説明

継手用インコアの製造方法

【課題】廃棄樹脂量が少なく、しかもインコアを容易に成形することができる継手用インコアの製造方法を提供する。
【解決手段】架橋処理済みの熱可塑性合成樹脂、好ましくは架橋ポリオレフィン特に好ましくは架橋ポリエチレンよりなる樹脂管を規定長さに切断して管状素体50とする。第1金型60に挿入し、管状素体50の一端部を第1金型60から突出させる。第2金型70を管状素体50の一端側に挿入して管状素体50の一端側をテーパ形に拡径させる。
その後、この第2金型70を引き抜き、代わりに盤部81と円柱形の凸部82とを有した第3金型80の該凸部82を管状素体50内に差し込み、未架橋時の融点よりも低い温度まで冷却した後、第3金型80を分離し、成形されたインコアを脱型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継手用インコアの製造方法に係り、特に熱可塑性合成樹脂製のインコアの製造方法に関するものである。なお、この継手は、水道配管、温水配管、床暖房、ロードヒーティング等に使用される透明又は半透明をなす樹脂パイプ用の継手である。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の継手は、筒状をなし、内部に樹脂パイプが挿入可能な継手本体と、樹脂パイプの端部に内挿され、継手本体内に樹脂パイプが挿入されたときには、樹脂パイプの内側への変形を防止するためのインコアとを備えている。樹脂パイプは、架橋ポリエチレンやポリブテン等の合成樹脂材料により、透明又は半透明に形成されている。
【0003】
このインコアとして、特開2005−163980には、ポリアセタール、ポリアミド等を射出成形してなる合成樹脂製インコアが記載されている。
【特許文献1】特開2005−163980
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
射出成形により合成樹脂製インコアを製造する場合、射出成形ノズルや、金型内のランナーやスプルー等に樹脂が残留する。これらの残留樹脂は、取り除いて廃棄するようにしており、廃棄樹脂量が多い。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、廃棄樹脂量が少なく、しかもインコアを容易に成形することができる継手用インコアの製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、その一態様において架橋処理済み熱可塑性合成樹脂を用いて形状精度が良好なインコアを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1における継手用インコアの製造方法は、筒部及びその一端側に設けられる鍔部より構成され、樹脂パイプの内側への変形を防止するために樹脂パイプの端部に内挿され、該樹脂パイプと共に継手に挿入される熱可塑性合成樹脂製インコアを製造する継手用インコアの製造方法において、該インコアよりも長い管状素体を、円形内孔を有した第1金型内に、該管状素体の一端部が該第1金型から突出するように挿入する挿入工程と、この管状素体の一端を拡径変形させて前記鍔部を形成することによりインコアを成形する鍔部形成工程とによってインコアを製造することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の継手用インコアの製造方法は、請求項1において、前記鍔部形成工程は、管状素体の前記一端部を先端ほど拡径するテーパ状とするテーパ付け工程と、その後、このテーパ状の一端部を拡径変形させて鍔部を形成する本工程とからなり、該テーパ付け工程では、管状素体内に挿入される先細形のテーパ部を有した第2金型を用いたプレス成形により行い、該本工程では、管状素体の先端面に対峙する盤部と、該管状素体内に挿入されるように該盤部から突設されており、少なくとも基端側が円柱形である凸部とを有した第3金型を用いたプレス成形により行うことを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の継手用インコアの製造方法は、請求項1又は2において、前記管状素体は、架橋処理済みの架橋熱可塑性合成樹脂よりなり、前記鍔部形成工程を、該管状素体を未架橋時の融点以上まで昇温した状態で行い、鍔部形成の後、未架橋時の融点よりも低い温度まで冷却した後、インコアを金型から取り出すことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の継手用インコアの製造方法は、請求項3において、前記架橋処理済みの架橋熱可塑性合成樹脂は、密度が0.940〜0.965g/cmの架橋ポリエチレンであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の継手用インコアの製造方法では、樹脂管を規定長さに切断したものなどからなる管状素体を第1金型に、その一端部がこの第1金型から突出するように挿入し、次いでこの一端部を拡径変形させて鍔部を形成するため、インコア製造工程において廃棄樹脂が全く又は殆ど生じない。
【0012】
なお、請求項2のように、先細形のテーパ部を有した第2金型を用いて管状素体の該一端部をテーパ付けし、その後、少なくとも基端側が円柱形の凸部を有した第3金型を用いて最終形状の鍔部を形成することにより、鍔部をスムーズに形成することができる。
【0013】
請求項3のように架橋処理済みの樹脂よりなる管状素体を用い、成形時の温度を未架橋時の融点以上とし、成形後、この未架橋時の融点よりも低い温度まで冷却してから脱型することにより、形状の安定したインコアを得ることができる。
【0014】
即ち、一般に、非架橋熱可塑性樹脂は、融点を超えると形状が崩れるので、加温軟化させての2次形成が困難である。一方、架橋した架橋熱可塑性樹脂は、未架橋時の融点を超えても形状が崩れることはないが、形状記憶性の為に、新たな形状を付与することが困難である。
【0015】
請求項3のように、架橋した架橋熱可塑性樹脂管を、未架橋時の融点以上まで昇温することで軟化させ、プレス成形により所定の形状にし、未架橋時の融点よりも低い温度までプレス型内で冷却することにより、得られるインコアの形状が安定したものとなる。
【0016】
なお、架橋した架橋熱可塑性樹脂管を用いた場合、インコアをプレスなどの外力が無い状態で、未架橋時の融点以上まで昇温すると、元の架橋熱可塑性樹脂管に形状回復し、改めて別の形状を付与するなどの再利用が可能となる。従って、不用品や回収品となったインコアを容易に再利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。まず、このインコアを用いた継手について第1図を参照して説明する。第1図はこの継手の側面図であり、上半分を断面としてある。
【0018】
この継手1は、本体10と、該本体10の樹脂パイプ2の挿入端部に取り付けられる押し輪20と、該押し輪20の内周面に設けられた保持手段としてのかしめリング30と、樹脂パイプ2に内挿された合成樹脂製のインコア40とを備えている。
【0019】
この実施の形態では、本体10は、長い筒状であり、本体10の一端から他端まで延在する本体主部11と、該本体主部11のうちパイプ挿入端と反端側の外周に外嵌した短い筒状の本体副部12とからなる。
【0020】
本体副部12の基端部外周面には雄ねじ部13が螺刻され、図示しない水道配管等の管体に螺合可能になっている。本体主部11の樹脂パイプ挿入端部の外周面には凸部よりなるストッパ部14が突設され、略円筒状をなす押し輪20の先端部内周面に全周にわたって周設された凹条よりなる係合溝21が係合可能となっている。また、本体主部11のパイプ挿入端側の内周面には2本のOリング16,16が嵌合配置されている。Oリング16,16間には環状のバックアップリング17が介在されている。
【0021】
このOリング16,16よりもさらに奥側において、本体主部11の内周面を縮径させることにより当接面18が設けられている。この当接面18は、筒状の本体主部11の筒軸心線方向と垂直方向の面である。
【0022】
押し輪20は、その一半側が本体主部11の挿入端側の外周に外嵌し、他半側が樹脂パイプ2に外嵌する環状体である。前記係合溝21は、この一半側の内周面に設けられている。この他半側の内周面に前記かしめリング30が装着されている。このかしめリング30は、内周端側が樹脂パイプ2の挿入方向に傾斜しており、樹脂パイプ2のスムーズな挿入を許容するが、樹脂パイプ2の外周面に食い込むことにより樹脂パイプ2の抜け出しを阻止する機能を有している。
【0023】
インコア40は略円筒状に形成され、樹脂パイプ2の端部に内挿される筒部41と、筒部41の先端部に突出形成され、筒部41に対して直交するように外方へ延びる円環状の鍔部42とから構成されている。このインコア40の長さLは、樹脂パイプ2の本体10及び押し輪20内への挿入深さDよりも長い長さに設定されている。
【0024】
なお、この挿入深さDは、当接面18から押し輪20の挿入端までの距離である。
【0025】
樹脂パイプ2は円筒状に形成され、水道の配管等に使用される。樹脂パイプ2は、架橋ポリエチレンやポリブテン等の合成樹脂材料により、透明又は半透明に形成されている。樹脂パイプ2の先端面は、樹脂パイプ2の軸線と略直交するように切断されている。
【0026】
継手1に樹脂パイプ2を挿着するときには、インコア40を樹脂パイプ2の端部に内挿する。即ち、インコア40の筒部41を、鍔部42が樹脂パイプ2の端面に当接するまで樹脂パイプ2の端部に内挿する。
【0027】
なお、押し輪20は、本体10に装着しておく。
【0028】
次いで、樹脂パイプ2を先端側から押し輪20を通して本体10内に差し込む。インコア40の鍔部42が当接面18に当るまで十分に深く樹脂パイプ2を継手1に差し込むことにより、図示のように樹脂パイプ2が継手1に装着される。前記の通り、樹脂パイプ2の外周面にかしめリング30が食い込むと共に、樹脂パイプ2の内周にインコア40の筒部41が密着することにより、樹脂パイプ2が抜け出すことが防止される。
【0029】
この実施の形態では、インコア40の長さLが樹脂パイプ2の挿入深さDよりも長く、インコア40の後端側が押し輪20から規定長さだけはみ出している。
【0030】
従って、このインコア40の後端側が規定長さだけはみ出していることを樹脂パイプ2を通して視認することにより、樹脂パイプ2が正しく、すなわち鍔部42が、当接面18に当るまで差し込まれたことを確認することができる。また、インコア40を視認することにより、インコア40を樹脂パイプ2に装着したことを最終的に確認することもできる。
【0031】
なお、インコア40を赤、青、黄、緑、黒などに着色しておくことにより、樹脂パイプ2を通してインコア40を視認し易くなる。
【0032】
インコア40の押し輪2からの突出長さL−Dは、通常2〜12mm特に5〜10mm程度が好適である。L−Dがこの範囲であれば、インコア40の後端側を確実に視認することができると共に、インコア40の長さが過大ではなく、インコア40の筒部41を樹脂パイプ2に挿入し易い。
【0033】
ただし、本発明では、インコア40を押し輪20から突出させないように、すなわち(L−D)=0としてもよい。
【0034】
また、上記実施の形態では、押し輪20の一半側を本体10に外嵌させる構造としたが、特開2003−329183のように押し輪20の一半側を本体10に内嵌させる構造としてもよい。また、押し輪20は本体10に対し螺じ込みにより固着されるものであってもよい。
【0035】
本体10や押し輪20の構成材料は、特に限定されるものではなく、金属、合成樹脂など各種材料を用いることができる。
【0036】
以下、このインコア40の成形方法について第2図〜第5図を参照して説明する。
【0037】
架橋処理済みの熱可塑性合成樹脂、好ましくは架橋ポリオレフィン特に好ましくは架橋ポリエチレンよりなる樹脂管を規定長さに切断して管状素体50とする。この管状素体50を、第2図の通り、内孔61を有した略円筒状の第1金型60に挿入し、管状素体50の一端部を第1金型60から突出させる。
【0038】
第1金型60及び管状素体50を上記合成樹脂の未架橋時の融点以上まで加熱炉等を用いて昇温させる。
【0039】
次に、第2図の通り、この第1金型60をプレスマシンのストッパ部62に当て、第2金型70を管状素体50の一端側に挿入してプレスする。この第2金型70は、本体部71と、この本体部71から突出する、先細形のテーパ部72と、該テーパ部72の先端から突出した細円柱形の先端部73とを有している。このテーパ部72を管状素体50の一端側に押し当て、管状素体50の一端側をテーパ形に拡径させる。
【0040】
その後、この第2金型70を引き抜き、代わりに第4図の通り盤部81と円柱形の凸部82とを有した第3金型80の該凸部82を管状素体50内に差し込む。この凸部82の直径は、管状素体50の内径と同一かごくわずか小さいものとなっている。盤部81を管状素体50のテーパ形の一端部に押し当てプレスし、鍔部42を形成する。その後、未架橋時の融点よりも低い温度まで冷却した後、第3金型80を分離し、成形されたインコアを脱型する。
【0041】
上記の架橋ポリエチレンとしては、密度は、通常0.940〜0.965g/cm特に0.945〜0.960g/cmのものが好ましい。なお、架橋ポリエチレンは若干量のポリプロピレンなど他のポリオレフィンを含んでいてもよい。
【0042】
上記のプレス成形時の温度は300℃以下であり、かつ、未架橋時の融点よりも、通常5〜180℃特に80〜100℃高い温度が好ましい。成形したインコアの脱型は、インコアの温度が未架橋時の融点よりも、通常20〜100℃特に60〜80℃低下してから行うのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】インコアを備えた継手の側面図である。
【図2】インコアの製造方法を示す断面図である。
【図3】インコアの製造方法を示す断面図である。
【図4】インコアの製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 継手
2 樹脂パイプ
10 本体
11 本体主部
12 本体副部
16 Oリング
17 バックアップリング
18 当接面
20 押し輪
30 かしめリング(保持手段)
40 インコア
41 筒部
42 鍔部
50 管状素体
60 第1金型
62 ストッパ部
70 第2金型
72 テーパ部
80 第3金型
81 盤部
82 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部及びその一端側に設けられる鍔部より構成され、樹脂パイプの内側への変形を防止するために樹脂パイプの端部に内挿され、該樹脂パイプと共に継手に挿入される熱可塑性合成樹脂製インコアを製造する継手用インコアの製造方法において、
該インコアよりも長い管状素体を、円形内孔を有した第1金型内に、該管状素体の一端部が該第1金型から突出するように挿入する挿入工程と、
この管状素体の一端を拡径変形させて前記鍔部を形成することによりインコアを成形する鍔部形成工程と
によってインコアを製造することを特徴とする継手用インコアの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記鍔部形成工程は、
管状素体の前記一端部を先端ほど拡径するテーパ状とするテーパ付け工程と、
その後、このテーパ状の一端部を拡径変形させて鍔部を形成する本工程と
からなり、
該テーパ付け工程では、管状素体内に挿入される先細形のテーパ部を有した第2金型を用いたプレス成形により行い、
該本工程では、管状素体の先端面に対峙する盤部と、該管状素体内に挿入されるように該盤部から突設されており、少なくとも基端側が円柱形である凸部とを有した第3金型を用いたプレス成形により行うことを特徴とする継手用インコアの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記管状素体は、架橋処理済みの架橋熱可塑性合成樹脂よりなり、
前記鍔部形成工程を、該管状素体を未架橋時の融点以上まで昇温した状態で行い、
鍔部形成の後、未架橋時の融点より低い温度まで冷却した後、インコアを金型から取り出すことを特徴とする継手用インコアの製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記架橋処理済みの架橋熱可塑性合成樹脂は、密度が0.940〜0.965g/cmの架橋ポリエチレンであることを特徴とする継手用インコアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−246725(P2008−246725A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88224(P2007−88224)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】