説明

絶縁膜形成用組成物

【課題】空孔形成剤を利用した誘電率が低下された絶縁膜であって、空孔同士が連結した隙間(ボイド)の発生が抑制された絶縁膜を形成することができる絶縁膜形成用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)ポリフェニレン、
(B)スチレンポリマー、並びに
(C)ポリフェニレン(A)に対して親和性を有するユニットとスチレンポリマー(B)に対して親和性を有するユニットとのブロック共重合体もしくはグラフト共重合体、を含有することを特徴とする絶縁膜形成用組成物を用いて絶縁膜を形成することにより、上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子デバイスなどに用いられる誘電率、機械強度、耐熱性等の膜特性が良好な絶縁膜を形成することができる絶縁膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体集積回路(IC)の高集積化、多機能化、高性能化の進行に伴い、回路抵抗や配線間容量が増大し、消費電力や遅延時間の増大を招いている。中でも遅延時間の増大は半導体集積回路の信号速度低下やクロストーク発生の要因となるため、この遅延時間を減少させて半導体集積回路の高速化を図るべく、配線抵抗や寄生容量の低減が求められている。そして、寄生容量を低減するための具体策の一つとして、配線の周辺を低誘電性の絶縁膜で被覆することが試みられている。また、当該絶縁膜には実装基板製造時の薄膜形成工程やチップ接続、ピン付け等の後工程に耐え得る優れた耐熱性やウェットプロセスに耐え得る耐薬品性が求められている。さらに、近年はAl配線から低抵抗のCu配線が導入されつつあり、これに伴いCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)による平坦化が一般的となっており、このプロセスに耐え得る高い機械強度が求められている。
【0003】
このような配線周辺を被覆する絶縁膜として、従来は二酸化ケイ素(SiO2、k=3.9)が適用されてきた。しかし、近年では絶縁膜の低誘電率化に向け、膜構造制御による低誘電率化が図り易い塗布型絶縁膜の適用が検討されている。
例えば、特許文献1には、ポリフェニレン系有機ポリマーを主体とする塗布型低誘電率絶縁膜形成用材料が記載されている。更に、近年ではポリフェニレン系有機ポリマーからなる絶縁膜の誘電率を更に低下させるため、気孔発生剤(ポロジェン)を添加する試みがなされている。
気孔発生剤とは、ポリフェニレン系有機ポリマーのような誘電マトリックス材料中でドメイン(離散領域)を形成し、マトリックス材料の硬化温度近辺の温度で熱的もしくは放射線(電磁放射線、電子線)の影響で分解・気化し、マトリックス中に空孔を形成する材料である(従って、空孔形成剤ともいう)。このような空孔形成剤の気化によって形成された空孔部分の誘電率は1程度(真空中の誘電率に相当)となるため、絶縁膜全体の誘電率を大きく低減することが可能となる。空孔形成剤を利用して、ポリフェニレン系有機ポリマーを主体とする絶縁膜の誘電率を低減する技術に関する開示例としては、特許文献2、3等が挙げられる。
空孔形成剤の利用によって、層間絶縁膜の更なる低誘電率化(k<2.2)を図るには、空孔形成剤の使用量を増やす必要がある。しかしながら、空孔形成剤の使用量を単純に増量するとマトリックス中に形成される個々の空孔サイズも大きくなり易く、終には空孔同士が連結して絶縁膜内に非常に大きな隙間(ボイド)が形成されるに至り、半導体デバイスに適用する絶縁膜としては不適切な状態になり易い問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−191752号公報
【特許文献2】特表2002−530505号公報
【特許文献3】特表2005−517785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、空孔形成剤を利用した絶縁膜であって、空孔同士が連結した隙間(ボイド)の発生が抑制された絶縁膜を形成することができる絶縁膜形成用組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、絶縁膜中の空孔サイズをコントロールすることができ、それにより誘電率が低下した絶縁膜を形成することができる絶縁膜形成用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリフェニレンを主体とし、空孔形成剤としてスチレンポリマーを含む絶縁膜形成用組成物に対し、所定のポリマーを加えることで、ポリフェニレンマトリックス中でスチレンポリマーが形成するドメインサイズを制御することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の第一の態様は、
(A)ポリフェニレン、
(B)スチレンポリマー、並びに
(C)前記ポリフェニレン(A)に対して親和性を有するユニットと前記スチレンポリマー(B)に対して親和性を有するユニットとのブロック共重合体もしくはグラフト共重合体、
を含有することを特徴とする絶縁膜形成用組成物である。
上記絶縁膜形成用組成物において、スチレンポリマー(B)に対して親和性を有するユニットは、スチレンポリマー鎖であることが好ましい。
【0007】
上記絶縁膜形成用組成物において、ポリフェニレン(A)に対して親和性を有するユニットは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、水素化ポリブタジエン、ポリアセナフチレン、エチレン/エチルアクリレートコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー及びこれらの組合わせからなる群より選択されるポリマー鎖であることが好ましい。
上記絶縁膜形成用組成物において、更に、ポリフェニレン(A)は、ジエン基を有する化合物とジエノフィル基を有する化合物との間のディールスアルダー反応によって形成された化合物であることが好ましく、更に前記ジエン基を有する化合物におけるジエン基の数、および前記ジエノフィル基を有する化合物におけるジエノフィル基の数のいずれかが2以上であるか、または両方が2以上であることが好ましい。
また、上記絶縁膜形成用組成物において、組成物中に含まれるポリフェニレン(A)の質量をa質量部、スチレンポリマー(B)の質量をb質量部、ブロック共重合体もしくはグラフト共重合体(C)の質量をc質量部とした時、c /(a + b + c) ≦ 0.15であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の絶縁膜形成用組成物を用いて絶縁膜を形成することにより、ポリフェニレンを主体とする絶縁膜において、ポリフェニレン相内で形成されるスチレンポリマーのドメインの大きさを制御することができる。
その結果、ポリフェニレンを主体とする絶縁膜において、空孔同士が連結した隙間(ボイド)の発生を抑制することができ、また、絶縁膜の空孔サイズを数オングストローム〜数ナノメートルオーダーに制御することが可能である。
すなわち、本発明の絶縁膜形成用組成物を用いることにより、ポリフェニレンを主体とする絶縁膜において、ボイドを発生させることなく、適切なサイズの空孔を発生させることができるため、誘電率が低減された信頼性の高い絶縁膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
(A)ポリフェニレン
初めに、本発明の組成物が含むポリフェニレン(以下、「本発明のポリフェニレン」あるいは「ポリフェニレン(A)」ともいう。)について説明する。
本明細書において、“ポリフェニレン”とは以下一般式(α)もしくは(β)で表される部分構造を含むポリマーである。

nは2以上の整数、R1〜R6は各々独立にHまたは未置換もしくは一定の置換基を有する芳香族部分を意味する。
ここで、「芳香族部分」とはフェニル基もしくはナフチル基のような多芳香族および縮合芳香族部分を指す。
R1〜R6の芳香族部分が置換基を有する場合、当置換基は絶縁膜が使用されるマイクロエレクトロニクスデバイス中で、絶縁膜として形成された状態で、環境中の物質、例えば水と容易に反応しない基である。このような置換基としては、例えばF、Cl、Br、−CF3、−OCH3、−OCF3、−OPh、炭素数1〜8のアルキル、および炭素数3〜8のシクロアルキルが挙げられる。
【0010】
本発明の組成物に使用されるポリフェニレンは、少なくとも1種のジエン基を有する化合物と、少なくとも1種のジエノフィル基を有する化合物との間のディールスアルダー反応を伴って形成されるポリフェニレンであることが好ましい。ディールスアルダー反応により形成されたポリフェニレンは、例えば塩化アルミニウム‐塩化銅触媒等によるカチオン重合や、ジハロベンゼンと遷移金属錯体触媒を用いて脱ハロゲン重合で得られるポリフェニレンと異なり、重合反応時に金属触媒を用いないため、得られるポリマー生成物に金属不純物が残留しない点で好ましい。このような遷移金属は酸化を促進する触媒能が高く、プリベークやこれに引き続く硬化プロセス時に不必要な酸化反応を招き、本発明の組成物から形成される絶縁膜(本発明の絶縁膜)の誘電率を上げてしまうため好ましくない。
【0011】
ディールスアルダー反応とは、ジエン基とジエノフィル基が反応して6員環等の付加体をつくる反応をいう。ディールスアルダー反応は、反応させる化合物や目的に応じて、これらの条件を適宜変更することができる。
本発明の組成物に含まれるポリフェニレンの合成に適用するディールス・アルダー反応時に使用される好ましい溶媒としては、メシチレン、ピリジン、トリエチルアミン、N-メチルピロリジノン(NMP)、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、ブチルベンゾエート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロヘキシルピロリジノン、及びエーテルもしくはヒドロキシエーテル、例えばジベンジルエーテル、ジグリム、トリグリム、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トルエン、メシチレン、キシレン、ベンゼン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジクロロベンゼン、プロピレンカーボネート、ナフタレン、ジフェニルエーテル、ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びこれらの混合物を含む。好ましい溶媒はメシチレン、N-メチルピロリジノン(NMP)、ガンマ−ブチロラクトン、ジフェニルエーテル及びこれらの混合物を挙げることができる。
ディールスアルダー反応の時間及び温度は用いるモノマー、特にその反応性、所望のオリゴマーもしくはポリマー、及び溶媒によって大きく異なる。通常、オリゴマーを形成するための反応は150℃〜250℃の温度において1時間〜48時間行われる。
【0012】
ここでジエン基は特に限定されないが、シクロペンタジエノンであることが好ましい。また、ジエノフィル基は特に限定されず、例えばエチレン基、アセチレン基、ニトリル基が挙げられるが、アセチレン基であることが好ましい。
【0013】
また、本発明のポリフェニレンにおいて、前記ジエン基を有する化合物におけるジエン基の数が2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。
また、前記ジエノフィル基を有する化合物におけるジエノフィル基の数が2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。
また、前記ジエン基を有する化合物におけるジエン基の数、および前記ジエノフィル基を有する化合物におけるジエノフィル基の数の両方が2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。
【0014】
本発明のポリフェニレンは、以下の式(I)〜式(IV)で示されるオリゴマーまたはポリマーであることが好ましい。
【0015】
式(I):[A]W [B]T [E]V
式(I)中、Aは下式の構造を有し、
【0016】
【化1】

【0017】
Bは下式の構造を有し、
【0018】
【化2】

【0019】
Eは下式の構造のいずれか1つ以上を有する末端基である。
【0020】
【化3】

【0021】
ここでMは単結合であり、yは3以上の整数、好ましくは6以下、より好ましくは3〜5であり、pはモノマーユニット中の未反応アセチレン基の数であり、rはモノマーユニット中の反応したアセチレン基の数より1少ない数であり、p+r=y−1である。また、Wは0〜1,000の整数、好ましくは10〜500であり、Tは0〜1,000の整数、好ましくは10〜500であり、Vは2以上の整数である。ただし、W+T≧1である。
【0022】
また、式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、Hまたは未置換もしくは不活性置換した芳香族部分である。また、Ar1、Ar2およびAr3はそれぞれ独立して、未置換または不活性置換した芳香族部分である。
ここで、「芳香族部分」とはフェニル、多芳香族および縮合芳香族部分などである。
また、「不活性置換した」とは、置換基がシクロペンタジエノンとアセチレン重合反応に対して本質的に不活性であり、マイクロエレクトロニクスデバイス中において硬化したポリマーの使用条件で、環境中の物質、例えば水と容易に反応しないことを意味する。このような置換基としては、例えばF、Cl、Br、−CF3、−OCH3、−OCF3、−OPh、炭素数1〜8のアルキル、および炭素数3〜8のシクロアルキルが挙げられる。 また、「不活性置換した芳香族部分」の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0023】
【化4】

【0024】
ここで、Meはメチル基を意味する。
また、「未置換芳香族部分」の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0025】
【化5】

【0026】
上式中、Zは連結基を表わし、例えば−O−、−S−、アルキレン、−CF2-、−CH2−、−O−CF2−、ペルフルオロアルキル、ペルフルオロアルコキシなどが挙げられる。
【0027】
このような式(I)で示されるオリゴマーまたはポリマーは、次に示す式(a):ビスシクロペンタジエノン、および式(b):3個以上のアセチレン基を含む芳香族アセチレンを反応させることにより製造することができる。ここで所望により、式(c):2個の芳香族アセチレン部分を含む多官能性化合物をも反応させてもよい。
【0028】
【化6】

式(a)
【0029】
【化7】

式(b)
【0030】
【化8】

式(c)
【0031】
なお、式(a)〜式(c)中のR1、R2、Ar1、Ar2、Ar3およびyは、上記の式(I)におけるものと同じ意味である。
【0032】
次に、式(II)で示されるオリゴマーまたはポリマーについて説明する。
本発明のポリフェニレンは、以下の式(II)で示されるオリゴマーまたはポリマーであることが好ましい。
【0033】
【化9】

式(II)
【0034】
式(II)中のR1、R2、Ar1およびAr2は、上記の式(I)におけるものと同じ意味である。また、Xは1〜1,000の整数であり、1〜50の整数であることが好ましく、1〜10の整数であることがより好ましい。
式(II)で示されるオリゴマーまたはポリマーは、次に示す式(d):ビスシクロペンタジエノンとジアセチレンとの反応により製造することができる。
【0035】
【化10】

式(d)
【0036】
式(d)中のR1、R2、Ar1およびAr2は、上記の式(I)におけるものと同じ意味である。
【0037】
式(d)のビスシクロペンタジエノンとジアセチレンとの反応によって、式(II)で示されるオリゴマーまたはポリマーを得る際は、ビスシクロペンタジエノン:ジアセチレンをモル比で、1:1〜1:3、好ましくは1:1〜1:2として反応させることが好ましい。
【0038】
次に、式(III)で示されるオリゴマーまたはポリマーについて説明する。
本発明のポリフェニレンは、以下の式(III)で示されるオリゴマーまたはポリマーであることが好ましい。
【0039】
【化11】

式(III)
【0040】
式(III)中のAr4はAr1、Ar2およびAr3と同様に、芳香族部分または不活性置換した芳香族部分であり、R1およびR2は上記の式(I)におけるものと同じ意味であり、Xは上記の式(II)におけるものと同じ意味である。
【0041】
式(III)で示されるオリゴマーまたはポリマーは、次の式(e)で示す多官能性化合物におけるアセチレン基とシクロペンタジエノン基との反応により製造される。
【0042】
【化12】

式(e)
【0043】
式(e)中のR1およびR2は、上記の式(I)におけるものと同じ意味である。また、Ar4は、上記の式(III)におけるものと同じ意味である。
【0044】
次に、式(IV)で示されるオリゴマーまたはポリマーについて説明する。
本発明のポリフェニレンは、以下の式(IV)で示されるオリゴマーまたはポリマーであることが好ましい。
【0045】
【化13】

式(IV)
【0046】
式(IV)中のR1およびR2は、上記の式(I)におけるものと同じ意味であり、Ar4は、上記の式(III)におけるものと同じ意味であり、Xは上記の式(II)におけるものと同じ意味である。
【0047】
式(IV)で示されるオリゴマーまたはポリマーは、次の式(f)で示す多官能性化合物におけるアセチレン基とシクロペンタジエノン基との反応により製造される。
【0048】
【化14】

式(f)
【0049】
式(f)中のR1およびR2は、上記の式(I)におけるものと同じ意味であり、Ar4は、上記の式(III)におけるものと同じ意味である。
【0050】
ここで、上記の式(I)、式(II)、式(III)および式(IV)に記載したポリフェニレンの前駆体である式(a)、式(d)のビスシクロペンタジエノン、式(e)および式(f)、すなわちシクロペンタジエノン部分を有する化合物は、従来の方法を用いてベンジルとベンジルケトンとの縮合により製造することができる。例えば、KumarらのMacromolecules,1995,28,124-130、Ogliaruso らのJ.Org.Chem.,1965,30,3354、OgliarusoらのJ.Org.Chem.,1963,28,2725および米国特許第4,400,540号に記載されている方法が挙げられる。
【0051】
また、上記の式(I)、式(II)、式(III)および式(IV)に記載したポリフェニレンの前駆体である式(b)、式(c)、(d)のジアセチレン、式(e)および式(f)、すなわち芳香族アセチレン部分を含む化合物は、従来の方法によって製造可能である。すなわち芳香族化合物をハロゲン化し、次いでパラジウム系錯体に代表されるアリールエチニル化触媒の存在下において適当な置換アセチレンと前記のハロゲン化芳香族化合物を反応させることで、芳香族アセチレン部分を含む化合物を得ることができる。
【0052】
本発明の組成物に含まれるポリフェニレンについて、前駆体となるジエノフィル基を有する化合物と、ジエンを有する化合物とがポリマー化してポリフェニレンが生成する反応について、一般的に知られている反応機構を以下に記述する。上記に説明した式(II)で示されるオリゴマーまたはポリマーを代表例として挙げれば、その製造過程は、下記式(g)に示す化学反応式で表されるものと一般的に考えられている。
【0053】
【化15】

式(g)
【0054】
式(g)中、R1およびR2は、上記の式(I)におけるものと同じ意味である。また、Ar1およびAr2は、上記の式(III)におけるものと同じ意味である。
【0055】
式(g)には表れていないが、用いるポリフェニレン前駆体(後に定義を示す。)および反応条件によっては、形成された本発明のポリフェニレンであるオリゴマーまたはポリマーにカルボニル架橋された物質が含まれる場合がある。この場合、さらに加熱すると、このカルボニル架橋された物質は本質的にすべて芳香族環に転化されると考えられる。1種以上のアセチレン含有モノマーを用いると、示された構造からはブロックが形成することが示唆されるが、形成されたオリゴマーおよびポリマーはランダムになると考えられる。シクロペンタジエノンとアセチレン基の間のディールズアルダー反応が起こり、フェニル化された環にパラまたはメタ結合を形成すると考えられる。
【0056】
本発明のポリフェニレンは、このような式(I)〜式(IV)で示されるオリゴマーまたはポリマーであることが好ましい。
本発明のポリフェニレン化合物の重量平均分子量は、2,000以上500,000以下であることが好ましく、より好ましくは4,000以上250,000以下、更に好ましくは6,000以上100,000以下、最も好ましくは8,000以上60,000以下である。
【0057】
本発明のポリフェニレンの本発明の組成物中における含有率は、本発明の組成物に含まれる全固形成分中の割合として40〜98質量%であることが好ましく、45〜95質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることがさらに好ましい。
なお本明細書において、本発明の組成物に含まれる全固形成分とは有機溶剤を除いた全成分を指す。
【0058】
(B) スチレンポリマー(空孔形成剤)
本発明の膜形成用組成物が含有するスチレンポリマー(B)は、ポリフェニレン(A)を主体とする膜中に空孔を形成する機能を有する物質である。スチレンポリマー(B)を含有する組成物から形成された膜を加熱することにより、膜中にスチレンポリマーによる空孔を形成し、空孔を含有する膜を得ることができる。
【0059】
空孔形成剤として機能するスチレンポリマー(B)は、ポリフェニレン(A)の熱分解温度より低い温度において熱分解するものである。
空孔形成剤として機能するスチレンポリマー(B)は、ホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーなどいずれであってもよい。また、これらの混合物であっても良い。また、線状、分岐状、超分岐状、樹枝状または星様状であってもよい。
【0060】
本発明の組成物に含まれる空孔形成剤として最も好ましく使用されるスチレンポリマーとしては、たとえば、アニオン性重合スチレンポリマー、シンジオタクチックポリスチレン、未置換および置換ポリスチレン(たとえば、ポリ(α−メチルスチレン))が挙げられるが、特に未置換ポリスチレンが好ましい。
スチレンポリマーは、ポリフェニレン(A)を主体とするマトリックス中において、ポリフェニレン(A)の分解が起こらない高温(たとえば、約420℃〜450℃)において分解し、また主としてモノマーに分解しそして該モノマーはマトリックスから拡散して出ていき得るので好ましい。
【0061】
空孔形成剤として機能するスチレンポリマー(B)の好適な分子量は、ポリフェニレン(A)およびこれが重合硬化し得られたマトリックスとの相溶性、絶縁膜中の空孔サイズ、等のような様々な因子により適宜選択することができる。しかしながら、一般に、空孔形成剤として機能するスチレンポリマー(B)の数平均分子量(Mn)は、2000〜100,000であることが好ましい。より好ましくは数平均分子量は、5000〜50,000の範囲であり、さらに好ましくは5000〜35,000である。なお、分子量分布(Mw/Mn:1.01〜1.5)は狭い方が好ましい。
【0062】
以上に示したような、ポリフェニレンと、種々のスチレンポリマーの系においては、後述するように、例えば加熱により空孔形成剤であるスチレンポリマーを除去する場合には、加熱に伴い、空孔形成剤であるスチレンポリマーが気散もしくは分解する前にポリフェニレンが形成し、かつポリフェニレンが気散もしくは分解する前にスチレンポリマーが好ましくは完全にまたは実質的に完全に気散もしくは分解するように選択されることが好ましい。ポリフェニレンの架橋する温度と、空孔形成剤であるスチレンポリマーが気散もしくは分解する温度の差が大きいと、空孔形成剤として機能するスチレンポリマーの選択の幅が広くなる点で好ましい。
本発明の絶縁膜形成用組成物中に含まれるスチレンポリマー(B)の全固形成分中の割合は、10〜60質量%、より好ましくは15〜55質量%、更に好ましくは20〜50質量%である。
【0063】
(C) ポリフェニレン(A)に対して親和性を有するユニット並びにスチレンポリマー(B)に対して親和性を有するユニットのブロック共重合体もしくはグラフト共重合体
本発明の組成物には、ポリフェニレン(A)と親和性を有するユニットと、スチレンポリマー(B)と親和性を有するユニットのブロック共重合体もしくはグラフト共重合体(以下、「ポリマー(C)」とも呼ぶ)を含有することを特徴とする。
ここで、ポリフェニレン(A)と親和性を有するユニットとは、ポリフェニレン(A)から構成される相に対して分子レベルで分散して相溶可能であるポリマーユニットを指す。
同様にスチレンポリマー(B)と親和性を有するユニットとは、スチレンポリマー(B)から構成される相に対して分子レベルで分散して相溶可能であるポリマーユニットである。
【0064】
一般に、ポリフェニレンとスチレンポリマーのような異種ポリマーの混合物が分子レベルで溶け合う、すなわち相溶する事は稀であり、ポリフェニレンマトリックスからスチレンポリマーが相分離して、ある一定サイズの離散領域(以下、「ドメイン」と呼ぶ)を形成する。
ポリフェニレンマトリックス中でスチレンポリマーが一定サイズのドメインを形成することで、後の加熱もしくは電磁放射線・電子線照射段階でスチレンポリマーを分解・気化させた後も、確固たる空孔を形成することにつながり易いため、ある程度のドメインを形成することがスチレンポリマーに求められる。
【0065】
ポリフェニレンを主体とする絶縁膜の誘電率を、スチレンポリマーの利用によって2.2より小さい値まで低減するには、スチレンポリマーの使用量を増やす必要がある。
スチレンポリマーの使用量を単純に増やすと、スチレンポリマーがポリフェニレンマトリックス中で形成する個々のドメインが互いに結合して、より大きなドメインとなり易い。ポリフェニレン相内で形成されるスチレンポリマーのドメインがあまりに大きくなると、そこから形成される空孔も自ずと大きくなり、絶縁膜中に非常に大きな空隙あるいは隙間(ボイド)を形成するに至る。
このようなボイドは、製造される電子デバイスの信頼性を大きく低下させる。
【0066】
ポリフェニレンとスチレンポリマーを含む絶縁膜形成用組成物に対し、ポリマー(C)を加えることで、ポリフェニレンマトリックス中でスチレンポリマーが形成するドメインサイズを制御可能となることを本発明者らは見出した。ポリマー(C)を使用しない場合、数十〜数百ナノメートルオーダーのボイドが形成されるようなポリフェニレン-スチレンポリマーからなる系に対して、ポリマー(C)を適用することでその空孔サイズを数オングストローム〜数ナノメートルオーダーに制御することが可能である。
【0067】
ポリマー(C)は相分離しているポリフェニレンとスチレンポリマーの界面エネルギーを低下させ、ポリフェニレン中におけるスチレンポリマーのドメインサイズを低下させる機能を有するものと考えられる。
すなわちポリマー(C)は、水と油の2成分系に対する界面活性剤と相似の機能を有するものと捉えられる。
互いに相分離している水と油の混合物に対して、界面活性剤を添加すると油分子と水分子の界面に界面活性剤が介入し、油分子が微細なミセルとなって水中に分散される現象と同様に理解する事ができる。
【0068】
ポリマー(C)を構成するユニットのうち、ポリフェニレン(A)と親和性を有するユニットとしては、ポリフェニレン鎖そのものを使用することも可能であるが、その他のユニットを使用する事も可能である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、水素化ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニル、ポリアルキルアクリレート(アルキルは炭素数1〜10が好ましく、炭素数1〜5がより好ましい)、ポリアルキルメタクリレート(アルキルは炭素数1〜10が好ましく、炭素数1〜5がより好ましい)、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアセナフチレンおよびこれらの共重合体から選択される。これらのなかで特に好ましいものとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、水素化ポリブタジエン、ポリアセナフチレン、エチレン-エチルアクリレートコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマーを挙げることができる。最も好ましいユニットとしてポリアセナフチレンを挙げることができる。空孔径低減やボイド形成抑止という本発明の効果において特に優れるためである。
【0069】
ポリマー(C)を構成するスチレンポリマー(B)と親和性を有するユニットは、スチレンポリマー鎖であることが好ましい。
ポリマー(C)は、ブロックコポリマー・グラフトコポリマーの合成法として一般によく知られている手法によって合成可能である。
【0070】
また、ポリマー(C)としては、市販品を使用することもできる。例えば、モディパーA1100(日本油脂製、LDPE-PSグラフト共重合体)、モディパーA3100(日本油脂製、PP/PS = 70 質量%/30 質量%グラフト共重合体)、モディパーA4100(日本油脂製、EGMA/PS = 70 質量%/30 質量%グラフト共重合体、ここでEGMAはエチレン/グリシジルメタクリレート = 85 質量%/15 質量%共重合体を指す)、モディパーA5100(日本油脂製、EEA/PS = 70 質量%/30 質量%グラフト共重合体、ここでEEAはエチレン/エチルアクリレート = 80 質量%/20 質量%共重合体を指す)、モディパーA6100(日本油脂製、EVA/PS = 70 質量%/30 質量%グラフト共重合体、ここでEVAはエチレン/酢酸ビニル = 85 質量%/ 15 質量%共重合体を指す)等の市販品を使用する事ができる。
【0071】
本発明の組成物中におけるポリマー(C)の数平均分子量としては、1,000以上500,000以下である事が好ましく、より好ましくは2,000以上200,000以下、最も好ましくは4,000以上100,000以下である。
【0072】
本発明の組成物中におけるポリマー(C)の含有量は、ポリフェニレン(A)をa質量部、スチレンポリマー(B)をb質量部、(C)ブロック共重合もしくはグラフト共重合体(ポリマー(C)の質量をc質量部とした時、0.001≦c /(a + b + c)≦0.150であることが好ましく、0.005≦c /(a + b + c)≦0.100であることがより好ましく、更に好ましくは0.010≦c /(a + b + c)≦0.080、最も好ましくは0.020≦c /(a + b + c)≦0.070である。
ポリマー(C)の含有量が上記範囲よりも少ないとポリマー(C)添加による本発明の効果が充分に得られ難くなり、上記範囲よりも多いとポリマー(C)自身がポリフェニレン(A)およびスチレンポリマー(B)とより相分離を起こしやすくなり、空孔径増大やボイド形成につながり易いため好ましくない。
【0073】
次に、本発明の組成物を構成するその他の成分について説明する。
本発明の組成物は、上述のポリフェニレン(A)、スチレンポリマー(B)、ポリマー(C)を溶解する有機溶剤を含む。
前記有機溶剤としては、例えば1−メトキシ−2−プロパノール、プロパノール、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、アニソール、メシチレン、t−ブチルベンゼンであり、特に好ましくは1−メトキシ−2−プロパノール、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、t−ブチルベンゼン、アニソールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
また、後述するように、本発明の組成物に含有されるポリフェニレンは不活性有機溶媒にポリフェニレン前駆体を添加し、加熱等することで合成することができるが、合成後の溶液中における前記不活性有機溶媒は前記有機溶剤である。不活性有機溶媒にポリフェニレン前駆体を添加し加熱等して得られる溶液は本発明のポリフェニレンを含むが、前記不活性有機溶媒に本発明のポリフェニレンの少なくとも一部が溶解している。
【0075】
本発明の組成物は上述のポリフェニレン(A)、スチレンポリマー(B)、ポリマー(C)および前記有機溶剤とからなるものであってよいが、さらに界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤を含むと、本発明の組成物によって形成した絶縁膜の膜厚を均一に調整しやすくなる。
前記界面活性剤としては、例えばノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が挙げられる。このような界面活性剤の一種類のみを用いてもよいし、二種類以上を用いてもよい。中でもシリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤を好ましく用いることができ、シリコーン系界面活性剤をより好ましく用いることができる。
【0076】
ここでシリコーン系界面活性剤とは、少なくとも1原子のSi原子を含む界面活性剤を意味する。上記のように本発明の組成物はシリコーン系界面活性剤を含むことが好ましいが、中でもアルキレンオキシドおよびジメチルシロキサンを含む構造を有するものであることがより好ましい。そして、下記式(h)を含む構造であることがさらに好ましい。
【0077】
【化16】

式(h)
【0078】
式(h)中、Rは水素原子または炭素原子数1〜5のアルキル基であり、xは1〜20の整数であり、m、nはそれぞれ独立に2〜100の整数である。複数のRは同じでも異なっていてもよい。
【0079】
前記界面活性剤は、本発明の組成物に含まれる全固形成分に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、1.0〜5.0質量%であることがより好ましい。
【0080】
また、本発明の組成物はラジカル発生剤、コロイド状シリカ、シランカップリング剤、密着剤あるいは密着助剤などの添加剤を含んでもよい。これら添加剤の添加量は、得られる絶縁膜の特性(耐熱性等)を損なわない範囲であればよいが、本発明の組成物に含まれる全固形成分に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0081】
本発明の組成物に用いられる密着剤あるいは密着助剤の代表的な例は、シラン、好ましくはアルコキシシラン(例えばトリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシラン、アリルトリメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン)等のオルガノシラン、アセトキシシラン(例えばビニルトリアセトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、およびこれらの加水分解物あるいは脱水縮合物、ヘキサメチルジシラザン[(CH33−Si−NH−Si(CH33]、または、アミノシラン・カプラー、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、またはキレート(例えば、酸化アルミニウムを形成する点から、アルミニウムモノエチルアセトアセテートジイソプロピレート[((イソC37O)2Al(OCOC25CHCOCH3))]、アルミニウム・アルコキシド)などを挙げることができる。これらの材料を混合して用いてもよい。また、接着促進剤として市販されているものを用いてもよい。
膜形成用組成物中の密着助剤の添加量は、全固形分に対して、一般的には0.05質量%〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%である。
【0082】
本発明の組成物に含まれる全固形成分の濃度は、好ましくは0.1〜50質量%であり、より好ましくは0.5〜15質量%であり、さらに好ましくは1〜10質量%である。
【0083】
本発明の組成物には不純物としての金属含量が充分に少ないことが好ましい。
本発明の組成物中における遷移金属の含有量は、ICP−MS法によって測定した場合において、10ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることが好ましく、100ppb以下であることがさらに好ましい。遷移金属は酸化を促進する触媒能が高く、プリベーク、熱硬化プロセスにおいて酸化反応によって、本発明の組成物から形成される絶縁膜(本発明の絶縁膜)の誘電率を上げてしまうと考えられるからである。
また、本発明の組成物中における遷移金属以外の金属含有量は、ICP−MS法によって測定した場合において30ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることがより好ましく、300ppb以下であることがさらに好ましい。
【0084】
次に本発明の組成物の製造方法について説明する。
本発明の組成物が含むポリフェニレンは、少なくとも一種のジエン基を有する化合物と、少なくとも一種のジエノフィル基を有する化合物とを原料として用いて製造する。この原料としては、例えば、上記の式(a)〜式(f)で示される化合物(式(d)の場合は、式(d)に示されるビスシクロペンタジエノンおよびジアセチレンの各々を指す。)が挙げられる。このような原料を、本明細書では「ポリフェニレン前駆体」ともいう。
【0085】
ポリフェニレン前駆体は充分に精製されていることが好ましい。特に金属およびイオン性物質をできるだけ含まないようにしておくことが好ましい。
例えば、芳香族アセチレン基を含む多官能性化合物が残留エチニル化触媒を含む場合、これを水洗浄液し、脂肪族炭化水素溶媒と接触し、次いで芳香族溶媒中に溶解した後、純粋なシリカゲルを通して濾過すれば、残留エチニル化触媒を前記多官能性化合物から除去することができる。さらに再結晶化を行えば、残留エチニル化触媒をさらに除去することができる。
【0086】
前記ポリフェニレン前駆体からポリフェニレンを合成する方法は限定されないが、不活性有機溶媒にポリフェニレン前駆体を溶解し、大気圧、減圧または過圧のいずれかにおいて適当な重合温度に加熱することでポリフェニレンを合成することが好ましい。均一分子量のポリフェニレンを得やすく、また、反応に伴う発熱を緩和することができるからである。また、ここで得られるポリフェニレンを含む溶液は、既に本発明の組成物であるので、ポリフェニレンを前記有機溶剤に添加する等の操作が不必要だからである。
【0087】
前記不活性有機溶媒としては、例えばメシチレン、ピリジン、トリエチルアミン、N−メチルピロリジノン(NMP) 、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、ブチルベンゾエート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロヘキシルピロリジノン、およびエーテルもしくはヒドロキシエーテル、例えばジベンジルエーテル、ジグリム、トリグリム、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トルエン、メシチレン、キシレン、ベンゼン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジクロロベンゼン、プロピレンカーボネート、ナフタレン、ジフェニルエーテル、ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、およびこれらの混合物が挙げられる。好ましい不活性有機溶剤はメシチレン、N−メチルピロリジノン(NMP)、ガンマ−ブチロラクトン、ジフェニルエーテルおよびこれらの混合物である。
【0088】
ポリフェニレン前駆体の重合反応が最も有利に行われる反応温度、反応時間等の反応条件は、ポリフェニレン前駆体や、前記不活性有機溶媒の種類等の種々の因子によって異なる。
例えば、大気圧において、反応温度を100℃〜475℃、反応時間を1分〜48時間として、ポリフェニレン前駆体からオリゴマーを形成することができる。反応温度を150℃〜450℃とすることが好ましく、200℃〜250℃とすることがより好ましい。また、反応時間を60分〜48時間とすることが好ましく、1分〜10時間とすることがより好ましく、1分〜1時間とすることがさらに好ましい。さらに鎖延長(アドバンスメント)を行ってもよい。
また、ポリフェニレン前駆体の重合反応は非酸化雰囲気、例えば窒素または他の不活性ガス中で行なうことができる。
【0089】
次に、本発明の組成物によって形成することができる本発明の絶縁膜について説明する。
初めに、本発明の絶縁膜の形成方法について説明する。
本発明の絶縁膜は、本発明の組成物をスピンコーティング法、ローラーコーティング法、ディップコーティング法、スキャン法等の任意の方法により基板に塗布した後、加熱処理し、前記有機溶剤を除去することにより形成することが好ましい。
基板に塗布する方法としては、スピンコーティング法またはスキャン法によるものが好ましく、スピンコーティング法がより好ましい。スピンコーティングについては,市販の装置を使用できる。例えば、クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン社製)、D−スピンシリーズ(大日本スクリーン社製)、SSシリーズまたはCSシリーズ(東京応化工業社製)等が好ましく使用できる。
【0090】
スピンコート条件としては、いずれの回転速度でもよいが、例えば300mmシリコン基板においては1300rpm程度の回転速度であることが好ましい。形成される本発明の絶縁膜の面内均一性が良好となるからである。
また、本発明の組成物の吐出方法は、回転する基板上へ本発明の組成物を吐出する動的吐出、静止した基板上へ本発明の組成物を吐出する静的吐出のいずれでもよいが、形成される本発明の絶縁膜の面内均一性の観点より、動的吐出が好ましい。また、本発明の組成物の消費量を抑制する観点より、予備的に本発明の組成物が含む有機溶剤のみを基板上に吐出して液膜を形成した後、その上から本発明の組成物を吐出するという方法を用いることもできる。ここで有機溶剤が2種類以上を含む場合は、含有率の高い方のみを用いて液膜を形成してもよい。スピンコート時間については特に制限はないが、スループットの観点から180秒以内が好ましい。また、基板の搬送の観点より、基板エッジ部の膜を残存させないための処理(エッジリンス、バックリンス)をすることも好ましい。
【0091】
加熱処理の方法は特に限定されないが、一般的に使用されているホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した加熱方法、RTP(Rapid Thermal Processor)等によるキセノンランプを使用した光照射加熱等を適用することができる。好ましくはホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した加熱方法である。
ホットプレートとしては市販の装置を好ましく使用でき,クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン社製)、D−スピンシリーズ(大日本スクリーン社製)、SSシリーズまたはCSシリーズ(東京応化工業社製)等が好ましく使用できる。ファーネス炉としてはαシリーズ(東京エレクトロン社製)等が好ましく使用できる。
【0092】
本発明の組成物が含むポリフェニレンは、基盤上に塗布した後に加熱処理することによって硬化させることが好ましい。例えば本発明の組成物に含まれるポリフェニレン中に残存する炭素三重結合や二重結合を加熱処理時に重合反応させることで、形成される絶縁膜の強度を高めることができる。この加熱処理の条件は、好ましくは100〜450℃、より好ましくは200〜420℃、さらに好ましくは350℃〜400℃である。また、好ましくは1分〜2時間、より好ましくは10分〜1.5時間、さらに好ましくは30分〜1時間である。
加熱処理は数回に分けて行ってもよい。また、この加熱処理は酸素による熱酸化を防ぐために窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0093】
また、上記のような加熱処理ではなく、本発明の組成物を基盤上に塗布した後に、高エネルギー線を照射することで、本発明の組成物に含まれるポリフェニレン中に残存する炭素三重結合や二重結合を重合反応させてもよい。
高エネルギー線とは、電子線、紫外線、X線などが挙げられるが、特にこれらの方法に限定されるものではない。
【0094】
高エネルギー線として電子線を使用した場合のエネルギーは、0〜50keVが好ましく、0〜30keVがより好ましく、0〜20keVがさらに好ましい。電子線の総ドーズ量は好ましくは0〜5μC/cm2、より好ましくは0〜2μC/cm2、さらに好ましくは0〜1μC/cm2である。電子線を照射する際の基板温度は0〜450℃が好ましく、より好ましくは0〜400℃、さらに好ましくは0〜350℃である。電子線を照射する際の雰囲気圧力は好ましくは0〜133kPa、より好ましくは0〜60kPa、さらに好ましくは0〜20kPaである。
また、本発明の組成物に含まれるポリフェニレンの酸化を防止するという観点から、電子線を照射する際の基盤周囲の雰囲気はAr、He、窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。また、電子線との相互作用で発生するプラズマ、電磁波、化学種との反応を目的に酸素、炭化水素、アンモニアなどのガスを添加してもよい。
電子線照射は複数回行ってもよく、この場合は電子線照射条件を毎回同じにする必要はなく、毎回異なる条件で行ってもよい。
【0095】
高エネルギー線として紫外線を用いてもよい。紫外線を用いる際の照射波長領域は160〜400nmが好ましく、その出力は基盤直上において0.1〜2000mWcm-2が好ましい。紫外線照射時の基盤温度は250〜450℃が好ましく、より好ましくは250〜400℃、さらに好ましくは250〜350℃である。本発明の組成物に含まれるポリフェニレンの酸化を防止するという観点から、紫外線照射時の基盤周囲の雰囲気はAr、He、窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。また、紫外線照射時の圧力は0〜133kPaが好ましい。
【0096】
このような方法によって本発明の絶縁膜を形成することができる。本発明の絶縁膜の厚さは特に限定されないが、0.01〜10μmであることが好ましく、0.02〜5μmであることがより好ましく、0.03〜1μmであることがさらに好ましい。
ここで、本発明の絶縁膜の厚さは、光学干渉式膜厚測定器にて任意の3箇所以上を測定した場合の単純平均値を意味するものとする。
【0097】
本発明の絶縁膜は半導体用層間絶縁膜として使用する際、その配線構造において、配線側面にはメタルマイグレーションを防ぐためのバリア層があってもよく、また、配線や層間絶縁膜の上面底面にはCMP(化学的機械的研磨)での剥離を防ぐキャップ層、層間密着層の他、エッチングストッパー層等があってもよく、さらには層間絶縁膜の層を必要に応じて他種材料で複数層に分けても良い。
【0098】
CMPスラリー(薬液)としては、市販のスラリー(例えばフジミ社製、ロデールニッタ社製、JSR社製、日立化成社製等)を適宜使用できる。またCMP装置としては市販の装置(アプライドマテリアル社製、荏原製作所社製等)を適宜使用することができる。 さらにCMP後のスラリー残渣除去のため洗浄することができる。
【0099】
本発明の絶縁膜は、銅配線またはその他の目的でエッチング加工をすることができる。エッチングとしてはウエットエッチング、ドライエッチングのいずれでもよいが、ドライエッチングが好ましい。ドライエッチングはアンモニア系プラズマ、フルオロカーボン系プラズマのいずれもが適宜使用できる。これらプラズマにはArだけでなく、酸素、窒素、水素またはヘリウム等のガスを用いることができる。また、エッチング加工後に加工に使用したフォトレジスト等を除く目的でアッシングすることもでき、さらにはアッシング時の残渣を除くため洗浄することもできる。
【0100】
本発明の絶縁膜は、多様の目的に使用することができる。例えばLSI、システムLSI、DRAM、SDRAM、RDRAM、D−RDRAM等の半導体装置、マルチチップモジュール多層配線板等の電子部品における絶縁皮膜として好適であり、半導体用層間絶縁膜、エッチングストッパー膜、表面保護膜、バッファーコート膜の他、LSIにおけるパッシベーション膜、α線遮断膜、フレキソ印刷版のカバーレイフィルム、オーバーコート膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、液晶配向膜等として使用することができる。
【実施例】
【0101】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【0102】
<合成例1> 〜3,3'-(オキシジ-1,4-フェニレン)ビス(2,4,5-トリフェニルシクロペンタジエノン)(化合物(a))と1,3,5-トリフェニルエチニルベンゼン(化合物(b))のDiels-Alder生成物としてのポリフェニレンの合成〜
3,3'-(オキシジ-1,4-フェニレン)ビス(2,4,5-トリフェニルシクロペンタジエノン)(化合物(a)、7.83g、0.010モル)、および上記合成例1で得られた1,3,5-トリフェニルエチニルベンゼン(化合物(b)、5.68g(0.015モル))を50ミリリットルのγ−ブチロラクトンに溶解させ、得られた溶液をフラスコ内に加えた。このフラスコ内を窒素置換した上で、溶液を200℃に加熱攪拌した。12時間加熱後、室温まで冷却した溶液を50ミリリットルのエタノールに加えた。この時に析出して得られる粉状固体として化合物(a)と化合物(b)とのDiels-Alder反応体としてのポリフェニレン(A-1)を得た。ポリフェニレン(A-1)について、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)にてポリスチレン標準換算で求めた重量平均分子量は16,100であった。
【0103】
<合成例2> 〜リビングアニオン重合によるポリスチレン-アセナフチレンブロックコポリマーの合成〜
還流トルエンで清浄にし、更に真空下で乾燥したガラス製重合反応容器に、700mLのシクロヘキサン(活性アルミナで脱水処理したもの)を充填した。この反応容器を30℃に保ちながら、水素化カルシウム上で蒸留精製したスチレン 34.43g(約0.330mol)を添加した。ここへ、sec-ブチルリチウムのヘプタン溶液を、sec-ブチルリチウム 3.456mmol相当になるよう、添加することでスチレンのアニオン重合を開始した。1時間上記反応溶液を攪拌した後、充分に精製・乾燥処理を施した市販のアセナフチレン50.31g (約0.330mol)を添加し、上記ポリスチレンの生成から逐次、ポリアセナフチレンのポリマー成長反応を開始させた。アセナフチレンの添加から更に1時間上記反応溶液を攪拌した後、反応溶液を1Lのメタノール中に添加して目的のブロックコポリマー(C-1)を得た。
ポリスチレンの重合後に添加して、逐次重合するアセナフチレンを他モノマー種(表1中における「コモノマー」)へ変更したり、その添加量を変更する以外は、当合成例と同様の手法によって、ポリスチレンと他ポリマーユニットとのブロックコポリマー(C-1)〜(C-6)を得た。
表1に、ブロックコポリマーの合成においてポリスチレンと共重合したモノマーユニット(「コモノマー」)およびその添加量、および得られたポリマーの数平均分子量(Mn、標準ポリスチレン換算)をGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)で求めた結果をまとめて示す。
【0104】
【表1】

【0105】
<合成例3> 〜グラフト重合用マクロモノマーとして使用する末端アクリル酸エステルポリスチレン(化合物(c))の合成〜
還流トルエンで清浄にし、更に真空下で乾燥したガラス製重合反応容器に、700mLのシクロヘキサン(活性アルミナで脱水処理したもの)を充填した。この反応容器を55℃に保ちながら、水素化カルシウム上で蒸留精製したスチレン 50.31g(約0.330mmol)を添加した。ここへ、sec-ブチルリチウムのヘプタン溶液を、sec-ブチルリチウム 3.456mmol相当になるよう、添加することでスチレンのアニオン重合を開始した。上記反応溶液を1時間攪拌した後、水素化カルシウム上で乾燥したエチレンオキシド0.6gを添加した。30分後、活性アルミナで脱水処理したテトラヒドロフラン10mLに溶解させたアクリル酸クロリド 0.31g (3.456mmol)を添加した。更に30分後、この溶液を室温まで冷却し、1Lのメタノールに加えて、目的の末端アクリル酸エステルポリスチレン(化合物(c))を得た。得られた化合物(c)のGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)ポリスチレン標準換算で求めた重量平均分子量(Mw)は13,200、数平均分子量(Mn)は12,500であった。
【0106】
<合成例4> 〜末端アクリル酸エステルポリスチレン(化合物(c))とメタクリル酸メチルとのラジカル共重合によるグラフトポリマーの合成〜
100mLの三口丸底フラスコに、メタクリル酸メチル0.10g(1mmol)、上記合成例3で合成した末端アクリル酸エステルポリスチレン(化合物(c))12.5g(1mmol)をトルエンに溶解させた。当溶液中に、市販のラジカル重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリルを添加し、80℃で加熱攪拌した。
重合終了後、反応溶液をメタノールに加え、白色沈殿物として目的のグラフトポリマー(C-7)を得た。
共重合するメタクリル酸エステルを他モノマー種(表2中における「コモノマー」)に変更したり、各モノマー仕込みの共重合比率を変更する以外は、当合成例と同様の手法によって、各種ポリスチレングラフトポリマー(C-7)〜(C-10)を得ることができた。
表2に、グラフトポリマーの合成にて化合物(c)と共重合したモノマーユニット(「コモノマー」)、化合物(c)と各コモノマーの共重合仕込み比率、更に得られたポリマーの数平均分子量(Mn、標準ポリスチレン換算)をGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)で求めた結果をまとめて示す。
【0107】
【表2】

【0108】
<合成例5> 〜ポリフェニレンとポリスチレンのグラフト共重合体(C-11)の合成〜
ガラス製反応容器中に、4,4'−ビス(2,4,5−トリフェニルエチニルシクロペンタジエノン)ジフェニルエーテル22.69g(0.0193モル)、1,3,5‐トリス(フェニルエチニル)ベンゼン4.87g(0.0129モル)、および特表2002-530505の実施例中に記載されている方法と同様の手法で合成した3,5-ビス(フェニルエチニル)安息香酸のポリスチレンエステル(Mn 37,000)を4.63g (0.000125モル)およびγ‐ブチロラクトン50gを添加した。当反応容器内を充分に窒素置換した後、容器内の上記混合物を攪拌しながら200℃に加熱した。48時間後、反応溶液を室温に冷却したのち、メタノール500ccに添加することで、濃赤紫色の粉末として、目的としたポリフェニレンとポリスチレンのグラフト共重合体(C-11)を得た。グラフト共重合体(C-11)の数平均分子量は、GPCによる分析にて、4800であった(ポリスチレン標準換算)。
【0109】
〔実施例1〜31、比較例〕
<絶縁膜形成用組成物の調製>
上記合成例で得られたポリフェニレン(A-1) 1.0 g、スチレンポリマー(空孔形成剤)としてアニオン重合ポリスチレン(Aldrich社製、数平均分子量 13,200、全固形成分に対する添加量は表3にまとめて記載した)、ポリマー(C)(使用したポリマー(C)の種別と、ポリフェニレン、スチレンポリマー及びポリマー(C)の合計質量に対するポリマー(C)の添加量(c/(a+b+c))を表3にまとめて記載した)、密着助剤としてビニルトリアセトキシシランのオリゴマーを全固形成分に対して3.0質量%、からなる固形成分を溶剤に完全溶解させることで絶縁膜形成用組成物を調製した。
【0110】
<膜誘電率の測定>
上記要領にて調製した塗布液を東京エレクトロン社製スピンコーターACT-8 SODを用いて基板抵抗値7 Ω/cmの8インチベアシリコンウェハー上にスピン塗布した。塗布後の膜を110℃60秒間、続いて200℃60秒間ベークを行った後、窒素置換した450℃のクリーンオーブン内で1時間焼成することで膜厚100nmの塗布膜を得た。得られた膜の比誘電率をフォーディメンジョンズ社製水銀プローバおよび横河ヒューレットパッカード社製のHP4285A LCR meterを用いて1MHzにおける電気容量値から算出した。結果をまとめて表3に示す。
【0111】
<膜中ボイドサイズの確認>
上記の誘電率測定と同様の方法で得た焼成膜付き8インチウェハーを破断した。露出した焼成膜の側壁に銀薄膜を蒸着し、日立ハイテクノロジーズ社製 走査型電子顕微鏡 S-4800を用いて膜の側壁形状を観察し、膜中に存在する空隙あるいは隙間(ボイド)の存在有無を確認した。膜中に幅30nm以上のボイドの存在が確認された場合「×」、膜中に幅30nm未満のボイドが確認された場合「△」、膜中に電子顕微鏡の分解能で確認できるレベルのボイドが全く存在しなかった場合「○」とした。結果をまとめて、表3に示す。
【0112】
<最頻出空孔径の測定>
Quantachrome Instruments社製Autosorbを用い、上記誘電率測定と同様の方法で得た焼成膜に対する液体窒素温度下における窒素吸着等温線の測定を行った。得られた窒素吸着等温線を、NLDFT Monte-Calro法(吸着質:窒素、吸着媒:カーボン、スリットポアモデル)によって解析し、得られた焼成膜に存在する空孔分布を得た。得られた空孔分布のうち、最も体積の大きい孔径を最頻出空孔径とし、その結果を表3にまとめて示した。
【0113】
【表3】

【0114】
表3中の材料種略号は各々、以下を意味する。
(C-1)〜(C-11):上記合成例1〜5に記載の化合物
(C-12):モディパーA1100(日本油脂製、LDPE/PS = 70質量%/30質量%グラフト共重合体)(LDPE:低密度ポリエチレン)
(C-13):モディパーA3100(日本油脂製、PP/PS = 70質量%/30質量%グラフト共重合体)(PP:ポリプロピレン)
(C-14):モディパーA5100(日本油脂製、EEA/PS = 70質量%/30質量%グラフト共重合体)(EEA:エチレン/エチルアクリレート)
(C-15):モディパーA6100(日本油脂製、EVA/PS = 70質量%/30質量%グラフト共重合体)(EVA:エチレン/酢酸ビニル)
(D-1):シクロヘキサノン
(D-2):2-ヘプタノン
(D-3):γ‐ブチロラクトン
【0115】
上記表3に示すとおり、本発明の組成物から得られる絶縁膜は、低誘電率性を保ちつつ、その空孔径が小さく、ボイド発生が少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレン、
(B)スチレンポリマー、及び
(C)前記ポリフェニレン(A)に対して親和性を有するユニットと前記スチレンポリマー(B)に対して親和性を有するユニットとのブロック共重合体もしくはグラフト共重合体、
を含有することを特徴とする絶縁膜形成用組成物。
【請求項2】
前記スチレンポリマー(B)に対して親和性を有するユニットがスチレンポリマー鎖であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁膜形成用組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレン(A)に対して親和性を有するユニットが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、水素化ポリブタジエン、ポリアセナフチレン、エチレン/エチルアクリレートコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー及びこれらの組合わせからなる群より選択されるポリマー鎖である、請求項1または2に記載の絶縁膜形成用組成物。
【請求項4】
前記ポリフェニレン(A)が、ジエン基を有する化合物とジエノフィル基を有する化合物との間のディールスアルダー反応によって形成された化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の絶縁膜形成用組成物。
【請求項5】
前記ジエン基を有する化合物におけるジエン基の数、および前記ジエノフィル基を有する化合物におけるジエノフィル基の数のいずれか、または両方が2以上である、請求項4に記載の絶縁膜形成用組成物。
【請求項6】
組成物中に含まれるポリフェニレン(A)の質量をa質量部、スチレンポリマー(B)の質量をb質量部、ブロック共重合体もしくはグラフト共重合体(C)の質量をc質量部とした時、c /(a + b + c) ≦ 0.15である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の絶縁膜形成用組成物。

【公開番号】特開2009−242440(P2009−242440A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87059(P2008−87059)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】