説明

組合せオイルリング及びその製造方法

【課題】2ピース形の組合せオイルリングに簡単な構成で回り止め機能を付与する。
【解決手段】上下2本のレール13,14を柱部15で連結した断面略I字形のオイルリング11と、このオイルリング11を半径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダ12とからなる組合せオイルリング10において、回り止め突起21がオイルリング11の上面4b及び下面4aの少なくとも一方から軸方向外側に突出し、この回り止め突起21はオイルリング11の内周端部に加工により一体に形成され、ピストン1のリング溝4面に形成した凹部23に挿入可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回り止め機能を備えた2ピース形の組合せオイルリング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダ軸が水平あるいは水平に近く傾斜したエンジンに組合せオイルリングが使用されている場合、リングが回転して合口が下方に位置すると、エンジンの停止中にオイルが合口を通って燃焼室に浸入する。この状態でエンジンが起動されると、白煙を生じたり、オイル消費の増大が起きる。
【0003】
リングが円周方向に回転することにより、上記のような問題が生じるために、リングの回り止め手段を採用する場合がある。この回り止め手段を採用する先行技術として特許文献1及び特許文献2に示す技術が知られている。特許文献1では、3ピース形の組合せオイルリングにおいて、サイドレールの合口端部に、外周当たり面を確保するようにして一部分を軸方向に折り曲げて係合片を形成し、この係合片が挿入する凹部をピストンのリング溝面に形成する。特許文献2では、2ピース形の組合せオイルリングにおいて、オイルリングの下面や上面に回り止め部材を固着し、この回り止め部材が挿入する凹部をピストンのリング溝面に形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−050759号公報
【特許文献2】特開平9−317885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されている3ピース形の組合せオイルリングにおいては、サイドレール自体が薄いため、比較的容易に折り曲げることができるが、2ピース形の組合せオイルリングではオイルリングに厚みがあり、一部を変形させて回り止めの係止部を形成することは行なわれていなかった。特許文献2に示されている2ピース形の組合せオイルリングの回り止め構造では、回り止め部材を必要とし、オイルリングに固着された回り止め部材が運転中に外れないようにする問題がある。
【0006】
本発明の目的は、2ピース形の組合せオイルリングに簡単な構成で回り止め機能を付与することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は次の解決手段を採る。すなわち、
本発明は、上下2本のレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリングと、このオイルリングを半径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、回り止め突起がオイルリングの上面及び下面の少なくとも一方から軸方向外側に突出し、この回り止め突起はオイルリングの内周端部に加工により一体に形成され、ピストンのリング溝面に形成されている凹部に挿入可能であることを特徴とする。
【0008】
前記回り止め突起は、例えばプレス機による折り曲げ加工や塑性(潰し出し)加工により容易に形成できる。例えば、傾けたオイルリングのレールにおける内周端部をパンチでプレス加工することによって、オイルリングの一部を軸方向に曲げたり、潰し出したりすることで回り止め突起を形成する。
【0009】
前記回り止め突起の突出高さが0.07〜1.0mmであることが好ましい。突起の突出高さが0.07mm未満では、突起がピストンのリング溝面との隙間に配置し、リング溝面に形成されている凹部に充分に引っかかることができない場合がある。また、1mmを越えると、ピストンのリング溝面の凹部深さが深くなり、ピストンのランド部の強度が低下するため好ましくない。
【0010】
前記回り止め突起はオイルリングの合口端部に位置していることが好ましい。
【0011】
前記オイルリングは外周面のみに表面硬化処理が施されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、オイルリングの回り止め突起がピストンのリング溝面に形成されている凹部に挿入されると、オイルリングの円周方向における動きが規制されるので、オイルリングはリング溝内の円周方向における所定位置に維持される。また、回り止め突起はオイルリングに加工により一体形成されているので、オイルリングから外れることがない。
【0013】
回り止め突起の突出高さが0.07mm以上であれば、突起がリング溝面の凹部に確実に挿入され、1.0mm未満であれば凹部深さを深くせずに済む。回り止め突起がオイルリングの合口端部に位置していれば、オイルリングの回り止め突起とピストンのリング溝面の凹部の位置合わせが容易となり、組合せオイルリングの組み付け性を良好にする。オイルリングの外周面のみに表面硬化処理を施すようにすれば、オイルリングの回り止め突起の形成部分に表面硬化処理が施されないので、突起の加工を容易に行なえる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態を示し、(a)は組合せオイルリングを装着したピストンがシリンダに挿入された状態を示す縦断面図、(b)はピストンのオイルリング部分を示す正面図、(c)はオイルリングの一部分の底面図である。
【図2】オイルリングにおける回り止め突起のプレス加工の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1において、ピストン1は、シリンダ2が水平に配置された横置き型のエンジン用のものである。シリンダ2内のピストン1の外周面3に形成されているオイルリング溝4に組合せオイルリング10が装着されている。組合せオイルリング10は2ピース形の鋼製組合せオイルリングであり、オイルリング11とコイルエキスパンダ12とから構成されている。
【0017】
オイルリング11は、合い口を有する略I字形断面のリングで、円周方向に延びる上下一対のレール13,14と、円周方向に延び上下のレール13,14を連結する柱部15とからなっている。オイルリング11は硬鋼線、ピアノ線、あるいはバネ用ステンレス鋼線などから形成されている。上下のレール13,14の外周面16,17はシリンダ2の内周面5と接触し、シリンダ2の内周面5上のオイルを掻き取る摺動面を構成する。オイルリング11の外周面16,17は無処理あるいは表面硬化処理が施されている。表面硬化処理としてはPVD皮膜の被覆、DLC皮膜の被覆、あるいは外周のみの窒化処理などが採用される。柱部15と上下のレール13,14とで形成される外周溝18はオイル受容溝であり、上下のレール13,14の外周面16,17でシリンダ2の内周面5から掻き取ったオイルは、外周溝18から、柱部15に円周方向に間隔をおいて形成されている複数個のオイル孔19を通ってオイルリング11の内周側に移動し、ピストン1のオイルリング溝4の底面6に形成されている複数のオイル逃し孔(図示せず)を通ってオイルパンに落とされる。
【0018】
上下のレール13,14と柱部15とで形成されている内周溝20にコイルエキスパンダ12が装着されており、オイルリング11を半径方向外方に押圧付勢する。コイルエキスパンダ12は線材をコイル状に巻き、更にリング状に形成したものである。
【0019】
したがって、オイルリング11はコイルエキスパンダ12によって半径方向外方に押圧付勢されることにより、上下のレール13,14の外周面16,17がシリンダ2の内周面5に押接されている。
【0020】
次に、組合せオイルリング10の回り止め構造を説明する。
【0021】
オイルリング11は、一方の合口端部の下面11aから軸方向下方に突出する回り止め突起21を有している。回り止め突起21は、オイルリング11の下レール14における合口部分の内周側角部をプレス加工によって軸方向下方に一体に突出形成したものである。すなわち、傾けたオイルリング11の下レール14における合口部分の内周側角部をプレス機のパンチ22(図2参照)で下方に潰し出して回り止め突起21を形成したものである。
【0022】
一方、回り止め突起21が挿入される凹部23がオイルリング溝4の下面4aに形成されている。凹部23はピストン1の半径方向に外周面3まで延びて外周面3に開口している。凹部23は半径方向から見て断面円弧状の凹部を示しているが、断面形状は特に限定されない。
【0023】
オイルリング11は、回り止め突起21がオイルリング溝4の下面4aの凹部23に挿入されている。したがって、オイルリング11の回り止め突起21がオイルリング溝4の下面4aの凹部23の壁面に係合することによって、オイルリング11が円周方向に回転するのを防止される。
【0024】
なお、上記実施形態では、回り止めを、オイルリング11の下面11a側で行なうようにしたが、これに限らない。オイルリング11の上面11b側に回り止め突起を設け、オイルリング溝4の上面4bに凹部を形成することによって、オイルリング11の上面側で回り止めを行なうようにしてもよい。あるいは、オイルリング11の下面11aと上面11bの双方の側で回り止めを行なうようにしてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1・・ピストン、2・・シリンダ、3・・ピストン外周面、4・・オイルリング溝、4a・・リング溝下面、4b・・リング溝上面、5・・シリンダ内周面、6・・リング溝底面、10・・組合せオイルリング、11・・オイルリング、11a・・オイルリング下面、11b・・オイルリング上面、12・・コイルエキスパンダ、13・・上側レール、14・・下側レール、15・・柱部、16,17・・外周面、18・・外周溝、19・・オイル孔、20・・内周溝、21・・回り止め突起、22・・パンチ、23・・凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下2本のレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリングと、このオイルリングを半径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、回り止め突起がオイルリングの上面及び下面の少なくとも一方から軸方向外側に突出し、この回り止め突起はオイルリングの内周端部に加工により一体に形成され、ピストンのリング溝面に形成されている凹部に挿入可能であることを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項2】
前記回り止め突起の突出高さが0.07〜1.0mmであることを特徴とする請求項1記載の組合せオイルリング。
【請求項3】
前記回り止め突起がオイルリングの合口端部に位置していることを特徴とする請求項1又は2記載の組合せオイルリング。
【請求項4】
前記オイルリングの外周面のみに表面硬化処理が施されていることを特徴とする請求項1,2又は3記載の組合せオイルリング。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の組合せオイルリングの製造方法であって、オイルリングのレールにおける内周端部をパンチでプレス加工することにより前記回り止め突起を形成することを特徴とする組合せオイルリングの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−163430(P2011−163430A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26231(P2010−26231)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000215785)帝国ピストンリング株式会社 (80)
【Fターム(参考)】