絶縁シートおよびこれを用いたパワーモジュール
【課題】接着力の低下が防止され熱伝導性、絶縁性に優れた絶縁シートを提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂、扁平状充填材71および粒子状充填材72を混在させた充填部材を具備する内部領域と、上記内部領域の少なくとも片面に、上記内部領域より小さい充填率で絶縁性充填材を含む接着面領域が設けられ、上記充填率が上記接着面領域から上記内部領域に向けて、段階的に、または傾斜的に増大して連続した層体を成し、かつ接着面領域の絶縁性充填材を扁平状充填材71のみとする。
【解決手段】熱硬化性樹脂、扁平状充填材71および粒子状充填材72を混在させた充填部材を具備する内部領域と、上記内部領域の少なくとも片面に、上記内部領域より小さい充填率で絶縁性充填材を含む接着面領域が設けられ、上記充填率が上記接着面領域から上記内部領域に向けて、段階的に、または傾斜的に増大して連続した層体を成し、かつ接着面領域の絶縁性充填材を扁平状充填材71のみとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性と熱伝導性に優れた絶縁シートおよびこの絶縁シートを用いたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱伝導性シートは、電気・電子部品等の発熱体に接着させ、上記発熱体からの熱をヒートシンク部材へ伝えて放熱させる熱伝導材として用いられ、熱伝導率が10W/mK以上の、例えば銅やアルミニウムなどの金属シートやグラファイトシートの少なくとも片面に、熱伝導フィラーを含有し室温で粘着できる粘着層が積層されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−194306号公報(第1頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記熱伝導性シートは金属シートやグラファイトシート等のシート状物と粘着層との複数層からなるため、上記シート状物と粘着層との間では、金属やグラファイト表面と粘着層の有機成分との界面が存在し、この界面において熱伝導性シートの接着力が低下し、熱伝導性、絶縁性能が低下するという課題があった。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、接着力の低下が防止され熱伝導性、絶縁性に優れた絶縁シートを得ることを目的とする。また、この絶縁シートを用いたパワーモジュールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る絶縁シートは、熱硬化性樹脂、扁平状充填材および粒子状充填材を混在させた充填部材を具備する内部領域と、上記内部領域の少なくとも片面に、上記内部領域より小さい充填率で絶縁性充填材を含む接着面領域が設けられ、上記充填率が上記接着面領域から上記内部領域に向けて、段階的に、または傾斜的に増大して連続した層体を成し、かつ接着面領域の絶縁性充填材は、扁平状充填材のみであるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、接着力の低下が防止され、熱伝導性に優れ、かつ絶縁破壊電界などの絶縁性能を増大することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1の絶縁シートの説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1の絶縁シートに係わる、熱伝導率による比接着強度の変化を示す特性図である。
【図3】本発明の実施の形態1の絶縁シートに係わる、熱伝導率による絶縁破壊電界の変化を示す特性図である。
【図4】本発明の実施の形態2の絶縁シートを模式的に示した説明図である。
【図5】本発明の実施の形態2の別の絶縁シートを模式的に示した説明図である。
【図6】本発明の実施の形態3の絶縁シートに係わる充填材の充填状態を模式的に示した説明図である。
【図7】本発明の実施の形態4の絶縁シートを模式的に示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態5の絶縁シートを模式的に示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態6の絶縁シートの製造方法における積層工程の説明図である。
【図10】本発明の実施の形態7の絶縁シートの製造方法における積層工程の説明図である。
【図11】本発明の実施の形態8のパワーモジュールの構成図である。
【図12】本発明の実施の形態8のパワーモジュールの構成図である。
【図13】本発明の実施の形態8のパワーモジュールの構成図である。
【図14】本発明の実施の形態9のパワーモジュールの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1の絶縁シートの説明図であり、電力半導体素子1を搭載したリードフレーム(導電部材)2とヒートシンク部材6との接着に用いた場合である。本実施の形態の絶縁シート7は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤成分に、充填部材を分散したもので構成されるが、上記充填部材が接着剤成分に一様に分散されているのではなく、絶縁シート7を、主としてリードフレーム(導電部材)2とヒートシンク部材6との接着に寄与する領域(絶縁シート7の接着面7aから絶縁シートの内部へわたる領域で、この領域を接着面領域7bと云い、熱硬化性樹脂からなるシートにおいては接着面から0.1〜1000μm厚がこの領域に相当する。)と、上記接着面領域以外の領域(この領域を内部領域7cという。)とした場合、接着面領域7bにおける充填部材の充填率を、内部領域7cにおける充填率より小で、接着力の低下が防止される範囲とし、内部領域7cにおける充填部材の充填率を優れた熱伝導率を呈する範囲とすることにより、接着力、熱伝導性および絶縁性に優れた絶縁シートを得ることができる。
【0010】
パワーモジュールの大電流化、高速化などに伴い、電力半導体素子の発熱量はますます増大する一方、パワーモジュールの小型化、高生産性が要求され、放熱効率の向上のために、ヒートシンク部材として熱伝導率の高い金属を用いることが望ましいが、電力半導体素子を搭載し電気的接続をとる導電部材とヒートシンク部材との絶縁が必要となり、導電部材とヒートシンク部材とに介在して用いられ、絶縁性と熱伝導性に優れるとともに導電部材とヒートシンク部材との接着性にも優れた絶縁シートが必要となる。
【0011】
図2は、本実施の形態の絶縁シートに係わる、熱伝導率による比接着強度の変化を示す特性図である。
絶縁シートの熱伝導率を変化させるために、絶縁シート中の充填部材の充填量を調整する。所定の熱伝導率の絶縁シートを例えば銅基材に形成し、上記絶縁シートと銅基材との接着強度を測定するが、上記絶縁シートの銅基材との接着強度は、充填部材を含有しない接着剤成分のみを用いた絶縁シート(熱伝導率は0.2w/mK)の接着強度を100%とした比接着強度として示す。
図2からわかるように、充填部材の充填量が増加すると熱伝導率は増加するが、充填量が増し熱伝導率が8W/mKを越えると、充填部材と接着剤成分の有機成分との界面が増えることになりボイドなどの欠陥が増加するため接着力が低下し始め、10W/mK以上になると急激に接着力が低下する。
また、図3は、上記のようにして熱伝導率を変化させた1mm厚の絶縁シートの絶縁破壊電界の、熱伝導率による変化を示す特性図であるが、図3に示すように、充填部材の添加量が増加すると熱伝導率は増加するが、充填量が増し熱伝導率が15W/mKを越えると、充填部材と接着剤成分の有機成分との界面が増えることになりボイドなどの欠陥が増加するため、絶縁破壊電界が低下し始め、16W/mK以上になると急激に絶縁破壊電界が低下しているのがわかる。
【0012】
そこで、図2、図3からわかるように、例えば10W/mK以上の高熱伝導性のシートを、上記接着剤成分に一様に上記充填部材を充填したもので得ようとすると、破壊電界は充分であるが、接着強度が低下する。また、一様に充填部材を充填したもので充分な接着強度と破壊電界を得ようとすると、熱伝導率が10W/mKを大幅に下回る。
以上のことから、接着性が高く、絶縁性能に優れ、かつ従来のものと比べて10W/mK以上程度の高熱伝導性のシートとするためには、主として導電部材またはヒートシンク部材に接着する機能を有する面領域(接着面領域)は10W/mK以下の熱伝導率、好ましくは8W/mK以下の熱伝導率で接着力が高くなるような組成とし、接着面領域以外の内部領域は10〜16W/mKの熱伝導率の高い組成とし、接着面領域の熱伝導率を内部領域の熱伝導率より小とすることにより、絶縁シートを均一な充填率の組成のもので作製するのに比べて、接着性と絶縁性と熱伝導性の特性を共に満足させることができる。
なお、本実施の形態の絶縁シートに係わる充填部材は、例えば、絶縁シートにおいて、充填率が接着面から上記シート内部へ離れるにしたがって順次増加するように充填部材の充填率を傾斜するように充填して、絶縁シートの接着面から内部方向へ離れるに従って熱伝導率が順次大きくなるようにしたり、上記接着面領域7bと内部領域7cにおいて、充填部材の充填率を段階的に変化させるように充填して、絶縁シートの接着面領域における熱伝導率と、絶縁シートの接着面領域以外の内部領域の熱伝導率とが段階的に異なるようにする。
【0013】
本実施の形態の絶縁シートに係わる充填部材としては、扁平状もしくは粒子状の充填材、または貫通孔を有するシートが用いられる。
扁平状充填材とは、立体物を押しつぶしたような扁平形状を有する充填材であり、厚さが薄く、長辺と短辺を有する長方体の形状のもので、断面は四角形に限らず、その他の多角形であっても、角が多少丸みを帯びて楕円形であってもよい。また長辺と短辺が等しい正四角形、正多角形、円形でもよい。製造工程で押しつぶして作製しても、もともとの形状であってもよく、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化ホウ素、炭化ケイ素、マイカなどがあり、これらを2種類以上用いてもよい。
粒子状充填材としては、略球形のものが好ましいが、粉砕されたような形状で多面形状であってもよい。材質としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素などを用いればよい。
さらに粒子状充填材としては、上記扁平状充填材や粒子状充填材を凝集させたものであってもよい。
貫通孔を有するシートとしては、貫通孔を有する導電性の金属シート、貫通孔を有するセラミックスシート、貫通孔を有し上記貫通孔が金属によりコーティングされたセラミックスシート、または貫通孔を有し上記貫通孔が金属によりコーティングされたガラス積層板が用いられ、上記貫通孔により接着剤成分が絶縁シート内で連続しており、界面が連続することによる剥離等が防止できる。なお、貫通孔を有する金属シート等の導電性の充填部材は、接着面領域に用いるより内部領域、中でも内部領域の厚さ方向の中央部領域であるコア領域に用いる方が絶縁性の安定上好ましい。
【0014】
本実施の形態の絶縁シートに係わる接着剤成分の主成分となる熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂を用いることができ、具体的には液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂{商品名:エピコート828,ジャパンエポキシ(株)製}、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂{商品名:エピコート807,ジャパンエポキシ(株)製}、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂{商品名:エピコート1001,ジャパンエポキシ(株)製}、オルト−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂{商品名:EOCN−102S,日本化薬(株)製}、フェノールノボラック型エポキシ樹脂{商品名:エピコート152,ジャパンエポキシ(株)製}、脂環脂肪族エポキシ樹脂{商品名:CY179,バンティコ(株)製}、グリシジルーアミノフェノール系エポキシ樹脂{商品名:ELM100,住友化学工業(株)製}、特殊多官能エポキシ樹脂{商品名:EPPN501,日本化薬(株)製}が挙げられ、これらを2種類以上併用しても良い。
また、硬化剤として、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジド、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、およびその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチルー4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類を用いて固形のシートにすることができ、これらを2種類以上併用しても良い。
また粘度調整材として、アセトン、トルエンなどの有機溶媒を適宜用いてもよい。
【0015】
実施の形態2.
図4は本発明の実施の形態2の絶縁シート7を模式的に示した説明図であり、扁平状充填材71と粒子状充填材72からなる充填部材を接着剤成分70に分散したものからなり、絶縁シート7が両面に接着面7aを有する場合であるため、絶縁シート7の上下面領域が接着面領域7bとなり、接着面領域7bにおける充填部材の充填率が、内部領域7cにおける充填率より小さく、接着面領域7bと内部領域7cの熱伝導率が実施の形態1に示す範囲となるように充填部材の充填率が調整されている。
なお、図4(a)は上記充填部材の充填率が絶縁シートの接着面から内部方向(中央部)に離れると順次連続的に増加するように充填されている。
また、図4(b)は、充填部材の扁平状充填材71と粒子状充填材72からなる充填部材の総体積に対する充填率を調整して接着面領域7bと内部領域7cの熱伝導率を段階的に変化させた構造で、接着面領域7bにおける充填部材の充填率が内部領域7cよりも小で、接着面領域7bと内部領域7cの熱伝導率を実施の形態1に示す熱伝導率の範囲とする。
上記の構成により本実施の形態の絶縁シート7は、熱硬化性樹脂成分が十分な接着面領域7bにより接着性が維持され、内部領域7cでは熱伝導性を確保できる。そのため、高い熱伝導率を得るために充填部材を高充填することにより接着性や絶縁性能の著しく低下した絶縁シートを単独で用いるよりも、接着性と高熱伝導性を両立した絶縁シートを得ることができる。
図5は本発明の実施の形態2の別の絶縁シート7を模式的に示した説明図であり、絶縁シート7の一方の面にのみ接着面7aを有する場合で、接着面側が接着面領域7b、他方の面側が内部領域7cであり、片面にのみ接着性を必要とするシート構造として好適に用いられる。
【0016】
実施の形態3.
図6は本発明の実施の形態3の絶縁シートに係わる充填部材の充填状態を模式的に示した説明図であり、図中矢印は絶縁シートの厚さ方向であり、(a)は充填部材として、扁平状充填材71と粒子状充填材72とが混在する場合、(b)は扁平状充填材71のみを用いた場合である。
即ち、本実施の形態の絶縁シートは実施の形態1において、扁平状充填材71と粒子状充填材72を共に用いる{図6(a)}か、扁平状充填材71のみを用いる{図6(b)}他は実施の形態1と同様であり、扁平状充填材71と粒子状充填材72を共に用いると、絶縁シートでは、粒子状充填材が扁平状充填材を支え、絶縁シートの厚さ方向において、扁平状充填材を長辺方向に配向させる。したがって厚さ方向の放熱特性が著しく向上するとともに、扁平状充填材の重なりが減少するので、充填量を増大することができる。
また(b)のように扁平状充填材71のみを用いた場合、絶縁シートでは扁平状充填材が重なり合って配向するために絶縁破壊電界などの絶縁性能を増大することができる。
【0017】
実施の形態4.
図7は本発明の実施の形態4の絶縁シート7を模式的に示す説明図であり、図7(a)は、熱伝導率が実施の形態1における接着面領域における範囲となるように、接着剤成分70に充填材71、72が一様に充填された絶縁シートにおいて、内部領域7cにおいて厚さ方向の中央部領域であるコア領域に、充填部材として貫通孔74を有する熱伝導性に優れた金属シート73を配置したもの、図7(b)は実施の形態2の絶縁シートの内部領域7cの中央部(コア領域)に充填部材として上記金属シート73を設けた構造であり、特に上記金属シート73等の導電性の充填部材は、接着面領域に用いるより内部領域、中でもコア領域に用いる方が絶縁性の安定上好ましい。また、本実施の形態では、いずれも金属シート73の貫通孔において樹脂が連続しているため、絶縁シート内での金属シートと熱硬化性樹脂との界面が連続せず界面における剥離が防止できる。
なお、上記実施の形態1〜4の絶縁シート7を用いた接着において、さらに接着強度を向上させるため、接着剤成分にカップリング剤を含有させてもよい。
カップリング剤としては、例えばγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−Β(アミノエチル)γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシランなどがある。上記カップリング剤を2種類以上併用しても良い。
【0018】
実施の形態5.
図8は本発明の実施の形態5の絶縁シート7を模式的に示す説明図であり、実施の形態2の絶縁シートの内部領域7cにおける厚さ方向の中央部領域のコア領域に、充填部材として、貫通孔74を有し、上記貫通孔の表面に銅等の金属層75をコーティングした例えばガラス積層板等の絶縁板76を配置したもので、上記貫通孔にコーティングした銅75により熱伝導が付与され、上記貫通孔において樹脂が連続しており界面が連続せず界面における剥離が防止できる。なお、上記絶縁板を用いることにより、下記に示すように絶縁シートの作製工程における硬化時に受けた圧力や樹脂の収縮による応力を防止できる。
【0019】
実施の形態6.
図9は本発明の実施の形態の絶縁シートの製造方法における積層工程の説明図であり、図中、矢印は積層方向を示す。
即ち、銅等の基材21の上に順次、接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17b、内部領域となる第2の絶縁シート組成物からなる第2の層17c、接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17bを形成してAまたはBステージ状態の積層体7eを得る{図9(a)}。
また、上記基材21の上に順次、接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17bと内部領域となる第2の絶縁シート組成物からなる第2の層17cを形成させたものを2枚張り合わせてAまたはBステージ状態の積層体7eを得る{図9(b)}。
また、上記基材21に接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17bを形成したものを、内部領域となる第2の絶縁シート組成物からなる第2の層17cに張り付けてAまたはBステージ状態の積層体7eを得る{図9(c)}。
なお、上記接着面領域となる第1の絶縁シート組成物における充填部材の充填率は、内部領域となる第2の絶縁シート組成物における充填部材の充填率より小であり、各絶縁シート組成物は熱硬化により熱伝導率が実施の形態1に示す熱伝導率の範囲となるものである。
上記のようにして得られた、接着剤成分がAまたはBステージ状態の積層体7eをプレスすると、接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17bと内部領域となる第2の絶縁シート組成物からなる第2の層17cの樹脂がお互いに混合され界面がなくなり絶縁シート全体が連続した層となった本実施の形態の絶縁シートを得るが、上記のようにシート化することにより熱伝導率の低い空気が押し出されポーラスな欠陥が解消されるため熱が効率よく伝えられ熱伝導率が高くなるだけでなく、絶縁特性における欠陥であるボイドなどの空隙も改善されコロナ発生を抑制し絶縁性能が向上できるという効果がある。
【0020】
実施の形態7.
図10は本発明の実施の形態7の絶縁シートの製造方法における積層工程の説明図で、図中矢印は積層方向である。
即ち、離型フィルム上に接着剤成分に充填部材を分散した絶縁シート組成物を塗布したものを2枚用意し、上記塗布状態で充填部材の比重の違いにより充填部材の沈降速度の違いを利用して接着面領域7bと内部領域7cが実施の形態1に示す熱伝導率の範囲となるように充填部材の分布を調整した後、上記離型フィルムを除去し、これを中心に向かって充填部材濃度が高くなるように張り合わせて積層体7eを得、実施の形態6と同様にプレスして、絶縁シート組成物の樹脂がお互いに混合され界面がなくなり絶縁シート全体が連続した層となる本実施の形態の絶縁シートを得ることができる。
このようにシート化することにより熱伝導率の低い空気が押し出されポーラスな欠陥が解消されるため熱が効率よく伝えられ熱伝導率が高くなるだけでなく、絶縁特性における欠陥であるボイドなどの空隙も改善されコロナ発生を抑制し絶縁性能が向上できるというメリットがある。
【0021】
実施の形態8.
図11、図12および図13は本発明の実施の形態8のパワーモジュールの構成図であり、電力半導体素子1は、リードフレーム(導電部材)2に搭載され、上記実施の形態1〜7の絶縁シートの硬化体77が、導電部材2とヒートシンク部材6に接着して設けられ、別途リードフレーム2に搭載されたコントロール用半導体素子4と金属線5で接続され、上記構成部材は、モールド樹脂10で封止された構造となっている。
なお、上記実施の形態の絶縁シートをAまたはBステージ状態の半硬化状態の固形シートにしてリードフレーム2とヒートシンク部材6の間に配置し、加熱硬化させるようにすれば、生産性よく、リードフレーム2とヒートシンク部材6を接着できる。絶縁シートの硬化反応によるリードフレーム2とヒートシンク部材6との接着工程は、モールド樹脂10による封止工程において同時に行ってもよい。
パワーモジュールを封止するモールド樹脂10としては、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いればよい。リードフレーム2の材料としては、銅やアルミ金属が用いられる。また、ヒートシンク部材6としては銅、アルミニウム等の金属やこれらの合金、またはアルミナ等のセラミックを用いることができる。
本実施の形態のパワーモジュールは、ヒートシンク部材6と導電部材2とを接着する絶縁シートの硬化体77が、従来の絶縁性熱伝導性樹脂シートにはない優れた熱伝導性と接着性と絶縁性を有しており、パワーモジュールの小形化と高容量化を可能にする。
また、図12に示すように、絶縁シートの硬化体77が金属製ヒートシンク部材またはアルミナなどの絶縁板を覆うようすると、モールド樹脂10との熱膨張率差が小さくできるため剥離を防止できる。
また、上記絶縁シートは、高熱伝導率が達成できるのでヒートシンク部材6を兼ねて良好な放熱特性を示すことができ、図13に示すように、図5に示す絶縁シート7の硬化体77がヒートシンク部材を兼ねた一層構造にすることも可能であり、モールド樹脂10との熱膨張率差が小さくできる。このためクラックの発生などもより抑制できる。
【0022】
実施の形態9.
図14は、本発明の実施の形態9のパワーモジュールの構成図であり、ケースタイプのパワーモジュールである。
つまり、ヒートシンク部材6と、ヒートシンク部材6の表面に設けられた回路基板8と、この回路基板8に搭載された電力半導体素子1と、ヒートシンク部材6の周縁部に接着されたケース9と、ケース内に注入され回路基板8および電力半導体素子1などを封止する注型樹脂4と、ヒートシンク部材6の回路基板8が設けられた面に対向する反対側の面に接着して実施の形態1〜7の絶縁シートの硬化体77設けられ、この硬化体77によりヒートシンク部材6とヒートスプレッダー11が接着している。
本実施の形態のパワーモジュールは、ヒートシンク部材6とヒートスプレッダー11とを接着する絶縁シートの硬化体77が、従来の絶縁性熱伝導性樹脂シートにはない優れた熱伝導性と接着性と絶縁性を有しており、パワーモジュールの小形化と高容量化を可能にする。
【実施例】
【0023】
実施例1.
表1に示すようにビスフェノールA型エポキシ樹脂{商品名:エピコート828,ジャパンエポキシレジン(株)製}100重量部および硬化促進剤の1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール{商品名:キュアゾール2PN−CN,四国化成工業(株)製}1重量部からなる接着剤成分に200重量部のメチルエチルケトンを添加し、次いで扁平形状充填材として窒化ホウ素7μm{商品名:GP,電気化学工業(株)製}143重量部、粒子状充填材として窒化ケイ素5μm{商品名:SN−7,電気化学工業(株)製}201重量部の混合からなる充填部材を添加して混合し3本ロールで混練してから真空脱泡し絶縁シート組成物Aを得る。
なお、絶縁シート組成物Aにおける、メチルエチルケトンを除く接着剤成分および充填部材の全体積に対する充填部材の閉める割合(充填部材/絶縁シート)は60体積%である。また窒化ホウ素と窒化ケイ素の体積比率は1:1である。
【0024】
【表1】
【0025】
上記絶縁シート組成物Aを厚さ100μmの片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し、30分静置して充填部材を沈降させた後、110℃で5分間加熱乾燥し、上記絶縁シート材料組成物A塗膜面に別のポリエチレンテレフタレートシートを設けてはさみ、厚さが55μmのBステージ状態の積層体を作製する。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれのポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面をはがし、図10に示すように、剥した面を合わせて130℃で80kgf/cm2の圧力で真空プレスして全厚が約200μmの本発明の実施例の絶縁シートを得、上記絶縁シートの厚さ方向の熱伝導率を測定して結果を表2に示す。なお、熱伝導率はレーザーフラッシュ法で測定した。
また、上記と同様にして作製した絶縁シートを2mm厚の銅板に挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で銅板と絶縁シートとの引張強度を測定した。また上記絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
実施例2.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、実施例1と同様にして表1の絶縁シート組成物Bを調整する。なお、絶縁シート組成物Bにおける窒化ホウ素と窒化ケイ素の体積比率は上記絶縁シート組成物Aと同様1:1であり、絶縁シート組成物における、メチルエチルケトンを除く接着剤成分および充填部材の全体積に対する充填部材の閉める割合(充填部材/絶縁シート)を表1に示すように調整することにより、下記のようにして得られる本実施例の絶縁シート内の熱伝導率を上記実施の形態に示す所定の範囲に調整することができる。
絶縁シート組成物Bを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し、110℃で5分間加熱乾燥して35μm厚の絶縁シートB層(接着面領域となる層)を得、さらにその上に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布して90μm厚の絶縁シートA層(内部領域となる層)を積層してBステージ状態の積層体を作製した。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの絶縁シートA層面を合わせて図9(b)に示す積層体を得、これを130℃で80kgf/cm2の圧力で真空プレスして全厚が約210μmの本発明の実施例の絶縁シートを得た。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価し、2mm厚の銅板に上記と同様にして作製した絶縁シートを挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また上記絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に示す。
【0028】
実施例3.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、絶縁シート組成物Bと絶縁シート組成物Cを調整した。なお、絶縁シート組成物Cにおける窒化ホウ素と窒化ケイ素の体積比率は上記絶縁シート組成物Aと同様1:1であり、絶縁シート組成物における、メチルエチルケトンを除く接着剤成分および充填部材の全体積に対する充填部材の閉める割合(充填部材/絶縁シート)を表1に示すように調整することにより、本実施例の絶縁シート内の熱伝導率を上記実施の形態に示す所定の範囲に調整することができる。
まず、絶縁シート組成物Cを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し約5〜7μm厚の絶縁シートC層を得た。さらにその上層に絶縁シート組成物Bをドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し25μm厚の絶縁シートB層を得た。さらにその上層に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布し加熱乾燥し85μm厚の絶縁シートA層を積層してBステージの積層体を作製した。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの縁シートA層面を合わせて130℃で真空プレスし全厚が220μmの本発明の実施例の絶縁シートを得た。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価し、上記と同様にして作製した絶縁シートを2mm厚の銅板に挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に記した。
【0029】
実施例4.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、絶縁シート組成物Bを調整した。
ついで得られた絶縁シート組成物Bを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し、さらにその上層に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布し加熱乾燥し実施例2と同じ厚さのBステージの積層体を得た。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの絶縁シートA層面の間に、1mm間隔に直径0.5mmの貫通孔を有する50μm厚の銅シートをはさむようにして130℃で真空プレスし図7(b)の形態で示される全厚が220μmの本発明の実施例の絶縁シートを作製した。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価した。また2mm厚の銅板上に上記と同様にして作製した絶縁シートを挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に示す。
【0030】
実施例5.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、絶縁シート組成物Bを調整した。
ついで得られた絶縁シート組成物Bを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し、さらにその上層に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布し加熱乾燥し実施例2と同じ厚さのBステージの積層体を得た。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの絶縁シートA層面の間に、2mm間隔に直径1mmの貫通孔を有する100μm厚のアルミナシートをはさむようにして130℃で真空プレスし全厚が300μmの本発明の実施例の絶縁シートを作製した。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価し、2mm厚の銅板に上記と同様にして作製した絶縁シートを挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また絶縁シートの破壊電界も測定した。結果を表2に記した。
【0031】
実施例6.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、絶縁シート組成物Bを調整した。
ついで得られた絶縁シート組成物Bを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し、さらにその上層に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布し加熱乾燥し実施例2と同じ厚さのBステージの積層体を得た。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの絶縁シートA層面の間に、2mm間隔に直径0.5mmの貫通孔を有し、上記貫通孔の表面に銅をコーティングした0.8mm厚のガラス積層板をはさむようにして130℃で真空プレスし図8の形態で示される全厚が約1mmの本発明の実施例の絶縁シートを作製した。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価し、2mm厚の銅板に上記と同様にして作製した絶縁シートを挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に記した。
【0032】
比較例1.
表1に示す絶縁シート組成物Aを使用し、200μm厚の熱伝導性接着フィルムを作製した。
得られた熱伝導性接着フィルムを用いて熱伝導率は実施例1と同様に評価した。また2mm厚の銅板上に上記と同様にして作製した熱伝導性接着フィルムを挟み込んで接着性試験片を作製し、実施例1と同様に50mm/秒で引張強度を測定した。また熱伝導性接着フィルムの破壊電界も測定し、結果を表2に記した。
【0033】
比較例2.
表1に示す絶縁シート組成物Bを使用し、200μm厚の熱伝導性接着フィルムを作製した。
得られた熱伝導性接着フィルムを用いて熱伝導率は実施例1と同様に評価した。また2mm厚の銅板上に上記と同様にして作製した熱伝導性接着フィルムを挟み込んで接着性試験片を作製し、実施例1と同様に50mm/秒で引張強度を測定した。また熱伝導性接着フィルムの破壊電界も測定し、結果を表2に記した。
【0034】
表2から、本発明の実施例の絶縁シートは接着強度に優れるとともに熱伝導性と絶縁性を効果的に両立できることが示された。
【符号の説明】
【0035】
1 電力半導体素子、2 導電部材、6 ヒートシンク部材、7 絶縁シート、7a 接着面、7b 接着面領域、7c 内部領域、7e 積層体、17b 第1の層、17c 第2の層、10 モールド樹脂、70 接着剤成分、71,72 充填部材、73 金属シート、74 貫通孔、75 金属層、76 絶縁板、77 絶縁シートの硬化体、8 回路基板、9 ケース、11 ヒートスプレッダー。
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性と熱伝導性に優れた絶縁シートおよびこの絶縁シートを用いたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱伝導性シートは、電気・電子部品等の発熱体に接着させ、上記発熱体からの熱をヒートシンク部材へ伝えて放熱させる熱伝導材として用いられ、熱伝導率が10W/mK以上の、例えば銅やアルミニウムなどの金属シートやグラファイトシートの少なくとも片面に、熱伝導フィラーを含有し室温で粘着できる粘着層が積層されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−194306号公報(第1頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記熱伝導性シートは金属シートやグラファイトシート等のシート状物と粘着層との複数層からなるため、上記シート状物と粘着層との間では、金属やグラファイト表面と粘着層の有機成分との界面が存在し、この界面において熱伝導性シートの接着力が低下し、熱伝導性、絶縁性能が低下するという課題があった。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、接着力の低下が防止され熱伝導性、絶縁性に優れた絶縁シートを得ることを目的とする。また、この絶縁シートを用いたパワーモジュールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る絶縁シートは、熱硬化性樹脂、扁平状充填材および粒子状充填材を混在させた充填部材を具備する内部領域と、上記内部領域の少なくとも片面に、上記内部領域より小さい充填率で絶縁性充填材を含む接着面領域が設けられ、上記充填率が上記接着面領域から上記内部領域に向けて、段階的に、または傾斜的に増大して連続した層体を成し、かつ接着面領域の絶縁性充填材は、扁平状充填材のみであるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、接着力の低下が防止され、熱伝導性に優れ、かつ絶縁破壊電界などの絶縁性能を増大することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1の絶縁シートの説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1の絶縁シートに係わる、熱伝導率による比接着強度の変化を示す特性図である。
【図3】本発明の実施の形態1の絶縁シートに係わる、熱伝導率による絶縁破壊電界の変化を示す特性図である。
【図4】本発明の実施の形態2の絶縁シートを模式的に示した説明図である。
【図5】本発明の実施の形態2の別の絶縁シートを模式的に示した説明図である。
【図6】本発明の実施の形態3の絶縁シートに係わる充填材の充填状態を模式的に示した説明図である。
【図7】本発明の実施の形態4の絶縁シートを模式的に示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態5の絶縁シートを模式的に示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態6の絶縁シートの製造方法における積層工程の説明図である。
【図10】本発明の実施の形態7の絶縁シートの製造方法における積層工程の説明図である。
【図11】本発明の実施の形態8のパワーモジュールの構成図である。
【図12】本発明の実施の形態8のパワーモジュールの構成図である。
【図13】本発明の実施の形態8のパワーモジュールの構成図である。
【図14】本発明の実施の形態9のパワーモジュールの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1の絶縁シートの説明図であり、電力半導体素子1を搭載したリードフレーム(導電部材)2とヒートシンク部材6との接着に用いた場合である。本実施の形態の絶縁シート7は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤成分に、充填部材を分散したもので構成されるが、上記充填部材が接着剤成分に一様に分散されているのではなく、絶縁シート7を、主としてリードフレーム(導電部材)2とヒートシンク部材6との接着に寄与する領域(絶縁シート7の接着面7aから絶縁シートの内部へわたる領域で、この領域を接着面領域7bと云い、熱硬化性樹脂からなるシートにおいては接着面から0.1〜1000μm厚がこの領域に相当する。)と、上記接着面領域以外の領域(この領域を内部領域7cという。)とした場合、接着面領域7bにおける充填部材の充填率を、内部領域7cにおける充填率より小で、接着力の低下が防止される範囲とし、内部領域7cにおける充填部材の充填率を優れた熱伝導率を呈する範囲とすることにより、接着力、熱伝導性および絶縁性に優れた絶縁シートを得ることができる。
【0010】
パワーモジュールの大電流化、高速化などに伴い、電力半導体素子の発熱量はますます増大する一方、パワーモジュールの小型化、高生産性が要求され、放熱効率の向上のために、ヒートシンク部材として熱伝導率の高い金属を用いることが望ましいが、電力半導体素子を搭載し電気的接続をとる導電部材とヒートシンク部材との絶縁が必要となり、導電部材とヒートシンク部材とに介在して用いられ、絶縁性と熱伝導性に優れるとともに導電部材とヒートシンク部材との接着性にも優れた絶縁シートが必要となる。
【0011】
図2は、本実施の形態の絶縁シートに係わる、熱伝導率による比接着強度の変化を示す特性図である。
絶縁シートの熱伝導率を変化させるために、絶縁シート中の充填部材の充填量を調整する。所定の熱伝導率の絶縁シートを例えば銅基材に形成し、上記絶縁シートと銅基材との接着強度を測定するが、上記絶縁シートの銅基材との接着強度は、充填部材を含有しない接着剤成分のみを用いた絶縁シート(熱伝導率は0.2w/mK)の接着強度を100%とした比接着強度として示す。
図2からわかるように、充填部材の充填量が増加すると熱伝導率は増加するが、充填量が増し熱伝導率が8W/mKを越えると、充填部材と接着剤成分の有機成分との界面が増えることになりボイドなどの欠陥が増加するため接着力が低下し始め、10W/mK以上になると急激に接着力が低下する。
また、図3は、上記のようにして熱伝導率を変化させた1mm厚の絶縁シートの絶縁破壊電界の、熱伝導率による変化を示す特性図であるが、図3に示すように、充填部材の添加量が増加すると熱伝導率は増加するが、充填量が増し熱伝導率が15W/mKを越えると、充填部材と接着剤成分の有機成分との界面が増えることになりボイドなどの欠陥が増加するため、絶縁破壊電界が低下し始め、16W/mK以上になると急激に絶縁破壊電界が低下しているのがわかる。
【0012】
そこで、図2、図3からわかるように、例えば10W/mK以上の高熱伝導性のシートを、上記接着剤成分に一様に上記充填部材を充填したもので得ようとすると、破壊電界は充分であるが、接着強度が低下する。また、一様に充填部材を充填したもので充分な接着強度と破壊電界を得ようとすると、熱伝導率が10W/mKを大幅に下回る。
以上のことから、接着性が高く、絶縁性能に優れ、かつ従来のものと比べて10W/mK以上程度の高熱伝導性のシートとするためには、主として導電部材またはヒートシンク部材に接着する機能を有する面領域(接着面領域)は10W/mK以下の熱伝導率、好ましくは8W/mK以下の熱伝導率で接着力が高くなるような組成とし、接着面領域以外の内部領域は10〜16W/mKの熱伝導率の高い組成とし、接着面領域の熱伝導率を内部領域の熱伝導率より小とすることにより、絶縁シートを均一な充填率の組成のもので作製するのに比べて、接着性と絶縁性と熱伝導性の特性を共に満足させることができる。
なお、本実施の形態の絶縁シートに係わる充填部材は、例えば、絶縁シートにおいて、充填率が接着面から上記シート内部へ離れるにしたがって順次増加するように充填部材の充填率を傾斜するように充填して、絶縁シートの接着面から内部方向へ離れるに従って熱伝導率が順次大きくなるようにしたり、上記接着面領域7bと内部領域7cにおいて、充填部材の充填率を段階的に変化させるように充填して、絶縁シートの接着面領域における熱伝導率と、絶縁シートの接着面領域以外の内部領域の熱伝導率とが段階的に異なるようにする。
【0013】
本実施の形態の絶縁シートに係わる充填部材としては、扁平状もしくは粒子状の充填材、または貫通孔を有するシートが用いられる。
扁平状充填材とは、立体物を押しつぶしたような扁平形状を有する充填材であり、厚さが薄く、長辺と短辺を有する長方体の形状のもので、断面は四角形に限らず、その他の多角形であっても、角が多少丸みを帯びて楕円形であってもよい。また長辺と短辺が等しい正四角形、正多角形、円形でもよい。製造工程で押しつぶして作製しても、もともとの形状であってもよく、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化ホウ素、炭化ケイ素、マイカなどがあり、これらを2種類以上用いてもよい。
粒子状充填材としては、略球形のものが好ましいが、粉砕されたような形状で多面形状であってもよい。材質としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素などを用いればよい。
さらに粒子状充填材としては、上記扁平状充填材や粒子状充填材を凝集させたものであってもよい。
貫通孔を有するシートとしては、貫通孔を有する導電性の金属シート、貫通孔を有するセラミックスシート、貫通孔を有し上記貫通孔が金属によりコーティングされたセラミックスシート、または貫通孔を有し上記貫通孔が金属によりコーティングされたガラス積層板が用いられ、上記貫通孔により接着剤成分が絶縁シート内で連続しており、界面が連続することによる剥離等が防止できる。なお、貫通孔を有する金属シート等の導電性の充填部材は、接着面領域に用いるより内部領域、中でも内部領域の厚さ方向の中央部領域であるコア領域に用いる方が絶縁性の安定上好ましい。
【0014】
本実施の形態の絶縁シートに係わる接着剤成分の主成分となる熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂を用いることができ、具体的には液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂{商品名:エピコート828,ジャパンエポキシ(株)製}、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂{商品名:エピコート807,ジャパンエポキシ(株)製}、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂{商品名:エピコート1001,ジャパンエポキシ(株)製}、オルト−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂{商品名:EOCN−102S,日本化薬(株)製}、フェノールノボラック型エポキシ樹脂{商品名:エピコート152,ジャパンエポキシ(株)製}、脂環脂肪族エポキシ樹脂{商品名:CY179,バンティコ(株)製}、グリシジルーアミノフェノール系エポキシ樹脂{商品名:ELM100,住友化学工業(株)製}、特殊多官能エポキシ樹脂{商品名:EPPN501,日本化薬(株)製}が挙げられ、これらを2種類以上併用しても良い。
また、硬化剤として、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジド、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、およびその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチルー4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類を用いて固形のシートにすることができ、これらを2種類以上併用しても良い。
また粘度調整材として、アセトン、トルエンなどの有機溶媒を適宜用いてもよい。
【0015】
実施の形態2.
図4は本発明の実施の形態2の絶縁シート7を模式的に示した説明図であり、扁平状充填材71と粒子状充填材72からなる充填部材を接着剤成分70に分散したものからなり、絶縁シート7が両面に接着面7aを有する場合であるため、絶縁シート7の上下面領域が接着面領域7bとなり、接着面領域7bにおける充填部材の充填率が、内部領域7cにおける充填率より小さく、接着面領域7bと内部領域7cの熱伝導率が実施の形態1に示す範囲となるように充填部材の充填率が調整されている。
なお、図4(a)は上記充填部材の充填率が絶縁シートの接着面から内部方向(中央部)に離れると順次連続的に増加するように充填されている。
また、図4(b)は、充填部材の扁平状充填材71と粒子状充填材72からなる充填部材の総体積に対する充填率を調整して接着面領域7bと内部領域7cの熱伝導率を段階的に変化させた構造で、接着面領域7bにおける充填部材の充填率が内部領域7cよりも小で、接着面領域7bと内部領域7cの熱伝導率を実施の形態1に示す熱伝導率の範囲とする。
上記の構成により本実施の形態の絶縁シート7は、熱硬化性樹脂成分が十分な接着面領域7bにより接着性が維持され、内部領域7cでは熱伝導性を確保できる。そのため、高い熱伝導率を得るために充填部材を高充填することにより接着性や絶縁性能の著しく低下した絶縁シートを単独で用いるよりも、接着性と高熱伝導性を両立した絶縁シートを得ることができる。
図5は本発明の実施の形態2の別の絶縁シート7を模式的に示した説明図であり、絶縁シート7の一方の面にのみ接着面7aを有する場合で、接着面側が接着面領域7b、他方の面側が内部領域7cであり、片面にのみ接着性を必要とするシート構造として好適に用いられる。
【0016】
実施の形態3.
図6は本発明の実施の形態3の絶縁シートに係わる充填部材の充填状態を模式的に示した説明図であり、図中矢印は絶縁シートの厚さ方向であり、(a)は充填部材として、扁平状充填材71と粒子状充填材72とが混在する場合、(b)は扁平状充填材71のみを用いた場合である。
即ち、本実施の形態の絶縁シートは実施の形態1において、扁平状充填材71と粒子状充填材72を共に用いる{図6(a)}か、扁平状充填材71のみを用いる{図6(b)}他は実施の形態1と同様であり、扁平状充填材71と粒子状充填材72を共に用いると、絶縁シートでは、粒子状充填材が扁平状充填材を支え、絶縁シートの厚さ方向において、扁平状充填材を長辺方向に配向させる。したがって厚さ方向の放熱特性が著しく向上するとともに、扁平状充填材の重なりが減少するので、充填量を増大することができる。
また(b)のように扁平状充填材71のみを用いた場合、絶縁シートでは扁平状充填材が重なり合って配向するために絶縁破壊電界などの絶縁性能を増大することができる。
【0017】
実施の形態4.
図7は本発明の実施の形態4の絶縁シート7を模式的に示す説明図であり、図7(a)は、熱伝導率が実施の形態1における接着面領域における範囲となるように、接着剤成分70に充填材71、72が一様に充填された絶縁シートにおいて、内部領域7cにおいて厚さ方向の中央部領域であるコア領域に、充填部材として貫通孔74を有する熱伝導性に優れた金属シート73を配置したもの、図7(b)は実施の形態2の絶縁シートの内部領域7cの中央部(コア領域)に充填部材として上記金属シート73を設けた構造であり、特に上記金属シート73等の導電性の充填部材は、接着面領域に用いるより内部領域、中でもコア領域に用いる方が絶縁性の安定上好ましい。また、本実施の形態では、いずれも金属シート73の貫通孔において樹脂が連続しているため、絶縁シート内での金属シートと熱硬化性樹脂との界面が連続せず界面における剥離が防止できる。
なお、上記実施の形態1〜4の絶縁シート7を用いた接着において、さらに接着強度を向上させるため、接着剤成分にカップリング剤を含有させてもよい。
カップリング剤としては、例えばγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−Β(アミノエチル)γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシランなどがある。上記カップリング剤を2種類以上併用しても良い。
【0018】
実施の形態5.
図8は本発明の実施の形態5の絶縁シート7を模式的に示す説明図であり、実施の形態2の絶縁シートの内部領域7cにおける厚さ方向の中央部領域のコア領域に、充填部材として、貫通孔74を有し、上記貫通孔の表面に銅等の金属層75をコーティングした例えばガラス積層板等の絶縁板76を配置したもので、上記貫通孔にコーティングした銅75により熱伝導が付与され、上記貫通孔において樹脂が連続しており界面が連続せず界面における剥離が防止できる。なお、上記絶縁板を用いることにより、下記に示すように絶縁シートの作製工程における硬化時に受けた圧力や樹脂の収縮による応力を防止できる。
【0019】
実施の形態6.
図9は本発明の実施の形態の絶縁シートの製造方法における積層工程の説明図であり、図中、矢印は積層方向を示す。
即ち、銅等の基材21の上に順次、接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17b、内部領域となる第2の絶縁シート組成物からなる第2の層17c、接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17bを形成してAまたはBステージ状態の積層体7eを得る{図9(a)}。
また、上記基材21の上に順次、接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17bと内部領域となる第2の絶縁シート組成物からなる第2の層17cを形成させたものを2枚張り合わせてAまたはBステージ状態の積層体7eを得る{図9(b)}。
また、上記基材21に接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17bを形成したものを、内部領域となる第2の絶縁シート組成物からなる第2の層17cに張り付けてAまたはBステージ状態の積層体7eを得る{図9(c)}。
なお、上記接着面領域となる第1の絶縁シート組成物における充填部材の充填率は、内部領域となる第2の絶縁シート組成物における充填部材の充填率より小であり、各絶縁シート組成物は熱硬化により熱伝導率が実施の形態1に示す熱伝導率の範囲となるものである。
上記のようにして得られた、接着剤成分がAまたはBステージ状態の積層体7eをプレスすると、接着面領域となる第1の絶縁シート組成物からなる第1の層17bと内部領域となる第2の絶縁シート組成物からなる第2の層17cの樹脂がお互いに混合され界面がなくなり絶縁シート全体が連続した層となった本実施の形態の絶縁シートを得るが、上記のようにシート化することにより熱伝導率の低い空気が押し出されポーラスな欠陥が解消されるため熱が効率よく伝えられ熱伝導率が高くなるだけでなく、絶縁特性における欠陥であるボイドなどの空隙も改善されコロナ発生を抑制し絶縁性能が向上できるという効果がある。
【0020】
実施の形態7.
図10は本発明の実施の形態7の絶縁シートの製造方法における積層工程の説明図で、図中矢印は積層方向である。
即ち、離型フィルム上に接着剤成分に充填部材を分散した絶縁シート組成物を塗布したものを2枚用意し、上記塗布状態で充填部材の比重の違いにより充填部材の沈降速度の違いを利用して接着面領域7bと内部領域7cが実施の形態1に示す熱伝導率の範囲となるように充填部材の分布を調整した後、上記離型フィルムを除去し、これを中心に向かって充填部材濃度が高くなるように張り合わせて積層体7eを得、実施の形態6と同様にプレスして、絶縁シート組成物の樹脂がお互いに混合され界面がなくなり絶縁シート全体が連続した層となる本実施の形態の絶縁シートを得ることができる。
このようにシート化することにより熱伝導率の低い空気が押し出されポーラスな欠陥が解消されるため熱が効率よく伝えられ熱伝導率が高くなるだけでなく、絶縁特性における欠陥であるボイドなどの空隙も改善されコロナ発生を抑制し絶縁性能が向上できるというメリットがある。
【0021】
実施の形態8.
図11、図12および図13は本発明の実施の形態8のパワーモジュールの構成図であり、電力半導体素子1は、リードフレーム(導電部材)2に搭載され、上記実施の形態1〜7の絶縁シートの硬化体77が、導電部材2とヒートシンク部材6に接着して設けられ、別途リードフレーム2に搭載されたコントロール用半導体素子4と金属線5で接続され、上記構成部材は、モールド樹脂10で封止された構造となっている。
なお、上記実施の形態の絶縁シートをAまたはBステージ状態の半硬化状態の固形シートにしてリードフレーム2とヒートシンク部材6の間に配置し、加熱硬化させるようにすれば、生産性よく、リードフレーム2とヒートシンク部材6を接着できる。絶縁シートの硬化反応によるリードフレーム2とヒートシンク部材6との接着工程は、モールド樹脂10による封止工程において同時に行ってもよい。
パワーモジュールを封止するモールド樹脂10としては、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いればよい。リードフレーム2の材料としては、銅やアルミ金属が用いられる。また、ヒートシンク部材6としては銅、アルミニウム等の金属やこれらの合金、またはアルミナ等のセラミックを用いることができる。
本実施の形態のパワーモジュールは、ヒートシンク部材6と導電部材2とを接着する絶縁シートの硬化体77が、従来の絶縁性熱伝導性樹脂シートにはない優れた熱伝導性と接着性と絶縁性を有しており、パワーモジュールの小形化と高容量化を可能にする。
また、図12に示すように、絶縁シートの硬化体77が金属製ヒートシンク部材またはアルミナなどの絶縁板を覆うようすると、モールド樹脂10との熱膨張率差が小さくできるため剥離を防止できる。
また、上記絶縁シートは、高熱伝導率が達成できるのでヒートシンク部材6を兼ねて良好な放熱特性を示すことができ、図13に示すように、図5に示す絶縁シート7の硬化体77がヒートシンク部材を兼ねた一層構造にすることも可能であり、モールド樹脂10との熱膨張率差が小さくできる。このためクラックの発生などもより抑制できる。
【0022】
実施の形態9.
図14は、本発明の実施の形態9のパワーモジュールの構成図であり、ケースタイプのパワーモジュールである。
つまり、ヒートシンク部材6と、ヒートシンク部材6の表面に設けられた回路基板8と、この回路基板8に搭載された電力半導体素子1と、ヒートシンク部材6の周縁部に接着されたケース9と、ケース内に注入され回路基板8および電力半導体素子1などを封止する注型樹脂4と、ヒートシンク部材6の回路基板8が設けられた面に対向する反対側の面に接着して実施の形態1〜7の絶縁シートの硬化体77設けられ、この硬化体77によりヒートシンク部材6とヒートスプレッダー11が接着している。
本実施の形態のパワーモジュールは、ヒートシンク部材6とヒートスプレッダー11とを接着する絶縁シートの硬化体77が、従来の絶縁性熱伝導性樹脂シートにはない優れた熱伝導性と接着性と絶縁性を有しており、パワーモジュールの小形化と高容量化を可能にする。
【実施例】
【0023】
実施例1.
表1に示すようにビスフェノールA型エポキシ樹脂{商品名:エピコート828,ジャパンエポキシレジン(株)製}100重量部および硬化促進剤の1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール{商品名:キュアゾール2PN−CN,四国化成工業(株)製}1重量部からなる接着剤成分に200重量部のメチルエチルケトンを添加し、次いで扁平形状充填材として窒化ホウ素7μm{商品名:GP,電気化学工業(株)製}143重量部、粒子状充填材として窒化ケイ素5μm{商品名:SN−7,電気化学工業(株)製}201重量部の混合からなる充填部材を添加して混合し3本ロールで混練してから真空脱泡し絶縁シート組成物Aを得る。
なお、絶縁シート組成物Aにおける、メチルエチルケトンを除く接着剤成分および充填部材の全体積に対する充填部材の閉める割合(充填部材/絶縁シート)は60体積%である。また窒化ホウ素と窒化ケイ素の体積比率は1:1である。
【0024】
【表1】
【0025】
上記絶縁シート組成物Aを厚さ100μmの片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し、30分静置して充填部材を沈降させた後、110℃で5分間加熱乾燥し、上記絶縁シート材料組成物A塗膜面に別のポリエチレンテレフタレートシートを設けてはさみ、厚さが55μmのBステージ状態の積層体を作製する。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれのポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面をはがし、図10に示すように、剥した面を合わせて130℃で80kgf/cm2の圧力で真空プレスして全厚が約200μmの本発明の実施例の絶縁シートを得、上記絶縁シートの厚さ方向の熱伝導率を測定して結果を表2に示す。なお、熱伝導率はレーザーフラッシュ法で測定した。
また、上記と同様にして作製した絶縁シートを2mm厚の銅板に挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で銅板と絶縁シートとの引張強度を測定した。また上記絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
実施例2.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、実施例1と同様にして表1の絶縁シート組成物Bを調整する。なお、絶縁シート組成物Bにおける窒化ホウ素と窒化ケイ素の体積比率は上記絶縁シート組成物Aと同様1:1であり、絶縁シート組成物における、メチルエチルケトンを除く接着剤成分および充填部材の全体積に対する充填部材の閉める割合(充填部材/絶縁シート)を表1に示すように調整することにより、下記のようにして得られる本実施例の絶縁シート内の熱伝導率を上記実施の形態に示す所定の範囲に調整することができる。
絶縁シート組成物Bを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し、110℃で5分間加熱乾燥して35μm厚の絶縁シートB層(接着面領域となる層)を得、さらにその上に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布して90μm厚の絶縁シートA層(内部領域となる層)を積層してBステージ状態の積層体を作製した。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの絶縁シートA層面を合わせて図9(b)に示す積層体を得、これを130℃で80kgf/cm2の圧力で真空プレスして全厚が約210μmの本発明の実施例の絶縁シートを得た。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価し、2mm厚の銅板に上記と同様にして作製した絶縁シートを挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また上記絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に示す。
【0028】
実施例3.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、絶縁シート組成物Bと絶縁シート組成物Cを調整した。なお、絶縁シート組成物Cにおける窒化ホウ素と窒化ケイ素の体積比率は上記絶縁シート組成物Aと同様1:1であり、絶縁シート組成物における、メチルエチルケトンを除く接着剤成分および充填部材の全体積に対する充填部材の閉める割合(充填部材/絶縁シート)を表1に示すように調整することにより、本実施例の絶縁シート内の熱伝導率を上記実施の形態に示す所定の範囲に調整することができる。
まず、絶縁シート組成物Cを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し約5〜7μm厚の絶縁シートC層を得た。さらにその上層に絶縁シート組成物Bをドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し25μm厚の絶縁シートB層を得た。さらにその上層に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布し加熱乾燥し85μm厚の絶縁シートA層を積層してBステージの積層体を作製した。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの縁シートA層面を合わせて130℃で真空プレスし全厚が220μmの本発明の実施例の絶縁シートを得た。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価し、上記と同様にして作製した絶縁シートを2mm厚の銅板に挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に記した。
【0029】
実施例4.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、絶縁シート組成物Bを調整した。
ついで得られた絶縁シート組成物Bを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し、さらにその上層に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布し加熱乾燥し実施例2と同じ厚さのBステージの積層体を得た。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの絶縁シートA層面の間に、1mm間隔に直径0.5mmの貫通孔を有する50μm厚の銅シートをはさむようにして130℃で真空プレスし図7(b)の形態で示される全厚が220μmの本発明の実施例の絶縁シートを作製した。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価した。また2mm厚の銅板上に上記と同様にして作製した絶縁シートを挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に示す。
【0030】
実施例5.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、絶縁シート組成物Bを調整した。
ついで得られた絶縁シート組成物Bを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し、さらにその上層に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布し加熱乾燥し実施例2と同じ厚さのBステージの積層体を得た。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの絶縁シートA層面の間に、2mm間隔に直径1mmの貫通孔を有する100μm厚のアルミナシートをはさむようにして130℃で真空プレスし全厚が300μmの本発明の実施例の絶縁シートを作製した。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価し、2mm厚の銅板に上記と同様にして作製した絶縁シートを挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また絶縁シートの破壊電界も測定した。結果を表2に記した。
【0031】
実施例6.
表1に示す絶縁シート組成物Aと、絶縁シート組成物Bを調整した。
ついで得られた絶縁シート組成物Bを100μm厚の片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し110℃で5分間加熱乾燥し、さらにその上層に絶縁シート組成物Aをドクターブレード法で塗布し加熱乾燥し実施例2と同じ厚さのBステージの積層体を得た。
ついで上記Bステージ状態の積層体を2枚用意し、それぞれの絶縁シートA層面の間に、2mm間隔に直径0.5mmの貫通孔を有し、上記貫通孔の表面に銅をコーティングした0.8mm厚のガラス積層板をはさむようにして130℃で真空プレスし図8の形態で示される全厚が約1mmの本発明の実施例の絶縁シートを作製した。
得られた絶縁シートの熱伝導率を実施例1と同様に評価し、2mm厚の銅板に上記と同様にして作製した絶縁シートを挟み込んで接着性試験片を作製し、50mm/秒で引張強度を測定した。また絶縁シートの破壊電界も測定し、結果を表2に記した。
【0032】
比較例1.
表1に示す絶縁シート組成物Aを使用し、200μm厚の熱伝導性接着フィルムを作製した。
得られた熱伝導性接着フィルムを用いて熱伝導率は実施例1と同様に評価した。また2mm厚の銅板上に上記と同様にして作製した熱伝導性接着フィルムを挟み込んで接着性試験片を作製し、実施例1と同様に50mm/秒で引張強度を測定した。また熱伝導性接着フィルムの破壊電界も測定し、結果を表2に記した。
【0033】
比較例2.
表1に示す絶縁シート組成物Bを使用し、200μm厚の熱伝導性接着フィルムを作製した。
得られた熱伝導性接着フィルムを用いて熱伝導率は実施例1と同様に評価した。また2mm厚の銅板上に上記と同様にして作製した熱伝導性接着フィルムを挟み込んで接着性試験片を作製し、実施例1と同様に50mm/秒で引張強度を測定した。また熱伝導性接着フィルムの破壊電界も測定し、結果を表2に記した。
【0034】
表2から、本発明の実施例の絶縁シートは接着強度に優れるとともに熱伝導性と絶縁性を効果的に両立できることが示された。
【符号の説明】
【0035】
1 電力半導体素子、2 導電部材、6 ヒートシンク部材、7 絶縁シート、7a 接着面、7b 接着面領域、7c 内部領域、7e 積層体、17b 第1の層、17c 第2の層、10 モールド樹脂、70 接着剤成分、71,72 充填部材、73 金属シート、74 貫通孔、75 金属層、76 絶縁板、77 絶縁シートの硬化体、8 回路基板、9 ケース、11 ヒートスプレッダー。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、扁平状充填材および粒子状充填材を混在させた充填部材を具備する内部領域と、上記内部領域の少なくとも片面に、上記内部領域より小さい充填率で絶縁性充填材を含む接着面領域が設けられ、上記充填率が上記接着面領域から上記内部領域に向けて、段階的に、または傾斜的に増大して連続した層体を成し、かつ接着面領域の絶縁性充填材は、扁平状充填材のみであることを特徴とする絶縁シート。
【請求項2】
電力半導体素子と、この電力半導体素子を搭載した導電部材と、この導電部材の上記電力半導体素子を搭載した面と反対側の面に着設した請求項1に記載の絶縁シートの硬化体と、この絶縁シートの硬化体に着設したヒートシンク部材とを備えたパワーモジュール。
【請求項3】
電力半導体素子と、この電力半導体素子を搭載した回路基板と、この回路基板を設けたヒートシンク部材と、このヒートシンク部材の周縁部に接着されたケースと、このケース内に注入され上記回路基板および上記電力半導体素子を封止する注型樹脂と、上記ヒートシンク部材の上記回路基板が設けられた面の反対側の面に着設した請求項1に記載の絶縁シートの硬化体と、この絶縁シートの硬化体に着設したヒートスプレッダーとを備えたパワーモジュール。
【請求項1】
熱硬化性樹脂、扁平状充填材および粒子状充填材を混在させた充填部材を具備する内部領域と、上記内部領域の少なくとも片面に、上記内部領域より小さい充填率で絶縁性充填材を含む接着面領域が設けられ、上記充填率が上記接着面領域から上記内部領域に向けて、段階的に、または傾斜的に増大して連続した層体を成し、かつ接着面領域の絶縁性充填材は、扁平状充填材のみであることを特徴とする絶縁シート。
【請求項2】
電力半導体素子と、この電力半導体素子を搭載した導電部材と、この導電部材の上記電力半導体素子を搭載した面と反対側の面に着設した請求項1に記載の絶縁シートの硬化体と、この絶縁シートの硬化体に着設したヒートシンク部材とを備えたパワーモジュール。
【請求項3】
電力半導体素子と、この電力半導体素子を搭載した回路基板と、この回路基板を設けたヒートシンク部材と、このヒートシンク部材の周縁部に接着されたケースと、このケース内に注入され上記回路基板および上記電力半導体素子を封止する注型樹脂と、上記ヒートシンク部材の上記回路基板が設けられた面の反対側の面に着設した請求項1に記載の絶縁シートの硬化体と、この絶縁シートの硬化体に着設したヒートスプレッダーとを備えたパワーモジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−54604(P2012−54604A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246651(P2011−246651)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【分割の表示】特願2007−253973(P2007−253973)の分割
【原出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【分割の表示】特願2007−253973(P2007−253973)の分割
【原出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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