説明

絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】十分な難燃性を有し、従来よりも耐外傷性、耐摩耗性に優れた絶縁電線を提供すること。
【解決手段】導体12と、導体12の外周を被覆する絶縁被覆層とを有し、前記絶縁被覆層は、複数層から構成されており、ポリフェニレンエーテル系樹脂とオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物より形成された第一の層16と、オレフィン系樹脂を含有するポリマー成分100質量部と、金属水酸化物50〜200質量部とを含有する難燃性樹脂組成物より形成された第二の層14とを有する絶縁電線10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、車両部品、電気・電子機器部品などに好適に用いられる絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線としては、一般に、導体の外周に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物を被覆したものが広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、この種の塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、近年では、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂などに、ノンハロゲン系難燃剤として水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加した、いわゆるノンハロゲン系難燃性組成物への代替が進められている。
【0005】
例えば特許文献1には、エチル−アクリル酸エチル共重合体(EEA)やポリエチレン、エチレンプロピレンゴムなどの樹脂やゴムに難燃剤として水酸化マグネシウムを添加した難燃性組成物が被覆された絶縁電線が開示されている。
【0006】
また、例えば特許文献2には、オレフィン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含有する樹脂組成物が被覆された絶縁電線が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特許第3339154号公報
【特許文献2】特開2008−60069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、基本的にオレフィン系樹脂などは燃えやすく、また、ノンハロゲン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤に比較して難燃化効果に劣る。したがって、特許文献1などに示される難燃性組成物では、十分な難燃性を確保するため、金属水酸化物を多量に添加する必要があった。そのため、従来の絶縁電線では、耐外傷性や耐摩耗性などの機械的特性が著しく低下するという問題があった。また、特許文献2に示される絶縁電線でも、耐外傷性が十分ではなかった。そのため、耐外傷性などの材料特性には改良の余地があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、十分な難燃性を有し、従来よりも耐外傷性、耐摩耗性に優れた絶縁電線を提供することにある。また、この絶縁電線を含んだワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明に係る絶縁電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆層とを有する絶縁電線であって、前記絶縁被覆層は、複数層から構成されており、ポリフェニレンエーテル系樹脂とオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物より形成された第一の層と、オレフィン系樹脂を含有するポリマー成分100質量部と、金属水酸化物50〜200質量部とを含有する難燃性樹脂組成物より形成された第二の層とを有することを要旨とするものである。
【0011】
この際、前記第一の層の樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂25〜70質量部と、オレフィン系樹脂70〜25質量部と、スチレン系熱可塑性エラストマー5〜10質量部とを含有することが望ましい。
【0012】
また、前記第二の層のポリマー成分は、オレフィン系樹脂80〜95質量部と、スチレン系熱可塑性エラストマー20〜5質量部とを含有することが望ましい。
【0013】
そして、前記絶縁被覆層の厚みが300μm以下であり、かつ、前記第一の層の厚みXと前記第二の層の厚みYとの関係が0.1X≦Y≦Xであることが望ましい。
【0014】
このとき、前記第一の層が前記絶縁被覆層の外層であるとさらに良い。
【0015】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含むことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る絶縁電線は、絶縁被覆層が複数層から構成されており、ポリフェニレンエーテル系樹脂とオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物より形成された第一の層と、オレフィン系樹脂を含有するポリマー成分100質量部と、金属水酸化物50〜200質量部とを含有する難燃性樹脂組成物より形成された第二の層とを有する。そのため、耐外傷性、耐摩耗性、難燃性に優れる。
【0017】
これは、第一の層において、オレフィン系樹脂にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させることにより耐外傷性を高めるとともに、第一の層と、第一の層とは材料が異なり、硬さが異なる第二の層とを設けることにより、電線被覆に傷を付ける外力が加わったときに比較的結合の弱い層間にその応力が集中し、さらに層間がさけることにより応力が分散することで、効率よく耐外傷性を向上させることができるためと推測される。
【0018】
この際、前記第一の層の樹脂組成物が上記組成よりなると、上記効果を奏するとともに、柔軟性にも優れる。また、前記第二の層のポリマー成分が上記組成よりなると、上記効果を奏するとともに、柔軟性にも優れる。
【0019】
そして、前記絶縁被覆層の厚みと、前記第一の層の厚みXと前記第二の層の厚みYとの関係が、上記範囲内にあると、難燃性、耐外傷性、および、耐摩耗性のバランスに優れる。
【0020】
このとき、前記第一の層が前記絶縁被覆層の外層であると、より一層、耐外傷性に優れる。
【0021】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスによれば、上記絶縁電線を含むので、絶縁被覆層の劣化が抑えられ、長期にわたって高い信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る絶縁電線は、導体と、導体の外周を被覆する絶縁被覆層とを有し、絶縁被覆層が複数層から構成されている。絶縁被覆層は2層以上の層から構成されていれば良く、3層以上であっても良い。製造しやすさなどの観点から、絶縁被覆層は2層または3層が好ましい。より好ましくは2層である。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態に係る絶縁電線10を示す。図1に示すものは、導体12の外周に、内層14と外層16の2層よりなる絶縁被覆層が被覆されたものを示している。
【0024】
絶縁被覆層は、特定の樹脂組成物より形成された第一の層と、難燃剤を含有する特定の難燃性樹脂組成物より形成された第二の層とを有する。絶縁被覆層が3層以上から構成される場合には、第一の層および第二の層以外の他の層を有する。第一の層および第二の層は、絶縁被覆層のどの位置にあっても良く、特に限定されるものではない。より好ましくは、第一の層が絶縁被覆層の外層であると良い。絶縁被覆層が2層よりなる場合、第一の層および第二の層のいずれが外層であっても良い。好ましくは、第一の層が外層であり、第二の層が内層である。
【0025】
絶縁被覆層のうち第一の層は、ポリフェニレンエーテル系樹脂とオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物より形成される。第一の層は、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有するため、耐外傷性を向上させる機能を有する。また、難燃性も有する。第一の層が絶縁被覆層の外層である場合には、ポリフェニレンエーテル系樹脂の表面平滑性が良好であるため、鋭利な刃などの侵入を防ぎやすいなどの利点を有する。これにより、耐外傷性を高めることができる。
【0026】
第一の層中のポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は、25〜70質量%の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、40〜70質量%の範囲内である。含有量が25質量%未満では、耐外傷性、難燃性を高める効果が低下しやすい。一方、含有量が70質量%を超えると、第一の層が硬くなりすぎ、絶縁電線の柔軟性が低下しやすい。また、ポリフェニレンエーテルは、それ単体では流動性が低く(ほぼ無く)、成形加工しにくいため、電線の外観が悪化しやすくなる。
【0027】
第一の層は、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびオレフィン系樹脂以外の他の高分子材料を含有していても良い。他の高分子材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、スチレン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどを例示することができる。スチレン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどは、第一の層をより柔軟にする効果を発揮する。
【0028】
第一の層は、耐外傷性、耐摩耗性、難燃性および柔軟性のバランスに優れるなどの観点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂25〜70質量部と、オレフィン系樹脂70〜25質量部と、スチレン系熱可塑性エラストマー5〜10質量部とを含有することが好ましい。
【0029】
第一の層に含有されるポリフェニレンエーテル系樹脂は、一般に、フェノール類を重合して得られる。ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、下記一般式(1)で表すことができる。
【0030】
【化1】

【0031】
但し、R1〜R4は、それぞれ、水素原子、アルコキシル基、炭化水素基、アミノ基、ヒドロキシル基等の置換基を有する炭化水素基などを例示することができる。R1〜R4は、互いに同一であっても良いし、互いに異なっていても良い。また、R1〜R4は、ハロゲン原子を含有しないことが好ましい。
【0032】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、同種のフェノール類からなるものであっても良いし、異種のフェノール類からなる共重合のものであっても良い。ポリフェニレンエーテル系樹脂は、官能基が導入されていても良い。官能基の導入に用いる化合物としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、スチレンなどを例示することができる。
【0033】
ポリフェニレンエーテル系樹脂を配合する際には、オレフィン系樹脂、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系重合体、その他の樹脂等が予め混合されていても良い。この場合、ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有率は、40質量%以上であることが好ましい。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂単体またはポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する混合物のメルトマスフローレイト(MFR)は、0.1g/10min以上であることが好ましい。ポリフェニレンエーテル系樹脂は、1種または2種以上併用することができる。
【0034】
ポリフェニレンエーテル系樹脂とオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物や、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレンとを含有する樹脂組成物などは、市販のものを用いても良いし、任意の配合により調製しても良い。市販のものとしては、例えば、サビック社の「ノリル」、旭化成ケミカルズ社の「ザイロン」、三菱エンジニアリングプラスチック社の「ユピエース」などが挙げられる。
【0035】
第一の層に含有されるオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。ポリプロピレンは、単一の組成からなるホモポリプロピレンを用いても良いし、エチレンや他のオレフィンとブロック共重合しても良い。
【0036】
第一の層に含有可能なスチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、スチレンと共重合させる成分としては、エチレンやプロピレン、ブタジエン、イソプレンなどを例示することができる。これらは単独で共重合させても良いし、複数組み合わせて共重合させても良い。
【0037】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−スチレン共重合体(SES)やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、無水マレイン酸変性のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)やスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、無水マレイン酸変性のスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0038】
スチレンをハードセグメント、スチレンに挟まれたポリマーをソフトセグメントとして、ハードセグメントとソフトセグメントの割合は、ハードセグメント/ソフトセグメントが、重量比で10/90〜40/60の範囲内にあることが好ましい。
【0039】
第一の層に含有可能な熱可塑性エラストマーとしては、1,2−ポリブタジエンなどが挙げられる。また、第一の層に含有可能なゴムとしては、ブタジエンゴムやイソプレンゴムなどが挙げられる。これらのゴムは、酸変性したものであっても良い。例えば、コアシェル構造を有する変性ブタジエンゴムや、コアシェル構造を有する変性イソプレンゴムなどを例示することができる。
【0040】
絶縁被覆層のうち第二の層は、オレフィン系樹脂を含有するポリマー成分100質量部と、金属水酸化物50〜200質量部とを含有する難燃性樹脂組成物より形成される。第二の層は、金属水酸化物により難燃性が付与されている。
【0041】
第二の層は、オレフィン系樹脂以外の他の高分子材料を含有していても良い。他の高分子材料としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどを例示することができる。スチレン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどは、第二の層をより柔軟にする効果を発揮する。
【0042】
第二の層に含有されるオレフィン系樹脂や、第二の層に含有可能なスチレン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどには、第一の層の材料として記載した材料と同様のものを用いることができる。
【0043】
第一の層および第二の層に含有されるオレフィン系樹脂やスチレン系熱可塑性エラストマーなどの他の高分子材料には、官能基を導入して変性しても良い。例えば第一の層または第二の層が導体と接触する層である場合には、導体との間の密着性が向上する。導体との間の密着性が高いと、絶縁被覆層は、導体からめくれにくくなる。そうすると、例えば絶縁被覆層に傷が入ったときに、導体まで露出しにくくする効果がある。また、第二の層の場合には、オレフィン系樹脂等の高分子材料が官能基で変性されていると、オレフィン系樹脂等の高分子材料と金属水酸化物とが混ざりやすくなる。
【0044】
導入する官能基としては、例えば、カルボン酸基、酸無水物基、シラン基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。より好ましくは、カルボン酸基、酸無水物基、シラン基である。
【0045】
このうち、カルボン酸基や酸無水物基を形成する酸としては、例えば、マレイン酸およびその誘導体である無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステルや、フマル酸およびその誘導体である無水フマル酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステルなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。酸を導入する方法としては、グラフト法や直接(共重合)法などが挙げられる。
【0046】
オレフィン系樹脂中に占める官能基の割合は、0.05〜10質量%の範囲内にあることが好ましい。官能基の割合が0.05質量%未満では、導体との間の密着性を向上させる効果が低下しやすい。一方、官能基の割合が10質量%を超えると、電線の端末加工時の被覆ストリップ性が低下しやすい。より好ましくは、0.1〜10質量%、さらに好ましくは、0.2〜5質量%の範囲内である。
【0047】
第二の層に含有される金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを示すことができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。より好ましくは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムである。金属水酸化物の平均粒子径は、0.1〜20μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満では、粒子が凝集しやすいため、電線物性の難燃特性が低下しやすい。また、生産性が低下する。一方、平均粒子径が20μmを超えると、低温特性が低下しやすい。
【0048】
金属水酸化物は、表面処理されていても良い。表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、脂肪酸、脂肪酸誘導体、高級アルコール、ワックスなどを例示することができる。また、この他の表面処理剤を用いることもできる。
【0049】
表面処理剤は、金属水酸化物100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜3質量部の範囲内である。0.1質量部未満では、電線特性の向上効果が低下しやすく、10質量部を超えると、過剰に添加されたものが不純物として残存しやすくなり、電線の物性を低下させやすい。
【0050】
第一の層の厚みと第二の層の厚みとは、特定の関係にあることが好ましい。すなわち、第一の層の厚みをXとし、第二の層の厚みをYとしたときに、0.1X≦Y≦Xとなることが好ましい。0.1X>Yであると、二層構造にしたときの応力集中・分散効果が薄れ、十分な耐外傷性が得られにくい。同様に、Y>Xであると、第一の層の厚みが薄くなり、十分な耐外傷性が得られにくい。
【0051】
絶縁被覆層全体の厚みとしては、特に限定されないが、好ましくは、0.1〜0.3mmの範囲内にすると良い。また、絶縁電線の外径は、特に限定されないが、3mm以下、より好ましくは、2mm以下にすると良い。
【0052】
第一の層および第二の層には、必要に応じて、他の添加剤が配合されていても良い。例えば、電線被覆材などに用いられる一般的な充填剤や、顔料、酸化防止剤、老化防止剤、難燃剤などが配合されていても良い。
【0053】
絶縁被覆層が3層以上である場合には、第一の層および第二の層以外の他の層を有する。このとき、他の層は、オレフィン系樹脂を含有していることが好ましい。また、他の層は、オレフィン系樹脂以外に、他の高分子材料を含有していても良い。他の高分子材料としては、第一の層および第二の層と同様のものを示すことができる。また、必要に応じて、第一の層および第二の層と同様の添加剤を添加することもできる。
【0054】
導体としては、単線の金属線、複数本の金属素線が撚り合わされた撚線、撚線が圧縮加工されたものなどが挙げられる。図1(a)には、複数本の金属素線が撚り合わされた撚線よりなる導体12の例を示しており、図1(b)には、撚線を圧縮加工してなる導体12の例を示している。導体12の径や材質などは、特に限定されるものではなく、用途などに応じて適宜選択することができる。
【0055】
例えば、導体の材料としては、銅を用いることが一般的であるが、銅以外にも、アルミニウム、マグネシウム等を用いても良い。また、銅等の金属に他の金属を含有させた合金としても良い。他の金属としては、例えば、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコンなどが挙げられる。この他、導体として広く使用される金属を銅等に添加あるいは単独で使用しても良い。
【0056】
以上の構成を有する絶縁電線によれば、第一の層において、オレフィン系樹脂にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させているため、耐外傷性に優れる。そして、単に第一の層を設けたことにより耐外傷性を向上させているだけでなく、絶縁被覆層を、第一の層を含む複数層に構成することによりさらに耐外傷性を向上させることができる。すなわち、第一の層と、第一の層とは異なる材料を含有する層とを設け、硬さの異なる層を複数層形成することにより、電線被覆に傷を付ける外力が加わったときに比較的結合の弱い層間にその応力を集中させて、層間がさけることによりその応力を分散させることができる。これにより、絶縁被覆層が単に1層よりなるときよりも耐外傷性を向上させることができる。また、このように絶縁被覆層を、第一の層を含む複数層に構成することにより、絶縁被覆層が硬くなりすぎないため、厚肉化が可能になる。
【0057】
そして、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する第一の層が絶縁被覆層の外層にあると、ポリフェニレンエーテル系樹脂の表面平滑性が良好であるため、電線被覆に傷を付ける刃などの侵入が防止される。そのため、より一層、耐外傷性に優れる。また、外層にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する構成にすると、ポリフェニレンエーテル系樹脂自体の難燃性のため、外層は、難燃剤を含まないか、難燃剤の量が少ない構成にすることができる。そのため、外層を形成する材料の流動性が良くなり、電線の生産性をより高めることができる。
【0058】
次に、絶縁電線の製造方法について説明する。
【0059】
まず、第一の層を形成する樹脂組成物と、第二の層を形成する樹脂組成物と、必要に応じて他の層を形成する樹脂組成物をそれぞれ調製する。各組成物を調製するには、各材料をそれぞれ配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。
【0060】
次いで、通常の押出成形機などを用いて、導体の外周に、内層を形成する樹脂組成物を押出成形(押出被覆)し、内層の外周に、外層を形成する樹脂組成物を押出成形して製造することができる。このとき、同時押出成形により、内層と外層とを押出成形しても良いし、内層を押出成形した後、外層を押出成形しても良い。また、内層と外層との間の中間層を有する絶縁電線の場合には、内層の外周に、中間層を形成する樹脂組成物を押出成形し、中間層の外周に、外層を形成する樹脂組成物を押出成形すれば良い。
【0061】
次に、本発明に係るワイヤーハーネスについて説明する。
【0062】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含んでなるものである。上記絶縁電線のみで構成される電線束であっても良いし、他の樹脂組成物が被覆された絶縁電線、例えば、塩化ビニル系の絶縁電線やハロゲン元素を含有しない他の絶縁電線などを含んで構成される電線束であっても良い。電線束は、例えばワイヤーハーネス保護材により被覆されていると良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0063】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の絶縁電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂組成物が好ましい。樹脂組成物には、難燃剤を適宜添加すると良い。
【0064】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0066】
(供試材料および製造元など)
本実施例において使用した供試材料を製造元、商品名、物性値などとともに示す。
【0067】
・ポリプロピレン(PP1)[(株)プライムポリマー製、「E−150GK」]
・ポリプロピレン(PP2)[(株)日本ポリプロ製、「EC7」]
・ポリエチレン(PE)[日本ユニカー(株)製、「NUC8008」]
・スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)[(株)旭化成製、「タフテックH1043」]
・ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE1)[(株)三菱エンジニアリングプラスチック製、「ユピエースAN80」]
・ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE2)[サビック社製、「WCV072」]
・水酸化マグネシウム[マーティンスベルグ(株)製、「マグニフィンH10IV」、平均粒子径1.0μm]
・水酸化アルミニウム[昭和電工(株)製、「ハイジライト H−10」]
・酸化防止剤[チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」]
・金属不活性剤[チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックスMD1024」]
・燐酸エステル化合物[(株)大八化学製、「PX201」]
・メラミン化合物[(株)日産化学製、「MC6000」]
【0068】
(絶縁電線の作製)
実施例および比較例に示す成分を示された量で混合し、二軸押出機により230〜270℃で混練した。得られた組成物を断面積0.35mmの撚線導体の周囲に0.2mm厚で押出成形した。押出成形には、直径1.1mmのダイスと直径0.75mmのニップルを使用し、押出温度はダイス250〜300℃、シリンダ230〜270℃とし、線速度50m/minで押出成形した。
【0069】
(耐外傷性評価)
図2(a)(平面図)、図2(b)(側面図)に示すように、30cmの長さに切り取った電線1を、プラスチック板2a,2b上に設置する。プラスチック板2aとプラスチック板2bの間隔は、5mmとする。電線1の左端を、プラスチック板2bに固定し、電線1の右端に30Nの張力をかけて、電線1をまっすぐにする。次いで、電線1において、プラスチック板2aとプラスチック板2bの間に配置された部分の下部から1cm、電線1の径方向中央から外周側に0.8mm程度離した位置に、厚みが0.5mmの金属片3を配置する。
【0070】
次いで、図3(a)〜図3(c)に示すように、金属片3を100mm/minの速度で絶縁被覆層4に接触させながら上方に移動させて、電線1の金属片3にかかる荷重を測定する。このとき、電線1の導体5が露出していない場合には、0.01mm単位で金属片3を電線1の中央方向に近づけ、導体5が露出するまで測定を続ける。導体が露出しない上限荷重をその電線の耐外傷性能力とし、15N以上の荷重でも導体が露出しない場合に耐外傷性を合格とした。
【0071】
(耐摩耗性評価)
ISO6722に準拠して、ブレード往復法で行なった。ブレードにかかる荷重を7Nとし、試験回数4回の最小値が300回以上を合格とした。一方、試験回数4回の最小値が300回未満を不合格とした。
【0072】
(難燃性評価)
ISO6722に準拠して行なった。すなわち、まず、実施例および比較例に係る絶縁電線を600mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、各試験片を45°に傾け、試験片の上端から500±5mmの部分に15秒間炎を当て、試験片の絶縁被覆層上の炎がすべて70秒以内に消え、試験片上部の絶縁被覆層が50mm以上焼けずに残ることを合格とし、そうでないときを不合格とした。
【0073】
(電線製造性評価)
φ70mmの押出スクリューを用いて任意に線速度を変化させて電線押出を行ない、ダイス部の樹脂圧等により導体断線が起こらず、安定して電線が製造可能な最大の速度を電線製造性と定義した。この電線製造性において線速度500m/min以上を合格とし、線速度700m/min以上を良好とした。
【0074】
(電線加工性評価)
各絶縁電線の端末部の絶縁被覆層を皮剥した際に、ヒゲが形成されるか否かを確認し、ヒゲが形成されないものを合格とし、ヒゲが形成されるものを不合格とした。
【0075】
表1〜表4に、絶縁被覆層を形成する樹脂組成物の配合割合および評価結果を示す。この際、表1〜表4に示す値は、質量部で表したものである。実施例および比較例では、導体の外周に2層構成の絶縁被覆層が被覆された絶縁電線について評価している。表1および表2は、ポリフェニレンエーテル系樹脂とオレフィン系樹脂とを含有する混合樹脂組成物より形成された第一の層が外層である場合の実施例と比較例をそれぞれ示したものであり、表3および表4は、上記第一の層が内層である場合の実施例と比較例をそれぞれ示したものである。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
まず、絶縁被覆層の層構成として、第一の層が外層であり第二の層が内層である場合について、表1および表2に示す。
【0081】
比較例5a〜7aは、絶縁被覆層が単層からなるものである。比較例6aは、絶縁被覆層が、オレフィン系樹脂と水酸化マグネシウムを含有する層のみからなる。そのため、耐外傷性に劣っている。比較例5aおよび比較例7aは、絶縁被覆層が、ポリフェニレンエーテル系樹脂とオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物より形成された層のみからなる。これらにおいては、絶縁被覆層にポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されているため、比較例6aのものと比べて耐外傷性はやや高くなっている。しかしながら、ポリオレフィンの改質であるため、十分に耐外傷性に優れるとはいえない。また、耐外傷性を向上させるためにはポリフェニレンエーテル系樹脂の添加量を多くする必要がある。そうすると、絶縁被覆層は硬くなり、柔軟性がなくなる。そのため、絶縁被覆層がポリフェニレンエーテル系樹脂が含有される層のみからなる場合、厚肉化が難しくなる。
【0082】
これに対し、実施例6a〜8aでは、絶縁被覆層を2層構成とし、外層に、オレフィン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含有する層を形成し、内層に、外層とは異なる樹脂(オレフィン系樹脂)を含有する層を形成している。そのため、耐外傷性等に優れている。これは、単にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する硬い層により耐外傷性を向上させるだけでなく、異種の材料により硬さの異なる層を2層形成することにより、電線被覆に傷を付ける外力が加わったときに比較的結合の弱い層間に応力が集中し、層間がさけることにより応力が分散するためと推測される。そしてこれにより、1層のときよりも耐外傷性の向上を図っている。
【0083】
比較例1a〜4aは、絶縁被覆層が2層からなるものである。実施例1aと比較例1aとを比較すると、比較例1aでは、内層が、オレフィン系樹脂をベースとしておらず、SEBSをベースとしている。そのため、耐外傷性と耐摩耗性に劣っている。実施例2aと比較例2aとを比較すると、比較例2aでは、内層に難燃剤が含まれていない。そのため、難燃性に劣っている。実施例3aと比較例3aとを比較すると、比較例3aでは、外層にポリフェニレンエーテル系樹脂が含まれていない。また、外層には、難燃剤も含まれていない。そのため、耐外傷性、難燃性に劣っている。比較例4aでは、外層は、オレフィン系樹脂を含有しておらず、SEBSが含有されている。そのため、耐外傷性と耐摩耗性に劣っている。また、外層にオレフィン系樹脂が含まれていないため、電線加工性にも劣っている。
【0084】
そして、実施例に係る絶縁電線は、本発明を満足する材料および層構成である。そのため、耐外傷性、耐摩耗性、難燃性に優れていることが確認できた。また、電線を製造する際に重要となる電線製造性および電線加工性にも優れることが確認できた。
【0085】
次いで、絶縁被覆層の層構成として、第一の層が内層であり、第二の層が外層である場合について考察する。比較例1b〜7bでは、比較例1a〜7aの内層の材料をそれぞれ外層の材料に用い、比較例1a〜7aの内層の材料をそれぞれ外層の材料に用いている。そのため、第一の層が外層であり第二の層が内層である場合と同様の効果を有している。
【0086】
また、実施例1a〜8aと実施例1b〜8bの同じ番号間でそれぞれ比較すると、内層にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する実施例1b〜8bよりも、外層にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する実施例1a〜8aの場合の方が、耐外傷性に優れている。これは、ポリフェニレンエーテル系樹脂の表面平滑性が良好であるため、外層にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有するほうが、試験に用いた刃の侵入を防ぎやすいためと推測される。また、外層にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する構成にすると、ポリフェニレンエーテル系樹脂自体の難燃性のため、外層は、難燃剤を含まないか、難燃剤の量が少ない構成にすることができる。そのため、外層を形成する材料の流動性が良くなり、電線の生産性をより高めることができる。
【0087】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係る絶縁電線は、例えば、車両部品、電気・電子機器部品などに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線を表す断面図である。
【図2】絶縁電線の耐外傷性を試験評価する方法を表す図である。
【図3】絶縁電線の耐外傷性を試験評価する方法を表す図である。
【符号の説明】
【0090】
10 絶縁電線
12 導体
14 内層
16 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆層とを有する絶縁電線であって、
前記絶縁被覆層は、複数層から構成されており、
ポリフェニレンエーテル系樹脂とオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物より形成された第一の層と、
オレフィン系樹脂を含有するポリマー成分100質量部と、金属水酸化物50〜200質量部とを含有する難燃性樹脂組成物より形成された第二の層とを有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記第一の層の樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂25〜70質量部と、オレフィン系樹脂70〜25質量部と、スチレン系熱可塑性エラストマー5〜10質量部とを含有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記第二の層のポリマー成分は、オレフィン系樹脂80〜95質量部と、スチレン系熱可塑性エラストマー20〜5質量部とを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記絶縁被覆層の厚みが300μm以下であり、かつ、前記第一の層の厚みXと前記第二の層の厚みYとの関係が0.1X≦Y≦Xであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記第一の層は、前記絶縁被覆層の外層であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の絶縁電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−301766(P2009−301766A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152487(P2008−152487)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】