置することによる)。さらに、本発明で用いられるリガンド部分は、化学的部分の置換または付加(例えば、スルフヒドリル基などのグリコシル化、アルキル化、アセチル化、アミド化、リン酸化、付加)による元の構造の改変を含む。本発明は、検出可能なリガンド与える改変をさらに企図する。この目的のため、検出可能な部分で改変することも意図することができる(すなわち、シンチグラフィー標識、放射性標識、蛍光標識、または色素標識など)。好適な放射性標識には、Tc99m、I123、およびIn111が含まれるが、これに限定されるわけではない。そのような検出可能な標識を任意の慣用技術によりリガンドに付着することができ、診断目的(例えば、腫瘍細胞の画像化)のために用いることができる。
【0074】
一つの態様において、リガンドは、ウイルス感染細胞を標的とすることを可能とし、ウイルスの成分(例えば、エンベロープ糖タンパク質、ウイルスエピトープ)を認識し成分に結合することができ、あるいはウイルス生物学(例えば、進入、複製)を妨害することができる。例えば、HIV(ヒト免疫不全症ウイルス)感染細胞を標的にすることは、膜貫通糖タンパク質gp41の保存性が高いエピトープを認識する2F5抗体からなるリガンドもしくは2F5抗体に由来するリガンド(Buchacher et al., 1992, Vaccines 92, 191-195)など、HIVエンベロープのエピトープに特異的なリガンド、または細胞受容体CD4へのHIVの吸着を妨害するリガンド部分(例えば、CD4分子の細胞外ドメイン)を用いて行うことができる。好適なリガンドには、子宮頚癌に関連するヒトパピローマウイルスなどの癌関連ウイルス(HPV)(例えば、E6およびE7初期ポリペプチド並びにL1およびL2後期ポリペプチドを含むリガンドに対して指向されるHPVポリペプチドを用いることによる)、バーキットリンパ腫に関連するエプスタインバーウイルス(EBV)(Evans et al., 1997, Gene Therapy 4, 264-267;例えば、EBV EBNA-1抗原に対して指向されるリガンドを用いることよる)、ポリオーマウイルス、肝炎ウイルス(例えば、C型肝炎ウイルスのE2エンベロープポリペプチドに対して指向されるリガンドを用いることによる、Chan et al., 1996, J. Gen. Virol. 77, 2531)を認識および結合できるリガンドが含まれる。そのようなリガンドは、例えば、ウイルスエンベロープまたはコアに存在する1つまたは複数のエピトープを認識する一本鎖抗体である。
【0075】
別の好ましい態様において、リガンドは、腫瘍細胞を標的にすることを可能とし、腫瘍特異的抗原、腫瘍細胞中で発現に差があるまたは過剰に発現する細胞タンパク質、または(先に記載した)癌関連ウイルスの遺伝子産物などの腫瘍状態に関係する分子を認識し分子に結合することができる。
【0076】
腫瘍特異的抗原の例には、乳癌に関係するMUC-1(Hareuveni et al., 1990, Eur. J. Biochem 189, 475-486)、乳癌および卵巣癌に関係する変異したBRCAIおよびBRCA2遺伝子によりコードされる産物(Miki et al., 1994, Science 226, 66-71; Futreal et al., 1994, Science 226, 120-122; Wooster et al., 1995, Nature 378, 789-792)、結腸癌に関係するAPC(Polakis, 1995, Curr. Opin. Genet. Dev. 5, 66-71)、前立腺癌に関係する前立腺特異的抗原(PSA)(Stamey et al., 1987, New England J. Med. 317, 909)、結腸癌に関係する癌胎児性抗原(CEA)(Schrewe et al., 1990. Mol. Cell. Blol. 10, 2738-2748)、メラノーマに関係するチロシナーゼ(Vile et al., 1993, Cancer Res. 53, 3860-3864)、乳癌および膵臓癌に関係するメラノーマ細胞ErbB-2中で多数発現されるメラニン細胞刺激ホルモン(MSH)の受容体(Harris et al., 1994. Gene Therapy 1, 170-175)、および肝臓癌に関係するα-胎児タンパク質(alfa-foetprotein)(Kanai et al, 1997, Cancer Res. 57, 461-465)が含まれるが、これに限定されるわけではない。例えば、MUC-1陽性腫瘍細胞を標的とする好適なリガンドは、MUC-1抗原のタンデムリピート(tandem repeat)領域を認識するSM3モノクローナル抗体のscFv断片など、MUC-1抗原を認識し、抗原に結合することができる抗体の断片であることができる(Burshell et al., 1987, Cancer Res. 47, 5476-5482; Girling et al., 1989, Int J. Cancer 43, 1072-1076; Dokurno et al., 1998, J. Mol. Biol. 284, 713-728)。
【0077】
腫瘍細胞中で発現に差があるまたは過剰に発現される細胞タンパク質の例には、あるリンパ性腫瘍中で過剰発現されるインターロイキン2(IL-2)の受容体、または肺癌細胞、膵臓腫瘍、前立腺腫瘍、および胃腫瘍中で過剰発現されるGRP(ガストリン放出ペプチド)の受容体(Michael et al., 1995, Gene Therapy 2, 660-668)、TNF(腫瘍壊死因子)受容体、上皮増殖因子受容体、Fas受容体、CD40受容体、CD30受容体、CD27受容体、OX-40、αvインテグリン(Brooks et al., 1994, Science 264, 569)、およびある種の血管形成増殖因子の受容体(Hanahan, 1997, Science 277,48)が含まれるが、これに限定されるわけではない。これらの指摘に基づいて、そのようなタンパク質を認識し、タンパク質に結合することができる適切なリガンド部分を定めることは当業者の範囲内である。例示すれば、IL-2は、IL-2受容体に結合するための好適なリガンド部分である。
【0078】
さらに別の好ましい態様において、本発明で用いられるリガンドは、組織特異的分子を標的とすることを可能とする。特定の抗リガンドは、狭いクラスの細胞型またはいくつかの細胞型を包含するより広いグループで存在することができる。本発明のアデノウイルス粒子は、例えば、呼吸器系(気管、上部気道、下部気道、肺胞、神経系、および感覚器(例えば、皮膚、耳、鼻、舌、眼)、消化器系(例えば、口腔上皮、唾液腺、胃、小腸、十二指腸、結腸、胆嚢、膵、直腸)、筋系(例えば、心筋、骨格筋、平滑筋、結合組織、腱など)、免疫系(例えば、骨髄、幹細胞、脾臓、胸腺、リンパ系など)、循環系(例えば、筋結合組織、動脈、静脈、毛細管の内皮など)、生殖系(例えば、精巣、前立腺、子宮頸部、卵巣)、泌尿器系(例えば、膀胱、腎、尿道)、内分泌腺または外分泌腺(例えば、乳房、副腎、下垂体)などを含む任意の器官または系内の細胞を標的にすることができる。
【0079】
例えば、標的肝細胞に好適なリガンドには、LDL受容体に結合することができるApoB(アポリポタンパク質)、LPR受容体に結合することができるα-2-マクログロブリン、アシアロ糖タンパク質受容体に結合することができるα-1酸糖タンパク質、およびトランスフェリン受容体に結合することができるトランスフェリンに由来するリガンドが含まれるが、これに限定されるわけではない。活性化された内皮細胞を標的とするリガンド部分は、シアリル-ルイス-X抗原(ELAM-1に結合することができる)、VLA-4(VCAM-1受容体に結合することができる)、またはLFA-1(ICAM-1受容体に結合することができる)に由来することができる。CD34に由来するリガンドは、CD34受容体への結合を介して造血前駆細胞を標的とするのに有用である。ICAM-1に由来するリガンドは、LFA-1受容体への結合を介してリンパ球を標的とすることをより意図している。T-ヘルパー細胞の標的化には、CD4受容体に結合することができるHIVgp-120またはクラスII MHC抗原に由来するリガンドを用いることができる。神経細胞、グリア細胞、または内皮細胞の標的化は、例えば、組織因子受容体(例えば、FLT-1、CD31、CD36、Cd34、CD105、CD13、ICAM-1;McCormick et al., 1998, J. Biol. Chem. 273, 26323-26329)、トロンボモジュリン受容体(Lupus et al., 1998, Suppl. 2S120)、VEGFR-3(Lymboussaki et al., 1998, Am. J. Pathol. 153, 395-403)、VCAM-1(Schwarzacher et al., 1996, Artherosclerosis 122, 59-67)、またはその他の受容体に対して指向されるリガンドの使用を介して行うことができる。血餅の標的化は、フィブリノーゲンまたはaIIbb3ペプチドを介して行うことができる。最後に、炎症組織は、セレクチン、VCAM-1、ICAM-1などを介して標的とすることができる。
【0080】
さらに、好適なリガンドには、インテグリンにより認識されるポリリシンおよびポリアルギニンなど、アミノ酸の直鎖状ストレッチも含まれる。さらに、リガンドは、マンソン住血吸虫(Shistosoma manosi)由来のグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)由来の配列、チオレドキシンβガラクトシダーゼ、または大腸菌由来のマルトース結合タンパク質(MPB)、ヒトアルカリホスファターゼ、FLAGオクタペプチド、ヘマグルチニン(hemagluttinin)(HA)などの汎用の標識ペプチド(例えば、利用可能な抗血清により認識されることが知られている短いアミノ酸配列)を含むことができる。
【0081】
ポリペプチドであるリガンド部分は、組換えDNA技術を用いて慣用的に作成することができることを当業者はよく理解している。リガンド部分は、本発明のアデノウイルス粒子の表面でタンパク質に融合することができ、あるいは以下に開示するようにして独立して合成し(例えば、デノボ合成により、または真核生物細胞または原核生物細胞中でのコード配列の発現により)、次いでアデノウイルス粒子にカップリングされることができる。本発明が包含する多くのリガンドをコードする核酸配列が既知であり、例えば、ペプチドホルモン、増殖因子、サイトカインなどの核酸配列は、EMBLおよびGenBankなどの公にアクセス可能なヌクレオチド配列データベースを参照することにより容易に見出すことができる。ペプチドホルモン、増殖因子、抗体の全部または一部、サイトカインなど(これらはすべてリガンドとして有用である)をコードする多くのcDNAは、一般的に市販されている。ヌクレオチド配列が一度既知になれば、例えば、化学的DNA合成技術を用いることにより、あるいはゲノムDNAまたは組織特異的cDNA由来の必要なDNAを増幅するポリメラーゼ連鎖反応を用いることにより、如何にして、選択したリガンドをコードする配列を作成するかは当業者に明らかである。
【0082】
好適なリガンドが一度同定されると、リガンドがその各抗リガンドと未だ相互作用することができるという条件下で、リガンドを本発明のアデノウイルス粒子の任意の位置に導入することができる。本発明に関連して、リガンドを、アデノウイルス粒子の表面で曝露されるウイルスポリペプチドと免疫的、化学的、または遺伝子的にカップリングされる。アデノウイルス粒子の表面で曝露されるウイルスポリペプチドは、ペントンベース、ヘキソン、繊維、タンパク質IX、タンパク質VI、およびタンパク質IIIaからなる群から選択される。
【0083】
選択されたリガンドのアデノウイルス粒子表面への化学的カップリングは、反応性官能基(例えば、チオールまたはアミン基)を直接介して行うことができ、あるいはスペーサー基または他の反応性部分により間接的に行うことができる。具体的には、(i)ホモ二官能性架橋試薬を用いて、(ii)ヘテロ二官能性架橋試薬を用いて、(iii)カルボジイミドにより、(iv)還元的アミノ化により、または(vi)カルボキシレートの活性化により、カップリングを行うことができる(例えば、Bioconjugate techniques 1996; ed G Hermanson ; Academic Pressを参照されたい)。
【0084】
グルタルアルデヒドおよびビス-イミドエステル様DMS(スベリミジン酸ジメチル)を含むホモ二官能性架橋剤を用いて、リガンドのアミン基をジアシルアミンを含有する脂質構造とカップリングされることができる。本発明において多くのヘテロ二官能性架橋剤を用いることができ、具体的には、アミン反応性基およびスルフヒドリル反応性基の双方、カルボニル反応性基およびスルフヒドリル反応性基の双方、並びにスルフヒドリル反応性基および光反応リンカーの双方を有する架橋剤を用いることができる。好適なヘテロ二官能性架橋剤は、Bioconjugate techniques (1996) 229-285; ed G Hermanson ; Academic Press)および国際公開公報第99/40214号に記載されている。最初のカテゴリーの例には、SPDP(N-スクシニミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)、SMBP(スクシニミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート)、SMPT(スクシニミジルオキシカルボニル-α-メチル-(α-2-ピリジルジチオ)トルエン)、MBS(m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)、SIAB(N-スクシニミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート)、GMBS((γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル)、SIAX(スクシニミジル-6-ヨードアセチルアミノヘキソネート、SIAC(スクシニミジル-4-ヨードアセチルアミノメチル)、NPIA(p-ニトロフェニルヨードアセテート)が含まれるが、これに限定されるわけではない。第2のカテゴリーは、糖含有分子(例えば、エンベロープ糖タンパク質、抗体)のスルフヒドリル反応性基とのカップリングに有用である。例には、MPBH(4-(4-Nマレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド)、およびPDPH(4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシル-ヒドラジド(M2C2Hおよび3-2(2-ピリジルジチオ)ピロピオニルヒドラジド)が含まれる。第3のカテゴリーの例には、ASIB(1-(pアジドサリチルアミド)-4-(ヨードアセトアミド)ブチレート)を引用することができる。別の代替物には、Frischら(Bioconjugate Chem. 7 (1996) 180-186)に記載されているチオール試薬が含まれる。
【0085】
本発明のリガンドとアデノウイルス粒子との間での化学的カップリングは、ポリエチレングリコール(PEG)またはその誘導体などのポリマーを用いて行うことができる(例えば、国際公開公報第99/40214号;Bioconjugate Techniques, 1996,606-618 ; ed G Hermanson; Academic Press and Frisch et al., 1996, Bioconjugate Chem. 7, 180-186を参照されたい)。化学的カップリングは、例えば、静電相互作用(例えば、カチオン性リガンドと負の電荷を持つアデノウイルス粒子との間の)を介して、あるいは双方の相手を会合することができるプロテインA、ビオチン/アビジンなどの親和性成分の使用により、非共有結合的であることができる。
【0086】
免疫的カップリングは、選択されたリガンドを本発明のアデノウイルス粒子に接合するための抗体を伴う。例えば、表面に曝露されているウイルスエピトープに対して指向されるビオチン化抗体、およびRouxらにより開示された技術(1989, Proc. Natl. Acad Sci USA 86, 9079)による選択されたペプチドリガンドに対して指向されるストレプトアビジンで標識された抗体を用いることができる。カップリングされる相手の各々に対して指向される二官能性抗体も、この目的に好適である。
【0087】
好ましい態様によれば、選択されたリガンドは、本発明のアデノウイルス粒子に遺伝子的にカップリングされる。リガンドをコードする配列は、アデノウイルスゲノム中に、好ましくは表面に局在するアデノウイルスポリペプチドをコードする遺伝子内に、挿入されることが有利である。本発明は、アデノウイルス粒子の表面でのリガンドの提示をさらに改善するために、特異的シグナル(例えば、膜固着性ポリペプチド)およびペプチドスペーサー(またはリンカー)の使用を包含する。本明細書中で用いられる「ペプチドスペーサー」または「リンカー」という用語は、リガンドをアデノウイルスポリペプチドに結合するために含まれる約1〜20アミノ酸のペプチド配列を指す。スペーサーは、回転の自由度が高い(これにより、リガンドがその抗リガンド相手によって認識されるコンフォメーションに適合することが可能になる)アミノ酸残基から構成されることが好ましい。好ましいスペーサーのアミノ酸は、アラニン、グリシン、プロリンおよび/またはセリンである。特定の態様において、スペーサーは、Ser-Ala、Pro-Ser-Ala、もしくはPro-Gly-Ser、またはその繰り返しを有するペプチド配列である。
【0088】
第1の代替によれば、表面で曝露されているアデノウイルスポリペプチドの一部を取り除くことができ、リガンドが欠失部分の替わりに挿入される。第2の代替によれば、リガンドコード配列が、表面で曝露されているアデノウイルスポリペプチドをコードするウイルスの配列に挿入される。リガンドの挿入は、ウイルスポリペプチドのN末端、C末端、または2つのアミノ酸残基間の任意の位置で行うことができる。挿入はフレーム中で行い、ウイルスのオープンリーディングフレームを壊さないことが好ましい。
【0089】
リガンドは、ペントンベース、ヘキソン、繊維、タンパク質IX、タンパク質VI、およびタンパク質IIIaからなる群から選択される本発明のアデノウイルス粒子の表面で曝露されるウイルスポリペプチドに任意の好適な位置で遺伝子的にカップリングされることがより好ましい。リガンドが挿入されるか、ペントンベースの一部を置き換える場合、抗リガンドに確実に接触するためにリガンドは超可変領域内にあることが好ましい。リガンドが挿入されるか、ヘキソンの一部に置き換えられる場合、リガンドは超可変領域内にあることが好ましい。好適な例は、Ad5ヘキソンの約269アミノ酸残基から約281アミノ酸残基に対応するHVR5ループの約13アミノ酸残基の欠失並びに最終的にはリガンドN末端の第1のスペーサーおよびリガンドC末端の第2のスペーサーにより結合される欠失部位でのリガンドの挿入を含むアデノウイルスヘキソンである。さらにより好ましいリガンドは、本発明の改変繊維中に、特にC末端にあるいはHIループ内に遺伝子的に挿入される。より具体的には、HIループへの挿入は、Ad5繊維の約538アミノ酸残基から約548アミノ酸残基の間において行うことができる。欠失部位でのリガンドの挿入は、最終的にはリガンドN末端の第1のスペーサーおよびリガンドC末端の第2のスペーサーにより結合される。アデノウイルス繊維のC末端での挿入は、リガンドのN末端で結合しているペプチドスペーサーを選択的に使用することにより、一般的には停止コドンの直ぐ上流で行う。一般的様式では、リガンドを抗リガンドに最大限提示し、かつ、他のウイルスタンパク質と繊維三量体形成との間の相互作用を妨げないように、挿入部位を選択する。さらに、リガンドを、pIXタンパク質中の任意の位置に遺伝子的に挿入することができるが、pIXのC末端での挿入またはpIXのC末端内での挿入が特に好ましい(例えば、停止コドンの直前の40pIX残基内に位置する1つまたは複数の残基の替わりにまたは1つまたは複数の残基に加えて)。リガンドをpIXタンパク質中に挿入する場合、pIXもコイルコイルドメイン中で変異していることが好ましい(例えば、Rosa-Calavatra et al., 2001, J. Virol. 75, 7131-7141に記載されている)。
【0090】
もちろん、本発明のアデノウイルス粒子は、各々が異なる抗リガンドに結合する1つ以上のリガンドを含むことができる。例えば、アデノウイルス粒子は、親和性に基づく精製を可能とする第1のリガンド、および本明細書中に記載される細胞表面抗リガンドに選択的に結合する第2のリガンドを含むことができる。
【0091】
本発明の特定の場合によれば、本発明のアデノウイルス粒子は、「空の」カプシドである。すなわち、アデノウイルス粒子は核酸を有していない。そのような空のカプシドの使用は、例えばDNAをベースとする遺伝子治療プロトコルを行うために例示される。これに関し、国際公開公報第95/21259号には、アデノウイルス粒子および核酸(例えば、裸の核酸)の組み合わせを用いて核酸を細胞中に導入する方法が記載されている。この方法は、主に、エンドサイトーシス後に細胞核へ分子を輸送するアデノウイルス粒子の能力に基づく。Curielら(1992, Hum. Gene Ther. 3, 147-154)およびWagnerら(1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 6099-6103)は、プラスミドと活性化されたアデノウイルス粒子とが複合体を形成することにより、エンドソームが溶解し、その後にリソソームと融合することが可能となり、ゆえにプラスミドが分解を回避することが可能になることを示している。これにより、インビトロでのトランスフェクション効率が100〜1000倍増加する結果となる。
【0092】
好ましい態様によれば、本発明のアデノウイルス粒子は、アデノウイルスゲノムを含む(アデノウイルスのウイルスまたはアデノウイルス粒子またはアデノウイルスを参照することもできる)。
【0093】
一つの態様において、例えば、HeiseおよびKirn(2000, J. Clin. Invest. 105, 847-851)に記載されているように、特異的細胞(例えば、増殖細胞)で選択的に複製するために、アデノウイルスゲノムは、条件によって複製されるように操作される(CRAdアデノウイルス)。
【0094】
別の好ましい態様において、アデノウイルスゲノムは複製欠損(replication-defective)であり、すなわち、相補性の非存在下で自律複製することができない。欠損は、複製に必須である1つまたは複数のウイルスの遺伝子の変異または欠失により得られる。E1領域を構成する1つまたは複数の遺伝子の全部または部分的な欠失および/または変異により少なくともE1機能を欠損していることが好ましい。E1欠失は、アクセッション番号M73260としてGenBankデータベースに開示されているヒトアデノウイルスタイプ5の配列を参照することにより、ヌクレオチド(nt)458〜3328または458〜3510を包含することが有利である。さらに、ベクターのアデノウイルス骨格は、追加の改変(1つまたは複数の他のウイルスの遺伝子における欠失、挿入、または変異)を含むことができる。E2改変の例は、DBP(DNA結合タンパク質)に影響を及ぼす温度感受性変異により例示される(Ensinger et al., 1972, J. Virol. 10, 328-339)。アデノウイルス配列は、E4領域の全部または一部を欠失することができる。ORF3および4、またはORF3および6/7を保持する部分的な欠失は、有利であることができる(例えば、欧州出願第974668号;Christ et al., 2000, Human Gene Ther. 11, 415-427; Lusky et al., 1999, J. Virol. 73, 8308-8319を参照されたい)。E3領域内での追加の欠失は必須ではなく、欠失によりクローニング能力を増加することができるが、ポリペプチド(例えば、gpl9k)をコードするE3配列の全部または一部を保持して宿主免疫系(Gooding et al., 1990, Critical Review of Immunology 10, 53-71)または炎症性反応(欧州特許第1203819号)を回避することが可能にすることが有利である。形質導入された細胞中で発現される遺伝子の長期発現を改善するために、ITRおよびパッケージング配列を保持し、かつ、ウイルス抗原の残りの合成を無効にする実質的な遺伝子改変を含有する第2世代のベクターも企図することができる(国際公開公報第94/28152号;Lusky et al., 1998, J. Virol 72, 2022-2032)。
【0095】
本発明による使用に適合可能なアデノウイルスは、ヒトまたは動物供給源のいずれにも由来することができ、具体的にはイヌ(例えば、CAV-1またはCAV-2;それぞれ、GenBank参照番号CAV1GENOMおよびCAV77082)、ニワトリ(GenBank参照番号AAVEDSDNA)、ウシ(BAV3など;Seshidhar Reddy et al., 1998, J. Virol. 72, 1394-1402)、マウス(GenBank参照番号ADRMUSMAV1)、ヒツジ、ネコ、ブタ、またはサルのアデノウイルスに、またはそれらのハイブリッドに由来することができる。任意の血清型を用いることができる。しかしながら、Cサブグループのヒトアデノウイルスが好ましく、特にアデノウイルス2(Ad2)および5(Ad5)が好ましい。一般的に言えば、引用されたウイルスは、ATCCなどの収集機関で入手可能で、かつ、ウイルスの配列、構成、または生物学について記載している数多くの公表物の対象であり、これによって当業者がウイルスを適用することが可能になる。アデノウイルスは、本発明の改変繊維タンパク質の起源となるアデノウイルスと同じサブグループまたは同じ血清型であることが好ましい。
【0096】
別の好ましい態様によれば、本発明のアデノウイルス粒子は組換え体であり、すなわち、アデノウイルスゲノムは、宿主細胞中でその発現を可能にする調節エレメントの制御下にある少なくとも1つの関心対象の遺伝子を含む。
【0097】
「関心対象の遺伝子」という用語は、任意の起源であることができ、ゲノムDNA、cDNA、または、ゲノムRNA、mRNA、アンチセンスRNA、リボソームRNA、リボザイム、もしくはトランスファーRNAなどのRNAをコードする任意のDNAから単離される核酸を指す。関心対象の遺伝子は、オリゴヌクレオチド(すなわち、100bp未満の短い大きさを有する核酸)であることもできる。
【0098】
好ましい態様において、本発明で用いられる関心対象の遺伝子は、治療用の遺伝子であり、すなわち、対象の治療の遺伝子産物をコードする。「治療的関心対象の遺伝子産物」とは、患者、特に疾患もしくは病気の状態を患う患者または疾患もしくは状態に対して保護されるべき患者に適切に投与されるときに治療活性または保護活性を有するものである。そのような治療活性または保護活性は、疾患または状態の症状の経過における有益な効果と相関することができる。治療される疾患または状態に依存して治療対象の適切な遺伝子産物をコードする遺伝子を選択することは、当業者の能力範囲内である。一般的な様式において、当業者の選択は以前に得られた結果に基づくことができ、その結果、そのような治療の性質を得るために、過度な実験をせずに、すなわち、特許請求の範囲に記載された本発明を実施すること以外に過度な実験をせずに、当業者は合理的に予測することができる。
【0099】
本発明に関連して、関心対象の遺伝子は、遺伝子が導入される宿主細胞または宿主生物に関して相同または非相同(heterologus)であり得る。遺伝子は、ポリペプチド、リボザイム、またはアンチセンスRNAをコードすることが有利である。「ポリペプチド」という用語は、その大きさが如何なるものであれ、ポリヌクレオチドの任意の翻訳産物と理解し、7アミノ酸残基(ペプチド)を有するポリペプチド、より典型的にはタンパク質を含む。さらに、遺伝子は、任意の起源(原核生物、下等または高等真核生物、植物、ウイルスなど)であることができる。遺伝子は、天然ポリペプチド、変異体、天然に対応するものを有しないキメラポリペプチド、またはそれらの断片であることができる。本発明で用いられる関心対象の遺伝子は、動物またはヒト生物体で1つまたは複数の欠損または欠失細胞タンパク質を補完することができるか、あるいは毒性効果を介して体から有害な細胞を制限するまたは取り除くように作用する少なくとも1つのポリペプチドをコードすることが有利である。好適なポリペプチドは、例えば体液性応答を誘発するために、免疫性が与えられて、抗原として作用することもできる。
【0100】
関心対象の遺伝子によりコードされるポリペプチドの代表的な例には、以下からなる群から選択されるポリペプチドが含まれるが、これに限定されるわけではない:
p21、p16、網膜芽腫(Rb)遺伝子の発現産物、(好ましくは、サイクリン依存型の)キナーゼ阻害剤、GAX、GAS-1、GAS-3、GAS-6、Gadd45、並びにサイクリンA、B、およびDなどの細胞サイクルに関与しているポリペプチド;
静脈内皮細胞増殖因子(VEGF;すなわち、ヘパリン結合VEGF GenBankアクセッション番号M32977)ファミリーのメンバー、形質転換増殖因子(TGF、特にTGFαおよびβ)、上皮増殖因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF、特にFGFαおよびβ)、腫瘍壊死因子(TNF、特にTNFαおよびβ)、CCN(CTGF、Cyr61、Nov、Elm-1、Cop-1、およびWisp-3を含む)、散乱因子/肝細胞増殖因子(SH/HGF)、アンジオゲニン、アンジオポエチン(特に1および2)、アンギオテンシン-2、プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、およびウロキナーゼ(uPA)などの血管形成ポリペプチド;
インターロイキン(具体的にはIL-2、IL-6、IL-8、IL-12)、結腸刺激因子(GM-CSF、G-CSF、M-CSFなど)、インターフェロン(IFNβなど;GenBankアクセッション番号M25460;IFNγ;GenBankアクセッション番号M29383、またはIFNα)を含むサイトカイン;
RANTES、MIPα、MIP-1β、DCCK1、MDC、IL-10(GenBankアクセッション番号U16720)、およびMCP-1を含むケモカイン;
抗体、毒素、免疫毒素を含む、細胞増殖を減少または阻害することができるポリペプチド、癌遺伝子発現産物を阻害するポリペプチド(例えば、ras、mapキナーゼ、チロシンキナーゼ受容体、増殖因子)、Fasリガンド(GenBankアクセッション番号U08137)、宿主免疫系を活性化するポリペプチド;
抗原決定基、競合によって天然ウイルスタンパク質の作用を阻害するトランスドミナント(transdominant)変異体(欧州特許第614980号、国際公開公報第95/16780号)、イムノアドヘシン(Capon et al., 1989, Nature 337, 525-531; Byrn et al., 1990, Nature 344, 667-670)、免疫毒素(Kurachi et al., 1985, Biochemistry 24, 5494-5499)、および抗体(Buchacher et al., 1992, Vaccines 92, 191-195)などの細菌性、寄生性、またはウイルス性の感染またはその発達を阻害することができるポリペプチド;
ウレアーゼ、レニン、トロンビン、メタロプロテイナーゼ、一酸化窒素合成酵素(eNOS(GenBankアクセッション番号M95296)およびiNOS)、SOD、カタラーゼ、ヘムオキシゲナーゼ(GenBankアクセッション番号X06985)、エナーゼ(enase)、リポタンパク質リパーゼファミリーなどの酵素;
酸素ラジカルスカベンジャー;
α1-抗トリプシン、抗トロンビンIII、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤PAI-1、メタロプロテイナーゼ1〜4の組織阻害剤などの酵素阻害剤;
ジストロフィンまたはミニジストロフィン(筋障害に関連;England et al., 1990, Nature 343, 180-182)、インスリン(糖尿病に関連)、血友病因子(血友病および血液障害の治療用;VIIa因子(米国特許第4,784,950号)、VIII因子(米国特許第4,965,199号)またはその誘導体(米国特許第4,868,112号、Bドメイン欠失体)、およびIX因子(米国特許第4,994,371号)など)、CFTR(嚢胞性線維症に関連;Riordan et al., 1989, Science 245, 1066-1072)、エリスロポエチン(貧血)、グルコセレブロシダーゼ(ゴーシェ病;米国特許第5,879,680号および米国特許第5,236,838号)、α-ガラクトシダーゼ(ファブリー病;米国特許第5,401,650号)、酸α-グルコシダーゼ(ポンペ病;国際公開公報第00/12740号)、α n-アセチルガラクトサミニダーゼ(シンドラー病;米国特許第5,382,524号)、酸スフィンゴミエリナーゼ(ニーマン-ピック病;米国特許第5,686,240号)、およびα-イズロニダーゼ(国際公開公報第93/10244号)を含むリソソーム貯蔵酵素などの、病理状態の原因である欠損細胞機能を少なくとも部分的に回復させることができるポリペプチド;
アンジオスタチン、エンドスタチン、血小板因子-4などの血管形成阻害剤;
DNA結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、および転写活性化ドメインまたは転写阻害ドメインを含む核受容体などの転写因子(例えば、エストロゲン、ステロイド、およびプロゲステロン受容体に由来する融合産物);
レポーター遺伝子(CAT、ルシフェラーゼ、eGFPなど);
抗体(任意のクラスの全免疫グロブリン、二重抗原もしくは多重抗原またはエピトープ特異性を有するキメラ抗体およびハイブリッド抗体、並びにF(ab)2、Fab'、Fab、scFvなどのそれらの断片(ハイブリッド断片および抗イディオタイプを含む);および
臨床状態の治療または予防に有用であると当技術分野で認められている任意のポリペプチド。
【0101】
関心対象の遺伝子が、天然配列に対して、1つまたは複数のヌクレオチドの付加、欠失および/または改変を含むことができることは、本発明の範囲内である。
【0102】
本発明のアデノウイルス粒子が腫瘍細胞を標的とすることを目的としたリガンドを含む場合、関心対象の遺伝子は抗腫瘍剤をコードすることが好ましい。本発明に従って種々の抗腫瘍剤を利用することができる。本発明に関連して、「抗腫瘍剤」とは、選択された腫瘍の増殖を阻害する化合物または分子と理解される。抗腫瘍剤の代表的な例には、免疫活性化因子および腫瘍増殖阻害剤が含まれる。簡単に言うと、免疫活性化因子は、腫瘍特異的抗原の免疫認識を改善することにより機能する(例えば、体液性および/または細胞性仲介免疫を介する)。結果として、免疫系は、腫瘍細胞をより効果的に阻害するか殺す。免疫活性は、免疫エフェクター細胞を増殖する、活性化する、または分化するように作用する免疫調節因子(リンパ球および腫瘍細胞の間の相互作用に影響を及ぼす分子)およびリンホカインのサブカテゴリーに類別することができる。免疫調節因子の代表的な例には、CD3、ICAM-1、ICAM-2、LFA-1、LFA-3、β-2-ミクログロブリン、シャペロン、αインターフェロン、およびγインターフェロン、B7/BB1、および主要組織適合性複合体(MHC)が含まれる。リンホカインの代表的な例には、γインターフェロン、腫瘍壊死因子、IL-1、IL-2、IL-3、IL4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、GM-CSF、CSF-1、およびG-CSFが含まれる。
【0103】
腫瘍増殖阻害剤は、細胞の増殖を直接阻害することにより、あるいは腫瘍細胞を直接殺すことにより作用する。腫瘍増殖阻害剤の代表的な例には、毒素および自殺遺伝子が含まれる。毒素の代表的な例には、リシン(ricin)(Lamb et al., 1985, Eur. J. Biochem. 148, 265-270)、ジフテリア毒素(Tweten et al., 1985, J. Biol. Chem. 260,10392-10394)、コレラ毒素(Mekalanos et al., 1983, Nature 306, 551-557; Sanchez and Holmgren, 1989. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86. 481-485)、ゲロニン (Stirpe et al., 1980, J. Biol. Chem. 255, 6947-6953)、ヨウシュヤマゴボウ(pokeweed) (Irvin, 1983, Pharmac. Ther. 21, 371-387)、抗ウイルスタンパク質(Barbieri et al., 1982, Biochem. J.203. 55-59; Irvin et al., 1980, Arch. Biochem. Biophys. 200, 418-425; Irvin, 1975, Arch. Biochem Biophys. 169, 522-528)、トリチン(tritin)、赤痢菌毒素(Calderwood et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84,4364-4368; Jackson et al., 1987, Microb. Path. 2, 147-153)、およびシュードモナス外毒素A(Carroll and Collier, 1987, J. Biol. Chem. 262, 8707-8711)が含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0104】
本発明に関して、「自殺遺伝子」とは、不活性な物質(プロドラッグ)を細胞毒性物質に形質転換し、それによって細胞死を引き起こすことができる発現産物をコードする任意の遺伝子と定義することができる。TK HSV-1をコードする遺伝子は、自殺遺伝子ファミリーの原型を構成する(Caruso et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 7024-7028; Culver et al., 1992, Science 256, 1550-1552)。TKポリペプチドはそれ自体では非毒性である一方で、アシクロビルまたはガンシクロビルなどのヌクレオシド類似体(プロドラッグ)の形質転換を触媒する。形質転換されたヌクレオシドは、伸長プロセス中のDNA鎖に導入され、伸長の中断を引き起こし、したがって細胞分裂の阻害を引き起こす。多数の自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせが現在利用可能である。より具体的に言及されるものは、ラットのチトクロムp450およびシクロホスホファミド(Wei et al, 1994, Humun Gene Ther. 5, 969-978)、大腸菌(E.coli)プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよび6-メチルプリンデオキシリボヌクレオシド(Sorscher et al., 1994, Gene Therapy 1, 223-238)、大腸菌グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、および6-チオキサンチン(Mzoz et al., 1993, Human Gene Ther. 4. 589-595)である。しかしながら、好ましい態様において、本発明のアデノウイルス粒子は、プロドラッグである5-フルオロシトシン(5-FC)とともに用いることができる、シトシンデアミナーゼ(CDase)もしくはウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRTase)活性またはCDaseおよびUPRTase活性の双方を有するポリペプチドをコードする自殺遺伝子を含む。例えば、CDaseおよびUPRTase活性を有するポリペプチドをコードする自殺遺伝子の組み合わせの使用も、本発明に関連して考慮することができる。
【0105】
CDaseおよびUPRTase活性は、原核生物および下等真核生物で実証されているが、哺乳動物では存在しない。CDaseは、加水分解による脱アミノ化によって外因性シトシンがウラシル中に移送されるピリミジン代謝経路に通常関与するが、UPRTaseはUMP中のウラシルを形質転換する。しかしなががら、CDaseは、シトシンの類似体である5-FCを脱アミノ化することができ、それによって5-フルオロウラシル(5-FU)を形成し、5-フルオロウラシルはUPRTaseの作用により5-フルオロ-UMP(5-FUMP)に変換されたときに高い毒性を有する。
【0106】
好適なCDaseコード遺伝子には、酵母(Saccharomyces cerevisiae)FCY1遺伝子(Erbs et al., 1997. Curr. Genet. 31, 1-6; 国際公開公報第93/01281号)、および大腸菌codA遺伝子(欧州特許第402108号)が含まれるが、これに限定されるわけではない。好適なUPRTaseコード遺伝子には、大腸菌(upp遺伝子; Anderson et al., 1992, Eur. J. Biochem. 204, 51-56)、ラクトコッカス属ラクチス(Lactococcus lactis)(Martinussen and Hammer, 1994, J. Bacteriol. 176, 6457-6463)、ウシ結核菌(Mycobacterium bovis)(Kim et al. 1997, Biochem Mol. Biol. Int 41, 1117-1124)、枯草菌(Bacillus subtilis)(Martinussen et al. 1995, J. Bacteriol. 177, 271-274)、および酵母(Saccharomyce scerevisiae)(FUR-l gene; Kern et al., 1990, Gene 88, 149-157)が含まれるが、これに限定されるわけではない。CDaseコード遺伝子はFCY1遺伝子に由来し、UPRTaseコード遺伝子はFUR-1遺伝子に由来することが好ましい。
【0107】
本発明はまた、遺伝子産物の細胞毒性活性が保存されるという条件で、1個または数個のヌクレオチドの付加、欠失および/または置換により改変された変異自殺遺伝子の使用も包含する。CDase活性およびUPRTase活性の双方を有する2つのドメイン酵素をコードする融合タンパク質(国際公開公報第96/16183号)、および最初の35残基が欠失したFUR-1遺伝子によりコードされているUPRTaseの変異体(国際公開公報第99/54481号に開示されるFCU-1変異体)を含む、いくつかの数のCDaseおよびUPRTase変異体が文献で報告されている。
【0108】
腫瘍増殖阻害剤の追加の例には、細胞の増殖に必要な非常に重要なタンパク質の細胞合成を妨げることにより腫瘍細胞増殖を阻害するアンチセンス配列が含まれる。そのようなアンチセンス配列の例には、癌遺伝子および癌原遺伝子(c-myc、c-fos、c-jun、c-myb、c-ras、Kc、JE、HER2)などの正に作用する(positively-acting)増殖調節遺伝子に対するアンチセンス、およびヌクレオチド生合成経路で任意の酵素を遮断するアンチセンス配列が含まれる。最後に、腫瘍増殖阻害剤には、p53、網膜芽腫(Rb)、並びに大腸癌のMCCおよびAPCなどの腫瘍抑制因子も含まれる。
【0109】
先に記載した抗腫瘍剤をコードする配列は、種々の供給源から得ることができる。例えば、抗腫瘍剤をコードする配列を含有するプラスミドは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、メリーランド州ロックビル)などの寄託所から得ることができ、あるいはブリティッシュ・バイオテクノロジー・リミテッド(British BioTechnology Limited)(英国オックスフォードCowley)などの業者から得ることができる。または、抗腫瘍剤をコードする既知cDNA配列は、配列を発現または含有する細胞から得ることができる。簡単に言えば、関心対象の遺伝子を発現する細胞由来のmRNAは、オリゴdTまたはランダムプライマーを用いて逆転写酵素により逆転写される。次いで、所望の配列のいずれかの側における配列に相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを利用したPCRにより、一本鎖cDNAを増幅することができる。
【0110】
先に言及した通り、関心対象の遺伝子は、調節エレメントに操作可能に結合されて、宿主細胞(例えば、治療される細胞)での遺伝子の発現が可能になる。そのような調節エレメントには、ウイルス、細菌、または真核生物の任意遺伝子から(関心対象の遺伝子からでさえ)得ることができ、かつ、構成的(constitutive)または調節可能であることができるプロモーターが含まれる。任意で、その転写活性を改善し、ネガティブ配列を欠失し、その調節を改変し、適切な制限部位を導入するなどのために、それを改変することができる。好適なプロモーターには、アデノウイルスE1a、MLP、PGK、MT(メタロチオネイン;Mc Ivor et al., 1987, Mol. Cell Biol. 7, 838-848)、α-1抗トリプシン、CFTR、表面活性剤、免疫グロブリン、β-アクチン、SRα、SV40、RSVLTR、TK-HSV-1、SM22、デスミン(国際公開公報第96/26284号)、および初期CMVが含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0111】
関心対象の遺伝子の発現を可能とする調節エレメントは、本発明で使用されるリガンドが結合する抗リガンドを細胞表面で提示する宿主細胞内で機能的であることが好ましい。調節エレメントは、好ましくは組織特異的プロモーターおよび腫瘍特異的プロモーターからなる群から選択されたプロモーターを含む。好適なプロモーターには、乳癌および前立腺癌で過剰発現しているMUC-1遺伝子などの腫瘍細胞中で過剰発現される遺伝子(Chen et al., 1995, J. Clin. Invest. 96, 2775-2782)、結腸癌で過剰発現されるCEA(癌胎児性抗原)コード遺伝子(Schrewe et al., 1990, Mol. Cell. Biol. 10, 2738-2748)、乳癌および膵臓癌で過剰発現されるERB-2コード遺伝子(Harris et al., 1994, Gene Therapy 1, 170-175)、および肝臓癌で過剰発現しているα-胎児性タンパク質(alpha-foetoprotein)コード遺伝子(Kanai et al., 1997, Cancer Res. 57, 461-465)から単離されるプロモーターなど、増殖性細胞中で機能的なプロモーターが含まれる。
【0112】
関心対象の遺伝子の発現を制御する調節エレメントが、宿主細胞または宿主生物への関心対象の遺伝子の転写および翻訳の正確な開始、調節、および/または終結のための追加のエレメントをさらに含むことができることは、当業者によりよく理解されよう。そのような追加のエレメントには、非コードエキソン/イントロン配列、輸送配列、分泌シグナル配列、核局在シグナル配列(nuclear localization signal sequence)、IRES、ポリA転写終結配列、三連リーダー配列、複製または組込みに関与している配列が含まれるが、これに限定されるわけではない。エレメントは文献に報告されており、当業者により容易に得ることができる。本発明に関連して好適なイントロンの例示的な例には、αまたはβグロビン(すなわち、ウサギβグロビン遺伝子の第2イントロン;Green et al., 1988, Nucleic Acids Res. 16, 369; Karasuyama et al., 1988, Eur. J. Immunol. 18, 97-104)、オボアルブミン、アポリポタンパク質、免疫グロブリン、IX因子、VIII因子、およびCFTRをコードする遺伝子から単離されるイントロン、並びにマウス免疫グロビン受容体に融合されたヒトβグロビン供与体からなるpCIベクター(Promega Corp、pCI哺乳動物発現ベクターE1731)に存在するイントロンなどの合成イントロン、またはSV40のイントロン16S/19S(Okayma and Berg, 1983, Mol. Cell. Biol. 3, 280-289)が含まれる。追加のエレメントは、正確な転写終結を可能にするために関心対象の遺伝子に操作可能に結合されたポリアデニル化シグナルも含有する。それは遺伝子対象の下流に位置することが好ましい。
【0113】
シス作用配列(ITRおよびパッケージング配列)を除き、本発明で用いられる関心対象の遺伝子は、アデノウイルスゲノムの任意の位置に挿することができる。遺伝子は、欠失領域(E1、E3、および/またはE4)の替わりに挿入されることが好ましく、E1欠失領域の替わりに挿入されることが特に好ましい。さらに、発現カセットは、問題としている領域の転写方向に対してセンス方向又アンチセンス方向で位置することができる。
【0114】
本発明は、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の使用を包含する。これに関し、自殺遺伝子産物および(IL-2、IL-8、IFNγ、GM-CSFなどの)サイトカインをコードする遺伝子の組み合わせは、本発明に関連して有利であることができる。異なる関心対象の遺伝子は、同じ方向または反対方向のいずれかで位置している汎用の(多シストロン性カセット)または独立した調節配列により制御することができる。
【0115】
さらに、本発明のアデノウイルス粒子または空のカプシドを用いて、米国特許第5,928,944号に記載されるようなウイルスが仲介する共内在化プロセスによる核酸(例えば、プラスミドベクター)の移送をすることができる。このプロセスは、ポリカルベンまたは1つまたは複数の脂質層を含む脂質小胞などのカチオン性剤の存在下で達成することができる。
【0116】
当技術分野における任意の慣用技術(例えば、Graham and Prevect, 1991, Methods in Molecular Biology, Vol 7, Gene Transfer and Expression Protocols; Ed E. J. Murray, The Human Press Inc, Clinton, NJまたは国際公開公報第96/17070号に記載される技術)に従って、本発明のアデノウイルス粒子を調製および増殖することができる。
【0117】
本発明は、アデノウイルス粒子またはアデノウイルス粒子ゲノムを好適な細胞系に導入する工程、アデノウイルス粒子の産生を可能とするような好適な条件下で細胞系を培養する工程、および産生したアデノウイルス粒子を細胞系の培養から回収する工程、並びに選択的に回収されたアデノウイルス粒子を精製する工程を含む、本発明によるアデノウイルス粒子の産生方法にも関する。
【0118】
アデノウイルス粒子またはそのゲノムは、形質転換、形質導入、細胞核への微小量のDNAマイクロインジェクション(Capechi et al., 1980, Cell 22,479-488)、例えばCaPO4によるトランスフェクション(Chen and Okayama, 1987, Mol. Cell Biol. 7, 2745-2752)、エレクトロポレーション(Chu et al., 1987, Nucleic Acid Res. 15, 1311-1326)、リポフェクション/リポソーム融合(Felgner et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 7413-7417)、粒子ボンバードメント(Yang et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 9568-9572)、遺伝子銃、(例えば、感染性ウイルス粒子による)感染、直接DNA注入(Acsadi et al., 1991, Nature 352, 815-818)、微粒子ボンバードメント(Williams et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 2726-2730)などの既知の技術に従って細胞に導入される。
【0119】
細胞系に関して、細菌、酵母、植物、および動物(ヒトを含む)の細胞を含む原核細胞および真核細胞のいずれも用いることができる。アデノウイルス粒子が複製欠損型であって、適切な細胞系が最終的にはヘルパーウイルスと組み合わせてアデノウイルス粒子の少なくとも1つの欠損機能を補完することが好ましい。細胞系293(Graham et al., 1977, J. Gen. Virol. 36, 59-72)およびPER C6(Fallaux et al., 1998, Human Gene Therapy 9, 1909-1917)が、E1機能を補完するのに汎用的に用いられる。二重欠損ベクター(doubly defective vector)を補完するために他の細胞系が操作されている(Yeh et al., 1996, J. Virol. 70, 559-565; Krougliak and Graham, 1995, Human Gene Ther. 6, 1575-1586; Wang et al., 1995, Gene Ther. 2, 775-783; Lusky et al., 1998, J. Virol. 72, 2022-2033;欧州特許第919627号および国際公開公報第97/04119号)。
【0120】
本発明は、機能的繊維を欠如した(繊維コード配列の全部または一部を欠失することによって)アデノウイルス粒子の産生方法も包含する。この場合において、本発明の方法は、本発明の改変アデノウイルス粒子を発現する細胞系を用いることが好ましい。このような細胞系は、ゲノムに組み込まれた形態またはエピソーム形態のいずれかで、本発明のDNA断片または発現ベクターを含む。もちろん、DNA断片は、細胞系で本発明の改変アデノウイルス繊維の産生を可能にする適切な翻訳および/または転写調節エレメントの制御下にある。この細胞系はさらに、E1、E2、E4、L1、L2、L3、L4、L5領域または任意のその組み合わせによりコードされる機能からなる群から選択される1つまたは複数のアデノウイルス機能を補完することができることが好ましい。細胞系は、例えば、本発明の改変繊維タンパク質をコードする発現ベクターをトランスフェクションすることにより、293細胞系またはPER C6細胞系から産生することが好ましい。
【0121】
または、本発明の方法では、ゲノムが天然繊維遺伝子の替わりに本発明の改変繊維をコードする配列を含む本発明のアデノウイルスベクターおよび2つの細胞系を用いる。最初に、ウイルス骨格に従って適切な補完(例えば、E1欠失ベクターではE1)を提供し、かつ、野生型繊維をさらに提供する第1の細胞系(例えば、対応する野生型繊維をコードする配列をコードする発現ベクターでトランスフェクションした293またはPER-C6)にアデノウイルスベクターを導入する。この増幅工程によって、野生型繊維を有するカプシド中にパッケージングされた改変繊維コード配列を含むゲノムを有するアデノウイルス粒子の回収が可能になる。次いで、第1の細胞系の培地から回収された得られたアデノウイルス粒子を用いて、必要な補完だけを提供する第2の細胞系(例えば、293またはPERC-6)に感染させる。したがって、このような第2の細胞系で1ラウンドの増幅を行った後、産生したアデノウイルス粒子をアデノウイルスゲノムから発現された改変繊維を含む新たに合成されたカプシド中にパッケージングする。
【0122】
アデノウイルス粒子は、培養上清から回収することができるが、溶解後の細胞から回収することもでき、標準的な技術(例えば、国際公開公報第96/27677号、国際公開公報第98/00524号、国際公開公報第98/26048号、および国際公開公報第00/50573号に記載されている、クロマトグラフィー、超遠心)に従ってさらに選択的に精製される。
【0123】
本発明は、本発明のDNA断片またはアデノウイルス粒子を含む真核宿主細胞も提供する。
【0124】
本発明の目的において、「宿主細胞」という用語は、哺乳動物(好ましくはヒト)の組織、器官などにおける特定の組織体または単離された細胞に関し、何ら制限なく広く理解されるべきである。そのような細胞は、唯一のタイプの細胞でも異なるタイプの細胞の群でもよく、哺乳動物起源、特に好ましくはヒト起源の培養細胞系、一次細胞、および増殖性細胞を包含する。好適な宿主細胞には、造血細胞(全能、幹細胞、白血球、リンパ球、単球、マクロファージ、APC、樹状細胞、非ヒト細胞など)、肺性細胞、気管細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞、筋細胞(例えば、骨格筋、心筋、または平滑筋)、線維芽細胞が含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0125】
さらに、特定の態様によれば、本発明の真核宿主細胞は、さらにカプセル化することができる。細胞カプセル化技術は、以前に記載されている(Tresco et al., 1992, ASAIO J. 38, 17-23; Aebischer et al., 1996, Human Gene Ther. 7, 851-860)。特定の態様によれば、トランスフェクションされた宿主細胞または感染された宿主細胞を微孔筧膜を形成する化合物でカプセル化し、カプセル化細胞をさらにインビボに埋め込むことができる。対象の細胞を含有するカプセルは、ポリエーテルスルホン(PES)の微孔筧中空膜(Akzo Nobel Faser AG, Wuppertal, Germany; Deglon et al. 1996, Human Gene Ther. 7, 2135-2146)を用いて調製することができる。この膜は、1MDaを上回るカットオフ分子量を有し、これによりタンパク質および栄養がカプセルの内外間で自由に通過することが可能になる一方で、移植された細胞と宿主細胞との接触が妨げられる。
【0126】
本発明は、薬学的な観点から許容されるビヒクルと組み合わせた、本発明の宿主細胞またはアデノウイルス粒子を含む組成物または本発明による方法を用いて産生した組成物、好ましくは薬学的な組成物にも関する。特別の場合では、組成物は、(i)調節配列、および/または(ii)関心対象の遺伝子、および/または(iii)アデノウイルス骨格、および/または(iv)リガンドの性質が異なることができる2つ以上のアデノウイルス粒子または真核宿主細胞を含むことができる。
【0127】
本発明による組成物は、全身投与、局所投与、および局在化投与(例えば、局所、エアゾール、滴注、経口)を含む種々の投与型に関する慣用の様式で製造することができる。全身投与では注射が好ましく、例えば、皮下、皮内、筋内、静脈内、腹腔内、髄腔内、心臓内(経心臓および心臓周囲など)、腫瘍内、膣内、肺内、鼻腔内、気管内、血管内、動脈内、冠内、または脳室内である。筋内、静脈内、および腫瘍内が好ましい投与型を構成する。投与は、単一用量で、またはある時間間隔後に1回または数回繰り返される用量で行うことができる。適切な投与経路および投与量は、例えば、治療される状態または疾患、状態または疾患が進行した段階、予防もしくは治療の必要性および/または治療用遺伝子を移入する必要性などの種々のパラメーターによって変動することができる。指摘のために、104〜1014iu(感染単位)の間、有利に、105〜1013iuの間、好ましくは106〜1012iuの間の剤形で、アデノウイルス粒子をベースとして組成物を調製することができる。力価は、慣用技術により決定することができる。本発明の組成物は、種々の形態、例えば、固体(例えば、粉末体、凍結乾燥体)、液体(例えば、水溶液)であることができる。
【0128】
さらに、本発明の組成物は、アデノウイルス粒子または真核宿主細胞をヒトまたは動物の体に送達するための薬学的に許容される担体をさらに含むすることができる。担体は、用いる投与量および濃度においてヒトまたは動物生物体に非毒性である薬学的に好適な注射可能な担体または希釈剤であることが好ましい(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed. 1980, Mack Publishing Coを参照されたい)。担体は、等張性、低張性、または弱等張性であることが好ましく、ショ糖溶液などにより提供される比較的低いイオン性強度を有することが好ましい。さらに、担体は、任意の関連する溶媒、無菌かつパイロジェン非含有水を含む水性または一部水性の液体担体、分散媒、コーティング剤、および同等のもの、または希釈剤(例えば、Tris-HCl、アセテート、ホスフェート)、乳化剤、可溶化剤、または補助剤を含むことができる。薬学的調製物のpHは、ヒトまたは動物での使用に適切なものとなるように好適に調整され、緩衝化される。注射可能な組成物用の担体または希釈剤の代表的な例には、好ましくは生理学的pHまたは弱塩基性のpH(約pH8〜約pH9の間で、特に好ましくはpH8.5)で緩衝化された水、等張生理食塩水溶液が含まれる。好適な緩衝剤には、ポリペプチドまたはヒトSerアルブミンなどのタンパク質を含有するまたはタンパク質を含有しないリン酸緩衝生理食塩水、Tris緩衝生理食塩水、マンニトール、デキストロース、グリセロールが含まれる。特に好ましい組成物は、1Mサッカロース、150 mM NaCl、1 mM MgCl2、54 mg/l Tween 80、10 mM Tris(pH8.5)中のアデノウイルス粒子を含む。別の好ましい組成物は、10 mg/mlマンニトール、1 mg/ml HSA、20 mM Tris(pH7.2)および150 mM NaCl中で製剤にする。これらの組成物は、-70℃で少なくとも6ヶ月間安定している。
【0129】
さらに、本発明による組成物は、ヒトまたは動物内でその分解を保存することができるおよび/または宿主細胞に取込むことができる1つまたは複数の「安定化」添加剤を含むことができる。そのような添加剤は、単独であるいは組み合わせて用いることができ、ヒアルロニダーゼ(国際公開公報第98/53853号に記載されている通り、宿主細胞の細胞外マトリクスを不安定化すると思われる)、クロロキン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、エタノール、1-メチルL-2-ピロリドンまたはその誘導体などのプロトン性化合物、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド、ジ-n-プロピルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、アセトニトリルなどの非プロトン性化合物(欧州特許第890362号を参照されたい)、サイトカイン、特にインターロイキン-10(IL-10)(PCT/EP/9903082号)、アクチンGなどのヌクレアーゼ阻害剤(国際公開公報第99/56784号)、およびマグネシウム(Mg2+)(欧州特許第998945号)およびリチウム(Li)(欧州特許第99403310.8号)などのカチオン性の塩、並びに任意のそれらの誘導体を含む。本発明の組成物中のカチオン性の塩の量は、好ましくは約0.1 mM〜約100 mMの範囲であり、より好ましくは約0.1 mM〜約10 mMである。ポリ-リシンおよびラクトースのゲル複合体(Midoux et al., 1993, Nucleic Acid Res. 21, 871-878)またはポロキサマー407(Pastore, 1994, Circulation 90, 1-517)などの、動脈細胞中での遺伝子の移行を容易にするのに感受性がある物質を用いることもできる。
【0130】
本発明の組成物は、具体的には、癌に関連する障害、状態、または疾患の予防的または治療的処置を意図している。「癌」という用語は、分散または局在性の腫瘍、転移、癌性ポリープ、および新生物発生前損傷(preneoplastic lesions)(例えば、異形成)、および不要な細胞増殖から生じた疾患を含む任意の癌性状態を包含する。種々の腫瘍を、本明細書中に記載される方法による治療用に選択することができる。一般的には、固体腫瘍が好ましいが、特に固体塊に発達した場合、または腫瘍細胞を非病原性の正常な細胞から物理的に分けることができるような好適な腫瘍関連マーカーが存在する場合には、白血病およびリンパ腫も治療することができる。例えば、急性リンパ性白血病細胞は、白血病特異的マーカー「CALLA」により他のリンパ球から分類することができる。本発明に関連して企図される癌には、膠芽細胞腫、肉腫、黒色腫、肥満細胞腫、癌(例えば、大腸癌および腎細胞腫)、および乳癌、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、子宮頸癌(特に、パピローマウイルスにより誘導される子宮頸癌)、肺癌(例えば、大細胞肺癌、小細胞肺癌、扁平上皮癌、および腺癌を含む肺癌)、腎臓癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膵臓癌、胃癌、食道癌、喉頭癌、脳腫瘍、咽喉癌、皮膚癌、中枢神経系の癌、血液の癌(リンパ腫、白血病など)、骨癌が含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0131】
本発明の組成物は、虚血性疾患(末梢虚血、下肢虚血、心虚血、および狭心症)、アテローム性動脈硬化症、高血圧、アテローム発生、内膜過形成(intimal hyperplasia)、血管形成術またはステント配置後の再狭窄、新生物疾患(例えば、腫瘍および腫瘍転移)、良性腫瘍、結合組織障害(例えば、慢性関節リウマチ)、眼血管形成の疾患(例えば、糖尿病性網膜症、黄斑変性症、角膜移植片拒絶反応、血管新生緑内障)、心血管系疾患(心筋梗塞)、大脳血管疾患、糖尿病関連疾患、免疫障害(例えば、慢性炎症または自己免疫)、神経変性疾患、パーキンソン病、および遺伝子疾患(先に列記したベッカーおよびデュシェーヌなどの筋ジストロフィー、血友病、ゴーシェ病、嚢胞性繊維症など)を含むが、これに限定されるわけではない、筋、血管(好ましくは動脈)および/または心血管系に影響を及ぼす疾患などのその他の疾患の予防および治療にも用いることができる。別の用途は、血液流に分泌される遺伝子産物を伴う障害のためのインビボ発現系として、特にタンパク質欠損(例えば、適切な凝固因子の発現による血友病、リソソーム貯蔵疾患、貧血)を回復するために、本発明の組成物を用いることである。
【0132】
さらに、本発明の組成物において、本発明のアデノウイルス粒子または発現ベクターを脂質またはポリマーに接合することができる。これに関し、好ましい脂質またはポリマーは、細胞膜と相互作用するため、カチオン性である(Felgner et al., 1989, Nature 337, 387-388)。本発明で用いることができるカチオン性脂質またはカチオン性脂質の混合物には、リポフェクチン(商標)、DOTMA(登録商標):N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム(Felgner, 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 7413-7417)、DOGS:ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン、またはTransfectam(商標)(Behr, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86,6982-6986)、DMRIE:1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、およびDORIE:1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(Felgner, 1993, Methods 5, 67-75)、DC-CHOL:3[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(Gao, 1991, BBRC 179,280-285)、DOTAP(McLachlan, 1995, Gene Therapy 2, 674-622)、リポフェクタミン(商標)、スペルミンコレステロールおよびスペルミジンコレステロール、Lipofectace(商標)(総説として例えば、Legendre, 1996, Medecine/Science 12, 1334-1341またはGao, 1995, Gene Therapy 2, 710-722を参照されたい)、並びに国際公開公報第98/34910号、国際公開公報第98/14439号、国際公開公報第97/19675号、国際公開公報第97/37966号に開示されるカチオン性脂質およびそれらの異性体が含まれる。それにも関わらず、この列記は挙げ尽くしたものではなく、当技術分野で周知である他のカチオン性脂質も本発明との関連で用いることができる。本発明に用いることができるカチオン性ポリマーまたはカチオン性ポリマーの混合物には、キトサン(国際公開公報第98/17693号)、ポリリシンなどのポリアミノ酸(米国特許第5,595,897号または仏国第2719316号);ポリ四級化合物;プロタミン;ポリイミン;ポリエチレンイミンまたはポリプロピレンイミン(国際公開公報第96/02655号);ポリビニルアミン;DEAEデキストランなどのDEAEにより誘導されたポリカチオン性ポリマー(Lopata et al., 1984, Nucleic Acid Res. 12, 5707-5717);ポリビニルピリジン;ポリメタクリレート;ポリアクリレート;ポリオキセタン;ポリチオジエチルアミノメチルエチレン(P(TDAE));ポリヒスチジン;ポリオルニチン;ポリ-p-アミノスチレン;ポリオキセタン;コポリメタクリレート(例えば、HPMAのコポリマー;N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリルアミド);米国特許出願第3,910,862号に開示される化合物、DEAEとメタクリレートとのポリビニルピロリド複合体、デキストラン、アクリルアミド、ポリイミン、アルブミン、ジメチルアミノメチルメタクリレート、およびポリビニルピロリドンメチルアクリルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド;ポリアミドアミン(Haensler and Szoka, 1993, Bioconjugate Chem. 4, 372-379);テロメア化合物(欧州特許出願第98401471.2号)、樹状ポリマー(国際公開公報第95/24221号)が含まれる。それにも関わらず、この列記は挙げ尽くしたものではなく、当技術分野で周知である他のカチオン性ポリマーも本発明による組成物で用いることができる。ベクターの細胞中への進入を容易にするためにコリピド(colipids)を選択的に含むことができる。そのようなコリピドは、中性または両性イオン性の脂質であることができる。代表的な例には、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン、ホスホコリン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、スフィンゴミエリン、セラミド、またはセレブロシド、および任意のその誘導体が含まれる。カチオン性脂質および/またはカチオン性ポリマーとコリピドとの比(重量対重量に基づく)は、コリピドが複合体に共存しているとき、1:0〜1:10の範囲であることができる。好ましい態様において、この比は1:0.5〜1:4の範囲である。
【0133】
標準的な技術に従って、本発明のアデノウイルス粒子または発現ベクターと1つまたは複数の先に引用した化合物との複合体形成をすることができる。例えば、化合物(例えば、カチオン性脂質)をクロロホルムなどの適切な有機溶媒に溶解する。次いで、混合物を真空下で乾燥する。得られたフィルムは、既知の方法(国際公開公報第96/03977号)に従い、水と混和性である適切な量の溶媒または溶媒の混合物、具体的にはエタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、好ましくは1:1(v:v)エタノール:DMSO混合物にさらに溶解して脂質凝集物を形成するか、またはオクチルグルコシド(例えば、n-オクチル-β-D-グルコピラノシドまたは6-O-(N-ヘプチルカルバモイル)-メチル-α-D-グルコピラノシド)などの適切な量の界面活性剤の溶液に懸濁する。次いで、懸濁液を、所望の量のアデノウイルス粒子を含有する溶液と混合することができる。続いて透析を行って界面活性剤を取り除き、本発明の組成物を回収することができる。そのような方法の原理はHoflandらによって記載されている(1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 7305-7309)。
【0134】
本発明は、遺伝子治療によるヒトまたは動物の疾患の治療または予防が意図される薬物の調製のための、本発明の発現ベクター、アデノウイルス粒子、もしくは組成物の使用、または本発明による方法を用いて産生したアデノウイルス粒子の使用にも関する。
【0135】
本発明の範囲内において、「遺伝子治療」とは、発現可能な配列を細胞中に導入する方法として理解しなければならない。したがって、治療には、細胞性、または体液性、または両方であることができる免疫応答を誘導するために、細胞中に潜在的な抗原性エピトーを導入することに関する免疫治療も含まれる。
【0136】
好ましい態様において、そのような使用は、任意の先に引用した疾患、より具体的には癌疾患の治療または予防に好適である。この目的のため、本発明のアデノウイルス粒子を、この病状に適合される特定の送達手段によりヒトまたは動物生物体中にインビボで送達することができる。これに関連して、腫瘍内直接注入により行うことができる。または、本発明によるアデノウイルス粒子を含有するようにエクスビボで操作された真核宿主細胞を用いることができる。そのようなエレメントを真核生物の細胞に導入する方法は当業者に周知である。トランスフェクションされた/感染した細胞をインビトロで増殖させて、次いで患者に再び導入する。カプセル化された宿主細胞の移植も本発明に関連して可能である(Lynch et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 1138-1142)。
【0137】
本発明は、治療的有効量の本発明のアデノウイルス粒子、真核細胞、または組成物を生物に投与することを含むヒトまたは動物の治療方法にも関する。
【0138】
「治療的有効量」とは、治療される所望の疾患または状態に通常関連している1つまたは複数の症状の軽減に十分な用量である。予防的使用に関する場合、この用語は、疾患または状態の確立を妨げるか遅らせるのに十分な用量を意味する。
【0139】
本発明の方法は、先に列記した疾患または状態に関する予防目的および治療適用のために用いることができる。本発明の方法は任意の種々の手法により行うことができると理解すべきである。この目的のため、本発明のアデノウイルス粒子、宿主細胞、または組成物を、任意の慣用かつ生理学的に許容される投与経路により、例えば、投与経路に適合させた特定の送達手段を用いた腫瘍内注入または静脈内投与により、インビボで直接投与することができる。または、エクスビボ手法を、先に記載したように本発明に適合して細胞中へ入れることができる。本発明の方法を単独で用いてあるいは所望する場合には現在利用可能な方法(例えば、放射線、化学療法、および/または外科手術)と併用して、疾患または状態の予防または治療を行うことができる。例えば、本発明による方法は、血管透過性を増加させた注射を組み合わせることにより改善することができる。特定の好ましい態様において、静水圧を増加させることにより(すなわち、流出および/または流入を妨げることにより)、浸透圧を増加させることにより(すなわち、高張液により)および/または生物活性分子を導入することにより(すなわち、ヒスタミンを投与する組成物に導入することにより;国際公開公報第98/58542号)、増加を得ることができるができる。さらに、トランスフェクション率を改善するために、本発明の組成物の投与前に、患者にマクロファージ枯渇治療を施すことができる(例えば、Van Rooijen et al., 1997, TibTech, 15, 178-184を参照されたい)。
【0140】
上述の通り、本発明の方法は、腫瘍阻害の進展または腫瘍の後退を提供するため、癌の治療をより意図している。例えば、腫瘍阻害は、長期にわたって実際の腫瘍の大きさを測定することにより決定される。より具体的には、種々の放射線造影法(例えば、単一光子および陽電子射出コンピュータ断層撮影法;一般的には、"Nuclear Medicine in Clinical Oncology" Winkler, C. (ed.) Springer-Verlag, New York, 1986を参照されたい)を利用して、腫瘍の大きさを評価することができる。そのような方法では、例えば慣用の造影剤(例えば、クエン酸ガリウム-67)および代謝産物造影、受容体造影、または免疫的造影用の特異的試薬(例えば、放射性標識されたモノクローナル抗体特異的腫瘍マーカー)を含む種々の造影剤も利用することができる。さらに、超音波("Ultrasonic Differential Diagnosis of Tumors", Kossoff and Fukuda, (eds.), Igaku-Shoin, New York, 1984を参照されたい)などの非放射性方法を利用して、腫瘍の大きさを評価することもできる。
【0141】
さらに、上述の腫瘍阻害を決定するインビボ方法に加えて、種々のインビトロ方法を利用してインビボでの腫瘍阻害を予測することができる。代表的な例には、例えば51Cr放出アッセイによって決定されるリンパ球仲介抗腫瘍細胞溶解活性、腫瘍依存性リンパ球増殖(Ioannides et al., 1991, J. Immunol.146, 1700-1707、腫瘍特異的抗体のインビトロ産生(Herlyn et al., 1984, J. Immunol. Meth. 73, 157-167)、細胞(例えば、CTL、ヘルパーT細胞)、または体液(例えば、抗体)により仲介されるインビトロでの細胞増殖阻害(Gazit et al., 1992, Cancer Immunol. Immunother 35, 135-144)、および任意のこれらのアッセイに対しては細胞前駆体頻度の決定(Vose, 1982, Int. J. Cancer 30, 135-142)が含まれる。
【0142】
または、腫瘍増殖阻害を腫瘍マーカーの存在下での変化に基づいて決定することができる。例には、前立腺癌検出用の前立腺特異的抗原(「PSA」)および大腸癌およびある種の乳癌検出用の癌胎児性抗原(「CEA」)が含まれる。白血病などのさらに他のタイプの癌に対しては、代表的な血液細胞計数における白血病細胞の数の減少に基づいて腫瘍増殖阻害を決定することができる。
【0143】
本発明の方法において自殺遺伝子を発現するように操作された組換えアデノウイルス粒子が用いられる場合、発現される自殺遺伝子産物に特異的であるプロドラッグを薬学的に許容される量でさらに投与することが有利であり得る。2回の投与は同時にまたは継続的にすることができるが、プロドラッグはアデノウイルス粒子の注射後に投与されることが好ましい。例示のため、50 mg/kg/日〜500 mg/kg/日のプロドラッグ用量を用いることができ、200 mg/kg/日の用量が好ましい。プロドラッグは標準的なプラクティスに従って投与される。経口経路が好ましい。単一用量のプロドラッグ、または毒性代謝産物が宿主生物または標的細胞内で産生されることが可能になるために十分な時間繰り返される用量を投与することができる。先に記載した通り、プロドラッグであるガンシクロビルまたはアシクロビルをTK HSV-1遺伝子産物と組み合わせて用いることができ、5-FCをシトシンデアミナーゼおよび/またはウラシルホスホトランスフェラーゼ遺伝子産物と組み合わせて用いることができる。
【0144】
最後に、本発明は、少なくとも1つの天然グリコサミノグリカン含有受容体および/またはシアル酸含有受容体への結合、特にHSG受容体への結合を実質的に減少するための、先に定義した特徴を有する本発明の改変アデノウイルス繊維、その三量体、アデノウイルス粒子、組成物、または真核宿主細胞の使用にも関する。改変アデノウイルス繊維、その三量体、アデノウイルス粒子、組成物、または真核宿主細胞は、野生型アデノウイルス繊維、その三量体、アデノウイルス粒子、組成物、または真核宿主細胞三量体と比較して、天然グリコサミノグリカン含有受容体および/またはシアル酸含有受容体に対して少なくとも約1桁未満の大きさの親和性を有することが好ましい。
【0145】
一つの態様において、本発明の改変アデノウイルス繊維、その三量体、アデノウイルス粒子、組成物、または真核宿主細胞は、グリコサミノグリカン含有受容体への結合、特にHSG受容体への結合を実質的に減少または阻害するのに用いることが好ましい。これに関し、本発明の改変繊維中で変異したアミノ酸残基は、野生型Ad5繊維(配列番号:1)の404位〜406位、449位〜454位、505位〜512位、551位〜560位の残基に対応するアミノ酸のうち約5アミノ酸以内である。利用可能な配列データベースに基づいて、別のアデノウイルス繊維中のこれらのAd5繊維残基の同等の位置を同定することは当業者の範囲内である(例えば、Ad2、Ad5、Ad3、Ad7、Ad40、Ad41、およびCAVの繊維ノブ領域のアライメントを示すXia et al., 1994, Structure 2, 1259-1270の図9、またはVan Raaij, 1999, Virology 262 (2), 333を参照されたい)。より好ましくは、変異は、配列番号:1に示される野生型Ad5繊維タンパク質の404位のトレオニン、406位のアラニン、452位のバリン、506位のリシン、508位のヒスチジン、および555位のセリンからなる残基の群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす。さらにより好ましくは、本発明の改変繊維タンパク質は、野生型Ad5繊維(配列番号:1)の404位、406位、452位、506位、508位、および/または555位の残基に対応する少なくとも1つの置換変異を含む。最も好ましくは、Ad5繊維の変異は以下を含む:
アラニン、プロリン、もしくはグリシンなどの小さい脂肪族残基(特に好ましくはグリシン)による404位のトレオニンの置換、
リシン、アルギニン、もしくはヒスチジンなどの塩基性残基(特に好ましくはリシン)による406位のアラニンの置換、
リシン、アルギニン、もしくはヒスチジンなどの塩基性残基(特に好ましくはリシン)による452位のバリンの置換、
グルタミンもしくはアスパラギンなどの弱塩基性アミド残基(特に好ましくはグルタミン)による506位のリシンの置換、
リシンもしくはアルギニンなどの塩基性残基(特に好ましくはリシン)による508位のヒスチジンの置換、
リシン、アルギニン、もしくはヒスチジンなどの塩基性残基(特に好ましくはリシン)による555位のセリンの置換、または
任意のその組み合わせ。
【0146】
そのような組み合わせの代表的な例には、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(K506Q/H508K)が含まれる。
【0147】
改変繊維およびHSG受容体の相互作用の減少または変化は、先に記載した通りにおよび実施例で評価することができる。
【0148】
第2の態様において、本発明の改変アデノウイルス繊維、その三量体、アデノウイルス粒子、組成物、または真核宿主細胞は、グリコサミノグリカン含有受容体への結合(特にHSG受容体への結合)およびCAR受容体への結合の双方を実質的に減少または阻害するために用いることが好ましい。これに関し、改変繊維は、先に記載された任意の改変を組み合わせるか、あるいは、CAR除去された変異体に関連して先に記載した改変と組み合わせて、任意のその組み合わせと組み合わせる。好ましい例には、(i)グルタミン酸による408位のセリンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(S408E/K506Q/H508K)、(ii)アスパラギン酸による503位のアラニンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(A503D/K506Q/H508K)、(iii)グルタミン酸による408位のセリンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換(S408E/S555K)、または(iv)アスパラギン酸による503位のアラニンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換(A503D/S555K)を含む改変アデノウイルス繊維の使用が含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0149】
第3の態様において、本発明の改変アデノウイルス繊維、その三量体、アデノウイルス粒子、組成物、または真核宿主細胞は、シアル酸含有受容体への結合を実質的に減少または阻害するために用いることが好ましい。これに関し、本発明の改変繊維中で変異したアミノ酸残基は、野生型Ad5繊維(配列番号:1)の404位〜410位および491位〜505位の残基に対応するアミノ酸のうち約5アミノ酸以内である。利用可能な配列データベースに基づいて、別のアデノウイルス繊維中でこれらのAd5繊維残基の同等の位置を同定することは当業者の範囲内である(例えば、Ad2、Ad5、Ad3、Ad7、Ad40、Ad41、およびCAVの繊維ノブ領域のアライメントを与えるXia et al., 1994, Structure 2, 1259-1270の図9、またはVan Raaij, 1999, Virology 262 (2), 333を参照されたい)。予期外に、408位または503位で改変されたAd5繊維を含有するアデノウイルス粒子では、特にシアル酸に富むCAR-肺細胞系に対する感染力が減少することが本発明において示された。これらのデータによれば、好ましい使用には、408位のセリンおよび503位のアラニンからなる残基の群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす変異を有する改変繊維またはそのような繊維を含む任意のエレメントが含まれ、グルタミン酸による408位のセリンの置換(S408E)、アスパラギン酸による503位のアラニンの置換(A503D)、または任意のその組み合わせが最も好ましい。
【0150】
本発明に従って、これらの改変された(例えば、408位および/または503位で)繊維およびそのような繊維を含む任意のエレメントは、シアル酸含有受容体およびCAR受容体の双方への結合を実質的に減少または阻害するために用いることが好ましい。
【0151】
第4の態様において、本発明の改変アデノウイルス繊維、その三量体、アデノウイルス粒子、組成物、または真核宿主細胞は、(i)グリコサミノグリカン含有受容体、特にHSG受容体、(ii)CAR受容体、および(iii)シアル酸含有受容体への結合を実質的に減少または阻害するために用いることが好ましい。これに関し、改変繊維を、HSG除去された変異体に関連して記載されている任意の改変と組み合わせるか、あるいは、CAR除去変異体およびシアル酸除去変異体に関連して先に記載した改変との任意の組み合わせと組み合わせる。好ましい例には、(i)グルタミン酸による408位のセリンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(S408E/K506Q/H508K)、(ii)アスパラギン酸による503位のアラニンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(A503D/K506Q/H508K)、(iii)グルタミン酸による408位のセリンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換(S408E/S555K)、または(iv)アスパラギン酸による503位のアラニンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換(A503D/S555K)を含む改変アデノウイルス繊維の使用が含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0152】
本発明によるそのような改変繊維の使用によって、そのような改変繊維と通常は宿主細胞へのアデノウイルス吸着および/または内部移行を仲介する1つまたは複数の特異的細胞受容体との相互作用が減少し、したがって、そのようなアデノウイルス粒子の天然向性が有意に制限される。アデノウイルス感染を所望の標的細胞に指向し直すために、先に記載した特異的な標的リガンドを導入することは、これに関連して有利であることができる。
【0153】
本発明は例示的な様式で記載されており、使用される用語は、限定の用語ではなく、説明の用語の性質を帯びることが意図されると理解すべきである。上記の教示に照らして本発明の多くの改変および変型が可能であることは明らかである。したがって、本発明が具体的に本明細書中に記載される様式と異なる様式で実施できることは添付の特許請求の範囲内であると理解すべきである。
【0154】
特許、出版物、およびデータベース項目の先に引用した開示はすべて、そのような個々の特許、出版物、または項目の各々が具体的におよび個々に示されて参照として組み入れたような場合と同程度に、そのまま全部参照として本明細書に具体的に組み入れられる。
【0155】
以下の実施例は、本発明を例示するために用いられる。
【0156】
実施例
以下に記載されている構築物を、Sambrookら(2001, Molecular Cloning;A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY)に詳述されている遺伝子操作および分子クローニングの一般的な技術に従って、あるいは市販のキットを用いる場合には製造者の推奨に従って調製した。細菌のプラスミドを用いるクローニング工程は、大腸菌株5K(Hubacek and Glover, 1970, J. Mol. Biol. 50, 111-127)、または大腸菌株BJ5183(Hanahan, 1983, J. Mol. Biol. 166, 557-580)で行うことが好ましい。後者の株は、相同組換え工程で用いることが好ましい。NM522株(Stratagene)は、M13ファージベクターを増殖させるのに好適である。PCR増幅技術は、当業者に既知である(例えば、PCR Protocols-A guide to methods and applications, 1990; Ed Innis, Gelfand, Sninsky and White, Academic Press Incを参照されたい)。制限部位の修復(repair)に関して、用いた技術は、大腸菌DNAポリメラーゼIの大きな断片(Klenow)を用いて5'突出末端を埋めることにより構成される。Ad5ヌクレオチド配列は、参照M73260の名の下でGenBankデータベースに開示されている配列である。
【0157】
細胞生物学に関し、当業者に既知の標準的な技術に従い、細胞をトランスフェクションした。リン酸カルシウム沈殿技術に言及することができるが、DEAEデキストラン技術、エレクトロポレーション、浸透圧性ショックに基づく方法、またはカチオン性脂質の使用に基づく方法などの他の任意のプロトコルを用いることもできる。以下に続く実施例では、アデノウイルスタイプ5繊維タンパク質を構成的に発現するヒト胚性腎293細胞系(ATCC CRL1573)、CHO細胞系(ATCC;CCL-61)、および293繊維細胞(293-Fb)を用いた(Legrand et al., 1999, J. Virol. 73, 907-919に以前に記載されている)。培養条件は当技術分野で慣用的である。例示目的のために、細胞を10%ウシ胎児血清および抗生物質を補充したDMEM(Gibco)中で37℃で増殖した。
【0158】
材料および方法:
繊維改変ウイルスゲノムの構築
すべてのクローニング工程は標準的な分子生物学技術を用いて行った。Ad5繊維ノブ中に変異を導入するために、Sculptor(商標)インビトロ突然変異誘発系用の突然変異誘発鋳型(Amersham、LesUlis、フランス)を最初に産生した。鋳型一本鎖DNA m13F5ノブは、31994位(HindIII部位)から32991位(SmaI部位)までのAd5配列ヌクレオチドを含有する(Santis et al., 1999, J. Gen. Virol. 80, 1519-1527)。置換変異を以下のアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて導入した。

【0159】
二重変異Lys506Q/His508Lys(K506QH508K)を以下のアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて導入した。

【0160】
CARおよびヘパラン硫酸プロテオグリカン経路を欠損しているAdベクターを、単一変異S408EもしくはA494DもしくはA503D、または二重変異A494D/A503D CAR、および上記の三重ヘパラン硫酸変異K506QH508K/T404G、もしくはK506QH508K/A406K、もしくはK506QH508K/V452K、もしくはK506QH508K/S555Kと組み合わせて構築した。
【0161】
改変繊維を、リガンド(7Kとも称する7リシン残基)およびフレキシブルリンカーを繊維C末端に導入することによりさらに改変した。この目的のため、一本鎖鋳型(野生型(wt)または変異m13F5ノブのいずれか)をオリゴヌクレオチドOTG7000

を用いて変異し、12アミノ酸のリンカー

を導入し、次いでOTG12125

を導入して、7個のリシン残基を加えた。
【0162】
変異したm13F5ノブプラスミドから単離されたHindIII-SmaI断片を、相同組換えにより、BstBIで制限酵素切断されたpTG4213に直接導入した。このプラスミドは、β-ガラクトシダーゼ発現E1欠失Ad5ゲノムを含有し、Ad5ゲノム中には、固有のBstBI部位が繊維停止コドン下流のヌクレオチド32940において導入されている。pTG4213の産生は以下の通りである。m13F5ノブをOTG7213

により変異して、固有のBstBI部位(太線の配列)を導入した。単離されたHindIII-SmaI断片を、nt21562から右末端ITRまでのAd5セグメントを有するpTG8533トランスファープラスミド中にて大腸菌BJ5183中で相同組換えによりクローニングした。その後、精製したBstEII断片(nt24843〜35233)を、全長Ad5ゲノムを含有するプラスミドpTG3602との相同組換により、Ad5ゲノムに導入した(Chartier et al., 1996, J. Virol. 70, 4805-4810に記載されている通りである)。以前に記載されたようにして(Legrand et al., 1999. J. Virol. 73, 907-919)、E1領域の骨格をMLPによって作動するβガラクトシダーゼ発現カセットに置き換えた。
【0163】
ウイルス、産生および滴定
繊維改変されたウイルスゲノム5μgをプラスミド骨格からPacI消化により切断し、293細胞または293-Fb細胞にトランスフェクションした。次いで、必要とされる補完に依存する野生型293細胞または293-Fb細胞のいずれかでのさらなる分析および拡大のため(Legrand et al., 1999, J. Virol. 73, 907-919)、細胞をトランスフェクション後2週間で回収した。次いで、一次ウイルスストックを293細胞で増幅した。ウイルス精製、滴定、および貯蔵については、記載の通りである(Lusky et al., 1999, J. Virol. 73, 8308)。ウイルス粒子濃度(P/ml)を光学密度(1個のOD260は1.1×1012粒子/mlに対応する)により測定した。293細胞の感染後16〜20時間で、β-ガラクトシターゼ活性に対する染色(Janes et al., 1986, EMBO J. 5, 3133)により、感染力価(感染単位(IU)/ml)を決定した。ウイルスゲノムの完全な状態および繊維変異の存在は、Hirt法(Gluzman et al., 1983, J. Virol. 45, 91)を用いて抽出されたウイルスDNAを分析することにより明らかにした。
【0164】
アデノウイルスタンパク質プロフィールの分析
2×1010個の精製粒子を2×Laemmli緩衝液中で希釈し、95℃で5分間インキュベートし、10%SDSポリアクリルアミドゲル上にロードした。タンパク質を銀染色により検出した(Wray et al., 1981, Anal. Biochem. 118, 197)。繊維またはペントンベースタンパク質の特異的検出を以前に記載されるようにして行った(Legrand et al., 1999, J. Virol. 73, 907-919)。
【0165】
競合実験
CAR進入プロセスの競合物として、精製Ad5ノブ(10μg/ml)を用いた。標的細胞単層をPBSまたはノブ分子のいずれかとともに4℃で1時間インキュベートした。次いで、2%FCS含有DMEM媒質で希釈した野生型または改変型繊維のいずれかを有するAd-LacZを293細胞に1時間で加えた。次いで、細胞を37℃で24または48時間(h pi)インキュベートした。37℃で24時間または48時間インキュベートした後、細胞を固定し、βガラクトシダーゼ活性に対して染色した。または、化学発光基質を用いて(発光βガラクトシダーゼ検出キット;Clontech、米国カルフォルニア州パロアルト)、全細胞溶解物のβガラクトシダーゼ活性をモニタリングした。
【0166】
RGDペプチド(4 mg/ml、Neosystem、ストラスブール)を競合物として用いたことを除き、同じ技術を用いて、異なる改変繊維のインテグリン仲介進入プロセスを評価することができる。
【0167】
HSG進入経路の競合物として、ヘパリン(3 mg/ml、Sigma、St quentin、フランス)を以前に記載されているようにして用いた(Dechecchi et al., 2001, J. Virol. 75, 8772-8780)。野生型および変異したAd-LacZアデノウイルスを、2%FCS含有DMEM培地20μl中30μg/mlの濃度でヘパリン(Sigma)とともに37℃で1時間予めインキュベートした。次いで、予め処理したアデノウイルス懸濁液を、氷冷した2%FCS含有DMEM培地で必要な濃度に希釈し、CHO細胞(CAR-)に加え、氷上で1時間インキュベーションした。次いで、細胞を37℃で24または48時間(h pi)インキュベートした。細胞を固定し、βガラクトシターゼ活性に対して染色した。または、化学発光基質を用いて(発光βガラクトシターゼ検出キット;Clontech、米国カルフォルニア州パロアルト)、全細胞溶解物のβガラクトシターゼ活性をモニタリングした。
【0168】
ヘパリナーゼ処理後、アデノウイルスのHSG受容体への結合の阻害を行った。この目的のため、標的細胞単層を100 U/mlの濃度のヘパリンリアーゼI、II、III(Sigma)の混合物とともに1時間、37℃でインキュベートした。次いで、必要な濃度の氷冷した2%FCS含有DMEM培地で希釈した野生型または改変型Ad-LacZをCHO細胞に加え、氷上で1時間インキュベーションした。細胞を37℃で24または48時間(h pi)インキュベートした。37℃で24時間または48時間インキュベートした後、細胞を固定し、βガラクトシターゼ活性に対して染色した。または、化学発光基質を用いて(発光βガラクトシターゼ活性検出キット;Clontech、米国カルフォルニア州パロアルト)、全細胞溶解物のβガラクトシターゼ活性をモニタリングした。
【0169】
実施例1:HSG進入経路において損傷した繊維変異体の構築、およびHSG変異ウイルスの性質
1.1 精製アデノウイルス粒子中への改変繊維の導入
Ad5繊維遺伝子および対応するアデノウイルス粒子の変異を、材料および方法に記載したようにして産生した。CAR非依存性のアデノウイルス細胞受容体として最近記載されているHSG受容体への結合に関与する繊維残基を調べることを試みた。HSG受容体への結合を変化させる繊維変異の概要を表2に示した。
【0170】
(表2)繊維ヘパラン変異の記載

【0171】
アデノウイルスカプシド形成に対するこれらの変異の効果をまず評価した。293細胞で産生された種々の繊維改変ウイルスを塩化セシウム勾配(密度1.34g/ml)により精製した。2×1010個の精製粒子を4〜12%Bis-Tris Nupageゲルに供し、ニトロセルロースにトランスファーした。濾液を抗ペントンベース血清または抗繊維抗体のいずれかとハイブリダイゼーションし、次いで西洋ワサビペルオキシダーゼが接合されたロバ抗ウサギ二次抗体で処理した。
【0172】
ウイルスの粒子に改変繊維を導入することは、Ad5ノブに対して指向される血清(Dr. Gerardにより提供; Henry et al., 1994, J. Virol. 68, 5239-5246)およびペントンベース(Pr. Boulangerにより提供されたウサギ抗ペントンポリクローナル抗体)を対照として用いたウエスタンブロット分析により研究されている。予測した分子量において、野生型Ad-LacZウイルスおよびすべての繊維変異体ベクターに対し、強い陽性シグナルが観察された。
【0173】
これらの結果は、先に引用した変異は繊維タンパク質の正しい折り畳みに対して有害な効果を有さず、カプシドへの組み立てを妨げないことを実証している。
【0174】
1.2 繊維改変ウイルスの成熟
先に記載した改変繊維を有する変異アデノウイルス粒子のタンパク質プロフィールを分析し、Ad-LacZ(Ad5野生型繊維を有する)および繊維を欠失した対照(Ad-LacZ/Fbo)と比較した。この目的のため、種々の繊維改変ウイルスおよび対照(AdLacZおよびAd-LacZ/Fbo)を293細胞で産生し、塩化セシウム勾配上で精製した。2×1010個の精製粒子を10%SDS-ポリアクリルアミドゲルに供し、続いて銀染色により明らかにした。
【0175】
大部分の繊維改変ウイルスは、Ad-LacZと同じタンパク質プロフィールを示すことが見出された。A406K繊維を有する変異ウイルスを除き、改変繊維タンパク質は、野生型アデノウイルスとして、ウイルス粒子中に化学量論量で存在する。非常に対照的に、繊維欠失Ad-LacZ/Fboウイルスは、ヘキソン関連タンパク質(pVI)の前駆体、より少量のコアタンパク質(pVII)の前駆体、およびpVIIIタンパク質の前駆体をなお含有しており、このことは不完全なタンパク質分解プロセシングであることを示している。
【0176】
1.3 293細胞における繊維改変ウイルスの増殖特性
先に引用した繊維改変Adの増殖の性質を293細胞で分析した。この目的のため、1 IU/細胞のMOIで、対照のウイルスAd-LacZもしくはAd-LacZ/Fboまたは種々の繊維改変ウイルスを293細胞に感染させた。感染後24時間、48時間、56時間、64時間、および72時間で感染細胞および上清を採取し、3つの凍結融解サイクルにより処理すると、ウイルス粒子が放出した。放出したウイルスの力価をβガラクトシダーゼ染色により決定した。
【0177】
結果として、繊維改変ウイルスの増殖は、野生型アデノウイルスAd-LacZと比較して有意には変わらなかった。この観察と合致して、大規模な産生後の感染変異ウイルスの力価(IU/ml)は、野生型繊維を有するアデノウイルスで得られる力価およびp/IU比と比較して、顕著には減少していなかった。これは、HSG除去繊維を有する変異アデノウイルスがCAR受容体を介して293細胞に進入することができた結果である。非常に対照的に、CAR除去ウイルスの増殖(Leissner et al., 2001, Gene Ther. 8, 49-57に記載される)および繊維欠失変異体Ad-LacZ/Fboの増殖は、感染単位の形成が乏しいこと(IU/粒子比が大きく増加したこと)によって証明される通り、293細胞で大きく変わった。
【0178】
これらの結果の概要を表3に示した。
【0179】
(表3)繊維変異体ウイルスの物理的特性

【0180】
1.4 飽和濃度の可溶性ヘパリンの存在下でCHO細胞を感染する繊維改変Adウイルスの能力
可溶性ヘパリンを用いた競合アッセイにより、一連の繊維変異アデノウイルス(表2のものを含む)を、細胞HSG受容体と結合するウイルスの能力について評価した。Ad-LacZの100IU/105細胞(野生型繊維を有している;4×103個の粒子(P)/105細胞に対応する)、繊維なしのAd-LacZ/Fbo(4×107P/105細胞に対応する)、またはLacZを発現する一連の繊維改変Ad(5×104〜3×107P/105細胞に対応する)をヘパリン(30μg/ml、Sigma)とともに予めインキュベートし、次いでCHO細胞に加えた。感染後48時間に、細胞をβ-ガラクトシダーゼ発現に対して染色した。感染効率を、ヘパリンの非存在下でのβ-ガラクトシダーゼ陽性細胞のパーセンテージとして表した。対照ウエル中で計数した青色の細胞の数(ノブ非存在下)は、100〜400個の範囲であった。
【0181】
図1に示す通り、大部分の変異ウイルスによるCHO細胞(CAR-)の感染は、ヘパリンの存在下で大きく減少した。興味深いことに、高濃度の可溶性ヘパリンの存在下でCHO細胞に感染することができる5個の変異ウイルス(それぞれT404G、A406K、V452K、K506Q/H508K、およびS555K)が同定されたが、このことは対応するウイルスのヘパラン硫酸への想定された結合が損傷されたことを示している。非常に対照的に、CAR結合が除去された変異アデノウイルス(例えば、S408E、A494D、A503Dなど)を含む他のすべての変異アデノウイルスでは、標的細胞の感染がヘパラン硫酸を介してなお仲介されるようであったが、このことは対応する繊維変異はこの経路上では有意な悪影響を有していないことを示している。高い濃度(10、30、50、および100μg/ml)のヘパリンでも同じ結果が得られ、これらの結果の特異性を裏付けている。いわゆるヘパランが除去されたアデノウイルスの変異は、ABループ(T404G;A406K)、CDループ(V452K)、DGループ(K506Q/H508K)、およびIシート(S555K)に位置していた。
【0182】
1.5 CAR経路に関するヘパラン変異体の性質
次いで、T404G、A406K、V452K、K506Q/H508K、およびS555K繊維変異をそれぞれ有する5つのヘパランが除去されたアデノウイルスを、293細胞への感染能について試験した。5×104個の293細胞に、対照としてのAd-LacZ、Ad-LacZ/Fboを感染させるか、1IU/細胞のMOIにおいてこれらの5つの繊維改変変異ウイルスを感染させた。感染後48時間で、細胞をβガラクトシダーゼ発現に対して染色した。
【0183】
結果として、ヘパランが除去された5つのアデノウイルスは、野生型アデノウイルスの感染力と同様の感染力で、CAR結合を介してなお効果的に293細胞に感染する。
【0184】
CAR結合の競合物としての組換えAd5ノブタンパク質の存在下でも感染を行った。この目的のため、組換え大腸菌株から精製された10μg/mlのAd5ノブタンパク質とともに、293細胞を30分間37℃でインキュベートした。次いで、100IU/105細胞のAd-LacZ(4×103P/105細胞に対応する)、繊維なしのAd-LacZ/Fbo(4×107P/105細胞に対応する)、またはLacZを発現するヘパラン除去変異体(5×104〜3×107P/105細胞に対応するT404G、A406K、V452K、K506Q/H508K、およびS555K)を加えた。感染後24時間で、細胞をβ-ガラクトシダーゼ発現に対して染色した。感染効率を、ノブの不存在下でのβ-ガラクトシダーゼ陽性細胞のパーセンテージとして表した。対照ウエル中で計数された青い細胞の数(ノブ非存在下)は、100〜400個の範囲であった。
【0185】
細胞を飽和濃度の組換えAd5ノブと予めインキュベートすることにより、ヘパランが除去された5つの変異アデノウイルスは十分に競合する(80%〜90%阻害の間)ことが示され、これによりそれらの対応する繊維の変異は、CAR結合を損傷も妨害もしないことが確認された。
【0186】
実施例2:繊維のC末端へのポリリシンリガンド付加による、ヘパラン除去変異ウイルスの感染を再標的化する可能性
ポリリシンリガンドを、HSG結合が除去された改変繊維のC末端で挿入し(それぞれT404G、A406K、V452K、K506Q/H508K、およびS555K変異)、7Kの再標的化されかつHSG除去繊維を収容するLacZ発現アデノウイルス粒子を、「材料および方法」の項目で記載したようにして構築した。7Kリガンドは7個のリシン残基(7K)から成り、標的細胞の表面上でヘパラン硫酸プロテオグリカンと効果的に結合する能力を与えることが知られている。したがって、言い換えれば、HSG除去繊維に7Kリガンドを付加することにより、HSG結合が回復し、ゆえに、所望の通り(適切なリガンドを選択することにより)、アデノウイルス向性を再標的化する可能性が実証される。
【0187】
結果として、7K含有変異ウイルスは、増殖動態学、成熟、および収率の点では、それらの変異体の対応物(リガンドを欠くもの)と同様の性質を有している。しかしながら、ヘパラン硫酸を介して細胞に感染するウイルスの能力は回復し、さらに増幅した。これらの結果は、上記のHSGが除去された改変繊維によって、ノブのC末端にリガンド部分が導入され、所望の細胞型に対するアデノウイルス感染を標的にすることができることを示している。
【0188】
実施例3:HSGおよびCAR双方の感染経路で損傷している繊維変異体の構築およびこれらの組み合わされた変異ウイルスの性質
CARおよびHSG受容体への結合の双方に関与する繊維残基を変異して、双方の経路において損傷した改変繊維を提供した。本発明に関連して、CAR結合を変える任意の繊維変異(例えば、S408E、A503D、A494D)を、HSG結合に関与する任意の変異(例えば、T404G、A406K、V452K、H506Q、H508K、S555K、H506Q/H508K)と組み合わせることができる。CARおよびHSG受容体並びに対応するアデノウイルス粒子への結合を変える以下の組み合わせ変異を、材料および方法に記載されたように作製した。

【0189】
3.1 精製アデノウイルス粒子中への改変繊維の導入
アデノウイルスカプシド形成に対するCAR-およびHSG-変異の組み合わせの効果を、実施例1に記載したようにウエスタンブロッティングにより評価し、野生型Ad5繊維(陽性対照として野生型繊維を有するAd-LacZウイルス)の導入と比較した。種々のウイルスが293細胞上で産生され、塩化セシウム勾配(密度1.34g/ml)により精製した。2×1010個の精製粒子を4%〜12%のBis-Tris Nupageゲルに供し、ニトロセルロース上にトランスファーした。濾液を、Ad5ノブに対して指向される血清(Dr. Gerardにより提供; Henry et al., 1994, J. Virol. 68, 5239-5246)または抗ペントンベース血清(Pr.Boulangerにより提供されたウサギ抗ペントンポリクローナル抗体)のいずれかとハイブリダイゼーションし、次いで西洋ワサビペルオキシダーゼが接合したロバ抗ウサギ二次抗体で処理した。
【0190】
期待された分子量を有する強い陽性シグナルが、野生型Ad-LacZウイルス(陽性対照)およびすべての繊維変異体ベクターで強調された。
【0191】
これらの結果により、CAR-およびHSG-変異の組み合わせは、繊維タンパク質の正しい折り畳みに対して有害な効果を有さず、カプシドへの組み立てを妨げないことが実証された。
【0192】
3.2 組み合わされた繊維改変ウイルスの成熟
CAR-およびHSG-変異アデノウイルス粒子のタンパク質プロフィールを分析し、CAR-変異Ad-LacZ/Fb S408E(繊維は変異Ser408Gluを有する)、陽性対照としてのAd-LacZ(Ad5野生型繊維を有する)、および陰性対照としてのAd-LacZ/Fbo(繊維欠失Ad5)と比較した。この目的のため、種々のウイルスを293細胞上で産生し、塩化セシウム勾配上で精製した。2×1010個の精製粒子を10%SDS-ポリアクリルアミドゲルに供し、続いて銀染色により明らかにした。
【0193】
組み合わせたCAR-およびHSG-変異ウイルスは、Ad-LacZ対照およびAd-LacZ/Fb S408E CAR-変異体と同じタンパク質プロフィールを示した。すべての場合において、改変繊維タンパク質は、野生型アデノウイルスとしての化学量論量でウイルス粒子中に存在する。非常に対照的に、繊維欠失Ad-LacZ/Fboウイルスは、ヘキソン関連タンパク質(pVI)の前駆体、より少量のコアタンパク質(pVII)の前駆体、およびpVIIIタンパク質の前駆体をなお含有しており、タンパク質分解プロセシングが不完全であることを示している。
【0194】
3.3 繊維改変ウイルスの増殖特性
CAR-およびHSG-変異アデノウイルスの増殖の性質を293細胞で分析し、単一の改変された対応物であるCAR-変異Ad-LacZ/Fb S408E、HSG-変異ウイルス(Ad-LacZ/Fb V452K、Ad-LacZ/Fb K506Q/H508K、またはAd-LacZ/Fb S555K)、およびAd-LacZ陽性対照の増殖と比較した。10粒子/細胞のMOIで、種々の変異ウイルスまたは対照を293細胞に感染させた。感染後24時間、48時間、56時間、64時間、および72時間で感染細胞および上清を採取し、3つの凍結融解サイクルで処理すると、ウイルス粒子が放出した。放出したウイルスの力価をβガラクトシダーゼ染色により決定した。
【0195】
CAR-およびHSG-が除去された変異ウイルスの増殖は、感染後72時間でさえ感染単位の形成が乏しいことにより証明される通り、293(CAR+)細胞中で大きく変わった。CAR- Ad-LacZ/Fb S408Eでもウイルス収率が乏しいことに留意すべきである。非常に対照的に、HSG-変異ウイルスAd-LacZ/Fb V452K、Ad-LacZ/Fb K506Q/H508K、およびAd-LacZ/Fb S555Kの増殖は効率的であり、感染後72時間に8〜10×10E8p/mlを与える野生型アデノウイルスAd-LacZで得られる増殖と同じ範囲である。これらの結果は、損傷した変異体のCAR-表現型と相関している。
【0196】
大規模な産生後の感染性の変異ウイルス(IU/ml)の力価は、野生型繊維を有するアデノウイルスで得られる力価と比較して顕著に減少した。表4に図示した通り、これはIU/粒子比の増大の大きさと相関する。
【0197】
(表4)繊維変異ウイルスの物理的特性

【0198】
これらの結果は、CARおよびHSG結合に関与する残基に影響を及ぼす繊維の変異の結果であり、ゆえに、組み合わせCAR-およびHSG-変異アデノウイルスがCAR受容体を介して293細胞に進入することが妨げられる。
【0199】
3.4 CAR経路に関する組み合わせ変異ウイルスの性質
組み合わせたCAR除去アデノウイルスおよびHSG除去アデノウイルスのCAR+293細胞の感染力を、ノブ競合物の存在下または不存在下で評価した。5×104個の293細胞に、100粒子/細胞のMOIにおいて、CAR-除去アデノウイルスおよびHSG-除去アデノウイルス(それぞれ、Ad-LacZ/Fb-S408E/V452K、Ad-LacZ/Fb-S408E/K506Q/H508K、およびAd-LacZ/Fb-S408E/S555K)、または対照としてのAd-LacZおよびAd-LacZ/Fb S408Eを感染させた。感染後24時間で、細胞をβガラクトシダーゼ発現に対して染色した。3.3章で言及した通り、Ad-LacZ/Fb S408E変異体と同様、すべてのCAR-およびHSG-変異体は、CAR結合が損傷しているため効果的に293細胞に感染しない。
【0200】
CAR結合の競合物としての組換えAd5ノブタンパク質の存在下での感染も行った。この目的のため、293細胞を組換え大腸菌株から精製した10μg/mlのAd5ノブタンパク質とともに30分間37℃でインキュベートした後に、293細胞に、100粒子/細胞のAd-LacZ、CAR欠失Ad-LacZ/S408E、またはLacZを発現する組み合わせたCAR-除去変異体およびHSG-除去変異体(それぞれ、S408E/V452K;S408E/K506Q/H508K;およびS408E/S555K)を感染させた。感染後24時間で、細胞をβガラクトシダーゼ発現に対して染色した。感染効率を、ノブの不存在下でのβガラクトシダーゼ陽性細胞のパーセンテージとして表した。対照ウエルで計数された青色の細胞の数(ノブ非存在下)は100〜400個の範囲であった。
【0201】
図2に図示する通り、Ad-LacZの293感染は、期待された通り、組換えノブによるCAR経路の遮断に起因して可溶性ノブにより強く競合される(およそ90%阻害)。実施例1に記載されている通り、HSG変異体(V452K、K506Q/H508K、およびS555K)も、飽和濃度の組換えノブとともに293細胞を予めインキュベートすることによって強く競合される。非常に対照的に、組み合わせたCAR-およびHSG-除去変異アデノウイルスは、組換えAd5ノブ、CAR欠失繊維S408Eウイルス対照によって全くまたは少ししか競合されず(0%〜10%阻害の間)、CAR経路を用いることができないことが確認された。これらの結果は、HSG-変異(V452K、K506Q/H508K、およびS555K)がSCARへの結合を除去したS408E変異を妨害しないことを示している。
【0202】
3.5 HSG経路に関する組み合わせた変異ウイルスの性質
CAR-およびHSG-変異アデノウイルスの細胞HSG受容体との結合能を、可溶性ヘパリンを用いて競合アッセイにより評価した。CAR欠損CHO細胞を、500個の粒子/細胞のMOIにおいて、組み合わせたCAR-およびHSG-変異アデノウイルス、または対照ウイルスであるCAR- Ad-LacZ/Fb S408E変異体、HSG-ウイルス変異体(Ad-LacZ/Fb V452K、Ad-LacZ/Fb K506Q/H508K、およびAd-LacZ/Fb S555Kそれぞれ)、または陽性対照であるAd-LacZ(野生型繊維含有)のいずれかにより感染した。CHO細胞を感染させる前にウイルスをヘパリン(30μg/ml、Sigma)とともに予めインキュベートすることによって競合アッセイを行った。感染後48時間で、細胞をβガラクトシダーゼ発現に対して染色した。感染効率を、ヘパリンの不存在下におけるβガラクトシダーゼ陽性細胞のパーセンテージとして表した。対照ウエルで計数した青色の細胞の数(ノブ非存在下)は100〜400個の範囲であった。
【0203】
図3に示す通り、Ad-LacZおよびAd/Fb S408EによるCHO細胞(CAR-)の感染は、ヘパリンの存在下で大きく減少し、これにより標的細胞の感染がヘパランを介して未だ仲介されているようであることが示された。対照的に、組み合わせた変異ウイルスであるAd-LacZ(それぞれS408E/V452K、S408E/K506Q/H508K、およびS408E/S555K)は、高濃度の可溶性ヘパリンの存在下でも、ヘパリンの非存在下での場合と同じ効率でCHO細胞を感染することができたが、このことは対応するウイルスのCHO細胞への想定された結合はヘパラン硫酸プロテオグリカンとは独立していることを示唆している。より高い濃度のヘパリン(10、30、50および100μg/ml)でも同じ結果が得られ、これらの結果の特異性を裏付けている。
【0204】
これらの実験により、CAR-変異(S408E)との組み合わせは、HSG除去結合V452K、K506Q/H508K、およびS555K変異を妨害しないことが確認された。
【0205】
HSG変異(V452K、K506Q/H508KおよびS555K)とCAR-変異(A503D)との組み合わせは、実施例3に例示したようにして、試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【0206】
【図1】示された繊維変異を有する一連のアデノウイルス変異体による、CHO細胞の感染に対する可溶性ヘパリンの効果を図示する。
【図2】10μg/mlの組換え可溶性ノブの存在下、野生型(wt)アデノウイルスまたは示された繊維変異を有する種々のアデノウイルスのいずれかを感染させた293細胞で行った競合アッセイを図示する。
【図3】ヘパリン(30 pg/ml、Sigma)とともに予めインキュベートした野生型(wt)アデノウイルスまたは示された繊維変異を有する種々のアデノウイルスのいずれかを感染させたCHO細胞で行った競合アッセイを図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのグリコサミノグリカンおよび/またはシアル酸含有細胞受容体と相互作用するアデノウイルス繊維の1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす少なくとも1つの変異を含有する、改変アデノウイルス繊維。
【請求項2】
改変アデノウイルス繊維が、グリコサミノグリカンまたはシアル酸含有細胞受容体に対して、野生型アデノウイルス繊維より少なくとも約1桁小さな親和性を有する、請求項1記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項3】
グリコサミノグリカン含有細胞受容体が、ヘパリン含有またはヘパラン硫酸含有細胞受容体である、請求項1または2記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項4】
ヘパリン含有またはヘパラン硫酸含有細胞受容体が、通常は野生型アデノウイルス繊維と相互作用してアデノウイルスの宿主細胞への吸着を仲介するヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSG)細胞受容体である、請求項3記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項5】
変異が、ノブのABループ、CDループ、DGループおよび/またはβシートI内の1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす、請求項1〜4のいずれか一項記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項6】
変異が、配列番号:1に示される野生型Ad5繊維タンパク質の404位のトレオニン、406位のアラニン、452位のバリン、506位のリシン、508位のヒスチジン、および555位のセリンからなる残基の群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす、請求項1〜5のいずれか一項記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項7】
変異が、
グリシンによる404位のトレオニンの置換、
リシンによる406位のアラニンの置換、
リシンによる452位のバリンの置換、
グルタミンによる506位のリシンの置換、
リシンによる508位のヒスチジンの置換、もしくは
リシンによる555位のセリンの置換、
または任意のその組み合わせ
を含む、請求項6記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項8】
変異が、
グルタミンによる506位のリシンの置換およびリシンによる508位のヒスチジンの置換;
グリシンによる404位のトレオニンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換およびリシンによる508位のヒスチジンの置換;
リシンによる406位のアラニンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換およびリシンによる508位のヒスチジンの置換;
リシンによる452位のバリンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換およびリシンによる508位のヒスチジンの置換;
グルタミンによる506位のリシンの置換、リシンによる508位のヒスチジンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換
を含む、請求項6または7記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項9】
変異が、野生型Ad2繊維タンパク質の404位のトレオニン、406位のアスパラギン酸、452位のバリン、506位のリシン、508位のグルタミン、および556位のトレオニンからなる残基の群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす、請求項1〜5のいずれか一項記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項10】
改変アデノウイルス繊維が、CAR細胞受容体と相互作用するアデノウイルス繊維の1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす少なくとも1つの追加の変異をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項11】
改変アデノウイルス繊維が、CAR細胞受容体およびグリコサミノグリカンおよび/またはシアル酸含有細胞受容体に対して、野生型アデノウイルス繊維より少なくとも約1桁小さな親和性を有する、請求項10記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項12】
追加の変異が、配列番号:1に示される野生型Ad5繊維タンパク質の408位のセリン、409位のプロリン、412位のアルギニン、417位のリシン、420位のリシン、477位のチロシン、481位のアルギニン、485位のロイシン、491位のチロシン、494位のアラニン、497位のフェニルアラニン、498位のメチオニン、499位のプロリン、および503位のアラニンからなる群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基に影響を及ぼす、請求項10または11記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項13】
追加の変異が、
グルタミン酸による408位のセリンの置換(S408E)、
リシンによる409位のプロリンの置換(P409K)、
アラニンによる477位のチロシンの置換(Y477A)、
リシンによる485位のロイシンの置換(L485K)、
アスパラギン酸による491位のチロシンの置換(Y491D)、
アスパラギン酸による494位のアラニンの置換(A494D)、
アスパラギン酸による497位のフェニルアラニンの置換(F497D)、
アスパラギン酸による498位のメチオニンの置換(M498D)、
グリシンによる499位のプロリンの置換(P499G)、
アスパラギン酸による503位のアラニンの置換(A503D)、
または任意のその組み合わせを含む、請求項12記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項14】
(i)グルタミン酸による408位のセリンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(S408E/K506Q/H508K)、(ii)アスパラギン酸による503位のアラニンの置換、グルタミンによる506位のリシンの置換、およびリシンによる508位のヒスチジンの置換(A503D/K506Q/H508K)、(iii)グルタミン酸による408位のセリンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換(S408E/S555K)、または(iv)アスパラギン酸による503位のアラニンの置換、およびリシンによる555位のセリンの置換(A503D/S555K)を含む、請求項13記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項15】
真核宿主細胞中で産生される場合に三量体形成する、請求項1〜14のいずれか一項記載の改変アデノウイルス繊維。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項記載の改変アデノウイルスタンパク質を含む、三量体。
【請求項17】
天然グリコサミノグリカン含有受容体および/またはシアル酸含有受容体に対して、野生型アデノウイルス繊維三量体より少なくとも約1桁小さな親和性を有する、請求項16記載の三量体。
【請求項18】
請求項10〜15のいずれか一項記載の改変アデノウイルス繊維を含有し、かつ天然CAR細胞受容体に対して、野生型アデノウイルス繊維の三量体より少なくとも約1桁小さな親和性をさらに有する、請求項16または17記載の三量体。
【請求項19】
請求項1〜15のいずれか一項記載の改変アデノウイルス繊維をコードする、DNA断片または発現ベクター。
【請求項20】
野生型繊維を欠き、かつ請求項16〜18のいずれか一項記載の三量体を含む、アデノウイルス粒子。
【請求項21】
少なくとも1つの天然RGD配列に影響を及ぼす変異を有する1つまたは複数のペントンベースをさらに含む、請求項20記載のアデノウイルス粒子。
【請求項22】
リガンドをさらに含む、請求項20または21記載のアデノウイルス粒子。
【請求項23】
リガンドが、野生型アデノウイルスの細胞吸着および/または取込みを通常仲介する天然受容体以外の少なくとも1つの細胞表面抗リガンドと結合する、請求項22記載のアデノウイルス粒子。
【請求項24】
細胞表面抗リガンドが、細胞特異的マーカー、組織特異的受容体、細胞受容体、抗原ペプチド、腫瘍関連マーカー、腫瘍特異的受容体、および疾患特異的抗原からなる群から選択される、請求項23記載のアデノウイルス粒子。
【請求項25】
リガンドが、アデノウイルス粒子の表面で曝露されるウイルスポリペプチドに免疫的、化学的、または遺伝子的にカップリングされる、請求項22〜24のいずれか一項記載のアデノウイルス粒子。
【請求項26】
アデノウイルス粒子の表面で曝露されるウイルスポリペプチドが、ペントンベース、ヘキソン、繊維、タンパク質IX、タンパク質VI、およびタンパク質IIIaからなる群から選択される、請求項25記載のアデノウイルス粒子。
【請求項27】
リガンドが、改変繊維中に、特にC末端にまたはHIループ内に、遺伝子的に挿入される、請求項26記載のアデノウイルス粒子。
【請求項28】
リガンドが、タンパク質pIX中に、特にタンパク質pIXのC末端にまたはC末端部分内に、遺伝子的に挿入される、請求項26記載のアデノウイルス粒子。
【請求項29】
空のカプシドである、請求項20〜28のいずれか一項記載のアデノウイルス粒子。
【請求項30】
アデノウイルスゲノムを含む、請求項20〜28のいずれか一項記載のアデノウイルス粒子。
【請求項31】
アデノウイルスゲノムが複製欠損型である、請求項30記載のアデノウイルス粒子。
【請求項32】
アデノウイルスゲノムが、宿主細胞中で発現を可能にする調節エレメントの制御下にある少なくとも1つの関心対象の遺伝子を含む、請求項30または31記載のアデノウイルス粒子。
【請求項33】
関心対象の遺伝子の発現を可能にする調節エレメントが、リガンドが結合する抗リガンドを表面において提示する宿主細胞内で機能的である、請求項32記載のアデノウイルス粒子。
【請求項34】
調節エレメントが、組織特異的プロモーターおよび腫瘍特異的プロモーターからなる群から選択されるプロモーターを含む、請求項32または33記載のアデノウイルス粒子。
【請求項35】
アデノウイルス粒子またはアデノウイルス粒子ゲノムを好適な細胞系に導入する工程;アデノウイルス粒子の産生を可能にするような好適な条件下で細胞系を培養する工程;産生したアデノウイルス粒子を細胞系の培地から回収する工程;および、回収したアデノウイルス粒子を任意で精製する工程を含む、請求項20〜34のいずれか一項記載のアデノウイルス粒子を産生する方法。
【請求項36】
アデノウイルス粒子が複製欠損型であり、かつ細胞系がアデノウイルス粒子の少なくとも1つの欠損機能を補完する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
細胞系が、ゲノムに組み込まれた形態またはエピソームの形態いずれかの、請求項19記載のDNA断片または発現ベクターを含む、請求項35または36記載の方法。
【請求項38】
細胞系が、E1、E2、E4、L1、L2、L3、L4、L5領域または任意のその組み合わせによりコードされる機能からなる群から選択される1つまたは複数のアデノウイルス機能を補完することがさらに可能である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
細胞系が、293細胞系またはPER C6細胞系から産生される、請求項37または38記載の方法。
【請求項40】
請求項20〜34のいずれか一項記載のアデノウイルス粒子または請求項35〜39のいずれか一項記載の方法を用いて産生されたアデノウイルス粒子を、薬学的な観点から許容されるビヒクルと組み合わせて含む、組成物。
【請求項41】
アデノウイルス粒子が脂質またはポリマーに接合している、請求項40記載の組成物。
【請求項42】
遺伝子治療によりヒトまたは動物の疾患の治療または予防が意図される薬物の調製のための、請求項20〜34のいずれか一項記載のアデノウイルス粒子、あるいは請求項35〜39のいずれか一項記載の方法を用いてまたは請求項40もしくは41記載の組成物を用いて産生されたアデノウイルス粒子の使用。
【請求項43】
疾患が、膠芽細胞腫、肉腫、黒色腫、肥満細胞腫、癌腫、並びに乳癌、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、腎臓癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膵臓癌、胃癌、食道癌、喉頭癌、脳腫瘍、咽喉癌、皮膚癌、中枢神経系の癌、血液の癌、および骨癌を含む癌である、請求項42記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−514538(P2006−514538A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−521030(P2004−521030)
【出願日】平成15年7月10日(2003.7.10)
【国際出願番号】PCT/IB2003/003336
【国際公開番号】WO2004/007537
【国際公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(592035431)トランスジーン ソシエテ アノニム (1)
【Fターム(参考)】