説明

結晶系半導体基板のエッチング方法

【課題】 単結晶シリコンウエハなどの結晶系半導体基板をエッチング液に接触させてエッチングする方法において、製造工程を簡略化し、生産性を高める。
【解決手段】 結晶系半導体基板をエッチング液に接触させてエッチングする方法であって、結晶系半導体基板1の上方面1bを吸引部材3で覆い吸引して保持した状態で、結晶系半導体基板1の下方面1aを含む上方面1b以外の部分または下方面1aのみをエッチング液2に接触させるように制御してエッチングすることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコンウエハなどの結晶系半導体基板をエッチング液に接触させてエッチングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンウエハなどの結晶系半導体基板を用いた光起電力装置は、光電変換効率が高く、既に太陽光発電システムとして広く一般に実用化されている。
【0003】
これらの結晶系半導体基板を用いた光起電力装置においては、結晶系半導体基板の光入射側の面に、光閉じ込め構造により反射損失を低減するため、テクスチャ構造の凹凸が形成されている。表面にテクスチャ構造の凹凸を形成する方法としては、アルカリ性溶液を用いて結晶系半導体基板の表面をエッチングする方法が知られている(特許文献1など)。このような結晶系半導体基板においては、光入射側の面のみにテクスチャ構造の凹凸が形成されており、裏面には凹凸が形成されていない構成のものがある(特許文献2など)。
【0004】
従って、上記の構成を有する光起電力装置の場合、ウェットエッチングによりテクスチャ構造の凹凸を形成する際には、結晶系半導体基板の裏面の上にレジスト膜を塗布して形成し、裏面がエッチングされないようにしている。このようなレジスト膜は、エッチング処理後において硫酸過水や酸素プラズマによるアッシングなどにより除去する必要がある。また、レジスト膜が酸化シリコン膜である場合には、HF水溶液などを用いて除去する必要がある。従って、従来の結晶系半導体基板のエッチング処理においては、レジスト膜の形成と除去の工程が必要であり、製造工程が煩雑であるという問題があった。
【特許文献1】特開平11−233484号公報
【特許文献2】特開平3−173481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、製造工程を簡略化して、生産性を高めることができる結晶系半導体基板のエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、結晶系半導体基板をエッチング液に接触させてエッチングする方法であり、結晶系半導体基板の上方面を吸引部材で覆い吸引して保持した状態で、結晶系半導体基板の下方面を含む上方面以外の部分または下方面のみをエッチング液に接触させるように制御してエッチングすることを特徴としている。
【0007】
本発明によれば、結晶系半導体基板のエッチングしない上方面をレジスト膜等で覆うことなく、結晶系半導体基板の下方面を含む上方面以外の部分または下方面のみをエッチングすることができる。従って、従来よりも製造工程を大幅に簡略化することができ、エッチングされた結晶系半導体基板の生産性を高めることができる。
【0008】
本発明においては、吸引部材の周辺部からエッチング液に向かって送風することにより、結晶系半導体基板の周辺から該基板の上方面に侵入しようとするエッチング液を排除することが好ましい。
【0009】
また、吸引部材の周辺に、気体を送り込むことにより膨張して結晶系半導体基板の周辺部を覆う膨張被覆部を設けてもよい。このような膨張被覆部が、結晶系半導体基板の周辺部を覆うことにより、該基板の上方面に侵入しようとするエッチング液を排除することができる。
【0010】
本発明においては、吸引部材が結晶系半導体基板の上方面を覆い吸引して保持する。本発明においては、吸引部材により結晶系半導体基板の上方面のほとんどの部分が覆われることが好ましい。上方面のほとんどの部分を覆うことにより、覆った上方面の部分にエッチング液が付着するのを防止することができる。
【0011】
本発明においては、吸引部材が結晶系半導体基板の上方面のほぼ全体を吸引して保持してもよいし、上方面の一部を吸引して保持してもよい。上方面の一部を吸引して保持する場合には、上方面の複数箇所を吸引して保持することが好ましい。また、このような場合においては、吸引部材によって上方面を覆うことができるように吸引部材に被覆部を設けることが好ましい。
【0012】
吸引部材によって覆う結晶系半導体基板の上方面の部分は、結晶系半導体基板の周辺から内側に2mm以上の部分を覆うことが好ましい。吸引部材で覆うことができなかった部分については、上述のように、吸引部材の周辺部からエッチング液に向かって送風することなどにより基板の上方面にエッチング液が侵入するのを防止することが好ましい。
【0013】
本発明において用いるエッチング液は、結晶系半導体基板をエッチングすることができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、従来より、NaOHまたはKOHなどのアルカリ性化合物の水溶液が一般的に用いられている。
【0014】
本発明において、結晶系半導体基板は、単結晶半導体基板であってもよいし、多結晶半導体基板であってもよい。また、結晶系半導体基板は、例えば、結晶系シリコン基板であり、最も一般的には、単結晶シリコン基板である。
【0015】
本発明の光起電力装置の製造方法は、上記本発明の方法により製造した結晶系半導体基板を用いて光起電力装置を製造することを特徴としている。
【0016】
本発明の製造方法により製造される光起電力装置の構造は、結晶系半導体基板を用いるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、n型もしくはp型の結晶系半導体基板の上に真性のi型非晶質半導体層を形成し、その上にp型もしくはn型非晶質シリコン層を形成した構造のものや、あるいはn型もしくはp型の結晶系半導体基板の上に直接p型もしくはn型の非晶質半導体層を形成したものが挙げられる。また、n型もしくはp型結晶系半導体基板の表面にp型もしくはn型のドーパントをドープすることによりpn接合を形成した構造のものであってもよい。
【0017】
本発明のエッチング方法により、例えば、単結晶シリコンウエハの表面に、テクスチャ構造の凹凸を形成することができる。本発明により製造された結晶系半導体基板は、例えば、太陽電池などにおいて用いることができるものであるが、その用途は太陽電池に限定されるものではなく、その他の半導体の分野における半導体基板として用いることができるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、結晶系半導体基板にレジスト膜等を形成する工程が不要となり、製造工程を大幅に簡略化することができる。従って、生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明に従う一実施形態のエッチング処理装置を示す断面図である。図1に示すように、エッチング処理槽6内には、エッチング液2が入れられている。結晶系半導体基板としての単結晶シリコンウエハ1は、吸引部材3により上方面1bが覆われ吸引して保持されている。吸引部材3は、上方面1bのほぼ全体を吸引する大きさを有している。吸引部材3により吸引して保持された単結晶シリコンウエハ1は、エッチング液2の液面近傍に保持され、下方面1aを含む上方面以外の部分または下方面1aのみがエッチング液2に接触した状態となるように保たれている。
【0021】
エッチング処理槽6内にはヒータ5が設けられており、このヒータ5によりエッチング2は所定の温度に加熱されている。
【0022】
単結晶シリコンウエハ1の下方面1aは、上記のように所定の温度に加熱されたエッチング液2に接触した状態であり、従って下方面1aに対しエッチング液2によって異方性エッチングがなされる。
【0023】
さらに、図2に示すように、吸引部材3の周辺部には、風4aを送るための送風孔4が設けられている。送風孔4から送られた風4aは、単結晶シリコンウエハ1の周辺からエッチング液2に向かって吹き出される。従って、この風(気流)4aにより、単結晶シリコンウエハ1の周辺の上方面1bに侵入しようとするエッチング液が排除される。送風孔4から送り出す気流としては、空気または窒素ガス等の不活性ガスを用いることができる。
【0024】
本実施形態では、単結晶シリコンウエハ1がエッチング液2の液面近傍に保持されてエッチングされるので、上方面1bのエッチングが防止されつつ下方面1aをエッチングすることができる。さらに、本実施形態では、風4aにより上方面1bのエッチングがさらに確実に防止することができる状態で、下方面1aをエッチングすることができる。
【0025】
図3は、本発明に従う他の実施形態のエッチング処理装置を示す断面図である。本実施形態においては、吸引部材3として、複数の吸引部3aを有する吸引部材を用いている。吸引部3aは、例えば、単結晶シリコンウエハ1の四隅に近い部分に位置するように設けられている。吸引部3aの間には、単結晶シリコンウエハ1の上方面1bを覆う被覆部1bが設けられている。被覆部1bを設けることにより、単結晶シリコンウエハ1の上方面1bを覆い、この部分にエッチング液が載るのを防止することができる。
【0026】
本実施形態においても、吸引部3の周辺に風4aを送り出すための送風孔4が設けられている。風4aを単結晶シリコンウエハ1の周辺からエッチング液2に向かって送り出すことにより、エッチング液2が上方面1bに侵入するのを防止することができる。
【0027】
本実施形態においても、単結晶シリコンウエハ1の上方面1bにエッチング液2を接触させることなく、下方面1aをエッチング液2に接触させ、下方面1aを異方性エッチングすることができる。
【0028】
なお、図3に示す実施形態において、吸引部3aは、例えば、環状に連続して形成されたものであってもよい。すなわち、単結晶シリコンウエハの周辺部と同様の形状を有する環状のものであってもよい。
【0029】
図1及び図3に示す実施形態において、単結晶シリコンウエハ1をエッチング液2の液面近傍に保持した状態を示しているが、単結晶シリコンウエハ1をエッチング液の内部まで押し込んだ状態に保持してもよい。この場合、単結晶シリコンウエハ1の周辺における風4aを適度に保ち、単結晶シリコンウエハ1の周辺の上方面1bにエッチング液2が侵入しないように排除することができる。
【0030】
図4は、本発明に従うさらに他の実施形態のエッチング処理装置を説明するための断面図である。図4においては、単結晶シリコンウエハ1の周辺部を拡大して示している。本実施形態においては、吸引部材3の周辺の送風孔4の先端部分に風船状に膨らむ膨張被覆部7を取り付けている。この膨張被覆部7は、送風孔4に風4aを送ることにより風船状に膨らみ、単結晶シリコンウエハ1の周辺部を覆うことができる。この膨張被覆部7により、エッチング液が単結晶シリコンウエハ1の上方面1bに侵入するのを防ぐことができる。本実施形態は、特に単結晶シリコンウエハ1をエッチング液2の内部まで押し込んで浸漬させる場合に適している。
【0031】
なお、図1、図3、図4に示す吸引部材3及び送風孔4を形成する部材並びに膨張被覆部7は、耐アルカリ性のものが好ましく用いられる。吸引部材3及び送風孔4を形成する部材の材質としては、例えば、ステンレススチール(SUS316L等)や、ポリテトラフルオロエチレンなどの材質が好ましく用いられる。膨張被覆部7の材質としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなど材質が好ましく用いられる。
【0032】
図1及び図3に示す実施形態においては、送風孔4から風4aを押し出すように送風しているが、単結晶シリコンウエハ1の周辺の上方面1bがエッチング液に若干触れてもよいような場合や、吸引部材3の周辺部が上方面1bの周辺部まで完全に覆っている場合などは、送風孔4から風4aを押し出すのではなく、逆に吸い込むように吸引してもよい。
【0033】
以下、図1に示すエッチング装置を用いて、n型単結晶シリコンウエハをエッチングする実施例について説明する。
【0034】
エッチング液として、10重量%のイソプロピルアルコールを含有した2重量%NaOH水溶液を用いた。吸引部材3により、主面の面方位が(100)面であるn型単結晶シリコンウエハをエッチング液2の液面近傍に保持した。エッチング液2の温度を85℃とし、図1に示すように、送風孔4から風4aを送り、単結晶シリコンウエハ1の周辺の上方面1bに侵入しようとするエッチング液を排除した。
【0035】
以上のようにして30分間単結晶シリコンウエハをエッチングした後、吸引部材3を引き上げて単結晶シリコンウエハをエッチング液2から取り出した。
【0036】
次に、エッチング処理を行った単結晶シリコンウエハを水洗した後、2重量%HF水溶液で、単結晶シリコンウエハの表面の酸化膜を除去し、次いで超純水で水洗した。
【0037】
以上のようにして得られたエッチング処理後の単結晶シリコンウエハの上に、プラズマCVD装置を用いて非晶質シリコン薄膜を形成した。
【0038】
まず、シリコンウェハの上述のエッチングがなされていない裏面(上方面)に水素プラズマ処理(圧力80Pa、RF出力20W)を行い、続けてi型非晶質シリコン薄膜(厚み5nm)を圧力80Pa、RF出力30Wで形成した。次に、n型非晶質シリコン薄膜(厚み30nm)を圧力80Pa、RF出力30Wで連続して形成した。
【0039】
次に、シリコンウェハのエッチングによりテクスチャ構造の凹凸が形成された主面(下方面)に対し、水素プラズマ処理(圧力80Pa、RF出力20W)を行い、この上にi型非晶質シリコン薄膜(厚み5nm)を圧力80Pa、RF出力30Wで形成した。さらに、この上にp型非晶質シリコン薄膜(厚み5nm)を圧力80Pa、RF出力30Wで連続して形成した。
【0040】
以上のようにして形成した主面上のp型非晶質シリコン薄膜及び裏面上のn型非晶質シリコン薄膜の上に、スパッタリング法により透明電極としてITOをそれぞれ100nmの厚みとなるように形成した。次に、透明電極の上に、銀ペーストをスクリーン印刷し、櫛形電極を形成し、集電極とした。
【0041】
図5は、以上のようにして作製した光起電力装置を示す模式的断面図である。図5に示すように、単結晶シリコンウエハ1の主面(下方面)1aの上に、i型非晶質シリコン薄膜12、p型非晶質シリコン薄膜13、及び透明電極14が形成されており、透明電極14の上に集電極18が形成されている。裏面(上方面)1bの上には、i型非晶質シリコン薄膜15、n型非晶質シリコン薄膜16、及び透明電極17が形成されており、透明電極17の上に集電極19が形成されている。
【0042】
比較として、図6に示す従来のエッチング方法によりエッチングした単結晶シリコンウエハを用いて、上記と同様にして比較例の光起電力装置を作製した。図6に示すエッチング方法においては、基板1の裏面1bの上にレジスト膜8を形成し、この状態でエッチング液2中に浸漬して主面1aをエッチングしている。
【0043】
本実施例により得られた光起電力装置は、比較例の光起電力装置とほぼ同程度の光電変換効率を示すことが確認された。従って、本発明の方法によりエッチングしたものは、従来の方法によりエッチングしたものと同様に光起電力装置の基板として用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に従う一実施形態のエッチング処理装置を示す断面図。
【図2】図1に示すエッチング処理装置を拡大して示す断面図。
【図3】本発明に従う他の実施形態のエッチング処理装置を示す断面図。
【図4】本発明に従うさらに他の実施形態のエッチング処理装置を示す拡大断面図。
【図5】本発明における実施例において作製した光起電力装置を示す模式的断面図。
【図6】従来のエッチング処理装置を示す断面図。
【符号の説明】
【0045】
1…単結晶シリコンウエハ(結晶系半導体基板)
1a…単結晶シリコンウエハの下方面(主面)
1b…単結晶シリコンウエハの上方面(裏面)
2…エッチング液
3…吸引部材
3a…吸引部
3b…被覆部
4…送風孔
4a…風(気流)
5…ヒータ
6…エッチング処理槽
7…膨張被覆部
8…レジスト膜
10…光起電力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶系半導体基板をエッチング液に接触させてエッチングする方法であって、
結晶系半導体基板の上方面を吸引部材で覆い吸引して保持した状態で、前記結晶系半導体基板の下方面を含む上方面以外の部分または下方面のみをエッチング液に接触させるように制御してエッチングすることを特徴とする結晶系半導体基板のエッチング方法。
【請求項2】
前記吸引部材の周辺部から前記エッチング液に向かって送風することにより、前記結晶系半導体基板の周辺から該基板の上方面に侵入しようとするエッチング液を排除することを特徴とする請求項1に記載の結晶系半導体基板のエッチング方法。
【請求項3】
前記吸引部材が、前記結晶系半導体基板の上方面のほぼ全体を吸引して保持することを特徴とする請求項1または2に記載の結晶系半導体基板のエッチング方法。
【請求項4】
前記吸引部材が、前記結晶系半導体基板の上方面の複数箇所を吸引して保持することを特徴とする請求項1または2に記載の結晶系半導体基板のエッチング方法。
【請求項5】
前記吸引部材の周辺に、気体を送り込むことにより膨張して前記結晶系半導体基板の周辺部を覆う膨張被覆部が設けられており、該膨張被覆部により前記結晶系半導体基板の上方面に侵入しようとするエッチング液を排除することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の結晶系半導体基板のエッチング方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で製造した結晶系半導体基板を用いて光起電力装置を製造することを特徴とする光起電力装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−286823(P2006−286823A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103100(P2005−103100)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】