絹糸生体材料およびその使用方法
【課題】絹糸生体材料(例えば、繊維、フィルム、発泡体、およびマット)を生成するための全水性方法および組成物の提供。
【解決手段】加工(例えば、電界紡糸)の前に、ポリエチレンオキシド(PEO)(詳細に記録が残されている生体適合性物質)などの少なくとも1種類の生体適合性ポリマーを絹糸タンパク質とブレンドした。
【効果】この段階によって、材料の脆化につながる、可溶化および水溶液からの再加工の間のフィブロインの高次構造変化に関連した問題が避けられる。さらに、この方法によって、加工された生体材料がインビトロまたはインビボで細胞に暴露された時に問題となることがある有機溶媒の使用が避けられる。
【解決手段】加工(例えば、電界紡糸)の前に、ポリエチレンオキシド(PEO)(詳細に記録が残されている生体適合性物質)などの少なくとも1種類の生体適合性ポリマーを絹糸タンパク質とブレンドした。
【効果】この段階によって、材料の脆化につながる、可溶化および水溶液からの再加工の間のフィブロインの高次構造変化に関連した問題が避けられる。さらに、この方法によって、加工された生体材料がインビトロまたはインビボで細胞に暴露された時に問題となることがある有機溶媒の使用が避けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援
本願の主題は、米国政府、米国立衛生研究所(NIH)助成金R01DE13405-01A1、米国科学財団助成金DMR0090384、および米国空軍助成金F49620-01-C-0064による支援を受けたものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に、絹糸生体材料(例えば、繊維、フィルム、発泡体、およびマット)ならびに組織工学構築物におけるこれらの材料の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
最近、微細繊維の形成を目的とした電界紡糸(electrospinning)が、高性能フィルター[1,2]ならびに細胞増殖、血管移植片、創傷被覆材、または組織工学用の生体材料足場[2-4]などの分野について活発に研究されている。直径がナノメートルの繊維は表面積が大きいため有益である。この静電気的技法では、キャピラリーチップを備えたガラスシリンジの中に入れられたポリマー溶液と金属収集スクリーンとの間に強い電場がかけられる。電圧が臨界値に達すると、電荷が、シリンジチップ上に形成された懸濁ポリマー溶液の変形した液滴の表面張力に打ち勝ち、噴流が発生する。電荷を帯びた噴流は、収集スクリーンへ進む間に一連の電気的に誘導された曲げ不安定を受け、これにより伸長する[5-7]。この伸長方法は溶媒の急速な蒸発を伴い、噴流直径を小さくする[8-12]。収集スクリーンの表面上に蓄積した乾燥繊維は、周囲温度および雰囲気圧で水溶液を用いて操作した場合でさえ、直径がナノメートルからマイクロメートルの繊維からなる不織メッシュを形成する。電界紡糸方法は、繊維直径を制御するために電荷密度およびポリマー溶液濃度を変えることによって調節することができるのに対して、電界紡糸の時間によって沈着メッシュの厚さが制御される[8-13]。
【0004】
自然界でのタンパク質繊維紡糸(例えば、カイコガ絹糸およびクモ絹糸の紡糸)は、離液性準安定相の濃縮溶液が形成され、次いで、小さな出糸突起を通って空気に押し出されることに基づいている[14]。これらの天然の紡糸方法において生成される繊維の直径は、数十ミクロン(カイコガ絹糸の場合)から数ミクロン〜サブミクロン(クモ絹糸の場合)に及ぶ[14]。タンパク質溶液からの繊維の生成は、一般的に、湿式紡糸または乾式紡糸方法の使用に頼ってきた[15,16]。電界紡糸は、潜在的に超微細繊維を作成することができる別のタンパク質繊維形成法を提供する。生体材料および組織工学などの応用分野における、これらのタイプの繊維の潜在的な役割に基づけば、これは有用な特徴であろう[17]。電界紡糸は、ナノメートル直径の繊維を組換えエラスチンタンパク質[17]および絹糸様タンパク質[18-20]から作成するのに用いられている[18-20]。Zarkoobら[21]も、ボンビックス-モリ(Bombyx mori)繭のカイコガ絹糸およびナフィラ-クラビペス(Nephila clavipes)絹糸のクモ引き糸を最初に有機溶媒ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に溶解すれば、ナノメートル直径の繊維に電界紡糸できることを報告している。
【0005】
絹糸は、カイコガであるボンビックス-モリによって産生される詳細に説明されている天然繊維であり、古くから数千年間、織物の糸の形で用いられてきた。この絹糸は、糸のコアを形成する繊維状タンパク質(フィブロイン(fibroin)と呼ばれる)(重鎖および軽鎖)と、フィブロイン繊維を取り囲んで一緒に結合する糊様タンパク質(セリシンと呼ばれる)を含む。フィブロインは、アミノ酸の90%までがグリシン、アラニン、およびセリンである(これは繊維のβプリーツシート形成につながる)、高度に不溶性のタンパク質である [22]。
【0006】
フィブロインなどの再加工絹糸の独特の機械的特性およびその生体適合性は、絹糸繊維を、生物工学材料および医療分野での使用にとって特に魅力的なものにしている[14,23]。
【0007】
生体医学用の絹糸繊維の電界紡糸は、特に、新しい繊維およびフィルムを作成するための可溶化および水溶液からの再加工の間にカイコガフィブロインの高次構造が変化するという問題のために、複雑な工程である。高次構造変化に関する問題はβシート形成によるものであり、これは材料の脆化をもたらす。さらに、絹糸の電界紡糸ならびに発泡体、フィルム、またはメッシュ形成に一般的に用いられる有機溶媒は、加工された材料がインビトロまたはインビボで細胞に曝された時に細胞適合性の問題を提起する。
【0008】
絹糸のブレンドはフィルム形成に関して広範囲に研究されている。絹糸フィルムの機械的安定性もしくは熱安定性または膜特性を改善するために、ポリアクリルアミド[26]、ナトリウムアルギナート[27]、セルロース[28,35]、キトサン[29,36,37]、ポリ(ビニルアルコール)[30,38,39]、アクリルポリマー[31]、ポリ(エチレングリコール)(300g/mol[40]または8,000g/mol[41])、ポリ(ε-カプロラクトン-co-D,L-ラクチド)[42]、およびS-カルボキシメチルケラチン[43]とのブレンドが研究されている。
【0009】
残念なことに、これらのブレンドはどれも、絹糸タンパク質の加工または再加工に関連する問題(例えば、脆化)を克服するのに成功したと証明されなかった。従って、新たな方法、特に、有機溶媒を使用しない方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
本発明は、絹糸生体材料(例えば、繊維、フィルム、発泡体、およびマット)を生成するための全水性方法を提供する。この方法では、加工前(例えば、電界紡糸前)に少なくとも1種類の生体適合性ポリマー(例えば、ポリ(エチレンオキシド)(PEO))が絹糸タンパク質とブレンドされる。本発明者らは、この段階によって、材料の脆化につながる、可溶化および水溶液からの再加工の間のフィブロインの高次構造変化に関連した問題が避けられることを発見した。さらに、この方法によって、加工された生体材料がインビトロまたはインビボで細胞に暴露された時に問題となることがある有機溶媒の使用が避けられる。
【0011】
1つの態様において、生体材料は繊維である。繊維は、(a)絹糸タンパク質水溶液を調製する段階;(b)生体適合性ポリマーを水溶液に添加する段階;および(c)溶液を電界紡糸する段階を含む方法によって生成される。この方法は、(d)繊維をアルコール/水の溶液に浸漬する段階をさらに含んでもよい。アルコールは、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)、またはn-ブタノールである。メタノールが最も好ましい。さらに、この方法は、(e)フィブロイン繊維を水で洗浄する段階をさらに含んでもよい。
【0012】
本発明はまた、前記方法により生成される繊維も提供する。
【0013】
別の態様において、生体材料はフィルムである。フィルムは、例えば、(a)絹糸タンパク質水溶液を調製する段階;(b)生体適合性ポリマーを水溶液に添加する段階;(c)混合物を乾燥させる段階;および(d)混合物とアルコール/水の溶液を接触させて、絹糸ブレンドフィルムを結晶化させる段階を含む方法によって生成される。この方法は、任意で、(e)得られたフィルムの機械的特性を変える、または強化するために、フィルムを延伸または1軸延伸する段階を含んでもよい。
【0014】
本発明の方法において、絹糸タンパク質水溶液は、好ましくは、塩水溶液(例えば、臭化リチウムもしくはチオシアン酸リチウム)または強酸溶液(例えば、蟻酸、塩酸)に溶解される。
【0015】
本発明での使用に適した絹糸タンパク質は、好ましくは、フィブロインまたは関連タンパク質(すなわち、クモの絹糸)である。フィブロインまたは関連タンパク質は、好ましくは、溶解したカイコガ絹糸またはクモ絹糸を含む溶液から得られる。カイコガ絹糸は、例えば、ボンビックス-モリから得られる。クモ絹糸はナフィラ-クラビペスから得られてもよい。他に、本発明での使用に適した絹糸タンパク質は、遺伝子操作された絹糸(例えば、細菌、酵母、哺乳動物細胞、トランスジェニック動物、またはトランスジェニック植物からの絹糸)を含む溶液から得ることができる。例えば、国際公開公報第97/08315号および米国特許第5,245,012号を参照のこと。
【0016】
本発明はまた、絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーを含む生体材料を提供する。生体材料は、繊維、フィルム、発泡体、または繊維の不織網状組織(マットとも呼ばれる)でもよい。生体材料は、組織修復、侵入(ingrowth)、または再生を促進するために足場として生体適合性ポリマー組織工学構築物に用いられてもよく、タンパク質または治療薬を送達するために用いられてもよい。
【0017】
本明細書で使用する「生体適合性」は、ポリマーが無毒で非変異原性であり、最小限から中程度の炎症反応を誘発することを意味する。本発明での使用に好ましい生体適合性ポリマーとして、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、コラーゲン、フィブロネクチン、ケラチン、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、アルギナート、キトサン、キチン、ヒアルロン酸、ペクチン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカノエート、デキストラン、およびポリ無水物が挙げられる。本発明によれば、2種類またはそれ以上の生体適合性ポリマーを水溶液に添加することができる。
【0018】
本発明は、さらに、水に溶解した絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーを含む組成物を提供する。ここで、組成物は水以外の溶媒を含まない。好ましくは絹糸タンパク質はフィブロインであり、生体適合性ポリマーはPEOである。組成物は本発明の方法に有用である。
【0019】
特に定めのない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語および科学用語は、当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書で説明されるものと同様のまたは等価な方法および材料を使用することができるが、好ましい方法および材料を以下に説明する。本明細書で述べた全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は参照として本明細書に組み入れられる。さらに、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、限定を目的としない。コンフリクトの場合、定義を含む本明細書は調整する。
【0020】
本明細書に組み入れられ、本明細書の一部を構成する添付の図面は本発明の態様を例示し、説明と共に、本発明の目的、利点、および原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】絹糸/PEOブレンド水溶液の剪断粘度を示す。
【図2】電界紡糸繊維(No.6)およびセリシン抽出ボンビックス-モリ絹糸繊維の走査電子顕微鏡写真(500倍率)である。
【図3】A〜Dは電界紡糸繊維(No.1)の走査電子顕微鏡写真である:(a)電界紡糸された繊維、(b)メタノール処理後、(c)室温で水に溶解した後、および(d)36.5℃で水に溶解した後。
【図4】絹糸/PEOブレンド溶液からの電界紡糸マット(No.6)のATRスペクトルである(点線:メタノール/水(90/10v/v)処理後)。
【図5】A〜Bは37℃で水に溶解した絹糸フィルムおよびPEOブレンドフィルムの重量減少パーセントを示す(点線:フィルムにおける絹糸重量の計算値):(13A)絹糸/PEOブレンドおよび(13B)絹糸/PEGブレンド。
【図6】メタノール処理前の絹糸フィルム、PEOフィルム、および絹糸/PEOブレンドフィルムのDSCサーモグラムを示す:(a)絹糸フィルム;(b)絹糸/PEO(98/2)ブレンド;(c)絹糸/PEO(90/10)ブレンド;(d)絹糸/PEO(80/20)ブレンド;(e)絹糸/PEO(70/30)ブレンド;(f)絹糸/PEO(60/40)ブレンド;および(g)PEO。
【図7】メタノール処理後の絹糸/PEOブレンドフィルムのDSCサーモグラムを示す:(a)絹糸フィルム;(b)絹糸/PEO(98/2)ブレンド;(c)絹糸/PEO(90/10)ブレンド;(d)絹糸/PEO(80/20)ブレンド;(e)絹糸/PEO(70/30)ブレンド;および(f)絹糸/PEO(60/40)ブレンド。
【図8】A〜Bは電界紡糸繊維の偏光像を示す(スケールバー:10μM):(a)加熱前(室温)および(b)5℃/分の速度で100℃まで加熱した後。
【図9】メタノール処理後の絹糸/PEO電界紡糸繊維マットの示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを示す:(a)PEO非抽出マットおよび(b)PEO抽出マット。
【図10】A〜Cは電界紡糸マットの低電圧高解像度走査電子顕微鏡写真を示す:(a)メタノール処理後の繊維一本一本の表面、(b)PEO非抽出マット、および(c)PEO抽出マット。
【図11】電界紡糸繊維の代表的な機械的特性を示す。
【図12】(a)PEO非抽出マットおよび(b)PEO抽出マットの存在下で1日培養した後の組織培養プラスチック(ポリ(スチレン))上で増殖しているBMSCの位相差顕微鏡像を示す(×40,スケールバー:100μm)。
【図13】電界紡糸マットおよび未処理絹糸フィブロインマトリックス上で増殖しているBMSCの走査電子顕微鏡写真(1日後、7日後、および14日後)を示す(スケールバー:500μm)。
【図14】A〜Dは電界紡糸マット上で増殖しているBMSCの走査電子顕微鏡写真(1日後および14日後)を示す:(スケールバー:(a)50μm、(b)20μm、(c)20μm、および(d)10μm)。
【図15】電界紡糸マットに播種されたBMSCの増殖を示す(播種密度:25,000細胞/cm2,N=4)。エラーバーは標準偏差に対応する。
【図16】MTT結果(播種条件:25000/cm2、20%血清、14日後)を示す。棒の高さは平均値に対応し、エラーバーは標準偏差(n=3)に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明者らは、絹糸生体材料(例えば、電界紡糸絹糸繊維、フィルム、発泡体、およびマット)を生成するための全水性方法を開発した。この方法によって、(1)有機溶媒の使用による不十分な生体適合性の問題、ならびに(2)可溶化および水溶液からの再加工の間の絹糸タンパク質(例えば、カイコガフィブロイン)の高次構造変化に関連する材料の脆化の問題が効果的に避けられる。本発明の方法は、生体適合性ポリマーを絹糸タンパク質水溶液に添加する段階を含む。次いで、絹糸生体材料を形成するために溶液が処理される。
【0023】
本発明での使用に適した絹糸タンパク質は、好ましくはフィブロインまたは関連タンパク質(すなわち、クモ絹糸)である。好ましくは、フィブロインまたは関連タンパク質は、溶解したカイコガ絹糸またはクモ絹糸を含む溶液から得られる。カイコガ絹糸は、例えば、ボンビックス-モリから得られる。クモ絹糸はナフィラ-クラビペスから得られてもよい。他に、本発明での使用に適した絹糸タンパク質は、遺伝子操作された絹糸(例えば、細菌、酵母、哺乳動物細胞、トランスジェニック動物、またはトランスジェニック植物からの絹糸)を含む溶液から得ることができる。例えば、国際公開公報第97/08315号および米国特許第5,245,012号を参照のこと。
【0024】
絹糸タンパク質溶液は、当業者に周知の任意の従来の方法によって調製することができる。例えば、B.モリの繭が水溶液中で約30分間煮沸される。好ましくは、水溶液は約0.02MのNa2CO3である。セリシンタンパク質を抽出するために、繭は、例えば、水で洗浄され、抽出された絹糸は塩水溶液に溶解される。この目的に有用な塩として、臭化リチウム、チオシアン酸リチウム、硝酸カルシウム、または絹糸を可溶化することができる他の化学物質が挙げられる。蟻酸または塩酸などの強酸も使用することができる。好ましくは、抽出された絹糸は約9〜12MのLiBr溶液に溶解される。その結果、塩は、例えば、透析を用いて除去される。
【0025】
本発明での使用に好ましい生体適合性ポリマーは、ポリエチレンオキシド(PEO)(米国特許第6,302,848号)[24]、ポリエチレングリコール(PEG)(米国特許第6,395,734号)、コラーゲン(米国特許第6,127,143号)、フィブロネクチン(米国特許第5,263,992号)、ケラチン(米国特許第6,379,690号)、ポリアスパラギン酸(米国特許第5,015,476号)、ポリリジン(米国特許第4,806,355号)、アルギナート(米国特許第6,372,244号)、キトサン(米国特許第6,310,188号)、キチン(米国特許第5,093,489号)、ヒアルロン酸(米国特許第387,413号)、ペクチン(米国特許第6,325,810号)、ポリカプロラクトン(米国特許第6,337,198号)、ポリ乳酸(米国特許第6,267,776号)、ポリグリコール酸(米国特許第5,576,881号)、ポリヒドロキシアルカノエート(米国特許第6,245,537号)、デキストラン(米国特許第5,902,800号)、ポリ無水物(米国特許第5,270,419号)、および他の生体適合性ポリマーを含む群より選択される。好ましくは、PEOの分子量は400,000〜2,000,000g/molである。より好ましくは、PEOの分子量は約900,000g/molである。本発明により意図されるように、同時に2種類またはそれ以上の生体適合性ポリマーを水溶液に直接添加することができる。
【0026】
1つの態様では、本発明は、絹糸タンパク質水溶液を調製し、生体適合性ポリマーを水溶液に添加し、溶液を電界紡糸し、それにより繊維を形成する方法によって生成される繊維を提供する。好ましくは、繊維の直径は50nm〜1000nmである。
【0027】
この態様において、水溶液の絹糸タンパク質濃度は好ましくは約0.1〜約25重量パーセントである。より好ましくは、水溶液の絹糸タンパク質濃度は約1〜約10重量パーセントである。
【0028】
理論に拘束されるつもりはないが、前記の1種類の生体適合性ポリマーまたは複数の種類の生体適合性ポリマーの添加によって、電界紡糸に適した粘度および表面張力が発生すると考えられる。
【0029】
電界紡糸は、当技術分野において周知の任意の手段によって行うことができる(例えば、米国特許第6,110,590号を参照のこと)。好ましくは、内径1.0mmのチップを備えたスチール製キャピラリーチューブが、調節可能な絶縁台に取り付けられる。好ましくは、キャピラリーチューブは高電位に維持され、平行平面の形状に取り付けられる。キャピラリーチューブは、好ましくは、絹糸/生体適合性ポリマー溶液で満たされたシリンジに接続される。好ましくは、滴り落ちることなくチューブのチップに溶液を保つように設定されたシリンジポンプを用いて、一定体積の流速が維持される。安定した噴流が得られるように、電位、溶液流速、およびキャピラリーチップと収集スクリーンとの距離が調節される。キャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を変えることによって、乾燥した繊維または湿った繊維が得られる。
【0030】
絹糸繊維を集めるのに適した収集スクリーンは、ワイヤーメッシュ、高分子メッシュ、または水浴でもよい。またはおよび好ましくは、収集スクリーンはアルミ箔である。絹糸繊維を容易に剥離するために、アルミ箔にテフロン(Teflon)液をコーティングすることができる。当業者は、繊維溶液が電場を通過すると同時に集められる他の手段を容易に選択することができるだろう。以下の実施例の項においてさらに詳細に説明されるように、キャピラリーチップとアルミ箔対向電極との電位差は、好ましくは、約12kVまで段階的に増加される。しかしながら、当業者は、適切な噴流を得るように電位を調節することができるはずである。
【0031】
本発明の方法は、絹糸の結晶化を誘導するために、紡糸繊維をアルコール/水の溶液に浸漬する段階をさらに含んでもよい。アルコール/水の溶液の組成は、好ましくは、90/10(v/v)である。アルコールは、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)、またはn-ブタノールである。メタノールが最も好ましい。さらに、この方法は、フィブロイン繊維を水で洗浄する段階をさらに含んでもよい。
【0032】
別の態様において、生体材料はフィルムである。フィルムを形成する方法は、例えば、(a)絹糸タンパク質を含む絹糸フィブロイン水溶液を調製する段階;(b)生体適合性ポリマーを水溶液に添加する段階;(c)混合物を乾燥させる段階;および(d)乾燥した混合物とアルコール(好ましいアルコールは前述した)および水の溶液を接触させて、絹糸ブレンドフィルムを結晶化させる段階を含む。好ましくは、生体適合性ポリマーはポリ(エチレンオキシド)(PEO)である。フィルムを生成する方法は、(e)得られた絹糸ブレンドフィルムの機械的特性を変える、または強化するために、フィルムを延伸または1軸延伸する段階をさらに含んでもよい。絹糸ブレンドフィルムの延伸はフィルム繊維構造内の分子を一列にし、それによりフィルムの機械的特性を改善する[46-49]。
【0033】
好ましい態様において、フィルムは、体積で約50部〜約99.99部の絹糸タンパク質水溶液および体積で約0.01部〜約50部のPEOを含む。好ましくは、得られた絹糸ブレンドフィルムの厚さは約60μm〜約240μmである。しかしながら、さらに多くの体積を使用することによって、または複数の層を沈着させることによって、さらに厚い試料を容易に形成することができる。
【0034】
さらなる態様において、生体材料は発泡体である。発泡体は当技術分野において周知の方法(例えば、凍結乾燥およびガス発泡(それぞれ、水が溶媒である、または窒素もしくは他のガスが発泡剤である)を含む)から作成することができる。
【0035】
1つの態様において、発泡体はマイクロパターン発泡体(micropatterned foam)である。マイクロパターン発泡体は、例えば、米国特許第6,423,252号(この開示は参照として本明細書に組み入れられる)に記載の方法を用いて調製することができる。
【0036】
例えば、前記方法は、絹糸タンパク質/生体適合性ポリマー溶液と型の表面を接触させる段階(型は、その少なくとも1つの表面上に、発泡体の少なくとも1つの表面上に配置され、発泡体の少なくとも1つの表面と一体となる予め決められたマイクロパターンの三次元凹形状を備える)、型のマイクロパターン表面と接触させながら溶液を凍結乾燥させ、それにより、凍結乾燥されたマイクロパターン発泡体を得る段階、および凍結乾燥されたマイクロパターン発泡体を型から取り外す段階を含む。この方法に従って調製された発泡体は、少なくとも1つの表面上に、予め決められ設計されたマイクロパターンを備える。このパターンは、組織修復、侵入、または再生を促進するのに有効であり、またはタンパク質もしくは治療薬を送達するのに有効である。
【0037】
別の態様において、生体材料は、成形工程を用いて生成された足場である。例えば、国際公開公報第03/004254号および国際公開公報第03/022319号を参照のこと。このような方法を用いた場合、例えば、絹糸タンパク質/生体適合性ポリマー溶液は型に入れられる。型は、足場の望ましい形と凹凸が逆のものである。溶液は硬化され、型から取り外される。ある特定の態様では、例えば、粒子浸出および当技術分野において周知の他の方法を用いて、ポリマーに孔を形成することが望ましい場合がある。
【0038】
インクジェットパターンプリンティング、ディップペンナノリソグラフィーパターン、およびマイクロコンタクトプリンティングを用いて、さらなる生体材料を本発明の組成物で形成することができる。Wilranら(2001)PNAS 98:13660-13664およびこれに引用された参考文献を参照のこと。
【0039】
本発明の方法によって生成される生体材料は、創傷縫合システム(血管創傷修復装置、止血用包帯、パッチ、および接着剤、縫合糸を含む)、薬物送達などの様々な医療分野において、例えば、足場形成(scaffolding)、靭帯補綴装置などの組織工学分野において、ならびにヒトの体への長期間の移植または生分解性の移植のための製品において使用することができる。好ましい組織工学足場は電界紡糸繊維の不織網状組織である。
【0040】
さらに、これらの生体材料は、これらの独特の足場から利益を得る可能性のある臓器(椎間板、頭蓋組織、硬膜、神経組織、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、脾臓、心筋、骨格筋、腱、靭帯、および乳房組織を含むが、これに限定されない)の修復置換または再生計画に使用することができる。
【0041】
本発明の別の態様において、絹糸生体材料は治療薬を含んでもよい。これらの材料を形成するために、ポリマーは、材料の形成前に治療薬と混合されるか、または材料の形成の後に材料に充填される。本発明の生体材料と併用することができる多種多様な治療薬が膨大にある。一般的に、本発明の薬学的組成物を介して投与可能な治療薬として、抗感染剤(例えば、抗生物質および抗ウイルス剤);化学療法剤(すなわち、抗癌剤);抗拒絶剤;鎮痛薬および鎮痛薬の組み合わせ;抗炎症剤;ホルモン(例えば、ステロイド);成長因子(骨形成タンパク質(すなわち、BMP1-7)、骨形成様タンパク質(すなわち、GFD-5、GFD-7、およびGFD-8)、上皮細胞成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(すなわち、FGF1-9)、血小板由来成長因子(PDGF)、インシュリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、トランスフォーミング成長因子(すなわち、TGF-βI-III)、血管内皮成長因子(VEGF))、ならびに他の天然に由来するまたは遺伝子操作されたタンパク質、多糖、糖タンパク質、またはリポタンパク質が挙げられるが、これに限定されない。これらの成長因子は、参照として本明細書に組み入れられる、Vicki RosenおよびR. Scott Thies,The Cellular and Molecular Basis of Bone Formation and Repair(R.G.Landes Companyにより出版)において述べられている。
【0042】
生理活性物質を含む絹糸生体材料は、1種類またはそれ以上の種類の治療薬と、この材料を作成するために用いられるポリマーを混合することによって処方することができる。または、治療薬は、材料の上に(好ましくは、薬学的に許容される担体と共に)コーティングすることができる。発泡を溶解しない任意の薬学的担体を使用することができる。治療薬は、液体、超微粒子状の固体、または他の任意の適切な物理的形態として存在してよい。一般的であるが、任意で、マトリックスは、1種類またはそれ以上の種類の添加剤(例えば、希釈剤、担体、賦形剤、安定剤など)を含む。
【0043】
治療薬の量は、使用する特定の薬物および治療している医学的状態に左右される。薬物の量は、一般的に材料の約0.001重量パーセント〜約70重量パーセント、より一般的には約0.001重量パーセント〜約50重量パーセント、最も一般的には約0.001重量パーセント〜約20重量パーセントに相当する。体液に接触すると、薬物が放出される。
【0044】
生体適合性ポリマーは使用前に生体材料から抽出されてもよい。これは、組織工学用途に特に望ましい。生体適合性ポリマーの抽出は、例えば、使用前に生体材料を水に浸けることによって行うことができる。
【0045】
組織工学用の足場生体材料は製作後にさらに改良することができる。例えば、足場に、望ましい細胞集団の受容体または化学誘引物質として機能する生理活性物質をコーティングすることができる。コーティングは吸収または化学結合によって塗布することができる。
【0046】
本発明との使用に適した添加剤として、生物学的または薬学的に活性な化合物が挙げられる。生物学的に活性な化合物の例として、細胞接着メディエーター(例えば、細胞接着に影響を及ぼすことが知られている「RGD」インテグリン結合配列のバリエーションを含むペプチド)、生物学的に活性なリガンド、および特定の種類の細胞または組織侵入を促進または排除する物質が挙げられる。このような物質として、例えば、骨誘導物質(例えば、骨形成タンパク質(BMP))、上皮細胞成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、インシュリン様成長因子(IGF-IおよびII)、TGF-、YIGSRペプチド、グリコサミノグリカン(GAG)、ヒアルロン酸(HA)、インテグリン、セレクチン、およびカドヘリンが挙げられる。
【0047】
足場は、組織工学用の物品および(再建外科を含む)組織誘導再生用の物品の形にされる。足場の構造によって十分な細胞侵入が可能になり、細胞を予め播種する必要が無くなる。足場はまた、外部支持臓器の作成を目的としたインビトロ細胞培養を助ける外部足場を形成するように成形されてもよい。
【0048】
足場は、身体の細胞外マトリックス(ECM)を模倣するように機能する。足場は、インビトロ培養およびその後の移植の間、単離された細胞の物理的支持物および接着支持層として働く。移植された細胞集団が増殖し、細胞が正常に機能するにつれて、それ自身のECM支持物を分泌し始める。
【0049】
軟骨および骨のような構造組織の再建において組織の形状は機能に欠かせず、このために、様々な厚さおよび形状の物品への足場の成形が必要とされる。マトリックスの一部をハサミ、外科用メス、レーザービーム、または他の任意の切断機器を用いて除去することによって、三次元構造に望ましい任意の間隙、開口部、または工夫を作成することができる。足場の用途として、実質臓器または中空臓器を形成する組織(例えば、神経組織、筋骨格組織、軟骨組織、腱組織、肝臓組織、膵臓組織、眼組織、外皮組織、動静脈組織、泌尿器組織、または他の任意の組織)の再生が挙げられる。
【0050】
足場はまた、三次元の組織または臓器を作成するために、解離した細胞(例えば、軟骨細胞または肝細胞)のマトリックスとして移植に使用することができる。培養および可能性のある移植のために、任意のタイプの細胞(筋肉系および骨格系の細胞(例えば、軟骨細胞、線維芽細胞、筋肉細胞、および骨細胞)、実質細胞(例えば、肝細胞、膵臓細胞(島細胞を含む)、腸由来の細胞、および他の細胞(例えば、神経細胞、骨髄細胞、皮膚細胞、多能性細胞および幹細胞)、ならびにその組み合わせを含む)を足場に添加することができる。細胞は、ドナーから得られてもよく、樹立細胞培養株から得られてもよく、または遺伝子操作の前もしくは後のものでもよい。組織の断片も使用することができる。これにより、同じ構造の中にある多数の異なる細胞タイプを得ることができる。
【0051】
細胞は、適切なドナー、または移植の予定のある患者から得られ、標準的な技法を用いて解離され、足場の上に、および足場の中に播種される。任意で、インビトロ培養を移植の前に行うことができる。または、足場が移植され、新生血管形成され、次いで、細胞が足場に注入される。インビトロ細胞培養および組織足場移植のための方法および試薬は当業者に周知である。
【0052】
本発明の生体材料は、従来の滅菌方法(例えば、放射線滅菌(すなわち、γ線)、化学滅菌(酸化エチレン)、または他の適切な手順)を用いて滅菌することができる。好ましくは、滅菌方法は、52〜55℃の温度で8時間未満の酸化エチレン滅菌である。滅菌後、生体材料は、出荷ならびに病院および他の医療施設における使用のために、適切な滅菌された耐湿性の包装容器に包装されてもよい。
【0053】
本発明は、本発明の例示を目的とした以下の実施例によりさらに特徴付けられる。
【実施例】
【0054】
実施例I
材料
B.モリカイコガ絹糸の繭は蚕業技術研究所(つくば、日本)より提供された。ブレンディングには、平均分子量4×105g/molのPEOおよび平均分子量9×105g/molのPEO(アルドリッチ(Aldrich))を使用した。
【0055】
再生B.モリ絹糸フィブロイン溶液の調製
B.モリ絹糸フィブロインは、本発明者らの以前の手順[25]の改良版として以下のように調製した。繭を0.02M Na2CO3水溶液中で30分間煮沸し、次いで、糊様セリシンタンパク質を抽出するために水で徹底的に洗浄した。次いで、抽出された絹糸を60℃で12M LiBr溶液に溶解して、20%(w/v)溶液を得た。スライドエーライザー(Slide-a-Lyzer)透析カセット(ピアス(Pierce),MWCO 2000)を用いて、この溶液を水中で透析した。絹糸水溶液の最終濃度は3.0〜7.2重量%であった(乾燥後の残存固体を秤量することによって測定した)。HFIP絹糸溶液(1.5重量%)は、絹糸水溶液を凍結乾燥した後に得られた絹糸フィブロインをHFIPに溶解することによって調製した。
【0056】
紡糸溶液の調製
絹糸/PEOブレンド水溶液は、PEO(900,000g/mol)を絹糸水溶液に直接添加することによって調製した。これにより、4.8〜8.8重量%の絹糸/PEO溶液が得られた。このブレンド系と比較するための対照溶液として、絹糸HFIP溶液(1.5重量%)およびPEO(4.0重量%)水溶液もそれぞれ調製した。絹糸HFIP溶液は、凍結乾燥された絹糸フィブロインをHFIPに室温で溶解することによって調製した。溶液の粘度は、24.3〜1216/秒の剪断速度でクエット粘度計(ボーリン(Bohlin)V88)を用いて測定し、伝導率は、室温でコールパーマー(Cole-Parmer)伝導率計(19820)を用いて測定した。
【0057】
電界紡糸
電界紡糸は、調節可能な絶縁台に取り付けられた、内径1.0mmのチップを備えるスチール製キャピラリーチューブを用いて行った。キャピラリーチューブを電界紡糸のために高電位に維持し、平行平面の形状に取り付けた。キャピラリーチューブを、10mlの絹糸/PEOブレンド溶液または絹糸溶液で満たされたシリンジに接続した。滴り落ちることなくチューブのチップに溶液を保つように設定されたシリンジポンプを用いて、一定体積の流速を維持した。安定した噴流が得られるように、電位、溶液流速、およびキャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を調節した。キャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を変えることによって、乾燥した繊維または湿った繊維がスクリーン上に集められた。
【0058】
絹糸/PEOブレンド溶液から得られた電界紡糸マットの溶液処理
電界紡糸絹糸繊維の無定形からβシートへの高次構造変化を誘導するために、絹糸/PEOブレンド溶液から得られた電界紡糸不織マットを90/10(v/v)メタノール/水溶液に10分間浸漬し、次いで、マットからPEO電界紡糸繊維を除去するために、室温および36.5℃でそれぞれ24時間、水で洗浄した。
【0059】
SEM
レオジェミニ(LEO Gemini)982電界放射型電子銃(Field Emission Gun)SEMを用いて、電界紡糸繊維の画像を得た。
【0060】
FT-IR
赤外線スペクトルを、ATR-FTIR(ブルカーエキノクス(Bruker Equinox)55)分光光度計を用いて測定した。試料の各スペクトルは、ZnSe ATRクリスタルセル上を透過する形式で、分解能4cm-1およびスペクトル範囲4000〜600cm-1で256回のスキャンの蓄積によって得た。
【0061】
XPS
絹糸フィルムの表面を分析してペプチドの表面密度を推定するために、サーフィスサイエンス(Surface Science Inc.)モデルSSX-100 X線光電子分光計を使用した。サーベイスキャン(Survey scan)(スポット1000μm,分解能4,ウィンドウ1000eV)を、5eVのフラッドガン(電荷中和)設定を用いて行い、試料表面が荷電しないようにニッケルワイヤーメッシュを試料の上に保持した。
【0062】
純粋な絹糸溶液およびPEO溶液を用いた絹糸/PEOブレンド溶液の特性
PEOを含まない絹糸水溶液は電界紡糸しなかった。溶液の粘度および表面張力がキャピラリーチップの端に安定な液滴を維持するほど十分に高くなかったために、繊維が形成しなかった。溶液の粘度を高めるために、絹糸水溶液の濃度を高くするとゲルが形成した。PEOを表1に示した比で絹糸溶液に添加すると、キャピラリーチップの端に安定な液滴が得られた。純粋な絹糸溶液の粘度は、図1に示したように7.2%の高濃度でも他の溶液よりかなり低かった。絹糸溶液に含まれるPEOの割合が小さくても、ブレンドの粘度が増大した。絹糸/PEOブレンド溶液の粘度はPEOの量に左右された。絹糸溶液および絹糸/PEOブレンド溶液の伝導率は、室温で、純粋なPEO溶液より高かった。全ての絹糸/PEOブレンド溶液が、電界紡糸するのに優れた、粘度および伝導率に関連する特性を示した。
【0063】
電界紡糸絹糸/PEO水溶液からの繊維形成および形態
PEOを絹糸溶液に添加することによって、電界紡糸に適した粘度および表面張力が発生した。アルミ箔を収集スクリーンとして使用した。キャピラリーチップとアルミ箔対向電極との電位差を12kVまで段階的に増やすにつれて、キャピラリーチップ端の液滴は半球の形から円錐形(しばしば、テイラーコーン(Taylor cone)と呼ばれる)に伸びた。12kVの印加によって、キャピラリーチップ端付近で噴流が引き起こされた。チップとコレクターとの距離は200mmであり、全ての液体の流速は0.02ml/分〜0.05ml/分であった。全ての溶液を電界紡糸する前に、マットを簡単に剥離するために、テフロン液を収集スクリーン上に沈着させた。
【0064】
生成された電界紡糸繊維の形態および直径を、高分解能低電圧SEMを用いて調べた。全ての絹糸/PEOブレンド溶液から、繊維平均直径が800nm未満の微細で均一な繊維が生じた(表1)。セリシン抽出カイコガ絹糸と電界紡糸繊維(No.6)との間で、繊維の大きさを比較した(図2)。電界紡糸繊維の大きさは未処理絹糸繊維の1/40であった。電界紡糸繊維一本一本が不織マットの中にばらばらに分散しているようにみえた。絹糸/PEO水溶液からの電界紡糸繊維の顕微鏡写真を図3A-3Dに示す。
【0065】
マットの表面組成を推定するためにXPSを使用した。表2は、PEO、絹糸フィブロイン、および絹糸/PEOブレンドの電界紡糸マットからのO1s、C1s、またはN1sのそれぞれのピーク強度を示す。絹糸マットのN1s/C1sおよびO1s/C1sの比はそれぞれ0.31および0.40であった。絹糸/PEOマットの場合、N1s/C1sは最低で0.16に低下し、O1s/C1sは最大で0.49に増加した。表2に示すように、これらの比に基づいて本発明者らは繊維組成を推定することができる。
【0066】
電界紡糸マットの溶媒処理
絹糸の結晶化を誘導するために、マットを90/10(v/v)メタノール/水溶液と10分間接触させ、次いで、PEOを抽出するために、36.5℃の温水の中に24時間保管した。電界紡糸されたばかりの繊維とメタノール処理後の繊維との間の絹糸繊維の構造変化をATR-FTIRで観察した。図4に示すように、電界紡糸の直後では、その構造はランダムコイルすなわち絹糸I(silk I)であった。そのため、電界紡糸されたばかりの繊維は水に容易に溶解し、繊維構造を急速に失う。しかし、図4に示すように、メタノール処理後、その構造はβシートに変化した。そのために、メタノール処理後の繊維は水の中に保管した後でさえ、微細な繊維構造を示した。
【0067】
メタノール/水で処理し、水で洗浄した後のマットの表面を分析して表面組成を推定するために、XPSを使用した。表2は、PEO、絹糸フィブロイン、および絹糸/PEOブレンドの電界紡糸マットのXPSスペクトル結果を示す。O1s、C1s、またはN1sのそれぞれのピーク強度も表2に示す。全てのブレンドマットのN1sとC1sの比は、水で洗浄した後でさえ絹糸マット(0.33)より小さかった。従って、絹糸/PEO電界紡糸繊維一本一本は内部にPEO相を有する。これらの比に基づいて、本発明者らは、紡糸に用いられた溶液に関連したマット表面組成を推定することができる。
【0068】
実施例II
材料
B.モリカイコガ絹糸の繭を蚕業技術研究所(つくば、日本)のM. Tsukadaから入手した。平均分子量9×105g/molのPEOおよびポリエチレングリコール(PEG)(3,400g/mol)をアルドリッチから購入し、さらに精製することなく使用した。
【0069】
再生B.モリ絹糸フィブロイン溶液の調製
B.モリ絹糸フィブロイン溶液は、以前に記載された手順[25]を改良することによって調製した。繭を0.02M Na2CO3水溶液中で30分間煮沸し、次いで、糊様セリシンタンパク質を抽出するために水で徹底的に洗浄した。次いで、抽出された絹糸を室温で9.3M LiBr溶液に溶解し、20%(w/v)溶液を得た。スライドエーライザー透析カセット(ピアス,MWCO2000)を用いて、この溶液を水中で48時間透析した。絹糸水溶液の最終濃度は7.0〜8.0重量%であった(乾燥後の残存固体を秤量することによって測定した)。
【0070】
ブレンドフィルムの調製および処理
4重量%のPEG溶液またはPEO溶液を絹糸水溶液に添加することによって、様々な絹糸ブレンド水溶液を調製した。ブレンド比(絹糸/PEGまたは絹糸/PEO)は、100/0、95/5、90/10、80/20、70/30、および60/40(w/w)であった。溶液を室温で15分間穏やかに撹拌し、次いで、フード内に入れたポリスチレン製ペトリ皿の表面上で室温で24時間成形した。次いで、フィルムをさらに24時間真空状態にした。絹糸フィブロインの無定形からβシートへの高次構造変化を誘導するために、絹糸フィブロインフィルムおよびブレンドフィルムを90/10(v/v)メタノール/水溶液に30分間浸漬した。メタノールを用いて絹糸および絹糸/PEGまたはPEOブレンドを結晶化させた後、水(37℃で17MΩ)での溶解度を48時間測定した。この溶解度試験は振盪培養器において行い、振盪速度は200rpmであった。PEGまたはPEOだけが溶解すると予想した。溶解度は、PEGまたはPEOを抽出する前と抽出した後の重さを差し引くことによって計算した。
【0071】
特徴付け
レオジェミニ982電界放射型電子銃SEMを用いて、絹糸および絹糸/PEGまたはPEOブレンドフィルムのひび割れのある表面の画像を得た。絹糸フィルムの表面を分析して絹糸ペプチド対PEOの表面密度を推定するために、サーフィスサイエンスモデルSSX-100 X線光電子分光計を使用した。サーベイスキャン(スポット1000μm,分解能4,ウィンドウ1000eV)を、5eVのフラッドガン(電荷中和)設定を用いて行い、試料表面が荷電しないようにニッケルワイヤーメッシュを試料の上に保持した。
【0072】
絹糸フィルムおよびブレンドフィルムの熱特性を求めるために、示差走査熱量計DSC(2920 Modulated DSC)(ティーエイインスツルメント(TA Instruments))を使用した。温度を校正するためにインジウムを使用し、試料をアルミニウムパンの中に入れて密封した。それぞれのスキャンは10℃/分の速度で-20℃〜320℃まで行った。試料を20℃/分で-100℃まで冷却した。
【0073】
接触角分析
表面親水性を求めるために、ミリポア(Millipore)で精製された水の液滴(17MΩ)を用いて絹糸フィルムおよびブレンドフィルム上での接触角を測定した。シリンジおよび22ゲージ針を用いて水滴(約5μl)を加え、ゴニオメーター(ラメハート(Rame-Hart,Inc.))を用いて静止接触角を測定した。この分析はメタノール処理後に行った。
【0074】
絹糸フィルムおよびブレンドフィルムの機械的特性
標本(5×50×0.2mm)の引張り特性を、インストロン(Instron)引張り試験器を用いて、周囲条件、15mm/分のクロスヘッド速度で測定した。ゲージ長を30mmに設定し、100kgfの初期ロードセルを適用した。断面積当たりの引張り強さ(kg/mm2)および破断点での相対伸びと初期フィルム長の比(%)を応力ひずみ曲線の観察から求めた。
【0075】
絹糸とPEGまたはPEOとのブレンド
絹糸とブレンドして絹糸フィルム特性(重要な基準は水加工性および生体適合性である)を改善するために、PEGおよびPEOを選択した。PEGまたはPEO(それぞれ分子量3,400g/molおよび900,000g/mol)をブレンドについて試験した。材料の加工に有用な成分濃度を特定するために、まず最初に、絹糸/PEGフィルムまたはPEOフィルムを調製した。フィルムを、ポリスチレン製ペトリ皿上で水溶液から様々な比で成形し(表4)、一晩乾燥させた。絹糸およびPEG(3,400g/mol)ブレンドの場合、2つの成分は、試験された組成物全体にわたってフィルム形成間に2つの相に分離しているのが肉眼で見えた。絹糸/PEG(98/2)を除く全てのブレンド比から低品質のフィルムが形成した。フィブロインを不溶性βシート構造にするために、絹糸/PEGブレンドを90/10(v/v)メタノール/水溶液に30分間浸漬した。この結晶化方法の後、PEG相が不透明になったのに対して、絹糸相は依然として透明であったので、相分離はさらにはっきりと分かるようになった。相分離は絹糸/PEG(60/40)ブレンドにおいて最もはっきりしたので、絹糸/PEG(60/40)ブレンドに関してさらなる特徴付けは考慮しなかった。しかしながら、絹糸およびPEO(900,000g/mol)ブレンドの場合、試験された成分全体にわたって2つの成分の間で肉眼で見える相分離は起こらなかった。
【0076】
ブレンドフィルムの水溶解度
図5に示すように、溶解度は、PEOまたはPEGを抽出する前と抽出した後の重さを差し引くことによって計算した。絹糸フィルムまたはブレンドフィルムを6つに分け、このうち3つを、12時間、24時間、および48時間の溶解度試験のために3個の独立したガラスバイアルに入れた。純粋な絹糸フィブロインフィルムは溶解度試験前に30分間メタノールで結晶化されていたので、48時間まで有意な重量減少を示さなかった。試験間のわずかな重量減少(約0.6%)は、強い振盪による物理的剪断の微細な影響によるものであると考えられた。1%範囲内のエラーは試験全体を通して有意でないとみなされた。図5A-5Bは、時間に応じた、絹糸および絹糸/PEOまたはPEGブレンドの重量減少パーセントを示す。絹糸/PEOブレンドの場合、ブレンド中のPEOが水に溶解するために組成物全体にわたって比較的均一な重量減少を示した(図5A)。
【0077】
DSC
メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸および絹糸/PEOブレンドの熱特性をDSCで観察した(図6および図7)。再生絹糸フィルムのDSCサーモグラムを図6(a)(メタノール処理前)および図7(a)(メタノール処理後)に示す。図6(a)は、約88.2℃で発熱ピーク(熱により誘導された絹糸フィブロインの結晶化に起因する)ならびに約54.2℃、137.7℃、および277.9℃での3つの吸熱(それぞれ、ガラス転移温度、水蒸発、および絹糸フィブロインの熱分解に起因する)[50]を示す。その一方で、図7(a)は、発熱移行の形跡が全く無く、278℃で吸熱を示す。この挙動は、メタノール処理間の絹糸フィルムのβシート構造形成によるものである[51]。
【0078】
図6における、ブレンドに含まれる絹糸フィブロインおよびPEOの54.2〜64.2℃の特徴的な熱転移の重複は、前記のDSC結果から浮かび上がった主な特徴であるように見える。しかしながら、PEO含有量が高い(20重量%を超える)ブレンドフィルムのDSCパターンにおいて現れる変化の中には、ある程度の相互作用が絹糸フィブロインとPEOとの間で確立されたことを示唆するものもある可能性がある。本発明者らは、主に、PEO融解温度ピークの低い温度へのシフトについて言及し、ブレンド中のPEO含有量の増加に伴った87〜88℃の絹糸結晶化ピークの消失についても主に言及する。これらの作用は、ブレンドにおけるPEO結晶化温度が低下し、PEOがブレンド中で溶解した後に(絹糸とPEO分子の相互作用により)絹糸結晶化が阻止されたと解釈することができる。他には、全ての試料をメタノール処理した後である図7は、主として絹糸結晶化によって絹糸領域とPEO領域が相分離したために、ブレンド中のPEOの融解温度がほんの少しだけシフトしたことを示す。以下のSEM観察で示すように、2つの成分はブレンドにおいてミクロ相分離を形成した。
【0079】
最大熱分解温度については、メタノール処理ならびにPEOとのブレンドおよびPEO比による影響が小さいように見えるが、メタノール処理前のブレンドの場合、ブレンド中のPEO量の増加に伴って分解吸熱がわずかに広がったことなど、いくつかの変化が観察された。
【0080】
XPS
フィルムの表面組成を推定するためにXPSを使用した。表6は、メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸フィブロインフィルムおよび絹糸/PEOブレンドフィルムのO1s、C1s、またはN1sのそれぞれのピーク強度を示す。フィルム表面から、メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸およびPEOの組成を推定するために、N1s/C1s比を使用した。これらの比に基づいて、表6に示すように、本発明者らはブレンドフィルム組成を推定することができる。PEO部分が増加するにつれて、全てのブレンドのN1s/C1sは、メタノール処理前およびメタノール処理後の両方で低下した。特に、メタノール処理後のブレンドフィルムのN1s/C1sはメタノール処理前よりかなり低かった。メタノール処理間に絹糸がβシート形成するために相分離によってPEO部分がフィルム表面に移動すると考えることができる。絹糸は比較的疎水性であるので、メタノール処理されたフィルム表面上の絹糸含有量は低いと予想され得る。しかしながら、絹糸/PEO(90/10)のN1s/C1s比はメタノール処理後に増加した。
【0081】
SEM
絹糸および絹糸/PEOまたはPEGブレンドフィルムのひび割れのある横断面および表面形態を、37℃で48時間、温水でPEGまたはPEOを抽出した後に、高分解能低電圧SEMを用いて調べた。純粋な絹糸フィブロインフィルムは高密度で均一な微細構造を示したが、全ての絹糸/PEOブレンドのひび割れのある表面はミクロ相分離のためにでこぼこの形態を示した。フィルム中のPEO含有量が40重量%まで高くなるほど、横断面に基づくフィルムの形態は高密度になった。絹糸/PEO(90/10)ブレンドは、ひび割れのある表面から最も密度の小さい形態を示した。これは、ブレンドのPEO部分がメタノール処理間に表面に移動しないことを証明している。この結論はSPSデータを裏付けている。絹糸/PEGブレンドフィルムは、絹糸PEO系とは異なり、純粋な絹糸フィブロインフィルムで見られたものとは異なる形態を示さなかった。
【0082】
接触角の測定
表7に示すように、メタノール処理後の絹糸および絹糸/PEOブレンドフィルム上での接触角を測定した。ブレンドのPEO比の増加と共に、表面親水性が増加した。
【0083】
機械的特性
絹糸および絹糸/PEOブレンドフィルムの引張り係数、破断強さ、および伸びの値を表8に示す。純粋な絹糸フィルムは脆性材料の典型的な挙動を示した。絹糸フィブロインへの2重量%PEOの添加は、ブレンドフィルムの機械的特性のわずかな改善を引き起こすのに有効であった。他の比のブレンドでは、引張り係数および引張り強さはPEO含有量の増加と共に減少した。しかしながら、絹糸/PEO(60/40)ブレンドでは、破断点伸びは10.9%までわずかに増加した。これらの試料のメタノール処理は機械的特性を有意に変えなかった。
【0084】
絹糸ブレンドフィルムの延伸(伸長)
PEO02BM(絹糸/PEO98/02重量%)フィルムブレンド試料を室温で5分間、水に浸け、次いで、その元の長さの2倍に伸ばした。次いで、試料を周囲条件で48時間乾燥させ、その後に、インストロンで引っ張り試験を行った。
1BM:メタノール処理前、2ST:伸長
【0085】
実施例III
方法
B.モリカイコガ絹糸の繭は蚕業技術研究所(つくば、日本)のM.Tsukadaの厚意により提供された。平均分子量9×105g/molのPEO(アルドリッチ)をブレンドに使用した。
【0086】
絹糸マトリックスおよび再生B.モリ絹糸フィブロイン溶液の調製
細胞播種実験用の絹糸マトリックスを調製するために、ボンビックス-モリカイコガから分泌された後にフィブロイン繊維を封じ込める抗原性の糊様タンパク質であるセリシンを除去するために、以前に述べられたように[33]、ホワイトブラジリアン(white Brazilian)ボンビックス-モリカイコガの繊維を0.02M Na2CO3水溶液および0.3%(w/v)界面活性剤の中で90℃で1時間抽出した。この試験のために、540本の絹糸繊維(抽出前)からなる3cm長の絹糸ワイヤロープマトリックスを、端をステンレススチール316Lカラー(長さ1cm,内径2.2mm,外径3mm)でつまみ合わせることで作成した。
【0087】
再生B.モリ絹糸フィブロイン溶液は、本発明者らの以前の手順の改良版として調製した。繭を0.02M Na2CO3水溶液中で30分間煮沸し、次いで、セリシンタンパク質を抽出するために水で徹底的に洗浄した[25]。次いで、抽出された絹糸を60℃で9.3M LiBr溶液に溶解して、20%(w/v)溶液を得た。スライドエーライザー透析カセット(ピアス,MWCO3500)を用いて、この溶液を水中で透析した。絹糸水溶液の最終濃度は8.0重量%であった(乾燥後の残存固体を秤量することによって測定した)。
【0088】
紡糸溶液の調製
絹糸/PEOブレンド(80/20重量/重量)水溶液は、7.5重量%絹糸/PEO溶液になるように、5.0重量%のPEO(900,000g/mol)5mlを8重量%の絹糸水溶液20mlに添加することによって調製した。2種類の溶液をブレンドしている間にβシート構造が早まって形成しないように、溶液を低温(4℃)で穏やかに攪拌した。
【0089】
電界紡糸
電界紡糸は、以前に述べられたように[9,32]、調節可能な絶縁台に取り付けられた、内径1.5mmのチップを備えるスチール製キャピラリーチューブを用いて行った。キャピラリーチューブを電界紡糸のために高電位に維持し、平行平面の形状に取り付けた。キャピラリーチューブを、10mlの絹糸/PEOブレンド溶液で満たされたシリンジに接続した。滴り落ちることなくチューブのチップに溶液を保つように設定されたシリンジポンプを用いて、一定体積の流速を維持した。安定した噴流が得られるように、電位、溶液流速、およびキャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を調節した。キャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を変えることによって、乾燥した繊維または湿った繊維がスクリーン上に集められた。
【0090】
電界紡糸マットの処理
絹糸の無定形からβシートへの高次構造変化を誘導するために、絹糸/PEOブレンド溶液からの電界紡糸不織マットを90/10(v/v)メタノール/水溶液に10分間浸漬し、次いで、マットからPEOを除去するために水で37℃で48時間洗浄した。この方法は振盪培養器において50rpmで行った。2組の電界紡糸マット(PEOが存在するマットおよびPEOが存在しないマット)を細胞相互作用について試験した。
【0091】
XPS
絹糸フィルムの表面を分析して絹糸対PEOの表面密度を推定するために、サーフィスサイエンスモデルSSX-100 X線光電子分光計を使用した。サーベイスキャン(スポット1000μm,分解能4,ウィンドウ1000eV)を、5eVのフラッドガン(電荷中和)設定を用いて行い、試料表面が荷電しないようにニッケルワイヤーメッシュを試料の上に保持した。
【0092】
DSC
電界紡糸繊維の熱特性を求めるために、示差走査熱量計(DSC)(2920 Modulated DSC)(ティーエイインスツルメント)を使用した。温度を校正するためにインジウムを使用し、試料をアルミニウムパンの中に入れて密封した。それぞれのスキャンは、10℃/mmの速度で-20℃〜100℃まで行った。
【0093】
光学偏光顕微鏡
電界紡糸繊維の形態を観察するために、デジタルカメラおよびリンカム(Linkam)LTS 120ホットステージを備えたツァイスアキシオプラン(Zeiss Axioplan)2を使用した。画像を撮影し、加熱する前(室温)の繊維および5℃の速度で100℃まで加熱した後の繊維を比較した。
【0094】
電界紡糸マットの機械的特性
標本(8×40×0.5)(mm)の機械的特性を、インストロン引張り試験器を用いて周囲条件、20mm/mmクロスヘッド速度で測定した。ゲージ長を20mmに設定し、100kgfのロードセルを使用した。断面積当たりの引張り強さ(kg/mm2)および破断点での相対伸びと初期フィルム長の比(%)を応力ひずみ曲線の観察から求めた。試験前に、全ての試料を室温で真空状態で保管した。それぞれの試験は5回行った。
【0095】
細胞およびマトリックス播種
以前に述べられたように[33]、BMSCを単離し、培養および増殖し、保存した。簡単に述べると、処理されていないヒト全骨髄吸引液をドナー(25歳未満)(クロネティック-ポイエティクス(Clonetic-Poietics),Walkersville,MD)から得、10%胎児ウシ血清(FBS)、0.1mM非必須アミノ酸、100U/mlペニシリンおよび100mg/Lストレプトマイシン(P/S)、ならびに1ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に再懸濁し、組織培養ポリスチレンに8μl吸引液/cm2でプレートした。4日後、培地交換の間に、非接着性の造血細胞を培地と共に除去した。その後に、培地を1週間に2回交換した。コンフルエントになる前に0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて初代BMSCを剥がし、5×103細胞/cm2で再プレートした。コンフルエントに近い継代数1(P1)のhBMSCをトリプシン処理し、さらなる使用のために8%DMSO/10%FBS/DMEM中で凍結させた。
【0096】
凍結したP1 hBMSCを解凍し、5×103細胞/cm2で再プレートし(P2)、コンフルエントに近くなった時にトリプシン処理し、マトリックス播種に使用した。電界紡糸フィブロインマット(1cm×1cm)を70%アルコールと30分間インキュベートした後に、細胞播種前に滅菌PBSで徹底的な洗浄手順を行った。細胞懸濁液を直接、絹糸マトリックスにピペットで移すことによって、マトリックスに細胞(25000細胞/cm2)を播種し、実験の間、bFGFを含まない細胞培地2ml中で37℃/5%CO2でインキュベートした。細胞培地を4日毎に交換した。
【0097】
BMSCを未処理絹糸繊維マトリックスに播種する場合、細胞とマトリックスの相互作用を高めるために、ガス(酸化エチレン)滅菌した絹糸マトリックス(長さ3cm)を、特注設計のテフロン製播種チャンバー(seeding chamber)の中に入れた。このチャンバーには24個のウェルがある(それぞれのウェルは幅3.2mm×深さ8mm×長さ40mm(総体積1ml)である)。直接ピペットで移すことによって、マトリックスに2×106細胞/mlの濃度の細胞懸濁液1mlを接種し、37℃/5%CO2で2時間インキュベートし、実験の間、bFGFを含まない適量の細胞培地を含む細胞培養フラスコに移した。播種後、絹糸マトリックスを適量のDMEM(10%FBS)中で1日および14日間培養した。
【0098】
細胞増殖アッセイ法
細胞計数
1日後、7日後、および14日後に、絹糸マットを取り、非接着性細胞を除去するためにPBSで洗浄し、次いで、0.25%チプシン/1mM EDTA 0.5ml中で37℃で5分間インキュベートした。10%FBSを含む培地0.5mlを各試料に添加することによって、トリプシン処理を止めた。次いで、血球計数器および顕微鏡を用いて細胞数を計数した。
【0099】
MTT
細胞増殖は、臭化3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウム(MTT)(シグマ(Sigma),St.Louis,MO)染色によって測定した。14日後に、播種された絹糸マトリックスまたは絹糸マットを、MTT溶液(0.5mg/ml,37℃/5%CO2)中で2時間インキュベートした。形成された非常に濃い赤色のホルマザン誘導体を溶解し、吸光度を、マイクロプレート分光光度計(スペクトラマックス(Spectra Max)250,モレキュラーデバイス(Molecular Devices,Inc),Sunnyvale,CA)を用いて570nmおよび参照波長690nmで測定した。
【0100】
走査電子顕微鏡(SEM)
絹糸フィブロインに播種された細胞の形態を確かめるために、SEMを使用した。播種された絹糸マトリックスを取った後、直ぐに0.2Mカコジル酸ナトリウム緩衝液で洗浄し、カルノフスキー(Karnovsky)固定液(0.1Mカコジル酸ナトリウムに溶解した2.5%グルタルアルデヒド)で4℃で一晩固定した。固定試料をアルコール勾配、その後にフレオン(1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン,アルドリッチ,Milwaukee,USA)暴露することによって脱水し、換気フード内で風乾した。レオジェミニ982電界放射型電子銃SEM(高分解能低電圧SEM)およびJEOL JSM-840A SEMを用いて、標本を調べた。
【0101】
結果および考察
絹糸/PEO溶液の電界紡糸
絹糸水溶液(8重量%)の粘度を高めるために、PEO(MW900K)を4/1(絹糸/PEO重量/重量)の比で添加した(前記の表9および本発明者らの以前の研究[32]に示す)。純粋な絹糸溶液(8重量%)の粘度および表面張力は、キャピラリーチップ端で安定な液滴を維持するほど十分高くなかった。PEOを絹糸溶液に添加することによって、電界紡糸に適した粘度および表面張力が発生した。チップとコレクターとの距離は21.5cmであり、液体の流速は0.03ml/分であった。キャピラリーチップとアルミ箔対向電極との電位差を12kV(E=0.6kV/cm)まで段階的に増やすにつれて、キャピラリーチップ端の液滴は半球の形から円錐形に伸びた。SEMを用いて、電界紡糸繊維の形態および直径を調べた。絹糸/PEOブレンド溶液から、繊維平均直径が700nm±50の微細で均一な繊維が生じた(表9)。電界紡糸繊維一本一本が不織マットの中にばらばらに分散しているように見えた。
【0102】
ブレンド溶液からの電界紡糸繊維を、ホットステージを備えた光学顕微鏡で観察した。PEOの融解温度は約60℃であり[78]、絹糸フィブロインは100℃まで全く熱転移を示さなかった[79]。図8(a)は室温で撮影されたものであり、図8(b)は5℃/分の速度で100℃まで加熱した後に撮影されたものである。この結果は、両ポリマー(PEOおよび絹糸フィブロイン)とも電界紡糸繊維において単独で存在することを裏付けている。繊維が両温度で完全な状態のままであったという事実は、PEOの融解が繊維の形態および構造に全く影響を及ぼさなかったことを示している。従って、繊維の完全性は絹糸フィブロインによってのみ左右される。
【0103】
水溶性を無くすために、電界紡糸マットをメタノールで処理した。メタノール処理前およびメタノール処理後のマットの表面組成をXPSで確かめた(表3)。2種類の絹糸/PEOブレンドの電界紡糸マットからのO1S、C1S、またはN1Sのそれぞれのピーク強度を示した。マットのN1S/C1Sの比はメタノール処理前では0.23であった。PEOがメタノールに溶解するために予想されたように、メタノール処理後、N1S/C1Sは0.28に増加した(表3)。PEOをマットから37℃で2日間水で抽出した時、N1S/C1Sは0.31に増加した。これは7日後でも変化しなかった。従って、2日間のPEO抽出後、ほとんど全てのPEOが抽出されていた。DSC測定でも、この処理によるPEO除去が確かめられた(図9)。メタノール処理後、電界紡糸マットは約56.5℃でPEOの融解温度ピークを示した(図9)。水による抽出の後、このピークは無かった。電界紡糸繊維の壊れやすい表面形態を観察するために、試料上に電導性被覆材を用いることなく、高分解能低電圧SEMを使用した。メタノール処理後、電界紡糸マットの表面形態を観察し、その表面から、繊維一本一本が、精錬された未処理絹糸繊維に似た約110nmの微繊維構造を示した(図10(a))[67]。電界紡糸マットからPEOを抽出した後でさえ、表面形態は維持された(図10(b)および(c))。2組の電界紡糸マット(PEOが存在するマットおよびPEOが存在しないマット)を、細胞相互作用について未処理絹糸繊維と比較した。
【0104】
電界紡糸マットの引張り係数、引張り強さ、および伸びの値を図11に示す。この足場構造は、組織再生工程間に十分な機械的特性をもたらさなければならない。電界紡糸マットのメタノール処理後、その引張り係数、引張り強さ、および伸びの値は、それぞれ、624.9±0.9MPa、13.6±1.4MPa、および4.0±2.0%であった。メタノール処理間に電界紡糸絹糸フィブロインがβシート構造を形成することによって[32]、その引張り係数および引張り強さはメタノール処理前より大きく、伸びはメタノール処理前より小さかった。電界紡糸マットからPEOを抽出した後、再生絹糸フィブロインフィルムに見られるような脆性のために[39]、その機械的特性は大きく低下した。PEOの存在は電界紡糸マットの機械的特性の改善に有効であった。メタノール処理後に電界紡糸マットの伸びは低下したが、PEO抽出前の靭性はPEO抽出後より非常に高かった。この試験における電界紡糸絹糸フィブロインマットは、組織再生用の足場として用いられた、PGA[80]、PLGA[81]、コラーゲン[82]、コラーゲン/PEOブレンド[83]を使用した他の生分解性電界紡糸マットに匹敵するものであった。
【0105】
細胞培養実験
組織工学用足場材は細胞の接着および増殖を助けなければならない。電界紡糸フィブロイン上での細胞の挙動を評価するために、ペトリ皿に入れたPEO非抽出試料またはPEO抽出試料にBMSCを播種した。播種の24時間後に、PEO抽出絹糸マットは組織培養プラスチック上で増殖している細胞に取り囲まれているのが観察された。対照的に、非抽出マットの周囲には細胞はほとんど観察されなかった(図12)。この現象は、1日目に、PEOが非抽出絹糸マットから放出され、このためにBMSCは周辺部に接着しなかったことを示唆しているのかもしれない。1日目の細胞数から、非抽出絹糸マットと比較した時、50%を超える細胞がPEO抽出絹糸マットに接着したことが分かった。BMSCの絹糸マットへの接着はSEMによって確かめられた(図13)。細胞播種の1日後に、PEO抽出マットおよびPEO非抽出マットの両方で細胞が観察されたが、PEO抽出試料の方の密度が高かった。これは細胞計数実験からのデータと対応する。恐らく、インキュベーション間に非抽出マットから可溶性PEOが放出されたために、繊維への細胞の接着が阻止された。これは、タンパク質吸着を限定する[85-87]、PEOの親水性によるものである[84]。非抽出マット上の細胞は材料表面にとどまったのに対して(図14(a))、PEO抽出マットでは一部の細胞が絹糸繊維の下に移動した(図14(b))。しかしながら、14日後、細胞は繊維の間で増殖し、抽出繊維および非抽出繊維の両方で表面の大部分を覆った(図14(c)および(d))。
【0106】
抽出群および非抽出群の両方とも、7日目の細胞数は1日目と比較して有意に増加した(p<0.01)。これは細胞が増殖したことを示唆している(図15)。PEO抽出マットの細胞数は非抽出絹糸マットの細胞数と比較して約88%有意に多かった(p<0.05)。7日の培養後、PEO抽出マットおよびPEO非抽出マットの大部分はBMSCで高密度に占められた。SEMで確かめられたように、細胞シートおよび可能性のあるECMが表面を覆った(図13)。これは、7日後に、細胞増殖が両群で頭打ちになったことを説明しているのかもしれない。PEO抽出群とPEO非抽出群との7日目および14日目の細胞密度の差は、PEOの存在により引き起こされる初期細胞接着の差によるものかもしれない。PEOの存在は細胞増殖に影響を及ぼさなかった。これは、PEOが、細胞培地中で数日間インキュベートされた後に37℃で抽出されたことによるものかもしれない。本発明者らのXPS結果は、絹糸マットが水中で37℃で2日間インキュベートされた後に、PEOが抽出されたことを示唆した(表3)。未処理絹糸繊維において同様の実験が行われた。BMSCを未処理絹糸マトリックスに播種し、1日および14日間培養した。SEM分析から、1日目に、少数の細胞が未処理絹糸繊維(平均直径約15μm)に接着したことが分かった(図13)。BMSCは、14日間の培養後にコンフルエントに達し、絹糸マトリックスを完全に覆っているように見えた。PEO抽出マットに播種および培養されたBMSCは、非抽出マット上の細胞と比較して高密度に存在した。しかしながら、これらの差は有意でなかった(p>0.05)(図16)。
【0107】
結論
フィブロイン直径が700±50nmの微細繊維マットを、B.モリフィブロイン水溶液から、分子量900,000のPEOとの電界紡糸によって形成した。PEOは優れた機械的特性を電界紡糸マットにもたらしたが、最初のうち、残存PEOは細胞接着を阻害した。PEO抽出後1〜2日以内に、これらの影響は無くなり、増殖が始まった。14日間のインキュベーション後に、電界紡糸絹糸マットは広範囲にわたるBMSC増殖およびマトリックス被覆を助けた。電界紡糸絹糸マトリックスがインビトロでBMSCの接着、拡散、および増殖を助ける能力と、絹糸タンパク質マトリックスの生体適合性および生分解性の組み合わせは、これらの生体材料マトリックスの組織工学用足場としての潜在的な用途を示唆している。
【0108】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明に様々な修正および変更を加えることができることが当業者に明らかであろう。従って、本発明の修正および変更が添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内であれば、本発明は本発明の修正および変更を含むことが意図される。
【0109】
参考文献
以下に引用され、本願全体を通して組み入れられる参考文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0110】
(表1)絹糸、PEO、絹糸/PEOブレンドの濃度および伝導率ならびにこれらの電界紡糸繊維
【0111】
(表2)電界紡糸された絹糸、PEO、および絹糸/PEOブレンドの表面からの高分解能XPS結果
【0112】
(表3)電界紡糸された絹糸/PEOブレンド表面からの高分解能XPS結果
1BM:メタノール処理前、2AM:メタノール処理後、3EX:水で2日間のPEO抽出後、4:水で7日間のPEO抽出後
【0113】
(表4)絹糸フィブロイン/PEGまたは絹糸フィブロイン/PEOブレンド組成物
【0114】
(表5)PEGまたはPEOを抽出する前および37℃で48時間抽出した後の絹糸および絹糸ブレンドフィルムの重量(mg)
1( ):ブレンドフィルムからの絹糸重量の計算値
2:測定せず
【0115】
(表6)メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸フィルム、PEOフィルム、および絹糸/PEOブレンドフィルムの表面からの高分解能XPS結果
【0116】
(表7)メタノール処理後の絹糸および絹糸/PEOブレンドフィルムの接触角測定
【0117】
(表8)メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸および絹糸/PEOブレンドフィルムの機械的特性
【技術分野】
【0001】
政府支援
本願の主題は、米国政府、米国立衛生研究所(NIH)助成金R01DE13405-01A1、米国科学財団助成金DMR0090384、および米国空軍助成金F49620-01-C-0064による支援を受けたものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に、絹糸生体材料(例えば、繊維、フィルム、発泡体、およびマット)ならびに組織工学構築物におけるこれらの材料の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
最近、微細繊維の形成を目的とした電界紡糸(electrospinning)が、高性能フィルター[1,2]ならびに細胞増殖、血管移植片、創傷被覆材、または組織工学用の生体材料足場[2-4]などの分野について活発に研究されている。直径がナノメートルの繊維は表面積が大きいため有益である。この静電気的技法では、キャピラリーチップを備えたガラスシリンジの中に入れられたポリマー溶液と金属収集スクリーンとの間に強い電場がかけられる。電圧が臨界値に達すると、電荷が、シリンジチップ上に形成された懸濁ポリマー溶液の変形した液滴の表面張力に打ち勝ち、噴流が発生する。電荷を帯びた噴流は、収集スクリーンへ進む間に一連の電気的に誘導された曲げ不安定を受け、これにより伸長する[5-7]。この伸長方法は溶媒の急速な蒸発を伴い、噴流直径を小さくする[8-12]。収集スクリーンの表面上に蓄積した乾燥繊維は、周囲温度および雰囲気圧で水溶液を用いて操作した場合でさえ、直径がナノメートルからマイクロメートルの繊維からなる不織メッシュを形成する。電界紡糸方法は、繊維直径を制御するために電荷密度およびポリマー溶液濃度を変えることによって調節することができるのに対して、電界紡糸の時間によって沈着メッシュの厚さが制御される[8-13]。
【0004】
自然界でのタンパク質繊維紡糸(例えば、カイコガ絹糸およびクモ絹糸の紡糸)は、離液性準安定相の濃縮溶液が形成され、次いで、小さな出糸突起を通って空気に押し出されることに基づいている[14]。これらの天然の紡糸方法において生成される繊維の直径は、数十ミクロン(カイコガ絹糸の場合)から数ミクロン〜サブミクロン(クモ絹糸の場合)に及ぶ[14]。タンパク質溶液からの繊維の生成は、一般的に、湿式紡糸または乾式紡糸方法の使用に頼ってきた[15,16]。電界紡糸は、潜在的に超微細繊維を作成することができる別のタンパク質繊維形成法を提供する。生体材料および組織工学などの応用分野における、これらのタイプの繊維の潜在的な役割に基づけば、これは有用な特徴であろう[17]。電界紡糸は、ナノメートル直径の繊維を組換えエラスチンタンパク質[17]および絹糸様タンパク質[18-20]から作成するのに用いられている[18-20]。Zarkoobら[21]も、ボンビックス-モリ(Bombyx mori)繭のカイコガ絹糸およびナフィラ-クラビペス(Nephila clavipes)絹糸のクモ引き糸を最初に有機溶媒ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に溶解すれば、ナノメートル直径の繊維に電界紡糸できることを報告している。
【0005】
絹糸は、カイコガであるボンビックス-モリによって産生される詳細に説明されている天然繊維であり、古くから数千年間、織物の糸の形で用いられてきた。この絹糸は、糸のコアを形成する繊維状タンパク質(フィブロイン(fibroin)と呼ばれる)(重鎖および軽鎖)と、フィブロイン繊維を取り囲んで一緒に結合する糊様タンパク質(セリシンと呼ばれる)を含む。フィブロインは、アミノ酸の90%までがグリシン、アラニン、およびセリンである(これは繊維のβプリーツシート形成につながる)、高度に不溶性のタンパク質である [22]。
【0006】
フィブロインなどの再加工絹糸の独特の機械的特性およびその生体適合性は、絹糸繊維を、生物工学材料および医療分野での使用にとって特に魅力的なものにしている[14,23]。
【0007】
生体医学用の絹糸繊維の電界紡糸は、特に、新しい繊維およびフィルムを作成するための可溶化および水溶液からの再加工の間にカイコガフィブロインの高次構造が変化するという問題のために、複雑な工程である。高次構造変化に関する問題はβシート形成によるものであり、これは材料の脆化をもたらす。さらに、絹糸の電界紡糸ならびに発泡体、フィルム、またはメッシュ形成に一般的に用いられる有機溶媒は、加工された材料がインビトロまたはインビボで細胞に曝された時に細胞適合性の問題を提起する。
【0008】
絹糸のブレンドはフィルム形成に関して広範囲に研究されている。絹糸フィルムの機械的安定性もしくは熱安定性または膜特性を改善するために、ポリアクリルアミド[26]、ナトリウムアルギナート[27]、セルロース[28,35]、キトサン[29,36,37]、ポリ(ビニルアルコール)[30,38,39]、アクリルポリマー[31]、ポリ(エチレングリコール)(300g/mol[40]または8,000g/mol[41])、ポリ(ε-カプロラクトン-co-D,L-ラクチド)[42]、およびS-カルボキシメチルケラチン[43]とのブレンドが研究されている。
【0009】
残念なことに、これらのブレンドはどれも、絹糸タンパク質の加工または再加工に関連する問題(例えば、脆化)を克服するのに成功したと証明されなかった。従って、新たな方法、特に、有機溶媒を使用しない方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
本発明は、絹糸生体材料(例えば、繊維、フィルム、発泡体、およびマット)を生成するための全水性方法を提供する。この方法では、加工前(例えば、電界紡糸前)に少なくとも1種類の生体適合性ポリマー(例えば、ポリ(エチレンオキシド)(PEO))が絹糸タンパク質とブレンドされる。本発明者らは、この段階によって、材料の脆化につながる、可溶化および水溶液からの再加工の間のフィブロインの高次構造変化に関連した問題が避けられることを発見した。さらに、この方法によって、加工された生体材料がインビトロまたはインビボで細胞に暴露された時に問題となることがある有機溶媒の使用が避けられる。
【0011】
1つの態様において、生体材料は繊維である。繊維は、(a)絹糸タンパク質水溶液を調製する段階;(b)生体適合性ポリマーを水溶液に添加する段階;および(c)溶液を電界紡糸する段階を含む方法によって生成される。この方法は、(d)繊維をアルコール/水の溶液に浸漬する段階をさらに含んでもよい。アルコールは、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)、またはn-ブタノールである。メタノールが最も好ましい。さらに、この方法は、(e)フィブロイン繊維を水で洗浄する段階をさらに含んでもよい。
【0012】
本発明はまた、前記方法により生成される繊維も提供する。
【0013】
別の態様において、生体材料はフィルムである。フィルムは、例えば、(a)絹糸タンパク質水溶液を調製する段階;(b)生体適合性ポリマーを水溶液に添加する段階;(c)混合物を乾燥させる段階;および(d)混合物とアルコール/水の溶液を接触させて、絹糸ブレンドフィルムを結晶化させる段階を含む方法によって生成される。この方法は、任意で、(e)得られたフィルムの機械的特性を変える、または強化するために、フィルムを延伸または1軸延伸する段階を含んでもよい。
【0014】
本発明の方法において、絹糸タンパク質水溶液は、好ましくは、塩水溶液(例えば、臭化リチウムもしくはチオシアン酸リチウム)または強酸溶液(例えば、蟻酸、塩酸)に溶解される。
【0015】
本発明での使用に適した絹糸タンパク質は、好ましくは、フィブロインまたは関連タンパク質(すなわち、クモの絹糸)である。フィブロインまたは関連タンパク質は、好ましくは、溶解したカイコガ絹糸またはクモ絹糸を含む溶液から得られる。カイコガ絹糸は、例えば、ボンビックス-モリから得られる。クモ絹糸はナフィラ-クラビペスから得られてもよい。他に、本発明での使用に適した絹糸タンパク質は、遺伝子操作された絹糸(例えば、細菌、酵母、哺乳動物細胞、トランスジェニック動物、またはトランスジェニック植物からの絹糸)を含む溶液から得ることができる。例えば、国際公開公報第97/08315号および米国特許第5,245,012号を参照のこと。
【0016】
本発明はまた、絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーを含む生体材料を提供する。生体材料は、繊維、フィルム、発泡体、または繊維の不織網状組織(マットとも呼ばれる)でもよい。生体材料は、組織修復、侵入(ingrowth)、または再生を促進するために足場として生体適合性ポリマー組織工学構築物に用いられてもよく、タンパク質または治療薬を送達するために用いられてもよい。
【0017】
本明細書で使用する「生体適合性」は、ポリマーが無毒で非変異原性であり、最小限から中程度の炎症反応を誘発することを意味する。本発明での使用に好ましい生体適合性ポリマーとして、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、コラーゲン、フィブロネクチン、ケラチン、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、アルギナート、キトサン、キチン、ヒアルロン酸、ペクチン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカノエート、デキストラン、およびポリ無水物が挙げられる。本発明によれば、2種類またはそれ以上の生体適合性ポリマーを水溶液に添加することができる。
【0018】
本発明は、さらに、水に溶解した絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーを含む組成物を提供する。ここで、組成物は水以外の溶媒を含まない。好ましくは絹糸タンパク質はフィブロインであり、生体適合性ポリマーはPEOである。組成物は本発明の方法に有用である。
【0019】
特に定めのない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語および科学用語は、当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書で説明されるものと同様のまたは等価な方法および材料を使用することができるが、好ましい方法および材料を以下に説明する。本明細書で述べた全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は参照として本明細書に組み入れられる。さらに、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、限定を目的としない。コンフリクトの場合、定義を含む本明細書は調整する。
【0020】
本明細書に組み入れられ、本明細書の一部を構成する添付の図面は本発明の態様を例示し、説明と共に、本発明の目的、利点、および原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】絹糸/PEOブレンド水溶液の剪断粘度を示す。
【図2】電界紡糸繊維(No.6)およびセリシン抽出ボンビックス-モリ絹糸繊維の走査電子顕微鏡写真(500倍率)である。
【図3】A〜Dは電界紡糸繊維(No.1)の走査電子顕微鏡写真である:(a)電界紡糸された繊維、(b)メタノール処理後、(c)室温で水に溶解した後、および(d)36.5℃で水に溶解した後。
【図4】絹糸/PEOブレンド溶液からの電界紡糸マット(No.6)のATRスペクトルである(点線:メタノール/水(90/10v/v)処理後)。
【図5】A〜Bは37℃で水に溶解した絹糸フィルムおよびPEOブレンドフィルムの重量減少パーセントを示す(点線:フィルムにおける絹糸重量の計算値):(13A)絹糸/PEOブレンドおよび(13B)絹糸/PEGブレンド。
【図6】メタノール処理前の絹糸フィルム、PEOフィルム、および絹糸/PEOブレンドフィルムのDSCサーモグラムを示す:(a)絹糸フィルム;(b)絹糸/PEO(98/2)ブレンド;(c)絹糸/PEO(90/10)ブレンド;(d)絹糸/PEO(80/20)ブレンド;(e)絹糸/PEO(70/30)ブレンド;(f)絹糸/PEO(60/40)ブレンド;および(g)PEO。
【図7】メタノール処理後の絹糸/PEOブレンドフィルムのDSCサーモグラムを示す:(a)絹糸フィルム;(b)絹糸/PEO(98/2)ブレンド;(c)絹糸/PEO(90/10)ブレンド;(d)絹糸/PEO(80/20)ブレンド;(e)絹糸/PEO(70/30)ブレンド;および(f)絹糸/PEO(60/40)ブレンド。
【図8】A〜Bは電界紡糸繊維の偏光像を示す(スケールバー:10μM):(a)加熱前(室温)および(b)5℃/分の速度で100℃まで加熱した後。
【図9】メタノール処理後の絹糸/PEO電界紡糸繊維マットの示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを示す:(a)PEO非抽出マットおよび(b)PEO抽出マット。
【図10】A〜Cは電界紡糸マットの低電圧高解像度走査電子顕微鏡写真を示す:(a)メタノール処理後の繊維一本一本の表面、(b)PEO非抽出マット、および(c)PEO抽出マット。
【図11】電界紡糸繊維の代表的な機械的特性を示す。
【図12】(a)PEO非抽出マットおよび(b)PEO抽出マットの存在下で1日培養した後の組織培養プラスチック(ポリ(スチレン))上で増殖しているBMSCの位相差顕微鏡像を示す(×40,スケールバー:100μm)。
【図13】電界紡糸マットおよび未処理絹糸フィブロインマトリックス上で増殖しているBMSCの走査電子顕微鏡写真(1日後、7日後、および14日後)を示す(スケールバー:500μm)。
【図14】A〜Dは電界紡糸マット上で増殖しているBMSCの走査電子顕微鏡写真(1日後および14日後)を示す:(スケールバー:(a)50μm、(b)20μm、(c)20μm、および(d)10μm)。
【図15】電界紡糸マットに播種されたBMSCの増殖を示す(播種密度:25,000細胞/cm2,N=4)。エラーバーは標準偏差に対応する。
【図16】MTT結果(播種条件:25000/cm2、20%血清、14日後)を示す。棒の高さは平均値に対応し、エラーバーは標準偏差(n=3)に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明者らは、絹糸生体材料(例えば、電界紡糸絹糸繊維、フィルム、発泡体、およびマット)を生成するための全水性方法を開発した。この方法によって、(1)有機溶媒の使用による不十分な生体適合性の問題、ならびに(2)可溶化および水溶液からの再加工の間の絹糸タンパク質(例えば、カイコガフィブロイン)の高次構造変化に関連する材料の脆化の問題が効果的に避けられる。本発明の方法は、生体適合性ポリマーを絹糸タンパク質水溶液に添加する段階を含む。次いで、絹糸生体材料を形成するために溶液が処理される。
【0023】
本発明での使用に適した絹糸タンパク質は、好ましくはフィブロインまたは関連タンパク質(すなわち、クモ絹糸)である。好ましくは、フィブロインまたは関連タンパク質は、溶解したカイコガ絹糸またはクモ絹糸を含む溶液から得られる。カイコガ絹糸は、例えば、ボンビックス-モリから得られる。クモ絹糸はナフィラ-クラビペスから得られてもよい。他に、本発明での使用に適した絹糸タンパク質は、遺伝子操作された絹糸(例えば、細菌、酵母、哺乳動物細胞、トランスジェニック動物、またはトランスジェニック植物からの絹糸)を含む溶液から得ることができる。例えば、国際公開公報第97/08315号および米国特許第5,245,012号を参照のこと。
【0024】
絹糸タンパク質溶液は、当業者に周知の任意の従来の方法によって調製することができる。例えば、B.モリの繭が水溶液中で約30分間煮沸される。好ましくは、水溶液は約0.02MのNa2CO3である。セリシンタンパク質を抽出するために、繭は、例えば、水で洗浄され、抽出された絹糸は塩水溶液に溶解される。この目的に有用な塩として、臭化リチウム、チオシアン酸リチウム、硝酸カルシウム、または絹糸を可溶化することができる他の化学物質が挙げられる。蟻酸または塩酸などの強酸も使用することができる。好ましくは、抽出された絹糸は約9〜12MのLiBr溶液に溶解される。その結果、塩は、例えば、透析を用いて除去される。
【0025】
本発明での使用に好ましい生体適合性ポリマーは、ポリエチレンオキシド(PEO)(米国特許第6,302,848号)[24]、ポリエチレングリコール(PEG)(米国特許第6,395,734号)、コラーゲン(米国特許第6,127,143号)、フィブロネクチン(米国特許第5,263,992号)、ケラチン(米国特許第6,379,690号)、ポリアスパラギン酸(米国特許第5,015,476号)、ポリリジン(米国特許第4,806,355号)、アルギナート(米国特許第6,372,244号)、キトサン(米国特許第6,310,188号)、キチン(米国特許第5,093,489号)、ヒアルロン酸(米国特許第387,413号)、ペクチン(米国特許第6,325,810号)、ポリカプロラクトン(米国特許第6,337,198号)、ポリ乳酸(米国特許第6,267,776号)、ポリグリコール酸(米国特許第5,576,881号)、ポリヒドロキシアルカノエート(米国特許第6,245,537号)、デキストラン(米国特許第5,902,800号)、ポリ無水物(米国特許第5,270,419号)、および他の生体適合性ポリマーを含む群より選択される。好ましくは、PEOの分子量は400,000〜2,000,000g/molである。より好ましくは、PEOの分子量は約900,000g/molである。本発明により意図されるように、同時に2種類またはそれ以上の生体適合性ポリマーを水溶液に直接添加することができる。
【0026】
1つの態様では、本発明は、絹糸タンパク質水溶液を調製し、生体適合性ポリマーを水溶液に添加し、溶液を電界紡糸し、それにより繊維を形成する方法によって生成される繊維を提供する。好ましくは、繊維の直径は50nm〜1000nmである。
【0027】
この態様において、水溶液の絹糸タンパク質濃度は好ましくは約0.1〜約25重量パーセントである。より好ましくは、水溶液の絹糸タンパク質濃度は約1〜約10重量パーセントである。
【0028】
理論に拘束されるつもりはないが、前記の1種類の生体適合性ポリマーまたは複数の種類の生体適合性ポリマーの添加によって、電界紡糸に適した粘度および表面張力が発生すると考えられる。
【0029】
電界紡糸は、当技術分野において周知の任意の手段によって行うことができる(例えば、米国特許第6,110,590号を参照のこと)。好ましくは、内径1.0mmのチップを備えたスチール製キャピラリーチューブが、調節可能な絶縁台に取り付けられる。好ましくは、キャピラリーチューブは高電位に維持され、平行平面の形状に取り付けられる。キャピラリーチューブは、好ましくは、絹糸/生体適合性ポリマー溶液で満たされたシリンジに接続される。好ましくは、滴り落ちることなくチューブのチップに溶液を保つように設定されたシリンジポンプを用いて、一定体積の流速が維持される。安定した噴流が得られるように、電位、溶液流速、およびキャピラリーチップと収集スクリーンとの距離が調節される。キャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を変えることによって、乾燥した繊維または湿った繊維が得られる。
【0030】
絹糸繊維を集めるのに適した収集スクリーンは、ワイヤーメッシュ、高分子メッシュ、または水浴でもよい。またはおよび好ましくは、収集スクリーンはアルミ箔である。絹糸繊維を容易に剥離するために、アルミ箔にテフロン(Teflon)液をコーティングすることができる。当業者は、繊維溶液が電場を通過すると同時に集められる他の手段を容易に選択することができるだろう。以下の実施例の項においてさらに詳細に説明されるように、キャピラリーチップとアルミ箔対向電極との電位差は、好ましくは、約12kVまで段階的に増加される。しかしながら、当業者は、適切な噴流を得るように電位を調節することができるはずである。
【0031】
本発明の方法は、絹糸の結晶化を誘導するために、紡糸繊維をアルコール/水の溶液に浸漬する段階をさらに含んでもよい。アルコール/水の溶液の組成は、好ましくは、90/10(v/v)である。アルコールは、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)、またはn-ブタノールである。メタノールが最も好ましい。さらに、この方法は、フィブロイン繊維を水で洗浄する段階をさらに含んでもよい。
【0032】
別の態様において、生体材料はフィルムである。フィルムを形成する方法は、例えば、(a)絹糸タンパク質を含む絹糸フィブロイン水溶液を調製する段階;(b)生体適合性ポリマーを水溶液に添加する段階;(c)混合物を乾燥させる段階;および(d)乾燥した混合物とアルコール(好ましいアルコールは前述した)および水の溶液を接触させて、絹糸ブレンドフィルムを結晶化させる段階を含む。好ましくは、生体適合性ポリマーはポリ(エチレンオキシド)(PEO)である。フィルムを生成する方法は、(e)得られた絹糸ブレンドフィルムの機械的特性を変える、または強化するために、フィルムを延伸または1軸延伸する段階をさらに含んでもよい。絹糸ブレンドフィルムの延伸はフィルム繊維構造内の分子を一列にし、それによりフィルムの機械的特性を改善する[46-49]。
【0033】
好ましい態様において、フィルムは、体積で約50部〜約99.99部の絹糸タンパク質水溶液および体積で約0.01部〜約50部のPEOを含む。好ましくは、得られた絹糸ブレンドフィルムの厚さは約60μm〜約240μmである。しかしながら、さらに多くの体積を使用することによって、または複数の層を沈着させることによって、さらに厚い試料を容易に形成することができる。
【0034】
さらなる態様において、生体材料は発泡体である。発泡体は当技術分野において周知の方法(例えば、凍結乾燥およびガス発泡(それぞれ、水が溶媒である、または窒素もしくは他のガスが発泡剤である)を含む)から作成することができる。
【0035】
1つの態様において、発泡体はマイクロパターン発泡体(micropatterned foam)である。マイクロパターン発泡体は、例えば、米国特許第6,423,252号(この開示は参照として本明細書に組み入れられる)に記載の方法を用いて調製することができる。
【0036】
例えば、前記方法は、絹糸タンパク質/生体適合性ポリマー溶液と型の表面を接触させる段階(型は、その少なくとも1つの表面上に、発泡体の少なくとも1つの表面上に配置され、発泡体の少なくとも1つの表面と一体となる予め決められたマイクロパターンの三次元凹形状を備える)、型のマイクロパターン表面と接触させながら溶液を凍結乾燥させ、それにより、凍結乾燥されたマイクロパターン発泡体を得る段階、および凍結乾燥されたマイクロパターン発泡体を型から取り外す段階を含む。この方法に従って調製された発泡体は、少なくとも1つの表面上に、予め決められ設計されたマイクロパターンを備える。このパターンは、組織修復、侵入、または再生を促進するのに有効であり、またはタンパク質もしくは治療薬を送達するのに有効である。
【0037】
別の態様において、生体材料は、成形工程を用いて生成された足場である。例えば、国際公開公報第03/004254号および国際公開公報第03/022319号を参照のこと。このような方法を用いた場合、例えば、絹糸タンパク質/生体適合性ポリマー溶液は型に入れられる。型は、足場の望ましい形と凹凸が逆のものである。溶液は硬化され、型から取り外される。ある特定の態様では、例えば、粒子浸出および当技術分野において周知の他の方法を用いて、ポリマーに孔を形成することが望ましい場合がある。
【0038】
インクジェットパターンプリンティング、ディップペンナノリソグラフィーパターン、およびマイクロコンタクトプリンティングを用いて、さらなる生体材料を本発明の組成物で形成することができる。Wilranら(2001)PNAS 98:13660-13664およびこれに引用された参考文献を参照のこと。
【0039】
本発明の方法によって生成される生体材料は、創傷縫合システム(血管創傷修復装置、止血用包帯、パッチ、および接着剤、縫合糸を含む)、薬物送達などの様々な医療分野において、例えば、足場形成(scaffolding)、靭帯補綴装置などの組織工学分野において、ならびにヒトの体への長期間の移植または生分解性の移植のための製品において使用することができる。好ましい組織工学足場は電界紡糸繊維の不織網状組織である。
【0040】
さらに、これらの生体材料は、これらの独特の足場から利益を得る可能性のある臓器(椎間板、頭蓋組織、硬膜、神経組織、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、脾臓、心筋、骨格筋、腱、靭帯、および乳房組織を含むが、これに限定されない)の修復置換または再生計画に使用することができる。
【0041】
本発明の別の態様において、絹糸生体材料は治療薬を含んでもよい。これらの材料を形成するために、ポリマーは、材料の形成前に治療薬と混合されるか、または材料の形成の後に材料に充填される。本発明の生体材料と併用することができる多種多様な治療薬が膨大にある。一般的に、本発明の薬学的組成物を介して投与可能な治療薬として、抗感染剤(例えば、抗生物質および抗ウイルス剤);化学療法剤(すなわち、抗癌剤);抗拒絶剤;鎮痛薬および鎮痛薬の組み合わせ;抗炎症剤;ホルモン(例えば、ステロイド);成長因子(骨形成タンパク質(すなわち、BMP1-7)、骨形成様タンパク質(すなわち、GFD-5、GFD-7、およびGFD-8)、上皮細胞成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(すなわち、FGF1-9)、血小板由来成長因子(PDGF)、インシュリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、トランスフォーミング成長因子(すなわち、TGF-βI-III)、血管内皮成長因子(VEGF))、ならびに他の天然に由来するまたは遺伝子操作されたタンパク質、多糖、糖タンパク質、またはリポタンパク質が挙げられるが、これに限定されない。これらの成長因子は、参照として本明細書に組み入れられる、Vicki RosenおよびR. Scott Thies,The Cellular and Molecular Basis of Bone Formation and Repair(R.G.Landes Companyにより出版)において述べられている。
【0042】
生理活性物質を含む絹糸生体材料は、1種類またはそれ以上の種類の治療薬と、この材料を作成するために用いられるポリマーを混合することによって処方することができる。または、治療薬は、材料の上に(好ましくは、薬学的に許容される担体と共に)コーティングすることができる。発泡を溶解しない任意の薬学的担体を使用することができる。治療薬は、液体、超微粒子状の固体、または他の任意の適切な物理的形態として存在してよい。一般的であるが、任意で、マトリックスは、1種類またはそれ以上の種類の添加剤(例えば、希釈剤、担体、賦形剤、安定剤など)を含む。
【0043】
治療薬の量は、使用する特定の薬物および治療している医学的状態に左右される。薬物の量は、一般的に材料の約0.001重量パーセント〜約70重量パーセント、より一般的には約0.001重量パーセント〜約50重量パーセント、最も一般的には約0.001重量パーセント〜約20重量パーセントに相当する。体液に接触すると、薬物が放出される。
【0044】
生体適合性ポリマーは使用前に生体材料から抽出されてもよい。これは、組織工学用途に特に望ましい。生体適合性ポリマーの抽出は、例えば、使用前に生体材料を水に浸けることによって行うことができる。
【0045】
組織工学用の足場生体材料は製作後にさらに改良することができる。例えば、足場に、望ましい細胞集団の受容体または化学誘引物質として機能する生理活性物質をコーティングすることができる。コーティングは吸収または化学結合によって塗布することができる。
【0046】
本発明との使用に適した添加剤として、生物学的または薬学的に活性な化合物が挙げられる。生物学的に活性な化合物の例として、細胞接着メディエーター(例えば、細胞接着に影響を及ぼすことが知られている「RGD」インテグリン結合配列のバリエーションを含むペプチド)、生物学的に活性なリガンド、および特定の種類の細胞または組織侵入を促進または排除する物質が挙げられる。このような物質として、例えば、骨誘導物質(例えば、骨形成タンパク質(BMP))、上皮細胞成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、インシュリン様成長因子(IGF-IおよびII)、TGF-、YIGSRペプチド、グリコサミノグリカン(GAG)、ヒアルロン酸(HA)、インテグリン、セレクチン、およびカドヘリンが挙げられる。
【0047】
足場は、組織工学用の物品および(再建外科を含む)組織誘導再生用の物品の形にされる。足場の構造によって十分な細胞侵入が可能になり、細胞を予め播種する必要が無くなる。足場はまた、外部支持臓器の作成を目的としたインビトロ細胞培養を助ける外部足場を形成するように成形されてもよい。
【0048】
足場は、身体の細胞外マトリックス(ECM)を模倣するように機能する。足場は、インビトロ培養およびその後の移植の間、単離された細胞の物理的支持物および接着支持層として働く。移植された細胞集団が増殖し、細胞が正常に機能するにつれて、それ自身のECM支持物を分泌し始める。
【0049】
軟骨および骨のような構造組織の再建において組織の形状は機能に欠かせず、このために、様々な厚さおよび形状の物品への足場の成形が必要とされる。マトリックスの一部をハサミ、外科用メス、レーザービーム、または他の任意の切断機器を用いて除去することによって、三次元構造に望ましい任意の間隙、開口部、または工夫を作成することができる。足場の用途として、実質臓器または中空臓器を形成する組織(例えば、神経組織、筋骨格組織、軟骨組織、腱組織、肝臓組織、膵臓組織、眼組織、外皮組織、動静脈組織、泌尿器組織、または他の任意の組織)の再生が挙げられる。
【0050】
足場はまた、三次元の組織または臓器を作成するために、解離した細胞(例えば、軟骨細胞または肝細胞)のマトリックスとして移植に使用することができる。培養および可能性のある移植のために、任意のタイプの細胞(筋肉系および骨格系の細胞(例えば、軟骨細胞、線維芽細胞、筋肉細胞、および骨細胞)、実質細胞(例えば、肝細胞、膵臓細胞(島細胞を含む)、腸由来の細胞、および他の細胞(例えば、神経細胞、骨髄細胞、皮膚細胞、多能性細胞および幹細胞)、ならびにその組み合わせを含む)を足場に添加することができる。細胞は、ドナーから得られてもよく、樹立細胞培養株から得られてもよく、または遺伝子操作の前もしくは後のものでもよい。組織の断片も使用することができる。これにより、同じ構造の中にある多数の異なる細胞タイプを得ることができる。
【0051】
細胞は、適切なドナー、または移植の予定のある患者から得られ、標準的な技法を用いて解離され、足場の上に、および足場の中に播種される。任意で、インビトロ培養を移植の前に行うことができる。または、足場が移植され、新生血管形成され、次いで、細胞が足場に注入される。インビトロ細胞培養および組織足場移植のための方法および試薬は当業者に周知である。
【0052】
本発明の生体材料は、従来の滅菌方法(例えば、放射線滅菌(すなわち、γ線)、化学滅菌(酸化エチレン)、または他の適切な手順)を用いて滅菌することができる。好ましくは、滅菌方法は、52〜55℃の温度で8時間未満の酸化エチレン滅菌である。滅菌後、生体材料は、出荷ならびに病院および他の医療施設における使用のために、適切な滅菌された耐湿性の包装容器に包装されてもよい。
【0053】
本発明は、本発明の例示を目的とした以下の実施例によりさらに特徴付けられる。
【実施例】
【0054】
実施例I
材料
B.モリカイコガ絹糸の繭は蚕業技術研究所(つくば、日本)より提供された。ブレンディングには、平均分子量4×105g/molのPEOおよび平均分子量9×105g/molのPEO(アルドリッチ(Aldrich))を使用した。
【0055】
再生B.モリ絹糸フィブロイン溶液の調製
B.モリ絹糸フィブロインは、本発明者らの以前の手順[25]の改良版として以下のように調製した。繭を0.02M Na2CO3水溶液中で30分間煮沸し、次いで、糊様セリシンタンパク質を抽出するために水で徹底的に洗浄した。次いで、抽出された絹糸を60℃で12M LiBr溶液に溶解して、20%(w/v)溶液を得た。スライドエーライザー(Slide-a-Lyzer)透析カセット(ピアス(Pierce),MWCO 2000)を用いて、この溶液を水中で透析した。絹糸水溶液の最終濃度は3.0〜7.2重量%であった(乾燥後の残存固体を秤量することによって測定した)。HFIP絹糸溶液(1.5重量%)は、絹糸水溶液を凍結乾燥した後に得られた絹糸フィブロインをHFIPに溶解することによって調製した。
【0056】
紡糸溶液の調製
絹糸/PEOブレンド水溶液は、PEO(900,000g/mol)を絹糸水溶液に直接添加することによって調製した。これにより、4.8〜8.8重量%の絹糸/PEO溶液が得られた。このブレンド系と比較するための対照溶液として、絹糸HFIP溶液(1.5重量%)およびPEO(4.0重量%)水溶液もそれぞれ調製した。絹糸HFIP溶液は、凍結乾燥された絹糸フィブロインをHFIPに室温で溶解することによって調製した。溶液の粘度は、24.3〜1216/秒の剪断速度でクエット粘度計(ボーリン(Bohlin)V88)を用いて測定し、伝導率は、室温でコールパーマー(Cole-Parmer)伝導率計(19820)を用いて測定した。
【0057】
電界紡糸
電界紡糸は、調節可能な絶縁台に取り付けられた、内径1.0mmのチップを備えるスチール製キャピラリーチューブを用いて行った。キャピラリーチューブを電界紡糸のために高電位に維持し、平行平面の形状に取り付けた。キャピラリーチューブを、10mlの絹糸/PEOブレンド溶液または絹糸溶液で満たされたシリンジに接続した。滴り落ちることなくチューブのチップに溶液を保つように設定されたシリンジポンプを用いて、一定体積の流速を維持した。安定した噴流が得られるように、電位、溶液流速、およびキャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を調節した。キャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を変えることによって、乾燥した繊維または湿った繊維がスクリーン上に集められた。
【0058】
絹糸/PEOブレンド溶液から得られた電界紡糸マットの溶液処理
電界紡糸絹糸繊維の無定形からβシートへの高次構造変化を誘導するために、絹糸/PEOブレンド溶液から得られた電界紡糸不織マットを90/10(v/v)メタノール/水溶液に10分間浸漬し、次いで、マットからPEO電界紡糸繊維を除去するために、室温および36.5℃でそれぞれ24時間、水で洗浄した。
【0059】
SEM
レオジェミニ(LEO Gemini)982電界放射型電子銃(Field Emission Gun)SEMを用いて、電界紡糸繊維の画像を得た。
【0060】
FT-IR
赤外線スペクトルを、ATR-FTIR(ブルカーエキノクス(Bruker Equinox)55)分光光度計を用いて測定した。試料の各スペクトルは、ZnSe ATRクリスタルセル上を透過する形式で、分解能4cm-1およびスペクトル範囲4000〜600cm-1で256回のスキャンの蓄積によって得た。
【0061】
XPS
絹糸フィルムの表面を分析してペプチドの表面密度を推定するために、サーフィスサイエンス(Surface Science Inc.)モデルSSX-100 X線光電子分光計を使用した。サーベイスキャン(Survey scan)(スポット1000μm,分解能4,ウィンドウ1000eV)を、5eVのフラッドガン(電荷中和)設定を用いて行い、試料表面が荷電しないようにニッケルワイヤーメッシュを試料の上に保持した。
【0062】
純粋な絹糸溶液およびPEO溶液を用いた絹糸/PEOブレンド溶液の特性
PEOを含まない絹糸水溶液は電界紡糸しなかった。溶液の粘度および表面張力がキャピラリーチップの端に安定な液滴を維持するほど十分に高くなかったために、繊維が形成しなかった。溶液の粘度を高めるために、絹糸水溶液の濃度を高くするとゲルが形成した。PEOを表1に示した比で絹糸溶液に添加すると、キャピラリーチップの端に安定な液滴が得られた。純粋な絹糸溶液の粘度は、図1に示したように7.2%の高濃度でも他の溶液よりかなり低かった。絹糸溶液に含まれるPEOの割合が小さくても、ブレンドの粘度が増大した。絹糸/PEOブレンド溶液の粘度はPEOの量に左右された。絹糸溶液および絹糸/PEOブレンド溶液の伝導率は、室温で、純粋なPEO溶液より高かった。全ての絹糸/PEOブレンド溶液が、電界紡糸するのに優れた、粘度および伝導率に関連する特性を示した。
【0063】
電界紡糸絹糸/PEO水溶液からの繊維形成および形態
PEOを絹糸溶液に添加することによって、電界紡糸に適した粘度および表面張力が発生した。アルミ箔を収集スクリーンとして使用した。キャピラリーチップとアルミ箔対向電極との電位差を12kVまで段階的に増やすにつれて、キャピラリーチップ端の液滴は半球の形から円錐形(しばしば、テイラーコーン(Taylor cone)と呼ばれる)に伸びた。12kVの印加によって、キャピラリーチップ端付近で噴流が引き起こされた。チップとコレクターとの距離は200mmであり、全ての液体の流速は0.02ml/分〜0.05ml/分であった。全ての溶液を電界紡糸する前に、マットを簡単に剥離するために、テフロン液を収集スクリーン上に沈着させた。
【0064】
生成された電界紡糸繊維の形態および直径を、高分解能低電圧SEMを用いて調べた。全ての絹糸/PEOブレンド溶液から、繊維平均直径が800nm未満の微細で均一な繊維が生じた(表1)。セリシン抽出カイコガ絹糸と電界紡糸繊維(No.6)との間で、繊維の大きさを比較した(図2)。電界紡糸繊維の大きさは未処理絹糸繊維の1/40であった。電界紡糸繊維一本一本が不織マットの中にばらばらに分散しているようにみえた。絹糸/PEO水溶液からの電界紡糸繊維の顕微鏡写真を図3A-3Dに示す。
【0065】
マットの表面組成を推定するためにXPSを使用した。表2は、PEO、絹糸フィブロイン、および絹糸/PEOブレンドの電界紡糸マットからのO1s、C1s、またはN1sのそれぞれのピーク強度を示す。絹糸マットのN1s/C1sおよびO1s/C1sの比はそれぞれ0.31および0.40であった。絹糸/PEOマットの場合、N1s/C1sは最低で0.16に低下し、O1s/C1sは最大で0.49に増加した。表2に示すように、これらの比に基づいて本発明者らは繊維組成を推定することができる。
【0066】
電界紡糸マットの溶媒処理
絹糸の結晶化を誘導するために、マットを90/10(v/v)メタノール/水溶液と10分間接触させ、次いで、PEOを抽出するために、36.5℃の温水の中に24時間保管した。電界紡糸されたばかりの繊維とメタノール処理後の繊維との間の絹糸繊維の構造変化をATR-FTIRで観察した。図4に示すように、電界紡糸の直後では、その構造はランダムコイルすなわち絹糸I(silk I)であった。そのため、電界紡糸されたばかりの繊維は水に容易に溶解し、繊維構造を急速に失う。しかし、図4に示すように、メタノール処理後、その構造はβシートに変化した。そのために、メタノール処理後の繊維は水の中に保管した後でさえ、微細な繊維構造を示した。
【0067】
メタノール/水で処理し、水で洗浄した後のマットの表面を分析して表面組成を推定するために、XPSを使用した。表2は、PEO、絹糸フィブロイン、および絹糸/PEOブレンドの電界紡糸マットのXPSスペクトル結果を示す。O1s、C1s、またはN1sのそれぞれのピーク強度も表2に示す。全てのブレンドマットのN1sとC1sの比は、水で洗浄した後でさえ絹糸マット(0.33)より小さかった。従って、絹糸/PEO電界紡糸繊維一本一本は内部にPEO相を有する。これらの比に基づいて、本発明者らは、紡糸に用いられた溶液に関連したマット表面組成を推定することができる。
【0068】
実施例II
材料
B.モリカイコガ絹糸の繭を蚕業技術研究所(つくば、日本)のM. Tsukadaから入手した。平均分子量9×105g/molのPEOおよびポリエチレングリコール(PEG)(3,400g/mol)をアルドリッチから購入し、さらに精製することなく使用した。
【0069】
再生B.モリ絹糸フィブロイン溶液の調製
B.モリ絹糸フィブロイン溶液は、以前に記載された手順[25]を改良することによって調製した。繭を0.02M Na2CO3水溶液中で30分間煮沸し、次いで、糊様セリシンタンパク質を抽出するために水で徹底的に洗浄した。次いで、抽出された絹糸を室温で9.3M LiBr溶液に溶解し、20%(w/v)溶液を得た。スライドエーライザー透析カセット(ピアス,MWCO2000)を用いて、この溶液を水中で48時間透析した。絹糸水溶液の最終濃度は7.0〜8.0重量%であった(乾燥後の残存固体を秤量することによって測定した)。
【0070】
ブレンドフィルムの調製および処理
4重量%のPEG溶液またはPEO溶液を絹糸水溶液に添加することによって、様々な絹糸ブレンド水溶液を調製した。ブレンド比(絹糸/PEGまたは絹糸/PEO)は、100/0、95/5、90/10、80/20、70/30、および60/40(w/w)であった。溶液を室温で15分間穏やかに撹拌し、次いで、フード内に入れたポリスチレン製ペトリ皿の表面上で室温で24時間成形した。次いで、フィルムをさらに24時間真空状態にした。絹糸フィブロインの無定形からβシートへの高次構造変化を誘導するために、絹糸フィブロインフィルムおよびブレンドフィルムを90/10(v/v)メタノール/水溶液に30分間浸漬した。メタノールを用いて絹糸および絹糸/PEGまたはPEOブレンドを結晶化させた後、水(37℃で17MΩ)での溶解度を48時間測定した。この溶解度試験は振盪培養器において行い、振盪速度は200rpmであった。PEGまたはPEOだけが溶解すると予想した。溶解度は、PEGまたはPEOを抽出する前と抽出した後の重さを差し引くことによって計算した。
【0071】
特徴付け
レオジェミニ982電界放射型電子銃SEMを用いて、絹糸および絹糸/PEGまたはPEOブレンドフィルムのひび割れのある表面の画像を得た。絹糸フィルムの表面を分析して絹糸ペプチド対PEOの表面密度を推定するために、サーフィスサイエンスモデルSSX-100 X線光電子分光計を使用した。サーベイスキャン(スポット1000μm,分解能4,ウィンドウ1000eV)を、5eVのフラッドガン(電荷中和)設定を用いて行い、試料表面が荷電しないようにニッケルワイヤーメッシュを試料の上に保持した。
【0072】
絹糸フィルムおよびブレンドフィルムの熱特性を求めるために、示差走査熱量計DSC(2920 Modulated DSC)(ティーエイインスツルメント(TA Instruments))を使用した。温度を校正するためにインジウムを使用し、試料をアルミニウムパンの中に入れて密封した。それぞれのスキャンは10℃/分の速度で-20℃〜320℃まで行った。試料を20℃/分で-100℃まで冷却した。
【0073】
接触角分析
表面親水性を求めるために、ミリポア(Millipore)で精製された水の液滴(17MΩ)を用いて絹糸フィルムおよびブレンドフィルム上での接触角を測定した。シリンジおよび22ゲージ針を用いて水滴(約5μl)を加え、ゴニオメーター(ラメハート(Rame-Hart,Inc.))を用いて静止接触角を測定した。この分析はメタノール処理後に行った。
【0074】
絹糸フィルムおよびブレンドフィルムの機械的特性
標本(5×50×0.2mm)の引張り特性を、インストロン(Instron)引張り試験器を用いて、周囲条件、15mm/分のクロスヘッド速度で測定した。ゲージ長を30mmに設定し、100kgfの初期ロードセルを適用した。断面積当たりの引張り強さ(kg/mm2)および破断点での相対伸びと初期フィルム長の比(%)を応力ひずみ曲線の観察から求めた。
【0075】
絹糸とPEGまたはPEOとのブレンド
絹糸とブレンドして絹糸フィルム特性(重要な基準は水加工性および生体適合性である)を改善するために、PEGおよびPEOを選択した。PEGまたはPEO(それぞれ分子量3,400g/molおよび900,000g/mol)をブレンドについて試験した。材料の加工に有用な成分濃度を特定するために、まず最初に、絹糸/PEGフィルムまたはPEOフィルムを調製した。フィルムを、ポリスチレン製ペトリ皿上で水溶液から様々な比で成形し(表4)、一晩乾燥させた。絹糸およびPEG(3,400g/mol)ブレンドの場合、2つの成分は、試験された組成物全体にわたってフィルム形成間に2つの相に分離しているのが肉眼で見えた。絹糸/PEG(98/2)を除く全てのブレンド比から低品質のフィルムが形成した。フィブロインを不溶性βシート構造にするために、絹糸/PEGブレンドを90/10(v/v)メタノール/水溶液に30分間浸漬した。この結晶化方法の後、PEG相が不透明になったのに対して、絹糸相は依然として透明であったので、相分離はさらにはっきりと分かるようになった。相分離は絹糸/PEG(60/40)ブレンドにおいて最もはっきりしたので、絹糸/PEG(60/40)ブレンドに関してさらなる特徴付けは考慮しなかった。しかしながら、絹糸およびPEO(900,000g/mol)ブレンドの場合、試験された成分全体にわたって2つの成分の間で肉眼で見える相分離は起こらなかった。
【0076】
ブレンドフィルムの水溶解度
図5に示すように、溶解度は、PEOまたはPEGを抽出する前と抽出した後の重さを差し引くことによって計算した。絹糸フィルムまたはブレンドフィルムを6つに分け、このうち3つを、12時間、24時間、および48時間の溶解度試験のために3個の独立したガラスバイアルに入れた。純粋な絹糸フィブロインフィルムは溶解度試験前に30分間メタノールで結晶化されていたので、48時間まで有意な重量減少を示さなかった。試験間のわずかな重量減少(約0.6%)は、強い振盪による物理的剪断の微細な影響によるものであると考えられた。1%範囲内のエラーは試験全体を通して有意でないとみなされた。図5A-5Bは、時間に応じた、絹糸および絹糸/PEOまたはPEGブレンドの重量減少パーセントを示す。絹糸/PEOブレンドの場合、ブレンド中のPEOが水に溶解するために組成物全体にわたって比較的均一な重量減少を示した(図5A)。
【0077】
DSC
メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸および絹糸/PEOブレンドの熱特性をDSCで観察した(図6および図7)。再生絹糸フィルムのDSCサーモグラムを図6(a)(メタノール処理前)および図7(a)(メタノール処理後)に示す。図6(a)は、約88.2℃で発熱ピーク(熱により誘導された絹糸フィブロインの結晶化に起因する)ならびに約54.2℃、137.7℃、および277.9℃での3つの吸熱(それぞれ、ガラス転移温度、水蒸発、および絹糸フィブロインの熱分解に起因する)[50]を示す。その一方で、図7(a)は、発熱移行の形跡が全く無く、278℃で吸熱を示す。この挙動は、メタノール処理間の絹糸フィルムのβシート構造形成によるものである[51]。
【0078】
図6における、ブレンドに含まれる絹糸フィブロインおよびPEOの54.2〜64.2℃の特徴的な熱転移の重複は、前記のDSC結果から浮かび上がった主な特徴であるように見える。しかしながら、PEO含有量が高い(20重量%を超える)ブレンドフィルムのDSCパターンにおいて現れる変化の中には、ある程度の相互作用が絹糸フィブロインとPEOとの間で確立されたことを示唆するものもある可能性がある。本発明者らは、主に、PEO融解温度ピークの低い温度へのシフトについて言及し、ブレンド中のPEO含有量の増加に伴った87〜88℃の絹糸結晶化ピークの消失についても主に言及する。これらの作用は、ブレンドにおけるPEO結晶化温度が低下し、PEOがブレンド中で溶解した後に(絹糸とPEO分子の相互作用により)絹糸結晶化が阻止されたと解釈することができる。他には、全ての試料をメタノール処理した後である図7は、主として絹糸結晶化によって絹糸領域とPEO領域が相分離したために、ブレンド中のPEOの融解温度がほんの少しだけシフトしたことを示す。以下のSEM観察で示すように、2つの成分はブレンドにおいてミクロ相分離を形成した。
【0079】
最大熱分解温度については、メタノール処理ならびにPEOとのブレンドおよびPEO比による影響が小さいように見えるが、メタノール処理前のブレンドの場合、ブレンド中のPEO量の増加に伴って分解吸熱がわずかに広がったことなど、いくつかの変化が観察された。
【0080】
XPS
フィルムの表面組成を推定するためにXPSを使用した。表6は、メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸フィブロインフィルムおよび絹糸/PEOブレンドフィルムのO1s、C1s、またはN1sのそれぞれのピーク強度を示す。フィルム表面から、メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸およびPEOの組成を推定するために、N1s/C1s比を使用した。これらの比に基づいて、表6に示すように、本発明者らはブレンドフィルム組成を推定することができる。PEO部分が増加するにつれて、全てのブレンドのN1s/C1sは、メタノール処理前およびメタノール処理後の両方で低下した。特に、メタノール処理後のブレンドフィルムのN1s/C1sはメタノール処理前よりかなり低かった。メタノール処理間に絹糸がβシート形成するために相分離によってPEO部分がフィルム表面に移動すると考えることができる。絹糸は比較的疎水性であるので、メタノール処理されたフィルム表面上の絹糸含有量は低いと予想され得る。しかしながら、絹糸/PEO(90/10)のN1s/C1s比はメタノール処理後に増加した。
【0081】
SEM
絹糸および絹糸/PEOまたはPEGブレンドフィルムのひび割れのある横断面および表面形態を、37℃で48時間、温水でPEGまたはPEOを抽出した後に、高分解能低電圧SEMを用いて調べた。純粋な絹糸フィブロインフィルムは高密度で均一な微細構造を示したが、全ての絹糸/PEOブレンドのひび割れのある表面はミクロ相分離のためにでこぼこの形態を示した。フィルム中のPEO含有量が40重量%まで高くなるほど、横断面に基づくフィルムの形態は高密度になった。絹糸/PEO(90/10)ブレンドは、ひび割れのある表面から最も密度の小さい形態を示した。これは、ブレンドのPEO部分がメタノール処理間に表面に移動しないことを証明している。この結論はSPSデータを裏付けている。絹糸/PEGブレンドフィルムは、絹糸PEO系とは異なり、純粋な絹糸フィブロインフィルムで見られたものとは異なる形態を示さなかった。
【0082】
接触角の測定
表7に示すように、メタノール処理後の絹糸および絹糸/PEOブレンドフィルム上での接触角を測定した。ブレンドのPEO比の増加と共に、表面親水性が増加した。
【0083】
機械的特性
絹糸および絹糸/PEOブレンドフィルムの引張り係数、破断強さ、および伸びの値を表8に示す。純粋な絹糸フィルムは脆性材料の典型的な挙動を示した。絹糸フィブロインへの2重量%PEOの添加は、ブレンドフィルムの機械的特性のわずかな改善を引き起こすのに有効であった。他の比のブレンドでは、引張り係数および引張り強さはPEO含有量の増加と共に減少した。しかしながら、絹糸/PEO(60/40)ブレンドでは、破断点伸びは10.9%までわずかに増加した。これらの試料のメタノール処理は機械的特性を有意に変えなかった。
【0084】
絹糸ブレンドフィルムの延伸(伸長)
PEO02BM(絹糸/PEO98/02重量%)フィルムブレンド試料を室温で5分間、水に浸け、次いで、その元の長さの2倍に伸ばした。次いで、試料を周囲条件で48時間乾燥させ、その後に、インストロンで引っ張り試験を行った。
1BM:メタノール処理前、2ST:伸長
【0085】
実施例III
方法
B.モリカイコガ絹糸の繭は蚕業技術研究所(つくば、日本)のM.Tsukadaの厚意により提供された。平均分子量9×105g/molのPEO(アルドリッチ)をブレンドに使用した。
【0086】
絹糸マトリックスおよび再生B.モリ絹糸フィブロイン溶液の調製
細胞播種実験用の絹糸マトリックスを調製するために、ボンビックス-モリカイコガから分泌された後にフィブロイン繊維を封じ込める抗原性の糊様タンパク質であるセリシンを除去するために、以前に述べられたように[33]、ホワイトブラジリアン(white Brazilian)ボンビックス-モリカイコガの繊維を0.02M Na2CO3水溶液および0.3%(w/v)界面活性剤の中で90℃で1時間抽出した。この試験のために、540本の絹糸繊維(抽出前)からなる3cm長の絹糸ワイヤロープマトリックスを、端をステンレススチール316Lカラー(長さ1cm,内径2.2mm,外径3mm)でつまみ合わせることで作成した。
【0087】
再生B.モリ絹糸フィブロイン溶液は、本発明者らの以前の手順の改良版として調製した。繭を0.02M Na2CO3水溶液中で30分間煮沸し、次いで、セリシンタンパク質を抽出するために水で徹底的に洗浄した[25]。次いで、抽出された絹糸を60℃で9.3M LiBr溶液に溶解して、20%(w/v)溶液を得た。スライドエーライザー透析カセット(ピアス,MWCO3500)を用いて、この溶液を水中で透析した。絹糸水溶液の最終濃度は8.0重量%であった(乾燥後の残存固体を秤量することによって測定した)。
【0088】
紡糸溶液の調製
絹糸/PEOブレンド(80/20重量/重量)水溶液は、7.5重量%絹糸/PEO溶液になるように、5.0重量%のPEO(900,000g/mol)5mlを8重量%の絹糸水溶液20mlに添加することによって調製した。2種類の溶液をブレンドしている間にβシート構造が早まって形成しないように、溶液を低温(4℃)で穏やかに攪拌した。
【0089】
電界紡糸
電界紡糸は、以前に述べられたように[9,32]、調節可能な絶縁台に取り付けられた、内径1.5mmのチップを備えるスチール製キャピラリーチューブを用いて行った。キャピラリーチューブを電界紡糸のために高電位に維持し、平行平面の形状に取り付けた。キャピラリーチューブを、10mlの絹糸/PEOブレンド溶液で満たされたシリンジに接続した。滴り落ちることなくチューブのチップに溶液を保つように設定されたシリンジポンプを用いて、一定体積の流速を維持した。安定した噴流が得られるように、電位、溶液流速、およびキャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を調節した。キャピラリーチップと収集スクリーンとの距離を変えることによって、乾燥した繊維または湿った繊維がスクリーン上に集められた。
【0090】
電界紡糸マットの処理
絹糸の無定形からβシートへの高次構造変化を誘導するために、絹糸/PEOブレンド溶液からの電界紡糸不織マットを90/10(v/v)メタノール/水溶液に10分間浸漬し、次いで、マットからPEOを除去するために水で37℃で48時間洗浄した。この方法は振盪培養器において50rpmで行った。2組の電界紡糸マット(PEOが存在するマットおよびPEOが存在しないマット)を細胞相互作用について試験した。
【0091】
XPS
絹糸フィルムの表面を分析して絹糸対PEOの表面密度を推定するために、サーフィスサイエンスモデルSSX-100 X線光電子分光計を使用した。サーベイスキャン(スポット1000μm,分解能4,ウィンドウ1000eV)を、5eVのフラッドガン(電荷中和)設定を用いて行い、試料表面が荷電しないようにニッケルワイヤーメッシュを試料の上に保持した。
【0092】
DSC
電界紡糸繊維の熱特性を求めるために、示差走査熱量計(DSC)(2920 Modulated DSC)(ティーエイインスツルメント)を使用した。温度を校正するためにインジウムを使用し、試料をアルミニウムパンの中に入れて密封した。それぞれのスキャンは、10℃/mmの速度で-20℃〜100℃まで行った。
【0093】
光学偏光顕微鏡
電界紡糸繊維の形態を観察するために、デジタルカメラおよびリンカム(Linkam)LTS 120ホットステージを備えたツァイスアキシオプラン(Zeiss Axioplan)2を使用した。画像を撮影し、加熱する前(室温)の繊維および5℃の速度で100℃まで加熱した後の繊維を比較した。
【0094】
電界紡糸マットの機械的特性
標本(8×40×0.5)(mm)の機械的特性を、インストロン引張り試験器を用いて周囲条件、20mm/mmクロスヘッド速度で測定した。ゲージ長を20mmに設定し、100kgfのロードセルを使用した。断面積当たりの引張り強さ(kg/mm2)および破断点での相対伸びと初期フィルム長の比(%)を応力ひずみ曲線の観察から求めた。試験前に、全ての試料を室温で真空状態で保管した。それぞれの試験は5回行った。
【0095】
細胞およびマトリックス播種
以前に述べられたように[33]、BMSCを単離し、培養および増殖し、保存した。簡単に述べると、処理されていないヒト全骨髄吸引液をドナー(25歳未満)(クロネティック-ポイエティクス(Clonetic-Poietics),Walkersville,MD)から得、10%胎児ウシ血清(FBS)、0.1mM非必須アミノ酸、100U/mlペニシリンおよび100mg/Lストレプトマイシン(P/S)、ならびに1ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に再懸濁し、組織培養ポリスチレンに8μl吸引液/cm2でプレートした。4日後、培地交換の間に、非接着性の造血細胞を培地と共に除去した。その後に、培地を1週間に2回交換した。コンフルエントになる前に0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて初代BMSCを剥がし、5×103細胞/cm2で再プレートした。コンフルエントに近い継代数1(P1)のhBMSCをトリプシン処理し、さらなる使用のために8%DMSO/10%FBS/DMEM中で凍結させた。
【0096】
凍結したP1 hBMSCを解凍し、5×103細胞/cm2で再プレートし(P2)、コンフルエントに近くなった時にトリプシン処理し、マトリックス播種に使用した。電界紡糸フィブロインマット(1cm×1cm)を70%アルコールと30分間インキュベートした後に、細胞播種前に滅菌PBSで徹底的な洗浄手順を行った。細胞懸濁液を直接、絹糸マトリックスにピペットで移すことによって、マトリックスに細胞(25000細胞/cm2)を播種し、実験の間、bFGFを含まない細胞培地2ml中で37℃/5%CO2でインキュベートした。細胞培地を4日毎に交換した。
【0097】
BMSCを未処理絹糸繊維マトリックスに播種する場合、細胞とマトリックスの相互作用を高めるために、ガス(酸化エチレン)滅菌した絹糸マトリックス(長さ3cm)を、特注設計のテフロン製播種チャンバー(seeding chamber)の中に入れた。このチャンバーには24個のウェルがある(それぞれのウェルは幅3.2mm×深さ8mm×長さ40mm(総体積1ml)である)。直接ピペットで移すことによって、マトリックスに2×106細胞/mlの濃度の細胞懸濁液1mlを接種し、37℃/5%CO2で2時間インキュベートし、実験の間、bFGFを含まない適量の細胞培地を含む細胞培養フラスコに移した。播種後、絹糸マトリックスを適量のDMEM(10%FBS)中で1日および14日間培養した。
【0098】
細胞増殖アッセイ法
細胞計数
1日後、7日後、および14日後に、絹糸マットを取り、非接着性細胞を除去するためにPBSで洗浄し、次いで、0.25%チプシン/1mM EDTA 0.5ml中で37℃で5分間インキュベートした。10%FBSを含む培地0.5mlを各試料に添加することによって、トリプシン処理を止めた。次いで、血球計数器および顕微鏡を用いて細胞数を計数した。
【0099】
MTT
細胞増殖は、臭化3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウム(MTT)(シグマ(Sigma),St.Louis,MO)染色によって測定した。14日後に、播種された絹糸マトリックスまたは絹糸マットを、MTT溶液(0.5mg/ml,37℃/5%CO2)中で2時間インキュベートした。形成された非常に濃い赤色のホルマザン誘導体を溶解し、吸光度を、マイクロプレート分光光度計(スペクトラマックス(Spectra Max)250,モレキュラーデバイス(Molecular Devices,Inc),Sunnyvale,CA)を用いて570nmおよび参照波長690nmで測定した。
【0100】
走査電子顕微鏡(SEM)
絹糸フィブロインに播種された細胞の形態を確かめるために、SEMを使用した。播種された絹糸マトリックスを取った後、直ぐに0.2Mカコジル酸ナトリウム緩衝液で洗浄し、カルノフスキー(Karnovsky)固定液(0.1Mカコジル酸ナトリウムに溶解した2.5%グルタルアルデヒド)で4℃で一晩固定した。固定試料をアルコール勾配、その後にフレオン(1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン,アルドリッチ,Milwaukee,USA)暴露することによって脱水し、換気フード内で風乾した。レオジェミニ982電界放射型電子銃SEM(高分解能低電圧SEM)およびJEOL JSM-840A SEMを用いて、標本を調べた。
【0101】
結果および考察
絹糸/PEO溶液の電界紡糸
絹糸水溶液(8重量%)の粘度を高めるために、PEO(MW900K)を4/1(絹糸/PEO重量/重量)の比で添加した(前記の表9および本発明者らの以前の研究[32]に示す)。純粋な絹糸溶液(8重量%)の粘度および表面張力は、キャピラリーチップ端で安定な液滴を維持するほど十分高くなかった。PEOを絹糸溶液に添加することによって、電界紡糸に適した粘度および表面張力が発生した。チップとコレクターとの距離は21.5cmであり、液体の流速は0.03ml/分であった。キャピラリーチップとアルミ箔対向電極との電位差を12kV(E=0.6kV/cm)まで段階的に増やすにつれて、キャピラリーチップ端の液滴は半球の形から円錐形に伸びた。SEMを用いて、電界紡糸繊維の形態および直径を調べた。絹糸/PEOブレンド溶液から、繊維平均直径が700nm±50の微細で均一な繊維が生じた(表9)。電界紡糸繊維一本一本が不織マットの中にばらばらに分散しているように見えた。
【0102】
ブレンド溶液からの電界紡糸繊維を、ホットステージを備えた光学顕微鏡で観察した。PEOの融解温度は約60℃であり[78]、絹糸フィブロインは100℃まで全く熱転移を示さなかった[79]。図8(a)は室温で撮影されたものであり、図8(b)は5℃/分の速度で100℃まで加熱した後に撮影されたものである。この結果は、両ポリマー(PEOおよび絹糸フィブロイン)とも電界紡糸繊維において単独で存在することを裏付けている。繊維が両温度で完全な状態のままであったという事実は、PEOの融解が繊維の形態および構造に全く影響を及ぼさなかったことを示している。従って、繊維の完全性は絹糸フィブロインによってのみ左右される。
【0103】
水溶性を無くすために、電界紡糸マットをメタノールで処理した。メタノール処理前およびメタノール処理後のマットの表面組成をXPSで確かめた(表3)。2種類の絹糸/PEOブレンドの電界紡糸マットからのO1S、C1S、またはN1Sのそれぞれのピーク強度を示した。マットのN1S/C1Sの比はメタノール処理前では0.23であった。PEOがメタノールに溶解するために予想されたように、メタノール処理後、N1S/C1Sは0.28に増加した(表3)。PEOをマットから37℃で2日間水で抽出した時、N1S/C1Sは0.31に増加した。これは7日後でも変化しなかった。従って、2日間のPEO抽出後、ほとんど全てのPEOが抽出されていた。DSC測定でも、この処理によるPEO除去が確かめられた(図9)。メタノール処理後、電界紡糸マットは約56.5℃でPEOの融解温度ピークを示した(図9)。水による抽出の後、このピークは無かった。電界紡糸繊維の壊れやすい表面形態を観察するために、試料上に電導性被覆材を用いることなく、高分解能低電圧SEMを使用した。メタノール処理後、電界紡糸マットの表面形態を観察し、その表面から、繊維一本一本が、精錬された未処理絹糸繊維に似た約110nmの微繊維構造を示した(図10(a))[67]。電界紡糸マットからPEOを抽出した後でさえ、表面形態は維持された(図10(b)および(c))。2組の電界紡糸マット(PEOが存在するマットおよびPEOが存在しないマット)を、細胞相互作用について未処理絹糸繊維と比較した。
【0104】
電界紡糸マットの引張り係数、引張り強さ、および伸びの値を図11に示す。この足場構造は、組織再生工程間に十分な機械的特性をもたらさなければならない。電界紡糸マットのメタノール処理後、その引張り係数、引張り強さ、および伸びの値は、それぞれ、624.9±0.9MPa、13.6±1.4MPa、および4.0±2.0%であった。メタノール処理間に電界紡糸絹糸フィブロインがβシート構造を形成することによって[32]、その引張り係数および引張り強さはメタノール処理前より大きく、伸びはメタノール処理前より小さかった。電界紡糸マットからPEOを抽出した後、再生絹糸フィブロインフィルムに見られるような脆性のために[39]、その機械的特性は大きく低下した。PEOの存在は電界紡糸マットの機械的特性の改善に有効であった。メタノール処理後に電界紡糸マットの伸びは低下したが、PEO抽出前の靭性はPEO抽出後より非常に高かった。この試験における電界紡糸絹糸フィブロインマットは、組織再生用の足場として用いられた、PGA[80]、PLGA[81]、コラーゲン[82]、コラーゲン/PEOブレンド[83]を使用した他の生分解性電界紡糸マットに匹敵するものであった。
【0105】
細胞培養実験
組織工学用足場材は細胞の接着および増殖を助けなければならない。電界紡糸フィブロイン上での細胞の挙動を評価するために、ペトリ皿に入れたPEO非抽出試料またはPEO抽出試料にBMSCを播種した。播種の24時間後に、PEO抽出絹糸マットは組織培養プラスチック上で増殖している細胞に取り囲まれているのが観察された。対照的に、非抽出マットの周囲には細胞はほとんど観察されなかった(図12)。この現象は、1日目に、PEOが非抽出絹糸マットから放出され、このためにBMSCは周辺部に接着しなかったことを示唆しているのかもしれない。1日目の細胞数から、非抽出絹糸マットと比較した時、50%を超える細胞がPEO抽出絹糸マットに接着したことが分かった。BMSCの絹糸マットへの接着はSEMによって確かめられた(図13)。細胞播種の1日後に、PEO抽出マットおよびPEO非抽出マットの両方で細胞が観察されたが、PEO抽出試料の方の密度が高かった。これは細胞計数実験からのデータと対応する。恐らく、インキュベーション間に非抽出マットから可溶性PEOが放出されたために、繊維への細胞の接着が阻止された。これは、タンパク質吸着を限定する[85-87]、PEOの親水性によるものである[84]。非抽出マット上の細胞は材料表面にとどまったのに対して(図14(a))、PEO抽出マットでは一部の細胞が絹糸繊維の下に移動した(図14(b))。しかしながら、14日後、細胞は繊維の間で増殖し、抽出繊維および非抽出繊維の両方で表面の大部分を覆った(図14(c)および(d))。
【0106】
抽出群および非抽出群の両方とも、7日目の細胞数は1日目と比較して有意に増加した(p<0.01)。これは細胞が増殖したことを示唆している(図15)。PEO抽出マットの細胞数は非抽出絹糸マットの細胞数と比較して約88%有意に多かった(p<0.05)。7日の培養後、PEO抽出マットおよびPEO非抽出マットの大部分はBMSCで高密度に占められた。SEMで確かめられたように、細胞シートおよび可能性のあるECMが表面を覆った(図13)。これは、7日後に、細胞増殖が両群で頭打ちになったことを説明しているのかもしれない。PEO抽出群とPEO非抽出群との7日目および14日目の細胞密度の差は、PEOの存在により引き起こされる初期細胞接着の差によるものかもしれない。PEOの存在は細胞増殖に影響を及ぼさなかった。これは、PEOが、細胞培地中で数日間インキュベートされた後に37℃で抽出されたことによるものかもしれない。本発明者らのXPS結果は、絹糸マットが水中で37℃で2日間インキュベートされた後に、PEOが抽出されたことを示唆した(表3)。未処理絹糸繊維において同様の実験が行われた。BMSCを未処理絹糸マトリックスに播種し、1日および14日間培養した。SEM分析から、1日目に、少数の細胞が未処理絹糸繊維(平均直径約15μm)に接着したことが分かった(図13)。BMSCは、14日間の培養後にコンフルエントに達し、絹糸マトリックスを完全に覆っているように見えた。PEO抽出マットに播種および培養されたBMSCは、非抽出マット上の細胞と比較して高密度に存在した。しかしながら、これらの差は有意でなかった(p>0.05)(図16)。
【0107】
結論
フィブロイン直径が700±50nmの微細繊維マットを、B.モリフィブロイン水溶液から、分子量900,000のPEOとの電界紡糸によって形成した。PEOは優れた機械的特性を電界紡糸マットにもたらしたが、最初のうち、残存PEOは細胞接着を阻害した。PEO抽出後1〜2日以内に、これらの影響は無くなり、増殖が始まった。14日間のインキュベーション後に、電界紡糸絹糸マットは広範囲にわたるBMSC増殖およびマトリックス被覆を助けた。電界紡糸絹糸マトリックスがインビトロでBMSCの接着、拡散、および増殖を助ける能力と、絹糸タンパク質マトリックスの生体適合性および生分解性の組み合わせは、これらの生体材料マトリックスの組織工学用足場としての潜在的な用途を示唆している。
【0108】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明に様々な修正および変更を加えることができることが当業者に明らかであろう。従って、本発明の修正および変更が添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内であれば、本発明は本発明の修正および変更を含むことが意図される。
【0109】
参考文献
以下に引用され、本願全体を通して組み入れられる参考文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0110】
(表1)絹糸、PEO、絹糸/PEOブレンドの濃度および伝導率ならびにこれらの電界紡糸繊維
【0111】
(表2)電界紡糸された絹糸、PEO、および絹糸/PEOブレンドの表面からの高分解能XPS結果
【0112】
(表3)電界紡糸された絹糸/PEOブレンド表面からの高分解能XPS結果
1BM:メタノール処理前、2AM:メタノール処理後、3EX:水で2日間のPEO抽出後、4:水で7日間のPEO抽出後
【0113】
(表4)絹糸フィブロイン/PEGまたは絹糸フィブロイン/PEOブレンド組成物
【0114】
(表5)PEGまたはPEOを抽出する前および37℃で48時間抽出した後の絹糸および絹糸ブレンドフィルムの重量(mg)
1( ):ブレンドフィルムからの絹糸重量の計算値
2:測定せず
【0115】
(表6)メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸フィルム、PEOフィルム、および絹糸/PEOブレンドフィルムの表面からの高分解能XPS結果
【0116】
(表7)メタノール処理後の絹糸および絹糸/PEOブレンドフィルムの接触角測定
【0117】
(表8)メタノール処理前およびメタノール処理後の絹糸および絹糸/PEOブレンドフィルムの機械的特性
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーを含む電界紡糸繊維の不織網状組織ならびに哺乳動物細胞を含む、組織工学構築物。
【請求項2】
生体適合性ポリマーが、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、コラーゲン、フィブロネクチン、ケラチン、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、アルギナート、キトサン、キチン、ヒアルロン酸、ペクチン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカノエート、デキストラン、ポリ無水物、および他の生体適合性ポリマーを含む群から選択される、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項3】
絹糸タンパク質がフィブロインである、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項4】
フィブロインが、溶解したカイコガ絹糸を含む溶液から得られる、請求項3記載の組織工学構築物。
【請求項5】
カイコガ絹糸がボンビックス-モリ(Bombyx mori)から得られる、請求項4記載の組織工学構築物。
【請求項6】
絹糸タンパク質が、溶解したクモ絹糸を含む溶液から得られる、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項7】
クモ絹糸がナフィラ-クラビペス(Nephila clavipes)から得られる、請求項6記載の組織工学構築物。
【請求項8】
絹糸タンパク質が、遺伝子操作された絹糸を含む溶液から得られる、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項9】
繊維の直径が50nm〜1,000nmである、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項10】
繊維が、特定の種類の細胞の組織侵入を促進または阻止する有効量の生物学的に活性な物質を含む、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項11】
物質が、コラーゲン、フィブロネクチン、ビロネクチン、Arg-Gly-Asp(RGD)およびTyr-Ile-Gly-Ser-Arg(YIGSR)ペプチド、グリコサミノグリカン(GAG)、ヒアルロン酸(HA)、インテグリン、セレクチン、ならびにカドヘリンからなる群より選択される、請求項10記載の組織工学構築物。
【請求項12】
哺乳動物細胞が、肝細胞、膵臓島細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、外分泌細胞、腸由来の細胞、胆管細胞、副甲状腺細胞、甲状腺細胞、副腎-視床下部-脳下垂体系の細胞、心筋細胞、腎臓上皮細胞、腎尿細管細胞、腎臓基底膜細胞、神経細胞、血管細胞、骨および軟骨を形成する細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、眼細胞、外皮細胞、骨髄細胞、ケラチノサイト、多能性細胞および幹細胞、ならびにその組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項13】
以下の段階を含む、絹糸ブレンドフィルムを製造する方法:
(a)絹糸タンパク質水溶液を調製する段階;
(b)生体適合性ポリマーを絹糸フィブロイン水溶液に添加する段階;
(c)段階(b)で得られた溶液を乾燥させて、絹糸ブレンドフィルムを得る段階;および
(d)絹糸ブレンドフィルムとアルコールおよび水の溶液を接触させる段階。
【請求項14】
絹糸タンパク質がフィブロインである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
生体適合性ポリマーが、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、コラーゲン、フィブロネクチン、ケラチン、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、アルギナート、キトサン、キチン、ヒアルロン酸、ペクチン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカノエート、デキストラン、ポリ無水物、および他の生体適合性ポリマーを含む群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
2種類またはそれ以上の生体適合性ポリマーが添加される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
フィブロインが、溶解したカイコガ絹糸を含む溶液から得られる、請求項14記載の方法。
【請求項18】
カイコガ絹糸がボンビックス-モリから得られる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
絹糸タンパク質が、溶解したクモ絹糸を含む溶液から得られる、請求項13記載の方法。
【請求項20】
クモ絹糸がナフィラ-クラビペスから得られる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
絹糸タンパク質が、遺伝子操作された絹糸を含む溶液から得られる、請求項13記載の方法。
【請求項22】
絹糸ブレンドフィルムの厚さが約60μm〜約240μmである、請求項13記載の方法。
【請求項23】
絹糸ブレンドフィルムが、体積で約50部〜約99.99部の絹糸フィブロイン水溶液および約0.01部〜約50部のポリ(エチレンオキシド)を含む、請求項13記載の方法。
【請求項24】
アルコールが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)、およびn-ブタノールからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項25】
(e)絹糸ブレンドフィルムを1軸延伸する段階をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項26】
絹糸タンパク質およびポリ(エチレンオキシド)を含む、フィルム。
【請求項27】
絹糸タンパク質がフィブロインである、請求項26記載のフィルム。
【請求項28】
請求項13〜25のいずれか一項に記載の方法により製造されるフィルム。
【請求項29】
以下の段階を含む、絹糸生体材料足場を調製する方法:
(a)型を提供する段階;
(b)溶液を型に注ぐ段階であり、溶液は絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーの水溶液を含み、組成物は水以外の溶媒を含まない段階;
(c)溶液を硬化させる段階;
(d)硬化した足場を型から取り外す段階。
【請求項30】
絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーの水溶液を含み、水以外の溶媒を含まない組成物。
【請求項31】
絹糸タンパク質がフィブロインである、請求項30記載の組成物。
【請求項32】
生体適合性ポリマーがPEOである、請求項30または31記載の組成物。
【請求項33】
絹糸生体材料を製造するための請求項30または31記載の組成物の使用。
【請求項1】
絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーを含む電界紡糸繊維の不織網状組織ならびに哺乳動物細胞を含む、組織工学構築物。
【請求項2】
生体適合性ポリマーが、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、コラーゲン、フィブロネクチン、ケラチン、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、アルギナート、キトサン、キチン、ヒアルロン酸、ペクチン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカノエート、デキストラン、ポリ無水物、および他の生体適合性ポリマーを含む群から選択される、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項3】
絹糸タンパク質がフィブロインである、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項4】
フィブロインが、溶解したカイコガ絹糸を含む溶液から得られる、請求項3記載の組織工学構築物。
【請求項5】
カイコガ絹糸がボンビックス-モリ(Bombyx mori)から得られる、請求項4記載の組織工学構築物。
【請求項6】
絹糸タンパク質が、溶解したクモ絹糸を含む溶液から得られる、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項7】
クモ絹糸がナフィラ-クラビペス(Nephila clavipes)から得られる、請求項6記載の組織工学構築物。
【請求項8】
絹糸タンパク質が、遺伝子操作された絹糸を含む溶液から得られる、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項9】
繊維の直径が50nm〜1,000nmである、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項10】
繊維が、特定の種類の細胞の組織侵入を促進または阻止する有効量の生物学的に活性な物質を含む、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項11】
物質が、コラーゲン、フィブロネクチン、ビロネクチン、Arg-Gly-Asp(RGD)およびTyr-Ile-Gly-Ser-Arg(YIGSR)ペプチド、グリコサミノグリカン(GAG)、ヒアルロン酸(HA)、インテグリン、セレクチン、ならびにカドヘリンからなる群より選択される、請求項10記載の組織工学構築物。
【請求項12】
哺乳動物細胞が、肝細胞、膵臓島細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、外分泌細胞、腸由来の細胞、胆管細胞、副甲状腺細胞、甲状腺細胞、副腎-視床下部-脳下垂体系の細胞、心筋細胞、腎臓上皮細胞、腎尿細管細胞、腎臓基底膜細胞、神経細胞、血管細胞、骨および軟骨を形成する細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、眼細胞、外皮細胞、骨髄細胞、ケラチノサイト、多能性細胞および幹細胞、ならびにその組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の組織工学構築物。
【請求項13】
以下の段階を含む、絹糸ブレンドフィルムを製造する方法:
(a)絹糸タンパク質水溶液を調製する段階;
(b)生体適合性ポリマーを絹糸フィブロイン水溶液に添加する段階;
(c)段階(b)で得られた溶液を乾燥させて、絹糸ブレンドフィルムを得る段階;および
(d)絹糸ブレンドフィルムとアルコールおよび水の溶液を接触させる段階。
【請求項14】
絹糸タンパク質がフィブロインである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
生体適合性ポリマーが、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、コラーゲン、フィブロネクチン、ケラチン、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、アルギナート、キトサン、キチン、ヒアルロン酸、ペクチン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカノエート、デキストラン、ポリ無水物、および他の生体適合性ポリマーを含む群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
2種類またはそれ以上の生体適合性ポリマーが添加される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
フィブロインが、溶解したカイコガ絹糸を含む溶液から得られる、請求項14記載の方法。
【請求項18】
カイコガ絹糸がボンビックス-モリから得られる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
絹糸タンパク質が、溶解したクモ絹糸を含む溶液から得られる、請求項13記載の方法。
【請求項20】
クモ絹糸がナフィラ-クラビペスから得られる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
絹糸タンパク質が、遺伝子操作された絹糸を含む溶液から得られる、請求項13記載の方法。
【請求項22】
絹糸ブレンドフィルムの厚さが約60μm〜約240μmである、請求項13記載の方法。
【請求項23】
絹糸ブレンドフィルムが、体積で約50部〜約99.99部の絹糸フィブロイン水溶液および約0.01部〜約50部のポリ(エチレンオキシド)を含む、請求項13記載の方法。
【請求項24】
アルコールが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)、およびn-ブタノールからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項25】
(e)絹糸ブレンドフィルムを1軸延伸する段階をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項26】
絹糸タンパク質およびポリ(エチレンオキシド)を含む、フィルム。
【請求項27】
絹糸タンパク質がフィブロインである、請求項26記載のフィルム。
【請求項28】
請求項13〜25のいずれか一項に記載の方法により製造されるフィルム。
【請求項29】
以下の段階を含む、絹糸生体材料足場を調製する方法:
(a)型を提供する段階;
(b)溶液を型に注ぐ段階であり、溶液は絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーの水溶液を含み、組成物は水以外の溶媒を含まない段階;
(c)溶液を硬化させる段階;
(d)硬化した足場を型から取り外す段階。
【請求項30】
絹糸タンパク質および生体適合性ポリマーの水溶液を含み、水以外の溶媒を含まない組成物。
【請求項31】
絹糸タンパク質がフィブロインである、請求項30記載の組成物。
【請求項32】
生体適合性ポリマーがPEOである、請求項30または31記載の組成物。
【請求項33】
絹糸生体材料を製造するための請求項30または31記載の組成物の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−19923(P2011−19923A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183530(P2010−183530)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【分割の表示】特願2004−530973(P2004−530973)の分割
【原出願日】平成15年6月24日(2003.6.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.TEFLON
【出願人】(503216502)タフツ ユニバーシティー (7)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【分割の表示】特願2004−530973(P2004−530973)の分割
【原出願日】平成15年6月24日(2003.6.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.TEFLON
【出願人】(503216502)タフツ ユニバーシティー (7)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
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