説明

結晶成長方法、半導体装置の製造方法および結晶成長方法の実施に用いる高圧装置

【課題】ソルボサーマル法を用いた結晶成長において、より高温、高圧で結晶成長ができるようにする。
【解決手段】高圧容器の中に適切な溶媒を入れ、これに適当な塩基性、中性、酸性の鉱化剤と化合物を入れて、加圧、加熱して結晶を成長させるいわゆるソルボサーマル法において、高圧容器として、加熱する内部容器1と、この内部容器1を入れてその外側を加圧するための外部容器9とを有する二重構造の高圧容器を用い、内部容器1を加熱し、この加熱による内部容器1の内部の圧力の上昇に伴い、外部容器9を加圧して、内部容器1と外部容器9の圧力差が生じないようにし、内部容器1の温度が所定の温度に達したら、その状態を保持して結晶成長を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルボサーマル法による結晶成長方法、半導体装置の製造方法および結晶成長方法の実施に用いる高圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ソルボサーマル法により成長できる水晶をはじめとする単結晶は、圧電素子など様々な機能的素子として応用されている。特に最近は酸化亜鉛やGaNなどのIII族窒化物半導体の単結晶が注目を浴びている。これらの半導体は、バンドギャップが大きく、破壊電界強度が高く、かつ高融点であることから、そうした物性を活かすデバイスとして、圧電素子、電子デバイス、発光素子、レーザーなどさまざまな応用が研究、開発されている。
【0003】
ソルボサーマル法では、高圧容器の中に適切な溶媒を入れ、これに適当な塩基性、中性、酸性の鉱化剤と原料となる元素または化合物を入れて、これを加圧、加熱して結晶を成長させる。
【0004】
実際、溶媒を水とした水熱合成法では、水晶、酸化亜鉛などの単結晶が成長され、水晶は工業的に製造されている。また、溶媒をアンモニアとしたアモノサーマル法では、GaNの単結晶の成長について研究開発されている(例えば、特許文献1−6、非特許文献1−6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−277182号公報
【特許文献2】特開2004−2152号公報
【特許文献3】特開2007−39321号公報
【特許文献4】特開2007−238347号公報
【特許文献5】特開2008−143778号公報
【特許文献6】特許4229624号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Byrappa, "Hydrothermal Growth of Crystals", Handbook of Crystal Growth, Vol.2, ed. By D.T.J. Hurle, (1994, Elsebvier Science), Ch.9, pp. 465-562.
【非特許文献2】吉川彰ほか、「ソルボサーマル法によるZnOパルク結晶作製とそのGaN結晶への応用」、日本結晶成長学会誌、Vol3(2005) p.15-19.
【非特許文献3】D. Ehrentraut et al., "Solvothermal Growth of ZnO", Prog.Crystal Growth Charact. Mater., 52(2006), 280-335.
【非特許文献4】R. Swilinski et al., "Bulk Ammonothermal GaN", J. Crystal Growth, 31(2009), 3015-3018.
【非特許文献5】T. Hashimoto et al. "Growth of Bulk GaN Crystals by the Basit Ammonothermal Method", Jpn. J. Appl. Phys., 46(2007), L889-891.
【非特許文献6】D. Ehrentraut et al., "Physico-chemical Featuers of the Acid Ammonothermal Growth of GaN", J. Crystal Growth, 310(2008) 891-895.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ソルボサーマル法では、加圧、加熱するために高圧容器を用いるが、これらの高圧容器は高圧ガス法の認可が必要である。実際、これまで工業的、あるいは研究開発に使われていた高圧容器は全て、高圧ガス法に基づいて実施されてきた。このため、高圧装置の製造コストがかかり、製品のコスト削減に限界があった。
【0008】
従来の方法では、高圧容器の圧力を高圧として、その容器の外側から加熱して結晶成長をしていた。このため、容器材料の温度、圧力が高くなり、破壊の恐れがあるため、高圧ガス法上、容器の大きさにもよるが、所定の温度、圧力以上に加圧、加熱ができなかった。
【0009】
また、加圧、加熱条件が、高圧ガス法上認められない場合にあっては、実験そのものも実施することができず、新規の材料の結晶成長の研究開発に支障をきたしていた。
【0010】
本発明は上記点に鑑みてなされたものであり、ソルボサーマル法を用いた結晶成長において、より高温、高圧で結晶成長ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、高圧容器の中に結晶と溶媒を入れ、加圧、加熱して結晶を成長させるソルボサーマル法を用いた結晶成長方法において、
前記高圧容器として、前記結晶と溶媒を入れる内部容器と、この内部容器を入れてその外側を加圧するための外部容器とを有する二重構造の高圧容器を用い、
前記内部容器を加熱し、この加熱による前記内部容器の内部の圧力の上昇に伴い、前記外部容器を加圧して、前記内部容器と前記外部容器の圧力差が生じないようにし、前記内部容器の温度が所定の温度に達したら、その状態を保持して結晶成長を行うことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、高圧容器として、結晶と溶媒を入れる内部容器と、この内部容器を入れてその外側を加圧するための外部容器とを有する二重構造の高圧容器を用いているから、加熱中に内部容器を外部容器とほとんど同じ圧力とすることができるため、従来よりも高温、高圧で結晶成長ができる。このため、従来よりもより成長速度が速くできるほか、結晶品質も向上できる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の結晶成長方法により得られた結晶から半導体装置を製造する半導体装置の製造方法を特徴とする。
【0014】
この発明によれば、請求項1に記載の結晶成長方法により得られた、結晶品質が向上した結晶を用いてウェーハ、デバイスなどの半導体装置を製造することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、高圧容器の中に結晶と溶媒を入れ、加圧、加熱して結晶を成長させるソルボサーマル法を用いた結晶成長方法の実施に用いる高圧装置であって、
前記高圧容器は、結晶と溶媒を入れる内部容器と、この内部容器を入れてその外側を加圧するための外部容器とを有する二重構造の高圧容器であり、
当該高圧装置は、さらに
前記内部容器を加熱する加熱手段と、
前記外部容器を加圧する加圧手段と、
前記内部容器と前記外部容器の圧力差を得るための圧力検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、請求項1に記載の結晶成長方法を適切に実施することができる。
【0017】
なお、加熱手段としては、請求項4に記載の発明のように、外部容器の中に設置された電気炉とし、この電気炉内に内部容器を設置して内部容器を加熱するようにすることができる。また、外部容器を加圧する加圧手段としては、後述する実施の形態に示すように、コンプレッサ、高圧バルブなどを用いたものとすることができる。また、内部容器と外部容器の圧力差を得るための圧力検出手段としては、後述する実施の形態に示すように、内部容器と外部容器のそれぞれの圧力を検出する圧力計のほか、内部容器と外部容器の圧力差を検出する差圧計などを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるソルボサーマル法の構成(高圧装置)を示す概要図である。
【図2】従来のソルボサーマル法の構成(高圧装置)を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
従来のソルボサーマル法では、全て図2のように、高圧容器を加圧した状態で、高圧容器の外側から加熱していた。本実施の形態においては、図1のように、高圧容器を二重にする。すなわち、高圧容器を、内部容器(内部高圧容器)1と、この内部容器1を入れてその外側を加圧するための外部容器(外部高圧容器)9とを有する二重構造の高圧容器とする。外部容器1には、コンプレッサ12、高圧バルブ11などの加圧手段および容器内部の圧力を検出するための圧力計10が備えられている。なお、図1、図2において、2は種結晶、3は原料、4はバッフル板、5は上部ヒーター、6は下部ヒーター、7は圧力計、8は高圧バルブである。
【0020】
図1に示す高圧装置において、内側の内部容器1には溶媒として、水ないしはアンモニアなどを充填する。この際、溶媒は、所定の温度で所定の圧力となるように高圧バルブ8を介して充填する。加熱していない状態では、内部容器1に圧力がかかっても、容器の大きさにもよるが室温であるため高圧法上かなり高い圧力まで加圧することが可能である。実際は、加熱したときの圧力上昇を鑑みて所定の温度になった時に許容される圧力まで加圧することになる。あるいは、所定の温度になった時に許容される圧力となるように、溶媒を充填する。
【0021】
上記の状態で、内部容器1の加熱を開始するが、加熱とともに内部容器1の内部の圧力が上昇する。この圧力の上昇に伴い、外部容器9に加圧する。この加圧のためには窒素ないしはアルゴンなどの不活性ガスを用いると良い。結晶成長するための所定の温度まで内部容器1の内部の圧力が上昇するが、内部容器1と外部容器9の圧力差が生じないように、外部容器9を加圧する。この際、コンプレッサ12により例えば2000気圧まで圧力を高めた不活性ガスを用いて外部容器9を加圧する。そして、内部容器1の温度が所定の温度に達したら、その状態を保持して結晶成長を行う。冷却するときも逆の手順で内部容器1と外部容器9の圧力差が生じないように減圧するため、内部容器1に圧力がほとんどかからないため、容器破損の心配がなく、従来よりより高い圧力、高い温度で結晶育成が可能となる。
(実施例)
以下に本発明を実施するための具体的な態様について述べる。本発明はこれらの方法に限定されず、これらに類する方法でも実施できる。所定の高圧容器用合金で作製された内部容器1(オートクレーブ)の底部に、原料3として粒径が0.05〜5mm程度のGaN多結晶を充填し、さらにGaをその10%程度添加する。次に開口率6%程度のバッフル板4を内部容器1の中間に設置し、内部容器を原料充填部と結晶成長部に区分する。次いで種結晶2としてC軸方向に垂直な面で切り出し鏡面研磨された100mm×150mm程度の板状GaN単結晶をPt製の枠にC軸が水平方向を向くよう上下数段程度に吊り下げ、この枠を上記結晶成長部に配置する。溶媒であるNH3を酸性硬化剤であるNH4Clとともに充填率80%程度で内部容器1に注入し、キャップにより封止する。
【0022】
この内部容器1を、外部容器9の中に設置された上下二段に分かれたヒーター5、6で構成された電気炉内に設置し、外部容器9に接続された高圧配管、ヒーター電極に接続する。この後、外部容器9を封止して加圧できるように配管する。
【0023】
内部容器1を結晶成長部の温度が原料充填部の温度より常に高くなるよう保ったまま、原料充填部を650℃程度、結晶成長部を700℃程度まで昇温する。この時の内部容器1の圧力は約3000気圧程度まで昇圧するが、内部容器1の温度上昇に即して、外部容器9を加圧し、内部容器1内の圧力と外部容器9内の圧力がほぼ同じとなるように圧力計7と圧力計10を見て調整しながら、内部容器1を昇温する。所定の温度に達したら、その状態を90日程度保持して結晶を育成する。この際、常時、内部容器1内の圧力と外部容器9内の圧力がほぼ同じとなるように圧力計7と圧力計10を見て調整する。この調整は、圧力計の信号をもとに自動調整しても構わない。
【0024】
冷却する際は、昇温したときと同様に、内部容器1内の圧力と外部容器9内の圧力がほぼ同じとなるように圧力計7と圧力計10を見て調整しながら冷却する。室温まで冷却し、育成したGaN単結晶を取り出す。この方法により、種結晶2の裏表にそれぞれ長さ約100mmのGaN単結晶が得られるため、バルク単結晶として、100×150×200mmの大型結晶が得られる。このバルク結晶は円筒研削した後、厚さ400μm厚程度でスライス後、コロイダルシリカにて鏡面研磨し、素子作製用のウエハーを得ることができる。通常はC面で切り出すが、切り出す方位を選べば、反極性、非極性いずれのGaN単結晶ウエハーも得ることができる。
(比較例)
図2に示すように内部容器1だけで結晶育成する。原料の充填については、上記した実施例と同じに行う。この際、高圧容器1はそのまま加熱されるため、高圧法上、内部容器の材質にもよるが、約1500気圧程度が上限であり、このため、溶媒であるNH3と酸性鉱化剤であるNH4Clとともに充填率65%程度とする。また、圧力に制限があるため、温度も550℃程度までしか上げることができない。結晶成長は500℃程度でこの温度で、上記した実施例と同じく90日程度保持して結晶を育成する。室温まで冷却し育成したGaN単結晶は、結晶成長温度が非常に低いので、種結晶2の裏表にそれぞれわずか長さ約3mmのGaN単結晶しか育成できていなかった。同様な条件で育成した例は、文献にも多数記載されているが、全て、単一容器で加熱、加圧するため、成長温度が高くできないため、最高温度成長速度が遅く、小さい結晶しか得られなかった。
【0025】
このように従来の方法では、高圧容器の圧力を高圧として、その容器の外側から加熱して結晶成長をしていた。このため、容器材料の温度、圧力が高くなり、破壊の恐れがあるため、高圧ガス法上、容器の大きさにもよるが、所定の温度、圧力以上に昇温、加圧ができなかったが、上記した本実施の形態による方法を用いれば、加熱中に内部容器を外部容器とほとんど同じ圧力とすることができるため、従来の温度、圧力以上に昇温、加圧できるようになった。
【0026】
このため、より高い温度、圧力で結晶成長できるようになったため、従来よりもより成長速度が速くできるほか、結晶品質も向上できるようになった。
【符号の説明】
【0027】
1 内部容器
2 種結晶
3 原料
4 パッフル板
5 上部ヒーター
6 下部ヒーター
7 圧力計
8 高圧バルブ
9 外部容器
10 圧力計
11 高圧バルブ
12 コンプレッサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧容器の中に結晶と溶媒を入れ、加圧、加熱して結晶を成長させるソルボサーマル法を用いた結晶成長方法において、
前記高圧容器として、前記結晶と溶媒を入れる内部容器と、この内部容器を入れてその外側を加圧するための外部容器とを有する二重構造の高圧容器を用い、
前記内部容器を加熱し、この加熱による前記内部容器の内部の圧力の上昇に伴い、前記外部容器を加圧して、前記内部容器と前記外部容器の圧力差が生じないようにし、前記内部容器の温度が所定の温度に達したら、その状態を保持して結晶成長を行うことを特徴とする結晶成長方法。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶成長方法により得られた結晶から半導体装置を製造する半導体装置の製造方法。
【請求項3】
高圧容器の中に結晶と溶媒を入れ、加圧、加熱して結晶を成長させるソルボサーマル法を用いた結晶成長方法の実施に用いる高圧装置であって、
前記高圧容器は、結晶と溶媒を入れる内部容器と、この内部容器を入れてその外側を加圧するための外部容器とを有する二重構造の高圧容器であり、
当該高圧装置は、さらに
前記内部容器を加熱する加熱手段と、
前記外部容器を加圧する加圧手段と、
前記内部容器と前記外部容器の圧力差を得るための圧力検出手段と、を備えることを特徴とする高圧装置。
【請求項4】
請求項3に記載の高圧装置において、前記加熱手段は、前記外部容器の中に設置された電気炉であり、この電気炉内に前記内部容器が設置されることを特徴とする高圧装置。
【請求項5】
請求項1−4に記載の内容において、溶媒としてアンモニアを用い、鉱化剤として酸性鉱化剤を用いてGaN単結晶を結晶成長する際に、温度を580℃以上、圧力を1700気圧以上とすることを特徴とする結晶成長方法、半導体装置の製造方法および高圧装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−31046(P2012−31046A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40345(P2011−40345)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】