説明

絶対角検出方法及び絶対角検出装置

【課題】回転角度センサの誤差が絶対角に反映されにくい絶対角検出方法及び絶対角検出装置を提供する。
【解決手段】第1比例定数と、回転角θcaと回転角θcbとの差とを用いて演算し仮の絶対角KΦを求め、回転角θcaと第2比例定数とを用いて演算しメイン歯車2のシャフト回転角φacを求め、仮の絶対角KΦから回転角度センサ6におけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncaを求め、シャフト回転角φac及びセンサ周期Θとセンサ周期Θの繰り返し回数Ncaとから絶対角Φを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角度センサの誤差が絶対角に反映されにくい絶対角検出方法及び絶対角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体が複数回転するとき、その複数回転分の回転角である絶対角を知りたい場合がある。例えば、CW方向に2回転(720°)、CCW方向に2回転(−720°)の絶対角を知りたい回転体の場合、絶対角は、全体で−720°から+720°までの1440°の幅を変化するので、この幅(絶対角検出範囲という)の中で絶対角を一意的に読み取ることができる必要がある。
【0003】
一方、光学式や磁気式など公知の回転角度センサは、半回転の角度(0°から180°)又は1回転の角度(0°から360°)を検出するように構成されており、この検出範囲を超えて回転しても同じ値が繰り返すだけで、絶対角は検出できない(この繰り返しの角度幅をセンサ周期と呼ぶ)。
【0004】
そこで、特許文献1,2のように、複数の回転角度センサを組み合わせ、これらの回転角度センサが回転体の回転に対して異なる比率で回転するように構成し、それぞれの回転角度センサが検出する回転角の差異から回転体の絶対角を一意的に算出可能な絶対角検出装置が提案されている。これらの先行技術では、各回転角度センサが回転体の回転に対してそれぞれ所定の比率で回転するよう、回転体にメイン歯車を取り付け、各回転角度センサにそれぞれメイン歯車に噛み合うセンサ歯車を取り付け、これらの歯車の歯数比でもって所望の上記比率を形成している。
【0005】
また、メイン歯車として、所定歯数を有する外側メイン歯車とそれより少ない歯数を有する内側メイン歯車とを回転体の回転軸に配置し、外側メイン歯車に噛み合うセンサ歯車と内側メイン歯車に噛み合うセンサ歯車の歯数を同じにすることが提案されている。
【0006】
なお、このような歯車を組み合わせた絶対角検出装置は、歯車の組み合わせ状態が絶対角と一対一で対応しているので、電源を切った時点でのデータをメモリに保存しておかなくても、電源投入後に他から情報を補わなくても、電源を投入した時点で直ちに2つの回転角度センサの読み値から絶対角が検出できるという利点を有する。
【0007】
【特許文献1】特許第3792718号公報(特表平11−500828号公報)
【特許文献2】特開2004−184264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の絶対角検出方法においては、2つのセンサ歯車の回転角の差分に比例定数をかけて絶対角を求めているので、センサ歯車の回転角検出誤差が増幅されて絶対角に反映する。例えば、センサ歯車に取り付けられた回転角度センサがセンサ歯車の回転角(A+γ)を検出し、Aは正しい回転角でγは誤差とした場合、この検出した回転角(A+γ)に1よりも大きい比例定数を掛けることで回転体の回転角を算出すると、回転角度センサの誤差γも比例定数倍され、回転体の絶対角に反映される。
【0009】
また、普及品の絶対角検出装置においては、絶対角を求める演算をパソコンに比較すると非常に簡易なマイコン等の演算装置で行うが、この種の演算装置では、取り扱う数値の桁数が限られている。そのため、回転角度センサが検出した回転角はA/D変換によって桁数が小さく、最小桁が丸められ(四捨五入され)た数値としてマイコン等に取り込まれ、記憶され、演算に使用される。したがって、演算上での回転角は最小桁が丸められた数値となる。最小桁が丸められた数値は、掛け算を行うと、その丸め誤差が増幅される。このため、回転角に比例定数をかけて絶対角を求めると、絶対角には丸め誤差が大きく反映される。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、回転角度センサの誤差が絶対角に反映されにくい絶対角検出方法及び絶対角検出装置を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、絶対角検出装置の故障が自己診断できる絶対角検出方法及び絶対角検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の絶対角検出方法は、絶対角検出対象である回転体の回転軸と同軸上に設けられ該回転体と一体回転する歯数Zaの第1メイン歯車と、該第1メイン歯車より歯数が少なく上記回転体の回転軸と同軸上に設けられ上記第1メイン歯車と一体回転する歯数Zbの第2メイン歯車と、上記第1メイン歯車に噛み合う歯数Zcaの第1センサ歯車と、上記第2メイン歯車に噛み合う歯数Zcbの第2センサ歯車と、上記第1センサ歯車の回転角を検知するためのセンサ周期Θの第1回転角度センサと、上記第2センサ歯車の回転角を検知するためのセンサ周期Θの第2回転角度センサと、上記第1回転角度センサ及び上記第2回転角度センサが検知した回転角信号から上記回転体の絶対角Φを求める演算装置とを用い、上記第1回転角度センサにより上記第1センサ歯車の回転角θcaを検出し、上記第2回転角度センサにより上記第2センサ歯車の回転角θcbを検出するセンサ歯車回転角検出ステップと、歯数Za、Zb、Zca、Zcbから求められる第1比例定数と、第1回転角度センサが検出した回転角θcaと第2回転角度センサが検出した回転角θcbとの差とを用いて演算し仮の絶対角KΦを求める仮絶対角演算ステップと、上記仮の絶対角KΦから上記第1回転角度センサにおけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncaを求める第1センサ周期回数検出ステップと、上記第1回転角度センサが検出した回転角θcaと歯数Za、Zcaと上記センサ周期Θと該センサ周期Θの繰り返し回数Ncaとから絶対角Φを求める絶対角演算ステップと、を有するものである。
【0013】
上記仮の絶対角KΦから上記第2回転角度センサにおけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncbを求める第2センサ周期回数検出ステップと、上記第2回転角度センサが検出した回転角θcbと歯数Zb、Zcと上記センサ周期Θと該センサ周期Θの繰り返し回数Ncbとから参照用絶対角ΦRとする参照用絶対角演算ステップと、上記絶対角Φと上記参照用絶対角ΦRとの差分を計算し、該差分が所定値を超えたとき故障と判定する故障判定ステップと、を有してもよい。
【0014】
また、本発明の絶対角検出装置は、絶対角検出対象である回転体の回転軸と同軸上に設けられ該回転体と一体回転する歯数Zaの第1メイン歯車と、該第1メイン歯車より歯数が少なく上記回転体の回転軸と同軸上に設けられ上記第1メイン歯車と一体回転する歯数Zbの第2メイン歯車と、上記第1メイン歯車に噛み合う歯数Zcaの第1センサ歯車と、上記第2メイン歯車に噛み合う歯数Zcbの第2センサ歯車と、上記第1センサ歯車の回転角を検知するためのセンサ周期Θの第1回転角度センサと、上記第2センサ歯車の回転角を検知するためのセンサ周期Θの第2回転角度センサと、上記第1回転角度センサ及び上記第2回転角度センサが検知した回転角信号から上記回転体の絶対角Φを求める演算装置とを備え、上記演算装置は、上記第1回転角度センサにより検出された上記第1センサ歯車の回転角θcaを数値化して格納し、上記第2回転角度センサにより検出された上記第2センサ歯車の回転角θcbを数値化して格納するセンサ歯車回転角格納手段と、歯数Za、Zb、Zca、Zcbから求められる第1比例定数と、第1回転角度センサが検出した回転角θcaと第2回転角度センサが検出した回転角θcbとの差とを用いて演算し仮の絶対角KΦを求める仮絶対角演算手段と、上記仮の絶対角KΦから上記第1回転角度センサにおけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncaを求める第1センサ周期回数検出手段と、上記第1回転角度センサが検出した回転角θcaと歯数Za、Zcaと上記センサ周期Θと該センサ周期Θの繰り返し回数Ncaとから絶対角Φを求める絶対角演算手段と、を有するものである。
【0015】
上記演算装置は、上記仮の絶対角KΦから上記第2回転角度センサにおけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncbを求める第2センサ周期回数検出手段と、上記第2回転角度センサが検出した回転角θcbと歯数Zb、Zcと上記センサ周期Θと該センサ周期Θの繰り返し回数Ncbとから参照用絶対角ΦRとする参照用絶対角演算手段と、上記絶対角Φと上記参照用絶対角ΦRとの差分を計算し、該差分が所定値を超えたとき故障と判定する故障判定手段と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0017】
(1)回転角度センサの誤差が絶対角に反映されにくい。
【0018】
(2)絶対角検出装置の故障が自己診断できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1に本発明の一実施形態としての絶対角検出装置1を示す。
【0021】
図示のように、歯数Zaの第1メイン歯車2と歯数Zb(Za>Zb)の第2メイン歯車3とが絶対角検出対象の回転体(図示せず)の回転軸(シャフト)100の同軸上に回転体と一体回転するように設けられる。この第1メイン歯車2には第1メイン歯車2に噛み合う歯数Zcaの第1センサ歯車4が設けられる。この第1センサ歯車4には磁石(図示せず)が取り付けられる。この磁石の磁束から第1センサ歯車4の回転角θcaを検知するセンサ周期Θの第1回転角度センサ6が第1センサ歯車4に対向して設けられる。第2メイン歯車3には第2メイン歯車3に噛み合う歯数Zcbの第2センサ歯車5が設けられる。この第2センサ歯車5には磁石(図示せず)が取り付けられる。この磁石の磁束から第2センサ歯車5の回転角θcbを検知するセンサ周期Θの第2回転角度センサ7が第2センサ歯車5に対向して設けられる。
【0022】
絶対角検出装置1は、上記構成に加え、第1回転角度センサ6及び第2回転角度センサ7が検知した回転角信号から絶対角検出対象の回転体の絶対角を算出する演算装置8を備える。
【0023】
第1回転角度センサ6及び第2回転角度センサ7は、磁気検知素子(図示せず)を有し、この磁気検知素子で検知した回転角信号をマイコン(図示せず)を備えた演算装置8に送るように構成されている。
【0024】
演算装置8は、第1、第2回転角度センサ6,7のアナログ出力をデジタル出力(数値)に変換するA/D変換器と、その数値を記憶し演算処理するパソコンまたはマイコンで構成することができる。
【0025】
演算装置8は、図8に示されるように、以下の各手段を備える。
【0026】
センサ歯車回転角格納手段81は、第1回転角度センサ6により検出された第1センサ歯車4の回転角θcaを数値化して格納し、第2回転角度センサ7により検出された第2センサ歯車5の回転角θcbを数値化して格納する手段である。
【0027】
仮絶対角演算手段82は、格納した回転角θcaと回転角θcbとの差分ΔθTをセンサ周期Θの範囲に入るように補正したΔθと、第1メイン歯車歯数Za、第2メイン歯車歯数Zb、第1センサ歯車歯数Zca、第2センサ歯車歯数Zcbから求まる第1比例定数とを用いて式(1)を演算し、仮の絶対角KΦを求める手段である。ここでいうΔθT補正とは、センサ周期Θ(−Θ/2〜Θ/2)の場合、ΔθTが−Θ/2より小さい場合は、ΔθTにΘを足し、ΔθTがΘ/2以上の場合はΔθTからΘを引き、Δθをセンサ周期Θ(−Θ/2〜Θ/2)内に収めることである。
【0028】
【数1】

【0029】
第1センサ周期回数検出手段83は、仮の絶対角KΦから第1回転角度センサ6におけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncaを式(2)により求める手段である。ただし、式(2)のintは、与えられた数値以下の整数を返す関数であり、例えば、int(1.05)=1、int(−1.05)=−2である。
【0030】
【数2】

【0031】
絶対角演算手段84は、第1回転角度センサが検出した回転角θcaと、第1メイン歯車歯数Za、第1センサ歯車歯数Zcaから求まる第2比例定数と、センサ周期Θと、このセンサ周期Θの繰り返し回数Ncaとを用いて式(3)により絶対角Φを求める手段である。
【0032】
【数3】

【0033】
第2センサ周期回数検出手段85は、仮の絶対角KΦから第2回転角度センサ7におけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncbを式(4)により求める手段である。
【0034】
【数4】

【0035】
参照用絶対角演算手段86は、第2回転角度センサが検出した回転角θcbと、第2メイン歯車歯数Zbと第2センサ歯車歯数Zcbから求まる第3比例定数と、センサ周期Θと、このセンサ周期Θの繰り返し回数Ncbとを用いて式(5)により参照用絶対角ΦRを求める手段である。
【0036】
【数5】

【0037】
故障判定手段87は、絶対角Φと参照用絶対角ΦRとの差分を計算し、この差分が所定値を超えたとき故障と判定する手段である。
【0038】
演算装置8は、上記各手段をソフトウェアとして備えており、このソフトウェアに基づいて後述する各ステップを実行することにより、絶対角Φの検出及び絶対角検出装置1の故障判定を行う。
【0039】
以下、第1センサ歯車4の歯数Zca及び第2センサ歯車5の歯数Zcbを第1メイン歯車2の歯数Zaの2分の1であるZc=Za/2=Zca=Zcbとし、第1回転角度センサ6及び第2回転角度センサ7の周期Θ=180°とした場合を考える。なお、本発明は、図示した各歯車歯数に規定されない。また、第1センサ歯車4と第2センサ歯車5を同一の形状にすることにより、センサ歯車を製造するための金型が一つでよく製造コストを抑えることができる。
【0040】
この絶対角検出装置1において本発明の絶対角検出方法を実施するために、演算装置8は、図2に示した各ステップを実行する。
【0041】
図2に示されるように、まず、センサ歯車回転角検出ステップS1では、第1回転角度センサ6により第1センサ歯車4の回転角θcaを検出し、第2回転角度センサ7により第2センサ歯車5の回転角θcbを検出する。このとき、第1、第2回転角度センサ6,7のセンサ周期は180°であるが、この実施形態では−90°から+90°までを検出するものとする。したがって、第1センサ歯車4が1回転するごとに、第1回転角度センサ6は、−90°から+90°までを2回繰り返し検出することになる。第1センサ歯車4の歯数Zcは、第1メイン歯車2の歯数Zaの1/2であるから、第1メイン歯車2が1回転すると、第1センサ歯車4が2回転し、第1回転角度センサ6が−90°から+90°までを4回繰り返し検出することになる。第2回転角度センサ7も同様に第2メイン歯車2との歯数比に比例して第2メイン歯車7が一回転するごとに第2回転角度センサ7は−90°から+90°までを2×Zb/Zc回繰り返し検出することになる。
【0042】
このようにして回転角度センサ6,7が検出した回転角θca,θcbは、A/D変換によって演算装置8で処理可能な桁数の数値に変換され、この数値が演算装置8に取り込まれ、記憶され、以下のステップにおいて演算に使用される。
【0043】
仮絶対角演算ステップS2では、まず、第1回転角度センサ6が検出した回転角θcaと第2回転角度センサ7が検出した回転角θcbとの差分ΔθT=θca−θcbを計算する。
【0044】
次に、範囲外の値を変換してΔθTをΔθとする。ここで、範囲外とは、回転角度センサ6,7の周期外であるΔθTが−90°未満であるか、ΔθTが90°を超えていることを言う。変換とは、Δθが−90°から90°の範囲に入るように、ΔθTが−90°より小さいときには180°を足し、+90°より大きいときには180°を引くことである。
【0045】
次に、ここでの条件Zc=Za/2=Zca=Zcbを式(1)の第1比例定数に代入すると、第1メイン歯車2の歯数Zaと第2メイン歯車3の歯数Zbとの差を分母とし第1回転角度センサ4の歯数Zcを分子とする第1比例定数を得る。この第1比例定数にΔθをかけて仮の絶対角KΦを求める。すなわち、
【0046】
【数6】

【0047】
で表される式(6)を演算する。ここで、仮の絶対角KΦとは、従来技術において最終の検出値である絶対角としていたものである。既に述べたように、この絶対角には誤差が不可避である。本発明では、この絶対角は最終の検出値ではなく、仮の絶対角KΦとしてセンサ周期回数の検出に利用する。
【0048】
センサ周期回数検出ステップS3では、仮の絶対角KΦから第1回転角度センサ6におけるセンサ周期の繰り返し回数Ncaを求める。繰り返し回数とは、絶対角検出範囲の一端、例えば、絶対角−720°を起点(0回)とし、第1メイン歯車2がCW方向のみに回転するのに伴い第1回転角度センサ6がセンサ周期を1回終えるごとに1回を加算したものに等しい。すなわち、
【0049】
【数7】

【0050】
で表される式(7)の整数部iである。
【0051】
ここで、第1センサ歯車4の回転と第1メイン歯車2(シャフト)の回転に対する第1回転角度センサ6が検知する回転角の特性を図3に示す。
【0052】
図3(a)は、横軸が第1センサ歯車4の回転角、縦軸が第1回転角度センサ6の検知する回転角を表す。第1センサ歯車4が1回転するごとに第1回転角度センサ6が検知する回転角が2周期繰り返す。
【0053】
図3(b)は、横軸が第1メイン歯車2の回転角、縦軸が第1回転角度センサ6が検知する回転角を表す。第1メイン歯車2が1回転するごとに第1回転角度センサ6が検知する回転角が4周期繰り返す。
【0054】
最後に、絶対角演算ステップS4では、第1回転角度センサ6におけるセンサ周期の繰り返し回数Ncaとセンサ周期Θ=180°との積に、第1回転角度センサ16が検出した回転角θcaを足し、第1センサ歯車4の絶対角Φcaを求め、この絶対角Φcaに第1メイン歯車2と第2センサ歯車4とのギア比1/2=Zc/Za(第2比例定数)を掛け絶対角Φを求める。すなわち、
【0055】
【数8】

【0056】
で表される式(8)を演算する。
【0057】
以上の演算処理において、第1回転角度センサ6におけるセンサ周期の繰り返し回数Ncaとセンサ周期Θ=180°との積に第1回転角度センサ6が検出した回転角θcaを足し、第1センサ歯車4の絶対角Φcaを求め、この絶対角Φcaに第1メイン歯車2と第1センサ歯車4とのギア比1/2=Zc/Zaを掛け絶対角Φとしている。センサ周期の繰り返し回数とセンサ周期および第1メイン歯車2と第1センサ歯車4との歯数は、誤差のある測定値ではないから、これらの積に測定にかかる誤差が生じることはない。また、これらの積は整数同士の積であるからマイコン内で丸め誤差が生じない。よって、誤差の要因は、第1回転角度センサ6が検出した回転角θcaのみとなる。このため、従来のように、2つのセンサ歯車の回転角の差分に比例定数をかけて絶対角を求めるのに比べて精度の良い検出が可能となる。
【0058】
ここで、本発明によって絶対角の検出精度が良くなる事実を検証する。
【0059】
絶対角検出装置1は第1メイン歯車2の歯数Za=64、第2メイン歯車3の歯数Zb=58、第1センサ歯車4及び第2センサ歯車5の歯数Zca=Zcb=32、センサ周期Θ=180°とし、絶対角検出範囲±480°である。また、絶対角0°において第1回転角度センサ6が0°を検出し、第2回転角度センサ7も0°を検出するものとする。このとき、第1メイン歯車2に噛み合う第1センサ歯車4と第2メイン歯車3に噛み合う第2センサ歯車5は、絶対角の増減(第1メイン歯車2の回転)に対して異なる比で回転角を検出する。
【0060】
絶対角検出装置1の原理によれば、図4に示されるように、回転軸100に与えた絶対角(横軸)に対して検出される各センサ歯車の回転角(縦軸)θca,θcbの特性は、傾斜及び周期が異なる。回転角θcaと回転角θcbの差分ΔθTをセンサ周期180°(−90°〜+90°)の範囲内に変換したΔθを基に算出した絶対角は、理論的には、図4に示されるように、与えた絶対角と一致する。
【0061】
しかし、既に述べたように、従来は、Δθに第1比例定数をかけて絶対角を求めているため、誤差が大きい。具体的には、図5に示されるように、従来方法による絶対角の誤差は、±5°を超えている。よって、従来方法は、許容誤差が±5°より狭い用途には不適切である。
【0062】
図6に示されるように、絶対角0°を起点として第1回転角度センサ6のセンサ周期の繰り返し回数Ncaに対応させた離散的な第1センサ歯車4の絶対角Φzを考える。つまり、繰り返し回数Nca=0回では絶対角Φz=0°、繰り返し回数Nca=1回では第1センサ歯車4の絶対角Φz=180°、繰り返し回数Nca=2回では絶対角Φz=2×180°というように階段波形の絶対角Φzを定義する。この階段波形のフラットな部分に、第1回転角度センサ6が検出した回転角θcaを重ね合わせると、求める連続的な第1センサ歯車4の絶対角Φcaとなる。この第1センサ歯車4の絶対角Φcaに第1メイン歯車2と第1センサ歯車4とのギア比Zc/Za(第2比例定数)を掛けることで絶対角Φを得る。この図は、絶対角演算ステップS4で行う演算と等価である。
【0063】
本発明は、上記のような演算を行うため、誤差が小さい。具体的には、図7に示されるように、本発明による絶対角の誤差は、±0.3°以内に収まっている。よって、本発明の方法は、許容誤差が±0.3°程度の用途にも十分適用できる。
【0064】
次に、本発明の故障判定方法を説明する。このための絶対角検出装置1の構成は、図1、図8に示した通りである。
【0065】
図1の実施形態において、第1回転角度センサ6のセンサ周期の繰り返し回数Ncaにセンサ周期を掛けて離散的な絶対角Φzとし、これに第1回転角度センサ6が検出した回転角θcaを加算して第1センサ歯車4の絶対角Φcaを得た。また、第2回転角度センサ7のセンサ周期の繰り返し回数Ncbに第2回転角度センサ7のセンサ周期を掛けて第2センサ歯車5の離散的な絶対角Φzbとし、この絶対角Φzbに第2回転角度センサ7が検出した回転角θcbを加算すると第2センサ歯車5の絶対角Φcbを得ることができる。
【0066】
このとき、第2回転角度センサ7の絶対角Φcbに第2メイン歯車3と第2センサ歯車5との歯数比Zc/Zb(第3比例定数)を掛けた第2メイン歯車3の回転角Φを参照用絶対角ΦRとし、第1回転角度センサ6の絶対角Φcaに第1メイン歯車2と第1センサ歯車4との歯数比Zc/Za(第2比例定数)を掛けた絶対角Φと比較するようにしておく。絶対角検出装置1が正常に動作している限り、絶対角Φと参照用絶対角ΦRはほぼ等しい。しかし、絶対角検出装置1になんらかの障害が発生すると、絶対角Φと参照用絶対角ΦRとに大きな差が出てくる。そこで、故障判定ステップでは、絶対角Φと参照用絶対角ΦRとの差分を計算し、差分が所定値を超えたとき故障と判定する。
【0067】
図9に示されるように、故障判定方法のアルゴリズムは、図2の処理が終わった後、第2回転角度センサ7が検出した回転角θcbを用いて仮の絶対角KΦから第2回転角度センサ7におけるセンサ周期の繰り返し回数Ncbを求める第2センサ周期回数検出ステップ92と、第2回転角度センサ7におけるセンサ周期の繰り返し回数Ncbを用いて式(9)に示すように、センサ周期の繰り返し回数Ncbとセンサ周期Θの180°との積に第2回転角度センサ7が検出したθcbを足し、これに第2メイン歯車3と第2センサ歯車5とのギア比Zc/Zb(第3比例定数)を掛け参照用絶対角ΦRとする参照用絶対角演算ステップ93と、絶対角Φと参照用絶対角ΦRとの差分を計算し、この差分が所定値を超えたとき故障と判定する故障判定ステップ94とを有する。
【0068】
【数9】

【0069】
ここで、本発明の故障判定方法を検証する。
【0070】
絶対角検出装置1の構成は、絶対角の検出精度の検証と同一の構成とした。上記故障判定方法の各ステップを行い、参照用絶対角ΦRを算出したところ、与えた絶対角との誤差は0.3°以内に収まり、回転体の絶対角Φの算出方法と同様に、測定誤差は小さかった。よって、故障判定も高い精度で行うことが可能である。次に、上記で求めた絶対角Φと参照用絶対角ΦRとの差分を計算し、故障判定を行った。ここでは絶対角Φ及び参照用絶対角ΦRの誤差が±0.3°以内であったため、所定値を±0.6°(±0.3°×2)とした。上記で求めた絶対角Φと参照用絶対角ΦRとの差分を計算したところ、差分は±0.6°以内に収まり、所定値±0.6°以内であった。そのため、本実施形態においては絶対角検出装置1は正常であると判断した。なお、所定値は、絶対角Φと参照用絶対角ΦRの測定誤差と、絶対角検出装置1に求められる測定精度により適宜定められる。
【0071】
このような故障判定方法によれば、回転角度センサの回転角検出から絶対角演算までの結果がそのまま故障判定に利用でき、故障判定のための特別な測定や演算が不要であり、マイコンに収容するI/Oポート数やプログラム量を少なくすることに貢献する。
【0072】
各々の式は、上記実施形態に限定されず、変形した式により上記実施形態の機能が実現される場合も本発明に含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の絶対角検出方法を実施する絶対角検出装置の構成図である。
【図2】本発明の絶対角検出方法を実施するために、演算装置が実行するアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図3】(a)は第1センサ歯車の回転角に対して第1回転角度センサが検知する回転角を示した回転角特性図、(b)は第1メイン歯車の回転角に対して第1回転角度センサが検知する回転角を示した回転角特性図である。
【図4】回転軸に与えた絶対角(横軸)に対する検出される各回転角度センサの回転角、理論的に得られる絶対角(縦軸)の特性図である。
【図5】回転軸に与えた絶対角(横軸)に対する従来方法で検出された絶対角(縦軸)と誤差(縦軸)の特性図である。
【図6】本発明の絶対角演算原理を示す回転軸に与えた絶対角(横軸)に対する検出される回転角度センサの回転角(縦軸)、離散的な絶対角、連続的な絶対角(縦軸)の特性図である。
【図7】回転軸に与えた絶対角(横軸)に対する本発明で検出された絶対角(縦軸)と誤差(縦軸)の特性図である。
【図8】図1の絶対角検出装置の演算装置のブロック構成図である。
【図9】本発明の絶対角検出方法の故障判定方法を実施するために、演算装置が実行するアルゴリズムを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0074】
1 絶対角検出装置
2 第1メイン歯車
3 第2メイン歯車
4 第1センサ歯車
5 第2センサ歯車
6 第1回転角度センサ
7 第2回転角度センサ
8 演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶対角検出対象である回転体の回転軸と同軸上に設けられ該回転体と一体回転する歯数Zaの第1メイン歯車と、該第1メイン歯車より歯数が少なく上記回転体の回転軸と同軸上に設けられ上記第1メイン歯車と一体回転する歯数Zbの第2メイン歯車と、上記第1メイン歯車に噛み合う歯数Zcaの第1センサ歯車と、上記第2メイン歯車に噛み合う歯数Zcbの第2センサ歯車と、上記第1センサ歯車の回転角を検知するためのセンサ周期Θの第1回転角度センサと、上記第2センサ歯車の回転角を検知するためのセンサ周期Θの第2回転角度センサと、上記第1回転角度センサ及び上記第2回転角度センサが検知した回転角信号から上記回転体の絶対角Φを求める演算装置とを用い、
上記第1回転角度センサにより上記第1センサ歯車の回転角θcaを検出し、上記第2回転角度センサにより上記第2センサ歯車の回転角θcbを検出するセンサ歯車回転角検出ステップと、
歯数Za、Zb、Zca、Zcbから求められる第1比例定数と、第1回転角度センサが検出した回転角θcaと第2回転角度センサが検出した回転角θcbとの差とを用いて演算し仮の絶対角KΦを求める仮絶対角演算ステップと、
上記仮の絶対角KΦから上記第1回転角度センサにおけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncaを求める第1センサ周期回数検出ステップと、
上記第1回転角度センサが検出した回転角θcaと歯数Za、Zcaと上記センサ周期Θと該センサ周期Θの繰り返し回数Ncaとから絶対角Φを求める絶対角演算ステップと、を有することを特徴とする絶対角検出方法。
【請求項2】
上記仮の絶対角KΦから上記第2回転角度センサにおけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncbを求める第2センサ周期回数検出ステップと、
上記第2回転角度センサが検出した回転角θcbと歯数Zb、Zcと上記センサ周期Θと該センサ周期Θの繰り返し回数Ncbとから参照用絶対角ΦRとする参照用絶対角演算ステップと、
上記絶対角Φと上記参照用絶対角ΦRとの差分を計算し、該差分が所定値を超えたとき故障と判定する故障判定ステップと、
を有することを特徴とする請求項1記載の絶対角検出方法。
【請求項3】
絶対角検出対象である回転体の回転軸と同軸上に設けられ該回転体と一体回転する歯数Zaの第1メイン歯車と、該第1メイン歯車より歯数が少なく上記回転体の回転軸と同軸上に設けられ上記第1メイン歯車と一体回転する歯数Zbの第2メイン歯車と、上記第1メイン歯車に噛み合う歯数Zcaの第1センサ歯車と、上記第2メイン歯車に噛み合う歯数Zcbの第2センサ歯車と、上記第1センサ歯車の回転角を検知するためのセンサ周期Θの第1回転角度センサと、上記第2センサ歯車の回転角を検知するためのセンサ周期Θの第2回転角度センサと、上記第1回転角度センサ及び上記第2回転角度センサが検知した回転角信号から上記回転体の絶対角Φを求める演算装置とを備え、
上記演算装置は、
上記第1回転角度センサにより検出された上記第1センサ歯車の回転角θcaを数値化して格納し、上記第2回転角度センサにより検出された上記第2センサ歯車の回転角θcbを数値化して格納するセンサ歯車回転角格納手段と、
歯数Za、Zb、Zca、Zcbから求められる第1比例定数と、第1回転角度センサが検出した回転角θcaと第2回転角度センサが検出した回転角θcbとの差とを用いて演算し仮の絶対角KΦを求める仮絶対角演算手段と、
上記仮の絶対角KΦから上記第1回転角度センサにおけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncaを求める第1センサ周期回数検出手段と、
上記第1回転角度センサが検出した回転角θcaと歯数Za、Zcaと上記センサ周期Θと該センサ周期Θの繰り返し回数Ncaとから絶対角Φを求める絶対角演算手段と、
を有することを特徴とする絶対角検出装置。
【請求項4】
上記演算装置は、
上記仮の絶対角KΦから上記第2回転角度センサにおけるセンサ周期Θの繰り返し回数Ncbを求める第2センサ周期回数検出手段と、
上記第2回転角度センサが検出した回転角θcbと歯数Zb、Zcと上記センサ周期Θと該センサ周期Θの繰り返し回数Ncbとから参照用絶対角ΦRとする参照用絶対角演算手段と、
上記絶対角Φと上記参照用絶対角ΦRとの差分を計算し、該差分が所定値を超えたとき故障と判定する故障判定手段と、
を有することを特徴とする請求項3記載の絶対角検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−133773(P2009−133773A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311217(P2007−311217)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】