結晶化方法
【課題】大粒径の結晶粒をち密に形成することができ、かつ低温処理の要求を満たすことができる結晶化方法を提供する。
【解決手段】非単結晶半導体膜のレーザ光入射面上にキャップ膜を設け、単調増加と単調減少を繰り返す断面逆三角形状ピークパターンを有する光強度分布のレーザ光を非単結晶半導体膜に照射する。
【解決手段】非単結晶半導体膜のレーザ光入射面上にキャップ膜を設け、単調増加と単調減少を繰り返す断面逆三角形状ピークパターンを有する光強度分布のレーザ光を非単結晶半導体膜に照射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶、有機EL等の表示装置の製造に用いる結晶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などの表示装置の駆動回路は、ガラス基板上に形成された非晶質半導体膜など多結晶半導体膜に形成されていた。IT市場の拡大により取り扱う情報は、デジタル化され、高速化されるためこれら情報を表示するための表示装置も高画質化が要求されている。この要求を満足する手段としては、例えば各画素を切換えるスイッチングトランジスタを結晶領域に形成することによりスイッチング速度が高速化され、高画質化が可能となる。
【0003】
ガラス基板上に形成された非晶質シリコン層など非単結晶半導体膜を結晶化する手段としては、エキシマレーザアニール法(ELA法)が知られている。しかしながら、このELA法により得られた結晶の粒径は、0.1μm程度であり、この結晶化された領域に薄膜トランジスタ(TFT)を形成した場合、1個の薄膜トランジスタのチャネル領域に多数の結晶粒界が存在することになり、移動度が200cm2/Vs、オン・オフ電流比が107程度と、単結晶Siに形成したMOSトランジスタと比較すると大幅に劣る。結晶粒界数のバラツキにより各薄膜トランジスタの特性にバラツキが発生し特に、一画面内均一な表示が求められる表示装置には、適さない課題がある。
【0004】
本発明者等は、非晶質シリコン層にレーザ光を照射することにより少なくとも1個の薄膜トランジスタを形成できる程度の大きな結晶粒を形成する技術を開発している。単一の結晶粒内にTFTを形成することにより結晶粒界の悪影響がなく、TFT特性が大幅に改善され、プロセッサ、メモリ、センサなどの機能素子を形成することができる。このような結晶化方法として例えば非特許文献1や非特許文献2に記載された結晶化方法がある。
【0005】
前者の非特許文献1には、SiON/SiO2膜からなるキャップ膜やSiO2膜からなるキャップ膜を介して非晶質シリコン膜に0.8J/cm2フルエンスの位相変調したレーザ光を照射することにより、キャップ膜に平行な方向に結晶粒をラテラル成長させ、非晶質シリコン膜を結晶化する方法が記載されている。
【0006】
また、後者の非特許文献2には、基板加熱下でSiO2膜からなるキャップ膜を介して非晶質シリコン膜にホモジナイズし位相変調したレーザ光を照射することにより、非晶質シリコン膜の溶融領域をラテラル方向に結晶成長させる方法が記載されている。
【非特許文献1】W.Yeh and M.Matsumura Jpn.Appl.Phys.Vol.41(2002)1909.
【非特許文献2】2002年秋季第63回応用物理学会学術講演会予稿集2,p779,26a−G−2.平松雅人他
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1の方法では、結晶粒径10μm以上の大きな粒径の結晶粒を得ることができるが、大粒径化した結晶粒の近傍に小粒径の微細結晶粒が発生する場合があり、膜組織全体として大粒径の結晶粒を揃えて比較的均一に(すなわち、ち密に)形成したい要求がある。
【0008】
また、非特許文献1及び2の方法では、結晶粒を大粒径化させるために、基板の温度に対して、さらに低温又は常温処理の要求がある。例えば図20に示す従来の結晶化装置100では、載置台6に内蔵されたヒータ101により基板5を高温域に加熱しながらレーザ光50を照射する。ヒータ101は、コントローラ103で制御される電源102から給電され、基板5を300〜750℃の温度域に加熱する能力を有している。
【0009】
基板加熱温度は例えば500℃を超えることもあるので、汎用ガラス(例えばソーダガラス)やプラスチックなどは加熱により変質や変形を生じやすく、これら汎用ガラスを液晶表示装置(LCD)の基板に採用するためには低温処理は必須条件となる。また、大画面LCDでは軽量化の要望が強いために基板の板厚を薄くする傾向にあり、加熱により変形を生じやすく、薄肉基板の平坦度を確保するためにも低温処理は必須条件となる。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、大粒径の結晶粒をち密に形成することができ、かつ低温処理の要求を満たすことができる結晶化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、少なくとも1個の薄膜トランジスタを形成できる程度に大きな結晶粒をち密に形成することに関して鋭意研究した結果、従来の平行パルスレーザ光の照射では結晶粒をち密に大粒径化できないという知見を得た。この原因は厳密な意味では明らかにされていないが、以下に述べるようなことによるものと推察される。
【0012】
図21は、位相シフタ4からなる光学系と非単結晶半導体層を有する基板5と、平行パルスレーザ光が位相シフタ4を透過した後の光強度分布を示す特性曲線図である。この光強度分布において最初の逆ピーク波91から次のピーク波92までの成分はラテラル成長に寄与するが、一方、この波形より外側の高次振動波93は逆ピーク波により結晶核が生じて、微細な結晶粒が生成されるために、膜全体として均一かつ、ち密に大粒径の結晶化ができないことがわかった。すなわち、平行パルスレーザ光(ホモジナイズされていない光)では、レーザ光を位相変調した光が高次の振動93を含むために、大粒径の結晶粒をち密に形成することができないことが判明した。
【0013】
本発明の結晶化方法は、ホモジナイズされたパルスレーザ光を位相変調光学系および絶縁膜として酸化シリコン膜を介して非単結晶半導体膜に入射させることにより比較的大粒径の結晶粒を、ち密に並べて形成することができる。換言すれば、高次振動波93を含まない図1(b)に示すような光強度分布BPをもつ位相変調光学系を透過したレーザ光を非単結晶半導体膜に照射することにより、大粒径の結晶粒をち密(均一)に並べて形成することができる。図1(b)に示す光強度分布BPは、斜視図で三次元的に示すと図1の(c)ようにV字状溝の光強度分布となる。この光強度分布BPは断面逆三角形状のピークパターンを複数有するものである。各断面逆三角形状ピークパターンの光強度分布は振幅PHが等しく、ピッチ間隔PWも等しい。位相変調光学系は、例えば位相シフタである。
【0014】
また、レーザ光に照射された非単結晶半導体膜の溶融部分の凝固開始温度は、対象となる上記半導体膜に固有の物性値を持っている。このことから、本発明者らは、ラテラル成長の開始フルエンスは、上記半導体膜に固有の数値であると考え、パルスレーザのフルエンスによらずほぼ一定値であることを見出した。さらに、ラテラル成長の終了は、冷却速度が成長速度よりも速くなってしまい、成長方向に新規の核発生が生じるような場合だけでなく、瞬間的な加熱によってキャップ膜あるいは上記半導体膜が剥がれてしまうような物理的な要因にも起因することを見出した。特に、剥がれの発生は、上記半導体膜中にあるエネルギ以上が照射された場合に上記半導体膜の剥がれが発生することから逆ピークパターン内のフラットな部分の存在が剥がれに大きく寄与することを見出した。
【0015】
また、位相変調光学系による最適断面逆三角形状逆ピークパターン光の生成と、適切なキャップ膜の蓄熱効果を利用してラテラル成長距離の基板温度依存性を評価した結果、図8に示すように室温であっても大粒径のSi結晶粒が得られることを見出した。上記最適断面逆三角形状逆ピークパターン光は、断面逆三角形状逆ピークパターンの最大値および最小値を最適に、かつ最大値間の距離が十分大きくする。
【0016】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、以下の構成を有する。
【0017】
本発明に係る結晶化方法は、レーザ光を発振するタイミングが制御されるレーザ装置と、このレーザ装置から発振されたレーザ光と同一光軸上に配置され入射レーザ光の光強度を均一化するためのホモジナイザと、このホモジナイザと同一光軸上に配置された空間強度変調光学素子と、前記レーザ光の光路に設けられた被処理基板を載置するための載置台と、を有するプロキシミティ型結晶化装置を用いて、前記被処理基板に設けられた非単結晶半導体膜にレーザ光を照射して結晶化する結晶化方法であって、
前記非単結晶半導体膜のレーザ光入射面上にキャップ膜を設け、
このキャップ膜を介して前記非単結晶半導体膜に単調増加と単調減少を繰り返す断面逆三角形状ピークパターンを有する光強度分布のレーザ光を照射することにより照射部のみを溶融し、降温が開始された後前記照射部の最小となる逆ピーク点の凝固が開始し、この凝固位置が前記断面逆三角形状ピークパターンの勾配に応じて凝固点が移動しラテラル方向に結晶成長させ、
前記載置台と前記レーザ装置からのレーザ光による前記照射位置を相対的に移動させて前記非単結晶半導体膜の予め定められた領域を結晶化することにより前記レーザ光の照射部における最小となる逆ピーク点から結晶化することを特徴とする。
【0018】
本明細書中において「位相シフタ」とは、位相変調光学系の一例であり、レーザ光の位相を変調するための空間強度変調光学素子のことをいい、フォトリソグラフィプロセスの露光工程で使用される位相シフトマスクとは区別されるものである。位相シフタに進歩的な設計概念を導入することによって、図2(a)に模式的に示す一次元の光強度分布BPを得ることができる。すなわち、異なる強度傾斜角θ、ピッチ幅PWおよびバイアス強度PH(谷での強度)をもつ光強度分布BPを得ることが可能である。位相シフタは、例えば透明体としての石英基材に段差が形成されたものである。位相シフタの段差は、入射光を所定の位相角、例えば180°に位相変調するサイズに、エッチング等のプロセスにより形成される。
【0019】
本発明では、光強度分布を最適化したパルスレーザ光、すなわち高次振動波93の影響を取り除いた図1(b)、図14(a)、図17(c)に示すパルスレーザ光を、酸化シリコン膜を介して結晶化しようとする半導体膜(非晶質膜または多結晶膜)に照射する。図5に示すように、結晶化対象となる非単結晶半導体膜例えば非晶質シリコン膜52はパルスレーザ光50の照射によって加熱され、その温度(TSi)はパルスの最後で高い。パルス照射の間において、結晶化対象の非晶質シリコン膜52に発生した熱は、初期にはキャップ膜53として設けられている例えば低温の酸化シリコン膜(SiO2膜)に移る。パルス照射終了後(レーザ光の照射が遮断された後)に結晶化対象の非晶質シリコン膜52は、冷却が開始され、キャップ膜53に蓄積された熱が結晶化対象の非晶質シリコン膜52に向けて拡散される。このようにキャップ膜53は、ヒートキャパシタとして支配的に働き、非晶質シリコン膜52の高温の液相状態は、キャップ膜53なしの場合よりも長く残留することが可能である。
【0020】
しかし、キャップ膜53は、溶融非晶質シリコン膜52から移された熱を一部のみ返すが、内部になお多量の熱を保有している。このため、溶融非晶質シリコン膜52がキャップ膜53から熱の補給を受け、溶融非晶質シリコン膜52の凝固開始時間を遅らすことができ、その結果として結晶粒のラテラル成長距離が増大し、大粒径の結晶粒がち密に並んで形成される。上記キャップ膜53からの熱の補給は、上記キャップ膜53の膜厚によって大きく異なる。すなわち、本発明の方法によれば、半導体膜である非晶質シリコン膜に接する蓄熱性のキャップ膜53である酸化シリコン膜により半導体膜の冷却速度が緩やかになり、基板を加熱することなく室温において単結晶か又はそれに近い大粒径の結晶粒を得ることができる。
【0021】
キャップ膜53の膜厚は、30nm以上500nm以下とすることが蓄熱特性の観点から望ましく、100nm以上370nm以下とすることが最も好ましい(図11、図22参照)。膜厚が30nmを下回ると、SiO2キャップ膜の蓄熱量が不十分になり、所望サイズの大結晶粒を得ることができなくなる。一方、膜厚が500nmを上回ると、結晶化対象膜(非単結晶半導体膜)からSiO2キャップ膜53へ向かう厚さ方向の熱移動量(放熱量;熱拡散量)が増大するので、蓄熱の目的を十分に達成することができなくなる。
【0022】
また、パルスレーザ光は、均一化光学系(ホモジナイザ)としての第1のフライアイレンズおよび第1のコンデンサ光学系により入射角度に関して均一化され、さらに第2のフライアイレンズおよび第2のコンデンサ光学系により光強度に関して均一化されることが望ましい。このように入射角度と光強度に関して均一化されたレーザ光は、図1(a)の位相シフタ4を透過すると、図1(b)に示すように光強度が単調増加と単調減少を繰り返す理想的な光強度分布BPとなる。この図1(b)の光強度分布BPは断面逆三角形形状であり、最大ピーク値と最小ピーク値が突状であり、平坦部を有しないものである。しかも等振幅PHで、かつ等ピッチ間隔PWである。すなわち、位相変調された均一化レーザ光は高次振動成分を含まないために、これを被結晶化膜に照射すると理論的には位相シフタの段差4a−4aの幅間隔Wに応じたサイズの大結晶粒をラテラル成長させることが可能になる。このとき絶縁層の蓄熱効果とにより被結晶化膜に熱エネルギが補給されるので、溶融→凝固結晶化→結晶粒ラテラル成長の一連のプロセスが促進され、結晶粒のサイズが大きくなる。なお、図1(b)の光強度分布BPにおいてピーク部の角度θが緩やかになると非単結晶半導体膜の膜破壊を生じ易くなるので、ピーク部の角度θはできるだけ鋭い角度となるように光強度分布BPを設定することが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、室温処理で大粒径のSi結晶粒を形成することができ、低温処理の要求を満たすことができるので、基板として従来よりも薄肉のガラス基板やプラスチック基板を採用することが可能となる。
【0024】
また、本発明によれば、膜全体にわたり大粒径のち密な結晶粒を並べて形成することができるので、動作が速く、かつ、しきい電圧のばらつきが少ない大画面LCD用TFTを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1乃至図19において、同一部分には、同一符号を付与し、その詳細な説明は、重複する場合省略する。図3に示すように、結晶化装置10は、KrFエキシマレーザ装置1から発振されたパルスレーザ光50が、この光路に順次設けられた光学系2a,2b,ホモジナイザ3,結像光学系43、位相シフタ4を介して載置台6上の被処理基板40を照射して結晶化するものである。KrFエキシマレーザ装置1の電源回路は、コントローラ8の出力信号が供給されるように出力部と接続されている。コントローラ8は、レーザ光50の発振タイミング、パルス幅、パルス間隔、出力の大きさなどを制御する。
【0026】
本装置の光学系は、例えば凹レンズ2a、凸レンズ2b、ホモジナイザ3、位相シフタ4などが同一光軸上に配置されたものである。この結晶化装置10は、プロキシミティ型の光学系である。
【0027】
ホモジナイザ3は、照射領域におけるパルスレーザ光を平準化する機能を備えている。すなわち、ホモジナイザ3を通過したパルスレーザ光50は入射角度と光強度がホモジナイズ(均一化)される。ホモジナイザ3は、パルスレーザ光50を入射角度と光強度とに関してホモジナイズ(均一化)するための光学系である。
【0028】
さらに、ホモジナイズされたパルスレーザ光50は、位相シフタ4により位相変調される。例えば、位相シフタ4は、平行に並ぶ複数の直線状の段差4aを有するラインアンドスペース型(In-plane-cross-coupled型)であり、かつ載置台6上の被処理基板40に近接して配置されるプロキシミティ型結晶化装置である。位相シフタ4は、透明体からなり、段差4aにおいてパルスレーザ光50に位相差を生じさせる。位相シフタ4は、上記位相差によりパルスレーザ光50にフレネル回折を生じさせ、パルスレーザ光50を光強度変調する。その結果、位相シフタ4は、図1(b)に示すように単調増加と単調減少を繰り返す繰り返しパターンの光強度分布BPを照射部に形成する。なお、本実施形態では位相シフタ4の段差4a−4aの間隔Wを100μmとした。上記プロキシミティ型結晶化装置において、大粒径化のためのキャップ膜53の膜厚は、30nm以上500nm以下において良好な蓄熱作用を出力する。よって、プロキシミティ方式の結晶化方法では、キャップ膜53の最適膜厚は30nm以上500nm以下である。
【0029】
被処理基板の上面には例えばキャップ膜53が設けられている。このキャップ膜53から位相シフタ4までの相互間距離は、例えば500μm以下の所定間隔に設定されている。積載台6および載置台6以外の周囲装置は基板加熱機構(内蔵ヒータなど)を備えていない。
【0030】
載置台6は、XYZθステージ7の上に搭載され、水平面内でX軸,Y軸方向にそれぞれ可動で、かつ水平面に直交するZ軸方向に可動であるとともに、Z軸まわりにθ回転可能である。XYZθステージ7の電源回路は、コントローラ8の出力部と接続されている。XYZθステージ7には、X軸駆動機構、Y軸駆動機構、Z軸駆動機構、θ回転駆動機構が設けられ、XYZθステージ7は、それぞれX,Y,Z,θ方向に制御されるようになっている。なお、上記例はプロキシミティ型光学系によるの結晶化方法であるが、プロジェクション型の光学系による結晶化方法でもよい。プロジェクション方式の結晶方法では、キャップ膜53の最適膜厚は80nm以上400nm以下である。
【0031】
次に、図3に示す上記プロキシミティ型結晶化装置10による結晶化方法を説明する。パルスレーザ光源1からパルス幅例えば30nsec、光強度例えば1J/cm2のパルスレーザ光を出射する。このパルスレーザ光は、凹レンズ2a、凸レンズ2bにより発散収束してホモジナイザ3に入射させる。ホモジナイザ3は、入射したパルスレーザ光50の入射角度と光強度をホモジナイズ(均一化)する。
【0032】
ホモジナイザ3は、均一化されたパルスレーザ光50を位相シフタ4に入射させ、位相シフタ4は、断面逆三角形状逆ピークパターンの光強度分布を有するパルスレーザ光を出射する。このときの断面逆三角形状逆ピークパターンの最大最小値は、非単結晶半導体膜の種類や膜厚によって規定される値に設計されている。断面逆三角形状逆ピークパターンの光強度分布を有する均一化パルスレーザ光は、非晶質シリコン膜52に入射し、その照射部のみを溶融し結晶化させる。非晶質シリコン膜52は薄いため、直ちに照射部分で厚さ方向に溶融し、フルエンスが最小となる逆ピーク点を起点として溶融部分の降温が開始されて凝固(結晶化)が開始する。この凝固位置は、断面逆三角形状逆ピークパターンの勾配に応じて順次凝固点が移動する。この凝固点の移動により、ラテラル方向(非晶質シリコン膜52の厚みに直交する方向)に結晶粒が成長する。この結晶粒のラテラル成長は、キャップ膜53の蓄熱効果により降温勾配が長期的にわたって維持されるので、結晶化が促進されるので、最終凝固後の結晶粒のサイズが大きくなり、照射部において広範囲の単結晶化が実現される。
【0033】
このような結晶化工程は、非晶質シリコン膜52の予め定められた領域行われる。全面にわたって結晶化工程を行う手段は、上記ステージ7とパルスレーザ光源1による照射位置とを相対的に移動させて行うことができる。
【0034】
次に、図4を参照して光学系について具体的に説明する。図4は、上記プロキシミティ型光学系の構成図である。パルスレーザ光源1として例えば248nm波長のエキシマパルスレーザ光を出射するKrFエキシマレーザ光源1を備えている。なお、この光源1として、XeClエキシマパルスレーザ光源やYAGレーザ光源のような他の光源を用いることもできる。上記光源1から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ2からなる光学系2a,2bを介して拡大された後に、第1のフライアイレンズ33に入射する。
【0035】
第1のフライアイレンズ33の後側焦点面には、複数の光源が形成され、これらの複数の光源からの光束は第1のコンデンサ光学系34を介して第2のフライアイレンズ35の入射面を重畳的に照明する。その結果、第2フライアレンズ35の後側焦点面には、第1フライアイレンズ33の後側焦点面よりも多くの複数の光源が形成される。第2フライアイレンズ35の後側焦点面に形成された光源からの光束は、第2のコンデンサ光学系36を介して位相変調光学系4(位相シフタ)を重畳的に照明する。
【0036】
ここで、第1フライアイレンズ33および第1コンデンサ光学系34は第1のホモジナイザを構成し、この第1のホモジナイザにより位相シフタ4上での入射角度に関する均一化が図られる。
【0037】
また、第2フライアイレンズ35および第2コンデンサ光学系36は第2のホモジナイザを構成し、この第2のホモジナイザにより位相シフタ4上での面内各位置での光強度(レーザフルエンス)に関する均一化が図られる。このようにして照明系は、実質的に均一な光強度分布(光強度分布)を有する光を位相シフタ4に照射する。
【0038】
[実施例]
上述の図3に示すプロキシミティ型結晶化装置10を用いてホモジナイズされた位相変調パルスレーザ光を被処理基板40の一方面に照射して非晶質シリコン膜52を結晶化した。被処理基板40は、図5に示すようにキャップ膜53として酸化シリコン膜を形成したものである。すなわち、被処理基板40は、絶縁体叉は半導体からなる基体例えばシリコン基板48の上にさらに絶縁層例えば下地保護膜51、非晶質シリコン膜52、キャップ膜53を順次積層してなる構造体である。下地保護膜51は膜厚例えば1000nmの第1の絶縁層例えば絶縁性SiO2からなる。非晶質シリコン膜52は、結晶化の対象となる膜であり、例えば膜厚200nmの非晶質シリコンからなる。キャップ膜53は、第2の絶縁層例えば膜厚300nmの絶縁性SiO2である。
【0039】
このようなキャップ膜53を有する結晶化処理される被処理基板40を製造する方法についてさらに具体的に説明する。
【0040】
絶縁体叉は半導体からなる基体には、シリコン基板48を用い、膜厚1000nmのSiO2からなる下地保護膜51を熱酸化法により形成した。
【0041】
下地保護膜51の上に非晶質半導体膜又は非単結晶半導体例えば非晶質シリコン膜52(例えばプラズマ化学気相成長法によって成膜した膜厚200nmの非晶質Si膜)を成膜する。
【0042】
その上にキャップ膜53として第2の絶縁層例えばSiO2膜(例えばSiH4とN2Oとのプラズマ化学気相成長法によって成膜した膜厚300nmのSiO2膜)を形成した。次いで、シリコン基板48上に形成した薄膜51〜53に対して脱水素処理を行った。この処理は、500〜600℃の温度域で行うことが望ましく、例えば窒素雰囲気で570℃×2時間の加熱処理を行った。
【0043】
図6は本実施形態方法により室温条件下で結晶化させたSi薄膜のSEM像の写真である。SEM像の観察から明らかなように、レーザ光軸(写真中央)から片側4〜5μmの範囲にラテラル成長して大結晶粒化したSi結晶が生成されていることを確認できた。また、ラテラル成長したSi結晶は、中央の結晶核を起点として横方向に非常に良く伸び出しており、かつち密に並んでいることを確認できた。
【0044】
パルスレーザ光を1ショット照射後に、基板を所定ピッチ距離だけ平行移動させ、次のショットのパルスレーザ光を基板に照射してラテラル成長により大結晶粒化したSi結晶を得た。同様の操作を繰り返すことにより、非晶質シリコン膜の素子形成領域を次々に結晶化した。
【0045】
図7〜図9は、位相シフタ4を図3に示したプロキシミティ型結晶化装置10に配置して、室温において、1ショットのエキシマレーザのパルス光を被処理基板40に照射したときの結晶化特性を示している。図7は、横軸にキャップ膜53として酸化シリコン膜(SiO2の膜厚(nm)をとり、縦軸に結晶化された結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、各種サンプルについてキャップ膜53として酸化シリコン膜の膜厚を様々に変えてラテラル成長距離のキャップ膜厚依存性を調べた結果を示す特性図である。なお、ラテラル成長距離は平均値を求めた。ここでは結晶とトランジスタのチャネル部との位置合せ精度の関係から、ラテラル成長距離が4.0μm以上を合格基準とした。
【0046】
図7に示すように、実施例サンプルではプロキシミティ型結晶化装置において、キャップ膜53の膜厚が30nm以上かつ略340nm以下の場合に、室温においても最長で4μm以上のラテラル成長距離が得られた。また、キャップ膜53の膜厚が30nm、80nmの場合であってもそれぞれ最長で3μm、2μm程度のラテラル成長距離が得られた。また、キャップ膜53の膜厚が390nmの場合であっても最長で1.5μm程度のラテラル成長距離が得られた。一方、キャップ膜53の膜厚が480nmの場合は、ラテラル成長距離が1.5μmを下回った。ラテラル成長距離が5μm以上の大粒径の結晶化領域は、キャップ膜53の膜厚が100μm以上340μm以下のときに得られている。このキャップ膜53の膜厚は、位相シフタ4を介してレーザ光により照射された非単結晶半導体膜が加熱され、この加熱されたことにより溶融された非単結晶半導体膜の降温速度を遅くさせることにより大粒径の結晶化が得られる膜厚である。降温速度をゆっくりさせるためには、キャップ膜53(第2の絶縁層)を適切な厚さに選択すること、結晶化するためのレーザ光の光エネルギおよび強度分布BPを適切に選択することである。
【0047】
図8は、横軸に被処理基板40の温度(℃)をとり、縦軸に結晶化された結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、位相シフタ4を図3に示すようにプロキシミティ型の結晶化装置10に配置してキャップ膜53として膜厚300nmのSiO2膜からなるキャップ膜53を有する被処理基板40の温度を様々に変えてラテラル成長距離の基板温度依存性を調べた結果を示す特性図である。図から明らかなように、キャップ膜53として十分な厚みのSiO2からなるキャップ膜53を有する被処理基板40では、基板温度は、室温から数百℃までラテラル成長距離の基板温度依存性がほとんど無く、室温であっても十分な長さのラテラル成長距離を得ることが可能であることが判明した。この現象は、明らかではないが、キャップ膜による蓄熱効果によるものと思われる。
【0048】
図9は、横軸に光強度指数(相対量)をとり、縦軸に結晶化された結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、位相シフタ4を図3に示すようにプロキシミティ型に配置して各種サンプルにレーザ光の光強度を様々に変えてラテラル成長距離の光強度指数依存性を調べた結果を示す特性図である。図から明らかなように、光強度が相対量で0.9を超えるあたりからラテラル成長距離が急激に増大することが判明した。具体的には、室温で、被処理基板40にエキシマレーザのパルス光を1ショット照射によっても4μm以上の大きなラテラル成長距離が得られた。
【0049】
本明細書中において「光強度指数」とは、結晶粒の成長中または成長後において種々の応力を受けても膜(結晶構造)が破壊されないで膜の形態形質が維持されるぎりぎりのエネルギ光の照射強度を基準とし、この基準に対する光強度の値をいうものとする。ここで「膜破壊」とは、広義には膜を構成する規則的な構造(膜構造)が壊れることをいい、狭義には結晶粒がラテラル成長するときに生じる応力によりキャップ膜53が壊されること、あるいはラテラル成長時の発生応力により結晶化対象膜が壊されること、あるいはキャップ膜53や結晶化対象膜のなかに含まれる水素に起因して結晶粒内または結晶粒界に割れなどの欠陥を生じることをいうものと定義する。
【0050】
以上のことから本発明方法を用いて、室温において高充填率で大結晶粒(平均結晶粒径4μm〜)をラテラル成長させることが可能であることを確認した。
【0051】
上記実施形態では、位相シフタ4をプロキシミティ型に配置した例について説明したが、位相シフタ4を図10に示すようにプロジェクション型に配置してもよい。即ち、このプロジェクション型の結晶化装置10Aは、位相シフタ4と被処理基板40との間に結像光学系43が配置された装置である。
【0052】
次に、上記プロジェクション型結晶化装置10Aを利用した位相変調エキシマレーザアニール(以下PMELAと略す)により、Si膜を結晶化する実施例について説明する。図5に示すように、被処理基板40は、シリコン(Si)基板50上に膜厚1000nmのSiO2からなる下地保護膜51を熱酸化法により形成した後、膜厚200nmの非晶質シリコン膜52およびキャップ膜53としてSiO2膜53をPE−CVD(Plasma Enhanced-CVD)法で順次積み重ねた積層構造とした。また、下地保護膜51から非晶質Si膜52、キャップ膜53をPE−CVD(Plasma Enhanced-CVD)法で連続成膜により形成してもよい。PMELA前に、被処理基板40をアニール炉において窒素ガス雰囲気下で2時間×550℃の脱水素処理を行った。
【0053】
PMELAにおいては、被処理基板40に対してKrFエキシマレーザを、例えばパルス幅30nsec、単一ショット照射した。結晶化されたSi膜のミクロ構造的な分析は、セコエッチング後に、走査型電子顕微鏡(SEM)によって実行した。図2(b)は、ピッチ幅PWを様々に変えた光強度分布BPを用いたパルスレーザ光を単一ショット照射することにより結晶化されたサンプルを示す走査型電子顕微鏡(SEM)像の一例である。
【0054】
上記のプロジェクション型の結晶化装置10Aにより被処理基板40の結晶化工程を実施したときの結晶化特性を、図11および図12に示す。
【0055】
図11は、位相変調光学系である位相シフタ4を図10に示すようにプロジェクション型の結晶化装置10Aに配置したときのラテラル成長距離とキャップ膜53の膜厚との関係について調べた結果を示す特性図である。即ち、図11は横軸にキャップ膜53の厚さ(nm)をとり、縦軸に結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとった図である。図11には、キャップ膜53の各膜厚での最大ラテラル成長距離が示されている。また、図中の曲線は、各キャップ膜厚でのラテラル成長距離を結んだものである。図11から明らかなようにキャップ膜53の厚さが増大するとラテラル成長距離も増大し、キャップ膜53の膜厚が130〜400nmの範囲ではラテラル成長距離が4μmを超えた。特にキャップ膜53の厚さが250nmのときにラテラル成長距離は最大約7μmに達した。この図12に示したように本実施例では、室温で、エキシマレーザのパルス光を被処理基板40に対して照射したとき6μm以上の大きなラテラル成長距離が得られた。
【0056】
なお、図11は、参考データとしてキャップ膜53が無いときの試料例えば非単結晶半導体膜のラテラル成長距離を図中に黒丸で表示してある。キャップ膜53無しの非単結晶半導体膜のラテラル成長距離は、キャップ膜53有りの非単結晶半導体膜のラテラル成長距離に比べて短かった。
【0057】
図12は、非晶質シリコン膜52の膜厚200nmのサンプルにおいて、横軸に光強度指数(相対値)をとり、縦軸に結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、位相シフタ4を図10に示すようにプロジェクション型に配置したときの結晶粒のラテラル成長距離と光強度との関係について調べた結果を示す特性図である。図から明らかなように、光強度が相対量で0.9を超えるあたりからラテラル成長距離が急激に増大することがプロジェクション法によっても確認できた。
【0058】
次に、図5に示すキャップ膜53を有する被処理基板40において、非晶質シリコン膜52の膜厚を変えて上記結晶化工程を行い、最大ラテラル成長距離との関係を観察した。
【0059】
図22は、非晶質シリコン膜52の膜厚と最大ラテラル成長距離との関係を示す特性図である。キャップ膜53が無い場合は、図7および図11に示されているように非晶質シリコン膜52の膜厚が200nmの場合において、最大ラテラル成長距離は2.5μmであった。しかし、図21に示すように、図5に示すキャップ膜53を有する被処理基板40においては、例えば非晶質シリコン膜52の膜厚が30nmと薄い場合であっても、3μm以上のラテラル成長した結晶粒が得られる。この図7と図11、および図22の結果からキャップ膜53を設けることが、最大ラテラル成長距離の大きさに効果のあることが判明した。
【0060】
さらに図22は、非晶質シリコン膜52の膜厚を厚くすると、最大ラテラル成長距離が長くなり、また非晶質シリコン膜52の膜厚が200nm程度になると最大ラテラル成長距離の伸びが飽和してくることを示している。
【0061】
次に、図22に示す最大ラテラル成長距離を達成するキャップ膜厚の条件について説明する。図23は最大ラテラル成長距離を達成する、非晶質シリコン膜52の膜厚da-Siとキャップ膜53の膜厚dcapとの関係を示す特性図である。この結果、非晶質シリコン膜52の膜厚da-Siが厚くなるにしたがって、必要なキャップ膜53の膜厚dcapが厚くなることを見出した。図23は、非晶質シリコン膜52が厚くなると、上記シリコン層52中の熱量が多くなり、この増加した熱の蓄熱を行う為には、厚いキャップ膜53が必要であることを示している。図23の非晶質シリコン膜52の膜厚da-Siと、キャップ膜53の膜厚dcapとの関係を示す特性図において、キャップ膜53の膜厚は各非晶質シリコン膜厚に対応して、直線dcap=0.568da-Si+60と直線dcap=0.568da-Si+160で囲まれる範囲に選択されることにより各非晶質シリコン膜52の膜厚da-Siにおける最長のラテラル方向の結晶成長をさせることができる。上記式において、dcapは、第2の絶縁層(キャップ膜53)の膜厚(nm)であり、da-Siは非晶質半導体膜又は非単結晶半導体膜(非晶質シリコン膜52)の膜厚(nm)である。
【0062】
[実証試験]
(蓄熱効果)
次に、図13〜図16を参照してキャップ膜53の蓄熱効果について実証試験した結果を説明する。実証試験はSi膜厚200nmのサンプルを用いて実施した。図13は、横軸に平均の光強度(mJ/cm2)をとり、縦軸に結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、光強度分布のピッチ幅PWを一定値(28μm)としたときのキャップ膜53の蓄熱効果を示す特性図である。図中にて白四角はキャップ膜53の厚さを130nmとしたときの結果を、白三角はキャップ膜53の膜厚を220nmとしたときの結果を、黒丸はキャップ膜53の厚さを300nmとしたときの結果を、黒三角はキャップ膜53の厚さを390nmとしたときの結果をそれぞれ示す。
【0063】
キャップ膜53の厚さ130nm(白四角)および厚さ220nm(白三角)のような薄いキャップ膜53では、膜破壊が発生するまで、結晶粒のラテラル成長距離は光強度の上昇に伴って徐々に増大した。このときのラテラル成長距離の最大値は約6μmであった。これより厚い厚さ300nm(黒丸)のキャップ膜53の場合、ラテラル成長距離は最初に約2μmまで増大し、次いで急激に増加して6μmを超えた。一方、厚さ390nm(黒三角)のように極度に厚いキャップ膜53の場合、ラテラル成長距離は2μmを超えなかった。
【0064】
図14(a)に模式的に示す光強度分布のレーザ光を照射して結晶化工程を行い、セコエッチングされたシリコン膜のSEM像を図14(b)と(c)に示す。図14(b)は、キャップ膜53の厚さを300nmにして結晶化工程を行ったときのシリコン膜のSEM像である。図14(b)中の矢印は、ラテラル成長の方向を示す。顕微鏡観察の結果、ラテラル成長距離は、最大値で7μmを超え、平均値で約6μmであった。
【0065】
図14(c)は、キャップ膜53の厚さが暑い試料をセコエッチングしてその結晶化形態を示すSEM像である。図ではラテラル成長領域が焼結晶領域によっていくつかに分断されている。これは溶融非晶質シリコン膜52内の温度勾配が比較的長時間存在できたことを示している。しかし、固液界面の前面において温度は急激に下がり、自然核生成する臨界的な温度を下回った。自然核発生は、この固液界面の前面近傍で起こり、ラテラル成長する結晶粒を互いの衝突により停止させる。同時に、いくつかの新しい核が新たなラテラル成長の発生源として働く、このような状況は溶融非晶質シリコン膜52内の温度勾配がより緩やかな場合にしばしば発生し、最終的には均一な小結晶粒をもたらす。この効果はキャップ膜53が厚くなるほどより著しくなる。非常に厚いキャップ膜53では、Si層の熱量のほとんどがキャップ膜53を加熱するために使用されるため、Si層の液相の存続期間をかえって減少させる。
【0066】
また、結晶のラテラル成長特性は、220nm厚さのキャップ膜53と300nm厚さのキャップ膜53との間では明らかに異なっていることが確認された。キャップ膜53の厚さ220nm試料(被処理基板40)では、結晶粒サイズは光強度とともに増大する。これに対してキャップ膜53の厚さ300nmキャップ試料(被処理基板40)の場合は、結晶のラテラル成長特性が急減に変化する臨界強度が存在した。
【0067】
図15はこの急激な変化を説明する模式図である。図15は、横軸に基板上の各膜層の位置をとり、縦軸に温度(無単位)をとって、SiO2下地保護膜51の上に結晶化対象の非晶質シリコン膜52が、この非晶質シリコン膜52上にSiO2キャップ膜53が形成された被処理基板40の膜厚方向の温度分布を示す一次元温度分布図である。ここではパルス照射の間に結晶化対象の非晶質シリコン膜52の温度TSiが時間とともに増大すると単純化して想定することとする。パルス的に照射されたレーザ光のパルスの終端ではSiO2キャップ膜53と下地保護膜51における温度分布は同じ形状となるが、図で概略的に示されるとおり非晶質シリコン膜52の温度TSiに比例する。強い照射(実線A)の場合には、非晶質シリコン膜52の温度TSiは高くなるので、非晶質シリコン膜52の温度TSiによるキャップ膜53の加熱された結果、キャップ膜53の温度は、被結晶化対象化膜の非晶質シリコン膜52の融点TMを厚さ方向に対して広い領域で上回り、キャップ膜53は、ヒートキャパシタとして機能する。
【0068】
一方、弱い照射(破線B)の場合には、上記非晶質シリコン膜52の温度TSiは、キャップ膜53を十分に加熱するに足るほど高くない。上記非晶質シリコン層52近傍のキャップ膜53の一部のみが融点TMを超えるほど加熱される。キャップ膜53の一部は、低温(融点TM以下)のままであり、この低温領域(冷領域)がヒートシンクとして作用する。
【0069】
図10に示すようなプロジェクション型結晶化装置による実験の結果、ラテラル成長距離を長くするための好ましいキャップ膜53の厚さは100〜370nmの範囲であった。
【0070】
図16は、横軸に平均の光強度(mJ/cm2)をとり、縦軸に結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、キャップ膜53の厚さを一定値(300nm)として光強度分布のピッチ幅PWを様々に変えたときのキャップ膜53の蓄熱効果を示す特性図である。図中にて白丸はピッチ幅PWを20μmとしたときの結果を、黒丸はピッチ幅PWを28μmとしたときの結果を、白三角はピッチ幅PWを36μmとしたときの結果をそれぞれ示す。
【0071】
図から明らかなように、ピッチ幅PWが20μmの場合、ラテラル成長距離は光強度とともに一定に増大し、光強度が1000mJ/cm2のところで最大約4μmに到達した。一方、ピッチ幅PWが大きい36μmの場合、ラテラル成長距離は短いままであった。また、ピッチ幅PWが中程度の28μmでは、急激に成長する光強度を経て、ラテラル成長距離は6μmに達した。
【0072】
図17(a)に大結晶粒をち密に配列したサンプルのSEM像を、同図(b)に(a)のサンプルの一部を拡大したSEM像を、同図(c)に(b)のサンプルに照射されたレーザ光の光強度分布図をそれぞれ示す。
【0073】
望ましいビームプロファイルは山強度と谷強度との比率が約2となる三角形の形状であることを、本実証試験により確認できた。このようなビームプロファイルは位相シフタにより生じさせるように設定される。図17(a)に示すように、サンプル表面の全体に亘って5μm程度の大結晶粒がち密に充填された。このように大結晶粒がち密に充填配列された形態に類似する形態を再現性よく生産することができた。
【0074】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。以上のことから本発明方法を用いて、高充填率で大結晶粒(平均結晶粒径4.0〜6ミクロン)をラテラル成長させることが可能であることを確認した。
【0075】
次に、図18を参照して本発明の薄膜トランジスタ(TFT)の構成およびその製造方法について説明する。上述の結晶化方法により大結晶粒化した半導体膜をもつ基板を利用して薄膜トランジスタを作製した。
【0076】
絶縁体又は半導体から成る基板には、ガラス基板49、石英基板、プラスチック基板などの絶縁基板の他に、表面に絶縁被膜が形成された金属基板、シリコン基板、或いはセラミック基板などを適用することが可能である。ガラス基板49は、例えばコーニング社の#1737基板に代表されるような、低アルカリガラス基板を用いることが望ましい。下地保護膜51は酸化シリコン(SiO2)または窒化シリコンを主成分として含む絶縁膜、例えば膜厚300nmの酸化シリコン膜であり、さらに、ガラス基板49に密接して形成されていると好ましい。上記下地保護膜51は、ガラス基板から上記非単結晶半導体膜に不純物が拡散しないように阻止する作用をする膜である。
【0077】
下地保護膜51の上に非晶質半導体膜又は非単結晶半導体例えば非晶質シリコン膜52(例えばプラズマ化学気相成長法によって成膜した膜厚200nmの非晶質Si膜)を成膜する。
【0078】
非晶質シリコン膜52上にキャップ膜53を形成して、被処理基板40を形成する。この被処理基板40は、図4に示された光学系によってホモジナイズされたパルスレーザ光を位相シフタ4に入射させ位相変調したレーザ光50により結晶化工程が行われる。
【0079】
結晶化した単結晶半導体膜上のキャップ膜53をエッチングにより除去する。次に、非晶質シリコン膜52の結晶化された領域に位置合わせして半導体回路例えば図18に示す薄膜トランジスタを次のようにして製造する。まず活性領域の形状を規定するためにフォトリソグラフィを用いてパターニングし、平面視野内でチャネル領域52aおよびソース領域52bおよびドレイン領域52cに略対応する所定パターンのSiアイランドを形成した。
【0080】
次に、チャネル領域52a、ソース領域52bおよびドレイン領域52c上にゲート絶縁膜54を形成する。ゲート絶縁膜54は、酸化シリコン(SiO2)あるいは酸窒化シリコン(SiON)を主成分とする材料で、厚さ30〜120nmの酸化シリコン膜を形成する。ゲート絶縁膜54の形成は、例えば、プラズマCVD法で、SiH4とN2Oを原料とした酸化シリコン膜を50nmの厚さで形成してゲート絶縁膜54とした。
【0081】
次に、ゲート絶縁層54上にゲート電極55を形成するための導電層を形成した。導電層は、Ta、Ti、W、Mo、Al等の元素を主成分とする材料を用い、スパッタ法や真空蒸着法などの公知の成膜法を用いて形成した。例えばAl−Ti合金とした。フォトリソグラフィを用いてゲート電極用金属層をパターニングし、所定パターンのゲート電極55を形成した。
【0082】
次に、ゲート電極55をマスクとして不純物を注入することによりソース領域52bおよびドレイン領域52cを形成した。例えば、Pチャネル型TFTを形成する場合、イオン注入法を用いて例えばボロンイオン等のP型不純物の注入を行う。この領域のボロン濃度は、例えば1.5×1020〜3×1021となるようにした。このようにしてPチャネル型TFTのソース領域52bおよびドレイン領域52cを構成する高濃度p型不純物領域を形成する。このとき、n型不純物の注入を行えばnチャネル型TFTが形成されることはいうまでもない。
【0083】
次いで、イオン注入法により注入した不純物元素を活性化するために熱処理工程を行う。この工程は、ファーネスアニール法、レーザアニール法、ラピッドサーマルアニール法などの方法で行うことができる。本実施の形態では、ファーネスアニール化法で活性化工程を行った。加熱処理は、窒素雰囲気中において300〜650℃の温度域で行うことが望ましく、本実施例では500℃で4時間の熱処理を行った。
【0084】
次に、ゲート絶縁膜54およびゲート電極55上に層間絶縁膜56を形成した。層間絶縁膜56は窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜またはそれらを組み合せた積層膜で形成すれば良い。また、膜厚は200〜600nmとすれば良く、本実施例では400nmとした。
【0085】
次に、層間絶縁膜56における予め定められた所定の位置にコンタクトホールを開口する。そして、コンタクトホールの内部および層間絶縁層56の表面上に導電層を形成し、所定の形状にパターニングする。本実施例ではこのソース・ドレイン電極57,58を、Ti膜を100nm、Tiを含むアルミニウム膜300nm、Ti膜150nmをスパッタ法で連続して形成した3層構造の積層膜とした。このようにして図18に示す薄膜トランジスタを得た。
【0086】
以下、上述の実施形態で得られるような薄膜トランジスタを実際にアクティブマトリクス型液晶表示装置に適用した例について説明する。図19は薄膜トランジスタを用いたアクティブマトリクス型表示装置の一例を示す図である。表示装置70は一対の絶縁基板71,72と両者の間に保持された電気光学物質73とを備えたパネル構造を有する。電気光学物質73としては液晶材料が広く用いられている。下側の絶縁基板71には画素アレイ部74と駆動回路部とが集積形成されている。駆動回路部は垂直駆動回路75と水平駆動回路76とに分かれている。
【0087】
また、絶縁基板71の周辺部上端には外部接続用の端子部77が形成されている。端子部77は配線78を介して垂直駆動回路75及び水平駆動回路76に接続している。画素アレイ部74には行状のゲート配線79と列状の信号配線80が形成されている。両配線の交差部には画素電極81とこれを駆動する薄膜トランジスタ82が形成されている。薄膜トランジスタ82のゲート電極は対応するゲート配線79に接続され、ドレイン領域は対応する画素電極81に接続され、ソース領域は対応する信号配線80に接続されている。ゲート配線79は垂直駆動回路75に接続する一方、信号配線80は水平駆動回路76に接続している。
【0088】
画素電極81をスイッチング駆動する薄膜トランジスタ82及び垂直駆動回路75と水平駆動回路76に含まれる薄膜トランジスタは、本発明に従って作製されたものであり、従来に比較して移動度が高くなっている。従って、駆動回路ばかりでなく更に高性能な処理回路を集積形成することも可能である。
【0089】
以上説明したように上記実施形態によれば、結晶化処理時に低温、例えば室温またはその近傍の温度域(例えば5〜50℃)であっても大粒径の結晶化を行なうことができる。位相変調した光を非単結晶半導体膜に照射するので、高次の振動成分が低減される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、液晶表示装置ばかりでなく有機エレクトロルミネッセンス表示装置,電子回路装置にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】(a)は位相シフタと基板を示す図、(b)は位相シフタを通過した均一化レーザ光の光強度分布を示す図、(c)はレーザ光の光強度分布を三次元的に示す図。
【図2】(a)は基板入射前に位相変調されたレーザ光の光強度分布を模式的に示す図、(b)はパルスレーザ光の単一ショット照射により結晶化されたサンプルを示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図3】本発明の結晶化装置の概要を示す構成ブロック図。
【図4】本発明装置の光学系を示す内部透視ブロック図。
【図5】本発明の薄膜トランジスタの製造工程を説明する断面模式図。
【図6】本発明の効果を示すSEM像。
【図7】本発明の効果を示す特性図。
【図8】本発明の効果を示す特性図。
【図9】本発明の効果を示す特性図。
【図10】図3の他の実施形態を説明するための構成ブロック図。
【図11】本発明の効果を示す特性図。
【図12】本発明の効果を示す特性図。
【図13】本発明の効果を示す特性図。
【図14】(a)はセコエッチング後のサンプルのSEM像、(b)は光強度分布図、(c)はセコエッチング後のサンプルのSEM像。
【図15】本発明の効果を説明する模式図。
【図16】本発明の効果を示す特性図。
【図17】(a)は大結晶粒をち密に配列したサンプルのSEM像、(b)は(a)に示すサンプルの一部を拡大したSEM像、(c)は(b)に示すサンプルに照射したレーザ光の光強度分布図。
【図18】本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタを示す断面模式図。
【図19】本発明の実施形態に係る表示装置の概要を示す斜視図。
【図20】従来装置の概要を示す構成ブロック図。
【図21】(a)は位相シフタと基板を示す図、(b)は平行パルスレーザ光が位相シフタを通過した後の光強度分布を示す図。
【図22】非晶質シリコン膜の膜厚(nm)と結晶粒のラテラル成長距離(μm)との関係を示す特性図。
【図23】非晶質シリコン膜の膜厚(nm)とキャップ膜の膜厚(nm)との関係を示す特性図。
【符号の説明】
【0092】
1…エキシマレーザ装置、2a,2b…光学レンズ、
3…ホモジナイザ(照明系)33,35…フライアイレンズ、
34,36…コンデンサ光学系、
4…位相シフタ(空間強度変調光学素子)、
5、40…被処理基板、43…結像光学系、48…シリコン基板、
49…ガラス基板、50…レーザ光、51…下地保護膜(第1の絶縁層)、
52…非晶質シリコン膜(非単結晶半導体膜、a−Si膜)、
52a…チャネル領域、52b…ソース領域、52c…ドレイン領域、
53…キャップ膜(SiO2膜;第2の絶縁層)、
54…ゲート絶縁膜、55…ゲート電極、56…層間絶縁膜、
57…ソース電極、58…ドレイン電極、
6…載置台、7…X,Y,Z,θステージ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶、有機EL等の表示装置の製造に用いる結晶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などの表示装置の駆動回路は、ガラス基板上に形成された非晶質半導体膜など多結晶半導体膜に形成されていた。IT市場の拡大により取り扱う情報は、デジタル化され、高速化されるためこれら情報を表示するための表示装置も高画質化が要求されている。この要求を満足する手段としては、例えば各画素を切換えるスイッチングトランジスタを結晶領域に形成することによりスイッチング速度が高速化され、高画質化が可能となる。
【0003】
ガラス基板上に形成された非晶質シリコン層など非単結晶半導体膜を結晶化する手段としては、エキシマレーザアニール法(ELA法)が知られている。しかしながら、このELA法により得られた結晶の粒径は、0.1μm程度であり、この結晶化された領域に薄膜トランジスタ(TFT)を形成した場合、1個の薄膜トランジスタのチャネル領域に多数の結晶粒界が存在することになり、移動度が200cm2/Vs、オン・オフ電流比が107程度と、単結晶Siに形成したMOSトランジスタと比較すると大幅に劣る。結晶粒界数のバラツキにより各薄膜トランジスタの特性にバラツキが発生し特に、一画面内均一な表示が求められる表示装置には、適さない課題がある。
【0004】
本発明者等は、非晶質シリコン層にレーザ光を照射することにより少なくとも1個の薄膜トランジスタを形成できる程度の大きな結晶粒を形成する技術を開発している。単一の結晶粒内にTFTを形成することにより結晶粒界の悪影響がなく、TFT特性が大幅に改善され、プロセッサ、メモリ、センサなどの機能素子を形成することができる。このような結晶化方法として例えば非特許文献1や非特許文献2に記載された結晶化方法がある。
【0005】
前者の非特許文献1には、SiON/SiO2膜からなるキャップ膜やSiO2膜からなるキャップ膜を介して非晶質シリコン膜に0.8J/cm2フルエンスの位相変調したレーザ光を照射することにより、キャップ膜に平行な方向に結晶粒をラテラル成長させ、非晶質シリコン膜を結晶化する方法が記載されている。
【0006】
また、後者の非特許文献2には、基板加熱下でSiO2膜からなるキャップ膜を介して非晶質シリコン膜にホモジナイズし位相変調したレーザ光を照射することにより、非晶質シリコン膜の溶融領域をラテラル方向に結晶成長させる方法が記載されている。
【非特許文献1】W.Yeh and M.Matsumura Jpn.Appl.Phys.Vol.41(2002)1909.
【非特許文献2】2002年秋季第63回応用物理学会学術講演会予稿集2,p779,26a−G−2.平松雅人他
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1の方法では、結晶粒径10μm以上の大きな粒径の結晶粒を得ることができるが、大粒径化した結晶粒の近傍に小粒径の微細結晶粒が発生する場合があり、膜組織全体として大粒径の結晶粒を揃えて比較的均一に(すなわち、ち密に)形成したい要求がある。
【0008】
また、非特許文献1及び2の方法では、結晶粒を大粒径化させるために、基板の温度に対して、さらに低温又は常温処理の要求がある。例えば図20に示す従来の結晶化装置100では、載置台6に内蔵されたヒータ101により基板5を高温域に加熱しながらレーザ光50を照射する。ヒータ101は、コントローラ103で制御される電源102から給電され、基板5を300〜750℃の温度域に加熱する能力を有している。
【0009】
基板加熱温度は例えば500℃を超えることもあるので、汎用ガラス(例えばソーダガラス)やプラスチックなどは加熱により変質や変形を生じやすく、これら汎用ガラスを液晶表示装置(LCD)の基板に採用するためには低温処理は必須条件となる。また、大画面LCDでは軽量化の要望が強いために基板の板厚を薄くする傾向にあり、加熱により変形を生じやすく、薄肉基板の平坦度を確保するためにも低温処理は必須条件となる。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、大粒径の結晶粒をち密に形成することができ、かつ低温処理の要求を満たすことができる結晶化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、少なくとも1個の薄膜トランジスタを形成できる程度に大きな結晶粒をち密に形成することに関して鋭意研究した結果、従来の平行パルスレーザ光の照射では結晶粒をち密に大粒径化できないという知見を得た。この原因は厳密な意味では明らかにされていないが、以下に述べるようなことによるものと推察される。
【0012】
図21は、位相シフタ4からなる光学系と非単結晶半導体層を有する基板5と、平行パルスレーザ光が位相シフタ4を透過した後の光強度分布を示す特性曲線図である。この光強度分布において最初の逆ピーク波91から次のピーク波92までの成分はラテラル成長に寄与するが、一方、この波形より外側の高次振動波93は逆ピーク波により結晶核が生じて、微細な結晶粒が生成されるために、膜全体として均一かつ、ち密に大粒径の結晶化ができないことがわかった。すなわち、平行パルスレーザ光(ホモジナイズされていない光)では、レーザ光を位相変調した光が高次の振動93を含むために、大粒径の結晶粒をち密に形成することができないことが判明した。
【0013】
本発明の結晶化方法は、ホモジナイズされたパルスレーザ光を位相変調光学系および絶縁膜として酸化シリコン膜を介して非単結晶半導体膜に入射させることにより比較的大粒径の結晶粒を、ち密に並べて形成することができる。換言すれば、高次振動波93を含まない図1(b)に示すような光強度分布BPをもつ位相変調光学系を透過したレーザ光を非単結晶半導体膜に照射することにより、大粒径の結晶粒をち密(均一)に並べて形成することができる。図1(b)に示す光強度分布BPは、斜視図で三次元的に示すと図1の(c)ようにV字状溝の光強度分布となる。この光強度分布BPは断面逆三角形状のピークパターンを複数有するものである。各断面逆三角形状ピークパターンの光強度分布は振幅PHが等しく、ピッチ間隔PWも等しい。位相変調光学系は、例えば位相シフタである。
【0014】
また、レーザ光に照射された非単結晶半導体膜の溶融部分の凝固開始温度は、対象となる上記半導体膜に固有の物性値を持っている。このことから、本発明者らは、ラテラル成長の開始フルエンスは、上記半導体膜に固有の数値であると考え、パルスレーザのフルエンスによらずほぼ一定値であることを見出した。さらに、ラテラル成長の終了は、冷却速度が成長速度よりも速くなってしまい、成長方向に新規の核発生が生じるような場合だけでなく、瞬間的な加熱によってキャップ膜あるいは上記半導体膜が剥がれてしまうような物理的な要因にも起因することを見出した。特に、剥がれの発生は、上記半導体膜中にあるエネルギ以上が照射された場合に上記半導体膜の剥がれが発生することから逆ピークパターン内のフラットな部分の存在が剥がれに大きく寄与することを見出した。
【0015】
また、位相変調光学系による最適断面逆三角形状逆ピークパターン光の生成と、適切なキャップ膜の蓄熱効果を利用してラテラル成長距離の基板温度依存性を評価した結果、図8に示すように室温であっても大粒径のSi結晶粒が得られることを見出した。上記最適断面逆三角形状逆ピークパターン光は、断面逆三角形状逆ピークパターンの最大値および最小値を最適に、かつ最大値間の距離が十分大きくする。
【0016】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、以下の構成を有する。
【0017】
本発明に係る結晶化方法は、レーザ光を発振するタイミングが制御されるレーザ装置と、このレーザ装置から発振されたレーザ光と同一光軸上に配置され入射レーザ光の光強度を均一化するためのホモジナイザと、このホモジナイザと同一光軸上に配置された空間強度変調光学素子と、前記レーザ光の光路に設けられた被処理基板を載置するための載置台と、を有するプロキシミティ型結晶化装置を用いて、前記被処理基板に設けられた非単結晶半導体膜にレーザ光を照射して結晶化する結晶化方法であって、
前記非単結晶半導体膜のレーザ光入射面上にキャップ膜を設け、
このキャップ膜を介して前記非単結晶半導体膜に単調増加と単調減少を繰り返す断面逆三角形状ピークパターンを有する光強度分布のレーザ光を照射することにより照射部のみを溶融し、降温が開始された後前記照射部の最小となる逆ピーク点の凝固が開始し、この凝固位置が前記断面逆三角形状ピークパターンの勾配に応じて凝固点が移動しラテラル方向に結晶成長させ、
前記載置台と前記レーザ装置からのレーザ光による前記照射位置を相対的に移動させて前記非単結晶半導体膜の予め定められた領域を結晶化することにより前記レーザ光の照射部における最小となる逆ピーク点から結晶化することを特徴とする。
【0018】
本明細書中において「位相シフタ」とは、位相変調光学系の一例であり、レーザ光の位相を変調するための空間強度変調光学素子のことをいい、フォトリソグラフィプロセスの露光工程で使用される位相シフトマスクとは区別されるものである。位相シフタに進歩的な設計概念を導入することによって、図2(a)に模式的に示す一次元の光強度分布BPを得ることができる。すなわち、異なる強度傾斜角θ、ピッチ幅PWおよびバイアス強度PH(谷での強度)をもつ光強度分布BPを得ることが可能である。位相シフタは、例えば透明体としての石英基材に段差が形成されたものである。位相シフタの段差は、入射光を所定の位相角、例えば180°に位相変調するサイズに、エッチング等のプロセスにより形成される。
【0019】
本発明では、光強度分布を最適化したパルスレーザ光、すなわち高次振動波93の影響を取り除いた図1(b)、図14(a)、図17(c)に示すパルスレーザ光を、酸化シリコン膜を介して結晶化しようとする半導体膜(非晶質膜または多結晶膜)に照射する。図5に示すように、結晶化対象となる非単結晶半導体膜例えば非晶質シリコン膜52はパルスレーザ光50の照射によって加熱され、その温度(TSi)はパルスの最後で高い。パルス照射の間において、結晶化対象の非晶質シリコン膜52に発生した熱は、初期にはキャップ膜53として設けられている例えば低温の酸化シリコン膜(SiO2膜)に移る。パルス照射終了後(レーザ光の照射が遮断された後)に結晶化対象の非晶質シリコン膜52は、冷却が開始され、キャップ膜53に蓄積された熱が結晶化対象の非晶質シリコン膜52に向けて拡散される。このようにキャップ膜53は、ヒートキャパシタとして支配的に働き、非晶質シリコン膜52の高温の液相状態は、キャップ膜53なしの場合よりも長く残留することが可能である。
【0020】
しかし、キャップ膜53は、溶融非晶質シリコン膜52から移された熱を一部のみ返すが、内部になお多量の熱を保有している。このため、溶融非晶質シリコン膜52がキャップ膜53から熱の補給を受け、溶融非晶質シリコン膜52の凝固開始時間を遅らすことができ、その結果として結晶粒のラテラル成長距離が増大し、大粒径の結晶粒がち密に並んで形成される。上記キャップ膜53からの熱の補給は、上記キャップ膜53の膜厚によって大きく異なる。すなわち、本発明の方法によれば、半導体膜である非晶質シリコン膜に接する蓄熱性のキャップ膜53である酸化シリコン膜により半導体膜の冷却速度が緩やかになり、基板を加熱することなく室温において単結晶か又はそれに近い大粒径の結晶粒を得ることができる。
【0021】
キャップ膜53の膜厚は、30nm以上500nm以下とすることが蓄熱特性の観点から望ましく、100nm以上370nm以下とすることが最も好ましい(図11、図22参照)。膜厚が30nmを下回ると、SiO2キャップ膜の蓄熱量が不十分になり、所望サイズの大結晶粒を得ることができなくなる。一方、膜厚が500nmを上回ると、結晶化対象膜(非単結晶半導体膜)からSiO2キャップ膜53へ向かう厚さ方向の熱移動量(放熱量;熱拡散量)が増大するので、蓄熱の目的を十分に達成することができなくなる。
【0022】
また、パルスレーザ光は、均一化光学系(ホモジナイザ)としての第1のフライアイレンズおよび第1のコンデンサ光学系により入射角度に関して均一化され、さらに第2のフライアイレンズおよび第2のコンデンサ光学系により光強度に関して均一化されることが望ましい。このように入射角度と光強度に関して均一化されたレーザ光は、図1(a)の位相シフタ4を透過すると、図1(b)に示すように光強度が単調増加と単調減少を繰り返す理想的な光強度分布BPとなる。この図1(b)の光強度分布BPは断面逆三角形形状であり、最大ピーク値と最小ピーク値が突状であり、平坦部を有しないものである。しかも等振幅PHで、かつ等ピッチ間隔PWである。すなわち、位相変調された均一化レーザ光は高次振動成分を含まないために、これを被結晶化膜に照射すると理論的には位相シフタの段差4a−4aの幅間隔Wに応じたサイズの大結晶粒をラテラル成長させることが可能になる。このとき絶縁層の蓄熱効果とにより被結晶化膜に熱エネルギが補給されるので、溶融→凝固結晶化→結晶粒ラテラル成長の一連のプロセスが促進され、結晶粒のサイズが大きくなる。なお、図1(b)の光強度分布BPにおいてピーク部の角度θが緩やかになると非単結晶半導体膜の膜破壊を生じ易くなるので、ピーク部の角度θはできるだけ鋭い角度となるように光強度分布BPを設定することが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、室温処理で大粒径のSi結晶粒を形成することができ、低温処理の要求を満たすことができるので、基板として従来よりも薄肉のガラス基板やプラスチック基板を採用することが可能となる。
【0024】
また、本発明によれば、膜全体にわたり大粒径のち密な結晶粒を並べて形成することができるので、動作が速く、かつ、しきい電圧のばらつきが少ない大画面LCD用TFTを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1乃至図19において、同一部分には、同一符号を付与し、その詳細な説明は、重複する場合省略する。図3に示すように、結晶化装置10は、KrFエキシマレーザ装置1から発振されたパルスレーザ光50が、この光路に順次設けられた光学系2a,2b,ホモジナイザ3,結像光学系43、位相シフタ4を介して載置台6上の被処理基板40を照射して結晶化するものである。KrFエキシマレーザ装置1の電源回路は、コントローラ8の出力信号が供給されるように出力部と接続されている。コントローラ8は、レーザ光50の発振タイミング、パルス幅、パルス間隔、出力の大きさなどを制御する。
【0026】
本装置の光学系は、例えば凹レンズ2a、凸レンズ2b、ホモジナイザ3、位相シフタ4などが同一光軸上に配置されたものである。この結晶化装置10は、プロキシミティ型の光学系である。
【0027】
ホモジナイザ3は、照射領域におけるパルスレーザ光を平準化する機能を備えている。すなわち、ホモジナイザ3を通過したパルスレーザ光50は入射角度と光強度がホモジナイズ(均一化)される。ホモジナイザ3は、パルスレーザ光50を入射角度と光強度とに関してホモジナイズ(均一化)するための光学系である。
【0028】
さらに、ホモジナイズされたパルスレーザ光50は、位相シフタ4により位相変調される。例えば、位相シフタ4は、平行に並ぶ複数の直線状の段差4aを有するラインアンドスペース型(In-plane-cross-coupled型)であり、かつ載置台6上の被処理基板40に近接して配置されるプロキシミティ型結晶化装置である。位相シフタ4は、透明体からなり、段差4aにおいてパルスレーザ光50に位相差を生じさせる。位相シフタ4は、上記位相差によりパルスレーザ光50にフレネル回折を生じさせ、パルスレーザ光50を光強度変調する。その結果、位相シフタ4は、図1(b)に示すように単調増加と単調減少を繰り返す繰り返しパターンの光強度分布BPを照射部に形成する。なお、本実施形態では位相シフタ4の段差4a−4aの間隔Wを100μmとした。上記プロキシミティ型結晶化装置において、大粒径化のためのキャップ膜53の膜厚は、30nm以上500nm以下において良好な蓄熱作用を出力する。よって、プロキシミティ方式の結晶化方法では、キャップ膜53の最適膜厚は30nm以上500nm以下である。
【0029】
被処理基板の上面には例えばキャップ膜53が設けられている。このキャップ膜53から位相シフタ4までの相互間距離は、例えば500μm以下の所定間隔に設定されている。積載台6および載置台6以外の周囲装置は基板加熱機構(内蔵ヒータなど)を備えていない。
【0030】
載置台6は、XYZθステージ7の上に搭載され、水平面内でX軸,Y軸方向にそれぞれ可動で、かつ水平面に直交するZ軸方向に可動であるとともに、Z軸まわりにθ回転可能である。XYZθステージ7の電源回路は、コントローラ8の出力部と接続されている。XYZθステージ7には、X軸駆動機構、Y軸駆動機構、Z軸駆動機構、θ回転駆動機構が設けられ、XYZθステージ7は、それぞれX,Y,Z,θ方向に制御されるようになっている。なお、上記例はプロキシミティ型光学系によるの結晶化方法であるが、プロジェクション型の光学系による結晶化方法でもよい。プロジェクション方式の結晶方法では、キャップ膜53の最適膜厚は80nm以上400nm以下である。
【0031】
次に、図3に示す上記プロキシミティ型結晶化装置10による結晶化方法を説明する。パルスレーザ光源1からパルス幅例えば30nsec、光強度例えば1J/cm2のパルスレーザ光を出射する。このパルスレーザ光は、凹レンズ2a、凸レンズ2bにより発散収束してホモジナイザ3に入射させる。ホモジナイザ3は、入射したパルスレーザ光50の入射角度と光強度をホモジナイズ(均一化)する。
【0032】
ホモジナイザ3は、均一化されたパルスレーザ光50を位相シフタ4に入射させ、位相シフタ4は、断面逆三角形状逆ピークパターンの光強度分布を有するパルスレーザ光を出射する。このときの断面逆三角形状逆ピークパターンの最大最小値は、非単結晶半導体膜の種類や膜厚によって規定される値に設計されている。断面逆三角形状逆ピークパターンの光強度分布を有する均一化パルスレーザ光は、非晶質シリコン膜52に入射し、その照射部のみを溶融し結晶化させる。非晶質シリコン膜52は薄いため、直ちに照射部分で厚さ方向に溶融し、フルエンスが最小となる逆ピーク点を起点として溶融部分の降温が開始されて凝固(結晶化)が開始する。この凝固位置は、断面逆三角形状逆ピークパターンの勾配に応じて順次凝固点が移動する。この凝固点の移動により、ラテラル方向(非晶質シリコン膜52の厚みに直交する方向)に結晶粒が成長する。この結晶粒のラテラル成長は、キャップ膜53の蓄熱効果により降温勾配が長期的にわたって維持されるので、結晶化が促進されるので、最終凝固後の結晶粒のサイズが大きくなり、照射部において広範囲の単結晶化が実現される。
【0033】
このような結晶化工程は、非晶質シリコン膜52の予め定められた領域行われる。全面にわたって結晶化工程を行う手段は、上記ステージ7とパルスレーザ光源1による照射位置とを相対的に移動させて行うことができる。
【0034】
次に、図4を参照して光学系について具体的に説明する。図4は、上記プロキシミティ型光学系の構成図である。パルスレーザ光源1として例えば248nm波長のエキシマパルスレーザ光を出射するKrFエキシマレーザ光源1を備えている。なお、この光源1として、XeClエキシマパルスレーザ光源やYAGレーザ光源のような他の光源を用いることもできる。上記光源1から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ2からなる光学系2a,2bを介して拡大された後に、第1のフライアイレンズ33に入射する。
【0035】
第1のフライアイレンズ33の後側焦点面には、複数の光源が形成され、これらの複数の光源からの光束は第1のコンデンサ光学系34を介して第2のフライアイレンズ35の入射面を重畳的に照明する。その結果、第2フライアレンズ35の後側焦点面には、第1フライアイレンズ33の後側焦点面よりも多くの複数の光源が形成される。第2フライアイレンズ35の後側焦点面に形成された光源からの光束は、第2のコンデンサ光学系36を介して位相変調光学系4(位相シフタ)を重畳的に照明する。
【0036】
ここで、第1フライアイレンズ33および第1コンデンサ光学系34は第1のホモジナイザを構成し、この第1のホモジナイザにより位相シフタ4上での入射角度に関する均一化が図られる。
【0037】
また、第2フライアイレンズ35および第2コンデンサ光学系36は第2のホモジナイザを構成し、この第2のホモジナイザにより位相シフタ4上での面内各位置での光強度(レーザフルエンス)に関する均一化が図られる。このようにして照明系は、実質的に均一な光強度分布(光強度分布)を有する光を位相シフタ4に照射する。
【0038】
[実施例]
上述の図3に示すプロキシミティ型結晶化装置10を用いてホモジナイズされた位相変調パルスレーザ光を被処理基板40の一方面に照射して非晶質シリコン膜52を結晶化した。被処理基板40は、図5に示すようにキャップ膜53として酸化シリコン膜を形成したものである。すなわち、被処理基板40は、絶縁体叉は半導体からなる基体例えばシリコン基板48の上にさらに絶縁層例えば下地保護膜51、非晶質シリコン膜52、キャップ膜53を順次積層してなる構造体である。下地保護膜51は膜厚例えば1000nmの第1の絶縁層例えば絶縁性SiO2からなる。非晶質シリコン膜52は、結晶化の対象となる膜であり、例えば膜厚200nmの非晶質シリコンからなる。キャップ膜53は、第2の絶縁層例えば膜厚300nmの絶縁性SiO2である。
【0039】
このようなキャップ膜53を有する結晶化処理される被処理基板40を製造する方法についてさらに具体的に説明する。
【0040】
絶縁体叉は半導体からなる基体には、シリコン基板48を用い、膜厚1000nmのSiO2からなる下地保護膜51を熱酸化法により形成した。
【0041】
下地保護膜51の上に非晶質半導体膜又は非単結晶半導体例えば非晶質シリコン膜52(例えばプラズマ化学気相成長法によって成膜した膜厚200nmの非晶質Si膜)を成膜する。
【0042】
その上にキャップ膜53として第2の絶縁層例えばSiO2膜(例えばSiH4とN2Oとのプラズマ化学気相成長法によって成膜した膜厚300nmのSiO2膜)を形成した。次いで、シリコン基板48上に形成した薄膜51〜53に対して脱水素処理を行った。この処理は、500〜600℃の温度域で行うことが望ましく、例えば窒素雰囲気で570℃×2時間の加熱処理を行った。
【0043】
図6は本実施形態方法により室温条件下で結晶化させたSi薄膜のSEM像の写真である。SEM像の観察から明らかなように、レーザ光軸(写真中央)から片側4〜5μmの範囲にラテラル成長して大結晶粒化したSi結晶が生成されていることを確認できた。また、ラテラル成長したSi結晶は、中央の結晶核を起点として横方向に非常に良く伸び出しており、かつち密に並んでいることを確認できた。
【0044】
パルスレーザ光を1ショット照射後に、基板を所定ピッチ距離だけ平行移動させ、次のショットのパルスレーザ光を基板に照射してラテラル成長により大結晶粒化したSi結晶を得た。同様の操作を繰り返すことにより、非晶質シリコン膜の素子形成領域を次々に結晶化した。
【0045】
図7〜図9は、位相シフタ4を図3に示したプロキシミティ型結晶化装置10に配置して、室温において、1ショットのエキシマレーザのパルス光を被処理基板40に照射したときの結晶化特性を示している。図7は、横軸にキャップ膜53として酸化シリコン膜(SiO2の膜厚(nm)をとり、縦軸に結晶化された結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、各種サンプルについてキャップ膜53として酸化シリコン膜の膜厚を様々に変えてラテラル成長距離のキャップ膜厚依存性を調べた結果を示す特性図である。なお、ラテラル成長距離は平均値を求めた。ここでは結晶とトランジスタのチャネル部との位置合せ精度の関係から、ラテラル成長距離が4.0μm以上を合格基準とした。
【0046】
図7に示すように、実施例サンプルではプロキシミティ型結晶化装置において、キャップ膜53の膜厚が30nm以上かつ略340nm以下の場合に、室温においても最長で4μm以上のラテラル成長距離が得られた。また、キャップ膜53の膜厚が30nm、80nmの場合であってもそれぞれ最長で3μm、2μm程度のラテラル成長距離が得られた。また、キャップ膜53の膜厚が390nmの場合であっても最長で1.5μm程度のラテラル成長距離が得られた。一方、キャップ膜53の膜厚が480nmの場合は、ラテラル成長距離が1.5μmを下回った。ラテラル成長距離が5μm以上の大粒径の結晶化領域は、キャップ膜53の膜厚が100μm以上340μm以下のときに得られている。このキャップ膜53の膜厚は、位相シフタ4を介してレーザ光により照射された非単結晶半導体膜が加熱され、この加熱されたことにより溶融された非単結晶半導体膜の降温速度を遅くさせることにより大粒径の結晶化が得られる膜厚である。降温速度をゆっくりさせるためには、キャップ膜53(第2の絶縁層)を適切な厚さに選択すること、結晶化するためのレーザ光の光エネルギおよび強度分布BPを適切に選択することである。
【0047】
図8は、横軸に被処理基板40の温度(℃)をとり、縦軸に結晶化された結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、位相シフタ4を図3に示すようにプロキシミティ型の結晶化装置10に配置してキャップ膜53として膜厚300nmのSiO2膜からなるキャップ膜53を有する被処理基板40の温度を様々に変えてラテラル成長距離の基板温度依存性を調べた結果を示す特性図である。図から明らかなように、キャップ膜53として十分な厚みのSiO2からなるキャップ膜53を有する被処理基板40では、基板温度は、室温から数百℃までラテラル成長距離の基板温度依存性がほとんど無く、室温であっても十分な長さのラテラル成長距離を得ることが可能であることが判明した。この現象は、明らかではないが、キャップ膜による蓄熱効果によるものと思われる。
【0048】
図9は、横軸に光強度指数(相対量)をとり、縦軸に結晶化された結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、位相シフタ4を図3に示すようにプロキシミティ型に配置して各種サンプルにレーザ光の光強度を様々に変えてラテラル成長距離の光強度指数依存性を調べた結果を示す特性図である。図から明らかなように、光強度が相対量で0.9を超えるあたりからラテラル成長距離が急激に増大することが判明した。具体的には、室温で、被処理基板40にエキシマレーザのパルス光を1ショット照射によっても4μm以上の大きなラテラル成長距離が得られた。
【0049】
本明細書中において「光強度指数」とは、結晶粒の成長中または成長後において種々の応力を受けても膜(結晶構造)が破壊されないで膜の形態形質が維持されるぎりぎりのエネルギ光の照射強度を基準とし、この基準に対する光強度の値をいうものとする。ここで「膜破壊」とは、広義には膜を構成する規則的な構造(膜構造)が壊れることをいい、狭義には結晶粒がラテラル成長するときに生じる応力によりキャップ膜53が壊されること、あるいはラテラル成長時の発生応力により結晶化対象膜が壊されること、あるいはキャップ膜53や結晶化対象膜のなかに含まれる水素に起因して結晶粒内または結晶粒界に割れなどの欠陥を生じることをいうものと定義する。
【0050】
以上のことから本発明方法を用いて、室温において高充填率で大結晶粒(平均結晶粒径4μm〜)をラテラル成長させることが可能であることを確認した。
【0051】
上記実施形態では、位相シフタ4をプロキシミティ型に配置した例について説明したが、位相シフタ4を図10に示すようにプロジェクション型に配置してもよい。即ち、このプロジェクション型の結晶化装置10Aは、位相シフタ4と被処理基板40との間に結像光学系43が配置された装置である。
【0052】
次に、上記プロジェクション型結晶化装置10Aを利用した位相変調エキシマレーザアニール(以下PMELAと略す)により、Si膜を結晶化する実施例について説明する。図5に示すように、被処理基板40は、シリコン(Si)基板50上に膜厚1000nmのSiO2からなる下地保護膜51を熱酸化法により形成した後、膜厚200nmの非晶質シリコン膜52およびキャップ膜53としてSiO2膜53をPE−CVD(Plasma Enhanced-CVD)法で順次積み重ねた積層構造とした。また、下地保護膜51から非晶質Si膜52、キャップ膜53をPE−CVD(Plasma Enhanced-CVD)法で連続成膜により形成してもよい。PMELA前に、被処理基板40をアニール炉において窒素ガス雰囲気下で2時間×550℃の脱水素処理を行った。
【0053】
PMELAにおいては、被処理基板40に対してKrFエキシマレーザを、例えばパルス幅30nsec、単一ショット照射した。結晶化されたSi膜のミクロ構造的な分析は、セコエッチング後に、走査型電子顕微鏡(SEM)によって実行した。図2(b)は、ピッチ幅PWを様々に変えた光強度分布BPを用いたパルスレーザ光を単一ショット照射することにより結晶化されたサンプルを示す走査型電子顕微鏡(SEM)像の一例である。
【0054】
上記のプロジェクション型の結晶化装置10Aにより被処理基板40の結晶化工程を実施したときの結晶化特性を、図11および図12に示す。
【0055】
図11は、位相変調光学系である位相シフタ4を図10に示すようにプロジェクション型の結晶化装置10Aに配置したときのラテラル成長距離とキャップ膜53の膜厚との関係について調べた結果を示す特性図である。即ち、図11は横軸にキャップ膜53の厚さ(nm)をとり、縦軸に結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとった図である。図11には、キャップ膜53の各膜厚での最大ラテラル成長距離が示されている。また、図中の曲線は、各キャップ膜厚でのラテラル成長距離を結んだものである。図11から明らかなようにキャップ膜53の厚さが増大するとラテラル成長距離も増大し、キャップ膜53の膜厚が130〜400nmの範囲ではラテラル成長距離が4μmを超えた。特にキャップ膜53の厚さが250nmのときにラテラル成長距離は最大約7μmに達した。この図12に示したように本実施例では、室温で、エキシマレーザのパルス光を被処理基板40に対して照射したとき6μm以上の大きなラテラル成長距離が得られた。
【0056】
なお、図11は、参考データとしてキャップ膜53が無いときの試料例えば非単結晶半導体膜のラテラル成長距離を図中に黒丸で表示してある。キャップ膜53無しの非単結晶半導体膜のラテラル成長距離は、キャップ膜53有りの非単結晶半導体膜のラテラル成長距離に比べて短かった。
【0057】
図12は、非晶質シリコン膜52の膜厚200nmのサンプルにおいて、横軸に光強度指数(相対値)をとり、縦軸に結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、位相シフタ4を図10に示すようにプロジェクション型に配置したときの結晶粒のラテラル成長距離と光強度との関係について調べた結果を示す特性図である。図から明らかなように、光強度が相対量で0.9を超えるあたりからラテラル成長距離が急激に増大することがプロジェクション法によっても確認できた。
【0058】
次に、図5に示すキャップ膜53を有する被処理基板40において、非晶質シリコン膜52の膜厚を変えて上記結晶化工程を行い、最大ラテラル成長距離との関係を観察した。
【0059】
図22は、非晶質シリコン膜52の膜厚と最大ラテラル成長距離との関係を示す特性図である。キャップ膜53が無い場合は、図7および図11に示されているように非晶質シリコン膜52の膜厚が200nmの場合において、最大ラテラル成長距離は2.5μmであった。しかし、図21に示すように、図5に示すキャップ膜53を有する被処理基板40においては、例えば非晶質シリコン膜52の膜厚が30nmと薄い場合であっても、3μm以上のラテラル成長した結晶粒が得られる。この図7と図11、および図22の結果からキャップ膜53を設けることが、最大ラテラル成長距離の大きさに効果のあることが判明した。
【0060】
さらに図22は、非晶質シリコン膜52の膜厚を厚くすると、最大ラテラル成長距離が長くなり、また非晶質シリコン膜52の膜厚が200nm程度になると最大ラテラル成長距離の伸びが飽和してくることを示している。
【0061】
次に、図22に示す最大ラテラル成長距離を達成するキャップ膜厚の条件について説明する。図23は最大ラテラル成長距離を達成する、非晶質シリコン膜52の膜厚da-Siとキャップ膜53の膜厚dcapとの関係を示す特性図である。この結果、非晶質シリコン膜52の膜厚da-Siが厚くなるにしたがって、必要なキャップ膜53の膜厚dcapが厚くなることを見出した。図23は、非晶質シリコン膜52が厚くなると、上記シリコン層52中の熱量が多くなり、この増加した熱の蓄熱を行う為には、厚いキャップ膜53が必要であることを示している。図23の非晶質シリコン膜52の膜厚da-Siと、キャップ膜53の膜厚dcapとの関係を示す特性図において、キャップ膜53の膜厚は各非晶質シリコン膜厚に対応して、直線dcap=0.568da-Si+60と直線dcap=0.568da-Si+160で囲まれる範囲に選択されることにより各非晶質シリコン膜52の膜厚da-Siにおける最長のラテラル方向の結晶成長をさせることができる。上記式において、dcapは、第2の絶縁層(キャップ膜53)の膜厚(nm)であり、da-Siは非晶質半導体膜又は非単結晶半導体膜(非晶質シリコン膜52)の膜厚(nm)である。
【0062】
[実証試験]
(蓄熱効果)
次に、図13〜図16を参照してキャップ膜53の蓄熱効果について実証試験した結果を説明する。実証試験はSi膜厚200nmのサンプルを用いて実施した。図13は、横軸に平均の光強度(mJ/cm2)をとり、縦軸に結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、光強度分布のピッチ幅PWを一定値(28μm)としたときのキャップ膜53の蓄熱効果を示す特性図である。図中にて白四角はキャップ膜53の厚さを130nmとしたときの結果を、白三角はキャップ膜53の膜厚を220nmとしたときの結果を、黒丸はキャップ膜53の厚さを300nmとしたときの結果を、黒三角はキャップ膜53の厚さを390nmとしたときの結果をそれぞれ示す。
【0063】
キャップ膜53の厚さ130nm(白四角)および厚さ220nm(白三角)のような薄いキャップ膜53では、膜破壊が発生するまで、結晶粒のラテラル成長距離は光強度の上昇に伴って徐々に増大した。このときのラテラル成長距離の最大値は約6μmであった。これより厚い厚さ300nm(黒丸)のキャップ膜53の場合、ラテラル成長距離は最初に約2μmまで増大し、次いで急激に増加して6μmを超えた。一方、厚さ390nm(黒三角)のように極度に厚いキャップ膜53の場合、ラテラル成長距離は2μmを超えなかった。
【0064】
図14(a)に模式的に示す光強度分布のレーザ光を照射して結晶化工程を行い、セコエッチングされたシリコン膜のSEM像を図14(b)と(c)に示す。図14(b)は、キャップ膜53の厚さを300nmにして結晶化工程を行ったときのシリコン膜のSEM像である。図14(b)中の矢印は、ラテラル成長の方向を示す。顕微鏡観察の結果、ラテラル成長距離は、最大値で7μmを超え、平均値で約6μmであった。
【0065】
図14(c)は、キャップ膜53の厚さが暑い試料をセコエッチングしてその結晶化形態を示すSEM像である。図ではラテラル成長領域が焼結晶領域によっていくつかに分断されている。これは溶融非晶質シリコン膜52内の温度勾配が比較的長時間存在できたことを示している。しかし、固液界面の前面において温度は急激に下がり、自然核生成する臨界的な温度を下回った。自然核発生は、この固液界面の前面近傍で起こり、ラテラル成長する結晶粒を互いの衝突により停止させる。同時に、いくつかの新しい核が新たなラテラル成長の発生源として働く、このような状況は溶融非晶質シリコン膜52内の温度勾配がより緩やかな場合にしばしば発生し、最終的には均一な小結晶粒をもたらす。この効果はキャップ膜53が厚くなるほどより著しくなる。非常に厚いキャップ膜53では、Si層の熱量のほとんどがキャップ膜53を加熱するために使用されるため、Si層の液相の存続期間をかえって減少させる。
【0066】
また、結晶のラテラル成長特性は、220nm厚さのキャップ膜53と300nm厚さのキャップ膜53との間では明らかに異なっていることが確認された。キャップ膜53の厚さ220nm試料(被処理基板40)では、結晶粒サイズは光強度とともに増大する。これに対してキャップ膜53の厚さ300nmキャップ試料(被処理基板40)の場合は、結晶のラテラル成長特性が急減に変化する臨界強度が存在した。
【0067】
図15はこの急激な変化を説明する模式図である。図15は、横軸に基板上の各膜層の位置をとり、縦軸に温度(無単位)をとって、SiO2下地保護膜51の上に結晶化対象の非晶質シリコン膜52が、この非晶質シリコン膜52上にSiO2キャップ膜53が形成された被処理基板40の膜厚方向の温度分布を示す一次元温度分布図である。ここではパルス照射の間に結晶化対象の非晶質シリコン膜52の温度TSiが時間とともに増大すると単純化して想定することとする。パルス的に照射されたレーザ光のパルスの終端ではSiO2キャップ膜53と下地保護膜51における温度分布は同じ形状となるが、図で概略的に示されるとおり非晶質シリコン膜52の温度TSiに比例する。強い照射(実線A)の場合には、非晶質シリコン膜52の温度TSiは高くなるので、非晶質シリコン膜52の温度TSiによるキャップ膜53の加熱された結果、キャップ膜53の温度は、被結晶化対象化膜の非晶質シリコン膜52の融点TMを厚さ方向に対して広い領域で上回り、キャップ膜53は、ヒートキャパシタとして機能する。
【0068】
一方、弱い照射(破線B)の場合には、上記非晶質シリコン膜52の温度TSiは、キャップ膜53を十分に加熱するに足るほど高くない。上記非晶質シリコン層52近傍のキャップ膜53の一部のみが融点TMを超えるほど加熱される。キャップ膜53の一部は、低温(融点TM以下)のままであり、この低温領域(冷領域)がヒートシンクとして作用する。
【0069】
図10に示すようなプロジェクション型結晶化装置による実験の結果、ラテラル成長距離を長くするための好ましいキャップ膜53の厚さは100〜370nmの範囲であった。
【0070】
図16は、横軸に平均の光強度(mJ/cm2)をとり、縦軸に結晶粒のラテラル成長距離(μm)をとって、キャップ膜53の厚さを一定値(300nm)として光強度分布のピッチ幅PWを様々に変えたときのキャップ膜53の蓄熱効果を示す特性図である。図中にて白丸はピッチ幅PWを20μmとしたときの結果を、黒丸はピッチ幅PWを28μmとしたときの結果を、白三角はピッチ幅PWを36μmとしたときの結果をそれぞれ示す。
【0071】
図から明らかなように、ピッチ幅PWが20μmの場合、ラテラル成長距離は光強度とともに一定に増大し、光強度が1000mJ/cm2のところで最大約4μmに到達した。一方、ピッチ幅PWが大きい36μmの場合、ラテラル成長距離は短いままであった。また、ピッチ幅PWが中程度の28μmでは、急激に成長する光強度を経て、ラテラル成長距離は6μmに達した。
【0072】
図17(a)に大結晶粒をち密に配列したサンプルのSEM像を、同図(b)に(a)のサンプルの一部を拡大したSEM像を、同図(c)に(b)のサンプルに照射されたレーザ光の光強度分布図をそれぞれ示す。
【0073】
望ましいビームプロファイルは山強度と谷強度との比率が約2となる三角形の形状であることを、本実証試験により確認できた。このようなビームプロファイルは位相シフタにより生じさせるように設定される。図17(a)に示すように、サンプル表面の全体に亘って5μm程度の大結晶粒がち密に充填された。このように大結晶粒がち密に充填配列された形態に類似する形態を再現性よく生産することができた。
【0074】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。以上のことから本発明方法を用いて、高充填率で大結晶粒(平均結晶粒径4.0〜6ミクロン)をラテラル成長させることが可能であることを確認した。
【0075】
次に、図18を参照して本発明の薄膜トランジスタ(TFT)の構成およびその製造方法について説明する。上述の結晶化方法により大結晶粒化した半導体膜をもつ基板を利用して薄膜トランジスタを作製した。
【0076】
絶縁体又は半導体から成る基板には、ガラス基板49、石英基板、プラスチック基板などの絶縁基板の他に、表面に絶縁被膜が形成された金属基板、シリコン基板、或いはセラミック基板などを適用することが可能である。ガラス基板49は、例えばコーニング社の#1737基板に代表されるような、低アルカリガラス基板を用いることが望ましい。下地保護膜51は酸化シリコン(SiO2)または窒化シリコンを主成分として含む絶縁膜、例えば膜厚300nmの酸化シリコン膜であり、さらに、ガラス基板49に密接して形成されていると好ましい。上記下地保護膜51は、ガラス基板から上記非単結晶半導体膜に不純物が拡散しないように阻止する作用をする膜である。
【0077】
下地保護膜51の上に非晶質半導体膜又は非単結晶半導体例えば非晶質シリコン膜52(例えばプラズマ化学気相成長法によって成膜した膜厚200nmの非晶質Si膜)を成膜する。
【0078】
非晶質シリコン膜52上にキャップ膜53を形成して、被処理基板40を形成する。この被処理基板40は、図4に示された光学系によってホモジナイズされたパルスレーザ光を位相シフタ4に入射させ位相変調したレーザ光50により結晶化工程が行われる。
【0079】
結晶化した単結晶半導体膜上のキャップ膜53をエッチングにより除去する。次に、非晶質シリコン膜52の結晶化された領域に位置合わせして半導体回路例えば図18に示す薄膜トランジスタを次のようにして製造する。まず活性領域の形状を規定するためにフォトリソグラフィを用いてパターニングし、平面視野内でチャネル領域52aおよびソース領域52bおよびドレイン領域52cに略対応する所定パターンのSiアイランドを形成した。
【0080】
次に、チャネル領域52a、ソース領域52bおよびドレイン領域52c上にゲート絶縁膜54を形成する。ゲート絶縁膜54は、酸化シリコン(SiO2)あるいは酸窒化シリコン(SiON)を主成分とする材料で、厚さ30〜120nmの酸化シリコン膜を形成する。ゲート絶縁膜54の形成は、例えば、プラズマCVD法で、SiH4とN2Oを原料とした酸化シリコン膜を50nmの厚さで形成してゲート絶縁膜54とした。
【0081】
次に、ゲート絶縁層54上にゲート電極55を形成するための導電層を形成した。導電層は、Ta、Ti、W、Mo、Al等の元素を主成分とする材料を用い、スパッタ法や真空蒸着法などの公知の成膜法を用いて形成した。例えばAl−Ti合金とした。フォトリソグラフィを用いてゲート電極用金属層をパターニングし、所定パターンのゲート電極55を形成した。
【0082】
次に、ゲート電極55をマスクとして不純物を注入することによりソース領域52bおよびドレイン領域52cを形成した。例えば、Pチャネル型TFTを形成する場合、イオン注入法を用いて例えばボロンイオン等のP型不純物の注入を行う。この領域のボロン濃度は、例えば1.5×1020〜3×1021となるようにした。このようにしてPチャネル型TFTのソース領域52bおよびドレイン領域52cを構成する高濃度p型不純物領域を形成する。このとき、n型不純物の注入を行えばnチャネル型TFTが形成されることはいうまでもない。
【0083】
次いで、イオン注入法により注入した不純物元素を活性化するために熱処理工程を行う。この工程は、ファーネスアニール法、レーザアニール法、ラピッドサーマルアニール法などの方法で行うことができる。本実施の形態では、ファーネスアニール化法で活性化工程を行った。加熱処理は、窒素雰囲気中において300〜650℃の温度域で行うことが望ましく、本実施例では500℃で4時間の熱処理を行った。
【0084】
次に、ゲート絶縁膜54およびゲート電極55上に層間絶縁膜56を形成した。層間絶縁膜56は窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜またはそれらを組み合せた積層膜で形成すれば良い。また、膜厚は200〜600nmとすれば良く、本実施例では400nmとした。
【0085】
次に、層間絶縁膜56における予め定められた所定の位置にコンタクトホールを開口する。そして、コンタクトホールの内部および層間絶縁層56の表面上に導電層を形成し、所定の形状にパターニングする。本実施例ではこのソース・ドレイン電極57,58を、Ti膜を100nm、Tiを含むアルミニウム膜300nm、Ti膜150nmをスパッタ法で連続して形成した3層構造の積層膜とした。このようにして図18に示す薄膜トランジスタを得た。
【0086】
以下、上述の実施形態で得られるような薄膜トランジスタを実際にアクティブマトリクス型液晶表示装置に適用した例について説明する。図19は薄膜トランジスタを用いたアクティブマトリクス型表示装置の一例を示す図である。表示装置70は一対の絶縁基板71,72と両者の間に保持された電気光学物質73とを備えたパネル構造を有する。電気光学物質73としては液晶材料が広く用いられている。下側の絶縁基板71には画素アレイ部74と駆動回路部とが集積形成されている。駆動回路部は垂直駆動回路75と水平駆動回路76とに分かれている。
【0087】
また、絶縁基板71の周辺部上端には外部接続用の端子部77が形成されている。端子部77は配線78を介して垂直駆動回路75及び水平駆動回路76に接続している。画素アレイ部74には行状のゲート配線79と列状の信号配線80が形成されている。両配線の交差部には画素電極81とこれを駆動する薄膜トランジスタ82が形成されている。薄膜トランジスタ82のゲート電極は対応するゲート配線79に接続され、ドレイン領域は対応する画素電極81に接続され、ソース領域は対応する信号配線80に接続されている。ゲート配線79は垂直駆動回路75に接続する一方、信号配線80は水平駆動回路76に接続している。
【0088】
画素電極81をスイッチング駆動する薄膜トランジスタ82及び垂直駆動回路75と水平駆動回路76に含まれる薄膜トランジスタは、本発明に従って作製されたものであり、従来に比較して移動度が高くなっている。従って、駆動回路ばかりでなく更に高性能な処理回路を集積形成することも可能である。
【0089】
以上説明したように上記実施形態によれば、結晶化処理時に低温、例えば室温またはその近傍の温度域(例えば5〜50℃)であっても大粒径の結晶化を行なうことができる。位相変調した光を非単結晶半導体膜に照射するので、高次の振動成分が低減される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、液晶表示装置ばかりでなく有機エレクトロルミネッセンス表示装置,電子回路装置にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】(a)は位相シフタと基板を示す図、(b)は位相シフタを通過した均一化レーザ光の光強度分布を示す図、(c)はレーザ光の光強度分布を三次元的に示す図。
【図2】(a)は基板入射前に位相変調されたレーザ光の光強度分布を模式的に示す図、(b)はパルスレーザ光の単一ショット照射により結晶化されたサンプルを示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図3】本発明の結晶化装置の概要を示す構成ブロック図。
【図4】本発明装置の光学系を示す内部透視ブロック図。
【図5】本発明の薄膜トランジスタの製造工程を説明する断面模式図。
【図6】本発明の効果を示すSEM像。
【図7】本発明の効果を示す特性図。
【図8】本発明の効果を示す特性図。
【図9】本発明の効果を示す特性図。
【図10】図3の他の実施形態を説明するための構成ブロック図。
【図11】本発明の効果を示す特性図。
【図12】本発明の効果を示す特性図。
【図13】本発明の効果を示す特性図。
【図14】(a)はセコエッチング後のサンプルのSEM像、(b)は光強度分布図、(c)はセコエッチング後のサンプルのSEM像。
【図15】本発明の効果を説明する模式図。
【図16】本発明の効果を示す特性図。
【図17】(a)は大結晶粒をち密に配列したサンプルのSEM像、(b)は(a)に示すサンプルの一部を拡大したSEM像、(c)は(b)に示すサンプルに照射したレーザ光の光強度分布図。
【図18】本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタを示す断面模式図。
【図19】本発明の実施形態に係る表示装置の概要を示す斜視図。
【図20】従来装置の概要を示す構成ブロック図。
【図21】(a)は位相シフタと基板を示す図、(b)は平行パルスレーザ光が位相シフタを通過した後の光強度分布を示す図。
【図22】非晶質シリコン膜の膜厚(nm)と結晶粒のラテラル成長距離(μm)との関係を示す特性図。
【図23】非晶質シリコン膜の膜厚(nm)とキャップ膜の膜厚(nm)との関係を示す特性図。
【符号の説明】
【0092】
1…エキシマレーザ装置、2a,2b…光学レンズ、
3…ホモジナイザ(照明系)33,35…フライアイレンズ、
34,36…コンデンサ光学系、
4…位相シフタ(空間強度変調光学素子)、
5、40…被処理基板、43…結像光学系、48…シリコン基板、
49…ガラス基板、50…レーザ光、51…下地保護膜(第1の絶縁層)、
52…非晶質シリコン膜(非単結晶半導体膜、a−Si膜)、
52a…チャネル領域、52b…ソース領域、52c…ドレイン領域、
53…キャップ膜(SiO2膜;第2の絶縁層)、
54…ゲート絶縁膜、55…ゲート電極、56…層間絶縁膜、
57…ソース電極、58…ドレイン電極、
6…載置台、7…X,Y,Z,θステージ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発振するタイミングが制御されるレーザ装置と、このレーザ装置から発振されたレーザ光と同一光軸上に配置され入射レーザ光の光強度を均一化するためのホモジナイザと、このホモジナイザと同一光軸上に配置された空間強度変調光学素子と、前記レーザ光の光路に設けられた被処理基板を載置するための載置台と、を有するプロキシミティ型結晶化装置を用いて、前記被処理基板に設けられた非単結晶半導体膜にレーザ光を照射して結晶化する結晶化方法であって、
前記非単結晶半導体膜のレーザ光入射面上にキャップ膜を設け、
このキャップ膜を介して前記非単結晶半導体膜に単調増加と単調減少を繰り返す断面逆三角形状ピークパターンを有する光強度分布のレーザ光を照射することにより照射部のみを溶融し、降温が開始された後前記照射部の最小となる逆ピーク点の凝固が開始し、この凝固位置が前記断面逆三角形状ピークパターンの勾配に応じて凝固点が移動しラテラル方向に結晶成長させ、
前記載置台と前記レーザ装置からのレーザ光による前記照射位置を相対的に移動させて前記非単結晶半導体膜の予め定められた領域を結晶化することにより前記レーザ光の照射部における最小となる逆ピーク点から結晶化することを特徴とする結晶化方法。
【請求項2】
前記キャップ膜は、膜厚が30nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1記載の結晶化方法。
【請求項3】
前記レーザ光は、入射角度および光強度に関して均一化された光であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の結晶化方法。
【請求項4】
前記レーザ光は、パルスレーザ光であることを特徴とする請求項1記載の結晶化方法。
【請求項5】
パルスレーザ光を1ショット照射後に前記被処理基板を所定ピッチ距離だけ移動させ、次のショットのパルスレーザ光を照射することを特徴とする請求項1記載の結晶化方法。
【請求項1】
レーザ光を発振するタイミングが制御されるレーザ装置と、このレーザ装置から発振されたレーザ光と同一光軸上に配置され入射レーザ光の光強度を均一化するためのホモジナイザと、このホモジナイザと同一光軸上に配置された空間強度変調光学素子と、前記レーザ光の光路に設けられた被処理基板を載置するための載置台と、を有するプロキシミティ型結晶化装置を用いて、前記被処理基板に設けられた非単結晶半導体膜にレーザ光を照射して結晶化する結晶化方法であって、
前記非単結晶半導体膜のレーザ光入射面上にキャップ膜を設け、
このキャップ膜を介して前記非単結晶半導体膜に単調増加と単調減少を繰り返す断面逆三角形状ピークパターンを有する光強度分布のレーザ光を照射することにより照射部のみを溶融し、降温が開始された後前記照射部の最小となる逆ピーク点の凝固が開始し、この凝固位置が前記断面逆三角形状ピークパターンの勾配に応じて凝固点が移動しラテラル方向に結晶成長させ、
前記載置台と前記レーザ装置からのレーザ光による前記照射位置を相対的に移動させて前記非単結晶半導体膜の予め定められた領域を結晶化することにより前記レーザ光の照射部における最小となる逆ピーク点から結晶化することを特徴とする結晶化方法。
【請求項2】
前記キャップ膜は、膜厚が30nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1記載の結晶化方法。
【請求項3】
前記レーザ光は、入射角度および光強度に関して均一化された光であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の結晶化方法。
【請求項4】
前記レーザ光は、パルスレーザ光であることを特徴とする請求項1記載の結晶化方法。
【請求項5】
パルスレーザ光を1ショット照射後に前記被処理基板を所定ピッチ距離だけ移動させ、次のショットのパルスレーザ光を照射することを特徴とする請求項1記載の結晶化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2010−114472(P2010−114472A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25768(P2010−25768)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【分割の表示】特願2004−93200(P2004−93200)の分割
【原出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(501286657)株式会社 液晶先端技術開発センター (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【分割の表示】特願2004−93200(P2004−93200)の分割
【原出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(501286657)株式会社 液晶先端技術開発センター (161)
【Fターム(参考)】
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