説明

組電池及びその溶接方法

【課題】
良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部を得ると共に、電池極間の接続抵抗を小さく、電池充放電時の通電ロスが減少でき、電池寿命向上に有効な組電池及びその溶接方法を提供する。
【解決手段】
複数個の単電池を電気絶縁性の収納ケースに一列又は複数列に収納後に、各単電池の極間を各接続金属板によって連結する組電池において、材質が銅製の前記接続金属板3を各単電池2の正極部6と他の単電池2の負極部7との両面に配置して重ね継手を各々形成し、正極部6の上側にある片方の前記接続金属板3の特定位置、及び前記負極部7の上側にある他方の前記接続金属板3の特定位置にアークスポット溶接を施工して各々形成した溶接部5を備えている。前記溶接部5の溶け込み深さhは、前記接続金属板3の板厚T1より大きく、前記正極部6又は負極部7の板厚T2を加えた値より小さく、T1<h≦(T1+T2×4/5)の範囲に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の単電池の正負極間を接続金属板によって連結する組電池及びその溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車や携帯機器等に使用する組電池(電池モジュールとも称す)は、大電流の充放電が要求されるため、数十本の単電池を直列に接続する必要がある。接続抵抗(電気抵抗)が大きいと、電圧降下による通電ロスが増加し、発熱量も大きくなり、電池の特性劣化,寿命低下が生じる。このため、従来より組電池の接続抵抗を小さくする方法や電池極間を連結する方法が幾つか提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の円筒型電池及び組電池では、雌ねじ孔が穿設され又は雄ねじ部が立設された面部を有する導電性材料からなる集電端子が前記面部を支持する脚部を介してそれぞれ正極部と負極部とに接続固定することが提案されている。
【0004】
特許文献2に記載の組電池では、2本の単電池の正極キャップ上に配置された電気絶縁性樹脂製のプレートは、組電池の外周より小さく、単電池間の谷状空間に多角形状の窪みを有する突起が突設されており、前記プレート表面に前記単電池間を機械的,電気的に接続する金属ブスバを配置することが提案されている。
【0005】
特許文献3では、縦列に並べられる単電池の対向する電極端子に、第1電極ユニットと第2電池ユニットの外側に突出した金属リード板を固定しており、前記金属リード板の表面を互いに接触させる状態で接続することが提案されている。
【0006】
また、特許文献4に記載の組電池では、接続部材の2種類の突起の内、一方の突起は一方の単電池の封口体上に溶接され、他方の突起は他方の単電池の外装缶底面に溶接されることが提案されている。
【0007】
特許文献5に記載の密閉型電池とその製造法及び密閉型電池用蓋板では、電池容器の開口部を密閉する蓋板の裏面は注入穴近傍が外周部より薄肉に形成され、該薄肉に形成された部分と封止栓との溶融によって前記注入穴が封止されていることが提案されている。
【0008】
また、特許文献6(特公昭61−8539号公報)に記載の渦巻電極を備えた電池の製造法では、渦巻電極体の上下各電極突出端に略円盤状の金属無地板よりなる集電体を配置し、アークスポット溶接により集電体とこれと直角に交差接触する電極突出端とを溶接した後、電池ケース内に包み込むことが提案されている。
【0009】
上記特許文献1の場合には、電池の正負極部に取付けた集電端子と電池同士を接続する接続体とをボルトで締結する構造であるため、部品数が多く、コスト高になる。集電端子の脚部に切込みと凸部を設けて、電池の正極部や負極部にスポット溶接(抵抗溶接)しているが、溶接箇所が8箇所もあり、溶接工数が増加するという問題がある。また、集電端子は、ニッケル製のような導電性材料が使用されており、スポット溶接(抵抗溶接)の施工が可能であるが、板厚を多少厚くしても、ニッケル材の電気抵抗が銅材の電気抵抗と比べて大きいため、接続抵抗の減少に限界がある。また、ニッケル材は銅材より高価である。電気抵抗の小さい銅材は、ジュール発熱方式の抵抗溶接が困難であるため、前記集電端子には使用することができず、また、前記抵抗溶接と方法が異なるアーク溶接(アークスポット溶接)は適用されていない。
【0010】
上記特許文献2の場合には、電気絶縁性樹脂製のプレート上にT字状,十字状の金属ブスバを配置し、単電池の正極端子,負極端子にスポット溶接(抵抗溶接)している。前記金属ブスバの材質は記載されていないが、上記特許文献1と同様に、ニッケル製のような導電性材料と考えられる。また、電気抵抗の小さい銅材は、ジュール発熱方式の抵抗溶接が困難であるため、前記集電金属ブスバには使用することができない。また、前記抵抗溶接と方法が異なるアーク溶接(アークスポット溶接)は適用されていない。
【0011】
上記特許文献3の場合には、上段の第1電池ユニットと下段の第2電池ユニットとを連結する金属リード板の突出部同士を半田付け又はスポット溶接(抵抗溶接)している。また、複数個の単電池の極間同士を接続するリード板もスポット溶接(抵抗溶接)している。組電池の構造は異なるが、上記特許文献1,2と同様に、抵抗溶接と方法が異なるアーク溶接(アークスポット溶接)は適用されていない。また、電気抵抗の小さい銅材は、ジュール発熱方式の抵抗溶接が困難であるため、前記金属リード板及びリード板には使用することができない。
【0012】
上記特許文献4の場合には、2種類の突起を有する接続部材を介して上側の単電池と下側の単電池とを連結する構造であり、一方の突起を下側の単電池正極面に溶接(抵抗溶接)し、他方の突起を上側の単電池負極面を溶接(抵抗溶接)している。前記接続部材には溶接時に溶接電極を取付けるリード部が突出しているため、溶接終了後に前記リード部を切断する又は折り曲げる必要があり、余分な工数が増えるという問題がある。溶接トーチを挿入する空間がないため、抵抗溶接と異なるアーク溶接等の他の溶接法は適用することができない。
【0013】
上記特許文献5の場合には、蓋板の薄肉部分と封止栓とをアーク溶接して穴封止(溶融接合)しているが、角型電池の穴を封止溶接する技術であり、複数個の単電池の極間同士を接続溶接するものではない。また、角型電池の蓋板及び封止栓の材質はアルミニウムであり、銅やニッケルではない。材質や形状が異なると、溶接可能な適正条件が全く異なるため、前記アルミニウムの溶接条件をそのまま適用することができない。
【0014】
上記特許文献6の場合には、円盤状の集電体と下側にある渦巻電極体の突出端とをアークスポット溶接しているが、丸型電池の電極部分を溶接する技術であり、複数個の単電池の極間同士を接続溶接するものではない。また、前記集電体及び渦巻電極体の材質はニッケルメッキ付の鋼板であり、銅やニッケルではない。上記特許文献5と同様に、材質や形状が異なると、溶接可能な適正条件が全く異なるため、前記鋼板の溶接条件をそのまま適用することができないという問題がある。
【0015】
【特許文献1】特開平8−287898号公報
【特許文献2】特開2004−164981号公報
【特許文献3】特開2000−133227号公報
【特許文献4】特開2001−266843号公報
【特許文献5】特開2004−259584号公報
【特許文献6】特公昭61−8539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部が得ると共に、電池極間の接続抵抗が小さく、電池充放電時の通電ロスを減少でき、電池寿命向上に有効な組電池及び溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するために、複数個の単電池を電気絶縁性の収納ケースに一列又は複数列に収納後に、各単電池の極間を各接続金属板によって連結する組電池において、材質が銅製の前記接続金属板を各単電池の正極部と他の単電池の負極部との両面に配置して重ね継手を各々形成し、前記正極部の上側にある片方の前記接続金属板の特定位置、及び前記負極部の上側にある他方の前記接続金属板の特定位置にアークスポット溶接を施工して各々形成した溶接部を備えていることを特徴とする。
【0018】
特に、前記溶接部の溶け込み深さhは、前記接続金属板の板厚T1より大きく、前記正極部又は負極部の板厚T2を加えた値より小さく、T1<h≦(T1+T2×4/5)の範囲に形成されているとよい。
【0019】
また、前記重ね継手は、前記接続金属板に該当する上側の板厚T1が0.5mm以上1.5mm以下の銅材と、前記正極部又は負極部に該当する下側の板厚T2が0.5mm以上1.5mm以下の鋼材との異材継手であり、前記鋼材の表裏面にニッケルメッキが形成されているとよい。
【0020】
また、本発明は、上記目的を達成するために、複数個の単電池を電気絶縁性の収納ケースに一列又は複数列に収納後に、各単電池の極間を各接続金属板によって連結する組電池の溶接方法において、材質が銅製の前記接続金属板を各単電池の正極部と他の単電池の負極部との両面に配置して重ね継手を各々形成する工程と、前記正極部の上側にある片方の前記接続金属板の特定位置、及び前記負極部の上側にある他方の前記接続金属板の特定位置にアークスポット溶接を各々施工する工程とを備えていることを特徴とする。
【0021】
特に、前記溶接工程では、前記接続金属板の板厚をT1とし、前記正極部又は負極部の板厚をT2とした場合に、溶け込み深さhが以下の式(1)を満たす範囲でアークスポット溶接を行うことを特徴とする。
【0022】
T1<h≦(T1+T2×4/5) …式(1)
すなわち、本発明の組電池では、材質が銅製の前記接続金属板を各単電池の正極部と他の単電池の負極部との両面に配置して重ね継手を各々形成し、前記正極部の上側にある片方の前記接続金属板の特定位置、及び前記負極部の上側にある他方の前記接続金属板の特定位置にアークスポット溶接を施工して各々形成した溶接部を備えていることにより、電池極間の接続抵抗を小さく、電池充放電時の通電ロスが少ない組電池を得ることができる。特に、銅の電気抵抗はニッケル材や鋼材の電気抵抗と比べて(Cu:1.55<Ni:
6.58<Fe:8.71(×10-6Ω・cm)) 格段に小さいため、銅製の接続金属板を使用することで、前記接続抵抗が小さくでき、また、ニッケル材より低コストで製作することができる。また、銅製の接続金属板であっても、アークスポット溶接によって確実に溶融接合することができる。なお、従来のジュール発熱方式の抵抗溶接(スポット溶接)では、電気抵抗の小さな銅の溶接が困難であり、適用することができない。
【0023】
前記溶接部の溶け込み深さhは、前記接続金属板の板厚T1より大きく、前記正極部又は負極部の板厚T2の4/5をT1に加えた値より小さい、T1<h≦(T1+T2×4/5)の範囲に形成されていることにより、重ね継手の裏側まで溶かさない深さの溶接部を確実に得ることができる。なお、前記溶け込み深さhが上側の板厚T1より浅いと、溶接不足になり、反対に、溶け込み深さhが(T1+T2×4/5)より大きくなると、裏溶けが生じ易くなり、耐食性の低下や電池液漏れの問題があるので好ましくない。
【0024】
前記重ね継手は、前記接続金属板に該当する上側の板厚T1が0.5mm以上1.5mm以下の銅材と、前記正極部又は負極部に該当する下側の板厚T2が0.5mm以上1.5mm以下の鋼材との異材継手であり、前記鋼材の表裏面にニッケルメッキが形成されていることにより、Niメッキを媒体にして融点の低いCuと融点の高いFeとが結び付き、割れのない良好な極薄いCu/Feの混合層が形成し、良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部を得ることができる。また、鋼製又は低炭素鋼であっても、Niメッキによって耐食性を高めることができる。Niメッキの厚みは、1μm以上10μm以下であればよく、銅と
Niメッキ付鋼との異材溶接が施工でき、割れのない良好な溶接部を得ることができる。
【0025】
なお、前記接続金属板の板厚T1が0.5mm より薄いと、素材そのものの強度が低く、溶接部の強度が低く振動に弱い構造になってしまい、反対に、板厚T1が1.5mm より厚くなると、接続金属板への熱放散の増加によってアークスポット溶接ができなくなるので好ましくない。また、単電池の正極部又は負極部の板厚T2が0.5mm より薄いと、素材そのものの強度が低く、溶接部の強度が低く振動に弱い構造になってしまい、反対に、板厚T2が1.5mm より厚くなると、深絞り成形加工が難しくなり、重量が増加するばかりでなく、アーク溶接も困難になるので好ましくない。また、Niメッキの厚みが1μmより薄いと、僅かなキズ等によって鋼面が露出し、耐食性が低下し易くなり、反対に、10μmより厚くなると、メッキ処理に時間がかかるばかりでなく、アーク溶接時に接合不足が生じ易くなるので好ましくない。
【0026】
また、本発明の組電池の溶接方法では、材質が銅製の前記接続金属板を各単電池の正極部と他の単電池の負極部との両面に配置して重ね継手を各々形成する工程と、前記正極部の上側にある片方の前記接続金属板の特定位置、及び前記負極部の上側にある他方の前記接続金属板の特定位置にアークスポット溶接を各々施工する工程とを備えていることにより、前記重ね継手を溶融接合でき、良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部を得ることができる。また、電池極間の接続抵抗が小さく、電池充放電時の通電ロスが少ない組電池を得ることができると共に、銅製の接続金属板の使用によってニッケル材より低コストに製作することができる。
【0027】
特に、前記溶接工程では、前記接続金属板の板厚T1及び前記正極部又は負極部の板厚T2に対する溶け込み深さhがT1<h≦(T1+T2×4/5)の範囲に形成するように前記アークスポット溶接を行うことにより、上述したように、重ね継手の裏側まで溶かさない深さの溶接部を確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の組電池及びその溶接方法によれば、良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部が得られ、電池極間の接続抵抗が小さく、電池充放電時の通電ロスを減少でき、電池寿命向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の組電池及びその溶接方法について好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の組電池に係わる単電池の配列と電池正負極間の接続及び電流経路の一実施例を示す説明図である。また、図2は、図1に示した電池正極間の接続状態の一実施例を示す上面図であり、図3は、図2に示した電池正極間の接続状態を示す断面図である。また、図4は、本発明の組電池及びその溶接方法に係わる接続金属板の配置工程及びアークスポット溶接工程の一実施例を示す手順及び断面図である。
【0030】
図1に示すように、1組40本の単電池2を電気絶縁性の収納ケース1に複数列に収納している。他の配列に変更しても良いし、また、単電池の本数が少ない場合には一列に配列し、倍数の80本必要な場合には2組配置することもできる。各単電池2は、円筒型のリチウム電池であり、電池正極部6と他の電池負極部7とが交互に隣接するように配置し、各接続金属板3によって直列に連結されており、組電池の稼働時には、電流経路12の方向に高電流が出力できるようにしている。
【0031】
図2〜図4に示すように、材質が銅製の接続金属板3を単電池2の電池正極部6と他の単電池2の電池負極部7(電池底面)との両面に配置して重ね継手を各々形成し、電池正極部6の上側にある片方の前記接続金属板3の特定位置、及び前記電池負極部7の上側にある他方の前記接続金属板3の特定位置にアークスポット溶接を施工して各々形成した溶接部5を備えている。電池正極部6及び電池負極部7は、材質が鋼製であり、耐食性を高めるために、鋼製の裏表面にNiメッキが形成されている。各接続金属板3の表面部には、アークスポット溶接の施工による溶接部5が電池正極部6側に2点ずつ、他方の電池負極部7側に2点ずつ形成されている。2点ずつの溶接部5を形成すべき特定位置は、例えば、接続金属板3の板幅wに対して、両端面からw/4程度の位置又はこの近傍位置にするとよい。溶接し易い他の位置に変更することも可能である。また、溶接部5を電池正極部6側及び電池負極部7側に1点ずつ形成する場合には、板幅wのほぼ中央位置又はこの近傍位置にすればよい。少ない溶接点数であっても、良好な溶接品質及び高い引張強度の溶接部が得られ、電池正負極間を確実に締結でき、同時に、溶接工数を削減することもできる。
【0032】
このように、アークスポット溶接による溶接部5を形成することにより、電池極間の接続抵抗を小さく、電池充放電時の通電ロスが少ない組電池を得ることができる。特に、銅の電気抵抗はニッケル材や鋼材の電気抵抗と比べて(Cu:1.55<Ni:6.58<
Fe:8.71 (×10-6Ω・cm))格段に小さいため、銅製の接続金属板3を使用することで、接続抵抗が格段に小さくでき、また、ニッケル材より低コストで製作することもできる。また、銅製の接続金属板3であっても、アークスポット溶接によって確実に溶融接合でき、良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部5を得ることができる。なお、従来のジュール発熱方式の抵抗溶接(スポット溶接)は、電気抵抗の小さな銅の溶接が困難であり、適用することができない。
【0033】
前記溶接部5の溶け込み深さhは、接続金属板3(上側)の板厚T1より大きく、電池正極部6又は電池負極部7(下側)の板厚T2を加えた値より小さく、T1<h≦(T1+T2×4/5)の範囲に形成されていることにより、重ね継手の裏側まで溶かさない深さの溶接部5を確実に得ることができる。
【0034】
図1〜図3に示した実施例の単電池3又は組電池は、リチウム電池であるが、ニッケル水素電池等の他の電池であってもよく、本発明の溶接方法を行うことにより、上述したように、良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部5が得られ、電池極間の接続抵抗を小さく、電池充放電時の通電ロスが少ない組電池を得ることができる。また、接続金属板3には、溶接部5の位置から離れた箇所に2つ以上の曲がり部4を上位方向に形成している。この曲がり部4の形成により、組電池の一体化による拘束や自動車搭載稼働による振動などで溶接部5に加わる応力を抑制することができる。
【0035】
図4に示すように、単電池の配列工程21は、絶縁性の収納ケースに所定個数の単電池2を配列したり、出力電圧等の検出信号の配線や必要な各種部品を取付けたりする工程である。次の接続金属板の配置工程22は、銅製の接続金属板3を単電池2の電池正極部6と他の単電池2の電池負極部7との両面に配置して重ね継手を各々形成する工程である。各単電池2は、電池正極部6及び電池負極部7を除く外周囲を薄い絶縁シート(省略)でシールされており、また、絶縁材のブロック枠8によって事前に区分けされ、アーク溶接が施工できるように電池正極部6及び電池負極部7を露出させている。前記重ね継手は、接続金属板3に該当する上側の板厚T1が0.5mm以上1.5mm以下の銅材と、電池正極部6又は電池負極部7に該当する下側の板厚T2が0.5mm以上1.5mm以下の鋼材との異材継手である。単電池2の容器や電池正極部6及び電池負極部7は、耐食性を高めるため、鋼材の表裏面にニッケルメッキが形成されている。Niメッキの厚みは、1μm以上10μm以下であり、銅とNiメッキ付鋼との異材継手のアーク溶接を可能にしている。
【0036】
次のアークスポット溶接工程23は、非消耗電極方式のアーク10によって接続金属板3と電池正極部6又は電池負極部7との重ね継手を溶融接合11する工程である。特に、この溶接工程23では、接続金属板3の板厚T1及び電池正極部6又は電池負極部7の板厚T2に対する溶け込み深さhがT1<h≦(T1+T2×4/5)の範囲に形成するようにアークスポット溶接を行う。この詳細は次の図5を用いて説明する。
【0037】
図5は、電池極間の重ね継手部をアークスポット溶接する工程を示す断面図及び溶接電流と時間の関係を示す線図であり、(1)上側の接続金属板のアーク加熱、(2)接続金属板の溶融、(3)下側の電池正極部又は負極部との溶融接合、(4)時間経過の電流波形の様子をそれぞれ示している。この実施例に用いているアーク熱源は、非消耗性のタングステン溶接電極9を用いるアーク10であり、所定の溶接条件(電流と溶接時間)を溶接電源に設定して出力させている。図示していないシールドガス(Arガス)流出の雰囲気内でアーク10を発生させ、図5(4)に示すように所定時間T(ms)の電流I(A)を出力させる。図5(1)及び図5(2)に示すように、最初に上側の接続金属板3がアーク加熱して溶融接合11し、次に、図5(3)に示すように、熱伝導及びアーク力によって上側の溶融部と下側の電池正極部6又は電池負極部7とが溶融接合11する。下板の裏側まで溶かさない短い時間の寸止め溶接であり、アーク消去直後に凝固し、裏溶けや割れのない品質良好な溶接部5を得ることができる。溶接施工時には、押え治具(省略)を用いて上側の接続金属板3が下板(電池正極部6又は電池負極部7)に密着するように押えるとよい。継手部にギャップがない方がよいが、少しのギャップがあっても、アーク力によって容易に溶融接合することができる。
【0038】
また、銅製の接続金属板3と鋼製の電池正極部6又は電池負極部7との異材重ね継手の溶接であっても、確実に溶融接合することができ、特に、Niメッキを媒体にして融点の低いCuと融点の高いFeとが結び付き(金属の融点:Cu:1083<Ni:1455<Fe:1539℃)、割れのない良好な極薄いCu/Feの混合層が形成し、良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部5を得ることができる。鋼製の電池正極部6又は電池負極部7の裏表面がNiメッキ処理されていれば、上板側の接続金属板3が銅製のまま
(Niメッキなし)でも、或いはNiメッキありでも、アーク溶接による異材溶接が各々施工可能であり、割れのない品質良好な溶接部5を得ることができる。なお、Niメッキの厚みが1μmより薄いと、僅かなキズ等によって鋼面が露出し、耐食性が低下し易くなり、反対に、10μmより厚くなると、メッキ処理に時間がかかるばかりでなく、アーク溶接時に接合不足が生じ易くなるので好ましくない。
【0039】
溶接部5の溶け込み深さhは、T1<h≦(T1+T2×4/5)の範囲に形成することにより、裏溶けや割れのない品質良好な溶接部5を得ることができ、下板裏側のNiメッキが残存して耐食性を保持することができる。裏溶けのない寸止め溶接は、浅い溶け込みとなる適正な溶接条件又はこれに該当する入熱条件を予め選定し、溶接施工時に出力させればよい。なお、溶け込み深さhが上側の板厚T1より浅いと、溶接不足になり、反対に、溶け込み深さhが(T1+T2×4/5)より大きくなると、裏溶けが生じ易くなり、耐食性の低下や電池液漏れの問題があるので好ましくない。また、接続金属板3の板厚T1が0.5mm より薄いと、素材そのものの強度が低く、溶接部5の強度が低く振動に弱い構造になってしまい、反対に、板厚T1が1.5mm より厚くなると、接続金属板3への熱放散の増加によってアークスポット溶接ができなくなるので好ましくない。また、単電池2の電池正極部6又は電池負極部7の板厚T2が0.5mm より薄いと、素材そのものの強度が低く、溶接部の強度が低く振動に弱い構造になってしまい、反対に、板厚T2が
1.5mm より厚くなると、深絞り成形加工が難しくなり、重量が増加するばかりでなく、アーク溶接も困難になるので好ましくない。
【0040】
溶接箇所の接続金属板3は、平坦であるが、裏面に突起(凸部)を形成した接続金属板を用いてもよく、本発明の溶接方法を行うことにより、上述したように、良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部5が得られ、電池極間の接続抵抗を小さく、電池充放電時の通電ロスが少ない組電池を得ることができる。
【0041】
表1は、電池正負極間の接続抵抗を測定した結果の一実施例であり、Niメッキ付銅材の接続金属板をアーク溶接したものと、ニッケル材の接続金属板を抵抗溶接したものとを示している。接続抵抗の測定にはハイテスタを使用し、図2中に示したように、単電池2の正負極間(AB点間)の抵抗値を交流4端子法により測定した。表1に示すように、銅製の接続金属板を2点溶接(アーク溶接)した正負極間の接続抵抗(3個測定の平均値)は、0.27mΩ であり、Ni製の接続金属板を4点溶接(従来の抵抗溶接)した正負極間の接続抵抗(0.76mΩ )と比べて約1/3であり、また、1点溶接の場合でも0.39mΩと小さい結果になっている。2点溶接と1点溶接との接続抵抗が異なる理由としては、接合断面積の大きさの違いが考えられる。このように、銅製の接続金属板を使用することによって、電池正負極間の接続抵抗が小さくなり、図1に示した組電池における電池充放電時の通電ロスを大幅に軽減でき、電池寿命向上に寄与することができる。また、ニッケル材より低コストで製作することができる。
【0042】
【表1】

図6は、電池溶接におけるアーク溶接の電流とアーク電圧,適正時間及び入熱量の関係を示す一実施例である。板厚0.8mm の接続金属板3(Niメッキ付銅)と板厚0.8mm の電池正極部6(Niメッキ付鋼)との異材溶接であり、裏溶けのない溶融接合11が可能な適正条件を示している。アークスポット溶接では、高い電流Iを使用すると短時間及び低入熱量で溶融接合し、低い電流Iを使用すると、アーク力及び熱伝導の低下により、溶融接合可能な適正時間T及び入熱量Qが増加している。アーク電圧Vaは電流Iの大きさに応じて上昇している。入熱量Q(J)は、電流I(A)とアーク電圧Va(V)及び時間T(ms)から算出(Q=I×Va×T/1000)することができる。
【0043】
板厚が0.8mmより薄い0.5mmの電池正極部6又は電池負極部7を溶融接合する場合は、図6に示したアーク溶接の電流と時間の関係より短い適正時間を設定し、反対に、板厚を1mmに厚くする場合には、前記適正時間を長く設定するとよい。使用する板厚に適した溶接条件を用いて溶接施工することにより、裏溶けや割れのない品質良好な溶接部5を得ることができる。また、継手部に少しのギャップがあっても、アーク力によって容易に溶融接合することができる。
【0044】
図7は、アークスポット溶接した2点溶接部の断面積と引張強度の関係を示す一実施例である。断面積Sは、溶接電流や時間を変えて変化させており、引張試験後の破断面から寸法測定して算出した値である。図7に示すように、2点溶接部の引張強度F(破断荷重)は、断面積Sの大きさにほぼ比例増加している。接合面Sが5mm2 未満の場合は、接合面から剥離破断し、引張強度Fが低く(650N未満)、5≦S≦8mm2 の場合には、上板溶融部から破断し、高い引張強度(650≦F≦1200N)を得ることができる。接合面Sが8mm2 より大きくなると、引張強度がさらに増加するが、入熱過大により裏溶けに至る。
【0045】
このように、本発明の組電池及びその溶接方法によれば、電池極間の接続抵抗が小さく、電池充放電時の通電ロスを減少することができる。また、抵抗溶接が困難な銅材の溶接、銅と鋼材との異材重ね継手の溶接であっても、アークスポット溶接によって良好な溶接品質及び引張強度の高い溶接部を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の組電池に係わる単電池の配列と電池正負極間の接続及び電流経路の一実施例を示す説明図である。
【図2】本発明の組電池及びその溶接方法に係わる電池正負極間の接続状態の一実施例を示す上面図である。
【図3】図2に示した電池正負極間の接続状態を示す断面図である。
【図4】本発明の組電池及びその溶接方法に係わる接続金属板の配置工程及びアークスポット溶接工程の一実施例を示す手順及び断面図である。
【図5】電池極間の重ね継手部をアークスポット溶接する工程を示す断面図及び溶接電流と時間の関係を示す線図である。
【図6】電池溶接におけるアーク溶接の電流とアーク電圧,適正時間及び入熱量の関係を示す一実施例である。
【図7】アークスポット溶接した2点溶接部の断面積と引張強度の関係を示す一実施例である。
【符号の説明】
【0047】
1 収納ケース
2 単電池
3 接続金属板
4 曲がり部
5 溶接部
6 電池正極部
7 電池負極部
8 ブロック枠
9 タングステン溶接電極
10 アーク
11 溶融接合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の単電池を収納ケースに一列又は複数列に収納し、複数個の前記単電池の極間を接続金属板によって連結する組電池において、
前記接続金属板は銅を含み、
前記接続金属板は、単電池の正極部と他の単電池の負極部との両面に配置され重ね継手を形成し、前記正極部の上側にある片方の前記接続金属板及び前記負極部の上側にある他方の前記接続金属板にアークスポット溶接を施工して形成した溶接部を備えていることを特徴とする組電池。
【請求項2】
前記溶接部の溶け込み深さhは、前記接続金属板の板厚より大きく、前記正極部又は前記負極部の板厚の4/5を前記接続金属板の板厚に加えた値より小さい範囲に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記重ね継手は、前記接続金属板に該当する上側の板厚が0.5mm以上1.5mm以下の銅材と、前記正極部又は負極部に該当する下側の板厚が0.5mm以上1.5mm以下の鋼材との異材継手であり、前記鋼材の表裏面にニッケルメッキが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の組電池。
【請求項4】
複数個の単電池を収納ケースに一列又は複数列に収納し、複数個の前記単電池の極間を接続金属板によって連結する組電池の溶接方法において、
前記接続金属板が銅を含み、
前記接続金属板は、単電池の正極部と他の単電池の負極部との両面に配置して重ね継手を各々形成する工程と、
前記正極部の上側にある片方の前記接続金属板及び前記負極部の上側にある他方の前記接続金属板にアークスポット溶接を施工する工程と、
を備えていることを特徴とする組電池の溶接方法。
【請求項5】
前記溶接工程では、前記接続金属板の板厚及び前記正極部又は負極部の板厚に対する溶け込み深さhが、前記接続金属板の板厚より大きく、前記正極部又は前記負極部の板厚の4/5を前記接続金属板の板厚に加えた値より小さい範囲に形成されるように前記アークスポット溶接を行うことを特徴とする請求項4に記載の組電池の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−210730(P2008−210730A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48351(P2007−48351)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】