説明

結晶表面の平坦化方法

【課題】表面が(111)面であり、ペロブスカイト構造を有する結晶基板を高い確率で平坦化することができる結晶表面の平坦化方法を提供する。
【解決手段】結晶の表面を、フッ化アンモニウムを含有するエッチング液でエッチングする工程S20と、結晶を不活性ガス中でアニール処理する工程S30とを備える。エッチング工程S20の前に、結晶の表面を有機溶剤で洗浄する工程S10を備えるのが好ましい。結晶は、例えばチタン酸ストロンチウムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が(111)面であり、ペロブスカイト構造を有する結晶の表面を平坦化する結晶表面の平坦化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト構造を有するチタン酸ストロンチウムを基板として用いる場合、表面を(100)面とするのが一般的であった。このため、チタン酸ストロンチウムの平坦化方法としては、例えば特許文献1に記載するように、(100)面を平坦化する方法の開発が進められていた。
【0003】
近年、表面が(111)面であるチタン酸ストロンチウムを基板として用いることが望まれている。表面が(111)面であるチタン酸ストロンチウムを基板として用いるためには、チタン酸ストロンチウムの(111)面を平坦化する技術を確立する必要がある。例えば非特許文献1には、バッファードフッ酸(NHF+HF=7:1)を用いてチタン酸ストロンチウムの(111)面をエッチングし、さらに酸素雰囲気下でアニールすることが開示されている。非特許文献1によれば、チタン酸ストロンチウムの(111)面を平坦化することができる、と記載されている。
【特許文献1】特開平8−92000号公報
【非特許文献1】"Surface engineering of SrTiO3(111) substrates for the epitaxial growth of BLT films"、Ju Hyung Suh他2名、Mater. Res. Soc. Symp. Proc,Vol.839,2005 Materials Research Society
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者が検討した結果、非特許文献1の技術では、ペロブスカイト構造を有する結晶の(111)面を平坦化できる確率が十分高くないことが判明した。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、表面が(111)面であり、ペロブスカイト構造を有する結晶の表面を高い確率で平坦化することができる結晶表面の平坦化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、表面が(111)面であり、ペロブスカイト構造を有する結晶を、フッ化塩を含有するエッチング液でエッチングする工程と、
前記結晶を不活性ガス中でアニール処理する工程と、
を備える結晶表面の平坦化方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面が(111)面であり、ペロブスカイト構造を有する結晶の表面を高い確率で平坦化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0009】
図1は、本実施形態に係る結晶表面の平坦化方法を示すフローチャートである。この結晶表面の平坦化方法は、表面が(111)面であり、ペロブスカイト構造を有する結晶を、フッ化塩を含有するエッチング液でエッチングする工程(ステップS20)と、結晶を、不活性ガス中でアニール処理する工程(ステップS30)とを備える。結晶は、例えばチタン酸ストロンチウム基板である。結晶は、n型不純物又はp型不純物をドープした結晶であってもよいし、不純物をドープしていないノンドープの結晶であってもよい。また不活性ガスは、例えば希ガスであり、He、Ne、Ar、Kr、及びXeから選ばれた少なくとも一種であるが、窒素ガスなどの結晶と反応しない元素のガスであってもよい。
【0010】
本発明者が鋭意検討した結果、表面が(111)面であり、ペロブスカイト構造を有する結晶を平坦化するためには、エッチング液には、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、又はフッ化カリウムなどのフッ化塩が含まれていればよく、フッ化水素は含まれている必要は無いこと、及び、アニール雰囲気は酸素雰囲気ではなく不活性ガス雰囲気であることが好ましいことが判明した。
【0011】
基板をエッチング処理するための汎用的なエッチング液の一つに、バッファードフッ酸がある。バッファードフッ酸は、フッ化アンモニウムとフッ化水素を水に溶かしたものである。しかし、本発明者の検討結果によれば、エッチング液にはフッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、又はフッ化カリウムなどのフッ化塩が含まれていればよく、フッ化水素は含まれていなくてもよい。エッチング液におけるフッ化塩の濃度は、例えば0.1重量%以上50重量%以下であり、エッチング時間は、例えば10秒以上120分未満である。さらに好ましくは、ノンドープの結晶であれば1分以上60分以下であり、不純物がドープされた結晶であれば、30秒以上20分以下である。なお、エッチング液としては、フッ化塩の水溶液に他の物質を添加した水溶液、たとえばバッファードフッ酸を用いてもよい。
【0012】
また、ペロブスカイト構造を有する結晶をアニール処理する場合、一般的には、結晶から特定の元素(例えば酸素)が抜けることを抑制するために、その元素を含む気体(例えば酸素)を雰囲気ガスとして用いるのが一般的である。しかし、本発明者の検討結果によれば、表面が(111)面である結晶を平坦化する場合には、不活性ガスを用いることにより、表面が平坦化する確率が非常に高くなる。なお、アニール温度は、例えば800℃以上1150℃以下であり、アニール時間は例えば1時間以上24時間以下である。また不活性ガスの雰囲気圧力は常圧であっても良いし、加圧や減圧であっても良い。
【0013】
また本実施形態では、エッチング処理を行う(ステップS20)前に、結晶の表面を有機溶剤で洗浄する工程(ステップS10)を有している。有機溶剤としては特に制限はないが、例えば酢酸ブチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルやアセトンなどのケトンが好適である。これにより、エッチング処理時に結晶の表面に異物が付着している可能性が低くなり、結晶の表面が平坦化する確率が高くなる。
【0014】
なお、本実施形態において、(111)面の平坦化とは、階段状のステップーテラス構造を有し、テラス面が(111)面であるような表面を作製することである。図2に、平坦化したチタン酸ストロンチウムの(111)面のAFM(Atomic Force Microscope)像の一例を示す。この像は、バッファードフッ酸(フッ酸:1.25重量%、フッ化アンモニウム:40重量%)を用いて10分間ほどエッチングし、Ar雰囲気で900℃で9時間ほどアニール処理することにより得られた(111)面の平坦面を示している。
【0015】
以上、本実施形態によれば、高い確率で、ペロブスカイト構造を有していて表面が(111)面である結晶の表面を平坦化することができる。
【実施例】
【0016】
以下の実施例によって、本発明を更に詳細に説明する。
【0017】
(実施例1及び比較例1)
表面が(111)面であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO)のノンドープの結晶基板を、酢酸ブチルで洗浄した後、バッファードフッ酸でエッチングし、さらにAr雰囲気中でアニール処理した。バッファードフッ酸の組成は、フッ化アンモニウムを40重量%、フッ酸を1.25重量%とした。またエッチング時間は5分とした。またアニール温度を700℃〜1200℃として、アニール時間を2.5時間とした(実施例1)。
【0018】
また、アニール処理の雰囲気を酸素雰囲気とした以外は、実施例1と同条件で平坦化処理を行った(比較例1)。
【0019】
表1は、実施例1の結果を示している。
【表1】

【0020】
Ar雰囲気でアニール処理を行った場合、アニール温度が800℃〜1100℃の場合に100%の確率で平坦化した。また、アニール温度が1150℃の場合は80%の確率で平坦化した。従って、アニール温度が800℃以上1150℃以下では、平坦化の成功率が80%以上であることが判明した。
【0021】
表2は、比較例1の結果を示している。
【表2】

【0022】
酸素雰囲気でアニール処理を行った場合、いずれの温度においても100%の確率では平坦化に成功しなかった。具体的には、アニール温度が700℃及び750℃の場合は平坦化せず、アニール温度が800℃、900℃、1000℃、1100℃、1150℃、及び1200℃の場合はそれぞれ40%、64%、54%、40%、50%、及び25%の確率で平坦化した。
【0023】
以上の結果から、アニール処理時の雰囲気ガスを不活性ガスにすると、表面が(111)面であるチタン酸ストロンチウムのノンドープの結晶基板が高い確率で平坦化することが示された。
【0024】
(実施例2及び実施例3)
表面が(111)面であるチタン酸ストロンチウムのノンドープの結晶基板を、酢酸ブチルで洗浄した後、バッファードフッ酸又はフッ化アンモニウム水溶液でエッチングし、さらにAr雰囲気中でアニール処理した。エッチング液の組成は、フッ化アンモニウムを40重量%として、フッ酸を0重量%〜7重量%とした。またエッチング時間は5分とした。またアニール温度を900℃として、アニール時間を2.5時間とした(実施例2)。
【0025】
また、エッチング液に含まれるフッ化アンモニウムを20重量%とした以外は、実施例2と同条件で平坦化処理を行った(実施例3)。
【0026】
表3は、実施例2の結果を示している。
【表3】

【0027】
フッ酸が0重量%〜2.5重量%の場合は、100%の割合で結晶基板の平坦化に成功した。しかし、フッ酸が3重量%の場合は平坦化の成功率が60%に下がり、フッ酸が4重量%以上になると、平坦化の成功率は0%になった。
【0028】
表4は、実施例3の結果を示している。
【表4】

【0029】
フッ酸が0重量%〜1.25重量%の場合は、100%の割合で結晶基板の平坦化に成功した。しかし、フッ酸が2.5重量%の場合は平坦化の成功率が20%に下がり、フッ酸が3重量%以上になると、平坦化の成功率は0%になった。
【0030】
以上から、エッチング液にはフッ酸が含まれていなくても、表面が(111)面であるチタン酸ストロンチウムのノンドープの結晶基板が高い確率で平坦化することが示された。また、エッチング液としてバッファードフッ酸を用いた場合、フッ酸の濃度が高くなると、基板の平坦化の確率が下がることが示された。
【0031】
(実施例4)
表面が(111)面であるチタン酸ストロンチウムのノンドープの結晶基板を、酢酸ブチルで洗浄した後、フッ化アンモニウム水溶液でエッチングし、さらにAr雰囲気中でアニール処理した。フッ化アンモニウム水溶液の濃度は0.5重量%〜40重量%とした。本実施例においては、フッ化アンモニウム水溶液に他の物質を添加していない。またエッチング時間は5分とした。またアニール温度を900℃として、アニール時間を2.5時間とした。
【0032】
表5は、実施例4の結果を示している。
【表5】

【0033】
実施例4において、すべての実験条件において、100%の割合で結晶基板の平坦化に成功した。
【0034】
以上から、エッチング液に含まれるフッ化アンモニウムが0.5重量%〜40重量%の場合、表面が(111)面であるチタン酸ストロンチウムのノンドープの結晶基板が100%の確率で平坦化することが示された。
【0035】
(実施例5)
表面が(111)面であり、Nbをドープしたチタン酸ストロンチウムの結晶基板を、酢酸ブチルで洗浄した後、バッファードフッ酸でエッチングし、さらにAr雰囲気中でアニール処理した。バッファードフッ酸の組成は、フッ化アンモニウムを40重量%として、フッ酸を1.25重量%とした。またエッチング時間は10分とした。またアニール温度を900℃として、アニール時間を9時間とした(実施例5)。この結果、結晶基板の表面を平坦化することができた。
【0036】
(実施例6)
表面が(111)面であり、Laをドープしたチタン酸ストロンチウムの結晶基板を、酢酸ブチルで洗浄した後、バッファードフッ酸でエッチングし、さらにAr雰囲気中でアニール処理した。バッファードフッ酸の組成は、フッ化アンモニウムを40重量%として、フッ酸を1.25重量%とした。またエッチング時間は10分とした。またアニール温度を900℃として、アニール時間を9時間とした(実施例6)。この結果、結晶基板の表面を平坦化することができた。
【0037】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態に係る結晶表面の平坦化方法を示すフローチャートである。
【図2】チタン酸ストロンチウムの平坦化した(111)面を示すAFM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が(111)面であり、ペロブスカイト構造を有する結晶を、フッ化塩を含有するエッチング液でエッチングする工程と、
前記結晶を不活性ガス中でアニール処理する工程と、
を備える結晶表面の平坦化方法。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶表面の平坦化方法において、
前記結晶はチタン酸ストロンチウムである結晶表面の平坦化方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の結晶表面の平坦化方法において、
前記不活性ガスは、He、Ne、Ar、Kr、及びXeから選ばれた少なくとも一種である結晶表面の平坦化方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の結晶表面の平坦化方法において、
前記フッ化塩はフッ化アンモニウムである結晶表面の平坦化方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の結晶表面の平坦化方法において、
前記アニール処理する工程におけるアニール温度は、800℃以上1150℃以下である結晶表面の平坦化方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の結晶表面の平坦化方法において、
前記エッチング液におけるフッ化塩の含有量は、0.1重量%以上50重量%以下である結晶表面の平坦化方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つに記載の結晶表面の平坦化方法において、
前記結晶をエッチングする工程の前に、前記結晶の表面を有機溶剤で洗浄する工程を有する結晶表面の平坦化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−64926(P2010−64926A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232917(P2008−232917)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(502350504)学校法人上智学院 (50)
【Fターム(参考)】