説明

絶縁セラミックとそれを用いたセラミックヒータおよびヒータ一体型素子。

【課題】高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを兼ね備えた絶縁セラミックと、前記絶縁セラミックを用いたセラミックヒータと、前記セラミックヒータを組み込んだ、酸素センサ等のヒータ一体型素子とを提供する。
【解決手段】絶縁セラミックは、平均粒径DAL=2.7〜5.9μmのAl23の結晶粒子58.8〜96質量%と、平均粒径DZR=0.25〜0.48μmのZrO2の結晶粒子3.8〜40質量%とを含有している。セラミックヒータ1は、前記絶縁セラミックからなる絶縁層2中に、金属発熱体3を埋設した。ヒータ一体型素子は、前記セラミックヒータを組み込んだ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁セラミックと、前記絶縁セラミックからなる絶縁層を有するセラミックヒータと、前記セラミックヒータを組み込んだヒータ一体型素子とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の加熱用ヒータや、石油ファンヒータの気化器のヒータ、温水ヒータ、あるいは酸素センサ等のガスセンサと一体化される加熱用ヒータ等として、絶縁セラミックからなる絶縁層中に、金属発熱体が埋設されたセラミックヒータが利用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
前記のうちガスセンサ、特に、自動車等の内燃機関において、排ガスの検知に用いる酸素センサは、例えば、平板状の固体電解質基板の両面に、それぞれ、基準電極と測定電極とを形成すると共に、前記固体電解質基板の、基準電極を形成した面側に、加熱用ヒータとしての平板状のセラミックヒータを、スペーサを介することで、前記基準電極を空気と接触させるための空間を設けた状態で、積層して、一体化した構造等に形成される。
【0004】
前記ヒータ一体型の酸素センサは、セラミックヒータに通電して加熱することで、固体電解質基板の、基準電極と測定電極とで挟まれた検知部を、例えば800〜1000℃に加熱すると共に、基準電極を空間内の空気と接触させながら、測定電極を、内燃機関から出た排ガスと接触させて、前記排ガス中に含まれる酸素濃度を測定し、その結果をもとに、内燃機関に供給する空気と燃料の供給量を調整して、内燃機関での燃料の燃焼状態を制御することで、排ガス中に含まれるCO、HC、NOx等の有害成分を低減させるために用いられる。
【0005】
セラミックヒータの絶縁層を形成する絶縁セラミックとしては、通常、Al23系セラミックが用いられる。しかし、Al23系セラミックからなる絶縁層を有するセラミックヒータは、Al23の靭性が低く、熱衝撃に弱いことから、構造上の制約が多く、例えば、1000℃を超えるような高温の環境下で使用した際や、酸素センサの起動時間を短縮するために、急速に昇温しようとした際に、絶縁層が破損するのを防止することを考慮すると、セラミックヒータの形状が、単純な平板状等に限定されるという問題があった。
【0006】
特許文献4には、セラミックヒータの絶縁層を、ZrO2系セラミックからなる基材の表面に、Al23系セラミックからなる表層を被覆した複合構造に形成することが記載されている。ZrO2は、Al23に比べて絶縁性が低いものの、セラミックの強度や熱衝撃に対する耐性(耐熱衝撃性)を高めるために機能することが知られている。すなわち、ZrO2は、セラミック中に、正方晶系の状態で存在することで、前記セラミックに衝撃が加えられた際に、単斜晶系に相転位して、クラックの進展を抑制して、強度や耐熱衝撃性を高める働きをする。
【0007】
そのため、前記複合構造とすれば、ZrO2による高い強度および良好な耐熱衝撃性と、Al23による絶縁性の両方の特性に優れた絶縁層を有するセラミックヒータを得ることができると考えられる。しかし、実際には、Al23とZrO2は、熱膨張係数が大きく異なるため、前記複合構造では、焼成時に、Al23の表層がはく離する問題を生じるおそれがある。
【0008】
そこで、Al23粉末とZrO2粉末とを単純に混合した混合粉末を焼結させて、絶縁層を形成することが検討されるが、ZrO2が、正方晶系から相変位するのを抑制して、絶縁層に十分な強度や耐熱衝撃性を付与することを考慮すると、ZrO2の結晶粒子を、前記絶縁セラミック中に、できるだけ微細に分散させる必要がある。
【0009】
そのためには、できるだけ微細なZrO2粉末を使用すればよいが、ZrO2粉末の粒径が、Al23粉末に比べて小さすぎる場合には、焼結によって形成されたセラミックが、Al23の結晶粒子からなり、前記結晶粒子の粒界に、ZrO2の微細な結晶粒子が凝集した構造をとりやすく、前記構造となった場合には、凝集して連続したZrO2の結晶粒子によって、セラミックの絶縁性が低下するという問題を生じる。
【特許文献1】特開平3−149791号公報
【特許文献2】特表2002−540399号公報
【特許文献3】特開2002−236104号公報
【特許文献4】特開2005−158645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを兼ね備えた絶縁セラミックと、前記絶縁セラミックを用いたセラミックヒータと、前記セラミックヒータを組み込んだ、酸素センサ等のヒータ一体型素子とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、発明者は、セラミックのもとになるAl23粉末とZrO2粉末の粒径、焼結助剤等の添加剤の種類や量、焼結温度等を調整することで、絶縁性の高いAl23の結晶粒子からなるセラミック中に、粒径の小さいZrO2の結晶粒子を、凝集させることなく、できるだけばらばらに分散させて、前記ZrO2による強度や耐熱衝撃性を高める効果と、Al23による絶縁性を維持する効果とを両立させるために必要な、両成分の結晶粒子の粒径の範囲と、前記両成分の結晶粒子が、セラミック中に存在する存在比率の範囲とを検討した。
【0012】
その結果、Al23の結晶粒子の平均粒径DALを2.7〜5.9μm、存在比率を58.8〜96質量%とすると共に、ZrO2の結晶粒子の平均粒径DZRを0.25〜0.48μm、存在比率を3.8〜40質量%とすればよいことを見出した。したがって、請求項1記載の発明は、平均粒径DAL=2.7〜5.9μmのAl23の結晶粒子58.8〜96質量%と、平均粒径DZR=0.25〜0.48μmのZrO2の結晶粒子3.8〜40質量%とを含有していることを特徴とする絶縁セラミックである。
【0013】
また、絶縁セラミックの絶縁性を、さらに向上することを考慮すると、前記絶縁セラミック中の、Al23の結晶粒子の平均粒径DALと、ZrO2の結晶粒子の平均粒径DZRとの比DAL/DZRは、請求項2に記載したように7.4以上であるのが好ましい。また、絶縁セラミックの強度および耐熱衝撃性と、絶縁性とを、より一層、向上することを考慮すると、前記絶縁セラミックは、請求項3に記載したように、SiO2を0.01〜0.3質量%、MgOおよびCaOを合計で0.01〜1質量%の範囲で含有しているか、あるいは、請求項4に記載したように、SiO2を0.01〜0.3質量%、MgOおよびCaOを合計で0.01〜0.5質量%、Y23を2質量%以下の範囲で含有しているのが好ましい。
【0014】
請求項5記載の発明は、前記本発明の絶縁セラミックからなる絶縁層中に、金属発熱体が埋設されていることを特徴とするセラミックヒータである。また、請求項6記載の発明は、前記セラミックヒータを組み込んだことを特徴とするヒータ一体型素子である。請求項5、6記載の発明によれば、絶縁層が、先に説明したように、高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを兼ね備えた、本発明の絶縁セラミックによって形成されるため、前記絶縁層が、たとえ、どのように複雑な形状に形成されていても、1000℃を超えるような高温の環境下で使用した際や、急速に昇温しようとした際に、破損するのを、これまでよりも確実に、防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを兼ね備えた絶縁セラミックと、前記絶縁セラミックを用いたセラミックヒータと、前記セラミックヒータを組み込んだ、酸素センサ等のヒータ一体型素子とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
《絶縁セラミック》
本発明の絶縁セラミックは、Al23粉末およびZrO2粉末と、必要に応じて、焼結助剤等の添加剤を含む成形材料を、従来同様に焼成して形成され、平均粒径DAL=2.7〜5.9μmのAl23の結晶粒子58.8〜96質量%と、平均粒径DZR=0.25〜0.48μmのZrO2の結晶粒子3.8〜40質量%とを含有していることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の絶縁セラミックにおいて、Al23の結晶粒子の平均粒径DALが2.7〜5.9μmの範囲に限定されるのは、平均粒径DALが前記範囲未満では、Al23による、絶縁性を維持する効果が得られず、前記範囲を超える場合には、強度や対熱衝撃性が低下するためである。なお、絶縁セラミックに、高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを付与する効果を、より一層、向上することを考慮すると、Al23の結晶粒子の平均粒径DALは、添加剤としてY23を含まない系では、前記範囲内でも2.9〜3.8μmであるのが好ましく、Y23を含む系では、前記範囲内でも3.1〜4μmであるのが好ましい。
【0018】
また、ZrO2の結晶粒子の平均粒径DZRが0.25〜0.48μmの範囲に限定されるのは、平均粒径DZRが前記範囲未満では、ZrO2による、強度および耐熱衝撃性を高める効果が得られず、前記範囲を超える場合には、絶縁性が低下するためである。なお、絶縁セラミックに、高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを付与する効果を、より一層、向上することを考慮すると、ZrO2の結晶粒子の平均粒径DZRは、添加剤としてY23を含まない系では、前記範囲内でも0.33〜0.39μmであるのが好ましく、Y23を含む系では、前記範囲内でも0.31〜0.38μmであるのが好ましい。
【0019】
なお、本発明では、Al23およびZrO2の結晶粒子の平均粒径を、形成した絶縁セラミックの表面を鏡面加工した後、絶縁セラミックの焼成温度より50〜100℃低い温度で10分間、熱処理して粒界をエッチングした後、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した、倍率3000倍の写真を画像処理して、Al23およびZrO2の結晶粒子、それぞれ50個ずつの直径の最大値を測定した結果の算術平均でもって表すこととする。
【0020】
本発明の絶縁セラミックにおいて、Al23の結晶粒子の存在比率が58.8〜96質量%に限定されるのは、存在比率が前記範囲未満では、Al23による、絶縁性を維持する効果が得られず、前記範囲を超える場合には、強度や耐熱衝撃性が低下するためである。なお、絶縁セラミックに、高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを付与する効果を、より一層、向上することを考慮すると、Al23の結晶粒子の存在比率は、前記範囲内でも70〜85質量%であるのが好ましい。
【0021】
また、ZrO2の結晶粒子の存在比率が3.8〜40質量%に限定されるのは、存在比率が前記範囲未満では、ZrO2による、強度や耐熱衝撃性を高める効果が得られず、前記範囲を超える場合には、絶縁性が低下するためである。なお、絶縁セラミックに、高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを付与する効果を、より一層、向上することを考慮すると、ZrO2の結晶粒子の存在比率は、前記範囲内でも19.8〜25質量%であるのが好ましい。
【0022】
なお、本発明では、Al23およびZrO2の結晶粒子の存在比率は、前記Al23およびZrO2の標準試料から作成した検量線を用いたX線マイクロアナライザ分析(EPMA)によって測定した結果で持って表すこととする。
【0023】
ZrO2の結晶粒子は、先に説明したように、正方晶系から単斜晶系に相転位することで、絶縁セラミックの強度や耐熱衝撃性を高める働きをするため、ZrO2の結晶粒子に占める、正方晶系の比率が、できるだけ高いことが好ましい。正方晶系の比率は、X線回折測定の結果から求めることができる。すなわち、正方晶系の比率Rtet(%)は、前記X線回折測定における正方晶系の(111)面の回折強度Itet1と、単斜晶系の(111)面の回折強度Imn1と、単車晶系の(−111)面の回折強度Imn2とから、式(1):
tet(%)=Itet1×100/(Itet1+Imn1+Imn2) (1)
によって求めた。
【0024】
Al23の結晶粒子の平均粒径DALと、ZrO2の結晶粒子の平均粒径DZRとの比DAL/DZRは7.4以上、特に10.6以上であるのが好ましい。比DAL/DZRが前記範囲未満では、絶縁セラミックの絶縁抵抗が低くなって、十分な絶縁性を付与できないおそれがある。これに対し、比DAL/DZRが前記範囲以上であれば、室温(5〜35℃)での絶縁抵抗を5000MΩ以上、500℃での体積固有抵抗を106Ω・cm以上として、絶縁セラミック層に、十分な絶縁性を付与することができる。
【0025】
前記比DAL/DZRの上限は、20以下であるのが好ましい。比DAL/DZRが前記範囲を超える場合には、先に説明したように、セラミックが、Al23の結晶粒子からなり、前記結晶粒子の粒界に、ZrO2の微細な結晶粒子が凝集した構造をとりやすくなり、前記構造をとることで、セラミックの絶縁性が、却って低下するおそれがある。
【0026】
絶縁セラミックは、焼結助剤等の添加剤成分として、SiO2を0.01〜0.3質量%、MgOおよびCaOを合計で0.01〜1質量%の範囲で含有してもよい。これにより、高い強度や良好な耐熱衝撃性を維持しながら、絶縁セラミックの、室温での絶縁抵抗を向上すると共に、500℃での体積固有抵抗を106Ω・cm以上として、絶縁セラミック層に、十分な絶縁性を付与することができる。
【0027】
絶縁セラミックは、SiO2、MgOおよびCaOに加えて、Y23を2質量%以下の範囲で含有してもよい。Y23を前記範囲で含有させると、前記Y23が、ZrO2と反応して、前記ZrO2の、正方晶系の比率Rtet(%)を高める働きをするため、絶縁セラミックの強度特性を安定させることができる。但し、Y23の含有割合が2質量%を超える場合には、ZrO2が立方晶系を生じやすくなるため、前記効果を得ることができなくなるおそれがある。なお、Y23の含有割合の下限は、前記効果を十分に発現させることを考慮すると0.5質量%以上であるのが好ましい。
【0028】
絶縁セラミックがY23を含有する場合、SiO2の好適な含有割合の範囲は0.01〜0.3質量%と変わらないが、MgOおよびCaOの合計の含有割合は、絶縁セラミックの、高い強度と良好な耐熱衝撃性とを維持することを考慮すると0.01〜0.5質量%であるのが好ましい。
【0029】
絶縁セラミックは、Na等のアルカリ金属の、例えばセラミックヒータのマイナス極側への移動と、前記マイナス極での抵抗の増加とを防止するために、前記アルカリ金属(Na、K、Li)の含有量が、いずれも100ppm以下、特に50ppm以下であるのが好ましい。また、絶縁セラミックは、強度や耐熱衝撃性を向上することを考慮すると、相対密度が80%以上で、かつ、気孔率が5%以下の緻密な構造を有しているのが好ましい。
【0030】
本発明の絶縁セラミックによれば、Al23の結晶粒子、およびZrO2の結晶粒子の平均粒径と存在比率とを、先に説明した範囲内とすることによって、絶縁性の高いAl23の結晶粒子からなるセラミック中に、粒径の小さいZrO2の結晶粒子を、凝集させることなく、できるだけばらばらに分散させて、前記ZrO2による強度や耐熱衝撃性を高める効果と、Al23による絶縁性を維持する効果とを両立させることが可能となる。
【0031】
《セラミックヒータI》
図1は、本発明のセラミックヒータの一例としての、平板状のセラミックヒータ1の外観を示す斜視図、図2、図3は、それぞれ、図1のセラミックヒータ1を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【0032】
図1を参照して、この例のセラミックヒータ1は、本発明の絶縁セラミックからなる、平面形状が矩形状で、かつ、厚みが一定に形成された絶縁層2と、前記絶縁層2内に埋設された金属発熱体3と、同じく絶縁層2内に埋設された、前記金属発熱体3に通電するための2つのリード線4とを備えている。
【0033】
このうち、2つのリード線4は、それぞれ、絶縁層2の矩形の、長さ方向の一方の端部(図1において手前側の端部)から他方の端部(奥側の端部)へ向けて、互いに平行に形成さており、金属発熱体3は、一方のリード線4の、前記奥側の先端から、さらに奥側の端部方向へ伸びて、前記奥側の端部の近傍で手前側へ折り返して、他方のリード線4の、奥側の先端に接続されると共に、折り返しまでの途中の部分、および折り返しからあとの部分が、それぞれ、蛇行〔ミアンダ(meander)〕形状に形成されている。
【0034】
また、リード線4の、手前側の先端は、前記絶縁層2の、図1において上側の面に形成された2つの電極パッド5と、それぞれ別個に、絶縁層2に形成されたスルーホール6に充てんされたビア導体7を介して、電気的に接続されている。前記各部のうち、金属発熱体3は、Pt、Rh、W、Mo、Re等の金属、前記金属の2種以上の合金、または前記金属を少なくとも1種含む2種以上の金属の合金によって形成することができる。
【0035】
また、金属発熱体3を形成する金属または合金には、前記金属発熱体3の抵抗値を調整すると共に、金属発熱体3と、絶縁層2との接合性を向上するために、Al23等の無機物を含有させてもよい。無機物の含有割合は、金属発熱体3を形成する金属または合金と、無機物との総量中の2〜45体積%、特に5〜30体積%であるのが好ましいが、金属発熱体3に求められる抵抗値に応じて、適宜、変更することができる。
【0036】
リード線4は、金属発熱体3と同様の金属や合金によって形成することができる。リード線4の抵抗値を調整すると共に、リード線4と、絶縁層2との接合性を向上するために、無機物を含有させてもよい点も同様である。無機物の含有割合は、リード線4の抵抗値を適正に保って、前記リード線4を介して金属発熱体3に通電した際に、金属発熱体3を急速に発熱させることを考慮すると、リード線4を形成する金属または合金と、無機物との総量中の5〜30体積%、特に10〜20体積%であるのが好ましい。
【0037】
電極パッド5、およびビア導体7は、それぞれ、Au、Ag、Cu、Al等の金属、前記金属の2種以上の合金、または前記金属を少なくとも1種含む2種以上の金属の合金によって形成することができる。また、電極パッド5、ビア導体7を形成する金属または合金には、前記電極パッド5、ビア導体7の抵抗値を調整すると共に、電極パッド5、ビア導体7と、絶縁層2との接合性を向上するために、Al23等の無機物を含有させてもよい。
【0038】
無機物の含有割合は、電極パッド5の場合、金属または合金と、無機物との総量中の30体積%以下、特に5〜25体積%であるのが好ましい。また、ビア導体7の場合は、金属または合金と、無機物との総量中の50体積%以下、特に10〜40体積%であるのが好ましい。
【0039】
平板状のセラミックヒータ1は、下記の手順で製造することができる。すなわち、図2を参照して、本発明の絶縁セラミックのもとになる、Al23粉末、ZrO2粉末、さらに必要に応じて、SiO2、MgO、CaO、Y23等の添加剤の粉末を、アクリル系樹脂やブチラール系樹脂等の有機バインダ、分散剤、トルエン等の分散媒等と混合してスラリーを調製し、前記スラリーを、ドクターブレード法、押出成形法、静水圧成形法(ラバープレス法)、プレス成形法等の方法によってシート状に成形したのち、乾燥させて、所定の厚みを有するグリーンシート8を作製する。
【0040】
スラリーに含有させるAl23粉末の平均粒径は0.2〜1.0μmであるのが好ましく、ZrO2粉末の平均粒径は0.2〜0.5μmであるのが好ましい。また、作製するグリーンシート8の厚みは、製造するセラミックヒータ1の、絶縁層2の厚みに応じて適宜、設定することができ、50μm〜0.5mmが好ましい。
【0041】
次に、金属発熱体3、およびリード線4のもとになる、金属粉末と無機物の粉末とを、アクリル系樹脂やエチルセルロース等の有機バインダ、分散剤、ジブチルフタレート(DBP)等の分散媒等と混合して、導電ペーストを調製する。金属粉末の平均粒径は1〜3μmであるのが好ましく、無機物の粉末の平均粒径は0.2〜1.0μmであるのが好ましい。また、特に、金属発熱体3のもとになる導電ペーストは、前記金属発熱体3の耐久性を向上することを考慮すると、金属粉末および無機物の粉末の分散粒径を、グラインドゲージによる測定値で20μm以下、特に15μmとしておくのが好ましい。
【0042】
次に、先に作製したグリーンシート8の片面に、前記導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって、金属発熱体3のもとになる塗膜9と、2つのリード線4のもとになる塗膜10とを、両者の端部同士が重なるように、順にパターン形成した後、塗膜を乾燥させる。金属発熱体3のもとになる塗膜9の線幅は、印刷の精度等を考慮して0.15mm以上、特に0.2mm以上であるのが好ましい。
【0043】
次に、図3を参照して、別に用意した、2つのリード線4の、それぞれ手前側の先端に対応する位置に、1つずつ、スルーホール6を形成した、同じスラリーからなるもう1枚のグリーンシート8を、先のグリーンシート8の、塗膜9、10を形成した上に、有機接着剤を介して接着した後、積層方向に一定の圧力をかけて圧着する。
【0044】
次に、前記積層体の上面に露出したスルーホール6内に、ビア導体7のもとになる導電ペーストを、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって充てんした後、その上に、電極パッド5のもとになる導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって、前記電極パッド5のもとになる塗膜を形成して乾燥させた状態で焼成して、有機バインダや有機接着剤等の有機物を除去すると共に、Al23粉末、ZrO2粉末、金属粉末等を焼結させた後、必要に応じて、焼結体のうち絶縁層2の外形を、先に説明した矩形状に仕上げると、図1に示す平板状のセラミックヒータ1が製造される。
【0045】
焼成は、Al23粉末等を焼結させることができる、任意の温度で実施することができるが、特に1200〜1700℃であるのが好ましい。また、焼成は、任意の雰囲気中で実施することができるが、特に、金属発熱体3やリード線4のもとになる金属粉末がW、Mo、Reを含む場合は、前記金属粉末の酸化を防止するために、例えばH2を含む還元性雰囲気中で焼成するのが好ましい。
【0046】
なお、絶縁層2のエッジ部は、焼成時や発熱時の膨張、収縮による応力が集中して破損するのを防止することを考慮すると、図示していないが、例えば、焼成前に面取り仕上げしておくのが好ましい。また、スルーホール6内に、ビア導体7のもとになる導電ペーストを充てんして乾燥させた段階の積層体を焼成後に、先に説明した金属や合金からなる被膜を、湿式めっきや真空蒸着法等によってパターン形成して電極パッド5を形成してもよい。また、焼成によって形成した電極パッド5上に、同様の金属や合金からなる被膜を、湿式めっきや真空蒸着法等によって積層してもよい。
【0047】
《酸素センサ》
図4は、図1のセラミックヒータ1を組み込んだ、ヒータ一体型素子としての酸素センサ11の外観を示す斜視図、図5は、前記酸素センサ11の、矩形の幅方向の断面を示す断面図である。また、図6、図7は、それぞれ、図4の酸素センサ11を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【0048】
図4および図5を参照して、この例の酸素センサ11は、いわゆる理論空燃比センサと呼ばれるものであって、セラミックヒータ1の平面形状と一致する矩形平板状に形成された固体電解質基板12と、前記固体電解質基板12の、両図において下面に形成された基準電極13と、上面に形成された測定電極14とを備えていると共に、前記固体電解質基板12の下面側に、スペーサ15を介することで、基準電極13を空気と接触させるための空間16を設けた状態で、前記セラミックヒータ1を積層して、一体化した構造に形成されている。
【0049】
固体電解質基板12を形成する固体電解質材料としては、例えばZrO2を含有すると共に、前記ZrO2の安定化剤として、Y23、CeO2、Yb23、Sc23、Sm23、Nd23、Dy23等の希土類の酸化物を、酸化物換算で1〜30モル%、特に3〜15モル%の割合で含有する部分安定化ZrO2セラミックまたは安定化ZrO2セラミックが挙げられる。
【0050】
前記セラミックには、焼結性を高めるために、Al23やSiO2を含有させてもよいが、これらの成分を多量に含有させると、固体電解質基板12の、高温でのクリープ特性が低下するため、両成分の含有割合は、総量で5質量%以下、特に2質量%いかであるのが好ましい。また、ZrO2中のZrの1〜20原子%をCeで置換することで、固体電解質基板12のイオン導電性を高めて、酸素センサの応答性を向上させることもできる。
【0051】
基準電極13、および測定電極14は、いずれも、Ptや、前記Ptと、Rh、Pd、Ru、Au等との合金によって形成するのが好ましい。また、両電極13、14には、酸素センサ11の動作時に、前記両電極13、14を形成するPtまたはその合金の結晶粒の成長を防止すると共に、Ptと固体電解質と測定対象としてのガスとの、酸素センサ11の応答性に係わる、いわゆる3相界面の接点を増大するため、先に説明した固体電解質材料を1〜50体積%、特に10〜30体積%の割合で含有させてもよい。両電極13、14は、図の例では矩形状に形成しているが、楕円形その他の平面形状に形成しても良い。両電極13、14の厚みは、共に3〜20μm、特に5〜10μmであるのが好ましい。
【0052】
図4、図7を参照して、スペーサ15は、空間16を、矩形の、各図において手前側の端部で外部に開放し、かつ、両側と奥側の端部で閉じるように、略コ字状に形成されており、基準電極13は、空間16の再奥部に位置するように、固体電解質基板12の下面の、矩形の奥側の端部の近傍に配設されている。スペーサ15は、セラミックヒータ1による、酸素センサの加熱温度に耐えうる任意の材料によって形成することができるが、特に、前記セラミックヒータ1の絶縁層2と同じく、本発明の絶縁セラミックによって形成するのが好ましい。
【0053】
基準電極13は、前記基準電極13の縁部から、固体電解質基板12の下面を、矩形の手前側の端部近傍まで延設されたリード線17と、前記固体電解質基板12の、矩形の手前側の端部近傍に形成されたスルーホール18に充てんされたビア導体19とを介して、固体電解質基板12の上面の、矩形の手前側の端部近傍に形成された電極パッド20と電気的に接続されている。
【0054】
また、測定電極14は、固体電解質基板12の上面の、前記固体電解質基板12を挟んで、基準電極13と重なる位置に配設されていると共に、前記固体電解質基板12の上面を、矩形の手前側の端部近傍まで延設されたリード線21を介して、固体電解質基板12の上面の、矩形の手前側の端部近傍に、電極パッド20と並べて形成された電極パッド22と電気的に接続されている。
【0055】
さらに、図5を参照して、固体電解質基板12の上面には、排気ガスによる、測定電極14の被毒を防止するために、電極保護層としてセラミック多孔質層23を形成してもよい。セラミック多孔質層23としては、ZrO2、Al23、γ−Al23、およびスピネル等からなり、気孔率が10〜50%で、かつ厚みが10〜800μm程度の層が挙げられる。
【0056】
前記各部を備えた酸素センサ11は、セラミックヒータ1に通電した際に、これまでよりも急速に昇温することや、内燃機関等への取り付けスペースを、できるだけ小さくすること等を考慮すると、全体の厚みが0.8〜1.5mm、特に1.0〜1.2mmで、矩形の長さ方向の全長が45〜55mm、特に45〜50mmであるのが好ましい。
【0057】
酸素センサ11は、下記の手順で製造することができる。すなわち、図6を参照して、固体電解質基板12のもとになる、ZrO2粉末を含む固体電解質材料を、アクリル系樹脂やブチラール系樹脂等の有機バインダ、分散剤、トルエン等の分散媒等と混合してスラリーを調製し、前記スラリーを、ドクターブレード法、押出成形法、静水圧成形法(ラバープレス法)、プレス成形法等の方法によってシート状に成形したのち、乾燥させて、所定の厚みを有するグリーンシート24を作製する。
【0058】
次に、基準電極13および測定電極14のもとになる、Ptまたはその合金の粉末を、必要に応じて固体電解質材料の粉末と共に、アクリル系樹脂やエチルセルロース等の有機バインダ、分散剤、トルエン等の分散媒等と混合して、導電ペーストを調製する。Ptまたはその合金の粉末の平均粒径は1〜3μmであるのが好ましく、固体電解質材料の粉末の平均粒径は0.2〜1.0μmであるのが好ましい。
【0059】
次に、先に作製したグリーンシート24に、スルーホール18を形成すると共に、前記スルーホール18内に、前記導電ペーストを、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって充てんして乾燥させた後、グリーンシート24の片面に、前記導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって、基準電極13のもとになる塗膜25と、リード線17のもとになる塗膜26とを、両者の端部同士が重なると共に、塗膜26の手前側の端部が、スルーホール18内に充てんした導電ペーストに重なるように、順にパターン形成した後、塗膜を乾燥させる。
【0060】
次に、図7を参照して、前記グリーンシート24を、塗膜25、26を形成した面を下にした状態として、その下面に、スペーサ15のもとになるグリーンシート27と、先に説明した、電極パッド5のもとになる塗膜を形成する前の、セラミックヒータ1の前駆体としての積層体28とを、電極パッド5を形成する面を下にして、それぞれ、有機接着剤を介して接着するか、あるいは、有機接着剤を介してまたは介さずに、ローラ等で圧力を加えて機械的に接着する。
【0061】
次に、グリーンシート24の上面に、前記導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって、測定電極14のもとになる塗膜と、リード線21のもとになる塗膜と、電極パッド22のもとになる塗膜とを、それぞれの端部同士が重なるように、順にパターン形成すると共に、電極パッド20のもとになる塗膜を、スルーホール18内に充てんした導電ペーストに重なるようにパターン形成した後、塗膜を乾燥させる。
【0062】
さらに、積層体28の下面に、電極パッド5のもとになる導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって、前記電極パッド5のもとになる塗膜を、スルーホール6内に充てんした導電ペーストに重なるようにパターン形成して乾燥させた状態で焼成して、有機バインダや有機接着剤等の有機物を除去すると共に、Al23粉末、ZrO2粉末、固体電解質材料の粉末、金属粉末等を焼結させた後、必要に応じて、焼結体の外形を矩形状に仕上げると、図4に示す、セラミックヒータ1が一体化された酸素センサ11が製造される。
【0063】
焼成は、Al23粉末等を焼結させることができる、任意の温度で実施することができるが、特に1300〜1700℃であるのが好ましい。また、焼成は、任意の雰囲気中で実施することができるが、特に、金属発熱体3やリード線4のもとになる金属粉末がW、Mo、Reを含む場合は、前記金属粉末の酸化を防止するために、例えばH2を含む還元性雰囲気中で焼成するのが好ましい。その他の場合は、大気中または不活性ガス雰囲気中で焼成してもよい。電極保護層のセラミック多孔質層23は、ZrO2等を、固体電解質基板12の上面に、例えばプラズマ溶射法等によって堆積させて形成することができる。
【0064】
なお、酸素センサ11のエッジ部は、焼成時や発熱時の膨張、収縮による応力が集中して破損するのを防止することを考慮すると、図示していないが、例えば、焼成前に面取り仕上げしておくのが好ましい。また、焼成によって形成した電極パッド5、20、22上に、導電性に優れた金属や合金からなる被膜を、湿式めっきや真空蒸着法等によって積層してもよい。
【0065】
酸素センサ11は、先に説明したように、各層を一度に焼成して製造するのではなく、例えば、別個に焼成して形成したセラミックヒータ1と、スペーサ15と、酸素センサ11の本体としての、固体電解質基板12の両面に基準電極13、測定電極14等が形成された積層体とを、ガラス等の、適当な無機接合剤によって接合して製造してもよい。
【0066】
《セラミックヒータII》
図8は、本発明のセラミックヒータの他の例としての、円筒状のセラミックヒータ1の外観を示す一部切り欠き斜視図、図9〜図12は、それぞれ、図8のセラミックヒータ1を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【0067】
図8を参照して、この例のセラミックヒータ1は、Al23および/またはZrO2系のセラミックからなり、一端が封止された中空状の円筒管29の周囲を囲むように形成されている。前記円筒管29は、例えばAl23およびZrO2に、さらに必要に応じて、焼結助剤として、SiO2を0.01〜1.0質量%、MgOおよびCaOを合計で0.01〜3質量%、Y23、CeO2、Yb23、Sc23、Sm23、Nd23、およびDy23等の希土類の酸化物を合計で2質量%以下の割合で含有するセラミック等によって形成することができる。
【0068】
円筒管29は、前記各成分の粉末に、適宜の有機バインダ等を添加して、押出し成形、静水圧成形(ラバープレス)、プレス成形等によって成形した、前記円筒管29のもとになる前駆体を、セラミックヒータ1のもとになる前駆体と共に焼成することで、前記セラミックヒータ1と一体に形成される。
【0069】
セラミックヒータ1は、前記円筒管29の周囲を囲む円筒状の絶縁層2と、前記絶縁層2内に埋設された金属発熱体3と、同じく絶縁層2内に埋設された、前記金属発熱体3に通電するための2つのリード線4とを備えている。このうち、2つのリード線4は、それぞれ絶縁層2の円筒の、円周上の近接する位置に、軸方向の一方の端部(図8において手前側の端部)から他方の端部(奥側の端部)へ向けて、互いに平行に形成されている。
【0070】
また、金属発熱体3は、一方のリード線4の、前記奥側の先端から、さらに奥側の端部方向へ伸びて、前記奥側の端部の近傍で手前側へ折り返し、次いで再び奥側へ折り返す形状を、円筒の周方向で繰り返して、前記周方向にほぼ1周して、他方のリード線4の奥側の先端に達する蛇行〔ミアンダ(meander)〕形状に形成されている。
【0071】
また、リード線4の、手前側の先端は、前記絶縁層2の、図8において外周面に形成された2つの電極パッド5と、それぞれ別個に、絶縁層2に形成されたスルーホール6に充てんされたビア導体7を介して、電気的に接続されている。前記各部のうち、絶縁層2は、本発明の絶縁セラミックによって形成する。また、その他の部材は、先の、図1の例と同様の材料によって形成することができる。
【0072】
円筒状のセラミックヒータ1は、下記の手順で製造することができる。すなわち、図9を参照して、本発明の絶縁セラミックのもとになる各成分を含む、先に説明したスラリーを調製し、前記スラリーを、ドクターブレード法、押出成形法、静水圧成形法(ラバープレス法)、プレス成形法等の方法によってシート状に成形したのち、乾燥させて、所定の厚みを有する矩形状のグリーンシート8を作製する。
【0073】
次に、先に説明した、金属発熱体3、およびリード線4のもとになる導電ペーストを調製し、前記導電ペーストを用いて、先に作製したグリーンシート8の片面に、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって、金属発熱体3のもとになる塗膜9と、2つのリード線4のもとになる塗膜10とを、両者の端部同士が重なるように、順にパターン形成した後、塗膜を乾燥させる。
【0074】
次に、図10を参照して、別に用意した、2つのリード線4の、それぞれ手前側の先端に対応する位置に、1つずつ、スルーホール6を形成した、同じスラリーからなるもう1枚のグリーンシート8を、先のグリーンシート8の、塗膜9、10を形成した上に、有機接着剤を介して接着した後、積層方向に一定の圧力をかけて圧着する。
【0075】
次に、図11を参照して、前記積層体の上面に露出したスルーホール6内に、ビア導体7のもとになる導電ペーストを、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって充てんした後、その上に、電極パッド5のもとになる導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ロール転写法等によって、前記電極パッド5のもとになる塗膜を形成して乾燥させて積層体30を得る。
【0076】
次に、図12を参照して、前記積層体30を、電極パッド5を形成した面を下にした状態とし、その上に円筒管29を載置して、前記円筒管29を、積層体30の上で転がしながら、円筒管29の周囲に積層体30を巻きつける。その際には、両者を、アクリル系樹脂や有機溶媒等の有機接着剤を介して接着してもよいし、有機接着剤を介してまたは介さずに、ローラ等で圧力を加えて機械的に接着してもよい。巻きつけた積層体30の合わせ面は、焼成時の収縮を考慮すると、端部同士をまき重ねてもよいし、有機接着剤で接着してもよい。
【0077】
このあと、焼成して、有機バインダや有機接着剤等の有機物を除去すると共に、Al23粉末、ZrO2粉末、金属粉末等を焼結させると、図8に示す円筒管29と、その外周を囲む円筒状のセラミックヒータ1とが製造される。
【0078】
焼成は、Al23粉末等を焼結させることができる、任意の温度で実施することができるが、特に1200〜1700℃であるのが好ましい。また、焼成は、任意の雰囲気中で実施することができるが、特に、金属発熱体3やリード線4のもとになる金属粉末がW、Mo、Reを含む場合は、前記金属粉末の酸化を防止するために、例えばH2を含む還元性雰囲気中で焼成するのが好ましい。
【0079】
なお、スルーホール6内に、ビア導体7のもとになる導電ペーストを充てんして乾燥させた段階の積層体を、円筒管29の前駆体に巻きつけて焼成後に、先に説明した金属や合金からなる被膜を、湿式めっきや真空蒸着法等によってパターン形成して電極パッド5を形成してもよい。また、焼成によって形成した電極パッド5上に、同様の金属や合金からなる被膜を、湿式めっきや真空蒸着法等によって積層してもよい。
【0080】
本発明のセラミックヒータおよびヒータ一体型素子は、以上で説明した図の例のものには限定されない。例えば、本発明のセラミックヒータ1は、絶縁層2が、本発明の絶縁セラミックによって形成されていれば、平板状や円筒状以外の形状に形成することもできる。また、本発明のヒータ一体型素子の構成は、前記酸素センサ以外の、他のガスセンサにも適用することができる。
【実施例1】
【0081】
市販の、いずれも純度99.8%以上の、平均粒径2μmのAl23粉末と、平均粒径2μmのZrO2粉末と、焼結助剤としての、いずれも純度99.8%以上のSiO2粉末、MgCO3粉末、およびCaCO3粉末とを、焼成後のセラミック中における、Al23、ZrO2、SiO2、MgO、およびCaOの各成分の存在比率が、表1に示す値となるように配合し、アクリル系の有機バインダおよびトルエンを加えて混合してスラリーを調製し、前記スラリーを、ドクターブレード法によって、基板上に塗布した後、乾燥させて、厚み0.3mmのグリーンシートを作製した。
【0082】
また、平均粒径0.3μmのAl23粉末と、平均粒径2μmの白金粉末とを、両粉末の総量中の、Al23粉末の割合が20体積%となるように配合すると共に、アクリル系の有機バインダおよびDBPを加えて混合した導電ペーストを用意した。そして、図2を参照して、前記導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法により、先に作製したグリーンシート8の片面に、金属発熱体3のもとになる塗膜9と、2つのリード線4のもとになる塗膜10とを、両者の端部同士が重なるように、順に形成した。両塗膜9、10の厚みは、焼成後の金属発熱体3、およびリード線4の厚みが、共に20μmになるように設定した。
【0083】
次いで、図3を参照して、前記塗膜を乾燥させた後、リード線4の手前側の先端に対応する位置にスルーホール6が形成された、前記と同じグリーンシート8を、アクリル系の有機接着剤を介して積層した後、室温で、積層方向に10MPaの圧力をかけて圧着した。
【0084】
次いで、上側のグリーンシート8のスルーホール6に、スクリーン印刷法により、ビア導体7のもとになる、Al23粉末の割合を30体積%としたこと以外は、前記と同様にして調製した導電ペーストを充てん後、その上に、電極パッド5のもとになる、Al23粉末の割合を5体積%としたこと以外は、前記と同様にして調製した導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法により、電極パッド5となる塗膜を形成した。
【0085】
そして、大気中で、1550℃で2時間、焼成した後、その外形を、リード線4の長さ方向の長さが50mm、前記長さ方向と直交する方向の幅が4mmの矩形状に加工すると共に、前記外形のエッジ部に0.2mmのC面取りを施して、図1に示す平板状のセラミックヒータ1を製造した。製造したセラミックヒータ1を形成する絶縁層の相対密度は98%以上、気孔率は2%未満、アルカリ金属の含有量は30ppm以下であった。
【0086】
《結晶粒子の粒径測定》
製造したセラミックヒータ1の、絶縁層2が露出した表面を、鏡面加工した後、絶縁セラミックの焼成温度より50〜100℃低い温度で10分間、熱処理して粒界をエッチングした後、走査型電子顕微鏡を用いて、倍率3000倍の写真を撮影し、画像処理して、Al23およびZrO2の結晶粒子、それぞれ50個ずつの直径の最大値を測定した結果の算術平均を求めて、Al23の結晶粒子の平均粒径DALと、ZrO2の結晶粒子の平均粒径DZRとした。
【0087】
《結晶粒子の存在比率の測定》
製造したセラミックヒータ1の絶縁層2における、Al23およびZrO2の存在比率を、前記Al23およびZrO2の標準試料から作成した検量線を用いたX線マイクロアナライザ分析(EPMA)によって測定した結果から求めた。なお、Al23の密度は3.97g/cm3、ZrO2の密度は5.79g/cm3とした。測定点は、それぞれ5点とした。
【0088】
《正方晶系の比率の測定》
製造したセラミックヒータ1の絶縁層2における、ZrO2の結晶粒子に占める、正方晶系の比率Rtet(%)を、X線回折測定における正方晶系の(111)面の回折強度Itet1と、単斜晶系の(111)面の回折強度Imn1と、単車晶系の(−111)面の回折強度Imn2とから、式(1):
tet(%)=Itet1×100/(Itet1+Imn1+Imn2) (1)
によって求めた。
【0089】
《破損率の測定》
製造したセラミックヒータ1の金属発熱体3に、約25Vの電圧を印加して、室温から1100℃まで約20秒で昇温し、1100℃で1分間、保持した後、印加電圧を切って室温まで冷却する操作を1サイクルとして、10万サイクル繰り返したときの破損率を求めた。試料は、それぞれ同じものを20個ずつ作製し、破損率は、20個中、何個の試料が破損したかの百分率で表した。
【0090】
《室温での絶縁抵抗の測定》
製造したセラミックヒータ1の、金属発熱体3が埋設された部分を、5重量%のメタノールを添加した蒸留水中に浸漬して、室温で、蒸留水と、一方の電極パッド5との間に500Vの電圧を印加した際の絶縁抵抗を求めて、絶縁層2の絶縁抵抗とした。なお、測定は、日本工業規格JIS C2141:1992「電気絶縁用セラミック材料試験方法」に準拠して行った。
【0091】
《500℃での体積固有抵抗の測定》
セラミックヒータ1の製造に使用したのと同じグリーンシートをカットし、積層した後、焼成して、縦50mm×横50mm×厚み2mmの試料を作製した。そして、日本工業規格JIS CC2141:1992「電気絶縁用セラミック材料試験方法」に準拠して500℃での体積固有抵抗を測定した。
以上の結果を表1〜3に示す。表中の*印は、本発明以外の比較例を示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
表より、絶縁層2を形成する絶縁セラミックが、平均粒径DAL=2.7〜5.9μmのAl23の結晶粒子58.8〜96質量%と、平均粒径DZR=0.25〜0.48μmのZrO2の結晶粒子3.8〜40質量%とを含有しているとき、セラミックヒータ1の破損率が45%以下、室温での絶縁抵抗が5000MΩ以上、500℃での体積固有抵抗が106Ω・cm以上となって、前記絶縁セラミックは、高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを兼ね備えたものとなることが判った。
【実施例2】
【0096】
市販の、いずれも純度99.8%以上の、平均粒径2μmのAl23粉末と、平均粒径2μmのZrO2粉末と、焼結助剤としての、いずれも純度99.8%以上のSiO2粉末、MgCO3粉末、CaCO3粉末、および平均粒径1μmのY23粉末とを、焼成後のセラミック中における、Al23、ZrO2、SiO2、MgO、CaO、およびY23の各成分の存在比率が、表4に示す値となるように配合し、有機バインダを加えて、押出成形して、図8に示す、一端が封止された中空状の円筒管29の前駆体を作製した。
【0097】
次に、前記各粉末を、各成分の存在比率が、円筒管29の同じ値となるように配合し、アクリル系の有機バインダおよびトルエンを加えて混合してスラリーを調製し、前記スラリーを、ドクターブレード法によって、基板上に塗布した後、乾燥させて、厚み0.3mmのグリーンシートを作製した。
【0098】
次いで、図9を参照して、実施例1で使用したのと同じ導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法により、先に作製したグリーンシート8の片面に、金属発熱体3のもとになる塗膜9と、2つのリード線4のもとになる塗膜10とを、両者の端部同士が重なるように、順に形成した。両塗膜9、10の厚みは、焼成後の金属発熱体3、およびリード線4の厚みが、共に20μmになるように設定した。
【0099】
次いで、図10を参照して、前記塗膜を乾燥させた後、リード線4の手前側の先端に対応する位置にスルーホール6が形成された、前記と同じグリーンシート8を、アクリル系の有機接着剤を介して積層した後、室温で、積層方向に10MPaの圧力をかけて圧着した。
【0100】
次いで、上側のグリーンシート8のスルーホール6に、スクリーン印刷法により、ビア導体7のもとになる、Al23粉末の割合を30体積%としたこと以外は、前記と同様にして調製した導電ペーストを充てん後、その上に、電極パッド5のもとになる、Al23粉末の割合を5体積%としたこと以外は、前記と同様にして調製した導電ペーストを用いて、スクリーン印刷法により、電極パッド5となる塗膜を形成した。
【0101】
次いで、図12を参照して、前記積層体30を、電極パッド5を形成した面を下にした状態とし、その上に円筒管29を載置して、前記円筒管29を、積層体30の上で転がしながら、円筒管29の周囲に積層体30を巻きつけた。その際、両者を、アクリル系の有機接着剤を介して接着すると共に、ローラ等で圧力を加えて機械的に圧着させた。巻きつけた積層体30の合わせ面は、同じ有機接着剤で接着した。
【0102】
そして、大気中で、1550℃で5時間、焼成して、図8に示す円筒管29と、その外周を囲む円筒状のセラミックヒータ1とを製造した。製造したセラミックヒータ1を形成する絶縁層の相対密度は98%以上、気孔率は2%未満、アルカリ金属の含有量は30ppm以下であった。
【0103】
前記セラミックヒータ1について、先の各測定を行って、その特性を評価した。結果を表4〜6に示す。表中の*印は、本発明以外の比較例を示す。
【0104】
【表4】

【0105】
【表5】

【0106】
【表6】

【0107】
表より、絶縁層2を形成する絶縁セラミックが、平均粒径DAL=2.7〜5.9μmのAl23の結晶粒子58.8〜96質量%と、平均粒径DZR=0.25〜0.48μmのZrO2の結晶粒子3.8〜40質量%とを含有しているとき、セラミックヒータ1の破損率が40%以下、室温での絶縁抵抗が5000MΩ以上、500℃での体積固有抵抗が106Ω・cm以上となって、前記絶縁セラミックは、高い強度および良好な耐熱衝撃性と、良好な絶縁性とを兼ね備えたものとなることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明のセラミックヒータの一例としての、平板状のセラミックヒータ1の外観を示す斜視図である。
【図2】図1のセラミックヒータ1を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【図3】図1のセラミックヒータ1を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【図4】図1のセラミックヒータ1を組み込んだ、ヒータ一体型素子としての酸素センサ11の外観を示す斜視図である。
【図5】前記酸素センサ11の、矩形の幅方向の断面を示す断面図である。
【図6】図4の酸素センサ11を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【図7】図4の酸素センサ11を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【図8】本発明のセラミックヒータの他の例としての、円筒状のセラミックヒータ1の外観を示す一部切り欠き斜視図である。
【図9】図8のセラミックヒータ1を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【図10】図8のセラミックヒータ1を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【図11】図8のセラミックヒータ1を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【図12】図8のセラミックヒータ1を製造する途中の工程を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0109】
1 セラミックヒータ
2 絶縁層
3 金属発熱体
4 リード線
5 電極パッド
6 スルーホール
7 ビア導体
8 グリーンシート
9 塗膜
10 塗膜
11 酸素センサ
12 固体電解質基板
13 基準電極
14 測定電極
15 スペーサ
16 空間
17 リード線
18 スルーホール
19 ビア導体
20 電極パッド
21 リード線
22 電極パッド
23 セラミック多孔質層
24 グリーンシート
25 塗膜
26 塗膜
27 グリーンシート
28 積層体
29 円筒管
30 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径DAL=2.7〜5.9μmのAl23の結晶粒子58.8〜96質量%と、平均粒径DZR=0.25〜0.48μmのZrO2の結晶粒子3.8〜40質量%とを含有していることを特徴とする絶縁セラミック。
【請求項2】
Al23の結晶粒子の平均粒径DALと、ZrO2の結晶粒子の平均粒径DZRとの比DAL/DZRが7.4以上である請求項1記載の絶縁セラミック。
【請求項3】
SiO2を0.01〜0.3質量%、MgOおよびCaOを合計で0.01〜1質量%の範囲で含有している請求項1または2記載の絶縁セラミック。
【請求項4】
SiO2を0.01〜0.3質量%、MgOおよびCaOを合計で0.01〜0.5質量%、Y23を2質量%以下の範囲で含有している請求項1または2記載の絶縁セラミック。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁セラミックからなる絶縁層中に、金属発熱体が埋設されていることを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項6】
請求項5記載のセラミックヒータを組み込んだことを特徴とするヒータ一体型素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−269524(P2007−269524A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95352(P2006−95352)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】