説明

絶縁監視装置

【課題】I0r方式で送電路の絶縁状態を監視する際の精度を向上させることが可能な絶縁監視装置を提供する。
【解決手段】ZCT12の中央開口部に、接地線L3、及び抑圧用電線14を挿通し、接地線L3に流れる電流と等大で逆向きとなる電流を抑圧用電線14に流す。そして、ZCT12で検出される電流がゼロとなったときに、抑圧電流I1の、電圧信号Vaと同相となる成分をI0rとして認識する。従って、ZCTの検出精度のばらつきに影響を受けず、また、周囲に磁界が存在する場合であってもこの影響を受けることなく、高精度にI0rを検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電力を送電する送電路の絶縁状態を監視する絶縁監視装置に係り、特にI0r方式を用いる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工場等の電力需要施設では、高圧受電線より送電される高電圧(例えば、6600V)を、キュービクルに設けられるトランスにて低電圧(例えば、110V)に降圧し、その後、降圧された電力を送電路を経由して施設内の各負荷に送電する。この場合に、低圧側の2本の送電路のうちの一方が接地線に接続され、該接地線を介してグランドに接地される。更に、2本の送電路の絶縁状態を監視するために、接地線に零相変流器(以下、「ZCT」という)を設け、該接地線に流れる電流を検出している。
【0003】
そして、検出される電流値が予め設定した閾値電流を上回る場合には、送電路の絶縁状態が劣化しているものと判断して、警報信号等により電力需要施設の作業者等に通知する。
【0004】
このような絶縁監視装置として、「I0r方式」と称する方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。I0r方式では、接地線に流れる電流(漏洩電流)I0を検出し、更に、送電路の電圧の位相を検出し、漏洩電流I0から電圧の位相と同相成分となる電流(I0r)のみを取り出し、この電流I0rに基づいて送電路の絶縁状態が良好であるか否かを監視する。
【0005】
即ち、ZCTで検出される漏洩電流I0には、送電路で送電される電圧に対して同相となる抵抗成分(I0r)と、この電圧に対して位相が90°進む静電容量成分(I0c)とが存在し、漏洩電流I0はこれらが混在した電流(ベクトル的に加算された電流)となっている。このうち、静電容量成分(I0c)は送電路の絶縁状態に影響を及ぼさず、抵抗成分(I0r)のみが絶縁状態に影響を及ぼすので、ZCTで検出される漏洩電流I0から、電圧と同相成分となる電流(I0r)のみを取り出して、絶縁状態を監視している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−8823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したI0r方式を用いた絶縁状態の監視方法では、接地線に設けるZCTの検出精度にばらつきが存在する場合には、該接地線に流れる電流を高精度に測定することができないという欠点がある。つまり、同一の特性を備えるZCTでも、個々の測定精度にばらつきが存在するので、正確に電流値を測定できない場合がある。
【0008】
更に、ZCTの周囲に磁性体等の電流検出に影響を及ぼす物体が存在する場合には、ZCTで検出される電流に位相ずれが生じたり、計測値に誤差が生じるという問題が発生する。
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、I0r方式で送電路の絶縁状態を監視する際の精度を向上させることが可能な絶縁監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、交流電力の送電路に接続された接地線(例えば、接地線L3)に流れる電流を検出して、前記送電路の絶縁状態を監視する絶縁監視装置において、中央開口部を有する測定部を有し、前記中央開口部に挿通された電線に流れる電流を検出する零相変流器(例えば、ZCT12)と、前記送電路に生じる電圧の位相を検出する位相検出手段(例えば、CPU21)と、を備え、前記接地線を前記中央開口部に挿通し、更に、前記零相変流器の中央開口部に挿通される抑圧用電線と、前記位相検出手段で検出される位相を基準位相とし、前記零相変流器で検出される電流を、前記基準位相と同相成分、及び位相進み成分に分解し、この同相成分、及び位相進み成分からなる抑圧電流を生成すると共に、この抑圧電流を前記接地線に流れる電流と逆向きとなるように前記抑圧用電線に流す電流生成手段(例えば、パワーアンプ31)と、前記抑圧電流を流すことにより、前記零相変流器で検出される電流値がゼロとなったときの、前記同相成分に基づいて、前記送電路の絶縁状態が良好であるか否かを判定する絶縁状態判定手段(例えば、CPU21)と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、交流電力の送電路に接続された接地線(例えば、接地線L3)に流れる電流を検出して、前記送電路の絶縁状態を監視する絶縁監視装置において、中央開口部を有する測定部を有し、前記中央開口部に挿通された電線に流れる電流を検出する零相変流器(例えば、ZCT12)と、前記送電路に生じる電圧の位相を検出する位相検出手段(例えば、CPU21)と、を備え、前記接地線を前記中央開口部に挿通し、更に、前記零相変流器の中央開口部に挿通される抑圧用電線と、前記位相検出手段で検出される位相を基準位相とし、前記零相変流器で検出される電流の前記基準位相に対する位相進み成分をゼロとする抑圧電流を生成し、この抑圧電流を前記接地線に流れる電流と逆向きとなるように前記抑圧用電線に流す電流生成手段(例えば、パワーアンプ31)と、前記抑圧用電線に前記抑圧電流を流しているときに、前記零相変流器で検出される電流値に基づいて、前記送電路の絶縁状態が良好か否かを判定する絶縁状態判定手段(例えば、CPU21)と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記絶縁状態判定手段にて、前記送電路の絶縁状態が不良であると判定された場合に、警報信号を出力する警報手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願請求項1の発明では、零相変流器の中央開口部に接地線、及び抑圧用電線を挿通し、接地線に流れる電流を相殺するように、抑圧用電線に流す抑圧電流を制御する。即ち、零相変流器で検出される電流がゼロとなるように、抑圧用電線に流す電流を制御する。そして、零相変流器で検出される電流がゼロとなったときの、抑圧電流に含まれる、基準位相と同相となる成分をI0rとして認識する。従って、零相変流器の検出精度のばらつきや周囲の磁界等の影響を受けることなく、I0rを高精度に検出することができる。
【0014】
請求項2の発明では、零相変流器の中央開口部に接地線、及び抑圧用電線を挿通し、接地線に流れる電流に含まれる位相進み成分を相殺するように、抑圧用電線に流す抑圧電流を制御する。即ち、零相変流器で検出される電流の位相進み成分がゼロとなるように、抑圧用電線に流す電流を制御する。そして、零相変流器で検出される電流の位相進み成分がゼロとなったときの、零相変流器で検出される電流をI0rとして認識する。従って、位相進み成分の影響を受けることなく、I0rを検出することができ、I0rの検出精度を向上させることができる。
【0015】
請求項3の発明では、送電路の絶縁状態が不良であると判定された場合に、警報信号を出力するので、絶縁状態が不良となったことを即時に操作者に通知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶縁監視装置を含む高電圧受電回路の構成を示す説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る絶縁監視装置の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る絶縁監視装置により測定される電圧信号と漏洩電流との位相差を示すベクトル図である
【図4】本発明の第1実施形態に係る絶縁監視装置の、I0r検出処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態に係る絶縁監視装置の詳細な構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る絶縁監視装置の、I0r検出処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る絶縁監視装置13を含む高電圧受電回路を示す説明図である。図1に示すように、この高電圧受電回路は、高圧受電線より受電される高電圧(例えば、6600V)を商用電圧(例えば、110V)に変圧する変圧器TR1を備えており、該変圧器TR1の低圧側は送電路L1,L2を経由して負荷11に接続されている。
【0019】
また、送電路L2はB種接地線L3(以下、「接地線L3」と略す)を経由してグランドに接地されている。更に、送電路L1とグランドとの間には、対地絶縁抵抗R0、及び対地静電容量(浮遊容量)C0とを合成した対地インピーダンスZ0が存在している。従って、対地インピーダンスZ0を経由して流れる電流と同一の電流が接地線L3を流れることになる。
【0020】
また、接地線L3には、該接地線L3を流れる電流を検出する零相変流器(以下、「ZCT」という)12が設けられている。更に、絶縁監視装置13は、2つの送電路L1,L2にそれぞれ接続されている。
【0021】
次に、図2を参照して絶縁監視装置13の詳細な構成について説明する。図2に示すように絶縁監視装置13は、接地線L3に接続されたZCT12と、総括的な制御を行うCPU21と、ZCT12で検出される電流を増幅するヘッドアンプ22と、該ヘッドアンプ22で増幅された電流信号からノイズ成分を除去してCPU21に供給するフィルタ23を備えている。
【0022】
ZCT12は、中央部に中空形状の開口部(測定部;図示省略)を有しており、該開口部内には接地線L3が挿通され、更に、後述するように抑圧用電線14が挿通される。従って、ZCT12は、接地線L3に流れる電流と、抑圧用電線14に流れる電流の差分となる電流を検出することができる。
【0023】
また、絶縁監視装置13は、図1に示す2本の送電路L1,L2間に生じる電圧を検出し、検出した電圧信号Vaからノイズ成分を除去するフィルタ24と、フィルタ24より出力される電圧信号Vaを増幅するアンプ25と、ローパスフィルタとしての機能を備え、且つ予め決められたクロック周波数に基づいて、アンプ25より出力される電圧信号Vaの位相を調整するSCF(スイッチト・キャパシタ・フィルタ)26と、SCF26より出力される電圧信号Vaに対してレベル調整を行い、基準信号を生成する基準信号調整部27と、を備えている。
【0024】
CPU21は、基準信号調整部27にて生成される基準信号、及びZCT12で検出される電流I0に基づいて、図3に示すように電流I0の位相角θを求め、更に、位相角θに基づいて、電流I0の抵抗成分I0r(電圧信号Vaと同相成分)、及び電流I0の静電容量成分I0c(電圧信号Vaに対して90°進む成分)を求める。更に、I0r、I0cに基づいて、Ir調整信号、及びIc調整信号を生成し、これらをそれぞれIr抑圧信号発生器28、及びIc抑圧信号発生器29に出力する。即ち、CPU21は、各送電路L1,L2間に生じる電圧の位相を検出する位相検出手段としての機能を備えている。
【0025】
更に、絶縁監視装置13は、SCF26より出力される電圧信号Vaの位相を90°進める位相シフト回路30と、SCF26より出力される電圧信号Vaの位相と同相で、且つ、CPU21より出力されるIr調整信号で決められるレベルとなるIr抑圧信号を生成するIr抑圧信号発生器28と、位相シフト回路30により90°進められた位相で、且つ、CPU21より出力されるIc調整信号で決められるレベルとなるIc抑圧信号を生成するIc抑圧信号発生器29と、を備えている。
【0026】
また、Ir抑圧信号発生器28で生成されたIr抑圧信号、及びIc抑圧信号発生器29で生成されたIc抑圧信号を合成し、更に、増幅して抑圧電流I1を生成し、この抑圧電流I1を抑圧用電線14に供給するパワーアンプ31を備えている。即ち、パワーアンプ31は、CPU21で検出される位相を基準位相とし、ZCT12で検出される電流I0を、基準位相と同相成分、及び位相進み成分(90°進み成分)に分解し、この同相成分、及び位相進み成分からなる抑圧電流I1を生成すると共に、この抑圧電流I1を、接地線L3に流れる電流と逆向きとなるように抑圧用電線14に流す電流生成手段としての機能を備えている。
【0027】
そして、CPU21は、ZCT12で検出される漏洩電流I0の抵抗成分I0r、及び静電容量成分I0cが共にゼロとなるように、Ir調整信号、及びIc調整信号を生成し、I0r、及びI0cが共にゼロとなったときのIr調整信号を、送電路L1,L2のI0rであるものと認識する。即ち、CPU21は、抑圧電流I1を流すことにより、ZCT12で検出される電流値がゼロとなったときの、同相成分に基づいて、送電路L1,L2の絶縁状態が良好であるか否かを判定する絶縁状態判定手段としての機能を備えている。
【0028】
また、絶縁監視装置13には、送電路L1,L2の絶縁状態等の各種の情報を画面表示するディスプレイ41、及び絶縁抵抗が劣化した際に警報を発する警報装置(警報手段)42が接続されている。
【0029】
次に、上述のように構成された絶縁監視装置13によるI0r検出手順を、図4に示すフローチャートを参照して説明する。図1に示す送電路L1,L2に、変圧器TR1の低圧側コイルより商用電圧が印加されると、図2に示す絶縁監視装置13のCPU21は、図1に示す送電路L1,L2間の電圧を測定する(ステップS11)。即ち、2つの送電路L1,L2間に生じる電圧が測定されると、測定された電圧信号Vaは絶縁監視装置13に取り込まれ、その後、フィルタ24にてノイズ成分が除去され、アンプ25で増幅され、更に、SCF26にて位相が調整される。そして、SCF26より出力される電圧信号Vaは、3系統に分岐され、それぞれ基準信号調整部27、位相シフト回路30、及びIr抑圧信号発生器28に供給される。
【0030】
基準信号調整部27は、SCF26より出力される電圧信号Vaに基づいてレベル調整を行い、レベル調整後の電圧信号VaをCPU21に出力する。CPU21は、この電圧信号Vaを入力しA/D変換して、基準となる位相データを取得する。
【0031】
また、SCF26より出力される電圧信号Vaは、Ir抑圧信号発生器28、及び位相シフト回路30を経由して位相が90°進められた後に、Ic抑圧信号発生器29に供給される。
【0032】
更に、接地線L3に設けたZCT12により、該接地線L3に流れる電流(漏洩電流)I0が測定され(ステップS12)、検出された漏洩電流I0はヘッドアンプ22にて増幅され、更にフィルタ23にてノイズ成分が除去された後、CPU21に供給される。
【0033】
そして、CPU21は、基準信号調整部27より出力されるレベル調整後の電圧信号Vaの位相を基準としたときの漏洩電流I0の位相を測定し(ステップS13)、この位相に基づいて、該漏洩電流I0の抵抗成分I0r、及び静電容量成分I0cを求める。例えば、図3に示すように、電圧信号Vaを基準として漏洩電流I0の位相がθである場合には、「I0・cosθ」を抵抗成分I0rとし、「I0・sinθ」を静電容量成分I0cとする。
【0034】
次いで、CPU21は、上述の処理で求めた抵抗成分I0r、及び静電容量成分I0cに基づいて、Ir調整信号、及びIc調整信号を生成し、それぞれIr抑圧信号発生器28、及びIc抑圧信号発生器29に出力する。
【0035】
Ir抑圧信号発生器28は、Ir調整信号に基づいて電圧信号Vaと同相となるIr抑圧信号を生成し、このIr抑圧信号をパワーアンプ31に出力する。Ic抑圧信号発生器29は、Ic調整信号に基づいて電圧信号Vaに対して位相が90°進むIc抑圧信号を生成し、このIc抑圧信号をパワーアンプ31に出力する。
【0036】
パワーアンプ31は、Ir抑圧信号、及びIc抑圧信号を合成した抑圧電流I1を生成し(ステップS14)、この抑圧電流I1を抑圧用電線14に流す(ステップS15)。この際、抑圧電流I1は、漏洩電流I0に対して逆向きに流れるようにする。従って、ZCT12では、漏洩電流I0と抑圧電流I1との差分の電流が検出されることになる。
【0037】
そして、CPU21は、ZCT12で検出される電流I0がゼロとなるように、Ir調整信号、及びIc調整信号を制御し(ステップS16)、I0がゼロとなったときのIr調整信号が、漏洩電流I0の抵抗成分I0rであるものと認識する(ステップS17でYES、S18)。
【0038】
次いで、CPU21は、この抵抗成分I0rをディスプレイ41に表示して、この抵抗成分I0rを操作者に知らせる(ステップS19)。従って、操作者はこの表示を見ることにより、送電路L1,L2の絶縁状態を認識することができる。また、この抵抗成分I0rが予め設定した閾値を超えた場合には(ステップS20でYES)、警報装置42に警報信号を送信する(ステップS21)。これにより、警報装置42は警報ブザー或いは警報ランプ等で、絶縁抵抗が劣化していることを操作者に知らせることができる。更に、この警報信号を外部信号として上位システム等に送信することも可能である。
【0039】
このようにして、本実施形態に係る絶縁監視装置では、ZCT12の中央開口部に接地線L3を挿通すると共に、抑圧用電線14を挿通し、ZCT12で検出される漏洩電流I0がゼロとなるように、抑圧用電線14に流す電流(抑圧電流I1)を制御する。そして、ZCT12で検出される電流がゼロとなったときのIr調整信号を、漏洩電流I0の抵抗成分I0rであるものと認識し、この抵抗成分I0rが予め設定した閾値を上回った場合に、送電路L1,L2の絶縁状態が劣化したものと判断し、警報を発する。従って、絶縁状態が劣化した際にはいち早く操作者に知らせることができる。
【0040】
また、本実施形態では、漏洩電流I0を相殺する抑圧電流I1を生成し、該抑圧電流I1の抵抗成分を漏洩電流I0の抵抗成分I0rとして検出するので、ZCT12の検出精度にばらつきが存在する場合や、周囲に磁界が発生している場合であっても、I0rを高精度に測定して送電路L1,L2の絶縁状態を監視することが可能となる。
【0041】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図5は、本発明の第2実施形態に係る絶縁監視装置13aの詳細な構成を示すブロック図である。図5に示すように、第2実施形態に係る絶縁監視装置13aは、図2に示した絶縁監視装置13と対比して、Ir抑圧信号発生器28を設けていない点、及びCPU21がIr抑圧信号発生器28に供給するためのIr調整信号を生成しない点で相違する。
【0042】
更に、第2実施形態に係る絶縁監視装置13aのCPU21は、ZCT12で検出される漏洩電流I0を抵抗成分I0rと静電容量成分I0cに分離し、静電容量成分I0cをゼロとするためのIc調整信号を生成して出力する。そして、I0cがゼロとなったときの抵抗成分I0rを、送電路L1,L2のI0rとして認識する。それ以外の構成は図2と同様であるので、同一符号を付して構成の説明を省略する。
【0043】
以下、図5に示した絶縁監視装置13aによるI0rの検出手順を、図6に示すフローチャートを参照して説明する。図1に示す送電路L1,L2に商用電圧が印加されると、図5に示す絶縁監視装置13aのCPU21は、図1に示す送電路L1,L2間の電圧を測定する(ステップS31)。即ち、2つの送電路L1,L2間に生じる電圧は、絶縁監視装置13aにて検出され、検出された電圧信号Vaはフィルタ24にてノイズ成分が除去され、アンプ25で増幅され、更に、SCF26にて位相が調整される。そして、SCF26より出力される電圧信号Vaは、2系統に分岐され、それぞれ基準信号調整部27、及び位相シフト回路30供給される。
【0044】
基準信号調整部27は、SCF26より出力された電圧信号に基づき、レベル調整を行い、レベル調整後の電圧信号をCPU21に出力する。CPU21は、この電圧信号Vaを入力しA/D変換して、基準となる位相データを取得する。
【0045】
また、SCF26より出力される電圧信号は、位相シフト回路30を経由して位相が90°進められた後に、Ic抑圧信号発生器29に供給される。
【0046】
更に、接地線L3に設けたZCT12により、該接地線L3に流れる電流(漏洩電流)I0が測定され(ステップS32)、検出された漏洩電流I0はヘッドアンプ22にて増幅され、更にフィルタ23にてノイズ成分が除去された後、CPU21に供給される。
【0047】
そして、CPU21は、基準信号調整部27より出力される電圧信号Vaの位相を基準としたときの漏洩電流I0の位相を測定し(ステップS33)、この位相に基づいて、該漏洩電流I0の静電容量成分I0cを求める。例えば、図3に示すように、電圧信号Vaを基準として漏洩電流I0の位相がθである場合には、「I0・sinθ」を静電容量成分I0cとする。
【0048】
次いで、CPU21は、上述の処理で求めた静電容量成分I0cに基づいてIc調整信号を生成し、Ic抑圧信号発生器29に出力する。
【0049】
Ic抑圧信号発生器29は、Ic調整信号に基づいて電圧信号Vaに対して位相が90°進むIc抑圧信号を生成し、このIc抑圧信号をパワーアンプ31に出力する。
【0050】
パワーアンプ31は、Ic抑圧信号に基づいてIc抑圧電流I2を生成し(ステップS34)、このIc抑圧電流I2を抑圧用電線14に流す(ステップS35)。この際、Ic抑圧電流I2は、漏洩電流I0に対して逆向きに流れるようにする。従って、ZCT12では、漏洩電流I0の静電容量成分がIc抑圧電流I2により打ち消された電流が検出されることになる。
【0051】
そして、CPU21は、ZCT12で検出される電流I0の静電容量成分I0cがゼロとなるように、Ic調整信号を制御し(ステップS36)、I0cがゼロとなったときの抵抗成分I0rが、漏洩電流I0の抵抗成分I0rであるものと認識する(ステップS37でYES、S38)。
【0052】
次いで、CPU21は、この抵抗成分I0rをディスプレイ41に表示して、抵抗成分I0rを操作者に知らせる(ステップS39)。また、この抵抗成分I0rが予め設定した閾値を超えた場合には(ステップS40でYES)、警報装置42に警報信号を送信する(ステップS41)。これにより、警報装置42は警報ブザー或いは警報ランプ等で、絶縁抵抗が劣化していることを操作者に知らせることができる。更に、この警報信号を外部信号として上位システム等に送信することも可能である。
【0053】
このようにして、第2実施形態に係る絶縁監視装置では、ZCT12の中央開口部に接地線L3を挿通すると共に、抑圧用電線14を挿通し、ZCT12で検出される漏洩電流I0の静電容量成分I0cがゼロとなるように、抑圧用電線14に流す電流(抑圧電流I2)を制御する。そして、ZCT12で検出される電流の静電容量成分がゼロとなったときのI0rを、漏洩電流I0の抵抗成分I0rであるものと認識する。更に、該抵抗成分I0rが予め設定した閾値を上回った場合に、警報を発して送電路L1,L2の絶縁状態が劣化していることを操作者に知らせることができる。
【0054】
請求項2の発明では、零相変流器の中央開口部に接地線、及び抑圧用電線を挿通し、接地線に流れる電流に含まれる位相進み成分を相殺するように、抑圧用電線に流す抑圧電流を制御する。即ち、零相変流器で検出される電流の位相進み成分がゼロとなるように、抑圧用電線に流す電流を制御する。
【0055】
また、第2実施形態では、漏洩電流I0の静電容量成分I0cを抑圧してI0rを求めているので、静電容量成分I0cの影響を受けることなく、I0rを検出することができ、I0rの検出精度を向上させることができる。
【0056】
以上、本発明の絶縁監視装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、送電路の絶縁状態を簡単な構成、且つ高精度に検出する上で極めて有用である。
【符号の説明】
【0058】
11 負荷
12 ZCT(零相変流器)
13 絶縁監視装置
14 抑圧用電線
21 CPU
22 ヘッドアンプ
23 フィルタ
24 フィルタ
25 アンプ
26 SCF(スイッチト・キャパシタ・フィルタ)
27 基準信号調整部
28 Ir抑圧信号発生器
29 Ic抑圧信号発生器
30 位相シフト回路
31 パワーアンプ
41 ディスプレイ
42 警報装置
L1 送電路
L2 送電路
L3 B種接地線
Z0 対地インピーダンス
TR1 変圧器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力の送電路に接続された接地線に流れる電流を検出して、前記送電路の絶縁状態を監視する絶縁監視装置において、
中央開口部を有する測定部を有し、前記中央開口部に挿通された電線に流れる電流を検出する零相変流器と、
前記送電路に生じる電圧の位相を検出する位相検出手段と、を備え、
前記接地線を前記中央開口部に挿通し、更に、
前記零相変流器の中央開口部に挿通される抑圧用電線と、
前記位相検出手段で検出される位相を基準位相とし、前記零相変流器で検出される電流を、前記基準位相と同相成分、及び位相進み成分に分解し、この同相成分、及び位相進み成分からなる抑圧電流を生成すると共に、この抑圧電流を前記接地線に流れる電流と逆向きとなるように前記抑圧用電線に流す電流生成手段と、
前記抑圧電流を流すことにより、前記零相変流器で検出される電流値がゼロとなったときの、前記同相成分に基づいて、前記送電路の絶縁状態が良好であるか否かを判定する絶縁状態判定手段と、
を備えたことを特徴とする絶縁監視装置。
【請求項2】
交流電力の送電路に接続された接地線に流れる電流を検出して、前記送電路の絶縁状態を監視する絶縁監視装置において、
中央開口部を有する測定部を有し、前記中央開口部に挿通された電線に流れる電流を検出する零相変流器と、
前記送電路に生じる電圧の位相を検出する位相検出手段と、を備え、
前記接地線を前記中央開口部に挿通し、更に、
前記零相変流器の中央開口部に挿通される抑圧用電線と、
前記位相検出手段で検出される位相を基準位相とし、前記零相変流器で検出される電流の前記基準位相に対する位相進み成分をゼロとする抑圧電流を生成し、この抑圧電流を前記接地線に流れる電流と逆向きとなるように前記抑圧用電線に流す電流生成手段と、
前記抑圧用電線に前記抑圧電流を流しているときに、前記零相変流器で検出される電流値に基づいて、前記送電路の絶縁状態が良好か否かを判定する絶縁状態判定手段と、
を備えたことを特徴とする絶縁監視装置。
【請求項3】
前記絶縁状態判定手段にて、前記送電路の絶縁状態が不良であると判定された場合に、警報信号を出力する警報手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の絶縁監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−88275(P2012−88275A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237444(P2010−237444)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】