説明

組成物、反射防止膜基板、並びに、太陽電池システム

【課題】屈折率が低く、湿度変化に対して安定なシリカ膜が形成可能な組成物および該組成物から作製される反射防止膜基板を提供する。
【解決手段】ケイ素化合物を含有する組成物であって、該組成物を基板に塗布し、400℃以上、450℃以下で、1分以上、1時間以下焼成して得られた膜の屈折率が1.25以下とし、かつ該組成物を400℃以上、450℃以下で、1分以上、5時間以下焼成して得られた粉末の、25℃での相対水蒸気圧0.3<P/P<0.9における水蒸気吸着量差Δが0.03g/g以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素化合物を含有する組成物、及びそれを用いた反射防止膜基板、並びに太陽電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
低屈折率材料として多孔質シリカ膜の技術は種々報告されている。例えば特許文献1〜5には、アルコキシシランのゾル−ゲル反応に特定の有機物を共存させることで、シリカ/有機物−ハイブリッドを形成し、その後、有機物を除去することで、均一、かつ規則的な空孔を有するシリカ多孔質体を得る方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−226171号公報
【特許文献2】特開2003−64307号公報
【特許文献3】特開2003−142476号公報
【特許文献4】特開2004−143029号公報
【特許文献5】特表2005−503664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜5記載の技術で得られるシリカ多孔質体形成用組成物は、ポットライフが短く、安定してシリカ多孔質体を得ることが困難な場合が多かった。
また従来、シリカ多孔質体は低誘電率材料として開発されたものが多く、特に特許文献5には、シリカ多孔質体の機械的強度の弱さ、及び水蒸気による誘電率(屈折率)の変化が課題として記載されている。特許文献5には、この水蒸気に対する誘電率(屈折率)の変化を小さくするために、特定のアルコキシシランを特定の比率で配合することによってこの課題が解決できると示されている。具体的には、相対湿度変化に対しても屈折率が変化しない、または少ない組成として、トリエトキシシラン:メチルトリエトキシシラン=1:1から作製された疎水性シリカ膜が示されている。しかしながら、特許文献5における実施例において該疎水性シリカ膜は、確かに広範囲な相対湿度範囲で屈折率変化が小さいものの、相対湿度変化が0.8以上でも屈折率変化がない場合には屈折率の絶対値が大きく(1.25以上)、例えばガラス基板上などに塗布作製された場合には十分な反射防止効果が得られないことがある。
【0005】
また、例えば特許文献3等には、低屈折率化と膜強度の改良という観点から、規則的な細孔構造を有する点に特徴を有するシリカ多孔質体が種々報告されている。特許文献3では、シリカ多孔質体のX線散乱測定において、散乱角度(2θ)が0.5°〜3°の間に少なくとも1本以上の散乱ピークが存在することで、機械的強度の高いシリカ多孔質体が得られることが報告されている。しかしながら、このような膜では空孔を規則的な構造とするため、膜中の歪みが大きく、さらに膜を得るための塗布組成物中のテトラアルコキシシランの量が多いことから、膜中に未反応のシラノール基が残存しやすく、これが親水部位となり水蒸気吸着量が多くなることが考えられる。
【0006】
また、特許文献1及び特許文献5に記載のシリカ多孔質体形成用組成物では、極めて疎水的な膜表面を有するシリカ多孔質体が得られるが、アルコキシシランに対する水量が少ないため、膜中に未反応のアルコキシ基が残存し、この部位が親水部位となり、水蒸気吸着量が多くなることも考えられる。
【0007】
また、特許文献2に記載のシリカ多孔質体形成用組成物では、用いる有機物の分子量が低く、不活性条件下での焼成が必要なほど、水の吸着部位が多く、水蒸気吸着量が多くなると考えられる。また、得られるシリカ多孔質体の多孔度を高く維持することが困難であり、低屈折率なシリカ多孔質体を安定して製造することができない可能性がある。
【0008】
またさらに、特許文献4に記載のシリカ多孔質体形成用組成物においては、用いる有機物の分子量が低く、かつ有機物の使用量が多いため、得られるシリカ多孔質体の孔が小さく、結果としてシリカ多孔質体の表面積が大きくなり、親水部位が多くなることから水蒸気吸着量が多くなると考えられる。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、屈折率が十分に低く、水蒸気に対して安定、すなわち広範な相対湿度範囲でも屈折率変化が少ないシリカ膜を作製可能な、ケイ素化合物を含有する組成物、及びそれを用いた反射防止膜基板、並びに太陽電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ケイ素化合物を含有する組成物を塗布後、焼成して得られた膜の屈折率が所定値以下であり、さらに該組成物を風乾後に焼成して得られる粉末の、所定の相対水蒸気圧における水蒸気吸着量差が所定値以下である場合に、該組成物を用いて形成したシリカ膜の屈折率が十分低く、さらに水蒸気安定性に優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、ケイ素化合物を含有する組成物であって、該組成物を基板に塗布し、400℃以上、450℃以下で、1分以上、1時間以下焼成して得られた膜の屈折率が1.25以下であり、かつ該組成物を室温下、相対湿度40%の条件下で3日間風乾し、その後400℃以上、450℃以下で、1分以上、5時間以下焼成して得られた粉末の、25℃での相対水蒸気圧0.3<P/P<0.9における水蒸気吸着量差Δが0.03g/g以下であることを特徴とする組成物に存する(請求項1)。(ここでPは、25℃における水蒸気分圧であり、Pは、25℃における飽和水蒸気圧である。)
【0012】
該組成物は、テトラアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるテトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種、及び該テトラアルコキシシラン類以外のアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなる他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種の組合せと、並びに/又は、該テトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種及び他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種の部分縮合物と、水と、有機溶媒と、触媒と、エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子とを含むことが好ましい(請求項2)。
【0013】
該エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子の重量平均分子量が4,300以上であることが好ましい(請求項3)。
また、全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対するテトラアルコキシシラン類由来のケイ素原子の割合が0.3(mol/mol)以上、0.7(mol/mol)以下であることが好ましい(請求項4)。
さらに、全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対する水の割合が10(mol/mol)以上であることが好ましい(請求項5)。
【0014】
また、該有機溶媒中の80重量%以上が、沸点55℃以上140℃以下の有機溶媒であることが好ましい(請求項6)。
全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対する該エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子の割合が0.001(mol/mol)以上、0.05(mol/mol)以下であることが好ましい(請求項7)。
該エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子中の、エチレンオキサイド部位の含有量が20重量%以上であることが好ましい(請求項8)。
【0015】
さらに、該エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子が、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド トリブロックポリマー、及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも一種の非イオン性高分子であることが好ましく(請求項9)、該テトラアルコキシシラン類がテトラエトキシシランであり、該テトラアルコキシシラン類以外のアルコキシシラン類が、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルアルコキシシラン又はジアルキルアルコキシシランであることが好ましい(請求項10)。
また、該有機溶媒が、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール及びエチルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい(請求項11)。
【0016】
本発明の別の要旨は、上記いずれかの組成物を基材に塗布後、熱処理して得られた薄膜を具備することを特徴とする反射防止膜基板に存する(請求項12)。
本発明のさらに別の要旨は、上記の反射防止膜基板を受光面側に備えることを特徴とする太陽電池システムに存する(請求項13)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について実施形態や例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施できる。
【0018】
1.組成物
本発明の組成物は、ケイ素化合物を含有し、さらに下記の条件(1)及び(2)を満たすものである。
(1)組成物を基板上に塗布し、400℃以上、450℃以下で、1分以上、1時間以下焼成して得られた膜の屈折率が1.25以下である。
(2)組成物を室温下、相対湿度40%の条件下で3日間風乾後、400℃以上、450℃以下で、1分以上、5時間以下焼成して得られた粉末の、25℃での相対水蒸気圧0.3<P/P<0.9における水蒸気吸着量差Δが0.03g/g以下である。(ここでPは、25℃における水蒸気分圧であり、Pは、25℃における飽和水蒸気圧である。)
【0019】
本発明の組成物は上記条件(2)、すなわち所定の相対水蒸気圧範囲において水蒸気吸着量差Δが上記値以下であることから、本発明の組成物を用いて作製した膜の光学用途における屈折率、光学膜厚等の環境安定性を良好なものとすることができる。
【0020】
また、本発明の組成物は、上述した条件(1)及び(2)を満たすことから、低い屈折率を維持できるとともに、湿度安定性に優れる。この優れた湿度安定性は、本発明の組成物を超疎水的組成とすることにより、表面への水分吸着を少なくすることによって実現可能であると推察される。
【0021】
また、本発明の組成物は、上述した条件(1)及び(2)を満たすことから、組成物を用いて作製されるシリカ膜の安定性を高いものとすることができる。具体的には、経時による屈折率の変化が少なく、透明性が維持でき、クラック等が起こらない等、光学的特性が安定したシリカ膜を作製可能である。
以下、上記条件(1)及び(2)について詳しく説明する。
【0022】
1−1.条件(1)
本発明の組成物は、該組成物を基板上に塗布後、400℃以上、450℃以下で、1分以上、1時間以下焼成して得られた膜の屈折率が1.25以下となる。該屈折率として好ましくは、1.23以下であり、1.20以下が特に好ましい。屈折率が大きすぎると本発明の組成物を用いて作製されるシリカ膜の反射防止効果が小さくなり、低屈折率膜としての効果が得られ難い。一方、屈折率の下限に特に制限は無いが、通常1.05以上、好ましくは1.08以上である。
【0023】
本発明の組成物を用いて作製されるシリカ膜の低屈折率化は、細孔による空隙形成により達成されるものであり、屈折率が小さすぎる、すなわち空隙が多すぎると該シリカ膜の機械的強度が著しく低下する可能性がある。なお、屈折率は、分光エリプソメーター法、反射率測定或いはプリズムカプラー等の光学的手法で測定される波長400nm〜700nmにおける値をいい、好ましくは分光エリプソメーターで測定されるものをいう。分光エリプソメーターで測定する場合、測定値をCauthyモデルでフィッティングすることで、屈折率を算出することができる。
【0024】
また、中心線平均粗さの大きい基材上に膜を作製した場合、反射率分光スペクトル測定によっても屈折率を算出することが可能であり、この際、測定領域を10μm以下にすることが好ましい。
【0025】
1−2.条件(2)
本発明の組成物のもう一つの特徴は、組成物を所定の条件下で風乾後、焼成して得られた粉末の水蒸気吸着特性にある。通常のゾルゲル法により作製されるシリカ膜は、未反応アルコキシドや生成したゲル表面のシラノール基の影響により、湿度変化に伴い、親水性が変化する傾向がある。つまり、水蒸気吸着特性を測定した場合、相対水蒸気圧の増加に従い水蒸気吸着量が増加するといった特徴を有している。
しかしながら、シリカ膜を基板上に形成し、これを低屈折率膜として例えば反射防止用途などに使用する場合、水蒸気吸着は屈折率の上昇を招く可能性があり、反射防止効果を得られなくなる可能性がある。従って、シリカ膜を低屈折率反射防止膜として使用する場合には湿度変化に対し、親水性が安定であることが好ましい。
【0026】
本発明の組成物は、組成物を室温下、相対湿度40%の条件下で3日間風乾後、400℃以上、450℃以下で、1分以上、5時間以下焼成して得られた粉末の、25℃での相対水蒸気圧0.3<P/P<0.9における水蒸気吸着量差Δが、通常0.03g/g以下であり、好ましくは0.02g/g以下である。上記相対水蒸気圧範囲において水蒸気吸着量差Δが上記値より大きい場合には、屈折率の変化が大きくなるばかりでなく、膜の割れ、表面荒れなどが発生する可能性があり、反射防止硬化が得られなくなることもある。ここで、Pは、25℃での水蒸気分圧であり、Pは、25℃での飽和水蒸気圧である。
【0027】
上記水蒸気吸着量差Δは、具体的には、以下の要領で測定できる。
本発明の組成物をシャーレに注ぎ、室温下、相対湿度40℃の条件下で3日間風乾した後、金属製スプーンで削ぎ落として粉末とし、更にマッフル炉で大気下、所定の温度(400℃以上、450℃以下)で所定の時間(1分以上、5時間以下)熱処理することにより有機物を除去したシリカ粉末を得ることができる。この粉末について、相対湿度P/Pを変化させ、平衡状態での水蒸気標準吸着量を容量法または重量法で求めることができる。なお、一般的には、容量法が用いられる。容量法に用いられる装置としては、例えば、日本ベル(株)社製ベルソープ18が挙げられる。
【0028】
1−3.本発明の組成物の組成
本発明の組成物は、ケイ素化合物を含み、上記条件(1)及び(2)を満たすことが可能な組成物であれば、その組成は特に制限されないが、テトラアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるテトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種、及び該テトラアルコキシシラン類以外のアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなる他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種の組合せと、並びに/又は、該テトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種及び他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種の部分縮合物と、水と、有機溶媒と、触媒と、エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子とを含むことが好ましい。またさらに、該組成物の組成は、下記の条件(3)〜(6)を満たすことが好ましい。
【0029】
(3)全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対するテトラアルコキシシラン類由来のケイ素原子の割合が0.3(mol/mol)以上、0.7(mol/mol)以下である。
(4)全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対する水の割合が10(mol/mol)以上である。
(5)エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子の重量平均分子量が4,300以上である。
(6)該有機溶媒中の80重量%以上が、沸点55℃以上、140℃以下の溶媒である。
【0030】
1−3−1.アルコキシシラン類
本発明の組成物は、ケイ素化合物として、アルコキシシラン類を含有することが好ましく、このアルコキシシラン類として、以下の第1及び第2化合物(群)のうちいずれか一方又は両方を含有することが好ましい。
【0031】
〔第1の化合物(群)〕
テトラアルコキシシラン類群(即ち、テトラアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなる群)より選ばれる少なくとも一種と、他のアルコキシシラン類群(即ち、他のアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなる群)より選ばれる少なくとも一種との組み合わせ。
〔第2の化合物(群)〕
特定部分縮合物(即ち、上記テトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種と、上記他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種との部分縮合物)。
【0032】
・テトラアルコキシシラン類群
テトラアルコキシシラン類群に含まれるテトラアルコキシシラン類の種類に特に制限は無い。テトラアルコキシシラン類として好適なものの例を挙げると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等が挙げられる。また、テトラアルコキシシラン類群の例としては、前記のテトラアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物(オリゴマー等)等も挙げられる。中でも、本発明の組成物の安定性及び生産性という観点では、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシラン並びにそれらのオリゴマーが好ましく、テトラエトキシシランがさらに好ましい。ただし、テトラアルコキシシラン類は経時的に加水分解及び部分縮合を生じやすいため、テトラアルコキシシラン類のみを用意した場合でも、通常はそのテトラアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物がテトラアルコキシシラン類と共存することが多い。なお、テトラアルコキシシラン類群に属する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0033】
・他のアルコキシシラン類群
他のアルコキシシラン類は、上述したテトラアルコキシシラン類に属さないアルコキシシランであれば、任意のものを使用できる。好適なものの例を挙げると、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類;ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,3,5−トリス(トリメトキシシリル)ベンゼン等の有機残基が2つ以上のトリアルコキシシリル基を結合したもの;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシラン等のケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有するもの;などが挙げられる。また、他のアルコキシシラン類群の例としては、前記の他のアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物(オリゴマー等)なども挙げられる。
【0034】
中でも、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルアルコキシシラン及びジアルキルアルコキシシランが好ましい。具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエチルシランなどが挙げられる。ただし、他のアルコキシシラン類は経時的に加水分解及び部分縮合を生じやすいため、他のアルコキシシラン類のみを用意した場合でも、通常はその他のアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物が他のアルコキシシラン類と共存することが多い。なお、他のアルコキシシラン類に属する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0035】
・特定部分縮合物(テトラアルコキシシラン類群と他のアルコキシシラン類群との部分縮合物)
特定部分縮合物としては、上述したテトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種と他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種とが部分縮合した部分縮合物であれば、任意のものを用いることができる。好適な例を挙げると、テトラアルコキシシラン類の好適な例として例示したものと、他のアルコキシシラン類の好適な例として例示したものとが部分縮合した部分縮合物が挙げられる。なお、特定部分縮合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、特定部分縮合物は、特定部分縮合物のみ単独で用いてもよいが、上述したテトラアルコキシシラン類及び他のアルコキシシラン類の一方又は両方と併用してもよい。
【0036】
・好ましい組み合わせ
上述したテトラアルコキシシラン類及び他のテトラアルコキシシラン類の組み合わせの中でも、特に好ましい組み合わせとしては、テトラアルコキシシラン類としてのテトラエトキシシランと、他のアルコキシシラン類としての芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルアルコキシシラン又はジアルキルアルコキシシランとの組み合わせが挙げられる。この組み合わせによれば、上記条件(1)及び(2)を満たす組成物が容易に得られる。
【0037】
・アルコキシシラン類の比率
本発明の組成物において、上述したアルコキシシラン類は、上記条件(3)を満たすことが好ましい。即ち、全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対するテトラアルコキシシラン類由来のケイ素原子の割合が、通常0.3(mol/mol)以上、好ましくは0.35(mol/mol)以上、より好ましくは0.4(mol/mol)以上であり、また通常0.7(mol/mol)以下、好ましくは0.65(mol/mol)以下、より好ましくは0.6(mol/mol)以下である。前記の割合が小さすぎる場合、組成物から得られるシリカ膜の疎水性は高くなるが、−O−Si−O−の結合が少なくなることで、シリカ膜の機械的強度が極めて弱く、同様に耐湿度安定性も低下する傾向がある。一方、前記の割合が大きすぎる場合、シリカ膜中の残存シラノール基が多くなり、やはり耐湿度安定性が低下する傾向がある。
【0038】
ここで、全アルコキシシラン類由来のケイ素原子とは、本発明の組成物に含有されるテトラアルコキシシラン類群、他のアルコキシシラン類群及び特定部分縮合物が有するケイ素原子の数の合計をいう。また、テトラアルコキシシラン類由来のケイ素原子とは、本発明の組成物に含有されるテトラアルコキシシラン類群が有するケイ素原子の数と、特定部分縮合物が有するケイ素原子のうちテトラアルコキシシラン類群に対応する部分構造に属するケイ素原子の数との合計をいう。
【0039】
したがって、本発明の組成物がアルコキシシラン類以外にケイ素原子を有する化合物を含有していたとしても、当該化合物が有するケイ素原子は前記の割合の算出には関与しない。なお、前記の全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対するテトラアルコキシシラン類由来のケイ素原子の割合は、Si−NMRにより測定することができる。
【0040】
また、本発明の組成物中に、ケイ素を含有する化合物(ケイ素原子含有化合物)は通常0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上含有されていることが好ましく、また通常70重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下含有されていることが好ましい。0.05重量%を下回ると膜厚ムラといった造膜性が低下する可能性があり、70重量%を超えると組成物の安定性が低下する可能性がある。なお、ケイ素原子含有化合物として具体的には、前述の、テトラアルコキシシラン類群、他のアルコキシシラン類群、特定部分縮合物が挙げられる。
【0041】
また、シリカ多孔質体、すなわち本発明の組成物から作製されるシリカ膜の製造プロセスの観点では、前記ケイ素原子含有化合物や下記に説明する非イオン性高分子などを含む固形分濃度は通常0.1重量%以上であり、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。また通常50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、35重量%以下がさらに好ましい。
【0042】
また、造膜性の観点で組成物のpHは5.5以下であることが好ましい。より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。この範囲にすることで製膜時に基材の表面改質を同時に行うことができ、より造膜性が向上する傾向がある。
【0043】
1−3−2.水
本発明の組成物は、水を含有することが好ましく、用いる水の純度は高いほうが好ましい。通常は、イオン交換及び蒸留のうち、いずれか一方または両方の処理を施した水を用いればよい。ただし、水の使用量は、上記条件(4)を満たすようにすることが好ましい。即ち、全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対する水の割合を、通常10(mol/mol)以上、好ましくは11(mol/mol)以上、より好ましくは12(mol/mol)以上とする。全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対する水の割合が前記の値より小さいと、ゾル−ゲル反応のコントロールが難しく、ポットライフも短く、極めて親水的な表面を有するシリカ膜が得られる可能性がある。このため、本発明の組成物から作製されるシリカ膜の耐湿度安定性が低くなる傾向がある。なお、水の量は、カールフィッシャー法(電量滴定法)により算出できる。
【0044】
1−3−3.有機溶媒
本発明の組成物は、有機溶媒を含有することが好ましい。この有機溶媒の種類は、上記条件(6)、即ち該有機溶媒中の80重量%以上が、沸点55℃以上、140℃以下の溶媒を用いることが好ましい。中でも、有機溶媒としては、上述したアルコキシシラン類及び水を混和させる能力を有するものを1種以上用いることが好ましい。
【0045】
好適な有機溶媒の例を挙げると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール等の炭素数1〜4の一価アルコール、炭素数1〜4の二価アルコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールなどのアルコール類;ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等の、前記アルコール類のエーテルまたはエステル化物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−アセチルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルピロリジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジアセチルピペラジン等のアミド類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;テトラメチルウレア、N,N’−ジメチルイミダゾリジン等のウレア類;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0046】
これらの中でも、含有するアルコキシシラン類がより安定な条件下で加水分解を行なうためには、アルコール類が好ましく、1価アルコールがより好ましい。なお、有機溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。中でも、本発明の組成物を用いて、屈折率が低く、かつ耐湿度安定性に優れたシリカ膜をより確実に得るには、2種類以上の有機溶媒の混合物を有機溶媒として使用することが好ましく、加熱処理して均質なシリカ膜を形成するには、加熱処理の際に、ある程度の硬化(アルコキシシラン類の縮合反応)と水の除去とが同時に行なわれることが好ましい。したがって、表面近傍又は内部に存在する水分をある程度除去できる温度領域で、本発明の組成物内の有機溶媒が揮発するような有機溶媒を用いることが好ましい。
【0047】
このため、本発明の組成物には、有機溶媒として所定範囲の沸点を有する有機溶媒を所定の高い割合で含有させるようにすることが好ましく、上記条件(6)を満たすようにすることが好ましい。具体的には、沸点が通常55℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、また、通常140℃以下、好ましくは135℃以下、より好ましくは130℃以下の有機溶媒(以下適宜、「所定沸点溶媒」という)を少なくとも1種用いるとともに、全有機溶媒中に占める当該所定沸点溶媒の割合を、通常80重量%以上、好ましくは83重量%以上、より好ましくは85重量%以上とする。
【0048】
なお、当該割合の上限は100重量%である。前記の沸点が低すぎるとゾル−ゲル反応が不十分な状態で組成物が硬化し、本発明の組成物を用いて作製されるシリカ膜の耐湿度安定性が極めて低くなる可能性がある。一方、前記の沸点が高すぎると、局所的にゾル−ゲル反応が進み、シリカ膜が不均質となり、表面性の低下や耐湿度安定性の低下につながる可能性がある。さらに、前記の所定沸点溶媒の割合が低い場合には、上記の利点が得られない可能性がある。このような観点から前記の所定沸点溶媒の好ましい例を挙げると、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、エチルアセテートなどが挙げられる。したがって、上記の有機溶媒としては、これらの中から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0049】
また、有機溶媒全体の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対して、通常0.01mol/mol以上、中でも0.1mol/mol以上、特には1mol/mol以上が好ましく、また、通常100mol/mol以下、中でも70mol/mol以下、特には20mol/mol以下が好ましい。有機溶媒の使用量が少なすぎると組成物から作製されるシリカ膜の表面性が低下する可能性があり、多すぎると基板上にシリカ膜として形成した場合に膜質が基板の表面エネルギーに影響されやすくなる可能性がある。
【0050】
1−3−4.触媒
本発明の組成物は、触媒を含有することが好ましい。触媒は、上述したアルコキシシラン類の加水分解および脱水縮合反応を促進させる物質を任意に用いることができる。その例を挙げると、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸などの酸類;アンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;ピリジンなどの塩基類;アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類;などが挙げられる。また、触媒の例としては、金属キレート化合物も挙げられる。この金属キレート化合物の金属種としては、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。金属キレート化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
【0051】
アルミニウム錯体としては、例えば、ジ−エトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−イソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等を挙げることができる。
【0052】
チタン錯体としては、例えばトリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等を挙げることができる。
【0053】
上述したものの中でも、アルコキシシラン類の加水分解および脱水縮合反応をより容易に制御するためには、酸類若しくは金属キレート化合物が好ましく、酸類がさらに好ましい。なお、触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。触媒の使用量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、アルコキシシラン類に対して、通常0.001mol倍以上、中でも0.003mol倍以上、特には0.005mol倍以上が好ましく、また、通常0.8mol倍以下、中でも0.5mol倍以下、特には0.1mol倍以下が好ましい。触媒の使用量が少なすぎると加水分解反応が適度に進まず、組成物から作製されるシリカ膜中にシラノール基などの活性基が残存しやすくなり、シリカ膜の耐水性が低下する可能性がある。また多すぎると反応制御が困難になり、製造中に触媒濃度が更に高くなることで、作製されるシリカ膜の表面性が低下する可能性がある。
【0054】
1−3−5.非イオン性高分子
本発明の組成物は、エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子(以下適宜、「本発明に係る非イオン性高分子」ともいう。)を含有することが好ましい。ただし、本発明に係る非イオン性高分子は、上記条件(5)を満たすことが好ましい。即ち、本発明に係る非イオン性高分子の重量平均分子量は、通常4,300以上であり、5,000以上が好ましく、6,000以上がより好ましい。本発明に係る非イオン性高分子の重量平均分子量が小さすぎると、組成物から作製されるシリカ膜の多孔度を高く維持することが困難となり、低屈折率なシリカ膜を安定して製造することができなくなる可能性がある。なお、前記重量平均分子量の上限は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常100,000以下、好ましくは70,000以下、より好ましくは40,000以下である。重量平均分子量が大きすぎると組成物から均質なシリカ膜を製造できなくなる傾向がある。したがって、屈折率、耐湿度安定性とも低下する傾向がある。また、本発明に係る非イオン性高分子は、エチレンオキサイド部位を有することにより、アルコキシシラン類のゾル−ゲル反応中において形成されるアルコキシシラン類の加水分解物や縮合物に対して安定となる。この際、本発明に係る非イオン性高分子中のエチレンオキサイド部位の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常20重量%以上、好ましくは23重量%以上、より好ましくは25重量%以上であり、また、通常100重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下である。エチレンオキサイド部位の含有量が上記の範囲に収まることで、アルコキシシラン類のゾル−ゲル反応中において形成されるアルコキシシラン類の加水分解物や縮合物に対して、非イオン性高分子がさらに安定に存在することができる。
【0055】
本発明に係る非イオン性高分子は、エチレンオキサイド部位を有するとともに、上記の条件(5)を満たすことが好ましく、非イオン性高分子であれば、主鎖骨格構造は特に限定されることはない。主鎖骨格構造の具体例を挙げると、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリジエン、ポリビニルエーテル、ポリスチレン、及びそれらの誘導体などが挙げられる。中でも、ポリエーテルを構成成分とする高分子が好ましい。その具体例としては、ポリエチレングリコール(以下適宜、「PEG」という)、ポリプロピレングリコール、ポリイソブチレングリコールなどが挙げられる。中でも、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド トリブロックポリマー、及び/又は、ポリエチレングリコールが特に好ましい。なお、本発明に係る非イオン性高分子は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、本発明に係る非イオン性高分子の使用量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対する本発明に係る非イオン性高分子の割合が、通常0.001(mol/mol)以上、好ましくは0.002(mol/mol)以上、より好ましくは0.003(mol/mol)以上、また、通常0.05(mol/mol)以下、好ましくは0.04(mol/mol)以下、より好ましくは0.03(mol/mol)以下となるようにする。前記の割合が小さすぎると本発明の組成物の安定性が低下するだけでなく、作製されるシリカ膜も十分な多孔質構造を形成することができず、低屈折率を実現できない可能性がある。一方、前記の割合が大きすぎる場合には、組成物中で過剰の非イオン性高分子が分離、析出し、均一な組成物とならない可能性がある。
【0056】
1−3−6.その他
上記条件(1)及び(2)を満たす組成物を製造することが可能である限り、本発明の組成物には、上述したアルコキシシラン類、水、有機溶媒、触媒及び本発明に係る非イオン性高分子以外の成分を含有していても良い。また、当該成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0057】
1−4.本発明の組成物の利点
本発明の組成物は、屈折率が低く、耐湿度安定性に優れるシリカ膜を製造することが可能なものである。なお、本発明の組成物を用いて、反射防止膜基板の反射防止膜を製造する具体的な方法については、後述する。また、本発明の組成物はポットライフが長く安定しているため、従来の技術に比べて安定して十分に低い屈折率を有するシリカ膜を製造できる。
【0058】
1−5.本発明の組成物の用途
本発明の組成物を用いて作製されるシリカ膜は、低屈折率であり、当該屈折率を所望の範囲に制御できることから、例えば、低反射材料、反射防止材料として応用できる。また、本発明の組成物により作製されるシリカ膜(低屈折率膜)は平滑性にも優れているため、例えば、エレクトロルミネッセンス素子における光取出し材料としても応用が期待される。さらに、本発明の組成物により作製されるシリカ膜(低屈折率膜)は、湿度変化に対して安定であり、屋外での使用を前提とした用途にも利用でき、例えば太陽電池システム、建材、自動車用内外装に対しても応用できる。具体的には、本発明の組成物により作製されるシリカ膜は、太陽電池用低反射層等として好適に用いることができる。この太陽電池用低反射層は、通常は太陽電池システムの最表面に形成され、光取り込み膜として機能するものである。即ち、太陽電池用低反射層は、太陽電池に入射する光を効率よく内部に取り込み、太陽電池の発電効率を高める働きをするものである。
なお、本発明の組成物の用途は上記用途に限定されるものではない。
【0059】
2.反射防止膜基板
本発明の反射防止膜基板は、前述の本発明の組成物を基材に塗布後、熱処理して得られた薄膜を具備することを特徴とする。該反射防止膜基板は、上記組成物を熱処理して得られた薄膜、即ち低屈折率かつ、耐湿度安定性に優れたシリカ膜を具備する。したがって、例えば後述する太陽電池システム等における反射防止膜基板として、非常に有用である。なお、本発明の反射防止膜基板には、基材、及び上記組成物を用いて作製される薄膜(シリカ膜)以外に、必要に応じて、適宜他の部材を備えていてもよい。
【0060】
2−1.基材
本発明の反射防止膜基板に用いられる基材としては、反射防止膜基板の用途等に応じて任意のものを用いることができるが、中でも、汎用材料からなる透明基板を用いることが好ましい。
【0061】
基材の材料の例を挙げると、BK7、SF11、LaSFN9、BaK1、F2などの各種ショットガラス、合成フェーズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、サファイヤガラス、ソーダガラス、無アルカリガラス等のガラス;ポリメチルメタクリレート、架橋アクリレート等のアクリル樹脂、ビスフェノールAポリカーボネート等の芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリシクロオレフィン等の非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン等のスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等の合成樹脂などが挙げられる。中でも、ショットガラス、合成フェーズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、ソーダガラス、無アルカリガラス、アクリル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂及びポリスルホン樹脂が好ましい。
なお、これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0062】
基材の寸法は任意である。ただし、基材として板状の基板を用いる場合には、当該基板の厚さは、機械的強度及びガスバリア性の観点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。また、当該厚さは、軽量化及び光線透過率の観点から、80mm以下が好ましく、50mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましい。
【0063】
また、基材の表面粗さRaも任意である。ただし、本発明の組成物を用いて反射防止膜を作製する面においては、製膜性の観点から、表面粗さRaは10nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましく、5nm以下が更に好ましく、3nm以下が特に好ましい。
【0064】
一方、防眩性や隠蔽性を付与する場合、基材の中心線平均粗さは上記の限りではなく、基材の表面は凸凹を有することが好ましい。かかる凹凸は基材の片面のみでも、両面に有していてもよいが、反射防止膜(シリカ膜)が積層される面に有することが好ましい。具体的には、中心線平均粗さは通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.4μm以上であり、また通常15μm以下、好ましくは10μm以下である。表面粗さの最大高さRmaxは通常0.1μm以上であり、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは0.8μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは10μm以下である。
【0065】
上記中心線平均粗さ及び表面粗さの最大高さRmaxの範囲にある基材上に、上記組成物から作製される反射防止膜(シリカ膜)を備えることで低反射特性に優れ、かつ防眩性にも優れた反射防止膜基板を提供することができる。上記範囲を下回る、若しくは超えた場合には、低反射効果が損なわれる可能性があり、また外観が不透明になる可能性がある。また基材表面の凹凸の平均間隔Smは、通常0.01mm以上、好ましくは0.03mm以上であり、通常30mm以下、好ましくは15mm以下とすることも可能である。上記中心線平均粗さ、表面粗さの最大高さRmax及び凹凸の平均間隔Smは、JIS−B0601:1994に従った汎用の表面粗さ計(例えば、(株)東京精密社製サーフコム570A)により測定される。
【0066】
2−2.薄膜(シリカ膜)の形成方法
本発明の組成物を用い、上記基材上に反射防止膜となる薄膜を形成する方法としては、本発明の組成物を調製後、上記基材上に該組成物を塗布し、熱処理(加熱により硬化)して形成する方法であれば、その形成方法に特に制限はなく、必要に応じて、その他の操作を行なってもよい。例えば、本発明の組成物の調製中又は調製後に熟成を行なってもよく、また組成物を用いて作製した薄膜を熱処理後、反射防止膜基板の冷却及び後処理などを行なってもよい。
なお、本発明の反射防止膜基板において、上記組成物から作製される薄膜の膜厚は、通常0.05μm以上、好ましくは0.08μm以上、より好ましくは0.01μm以上であり、また通常5μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。これにより光学的効果を発現することがすることができる。
【0067】
2−2−1.調製工程
本発明の組成物の調製工程では、該組成物を構成する各成分を混合する。この際、各成分の混合の順番に制限は無い。また、各成分は、全量を一回で混合しても良く、2回以上に分けて連続又は断続的に混合しても良い。ただし、従来、制御困難とされているゾル−ゲル反応を制御して、該組成物をより工業的に調製するためには、以下の要領で調製することが好ましい。即ち、アルコキシシラン類、水、触媒及び溶媒を混合し、その混合物を熟成させることでアルコキシシラン類をある程度加水分解及び脱水縮合させる。そして、その混合物に本発明に係る非イオン性高分子を混合して、該組成物を調製する。これにより、ゾル−ゲル反応条件下で、アルコキシシラン類と非イオン性高分子との親和性を維持することができる。なお、熟成は、前記の混合物と本発明に係るイオン性高分子を混合した後で行なってもよい。
【0068】
前記熟成の際、アルコキシシラン類の加水分解・脱水縮合反応を進めるためには、加熱することが好ましい。加熱条件として、用いる溶媒の沸点を超えなければ特に制限は無いが、通常40℃以上、中でも50℃以上、特には60℃以上とすることが好ましい。加熱温度が低すぎると反応時間が極度に長くなり、生産性が低下する可能性がある。一方、加熱温度の上限は、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。100℃を超えると組成物中の水が沸騰し、分解・脱水縮合反応を制御できなくなる可能性がある。また、熟成時間に制限は無いが、通常10分以上、好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上、また、通常10時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは5時間以下である。熟成時間が短すぎると均一に熟成反応を進めることが難しくなる可能性がある。長すぎると溶媒の揮発が無視できなくなり、組成比が変化して液の安定性が低くなる可能性がある。さらに、熟成時の圧力条件に制限は無いが、通常は常圧で熟成を行なうことが好ましい。圧力が変化すると溶媒の沸点も変化し、熟成中の溶媒が揮発(蒸発)することで、組成比が変化して、組成物の安定性が低くなったり、耐湿度安定性に優れたシリカ膜が得られなかったりする可能性がある。
【0069】
また、熟成の後、塗布工程の前に本発明の組成物は有機溶媒を更に混合して希釈することが好ましい。これにより、組成物内でのゾル−ゲル反応速度を低下させることができ、本発明の組成物のポットライフを長く維持することが可能となる。さらに、希釈された組成物は、3〜5日以上の熟成を行なってもよい。これにより、組成物調製直後に見られる未反応部分が低減され、薄膜形成時の屈折率のばらつきを抑制できるとともに、長期にわたり安定した屈折率の薄膜とすることができる。
【0070】
2−2−2.塗布工程
上記調製工程の後、組成物を塗布(膜化)する塗布工程を行なう。塗布工程では、通常、上記基材の表面に上記組成物を製膜する。塗布の方法に制限は無いが、例えば、本発明の組成物をバーコーター、アプリケーター、ドクターブレード等を使用して基材上に延ばす流延法;本発明の組成物に基材を浸漬し引き上げるディップコート法;スピンコート法、キャピラリーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などの周知を挙げることができる。これらの方法のうち、流延法、ダイコート法、スプレーコート法及びスピンコート法が本発明の組成物を均一に塗布することができるので好ましく採用される。中でも、均質な膜を形成する上ではスピンコート法が特に好ましい。
【0071】
流延法で本発明の組成物を塗布する場合、流延速度に制限は無いが、通常0.1m/分以上、好ましくは0.5m/分以上、より好ましくは1m/分以上、また、通常1000m/分以下、好ましくは700m/分以下、より好ましくは500m/分以下である。流延速度が遅すぎると膜厚にムラができる可能性があり、速すぎると基材との濡れ性の制御が困難になる可能性がある。
【0072】
また、ディップコート法においては、任意の速度で、基材を塗布液に浸漬し引き上げればよい。この際の引き上げ速度に制限は無いが、通常0.01mm/秒以上、好ましくは0.05mm/秒以上、より好ましくは0.1mm/秒以上、また、通常50mm/秒以下、好ましくは30mm/秒以下、より好ましくは20mm/秒以下である。引き上げ速度が遅すぎたり速すぎたりすると、膜厚にムラができる可能性がある。一方、基材を塗布液中に浸漬する速度に制限はないが、通常は、引き上げ速度と同程度の速度で基材を塗布液中に浸漬することが好ましい。さらに、基材を塗布液中に浸漬してから引き上げるまでの間、適当な時間浸漬を継続してもよい。この浸漬を継続する時間に制限は無いが、通常1秒以上、好ましくは3秒以上、より好ましくは5秒以上、また、通常48時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。この時間が短すぎると基材への密着性が低い可能性があり、長すぎると浸漬中に膜が形成されて平滑性が低くなる可能性がある。
【0073】
さらに、スピンコート法で本発明の組成物を塗布形成する場合、回転速度は、通常10回転/分以上、好ましくは50回転/分以上、より好ましくは100回転/分以上、また、通常100000回転/分以下、好ましくは50000回転/分以下、より好ましくは10000回転/分以下である。回転速度が遅すぎると膜厚にムラができる可能性があり、速すぎると溶媒の気化が進みやすくなりアルコキシシラン類の加水分解等の反応が十分進まず耐湿度安定性が低下する可能性がある。
【0074】
また、スプレーコート法で本発明の組成物を塗布形成する場合、スプレーノズルの方式には特に限定されないが、各々のスプレーノズルの利点を考慮して選択すればよい。代表的な例として、二流体スプレーノズル(二流体霧化方式)、超音波スプレーノズル(超音波霧化方式)、回転式スプレーノズル(回転霧化方式)などが挙げられる。組成物の霧化と気体流による霧化粒子の基材への搬送を独立に制御できる点では、超音波スプレーノズル、及び回転式スプレーノズルが好ましく、組成物の液性維持の観点では二流体スプレーノズルが好ましい。
さらに、霧化粒子の搬送に利用する気体流の気流速度は、用いる組成物により適宜調整することが好ましいが、通常5m/秒以下、好ましくは4m/秒以下、より好ましくは3m/秒以下である。気流速度が高過ぎると、膜が不均質になる可能性がある。また用いる気体としては特に限定されないが、窒素などの不活性ガスが好ましい。
スプレーノズルと基材との距離は基材サイズにより適宜調整することが好ましいが、通常5cm以上、好ましくは10cm以上、より好ましくは15cm以上である。また通常100cm以下、好ましくは80cm以下、より好ましくは50cm以下である。この範囲を超えると膜厚ムラが発生する可能性がある。
【0075】
ただし、本発明の反射防止膜基板の塗布工程では、相対湿度が通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、また、通常85%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下の環境下において塗布を行なうようにする。塗布工程での相対湿度を前記の範囲にすることにより、表面平滑性の高いシリカ膜が得られる。塗布工程における雰囲気に制限は無い。例えば、空気雰囲気中で塗布を行なっても良く、例えばアルゴン等の不活性雰囲気中で塗布を行なってもよい。塗布工程を行なう際の温度に制限は無いが、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下、中でも好ましくは50℃以下、特に好ましくは40℃以下である。塗布の際の温度が低すぎると溶媒が気化しにくくなり膜の表面平滑性が低下する可能性があり、高すぎるとアルコキシシラン類の硬化が急速に進み、膜歪みが大きくなる可能性がある。
【0076】
塗布工程を行なう際の圧力に制限は無いが、通常0.05MPa以上、好ましくは0.08MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上、また、通常0.3MPa以下、好ましくは0.2MPa以下、より好ましくは0.15MPa以下である。圧力が低すぎると溶媒が気化しやすくなり塗布後のレベリング効果が得られず膜の平滑性が低くなる可能性があり、高すぎると溶媒が気化しにくくなり膜の表面性が低くなる可能性がある。ところで、ディップコート法とスピンコート法とでは、乾燥速度に違いがあり、塗布直後の膜の安定構造に僅かな違いが生じることがある。これは塗布中の雰囲気を変えることで調整する事ができる。また、前記の膜の安定構造の僅かな違いは、基材の表面処理によっても対処する事ができる。なお、本発明の組成物を基材上に塗布するのに先立って、本発明の組成物の濡れ性、形成される反射防止膜の密着性の観点から、基材に表面処理を施しておいてもよい。そのような表面処理の例を挙げると、シランカップリング処理、コロナ処理、UVオゾン処理などが挙げられる。また、表面処理は、1種のみを行なってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行なってもよい。
【0077】
また、塗布工程は一回で行なってもよいが、二回以上に分けて行なってもよい。例えば、後述する熱処理工程を介して塗布工程を二回以上行なうようにすれば、積層構造を有する反射防止膜を形成することが可能である。これは、例えば屈折率が異なる層を積層したい場合などに有用である。
【0078】
2−2−3.熱処理工程
塗布工程の後、膜を熱処理する熱処理工程を行なう。熱処理工程により、本発明の組成物中の有機溶媒及び水が乾燥、除去されて、膜が硬化し、またさらに非イオン性ポリマーが除去されることによって、基材上に反射防止膜(シリカ膜)が形成される。上記非イオン性ポリマーが除去されることによって、多孔質のシリカ膜が形成されることとなり、本発明の組成物が上述した特性を有するものとすることができる。
熱処理の方式は特に制限されないが、例としては、加熱炉(ベーク炉)内に基材を配置して本発明の組成物の膜を熱処理する炉内ベーク方式、プレート(ホットプレート)上に基材を搭載しそのプレートを介して本発明の組成物から作製されるシリカ膜を熱処理するホットプレート方式、前記基材の上面側及び/又は下面側にヒーターを配置し、ヒーターから電磁波(例えば赤外線)を照射して、本発明の組成物から作製される膜を熱処理する方式、などが挙げられる。
【0079】
熱処理温度に制限は無く、シリカ膜を硬化できれば任意である。通常230℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくは320℃以上、更に好ましくは350℃以上、特に好ましくは400℃以上、また、通常750℃以下、好ましくは500℃以下、さらに好ましくは450℃以下である。熱処理温度が低すぎると得られるシリカ膜の屈折率が下がらなかったり、着色したりする可能性がある。一方、熱処理温度が高すぎると基材とシリカ膜(反射防止膜)との密着性が低下する可能性がある。なお、熱処理工程において、前記の熱処理温度で連続的に熱処理を行なってもよいが、断続的に熱処理を行なうようにしてもよい。
【0080】
熱処理を行なう際、昇温速度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1℃/分以上、好ましくは10℃/分以上、また、通常500℃/分以下、好ましくは300℃/分以下で昇温する。昇温速度が遅すぎると膜が緻密化し、膜歪みが大きくなって耐湿度安定性が低くなる可能性があり、昇温速度が速すぎると膜歪みが大きくなって同様に耐湿度安定性が低くなる可能性がある。熱処理を行なう時間は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、また、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。熱処理時間が短かすぎると十分に非イオン性ポリマーを取り除けなくなる可能性があり、長すぎるとアルコキシシランの反応が進み、基材との密着性が低下する可能性がある。
【0081】
熱処理を行なう際の圧力は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、減圧環境とすることが好ましい。アルコキシシランの反応よりも溶媒の気化が進行し、耐湿度安定性が低い膜となる可能性があるためである。この観点から、熱処理工程では、圧力を、通常0.2MPa以下、好ましくは0.15MPa以下、より好ましくは0.1MPa以下とする。一方、圧力の下限に制限は無いが、通常10−4MPa以上、好ましくは10−3MPa以上、より好ましくは10−2MPa以上である。圧力が低すぎるとアルコキシシランの反応よりも溶媒の気化が進行し、耐湿度安定性が低い膜になる可能性がある。熱処理を行なう際の雰囲気は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、中でも、乾燥ムラの生じにくい環境が好ましい。その中でも、大気雰囲気下で熱処理を行なうことが好ましい。また、不活性ガス処理を行ない、不活性雰囲気下で乾燥を行なうことも可能である。以上のように、熱処理を行なうことにより、本発明の組成物から作製される膜を硬化させて、本発明の反射防止膜基板を得ることができる。
【0082】
2−2−4.冷却工程
熱処理工程の後、必要に応じて、冷却工程を行なってもよい。冷却工程では、熱処理工程で高温となった本発明の反射防止膜基板を冷却する。この際、冷却速度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1℃/分以上、好ましくは0.5℃/分以上、より好ましくは0.8℃/分以上、更に好ましくは1℃/分以上、また、通常50℃/分以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃/分以下、更に好ましくは10℃/分以下である。冷却速度が遅すぎると製造コストが高くなる可能性があり、速すぎると隣接する膜間の線膨張が異なることによる膜質の低下が予想される。また、冷却工程における雰囲気は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、例えば、真空環境、不活性ガス環境であってもよい。さらに、温度及び湿度に制限は無いが、通常は常温・常湿で冷却する。
【0083】
2−2−5.後処理工程
熱処理工程の後、必要に応じて、後処理工程を行なってもよい。後処理工程で行なう具体的な操作に制限は無いが、例えば、得られた反射防止膜基板をシリル化剤で処理することで、表面をより機能性に優れたものにできる。具体例を挙げると、シリル化剤で処理することにより、本発明の反射防止膜基板に疎水性が付与され、アルカリ水などの不純物によりシリカ膜の空孔が汚染されるのを防ぐことができる。
【0084】
シリル化剤としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類;トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、メチルクロロジシラン、トリフェニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、ジフェニルジクロロシランなどのクロロシラン類;ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、N−トリメチルシリルアセトアミド、ジメチルトリメチルシリルアミン、ジエチルトリエチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾールなどのシラザン類;(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン等のフッ化アルキル基やフッ化アリール基を有するアルコキシシラン類;などが挙げられる。なお、シリル化剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0085】
シリル化の具体的操作としては、例えば、シリル化剤を本発明の組成物から作製されたシリカ膜(反射防止膜)に塗布したり、シリル化剤中に反射防止膜基板を浸漬したり、反射防止膜基板をシリル化剤の蒸気中に曝したりすることにより、行なうことができる。また、後処理の別の例としては、本発明の反射防止膜基板を多湿条件下でエージングすることで、多孔質構造中に存在する未反応シラノールを減らすことができ、これにより、本発明の組成物から作製された反射防止膜の耐湿度安定性をより向上させることも可能である。
【0086】
2−2−6.その他
本発明の反射防止膜基板では、本発明の効果を著しく損なわない限り、製造の際、上述した各工程の工程前、工程中及び工程後の任意の段階で、任意の工程を行なってもよい。なお、本発明の反射防止膜基板では本発明の組成物を膜状に形成したが、膜状以外の形状に成形するのであれば、塗布工程の代わりに所定の形状に成形する成形工程を行なえばよい。
【0087】
3.太陽電池システム
本発明の太陽電池システムは、上記反射防止膜基板を受光面側に備えることを特徴とし、例えば、本発明の組成物を用いて反射防止膜を基材上に形成させた反射防止膜基板を、太陽電池システムの光エネルギーを取り入れる受光面側の被覆に用いる構成とすることができる。
本発明の太陽電池システムの一例を図1に示す。太陽電池システムでは、通常は一対の電極1及び3を設け、当該電極1及び3の間に半導体層2が位置するように構成する。また、基材5と電極3との間に中間層4があってもよい。また、通常、上記反射防止膜基板(基材5及び反射防止膜6)が、受光面側となるように構成する。
本発明においては、上記各構成以外に、熱線遮断層、紫外線劣化防止層、ガスバリア層、親水性層、防汚性層、防曇層、防湿層、粘着層、ハード層、導電性層、反射層、アンチグレア層、拡散層等(図示せず)をさらに組み合わせてもよい。
【0088】
ここで、太陽電池システムとは、光起電力効果を利用して、光エネルギーを電力に変換することのできる素子または装置であり、例として、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池などのシリコン系太陽電池、CIS系太陽電池、CIGS系太陽電池、GaAs系太陽電池などの化合物太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、また多接合型太陽電池、HIT太陽電池が挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。
【0089】
また、上記半導体層2は、半導体材料を含有する層である。太陽電池システムでは、通常、光を取り込むことで半導体層2で電気エネルギーが生じ、その電気エネルギーを取り出すことで電池として機能するようになっている。
半導体層2に用いられる半導体の種類に制限は無い。また、半導体は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、半導体層2には、太陽電池システムとしての機能を著しく損なわない限りその他の材料が含有されていても良い。
【0090】
また、半導体層2は、単一の膜のみによって構成されていてもよく、2以上の膜によって構成されていても良い。中でも半導体の分光感度の広いものがよく、タンデム型の半導体層を用いることでより反射防止の効果を得ることができる。
なお、半導体層2の厚さに特に制限はないが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下の寸法で形成する。
【0091】
一方、電極1及び3は、導電性を有する任意の材料により形成することが可能である。電極1及び3は、半導体層2で生じた電気エネルギーを取り出すためのものである。ただし、一対の電極1及び3のうち、少なくとも一方は透明である(即ち、太陽電池システムが発電するために半導体層2が吸収する光を透過させる)ことが好ましい。透明な電極の材料を挙げると、例えば、ITO、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の酸化物;金属薄膜などが挙げられる。なお、電極の材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。さらに、電極は2層以上積層してもよく、表面処理による特性(電気特性やぬれ特性等)を改良してもよい。ただし、反射防止膜基板5から半導体層2までのC光の全光線透過率を、80%以上とすることが好ましく、83%以上とすることがより好ましく、86%以上とすることがさらに好ましく、90%以上とすることが特に好ましい。光の透過率が高いほど太陽電池システムが効率よく発電できるからである。また、前記全光線透過率は理想的には100%であるが、本発明の組成物を用いて作製された反射防止膜の表面での部分反射を考慮すると通常99%以下である。本発明の組成物により作製された反射防止膜は、低屈折率とともに湿度安定性に優れるため、このように太陽電池システムに非常に適した性能を発揮することが可能である。
【0092】
4.その他のデバイス
本発明の組成物から作製されるシリカ膜は、平滑な表面を有する点において、エレクトロルミネッセンス(EL)素子にも好適である。
本発明の組成物から作製されるシリカ膜を用いたエレクトロルミネッセンス素子は、例えば、該シリカ膜、2つの電極、及び上記電極の間にエレクトロルミネッセンス層を有するものであればよく、通常、(i)電極(陰極)、(ii)エレクトロルミネッセンス層、(iii)電極(陽極)、(iv)該シリカ膜、及び(v)透光体がこの順に配置される構成をとること等が可能である。(i)〜(v)の順を維持するものであれば、それぞれの層の間に他の層を有していてもよい。例えば(iii)電極(陽極)と(iv)シリカ膜との間に、光散乱層及び/または高屈折率層を入れること等も可能である。
【0093】
(i)陰極として用いられる材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。特に、アルミニウム、錫、マグネシウム、インジウム、カルシウム、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、白金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等で形成される。特にアルミニウムで形成することが好ましい。陰極の厚さは、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上である。また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。
【0094】
(ii)エレクトロルミネッセンス層は、電界が印加されることにより発光現象を示す物質により製膜されたものであり、その物質としては、付活酸化亜鉛ZnS:X(ただし、Xは、Mn、Tb、Cu、Sm等の付活元素である。)、CaS:Eu、SrS:Ce、SrGa:Ce、CaGa:Ce、CaS:Pb、BaAl:Eu等の従来使用されている無機エレクトロルミネッセンス物質、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体、芳香族アミン類、アントラセン単結晶等の低分子色素系の有機EL物質、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の共役高分子系の有機エレクトロルミネッセンス物質等、従来使用されている有機エレクトロルミネッセンス物質を用いることができる。エレクトロルミネッセンス層の厚さは、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上であり、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下とされる。エレクトロルミネッセンス層は、蒸着やスパッタリング等の真空製膜プロセス、あるいはキシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン等を溶媒とする塗布プロセスにより形成することが可能である。
【0095】
(iii)陽極としては、錫を混合した酸化インジウム(通常ITOと呼ばれている。)、アルミニウムを混合した酸化亜鉛(通常AZOと呼ばれている。)、インジウムを混合した酸化亜鉛(通称IZOと呼ばれている。)等の複合酸化物薄膜が好ましく用いられる。特にITOであることが好ましい。
陽極は、可視光に対して透明性を有する透明電極層とすることも可能であり、透明電極層として形成される場合、可視光波長領域における光線透過率は大きいほど好ましい。この際、下限としては通常50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。また上限としては通常99%以下である。また陽極の電気抵抗は、面抵抗値として小さいほど好ましく、通常1Ω/□(オームパースクウェア;□=1cm)以上とされ、通常100Ω/□以下、好ましくは70Ω/□以下、より好ましくは50Ω/□以下とされる。
【0096】
また陽極を透明電極とする場合の厚さとしては、上述した光線透過率及び面抵抗値を満足するものであれば特に限定されないが、通常0.01μm以上であり、また導電性の観点から好ましくは0.03μm以上、より好ましくは0.05μm以上である。また上限としては通常10μm以下であるが、光線透過率の観点から1μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下である。
【0097】
また、上記エレクトロルミネッセンス素子には、例えば、他の光学機能層及び保護膜等を備えていても良い。他の光学機能層は、用いる用途により適宜選択することができる。また、これらの層は1層のみを備えていてもよく、2以上の層を任意に組み合わせて備えていても良い。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0099】
[実施例1]
〔組成物の調製〕
テトラエトキシシラン6.78g、メチルトリエトキシシラン6.92g、エタノール(沸点78.3℃)2.30g、水5.56g、及び、0.3重量%の塩酸水溶液13.0gを混合し、60℃のウォーターバス中で30分、さらに室温で30分攪拌することで、混合物(A)を調製した。
次に、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド トリブロックポリマー(ALDRICH社製 (重量平均分子量5,800、エチレンオキサイド部位の割合は30重量%);以下適宜「P123」という)6.14gとエタノール3.20gとを混合した混合物(B)に、前記の混合物(A)を添加し、室温で60分撹拌し、0.45μmのフィルター(ワットマンジャパン(株)社製)でろ過することで、混合物(C)を調製した。
この混合物(C)40mlと、希釈溶媒として1−ブタノール(沸点117.3℃)36mlとを混合し、室温で30分撹拌することで本発明の組成物を得た。
この組成物において、全アルコキシシラン類(テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシラン)由来のケイ素原子に対する、テトラエトキシシラン由来のケイ素原子、水、及びP123の割合は、それぞれ、0.46、14.4及び0.015(mol/mol)であった。
【0100】
〔水蒸気吸着特性の測定〕
得られた組成物を、120mmφのガラス性シャーレに6.3ml注ぎ、室温下、相対湿度40%の条件にて3日間溶媒を乾燥させた。その後、450℃、2時間、大気雰囲気中で加熱焼成して、粉末を得た。得られた粉末について25℃での相対水蒸気圧と吸着量との関係を日本ベル(株)社製ベルソープ18を用いて測定した。
その結果、水蒸気吸着量は、図2のようになり、相対湿度0.3<P/P<0.9での水蒸気吸着量差Δは、0.005g/gであった。
【0101】
[組成物から作製された膜の屈折率測定]
次に上記で調製した本発明の組成物を1mlピペッターで測り取り、スピンコーター(ミカサ(株)社製)にセットした青板ガラス基板上に万遍なく塗布し、500rpm、120秒間スピンコートして青板ガラス基板上にシリカ膜を作製した。得られたシリカ膜基板を450℃に設定したホットプレート上に置き、大気雰囲気下で2分間加熱することで外観の良好な反射防止膜基板を得た。得られた反射防止膜(シリカ膜)の屈折率は分光エリプソメーターにより測定し、Cauthyモデルで解析した結果、波長550nmにおける屈折率は1.18であり、膜厚は0.69μmであった。実施例1の結果を表1に示す。
【0102】
[実施例2]
全アルコキシシラン類(テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシラン)由来のケイ素原子に対する非イオン性高分子の割合(非イオン性高分子/Si(mol/mol))を0.0058(mol/mol)としたこと以外は実施例1と同様の操作を行なって本発明の組成物を作製した。その後、水蒸気吸着量測定用粉末を作製して水蒸気吸着量測定を行ない、さらにシリカ膜の屈折率測定を行なった。結果を表1に示す。また、水蒸気吸着量測定の結果を図2に示す。
【0103】
[比較例1]
〔組成物の調製〕
テトラエトキシシラン3.47g、メチルトリメトキシシラン2.27g、エタノール(沸点78.3℃)4.60g、水0.60g、及び、塩酸6.1×10−5gを混合し、60℃のウォーターバス中で90分攪拌することで、混合物(A)を調製した。
次に、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド トリブロックポリマー(BASF社製 PLURONIC F127(重量平均分子量12,600、エチレンオキサイド部位の割合は70重量%);以下適宜「F127」という)2.52gとエタノール26.07gとを混合溶解し、さらに、水2.4gと塩酸0.0048gとを混合した混合物(B)に、前記の混合物(A)を添加し、室温で3日間撹拌し、0.45μmのフィルター(ワットマンジャパン(株)社製)でろ過することで組成物を得た。
該組成物において、全アルコキシシラン類(テトラエトキシシランとメチルトリメトキシシラン)由来のケイ素原子に対する、テトラエトキシシラン由来のケイ素原子、水、及びF127の割合は、それぞれ、0.50、5.0及び0.006(mol/mol)である。
【0104】
〔水蒸気吸着特性の測定〕
得られた組成物を、120mmφのガラス性シャーレに6.3ml注ぎ、室温下、相対湿度40%の条件にて3日間溶媒を乾燥させた。その後、400℃、5時間、大気雰囲気中で加熱焼成して、粉末を得た。得られた粉末について25℃での相対水蒸気圧と吸着量との関係を日本ベル(株)社製ベルソープ18を用いて測定した。
【0105】
[組成物から作製された膜の屈折率測定]
次に上記で調製した組成物を1mlピペッターで測り取り、スピンコーター(ミカサ(株)社製)にセットした青板ガラス基板上に万遍なく塗布し、1000rpm、60秒間スピンコートして青板ガラス基板上にシリカ含有コーティング膜を作製した。得られたコーティング膜基板を130℃に設定したホットプレート上に置き、大気雰囲気下で10分間加熱した後、設定温度を400℃にして1時間加熱することで外観の良好な反射防止膜基板を得た。得られた反射防止膜の屈折率は分光エリプソメーターにより測定し、Cauthyモデルで解析した。結果を表1に示す。また、水蒸気吸着量測定の結果を図2に示す。
表1において、非イオン性高分子/Siの欄の数値は、全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対する非イオン性高分子の割合(mol/mol)を表わす。結果を表1に示す。水蒸気吸着量の測定結果を図2に示す。
【0106】
【表1】

上記表1において、耐湿度安定性の評価は、下記の手法により行なった。
【0107】
〔耐湿度安定性の評価〕
組成物より作製されたシリカ膜を温度85℃、相対湿度85%の環境下で100時間保存したものの屈折率変化を測定し、その変化量が0.05以下であり、外観の変化がないものを「○」とした。なお、屈折率は分光エリプソメーターにより測定し、Cauthyモデルで解析した。結果を表1に示す。比較例1では膜にクラックが発生した。
【0108】
〔結果〕
表1より、相対湿度0.3<P/P<0.9における水蒸気吸着量差Δが0.03g/g以下である実施例1及び実施例2においては、耐湿度安定性が良好であった。一方、上記水蒸気吸着量差Δが0.03より大きい比較例1においては、耐湿度安定性が低かった。
なお、比較例1においては、組成物中のHO/Siが小さく、水の量が少ないことから、膜中に未反応のアルコキシ基が残存し、ここが熱処理工程によって親水部位となり、水蒸気吸着量差が大きくなり、その結果、対湿度安定性が低くなっていると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は産業上の任意の分野で用いることが可能であり、例えば任意の光学用途に用いることができる。中でも、本発明によれば従来よりも耐湿度安定性を向上させることが可能であるため、例えば太陽電池等の屋外にて使用する用途に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の太陽電池システムの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例の水蒸気吸着量測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0111】
1、3 電極
2 半導体層
4 中間層
5 透明基板
6 多孔質体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物を含有する組成物であって、
該組成物を基板に塗布し、400℃以上、450℃以下で、1分以上、1時間以下焼成して得られた膜の屈折率が1.25以下であり、
かつ該組成物を室温下、相対湿度40%の条件下で3日間風乾し、その後400℃以上、450℃以下で、1分以上、5時間以下焼成して得られた粉末の、25℃での相対水蒸気圧0.3<P/P<0.9における水蒸気吸着量差Δが0.03g/g以下である
ことを特徴とする組成物。
(ここでPは、25℃における水蒸気分圧であり、Pは、25℃における飽和水蒸気圧である。)
【請求項2】
テトラアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるテトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種、及び該テトラアルコキシシラン類以外のアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなる他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種の組合せと、
並びに/又は、該テトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種及び他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種の部分縮合物と、
水と、
有機溶媒と、
触媒と、
エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子とを含む
ことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
該エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子の重量平均分子量が4,300以上である
ことを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対するテトラアルコキシシラン類由来のケイ素原子の割合が0.3(mol/mol)以上、0.7(mol/mol)以下である
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対する水の割合が10(mol/mol)以上である
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
該有機溶媒中の80重量%以上が、沸点55℃以上140℃以下の有機溶媒である
ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対する該エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子の割合が0.001(mol/mol)以上、0.05(mol/mol)以下である
ことを特徴とする、請求項2〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
該エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子中の、エチレンオキサイド部位の含有量が20重量%以上である
ことを特徴とする、請求項2〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
該エチレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子が、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド トリブロックポリマー、及びポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも一種の非イオン性高分子である
ことを特徴とする、請求項2〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
該テトラアルコキシシラン類がテトラエトキシシランであり、
該テトラアルコキシシラン類以外のアルコキシシラン類が、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルアルコキシシラン又はジアルキルアルコキシシランである
ことを特徴とする請求項2〜9いずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
該有機溶媒が、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール及びエチルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する
ことを特徴とする請求項2〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物を基材に塗布後、熱処理して得られた薄膜を具備する
ことを特徴とする反射防止膜基板。
【請求項13】
請求項12に記載の反射防止膜基板を受光面側に備える
ことを特徴とする太陽電池システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−65174(P2010−65174A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234175(P2008−234175)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】