説明

細胞表面タンパク質の調節

本発明は、細胞表面タンパク質の活性を調節する化合物をスクリーニングする方法に関する。本発明は、細胞表面膜において、嚢胞性線維症膜コンダクタンス調節因子(CFTR)などのタンパク質の挿入または保持を調節する方法に関する。本発明はまた、嚢胞性線維症など、細胞表面膜タンパク質の異常な挿入または活性によって生じる疾患の診断および治療または予防方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞表面膜においてタンパク質の挿入または保持を調節する方法に関する。本発明はまた、嚢胞性線維症などの、細胞表面膜タンパク質の異常な挿入または活性によって生じる疾患の診断および治療または予防のための方法にも関する。本発明はさらに、細胞内外への分子の輸送を調節する化合物、および細胞表面タンパク質の活性を調節する化合物をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
細胞極性の確立および維持は、上皮細胞の機能に固有のものである。この独特の機能ドメインの形成は、障壁をもたらし、イオンおよび溶質の輸送を調節する際の役割に関係する。この機能的な極性化の発生を導く事象には、Eカドヘリンが媒介する細胞と細胞の接触、およびインテグリンが媒介する細胞と細胞外マトリックスの接着がある。この空間的な手がかりは、細胞骨格およびシグナル伝達複合体の局在化された構築を介して、細胞の内部成分とコミュニケーションする。これは次に細胞表面および分泌系の再組織化を誘導する。インテグリンを含む複合体とカドヘリンを含む複合体の両方との直接の相互作用に基づくアクチン骨格は、上皮細胞極性の確立に中心的な役割を果たす。同様に、アクチン繊維系は、出芽酵母における標的分泌に関与する。したがって、アクチン骨格は、様々な生物門で極性の確立に役割を果たすと思われる。
【0003】
アクチン骨格の局在化した機能は、インテグリンおよびカドヘリンを含む複合体とのアクチン繊維の特異的な相互作用以上のことを行うことができる。アクチン繊維自体のアイソフォーム組成が、細胞の異なる部位で異なる可能性を示す証拠が増加している。胃壁細胞では、βおよびγアクチンアイソフォームは細胞中で示差的に分布しており、βアクチンは、主としてより代謝的に活性な頂端表面に位置する。βおよびγアクチンの同様の局在化が、成人ニューロン中で観察される。局在化はまた、mRNAの位置まで拡張され、γではなくβアクチンmRNAが、層状仮足や成長円錐など運動性と関係する細胞内の末梢部位に特異的に位置する。
【0004】
上皮細胞極性の変化またはタンパク質標的送達のプロセスの欠陥が重要な特徴である多数の疾患状態がある。常染色体性の多発性嚢胞腎では、例えば、頂端膜上の側底タンパク質の異常な発現の結果、体液で満たされた嚢胞が生成する。側底膜組織化に必要な3種の細胞骨格結合タンパク質であるEカドヘリン、sec6およびsec8が、この疾患細胞内で異常な位置を占めることが最近報告されている。この結果、側底膜へのタンパク質および脂質の送達が障害される(Charronら、2000, Journal of Cell Biology 149, 111-124)。
【0005】
嚢胞性線維症とは、一般にΔF508突然変異に起因する常染色体劣性の病態である。この突然変異の結果、嚢胞性線維症膜コンダクタンス調節因子(CFTR)塩素イオンチャネルの異常が生じる。ΔF508突然変異による嚢胞性線維症では、このCFTRが異常に折り畳まれ、その状態で保持され、RERによって分解される(Quら、1997, Journal of Bioenergetics & Biomembranes 29, 483-490; BrownおよびBreton、2000, Kidney International 57, 816-824)。さらに、ΔF508突然変異を伴うCFTRは、頂端膜での半減期がより短い(Hedaら、2001, American Journal of Physiology-Cell Physiology 280, C166-C174)。
【0006】
嚢胞性線維症の患者では、肺上皮細胞表面でCFTRタンパク質の量が低下している。デルタF508と呼ばれる共通の変異型CFTRが細胞内部に捕捉され、ごく少ないコピー数のCFTRしか、それが属する細胞の表面に出現しなくなることが過去に示されている。CFTRタンパク質が捕捉されるのは、単にそれが十分迅速に折り畳まれず、それらの誤って折り畳まれたタンパク質が、目的地(すなわち細胞表面)に達する機会を得る前に分解されることによるものであるという1つの理論がある。CFTRが細胞内に捕捉されるのは、それが細胞内部の他のタンパク質、例えばBAP31と結合するからである可能性もある。したがって、CFTRの細胞表面への供給を促進することができるどんな作用因子も、嚢胞性線維症の治療についての潜在的な治療薬となる。
【0007】
細胞骨格タンパク質の分布の変化は、虚血に反応した腎近位尿細管細胞でも観察されている(Brownら、1997, American Journal of Physiology 273, F1003-F1012)。ラット腎では、1時間の虚血および再灌流を行うと、刷子縁タンパク質であるビリン(villin)およびアクチンが側底極に再配置された(Brownら、1997, American Journal of Physiology 273, F1003-F1012)。再灌流から24時間後に部分的な回復が認められ、5日以内に完全に回復した。その著者らは、皮質アクチン骨格の分解により、細胞外形が変化し、それにより生存細胞が細胞消失した領域をカバーできる可能性があることを主張した。他の研究では、腎近位尿細管細胞の虚血により、Fアクチンからトロポミオシンが解離し、トロポミオシンが微絨毛の遠位側に移動したことが認められた。この著者らは、トロポミオシンの移動により、競合するアクチン結合タンパク質、アクチン脱重合因子(ADF)が、頂端微小繊維、したがって頂端微絨毛を破壊することが可能になることを示唆している。
【0008】
上皮細胞極性の変化またはタンパク質標的送達のプロセスの欠陥によって生じる疾患状態(嚢胞性線維症など)の診断および治療のための方法が、非常に望まれている。
【発明の開示】
【0009】
発明の要旨
本発明者らは、消化管上皮細胞でのアクチン微小繊維の組成、および嚢胞性線維症膜コンダクタンス調節因子(CFTR)を頂端膜に送達する際のその役割について研究した。この研究から、細胞単層中に局在化した、トロポミオシンアイソフォームを含む特有の微小繊維集団が明らかとなった。この微小繊維集団の局在化は、細胞と細胞の接触および細胞と基層の接触に反応して非常に迅速に行われ、無傷の微小繊維の移動を伴う。トロポミオシンアイソフォームおよびCFTRの共局在が長期培養物中に観察された。トロポミオシンアイソフォームの発現が低下すると、CFTRの表面での発現と、cAMP刺激に反応する塩素イオン流出がどちらも増大した。この結果は、トロポミオシンアイソフォームが、原形質膜へのタンパク質の挿入および/または保持を調節することができる、頂端にある微小繊維集団の位置を示すことを示すものである。
【0010】
したがって、第1の態様では、本発明は、細胞表面タンパク質の活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの活性または細胞での位置を決定するステップを含み、その化合物の不在下と比較したときの、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの活性または細胞での位置の変化が、その化合物がその細胞表面タンパク質の活性を調節することを示す、前記方法を提供する。
【0011】
この態様の好ましい実施形態では、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの細胞での位置の変化、好ましくは局在分布の消失が、その化合物が細胞表面タンパク質の活性を増大させることを示す。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、細胞内外への分子の輸送を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの活性または細胞での位置を決定するステップを含み、その化合物の不在下と比較したときの、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの活性または細胞での位置の変化が、その化合物が細胞内外への分子の輸送を調節することを示す、前記方法を提供する。
【0013】
この態様の好ましい実施形態では、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの細胞での位置の変化、好ましくは局在分布の消失が、その化合物が細胞内外への分子の輸送を増加させることを示す。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、嚢胞性線維症の治療のための治療用化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの活性または細胞での位置を決定するステップを含み、その化合物の不在下と比較したときの、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの活性または細胞での位置の変化が、その化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す、前記方法を提供する。
【0015】
この態様の好ましい実施形態では、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの細胞での位置の変化、好ましくは局在分布の消失が、その化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す。
【0016】
この態様の特定の一実施形態では、トロポミオシンの細胞での位置は、その化合物の、細胞内外への分子の輸送、または細胞表面タンパク質の活性を調節する能力の指標として評価される。トロポミオシンの局在分布を通常示す細胞(例えば、消化管上皮細胞、線維芽細胞またはニューロン)は、好ましくはこのスクリーニングの方法で選択する。選択した細胞に候補化合物をさらした後、トロポミオシンの位置または分布を評価し、候補化合物にさらさなかった細胞でのトロポミオシンの位置または分布と比較する。好ましい実施形態では、候補化合物にさらした細胞でのトロポミオシンの局在分布の消失が、その候補化合物が細胞表面タンパク質の活性を増大させることができること、またはその候補化合物が細胞内外への分子の輸送を増加させることができること、またはその化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることが示唆される。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、細胞表面タンパク質の活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの発現レベルを決定するステップを含み、その化合物の不在下と比較したときの、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現の変化が、その化合物がその細胞表面タンパク質の活性を調節することを示す、前記方法を提供する。
【0018】
この態様の好ましい実施形態では、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現低下が、その化合物が、細胞表面タンパク質の活性を増大させることを示す。
【0019】
さらなる態様では、本発明は、細胞内外への分子の輸送を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの発現レベルを決定するステップを含み、その化合物の不在下と比較したときの、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現の変化が、その化合物が細胞内外への分子の輸送を調節することを示す、前記方法を提供する。
【0020】
この態様の好ましい実施形態では、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現低下が、その化合物が細胞内外への分子の輸送を増加させることを示す。
【0021】
さらなる態様では、本発明は、嚢胞性線維症の治療のための治療用化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの発現レベルを決定するステップを含み、その化合物の不在下と比較したときの、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現の変化が、その化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す、前記方法を提供する。
【0022】
この態様の好ましい実施形態では、その化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現低下が、その化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す。
【0023】
好ましい実施形態では、トロポミオシンの発現レベルを決定することは、トロポミオシンのタンパク質および/またはmRNAの量を測定するステップを含む。好ましい一実施形態では、トロポミオシンタンパク質の量は、抗トロポミオシン抗体を用いて測定する。他の実施形態では、トロポミオシン関連転写物(例えば、mRNA)の量は、トロポミオシン転写物と選択的にハイブリダイズするポリヌクレオチドと試料を接触させることによって測定する。
【0024】
さらなる態様では、本発明は、細胞表面タンパク質の活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンのその結合相手の1つとの結合を測定するステップを含み、その化合物の不在下と比較したときの、その化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの変化が、その化合物が細胞表面タンパク質の活性を調節することを示す、前記方法を提供する。
【0025】
この態様の好ましい実施形態では、その化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの低下が、その化合物が細胞表面タンパク質の活性を増大させることを示す。
【0026】
さらなる態様では、本発明は、細胞内外への分子の輸送を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンのその結合相手の1つとの結合を測定するステップを含み、その化合物の不在下と比較したときの、その化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの変化が、その化合物が細胞内外への分子の輸送を調節することを示す、前記方法を提供する。
【0027】
この態様の好ましい実施形態では、その化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの低下が、その化合物が細胞内外への分子の輸送を増加させることを示す。
【0028】
さらなる態様では、本発明は、嚢胞性線維症の治療のための治療用化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンのその結合相手の1つとの結合を測定するステップを含み、その化合物の不在下と比較したときの、その化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの変化が、その化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す、前記方法を提供する。
【0029】
この態様の好ましい実施形態では、その化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの低下が、その化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す。
【0030】
本発明のこれらの態様のさらに好ましい実施形態では、トロポミオシンの結合相手は、カルポニン、CEACAM1、エンドスタチン、エニグマ(Enigma)、ゲルソリン(好ましくは、サブドメイン2)、S100A2およびアクチンからなる群から選択される。さらに好ましい実施形態では、トロポミオシンの結合相手はアクチンである。
【0031】
当業者なら容易に理解されるように、本発明の方法は、トロポミオシンと相互作用し、その活性をモジュレートする化合物を設計し選択する合理的な方法を提供する。大部分の場合、これらの化合物は、活性を高めるためにさらなる開発を必要とする。特定の実施形態では、本発明の方法は、そのようなさらなる開発ステップを含むものとする。例えば、本発明の実施形態は、医薬品製造において、医薬組成物中にその化合物を組み入れるような製造ステップをさらに含むものとする。
【0032】
したがって、さらなる態様では、この方法は、本明細書に記載のようにしてその同定した化合物をヒトまたは非ヒト動物への投与用に製剤化するステップをさらに含む。
【0033】
さらなる態様では、本発明は、細胞表面膜においてタンパク質の挿入または保持を調節する方法であって、トロポミオシンの発現、位置または活性をモジュレートする作用因子を細胞に投与するステップを含む前記方法を提供する。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、細胞表面膜においてタンパク質の挿入または保持を増加させる方法であって、トロポミオシンアンタゴニストを細胞に投与するステップを含む方法を提供する。
【0035】
さらなる態様では、本発明は、細胞内外への分子の輸送を調節する方法であって、トロポミオシンの発現、位置または活性をモジュレートする作用因子を細胞に投与するステップを含む前記方法を提供する。
【0036】
さらなる態様では、本発明は、細胞内外への分子の輸送を増加させる方法であって、トロポミオシンアンタゴニストを細胞に投与するステップを含む前記方法を提供する。
【0037】
本発明の一実施形態では、輸送される分子は、電解質、水、単糖類およびイオンからなる群から選択される。
【0038】
さらなる態様では、本発明は、細胞表面膜タンパク質の異常な挿入、保持または活性によって生じる、被験体における疾患を治療または予防するための方法であって、トロポミオシンの発現、位置または活性をモジュレートする作用因子を被験体に投与するステップを含む前記方法を提供する。好ましくは、トロポミオシンの発現、位置または活性をモジュレートする作用因子は、トロポミオシンアンタゴニストである。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、その細胞表面膜タンパク質は、輸送タンパク質、チャネル、受容体、増殖因子、抗原、シグナル伝達タンパク質および細胞接着タンパク質からなる群から選択される。その輸送タンパク質は、好ましくは嚢胞性線維症膜コンダクタンス調節因子(CFTR)である。
【0040】
本発明のさらに好ましい実施形態では、その細胞は非筋肉細胞である。好ましい一実施形態では、その細胞はニューロン細胞または上皮細胞である。好ましくは、その上皮細胞は消化管上皮細胞である。
【0041】
細胞表面膜タンパク質の異常な挿入または活性によって生じる疾患は、例えば、嚢胞性線維症、多発性硬化症、多発性嚢胞腎疾患、ウイルス感染、細菌感染、再灌流損傷、メンケス病、ウィルソン病、糖尿病、緊張性筋ジストロフィー、てんかん、またはうつ病、双極性障害、もしくは気分変調性障害などの気分障害である可能性がある。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、被験体の嚢胞性線維症を治療または予防するための方法であって、トロポミオシンの発現、位置または活性を調節する作用因子を被験体に投与するステップを含む前記方法を提供する。好ましくは、トロポミオシンの発現、位置または活性をモジュレートする作用因子は、トロポミオシンアンタゴニストである。
【0043】
本発明の状況では、トロポミオシンが、TPM1、TPM2、TPM3およびTPM4からなる非限定的な群から選択されるヒト遺伝子によってコードされるアイソフォームであることが好ましい。例えば、そのアイソフォームは、TM1、TM2、TM3、TM4、TM5、TM5a、TM5b、TM6、Tm5NM−1、Tm5NM−2、Tm5NM−3、Tm5NM−4、Tm5NM−5、Tm5NM−6、Tm5NM−7、Tm5NM−8、Tm5NM−9、Tm5NM−10、およびTm5NM−11からなる群から選択してもよい。
【0044】
好ましい実施形態では、そのトロポミオシンアイソフォームは、TPM1遺伝子のエキソン1bによってコードされるアミノ酸配列(配列番号11)、またはTPM3遺伝子のエキソン1bによってコードされるアミノ酸配列(配列番号12)を含む。
【0045】
さらに好ましい実施形態では、そのトロポミオシンアイソフォームは、TM5a(好ましくは配列番号9で示す配列を有する)またはTM5b(好ましくは配列番号10で示す配列を有する)である。
【0046】
本発明で使用するトロポミオシンアンタゴニストは、ペプチド、トロポミオシンに対する抗体、有機小分子、トロポミオシンをコードするmRNAに対するアンチセンス化合物、リボザイムやDNAザイムなどの抗トロポミオシン触媒分子、およびトロポミオシン発現を標的とするdsRNAまたは短鎖干渉RNA(RNAi)分子からなる群から選択できる。
【0047】
好ましい一実施形態では、トロポミオシンアンタゴニストは、トロポミオシンをコードするmRNAに対するアンチセンス化合物、触媒分子またはRNAi分子である。さらに好ましい実施形態では、トロポミオシンアンタゴニストは、TPM1遺伝子のエキソン1b(配列番号7)またはTPM3遺伝子のエキソン1b(配列番号8)を特異的に標的とするアンチセンス化合物、触媒分子またはRNAi分子である。
【0048】
さらに好ましい実施形態では、トロポミオシンアンタゴニストは、配列AGCTCGCTGGAGGCGGTG(配列番号13)を標的とするアンチセンス化合物、触媒分子またはRNAi分子である。
【0049】
特に好ましい一実施形態では、トロポミオシンアンタゴニストは、配列CACCGCCUCCAGCGAGCT(配列番号14)を含むアンチセンス化合物である。
【0050】
好ましい実施形態では、トロポミオシンアンタゴニストは、TM5aまたはTM5bの細胞での位置を特異的に変化させる。「TM5aまたはTM5bの細胞での位置を特異的に変化させる」とは、その化合物が、他のトロポミオシンアイソフォームの細胞での位置を著しく変化させることなく、TM5aまたはTM5bの細胞での位置を著しく変化させることを意味する。
【0051】
他の好ましい実施形態では、トロポミオシンアンタゴニストは、TM5aまたはTM5bの発現を特異的に低下させまたは抑制する。「TM5aまたはTM5bの発現を特異的に低下させまたは抑制する」とは、その化合物が、他のトロポミオシンアイソフォームの発現を著しく低下させまたは抑制することなく、TM5aまたはTM5bの発現を著しく低下させまたは抑制することを意味する。
【0052】
他の好ましい実施形態では、トロポミオシンアンタゴニストは、TM5aまたはTM5bのその結合相手の1つとの結合を特異的に変化させる。「TM5aまたはTM5bのその結合相手の1つとの結合を特異的に変化させる」とは、その化合物が、他のトロポミオシンアイソフォームのその結合相手との結合を著しく変化させることなく、TM5aまたはTM5bのその結合相手との結合を著しく変化させることを意味する。
【0053】
さらなる態様では、本発明は、細胞表面膜タンパク質の異常な挿入、保持または活性によって生じる疾患に対する個人の素因を評価する方法であって、その個人のトロポミオシン遺伝子における突然変異の存在を判定するステップを含む前記方法を提供する。
【0054】
トロポミオシン遺伝子の突然変異は、点突然変異(すなわち、一塩基多型(SNP))、欠失および/または挿入でもよい。そのような突然変異は、トロポミオシン遺伝子由来のDNA断片を単離しその配列を決定することによって検出することもでき、あるいはそうでなければ個人からmRNAを単離し、それから配列決定用に(例えばRT−PCRによって)DNAを合成することによって検出することもできる。突然変異はまた、識別用のオリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーションによって検出することもでき、あるいは、識別用のオリゴヌクレオチドプライマーを用いた増幅法によって検出することもできる。
【0055】
さらなる態様では、本発明は、細胞表面膜タンパク質の異常な挿入、保持または活性によって生じる疾患に対する個人の素因を評価する方法であって、その個人の細胞におけるトロポミオシンの局在分布を分析するステップを含む前記方法を提供する。
【0056】
試験される個人に由来する細胞での特定のトロポミオシンアイソフォームの分布が、正常被験体の細胞で観察されるものと異なる場合、これは、試験される個人が、細胞表面膜タンパク質の異常な挿入、保持または活性によって生じる疾患に対する素因を有することを示唆している。
【0057】
本発明はまた、ポリヌクレオチドプローブおよび/またはモノクローナル抗体を含み、さらに場合によっては定量用標準物質を含む、本発明の方法を実施するためのキットをも提供する。さらに、本発明は、本明細書に記載の疾患の治療についての臨床試験に関して、薬剤の効力を評価し、患者の経過をモニターする方法を提供する。
【0058】
明らかであろうが、本発明の一態様の好ましい特徴および性質は、本発明の他の態様にも当てはまる。
【0059】
本明細書全体にわたって、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」や「含んでいる(comprising)」などの語尾変化は、述べられた要素、整数もしくはステップ、または一群の要素、整数もしくはステップを包含するが、他のいかなる要素、整数もしくはステップ、または一群の要素、整数もしくはステップをも除外するものではないことを意味すると理解されるであろう。
【0060】
配列表の要点
配列番号1:トロポミオシン1(α)(TPM1)遺伝子配列によってコードされるアイソフォームのヒト(Homo sapiens)cDNA配列;
配列番号2:トロポミオシン2(β)(TPM2)遺伝子配列によってコードされるアイソフォームのヒト(Homo sapiens)cDNA配列;
配列番号3:トロポミオシン3(TPM3)遺伝子配列によってコードされるアイソフォームのヒト(Homo sapiens)cDNA配列;
配列番号4:トロポミオシン4(TPM4)遺伝子配列によってコードされるアイソフォームのヒト(Homo sapiens)cDNA配列;
配列番号5:アイソフォームTM5aのヒト(Homo sapiens)cDNA配列;
配列番号6:アイソフォームTM5bのヒト(Homo sapiens)cDNA配列;
配列番号7:TPM1遺伝子のエキソン1bのヒト(Homo sapiens)DNA配列;
配列番号8:TPM3遺伝子のエキソン1bのヒト(Homo sapiens)DNA配列;
配列番号9:アイソフォームTM5aのヒト(Homo sapiens)タンパク質配列;
配列番号10:アイソフォームTM5bのヒト(Homo sapiens)タンパク質配列;
配列番号11:TPM1遺伝子のエキソン1bのヒト(Homo sapiens)タンパク質配列;
配列番号12:TPM3遺伝子のエキソン1bのヒト(Homo sapiens)タンパク質配列;
配列番号13:好ましいアンチセンス構築物用の、TPM1遺伝子のエキソン1b内のヒト(Homo sapiens)標的配列;
配列番号14:TPM1遺伝子のエキソン1bを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド配列;
配列番号15:ナンセンスオリゴヌクレオチド配列(対照配列);
配列番号16および17:ヒトTM5aまたはTM5b産生を下方制御するsiRNA分子生成用のポリヌクレオチド;
配列番号18〜20:TMP1遺伝子のエキソン1bによってコードされるアミノ酸配列内の抗原エピトープ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
好ましい態様の詳細な説明
特に示さない限り、本明細書で使用するすべての科学技術用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術および生化学における)当業者によって通常理解されているものと同じ意味を有する。分子遺伝学的生化学的方法(一般に、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第3版 (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. ならびにAusubelら、Short Protocols in Molecular Biology (1999) 第4版; John Wiley & Sons, Inc.および表題がCurrent Protocols in Molecular Biologyである完全版を参照、これらを参照により本明細書に組み込む)および化学的方法について、標準的な技術を使用する。
【0062】
トロポミオシン
本発明は、細胞の表面膜におけるタンパク質の挿入、保持または維持がトロポミオシンによって調節されるという知見に基づくものである。この知見から、細胞表面タンパク質の異常な挿入または機能によって生じる疾患に関する診断法および治療法の基礎がもたらされる。
【0063】
トロポミオシン(TM)は、すべての真核細胞で認められる多様なタンパク質群であり、異なるアイソフォームが筋肉(骨格筋、心筋および平滑筋)、脳および種々の非筋肉細胞で認められる。これは細長いタンパク質であり、その長さ全体に沿って単純な二量体αへリックスコイルドコイル構造を有する。このコイルドコイル構造は、第1および第4の位置に疎水性残基を有する7アミノ酸の反復パターンに基づくものであり、顕著な7残基の周期性(5モチーフ)とともに、酵母からヒトまでの真核生物で認められるすべてのTMアイソフォームにおいて高度に保存されている。異なるアイソフォームは、示差的スプライシングによって生じる。例えば、αトロポミオシンのアイソフォームは、横紋筋と平滑筋で異なる。
【0064】
TMは、筋細胞の筋節中の細い繊維および非筋肉細胞の微小繊維と結合している。TMは、頭部−尾部の形で互いに結合し、Fアクチンの溝に位置し、各分子は6つまたは7つのアクチン単量体と相互作用する。
【0065】
骨格筋および心筋におけるTMの機能は、トロポニン複合体(トロポニンT、CおよびI)と共同で、アクチンおよびミオシンのカルシウム感受性相互作用を調節することである。静止期の細胞内のカルシウムイオン濃度下で、トロポニン−トロポミオシン複合体は、アクトミオシンATPアーゼ活性を抑制する。筋細胞内で刺激によってカルシウムイオン放出が誘導されるとき、トロポニンCは、さらなるカルシウムイオンと結合し、コンホメーションの変化は、トロポニン−トロポミオシン複合体によって伝達され、それによってアクトミオシンATPアーゼ活性の抑制が解除され、収縮が生じる。
【0066】
骨格筋および心筋と異なり、平滑筋および非筋肉TMの生物学的機能はほとんど分かっていない。平滑筋および非筋肉細胞は、トロポニン複合体を欠いており、ミオシン軽鎖のリン酸化は、アクチンおよびミオシンの相互作用を制御する主要なカルシウム感受性調節機構であると思われる。様々な細胞型の収縮装置の調節におけるこれらの違いは、構造的にも機能的にも異なる型のTMを必要とするものと思われる。
【0067】
本明細書で使用する場合、「トロポミオシン」という用語は、そのタンパク質のアイソフォームをすべて包含するものとする。例えば、この用語は、哺乳動物遺伝子TPM1(α−TM遺伝子としても知られる)(MacLeodおよび Gooding、1988, Mol. Cell. Biol. 8, 433-440)、TPM2(β−TM遺伝子としても知られる)(MacLeodら、1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82, 7835-7839)、TPM3(γ−TM遺伝子としても知られる)(Claytonら、1988, J. Mol. Biol. 201, 507-515)、およびTPM4(δ−TM遺伝子としても知られる)(MacLeodら、1987, J. Mol. Biol. 194, 1-10)によってコードされるアイソフォームをすべて包含する。
【0068】
選択的スプライシングによりこれら4種の遺伝子から生じるトロポミオシンアイソフォームが少なくとも40種存在する(図1)。例えば、Lees-MillerおよびHelfman、1991, Bioessays 13 (9): 429-437を参照されたい。トロポミオシンアイソフォームは高度な類似性を有するが、アクチン結合ドメインおよび頭部−尾部結合ドメインにおいていくらかの違いが存在する。種々のトロポミオシンアイソフォームはアクチンに対して異なる結合親和性を有し、この結果、アクチン微小繊維の安定性に対する影響の違いが生じると考えられる。さらに、アクチン微小繊維上のトロポミオシンの位置により、細胞の運動性、および細胞骨格の再構築におけるアクチンの役割をモジュレートすることができる。一旦挿入されると、トロポミオシンは、アクチンと他のアクチン結合タンパク質との相互作用に影響を及ぼす。例えば、高分子量のトロポミオシンは、アクチン結合タンパク質であるゲルソリンの切断活性に対して保護的である。
【0069】
ヒトTPM1、TPM2、TPM3およびTPM4遺伝子によってコードされるアイソフォームのcDNA配列を、それぞれ配列番号1〜4に示す。これらの配列は代表例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の方法は、他のヒトまたは非ヒトトロポミオシン配列を標的としてもよい。
【0070】
診断分析
一態様では、本発明は、細胞表面タンパク質の異常な挿入、保持または機能によって生じる疾患に対する素因を個人が有する可能性を予測し、または疾患などの診断に役立てる方法に関する。
【0071】
一実施形態では、その診断法は、評価される個人からポリヌクレオチド試料を得るステップと、トロポミオシン遺伝子を分析するステップとを含む。
【0072】
評価すべき遺伝物質は、その個人に由来する任意の有核細胞から得ることができる。ゲノムDNAのアッセイでは、実際上(純粋な赤血球以外)いかなる生物学的試料でも適切である。例えば、都合のよい組織試料には、全血、精液、唾液、涙、尿、糞便材料、汗、皮膚、精巣、胎盤、腎および毛髪が含まれる。cDNAまたはmRNAのアッセイでは、組織試料は、その標的核酸が発現している臓器から得ることが好ましい。例えば、上皮細胞は、トロポミオシン遺伝子のcDNAを得るのに適した供給源である。
【0073】
トロポミオシン遺伝子の分析は、標的試料からのDNA増幅を必要とする可能性がある。これは、例えばPCRによって達成することができる。一般には、PCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification(H. A. Erlich編、reeman Press, New York, N.Y., 1992); PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications(Innisら編、Academic Press, San Diego, Calif., 1990); Mattilaら、Nucleic Acids Res. 19, 4967 (1991); Eckertら、PCR Methods and Applications 1, 17 (1991); PCR(McPhersonら編、IRL Press, Oxford);および米国特許第4,683,202号を参照されたい。
【0074】
他の適切な増幅法としては、リガーゼ連鎖反応(LCR)(WuおよびWallace, Genomics 4, 560 (1989)、Landegrenら、Science 241, 1077 (1988)を参照)、転写増幅(Kwohら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 1173 (1989))、および自己維持型配列複製(Guatelliら、Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 87, 1874 (1990))および核酸を基礎とする配列増幅(NASBA)が挙げられる。後者の2つの増幅法では、等温転写に基づく等温反応を用い、これにより、一本鎖RNA(ssRNA)と二本鎖DNA(dsDNA)の両方を、増幅産物として、それぞれの方法で約30対1、100対1の比で生じる。
【0075】
対象とする多型部位を占めるヌクレオチドは、ゲノムDNAのサザン分析;制限酵素消化による直接の突然変異分析;RNAのノーザン分析;変性高速液体クロマトグラフィー(DHPLC);遺伝子の単離および配列決定;増幅遺伝子産物を用いた、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション;エキソントラッピング、一塩基伸長(SBE);トロポミオシンタンパク質の分析など様々な方法によって同定することができる。
【0076】
他の実施形態では、診断法には、個人の細胞におけるトロポミオシンの局在分布の分析が含まれる。例えば、試験する個人に由来する細胞(好ましくは上皮細胞)内での特定のトロポミオシンアイソフォームの抗体染色によって、この分析を行うことができる。
【0077】
トロポミオシンアンタゴニスト/アゴニスト
一態様では、本発明は、細胞内でのトロポミオシンの活性または位置を調節する化合物をスクリーニングする方法に関する。
【0078】
特定の実施形態では、トロポミオシンと結合する能力、または活性をモジュレートする能力について潜在的な変調因子(modulator)のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングする。従来法では、ある望ましい特性または活性を有する化合物、例えば活性を抑制する化合物(「リード化合物」と呼ばれる)を同定し、そのリード化合物の変種を作製し、その変種化合物の特性および活性を評価することにより、有用な特性を有する新しい化学物質が得られる。ハイスループットスクリーニング(HTS)法は、このような分析にしばしば使用される。
【0079】
好ましい一実施形態では、ハイスループットスクリーニング法は、多数の潜在的治療用化合物(候補化合物)を含むライブラリーを提供することを含む。次いで、このような「コンビナトリアル化学物質ライブラリー」を1つまたは複数のアッセイでスクリーニングして、所望の特徴的な活性を示すそのライブラリーのメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を同定する。このように同定した化合物を、従来の「リード化合物」として使用することもでき、あるいは、それ自体を潜在的なまたは実際の治療薬として使用することもできる。
【0080】
コンビナトリアル化学物質ライブラリーとは、試薬など多数の化学的な「ビルディングブロック」を組み合わせることによる化学的合成または生物学的合成によって得られる多様な化合物の集合物である。例えば、ポリペプチド(例えば突然変異タンパク質)ライブラリーなどの直鎖状コンビナトリアル化学物質ライブラリーは、アミノ酸と呼ばれる一組の化学的ビルディングブロックを、所与の化合物長(すなわち、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)で可能なあらゆる仕方で組み合わせることによって形成される。化学的ビルディグブロックのこのような組合せ混合によって、数百万の化合物を合成することができる(Gallopら、1994,J. Med. Chem. 37 (9): 1233-1251)。
【0081】
コンビナトリアル化学物質ライブラリーの調製およびスクリーニングは、当業者に周知である。このようなコンビナトリアル化学物質ライブラリーには、それだけに限らないが、ペプチドライブラリー、ペプトイド(peptoid)、コードされたペプチド、ランダム生体オリゴマー、非ペプチド性ペプチド模倣物、小化合物ライブラリーの類似有機合成物、核酸ライブラリー、ペプチド核酸ライブラリー、抗体ライブラリー、糖鎖ライブラリーおよび有機小分子ライブラリーがある。
【0082】
トロポミオシン結合性化合物は、当業者に周知の方法によって容易に同定し単離することができる。トロポミオシン結合性化合物の同定に使用することができる方法の例は、酵母2ハイブリッドスクリーニング、ファージディスプレイ、アフィニティークロマトグラフィー、発現クローニングおよびBiacoreシステムである。Biacoreシステムは、このシステムが、標識せずに、またしばしば付随する物質を精製せずに、生体分子の結合事象をリアルタイムに直接検出しモニターすることができることから、トロポミオシンタンパク質の化学的模倣物の同定に使用される。(Biacore, Rapsagatan 7, SE 754 50 Uppsala)。
【0083】
具体的には、酵母2ハイブリッドスクリーニングの手法では、転写活性化を利用してタンパク質とタンパク質の相互作用を検出する。転写因子の多くは、2つのドメインに分離することができ、その2つのドメインであるDNA結合ドメインと転写活性化ドメインは分離されると不活性である。その2つのドメインを「近接」させたとき、その機能的な転写活性化活性が再生される。本発明では、トロポミオシンタンパク質を転写因子のDNA結合ドメインと融合させ、cDNAライブラリー由来のcDNAを転写活性化ドメインをコードする配列と融合させる。転写因子のDNA結合ドメインと融合させた目的のタンパク質をコードするcDNAで形質転換した酵母株を、転写活性化ドメイン/cDNA融合ライブラリーで形質転換する。目的のタンパク質と結合するタンパク質をコードするいかなるcDNAも、機能的なハイブリッド転写活性化因子を形成することが可能となり(DNA結合ドメインと転写活性化ドメインが今や「近接」しているため)、それによってリポーター遺伝子の発現がもたらされ、その結果、細胞が生存する。次いで、結合タンパク質をコードするcDNAを単離し、それをコードするタンパク質を同定する。
【0084】
変調因子を同定するためのアッセイは、ハイスループットスクリーニングに適合することが好ましい。したがって、好ましいアッセイは、トロポミオシン遺伝子転写の促進または抑制、ポリペプチド発現の抑制または促進、およびポリペプチド活性の抑制または増強を検出するものである。
【0085】
特定の核酸またはタンパク質産物の存在、不在、量、または他の特性についてのハイスループットアッセイは、当業者に周知である。同じく、結合アッセイおよびレポーター遺伝子アッセイも同様に周知である。したがって、例えば米国特許第5,559,410号は、タンパク質のハイスループットスクリーニング法について開示し、米国特許第5,585,639号は、核酸結合(すなわち、アレイ中での)に対するハイスループットスクリーニング法について開示しており、一方、米国特許第5,576,220号および第5,541,061号はリガンド/抗体結合に対するハイスループットスクリーニング法について開示している。
【0086】
さらに、ハイスループットスクリーニングシステムは市販されている(例えば、Zymark Corp., Hopkinton, MA; Air Technical Industries, Mentor, OH; Beckman Instruments, Inc. Fullerton, CA; Precision Systems, Inc., Natick, MAなどを参照)。これらのシステムは通常、アッセイに適した、すべての試料および試薬のピペット操作、液体の分注、定時間インキュベーション、および検出器でのマイクロプレートの最終的な読み取りを含めた手順全体を自動化する。これらの設定可能なシステムは、高い処理能力および迅速な開始、ならびに高度な柔軟性およびカスタマイズをもたらす。このようなシステムの製造業者は、種々のハイスループットシステムの詳細なプロトコルを提供している。したがって、例えばZymark社は、遺伝子転写、リガンド結合などのモジュレーションを検出するためのスクリーニングシステムについて記載した技術報告書を提供している。
【0087】
タンパク質またはペプチド阻害因子
一実施形態では、変調因子は、タンパク質であり、しばしば、天然に存在するタンパク質または天然に存在するタンパク質の断片である。したがって、例えば、タンパク質を含む細胞抽出物、あるいはタンパク性細胞抽出物のランダム消化物または特異的消化物を使用することができる。このようにして、本発明の方法におけるスクリーニング用にタンパク質のライブラリーを作製することができる。細菌、真菌、ウイルスおよび哺乳動物タンパク質のライブラリーがこの実施形態で特に好ましく、後者が好ましいが、ヒトタンパク質がとりわけ好ましい。特に有用な試験化合物は、その標的が属するクラスのタンパク質、例えば酵素の基質、またはリガンドおよび受容体を対象とする。
【0088】
好ましい実施形態では、変調因子は、約5〜約30アミノ酸のペプチドであり、約5〜約20アミノ酸が好ましく、約7〜約15が特に好ましい。このペプチドは、上記で概説したように天然に存在するタンパク質の消化物でもよく、ランダムペプチドでもよく、あるいは「偏りのある」ランダムペプチドでもよい。「ランダム化された」またはそれと文法的に同等な語は、本明細書において各核酸およびペプチドが、それぞれ本質的にランダムなヌクレオチドおよびアミノ酸からなることを意味する。一般にこれらのランダムなペプチド(または下記で論じる核酸)は化学的に合成されるため、これは、任意の位置に任意のヌクレオチドまたはアミノ酸を組み込むこともできる。その合成プロセスは、ランダム化されたタンパク質または核酸を生成し、その配列の長さにわたってすべてのまたは大部分の考えられる組合せの形成が可能となるように設計することができ、それによってランダム化された候補生理活性タンパク性作用因子のライブラリーが形成される。
【0089】
一実施形態では、トロポミオシン配列に由来するオリゴペプチド(長さ約10〜25アミノ酸)として、ペプチジルトロポミオシン阻害因子を化学的にまたは組換えにより合成する。あるいは、例えば、タンパク質分解酵素、例えばトリプシン、サーモリシン、キモトリプシン、またはペプシンを用いることにより、天然のまたは組換えにより生成させたトロポミオシンを消化することによって、トロポミオシン断片を生成する。コンピュータ解析(市販のソフトウェア、例えばMacVector,Omega,PCGene,Molecular Simulation,Inc.を用いて)を使用して、タンパク質分解切断部位を同定する。タンパク質分解断片または合成断片は、トロポミオシンの機能を部分的にまたは完全に抑制するのに必要なものと同じ数のアミノ酸残基を含むことができる。好ましい断片は、少なくとも、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100またはそれ以上のアミノ酸長を含む。
【0090】
タンパク質またはペプチド阻害因子はまた、トロポミオシンのドミナントネガティブ変異体でもよい。「ドミナントネガティブ変異体」という用語は、その天然の状態から突然変異しており、かつトロポミオシンが通常は相互作用するタンパク質と相互作用する(これによって内因性の天然トロポミオシンがその相互作用を形成することを阻止する)トロポミオシンポリペプチドを、指す。
【0091】
抗トロポミオシン抗体
本発明において使用する「抗体」という用語には、完全な分子、ならびにFab、F(
ab')2やFvなどのトロポミオシンのエピトープ決定基と結合することができるその断片が含まれる。これらの抗体断片は、その抗原と選択的に結合する能力をある程度保持し、下記のように定義される:
(1)抗体分子の一価の抗原結合性断片を含む断片Fabは、酵素パパインで抗体全体を消化して、完全な軽鎖および1本の重鎖の一部を生じさせることによって生成することができる;
(2)抗体分子の断片Fab’は、抗体全体をペプシンで処理し、その後還元して、完全な軽鎖および重鎖の一部を得ることによって得られる;抗体1分子当たり2つのFab’断片が得られる;
(3)抗体の断片(Fab')2は、その後還元せずに抗体全体を酵素ペプシンで処理することによって得られる;F(ab)2は、2つのジスルフィド結合で1つに結合されている2つのFab’断片の二量体である;
(4)Fvは、2本の鎖として発現される軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む、遺伝子工学的に作製された断片として定義される;
(5)一本鎖抗体(「SCA」)は、遺伝的に融合させた一本鎖分子として、適切なポリペプチドリンカーによって連結された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む、遺伝子操作で作製された分子として定義される。
【0092】
これらの断片の作製法は、当技術分野で公知である(例えば、参照により本明細書に組み込む、HarlowおよびLane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1988)を参照)。
【0093】
本発明の抗体は、無傷の(intact)トロポミオシンまたはその断片を免疫化用抗原として使用して調製することができる。動物を免疫するのに使用するペプチドは、翻訳されたcDNAまたは化学合成から得られるものでもよく、必要であれば精製し担体タンパク質と結合させる。ペプチドと化学結合されるこのような通常用いられる担体としては、キーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)、サイログロブリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、および破傷風トキソイドが挙げられる。次いで、この結合したペプチドを用いて、動物(例えば、マウスまたはウサギ)を免疫することができる。
【0094】
必要であれば、例えば、それに対する抗体を産生させたペプチドを結合したマトリックスに、ポリクローナル抗体を結合させ、そしてそこから溶出させることにより、そのポリクローナル抗体をさらに精製することができる。当業者であれば、免疫学の分野で一般的であるポリクローナル抗体ならびにモノクローナル抗体の精製および/または濃縮のための様々な技術を知っているであろう(例えば、参照により組み込む、Coliganら、Unit 9, Current Protocols in Immunology, Wiley Interscience, 1991を参照)。
【0095】
例えば、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術やEBVハイブリドーマ技術など、連続的な細胞系統培養によって抗体分子の産生をもたらすどんな技術を用いてもモノクローナル抗体を調製することができる(Kohlerら、Nature 256, 495-497, 1975; Kozborら、J. Immunol. Methods 81, 31-42, 1985; Coteら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 2026-2030, 1983; Coleら、Mol. Cell Biol. 62, 109-120, 1984)。
【0096】
当技術分野で公知の方法により、トロポミオシンとの結合を示す抗体を抗体発現ライブラリーから同定し単離することが可能である。例えば、トロポミオシンとの結合を示す抗体結合ドメインを同定し単離する方法は、バクテリオファージλベクター系である。このベクター系は、大腸菌(Escherichia coli)でのマウス抗体レパートリー(Huseら、Science, 246: 1275-1281, 1989)およびヒト抗体レパートリー(Mullinaxら、Proc. Nat. Acad. Sci., 87: 8095-8099, 1990)に由来するFab断片のコンビナトリアルライブラリーを発現させるのに使用されてきた。予め選択したリガンドと結合するモノクローナル抗体を発現しているハイブリドーマ細胞系統に、この方法を適用することもできる。当業者によく理解されている技術を用いて、所望のモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを様々な方法で作製することができるが、ここでは繰り返さない。この技術の詳細は、参照により組み込まれるMonoclonal Antibodies-Hybridomas: A New Dimension in Biological Analysis, Roger H. Kennettら編、Plenum Press, 1980や米国特許第4,172,124号などの参照文献に記載されている。
【0097】
さらに、「ヒト化」抗体を様々に組み合わせたキメラ抗体分子を生成する方法は、当技術分野で知られており、ネズミ可変領域をヒト定常領域と組み合わせること(Cabilyら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 3273, 1984)を含むか、あるいはヒトフレームワーク上にネズミ抗体の相補性決定領域(CDR)を移植すること(Riechmannら、Nature 332: 323, 1988)によるものである。
【0098】
一実施形態では、抗体は、限定されないが、配列番号18〜20からなる群から選択されるヒトトロポミオシンの領域の少なくとも一部と結合する。
【0099】
アンチセンス化合物
「アンチセンス化合物」という用語は、トロポミオシンmRNA分子(IzantおよびWeintraub, Cell 36: 1007-15, 1984; IzantおよびWeintraub, Science 229 (4711): 345-52, 1985)の少なくとも一部と相補的であり、mRNA翻訳などの転写後の事象に干渉することができるDNAまたはRNA分子を、包含する。合成が容易であり、標的トロポミオシン産生細胞中に導入した場合により大きな分子よりも問題を生じる可能性が低いことから、トロポミオシンをコードするmRNAの連続した少なくとも約15ヌクレオチドに対する相補的なアンチセンスオリゴマーが好ましい。アンチセンスの方法の使用については、当技術分野で周知である(Marcus-Sakura, Anal. Biochem. 172: 289, 1988)。好ましいアンチセンス核酸は、配列番号7または配列番号8に示すアミノ酸配列をコードする配列の少なくとも連続した15ヌクレオチドと相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0100】
触媒核酸
触媒核酸という用語は、独特の基質を特異的に認識し、この基質の化学修飾を触媒するDNA分子またはDNA含有分子(「DNAザイム」としても当技術分野で知られている)、あるいはRNAまたはRNA含有分子(「リボザイム」としても知られている)を指す。触媒核酸中の核酸塩基は、塩基A、C、G、TおよびU、ならびにそれらの誘導体でもよい。これらの塩基の誘導体は、当技術分野で周知である。
【0101】
通常、触媒核酸は、標的核酸を特異的に認識するためのアンチセンス配列、および核酸切断性酵素活性部分(本明細書において「触媒ドメイン」とも呼ばれる)を含む。特異性を実現するために、好ましいリボザイムおよびDNAザイムは、トロポミオシンアイソフォームをコードする配列の連続した少なくとも約12〜15ヌクレオチドに対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0102】
本発明で特に有用なリボザイムのタイプは、ハンマーヘッド型リボザイム(HaseloffおよびGerlach 1988, Perrimanら、1992)およびヘアピン型リボザイム(Shippyら1999)である。
【0103】
本発明のリボザイムおよびリボザイムをコードするDNAは、当技術分野で周知の方法を用いて化学合成することができる。リボザイムはまた、RNAポリメラーゼプロモーター、例えばT7 RNAポリメラーゼまたはSP6 RNAポリメラーゼのプロモーターと作動的に連結したDNA分子(転写後にRNA分子を生成する)から調製することもできる。したがって、本発明のリボザイムをコードする核酸分子、すなわちDNAまたはcDNAも、本発明によって提供される。ベクターがDNA分子と作動的に連結したRNAポリメラーゼプロモーターも含む場合、RNAポリメラーゼおよびヌクレオチドとともにインキュベーションする際にin vitroでリボザイムを生成させることができる。別個の実施形態では、発現カセットまたは転写カセット中にDNAを挿入することができる。合成後、リボザイムを安定化させ、それをRNase抵抗性にする能力を有するDNA分子に連結することにより、そのRNA分子は改変されうる。あるいは、リボザイムを、リポソーム送達系で使用するためにホスホチオ類似体に改変することもできる。この改変も、リボザイムをエンドヌクレアーゼ活性に対して抵抗性にする。
【0104】
RNA阻害因子
dsRNAは、特定のタンパク質の産生を特異的に抑制するのに特に有用である。特定の理論に拘泥するものではないが、DoughertyおよびParks(Curr. Opin. Cell Biol. 7: 399 (1995))は、dsRNAを使用してタンパク質産生を低下させることができる機構についてのモデルを提供した。このモデルは、Waterhouseらによって最近修正され拡張されている(Proc. Natl. Acad. Sci. 95: 13959 (1998))。この技術は、対象とする遺伝子のmRNA、この場合ではトロポミオシンタンパク質をコードするmRNAと本質的に同一の配列を含むdsRNA分子の存在に依存する。好都合なことに、dsRNAは、組換えベクターまたは宿主細胞中、単一のオープンリーディングフレームで生成することができ、そこではセンスおよびアンチセンス配列が無関係な配列と隣接しており、その無関係な配列は、そのセンスおよびアンチセンス配列をハイブリダイズさせて、その無関係な配列がループ構造を形成したdsRNA分子が形成されるようにすることができる。トロポミオシンを標的とする適切なdsRNA分子の設計および生成は、特にDoughertyおよびParks(1995,上記)、Waterhouseら(1998,上記)、WO99/32619、WO99/53050、WO99/49029ならびにWO01/34815を考慮すれば、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0105】
本明細書において、「短鎖干渉RNA」(siRNA)、および「RNAi」という用語は、遺伝子産物を特異的に標的とし、それによってヌル表現型またはハイポモルフ表現型をもたらす、相同な二本鎖RNA(dsRNA)を指す。具体的には、dsRNAは、PAC−1をコードする標的RNAから得られ、かつアニーリングできるような自己相補性を示す2つの短いヌクレオチド配列を含んでおり、そしてそれは、おそらく転写後レベルで、標的遺伝子の発現に干渉する。RNAi分子については、Fireら、Nature 391, 806-811, 1998に記載されており、Sharp, Genes & Development, 13, 139-141, 1999に総説がある。
【0106】
好ましいsiRNA分子は、標的mRNAの連続した約19〜21ヌクレオチドと同一のヌクレオチド配列を含む。好ましくは、その標的配列は、TPM1またはTMP3遺伝子のエキソン1bである。
【0107】
本明細書で例示するように、トロポミオシンコード領域に対する好ましいsiRNAは、配列番号16または配列番号17に示す21ヌクレオチドの配列を含む。配列番号16および17に示す例示siRNAに由来するステムループ構造を含むsiRNAを生成するために、介在ループ配列と隣接するようにセンス鎖およびアンチセンス鎖を配置する。好ましいループ配列は、当業者には公知である。
【0108】
小分子阻害因子
免疫系をモジュレートする能力について多数の有機分子をアッセイすることができる。例えば、本発明の一実施形態では、化学物質を個々にアッセイする化学物質ライブラリーから、または複数の化合物を一度にアッセイするコンビナトリアル化学物質ライブラリーから、適当な有機分子を選択し、次いで解析して最も活性の高い化合物群を決定し単離することができる。
【0109】
このようなコンビナトリアル化学物質ライブラリーの代表的な例としては、以下で報告されたものが挙げられる:Agrafiotisら、"System and method of automatically generating chemical compounds with desired properties" 米国特許第5,463,564号; Armstrong, R. W.、"Synthesis of combinatorial arrays of organic compounds through the use of multiple component combinatorial array syntheses"、WO95/02566; Baldwin, J. J.ら、"Sulfonamide derivatives and their use" WO95/24186; Baldwin, J. J.ら、"Combinatorial dihydrobenzopyran library" WO95/30642; Brenner, S.、"New kit for preparing combinatorial libraries." WO95/16918; Chenera, B.ら、"Preparation of library of resin-bound aromatic carbocyclic compounds" WO95/16712; Ellman, J. A.、"Solid phase and combinatorial synthesis of benzodiazepine compounds on a solid support" 米国特許第5,288,514号; Felder, E.ら、"Novel combinatorial compound libraries" WO95/16209; Lerner. R.ら、"Encoded combinatorial chemical libraries" WO93/20242; Pavia, M. R.ら、"A method for preparing and selecting pharmaceutically useful non-peptide compounds from a structurally diverse universal library," WO95/04277; Summerton, J. E.およびD. D. Weller、"Morpholino-subunit combinatorial library and method" 米国特許第5,506,337号; Holmes, C.、"Methods for the Solid Phase Synthesis of Thiazolidinones, Metathiazanones, and Derivatives thereof" WO96/00148; Phillips, G. B.およびG. P. Wei、"Solid-phase Synthesis of Benzimidazoles," Tet. Letters 37: 4887-90, 1996; Ruhland, B.ら、"Solid-supported Combinatorial Synthesis of Structurally Diverse beta-Lactams," J. Amer. Chem. Soc. 111: 253-4, 1996; Look, G. C.ら、"The Identification of Cyclooxygenase-1 Inhibitors from 4-Thiazolidinone Combinatorial Libraries," Bioorg and Med. Chem. Letters 6: 707-12, 1996。
【0110】
候補化合物は、有機分子、好ましくは、分子量が100ダルトンより大きく約2,500ダルトンより小さい小有機化合物であってよい。好ましい小分子は、2,000ダルトン未満、または1,500ダルトン未満、または1,000ダルトン未満、または500ダルトン未満である。候補作用因子は、タンパク質との構造的な相互作用に必要な官能基、特に水素結合を含み、通常少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基を含み、好ましくはその官能化学基を少なくとも2つ含む。候補作用因子は、1つまたは複数の上記の官能基で置換された、炭素環またはヘテロ環構造、および/あるいは芳香族または多環芳香族構造をしばしば含む。候補作用因子は、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体、またはそれらの組合せを含めた生体分子にも認められる。
【0111】
一実施形態では、本発明は、親のおよび分画された天然物抽出物のライブラリー内で表された小分子の化学的多様性をスクリーニングして、潜在的な候補としてさらに特徴付けるために生物活性化合物を検出する。
【0112】
本発明の一実施形態では、その候補化合物は、遺伝子ライブラリーの発現産物、低分子量化合物ライブラリー(ChemBridge Research Laboratoriesの低分子量化合物ライブラリーなど)、細胞抽出物、微生物の培養上清、細菌細胞成分などから得られる。特定の一実施形態では、その候補化合物は、腸管病原性大腸菌(EPEC)株の抽出物から得られる。
【0113】
トロポミオシンアゴニスト/アンタゴニストについてスクリーニングする方法
トロポミオシンの局在分布に基づくスクリーニングプロトコル
候補化合物がトロポミオシンの機能を抑制する能力についてのスクリーニング方法の例では、細胞内でのトロポミオシンの局在分布に対するその化合物の効果を分析することを含む。
【0114】
例えば、対象とする標識トロポミオシンアイソフォームを発現する細胞を候補化合物にさらし、そのトロポミオシンアイソフォームの局在分布の消失をモニターすればよい。この標識トロポミオシンアイソフォームは、例えば、細胞内で蛍光化合物(緑色蛍光タンパク質(GFP)など)と連結したトロポミオシンを含む融合構築物を発現させることによって得ることができる。当業者であれば、他の検出可能な標識をこのスクリーニングアッセイで使用できることを理解するはずである。
【0115】
あるいは、細胞試料を候補化合物にさらし、対象とするトロポミオシンアイソフォームの分布を抗体染色によって決定することができる。
【0116】
トロポミオシンの発現に基づくスクリーニングプロトコル
候補化合物がトロポミオシンの発現を抑制する能力についてスクリーニングする方法の例は、下記のステップを含みうる:
(i)トロポミオシンを発現することができる細胞と候補化合物を接触させるステップと、
(ii)候補化合物と接触させた細胞におけるトロポミオシンの発現量を測定し、この発現量を、試験物質と接触させなかった、対応する対照細胞におけるトロポミオシンの発現量(発現対照量)と比較するステップと、
(iii)上記ステップ(ii)の結果に基づいて、対照発現量と比べてトロポミオシンの発現量低下を示す候補化合物を選択するステップ。
【0117】
このスクリーニング法で使用する細胞は、天然遺伝子と組換え遺伝子の間の差異にかかわらず、トロポミオシンを発現することができるいかなる細胞でもよい。さらに、トロポミオシンの由来は特に限定されない。細胞は、ヒト由来でもよく、あるいはマウスなどのヒト以外の哺乳動物に由来してもよく、あるいは他の生物由来でもよい。適切なヒト細胞の例は、肥満細胞を含めた造血細胞である。さらに、トロポミオシンをコードする核酸配列を含む発現ベクターを含む形質転換細胞を使用することもできる。
【0118】
トロポミオシンを発現することができる細胞と候補化合物を接触させることができる条件は限定されないが、適用する細胞を殺さず、トロポミオシン遺伝子が発現されうる培養条件(温度、pH、培地組成など)の中から選択することが好ましい。
【0119】
「低下した(reduced)」という用語は、発現対照量との比較を指すだけでなく、トロポミオシンが全く発現されない場合をも包含する。具体的には、これにはトロポミオシンの発現量が実質的にゼロである状況が含まれる。
【0120】
トロポミオシン遺伝子(mRNA)の発現量の測定により、または産生したトロポミオシンタンパク質の量を測定することにより、トロポミオシンの発現量を評価することができる。さらに、トロポミオシンの量を測定する方法は、遺伝子(mRNA)の発現量または産生したタンパク質の量を直接測定する方法である必要はなく、それらを反映する任意の方法であってよい。
【0121】
具体的には、トロポミオシンの発現量を測定するために(検出およびアッセイ)、DNAアレイ、またはノーザンブロット法などの周知の方法、ならびに適用するトロポミオシンmRNAのヌクレオチド配列に対して相補的なヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを利用するRT−PCR法を利用して、トロポミオシンmRNAの発現量を測定することができる。さらに、抗トロポミオシン抗体を利用するウェスタンブロット法など周知の方法を実施することにより、トロポミオシンタンパク質の量を測定することができる。
【0122】
トロポミオシン遺伝子と連結したレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子およびエクオリン遺伝子)などのマーカー遺伝子を含む融合遺伝子を導入した細胞系統を使用して、マーカー遺伝子に由来するタンパク質の活性を測定することにより、トロポミオシンの発現量の測定(検出およびアッセイ)を実施することができる。あるいは、その遺伝子から発現されたトロポミオシン産物がリポーターで標識されるように、レポーター配列が相同組換えによりトロポミオシン遺伝子中に導入されている遺伝子操作で作製された細胞中でトロポミオシンの発現を測定することもできる。
【0123】
トロポミオシンの、1つまたはそれ以上のその結合相手との結合に基づく、スクリーニングプロトコル
一実施形態では、トロポミオシンの、トロポミオシンの結合相手との結合に干渉する候補化合物についてスクリーニングすることにより、トロポミオシンアゴニストまたはアンタゴニストを同定する。トロポミオシンの適切な結合相手の例はアクチンである。
【0124】
標準的な固相ELISAアッセイ形式は、タンパク質とタンパク質の相互作用のアンタゴニストを同定するのに特に有用である。この実施形態によれば、例えばポリマー・ピンの整列やガラス支持体などの固体マトリックス上に、結合相手の1つ、例えばアクチン繊維を固定化する。固定化された結合相手は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST;例えば、CAP−アクチン融合物)を含む融合ポリペプチドであると好都合であり、その場合、GST部分が固相支持体へのタンパク質の固定化を促進する。溶液中の第2の結合相手(例えば、トロポミオシン)は、固定化されたタンパク質と物理的な関係を形成してタンパク質複合体を形成するようになり、その複合体は、第2の結合相手に対する抗体を用いて検出される。その抗体は一般に、蛍光分子で標識されるか、または酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ)にコンジュゲートされることによって標識され、あるいは、第1の抗体と結合する第2の標識抗体を使用することもできる。第2の結合相手は、FLAGまたはオリゴヒスチジンペプチドタグが付いた融合ポリペプチドあるいはその他の適切な免疫原性ペプチドとして発現させることが好都合であり、その場合、そのペプチドタグに対する抗体を使用してその結合相手を検出する。あるいは、ニッケル−NTA樹脂(Qiagen)との結合によってオリゴ−HISタグ付加タンパク質複合体を検出することもでき、あるいは、FLAG M2 アフィニティーゲル(Kodak)への結合によってFLAG標識タンパク質複合体を検出することもできる。本明細書に記載のアッセイ形式が、例えば、結合ペプチドまたは融合タンパク質のマイクロアレイの使用など、試料のハイスループットスクリーニングに適合することは、当業者には明らかであろう。
【0125】
米国特許第6,316,223号に記載の2ハイブリッドアッセイを使用して、トロポミオシンの、その結合相手の1つとの結合を妨げる化合物を同定することもできる。この系の基本的な機構は、酵母2ハイブリッド系と同様である。この2ハイブリッド系では、2つの異なる融合タンパク質として、哺乳動物宿主細胞中で結合相手を発現させる。標準的な2ハイブリッドスクリーニングを本目的に適合させる際、第1の融合タンパク質は、一方の結合相手と融合したDNA結合ドメインからなり、第2の融合タンパク質は、他方の結合相手と融合した転写活性化ドメインからなる。そのDNA結合ドメインは、1つまたはそれ以上のレポーター遺伝子の発現を調節するオペレーター配列と結合する。転写活性化ドメインは、結合相手同士の機能的な相互作用を経てプロモーターへと動員される。その後、転写活性化ドメインは、細胞の基本転写装置と相互作用し、それによってレポーター遺伝子の発現を活性化させ、その発現を判定することができる。宿主細胞とともにインキュベートする場合にレポーター遺伝子の転写をモジュレートする能力により、結合相手同士のタンパク質とタンパク質の相互作用をモジュレートする候補生物活性因子を同定する。アンタゴニストは、レポーター遺伝子発現を阻害しまたは低下させるが、アゴニストは、レポーター遺伝子発現を促進するであろう。小分子の変調因子(modulator)の場合、これを細胞培地に直接添加し、レポーター遺伝子発現を判定する。その一方で、宿主細胞内にトランスフェクトした核酸からはペプチド変調因子が発現可能であり、レポーター遺伝子発現が判定される。実際、ペプチドライブラリー全体を、トランスフェクト細胞中でスクリーニングすることができる。
【0126】
あるいは、例えば、Vidalら、Proc. Natl Acad. Sci USA 93, 10315-10320, 1996に記載のような逆2ハイブリッドスクリーニングを使用して、アンタゴニスト分子を同定することもできる。逆2ハイブリッドスクリーニングは、それが、例えばCYH2やLYS2など、タンパク質とタンパク質の相互作用に対して選択する対抗選択レポーター遺伝子を使用する点で、上記の順方向スクリーニングと異なる。細胞の生存または増殖は、対抗選択レポーター遺伝子産物の非毒性基質の存在下で低下しまたは阻害されるが、その基質が、前記遺伝子産物によって毒性化合物に変換されるものである。したがって、前記相互作用のアンタゴニストの存在下などで、本発明のタンパク質とタンパク質の相互作用が起こらない細胞は、基質が毒性産物に転換されないのでその基質の存在下で生存する。例えば、アクチンと結合するトロポミオシンの一部/断片を、GAL4のDNA結合ドメインとの融合物などの、DNA結合ドメイン融合物として発現させ、トロポミオシンと結合するアクチンの一部を、適当な転写活性化ドメイン融合ポリペプチド(例えば、GAL4の転写活性化ドメインを有するもの)として発現させる。その発現にGAL4のDNA結合ドメインと転写活性化ドメインとの間の物理的関係を必要とするURA3のURA3対抗選択レポーター遺伝子と作動的に結合させた融合ポリペプチドを、酵母中で発現させる。例えば、レポーター遺伝子発現を、GAL4が結合するヌクレオチド配列を含むプロモーターの制御下に置くことによって、この物理的関係が実現する。このレポーター遺伝子を発現させる細胞は、ウラシルおよび5−フルオロオロト酸(5−FOA)の存在下では、5−FOAが毒性化合物に転換されるので増殖しない。そのような細胞のライブラリー中で候補ペプチド阻害因子を発現させ、ウラシルおよび5−FOAの存在下で増殖するその細胞を、例えば、候補ペプチド阻害因子をコードする核酸の分析などのさらなる分析のために保持する。小分子の存在下で細胞をインキュベートし、ウラシルおよび5−FOAの存在下で増殖または生存する細胞を選択することにより、この相互作用に拮抗する小分子を決定する。
【0127】
あるいは、Karinらの米国特許第5,776,689号に記載のものなどのタンパク質動員系を使用することもできる。標準的なタンパク質動員系では、特定の細胞区画に転写因子でないエフェクタータンパク質を動員することにより、細胞中でのタンパク質とタンパク質の相互作用を検出する。エフェクタータンパク質が細胞区画に転位すると、エフェクタータンパク質は、その区画に存在するレポーター分子を活性化するが、そのレポーター分子の活性化は、例えば、タンパク質とタンパク質の相互作用が存在することを示す細胞生存率によって検出可能である。
【0128】
より具体的には、タンパク質動員系の成分は、エフェクタータンパク質および一方の結合相手(例えば、アクチンまたはその一部)を含む第1の融合タンパク質をコードする第1の発現可能な核酸、ならびに細胞区画局在ドメインおよび他方の結合相手(例えば、トロポミオシンまたはその一部)を含む第2の融合タンパク質をコードする第2の発現可能な核酸分子を含む。タンパク質とタンパク質の相互作用の不在下ではレポーター分子が発現しないように、内因性エフェクタータンパク質の活性が欠損しているかまたは不在である細胞系統または細胞株(例えば、酵母細胞または他の非哺乳動物細胞)も必要である。
【0129】
結合相手同士の相互作用の結果、融合ポリペプチド間で複合体が形成され、それによって、細胞区画局在ドメイン(例えば、原形質膜局在ドメイン、核局在ドメイン、ミトコンドリア膜局在ドメインなど)が媒介する、適当な細胞区画へのその複合体の転位が誘導され、次いでそこでエフェクタータンパク質がレポーター分子を活性化する。そのようなタンパク質動員系は、例えば、哺乳動物細胞、鳥類細胞、昆虫細胞および細菌細胞を含む基本的に任意の細胞型において、様々なエフェクタータンパク質/レポーター分子系を用いて、実施することができる。
【0130】
例えば、酵母細胞ベースのアッセイを実施し、そのアッセイでは、トロポミオシンと1つまたは複数のその結合相手との相互作用の結果、原形質膜にグアニンヌクレオチド交換因子(GEFまたはC3G)が動員され、GEFまたはC3GがRasなどのレポーター分子を活性化し、それによって、そうでない場合特定の培養条件下で生存しないはずの細胞が生存する。この目的に適した細胞には、例えば、機能的なGEFが発現するときだけ36℃で増殖する出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のcdc25−2細胞がある(Petitjeanら、Genetics 124, 797-806, 1990)。原形質膜へのGEFの転位は、原形質膜局在ドメインによって促進される。例えば、市販のアッセイキットおよび/または試薬を使用して、細胞中の環状AMPレベルを測定することによって、Rasの活性化を検出する。本発明のタンパク質とタンパク質の相互作用のアンタゴニストを検出するために、試験化合物の存在下で、あるいは細胞中での候補アンタゴニストペプチドの発現の存在下または不在下で、二重反復のインキュベーションを実施する。候補化合物または候補ペプチドの存在下での細胞の生存または増殖の低下は、そのペプチドまたは化合物が、トロポミオシンと1つまたは複数のその結合相手との相互作用のアンタゴニストであることを示唆するものである。
【0131】
「逆の」タンパク質動員系も予想され、その場合、細胞の生存または増殖の変更は、候補化合物または候補ペプチドによるタンパク質とタンパク質の相互作用の崩壊を条件とする。例えば、GEFの存在下で活性化Rasを構成的に発現するNIH 3T3細胞を使用することができ、この場合、細胞が形質転換されないと、候補化合物またはペプチドによってタンパク質複合体が崩壊することが示唆される。それと異なり、GEFの存在下で活性化Rasを構成的に発現するNIH 3T3細胞は、形質転換された表現型を有する(Aronheimら、Cell. 78, 949-961, 1994)。
【0132】
さらに他の実施形態では、参照により本明細書に組み込むVidalおよびEndoh、TIBS 17, 374-381, 1999に記載のプレート寒天拡散アッセイを適合させることにより、トロポミオシンのその結合相手の1つとの結合を妨げる能力について小分子を試験する。
【0133】
本発明の好ましい実施形態では、トロポミオシンの結合相手は、カルポニン(Childsら、BBA 1121: 41-46, 1992)、癌胎児性抗原細胞接着因子1(CEACAM1)(Schumannら、J. Biol. Chem. 276 (50): 47421-33, 2001)、エンドスタチン(MacDonaldら、J. Biol. Chem. 276, 25190-25196, 2001)、エニグマ(Guyら、FEBS letters 10: 1973-1984,1999)、ゲルソリン(好ましくは、サブドメイン2)(KoepfおよびBurtnick FEBS 309 (1): 56-58, 1992)、S100A2(Gimonaら、J. Cell Sci. 110: 611-621, 1997)およびアクチンからなる群から選択される。さらに好ましい実施形態では、トロポミオシンの結合相手はアクチンである。
【0134】
ミオシンATPアーゼ活性に基づくスクリーニング法
トロポミオシンの、1つまたは複数のその結合相手との結合に基づくスクリーニングプロトコルの適合化において、その方法は、ミオシンの反応混合物への添加と、ミオシンATPアーゼ活性の検出を伴う。
【0135】
例えば、トロポミオシンアイソフォームをアクチン繊維および特定のミオシンとともにインキュベートすることができる。次いで、候補化合物の存在下でミオシンATPアーゼ活性を測定する。通常の条件下で、トロポミオシンは、ミオシンATPアーゼ活性を抑制する。したがって、トロポミオシンと相互作用し、この抑制活性を阻害する化合物によって、ミオシンATPアーゼ活性が増大する。さらなるスクリーニングおよび/または特徴付けのために、そのような化合物を選択することができる。トロポミオシンを含まない状態、または抗ミオシン効果を除去するのに不適当なトロポミオシンアイソフォームを含む状態で、適切な陽性対照反応を行うことができる。
【0136】
本発明での使用に適合させることができる、ミオシンATPアーゼ活性を測定する方法は、当業者には公知である。そのようなアッセイの例は、Zhaoら、Biochem. Biophys. Res Commun. 267 (1): 77-79, 2000; Westraら、Archives of Physiology and Biochemistry 109: 316-322, 2001;およびDrottら、Biochem J. 264: 191-8, 1989に記載されている。
【0137】
治療法
本発明の方法によって同定されたトロポミオシンアゴニストまたはアンタゴニストを、細胞表面タンパク質の異常な挿入、保持または機能によって生じる疾患に対し治療用に使用することができる。「治療用」という用語、または本発明のトロポミオシンアゴニストまたはアンタゴニストと併せて本明細書で用いるものは、予防上の投与ならびに治療上の投与をどちらも意味する。したがって、疾患の可能性および/または重症度を小さくするために高リスク患者にトロポミオシンアゴニスト/アンタゴニストを投与することもでき、あるいは、すでに活発な疾患の徴候を示している患者にそれを投与することもできる。
【0138】
トロポミオシン機能のアゴニストまたはアンタゴニストで治療することができるヒトまたは他の生物種の疾患または病的状態としては、限定しないが、嚢胞性線維症、多発性硬化症、多発性嚢胞腎疾患、ウイルス感染、細菌感染、再灌流損傷、メンケス病、ウィルソン病、糖尿病、筋緊張性ジストロフィー、てんかん、または、うつ病、双極性障害もしくは気分変調性障害などの気分障害が挙げられる。
【0139】
投与形態
候補化合物が低分子量化合物、ペプチドまたは抗体などのタンパク質の形態である場合は、その物質を、そのような形態のものについて一般的に使用される通常の医薬組成物(医薬品)に製剤化することができ、そのような組成物は、経口的にまたは非経口的に投与することができる。一般的に述べると、下記の剤形および投与法を使用することができる。
【0140】
剤形としては、固体製剤、例えば錠剤、丸剤、粉剤、微粉剤、顆粒剤、およびカプセル剤、ならびに液体製剤、例えば液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、およびエリキシル剤のような代表的な剤形が挙げられる。これらの剤形は、投与経路により、前記の経口剤形、または様々な非経口剤形、例えば経鼻製剤、経皮製剤、直腸製剤(坐剤)、舌下剤、経膣製剤、注射剤(静脈内、動脈内、筋内、皮下、皮内)や点滴注入剤などに分類することができる。例えば経口製剤は、例えば錠剤、丸剤、粉剤、微粉剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などでもよく、特に、直腸製剤および経膣製剤には、錠剤、丸剤およびカプセル剤がある。経皮製剤は、ローションなどの液体製剤だけでなく、クリーム、軟膏などの半固体製剤でもよい。
【0141】
注射剤は、液剤、懸濁剤および乳剤などの形で使用可能にすることができ、ビヒクルとしては、滅菌水、水−プロピレングリコール、緩衝液、および濃度0.4重量%の食塩水を例として挙げることができる。これらの注射剤は、このような液体の形で、凍結または凍結乾燥することができる。凍結乾燥により得られる後者の産物は、注射用蒸留水などで即時に再構成し、投与する。医薬組成物(医薬品)の上記の形態は、当技術分野で確立されている方法で、トロポミオシン抑制作用を有する化合物と、製薬上許容される担体とを配合することによって調製することができる。製薬上許容される担体には、とりわけ、様々な賦形剤、希釈剤、充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、潤滑剤、および分散剤がある。当技術分野で通常使用される他の添加剤を配合することもできる。生産する医薬組成物の形態に応じて、とりわけ、様々な安定化剤、殺真菌剤、緩衝剤、増粘剤、pH調節剤、乳化剤、懸濁化剤、防腐剤、香料、着色料、張性調節剤または等張化剤、キレート剤および界面活性剤の中から、このような添加剤を慎重に選択することができる。
【0142】
このような形態のうちいかなる形態の医薬組成物も、目的の疾患、標的臓器、および他のファクターに適した経路で投与することができる。例えば、静脈内に、動脈内に、皮下に、皮内に、筋内に、または気道を通してそれを投与することができる。それを罹患組織へと局所に直接投与することもでき、あるいは経口でまたは直腸から投与することもできる。
【0143】
このような製剤の投与量および投与スケジュールは、他にもファクターはあるが、剤形、疾患またはその症状、患者の年齢および体重で変わり、一般的には述べることができない。通常の投与量は、ヒト成人に対する有効成分の1日量について約0.0001mg〜約500mg、好ましくは約0.001mg〜約100mgの範囲でありうるが、1日1回、または1日数回に分けて毎日この量を投与することができる。
【0144】
トロポミオシン抑制活性を有する物質がアンチセンス化合物などのポリヌクレオチドの形態であるとき、遺伝子治療用薬または予防薬の形でその組成物を提供することができる。近年、様々な遺伝子の使用に対する多数の報告があり、遺伝子治療は、現在では確立された技術である。
【0145】
目的のポリヌクレオチドをベクター中に導入し、またはそのベクターで適当な細胞をトランスフェクトすることにより、遺伝子治療用薬を調製することができる。患者への投与の様式は、おおよそ2つの形態に分けられる。すなわち、(1)非ウイルスベクターを使用する場合に適した形態、および(2)ウイルスベクターを使用する場合に適した形態である。ウイルスベクターを前記ベクターとして使用する場合、および非ウイルスベクターを使用する場合それぞれに関して、遺伝子治療用薬剤を調製する方法も投与する方法も、実験プロトコルに関するいくつかの書籍に詳細に論じられている[例えば、「別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術(Supplement to Experimental Medicine, Fundamental Techniques of Gene Therapy)」、Yodosha, 1996;別冊実験医学:遺伝子導入&発現解析実験法(Supplement to Experimental Medicine: Experimental Protocols for Gene Transfer & Expression Analysis)、Yodosha, 1997; Japanese Society for Gene Therapy(編):遺伝子治療開発研究ハンドブック(Research Handbook for Development of Gene Therapies)、NTS, 1999など]。
【0146】
非ウイルスベクターを使用するとき、抗トロポミオシン核酸を発現することができるいかなる発現ベクターをも使用することができる。適切な例には、pCAGGS[Gene 108, 193-200 (1991)]、pBK−CMV、pcDNA3.1、およびpZeoSV(Invitrogen, Stratagene)がある。
患者へのポリヌクレオチドの導入は、目的のポリヌクレオチドをそのような非ウイルスベクター(発現ベクター)中に通常の方法で挿入し、得られた組換え発現ベクターを投与することによって実現することができる。そうすることにより、目的のポリヌクレオチドを患者の細胞または組織中に導入することができる。
【0147】
より具体的には、ポリヌクレオチドを細胞中に導入する方法としては、とりわけ、リン酸カルシウムトランスフェクション(共沈)技術、およびガラス微小管を用いたDNA(ポリヌクレオチド)直接注入法が挙げられる。
【0148】
ポリヌクレオチドを組織中に導入する方法としては、とりわけ、内部型リポソームまたは静電型リポソームを用いたポリヌクレオチド導入技術、HVJ−リポソーム技術、改変型HVJ−リポソーム(HVJ−AVEリポソーム)技術、受容体媒介性ポリヌクレオチド導入技術、パーティクルガンを用いて運搬体(金属粒子)と共にポリヌクレオチドを細胞中に導入することを含む技術、むき出しのDNAを直接導入する技術、および正荷電ポリマーを用いた導入技術が挙げられる。
【0149】
適切なウイルスベクターには、組換えアデノウイルスおよびレトロウイルスに由来するベクターがある。例としては、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビズ(sindbis)ウイルス、センダイウイルス、SV40、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの、DNAまたはRNAウイルスに由来するベクターがある。特に、アデノウイルスベクターは、他のウイルスベクターより感染効率が非常に高いことで知られ、この観点から、アデノウイルスベクターを使用することが好ましい。
【0150】
患者へのポリヌクレオチドの導入は、目的のポリヌクレオチドをそのようなウイルスベクター中に導入し、所望の細胞を得られた組換えウイルスに感染させることによって実現することができる。この方法では、目的のポリヌクレオチドを細胞中に導入することができる。
【0151】
このように調製した遺伝子治療用薬を患者に投与する方としては、遺伝子治療用薬を直接体内に導入するin vivo技術、特定の細胞を人体から取り出すステップと、in vitroで細胞内に遺伝子治療用薬を導入するステップと、その細胞を人体に戻すステップとを含むex vivoの技術が挙げられる[Nikkei Science, April, 1994 issue, 20-45; Pharmaceuticals Monthly, 36 (1), 23-48, 1994; Supplement to Experimental Medicine, 12 (15), 1994; Japanese Society for Gene Therapy(編):Research Handbook for Development of Gene Therapies, NTS, 19991]。本発明が扱う炎症性疾患の予防または治療での使用では、in vivoの技術によって薬を体内に導入することが好ましい。
【0152】
in vivoの方法を使用するとき、目的の疾患、標的臓器などに適した経路で薬を投与することができる。例えば、静脈内に、動脈内に、皮下にまたは筋内にそれを投与することもでき、例えば、あるいはそれを罹患組織へと局所に直接投与することもできる。
【0153】
前記の投与経路に従う様々な製剤形態で遺伝子治療用薬を供給することができる。注射可能な形の場合では、例えば、それ自体確立された手順によって、例えば有効成分のポリヌクレオチドを、緩衝液、例えばPBS、生理食塩水や滅菌水などの溶媒中で溶解し、その後必要な場合はフィルターに通して滅菌し、その溶液を滅菌容器に入れることによって注射剤を調製することができ、必要な場合は、この注射剤に通常の担体などを補充することができる。HVJ−リポソームなどのリポソームの場合では、懸濁剤、凍結製剤や遠心濃縮凍結製剤などの形での様々なリポソーム取り込み型製剤で薬剤を供給することができる。
【0154】
さらに、遺伝子が罹患部位の近傍に容易に局在化できるために、徐放性製剤(例えば、ミニペレット)を調製し罹患部位の近くに移植することもでき、あるいは、浸透圧ポンプなどによって薬剤を連続的かつ段階的に罹患部位に投与することもできる。
【0155】
遺伝子治療用薬剤のポリヌクレオチドの含有量は、治療する疾患、患者の年齢および体重、および他のファクターに従って慎重に調整することができるが、通常の投与量は、各ポリヌクレオチドについて約0.0001mg〜約100mgであり、好ましくは約0.001mg〜約10mgである。好ましくは、この量を数日または数ヶ月の間隔で投与する。
【0156】
本明細書全体にわたって、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」や「含んでいる(comprising)」などの語尾変化は、述べられた要素、整数またはステップ、あるいは一群の要素、整数またはステップを包含するが、他のどんな要素、整数またはステップ、あるいは一群の要素、整数またはステップをも除外するものではないことを意味すると理解されるであろう。
【0157】
本明細書に含まれている、文献、行為、材料、機器、物品などについてのどんな考察も、本発明の状況を与える目的のものに過ぎない。これらの事柄のいずれかまたはすべてが、本願の各請求項の優先日の前からオーストラリアで存在していたように、従来技術の土台の一部を形成し、または本発明に関係する分野における通常の一般的な知識であったことを認めるものとみなすべきでない。
【0158】
本発明を下記の実施例によって次に説明するが、その実施例は、いかなる形でも限定的に意図されるものではない。
【実施例】
【0159】
実験の詳細
材料および方法
試薬および抗体
サイトカラシンD、フォルスコリン、6−メトキシキノリニウム1−酢酸エチルエステル(MQAE)、ノコダゾール、3’3’5’5’テトラメチルベンジジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタン(DABCO)、ポリ−D−リシンおよび1%コラーゲンは、Sigma(St.Louis,MO,米国)から購入した。リポフェクチン(Lipofectin)試薬およびアンチセンスオリゴヌクレオチドは、Invitrogen(Mulgrave,Vic,オーストラリア)から購入した。ジャスプラキノリド(Jasplakinolide)は、Bio Scientific(Gymea,N.S.W.,オーストラリア)から購入した。塩化ニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸p−トルイジン塩(NBTおよびBCIP)、組織培養液および試薬は、Life Technologies(Mulgrave,Vic,オーストラリア)から購入した。ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイキットは、Pierce(Rockford IL,米国)から購入した。サーマノックス(Thermanox)カバーガラスおよびガラスチャンバースライドは、Medos(Mt Waverley,Vic,オーストラリア)から購入した。組織培養用プラスチック容器は、Interpath(Morrisville North Carolina,米国)から購入した。ウェスタンライトニング(Western Lightening)(商標)化学発光試薬は、Perkin Elmer Life Sciences Inc(Boston,MA,米国)から購入した。
【0160】
ローダミンレッドXコンジュゲートおよびローダミン付加ヤギ抗ヒツジIgGは、Jackson Immunoresearch(West Grove,PA,米国)から入手した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)付加抗マウスおよび抗ウサギIgGは、Amersham Life Sciences(Buckinghamshire,英国)から入手した。マウスモノクローナルTm抗体311、および2次抗体フルオレセインイソチオシアネート(FITC)−ロバ抗マウスは、Sigma Aldrich(St.Louis,MO,米国)から入手した。Tm抗体CG3は、J.C.Lin(アイオワ大学、アイオワ、米国)から贈与されたものである。CFTR抗体(MA1−935)は、Affinity Bioreagents Inc.(Golden,CO,米国)から入手した。マウスモノクローナル抗ヒトC末端特異的CFTR抗体は、Bio Scientific(Gymea,N.S.W.,オーストラリア)から入手した。
【0161】
細胞培養
ヒトT84結腸癌細胞を、ポリ−D−リシンおよび1%コラーゲンで被覆した、2枚のチャンバーガラススライド、24または96穴プレートあるいはカバーガラスに播いた。T84細胞は、American Tissue Culture Laboratoryから取得し(継代数60)、またKim Barrett(サンディエゴ、米国)(継代数20)から厚意により贈与を受けた。研究の経過において、これらを、それぞれ継代数80および30まで継代培養した。Liらの方法を用いて、T84細胞を培養した(Liら、1999, Infection & Immunity 67, 5938-5945)。
【0162】
トリパンブルー排除アッセイを用いて、各処理後のT84細胞の生存率を評価した。処理後、T84細胞単層を穏やかにPBSで洗浄し、1%トリパンブルーで10分間染色した。位相差顕微鏡法によって細胞を直ちに調べた。ランダムな顕微鏡視野で、トリパンブルーを取り込んだ細胞数をカウントすることにより、処理した単層および対照の単層を比較した。
【0163】
免疫蛍光分析
2%ウシ胎児血清(FBS)含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を洗浄し、次いで4%パラホルムアルデヒドで固定した。100%メタノールでこれを透過処理し、−80℃で20分間冷却した。1次抗体および2次抗体とともに細胞を室温で1時間インキュベートし、各インキュベーション後に2%FBS含有PBSでの10分間の洗浄を3回行った。カバーガラスを、抗退色試薬DABCOとともにスライド上に載せた。
【0164】
蛍光顕微鏡法
共焦点レーザー走査顕微鏡(Leica Microsystems,Wetzler,ドイツ)で、63×油浸対物レンズを用いて、蛍光を調べた。FITCについては488nmで、ローダミンについては568nmで走査し、ノイズを除去するために8回ライン平均(line average)を用いることによってフルオロフォアの分布を測定した。垂直(xz)面および水平(xy)面で画像を取得した。水平面での画像は、細胞の頂端領域から基底領域まで1μm刻みで得た画像断面を重ねることによって構築した。
【0165】
共焦点顕微鏡法によって得た画像上でのTm抗体染色の画素強度を測定した。単層の頂端領域を横断して、またその中央領域を横断して、測定を行い、それらを平均して個々の単層についての平均画素強度を得た。個々の単層内の抗体染色の分布は、頂端領域での平均画素強度の、その単層の中央領域での平均画素強度に対する比として記載される。αf9d抗体染色と311抗体染色の相対的な分布を決定するために、αf9dと311についての頂端:中央の平均画素強度比を、対をなす試料についてのスチューデントt−検定を用いて共染色した単層において比較した。
【0166】
組織検体の抗体染色
ラット十二指腸の組織検体を4%パラホルムアルデヒド生理食塩水中で固定し、パラフィン中に包埋するまでそれを4℃で70%エタノール中に保存した。切片をキシロール中で脱蝋し、段階的なエタノール(100%、100%、70%、水)中で段階的に再水和した。1×クエン酸緩衝液(10×クエン酸緩衝液:5g/l EDTA、2.5g/lトリス塩基、3.2g/lクエン酸三ナトリウム;pH8.0)中で検体を加熱し、12分間高マイクロ波処理し、次いで冷ますことによって抗原回復を行った。検体をPBSで2回洗浄し、10%血清含有PBSで10分間ブロッキングを行った。次いで、室温で一晩1次抗体を反応させた。2次抗体を反応させる前に、検体をPBS中で5分間にわたり2回洗浄した。2次抗体を1時間反応させ、その後検体をPBSで5分間1回、アルカリリン酸緩衝液(0.1Mトリス(pH9.5)10ml、1M MgCl 5mlおよび5M NaCl 2ml)で5分間1回洗浄した。次いで、NBTおよびBCIPを含む基質を40〜60分間反応させ、その後検体をPBSで5分間1回洗浄した。次いで、検体をNuclear Fast Redで1分間対比染色し、その後蒸留水で2回すすぎ、漸増勾配のエタノール(70%、100%、100%、100%)で脱水し、キシロールで洗浄し、カバーガラスをかけた。
【0167】
単層形成の際のジャスプラキノリド、サイトカラシンおよびノコダゾールによる細胞処理
トリプシン/EDTAを用いて上皮細胞の単層をトリプシン処理し、遠心して細胞ペレットを形成させた。次いで、細胞を1μMジャスプラキノリド、20μMサイトカラシンDまたは33μMノコダゾールを含む培地中に再懸濁し、ポリ−d−リシンおよびコラーゲンで被覆されたガラスチャンバースライド中に播いた。次いで、発達中の単層を、播いてから10分後に固定し染色した。βチューブリンに対する抗体で染色し、非処理細胞と比較することにより、微小管に対するノコダゾールの効果を確認した。成熟したT84細胞単層を20μMサイトカラシンDを含む培地で3時間処理し、次いで固定し染色した。次いで免疫蛍光分析を上記に記載のようにして行った。
【0168】
アンチセンスオリゴヌクレオチド
Tm5aおよびTm5bに対するアンチセンスおよびナンセンスホスホロチオエートオリゴヌクレオチド配列は、それぞれ5’−CACCGCCUCCAGCGAGCT(配列番号14)および5’−GCTCCAGCCACGCCGACT(配列番号15)であった。これらは、ヒトαTMfast遺伝子(Novyら、1993, Cell Motility & the Cytoskelton 25, 267-281)のエキソン1b配列から設計した。ガラスチャンバースライドまたは24穴プレート中のカバーガラス上で、T84細胞単層を集密状態まで増殖させた。製造業者の説明書に従って、オリゴヌクレオチドを濃度2μMで、リポフェクチン試薬を10μg/mlで加えた。次いで、T84細胞単層をオリゴヌクレオチドとともに37℃、5%CO中で24時間インキュベートし、その時間の後、これを、オリゴヌクレオチド前処理を必要とする実験に使用した。
【0169】
トロポミオシンアイソフォームのイムノブロット分析
WesselおよびFlugge(WesselおよびFlugge, 1984)の方法を用いて、T84細胞からタンパク質を抽出した。記載の通りに(Percivalら、2000, Cell Motility & the Cytoskeleton 47, 189-208)ウェスタンブロットを行った。簡潔に述べると、15%低ビスアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEによってタンパク質を分画し、それをポリ二フッ化ビニリデン膜に転写し、Tm抗体を用いてプローブした。HRP結合ヤギ抗ウサギIgGまたはヤギ抗マウスIgGを用いて、結合した抗体を検出した。ウェスタンライトニング(商標)化学発光試薬を用いてバンドを検出し、それをX線フィルムに露光した。
【0170】
コンピュータプログラムMolecular Analyst(Version 1.5,Bio Rad Laboratories,CA,米国)を使用し、ウェスタンブロットのオートラジオグラフ上のタンパクバンドの濃さとして、タンパク質発現を測定した。タンパクバンドの濃さは、個々の実験内で、対照群のタンパクバンドの濃さに対して標準化したタンパクバンドの濃さとして報告される。処理の効果を判定するために、片側スチューデントt検定により、帰無仮説値1に対して、標準化したタンパクバンドの濃さを比較した。
【0171】
MQAE塩素イオン流出アッセイ
24穴または96穴プレート上で培養したT84細胞単層を、10mM MQAEを含む培地中で16時間インキュベートした。次いで単層を塩素イオン緩衝液(2.4mM NaHPO、0.6mM NaHPO、1mM KSO、1mM MgSO、3.4mM KCl、124.6mM NaCl、1mM CaCl、10mMグルコースおよび10mM HEPES)中で3回洗浄した。10μMフォルスコリンを含む塩素イオン緩衝液とともに10分間インキュベートすることによって、フォルスコリンでT84細胞単層を刺激し、その後塩素イオン緩衝液を除去し、10μMフォルスコリンを含む塩素イオン不含緩衝液(2.4mM NaHPO、0.6mM NaHPO、1mM KSO、1mM MgSO、3.4mM KNO、1mM Ca(NO、124.6mM NaNO、10mMグルコースおよび10mM HEPES)で置換した。蛍光プレート読み取り器(励起、λ−360nm;発光、λ−460nm)を用いて、直ちに反復的蛍光分析を開始した。測定は、30〜60秒毎に15分間行った。
【0172】
基線から特定の時点までの間における蛍光のパーセンテージ増加として、塩素イオン流出を測定した。蛍光のパーセンテージ増加は、各実験において、その実験の対照群における蛍光の平均パーセンテージ増加に対して標準化した。処理の効果を判定するために、蛍光の標準化パーセンテージ増加を群間で比較した。スチューデントt検定を用いて、2群の比較を行った。
【0173】
酵素結合表面CFTRアッセイ
コラーゲン被覆カバーガラス上で培養したT84細胞単層を、10μMフォルスコリンを含む塩素イオン緩衝液、または塩素イオン緩衝液単独の中で、37℃、5%CO中で30分間インキュベートし、次いで4%パラホルムアルデヒドで4℃で20分間固定した。最初に、1:500に希釈したCFTR(MA1−935)抗体(Walkerら、1995)、その後、1:1000に希釈したHRP抗マウスIgGとともに、T84細胞単層を1時間インキュベートした。各インキュベーションの前に、10%FBSを含むPBS中で10分間にわたりT84細胞単層をブロッキング処理し、各インキュベーション後にPBS中で4回洗浄した。次いで、クリーンな24穴プレート中にそのカバーガラスを入れ、3’3’5’5’テトラメチルベンジジン500μlとともに30分間インキュベートした。各ウェルからの上清をキュベットに移し、Beckman DU650分光光度計で、655nmでの吸光度を測定した。1次抗体陰性の対照について655nmでの吸光度も測定し、そして1次抗体陽性の単層での吸光度からその値を差し引いて、そのアッセイの結果を決定した。
【0174】
CFTR表面発現は、個々の実験内で、対照群の平均吸光度に対して標準化した、655nmで測定した吸光度として報告される。処理の効果を判定するために、655nmでの標準化吸光度を群間で比較した。スチューデントt検定を用いて、2群の比較を行った。
【0175】
実施例1: T84細胞におけるトロポミオシン遺伝子発現および抗体特異性
Tmタンパクは、4つの異なる遺伝子によってコードされている。この研究で使用する抗体は、3つのTm遺伝子から生成される特定のアイソフォームを検出することができた。これらの遺伝子のエキソン/イントロン構造を図1に示す。αf9d抗体は、Tm1、2、3、5a、5bおよび6を検出する(Schevzovら、1997, Molecular & Cellular Neurosciences 8, 439-454)。311抗体は、αf9d抗体によって検出されるTmサブセット、すなわちTm1、2、3、および6を検出する。CG3抗体は、Tm5NM1−11を検出する(Novyら、1993, Cell Motility & the Cytoskeleton 25, 267-281; Dufourら、1998, Journal of Biological Chemistry 273, 18547-18555)。
【0176】
ヒト線維芽細胞では、311抗体によって3本のバンドが検出された。バンドは、40、36および34kDaで認められ、それぞれTm6、2および3に対応した(図2A)。T84細胞では、311抗体によりTm6および3に対応する40kDaおよび34kDaのバンドだけが検出された(図2A)。αf9d抗体により、T84細胞で4本のバンドが検出され、40kDaおよび34kDaに認められるバンドはTm6およびTm3に対応し、30kDaでの二重のバンドはTmの5aおよび5bに対応した(図2B)。CG3抗体により、30kDaで単一バンドが検出され、これは同時移動するTm5NMアイソフォーム群に対応した(図2C)。
【0177】
実施例2: T84細胞単層は、Tm5aおよびTm5bの局在分布を示す
T84細胞における別々の微小繊維集団の分布を決定するために、各抗体で染色した8つの単層を、共焦点顕微鏡法により垂直面と水平面の両方について調べた。代表的な画像を図3に示す。Tm3、5a、5bおよび6を検出するαf9d抗体で、細胞の頂極が主に染色されることが判明した(図3A)。しかし、Tm3および6を認識する311抗体は、同じ細胞の頂極から基底極まで、より均一な分布を示すことが判明した(図3C)。この染色パターンの違いは、αf9dによって検出されるが311によって検出されない2つのアイソフォーム(すなわち、Tm5aおよびTm5b)が高度に局在分布することによってのみ説明されうる。したがって、Tm5aおよびTm5bは頂端表面において高度に富化されていると結論付けられる。Tm5NM1−11を染色する抗体CG3は、細胞全体に分布していた(図3E)。
【0178】
水平面で得られた、上皮細胞単層の断面では、αf9d(図3B)および311(図3D)の分布は、側方細胞膜と関連していることが判明し、細胞質中では染色が少し認められた。CG3は、細胞核の周囲の細胞質中に位置付けられることが判明した(図3F)。
【0179】
図3Gに示すαf9dおよび311抗体染色の相対的分布の定量分析から、上記で述べた質的差異が確認された。αf9d抗体についての頂端と中央の画素強度の平均比は、311抗体のものよりかなり高かった(3.88±0.60 対 1.64±0.23;p<0.001)。
【0180】
実施例3: 特有の微小繊維集団の局在分布は、ラット十二指腸での上皮細胞の分化に伴って変化する
T84細胞で観察されるTmアイソフォームの分布が、陰窩と絨毛の両方の消化管上皮細胞においてin vivoで認められるものと異なるかどうかを判定するために、6つのラット十二指腸組織検体をTmアイソフォームについて染色し、明視野顕微鏡法で調べた。代表的な切片を図4に示す。αf9d抗体で染色すると、陰窩上皮中で散在した染色像を示した(図4C矢印)。より分化した絨毛上皮での染色は、頂端領域で高度に富化されていたが、細胞質全体にも認められた(図4D矢印)。311抗体での染色(Tm3および6)は、陰窩上皮中ではまばらであった(図4E)。絨毛上皮では、その青い染色が、核の上に位置する環状の領域で認められた(図4F)。CG3抗体での染色(Tm5NM1−11)は、αf9d抗体で認められるものと同様の分布を示した。陰窩上皮細胞では、その染色は、細胞全体にわたって散在した(図4G)が、絨毛上皮細胞では、頂端領域で強く濃縮された染色が認められた(図4H)。陰窩で主にみられる杯細胞では、その染色は、特徴的な粘液胞の外側に散在していた(図4G)。
【0181】
これらの結果から、Tmアイソフォームが、より分化した絨毛上皮細胞では局在するが、あまり分化していない陰窩上皮細胞では局在しないことが実証される。重要なことに、十二指腸の絨毛上皮細胞におけるαf9d抗体と311抗体染色の相対分布からは、Tm5aおよびTm5bが、T84細胞モデルでの局在と同様にin vivo局在することが示唆される。
【0182】
実施例4: 特有の微小繊維集団の局在分布は、単層形成の初期段階で起こる
αf9d染色の局在分布が起こる時間系列を、T84細胞を播いてから10分後、1時間後、2時間後および24時間後に調べた。各時点について3回実験を行った。播いてから1時間後、2時間後、4時間後、24時間後および7日後に収集したT84細胞から抽出したタンパク質に対してウェスタンブロットを行うことにより、Tmアイソフォームの発現を調べた。各時点で3回実験を行った。
【0183】
代表的な共焦点顕微鏡画像を図5に示す。懸濁液中でみられるT84細胞では、αf9d、311およびCG3抗体(図6A、6Bおよび5I矢印、またデータを示さず)の染色は、周縁性である。播いてから10分後(5A〜C)、T84細胞が、細胞と細胞の接触および細胞とスライドの接触を形成することが広く観察された。染色はαf9dよりCG3および311で明らかであったが、すべての抗体で、この最初の時点で細胞とスライドの接触部位での染色の低下が認められた。さらに、αf9d抗体染色は、自由表面に限られているように見えたが、311抗体染色は、細胞と細胞の接触部位でより顕著であった。それと異なり、CG3抗体染色は、自由表面と、細胞と細胞の接触部位の両方にわたってより均一に分布していた。経時的には、αf9d染色の分布は基本的には変化せず(5E、HおよびK)、自由表面において濃縮された染色を示し(これはTm5aおよびTm5bを表す)、311と似た低レベルの散在性染色を示す(これはTm6およびTm3を表す)。それと異なり、311抗体染色(5D、GおよびJ)とCG3抗体染色(5F、IおよびL)の分布はどちらも、すべての表面および細胞質を含むように細胞全体にわたってより均一に分布するようになった。
【0184】
ウェスタンブロット分析から、播いてから2時間後および4時間後に収集したT84細胞では、Tm6および5aの発現が、播いてから24時間後および7日後に収集した細胞と比べてわずかに増加することが明らかとなった(図5N)。これらのアイソフォームのレベルの変化では、αf9dおよび311抗体の染色の変化を説明することはできない。したがって、これらのアイソフォームの分布の変化は、これらのタンパク質の標的化の変化から生じている可能性が最も高い。
【0185】
実施例5: Tm5aおよびTm5bの初期の局在分布は繊維の代謝回転を伴わず、微小管に依存しない
微小繊維の局在化の生起について考えられる機構を、細胞を播く際の細胞骨格の薬剤操作によって検討した。アクチン繊維を安定化するのにジャスプラキノリドを使用し、アクチン繊維を断片化するのにサイトカラシンDを使用し、微小管を崩壊させるのにノコダゾールを使用した。T84細胞が懸濁液中に存在する間にこれらの薬剤をT84細胞に加え、10分後にプレートに播いた。プレートに播いてから10分後に細胞を調べた。
【0186】
T84細胞をジャスプラキノリドで前処理した後に細胞を播くと、細胞の形態が変化した。T84細胞は、非処理細胞(図5A)と比べて扁平な外観(図6A)となった。ジャスプラキノリドで前処理したT84細胞では、細胞を播いてから10分後のαf9d(図6B)と311(図6A)抗体染色のどちらの分布も、対照のT84細胞(5Aおよび5B)と同様であった。αf9d抗体の分布は頂端のままであったが、311抗体の分布は、細胞と細胞の接触部位でより顕著であるように見えた。T84細胞をサイトカラシンDで前処理した後に細胞を播くと、細胞とスライドの接着が妨げられ、画像が得られなかった。しかし、構築された単層をサイトカラシンDで処理すると、αf9d染色の局在分布が消失したことから、その維持に無傷のアクチン骨格が必要であることが示唆される(図6F)。
【0187】
T84細胞をノコダゾールで前処理した後に細胞を播くと、細胞の形態が変化した。T84細胞は、湾曲した表面をもつもの(図5A)から不規則な外観をもつもの(図6C)へと変化した。細胞を播いた後の10分間ノコダゾールで処理したT84細胞でのαf9d抗体染色の分布(図6D)は、非処理T84細胞と同様であった。311抗体での染色は、αf9d抗体と同様であるように見え、頂端表面での濃縮と、細胞とスライドとの接触部位での少量の染色とが認められた(図6C)。βチューブリンの染色から、ノコダゾールが正常な微小管構造を崩壊させたことが確認された(データは示さず)。
【0188】
これらの結果から、アクチン安定化剤であるジャスプラキノリドが局在化の初期の生起に影響を及ぼさなかったので、Tm5aおよびTm5bの初期の局在化が繊維の代謝回転を伴わないことが示唆される。さらに、ノコダゾールで微小管を崩壊させたにも関わらずTm5aおよびTm5bの局在化が生じたように、無傷の微小管は必要でない。しかし、微小管は、細胞と細胞の接触部位へのTm3およびTm6の再配置またはその部位でのそれらによる安定化に関与する可能性がある。
【0189】
実施例6: Tm5aとTm5bは、膜に挿入されたCFTRと共局在するが、頂端の下の小胞中に含まれるCFTRとは共局在しない
CFTR抗体でT84細胞を染色することにより(図7B)、CFTRの様々な発現が示された。CFTRは、2つの形態で認められた。いくつかの細胞は頂端の顕著な染色を示し、CFTRは頂端膜で突き出しているように見えた。CFTRはまた、細胞質中に位置する小さな斑点としても認められ(図7B、矢印)、これは小胞様の構造内に位置するように見えた。αf9d抗体と同時染色すると、頂端表面の周囲から上方に突出した非常に強い頂端染色部位に加えて、頂端に濃縮された典型的な局在化が見られることが明らかとなった。このαf9d染色の高度に濃縮された部位は、CFTRの膜取り込み部位と一致した(図7C)。したがって、Tmは、CFTRと関連した構造中に取り込まれるように思われた。CFTRの膜染色部位はすべて、この強いαf9d染色部位と関連していた。しかし、強いαf9d染色部位のすべてが著しいCFTR染色を示すわけではなかったことから、αf9d抗体染色は、CFTRが挿入できる部位に関連することが示唆される。αf9d抗体は、細胞質の小胞様構造内に含まれるCFTRと共局在しなかった。
【0190】
実施例7: Tm5aおよびTm5bのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、T84細胞単層におけるαf9dの頂端染色の強度を変化させる
以前の研究で、サイトカラシンDがアクチン繊維の崩壊を誘導しCFTRを通る塩素イオン流を増大させることが示されており(Pratら、1995, American Journal of Physiology 268, C1552-C1561)、また本発明者らはサイトカラシンDがαf9d染色の局在分布をも崩壊させることを観察している(図6F)。そこで本発明者らは、CFTRと共局在する、αf9dによって標識されたアクチン繊維が、CFTRによる塩素イオン分泌を抑制する可能性を推論した。このことについて調べるために、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはランダムな(scrambled)ナンセンス対照でT84細胞単層を処理した。ウェスタンブロット分析から、オリゴヌクレオチドにさらしてから24時間後にTm5aおよびTm5bのレベルが実質的に低下することが示された(図8D)。ナンセンス処理と比較して、アンチセンスではTm5aおよびTm5bのレベルで54±13%(p=0.02)の平均低下を示した。
【0191】
T84培養物をアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理すると、αf9d染色の局在分布が消失し、細胞全体にわたって広く一様となった(図8B)。それと異なり、ナンセンスオリゴヌクレオチドは、αf9d染色の分布に対して基本的に影響を及ぼさなかった(図8A)。アンチセンスオリゴヌクレオチドによって誘導される染色の再分布は、頂端表面でのαf9d染色の画素強度の低下に対応していた。これらのオリゴヌクレオチドと並行して処理したT84細胞単層では、ナンセンス培養物と比べてアンチセンス培養物の頂端での画素強度が低下した(図8E)。これは、αf9d抗体によって検出された、局在化Tm群のレベルの減少と一致している。
【0192】
結論として、αfast遺伝子のエキソン1bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理すると、αf9d抗体での頂端染色が著しく低下した。これらの結果から、非処理のT84細胞単層における頂端での顕著なαf9d抗体染色が、Tm5aおよびTm5bの局在分布に起因するものであることも確認される。
【0193】
実施例8: Tm5aおよびTm5bのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、CFTR表面発現および塩素イオン流出を増大させる
アンチセンスによるTm5aおよびTm5bレベルの低下ならびにαf9d染色の局在分布の消失によって、これらの分子のCFTR表面発現における役割を評価する機会が与えられた。これは、ナンセンス対照と比べてアンチセンスで50%の増加を示した(1.49±0.78 対 1±0.42;p<0.001)。このことから、Tm5aおよびTm5bの存在が、頂端膜中へのCFTR挿入に対する障害として、または膜中でCFTRを保持するものとして作用することが示唆される。
【0194】
CFTR表面発現の増大は、アンチセンス処理細胞からの塩素イオン流出の増大と対応していた。合計で、21個のT84細胞単層を2μMのアンチセンスで24時間処理し、2μMのナンセンスで24時間処理した21個のT84細胞単層と比較した。アンチセンスおよびナンセンス処理の後、MQAE塩素イオン流出アッセイを行った。その結果を図9Bに示す。アンチセンスで処理したT84細胞単層は、10μMのフォルスコリンで15分間刺激した後にナンセンスで処理したT84細胞単層より著しく高い相対蛍光測定値を示した(1,47±0.41 対 1±0.36;p<0.001)。
【0195】
実施例9: 微小管の崩壊は、T84細胞単層におけるCFTR表面発現に影響を及ぼさない
Tmのアンチセンス処理によるCFTR表面レベルおよび塩素イオン流出に対する効果は、微小管の崩壊と対応していなかった。T84細胞をノコダゾールとともにインキュベートしても、CFTR表面発現(図10A)にも塩素イオン流出(図10B)にも著しい変化は誘導されなかった。本発明者らは、これらのパラメーターは、短期間の条件下でアッセイを行った場合、微小管系ではなく微小繊維系の崩壊を受けやすいと結論付ける。このことは、小胞体カーゴの頂端膜への挿入またはその保持を調節する際に、微小管ではなくアクチン繊維がより重要な役割を果たすこととよく相関する。
【0196】
実施例10: アクチン骨格に対する腸管病原性大腸菌(EPEC)感染の影響
腸管病原性大腸菌(EPEC)は、オーストラリア原住民社会の小児における胃腸炎の最大17%の原因である。それが下痢を引き起こす機構は不明であるが、動物モデルでは塩素イオン分泌の増大が関係していた。本発明者らは、細胞培養モデルで、EPEC感染がCFTR塩素イオンチャネルによる上皮細胞の塩素イオン分泌低下を引き起こし、上皮細胞の細胞骨格内でトロポミオシン5aおよび5bアイソフォームの再分布を誘導することを以前示した。これらのトロポミオシンの機能は知られていないが、本発明者らは、頂端膜でそれらがCFTR塩素イオンチャネルと共局在することを示した。
【0197】
この実験の目的は、EPEC感染が、CFTR塩素イオンチャネルを通る塩素イオン分泌を変化させる機構について調べることであった。
【0198】
コラーゲン被覆した24穴プレート中でまたはプラスチック製カバースリップ上で増殖させた培養T84結腸癌細胞単層を、消化管上皮モデルとして使用した。EPEC(1穴に付き104生物)を接種した単層を6〜9時間インキュベートしたものをEPEC感染モデルに使用し、非病原性対照であるHB101と比較した。アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用して、トロポミオシン5aおよび5bの発現を低下させた。免疫比色アッセイを使用してCFTR表面発現を評価し、細胞内でのMQAEの蛍光を使用して塩素イオン流出を評価した。
【0199】
その結果、HB101と比べてEPEC感染によってCFTR発現が増加した(平均増加率:153%;95%CI:100%、205%;p<0.001)が、塩素イオン分泌は低下した(平均低下率:37%;95%CI:8%、66%;p=0.014)ことが示された。
【0200】
トロポミオシン5aおよび5bの再分布は、EPEC感染で認められた、頂端膜でのCFTR挿入の増大と、原因として関係する可能性がある。トロポミオシン5aおよび5bを含む繊維は、消化管上皮細胞の頂端膜でのCFTRの挿入または保持に対する障害となる可能性がある。増加した膜CFTRの存在下で塩素イオン分泌が低下したことから、EPECがCFTR塩素イオンチャネル機能をも抑制できることが示唆される。EPEC感染では、高い表面発現の存在下でCFTR機能が回復した後の反動現象として、下痢が起こる可能性がある。
【0201】
これらの結果から、EPECが、TM5aおよびTM5bの局在または機能を阻害することができる化合物を含むことが示唆される。したがって、EPECは、本明細書に記載のスクリーニングアッセイで使用する物質の有用な供給源である可能性がある。
【0202】
考察
上皮細胞の極性の確立におけるトロポミオシンアイソフォームの選別
特殊化した機能ドメインの生成を伴う局在化の生起は、正常な上皮細胞機能を必要とする。上皮細胞の局在化プロセスの中心は、ドメインにその機能を与えるタンパク質を選別し、膜へ輸送し挿入することである(Yeamanら、1999, Physiological Reviews 79, 73-98)。このプロセスにおけるその細胞の細胞骨格、特にアクチン微小繊維系の役割は明らかでない。アクチン骨格ドメインが急速に生成することから、細胞骨格の局在化が、機能的な極性の生起、特に特定の膜ドメインに対するタンパク質の選別および移動を必要とする可能性がある。
【0203】
本研究での知見は、上皮細胞の極性の生起、および膜タンパク質の局在送達における微小繊維の役割をさらに裏付けるものである。本発明者らは、特定のTmアイソフォームが、単層発達の際に急速に局在化することを見出した。同じアイソフォームが、頂端膜におけるCFTRの挿入および/またはその保持を調節することも明らかとなった。
【0204】
アイソフォーム選別の機構
細胞骨格と相互作用する薬剤は、細胞のプロセスを調べるのに広く使用されている。この技術を使用することにより、上皮細胞が微小繊維を急速に選別することができる機構を調べることができた。発達途中の単層では、アクチン繊維の分解および代謝回転を阻害する薬剤ジャスプラキノリドは、Tm5aおよびTm5bの初期の局在化に影響を及ぼさなかった。成熟した単層では、アクチン繊維を崩壊させるサイトカラシンDは、Tm5aおよびTm5bの局在分布を崩壊させた。したがって、無傷の微小繊維が、Tmアイソフォームの局在化(polarisation)の生起にもその極性の維持にも必要であると結論付けることができる。さらに、Tmアイソフォームは、孤立した分子として存在するのではなくアクチン繊維を含む高次構造の一部を形成する。
【0205】
本研究でみられたTmアイソフォームの選別は、非常に急速に起こった。10分以内に、特定のTmアイソフォームはその分布が局在化された。他の研究者らも、細胞構造の生起においてTmおよびアクチンの構造および組成の変化が早期に起こることを明らかにしている。Temm−Groveらによる研究では、上皮細胞中へと微小注入を行った後、特定のTmアイソフォームの局在化が早くも15分で起こった(Temm-Groveら、1998, Cell Motility & the Cytoskeleton 40 ,393-407)。Tm5が隣接する細胞間の接着ベルトに急速に局在したことが明らかとなった。他の研究では、経時的な発現レベルについて調べている。線維芽細胞では、Tm5NMアイソフォームの発現レベルが細胞周期において5時間で2倍に増加した(Percivalら、2000, Cell Motility & the Cytoskeleton 47, 189-208)。培養肝細胞では、細胞外マトリックスと細胞接着してから30分以内にFアクチン塊が20倍に増大した(Mooneyら、1995, Journal of Cell Science 108, 2311-2320)。発生途中のニューロンでは、Tm5 mRNAが軸索小丘に局在し、それによってニューロンの極性の初期マーカーが形成されることが明らかとなった(Hannanら、1995, Molecular & Cellular Neurosciences 6, 397-412)。したがって、様々な種類の細胞が、細胞骨格タンパク質発現を増加させるか、または無傷のタンパク質を細胞内で移動させることにより、細胞骨格の構造を急速に変化させる能力があることが結論付けられる。これらの知見から、細胞接着の初期プロセスおよび極性化の生起にTmが関係することが示唆される。
【0206】
CFTR機能の調節に対するTm5aおよびTm5bの役割
特定の理論に拘泥するものではないが、どのようにTm5aおよびTm5bがcAMP刺激に反応して頂端膜へのCFTR挿入を制限するかについて説明することができる、少なくとも3つの考えられる機構がある。第1に、Tm5aおよびTm5bは、上皮細胞の頂端表面に向けての小胞の移動に対する物理的な障害として働く可能性がある。除去したとき、小胞の移動は、より自由に行われるはずであり、その後の膜挿入CFTRの増加は必至であるはずである。第2に、Tm5aおよびTm5bは、小胞の移動に対する機能的な障害として働くのではなく、アクチン繊維に沿った小胞の移動についての抑制的調節機構である可能性がある。アクチン繊維に沿った小胞の移動は、アクチンとミオシンの相互作用を必要とする能動的なプロセスである。Tm5aおよびTm5bは、この相互作用を阻害する可能性がある。これがその場合であるならば、頂端領域中にTm5aおよびTm5bが存在すると、頂端膜へのCFTR小胞の送達が阻害されることが予想されるはずである。その反対に、Tm5aおよびTm5bが脱局在されると、頂端膜へのCFTRの送達が増大することが予想されるはずである。最後に、Tm5aおよびTm5bが結合した微小繊維は、表面タンパク質のエンドサイトーシス循環プロセスに関与する可能性がある。Gottliebらによる研究で、微小繊維が上皮細胞の頂端膜でタンパク質のエンドサイトーシスにおいて役割を果たすことが明らかとなった(Gottliebら、1993, Journal of Cell Biology 120, 695-710)。その観察結果から、アクチン微小繊維が機械化学的モーターの一部を形成し、そのモーターが、絨毛内空間へ向けての微絨毛膜成分の移動またはエンドサイトーシス小胞中へ膜の窪みを変換させるのに関与するとの仮説が立てられた。これらのプロセスに関与する微小繊維がTm5aおよびTm5bを含む場合、Tm5aおよびTm5bを除去すると、頂端膜からCFTRなどのタンパク質をエンドサイトーシスできなくなるはずである。
【0207】
Tm5aおよび/またはTm5bが頂端膜へのCFTRの挿入またはその保持を調節するという本発明者らの知見は、Tmアイソフォームが様々な機能を有することを示す、増えつつある多数の証拠にさらに寄与するものである。40を超えるTmアイソフォームが存在することが知られている(Lees-MillerおよびHelfman、1991, Bioessays 13, 429-437; Pittengerら、1994, Current Opinion in Cell Biology 6, 96-104)(Dufourら、1998, Journal of Biological Chemistry 273, 18547-18555)。様々な機能が存在することの裏付けとして、様々なTmが、アクチン微小繊維に対して異なる機械化学的特性を与えることが知られている。例えば、アクチンに対するTmアイソフォームの結合親和性が異なることにより、アクチン微小繊維の安定性に対する影響の違いが生じる(Pittengerら、1994, Current Opinion in Cell Biology 6, 96-104)。さらなる証拠は、Tm5NMがアクチン微小繊維に対してより高いサイトカラシンD抵抗性を与えることを発見したPercivalらによる研究に由来するものである(Percivalら、2000, Cell Motility & the Cytoskeleton 47, 189-208)。他の研究者らは、特定のTmアイソフォームがアクチン繊維の剛性を増大させることを発見した(Kojimaら、1994, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 91, 12962-12966)。アクチン微小繊維中に挿入された後、Tmは、アクチンと他のアクチン結合タンパク質の相互作用に影響を及ぼす。例えば、高分子量のTmは、アクチン結合タンパク質であるゲルソリンの切断活性に対して保護的である(Ishikawaら、1989, Journal of Biological Chemistry 264, 7490-7497)。
【0208】
本発明者らの知見は、特定の細胞機能におけるTmの役割を裏づける、増え続ける多数の証拠に寄与するものである。Tmアイソフォームが消化管上皮細胞中で区分され、重要な細胞機能を調節する能力を有することが結論付けられる。
【0209】
上記で言及したすべての文献は、参照によりその全体が本開示に組み込まれる。
【0210】
広範に記載した本発明の趣旨または範囲を逸脱せずに、特定の実施形態で示した本発明に多数の変更および/または改変を加えることができることは当業者に理解されるであろう。したがって、本願の実施形態は、すべての点で例示的であるとみなすべきであり、限定的であるとみなすべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】4種のトロポミオシン(Tm)遺伝子およびその産物のマップである。エキソンを影付きのボックスで示し、3’の非翻訳配列を影無しのボックスで示し、イントロンを線で示す。(A)は、fast遺伝子(α−Tmf)である。エキソン1bがTm5aおよびTm5bに独特であることに留意されたい。(B)は、Tm5NM遺伝子である。(C)は、β−TM遺伝子である。(D)は、TM−4遺伝子である(Temm-Grove CJら、1998およびPercivalら、2000から引用)。
【図2】トロポミオシン抗体の特異性を示す図である。T84細胞およびヒト線維芽細胞におけるトロポミオシン抗体の特異性をウェスタンブロットで示す。T84細胞(左)および線維芽細胞(右)における311の特異性をAに示し、αf9dおよびCG3抗体の特異性を、それぞれBおよびCに示す。311抗体は、ヒト線維芽細胞でTm6(40kDa)、Tm2(36kDa)およびTm3(34kDa)を検出する。Tm2はT84細胞に存在しない。Tm1(36kDa)は、T84細胞にもヒト線維芽細胞にも存在しなかった。αf9dは、Tm6(40kDa)、Tm3(34kDa)、Tm5a(30kDa)およびTm5b(30kDa)を検出する。CG3抗体は、30kDaに同時移動する、11種の考えられるアイソフォームを検出する。
【図3】T84細胞単層は、Tm5aおよびTm5bの局在分布を示すことを示す図である。(A〜F)成熟したT84細胞単層をαf9d(AおよびB)、311(CおよびD)およびCG3抗体で標識した。抗体の分布を共焦点レーザー走査顕微鏡法によって分析した。垂直面(xz)での画像を左側に示し、水平面(xy)での画像を右側に示す。αf9dと311の染色パターンの違いは、Tm5aおよびTm5bに相当する。バーの長さは、10μmである。(G)個々の単層の頂端領域および中央領域を横切って、頂端および中央での平均画素強度を測定した。αf9dと311についての頂端:中央の平均画素強度比を、同時染色した単層において比較し、それを各群の平均±標準偏差として表す。結果は、8つの同時染色した単層の平均を表す。
【図4】ラット十二指腸の陰窩および絨毛におけるトロポミオシンアイソフォームの局在を示す図である。ラット十二指腸組織切片を固定し、αf9d(CおよびD)、311(EおよびF)およびCG3(GおよびH)抗体で染色した。陰窩の断面は左側であり、絨毛の断面は右側である。AおよびBは、抗体陰性対照を表す。矢印は、消化管上皮細胞を示す。免疫反応は青い染色で示され、スライドをNuclear fast redで対比染色した。バーの長さは、10μmである。
【図5】トロポミオシンアイソフォームの局在化の生起を示す図である。(A〜L)細胞を播いた後の様々な時点でトロポミオシンアイソフォームを染色したT84細胞の、免疫蛍光共焦点顕微鏡法による画像である。画像はすべて垂直面(xz)のものである。各時点で、左側および中央の画像は、同時染色した同じ細胞のものである。左側に、311抗体(Tm3、6)染色を示す。中央に、αf9d抗体(Tm3、5a、5b、6)染色を示す。右側の細胞は、CG3抗体(TmNM1−11)で染色したものである。(A、BおよびC)10分後;(D、EおよびF)1時間後;(G、HおよびI)2時間後;(J、KおよびL)24時間後。矢印は、周縁性の染色を示す、懸濁液のT84細胞を示す。バーの長さは、10μmである。(MおよびN)T84細胞単層の発達中の総タンパク質および特定のトロポミオシンアイソフォームの発現を示す図である。タンパク質は、播いてから1時間後、2時間後、4時間後、24時間後および7日後のT84細胞から抽出した。(M)総タンパク質を示す、クーマシーブルーで染色したゲルである。(N)αf9d抗体(Tm3、5a、5b、6)でイムノブロットしたウェスタンブロットである。
【図6】ジャスプラキノリドまたはノコダゾールで処理した後のT84細胞におけるトロポミオシンアイソフォームの局在を示す図である。トロポミオシンアイソフォームについて染色した、細胞を播いてから10分後のT84細胞(A〜D)および成熟したT84細胞単層(EおよびF)の、免疫蛍光共焦点顕微鏡法による画像を示す。画像はすべて垂直面(xz)のものである。左側の細胞は、311抗体(Tm3、6)で染色したものであり、右側の細胞は、αf9d抗体(Tm3、5a、5b、6)で染色したものである。(AおよびB)1μMのジャスプラキノリドで処理した細胞である。(CおよびD)33μMのノコダゾールで処理した細胞である。(EおよびF)20μMのサイトカラシンDで3時間処理したT84細胞単層である。矢印は、周縁性の染色を示す、懸濁液のT84細胞を示す。バーの長さは、10μmである。
【図7】トロポミオシンアイソフォームおよびCFTRについて同時染色したT84細胞単層を示す図である。トロポミオシンアイソフォームおよびCFTRについて同時染色したT84細胞単層の、免疫蛍光共焦点顕微鏡法による画像である。画像はすべて垂直面のものである。(A)αf9d抗体(Tm3、5a、5b、6)。矢印は、CFTRと結合しない頂端膜における濃縮されたαf9d染色の領域を示す;(B)CFTR抗体。矢印は、細胞質中に位置するCFTRを示す;(C)画像Aと画像Bの重ね合わせ像。棒の長さは、10μmである。
【図8】T84細胞単層におけるαf9d抗体染色の分布に対する、Tm5aおよびTm5bに対するアンチセンスおよびナンセンスオリゴヌクレオチドの効果を示す図である。T84細胞単層の、免疫蛍光共焦点顕微鏡法による画像である。どちらの画像も垂直面のものである。どちらの単層も、αf9d(Tm3、5a、5b、6)で染色している。(A)2μMのナンセンスオリゴヌクレオチドで24時間;(B)2μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドで24時間。バーの長さは、10μmである。(CおよびD)T84細胞に対する、Tm5aおよびTm5bに対するアンチセンスおよびナンセンスオリゴヌクレオチドの効果を示すウェスタンブロットである。Tm5aおよびTm5bに対する、2μMのアンチセンスおよびナンセンスオリゴヌクレオチドで24時間処理した後、T84細胞単層からタンパク質を抽出した。(C)総タンパク質を示す、クーマシーブルーで染色したゲルである。(D)αf9d抗体(Tm3、5a、5b、6)でイムノブロットしたウェスタンブロットである。(E)T84細胞単層におけるαf9d抗体による頂端での染色の強度に対する、Tm5aおよびTm5bに対するアンチセンスおよびナンセンスオリゴヌクレオチドの効果を示す図である。共焦点顕微鏡により、2μMのアンチセンスまたはナンセンスオリゴヌクレオチドで24時間処理したT84細胞単層における、頂端でのαf9d抗体染色の画素強度を決定した。各群について平均±1SDを示す。(ナンセンス150.86±48.28、アンチセンス53.62±31.62;p<0.001)
【図9】T84細胞単層におけるCFTRの細胞表面発現および塩素イオン流出に対する、Tm5aおよびTm5bに対するアンチセンスおよびナンセンスオリゴヌクレオチドの効果を示す図である。(A)2μMのアンチセンスまたはナンセンスオリゴヌクレオチドで24時間処理したT84細胞単層に対して、酵素結合CFTR表面発現アッセイを行った。CFTR発現は、個々の実験内で、ナンセンス処理群の平均吸光度に対して標準化した、655nmでの吸光度で表す。各群について平均±1SDを示す。(ナンセンス1±0.42、アンチセンス1.49±0.78;p<0.001)。(B)Tm5aおよびTm5bに対する2μMのアンチセンスまたはナンセンスオリゴヌクレオチドで処理した対照T84細胞単層に対して、MQAE塩素イオン流出アッセイを行った。15分での累積塩素イオン流出は、個々の実験内でナンセンス群の平均パーセンテージ増加に対して標準化した、基線からの蛍光の平均パーセンテージ増加で表す。各群について平均±1SDを示す。(ナンセンス1±0.36、アンチセンス1.47±0.41;p<0.001)
【図10】T84細胞単層におけるCFTRの細胞表面発現および塩素イオン流出に対するノコダゾール処理の効果を示す図である。33μMのノコダゾールで3時間処理したもの、および処理しないものである、フォルスコリン刺激T84細胞単層に対して、酵素結合CFTR表面発現アッセイを行った。CFTR発現は、個々の実験内で、対照群の平均吸光度に対して標準化した、655nmでの吸光度で表す。各群について平均±SDを示す。(対照1.00±0.29、ノコダゾール0.92±0.25;p=0.64)。(B)対照T84細胞単層および33μMのノコダゾールで3時間処理したT84細胞単層に対して、MQAE塩素イオン流出アッセイを行った。15分での累積塩素イオン流出は、個々の実験内で、対照群の平均パーセンテージ増加に対して標準化した、基線からの蛍光の平均パーセンテージ増加で表す。各群について平均±SDを示す。(対照1.00±0.22、ノコダゾール1.01±0.43;p=0.93)。
【配列表】














【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面タンパク質の活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの活性または細胞での位置を決定するステップを含み、前記化合物の不在下と比較したときの、前記化合物の存在下におけるトロポミオシンの活性または細胞での位置の変化が、前記化合物が細胞表面タンパク質の活性を調節することを示す、前記方法。
【請求項2】
前記化合物の存在下におけるトロポミオシンの細胞での位置の変化が、前記化合物が細胞表面タンパク質の活性を増大させることを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞表面タンパク質の活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの発現レベルを決定するステップを含み、前記化合物の不在下と比較したときの、前記化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現の変化が、前記化合物が細胞表面タンパク質の活性を調節することを示す、前記方法。
【請求項4】
前記化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現低下が、前記化合物が細胞表面タンパク質の活性を増大させることを示す、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細胞表面タンパク質の活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でのトロポミオシンのその結合相手の1つとの結合を測定するステップを含み、前記化合物の不在下と比較したときの、前記化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの変化が、前記化合物が細胞表面タンパク質の活性を調節することを示す、前記方法。
【請求項6】
前記化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの低下が、前記化合物が細胞表面タンパク質の活性を増大させることを示す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記トロポミオシンの結合相手が、カルポニン、CEACAM1、エンドスタチン、エニグマ、ゲルソリン(好ましくは、サブドメイン2)、S100A2およびアクチンからなる群から選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記トロポミオシンの結合相手がアクチンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞表面タンパク質が、輸送タンパク質、チャネル、受容体、増殖因子、抗原、シグナル伝達タンパク質および細胞接着タンパク質からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質が輸送タンパク質またはチャネルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
嚢胞性線維症の治療のための治療用化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの活性または細胞での位置を決定するステップを含み、前記化合物の不在下と比較したときの、前記化合物の存在下におけるトロポミオシンの活性または細胞での位置の変化が、前記化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す、前記方法。
【請求項12】
前記化合物の存在下におけるトロポミオシンの細胞での位置の変化が、前記化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
嚢胞性線維症の治療のための治療用化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンの発現レベルを決定するステップを含み、前記化合物の不在下と比較したときの、前記化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現の変化が、前記化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す、前記方法。
【請求項14】
前記化合物の存在下におけるトロポミオシンの発現低下が、前記化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
嚢胞性線維症の治療のための治療用化合物をスクリーニングする方法であって、候補化合物の存在下でトロポミオシンのその結合相手の1つとの結合を測定するステップを含み、前記化合物の不在下と比較したときの、前記化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの変化が、前記化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す、前記方法。
【請求項16】
前記化合物の存在下におけるトロポミオシンのその結合相手との結合レベルの低下が、前記化合物が嚢胞性線維症の治療に有用であることを示す、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記トロポミオシンの結合相手が、カルポニン、CEACAM1、エンドスタチン、エニグマ、ゲルソリン(好ましくは、サブドメイン2)、S100A2およびアクチンからなる群から選択される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記トロポミオシンの結合相手がアクチンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
同定した化合物をヒトまたは非ヒト動物への投与用に製剤するステップをさらに含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
細胞表面膜におけるタンパク質の挿入または保持を調節する方法であって、トロポミオシンの発現、位置または活性をモジュレートする作用因子を細胞に投与するステップを含む、前記方法。
【請求項21】
前記細胞表面膜における前記タンパク質の挿入または保持が、前記細胞にトロポミオシンアンタゴニストを投与することによって増加する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記タンパク質が、輸送タンパク質、チャネル、受容体、増殖因子、抗原、シグナル伝達タンパク質および細胞接着タンパク質からなる群から選択される、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記輸送タンパク質が、嚢胞性線維症膜コンダクタンス調節因子(CFTR)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
細胞内外への分子の輸送を調節する方法であって、トロポミオシンの発現、位置または活性をモジュレートする作用因子を細胞に投与するステップを含む、前記方法。
【請求項25】
前記細胞内外への分子の輸送が、前記細胞にトロポミオシンアンタゴニストを投与することによって増加する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記分子が、電解質、水、単糖類およびイオンからなる群から選択される、請求項24または請求項25に記載の方法。
【請求項27】
細胞表面膜タンパク質の異常な挿入、保持または活性によって生じる、被験体における疾患を治療または予防するための方法であって、トロポミオシンの発現、位置または活性をモジュレートする作用因子を被験体に投与するステップを含む、前記方法。
【請求項28】
前記細胞が非筋肉細胞である、請求項20〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞がニューロン細胞または上皮細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記上皮細胞が消化管上皮細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
細胞表面膜タンパク質の異常な挿入または活性によって生じる前記疾患が、嚢胞性線維症、多発性硬化症、多発性嚢胞腎疾患、ウイルス感染、細菌感染、再灌流損傷、メンケス病、ウィルソン病、糖尿病、筋緊張性ジストロフィー、てんかん、および、うつ病、双極性障害または気分変調性障害などの気分障害からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
被験体における嚢胞性線維症を治療または予防する方法であって、トロポミオシンの発現、位置または活性をモジュレートする作用因子を前記被験体に投与するステップを含む、前記方法。
【請求項33】
前記トロポミオシンが、TPM1、TPM2、TPM3およびTPM4からなる群から選択される遺伝子によってコードされるアイソフォームである、請求項1〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記トロポミオシンアイソフォームが、TM1、TM2、TM3、TM4、TM5、TM5a、TM5b、TM6、Tm5NM−1、Tm5NM−2、Tm5NM−3、Tm5NM−4、Tm5NM−5、Tm5NM−6、Tm5NM−7、Tm5NM−8、Tm5NM−9、Tm5NM−10、およびTm5NM−11からなる群から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記トロポミオシンアイソフォームが、TPM1遺伝子のエキソン1bによってコードされるアミノ酸配列(配列番号11)、またはTPM3遺伝子のエキソン1bによってコードされるアミノ酸配列(配列番号12)を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記トロポミオシンアイソフォームが、TM5aまたはTM5bである、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記作用因子が、ペプチド、トロポミオシンに対する抗体、有機小分子、トロポミオシンをコードするmRNAに対するアンチセンス化合物、リボザイムやDNAザイムなどの抗トロポミオシン触媒分子、およびトロポミオシン発現を標的とするdsRNAまたは短鎖干渉RNA(RNAi)分子からなる群から選択されるトロポミオシンアンタゴニストである、請求項20〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記トロポミオシンアンタゴニストが、トロポミオシンをコードするmRNAに対するアンチセンス化合物、触媒分子またはRNAi分子である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記トロポミオシンアンタゴニストが、TPM1遺伝子のエキソン1b(配列番号7)またはTPM3遺伝子のエキソン1b(配列番号8)を特異的に標的とするアンチセンス化合物、触媒分子またはRNAi分子である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記トロポミオシンアンタゴニストが、配列AGCTCGCTGGAGGCGGTG(配列番号13)を標的とするアンチセンス化合物、触媒分子またはRNAi分子である、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記トロポミオシンアンタゴニストが、配列CACCGCCUCCAGCGAGCT(配列番号14)を含むアンチセンス化合物である、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
細胞表面膜タンパク質の異常な挿入、保持または活性によって生じる疾患に対する個人の素因を評価する方法であって、前記個人のトロポミオシン遺伝子における突然変異の存在を判定するステップを含む、前記方法。
【請求項43】
細胞表面膜タンパク質の異常な挿入、保持または活性によって生じる疾患に対する個人の素因を評価する方法であって、前記個人の細胞におけるトロポミオシンの局在分布を分析するステップを含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−524491(P2006−524491A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503972(P2006−503972)
【出願日】平成16年3月22日(2004.3.22)
【国際出願番号】PCT/AU2004/000358
【国際公開番号】WO2004/082690
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(502060522)ザ ロイヤル アレクサンドラ ホスピタル フォー チルドレン (1)
【Fターム(参考)】