網膜疾患を検出し処置するための方法および組成物
本発明は、加齢黄斑変性(AMD)および/または眼のRPE細胞による食作用に関連する複数遺伝子、並びに、AMDおよび他の網膜変性状態を、これらの食作用関連および/またはAMD関連遺伝子に基づき検出し処置するための方法および組成物を、開示する。さらに提供されるのは、AMDの治療化合物および処置プロトコルを試験するのに有用な動物モデル、並びに、食作用関連および/またはAMD関連遺伝子の多型変異体を含む遺伝子アレイであって、対象からの核酸サンプルに遺伝的スクリーニングを行い、AMDに関連する複数の遺伝子の多型変異体配列のプロファイルを得るのに有用な、前記アレイである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
加齢黄班変性(AMD)は、60歳を超える高齢者人口の失明の第1の原因である。これは、罹患した人々の中心視力を破壊し、読書や運転などの日常生活に必要な活動を行う能力を奪う、深刻な疾患である(Bressler et al., 1988; Evans, 2001; Gottlieb, 2002)。ある研究にでは、75歳以上の人々におけるAMDの有病率は7.8%と報告された(Klein et al., 1992)。
【0002】
AMDは、網膜外層の細胞(光受容体および光受容体を支援する網膜色素上皮(RPE)細胞を含む)、および脈絡膜として知られている、隣接する眼の血管層の細胞が関連する、ゆっくりと進行する疾患である。黄班変性は、高い視力に関与する網膜中心の小さな部分(直径約2mm)である、黄班部の破壊によって特徴づけられる。遅発性黄班変性(すなわちAMD)は一般に、「ドライ(萎縮型)」または「ウェット(滲出型)」のどちらかに定義される。AMDのウェット(滲出型)新生血管の形態は、この疾患を有する人の10%にみられ、脈絡膜毛細血管からRPEを通って成長する異常な血管を特徴とし、典型的にはこれにより出血、滲出、瘢痕化、および/または重篤な網膜はく離が生じる。AMD患者の約90%は非新生血管性のドライ型であり、RPEの萎縮および黄班部の光受容体の損失を特徴とする。
【0003】
AMDの臨床的な特徴の1つは、「ドルーゼン」と呼ばれる破片様物質の沈着の存在であり、これは、RPE(網膜の最も外側の層)をその下の脈絡膜から分離している細胞外基質成分の複数層の混合物である、ブルッフ膜の上に蓄積される。ドルーゼンは、眼底検査により観察できる。これらの沈着物は、AMD患者から提供された眼の顕微鏡的研究により、特徴が大きく明らかにされた(Sarks, et al., 1988)。生きている眼において臨床検査で観察される沈着物は、相対寸法、存在する量、および沈着物の形状を含む幾つかの基準に従って、軟性ドルーゼンまたは硬性ドルーゼンのどちらかに分類される(例えばAbdelsalam et al., 1999に概説されている)。組織化学的および免疫細胞化学的研究により、ドルーゼンが、種々の脂質、多糖類、グリコサミノグリカンおよびタンパク質を含むことが示された(Abdelsalam et al., 1999; Hageman et al., 1999, 2001)。
【0004】
現在のところAMDに対する治療法はない。幾つかの種類の処置が利用可能であり、ウェット型の疾患では、異常な血管のレーザー光凝固術が標準的である(Gottlieb, 2002; Algvere and Seregard, 2002)。この処置は、明確に区別される新生血管病変部のみがこれにより処置でき、また患者の50%が血管からの滲出の再発を被るという事実により、制限される(Fine et al., 2000)。この治療に必要なレーザーのエネルギーのために、処置された部分の光受容体も死に、また患者はしばしば、処置の直後に中心部の失明を経験する。新しい新生血管病変がいずれは発達して、繰り返しの処置が必要となる。
【0005】
低エネルギーレーザー活性と光感受性剤を組み合わせた光線力学療法が、レーザー治療アプローチの有力な追加となった(Bressler, 2001)。この方法においては、光感受性剤である、異常な新生血管に親和性を有するベルテポルフィンが用いられる。これらの血管の選択的標的化は非熱的レーザーにより活性化され、活性酸素種を生成でき、これにより異常な血管を破壊することができる。研究グループにおいては、ベルテポルフィンを用いた光線力学療法を受けた患者の33%のみが、重大な視力低下を起こし、一方ベルテポルフィンを用いない患者においてはこの率は61%であった。この処置はしかし、典型的な脈絡膜新生血管膜を有する患者にのみ有益であった。この新しい処置様式の完全で長期的な利点はまだ立証されていない。この進歩にもかかわらず、この処置は新しい新生血管病変のその後の形成は予防しない。
【0006】
AMDのウェット型に対して利用可能な他の処置には、黄班下手術および外部光線照射療法が含まれる。検討中のものには、網膜移動(retinal translocation)および血管上皮増殖因子の阻害が含まれる(Algvere and Seregard, 2002)。重症AMDへの進行を防ぐには、ビタミンCとE、βカロテンおよび鉛を含む、酸化防止剤による処置が役立つことが示され、また予防的レーザー治療も研究中されている(Gottlieb, 2002)。
【0007】
上記の進歩にもかかわらず、AMDに対する現在の処置は、ほとんどが症状緩和的であることが認識されている(Algvere and Seregard, 2002)。疾患の根本的な原因は未知であり、これに取り組む、利用可能な処置はない。従ってこの疾患は、処置の後にも進行し続け、新生血管の再発達および黄班部の破壊が生じる。そのため、この疾患の分子機構を理解して、治療的処置または治療をその根本的な原因に向けることに対する、切実な要求が存在する。
【0008】
AMDの病因論に遺伝因子が重要な役割を果たしていることは、よく認識されている。例えば、AMDの家族歴を有する人およびAMD患者の兄弟姉妹は、AMDを発症するより高いリスクを有することが報告された(Evans, 2001)。一卵性双生児は、二卵性双生児より高い、AMDの臨床的特徴の一致率を示した(Klein et al., 1994)。他の研究によれば、AMDに罹患した全ての一卵性双生児はAMDについて一致しているが、二卵性双生児では42%のみが一致していることが見出された(Meyers et al., 1995)。従って、AMDの病因を理解するための1つの主要なアプローチは、AMDに関連する遺伝子を探すことである。例えば、大家族における連鎖分析、兄弟姉妹のペアの間での対立遺伝子共有分析、および集団における関連研究などのアプローチが、AMDに関連する遺伝子を同定する試みにおいて用いられた(Guymer, 2001)。染色体領域1qとの関連がAMDの大家族において報告された(Klein et al., 1998)。対立遺伝子共有分析の結果からは、新しい候補遺伝子は見出されなかった(Weeks et al, 2000)。ヘミセンチン1における突然変異の関与が加齢黄班変性の家族形態において報告され、大家族のヒト染色体領域1qへマッピングされた(Schultz et al., 2003)。
【0009】
AMDに対する他の遺伝的戦略は、遺伝性黄班変性の他の型を誘発する遺伝子を、AMDの推定原因遺伝子(「候補遺伝子」)として試験することである。遺伝的形質の明らかな遺伝様式を有する幾つかの黄班変性(いわゆる「メンデル型黄班変性」)で、表現型がAMDに類似しているものが記載された。これらの疾患は、ソルスビーの眼底ジストロフィー、スタルガルト病、ベスト病、およびドインのハニカム網膜ジストロフィー(Doyne's honeycomb retinal dystrophy)を含む(Guymer, 2001)。これらの疾患の原因遺伝子が、AMDの候補遺伝子として解析された。しかしながら今日まで、これらのいずれもが、AMDとの明確な因果関係を示さなかった。例えば、ATP結合カセットトランスポーター遺伝子(ABCR)が、劣性スタルガルト病の病因遺伝子として見出された(Hutchinson et al., 1997)。ABCRはAMDの候補遺伝子として提唱され、1つの研究においては、AMD患者の16%が当初はこの遺伝子に突然変異を有することが示された(Allikmets et al., 1997)。この結論はしかし、問題ありとされた(Stone et al., 1998)。
【0010】
染色体マッピング、遺伝子連鎖解析、および候補遺伝子解析などの古典的な遺伝的アプローチを通してのAMD遺伝子の発見に失敗したことについて、最も可能性のある理由は、AMDが「複数遺伝子」または「複合」遺伝子疾患であることである。複合遺伝子疾患とは、複数遺伝子の変化により引き起こされると考えられる疾患である。このような疾患は、特徴的に、複雑な遺伝の様式を示す(Heiba et al., 1994; Klein et al., 1994)。高齢者の疾患であるAMDの場合、疾患の経過は一般に、上記の複数の遺伝的因子の複合効果のみに影響されるのでなく、ある種の環境リスク因子にも影響されると考えられている。
【0011】
AMDの原因遺伝子を発見することを目的とした第2の大きなアプローチは、疾患の機序を明らかにすることを目的とした、仮説に基づく研究であり、この機序に関与する遺伝子を二次的に同定することも目標とする。AMDの発症機序についての多くの仮説が提唱され、試験されて、この主題について多くの文献がもたらされた。
【0012】
酸化障害は、AMDについて提唱された機序の1つの主要なテーマであった(Winkler et al., 1999; Evans, 2001; Husain et al., 2002)。網膜は、極めて高い酸素を消費することが知られており、光受容体およびRPEは、酸素の非常に豊富な環境にある。RPEは、非常に酸素の多い血液が流れる豊富な毛管網である、脈絡毛細管枝に隣接している。網膜は光感受性器官であって、ここでは光により活性化されるイベントが光暴露の間に定常的に起こっており、これにより特に反応性酸素種が産生される。酸化障害仮説の一般的な裏付けとしては、臨床研究で試験された抗酸化剤が、重篤なAMDの進行を低下させる、適度に有利な効果を有することが報告された(Hyman and Neborsky, 2002)が、しかし、幾つかの研究結果はこれに相反するものである(Flood et al., 2002)。抗酸化剤の血漿濃度を低下させ得る喫煙は、AMDリスクの増加と関連があった(Mitchell et al., 2002)。酸化障害理論への付加的な裏付けとなるのはドルーゼンの最近のプロテオーム解析であり、これにより、幾つかの酸化修飾産物が、これらの沈着物に存在することが示された(Crabb et al., 2002)。
【0013】
RPEにおける機能障害が、AMDの中心的病因であり、ドルーゼン形成を導き得ると提唱された(Hogan, 1972)。最も初期におけるRPE機能障害の兆候として知られているのは、リポフスチンの蓄積であり、これは、AMDのウェット型に見られるブルッフ膜の特徴的な肥厚化、ドルーゼン形成、および脈絡膜血管新生を導き得る(Gass et al., 1985; Sarks et al., 1988; Green, 1999)。リポフスチンは、ほとんどが光受容体外節(OS)の貪食された膜に由来する、酸化ポリマー分子からなる(Katz, 1989; Kennedy et al., 1995)。OS膜にはポリ不飽和脂肪酸が豊富にあることが知られており、これは過酸化の優れた基質である(Katz, 1989)。これらの分子は分解できないため、RPE細胞内にリポフスチンとして蓄積し始めると考えられている。リポフスチンの少なくとも1つの成分、すなわちピリミジンビスレチノイドである発蛍光団A2Eは、毒性であることが示され、膜の不安定化(De and Sakmar, 2002)、チトクロームcオキシダーゼの抑制並びに培養されたポルクリン(porcrine)およびヒトRPE細胞でのアポトーシス(Shaban et al., 2002)を引き起こす。従って、RPEにおけるA2Eおよびリポフスチンの蓄積は、加齢に伴うこれら細胞の機能障害および死滅に直接関連すると考えられる。
【0014】
酸化障害のプロセス、リポフスチンの蓄積、およびドルーゼン形成はAMDのみに限定されているわけではなく、年齢とともに全ての人々にある程度起こるものである。従って、答えの見つからない根本的な問いは、なぜこれらのプロセスが、ある人々にとって他の人々より進行してAMDにつながるのかということである。AMDの根本的な原因を標的とした新しい治療法の開発における進歩には、観察される病態をもたらす光受容体、RPEおよび脈絡膜細胞における、鍵となる細胞代謝経路に関与する特定遺伝子標的についての、より多くの知識が必要とされる。
【発明の開示】
【0015】
発明の概要
本発明は、加齢黄班変性(AMD)を含む網膜の変性状態をスクリーニングし処置するための、新規な方法および組成物、ならびに、治療化合物および方法を試験するために有用な動物モデルを提供する。本発明は遺伝子発見戦略の成果であり、1)AMDに罹患したものと正常の眼組織において、および2)RPE細胞による外節(OS)の食作用の過程の間に、差次的発現を示す遺伝子の単離をもたらす。OS食作用は、RPE細胞の重要な機能であり、複雑な多段階プロセスが関与し、この副産物はRPE細胞における活性酸素種の生成とリポフスチン蓄積の原因となる。
【0016】
CHANGE(Comparative Hybridization Analysis of Gene Expression:遺伝子発現の比較ハイブリダイゼーション解析)と呼ばれる、新規な発現クローニング戦略を用いて、RPE細胞において発現される、少なくとも200個のAMD関連遺伝子および少なくとも60個の食作用関連遺伝子が単離された。この戦略により、以前に特徴づけられていなかった5つの遺伝子が同定され、これらがAMDおよび/またはRPE食作用に関連することが示された。これら遺伝子の産物をコードするcDNAの核酸配列は、本明細書に配列番号1、4、5、12、および17としてリストされている。
【0017】
「AMD/食作用遺伝子(phagogene)」または「AMDP遺伝子」と呼ばれる6つの遺伝子のサブセットが、本明細書にさらに記載され、これらはAMDについて、およびRPE食作用についての関連性の二重の基準に当てはまる。これら遺伝子の3つ、すなわち、プロスタグランジンD2合成酵素(配列番号2)、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)(配列番号15)、および未知のRPE発現cDNA AMDP−3(配列番号17)は全て、AMDにおいて上方制御を示す。AMDにおいて下方制御されるAMDP遺伝子は、カゼインキナーゼ1エプシロン(配列番号9)、フェリチン重ポリペプチド1(ferritin heavy polypeptide 1)(配列番号10)、およびSWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質(配列番号16)を含む。
【0018】
RPE食作用と機能的に関連すると以前に知られていなかった他の遺伝子が、本明細書に開示され、これには、未知PHG−1(配列番号1)、ミエリン塩基性タンパク質(配列番号3)、未知PHG−4(配列番号4)、未知PHG−5(配列番号5)、ピーナッツ様2/セプチン4(配列番号6)、コアクトシン様1(配列番号7)、クラステリン(配列番号8)、メタルギジン(配列番号11)、未知PHG−13(配列番号12)、レチンアルデヒド結合タンパク質1(配列番号13)、およびアクチンガンマ1(配列番号14)が含まれる。
上記の戦略により発見されたAMDP遺伝子の例は、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)(配列番号15)である。MT1−MMPは、例えば、プロゲラチナーゼAを特異的に活性化させることにより、細胞外基質の再構築に関与するプロテアーゼをコードする遺伝子である。ゲラチナーゼAは、基底膜の主要な構成成分であるIV型コラーゲンの特異的な開裂に関与する、主要なメタロプロテアーゼである。MT1−MMPはまた、他の細胞外基質成分に対する活性も示す。
【0019】
MT1−MMPは、AMDおよび他の網膜状態をスクリーニングし処置するための、非常に興味深い治療標的であることが、次の所見に基づいて示された:
1)MT1−MMPは、AMD患者の眼において、AMDのサルモデルにおいて、およびRPEによるOS食作用に欠点を有する網膜変性のモデルであるRCSラットにおいて、RPEおよび光受容体中で上方制御される;
2)MT1−MMPは、RPE細胞による食作用のメカニズムに直接関与する;
3)RCSラットにおける網膜変性の進行は、抗MT1−MMP抗体を用いて、網膜下のスペースに存在する活性化されたMT1−MMPをブロックすることにより、大幅に低減される;
4)mRNAのスプライス変異体を産生することができて短縮タンパク質をもたらすMT1−MMPの同義多型(すなわち、P259P)、および、タンパク質の触媒ドメインに影響するMT1−MMPのミスセンス多型(すなわち、D273N)が、AMD患者(54.8%vs31.6%)および家族性黄班変性症患者(68.2%vs31.6%)のDNAにより高い頻度で見出される。
【0020】
前述の発見に基づき、本発明の目的は、対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を、遅延または逆転させるための方法を提供することである。該方法は、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を有する、またはこれを発症するリスクのある対象の網膜または脈絡膜細胞を、AMDP関連または食作用関連遺伝子の発現または活性を調節する剤と接触させることを含む。AMDP関連または食作用関連遺伝子は、ヒト未知PHG−1;プロスタグランジンD2合成酵素;ミエリン塩基性タンパク質;ヒト未知PHG−4;ヒト未知PHG−5;ヒトピーナッツ様2/セプチン4;コアクトシン様1;クラステリン;カゼインキナーゼ1エプシロン;フェリチン重ポリペプチド1;メタルギジン;ヒト未知PHG−13;レチンアルデヒド結合タンパク質1;アクチンガンマ1;膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP);SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質;およびヒト未知AMDP−3であることができる。前記AMDP関連または食作用関連遺伝子は、それぞれ本明細書において配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、および17と同定されたヌクレオチド配列を含む。
【0021】
発現または活性の調節のために標的化される好ましい遺伝子は、AMDにおいて上方調節されることが本明細書で示された、プロスタグランジンD2合成酵素、MT1−MMPおよび未知遺伝子AMDP−3である。特に好ましい態様において、剤は、MT1−MMP核酸またはタンパク質に対する剤である。網膜または脈絡膜変性疾患または状態は、AMDであってよい。方法は、AMDに罹患した対象、またはAMD発症のリスクのある対象を処置するために用いることができる。
方法は、網膜もしくは脈絡膜変性疾患もしくは状態を遅延させるか、または疾患もしくは状態を逆転させることができる。
方法の実施において接触させる細胞型は、光受容体、RPE細胞、ミュラー細胞、または、内皮細胞、平滑筋細胞、白血球、マクロファージ、メラノサイトもしくは繊維芽細胞を含む、脈絡膜の細胞型である。
【0022】
AMDP関連または食作用関連遺伝子がMT1−MMPである本発明の好ましい態様において、前記MT1−MMPは、細胞内、または細胞外基質、例えば光受容体間マトリックスに位置することができる。
本発明の幾つかの態様において、剤は、AMDP関連または食作用関連遺伝子の核酸またはアミノ酸配列の発現を下方制御する。好ましい態様において、標的化遺伝子は、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素およびAMDP−3を含み、これら遺伝子は、AMDにおいて過剰発現されることが本明細書で示される。剤は、オリゴヌクレオチドであってよく、例えば、リボザイム、アンチセンスRNA、干渉RNA(RNAi)分子、または三重らせん形成性分子(triple helix forming molecule)である。
【0023】
剤はまた、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3タンパク質もしくはペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。抗体は、タンパク質またはペプチドの少なくとも1つの生物活性を中和することができるのが好ましい。例えば、MT1−MMPに対する抗体は、プロゲラチナーゼAの活性化または細胞外基質成分の分解を、中和することができる。
他の態様において、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3の発現を下方制御する剤は、小分子であることができる。
【0024】
本発明のさらなる目的は、対象の、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を発症するリスクを決定する方法を提供することである。方法は、対象の核酸配列を、少なくとも1つの食作用関連またはAMDP関連遺伝子中の少なくとも1つの多型の存在についてスクリーニングすることを含み、ここで多型の存在は、前記対象が多型のない対象より、網膜変性疾患を発症する高いリスクを有することを示す。食作用関連遺伝子は、限定なく、未知PHG−1、プロスタグランジンD2合成酵素、ミエリン塩基性タンパク質、未知PHG−4、未知PHG−5、ピーナッツ様2/セプチン4、コアクトシン様1、クラステリン、カゼインキナーゼ1エプシロン、フェリチン重ポリペプチド1、メタルギジン、未知PHG−13、レチンアルデヒド結合タンパク質1、アクチンガンマ1、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質、および未知AMDP−3を含むことができる。これらの食作用関連遺伝子産物をコードする核酸は、それぞれ、配列番号1〜17として本明細書にリストされたcDNA配列を含む。
【0025】
方法においてスクリーニングされるAMDP関連遺伝子は、限定なく、プロスタグランジンD2合成酵素、カゼインキナーゼ1エプシロン、フェリチン重ポリペプチド1、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質、およびAMDP−3を含むことができる。これらのAMDP関連遺伝子産生物をコードする核酸は、それぞれ、本明細書中配列番号2、9、10、16および17としてリストされたcDNA配列を含む。
方法においてスクリーニングされる多型は、目的遺伝子のイントロン、エクソンまたはプロモーター領域内にあることができる。
【0026】
スクリーニング法の好ましい態様において、目的遺伝子はMT1−MMPである。多型は、以下の群から選択される核酸配列を有するアンプリマー対を用いてPCRにより増幅可能なヒトMT1−MMP遺伝子の領域内にあることができる:配列番号18および19;20および21;22および23;24および25;26および27;28および29;30および31;32および33;34および35;36および37;38および39;40および41;42および43;44および45;46および47;48および49;50および51;52および53;54および55;56および57;並びに57および58。
方法の特に好ましい態様において、多型は、ヒトMT1−MMP遺伝子のエクソン5の285bp断片内にある。この領域内で、多型は、D273Nミスセンス多型およびP259P同義多型を含むことができる。
【0027】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を処置する方法を提供することもまた、本発明の目的である。該方法は、対象の網膜または脈絡膜細胞を、食作用関連またはAMDP関連mRNAまたはタンパク質の発現を下方制御または阻害する剤をコードする核酸を含むベクターと、接触させることを含む。ベクターに含まれる剤は、アンチセンスRNA、リボザイムまたは干渉RNA(RNAi)分子であることができる。好ましい態様において、下方制御用に標的化される食作用関連またはAMDP関連遺伝子は、プロスタグランジンD2合成酵素、MT1−MMP、およびAMDP−3であり、それぞれ、本明細書中に配列番号2、15および17として示される核酸配列を含む。
他の側面において、本発明は、ベクターを用いて、食作用関連またはAMDP関連遺伝子産物の所望の形態を、これを必要とする対象に送達することにより、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を処置する方法を提供する。ベクターは、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の野生型または多型変異体のどちらかをコードする核酸配列を含む。
【0028】
本発明のさらに他の態様は、対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態の予防または処置のための組成物であって、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の発現または活性をブロックする剤を含む、前記組成物である。幾つかの態様において、剤は、アンチセンスRNA、リボザイムまたは干渉RNA(RNAi)分子であることができる。剤はまた、抗体または小分子であることができる。
さらに本発明の範囲であるのは、ベクターを含有する、対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態の予防または処置のための組成物である。種々の態様において、ベクターは、食作用関連またはAMDP関連mRNAまたはタンパク質の発現を下方制御または阻害する剤をコードする核酸、または、食作用関連またはAMDP関連タンパク質の野生型または多型変異体をコードする核酸を含むことができる。好ましい態様において、食作用関連またはAMDP関連遺伝子は、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素およびAMDP−3を含む。特に好ましい態様において、遺伝子はMT1−MMPである。
【0029】
本発明はさらに、例えばAMDおよび他の網膜変性状態のモデルとして有用な、非ヒトトランスジェニック動物の幾つかの態様を提供する。好ましくは、トランスジェニック動物は哺乳類であり、より好ましくはげっ歯類であり、最も好ましくはマウスである。1つの態様において、トランスジェニック動物は、該動物の少なくとも1つの細胞型に、食作用関連またはAMDP関連遺伝子を過剰発現させる、単離された核酸コンストラクトを含む。食作用関連またはAMDP関連遺伝子は、好ましくは、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素、またはAMDP−3である。トランスジェニック動物の好ましい型は、光受容体、RPE細胞およびミュラー細胞から選択される網膜細胞型を含む特定の細胞型、並びに内皮細胞、平滑筋細胞、白血球、マクロファージ、メラノサイトおよび繊維芽細胞を含む脈絡膜細胞型において、食作用関連またはAMDP関連遺伝子産物を過剰発現するように、設計される。幾つかの態様において、目的遺伝子は、条件付きで過剰発現される。
【0030】
AMD/網膜変性の動物モデルの他の好ましい態様は、単離された核酸コンストラクトを含む非ヒトトランスジェニック動物であって、前記コンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に、食作用関連またはAMDP関連核酸および/またはタンパク質の多型変異体を発現させる、前記トランスジェニック動物である。好ましい態様において、核酸および/またはタンパク質は、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素、またはAMDP−3である。正常な対照集団に比べ、AMDを有するヒトの集団においては、多型変異体はその発生率が増加し得る。
【0031】
さらに他の態様は、少なくとも第1の単離核酸コンストラクトおよび少なくとも第2の単離核酸コンストラクトを含む非ヒトポリトランスジェニック動物であって、第1のコンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に第1遺伝子の多型変異体をAMDの発生率の増加に相関して発現させ、第2のコンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に第2遺伝子の多型変異体をAMDの発生率の増加に相関して発現させるか、またはRPE食作用と関連を有する、前記ポリトランスジェニック動物である。
ポリトランスジェニック動物の好ましい態様において、第1遺伝子は、MT1−MMPであり、第2遺伝子は、ABCR、アポリポタンパク質E、C−Cケモカイン受容体2、シスタチンC、ヘミセンチン/FIBL−6、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ、C−Cケモカインリガンド/単球走化性因子タンパク質1(monocyte chemoattractant protein 1)、およびパラオキソナーゼから選択される。
【0032】
ポリトランスジェニックモデルの他の好ましい態様において、第1遺伝子は、MT1−MMPであり、第2遺伝子は、食作用関連またはAMDP関連遺伝子であって、ヒト未知PHG−1、プロスタグランジンD2合成酵素、ミエリン塩基性タンパク質、ヒト未知PHG−4、ヒト未知PHG−5、ヒトピーナッツ様2/セプチン4、コアクトシン様1、クラステリン、カゼインキナーゼ1エプシロン、フェリチン重ポリペプチド1、メタルギジン、ヒト未知PHG−13、レチンアルデヒド結合タンパク質1、アクチンガンマ1、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質、およびヒト未知AMDP−3から選択される。
本発明のトランスジェニック動物の特に好ましい態様はマウスであり、これは、比較的短い寿命の利点を提供し、サルなどの他のより長命の動物モデルに比べて、これを加齢疾患の研究に好適なものとしている。
【0033】
さらに他の側面において、本発明は、以前に特徴づけられておらず、本明細書において食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質と示された遺伝子産物をコードする単離された核酸を提供する。これらのタンパク質をコードする核酸は、配列番号1、4、5、12、および17を含む核酸配列を含む。
本発明はさらに、複数の単離されたオリゴヌクレオチド配列を含み、該配列は、天然のヒトAMDP関連または食作用関連遺伝子のイントロン、エクソンまたはプロモーター配列内に位置する、遺伝子アレイを提供する。アレイ内にオリゴヌクレオチド配列により表わされる遺伝子は、本明細書において配列番号1〜17および配列番号62〜69で表わされる核酸配列を含むcDNAをコードする。
【0034】
遺伝子アレイの好ましい態様において、少なくとも1つの遺伝子はMT1−MMPであり、オリゴヌクレオチド配列は、MT1−MMPコード配列のP259PまたはD273N多型変異体を含む。MT1−MMPのこれらの変異体は、AMDおよび他の黄斑変性状態を有する患者の集団において、正常な対照の対象における頻度に比べてその頻度が増加することが、本明細書において示される。
遺伝子アレイはさらに、1つまたは2つ以上のAMD関連遺伝子の少なくとも1つの多型変異体を含む少なくとも1つのオリゴヌクレオチド配列を、MT1−MMPに加えて含むことができる。多型変異体配列は、ABCR(D217N;G1961E)、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(V47A)、アポリポタンパク質E(C130、R176CおよびC130R、R176)、シスタチンC(A25T)およびパラオキソナーゼ(Q192R、L54M)を含むことができる。
【0035】
本発明の遺伝子アレイは、例えば、対象からのDNAサンプルをスクリーニングして、該対象のDNA中の複数のAMD関連および/または食作用関連遺伝子の多型変異体の分散を決定することに対し、有用である。AMDの複数遺伝子(複雑な病気)病因論にそって、対象のDNA中のAMD関連または食作用関連遺伝子の特定多型変異体の組合せの分散に関する情報を用いて、該対象が、AMD関連または食作用関連遺伝子の特定多型変異体の組合せを欠いている対象よりも、AMDなどの網膜疾患を発症するより高いリスクを有する可能性があることを、予測できると考えられる。
【0036】
AMDおよび関連疾患用に調節された本発明の遺伝子アレイは、AMDおよび関連疾患に関連すると知られている複数遺伝子の多型変異体を試験する、便利で比較的安価な方法を提供することができる。
本発明のこれらおよび他の目的は、以下の記載および例にさらに詳細に示されており、これは、本発明を説明することを意図しているが、その範囲を限定することは意図していない。
図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある側面をさらに示すために含まれている。本発明は、1つまたは2つ以上の以下の図面を、本明細書に記載された特定の態様の詳細な記述と組み合わせて参照することにより、よりよく理解することができる。
【0037】
発明の詳細な説明
前述の発見に基づき、本発明は、AMDおよび/またはRPE細胞による食作用に関連する新規な遺伝子、AMDおよび他の網膜変性状態を検出し処置するための方法および組成物、並びに、とりわけAMDの治療組成物および処置プロトコルを試験するために有用な、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子に基づく動物モデルを提供する。以下に記載する好ましい態様は、これらの組成物および方法の適応を説明する。しかしなお、これらの態様の記載から、以下に提供される記載に基づき本発明の他の側面を作製し、および/または実行することが可能である。
【0038】
生物学的方法
従来の分子生物学的技法が関与する方法を、本明細書に記載する。かかる技法は、当分野に一般に知られており、以下のような方法論の専門書に詳細に記載されている:Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., vol. 1-3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;およびCurrent Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York, 1992 (定期的更新あり)。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる種々の技法は、例えば、Innis et al., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press: San Diego, 1990に記載されている。核酸の化学合成の方法は、例えば、Beaucage and Carruthers, Tetra. Letts. 22: 1859-1862, 1981およびMatteucci et al., J. Am. Chem. Soc. 103: 3185, 1981に記載されている。核酸の化学合成は、例えば、市販の自動オリゴヌクレオチド合成装置上で行うことができる。免疫学的方法(例えば、抗原特異的抗体の調製、免疫沈降、および免疫ブロット法)は、例えば、Current Protocols in Immunology, ed. Coligan et al., John Wiley & Sons, New York, 1991およびMethods of Immunological Analysis, ed. Masseyeff et al., John Wiley & Sons, New York, 1992に記載されている。遺伝子導入および遺伝子療法の慣用の方法も、本発明において用いるために適合することができる。例えば、Gene Therapy: Principles and Applications, ed. T. Blackenstein, Springer Verlag, 1999;Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. P.D. Robbins, Humana Press, 1997およびRetro-vectors for Human Gene Therapy, ed. C.P. Hodgson, Springer Verlag, 1996を参照のこと。
【0039】
CHANGEにより単離された食作用関連遺伝子
本発明を導いた研究は、RPE細胞によるOS食作用に関与する遺伝子であって、摂動された場合に、RPEにおけるストレスおよび機能障害をもたらし得るものを同定するために行われた。かかるストレスは、黄班、網膜または脈絡膜疾患に関連する1つまたは2つ以上の望ましくない変化、例えば、リポフスチン蓄積の増加、ドルーゼン形成、または新生血管膜の発生などをもたらし得る。本明細書に記載された遺伝子の発見は、RPEによる食作用における機能障害が、かかるAMD関連の変化をもたらす鍵となる要因であるとの仮定に基づいていた。RPE細胞は、光受容体の恒常性を維持する重要な機能を行う。この難しい課題には、とりわけ食作用の毎日のプロセスおよび、毎日更新され光受容体のOSの先から脱離するOS膜の消化を含む(Young and Bok, 1969)。以下にさらに記載されるように、食作用のプロセスは、OS膜の結合、摂取および消化のステップを含む。正常な状況の下では、RPE細胞は分裂しない細胞である。従って、個人の寿命の間を通して、OS食作用の毎日のプロセスは、これらの細胞に対する多量の代謝負荷を表わすだけでなく、これら細胞内への未消化物質、特にリポフスチンの蓄積に寄与し、リポフスチンとは、A2Eなどの光受容体由来の毒性物質を含む、細胞老廃物の複合した混合物である。
【0040】
従って、1つの側面において、本発明は、RPE細胞による食作用プロセスと機能的に関連すると以前に知られていなかった遺伝子の、核酸およびタンパク質配列を提供する。本発明以前に、RPE細胞によるOS食作用の機構に関与する遺伝子の系統的な探索は行われておらず、これら遺伝子は本明細書において「食作用関連遺伝子」または「食作用遺伝子」と指定され、「PHG」と略される。AMDが複雑な多遺伝子疾患であること、またPRE食作用は多くの異なる遺伝子産物の関与が必要な多段階の細胞プロセスであるとの知識と整合して、発明者らは、1つまたは2つ以上の食作用関連遺伝子のDNA配列における多型などのわずかな変化、または食作用関連遺伝子における多型と他の遺伝子における多型の組合せが、AMDで観察される表現型を協働して産生する可能性があるとの認識に基づき、食作用関連遺伝子の同定を追求した。
【0041】
目的遺伝子を差次的発現により得るために、以下の例にさらに記載されるように、特別の発現プロファイリング戦略を開発して、CHANGE(Comparative Hybridization Analysis of Gene Expression:遺伝子発現の比較ハイブリダイゼーション解析)と名付けた。CHANGEアレイは、RPEで発現された約10,000個の遺伝子を含み、各々が96個のcDNAを含むパネルに配列されている(図1参照)。食作用遺伝子を得るために、RPE発現遺伝子のCHANGEアレイを、「+/−OS」ハイブリダイゼーションプローブの対を用いてスクリーニングした:該プローブは、in vitroのOS食作用の間の食作用RPE細胞株において(+OSプローブ)、およびOSの供給なしの対照細胞において(−OSプローブ)発現された全RNAから作製した。アレイ中の遺伝子は、さらなる解析のために、図1の矢印により示された、+OS対−OSプローブによるハイブリダイゼーションにおいてハイブリダイゼーションシグナルの変化からわかるように、OS食作用中に発現の変化(すなわち、増加または減少)を示すことに基づいて選択した。スクリーニングした約10,000個の遺伝子のうち、約60個の推定食作用関連遺伝子が、CHANGEにより検出された変化した遺伝子発現に基づき、同定された。これらのうち、食作用チャレンジ時(すなわち、+/−OSプローブによるスクリーニング)のハイブリダイゼーション強度の非常に顕著な変化を示す16個の遺伝子をランダムに選択し、更なる研究およびRPE食作用とのそれらの機能的関連の確認のために用いた。表1は、上記の食作用遺伝子であって、続いてRPE細胞によるOS食作用との関連が確認されたもののリストを提供する。これらの遺伝子は次に、例2にさらに記載される。in vitroにおけるRPE細胞によるOS食作用の間の、これらの遺伝子のmRNA発現プロファイルを示す図4も参照のこと。
【0042】
【表1】
【0043】
CHANGEにより単離されたAMDP関連遺伝子
他の側面において、本発明は、AMDと関連すると以前に知られていなかった遺伝子の、核酸およびタンパク質配列を提供する。AMD関連遺伝子を得るために、10,000個のRPE発現遺伝子のCHANGEアレイを、上記と同様に「+/−」プローブの対を用いて繰り返しスクリーニングした。AMD関連遺伝子を同定するために用いた+/−プローブは、AMDに罹患および非罹患したヒト提供者の眼のRPE/脈絡膜から抽出した、および、AMDのサルモデルの、年齢を整合させた正常および罹患した眼から抽出した、全RNAから作製した。アレイの遺伝子は、さらなる解析のために、加齢の正常な対照眼と比較して、AMDにおいて差次的(すなわち、増加または減少)発現を示すことに基づき選択した。CHANGEにより検出される変化した遺伝子発現の基準に基づき、約200個のAMD関連遺伝子が同定された。
AMD関連食作用遺伝子(「AMDP遺伝子」)を同定するために、上記の2つのCHANGEスクリーニングからのデータを比較して、RPE細胞によるOS食作用およびAMDの両方において差次的に発現されたRPE遺伝子のサブセットを同定した。上記のように、食作用CHANGEスクリーニングにより約60個の食作用遺伝子がもたらされ、推定AMD関連遺伝子は約200個となった。2つのデータベースの初めの比較により、食作用およびAMDの両方で発現変化を示す6個の遺伝子のサブセットがもたらされた(表2)。これらの遺伝子は、本明細書において、「AMD関連食作用遺伝子」または「AMD/食作用遺伝子」と指定され、「AMDP」と略される。
【0044】
【表2】
【0045】
上にリストした遺伝子のうち、CHANGEハイブリダイゼーション解析により、AMDP−1、3および6のmRNAは、対照よりAMDの眼において高いレベルで発現され、一方、AMDP−2、4および5の遺伝子の発現レベルは、対照よりAMDの眼において低かった。AMDP遺伝子はさらに下の例3に記載される。
【0046】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物をコードする核酸配列およびそれらの多型変異体
上記のように、本発明は、RPE食作用の間におよび/またはAMDにおいて発現の変化を示すことが、差次的クローニング戦略(CHANGE)により発見された遺伝子に関連する、核酸およびアミノ酸配列を提供する。1つの態様において、本発明は、この戦略により単離された、新規な精製された核酸(ポリヌクレオチド)を提供する。本発明の、以前に知られていなかった核酸は、本明細書においてPHG−1(配列番号1);PHG−4(配列番号4);PHG−5(配列番号5);PHG−13(配列番号12);およびAMDP−3(配列番号17)と同定された核酸配列を含む。これらの核酸は、それぞれ、本明細書において配列番号71〜79;82〜84;85;92〜98;および103〜121として同定されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。
【0047】
本発明はまた、RPE食作用および/またはAMDに関連すると以前に知られていなかった、特徴づけられた核酸およびポリペプチドの使用を包含する。以前に特徴づけられていた遺伝子の、食作用およびAMDとの関係は、RPE食作用の間におよび/またはAMD患者における変化した発現に基づいて発見された。後者のグループの核酸は、プロスタグランジンD2合成酵素(配列番号2);ミエリン塩基性タンパク質(配列番号3);ピーナッツ様2/セプチン4(配列番号6);コアクトシン様1(配列番号7);クラステリン(配列番号8);カゼインキナーゼ1エプシロン(配列番号9);フェリチン重ポリペプチド1(配列番号10);メタルギジン(配列番号11);レチンアルデヒド結合タンパク質1(配列番号13);アクチンガンマ1(配列番号14);膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)(配列番号15);およびSWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質(配列番号16)を含む。
本発明の核酸分子は、RNAの形態またはDNAの形態(例えば、cDNA、ゲノムDNA、および合成DNA)であることができる。本発明の好ましい核酸分子は、それぞれの天然のポリヌクレオチドであり、本明細書において配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、および17と示されたヌクレオチド配列を含有する。
【0048】
天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードするコード配列は、配列番号1〜17で示されるヌクレオチド配列のそれと同一であってよい。これらはまた、遺伝子コードの冗長性または縮退の結果、配列番号1〜17で表わされるポリヌクレオチドと同じポリヌクレオチドをコードする、異なるコード配列であってもよい。本発明に包含される他の核酸分子は、配列番号1〜17の変異体、例えば、本明細書に記載された食作用関連およびAMDP関連遺伝子の断片、類似体および誘導体をコードする変異体である。かかる変異体は、例えば、天然の食作用関連およびAMDP関連遺伝子の天然に存在する対立遺伝子多型、天然の食作用関連およびAMDP関連遺伝子のホモログ、スプライス変異体、または食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然に存在しない変異体であってよい。これらの変異体は、対応する天然の配列番号1〜17と1つまたは2つ以上の塩基において異なるヌクレオチド配列を有する。例えば、かかる変異体のヌクレオチド配列は、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の1つまたは2つ以上のヌクレオチドの欠失、付加または置換を特徴とすることができる。
【0049】
幾つかの用途において、変異体核酸分子は、食作用関連および/またはAMDP関連の機能活性を実質的に維持するポリペプチドをコードする。他の用途に対して、変異体核酸分子は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の機能活性が欠けているか、またはその大幅な低下を特徴とするポリペプチドをコードする。天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の機能活性を維持することが望ましい場合には、好ましい変異体核酸は、サイレントなまたは保存的ヌクレオチド変化を特徴とする。
【0050】
他の用途において、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の1つまたは2つ以上の機能活性に大きな変化を示す変異体食作用関連および/またはAMDP関連ポリペプチドは、コードされたポリペプチドにおける保存的変化より少ない変化を引き起こすヌクレオチド置換を作製することにより、作ることができる。かかるヌクレオチド置換の例は、(a)ポリペプチド骨格の構造、(b)ポリペプチドの電荷または疎水性;または(c)アミノ酸側鎖の量、における変化をもたらすものである。タンパク質の特性に最大の変化をもたらすことが一般に予想されるヌクレオチド置換は、コドンにおいて非保存的変化を引き起こすものである。タンパク質構造に主要な変化を引き起こし得るコドン変化の例は、(a)例えばセリンまたはソレオニンなどの親水性残基の、疎水性残基、例えばロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリンまたはアラニンなどによる置換;(b)システインまたはプロリンの、任意の他の残基による置換;(c)電荷が正の側鎖を有する残基、例えば、リジン、アルギニン、またはヒスチジンの、電荷が負の残基、例えばグルタミンまたはアスパラギンによる置換;または(d)大量の側鎖を有する基、例えばフェニルアラニンの、側鎖を有さないもの、例えばグリシンによる置換、を引き起こすものである。
【0051】
本発明内の天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然に存在する対立遺伝子多型は、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と少なくとも75%(例えば、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、および99%)の配列同一性を有し、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と共通の少なくとも1つの機能活性を有するポリペプチドをコードする核酸である。本発明における天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のホモログは、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と少なくとも75%(例えば、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、および99%)の配列同一性を有し、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と共通する少なくとも1つの機能活性を有するポリペプチドをコードする、非ヒト種から単離された核酸である。
【0052】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然に存在する対立遺伝子多型および、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のホモログは、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然の機能活性(例えば、MT1−MMPの場合はプロゲラチナーゼAの活性化)について、当分野に知られた技法を用いてスクリーニングすることにより、単離することができる。かかるホモログおよび対立遺伝子多型のヌクレオチド配列は、従来のDNA塩基配列決定法により決定することができる。代替的に、公開の、または非機密の核酸データベースを探索して、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子に対して高い割合(例えば、70、80、90%、95%またはそれ以上)の配列同一性を有する他の核酸分子を同定することもできる。
【0053】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然に存在しない変異体は、天然には存在せず(例えば、人の手により作製され)、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と少なくとも75%(例えば、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、および99%)の配列同一性を有し、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と共通する少なくとも1つの機能活性を有するポリペプチドをコードする、核酸である。天然に存在しない食作用関連および/またはAMDP関連核酸の例は、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の断片をコードするもの、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子にハイブリダイズするもの、またはストリンジェント条件下における天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の補体、および天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と少なくとも65%の配列同一性を共有するもの、または天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の補体、および食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子融合タンパク質をコードするものである。
【0054】
本発明における食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の断片をコードする核酸は、例えば、それぞれの食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の2、5、10、25、50、100、150、200、250、300、またはそれ以上のアミノ酸残基をコードするものである。より短いオリゴヌクレオチド(例えば、長さが6、12、20、30、50、100、125、150または200塩基)であって、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の断片をコードする核酸配列をコードするかこれにハイブリダイズする、前記オリゴヌクレオチドも、プローブ、プライマー、またはアンチセンス分子として用いることができる。より長いポリヌクレオチド(例えば、300、400、500、600、700、800、900、1000、11000、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、21000、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、またはこれ以上の塩基、例えば、4000、5000、6000、7000、8000、および9000塩基)であって、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の断片をコードする核酸配列をコードするかこれにハイブリダイズする、前記ポリヌクレオチドも、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の代わりに、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の機能活性を調節することが望まれる場合の用途において用いることができる。食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の断片をコードする核酸は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の完全長配列またはその変異体の、酵素消化(例えば、制限酵素を用いて)または化学的分解により、作製することができる。
【0055】
ストリンジェント条件下において配列番号1、4、5、12および17で表わされる核酸または配列番号1、4、5、12および17で表わされる補体にハイブリダイズする核酸もまた、本発明に包含される。例えば、かかる核酸は、低ストリンジェンシー条件、中ストリンジェンシー条件、または高ストリンジェンシー条件の下で、配列番号1、4、5、12および17に、または配列番号1、4、5、12および17で表わされる補体にハイブリダイズするものであってよい。好ましいかかる核酸は、配列番号1、4、5、12または17の全体または一部の補体のヌクレオチド配列を有するものである。本発明における配列番号1、4、5、12および17で表わされる他の変異体は、配列番号1、4、5、12および17に、または配列番号1、4、5、12および17で表わされる補体に対して少なくとも65%(例えば、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、および99%)の配列同一性を共有するポリヌクレオチドである。配列番号1、4、5、12および17もしくは配列番号1、4、5、12および17で表わされる補体に、ストリンジェント条件下においてハイブリダイズする核酸、または、これに対して少なくとも65%の配列同一性を共有する核酸は、当分野に知られた技法により得ることができる。
【0056】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の融合タンパク質をコードする核酸分子、例えば本明細書において配列番号1〜17として記載された核酸によりコードされる核酸分子もまた、本発明に包含される。かかる核酸は、好適な宿主中に導入された場合に食作用関連および/またはAMDP関連融合タンパク質を発現するコンストラクト(例えば、発現ベクター)を調製することにより、作製することができる。例えば、かかるコンストラクトは、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質、例えばMT1−MMPをコードする第1のポリヌクレオチドを結合し、他のタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドと共にフレーム内に融合することにより作製でき、これにより好適な発現系におけるコンストラクトの発現が、融合タンパク質を産生する。
【0057】
本発明は、上に記載したように、食作用関連および/またはAMDP関連ポリペプチドをコードする核酸配列にハイブリダイズすることができる、標識された核酸プローブを包含する。本発明の核酸分子は、当業者に対し、生物材料中において本発明の核酸配列を検出するのに用いるためのヌクレオチドプローブを作成することを可能とする。プローブは、ハイブリダイゼーションにおいて、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子を検出するために用いてもよい。この技法は一般に、患者または他の細胞源からのサンプルから得た核酸(例えばmRNA分子)を、本発明のプローブと、核酸の補体配列への、プローブの特異的アニーリングに有利な条件の下で接触させインキュベートさせることを含む。インキュベーションの後、アニーリングされなかった核酸は除去され、プローブにハイブリダイズした核酸の存在が、もしあれば検出される。
【0058】
本発明の核酸分子の検出は、増幅法(例えばOPCR)を用いた特定遺伝子配列の増幅と、続いて、当業者に知られた技法を用いる増幅された分子の解析を含むことができる。好適なプライマーは、当業者によりルーチンに設計することができる。例えば、プライマーは、商業的に利用可能なソフトウェア、例えばOLIGO4.06プライマー解析ソフトウェア(National Biosciences, Plymouth Minn.)または他の適当なプログラムを用いて設計してもよく、長さが約22〜30ヌクレオチドであり、約50%またはこれ以上のGC含有量を有し、および約60℃〜72℃の温度においてテンプレートにアニーリングされる。
【0059】
本明細書に記載されているハイブリダイゼーションおよび増幅技法は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子発現の定性的および定量的側面を評価するために用いることができる。例えば、RNAは、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子、例えば配列番号1〜17を有する遺伝子を発現することが知られている細胞型または組織から単離することができ、ハイブリダイゼーション(例えば、標準ノーザン解析)または本明細書で言及されているPCR技法を利用して試験することができる。技法は、例えば、正常または異常な選択的スプライシングによる可能性のある、転写物のサイズの違いを検出するために用いることができる。技法は、疾患の症状を示す人と比較して、正常な個人において検出される、全長および/または選択的にスプライシングされた転写物のレベルの定量的な差を検出するために、用いることができる。プライマーおよびプローブは、in situで、すなわち、生検、切除術、アイバンクの眼から得た患者組織の組織切片上(固定および/または凍結)で、上記の方法において直接用いることができる。本発明のプローブおよびプライマーの特定の使用は、以下の例にさらに記載される。
【0060】
食作用関連および/またはAMD関連核酸の遺伝学的スクリーニング(遺伝子検査)
他の側面において、本発明は、対象の網膜または脈絡膜疾患または変性状態を発症するリスクを決定するための方法を提供する。本明細書において、「網膜または脈絡膜疾患または変性状態」とは、限定なく、眼の網膜または脈絡膜の任意の状態であって、光受容体、RPE細胞または網膜の他の細胞型の損傷または死をもたらすもの、または、脈絡膜細胞型であって、限定なく、内皮細胞、メラノサイト、平滑筋細胞、繊維芽細胞、リンパ球、好中球、好酸球、巨核球、単核球、マクロファージおよびマスト細胞を含むものの損傷、死または異常な増殖をもたらすものである。
【0061】
網膜および/または脈絡膜を侵す変性状態は、加齢または他の黄斑変性症を含み、これらは限定なく、以下を含む:加齢黄斑変性(AMD)、遺伝および早期発症型の黄斑変性(家族性AMD)例えばスタルガルト病/黄色斑眼底、ベスト病/卵黄様ジストロフィー、先天性びまん性ドルーゼン(congenital diffuse drusen)/ドインのハニカム網膜ジストロフィー、パターンジストロフィー、ソルスビー黄斑ジストロフィー、傍中心窩毛細血管拡張症、脈絡膜萎縮症、優性ドルーゼン(dominant drusen)、結晶性ドルーゼン、輪状黄斑ジストロフィー、潜在性(不顕性)脈絡膜新生血管膜、先天性脈絡膜欠如、特発性ブルズアイ(idiopathic bulls-eye)黄斑変性症、脳回転性および種々の遺伝性網膜色素変性状態。網膜および脈絡膜の他の疾患または変性状態は、以下を含む:毒性黄斑変性症、例えばプラケニル(plaquenil)毒性などの薬剤誘発性黄斑変性症、網膜はく離を含む網膜疾患、光性網膜症、外科手術により誘発される網膜症、毒性網膜症、未熟児網膜症、CMVなどのウィルス性網膜症またはAIDS関連HIV網膜症、ブドウ膜炎、静脈もしくは動脈閉塞または他の血管疾患による虚血性網膜症、トラウマまたは眼の貫通病変による網膜症、周辺硝子体網膜症、および眼を侵す癌、例えば網膜芽細胞腫および脈絡膜メラノーマ。
【0062】
リスクを決定するための方法は、対象の核酸を、AMD関連または食作用関連遺伝子における多型の存在についてスクリンーニングすることを含み、ここで多型の存在は、多型のない対照に比べて、前記対象が網膜または脈絡膜疾患または変性疾患を発症するより高いリスクにあることを示す。本明細書において、「正常」または「野生型」ヌクレオチドは、一般の集団においてその位置での優性な塩基であることが知られている、対象のDNAにおける特定位置に位置する塩基である。「多型」、「多型変異体」、または「多型塩基またはヌクレオチド」は、天然に存在する塩基変化であって、「野生型」を表わす塩基よりも、一般集団において低い頻度で生じる塩基変化である。本明細書において「多型」は、「突然変異」と認識される塩基変化も含むことができる。
【0063】
本発明の食作用関連および/またはAMDP関連核酸は、それのみで、または1種もしくは2種以上の他の核酸と組み合わせて、生物学的サンプルのハイブリダイゼーション、増幅およびスクリーニング解析に用いて、点突然変異、挿入、欠失、および染色体再配置を含む異常を検出することができる。遺伝学的スクリーニング法は分子医学の分野においてよく知られている。例えば、ゲノムDNAを用いて、直接配列決定、一本鎖DNA高次構造多型解析、ヘテロデュプレックス分析、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動、化学的ミスマッチ開裂(chemical mismatch cleavage)、およびオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション(遺伝子アレイにおけるオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを含む)を利用することができる。一般に、ゲノムDNAサンプルは、対象から、例えば対象の末梢血から、またはアイバンクの眼などの供与された組織から調製された生物学的サンプルから、得ることができる。DNAは、特定の遺伝子配列、例えば、目的の特定のエクソン、イントロンまたはプロモーター配列の増幅のために用いる。対象のDNA中の多型の存在を検出するために、一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)解析、ヘテロデュプレックス分析、およびこれらの自動化版を用いることができ、続いてDNA塩基配列決定を行って、特定の塩基変化(複数含む)を決定する。これらの方法はまた、報告された多型について、例えばヒトゲノム一塩基変異多型(SNP)データベースで利用可能なものについて確認するためにも有用である。
【0064】
本発明は、患者を、RPE食作用および/またはAMDに関連する遺伝子の多型変異体についてスクリーニングするための方法を提供する。1つの好ましい方法において、センスおよびアンチセンスプライマー(アンプリマー)の対を、目的遺伝子の核酸配列に基づいて設計し、遺伝子内の1つまたは2つ以上のエクソン、イントロン、またはプロモーター配列を増幅するために用いる。AMDおよび他の脈絡膜疾患を有する患者における突然変異および多型についてスクリーニングするために有用な遺伝子の1つの好ましい群は、本明細書において食作用および/またはAMDに相関することが示された、以前には知られていなかった遺伝子を含み、これらのcDNA配列は、本明細書において配列番号1、4、5、12、および17として同定されている。他の好ましい遺伝子は、これらもまた本明細書において食作用および/またはAMDに関連することが示され、本明細書において配列番号2、3、6、7、8、9、10、11、13、14、15、および16として記載された核酸(cDNA)配列を有する(上記表1および表2参照)。本明細書に示されるように、AMDおよび食作用に関連する例示の遺伝子は、MT1−MMP(配列番号15)である。本明細書に開示された食作用関連および/またはAMD関連遺伝子のエクソン、イントロン、またはプロモーター配列を増幅するための好適な任意のアンプリマーは、分子生物学分野の当業者により設計することができ、DNAサンプルを突然変異および/または多型についてスクリーニングするために用いることができる。例示の特定のアンプリマー対であって、ヒトMT1−MMP遺伝子のエクソン1〜10、イントロン1〜19およびプロモーター領域の増幅に好適なものは、下の表3に開示される。
【0065】
本発明の核酸はまた、アレイにおける複数遺伝子のスクリーニングに用いることもできる。本発明の任意の核酸分子由来のオリゴヌクレオチドまたはより長い断片は、マイクロアレイなどの遺伝子アレイにおいて標的として用いてもよい。アレイにおける遺伝子標的は、例えば、本明細書に開示された食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子(すなわち配列番号1〜17)の任意の組み合せに由来する核酸、および、任意の以前に記載された核酸であって、例えば、以前にRPE食作用および/またはAMDPと関連し、限定することなく本明細書で配列番号62〜69として同定された配列に由来するものを含む核酸を、含むことができる。アレイに含まれるオリゴヌクレオチド配列は、目的の天然のヒト遺伝子の、イントロン、エクソン、またはプロモーター配列内に位置する配列に由来することができる。好ましくは、アレイは、目的遺伝子の全ての既知の多型変異体を包含するオリゴヌクレオチド配列を含む。例えばAMDなどの眼の疾患を有する患者のDNAのスクリーニングに適する、特に好ましいカスタムアレイは、正常対象の対照集団と比べて、AMDおよび関連疾患を有する患者の集団において増加した発生率を有する特定の多型変異体を示すことが示された遺伝子の、全ての既知の多型変異体を含む。以前に報告されたAMDに相関する多型または突然変異体を有する遺伝子のリストは、下の表5を参照のこと。従って、AMDのスクリーニングに有用な本発明のカスタムアレイに含めるのに好適な遺伝子、およびAMDの増加した発生率(括弧内)を示すこれら遺伝子の関連する多型変異体には、限定はされないが、以下を含むことができる:MT1−MMP(P259P;D273N);ABCR(D217N;G1961E)、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(V47A)、アポリポタンパク質E(C130、R176CおよびC130R、R176)、シスタチンC(A25T)およびパラオキソナーゼ(Q192R、L54M)。
【0066】
本発明の遺伝子アレイは、例えば、多数の遺伝子の発現レベルを同時にモニタリングすること、および複数遺伝子における遺伝的変異、突然変異、および多型を同定することに、用いることができる。患者DNAサンプルのアレイへのハイブリダイゼーションの解析から得られる情報は、例えば、遺伝子機能を決定するため、疾患の遺伝的基礎を理解するため、疾患を発症する可能性を診断または予測するため、または治療剤を開発しその活性をモニタリングするために、用いることができる。マイクロアレイを含む遺伝子アレイの調整、使用、および解析は、当業者に知られている。(例えば、Brennan, T. M. et al. (1995) 米国特許第5,474,796号;Schena et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. 93: 10614-10619;Baldeschweiler et al. (1995)PCT出願 WO95/251116;Shalon D. et al. (1995) PCT出願 WO95/35505;Heller, R. A. et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. 94:2150-2155;およびHeller, M. J. et al. (1997) 米国特許第5,605,662号およびCronin M. et al. (2003) 米国特許第6,632,605号を参照)。
【0067】
食作用関連およびAMDP関連遺伝子産物の発現または活性を調節する剤
他の側面において、本発明は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のmRNAまたはタンパク質の発現レベルを調節する剤を提供する。下方制御用の標的とするのに好ましい遺伝子/タンパク質は、AMDおよび関連疾患において発現の増加を示すものであり、本明細書に示されるように、プロスタグランジンD2合成酵素、PD2S(それぞれの核酸およびアミノ酸配列:配列番号2および80)、MT1−MMP(配列番号15および101)、およびAMDP−3(配列番号17および103〜121)を含む。上方制御用に標的とするのに好ましい遺伝子/タンパク質は、AMDおよび関連疾患において発現の低下を示すものであり、本明細書に示されるように、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質(配列番号16および102)、カゼインキナーゼ1エプシロン(配列番号9および89)、フェリチン重ポリペプチド1(配列番号10および101)を含む。
【0068】
AMDP関連および/または食作用関連mRNAまたはタンパク質は、天然の、すなわち「野生型」mRNAまたはタンパク質であることができ、例えば、天然のMT1−MMPである。他の態様において、AMDP関連または食作用関連遺伝子の多型変異体を、例えば発現されたmRNAまたはタンパク質の改変された機能をもたらすものについて標的化する。改変されたmRNAまたはタンパク質は阻害され、一方で、野生型mRNAまたはタンパク質は無傷のまま残る。
発現の下方制御に用いられる阻害剤は、例えば、アンチセンスRNA分子、リボザイム、低分子干渉RNA(RNAi)分子および三重らせん構造を含むことができる。かかる剤の好ましい態様は、PD2S(配列番号2)、MT1−MMP(配列番号15)、およびAMDP−3(配列番号17)、またはこれらの変異体に対するものである。阻害剤はまた、過剰発現された食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質、例えばPD2S、MT1−MMPまたはAMDP−3に、選択的に結合する抗体分子も含むことができる。
【0069】
本発明内のアンチセンス核酸分子は、細胞条件下において、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の発現を阻害する様式で、例えば、転写および/または翻訳を阻害して、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質をコードする細胞mRNAおよび/またはゲノムDNAに、特異的にハイブリダイズする(例えば結合する)ものである。結合は、従来の塩基対の相補性によるもの、または例えば、DNAデュプレックスへの結合の場合は、二重らせんの主要な溝(groove)における特定の相互作用を通じたものであってよい。アンチセンス分子の設計のための方法は当業者によく知られている。アンチセンス療法に有用なオリゴマーを作成する一般的なアプローチは、例えば、Van der Krol et al. (1988) Biotechniques 6:958-976;Stein et al. (1988) Cancer Res 48:2659-2688;およびNarayanan, R. and Aktar, S. (1996): Antisense therapy. Curr. Opin. Oncol. 8(6):509-15に概説されている。非限定的例として、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、以下の領域:mRNAキャップ領域;翻訳開始部位;翻訳終了部位;転写開始部位;転写終了部位;ポリアデニル化シグナル;3’未翻訳領域;5’未翻訳領域;5’コード領域;中間コード領域;3’コード領域、にハイブリダイズするよう標的化することができる。
【0070】
アンチセンスコンストラクトは、例えば、細胞内に転写された場合に、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物をコードする細胞mRNAの少なくとも固有の部分に相補的なRNAを産生する発現プラスミドとして、送達することができる。代替的に、アンチセンスコンストラクトは、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子発現細胞内に導入された場合に、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードするmRNAおよび/またはゲノム配列とハイブリダイズすることにより、対応する遺伝子の発現の選択的阻害を引き起こす、ex vivoで生成されるオリゴヌクレオチドプローブの形態をとることができる。かかるオリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは内因性ヌクレアーゼに耐性のある修飾オリゴヌクレオチドであり、例えば、エクソヌクレアーゼおよび/またはエンドヌクレアーゼであり、従ってin vivoで安定である。アンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いる例示の核酸分子は、DNAのホスホラミデート、ホスホロチオエートおよびメチルホスホネートアナログである(例えば、米国特許第5,176,996号;5,264,564号;および5,256,775号を参照)。アンチセンスDNAについては、翻訳開始部位、例えば食作用関連またはAMDP関連遺伝子をコードするヌクレオチド配列の−10〜+10領域に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。
【0071】
アンチセンスアプローチには、食作用関連および/またはAMDP関連mRNAに相補的なオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNAのどちらか)の設計が伴う。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、食作用関連またはAMDP関連遺伝子のmRNA転写物に結合し、翻訳を防止する。絶対的な相補性は好ましいが、必要ではない。ハイブリダイズする能力は、相補性の程度およびアンチセンス核酸の長さの両方に依存する。一般に、ハイブリダイズする核酸が長いほど、RNAとのより多くの塩基ミスマッチを含み得るが、それでもなお安定なデュプレックス(または場合によってはトリプレックス)を含むことができ、これを形成する。当業者は、ミスマッチの許容程度を、標準の方法を用いて確認し、ハイブリダイズされた複合物の融点を決定できる。メッセージの5’末端に相補的なオリゴヌクレオチド、例えば、AUG開始コドンを含みそこまでの5’未翻訳の配列は、阻害翻訳(inhibiting translation)において一般に最も効率的に働く。しかし、mRNAの3’未翻訳配列に相補的な配列は、mRNAの阻害翻訳においても効率的であることが示された。(例えば、Wagner, R. (1994) Nature 372:333を参照。)従って、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の5’または3’未翻訳非コード領域のどちらかに相補的なオリゴヌクレオチドは、アンチセンスアプローチにおいて、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の内因性mRNAの翻訳を阻害するために用いることができる。mRNAの5’未翻訳領域に相補的なオリゴヌクレオチドは、AUG開始コドンの補体を含まねばならない。mRNAコード領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、翻訳のより非効率的な阻害剤であるが、本発明に従って用いることができる。食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のmRNAの5’、3’またはコード領域にハイブリダイズするよう設計する場合、アンチセンス核酸は、少なくとも6ヌクレオチド長の長さであり、好ましくは約100より短く、より好ましくは約50、25、17または10ヌクレオチド長より短い。
【0072】
標的配列の選択に関わらず、in vitro研究を最初に行って、アンチセンスオリゴヌクレオチドの遺伝子発現を阻害する能力を定量化するのが好ましい。これらの研究は、オリゴヌクレオチドのアンチセンス遺伝子阻害と非特異的生物学的効果とを識別する対照を利用するのが好ましい。対照オリゴヌクレオチドは、試験するオリゴヌクレオチドとほぼ同じ長さであるのが好ましく、対照オリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列が、アンチセンス配列のそれと、標的配列への特異的ハイブリダイゼーションを防ぐのに必要な量を超えない範囲で異なることが好ましい。
【0073】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの修飾塩基部分を含むことができ、該修飾塩基部分は、限定はされないが以下を含む群から選択される:5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシエチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ−D−ガラクトシルケオシン(galactosylqueosine)、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−イジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、ベータ−D−マンノシルケオシン(mannosylqueosine)、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、wybutoxiosine、プシュードウラシル、ケオシン(queosine)、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6−ジアミノプリン。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、少なくとも1つの修飾糖部分であって、限定なく、アラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロース、およびヘキソースを含む群から選択される前記修飾糖部分を含んでもよく、そしてさらに、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホラミドチオエート、ホスホラミデート、ホスホロジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステル、およびホルムアセタールおよびこれらの類似体からなる群から選択される少なくとも1つの修飾ホスフェート骨格を含んでもよい。
【0074】
本発明のオリゴヌクレオチドは、当分野で知られた標準の方法により、例えば、DNA自動合成装置により、合成してもよい。例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、Stein et al. (1988) Nucl. Acids Res. 16:3209による方法により合成することができ、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドは、例えば、制御された孔ガラスポリマー支持体の使用により調製することができる(Sarin et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:7448-7451)。
【0075】
アンチセンス分子は、in vivoで食作用関連またはAMDP関連遺伝子を発現する細胞内に送達することができる。アンチセンスDNAまたはRNAを細胞内に送達するための多くの方法が開発されており、当分野で知られている。多くの場合、内因性mRNAの翻訳を抑制するのに十分なアンチセンスの細胞内濃度を実現することが困難であるため、好ましいアプローチでは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを強いプロモーターの制御下に置く、組換えDNAコンストラクトを利用する。かかるコンストラクトを、対象における標的細胞のトランスフェクションに使用すると、好ましくは、それぞれのmRNAの翻訳を予防するのに十分な量の、目的遺伝子産物をコードする内因性転写産物とハイブリダイズする一本鎖RNAの転写がもたらされる。例えば、ベクターは、細胞によって取り込まれ、アンチセンスRNAの転写を導くよう、in vivoに導入することができる。かかるベクターはエピソームのまま残ることができ、または、所望のアンチセンスRNAを産生するように転写され得る限り、クロモゾーム的に一体化することができる。かかるベクターは、当分野で標準的なの組換えDNA技術の方法により作成することができ、これは以下にさらに記載される。ベクターは、哺乳類細胞における複製および発現に用いられる、当分野に知られた、プラスミド、ウィルス、またはその他であることができる。
【0076】
アンチセンスRNAをコードする配列の発現は、哺乳類において、そして好ましくはヒト細胞において作用することが当分野で知られている、任意のプロモーターによることができる。かかるプロモーターは、誘導的または構成的(constitutive)であることができる。かかるプロモーターは、限定なく、以下を含むことができる:SV40早期プロモーター領域(Bermoist and Chambon, 1981, Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウィルスの3’長末端反復に含まれるプロモーター(Yamamoto et al., 1980, Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., 1981, Proc, Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:1441-1445)、およびメタロチオネイン遺伝子の調節塩基配列(Birnster et al., 1982, Nature 296:39-42)。組織または細胞特異的発現に有用なプロモーター、例えば、光受容体、RPE細胞、または内皮細胞もしくはメラノサイトなどの脈絡膜細胞型において有用なプロモーターも、当分野に知られており、下の例7にさらに記載される。
【0077】
リボザイムは、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の発現を下方制御できる剤の、他の好ましい態様である。リボザイム分子は、目的遺伝子の転写物を触媒的に開裂し、そのポリペプチドへの翻訳を予防するように設計される。(例えば、Sarver et al. (1990) Science 247:1222-1225および米国特許第5,093,246号を参照)。一般にリボザイムは、RNAにおける部位特異的開裂またはホスホジエステル結合の連結反応(ligation)を触媒する。部位特異的認識配列においてmRNAを開裂するリボザイムの種々の形態を、食作用関連またはAMDP関連mRNAを破壊するのに用いることができるが、ハンマーヘッド型リボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッド型およびヘアピンリボザイムは、塩基の、相補的RNA標的配列との対形成によって作用し、特定部位での開裂反応を実施するRNA分子である。ハンマーヘッド型の場合、リボザイムは、UXジヌクレオチドの後を開裂し、ここでXは、グアノシン以外の任意のリボヌクレオチドであることができるが、ただしXがシトシンの場合に開裂速度が最も高い。触媒効率は、ウリジンの前のヌクレオチドによっても影響される。実際、NUXトリップレット(典型的には、GUC、CUCまたはUUC)が、標的mRNAに必要である。かかる標的は、その部位を囲む約12または13個のヌクレオチドのアンチセンスRNAを設計するために用いられるが、しかしここでリボザイムと従来の塩基対を形成しないCはスキップする。
【0078】
合成ハンマーヘッド型リボザイムは、相補的mRNA分子を選択的に結合および開裂し、次に断片を解放し、このプロセスをタンパク質酵素の効率で繰り返すように、設計することができる。これは例えば、触媒的にではなく、むしろ化学量論的に標的配列と1:1複合体を形成するアンチセンスオリゴヌクレオチドに対して、大きな利点を提供することができる。本発明のハンマーヘッド型リボザイムは、6−4−5ステム−ループ−ステム構成、またはこの目的に好適な任意の他の構成で設計可能である。一般に、化学的な開裂のステップは迅速であり、解放ステップが律速的であるため、リボザイムのハイブリダイズ用「アーム」(ヘリクスIおよびIII)が比較的短ければ、例えば約5または6個のヌクレオチドであれば、スピードおよび特異性が増強される。特定構成の設計の好適性は、当業者に知られた種々のアッセイを用いて実験的に決めることができる。
【0079】
ハンマーヘッド型リボザイムの構成および産生は当業者に知られており、例えばHaseloff and Gerlach (1988) Nature 334:585-591にさらに完全に記載されている。天然の食作用関連またはAMDP関連遺伝子のヌクレオチド配列、例えば、配列番号1〜17によりコードされるヌクレオチド配列の中には、多数の潜在的なハンマーヘッド型リボザイムの開裂部位がある。好ましくはリボザイムは、効率を高め非機能的mRNA転写物の細胞内蓄積を最小化するために、開裂認識部位が、食作用関連および/またはAMDP関連mRNAの5’末端近くに位置するように設計される。本発明内のリボザイムは、下記のようにベクターを用いて細胞に送達することができる。
【0080】
本発明のリボザイムはまた、RNAエンドリボヌクレアーゼ(以下では「Chec型リボザイム」)、例えばTetrahymena thermophila(IVSまたはL−19IVS RNAとして知られている)に天然に存在し、Thomas Cech および同僚らによって幅広く記載されているものなどを含む(例えば、Zaug et al., (1984), Science, 224:574-578;Been and Cech, (1986), Cell, 47:207-216を参照)。Chec型リボザイムは、標的RNA配列にハイブリダイズし、その後に標的RNAの開裂が起こる、8つの塩基対活性部位を有する。本発明は、本発明の目的ペプチドおよびタンパク質に特異的なmRNA中に存在する、8つの塩基対活性部位配列を標的化するChec型リボザイムを包含する。
【0081】
本発明内のさらに他の好ましい剤は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の発現を下方制御する、RNA媒介干渉(RNAi)分子である。RNAiメカニズムは、配列においてdsRNAに非常に相同な遺伝子のサイレンシングの引き金となる二本鎖DNA(dsDNA)の使用を含む。RNAiは、植物、線虫(Caenorhabditis elegans)、ショウジョウバエ(Drosophila)、両生類および哺乳類などの多様な生物に共通する、進化的に保存された現象である。これは、ゲノムを、トランスポゾンおよびウィルスなどの可動性の遺伝要素による侵入から守るために進化したと考えられる。複数ステップのプロセスにおいて、活性化された低分子干渉RNA(siRNA)分子は、Dicerと呼ばれるRNase IIIエンドヌクレアーゼの反応を介して、in vivoで産生される。得られた21〜23ヌクレオチドsiRNA分子は、相補的相同RNAの分解を媒介する(Zamore et al., 2000; Grishok et al., 2000)。
【0082】
天然に存在しないRNAi分子は、当分野に知られた方法により合成でき、目的遺伝子の発現を抑制するために有利に用いることができる。哺乳類細胞において、30ヌクレオチドより長いdsRNAは、抗ウィルス反応を活性化させ、RNA転写物の非特異的分解および宿主細胞タンパク質翻訳の一般的な停止をもたらすことが知られている。しかし、哺乳類細胞における遺伝子特異的抑制は、in vitroで合成された約21ヌクレオチド長のsiRNAによって達成でき、これらの分子は、遺伝子特異的抑制を誘導するのに十分長く、しかし、宿主インターフェロン反応を回避するのに十分短い(Elbashir, S.M. et al., 2001)。当業者は、特定のmRNA標的配列に対するRNAiの設計に、コンピュータープログラムが利用可能であることを認識する。
低分子阻害RNA分子(small inhibitory RNA molecule)は、細胞内でタンパク質複合体に結合することにより作動し、これは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれ、これはヘリカーゼ活性およびエンドヌクレアーゼ活性を含む。ヘリカーゼ活性は、RNA分子の2本鎖を解き、siRNAのアンチセンス鎖を標的RNA分子に結合させる(Zamore, 2002; Vickers et al., 2003)。エンドヌクレアーゼ活性は、標的RNAをアンチセンス鎖が結合した部位において加水分解する。
【0083】
RNAi戦略は、ベクターに基づくアプローチをうまく組み合わせて、トランスフェクトされた細胞における、例えばRNAポリメラーゼIII(Pol III)プロモーターの制御下での、DNAテンプレートからの小RNAの合成を実現する。Pol IIIの使用は、その3’末端が4−5チミジン(T)のストレッチ内の終止(termination)により規定されている、小さな非コーディング転写物の合成を導くという利点を提供する。これらの特性により、DNAテンプレートを、in vitroで合成される活性なsiRNAに要求されることが見出だされたものに近い構造的特徴を有する小RNAの、in vivoでの合成に用いることが可能となる。かかるテンプレートを用いて、選択された目的mRNAを標的化する小RNAが、トランスフェクトされた細胞内に発現され、対応するタンパク質の合成を効率的かつ特異的に阻害することが可能であることが示された(Sui et al., 2002)。
【0084】
優性な機能獲得突然変異(gain-of-function mutation)の抑制、または、野生型配列と1つの塩基変化のみで異なることができる食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のmRNAの、望ましくない多型変異体(例えば、本明細書に記載の、MT1−MMPのAMD関連変異体の1つ)の抑制のために、異常なmRNAの発現を選択的に抑制する一方で、正常な対立遺伝子の発現を許容するのが、望ましい場合がある。RNAi技術の非常に有利な特徴は、1つのヌクレオチド特異性を有する突然変異を、選択的に抑制する能力である。このアプローチの実行可能性は、RNAiを用いて、Cu、Zn、筋萎縮側索硬化症(ALS)を引き起こすスーパーオキシドジムスターゼ(SOD1)遺伝子の発現を抑制し、一方で、正常な対立遺伝子の発現には影響を及ぼさないこと(Ding et al., 2003)により示された。
【0085】
in vivoでのRNAiの投与の有効性が、自己免疫性肝炎の数個のマウスモデルにおいて最近示された。Fasが媒介するアポトーシスが、肝臓疾患の広い範囲に関連するとされる。Fas受容体をコードするFas遺伝子(Tnfrsf6としても知られている)を標的化するsiRNAデュプレックスのin vivoでの抑制効果が、これらのモデルにおいて、肝臓機能障害および繊維症からマウスを保護することが示された。Fas siRNAの静脈内注射は、マウスの肝細胞においてFas mRNAのレベルおよびFasタンパク質の発現を特異的に低下させ、この効果は10日間低下することなく維持された。作動性のFas特異的抗体を注射することにより誘発された劇症肝炎において、Fasを効率的に抑制したsiRNAにより処置されたマウスの82%が、10日間の観察期間中生存し、一方で全ての対照マウスは3日以内に死亡した(Song et al., 2003)。同様のRNAiに基づく戦略が、AMD患者において異常な、または過剰発現された遺伝子を標的化または下方制御するのに有用であることが予想される。
【0086】
代替的に、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の発現は、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の調節領域に相補的なデオキシリボヌクレオチド配列(すなわち、食作用関連またはAMDP関連遺伝子プロモーターおよび/またはエンハンサー)を標的化して、標的化細胞内での食作用関連またはAMDP関連遺伝子の転写を妨げる三重らせん構造を形成することにより、低減することができる。(例えば、一般的に、Helene, C. (1991) Anticancer Drug Des. 6(6):569-84;Helene, C., et al. (1992) Ann. Y.Y. Acad. Sci. 660:27-36;およびMaher, L.J. (1992) Bioassays 14(12):807-15を参照)。転写の抑制のための三重らせん形成に用いる核酸分子は、好ましくは1本鎖であり、デオキシリボヌクレオチドからなる。これらのオリゴヌクレオチドの塩基構造は、三重らせん形成をフーグスチン(Hoogsteen)塩基対則を介して促進すべきであり、これには一般に、プリンまたはピリミジンのかなりのストレッチ(stretch)が、二本鎖の1つの鎖上に存在することが必要である。核酸配列は、ピリミジンに基づいてもよく、これは得られた三重らせんの3つの関連する鎖にわたってTATおよびCGCトリプレットを生じさせる。ピリミジンが豊富な分子は、二本鎖の1つの鎖のプリンが豊富な領域に相補的な塩基を、この鎖に平行な配置で提供する。さらに、核酸分子は、プリンが豊富なものから、例えば、G残基のストレッチを含むように選択してもよい。これらの分子は、GC対が豊富なDNA二本鎖と三重らせんを形成し、ここではプリン残基の大部分は標的の二本鎖の1つの鎖上に存在し、これによって、三重らせんにおける3本の鎖にわたってCGCトリプレットをもたらす。代替的に、三重らせん形成に標的化できる可能性のある配列を、いわゆる「スイッチバック」核酸分子を創生することにより増加させてもよい。スイッチバック分子は、5’−3’、3’−5’を繰り返す様式で、二本鎖の最初の1本の鎖と、次に他の鎖と塩基対を形成して合成され、プリンまたはピリミジンのかなりのストレッチが二本鎖の1本の鎖上に存在する必要性を取り除く。
【0087】
本発明のアンチセンスRNA、リボザイム、RNAiおよび三重らせん分子は、当分野においてかかる分子の合成のために知られている任意の方法により、調製することができる。これらには、当分野で知られているオリゴデオキシリボヌクレオチドおよびオリゴリボヌクレオチドの化学合成のための技法、例えば、固相ホスホラミド化学合成などを含む。代替的に、RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のin vitroおよびin vivoでの転写により産生することもできる。かかるDNA配列は、好適なRNAポリメラーゼプロモーターを組み込んだ多種類のベクターに組み込んでもよい。代替的に、用いるプロモーターに依存して構成的または誘導的にアンチセンスRNAを合成する、アンチセンスcDNAコンストラクトを用いることもできる。
【0088】
さらに、核酸分子への種々の既知の修飾も、細胞内安定性および半減期を増加するための方法として導入してもよい。可能性のある修飾には、限定はされないが、分子の5’および/または3’末端へのリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのフランキング配列の付加、または、上記のように、オリゴデオキシリボヌクレオチド骨格内で、ホスホジエステラーゼ結合の代わりにホスホロチオエートまたは2’メチルを用いることを含む。
【0089】
本発明の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の発現を下方制御できる、またはその生物活性を中和できる剤の他の態様は、タンパク質に基づく。食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の発現を調節できる、および/または生物学的機能を中和できるタンパク質の例は、食作用関連および/またはAMDP関連ポリペプチドまたはペプチドを特異的に結合する抗体である。本明細書においてmRNAレベルがAMDにおいて上昇することが示された、好ましいポリペプチドは、配列番号2、15および17を有する核酸によってコードされるもの、すなわち、本明細書においてそれぞれ配列番号80、101、および103〜121と同定されたアミノ酸配列を有するポリペプチドである。本発明の抗体は、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質と結合するかもしくはそうでなければ反応する1つまたは2つ以上の分子との反応を、干渉するために用いることができる。例えば、MT1−MMPタンパク質に対する抗体は、このタンパク質がプロゲラチナーゼAを活性化する能力を中和すると考えられる。MT1−MMPに対する抗体を用いた、本明細書に記載の研究の結果によれば、MT1−MMPの過剰発現を特徴とする、RPEに基づく疾患のラットモデルにおいて、網膜変性の遅延が示された。従って、光受容体間マトリクスにおけるMT1−MMP過剰産生の、抗MT1−MMP抗体を用いる抑制は、AMDの患者の眼において用いられて、マトリックスの破壊を低下させ、食作用を改善することができるかもしれない。
【0090】
本発明の核酸(例えば、配列番号1〜17)によりコードされるタンパク質、またはこれらの免疫原性断片またはアナログ、および最も好ましくはAMDにおいて上方制御されることが見出された核酸(すなわち、配列番号2、15および17)によりコードされるタンパク質は、本発明において有用な抗体を育てるために用いることができる。かかるタンパク質は、当業者に知られた細胞/組織からの精製、組換え技法、または化学合成により産生することができる。本発明において用いる抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、およびFab発現ライブラリを用いて産生された分子を含むことができる。例えば、Kohler et al., Nature 256:495, 1975;Kohler et al., Eur. J. Immunol. 6:511, 1976;Kohler et al., Eur. J. Immunol. 6:292, 1976;Hammerling et al., “Monoclonal Antibodies and T Cell Hybridomas,” Elsevier, N.Y., 1981; Ausubel et al., 上記;米国特許第4,376,110号、第4,704,692号および第4,946,778号;Kosbor et al., Immunology Today 4:72, 1983;Cole et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2026, 1983;Cole et al., “Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,” Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96, 1983;およびHuse et al., Science 246:1275, 1989を参照。
【0091】
食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の発現または活性を調節できる、他のタンパク質に基づく剤は、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の変異体を含み、該変異体は、リガンドに結合することについて、例えば、プロスタグランジンD2合成酵素(配列番号2)、MT1−MMP(配列番号15)、および未知遺伝子AMDP−3(配列番号17)を結合する、天然に存在するリガンドに結合することについて、対応する天然タンパク質と競合できるものである。かかるタンパク質変異体は、当分野に知られた種々の技法を通して産生することができる。例えば、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質変異体は、突然変異誘発により、例えば、離散的な点変異(複数含む)を導入することにより、または切断(truncation)により、作製することができる。変異体(複数含む)は、天然の食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質と実質的に同一の機能活性またはそのサブセットを有する、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質変異体を生じさせることができる。代替的に、タンパク質の天然形態の機能を抑制することができるタンパク質の拮抗形態も、産生することができ、例えば、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質と相互作用する他の分子に競合的に結合することにより、産生することができる。さらに、1つまたは2つ以上の食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の機能活性を構成的に発現する、タンパク質の作動的(または超作動的(superagonistic))形態を産生することができる。産生することができる、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の他の変異体は、タンパク質分解的切断に耐性であるものを含み、例えば、プロテアーゼの標的配列を変える突然変異によるものなどである。ペプチドのアミノ酸配列における変化が、天然の食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の1つまたは2つ以上の機能活性を有する食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質変異体をもたらすかどうかは、該変異体を、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子タンパク質の機能活性(例えば、受容体または他のリガンドを結合すること、または食作用などの細胞応答を誘導すること)について試験することにより、容易に決定できる。
【0092】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の発現または活性を調節できる他の剤は、非ペプチド模倣剤または食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の化学的修飾形態であって、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の他のタンパク質または分子への結合を妨害し、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物と相互作用するものである。例えば、Friedinger et al., in Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988を参照。かかる分子の例は、アゼピン(例えば、Huffman et al. in Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988を参照)、置換ガンマラクチン環(Garvey et al. in Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988)、ケト−メチレン擬ペプチド(Ewenson et al. (1986) J. Med. Chem. 29:295;およびEwenston et al. in Peptides: Structure and Function (Proceedings of the 9th American Peptide Symposium) Pierce Chemical Co. Rockland, III, 1985)、ベータターン(beta-turn)ジペプチドコア(Nagai et al. (1985) Tetrahedron Lett 26:647;およびSato et al. (1986) J. Chem. Soc. Perkin. Trans. 1:1231)、およびベータアミノアルコール(Gordon et al. (1985) Biochem. Biophys. Res. Commun. 126:419;およびDann et al. (1986) Biochem. Biophys. Res. Commun. 134:71)を含む。
【0093】
食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質はまた、化学的に修飾されて、他の化学部分、例えばグリコシル基、脂質、ホスフェート、アセチル基等と共有結合複合体または集合複合体を形成することにより、タンパク質誘導体を生成する。食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の共有結合誘導体は、タンパク質のアミノ酸側鎖上で、またはポリペプチドのN末端で、もしくはC末端で、化学部分を官能基に結合することにより、調製することができる。
【0094】
食作用関連またはAMDP関連遺伝子の発現または活性を調節できる剤の他の態様は、小分子である。化学クラスの広い範囲からの小分子は、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の活性に干渉し、例えば、タンパク質と結合して、その活性を不活性化することにより、または代替的に、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の標的に結合することにより、タンパク質とその標的の相互作用に干渉する。目的の遺伝子/タンパク質の性質に依存して、阻害性小分子は、種々の目的、例えば1)基質または標的の作用タンパク質に対する結合部位を占領すること、2)食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質に結合して、その3次元立体構造を変化させ、これによってその活性を阻害すること、または、3)食作用/AMDPタンパク質の標的分子に結合して、それによってタンパク質と正常標的との相互作用を阻害すること、などの目的を達成できるように設計可能である。例えば、MT1−MMPタンパク質(配列番号100)の小分子阻害剤は知られており、例えば、このタンパク質に対する強力で特別な阻害活性を有する、緑茶から抽出可能なポリフェノール(すなわち、エピガロカテキン3−O−ガラート(EGCG)、(−)エピガロカテキン3,5−ジ−O−ガラート、およびエピテアフラガリン3−O−ガラート)などである(Oku N. et al., Biol Pharm Bull. (2003) Sep; 26(9):1235-8)。メタロプロテイナーゼの阻害剤の他のクラスは一般に開示されており、例えば、Beckett, R. et al. (2001)、米国特許第 6,310,084号にある。
【0095】
食作用関連およびAMD関連遺伝子に基づくAMDおよび他の網膜変性状態の遺伝子療法
他の側面において、本発明は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成核酸、またはこれら遺伝子の発現もしくは活性を調節する剤の送達を提供する。「遺伝子療法」は、遺伝によるかまたは後天性の疾患の、細胞内への遺伝的情報の導入および発現による処置と定義できる。遺伝子療法ベクターが関与する方法および組成物は、本明細書に記載されている。かかる技法は一般に当分野に知られており、方法論の参考文献、例えばViral Vectors, eds. Yakov Gluzman and Stephen H. Hughes, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1998;Rectroviruses, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Painview, NY, 2000;Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. Jeffrey R. Morgan, Humana Press, Totawa, NJ, 2001に記載されている。
【0096】
種々の態様において、本発明の核酸は、宿主細胞内への導入および宿主細胞での複製が可能な組換え核酸コンストラクト中に、典型的にはDNAコンストラクト中に導入される。かかるコンストラクトは、好ましくは、与えられた宿主細胞内でポリペプチドがコードする配列の転写および翻訳が可能な複製システムおよび配列を含むベクターである。本発明のために、ベクターおよび宿主細胞を調整し用いるための従来の組成物および方法を用いることができ、これらは、例えば上記Sambrook et al.または上記Ausubel et al.に記載されている。
【0097】
本発明の実施に有用なベクターは、遺伝子療法アプローチの目的に従って種々のタイプを含む。幾つかの態様は、AMDP関連および/または食作用関連mRNAまたはタンパク質の発現を調節する(例えば、下方制御する)剤をコードする核酸を含むベクターである。ベクターの他の態様は、本発明の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の、野生型または所望の多型変異体を含む。前者のタイプのベクターの種々の変形において、発現は、例えばPD2S(配列番号2)、MT1−MMP(配列番号15)、またはAMDP−3(配列番号17)などの過剰発現されたmRNAに対する、例えばアンチセンスRNA、リボザイム、RNAi分子、または三重らせん分子を発現することにより、下方制御することができる。
【0098】
ベクターの他の態様は、AMDP関連および/または食作用関連遺伝子の、野生型または変異体形態の、所望の多型形態の発現に向けられる。例えば、1つの態様において、核酸はMT1−MMP(例えば、配列番号15)の正常(野生型)形態をコードする。野生型形態の送達は、例えば、正常な変異体を発現しない対象に対して有用であるが、望ましくない多型形態(例えば、本明細書に記載のMT1−MMPのD273Nミスセンス多型)に対して同型接合的であり、または、2つの異なる望ましくない対立遺伝子形態(例えば、D273Nミスセンス多型およびP259Psynonomous/スプライス変異体多型)に対して異型接合的である。
【0099】
本発明による、cDNA、アンチセンス、リボザイムおよびRNAi分子を含む天然または合成核酸は、宿主細胞内への導入および複製が可能な組換え核酸コンストラクトに、典型的にはDNAコンストラクトに組み入れることができる。本発明に対して、ベクターおよび宿主細胞を調整して用いるための従来の組成物および方法を用いることができ、例えば、上記Sambrook et al.、または上記Ausubel et al.に記載のように用いることができる。本明細書において、「発現ベクター」は、ベクター内にクローニングされたDNA(cDNA、アンチセンス、リボザイム、またはRNAiをコードする)を発現することができ(適当な転写および/または翻訳制御配列の存在により)、これによってRNAまたはポリペプチド/タンパク質を産生するベクターである。クローニングされた配列の発現は、発現ベクターが適当な宿主細胞内に導入された場合におきる。
【0100】
遺伝子発現に必要な調節領域の正確な性質は、生物の種類により、またクローニング配列の性質および細胞内での配列を発現する目的により、異なってよいが、しかし一般にこれらの要素は、RNA転写の開始を導くプロモーターを含む。かかる領域は、転写の開始に関与する5’非コード配列を含むことができ、例えばTATAボックスである。プロモーターは、構成的または調節可能的であってよい。構成プロモーター(constitutive promoter)は、動作可能に結合した遺伝子を本質的にいつでも発現させるものである。調節可能プロモーター(regulatable promoter)は、活性化または非活性化が可能なものである。調節可能プロモーターは、誘導プロモータを含み、これらは通常「オフ」であるが、誘導されて「オン」となり、また「抑制性」プロモーターを含み、これらは通常「オン」であるが、「オフ」にすることができる。多くの異なる制御因子が知られており、温度、ホルモン、重金属、および調節タンパク質である。これらの識別は絶対的ではなく、構成プロモーターは、ある程度調節可能プロモーターであることができる。
【0101】
プロモーターは、宿主生物の実質的に全ての細胞内で活性な「ユビキタス」プロモーター、例えばベータアクチンまたはオプトメガロウィルスプロモーターであってよく、または、発現が標的細胞もしくは組織にある程度特異的であるプロモーターであってよい。眼における細胞特異的な発現(例えば、光受容体特異的、PRE特異的またはメラノサイト特異的)に好適なプロモーター、およびトランスジェニック動物において特定の年齢でトランス遺伝子発現を開始するのに用いる誘導プロモーターは、以下の例に記載される。
【0102】
動物細胞の安定な形質転換のため、またはトランスジェニック動物の確立のために好適な、多数のベクターが知られている。例えば、Pouwels et al., Cloning Vectors: A Laboratory Manual, 1985, Supp. 1987を参照。典型的には、動物発現ベクターは、(1)5’または3’調節配列の転写制御のもとでの1種または2種以上のクローニングされた動物遺伝子、および(2)優性な選択可能マーカー、を含む。かかる動物発現ベクターはまた、必要に応じて、プロモーターの調節領域(例えば、誘導可能もしくは構成可能な発現、環境的もしくは発達的に調節された発現、または細胞もしくは組織特異的な発現を制御する調節領域)、転写開始部位、リボソーム結合部位、RNAプロセシングシグナル、転写終了部位、および/またはポリアデニル化シグナルを含む。本発明内の動物発現ベクターは、好ましくは、形質転換された細胞を識別するために用いる、選択可能なマーカー遺伝子を含む。動物系に対する好適な選択可能なマーカー遺伝子は、抗生物質抵抗性を産生する酵素をコードする遺伝子を含む(例えば、ヒグロマイシン、カナマイシン、ブレオマイシン、G418、またはストレプトマイシンに対する抵抗性を付与するもの)。
【0103】
本発明による遺伝子を発現するために用いることができる有用なプロモーターの例は、サイトメガロウィルス(CMV)前初期プロモーター(CMV IE)である(Xu et al., Gene 272: 149-156, 2001)。これらのプロモーターは、殆どの動物組織において高いレベルの発現を付与し、一般に、発現すべき、特定のコードされたタンパク質に依存しない。例として、トランスジェニック動物の殆どの組織において、CMV IEプロモーターは強力なプロモーターである。本発明において用いられる他のプロモーターの例は、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウィルスプロモーター、アデノウィルス主要後期プロモーター(MLP)、単純ヘルペスウィルスプロモーター、マウス哺乳類腫瘍ウィルスLTRプロモーター、HIV長い末端反復(LTR)プロモーター、ベータアクチンプロモーター(Genbank #K00790)、またはマウスメタロチオネインプロモーター(Stratagene San Diego CA)を含む。合成プロモーター、ハイブリッドプロモーター、その他もまた、本発明において有用であり、当分野で知られている。
【0104】
動物発現ベクターはまた、例えばイントロンなどのRNAプロセシングシグナルを含むことができ、これは遺伝子発現を増加させることが示された(Yu et al. (2002) 81: 155-163およびGough et al. (2001) Immunology 103:351-361)。RNAスプライス配列の位置は、動物におけるトランス遺伝子発現レベルに影響し得る。この事実を考慮すると、イントロンは、トランス遺伝子の食作用関連またはAMDP関連ポリペプチドをコードする配列の上流または下流に位置して、遺伝子発現のレベルを調節することができる。本発明内の発現ベクターはまた、動物遺伝子の5’領域に一般に存在する調節制御領域を含むことができる。さらに、3’終止領域も発現ベクターに含むことができ、mRNAの安定性を増加させる。例えば、Jacobson et al. (1996) Annu. Rev. Biochem. 65: 693-739;およびRajagopalan et al. (1997) Prog. Nucleic Acid Res. Mol. Biol. 56:257-286を参照のこと。
【0105】
アデノウィルスベクターは、標的細胞内で非常に効率的な遺伝子発現が可能であり、異種DNAの大きなコード量を可能とすることが見出された。この文脈における「異種DNA」は、アデノウィルスに天然では存在しない、任意のヌクレオチド配列または遺伝子として定義することができる。遺伝子療法用ベクターとして組換えアデノウィルスを使用するための方法は、例えば、W.C. Russell, Journal of General Virology 81:2573-2604, 2000およびBramson et al. Curr. Opin. Biotechnolo. 6:590-595, 1995に議論されている。
【0106】
組換えアデノウィルスの好ましい形態は、「ガットレス(gutless)」、「高量(high-capacity)」、または「ヘルパー依存性」アデノウィルスベクターであって、これは、全てのウィルスコード配列が欠失し、ウィルス逆方向末端反復(ITR)、治療遺伝子(28〜32kbまでの、食作用関連またはAMDP関連遺伝子をコードする天然または合成の核酸、または食作用関連またはAMDP関連遺伝子の発現を調節する剤を含む)、およびウィルスDNAパッケージ配列を含むものである。かかる組換えアデノウィルスの変異体、例えば、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然または合成の核酸に動作可能に結合した組織特異的エンハンサーおよびプロモーターを含むベクター、またはかかる遺伝子の発現を調節する剤もまた、本発明の範囲内である。1つより多数のプロモーターが、ベクター内に存在することができる。従って、1つより多数の異種遺伝子が、ベクターによって発現され得る。
【0107】
本発明のウィルスベクターはまた、アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターも含むことができる。AAVは、標的細胞の高い形質導入効率を示し、宿主ゲノム中に部位特異的様式で結合することができる。組換えAAVベクターを使用する方法は、例えば、Tal, J., J. Biomed. Sci. 7:279-291, 2000およびMonahan and Samulski, Gene Therapy 7:24-30, 2000に論じられている。細胞特異的標的化のためには、好ましいAAVベクターは、細胞特異的(例えば、光受容体、RPE、またはメラノサイト)発現を導き、かつ目的遺伝子に動作可能に結合したプロモーターを含む少なくとも1つのカセットに隣接する、AAV逆方向末端反復の対を含む。このベクターを用いて、ITR、プロモーターおよび食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成の核酸を含むAAVベクターのDNA配列、またはかかる遺伝子の発現を調節する剤を、宿主ゲノム中に組み込むことができる。
【0108】
本発明において用いる他の好ましいベクターは、単純ヘルペスウィルス(HSV)ベクターである。HSVベクターを用いるための方法は、例えば、Cotter and Robertson, Curr. Opin. Mol. Ther. 1:633-644, 1999に議論されている。1つまたは2つ以上の前初期遺伝子(IE)が欠失しているHSVベクターは、有利に無毒性であり、宿主細胞内での潜伏に似た状態で維持され、効率的な宿主細胞の形質導入を提供する。組換えHSVベクターは、約30kbのコード量を許容する。好ましいHSVベクターは、I型HSVからIE遺伝子を除去して作製される。HSVアンプリコンベクターもまた、本発明に従って用いることができる。典型的には、HSVアンプリコンベクターは長さ約15kbであり、複製のウィルス起点およびパッケージ配列を有する。1つより多いプロモーターが、ベクター内に存在することができる。従って、1つより多い異種遺伝子をベクターにより発現することができる。さらに、ベクターは、宿主細胞からの遺伝子産物の分泌を促進するシグナルペプチドまたは他の部分をコードする配列を含むことができる。
【0109】
本発明のウィルスベクターはまた、HIVを含む、反復欠損レンチウィルスベクターを含むことができる。レンチウィルスベクターを用いるための方法は、例えば、Vigna and Naldini, J. Gene Med. 5:308-316, 2000およびMiyoshi et al., J. Virol. 72:8150-8157, 1998に議論されている。レンチウィルスベクターは、分裂または非分裂細胞の両方を感染させ、ヒト上皮組織を効率よく形質導入させることができる。本発明のレンチウィルスベクターは、ヒトまたは非ヒトレンチウィルスベクター(SIV含む)に由来することができる。これらのベクターは、ウィルスLTR、プライマー結合部位、ポリプリントラクト、att部位およびカプシド化部位(encapsidation site)を含む。レンチウィルスベクターは、任意の好適なレンチウィルスカプシドにパッケージしてもよい。1つの粒子タンパク質を異なるウィルスからのもので置換することは、「擬タイピング」と呼ばれる。ベクターカプシドは、他のウィルスからのウィルス外膜タンパク質を含むことができ、これらには、マウス白血病ウィルス(MLV)または水疱性口内炎ウィルス(VS)を含む。VSV Gタンパク質の使用は、高いウィルス力価を生み出し、ベクターウィルス粒子の高い安定性をもたらす。1つより多いプロモーターが、レンチウィルスベクター内に存在することができる。従って、1つより多い異種遺伝子を、ベクターにより発現させることができる。
【0110】
本発明はまた、マウス白血病ウィルスに基づくベクターを含む、レトロウィルスベクターの使用も提供する。レトロウィルスに基づくベクターの使用のための方法は、例えば、Hu and Pathak, Pharmacol. Rev. 52:493-511, 2000およびFong et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 17:1-60, 2000に議論されている。本発明によるレトロウィルスベクターは、ウィルス遺伝子の代わりに8kbまでの異種(治療的)DNAを含むことができる。異種とは、この文脈において、レトロウィルスに固有でない任意のヌクレオチド配列または遺伝子と定義することができる。異種DNAは、上記の、組織または細胞特異的プロモーター、および食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子を含むことができる。レトロウィルス粒子は、擬似タイピングされ、固有のレトロウィルス糖たんぱく質の代わりに他のウィルスからのウィルス外膜糖たんぱく質を含むことができる。本発明のレトロウィルスベクターは、宿主細胞のゲノム中に結合してもよい。1つより多いプロモーターが、レトロウィルスベクター内に存在することができる。従って、1つより多い異種遺伝子を、ベクターにより発現させることができる。
【0111】
2つのウィルスベクター系の有利な特性を組み合わせるため、ハイブリッドウィルスベクターを用いて、食作用関連もしくはAMDP関連遺伝子を、またはかかる遺伝子の発現を調節する剤を、標的組織へ送達することができる。ハイブリッドベクターの作成のための標準の技法は、当業者に知られている。かかる技法は、例えば、Sambrook, et al.のMolecular Cloning: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor, NYまたは組換えDNA技法について論じている任意の数の実験室マニュアルに見出すことができる。AAVおよびアデノウィルスITRの組合せを含むアデノウィルスカプシド中の二本鎖AAVゲノムを、細胞への形質導入に用いることができる。他の変形において、AAVベクターを、「ガットレス」、「ヘルパー依存性」、または「高量」アデノウィルスベクター内に入れることができる。アデノウィルス/AAVハイブリッドベクターは、例えば、Lieber et al., J. Virol. 73:9314-, 1999に論じられている。レトロウィルス/アデノウィルスハイブリッドベクターは、例えば、Zheng et al., Nature Biotechnol. 18:176-186, 2000に論じられている。アデノウィルス内に含まれるレトロウィルスゲノムは、宿主細胞ゲノム内に結合して、安定なトランス遺伝子発現をもたらす。1つより多いプロモーターが、ハイブリッドウィルスベクター内に存在することができる。従って、1つより多い異種遺伝子を、ベクターにより発現させることができる。
【0112】
本発明に従って、食作用関連もしくはAMDP関連遺伝子の発現を促進する他のヌクレオチド配列要素、またはかかる遺伝子の発現もしくは活性を調節する剤、およびベクターのクローニングが、さらに意図される。例えば、プロモーターの上流のエンハンサーの存在、またはコード領域の下流のターミネーターの存在は、発現を促進することができる。
幾つかの非ウィルス的方法が、食作用関連および/またはAMDP関連核酸、または細胞内でかかる核酸の発現もしくは活性を調節する剤を導入するために知られている。非ウィルス的方法の概説は、例えば、Nishikawa and Huang, Human Gene Ther. 12:861-870, 2001を参照のこと。食作用関連および/またはAMDP関連核酸、または細胞内に発現される食作用関連および/またはAMDP関連核酸の発現を調節する剤を細胞内に導入するために、プラスミドDNAを用いる種々の技法が、本発明に従って提供される。かかる技法は一般に当分野で知られており、例えばIlan, Y., Curr. Opin. Mol. Ther. 1:116-120 (1999)およびWolff, J.A., Neuromuscular Disord. 7:314-318 (1997)などの文献に記載されている。
【0113】
宿主細胞内に、食作用関連および/またはAMDP関連核酸を、または細胞内でかかる核酸の発現を調節する剤を導入するための、物理的技法を含む方法は、本発明において用いるために適合可能である。細胞電気透過化(細胞エレクトロポレーションとも呼ぶ)を、選択された核酸を細胞に送達するために用いることができる。この技法は、Preat, V., Ann. Pharm. Fr. 59:239-244 (2001)に論じられており、パルス電場を細胞に適用して細胞の透過性を増強し、細胞膜にわたって外因性のポリヌクレオチドの通過をもたらすことを含む。代替的に、遺伝子導入の粒子衝撃法は、Accell装置(遺伝子ガン)を用いて標的組織中にDNA被覆微細金粒子を加速することを含む。この方法論は、例えば、Yang et al., Mol. Med. Today 2:476-481 (1996)およびDavidson et al., Rev. Wound Repair Regen. 6:452-459 (2000)に記載されている。
【0114】
トランスジェニック動物である本発明の態様の作成のために、幾つかの標準の方法が、組換え遺伝材料を卵母細胞内に導入してトランスジェニック動物を作製するために、知られている。かかる方法の例は、以下を含む:1)粒子送達システム(例えば、Novakovic S. et al. (1999) J Exp Clin Cancer Res 18: 531-6;Tanigawa et al. (2000) Cancer Immunol Immunother 48:635-43を参照);2)マイクロインジェクションプロトコル(例えば、Krisher et al. (1994) Transgenic Res. 3: 226-231;Robinett CC and Dunaway M (1999), Modeling transcriptional regulation using microinjection into Xenopus oocytes. In: Methods: A Companion to Methods in Enzymology 17: 151-160;またはPinkert CA and Trounce IA (2002), Methods 26:348-57を参照);(3)ポリエチレングリコール(PEG)法(例えば、Meyer O et al. (1998) J. BIol. Chem. 273:15621-7またはPark et al. (2002) Bioconj Chem. 13: 232-239を参照);(4)リポソーム媒介DNA取り込み(例えば、Hofland HEJ and Sullivan SM (1997) J. Liposome Res. 7: 187-205またはHui SW et al. (1996) Biophys. J. 71:590-599を参照);および(5)上記のエレクトロポレーションプロトコル。
【0115】
本発明による合成遺伝子導入分子は、プラスミドDNA(食作用関連および/またはAMDP関連核酸、または、細胞内のかかる核酸の発現もしくは活性を調節する剤を、コードする配列を有し、プロモーターに動作可能に結合している)との多分子集合体を形成し、エンドサイトーシスおよびエンドソーム膜破壊の引き金となるように、得られた粒子を標的細胞表面に結合するように設計することができる。ポリマーDNA結合カチオン(ポリリジン、プロタミン、およびカチオン化アルブミンを含む)は、細胞標的化リガンドに結合し、受容体が媒介するエンドサイトーシスの引き金となることができる。ポリマーDNA結合カチオンが関与する方法は、例えば、Guy et al., Mol. Biotechnol. 3:237-248 (1995)およびGarnett M.C., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 16:147-207 (1999)に概説されている。
【0116】
リポポリアミンおよびカチオン性脂質を含むカチオン増幅器(cationic amplifier)は、食作用関連および/またはAMDP関連核酸または食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の発現もしくは活性を調節する剤をコードする核酸の、標的細胞への、受容体非依存性の遺伝子導入を提供することができる。予め形成されたカチオンリポソームまたはカチオン性脂質は、プラスミドDNAと混合して、細胞トランスフェクト複合体(cell transfecting complex)を生成することができる。カチオン性脂質製剤を含む方法は、例えば、Felgner et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 772:126-139 (1995)およびLasic and Templeton, Adv. Drug. Delivery Rev. 20:221-266 (1996)に概説されている。好適な方法はまた、カチオンリポソームを、DNAまたはタンパク質を細胞内に導入するための剤として用いることを、含むことができる。治療的遺伝子送達のために、DNAはまた、両親媒性カチオンペプチド(Fominaya et al., J. Gene Med. 2:455-464, 2000)に結合してもよい。
ウィルスおよび非ウィルスに基づく両方の成分を含む方法も、本発明に従って用いることができる。Epstein Barr ウィルス(EBV)に基づく治療的遺伝子送達用のプラスミドは、Cui et al., Gene Therapy 8: 1508-1515, 2001に記載されている。アデノウィルスに結合したDNA/リガンド/ポリカチオン付加物(polycationic adjunct)を含む方法は、Curiel, D.T., Nat. Immun. 13:141-164 (1994)に記載されている。
【0117】
タンパク質の形質導入は、治療タンパク質を標的細胞内に送達するための代替的な遺伝子療法を提供し、タンパク質形質導入の方法は本発明の範囲内である。タンパク質形質導入は、外部環境から宿主細胞へのタンパク質の内部化である。内部化のプロセスは、細胞膜を透過できるタンパク質またはペプチドに依存する。かかるタンパク質またはペプチドの形質導入特性は、融合タンパク質として発現されたタンパク質(例えば、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質)上に付与可能である。一般に用いられるタンパク質形質導入ビヒクルは、アンテナペディアペプチド、HIV TATタンパク質形質導入ドメイン、および単純ヘルペスウィルスVP22タンパク質を含む。かかるビヒクルは、例えばFord et al., Gene Ther. 8:1-4 (2001)に概説されている。
【0118】
本発明の核酸は、宿主細胞内で任意の好適な時間の間発現することができ、一時的発現および安定な長期の発現を含む。好ましい態様において、食作用関連および/またはAMDP関連核酸、またはかかる核酸の細胞内の発現もしくは活性を調節する剤は、好適な規定の長さの時間、治療的量で発現される。トランス遺伝子の一時的または長期の発現を達成する送達方法は、本明細書に記載されている。エピソーム性の複製ベクターは一般的に、細胞内で中程度〜高いコピー数で維持され、挿入DNAの高いレベルに寄与する。幾つかのベクターがエピソームとして存在しており、かかるベクターは宿主のクロモゾームからは独立して、宿主中で複製する自動ユニット(autonomous unit)として振舞うことができる。アデノウィルスを含む、プラスミドまたはウィルスに基づくベクターを介して送達されるDNAは、例えば、宿主細胞内にエピソーム状態で存在し、一時的な様式で発現される。
【0119】
本発明によるベクターは、DNAの宿主クロモゾームへの融合(integration)を促進するヌクレオチド配列要素を含むことができる。融合はほとんどの形質導入された細胞においてよく耐用され、細胞内に新しく導入された遺伝情報の安定性を保証するのに好ましい。食作用関連および/またはAMDP関連核酸、または細胞内の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の発現もしくは活性を調節する剤をコードする核酸を含むベクターの融合は、ランダムに、または部位特異的な様式で生じることができる。宿主細胞ゲノム中への融合を許容する、ウィルスに基づくベクターは、AAV、レトロウィルス、および幾つかのAAV/アデノウィルスハイブリッドに由来するものを含む。
【0120】
本発明の核酸分子(遺伝子治療ベクターを含む)を含む組成物は、哺乳類の対象に、任意の好適な技法により投与することができる。例えば、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成の核酸を導入するため、または他の側面において、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成の核酸の発現もしくは活性を調節する剤を導入するために、ウィルスベクターを用いる種々の方法が知られている。ウィルスは、それらの遺伝子を宿主細胞に効率的に送達する、天然に進化したビヒクルであり、従って治療遺伝子の送達用の望ましいベクター系である。好ましいウィルスベクターは、宿主細胞に低い毒性を示し、食作用関連またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成の核酸、またはかかる遺伝子の発現もしくは活性を調節する剤の、治療的な量を、例えば組織特異的な様式で産生する。本発明のベクターの眼への送達については、種々のアプローチが当業者に知られており、眼内注射を含む。
【0121】
MT1−MMPとAMDおよび他の網膜変性との関連
本発明の幾つかの態様は、スクリーニング法、網膜変性の動物モデル、および膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)(配列番号15)に基づく処置方法である。上記にリストしたAMDP遺伝子の中で、1つの遺伝子、すなわちMT1−MMP(ここではまた、PHG−16およびAMDP−6とも指定する)が初めに選択されて、AMD療法の候補標的としてさらに評価された。以下の例に示されるように、種々の確認解析の結果は、MT1−MMPが食作用遺伝子であることを、以下の事項により明確に示した:1)発現の日周パターン(diurnal pattern):ここではin vivoでの最大のOS脱離(shedding)および食作用の時である早朝にピークを示す(図7);2)ラットおよびヒトの眼における、OSの先端への局在化(図8、9);および3)ラットの眼への網膜下注射後にin vitro(図10)およびin vivoの両方における、MT1−MMPに対する抗体によるOS食作用の阻害(図11)。
【0122】
MT1−MMPとAMDの関係は、以下により示される:1)mRNA発現の段階的な増加とヒト提供者の眼におけるAMD関連変化の重篤度の相関(図12および図13);2)AMDのサルモデルの光受容体間マトリックスにおける、MT1−MMPの増強された免疫学的局在化;および3)AMDを含むヒト黄班変性における、MT1−MMP触媒ドメイン中のミスセンス多型(すなわちD273N)の発生率の増加、および、AMDおよび黄班変性患者における、MT1−MMP中の同義多型(すなわちP259P)の発生率の増加。(下記の例5の表4参照。)
【0123】
MT1−MMPのさらなる研究は、この遺伝子の過剰発現が、一次病因がRPEにあるAMDに加えて、遺伝性網膜変性の少なくとも1つの形態における、すなわち英国外科医師会(RCS)ラットにおける、共通する特徴であるという証拠を提供した。RCSラットは、光受容体の変性がRPE細胞における食作用の欠陥により生じる遺伝性網膜変性の、よく知られた動物モデルである(Bok and Hall, 1971)。このモデルの原因遺伝子は、突然変異MERTKである(D’Cruz et al. 2000)。本明細書に記載された研究において、MT1−MMPは、突然変異RCSラットの網膜およびRPEにおいて過剰発現されることが示された。重要なことには、7日齢のRCSラットの網膜下腔への抗MT1−MMP抗体の注射(2μlの容量)の後に、対照と比較した光受容体変性の速度は、抗MT1−MMP抗体を注射した動物において、30日および60日齢時に顕著に遅延したが、一方、対照抗体または偽注射は効果を示さなかった(図14)。これらの結果は、MT1−MMPタンパク質に対する剤の網膜外節における存在、例えば、網膜下腔の光受容体間マトリックスにおける存在は、有効な効果を、例えば、網膜変性状態の遅延または逆転をもたらし得るとの証拠を提供する。
侵入的な腫瘍細胞上で発現される、MT1−MMPの以前に認識されていた機能は、プロゲラチナーゼAを活性化させ、種々のECM成分を消化する能力を含む(Sato et al., 1994; Cao et al., 1995: Pei and Weiss, 1996)。本明細書に記載された発見に基づき、この遺伝子が、AMD並びに他の網膜および脈絡膜変性疾患を治療的に標的とする、新しい魅力的な候補遺伝子を提供することが明らかである。
【0124】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子に基づくAMDの動物モデル
他の側面において、本発明は、AMDおよび他の網膜および脈絡膜の変性状態の動物モデルとして用いるのに好適な、非ヒトトランスジェニック動物(例えばマウス)を含む。従来、AMDの治療化合物および処置方法の試験は、加齢変化を実際的に追跡可能な、好適に短命な疾患の動物モデルが欠如していることによって妨げられていた。少なくとも3つのAMD/食作用遺伝子、すなわち、PD2S(配列番号2)、MT1−MMP(配列番号15)およびAMDP−3(配列番号17)の、AMDの眼における過剰発現の発見に基づき、および、AMDを有するヒト、AMDを有するサル、および遺伝性の網膜変性を有するRCSラットの網膜における、MT1−MMP mRNAおよびタンパク質の過剰発現の実証に基づき、本発明は、好ましい態様として、PD2S、MT1−MMPおよびAMDP−3の少なくとも1つを過剰発現するトランスジェニック動物を提供する。
【0125】
幾つかのトランスジェニックモデルは、トランス遺伝子を、ドキシサイクリンなどの外因性刺激の付加時のみに条件的に過剰発現するよう、設計される。従って、これらの動物におけるトランス遺伝子発現の発生は、ドキシサイクリンの投与により制御することができる。例として、トランス遺伝子発現は、寿命の特定の時間に引き金が引かれるように、例えば、出生後の網膜発達の完了の後に(マウスにおいては30日齢当たりに起こる)起こすことができる。誘導的発現の特徴は、MT1−MMPなどの、胎児または出生後初期の期間に過剰発現されると、動物において発達異常をもたらすことが予想される遺伝子において、特に有利である。他のトランスジェニックの態様は、MT1−MMP、PD2SまたはAMDP−3などのトランス遺伝子を、特定の細胞型、例えば、光受容体、RPE細胞または脈絡膜の細胞型において、選択的に過剰発現する。
【0126】
AMD/網膜および/または脈絡膜変性の動物モデルのさらに他の好ましい態様は、本明細書に発見され記載されたものを含む、AMDP関連または食作用関連遺伝子の多型変異体を組み込む。これらのモデルは、AMDの複雑な遺伝的継承パターンを反映する。単一の遺伝的欠陥、例えばMT1−MMPに存在する多型は、単離されて病気を引き起こすことはできないかもしれない。しかし、幾つかの遺伝子の多型変異体、適当な環境因子、および時間経過の一定の組合せは、一緒になって、状況を決定付けるに十分な機能障害に寄与する可能性があり、その結果は、AMDまたは網膜、黄班または脈絡膜変性のその他の形態となる。例えば、他のAMDP遺伝子はMT1−MMPの多型変異体と協働して、AMDの最大範囲を形成する可能性がある。
【0127】
従って、AMDおよび他の網膜および脈絡膜変性のトランスジェニック動物モデルの幾つかの態様は、AMDおよび/またはRPE細胞による食作用に関与する、1つまたは2つ以上の遺伝子の多型変異体を発現する。種々の好ましい態様は、MT1−MMP変異体を発現するポリトランスジェニックモデルであり、例えば、本明細書に開示されたAMDP遺伝子(例えば、配列番号2、9、10、16、17として本明細書に示された野生型cDNA配列を有する遺伝子)、および、AMDと相関することが前に記載された多型変異体を有する、AMD関連遺伝子(例えば、配列番号62、63、64、65、66、67、68および69)を含む、1つまたは2つ以上の他のAMD関連遺伝子の多型変異体との組合せによる前記モデルである。ポリトランスジェニックモデルの他の好ましい態様において、MT1−MMPの多型変異体は、他の食作用関連遺伝子(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13および14として本明細書に示された野生型cDNA配列を有する遺伝子)の多型変異体と組み合わせて発現される。
【0128】
例
本発明を、以下の特定の例によりさらに説明するが、これらはどのような方法でも本発明の範囲および内容を限定するものと解釈されるべきではない。
【0129】
例1−食作用関連およびAMD関連遺伝子の単離のための研究ツール
以下に記載するのは、本発明の経過中に開発された研究ツールであり、1)多数の遺伝子における発現をハイブリダイゼーションにより同時に測定する、簡単で手頃な方法;および2)食作用RPE細胞株および食作用のバイタルアッセイ(vital assay)に基づく、食作用関連遺伝子の同定用のツール、を含む。
【0130】
CHANGEアレイシステム
図1を参照すると、遺伝子発現の比較ハイブリダイゼーション解析(CHANGE)と呼ばれるマイクロアレイ技術を開発した。λgt11 cDNAライブラリを、分子生物学分野の当業者に知られた技法を用いて、ラットのRPE/脈絡膜RNAおよびヒト網膜RNAから作製した。ライブラリに用いたラットRNAは、周期的な照明(12時間明るい:12時間暗い)下で飼育し、日周期の間の種々の時点で犠牲にした、約2〜3月齢の動物のRPE/脈絡膜から得た。ライブラリから約10,000個のクローンを個別に取り出してプレート上で増幅し、アレイとしてブロットに移した。
【0131】
cDNAへの変換、PCRによる増幅、およびアレイ上で特定遺伝子の発現を検出する有用性について確認するための試験の後に、ラットおよびヒト源からの全RNAを球状の発現ハイブリダイゼーションプローブとして用いた。CHANGEおよびノーザンブロット解析による遺伝子発現数の予備的比較により、精度を確認し、mRNA発現における約15〜20%という小さな差が、CHANGE法により検出できることを示した。生物学的に関連するプローブの組合せによって繰り返し解析を容易に行う能力が、この戦略の非常に強力な側面であることは、明らかである。
【0132】
食作用遺伝子発見ツール
in vivoでRPE食作用に関連する遺伝子を同定する好ましいアプローチは、外節(OS)食作用の機能をin vivo系で起こるのと同様の同調的(synchronous)様式で行うin vitro系において、RPE遺伝子発現を解析することである。げっ歯類および他の哺乳類において、OSの脱離および食作用は、日周性リズムに従う。光受容体によるピークの脱離およびRPE細胞による大規模な摂取は、光が発生する直前に始まり、数時間の間にわたって起こることが知られている(LaVail, 1976)。OS食作用の経過中に、培養RPE細胞における差次的発現に基づき食作用遺伝子を成功裡に同定するには、食作用プロセスの動態が培養物にわたり均一であり、特に、それらの隣接物について非同調的食作用を示す細胞からの「ノイズ」を最小化することが好ましい。一次RPE培養物は一般にこの目的に適さないが、これは、一次培養物中のRPE細胞の表現型の顕著な不均一性(heterogeneity)、および、異なる表現型の細胞によって示される、食作用の動態における対応する不均一性のためである。
【0133】
不均一性の問題は不死のRPE細胞株を用いることにより回避可能であって、該細胞株は、in vivoでのRPEと同様に培養物中で丸石様の形態を示し、そして同調的結合および摂取により与えられたOSを食作用することができる。げっ歯類およびヒトの源から不死のRPE細胞株を産生し維持するための方法は、当分野に知られている。所望の食作用の特徴を示す例示の細胞株は、BPEI−1 RPE細胞株である(McLaren et al., 1993b)。BPEI−1培養物は、「1型」一次RPE細胞としてOS食作用と同じ動態をとることが示され、これはin vivoにおけるRPEに最も近い(McLaren et al., 1993a; McLaren, 1996)。食作用関連遺伝子の単離のためにかかる細胞株を使用することは、プローブの調整およびノーザンブロットの両方に必要なRNA量(約10〜30μg)を産生するのに十分な細胞を有する、大規模食作用アッセイにおいて行うのが好ましい。
従って、例えばBPEI−1などの好適なRPE細胞株の細胞は、高密度でプレートし(例えば、6ウェルマルチウェルプレートの1つのウェル当たり約106細胞)、例えば前に記載した培地中(McLaren et al., 1993c; McLaren, 1996)で1〜2日間培養する。
【0134】
食作用の特定のステージを示す、CHANGE解析用のプローブ(「ステージ特異的」プローブ)の調整のためには、生きているRPE細胞培養物中のOS食作用の経過をたどることができ、特定の記載された食作用プロセスのステージにおいてRNAの単離ができることは、有利である。これを促進するために、任意の好適なOS食作用のバイタルアッセイを用いることができ、例えば、McLaren et al.,(1993c)により前に記載された、二重蛍光アッセイによる。図2を参照すると、このアッセイにおいて、RPE細胞内のリソソームは生きたままスルホローダミン(赤色蛍光)により染色され、細胞に与えられるOSは、フルオレセイン(FITC)(緑色蛍光)により予め標識されている。このアッセイにより、食作用プロセスの全てのステージ(すなわち、OS結合、摂取、および消化)の後に、生きている培養物の蛍光顕微鏡検査が可能である。図3は、細胞にFITC染色されたOSを与えた後の種々の時点において、生きているBPEI−1細胞の培養物中に典型的に観察される、OSの同調的結合、摂取および細胞内処理の異なるステージを示す。
【0135】
CHANGEを用いた食作用遺伝子の単離
食作用の異なるステージにおいて発現された食作用遺伝子を単離するために、ステージ特異的プローブを、OSを与えた後の種々の時点(例えば、0、1、6、12、18および30時間)でRPE細胞培養物から抽出した全RNAから、および同じ時点において、OSを与えていない対照培養物から抽出した全RNAから、調整した。全RNAの逆転写による「+/−OS」食作用プローブの調製の後に、かかるプローブの対を本明細書のCHANGE解析に用いて、遺伝子アレイ、例えば、本明細書の約10,000個のRPE発現遺伝子のアレイをスクリーニングして、RPE細胞によるOS食作用の間に差次的に発現された遺伝子を同定する。OS食作用の間に発現の変化を示す遺伝子は、続いてDNA配列解析により、標準の技法を用いて同定し、GenBankなどのデータベースの配列と比較する。
【0136】
例2−RPE細胞内に発現された食作用関連遺伝子の単離および確認
この例は、RPE食作用の間に変化した発現を示す遺伝子の、上記方法を用いた単離について記載する。
約10,000個のRPE由来cDNAを含むアレイをスクリーニングする、「+/−OS」プローブを用いたCHANGE解析から、約60個の差次的に発現された推定遺伝子が最初に得られた。差次的発現のノーザンブロット解析による確認を含む、さらなる詳細な解析により、16個の確認された食作用関連遺伝子の最初のサブセットが、さらなる検討のために提供された。上の表1は、本明細書に記載のCHANGE技法により単離された、確認された食作用遺伝子の識別リストおよび配列リストの表示(すなわち、核酸:配列番号1〜15およびアミノ酸:配列番号71〜101)を提供する。
【0137】
これら遺伝子の、in vitro食作用の間の発現パターンの詳細な解析を、BPEI培養物から抽出したRNAのノーザンブロット法により、細胞にOSを与えた後の種々の時点において行った。食作用の特定ステージが生きている細胞内で観察され、RNA抽出の直前に写真に記録された。図4に見られるように、16個の食作用遺伝子の発現パターンは、食作用プロセスの異なる時間において、すなわち、初期、初期〜中期、後期中期、および遅期において発現のピークを示す、識別できる群にクラスタリングされる。
【0138】
例3−AMDにおいて差次的発現を示すRPE発現遺伝子の単離および確認
本明細書に記載するのは、推定AMD遺伝子のCHANGEによる単離に用いる手順、およびこれらのAMDとの関係を確認するための方法である。
例2に記載されたものと同様のアプローチにおいて、CHANGE技法を用いて、AMDの病因に役割を果たす遺伝子が疾患の経過の間に発現の変化を示すとの仮定に基づき、AMDに関連する遺伝子を同定した。ヒト提供者の眼は、地方のアイバンクから得た。一般に、死後3時間以内に摘出され、12時間以内に処理に利用可能であった眼が受け入れられた。死亡時刻および処理までに経過した時間に関わらず、組織の実際の質は、肉眼的検査による外観、組織切片の微視的評価、並びにノーザンブロット解析およびRT−PCRにより評価される、得られたRNAの量および質を含む、幾つかの基準により評価した。
【0139】
図5を参照すると、それぞれの眼は顕微鏡により、AMD関連の変化について、AMD変化の重篤度の増加を0〜+5のスケールにて、視神経頭および黄斑部を通って周辺から周辺へと走る幅約3〜4mmの網膜/脈絡膜の1片においてグレード付けした。各眼にグレードを付ける際に、次のものを含む幾つかの形態学的基準を考慮した:1)ブルッフ膜の肥厚化の程度;2)任意のドルーゼンの数、大きさおよび位置;3)新生血管形成または脈絡膜新生血管(CNV)膜の有無;および4)ある場合は、RPE/光受容体萎縮。RNA、DNAおよびタンパク質は、各眼の網膜およびRPE/脈絡膜から単離した。
「+AMD」プローブを調製するために、ヒト提供者の眼および+3〜+5(中程度から重篤)のAMD変化を有するプールした複数の眼のRPE/脈絡膜から、全RNAを抽出した。年齢を整合させた、罹患していない眼のRPE/脈絡膜からプールされたRNAを用いて、「−AMD」対照プローブを調製した。+/−プローブは、上に記したように、差次的に発現される遺伝子をCHANGEにより同定するために用いた。罹患していない個人と比較して、AMDを有する対象において差次的発現を示す約200個のRPE発現遺伝子が、最初に同定された。
【0140】
AMDにおいて差次的に発現される食作用関連遺伝子のサブセット(すなわち、「AMDP遺伝子」)を得るために、食作用関連遺伝子についてのCHANGEスクリーニングの結果(上記例2)およびAMD関連遺伝子についてのCHANGEスクリーニングの結果(本例)を比較して、食作用およびAMDの両方において差次的発現を示すCHANGEパネル上のRPE遺伝子を同定した。本解析の結果から、両方の基準を満たす6個の遺伝子の最初のサブセット、すなわち、プロスタグランジンD2合成酵素(配列番号2)、カゼインキナーゼ1エプシロン(配列番号9)、フェリチン重ポリペプチド1(配列番号10)、MT1−MMP(配列番号15)、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質(配列番号16)、およびヒト未知AMDP−3(配列番号17)が産生された。(上の表2も参照。)
【0141】
例4−AMD関連および食作用関連(AMDP)遺伝子としてのMT1−MMPの単離および特徴づけ
この例は、CHANGEにより食作用およびAMDの両方において差次的に発現されることが見出された例示の遺伝子(すなわち、「AMD関連食作用遺伝子」または「AMDP遺伝子」)である、MT1−MMP(配列番号15)の同定について記載する。
AMDおよびOS食作用の両方に関連する遺伝子を同定するために、2つのCHANGE解析の結果を上記のようにして比較した。両方のスクリーンにおいて差次的に発現された候補遺伝子の中で、クローン91−40が、メタロプロテイナーゼの比較的新しいタイプであるとして、すなわち、AMDへの関与が疑われる遺伝子の要求を合理的に満たすような機能を有するMT1−MMP(Sato et al., 1994)として、選ばれた。これらの機能は、OS食作用における役割(本明細書に記載のもの)、およびプロゲラチナーゼAの活性化および種々の細胞外基質成分に対する分解活性(degradative activity)(Sato et al., 1994; Cao et al., 1995; Pei and Weiss, 1996)を含む。
【0142】
種々の組織におけるMT1−MMPの発現のノーザンブロット解析では、RPE、脈絡膜、および網膜において最高レベルの発現が示され、続いて肺および副腎であった。MT1−MMPが食作用遺伝子であることの推定は、in vitroでのOS食作用の間にCHANGEにより検出された、その差次的発現に基づく。機能的な確認のため、この遺伝子の発現のパターンを、ノーザンブロット解析を用いてOS食作用の独立した解析において試験した。図6を参照すると、MT1−MMP発現の増加が、食作用の開始の13時間後、すなわちCHANGEにより検出された増加と同じ時間に確認された。MT1−MMPの、in vivoで日周的に制御されるOS食作用への関与は、MT1−MMP mRNAの発現が、RPEおよび網膜の両方において、in vivoにおける最大の脱離およびOS食作用に約1〜2時間先立つ時刻である6AMにピークとなる日周パターンに従うとのさらなる所見により、強く支持された(図7)。
【0143】
ここで図8を参照すると、日周サイクル中の幾つかの時点におけるラット網膜のMT1−MMPの免疫蛍光の局在は、網膜の光受容体OSおよびRPEにおける最強のシグナルを、6AMに固定して示した。ヒト網膜におけるMT1−MMPタンパク質の免疫局在は、桿体先端、そして特に錐体、外節においてシグナルを示し、これは光受容体OS膜とRPE先端突起の間の境界における活性と整合しており、ここにおいてMT1−MMPタンパク質は、RPEによる脱離および食作用のためにOS先端を調整する中で役割を果たしている可能性がある(図9)。
【0144】
OS食作用におけるMT1−MMPの関与の機能的確認を得るために、MT1−MMPに対する抗体(Chemicon International, Temecula, CA)を、in vitroでBPEI−1細胞によるOS食作用を抑制するその能力について試験した。図10に見られるように、結果は、OS食作用がこの抗体によっては抑制されたが、無関係の(X−アレスチン)抗体によっては抑制されないことを明確に示し、OS食作用のプロセスに対するMT1−MMPの機能的要件が確認された。さらに、in vivoでの機能アッセイにおいて、正常なラットの眼へのMT1−MMP抗体の網膜下注射は、毎日の食作用プロセスによる干渉と整合して、4日後に顕著な構造的破壊およびOSの延長をもたらしたが、X−アレスチン抗体はこれをもたらさなかった(図11A、B)。このように、豊富な証拠により、RPE細胞によるOS食作用における、MT1−MMPの関与が提示された。
【0145】
MT1−MMPはまた、AMDにおける差次的発現(すなわち、増加)に基づき、CHANGEにより、推定AMD遺伝子としても同定された。この遺伝子の発現は、AMDに罹患した人および正常なヒト提供者の眼のRPE/脈絡膜および網膜からのRNAのノーザンブロット解析により、個別に試験された。結果は増加を確認し、RPEより網膜においてより大きい増加を示した(図12)。図13に示すように、種々の程度のAMD関連変化を有する眼からの一連のRNAサンプルを試験した場合、網膜におけるMT1−MMP発現の増加と、眼における病変の増加の間に正の相関が観察された(図13)。この結果は、AMDの病因におけるこの遺伝子の役割の可能性を強く支持した。さらに、同じくMT1−MMP発現の増加を示すAMDのサルモデルでノーザン解析により試験すると、MT1−MMPが、高度に破壊されたOSの中で光受容体間マトリックス(IPM)に局在していることが見出された。
【0146】
MT1−MMPが、日周的に調節されるOS食作用において役割を果たしていることが発見されたため、発明者らは次に、AMDにおける発現の増加が、最大の脱離および食作用の時点において起こるかどうかを試験した。AMD変化を有するヒトの眼に見られる、MT1−MMP発現の増加は、この可能性を支持しなかったが、これは、死亡後の多くの異なる時点で得られた眼において、増加が存在したためである。この結果に対する信憑性のある説明は、MT1−MMP発現の調節異常が存在する可能性であり、MT1−MMPの発現は、正常な場合にはおよそ6AMのみでピークとなるが、AMDにおいては、他の時点でも極めて活性化されている。OS脱離および食作用の厳密に制御された日周プロセスに対する、MT1−MMP発現の調節異常がもたらす機能的結果は、時間とともに極めて有害となりえる。
【0147】
例5−AMDおよび黄斑変性状態を有する対象におけるMT1−MMPの遺伝的スクリーニング
この例は、AMDおよび黄斑変性患者並びに正常対照集団の遺伝解析のための方法、およびAMDを含む黄斑変性と相関する、MT1−MMP多型の発見を示す結果について記載する。
AMDおよび他の黄斑疾患に罹患した高齢の患者および正常な高齢患者から、末梢血を採集した。白血球からDNAを抽出した。DNAは、地方のアイバンクの提供者の眼の網膜およびRPE/脈絡膜からも、抽出した。提供者の眼における病変の程度は、眼底撮影で記録し、例3に記載された基準を用いて顕微鏡的にグレード付けした。MT1−MMPにおける多型についてのスクリーニングを可能とするために、ヒトMT1−MMPの全10個のエクソンを、公開されたマウス遺伝子構造(Apte et al. 1997)から決定し、下の表3に示されたヒトのエクソン特異的アンプリマー(すなわち、配列番号18〜37)を用いてPCRにより増幅した。
【0148】
【表3】
【0149】
【表4】
【0150】
【表5】
【0151】
例として、ヒトMT1−MMP遺伝子のエクソン5を、本明細書で配列番号26および27として示された核酸配列を有するアンプリマーを用いてPCRにより増幅し、図14に示すDNA配列(配列番号59)を有する、285bpの野生型PCR産物を得た。この産物を得るための、好適なPCR増幅プロトコルは以下である:95℃で3分間、その後95℃で1分間、62℃で30秒間、72℃で30秒間を30サイクル、そして72℃で5分間。285bpのPCR産物は、ゲル電気泳動法および抽出により精製し、DNA配列決定を行った。
【0152】
表3に示すアンプリマーを用いて、MT1−MMP遺伝子を、AMDおよび家族性黄斑疾患に罹患した患者並びに罹患していない対照の対象からのDNAにおける、突然変異および多型についてスクリーニングした。スクリーニングは、黄斑変性患者の3つの群から得たDNAを用いて行った:1)地方のクリニックにおいて見られた、臨床的に記録された56人のAMD患者;2)眼科遺伝子クリニックにおいて見られた、22人の散発的および家族性黄斑変性患者;および3)6人のアイバンクの提供者からの眼であって、+2〜+5の範囲のAMD関連変化を示すもの。家族性黄斑変性の患者群における臨床的疾患診断は、家族性黄斑ジストロフィー、卵黄様黄斑ジストロフィー、傍中心窩毛細血管拡張症、優性ドルーゼン、結晶性ドルーゼン、輪状黄斑ジストロフィー、および脈絡膜萎縮症を含んでいた。
【0153】
正常者および黄斑変性に罹患した患者からのDNAのスクリーニング結果は、MT1−MMPのエクソン5内に、幾つかの多型変異体を含む「ホットスポット」を明らかにした。第1の変異体は、本明細書においてP259Pと指定された同義多型として同定され、これは、MT1−MMPcDNA配列におけるコドン259内でCとGヌクレオチドが異なっていた(すなわち、CCCプロリンvsCCGプロリン)。P259P変異体塩基は、図14に示す285bpのエクソン5断片の143番目の塩基位置であった。図14を参照すると、コドン259の位置は下線によって示され、P259P多型変異体塩基の位置は太字で示されている。PCRにより上記のプライマー対を用いて得た、ヒトMT1−MMPエクソン5産物に対する野生型DNA配列は、ここに配列番号59としてリストされ、P259P変異体を含むエクソン5配列は、配列番号60としてリストされている。
【0154】
ヒトMT1−MMP遺伝子配列における、潜在的なスプライスドナー(GT)およびスプライスアクセプター(AG)部位の解析は、P259P多型が、MT1−MMPに対するmRNAのスプライス変異体をもたらす可能性があることを明らかにした。野生型遺伝子配列からイントロンを取り除く正常のスプライシングは、エクソン5によりコードされる53個のアミノ酸(ここで配列番号121として示される)を含む、582個アミノ酸の完全長MT1−MMPタンパク質産物(配列番号100)をもたらす。
【0155】
図14を再度参照すると、第2の変異体が同定され、ここでD273Nとして指定され、これはMT1−MMPコドン273におけるミスセンス多型であり、GとAヌクレオチドで異なっている(GATアスパラギン酸vsAATアスパラギン)。この多型は、285bpエクソン5断片内の183番目の塩基位置に位置する(図14では、コドン273は下線で、変異体塩基は太字で示される)。D273Nミスセンス変異体は、野生型荷電アミノ酸(すなわち、アスパラギン酸)を、無荷電アミノ酸(すなわちアスパラギン)に変換する。D273N多型を有する対象において、PCRにより得たヒトMT1−MMPエクソン5産物の核酸配列は、ここでは配列番号61として、およびエクソン5からの対応する予想される変異体タンパク質産物は、配列番号123としてリストされる。
【0156】
ここで表4を参照すると、P259P同義多型についてのMT1−MMPスクリーニング解析の結果によれば、黄斑疾患を有する全患者においてこの変異体が27.4%の頻度を示し、一方正常集団においては10.5%の頻度であった。
【0157】
【表6】
【0158】
罹患していない個人(21.1%)と比較して、D273Nミスセンス多型のより高い頻度(すなわち、31%)は、全ての黄斑疾患において見出された。MT1−MMPの2つの多型変異体のうちの1つを有する対象の総数は、それぞれの位置における野生型塩基とは対照的に、正常集団(31%;p=0.043)より、黄斑疾患の対象(58.3%)においてより高かった。
【0159】
家族性黄斑疾患に対するAMDの別の解析では、AMDおよび黄斑変性の家族性形態の両方において、MT1−MMPの多型変異体の頻度の増加が明らかにされた(表4)。AMDを有する対象においては、MT1−MMPの2つの多型変異体のうちの1つを見出す頻度は54.8%であり、一方、一般の集団においてはこの頻度は31.6%である。家族性黄斑変性症の対象においては、このパーセンテージはより高い(68.2%;p=0.029)。これらの結果は、MT1−MMPの多型変異体の存在が、AMDを含む黄斑変性症を発症するリスクの増加と相関することを強く示唆する。注目すべきは、黄斑疾患の対象の4.8%はD273Nミスセンス多型について同型であるが、対照群においては0%であることである(表4)。
【0160】
例6−MT1−MMPポリペプチドに結合する剤による網膜変性の遅延
この例は、動物(ラット)モデルにおける遺伝性の網膜変性の速度を、MT1−MMPタンパク質を中和する剤を用いて遅らせることを示す研究について、記載する。
上の例4に記載したように、MT1−MMPは、AMDを有するヒトの眼において、AMDのサルモデルにおいて、およびRPEに基づく遺伝性網膜変性の動物モデルであるRCSラットにおいて、過剰発現されることが見出された。MERTK遺伝子の突然変異によるRCSラットの突然変異体の表現型は、RPE細胞による食作用の摂取相における欠陥を特徴とする。別の研究において、MT1−MMPはCHANGE解析で再度単離され、ここで+/−プローブは突然変異体および年齢を整合させた対照RCSラットの網膜RNAから調製した。RCSラット網膜におけるMT1−MMP発現のノーザンブロット解析は、MT1−MMP mRNAの発現が、このモデルにおいて網膜変性の進行と共に増加したことを、明らかにした。この結果は、MT1−MMPが、網膜変性、特に第一にRPE細胞に影響すると考えられる欠陥に基づく疾患の多くの形態の病因において、共通の役割を果たす可能性があることを示唆する。
【0161】
RCSラットにおける網膜変性の病因におけるMT1−MMPの機能的関与を試験するために、2μl容量の(製造業者により供給された)MT1−MMPに対する抗体(Chemicon, Temecula, CA)を、未成熟のRCSラット(7日齢)の眼の網膜下に注射した。網膜変性の経過を、続く2ヶ月間追跡した。図15を参照すると、注射の1ヶ月後に観察された外核層の厚さにより決定されるように、網膜変性において50%までの顕著な遅延が示された。疑注射、または無関連(すなわち、X−アレスチン)抗体の注射は、この効果をもたらさなかった。この結果は、網膜変性の発症機序におけるMT1−MMPの関与をさらに増強し、これを、MT1−MMPの過剰発現が関与する網膜変性状態に対する、魅力ある治療標的としている。
【0162】
例7−AMDにおいて上方制御される遺伝子を過剰発現するAMDの動物モデル
AMDの病因の研究は、例えば候補の治療化合物およびアプローチを試験するのに有用な、適切で実用的な動物モデルの欠如によって妨げられている。この例は、本明細書においてAMDで上方制御されることが示された遺伝子を過剰発現する、マウスにおける、AMDの動物モデルの作成について記載する。好ましい態様において、過剰発現される遺伝子は、プロスタグランジンD2合成酵素(PD2S)、MT1−MMP、およびAMDP−3であり、それぞれ本明細書において配列番号2、15、および17と同定されたcDNA配列を含む。幾つかの態様において、遺伝子は条件付きで過剰発現され、幾つかの種類において、遺伝子は、動物の光受容体、RPE細胞、および/または脈絡膜細胞においてのみ、過剰発現される。
【0163】
上の例に記載されたように、MT1−MMPの過剰発現または過剰活性は、AMDを有するヒトおよびサルの眼、およびRPEに基づく遺伝性網膜変性を有するRCSラットにおいて、観察される。マウスなどの小型の実験室のげっ歯類において過剰発現の表現型をモデル化するために、例えばMT1−MMPを過剰発現するトランスジェニックマウスを作成する。特に好ましい態様は、これらの動物の完全に発達した網膜、および老化した網膜において、MT1−MMPを条件付きで過剰発現する特徴を有するトランスジェニックマウスモデルであり、これは、発達の胚形成期または出生早期の間にMT1−MMPを過剰発現することから生じ得る有害な効果を、有利に避けることができる。
【0164】
MT1−MMPを条件付きで過剰発現する動物モデルの作成のために、例えば、Tet Gene Expression System(BD Biosciences, Palo Alto, CA)などの、条件付き発現系を用いることができる。この系を用いて、1000倍またはそれ以上のトランス遺伝子の過剰発現が、ドキシサイクリンによる活性化の何時間かの間に報告されている(Gossen et al., 1995)。条件付き発現系は、MT1−MMPの過剰発現などの、遺伝子発現の時間的制御に有利であり、MT1−MMPトランス遺伝子の発現が、動物の寿命の選択された時点において、例えば、完全に発達した網膜を有する成人のみで、始まるようにすることができる。
【0165】
トランスジェニックマウスは、例えばヒトまたはマウスのMT1−MMPを過剰発現する、当業者に知られた技法を用いて作成される。任意の好適な過剰発現系を用いることができる。Tet系を用いる態様においてトランスジェニックマウスが作成され、これは、好適なプロモーターからのキメラのテトラサイクリン調節性トランス活性化因子rtTA(Tet−on)と、第2トランス遺伝子であって、例えば、トランス活性化因子に応答するTet応答性要素サイレントプロモーターに結合したヒトまたはマウスMT1−MMPcDNAを含む該トランス遺伝子とを発現する。こうして作成されたダブルトランスジェニックマウスへの、ドキシサイクリンの投与は、ドキシサイクリンによるトランス活性化因子の活性化と、続くサイレントプロモーターの結合および活性化を通して、例えばMT1−MMPなどのトランス遺伝子の過剰発現をもたらす。
【0166】
PD2S、MT1−MMPおよびAMDP−3などの目的遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウスの幾つかの態様において、トランス遺伝子の発現は、選択された細胞または組織型に限定される。分子生物学の分野で知られているように、トランス遺伝子発現の細胞部位は、組織または細胞特異的プロモーターの選択により制御することができる。従って、1つの好ましい態様において、トランスジェニックモデルは、MT1−MMPトランス遺伝子を、光受容体特異的様式において過剰発現する。この目的のための例示のプロモーターは、ウシのロドプシンプロモーター(Zack et al., 1991)であり、これは、例えば、トランスジェニックマウスモデルにおいて、HRG4(UNC119)の光受容体特異的発現に好適であることが示されている(Kobayashi et al., 2000)。トランスジェニックマウスの他の態様は、PRE細胞内で、MT1−MMP、PD2SまたはAMDP−3などのトランス遺伝子を選択的に過剰発現する。RPE細胞特異的発現は、例えば、RPE65(Boulanger et al, 2000)または、細胞内レチンアルデヒド結合タンパク質(Kennedy et al., 1998)をコードする遺伝子のプロモーター領域に由来するものなどの、RPE細胞特異的プロモーターにより導かれる。さらに他の態様は、脈絡膜の細胞型において、トランス遺伝子を選択的に発現するよう設計されており、例えば、内皮細胞内で内皮細胞特異的プロモーター(Cho et al., 2003)を用いる、またはメラノサイトおよびRPE細胞内で、色素細胞型(Giraldo et al, 2003)におけるチロシナーゼの発現を駆動するプロモーターを用いる、などである。
【0167】
トランスジェニックマウスは、分子生物学の当業者に知られた技法を用いた、トランス遺伝子含有ベクターの、卵母細胞への注入により作成される。(例えば、Kobayashi et al., 2000を参照)。選択されたトランス遺伝子の過剰発現は、トランスジェニック動物の適当な組織または細胞内で(例えば、網膜内で、または特に光受容体もしくはRPE細胞内で、または1つもしくは2つ以上の脈絡膜細胞型において)、当業者に知られており、上の例で示されている技法、例えばノーザン解析により、またはトランス遺伝子に特異的な、適当なプローブもしくはプライマーを用いるRT−PCRにより、適当な抗体を用いるタンパク質のウェスタンブロット解析により、および種々の免疫局在化技法により、確認される。
【0168】
トランスジェニック動物において、例えばこれらの動物の網膜および/またはRPE/脈絡膜において発達する病変は、多くの既知の技法により評価され、これには例えば、網膜の眼底検査による試験、網膜電図写真(ERG)検査、および動物の寿命を通して選択された間隔において、光学顕微鏡および電子顕微鏡検査により、ドキシサイクリンの投与によるトランス遺伝子の活性化の前および後において、例えば、日齢が5、10、15、20、25および30日、(ドキシサイクリンの投与を30日齢において)、およびドキシサイクリンによる活性化後の日数が1、2、5、10、20、30、60、80、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、520、540、560、580、600、620、640、660、680および700日において、評価される。AMD関連の病変、例えば、リポフスチン蓄積、ブラッフ膜の肥厚化、基底層および線形沈着物(basal laminar and linear deposit)、ドルーゼン形成、新生血管形成、CNV膜形成、光受容体/RPE萎縮または脈絡膜萎縮は、当分野に知られた標準の技法によりモニタリングする。
【0169】
例8−食作用関連および/またはAMD関連遺伝子の多型変異体を発現するAMDの動物モデル
この例は、食作用関連またはAMD関連遺伝子の1つまたは2つ以上の多型変異体を発現する、AMDおよび他の網膜変性のマウスモデルの作成について記載する。
上に示したように、MT1−MMPを含む遺伝子のある多型変異体は、AMDを有する患者のDNAにおいてより高い頻度で見出される。ヒトの状態をモデル化するために、例えばMT1−MMPなどのヒト遺伝子の多型および野生型を発現するトランスジェニックマウスモデルを、以下のように作成する。最初に、マウスMT1−MMP遺伝子のベースライン状態を好ましくは決定する。例えば、ヒトMT1−MMP DNA配列のD273N多型の位置に位置する野生型のアミノ酸残基は、ヒトおよびマウスにおいて保全されることが決定された。この残基における多型は、マウスにおいては示されていない(マウスゲノムプロジェクト)。野生型残基の存在は、トランスジェニック作成に用いられるマウスにおいて、尾の生検、DNA単離、および遺伝子型決定により確認される。
【0170】
MT1−MMPなどの目的ヒト遺伝子の多型および野生型変異体をそれぞれ発現する、多型および対照(野生型)トランスジェニックマウスモデルを作成するために、ヒトの多型変異体および野生型MT1−MMP残基を含むcDNAを、所望の組織または細胞においてトランス遺伝子の発現を駆動するのに好適なプロモーター配列に結合する。身体全体でのトランス遺伝子の発現のための、例示のプロモーター配列は、例えば、ヒトゲノムDNAからPCR増幅され、遺伝子の堅固な発現を駆動することが以前に決定された(Lohi et al., 2000)、385bpのヒトMT1−MMPプロモーター配列である。トランス遺伝子の同定を支援するために、幾つかの態様において、MT1−MMP遺伝子は、緑色蛍光タンパク質(GFP)融合タンパク質として、好適なベクターコンストラクト、例えば、BioSignalベクター(InVitrogen, Carlsbad, CA)を用いて発現される。他の態様では、トランス遺伝子が、上記のように組織または細胞型特異的プロモーターにより駆動されて、特定の組織または細胞型において選択的に発現される。
【0171】
トランスジェニックマウスは、既知の技法を用いて、ベクターの卵母細胞注射により作成される。例えばMT1−MMPなどの、ヒト多型および野生型変異体の発現は、トランスジェニック体においては例えば対立遺伝子特異的プライマーを用いたRT−PCRにより、そしてGFP融合タンパク質を発現するバージョンにおいてはGFP発現の解析により、例えば、蛍光顕微鏡法、ウェスタンブロッティング解析、または免疫検出によって確認される。トランスジェニック体は、上の例7において記載したように、AMD関連病変の存在について解析される。
AMDおよび他の網膜変性の動物モデルの他の態様は、AMDと既知の関連を有する少なくとも2つの遺伝子の多型変異体を発現する、ポリトランスジェニックマウスである。好ましい態様において、動物は、食作用および/またはAMDと相関を示す少なくとも1つの他の多型遺伝子変異体と組み合わせて、MT1−MMPの多型変異体を発現する。
【0172】
動物モデルのポリトランスジェニック版は、AMDの複雑な多数遺伝子理論に基づいており、この理論は、一般に「多型性」と呼ばれる多数遺伝子における僅かな突然変異が協働して、疾患の原因となるか、または疾患への感受性を生成することを仮定する。従って、AMDの完全な表現型は、少なくとも2つ、そしておそらくは多数の病因遺伝子が、適当な多型性の組合せと協働することを要求すると考えられる。原因となる遺伝子は、「集団的に(collectively)」(例えば、共通の機能によって関連する場合は、例えばOS食作用の経路における関与)、または「累積的に」、例えば、機能によっては関連していないが、各々がAMDを導く病原性のプロセスの別々の側面において関わって寄与することにより、AMDの発症方向にスケールを傾けることができる。
【0173】
AMDのポリトランスジェニックモデルの好ましい態様は、MT1−MMPの第1の多型変異体および、少なくとも1つの他の食作用関連および/またはAMD関連遺伝子の少なくとも第2の多型変異体を共同発現する、ポリトランスジェニック動物である。AMDと相関する多型変異体を示す任意の他の第2またはそれ以上の遺伝子は、MT1−MMPの任意の多型変異体と組み合わせることができる。AMDと相関する変異体を有することが現在報告されている遺伝子を、表5にリストする。
【0174】
【表7】
【0175】
従って、好ましい態様の1つの形態において、MT1−MMPの多型形態は、ABCR、アポリポタンパク質E、C−Cケモカイン受容体2、シスタチンC、ヘミセンチン/FIBL−6、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ、C−Cケモカインリガンド/単球走化性因子タンパク質1、およびパラオキソナーゼを含む、少なくとも1つの他の遺伝子の多型形態と組み合わされる。
同様に、AMDの「集団(collective)」病因論を反映するポリトランスジェニックモデルは、重要な機能(例えばOS食作用)のメカニズムにおける既知の関与を有する遺伝子の多型変異体と、MT1−MMP(本明細書に開示された、実証された食作用関連遺伝子;野生型cDNA配列:配列番号15;野生型アミノ酸配列:配列番号100)の多型変異体を組み合わせる。かかる遺伝子は、例えば、本明細書に開示された(上の表1および2を参照)、食作用関連遺伝子PHG−1〜PHG−15(配列番号1〜14)並びにAMDP−2および3(配列番号16および17)の多型変異体を含む。
【0176】
モデル作成のために、選択された遺伝子の報告された多型変異体(複数含む)を含むDNAを、AMDの患者および罹患していない年齢を整合させた個人(例えば、上の例5においてMT1−MMPについて記載したように)のDNAから、適当なアンプリマーを用いて最初に単離し、これを、報告された多型、例えば、ABCR(すなわち、D2177N、G1961E);マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(すなわち、V47A);アポリポタンパク質E(すなわち、エプシロン2);シスタチンC(すなわち、AlaおよびThr変化を含むAおよびB対立遺伝子);およびパラオキソナーゼ(すなわち、Q192R,L54M)の存在を確認するために用いる。遺伝子型決定および突然変異解析は、確立された方法を用いて行う(例えば、Mashima et al., 1994を参照)。多型とAMDとの関連を確認し、任意の検出されたAMDとの相関の統計的有意性を、例えばカイ二乗検定により決定する。AMDとの関連を示す多型遺伝子については、次にMT1−MMPにおける多型の共出現について確認する。
【0177】
例えばAMDP−3などの選択された遺伝子の多型変異体を発現するトランスジェニックマウスは、上に一般に記載されたように初めに作成される。ポリトランスジェニックモデルを作成するために、例えばMT1−MMPなどの目的の第1遺伝子の多型変異体を発現するトランスジェニックマウスを、AMDP−3などの目的の第2の食作用/AMD関連遺伝子の多型変異体を発現するトランスジェニックマウスと交配させる。種々のトランス遺伝子の発現の確認は、例えば網膜、RPEまたは脈絡膜などの目的組織において、例えばRNAの対立遺伝子特異的RT−PCRおよび/または目的の多型トランス遺伝子タンパク質の免疫検出などの、当分野に標準の技法により、例えばタンパク質の特定の多型形態に特異的な抗体を用いて行う。代替的に、特異的なタグタンパク質配列がトランス遺伝子タンパク質に付着している態様においては、タグ配列の同定を用いて、トランスジェニック多型変異体タンパク質の同定および、これの野生型形態からの識別を促進する。ポリトランスジェニックマウスは、上記したように、AMD関連変化の証拠について解析する。
【0178】
引用文献
本明細書に引用した文献を便宜上以下にリストし、これらはその全体を、本明細書に参照として組み込む。
【0179】
【表8】
【0180】
【表9】
【0181】
【表10】
【0182】
【表11】
【0183】
【表12】
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】二重のCHANGEアレイパネルであって、本発明の態様に従って、各々が、「+」および「−」プローブ(プローブ1および2)とハイブリダイズした96個の遺伝子(スポット)を含む、前記アレイを示す写真である。上向きおよび下向きの矢印は、プローブ1vsプローブ2とハイブリダイズした場合に、それぞれ発現の増加および減少を示す遺伝子を示す。
【図2】上の図は、培養されたRPE細胞による桿体外節(ROS)食作用のバイタルアッセイの模式図である。下の図は、本発明の態様により、ROSの供給後に食作用を受けている、生きているBPEI−1 RPE細胞の白黒写真である。蛍光顕微鏡で観察すると、RPE細胞のリソソームはスルホロダミン(SR)染色のために赤く見え、FITC染色されたROSは緑色に見える。食作用のその後のステージの間、ROSは細胞表面に結合し、次にRPE細胞により摂取され、初めにファゴソーム(貪食胞)となり、次にリソソームと融合してファゴリソソーム(黄−オレンジ色の蛍光により識別される)となる。
【0185】
【図3】本発明の1つの態様により、FITC−ROSを与えた後の指定時点における、生きているBPEI−1 RPE細胞の大規模培養物中に見られる、ROS食作用の異なるステージを示す、一連の写真である。上の4つの図は、供給後の初めの9〜10時間の間の、ROSの細胞表面への大規模な結合を示す。下の4つの図は、ROS供給のおよそ11時間後に始まる、同調したROS摂取およびファゴリソソームの形成を示す。
【図4】本発明の1つの態様により、CHANGEにより発見された、RPE細胞により発現された16個の食作用関連遺伝子(「食作用遺伝子」)のmRNA発現プロファイルを示すグラフである。食作用遺伝子の発現レベルは、in vitroでのROS食作用の経過の間の選択された時点において、RPE細胞内で変化する。食作用遺伝子(PHG−1〜16)の識別は、上の表1に提供される。
【0186】
【図5】本発明の1つの態様により、網膜におけるAMD関連の変化について、ヒト提供者の眼を分類するために用いたグレード付けシステムを示す3枚の写真である。示されたグレード:0〜+1、ブラッフ膜の最少の肥厚化;+2〜+3、複数の小〜中サイズのドルーゼンと、肥厚化したブラッフ膜;+3〜+4、大きく合着したドルーゼン。
【図6】ROS供給の4時間後および13時間後における、培養されたRPE細胞による食作用の間の、MT1−MMPおよびアクチンmRNAの発現を示す、2つのノーザンブロットおよびグラフを示す図である。4時間後に発現の減少および、13時間後に発現の増加が見られ、CHANGEにより得られた結果が確認された。各レーンに存在するRNAの量は、MT1−MMPハイブリダイゼーションシグナルを正規化するために用いたアクチンハイブリダイゼーションにより推定される。
【0187】
【図7】本発明の1つの態様により、正常なラット網膜における、MT1−MMP mRNAの発現の変化する(日周)パターンを示すグラフである。最高レベルのMT1−MMP発現は、in vivoでの最大の脱離および光受容体(OS)食作用の約1〜2時間前である、6AMに起こる。
【図8】本発明の1つの態様により、1日の種々の時点において固定され、抗MT1−MMP抗体で免疫染色された、正常ラット網膜の免疫蛍光染色を示す、8枚の顕微鏡写真(位相差および蛍光)である。OSおよびRPEに存在するMT1−MMPタンパク質の免疫蛍光レベルには、日周変化が見られ、最高レベルのシグナルは6AMに観察され、10AMには少し低く、そして10PMには全くシグナルがなく、これは図7に示されたMT1−MMP mRNA発現の日周パターンと整合する。
【0188】
【図9】抗MT1−MMP抗体で染色されたヒト網膜の切片の蛍光顕微鏡写真であり、本発明の1つの態様により、桿体および錐体光受容体のOSにおける、並びにRPE細胞内のファゴソームにおける、MT1−MMPタンパク質の局在を示す。
【図10】本発明の1つの態様により、培養物中のRPE細胞によるROS食作用におよぼす、抗MT1−MMP抗体の効果を示す3枚の蛍光顕微鏡写真である。供給されたROSの摂取は、抗体でインキュベートされない対照細胞内(B)のサイトプラズマおよび、非関連(X−アレスチン)抗体でインキュベートされた細胞内(C)のサイトプラズマに顕著であり、一方、ROS結合および食作用は、ROSを供給する前に抗MT1−MMP抗体でインキュベートされた細胞内(A)では起こらない。
【0189】
【図11】正常ラット網膜のH&E染色したパラフィン切片の4枚の顕微鏡写真であり、抗MT1−MMP抗体の網膜下注射の、網膜外側の構造に及ぼす効果を示す。抑制されたOS食作用と整合して、OSの顕著な延長と異常な配置が、抗MT1−MMP抗体を注射した左眼、O.S.に観察される(A、B)。対照的に、同じ動物の注射していない右目(O.D.)では、網膜の構造は正常である(C)。非関連(X−アレスチン)抗体の網膜下注射は、効果を示さない(D)。
【図12】AMDに罹患した対象のRPE/脈絡膜および網膜における、MT1−MMP mRNA発現レベルのノーザンブロット解析(A)を、正常な対照(N)と比較して示した図である。罹患した網膜において、MT1−MMP mRNAレベルの5.5倍の増加が見られ、同時にこの対象のRPE/脈絡膜において、1.2倍の増加が見られた。ノーザンブロットハイブリダイゼーションシグナルは、各レーンに存在するRNAの量に関して、アクチンハイブリダイゼーションを参照として用いて正規化されている。
【0190】
【図13】AMDに罹患した対象の網膜における、MT1−MMP mRNAの発現レベルと、AMD関連病変の重篤度の増加(グレード0〜+4の変化)の正の相関を示すグラフである。
【図14】ヒトMT1−MMPのエクソン5を含む285bpのPCR産物の核酸配列を示す図である。コドン259および273の位置は下線で示されている。AMDおよび黄班変性患者に見出されるP259PおよびD273Nの多型の変化を示す塩基は、太字で示されている。
【図15】出生後7日に抗MT1−MMP抗体を網膜下に注射され、30日齢で固定されたRCSラットにおける、遺伝性網膜変性の遅延を示す、2枚の顕微鏡写真である。網膜変性の遅延は、注射された眼(A)の外核層に残留する光受容体核数の高い値(約2倍)を、同じ動物の注射なしの対照の眼(B)の比較可能な中央領域と比べることにより、証拠付けられる。
【技術分野】
【0001】
背景技術
加齢黄班変性(AMD)は、60歳を超える高齢者人口の失明の第1の原因である。これは、罹患した人々の中心視力を破壊し、読書や運転などの日常生活に必要な活動を行う能力を奪う、深刻な疾患である(Bressler et al., 1988; Evans, 2001; Gottlieb, 2002)。ある研究にでは、75歳以上の人々におけるAMDの有病率は7.8%と報告された(Klein et al., 1992)。
【0002】
AMDは、網膜外層の細胞(光受容体および光受容体を支援する網膜色素上皮(RPE)細胞を含む)、および脈絡膜として知られている、隣接する眼の血管層の細胞が関連する、ゆっくりと進行する疾患である。黄班変性は、高い視力に関与する網膜中心の小さな部分(直径約2mm)である、黄班部の破壊によって特徴づけられる。遅発性黄班変性(すなわちAMD)は一般に、「ドライ(萎縮型)」または「ウェット(滲出型)」のどちらかに定義される。AMDのウェット(滲出型)新生血管の形態は、この疾患を有する人の10%にみられ、脈絡膜毛細血管からRPEを通って成長する異常な血管を特徴とし、典型的にはこれにより出血、滲出、瘢痕化、および/または重篤な網膜はく離が生じる。AMD患者の約90%は非新生血管性のドライ型であり、RPEの萎縮および黄班部の光受容体の損失を特徴とする。
【0003】
AMDの臨床的な特徴の1つは、「ドルーゼン」と呼ばれる破片様物質の沈着の存在であり、これは、RPE(網膜の最も外側の層)をその下の脈絡膜から分離している細胞外基質成分の複数層の混合物である、ブルッフ膜の上に蓄積される。ドルーゼンは、眼底検査により観察できる。これらの沈着物は、AMD患者から提供された眼の顕微鏡的研究により、特徴が大きく明らかにされた(Sarks, et al., 1988)。生きている眼において臨床検査で観察される沈着物は、相対寸法、存在する量、および沈着物の形状を含む幾つかの基準に従って、軟性ドルーゼンまたは硬性ドルーゼンのどちらかに分類される(例えばAbdelsalam et al., 1999に概説されている)。組織化学的および免疫細胞化学的研究により、ドルーゼンが、種々の脂質、多糖類、グリコサミノグリカンおよびタンパク質を含むことが示された(Abdelsalam et al., 1999; Hageman et al., 1999, 2001)。
【0004】
現在のところAMDに対する治療法はない。幾つかの種類の処置が利用可能であり、ウェット型の疾患では、異常な血管のレーザー光凝固術が標準的である(Gottlieb, 2002; Algvere and Seregard, 2002)。この処置は、明確に区別される新生血管病変部のみがこれにより処置でき、また患者の50%が血管からの滲出の再発を被るという事実により、制限される(Fine et al., 2000)。この治療に必要なレーザーのエネルギーのために、処置された部分の光受容体も死に、また患者はしばしば、処置の直後に中心部の失明を経験する。新しい新生血管病変がいずれは発達して、繰り返しの処置が必要となる。
【0005】
低エネルギーレーザー活性と光感受性剤を組み合わせた光線力学療法が、レーザー治療アプローチの有力な追加となった(Bressler, 2001)。この方法においては、光感受性剤である、異常な新生血管に親和性を有するベルテポルフィンが用いられる。これらの血管の選択的標的化は非熱的レーザーにより活性化され、活性酸素種を生成でき、これにより異常な血管を破壊することができる。研究グループにおいては、ベルテポルフィンを用いた光線力学療法を受けた患者の33%のみが、重大な視力低下を起こし、一方ベルテポルフィンを用いない患者においてはこの率は61%であった。この処置はしかし、典型的な脈絡膜新生血管膜を有する患者にのみ有益であった。この新しい処置様式の完全で長期的な利点はまだ立証されていない。この進歩にもかかわらず、この処置は新しい新生血管病変のその後の形成は予防しない。
【0006】
AMDのウェット型に対して利用可能な他の処置には、黄班下手術および外部光線照射療法が含まれる。検討中のものには、網膜移動(retinal translocation)および血管上皮増殖因子の阻害が含まれる(Algvere and Seregard, 2002)。重症AMDへの進行を防ぐには、ビタミンCとE、βカロテンおよび鉛を含む、酸化防止剤による処置が役立つことが示され、また予防的レーザー治療も研究中されている(Gottlieb, 2002)。
【0007】
上記の進歩にもかかわらず、AMDに対する現在の処置は、ほとんどが症状緩和的であることが認識されている(Algvere and Seregard, 2002)。疾患の根本的な原因は未知であり、これに取り組む、利用可能な処置はない。従ってこの疾患は、処置の後にも進行し続け、新生血管の再発達および黄班部の破壊が生じる。そのため、この疾患の分子機構を理解して、治療的処置または治療をその根本的な原因に向けることに対する、切実な要求が存在する。
【0008】
AMDの病因論に遺伝因子が重要な役割を果たしていることは、よく認識されている。例えば、AMDの家族歴を有する人およびAMD患者の兄弟姉妹は、AMDを発症するより高いリスクを有することが報告された(Evans, 2001)。一卵性双生児は、二卵性双生児より高い、AMDの臨床的特徴の一致率を示した(Klein et al., 1994)。他の研究によれば、AMDに罹患した全ての一卵性双生児はAMDについて一致しているが、二卵性双生児では42%のみが一致していることが見出された(Meyers et al., 1995)。従って、AMDの病因を理解するための1つの主要なアプローチは、AMDに関連する遺伝子を探すことである。例えば、大家族における連鎖分析、兄弟姉妹のペアの間での対立遺伝子共有分析、および集団における関連研究などのアプローチが、AMDに関連する遺伝子を同定する試みにおいて用いられた(Guymer, 2001)。染色体領域1qとの関連がAMDの大家族において報告された(Klein et al., 1998)。対立遺伝子共有分析の結果からは、新しい候補遺伝子は見出されなかった(Weeks et al, 2000)。ヘミセンチン1における突然変異の関与が加齢黄班変性の家族形態において報告され、大家族のヒト染色体領域1qへマッピングされた(Schultz et al., 2003)。
【0009】
AMDに対する他の遺伝的戦略は、遺伝性黄班変性の他の型を誘発する遺伝子を、AMDの推定原因遺伝子(「候補遺伝子」)として試験することである。遺伝的形質の明らかな遺伝様式を有する幾つかの黄班変性(いわゆる「メンデル型黄班変性」)で、表現型がAMDに類似しているものが記載された。これらの疾患は、ソルスビーの眼底ジストロフィー、スタルガルト病、ベスト病、およびドインのハニカム網膜ジストロフィー(Doyne's honeycomb retinal dystrophy)を含む(Guymer, 2001)。これらの疾患の原因遺伝子が、AMDの候補遺伝子として解析された。しかしながら今日まで、これらのいずれもが、AMDとの明確な因果関係を示さなかった。例えば、ATP結合カセットトランスポーター遺伝子(ABCR)が、劣性スタルガルト病の病因遺伝子として見出された(Hutchinson et al., 1997)。ABCRはAMDの候補遺伝子として提唱され、1つの研究においては、AMD患者の16%が当初はこの遺伝子に突然変異を有することが示された(Allikmets et al., 1997)。この結論はしかし、問題ありとされた(Stone et al., 1998)。
【0010】
染色体マッピング、遺伝子連鎖解析、および候補遺伝子解析などの古典的な遺伝的アプローチを通してのAMD遺伝子の発見に失敗したことについて、最も可能性のある理由は、AMDが「複数遺伝子」または「複合」遺伝子疾患であることである。複合遺伝子疾患とは、複数遺伝子の変化により引き起こされると考えられる疾患である。このような疾患は、特徴的に、複雑な遺伝の様式を示す(Heiba et al., 1994; Klein et al., 1994)。高齢者の疾患であるAMDの場合、疾患の経過は一般に、上記の複数の遺伝的因子の複合効果のみに影響されるのでなく、ある種の環境リスク因子にも影響されると考えられている。
【0011】
AMDの原因遺伝子を発見することを目的とした第2の大きなアプローチは、疾患の機序を明らかにすることを目的とした、仮説に基づく研究であり、この機序に関与する遺伝子を二次的に同定することも目標とする。AMDの発症機序についての多くの仮説が提唱され、試験されて、この主題について多くの文献がもたらされた。
【0012】
酸化障害は、AMDについて提唱された機序の1つの主要なテーマであった(Winkler et al., 1999; Evans, 2001; Husain et al., 2002)。網膜は、極めて高い酸素を消費することが知られており、光受容体およびRPEは、酸素の非常に豊富な環境にある。RPEは、非常に酸素の多い血液が流れる豊富な毛管網である、脈絡毛細管枝に隣接している。網膜は光感受性器官であって、ここでは光により活性化されるイベントが光暴露の間に定常的に起こっており、これにより特に反応性酸素種が産生される。酸化障害仮説の一般的な裏付けとしては、臨床研究で試験された抗酸化剤が、重篤なAMDの進行を低下させる、適度に有利な効果を有することが報告された(Hyman and Neborsky, 2002)が、しかし、幾つかの研究結果はこれに相反するものである(Flood et al., 2002)。抗酸化剤の血漿濃度を低下させ得る喫煙は、AMDリスクの増加と関連があった(Mitchell et al., 2002)。酸化障害理論への付加的な裏付けとなるのはドルーゼンの最近のプロテオーム解析であり、これにより、幾つかの酸化修飾産物が、これらの沈着物に存在することが示された(Crabb et al., 2002)。
【0013】
RPEにおける機能障害が、AMDの中心的病因であり、ドルーゼン形成を導き得ると提唱された(Hogan, 1972)。最も初期におけるRPE機能障害の兆候として知られているのは、リポフスチンの蓄積であり、これは、AMDのウェット型に見られるブルッフ膜の特徴的な肥厚化、ドルーゼン形成、および脈絡膜血管新生を導き得る(Gass et al., 1985; Sarks et al., 1988; Green, 1999)。リポフスチンは、ほとんどが光受容体外節(OS)の貪食された膜に由来する、酸化ポリマー分子からなる(Katz, 1989; Kennedy et al., 1995)。OS膜にはポリ不飽和脂肪酸が豊富にあることが知られており、これは過酸化の優れた基質である(Katz, 1989)。これらの分子は分解できないため、RPE細胞内にリポフスチンとして蓄積し始めると考えられている。リポフスチンの少なくとも1つの成分、すなわちピリミジンビスレチノイドである発蛍光団A2Eは、毒性であることが示され、膜の不安定化(De and Sakmar, 2002)、チトクロームcオキシダーゼの抑制並びに培養されたポルクリン(porcrine)およびヒトRPE細胞でのアポトーシス(Shaban et al., 2002)を引き起こす。従って、RPEにおけるA2Eおよびリポフスチンの蓄積は、加齢に伴うこれら細胞の機能障害および死滅に直接関連すると考えられる。
【0014】
酸化障害のプロセス、リポフスチンの蓄積、およびドルーゼン形成はAMDのみに限定されているわけではなく、年齢とともに全ての人々にある程度起こるものである。従って、答えの見つからない根本的な問いは、なぜこれらのプロセスが、ある人々にとって他の人々より進行してAMDにつながるのかということである。AMDの根本的な原因を標的とした新しい治療法の開発における進歩には、観察される病態をもたらす光受容体、RPEおよび脈絡膜細胞における、鍵となる細胞代謝経路に関与する特定遺伝子標的についての、より多くの知識が必要とされる。
【発明の開示】
【0015】
発明の概要
本発明は、加齢黄班変性(AMD)を含む網膜の変性状態をスクリーニングし処置するための、新規な方法および組成物、ならびに、治療化合物および方法を試験するために有用な動物モデルを提供する。本発明は遺伝子発見戦略の成果であり、1)AMDに罹患したものと正常の眼組織において、および2)RPE細胞による外節(OS)の食作用の過程の間に、差次的発現を示す遺伝子の単離をもたらす。OS食作用は、RPE細胞の重要な機能であり、複雑な多段階プロセスが関与し、この副産物はRPE細胞における活性酸素種の生成とリポフスチン蓄積の原因となる。
【0016】
CHANGE(Comparative Hybridization Analysis of Gene Expression:遺伝子発現の比較ハイブリダイゼーション解析)と呼ばれる、新規な発現クローニング戦略を用いて、RPE細胞において発現される、少なくとも200個のAMD関連遺伝子および少なくとも60個の食作用関連遺伝子が単離された。この戦略により、以前に特徴づけられていなかった5つの遺伝子が同定され、これらがAMDおよび/またはRPE食作用に関連することが示された。これら遺伝子の産物をコードするcDNAの核酸配列は、本明細書に配列番号1、4、5、12、および17としてリストされている。
【0017】
「AMD/食作用遺伝子(phagogene)」または「AMDP遺伝子」と呼ばれる6つの遺伝子のサブセットが、本明細書にさらに記載され、これらはAMDについて、およびRPE食作用についての関連性の二重の基準に当てはまる。これら遺伝子の3つ、すなわち、プロスタグランジンD2合成酵素(配列番号2)、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)(配列番号15)、および未知のRPE発現cDNA AMDP−3(配列番号17)は全て、AMDにおいて上方制御を示す。AMDにおいて下方制御されるAMDP遺伝子は、カゼインキナーゼ1エプシロン(配列番号9)、フェリチン重ポリペプチド1(ferritin heavy polypeptide 1)(配列番号10)、およびSWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質(配列番号16)を含む。
【0018】
RPE食作用と機能的に関連すると以前に知られていなかった他の遺伝子が、本明細書に開示され、これには、未知PHG−1(配列番号1)、ミエリン塩基性タンパク質(配列番号3)、未知PHG−4(配列番号4)、未知PHG−5(配列番号5)、ピーナッツ様2/セプチン4(配列番号6)、コアクトシン様1(配列番号7)、クラステリン(配列番号8)、メタルギジン(配列番号11)、未知PHG−13(配列番号12)、レチンアルデヒド結合タンパク質1(配列番号13)、およびアクチンガンマ1(配列番号14)が含まれる。
上記の戦略により発見されたAMDP遺伝子の例は、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)(配列番号15)である。MT1−MMPは、例えば、プロゲラチナーゼAを特異的に活性化させることにより、細胞外基質の再構築に関与するプロテアーゼをコードする遺伝子である。ゲラチナーゼAは、基底膜の主要な構成成分であるIV型コラーゲンの特異的な開裂に関与する、主要なメタロプロテアーゼである。MT1−MMPはまた、他の細胞外基質成分に対する活性も示す。
【0019】
MT1−MMPは、AMDおよび他の網膜状態をスクリーニングし処置するための、非常に興味深い治療標的であることが、次の所見に基づいて示された:
1)MT1−MMPは、AMD患者の眼において、AMDのサルモデルにおいて、およびRPEによるOS食作用に欠点を有する網膜変性のモデルであるRCSラットにおいて、RPEおよび光受容体中で上方制御される;
2)MT1−MMPは、RPE細胞による食作用のメカニズムに直接関与する;
3)RCSラットにおける網膜変性の進行は、抗MT1−MMP抗体を用いて、網膜下のスペースに存在する活性化されたMT1−MMPをブロックすることにより、大幅に低減される;
4)mRNAのスプライス変異体を産生することができて短縮タンパク質をもたらすMT1−MMPの同義多型(すなわち、P259P)、および、タンパク質の触媒ドメインに影響するMT1−MMPのミスセンス多型(すなわち、D273N)が、AMD患者(54.8%vs31.6%)および家族性黄班変性症患者(68.2%vs31.6%)のDNAにより高い頻度で見出される。
【0020】
前述の発見に基づき、本発明の目的は、対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を、遅延または逆転させるための方法を提供することである。該方法は、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を有する、またはこれを発症するリスクのある対象の網膜または脈絡膜細胞を、AMDP関連または食作用関連遺伝子の発現または活性を調節する剤と接触させることを含む。AMDP関連または食作用関連遺伝子は、ヒト未知PHG−1;プロスタグランジンD2合成酵素;ミエリン塩基性タンパク質;ヒト未知PHG−4;ヒト未知PHG−5;ヒトピーナッツ様2/セプチン4;コアクトシン様1;クラステリン;カゼインキナーゼ1エプシロン;フェリチン重ポリペプチド1;メタルギジン;ヒト未知PHG−13;レチンアルデヒド結合タンパク質1;アクチンガンマ1;膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP);SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質;およびヒト未知AMDP−3であることができる。前記AMDP関連または食作用関連遺伝子は、それぞれ本明細書において配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、および17と同定されたヌクレオチド配列を含む。
【0021】
発現または活性の調節のために標的化される好ましい遺伝子は、AMDにおいて上方調節されることが本明細書で示された、プロスタグランジンD2合成酵素、MT1−MMPおよび未知遺伝子AMDP−3である。特に好ましい態様において、剤は、MT1−MMP核酸またはタンパク質に対する剤である。網膜または脈絡膜変性疾患または状態は、AMDであってよい。方法は、AMDに罹患した対象、またはAMD発症のリスクのある対象を処置するために用いることができる。
方法は、網膜もしくは脈絡膜変性疾患もしくは状態を遅延させるか、または疾患もしくは状態を逆転させることができる。
方法の実施において接触させる細胞型は、光受容体、RPE細胞、ミュラー細胞、または、内皮細胞、平滑筋細胞、白血球、マクロファージ、メラノサイトもしくは繊維芽細胞を含む、脈絡膜の細胞型である。
【0022】
AMDP関連または食作用関連遺伝子がMT1−MMPである本発明の好ましい態様において、前記MT1−MMPは、細胞内、または細胞外基質、例えば光受容体間マトリックスに位置することができる。
本発明の幾つかの態様において、剤は、AMDP関連または食作用関連遺伝子の核酸またはアミノ酸配列の発現を下方制御する。好ましい態様において、標的化遺伝子は、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素およびAMDP−3を含み、これら遺伝子は、AMDにおいて過剰発現されることが本明細書で示される。剤は、オリゴヌクレオチドであってよく、例えば、リボザイム、アンチセンスRNA、干渉RNA(RNAi)分子、または三重らせん形成性分子(triple helix forming molecule)である。
【0023】
剤はまた、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3タンパク質もしくはペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。抗体は、タンパク質またはペプチドの少なくとも1つの生物活性を中和することができるのが好ましい。例えば、MT1−MMPに対する抗体は、プロゲラチナーゼAの活性化または細胞外基質成分の分解を、中和することができる。
他の態様において、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3の発現を下方制御する剤は、小分子であることができる。
【0024】
本発明のさらなる目的は、対象の、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を発症するリスクを決定する方法を提供することである。方法は、対象の核酸配列を、少なくとも1つの食作用関連またはAMDP関連遺伝子中の少なくとも1つの多型の存在についてスクリーニングすることを含み、ここで多型の存在は、前記対象が多型のない対象より、網膜変性疾患を発症する高いリスクを有することを示す。食作用関連遺伝子は、限定なく、未知PHG−1、プロスタグランジンD2合成酵素、ミエリン塩基性タンパク質、未知PHG−4、未知PHG−5、ピーナッツ様2/セプチン4、コアクトシン様1、クラステリン、カゼインキナーゼ1エプシロン、フェリチン重ポリペプチド1、メタルギジン、未知PHG−13、レチンアルデヒド結合タンパク質1、アクチンガンマ1、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質、および未知AMDP−3を含むことができる。これらの食作用関連遺伝子産物をコードする核酸は、それぞれ、配列番号1〜17として本明細書にリストされたcDNA配列を含む。
【0025】
方法においてスクリーニングされるAMDP関連遺伝子は、限定なく、プロスタグランジンD2合成酵素、カゼインキナーゼ1エプシロン、フェリチン重ポリペプチド1、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質、およびAMDP−3を含むことができる。これらのAMDP関連遺伝子産生物をコードする核酸は、それぞれ、本明細書中配列番号2、9、10、16および17としてリストされたcDNA配列を含む。
方法においてスクリーニングされる多型は、目的遺伝子のイントロン、エクソンまたはプロモーター領域内にあることができる。
【0026】
スクリーニング法の好ましい態様において、目的遺伝子はMT1−MMPである。多型は、以下の群から選択される核酸配列を有するアンプリマー対を用いてPCRにより増幅可能なヒトMT1−MMP遺伝子の領域内にあることができる:配列番号18および19;20および21;22および23;24および25;26および27;28および29;30および31;32および33;34および35;36および37;38および39;40および41;42および43;44および45;46および47;48および49;50および51;52および53;54および55;56および57;並びに57および58。
方法の特に好ましい態様において、多型は、ヒトMT1−MMP遺伝子のエクソン5の285bp断片内にある。この領域内で、多型は、D273Nミスセンス多型およびP259P同義多型を含むことができる。
【0027】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を処置する方法を提供することもまた、本発明の目的である。該方法は、対象の網膜または脈絡膜細胞を、食作用関連またはAMDP関連mRNAまたはタンパク質の発現を下方制御または阻害する剤をコードする核酸を含むベクターと、接触させることを含む。ベクターに含まれる剤は、アンチセンスRNA、リボザイムまたは干渉RNA(RNAi)分子であることができる。好ましい態様において、下方制御用に標的化される食作用関連またはAMDP関連遺伝子は、プロスタグランジンD2合成酵素、MT1−MMP、およびAMDP−3であり、それぞれ、本明細書中に配列番号2、15および17として示される核酸配列を含む。
他の側面において、本発明は、ベクターを用いて、食作用関連またはAMDP関連遺伝子産物の所望の形態を、これを必要とする対象に送達することにより、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を処置する方法を提供する。ベクターは、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の野生型または多型変異体のどちらかをコードする核酸配列を含む。
【0028】
本発明のさらに他の態様は、対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態の予防または処置のための組成物であって、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の発現または活性をブロックする剤を含む、前記組成物である。幾つかの態様において、剤は、アンチセンスRNA、リボザイムまたは干渉RNA(RNAi)分子であることができる。剤はまた、抗体または小分子であることができる。
さらに本発明の範囲であるのは、ベクターを含有する、対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態の予防または処置のための組成物である。種々の態様において、ベクターは、食作用関連またはAMDP関連mRNAまたはタンパク質の発現を下方制御または阻害する剤をコードする核酸、または、食作用関連またはAMDP関連タンパク質の野生型または多型変異体をコードする核酸を含むことができる。好ましい態様において、食作用関連またはAMDP関連遺伝子は、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素およびAMDP−3を含む。特に好ましい態様において、遺伝子はMT1−MMPである。
【0029】
本発明はさらに、例えばAMDおよび他の網膜変性状態のモデルとして有用な、非ヒトトランスジェニック動物の幾つかの態様を提供する。好ましくは、トランスジェニック動物は哺乳類であり、より好ましくはげっ歯類であり、最も好ましくはマウスである。1つの態様において、トランスジェニック動物は、該動物の少なくとも1つの細胞型に、食作用関連またはAMDP関連遺伝子を過剰発現させる、単離された核酸コンストラクトを含む。食作用関連またはAMDP関連遺伝子は、好ましくは、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素、またはAMDP−3である。トランスジェニック動物の好ましい型は、光受容体、RPE細胞およびミュラー細胞から選択される網膜細胞型を含む特定の細胞型、並びに内皮細胞、平滑筋細胞、白血球、マクロファージ、メラノサイトおよび繊維芽細胞を含む脈絡膜細胞型において、食作用関連またはAMDP関連遺伝子産物を過剰発現するように、設計される。幾つかの態様において、目的遺伝子は、条件付きで過剰発現される。
【0030】
AMD/網膜変性の動物モデルの他の好ましい態様は、単離された核酸コンストラクトを含む非ヒトトランスジェニック動物であって、前記コンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に、食作用関連またはAMDP関連核酸および/またはタンパク質の多型変異体を発現させる、前記トランスジェニック動物である。好ましい態様において、核酸および/またはタンパク質は、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素、またはAMDP−3である。正常な対照集団に比べ、AMDを有するヒトの集団においては、多型変異体はその発生率が増加し得る。
【0031】
さらに他の態様は、少なくとも第1の単離核酸コンストラクトおよび少なくとも第2の単離核酸コンストラクトを含む非ヒトポリトランスジェニック動物であって、第1のコンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に第1遺伝子の多型変異体をAMDの発生率の増加に相関して発現させ、第2のコンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に第2遺伝子の多型変異体をAMDの発生率の増加に相関して発現させるか、またはRPE食作用と関連を有する、前記ポリトランスジェニック動物である。
ポリトランスジェニック動物の好ましい態様において、第1遺伝子は、MT1−MMPであり、第2遺伝子は、ABCR、アポリポタンパク質E、C−Cケモカイン受容体2、シスタチンC、ヘミセンチン/FIBL−6、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ、C−Cケモカインリガンド/単球走化性因子タンパク質1(monocyte chemoattractant protein 1)、およびパラオキソナーゼから選択される。
【0032】
ポリトランスジェニックモデルの他の好ましい態様において、第1遺伝子は、MT1−MMPであり、第2遺伝子は、食作用関連またはAMDP関連遺伝子であって、ヒト未知PHG−1、プロスタグランジンD2合成酵素、ミエリン塩基性タンパク質、ヒト未知PHG−4、ヒト未知PHG−5、ヒトピーナッツ様2/セプチン4、コアクトシン様1、クラステリン、カゼインキナーゼ1エプシロン、フェリチン重ポリペプチド1、メタルギジン、ヒト未知PHG−13、レチンアルデヒド結合タンパク質1、アクチンガンマ1、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質、およびヒト未知AMDP−3から選択される。
本発明のトランスジェニック動物の特に好ましい態様はマウスであり、これは、比較的短い寿命の利点を提供し、サルなどの他のより長命の動物モデルに比べて、これを加齢疾患の研究に好適なものとしている。
【0033】
さらに他の側面において、本発明は、以前に特徴づけられておらず、本明細書において食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質と示された遺伝子産物をコードする単離された核酸を提供する。これらのタンパク質をコードする核酸は、配列番号1、4、5、12、および17を含む核酸配列を含む。
本発明はさらに、複数の単離されたオリゴヌクレオチド配列を含み、該配列は、天然のヒトAMDP関連または食作用関連遺伝子のイントロン、エクソンまたはプロモーター配列内に位置する、遺伝子アレイを提供する。アレイ内にオリゴヌクレオチド配列により表わされる遺伝子は、本明細書において配列番号1〜17および配列番号62〜69で表わされる核酸配列を含むcDNAをコードする。
【0034】
遺伝子アレイの好ましい態様において、少なくとも1つの遺伝子はMT1−MMPであり、オリゴヌクレオチド配列は、MT1−MMPコード配列のP259PまたはD273N多型変異体を含む。MT1−MMPのこれらの変異体は、AMDおよび他の黄斑変性状態を有する患者の集団において、正常な対照の対象における頻度に比べてその頻度が増加することが、本明細書において示される。
遺伝子アレイはさらに、1つまたは2つ以上のAMD関連遺伝子の少なくとも1つの多型変異体を含む少なくとも1つのオリゴヌクレオチド配列を、MT1−MMPに加えて含むことができる。多型変異体配列は、ABCR(D217N;G1961E)、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(V47A)、アポリポタンパク質E(C130、R176CおよびC130R、R176)、シスタチンC(A25T)およびパラオキソナーゼ(Q192R、L54M)を含むことができる。
【0035】
本発明の遺伝子アレイは、例えば、対象からのDNAサンプルをスクリーニングして、該対象のDNA中の複数のAMD関連および/または食作用関連遺伝子の多型変異体の分散を決定することに対し、有用である。AMDの複数遺伝子(複雑な病気)病因論にそって、対象のDNA中のAMD関連または食作用関連遺伝子の特定多型変異体の組合せの分散に関する情報を用いて、該対象が、AMD関連または食作用関連遺伝子の特定多型変異体の組合せを欠いている対象よりも、AMDなどの網膜疾患を発症するより高いリスクを有する可能性があることを、予測できると考えられる。
【0036】
AMDおよび関連疾患用に調節された本発明の遺伝子アレイは、AMDおよび関連疾患に関連すると知られている複数遺伝子の多型変異体を試験する、便利で比較的安価な方法を提供することができる。
本発明のこれらおよび他の目的は、以下の記載および例にさらに詳細に示されており、これは、本発明を説明することを意図しているが、その範囲を限定することは意図していない。
図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある側面をさらに示すために含まれている。本発明は、1つまたは2つ以上の以下の図面を、本明細書に記載された特定の態様の詳細な記述と組み合わせて参照することにより、よりよく理解することができる。
【0037】
発明の詳細な説明
前述の発見に基づき、本発明は、AMDおよび/またはRPE細胞による食作用に関連する新規な遺伝子、AMDおよび他の網膜変性状態を検出し処置するための方法および組成物、並びに、とりわけAMDの治療組成物および処置プロトコルを試験するために有用な、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子に基づく動物モデルを提供する。以下に記載する好ましい態様は、これらの組成物および方法の適応を説明する。しかしなお、これらの態様の記載から、以下に提供される記載に基づき本発明の他の側面を作製し、および/または実行することが可能である。
【0038】
生物学的方法
従来の分子生物学的技法が関与する方法を、本明細書に記載する。かかる技法は、当分野に一般に知られており、以下のような方法論の専門書に詳細に記載されている:Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., vol. 1-3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;およびCurrent Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York, 1992 (定期的更新あり)。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる種々の技法は、例えば、Innis et al., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press: San Diego, 1990に記載されている。核酸の化学合成の方法は、例えば、Beaucage and Carruthers, Tetra. Letts. 22: 1859-1862, 1981およびMatteucci et al., J. Am. Chem. Soc. 103: 3185, 1981に記載されている。核酸の化学合成は、例えば、市販の自動オリゴヌクレオチド合成装置上で行うことができる。免疫学的方法(例えば、抗原特異的抗体の調製、免疫沈降、および免疫ブロット法)は、例えば、Current Protocols in Immunology, ed. Coligan et al., John Wiley & Sons, New York, 1991およびMethods of Immunological Analysis, ed. Masseyeff et al., John Wiley & Sons, New York, 1992に記載されている。遺伝子導入および遺伝子療法の慣用の方法も、本発明において用いるために適合することができる。例えば、Gene Therapy: Principles and Applications, ed. T. Blackenstein, Springer Verlag, 1999;Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. P.D. Robbins, Humana Press, 1997およびRetro-vectors for Human Gene Therapy, ed. C.P. Hodgson, Springer Verlag, 1996を参照のこと。
【0039】
CHANGEにより単離された食作用関連遺伝子
本発明を導いた研究は、RPE細胞によるOS食作用に関与する遺伝子であって、摂動された場合に、RPEにおけるストレスおよび機能障害をもたらし得るものを同定するために行われた。かかるストレスは、黄班、網膜または脈絡膜疾患に関連する1つまたは2つ以上の望ましくない変化、例えば、リポフスチン蓄積の増加、ドルーゼン形成、または新生血管膜の発生などをもたらし得る。本明細書に記載された遺伝子の発見は、RPEによる食作用における機能障害が、かかるAMD関連の変化をもたらす鍵となる要因であるとの仮定に基づいていた。RPE細胞は、光受容体の恒常性を維持する重要な機能を行う。この難しい課題には、とりわけ食作用の毎日のプロセスおよび、毎日更新され光受容体のOSの先から脱離するOS膜の消化を含む(Young and Bok, 1969)。以下にさらに記載されるように、食作用のプロセスは、OS膜の結合、摂取および消化のステップを含む。正常な状況の下では、RPE細胞は分裂しない細胞である。従って、個人の寿命の間を通して、OS食作用の毎日のプロセスは、これらの細胞に対する多量の代謝負荷を表わすだけでなく、これら細胞内への未消化物質、特にリポフスチンの蓄積に寄与し、リポフスチンとは、A2Eなどの光受容体由来の毒性物質を含む、細胞老廃物の複合した混合物である。
【0040】
従って、1つの側面において、本発明は、RPE細胞による食作用プロセスと機能的に関連すると以前に知られていなかった遺伝子の、核酸およびタンパク質配列を提供する。本発明以前に、RPE細胞によるOS食作用の機構に関与する遺伝子の系統的な探索は行われておらず、これら遺伝子は本明細書において「食作用関連遺伝子」または「食作用遺伝子」と指定され、「PHG」と略される。AMDが複雑な多遺伝子疾患であること、またPRE食作用は多くの異なる遺伝子産物の関与が必要な多段階の細胞プロセスであるとの知識と整合して、発明者らは、1つまたは2つ以上の食作用関連遺伝子のDNA配列における多型などのわずかな変化、または食作用関連遺伝子における多型と他の遺伝子における多型の組合せが、AMDで観察される表現型を協働して産生する可能性があるとの認識に基づき、食作用関連遺伝子の同定を追求した。
【0041】
目的遺伝子を差次的発現により得るために、以下の例にさらに記載されるように、特別の発現プロファイリング戦略を開発して、CHANGE(Comparative Hybridization Analysis of Gene Expression:遺伝子発現の比較ハイブリダイゼーション解析)と名付けた。CHANGEアレイは、RPEで発現された約10,000個の遺伝子を含み、各々が96個のcDNAを含むパネルに配列されている(図1参照)。食作用遺伝子を得るために、RPE発現遺伝子のCHANGEアレイを、「+/−OS」ハイブリダイゼーションプローブの対を用いてスクリーニングした:該プローブは、in vitroのOS食作用の間の食作用RPE細胞株において(+OSプローブ)、およびOSの供給なしの対照細胞において(−OSプローブ)発現された全RNAから作製した。アレイ中の遺伝子は、さらなる解析のために、図1の矢印により示された、+OS対−OSプローブによるハイブリダイゼーションにおいてハイブリダイゼーションシグナルの変化からわかるように、OS食作用中に発現の変化(すなわち、増加または減少)を示すことに基づいて選択した。スクリーニングした約10,000個の遺伝子のうち、約60個の推定食作用関連遺伝子が、CHANGEにより検出された変化した遺伝子発現に基づき、同定された。これらのうち、食作用チャレンジ時(すなわち、+/−OSプローブによるスクリーニング)のハイブリダイゼーション強度の非常に顕著な変化を示す16個の遺伝子をランダムに選択し、更なる研究およびRPE食作用とのそれらの機能的関連の確認のために用いた。表1は、上記の食作用遺伝子であって、続いてRPE細胞によるOS食作用との関連が確認されたもののリストを提供する。これらの遺伝子は次に、例2にさらに記載される。in vitroにおけるRPE細胞によるOS食作用の間の、これらの遺伝子のmRNA発現プロファイルを示す図4も参照のこと。
【0042】
【表1】
【0043】
CHANGEにより単離されたAMDP関連遺伝子
他の側面において、本発明は、AMDと関連すると以前に知られていなかった遺伝子の、核酸およびタンパク質配列を提供する。AMD関連遺伝子を得るために、10,000個のRPE発現遺伝子のCHANGEアレイを、上記と同様に「+/−」プローブの対を用いて繰り返しスクリーニングした。AMD関連遺伝子を同定するために用いた+/−プローブは、AMDに罹患および非罹患したヒト提供者の眼のRPE/脈絡膜から抽出した、および、AMDのサルモデルの、年齢を整合させた正常および罹患した眼から抽出した、全RNAから作製した。アレイの遺伝子は、さらなる解析のために、加齢の正常な対照眼と比較して、AMDにおいて差次的(すなわち、増加または減少)発現を示すことに基づき選択した。CHANGEにより検出される変化した遺伝子発現の基準に基づき、約200個のAMD関連遺伝子が同定された。
AMD関連食作用遺伝子(「AMDP遺伝子」)を同定するために、上記の2つのCHANGEスクリーニングからのデータを比較して、RPE細胞によるOS食作用およびAMDの両方において差次的に発現されたRPE遺伝子のサブセットを同定した。上記のように、食作用CHANGEスクリーニングにより約60個の食作用遺伝子がもたらされ、推定AMD関連遺伝子は約200個となった。2つのデータベースの初めの比較により、食作用およびAMDの両方で発現変化を示す6個の遺伝子のサブセットがもたらされた(表2)。これらの遺伝子は、本明細書において、「AMD関連食作用遺伝子」または「AMD/食作用遺伝子」と指定され、「AMDP」と略される。
【0044】
【表2】
【0045】
上にリストした遺伝子のうち、CHANGEハイブリダイゼーション解析により、AMDP−1、3および6のmRNAは、対照よりAMDの眼において高いレベルで発現され、一方、AMDP−2、4および5の遺伝子の発現レベルは、対照よりAMDの眼において低かった。AMDP遺伝子はさらに下の例3に記載される。
【0046】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物をコードする核酸配列およびそれらの多型変異体
上記のように、本発明は、RPE食作用の間におよび/またはAMDにおいて発現の変化を示すことが、差次的クローニング戦略(CHANGE)により発見された遺伝子に関連する、核酸およびアミノ酸配列を提供する。1つの態様において、本発明は、この戦略により単離された、新規な精製された核酸(ポリヌクレオチド)を提供する。本発明の、以前に知られていなかった核酸は、本明細書においてPHG−1(配列番号1);PHG−4(配列番号4);PHG−5(配列番号5);PHG−13(配列番号12);およびAMDP−3(配列番号17)と同定された核酸配列を含む。これらの核酸は、それぞれ、本明細書において配列番号71〜79;82〜84;85;92〜98;および103〜121として同定されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。
【0047】
本発明はまた、RPE食作用および/またはAMDに関連すると以前に知られていなかった、特徴づけられた核酸およびポリペプチドの使用を包含する。以前に特徴づけられていた遺伝子の、食作用およびAMDとの関係は、RPE食作用の間におよび/またはAMD患者における変化した発現に基づいて発見された。後者のグループの核酸は、プロスタグランジンD2合成酵素(配列番号2);ミエリン塩基性タンパク質(配列番号3);ピーナッツ様2/セプチン4(配列番号6);コアクトシン様1(配列番号7);クラステリン(配列番号8);カゼインキナーゼ1エプシロン(配列番号9);フェリチン重ポリペプチド1(配列番号10);メタルギジン(配列番号11);レチンアルデヒド結合タンパク質1(配列番号13);アクチンガンマ1(配列番号14);膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)(配列番号15);およびSWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質(配列番号16)を含む。
本発明の核酸分子は、RNAの形態またはDNAの形態(例えば、cDNA、ゲノムDNA、および合成DNA)であることができる。本発明の好ましい核酸分子は、それぞれの天然のポリヌクレオチドであり、本明細書において配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、および17と示されたヌクレオチド配列を含有する。
【0048】
天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードするコード配列は、配列番号1〜17で示されるヌクレオチド配列のそれと同一であってよい。これらはまた、遺伝子コードの冗長性または縮退の結果、配列番号1〜17で表わされるポリヌクレオチドと同じポリヌクレオチドをコードする、異なるコード配列であってもよい。本発明に包含される他の核酸分子は、配列番号1〜17の変異体、例えば、本明細書に記載された食作用関連およびAMDP関連遺伝子の断片、類似体および誘導体をコードする変異体である。かかる変異体は、例えば、天然の食作用関連およびAMDP関連遺伝子の天然に存在する対立遺伝子多型、天然の食作用関連およびAMDP関連遺伝子のホモログ、スプライス変異体、または食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然に存在しない変異体であってよい。これらの変異体は、対応する天然の配列番号1〜17と1つまたは2つ以上の塩基において異なるヌクレオチド配列を有する。例えば、かかる変異体のヌクレオチド配列は、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の1つまたは2つ以上のヌクレオチドの欠失、付加または置換を特徴とすることができる。
【0049】
幾つかの用途において、変異体核酸分子は、食作用関連および/またはAMDP関連の機能活性を実質的に維持するポリペプチドをコードする。他の用途に対して、変異体核酸分子は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の機能活性が欠けているか、またはその大幅な低下を特徴とするポリペプチドをコードする。天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の機能活性を維持することが望ましい場合には、好ましい変異体核酸は、サイレントなまたは保存的ヌクレオチド変化を特徴とする。
【0050】
他の用途において、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の1つまたは2つ以上の機能活性に大きな変化を示す変異体食作用関連および/またはAMDP関連ポリペプチドは、コードされたポリペプチドにおける保存的変化より少ない変化を引き起こすヌクレオチド置換を作製することにより、作ることができる。かかるヌクレオチド置換の例は、(a)ポリペプチド骨格の構造、(b)ポリペプチドの電荷または疎水性;または(c)アミノ酸側鎖の量、における変化をもたらすものである。タンパク質の特性に最大の変化をもたらすことが一般に予想されるヌクレオチド置換は、コドンにおいて非保存的変化を引き起こすものである。タンパク質構造に主要な変化を引き起こし得るコドン変化の例は、(a)例えばセリンまたはソレオニンなどの親水性残基の、疎水性残基、例えばロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリンまたはアラニンなどによる置換;(b)システインまたはプロリンの、任意の他の残基による置換;(c)電荷が正の側鎖を有する残基、例えば、リジン、アルギニン、またはヒスチジンの、電荷が負の残基、例えばグルタミンまたはアスパラギンによる置換;または(d)大量の側鎖を有する基、例えばフェニルアラニンの、側鎖を有さないもの、例えばグリシンによる置換、を引き起こすものである。
【0051】
本発明内の天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然に存在する対立遺伝子多型は、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と少なくとも75%(例えば、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、および99%)の配列同一性を有し、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と共通の少なくとも1つの機能活性を有するポリペプチドをコードする核酸である。本発明における天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のホモログは、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と少なくとも75%(例えば、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、および99%)の配列同一性を有し、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と共通する少なくとも1つの機能活性を有するポリペプチドをコードする、非ヒト種から単離された核酸である。
【0052】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然に存在する対立遺伝子多型および、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のホモログは、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然の機能活性(例えば、MT1−MMPの場合はプロゲラチナーゼAの活性化)について、当分野に知られた技法を用いてスクリーニングすることにより、単離することができる。かかるホモログおよび対立遺伝子多型のヌクレオチド配列は、従来のDNA塩基配列決定法により決定することができる。代替的に、公開の、または非機密の核酸データベースを探索して、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子に対して高い割合(例えば、70、80、90%、95%またはそれ以上)の配列同一性を有する他の核酸分子を同定することもできる。
【0053】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の天然に存在しない変異体は、天然には存在せず(例えば、人の手により作製され)、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と少なくとも75%(例えば、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、および99%)の配列同一性を有し、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と共通する少なくとも1つの機能活性を有するポリペプチドをコードする、核酸である。天然に存在しない食作用関連および/またはAMDP関連核酸の例は、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の断片をコードするもの、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子にハイブリダイズするもの、またはストリンジェント条件下における天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の補体、および天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子と少なくとも65%の配列同一性を共有するもの、または天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の補体、および食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子融合タンパク質をコードするものである。
【0054】
本発明における食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の断片をコードする核酸は、例えば、それぞれの食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の2、5、10、25、50、100、150、200、250、300、またはそれ以上のアミノ酸残基をコードするものである。より短いオリゴヌクレオチド(例えば、長さが6、12、20、30、50、100、125、150または200塩基)であって、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の断片をコードする核酸配列をコードするかこれにハイブリダイズする、前記オリゴヌクレオチドも、プローブ、プライマー、またはアンチセンス分子として用いることができる。より長いポリヌクレオチド(例えば、300、400、500、600、700、800、900、1000、11000、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、21000、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、またはこれ以上の塩基、例えば、4000、5000、6000、7000、8000、および9000塩基)であって、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の断片をコードする核酸配列をコードするかこれにハイブリダイズする、前記ポリヌクレオチドも、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の代わりに、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の機能活性を調節することが望まれる場合の用途において用いることができる。食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の断片をコードする核酸は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の完全長配列またはその変異体の、酵素消化(例えば、制限酵素を用いて)または化学的分解により、作製することができる。
【0055】
ストリンジェント条件下において配列番号1、4、5、12および17で表わされる核酸または配列番号1、4、5、12および17で表わされる補体にハイブリダイズする核酸もまた、本発明に包含される。例えば、かかる核酸は、低ストリンジェンシー条件、中ストリンジェンシー条件、または高ストリンジェンシー条件の下で、配列番号1、4、5、12および17に、または配列番号1、4、5、12および17で表わされる補体にハイブリダイズするものであってよい。好ましいかかる核酸は、配列番号1、4、5、12または17の全体または一部の補体のヌクレオチド配列を有するものである。本発明における配列番号1、4、5、12および17で表わされる他の変異体は、配列番号1、4、5、12および17に、または配列番号1、4、5、12および17で表わされる補体に対して少なくとも65%(例えば、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、および99%)の配列同一性を共有するポリヌクレオチドである。配列番号1、4、5、12および17もしくは配列番号1、4、5、12および17で表わされる補体に、ストリンジェント条件下においてハイブリダイズする核酸、または、これに対して少なくとも65%の配列同一性を共有する核酸は、当分野に知られた技法により得ることができる。
【0056】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の融合タンパク質をコードする核酸分子、例えば本明細書において配列番号1〜17として記載された核酸によりコードされる核酸分子もまた、本発明に包含される。かかる核酸は、好適な宿主中に導入された場合に食作用関連および/またはAMDP関連融合タンパク質を発現するコンストラクト(例えば、発現ベクター)を調製することにより、作製することができる。例えば、かかるコンストラクトは、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質、例えばMT1−MMPをコードする第1のポリヌクレオチドを結合し、他のタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドと共にフレーム内に融合することにより作製でき、これにより好適な発現系におけるコンストラクトの発現が、融合タンパク質を産生する。
【0057】
本発明は、上に記載したように、食作用関連および/またはAMDP関連ポリペプチドをコードする核酸配列にハイブリダイズすることができる、標識された核酸プローブを包含する。本発明の核酸分子は、当業者に対し、生物材料中において本発明の核酸配列を検出するのに用いるためのヌクレオチドプローブを作成することを可能とする。プローブは、ハイブリダイゼーションにおいて、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子を検出するために用いてもよい。この技法は一般に、患者または他の細胞源からのサンプルから得た核酸(例えばmRNA分子)を、本発明のプローブと、核酸の補体配列への、プローブの特異的アニーリングに有利な条件の下で接触させインキュベートさせることを含む。インキュベーションの後、アニーリングされなかった核酸は除去され、プローブにハイブリダイズした核酸の存在が、もしあれば検出される。
【0058】
本発明の核酸分子の検出は、増幅法(例えばOPCR)を用いた特定遺伝子配列の増幅と、続いて、当業者に知られた技法を用いる増幅された分子の解析を含むことができる。好適なプライマーは、当業者によりルーチンに設計することができる。例えば、プライマーは、商業的に利用可能なソフトウェア、例えばOLIGO4.06プライマー解析ソフトウェア(National Biosciences, Plymouth Minn.)または他の適当なプログラムを用いて設計してもよく、長さが約22〜30ヌクレオチドであり、約50%またはこれ以上のGC含有量を有し、および約60℃〜72℃の温度においてテンプレートにアニーリングされる。
【0059】
本明細書に記載されているハイブリダイゼーションおよび増幅技法は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子発現の定性的および定量的側面を評価するために用いることができる。例えば、RNAは、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子、例えば配列番号1〜17を有する遺伝子を発現することが知られている細胞型または組織から単離することができ、ハイブリダイゼーション(例えば、標準ノーザン解析)または本明細書で言及されているPCR技法を利用して試験することができる。技法は、例えば、正常または異常な選択的スプライシングによる可能性のある、転写物のサイズの違いを検出するために用いることができる。技法は、疾患の症状を示す人と比較して、正常な個人において検出される、全長および/または選択的にスプライシングされた転写物のレベルの定量的な差を検出するために、用いることができる。プライマーおよびプローブは、in situで、すなわち、生検、切除術、アイバンクの眼から得た患者組織の組織切片上(固定および/または凍結)で、上記の方法において直接用いることができる。本発明のプローブおよびプライマーの特定の使用は、以下の例にさらに記載される。
【0060】
食作用関連および/またはAMD関連核酸の遺伝学的スクリーニング(遺伝子検査)
他の側面において、本発明は、対象の網膜または脈絡膜疾患または変性状態を発症するリスクを決定するための方法を提供する。本明細書において、「網膜または脈絡膜疾患または変性状態」とは、限定なく、眼の網膜または脈絡膜の任意の状態であって、光受容体、RPE細胞または網膜の他の細胞型の損傷または死をもたらすもの、または、脈絡膜細胞型であって、限定なく、内皮細胞、メラノサイト、平滑筋細胞、繊維芽細胞、リンパ球、好中球、好酸球、巨核球、単核球、マクロファージおよびマスト細胞を含むものの損傷、死または異常な増殖をもたらすものである。
【0061】
網膜および/または脈絡膜を侵す変性状態は、加齢または他の黄斑変性症を含み、これらは限定なく、以下を含む:加齢黄斑変性(AMD)、遺伝および早期発症型の黄斑変性(家族性AMD)例えばスタルガルト病/黄色斑眼底、ベスト病/卵黄様ジストロフィー、先天性びまん性ドルーゼン(congenital diffuse drusen)/ドインのハニカム網膜ジストロフィー、パターンジストロフィー、ソルスビー黄斑ジストロフィー、傍中心窩毛細血管拡張症、脈絡膜萎縮症、優性ドルーゼン(dominant drusen)、結晶性ドルーゼン、輪状黄斑ジストロフィー、潜在性(不顕性)脈絡膜新生血管膜、先天性脈絡膜欠如、特発性ブルズアイ(idiopathic bulls-eye)黄斑変性症、脳回転性および種々の遺伝性網膜色素変性状態。網膜および脈絡膜の他の疾患または変性状態は、以下を含む:毒性黄斑変性症、例えばプラケニル(plaquenil)毒性などの薬剤誘発性黄斑変性症、網膜はく離を含む網膜疾患、光性網膜症、外科手術により誘発される網膜症、毒性網膜症、未熟児網膜症、CMVなどのウィルス性網膜症またはAIDS関連HIV網膜症、ブドウ膜炎、静脈もしくは動脈閉塞または他の血管疾患による虚血性網膜症、トラウマまたは眼の貫通病変による網膜症、周辺硝子体網膜症、および眼を侵す癌、例えば網膜芽細胞腫および脈絡膜メラノーマ。
【0062】
リスクを決定するための方法は、対象の核酸を、AMD関連または食作用関連遺伝子における多型の存在についてスクリンーニングすることを含み、ここで多型の存在は、多型のない対照に比べて、前記対象が網膜または脈絡膜疾患または変性疾患を発症するより高いリスクにあることを示す。本明細書において、「正常」または「野生型」ヌクレオチドは、一般の集団においてその位置での優性な塩基であることが知られている、対象のDNAにおける特定位置に位置する塩基である。「多型」、「多型変異体」、または「多型塩基またはヌクレオチド」は、天然に存在する塩基変化であって、「野生型」を表わす塩基よりも、一般集団において低い頻度で生じる塩基変化である。本明細書において「多型」は、「突然変異」と認識される塩基変化も含むことができる。
【0063】
本発明の食作用関連および/またはAMDP関連核酸は、それのみで、または1種もしくは2種以上の他の核酸と組み合わせて、生物学的サンプルのハイブリダイゼーション、増幅およびスクリーニング解析に用いて、点突然変異、挿入、欠失、および染色体再配置を含む異常を検出することができる。遺伝学的スクリーニング法は分子医学の分野においてよく知られている。例えば、ゲノムDNAを用いて、直接配列決定、一本鎖DNA高次構造多型解析、ヘテロデュプレックス分析、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動、化学的ミスマッチ開裂(chemical mismatch cleavage)、およびオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション(遺伝子アレイにおけるオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを含む)を利用することができる。一般に、ゲノムDNAサンプルは、対象から、例えば対象の末梢血から、またはアイバンクの眼などの供与された組織から調製された生物学的サンプルから、得ることができる。DNAは、特定の遺伝子配列、例えば、目的の特定のエクソン、イントロンまたはプロモーター配列の増幅のために用いる。対象のDNA中の多型の存在を検出するために、一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)解析、ヘテロデュプレックス分析、およびこれらの自動化版を用いることができ、続いてDNA塩基配列決定を行って、特定の塩基変化(複数含む)を決定する。これらの方法はまた、報告された多型について、例えばヒトゲノム一塩基変異多型(SNP)データベースで利用可能なものについて確認するためにも有用である。
【0064】
本発明は、患者を、RPE食作用および/またはAMDに関連する遺伝子の多型変異体についてスクリーニングするための方法を提供する。1つの好ましい方法において、センスおよびアンチセンスプライマー(アンプリマー)の対を、目的遺伝子の核酸配列に基づいて設計し、遺伝子内の1つまたは2つ以上のエクソン、イントロン、またはプロモーター配列を増幅するために用いる。AMDおよび他の脈絡膜疾患を有する患者における突然変異および多型についてスクリーニングするために有用な遺伝子の1つの好ましい群は、本明細書において食作用および/またはAMDに相関することが示された、以前には知られていなかった遺伝子を含み、これらのcDNA配列は、本明細書において配列番号1、4、5、12、および17として同定されている。他の好ましい遺伝子は、これらもまた本明細書において食作用および/またはAMDに関連することが示され、本明細書において配列番号2、3、6、7、8、9、10、11、13、14、15、および16として記載された核酸(cDNA)配列を有する(上記表1および表2参照)。本明細書に示されるように、AMDおよび食作用に関連する例示の遺伝子は、MT1−MMP(配列番号15)である。本明細書に開示された食作用関連および/またはAMD関連遺伝子のエクソン、イントロン、またはプロモーター配列を増幅するための好適な任意のアンプリマーは、分子生物学分野の当業者により設計することができ、DNAサンプルを突然変異および/または多型についてスクリーニングするために用いることができる。例示の特定のアンプリマー対であって、ヒトMT1−MMP遺伝子のエクソン1〜10、イントロン1〜19およびプロモーター領域の増幅に好適なものは、下の表3に開示される。
【0065】
本発明の核酸はまた、アレイにおける複数遺伝子のスクリーニングに用いることもできる。本発明の任意の核酸分子由来のオリゴヌクレオチドまたはより長い断片は、マイクロアレイなどの遺伝子アレイにおいて標的として用いてもよい。アレイにおける遺伝子標的は、例えば、本明細書に開示された食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子(すなわち配列番号1〜17)の任意の組み合せに由来する核酸、および、任意の以前に記載された核酸であって、例えば、以前にRPE食作用および/またはAMDPと関連し、限定することなく本明細書で配列番号62〜69として同定された配列に由来するものを含む核酸を、含むことができる。アレイに含まれるオリゴヌクレオチド配列は、目的の天然のヒト遺伝子の、イントロン、エクソン、またはプロモーター配列内に位置する配列に由来することができる。好ましくは、アレイは、目的遺伝子の全ての既知の多型変異体を包含するオリゴヌクレオチド配列を含む。例えばAMDなどの眼の疾患を有する患者のDNAのスクリーニングに適する、特に好ましいカスタムアレイは、正常対象の対照集団と比べて、AMDおよび関連疾患を有する患者の集団において増加した発生率を有する特定の多型変異体を示すことが示された遺伝子の、全ての既知の多型変異体を含む。以前に報告されたAMDに相関する多型または突然変異体を有する遺伝子のリストは、下の表5を参照のこと。従って、AMDのスクリーニングに有用な本発明のカスタムアレイに含めるのに好適な遺伝子、およびAMDの増加した発生率(括弧内)を示すこれら遺伝子の関連する多型変異体には、限定はされないが、以下を含むことができる:MT1−MMP(P259P;D273N);ABCR(D217N;G1961E)、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(V47A)、アポリポタンパク質E(C130、R176CおよびC130R、R176)、シスタチンC(A25T)およびパラオキソナーゼ(Q192R、L54M)。
【0066】
本発明の遺伝子アレイは、例えば、多数の遺伝子の発現レベルを同時にモニタリングすること、および複数遺伝子における遺伝的変異、突然変異、および多型を同定することに、用いることができる。患者DNAサンプルのアレイへのハイブリダイゼーションの解析から得られる情報は、例えば、遺伝子機能を決定するため、疾患の遺伝的基礎を理解するため、疾患を発症する可能性を診断または予測するため、または治療剤を開発しその活性をモニタリングするために、用いることができる。マイクロアレイを含む遺伝子アレイの調整、使用、および解析は、当業者に知られている。(例えば、Brennan, T. M. et al. (1995) 米国特許第5,474,796号;Schena et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. 93: 10614-10619;Baldeschweiler et al. (1995)PCT出願 WO95/251116;Shalon D. et al. (1995) PCT出願 WO95/35505;Heller, R. A. et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. 94:2150-2155;およびHeller, M. J. et al. (1997) 米国特許第5,605,662号およびCronin M. et al. (2003) 米国特許第6,632,605号を参照)。
【0067】
食作用関連およびAMDP関連遺伝子産物の発現または活性を調節する剤
他の側面において、本発明は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のmRNAまたはタンパク質の発現レベルを調節する剤を提供する。下方制御用の標的とするのに好ましい遺伝子/タンパク質は、AMDおよび関連疾患において発現の増加を示すものであり、本明細書に示されるように、プロスタグランジンD2合成酵素、PD2S(それぞれの核酸およびアミノ酸配列:配列番号2および80)、MT1−MMP(配列番号15および101)、およびAMDP−3(配列番号17および103〜121)を含む。上方制御用に標的とするのに好ましい遺伝子/タンパク質は、AMDおよび関連疾患において発現の低下を示すものであり、本明細書に示されるように、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質(配列番号16および102)、カゼインキナーゼ1エプシロン(配列番号9および89)、フェリチン重ポリペプチド1(配列番号10および101)を含む。
【0068】
AMDP関連および/または食作用関連mRNAまたはタンパク質は、天然の、すなわち「野生型」mRNAまたはタンパク質であることができ、例えば、天然のMT1−MMPである。他の態様において、AMDP関連または食作用関連遺伝子の多型変異体を、例えば発現されたmRNAまたはタンパク質の改変された機能をもたらすものについて標的化する。改変されたmRNAまたはタンパク質は阻害され、一方で、野生型mRNAまたはタンパク質は無傷のまま残る。
発現の下方制御に用いられる阻害剤は、例えば、アンチセンスRNA分子、リボザイム、低分子干渉RNA(RNAi)分子および三重らせん構造を含むことができる。かかる剤の好ましい態様は、PD2S(配列番号2)、MT1−MMP(配列番号15)、およびAMDP−3(配列番号17)、またはこれらの変異体に対するものである。阻害剤はまた、過剰発現された食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質、例えばPD2S、MT1−MMPまたはAMDP−3に、選択的に結合する抗体分子も含むことができる。
【0069】
本発明内のアンチセンス核酸分子は、細胞条件下において、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の発現を阻害する様式で、例えば、転写および/または翻訳を阻害して、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質をコードする細胞mRNAおよび/またはゲノムDNAに、特異的にハイブリダイズする(例えば結合する)ものである。結合は、従来の塩基対の相補性によるもの、または例えば、DNAデュプレックスへの結合の場合は、二重らせんの主要な溝(groove)における特定の相互作用を通じたものであってよい。アンチセンス分子の設計のための方法は当業者によく知られている。アンチセンス療法に有用なオリゴマーを作成する一般的なアプローチは、例えば、Van der Krol et al. (1988) Biotechniques 6:958-976;Stein et al. (1988) Cancer Res 48:2659-2688;およびNarayanan, R. and Aktar, S. (1996): Antisense therapy. Curr. Opin. Oncol. 8(6):509-15に概説されている。非限定的例として、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、以下の領域:mRNAキャップ領域;翻訳開始部位;翻訳終了部位;転写開始部位;転写終了部位;ポリアデニル化シグナル;3’未翻訳領域;5’未翻訳領域;5’コード領域;中間コード領域;3’コード領域、にハイブリダイズするよう標的化することができる。
【0070】
アンチセンスコンストラクトは、例えば、細胞内に転写された場合に、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物をコードする細胞mRNAの少なくとも固有の部分に相補的なRNAを産生する発現プラスミドとして、送達することができる。代替的に、アンチセンスコンストラクトは、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子発現細胞内に導入された場合に、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードするmRNAおよび/またはゲノム配列とハイブリダイズすることにより、対応する遺伝子の発現の選択的阻害を引き起こす、ex vivoで生成されるオリゴヌクレオチドプローブの形態をとることができる。かかるオリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは内因性ヌクレアーゼに耐性のある修飾オリゴヌクレオチドであり、例えば、エクソヌクレアーゼおよび/またはエンドヌクレアーゼであり、従ってin vivoで安定である。アンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いる例示の核酸分子は、DNAのホスホラミデート、ホスホロチオエートおよびメチルホスホネートアナログである(例えば、米国特許第5,176,996号;5,264,564号;および5,256,775号を参照)。アンチセンスDNAについては、翻訳開始部位、例えば食作用関連またはAMDP関連遺伝子をコードするヌクレオチド配列の−10〜+10領域に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。
【0071】
アンチセンスアプローチには、食作用関連および/またはAMDP関連mRNAに相補的なオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNAのどちらか)の設計が伴う。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、食作用関連またはAMDP関連遺伝子のmRNA転写物に結合し、翻訳を防止する。絶対的な相補性は好ましいが、必要ではない。ハイブリダイズする能力は、相補性の程度およびアンチセンス核酸の長さの両方に依存する。一般に、ハイブリダイズする核酸が長いほど、RNAとのより多くの塩基ミスマッチを含み得るが、それでもなお安定なデュプレックス(または場合によってはトリプレックス)を含むことができ、これを形成する。当業者は、ミスマッチの許容程度を、標準の方法を用いて確認し、ハイブリダイズされた複合物の融点を決定できる。メッセージの5’末端に相補的なオリゴヌクレオチド、例えば、AUG開始コドンを含みそこまでの5’未翻訳の配列は、阻害翻訳(inhibiting translation)において一般に最も効率的に働く。しかし、mRNAの3’未翻訳配列に相補的な配列は、mRNAの阻害翻訳においても効率的であることが示された。(例えば、Wagner, R. (1994) Nature 372:333を参照。)従って、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の5’または3’未翻訳非コード領域のどちらかに相補的なオリゴヌクレオチドは、アンチセンスアプローチにおいて、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の内因性mRNAの翻訳を阻害するために用いることができる。mRNAの5’未翻訳領域に相補的なオリゴヌクレオチドは、AUG開始コドンの補体を含まねばならない。mRNAコード領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、翻訳のより非効率的な阻害剤であるが、本発明に従って用いることができる。食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のmRNAの5’、3’またはコード領域にハイブリダイズするよう設計する場合、アンチセンス核酸は、少なくとも6ヌクレオチド長の長さであり、好ましくは約100より短く、より好ましくは約50、25、17または10ヌクレオチド長より短い。
【0072】
標的配列の選択に関わらず、in vitro研究を最初に行って、アンチセンスオリゴヌクレオチドの遺伝子発現を阻害する能力を定量化するのが好ましい。これらの研究は、オリゴヌクレオチドのアンチセンス遺伝子阻害と非特異的生物学的効果とを識別する対照を利用するのが好ましい。対照オリゴヌクレオチドは、試験するオリゴヌクレオチドとほぼ同じ長さであるのが好ましく、対照オリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列が、アンチセンス配列のそれと、標的配列への特異的ハイブリダイゼーションを防ぐのに必要な量を超えない範囲で異なることが好ましい。
【0073】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの修飾塩基部分を含むことができ、該修飾塩基部分は、限定はされないが以下を含む群から選択される:5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシエチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ−D−ガラクトシルケオシン(galactosylqueosine)、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−イジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、ベータ−D−マンノシルケオシン(mannosylqueosine)、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、wybutoxiosine、プシュードウラシル、ケオシン(queosine)、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6−ジアミノプリン。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、少なくとも1つの修飾糖部分であって、限定なく、アラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロース、およびヘキソースを含む群から選択される前記修飾糖部分を含んでもよく、そしてさらに、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホラミドチオエート、ホスホラミデート、ホスホロジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステル、およびホルムアセタールおよびこれらの類似体からなる群から選択される少なくとも1つの修飾ホスフェート骨格を含んでもよい。
【0074】
本発明のオリゴヌクレオチドは、当分野で知られた標準の方法により、例えば、DNA自動合成装置により、合成してもよい。例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、Stein et al. (1988) Nucl. Acids Res. 16:3209による方法により合成することができ、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドは、例えば、制御された孔ガラスポリマー支持体の使用により調製することができる(Sarin et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:7448-7451)。
【0075】
アンチセンス分子は、in vivoで食作用関連またはAMDP関連遺伝子を発現する細胞内に送達することができる。アンチセンスDNAまたはRNAを細胞内に送達するための多くの方法が開発されており、当分野で知られている。多くの場合、内因性mRNAの翻訳を抑制するのに十分なアンチセンスの細胞内濃度を実現することが困難であるため、好ましいアプローチでは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを強いプロモーターの制御下に置く、組換えDNAコンストラクトを利用する。かかるコンストラクトを、対象における標的細胞のトランスフェクションに使用すると、好ましくは、それぞれのmRNAの翻訳を予防するのに十分な量の、目的遺伝子産物をコードする内因性転写産物とハイブリダイズする一本鎖RNAの転写がもたらされる。例えば、ベクターは、細胞によって取り込まれ、アンチセンスRNAの転写を導くよう、in vivoに導入することができる。かかるベクターはエピソームのまま残ることができ、または、所望のアンチセンスRNAを産生するように転写され得る限り、クロモゾーム的に一体化することができる。かかるベクターは、当分野で標準的なの組換えDNA技術の方法により作成することができ、これは以下にさらに記載される。ベクターは、哺乳類細胞における複製および発現に用いられる、当分野に知られた、プラスミド、ウィルス、またはその他であることができる。
【0076】
アンチセンスRNAをコードする配列の発現は、哺乳類において、そして好ましくはヒト細胞において作用することが当分野で知られている、任意のプロモーターによることができる。かかるプロモーターは、誘導的または構成的(constitutive)であることができる。かかるプロモーターは、限定なく、以下を含むことができる:SV40早期プロモーター領域(Bermoist and Chambon, 1981, Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウィルスの3’長末端反復に含まれるプロモーター(Yamamoto et al., 1980, Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., 1981, Proc, Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:1441-1445)、およびメタロチオネイン遺伝子の調節塩基配列(Birnster et al., 1982, Nature 296:39-42)。組織または細胞特異的発現に有用なプロモーター、例えば、光受容体、RPE細胞、または内皮細胞もしくはメラノサイトなどの脈絡膜細胞型において有用なプロモーターも、当分野に知られており、下の例7にさらに記載される。
【0077】
リボザイムは、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の発現を下方制御できる剤の、他の好ましい態様である。リボザイム分子は、目的遺伝子の転写物を触媒的に開裂し、そのポリペプチドへの翻訳を予防するように設計される。(例えば、Sarver et al. (1990) Science 247:1222-1225および米国特許第5,093,246号を参照)。一般にリボザイムは、RNAにおける部位特異的開裂またはホスホジエステル結合の連結反応(ligation)を触媒する。部位特異的認識配列においてmRNAを開裂するリボザイムの種々の形態を、食作用関連またはAMDP関連mRNAを破壊するのに用いることができるが、ハンマーヘッド型リボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッド型およびヘアピンリボザイムは、塩基の、相補的RNA標的配列との対形成によって作用し、特定部位での開裂反応を実施するRNA分子である。ハンマーヘッド型の場合、リボザイムは、UXジヌクレオチドの後を開裂し、ここでXは、グアノシン以外の任意のリボヌクレオチドであることができるが、ただしXがシトシンの場合に開裂速度が最も高い。触媒効率は、ウリジンの前のヌクレオチドによっても影響される。実際、NUXトリップレット(典型的には、GUC、CUCまたはUUC)が、標的mRNAに必要である。かかる標的は、その部位を囲む約12または13個のヌクレオチドのアンチセンスRNAを設計するために用いられるが、しかしここでリボザイムと従来の塩基対を形成しないCはスキップする。
【0078】
合成ハンマーヘッド型リボザイムは、相補的mRNA分子を選択的に結合および開裂し、次に断片を解放し、このプロセスをタンパク質酵素の効率で繰り返すように、設計することができる。これは例えば、触媒的にではなく、むしろ化学量論的に標的配列と1:1複合体を形成するアンチセンスオリゴヌクレオチドに対して、大きな利点を提供することができる。本発明のハンマーヘッド型リボザイムは、6−4−5ステム−ループ−ステム構成、またはこの目的に好適な任意の他の構成で設計可能である。一般に、化学的な開裂のステップは迅速であり、解放ステップが律速的であるため、リボザイムのハイブリダイズ用「アーム」(ヘリクスIおよびIII)が比較的短ければ、例えば約5または6個のヌクレオチドであれば、スピードおよび特異性が増強される。特定構成の設計の好適性は、当業者に知られた種々のアッセイを用いて実験的に決めることができる。
【0079】
ハンマーヘッド型リボザイムの構成および産生は当業者に知られており、例えばHaseloff and Gerlach (1988) Nature 334:585-591にさらに完全に記載されている。天然の食作用関連またはAMDP関連遺伝子のヌクレオチド配列、例えば、配列番号1〜17によりコードされるヌクレオチド配列の中には、多数の潜在的なハンマーヘッド型リボザイムの開裂部位がある。好ましくはリボザイムは、効率を高め非機能的mRNA転写物の細胞内蓄積を最小化するために、開裂認識部位が、食作用関連および/またはAMDP関連mRNAの5’末端近くに位置するように設計される。本発明内のリボザイムは、下記のようにベクターを用いて細胞に送達することができる。
【0080】
本発明のリボザイムはまた、RNAエンドリボヌクレアーゼ(以下では「Chec型リボザイム」)、例えばTetrahymena thermophila(IVSまたはL−19IVS RNAとして知られている)に天然に存在し、Thomas Cech および同僚らによって幅広く記載されているものなどを含む(例えば、Zaug et al., (1984), Science, 224:574-578;Been and Cech, (1986), Cell, 47:207-216を参照)。Chec型リボザイムは、標的RNA配列にハイブリダイズし、その後に標的RNAの開裂が起こる、8つの塩基対活性部位を有する。本発明は、本発明の目的ペプチドおよびタンパク質に特異的なmRNA中に存在する、8つの塩基対活性部位配列を標的化するChec型リボザイムを包含する。
【0081】
本発明内のさらに他の好ましい剤は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の発現を下方制御する、RNA媒介干渉(RNAi)分子である。RNAiメカニズムは、配列においてdsRNAに非常に相同な遺伝子のサイレンシングの引き金となる二本鎖DNA(dsDNA)の使用を含む。RNAiは、植物、線虫(Caenorhabditis elegans)、ショウジョウバエ(Drosophila)、両生類および哺乳類などの多様な生物に共通する、進化的に保存された現象である。これは、ゲノムを、トランスポゾンおよびウィルスなどの可動性の遺伝要素による侵入から守るために進化したと考えられる。複数ステップのプロセスにおいて、活性化された低分子干渉RNA(siRNA)分子は、Dicerと呼ばれるRNase IIIエンドヌクレアーゼの反応を介して、in vivoで産生される。得られた21〜23ヌクレオチドsiRNA分子は、相補的相同RNAの分解を媒介する(Zamore et al., 2000; Grishok et al., 2000)。
【0082】
天然に存在しないRNAi分子は、当分野に知られた方法により合成でき、目的遺伝子の発現を抑制するために有利に用いることができる。哺乳類細胞において、30ヌクレオチドより長いdsRNAは、抗ウィルス反応を活性化させ、RNA転写物の非特異的分解および宿主細胞タンパク質翻訳の一般的な停止をもたらすことが知られている。しかし、哺乳類細胞における遺伝子特異的抑制は、in vitroで合成された約21ヌクレオチド長のsiRNAによって達成でき、これらの分子は、遺伝子特異的抑制を誘導するのに十分長く、しかし、宿主インターフェロン反応を回避するのに十分短い(Elbashir, S.M. et al., 2001)。当業者は、特定のmRNA標的配列に対するRNAiの設計に、コンピュータープログラムが利用可能であることを認識する。
低分子阻害RNA分子(small inhibitory RNA molecule)は、細胞内でタンパク質複合体に結合することにより作動し、これは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれ、これはヘリカーゼ活性およびエンドヌクレアーゼ活性を含む。ヘリカーゼ活性は、RNA分子の2本鎖を解き、siRNAのアンチセンス鎖を標的RNA分子に結合させる(Zamore, 2002; Vickers et al., 2003)。エンドヌクレアーゼ活性は、標的RNAをアンチセンス鎖が結合した部位において加水分解する。
【0083】
RNAi戦略は、ベクターに基づくアプローチをうまく組み合わせて、トランスフェクトされた細胞における、例えばRNAポリメラーゼIII(Pol III)プロモーターの制御下での、DNAテンプレートからの小RNAの合成を実現する。Pol IIIの使用は、その3’末端が4−5チミジン(T)のストレッチ内の終止(termination)により規定されている、小さな非コーディング転写物の合成を導くという利点を提供する。これらの特性により、DNAテンプレートを、in vitroで合成される活性なsiRNAに要求されることが見出だされたものに近い構造的特徴を有する小RNAの、in vivoでの合成に用いることが可能となる。かかるテンプレートを用いて、選択された目的mRNAを標的化する小RNAが、トランスフェクトされた細胞内に発現され、対応するタンパク質の合成を効率的かつ特異的に阻害することが可能であることが示された(Sui et al., 2002)。
【0084】
優性な機能獲得突然変異(gain-of-function mutation)の抑制、または、野生型配列と1つの塩基変化のみで異なることができる食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子のmRNAの、望ましくない多型変異体(例えば、本明細書に記載の、MT1−MMPのAMD関連変異体の1つ)の抑制のために、異常なmRNAの発現を選択的に抑制する一方で、正常な対立遺伝子の発現を許容するのが、望ましい場合がある。RNAi技術の非常に有利な特徴は、1つのヌクレオチド特異性を有する突然変異を、選択的に抑制する能力である。このアプローチの実行可能性は、RNAiを用いて、Cu、Zn、筋萎縮側索硬化症(ALS)を引き起こすスーパーオキシドジムスターゼ(SOD1)遺伝子の発現を抑制し、一方で、正常な対立遺伝子の発現には影響を及ぼさないこと(Ding et al., 2003)により示された。
【0085】
in vivoでのRNAiの投与の有効性が、自己免疫性肝炎の数個のマウスモデルにおいて最近示された。Fasが媒介するアポトーシスが、肝臓疾患の広い範囲に関連するとされる。Fas受容体をコードするFas遺伝子(Tnfrsf6としても知られている)を標的化するsiRNAデュプレックスのin vivoでの抑制効果が、これらのモデルにおいて、肝臓機能障害および繊維症からマウスを保護することが示された。Fas siRNAの静脈内注射は、マウスの肝細胞においてFas mRNAのレベルおよびFasタンパク質の発現を特異的に低下させ、この効果は10日間低下することなく維持された。作動性のFas特異的抗体を注射することにより誘発された劇症肝炎において、Fasを効率的に抑制したsiRNAにより処置されたマウスの82%が、10日間の観察期間中生存し、一方で全ての対照マウスは3日以内に死亡した(Song et al., 2003)。同様のRNAiに基づく戦略が、AMD患者において異常な、または過剰発現された遺伝子を標的化または下方制御するのに有用であることが予想される。
【0086】
代替的に、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の発現は、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の調節領域に相補的なデオキシリボヌクレオチド配列(すなわち、食作用関連またはAMDP関連遺伝子プロモーターおよび/またはエンハンサー)を標的化して、標的化細胞内での食作用関連またはAMDP関連遺伝子の転写を妨げる三重らせん構造を形成することにより、低減することができる。(例えば、一般的に、Helene, C. (1991) Anticancer Drug Des. 6(6):569-84;Helene, C., et al. (1992) Ann. Y.Y. Acad. Sci. 660:27-36;およびMaher, L.J. (1992) Bioassays 14(12):807-15を参照)。転写の抑制のための三重らせん形成に用いる核酸分子は、好ましくは1本鎖であり、デオキシリボヌクレオチドからなる。これらのオリゴヌクレオチドの塩基構造は、三重らせん形成をフーグスチン(Hoogsteen)塩基対則を介して促進すべきであり、これには一般に、プリンまたはピリミジンのかなりのストレッチ(stretch)が、二本鎖の1つの鎖上に存在することが必要である。核酸配列は、ピリミジンに基づいてもよく、これは得られた三重らせんの3つの関連する鎖にわたってTATおよびCGCトリプレットを生じさせる。ピリミジンが豊富な分子は、二本鎖の1つの鎖のプリンが豊富な領域に相補的な塩基を、この鎖に平行な配置で提供する。さらに、核酸分子は、プリンが豊富なものから、例えば、G残基のストレッチを含むように選択してもよい。これらの分子は、GC対が豊富なDNA二本鎖と三重らせんを形成し、ここではプリン残基の大部分は標的の二本鎖の1つの鎖上に存在し、これによって、三重らせんにおける3本の鎖にわたってCGCトリプレットをもたらす。代替的に、三重らせん形成に標的化できる可能性のある配列を、いわゆる「スイッチバック」核酸分子を創生することにより増加させてもよい。スイッチバック分子は、5’−3’、3’−5’を繰り返す様式で、二本鎖の最初の1本の鎖と、次に他の鎖と塩基対を形成して合成され、プリンまたはピリミジンのかなりのストレッチが二本鎖の1本の鎖上に存在する必要性を取り除く。
【0087】
本発明のアンチセンスRNA、リボザイム、RNAiおよび三重らせん分子は、当分野においてかかる分子の合成のために知られている任意の方法により、調製することができる。これらには、当分野で知られているオリゴデオキシリボヌクレオチドおよびオリゴリボヌクレオチドの化学合成のための技法、例えば、固相ホスホラミド化学合成などを含む。代替的に、RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のin vitroおよびin vivoでの転写により産生することもできる。かかるDNA配列は、好適なRNAポリメラーゼプロモーターを組み込んだ多種類のベクターに組み込んでもよい。代替的に、用いるプロモーターに依存して構成的または誘導的にアンチセンスRNAを合成する、アンチセンスcDNAコンストラクトを用いることもできる。
【0088】
さらに、核酸分子への種々の既知の修飾も、細胞内安定性および半減期を増加するための方法として導入してもよい。可能性のある修飾には、限定はされないが、分子の5’および/または3’末端へのリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのフランキング配列の付加、または、上記のように、オリゴデオキシリボヌクレオチド骨格内で、ホスホジエステラーゼ結合の代わりにホスホロチオエートまたは2’メチルを用いることを含む。
【0089】
本発明の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の発現を下方制御できる、またはその生物活性を中和できる剤の他の態様は、タンパク質に基づく。食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の発現を調節できる、および/または生物学的機能を中和できるタンパク質の例は、食作用関連および/またはAMDP関連ポリペプチドまたはペプチドを特異的に結合する抗体である。本明細書においてmRNAレベルがAMDにおいて上昇することが示された、好ましいポリペプチドは、配列番号2、15および17を有する核酸によってコードされるもの、すなわち、本明細書においてそれぞれ配列番号80、101、および103〜121と同定されたアミノ酸配列を有するポリペプチドである。本発明の抗体は、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質と結合するかもしくはそうでなければ反応する1つまたは2つ以上の分子との反応を、干渉するために用いることができる。例えば、MT1−MMPタンパク質に対する抗体は、このタンパク質がプロゲラチナーゼAを活性化する能力を中和すると考えられる。MT1−MMPに対する抗体を用いた、本明細書に記載の研究の結果によれば、MT1−MMPの過剰発現を特徴とする、RPEに基づく疾患のラットモデルにおいて、網膜変性の遅延が示された。従って、光受容体間マトリクスにおけるMT1−MMP過剰産生の、抗MT1−MMP抗体を用いる抑制は、AMDの患者の眼において用いられて、マトリックスの破壊を低下させ、食作用を改善することができるかもしれない。
【0090】
本発明の核酸(例えば、配列番号1〜17)によりコードされるタンパク質、またはこれらの免疫原性断片またはアナログ、および最も好ましくはAMDにおいて上方制御されることが見出された核酸(すなわち、配列番号2、15および17)によりコードされるタンパク質は、本発明において有用な抗体を育てるために用いることができる。かかるタンパク質は、当業者に知られた細胞/組織からの精製、組換え技法、または化学合成により産生することができる。本発明において用いる抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、およびFab発現ライブラリを用いて産生された分子を含むことができる。例えば、Kohler et al., Nature 256:495, 1975;Kohler et al., Eur. J. Immunol. 6:511, 1976;Kohler et al., Eur. J. Immunol. 6:292, 1976;Hammerling et al., “Monoclonal Antibodies and T Cell Hybridomas,” Elsevier, N.Y., 1981; Ausubel et al., 上記;米国特許第4,376,110号、第4,704,692号および第4,946,778号;Kosbor et al., Immunology Today 4:72, 1983;Cole et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2026, 1983;Cole et al., “Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,” Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96, 1983;およびHuse et al., Science 246:1275, 1989を参照。
【0091】
食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の発現または活性を調節できる、他のタンパク質に基づく剤は、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の変異体を含み、該変異体は、リガンドに結合することについて、例えば、プロスタグランジンD2合成酵素(配列番号2)、MT1−MMP(配列番号15)、および未知遺伝子AMDP−3(配列番号17)を結合する、天然に存在するリガンドに結合することについて、対応する天然タンパク質と競合できるものである。かかるタンパク質変異体は、当分野に知られた種々の技法を通して産生することができる。例えば、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質変異体は、突然変異誘発により、例えば、離散的な点変異(複数含む)を導入することにより、または切断(truncation)により、作製することができる。変異体(複数含む)は、天然の食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質と実質的に同一の機能活性またはそのサブセットを有する、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質変異体を生じさせることができる。代替的に、タンパク質の天然形態の機能を抑制することができるタンパク質の拮抗形態も、産生することができ、例えば、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質と相互作用する他の分子に競合的に結合することにより、産生することができる。さらに、1つまたは2つ以上の食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の機能活性を構成的に発現する、タンパク質の作動的(または超作動的(superagonistic))形態を産生することができる。産生することができる、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の他の変異体は、タンパク質分解的切断に耐性であるものを含み、例えば、プロテアーゼの標的配列を変える突然変異によるものなどである。ペプチドのアミノ酸配列における変化が、天然の食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の1つまたは2つ以上の機能活性を有する食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質変異体をもたらすかどうかは、該変異体を、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子タンパク質の機能活性(例えば、受容体または他のリガンドを結合すること、または食作用などの細胞応答を誘導すること)について試験することにより、容易に決定できる。
【0092】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の発現または活性を調節できる他の剤は、非ペプチド模倣剤または食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の化学的修飾形態であって、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の他のタンパク質または分子への結合を妨害し、天然の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物と相互作用するものである。例えば、Friedinger et al., in Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988を参照。かかる分子の例は、アゼピン(例えば、Huffman et al. in Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988を参照)、置換ガンマラクチン環(Garvey et al. in Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988)、ケト−メチレン擬ペプチド(Ewenson et al. (1986) J. Med. Chem. 29:295;およびEwenston et al. in Peptides: Structure and Function (Proceedings of the 9th American Peptide Symposium) Pierce Chemical Co. Rockland, III, 1985)、ベータターン(beta-turn)ジペプチドコア(Nagai et al. (1985) Tetrahedron Lett 26:647;およびSato et al. (1986) J. Chem. Soc. Perkin. Trans. 1:1231)、およびベータアミノアルコール(Gordon et al. (1985) Biochem. Biophys. Res. Commun. 126:419;およびDann et al. (1986) Biochem. Biophys. Res. Commun. 134:71)を含む。
【0093】
食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質はまた、化学的に修飾されて、他の化学部分、例えばグリコシル基、脂質、ホスフェート、アセチル基等と共有結合複合体または集合複合体を形成することにより、タンパク質誘導体を生成する。食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の共有結合誘導体は、タンパク質のアミノ酸側鎖上で、またはポリペプチドのN末端で、もしくはC末端で、化学部分を官能基に結合することにより、調製することができる。
【0094】
食作用関連またはAMDP関連遺伝子の発現または活性を調節できる剤の他の態様は、小分子である。化学クラスの広い範囲からの小分子は、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の活性に干渉し、例えば、タンパク質と結合して、その活性を不活性化することにより、または代替的に、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質の標的に結合することにより、タンパク質とその標的の相互作用に干渉する。目的の遺伝子/タンパク質の性質に依存して、阻害性小分子は、種々の目的、例えば1)基質または標的の作用タンパク質に対する結合部位を占領すること、2)食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質に結合して、その3次元立体構造を変化させ、これによってその活性を阻害すること、または、3)食作用/AMDPタンパク質の標的分子に結合して、それによってタンパク質と正常標的との相互作用を阻害すること、などの目的を達成できるように設計可能である。例えば、MT1−MMPタンパク質(配列番号100)の小分子阻害剤は知られており、例えば、このタンパク質に対する強力で特別な阻害活性を有する、緑茶から抽出可能なポリフェノール(すなわち、エピガロカテキン3−O−ガラート(EGCG)、(−)エピガロカテキン3,5−ジ−O−ガラート、およびエピテアフラガリン3−O−ガラート)などである(Oku N. et al., Biol Pharm Bull. (2003) Sep; 26(9):1235-8)。メタロプロテイナーゼの阻害剤の他のクラスは一般に開示されており、例えば、Beckett, R. et al. (2001)、米国特許第 6,310,084号にある。
【0095】
食作用関連およびAMD関連遺伝子に基づくAMDおよび他の網膜変性状態の遺伝子療法
他の側面において、本発明は、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成核酸、またはこれら遺伝子の発現もしくは活性を調節する剤の送達を提供する。「遺伝子療法」は、遺伝によるかまたは後天性の疾患の、細胞内への遺伝的情報の導入および発現による処置と定義できる。遺伝子療法ベクターが関与する方法および組成物は、本明細書に記載されている。かかる技法は一般に当分野に知られており、方法論の参考文献、例えばViral Vectors, eds. Yakov Gluzman and Stephen H. Hughes, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1998;Rectroviruses, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Painview, NY, 2000;Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. Jeffrey R. Morgan, Humana Press, Totawa, NJ, 2001に記載されている。
【0096】
種々の態様において、本発明の核酸は、宿主細胞内への導入および宿主細胞での複製が可能な組換え核酸コンストラクト中に、典型的にはDNAコンストラクト中に導入される。かかるコンストラクトは、好ましくは、与えられた宿主細胞内でポリペプチドがコードする配列の転写および翻訳が可能な複製システムおよび配列を含むベクターである。本発明のために、ベクターおよび宿主細胞を調整し用いるための従来の組成物および方法を用いることができ、これらは、例えば上記Sambrook et al.または上記Ausubel et al.に記載されている。
【0097】
本発明の実施に有用なベクターは、遺伝子療法アプローチの目的に従って種々のタイプを含む。幾つかの態様は、AMDP関連および/または食作用関連mRNAまたはタンパク質の発現を調節する(例えば、下方制御する)剤をコードする核酸を含むベクターである。ベクターの他の態様は、本発明の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の、野生型または所望の多型変異体を含む。前者のタイプのベクターの種々の変形において、発現は、例えばPD2S(配列番号2)、MT1−MMP(配列番号15)、またはAMDP−3(配列番号17)などの過剰発現されたmRNAに対する、例えばアンチセンスRNA、リボザイム、RNAi分子、または三重らせん分子を発現することにより、下方制御することができる。
【0098】
ベクターの他の態様は、AMDP関連および/または食作用関連遺伝子の、野生型または変異体形態の、所望の多型形態の発現に向けられる。例えば、1つの態様において、核酸はMT1−MMP(例えば、配列番号15)の正常(野生型)形態をコードする。野生型形態の送達は、例えば、正常な変異体を発現しない対象に対して有用であるが、望ましくない多型形態(例えば、本明細書に記載のMT1−MMPのD273Nミスセンス多型)に対して同型接合的であり、または、2つの異なる望ましくない対立遺伝子形態(例えば、D273Nミスセンス多型およびP259Psynonomous/スプライス変異体多型)に対して異型接合的である。
【0099】
本発明による、cDNA、アンチセンス、リボザイムおよびRNAi分子を含む天然または合成核酸は、宿主細胞内への導入および複製が可能な組換え核酸コンストラクトに、典型的にはDNAコンストラクトに組み入れることができる。本発明に対して、ベクターおよび宿主細胞を調整して用いるための従来の組成物および方法を用いることができ、例えば、上記Sambrook et al.、または上記Ausubel et al.に記載のように用いることができる。本明細書において、「発現ベクター」は、ベクター内にクローニングされたDNA(cDNA、アンチセンス、リボザイム、またはRNAiをコードする)を発現することができ(適当な転写および/または翻訳制御配列の存在により)、これによってRNAまたはポリペプチド/タンパク質を産生するベクターである。クローニングされた配列の発現は、発現ベクターが適当な宿主細胞内に導入された場合におきる。
【0100】
遺伝子発現に必要な調節領域の正確な性質は、生物の種類により、またクローニング配列の性質および細胞内での配列を発現する目的により、異なってよいが、しかし一般にこれらの要素は、RNA転写の開始を導くプロモーターを含む。かかる領域は、転写の開始に関与する5’非コード配列を含むことができ、例えばTATAボックスである。プロモーターは、構成的または調節可能的であってよい。構成プロモーター(constitutive promoter)は、動作可能に結合した遺伝子を本質的にいつでも発現させるものである。調節可能プロモーター(regulatable promoter)は、活性化または非活性化が可能なものである。調節可能プロモーターは、誘導プロモータを含み、これらは通常「オフ」であるが、誘導されて「オン」となり、また「抑制性」プロモーターを含み、これらは通常「オン」であるが、「オフ」にすることができる。多くの異なる制御因子が知られており、温度、ホルモン、重金属、および調節タンパク質である。これらの識別は絶対的ではなく、構成プロモーターは、ある程度調節可能プロモーターであることができる。
【0101】
プロモーターは、宿主生物の実質的に全ての細胞内で活性な「ユビキタス」プロモーター、例えばベータアクチンまたはオプトメガロウィルスプロモーターであってよく、または、発現が標的細胞もしくは組織にある程度特異的であるプロモーターであってよい。眼における細胞特異的な発現(例えば、光受容体特異的、PRE特異的またはメラノサイト特異的)に好適なプロモーター、およびトランスジェニック動物において特定の年齢でトランス遺伝子発現を開始するのに用いる誘導プロモーターは、以下の例に記載される。
【0102】
動物細胞の安定な形質転換のため、またはトランスジェニック動物の確立のために好適な、多数のベクターが知られている。例えば、Pouwels et al., Cloning Vectors: A Laboratory Manual, 1985, Supp. 1987を参照。典型的には、動物発現ベクターは、(1)5’または3’調節配列の転写制御のもとでの1種または2種以上のクローニングされた動物遺伝子、および(2)優性な選択可能マーカー、を含む。かかる動物発現ベクターはまた、必要に応じて、プロモーターの調節領域(例えば、誘導可能もしくは構成可能な発現、環境的もしくは発達的に調節された発現、または細胞もしくは組織特異的な発現を制御する調節領域)、転写開始部位、リボソーム結合部位、RNAプロセシングシグナル、転写終了部位、および/またはポリアデニル化シグナルを含む。本発明内の動物発現ベクターは、好ましくは、形質転換された細胞を識別するために用いる、選択可能なマーカー遺伝子を含む。動物系に対する好適な選択可能なマーカー遺伝子は、抗生物質抵抗性を産生する酵素をコードする遺伝子を含む(例えば、ヒグロマイシン、カナマイシン、ブレオマイシン、G418、またはストレプトマイシンに対する抵抗性を付与するもの)。
【0103】
本発明による遺伝子を発現するために用いることができる有用なプロモーターの例は、サイトメガロウィルス(CMV)前初期プロモーター(CMV IE)である(Xu et al., Gene 272: 149-156, 2001)。これらのプロモーターは、殆どの動物組織において高いレベルの発現を付与し、一般に、発現すべき、特定のコードされたタンパク質に依存しない。例として、トランスジェニック動物の殆どの組織において、CMV IEプロモーターは強力なプロモーターである。本発明において用いられる他のプロモーターの例は、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウィルスプロモーター、アデノウィルス主要後期プロモーター(MLP)、単純ヘルペスウィルスプロモーター、マウス哺乳類腫瘍ウィルスLTRプロモーター、HIV長い末端反復(LTR)プロモーター、ベータアクチンプロモーター(Genbank #K00790)、またはマウスメタロチオネインプロモーター(Stratagene San Diego CA)を含む。合成プロモーター、ハイブリッドプロモーター、その他もまた、本発明において有用であり、当分野で知られている。
【0104】
動物発現ベクターはまた、例えばイントロンなどのRNAプロセシングシグナルを含むことができ、これは遺伝子発現を増加させることが示された(Yu et al. (2002) 81: 155-163およびGough et al. (2001) Immunology 103:351-361)。RNAスプライス配列の位置は、動物におけるトランス遺伝子発現レベルに影響し得る。この事実を考慮すると、イントロンは、トランス遺伝子の食作用関連またはAMDP関連ポリペプチドをコードする配列の上流または下流に位置して、遺伝子発現のレベルを調節することができる。本発明内の発現ベクターはまた、動物遺伝子の5’領域に一般に存在する調節制御領域を含むことができる。さらに、3’終止領域も発現ベクターに含むことができ、mRNAの安定性を増加させる。例えば、Jacobson et al. (1996) Annu. Rev. Biochem. 65: 693-739;およびRajagopalan et al. (1997) Prog. Nucleic Acid Res. Mol. Biol. 56:257-286を参照のこと。
【0105】
アデノウィルスベクターは、標的細胞内で非常に効率的な遺伝子発現が可能であり、異種DNAの大きなコード量を可能とすることが見出された。この文脈における「異種DNA」は、アデノウィルスに天然では存在しない、任意のヌクレオチド配列または遺伝子として定義することができる。遺伝子療法用ベクターとして組換えアデノウィルスを使用するための方法は、例えば、W.C. Russell, Journal of General Virology 81:2573-2604, 2000およびBramson et al. Curr. Opin. Biotechnolo. 6:590-595, 1995に議論されている。
【0106】
組換えアデノウィルスの好ましい形態は、「ガットレス(gutless)」、「高量(high-capacity)」、または「ヘルパー依存性」アデノウィルスベクターであって、これは、全てのウィルスコード配列が欠失し、ウィルス逆方向末端反復(ITR)、治療遺伝子(28〜32kbまでの、食作用関連またはAMDP関連遺伝子をコードする天然または合成の核酸、または食作用関連またはAMDP関連遺伝子の発現を調節する剤を含む)、およびウィルスDNAパッケージ配列を含むものである。かかる組換えアデノウィルスの変異体、例えば、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然または合成の核酸に動作可能に結合した組織特異的エンハンサーおよびプロモーターを含むベクター、またはかかる遺伝子の発現を調節する剤もまた、本発明の範囲内である。1つより多数のプロモーターが、ベクター内に存在することができる。従って、1つより多数の異種遺伝子が、ベクターによって発現され得る。
【0107】
本発明のウィルスベクターはまた、アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターも含むことができる。AAVは、標的細胞の高い形質導入効率を示し、宿主ゲノム中に部位特異的様式で結合することができる。組換えAAVベクターを使用する方法は、例えば、Tal, J., J. Biomed. Sci. 7:279-291, 2000およびMonahan and Samulski, Gene Therapy 7:24-30, 2000に論じられている。細胞特異的標的化のためには、好ましいAAVベクターは、細胞特異的(例えば、光受容体、RPE、またはメラノサイト)発現を導き、かつ目的遺伝子に動作可能に結合したプロモーターを含む少なくとも1つのカセットに隣接する、AAV逆方向末端反復の対を含む。このベクターを用いて、ITR、プロモーターおよび食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成の核酸を含むAAVベクターのDNA配列、またはかかる遺伝子の発現を調節する剤を、宿主ゲノム中に組み込むことができる。
【0108】
本発明において用いる他の好ましいベクターは、単純ヘルペスウィルス(HSV)ベクターである。HSVベクターを用いるための方法は、例えば、Cotter and Robertson, Curr. Opin. Mol. Ther. 1:633-644, 1999に議論されている。1つまたは2つ以上の前初期遺伝子(IE)が欠失しているHSVベクターは、有利に無毒性であり、宿主細胞内での潜伏に似た状態で維持され、効率的な宿主細胞の形質導入を提供する。組換えHSVベクターは、約30kbのコード量を許容する。好ましいHSVベクターは、I型HSVからIE遺伝子を除去して作製される。HSVアンプリコンベクターもまた、本発明に従って用いることができる。典型的には、HSVアンプリコンベクターは長さ約15kbであり、複製のウィルス起点およびパッケージ配列を有する。1つより多いプロモーターが、ベクター内に存在することができる。従って、1つより多い異種遺伝子をベクターにより発現することができる。さらに、ベクターは、宿主細胞からの遺伝子産物の分泌を促進するシグナルペプチドまたは他の部分をコードする配列を含むことができる。
【0109】
本発明のウィルスベクターはまた、HIVを含む、反復欠損レンチウィルスベクターを含むことができる。レンチウィルスベクターを用いるための方法は、例えば、Vigna and Naldini, J. Gene Med. 5:308-316, 2000およびMiyoshi et al., J. Virol. 72:8150-8157, 1998に議論されている。レンチウィルスベクターは、分裂または非分裂細胞の両方を感染させ、ヒト上皮組織を効率よく形質導入させることができる。本発明のレンチウィルスベクターは、ヒトまたは非ヒトレンチウィルスベクター(SIV含む)に由来することができる。これらのベクターは、ウィルスLTR、プライマー結合部位、ポリプリントラクト、att部位およびカプシド化部位(encapsidation site)を含む。レンチウィルスベクターは、任意の好適なレンチウィルスカプシドにパッケージしてもよい。1つの粒子タンパク質を異なるウィルスからのもので置換することは、「擬タイピング」と呼ばれる。ベクターカプシドは、他のウィルスからのウィルス外膜タンパク質を含むことができ、これらには、マウス白血病ウィルス(MLV)または水疱性口内炎ウィルス(VS)を含む。VSV Gタンパク質の使用は、高いウィルス力価を生み出し、ベクターウィルス粒子の高い安定性をもたらす。1つより多いプロモーターが、レンチウィルスベクター内に存在することができる。従って、1つより多い異種遺伝子を、ベクターにより発現させることができる。
【0110】
本発明はまた、マウス白血病ウィルスに基づくベクターを含む、レトロウィルスベクターの使用も提供する。レトロウィルスに基づくベクターの使用のための方法は、例えば、Hu and Pathak, Pharmacol. Rev. 52:493-511, 2000およびFong et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 17:1-60, 2000に議論されている。本発明によるレトロウィルスベクターは、ウィルス遺伝子の代わりに8kbまでの異種(治療的)DNAを含むことができる。異種とは、この文脈において、レトロウィルスに固有でない任意のヌクレオチド配列または遺伝子と定義することができる。異種DNAは、上記の、組織または細胞特異的プロモーター、および食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子を含むことができる。レトロウィルス粒子は、擬似タイピングされ、固有のレトロウィルス糖たんぱく質の代わりに他のウィルスからのウィルス外膜糖たんぱく質を含むことができる。本発明のレトロウィルスベクターは、宿主細胞のゲノム中に結合してもよい。1つより多いプロモーターが、レトロウィルスベクター内に存在することができる。従って、1つより多い異種遺伝子を、ベクターにより発現させることができる。
【0111】
2つのウィルスベクター系の有利な特性を組み合わせるため、ハイブリッドウィルスベクターを用いて、食作用関連もしくはAMDP関連遺伝子を、またはかかる遺伝子の発現を調節する剤を、標的組織へ送達することができる。ハイブリッドベクターの作成のための標準の技法は、当業者に知られている。かかる技法は、例えば、Sambrook, et al.のMolecular Cloning: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor, NYまたは組換えDNA技法について論じている任意の数の実験室マニュアルに見出すことができる。AAVおよびアデノウィルスITRの組合せを含むアデノウィルスカプシド中の二本鎖AAVゲノムを、細胞への形質導入に用いることができる。他の変形において、AAVベクターを、「ガットレス」、「ヘルパー依存性」、または「高量」アデノウィルスベクター内に入れることができる。アデノウィルス/AAVハイブリッドベクターは、例えば、Lieber et al., J. Virol. 73:9314-, 1999に論じられている。レトロウィルス/アデノウィルスハイブリッドベクターは、例えば、Zheng et al., Nature Biotechnol. 18:176-186, 2000に論じられている。アデノウィルス内に含まれるレトロウィルスゲノムは、宿主細胞ゲノム内に結合して、安定なトランス遺伝子発現をもたらす。1つより多いプロモーターが、ハイブリッドウィルスベクター内に存在することができる。従って、1つより多い異種遺伝子を、ベクターにより発現させることができる。
【0112】
本発明に従って、食作用関連もしくはAMDP関連遺伝子の発現を促進する他のヌクレオチド配列要素、またはかかる遺伝子の発現もしくは活性を調節する剤、およびベクターのクローニングが、さらに意図される。例えば、プロモーターの上流のエンハンサーの存在、またはコード領域の下流のターミネーターの存在は、発現を促進することができる。
幾つかの非ウィルス的方法が、食作用関連および/またはAMDP関連核酸、または細胞内でかかる核酸の発現もしくは活性を調節する剤を導入するために知られている。非ウィルス的方法の概説は、例えば、Nishikawa and Huang, Human Gene Ther. 12:861-870, 2001を参照のこと。食作用関連および/またはAMDP関連核酸、または細胞内に発現される食作用関連および/またはAMDP関連核酸の発現を調節する剤を細胞内に導入するために、プラスミドDNAを用いる種々の技法が、本発明に従って提供される。かかる技法は一般に当分野で知られており、例えばIlan, Y., Curr. Opin. Mol. Ther. 1:116-120 (1999)およびWolff, J.A., Neuromuscular Disord. 7:314-318 (1997)などの文献に記載されている。
【0113】
宿主細胞内に、食作用関連および/またはAMDP関連核酸を、または細胞内でかかる核酸の発現を調節する剤を導入するための、物理的技法を含む方法は、本発明において用いるために適合可能である。細胞電気透過化(細胞エレクトロポレーションとも呼ぶ)を、選択された核酸を細胞に送達するために用いることができる。この技法は、Preat, V., Ann. Pharm. Fr. 59:239-244 (2001)に論じられており、パルス電場を細胞に適用して細胞の透過性を増強し、細胞膜にわたって外因性のポリヌクレオチドの通過をもたらすことを含む。代替的に、遺伝子導入の粒子衝撃法は、Accell装置(遺伝子ガン)を用いて標的組織中にDNA被覆微細金粒子を加速することを含む。この方法論は、例えば、Yang et al., Mol. Med. Today 2:476-481 (1996)およびDavidson et al., Rev. Wound Repair Regen. 6:452-459 (2000)に記載されている。
【0114】
トランスジェニック動物である本発明の態様の作成のために、幾つかの標準の方法が、組換え遺伝材料を卵母細胞内に導入してトランスジェニック動物を作製するために、知られている。かかる方法の例は、以下を含む:1)粒子送達システム(例えば、Novakovic S. et al. (1999) J Exp Clin Cancer Res 18: 531-6;Tanigawa et al. (2000) Cancer Immunol Immunother 48:635-43を参照);2)マイクロインジェクションプロトコル(例えば、Krisher et al. (1994) Transgenic Res. 3: 226-231;Robinett CC and Dunaway M (1999), Modeling transcriptional regulation using microinjection into Xenopus oocytes. In: Methods: A Companion to Methods in Enzymology 17: 151-160;またはPinkert CA and Trounce IA (2002), Methods 26:348-57を参照);(3)ポリエチレングリコール(PEG)法(例えば、Meyer O et al. (1998) J. BIol. Chem. 273:15621-7またはPark et al. (2002) Bioconj Chem. 13: 232-239を参照);(4)リポソーム媒介DNA取り込み(例えば、Hofland HEJ and Sullivan SM (1997) J. Liposome Res. 7: 187-205またはHui SW et al. (1996) Biophys. J. 71:590-599を参照);および(5)上記のエレクトロポレーションプロトコル。
【0115】
本発明による合成遺伝子導入分子は、プラスミドDNA(食作用関連および/またはAMDP関連核酸、または、細胞内のかかる核酸の発現もしくは活性を調節する剤を、コードする配列を有し、プロモーターに動作可能に結合している)との多分子集合体を形成し、エンドサイトーシスおよびエンドソーム膜破壊の引き金となるように、得られた粒子を標的細胞表面に結合するように設計することができる。ポリマーDNA結合カチオン(ポリリジン、プロタミン、およびカチオン化アルブミンを含む)は、細胞標的化リガンドに結合し、受容体が媒介するエンドサイトーシスの引き金となることができる。ポリマーDNA結合カチオンが関与する方法は、例えば、Guy et al., Mol. Biotechnol. 3:237-248 (1995)およびGarnett M.C., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 16:147-207 (1999)に概説されている。
【0116】
リポポリアミンおよびカチオン性脂質を含むカチオン増幅器(cationic amplifier)は、食作用関連および/またはAMDP関連核酸または食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子の発現もしくは活性を調節する剤をコードする核酸の、標的細胞への、受容体非依存性の遺伝子導入を提供することができる。予め形成されたカチオンリポソームまたはカチオン性脂質は、プラスミドDNAと混合して、細胞トランスフェクト複合体(cell transfecting complex)を生成することができる。カチオン性脂質製剤を含む方法は、例えば、Felgner et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 772:126-139 (1995)およびLasic and Templeton, Adv. Drug. Delivery Rev. 20:221-266 (1996)に概説されている。好適な方法はまた、カチオンリポソームを、DNAまたはタンパク質を細胞内に導入するための剤として用いることを、含むことができる。治療的遺伝子送達のために、DNAはまた、両親媒性カチオンペプチド(Fominaya et al., J. Gene Med. 2:455-464, 2000)に結合してもよい。
ウィルスおよび非ウィルスに基づく両方の成分を含む方法も、本発明に従って用いることができる。Epstein Barr ウィルス(EBV)に基づく治療的遺伝子送達用のプラスミドは、Cui et al., Gene Therapy 8: 1508-1515, 2001に記載されている。アデノウィルスに結合したDNA/リガンド/ポリカチオン付加物(polycationic adjunct)を含む方法は、Curiel, D.T., Nat. Immun. 13:141-164 (1994)に記載されている。
【0117】
タンパク質の形質導入は、治療タンパク質を標的細胞内に送達するための代替的な遺伝子療法を提供し、タンパク質形質導入の方法は本発明の範囲内である。タンパク質形質導入は、外部環境から宿主細胞へのタンパク質の内部化である。内部化のプロセスは、細胞膜を透過できるタンパク質またはペプチドに依存する。かかるタンパク質またはペプチドの形質導入特性は、融合タンパク質として発現されたタンパク質(例えば、食作用関連および/またはAMDP関連タンパク質)上に付与可能である。一般に用いられるタンパク質形質導入ビヒクルは、アンテナペディアペプチド、HIV TATタンパク質形質導入ドメイン、および単純ヘルペスウィルスVP22タンパク質を含む。かかるビヒクルは、例えばFord et al., Gene Ther. 8:1-4 (2001)に概説されている。
【0118】
本発明の核酸は、宿主細胞内で任意の好適な時間の間発現することができ、一時的発現および安定な長期の発現を含む。好ましい態様において、食作用関連および/またはAMDP関連核酸、またはかかる核酸の細胞内の発現もしくは活性を調節する剤は、好適な規定の長さの時間、治療的量で発現される。トランス遺伝子の一時的または長期の発現を達成する送達方法は、本明細書に記載されている。エピソーム性の複製ベクターは一般的に、細胞内で中程度〜高いコピー数で維持され、挿入DNAの高いレベルに寄与する。幾つかのベクターがエピソームとして存在しており、かかるベクターは宿主のクロモゾームからは独立して、宿主中で複製する自動ユニット(autonomous unit)として振舞うことができる。アデノウィルスを含む、プラスミドまたはウィルスに基づくベクターを介して送達されるDNAは、例えば、宿主細胞内にエピソーム状態で存在し、一時的な様式で発現される。
【0119】
本発明によるベクターは、DNAの宿主クロモゾームへの融合(integration)を促進するヌクレオチド配列要素を含むことができる。融合はほとんどの形質導入された細胞においてよく耐用され、細胞内に新しく導入された遺伝情報の安定性を保証するのに好ましい。食作用関連および/またはAMDP関連核酸、または細胞内の食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子産物の発現もしくは活性を調節する剤をコードする核酸を含むベクターの融合は、ランダムに、または部位特異的な様式で生じることができる。宿主細胞ゲノム中への融合を許容する、ウィルスに基づくベクターは、AAV、レトロウィルス、および幾つかのAAV/アデノウィルスハイブリッドに由来するものを含む。
【0120】
本発明の核酸分子(遺伝子治療ベクターを含む)を含む組成物は、哺乳類の対象に、任意の好適な技法により投与することができる。例えば、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成の核酸を導入するため、または他の側面において、食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成の核酸の発現もしくは活性を調節する剤を導入するために、ウィルスベクターを用いる種々の方法が知られている。ウィルスは、それらの遺伝子を宿主細胞に効率的に送達する、天然に進化したビヒクルであり、従って治療遺伝子の送達用の望ましいベクター系である。好ましいウィルスベクターは、宿主細胞に低い毒性を示し、食作用関連またはAMDP関連遺伝子をコードする天然もしくは合成の核酸、またはかかる遺伝子の発現もしくは活性を調節する剤の、治療的な量を、例えば組織特異的な様式で産生する。本発明のベクターの眼への送達については、種々のアプローチが当業者に知られており、眼内注射を含む。
【0121】
MT1−MMPとAMDおよび他の網膜変性との関連
本発明の幾つかの態様は、スクリーニング法、網膜変性の動物モデル、および膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)(配列番号15)に基づく処置方法である。上記にリストしたAMDP遺伝子の中で、1つの遺伝子、すなわちMT1−MMP(ここではまた、PHG−16およびAMDP−6とも指定する)が初めに選択されて、AMD療法の候補標的としてさらに評価された。以下の例に示されるように、種々の確認解析の結果は、MT1−MMPが食作用遺伝子であることを、以下の事項により明確に示した:1)発現の日周パターン(diurnal pattern):ここではin vivoでの最大のOS脱離(shedding)および食作用の時である早朝にピークを示す(図7);2)ラットおよびヒトの眼における、OSの先端への局在化(図8、9);および3)ラットの眼への網膜下注射後にin vitro(図10)およびin vivoの両方における、MT1−MMPに対する抗体によるOS食作用の阻害(図11)。
【0122】
MT1−MMPとAMDの関係は、以下により示される:1)mRNA発現の段階的な増加とヒト提供者の眼におけるAMD関連変化の重篤度の相関(図12および図13);2)AMDのサルモデルの光受容体間マトリックスにおける、MT1−MMPの増強された免疫学的局在化;および3)AMDを含むヒト黄班変性における、MT1−MMP触媒ドメイン中のミスセンス多型(すなわちD273N)の発生率の増加、および、AMDおよび黄班変性患者における、MT1−MMP中の同義多型(すなわちP259P)の発生率の増加。(下記の例5の表4参照。)
【0123】
MT1−MMPのさらなる研究は、この遺伝子の過剰発現が、一次病因がRPEにあるAMDに加えて、遺伝性網膜変性の少なくとも1つの形態における、すなわち英国外科医師会(RCS)ラットにおける、共通する特徴であるという証拠を提供した。RCSラットは、光受容体の変性がRPE細胞における食作用の欠陥により生じる遺伝性網膜変性の、よく知られた動物モデルである(Bok and Hall, 1971)。このモデルの原因遺伝子は、突然変異MERTKである(D’Cruz et al. 2000)。本明細書に記載された研究において、MT1−MMPは、突然変異RCSラットの網膜およびRPEにおいて過剰発現されることが示された。重要なことには、7日齢のRCSラットの網膜下腔への抗MT1−MMP抗体の注射(2μlの容量)の後に、対照と比較した光受容体変性の速度は、抗MT1−MMP抗体を注射した動物において、30日および60日齢時に顕著に遅延したが、一方、対照抗体または偽注射は効果を示さなかった(図14)。これらの結果は、MT1−MMPタンパク質に対する剤の網膜外節における存在、例えば、網膜下腔の光受容体間マトリックスにおける存在は、有効な効果を、例えば、網膜変性状態の遅延または逆転をもたらし得るとの証拠を提供する。
侵入的な腫瘍細胞上で発現される、MT1−MMPの以前に認識されていた機能は、プロゲラチナーゼAを活性化させ、種々のECM成分を消化する能力を含む(Sato et al., 1994; Cao et al., 1995: Pei and Weiss, 1996)。本明細書に記載された発見に基づき、この遺伝子が、AMD並びに他の網膜および脈絡膜変性疾患を治療的に標的とする、新しい魅力的な候補遺伝子を提供することが明らかである。
【0124】
食作用関連および/またはAMDP関連遺伝子に基づくAMDの動物モデル
他の側面において、本発明は、AMDおよび他の網膜および脈絡膜の変性状態の動物モデルとして用いるのに好適な、非ヒトトランスジェニック動物(例えばマウス)を含む。従来、AMDの治療化合物および処置方法の試験は、加齢変化を実際的に追跡可能な、好適に短命な疾患の動物モデルが欠如していることによって妨げられていた。少なくとも3つのAMD/食作用遺伝子、すなわち、PD2S(配列番号2)、MT1−MMP(配列番号15)およびAMDP−3(配列番号17)の、AMDの眼における過剰発現の発見に基づき、および、AMDを有するヒト、AMDを有するサル、および遺伝性の網膜変性を有するRCSラットの網膜における、MT1−MMP mRNAおよびタンパク質の過剰発現の実証に基づき、本発明は、好ましい態様として、PD2S、MT1−MMPおよびAMDP−3の少なくとも1つを過剰発現するトランスジェニック動物を提供する。
【0125】
幾つかのトランスジェニックモデルは、トランス遺伝子を、ドキシサイクリンなどの外因性刺激の付加時のみに条件的に過剰発現するよう、設計される。従って、これらの動物におけるトランス遺伝子発現の発生は、ドキシサイクリンの投与により制御することができる。例として、トランス遺伝子発現は、寿命の特定の時間に引き金が引かれるように、例えば、出生後の網膜発達の完了の後に(マウスにおいては30日齢当たりに起こる)起こすことができる。誘導的発現の特徴は、MT1−MMPなどの、胎児または出生後初期の期間に過剰発現されると、動物において発達異常をもたらすことが予想される遺伝子において、特に有利である。他のトランスジェニックの態様は、MT1−MMP、PD2SまたはAMDP−3などのトランス遺伝子を、特定の細胞型、例えば、光受容体、RPE細胞または脈絡膜の細胞型において、選択的に過剰発現する。
【0126】
AMD/網膜および/または脈絡膜変性の動物モデルのさらに他の好ましい態様は、本明細書に発見され記載されたものを含む、AMDP関連または食作用関連遺伝子の多型変異体を組み込む。これらのモデルは、AMDの複雑な遺伝的継承パターンを反映する。単一の遺伝的欠陥、例えばMT1−MMPに存在する多型は、単離されて病気を引き起こすことはできないかもしれない。しかし、幾つかの遺伝子の多型変異体、適当な環境因子、および時間経過の一定の組合せは、一緒になって、状況を決定付けるに十分な機能障害に寄与する可能性があり、その結果は、AMDまたは網膜、黄班または脈絡膜変性のその他の形態となる。例えば、他のAMDP遺伝子はMT1−MMPの多型変異体と協働して、AMDの最大範囲を形成する可能性がある。
【0127】
従って、AMDおよび他の網膜および脈絡膜変性のトランスジェニック動物モデルの幾つかの態様は、AMDおよび/またはRPE細胞による食作用に関与する、1つまたは2つ以上の遺伝子の多型変異体を発現する。種々の好ましい態様は、MT1−MMP変異体を発現するポリトランスジェニックモデルであり、例えば、本明細書に開示されたAMDP遺伝子(例えば、配列番号2、9、10、16、17として本明細書に示された野生型cDNA配列を有する遺伝子)、および、AMDと相関することが前に記載された多型変異体を有する、AMD関連遺伝子(例えば、配列番号62、63、64、65、66、67、68および69)を含む、1つまたは2つ以上の他のAMD関連遺伝子の多型変異体との組合せによる前記モデルである。ポリトランスジェニックモデルの他の好ましい態様において、MT1−MMPの多型変異体は、他の食作用関連遺伝子(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13および14として本明細書に示された野生型cDNA配列を有する遺伝子)の多型変異体と組み合わせて発現される。
【0128】
例
本発明を、以下の特定の例によりさらに説明するが、これらはどのような方法でも本発明の範囲および内容を限定するものと解釈されるべきではない。
【0129】
例1−食作用関連およびAMD関連遺伝子の単離のための研究ツール
以下に記載するのは、本発明の経過中に開発された研究ツールであり、1)多数の遺伝子における発現をハイブリダイゼーションにより同時に測定する、簡単で手頃な方法;および2)食作用RPE細胞株および食作用のバイタルアッセイ(vital assay)に基づく、食作用関連遺伝子の同定用のツール、を含む。
【0130】
CHANGEアレイシステム
図1を参照すると、遺伝子発現の比較ハイブリダイゼーション解析(CHANGE)と呼ばれるマイクロアレイ技術を開発した。λgt11 cDNAライブラリを、分子生物学分野の当業者に知られた技法を用いて、ラットのRPE/脈絡膜RNAおよびヒト網膜RNAから作製した。ライブラリに用いたラットRNAは、周期的な照明(12時間明るい:12時間暗い)下で飼育し、日周期の間の種々の時点で犠牲にした、約2〜3月齢の動物のRPE/脈絡膜から得た。ライブラリから約10,000個のクローンを個別に取り出してプレート上で増幅し、アレイとしてブロットに移した。
【0131】
cDNAへの変換、PCRによる増幅、およびアレイ上で特定遺伝子の発現を検出する有用性について確認するための試験の後に、ラットおよびヒト源からの全RNAを球状の発現ハイブリダイゼーションプローブとして用いた。CHANGEおよびノーザンブロット解析による遺伝子発現数の予備的比較により、精度を確認し、mRNA発現における約15〜20%という小さな差が、CHANGE法により検出できることを示した。生物学的に関連するプローブの組合せによって繰り返し解析を容易に行う能力が、この戦略の非常に強力な側面であることは、明らかである。
【0132】
食作用遺伝子発見ツール
in vivoでRPE食作用に関連する遺伝子を同定する好ましいアプローチは、外節(OS)食作用の機能をin vivo系で起こるのと同様の同調的(synchronous)様式で行うin vitro系において、RPE遺伝子発現を解析することである。げっ歯類および他の哺乳類において、OSの脱離および食作用は、日周性リズムに従う。光受容体によるピークの脱離およびRPE細胞による大規模な摂取は、光が発生する直前に始まり、数時間の間にわたって起こることが知られている(LaVail, 1976)。OS食作用の経過中に、培養RPE細胞における差次的発現に基づき食作用遺伝子を成功裡に同定するには、食作用プロセスの動態が培養物にわたり均一であり、特に、それらの隣接物について非同調的食作用を示す細胞からの「ノイズ」を最小化することが好ましい。一次RPE培養物は一般にこの目的に適さないが、これは、一次培養物中のRPE細胞の表現型の顕著な不均一性(heterogeneity)、および、異なる表現型の細胞によって示される、食作用の動態における対応する不均一性のためである。
【0133】
不均一性の問題は不死のRPE細胞株を用いることにより回避可能であって、該細胞株は、in vivoでのRPEと同様に培養物中で丸石様の形態を示し、そして同調的結合および摂取により与えられたOSを食作用することができる。げっ歯類およびヒトの源から不死のRPE細胞株を産生し維持するための方法は、当分野に知られている。所望の食作用の特徴を示す例示の細胞株は、BPEI−1 RPE細胞株である(McLaren et al., 1993b)。BPEI−1培養物は、「1型」一次RPE細胞としてOS食作用と同じ動態をとることが示され、これはin vivoにおけるRPEに最も近い(McLaren et al., 1993a; McLaren, 1996)。食作用関連遺伝子の単離のためにかかる細胞株を使用することは、プローブの調整およびノーザンブロットの両方に必要なRNA量(約10〜30μg)を産生するのに十分な細胞を有する、大規模食作用アッセイにおいて行うのが好ましい。
従って、例えばBPEI−1などの好適なRPE細胞株の細胞は、高密度でプレートし(例えば、6ウェルマルチウェルプレートの1つのウェル当たり約106細胞)、例えば前に記載した培地中(McLaren et al., 1993c; McLaren, 1996)で1〜2日間培養する。
【0134】
食作用の特定のステージを示す、CHANGE解析用のプローブ(「ステージ特異的」プローブ)の調整のためには、生きているRPE細胞培養物中のOS食作用の経過をたどることができ、特定の記載された食作用プロセスのステージにおいてRNAの単離ができることは、有利である。これを促進するために、任意の好適なOS食作用のバイタルアッセイを用いることができ、例えば、McLaren et al.,(1993c)により前に記載された、二重蛍光アッセイによる。図2を参照すると、このアッセイにおいて、RPE細胞内のリソソームは生きたままスルホローダミン(赤色蛍光)により染色され、細胞に与えられるOSは、フルオレセイン(FITC)(緑色蛍光)により予め標識されている。このアッセイにより、食作用プロセスの全てのステージ(すなわち、OS結合、摂取、および消化)の後に、生きている培養物の蛍光顕微鏡検査が可能である。図3は、細胞にFITC染色されたOSを与えた後の種々の時点において、生きているBPEI−1細胞の培養物中に典型的に観察される、OSの同調的結合、摂取および細胞内処理の異なるステージを示す。
【0135】
CHANGEを用いた食作用遺伝子の単離
食作用の異なるステージにおいて発現された食作用遺伝子を単離するために、ステージ特異的プローブを、OSを与えた後の種々の時点(例えば、0、1、6、12、18および30時間)でRPE細胞培養物から抽出した全RNAから、および同じ時点において、OSを与えていない対照培養物から抽出した全RNAから、調整した。全RNAの逆転写による「+/−OS」食作用プローブの調製の後に、かかるプローブの対を本明細書のCHANGE解析に用いて、遺伝子アレイ、例えば、本明細書の約10,000個のRPE発現遺伝子のアレイをスクリーニングして、RPE細胞によるOS食作用の間に差次的に発現された遺伝子を同定する。OS食作用の間に発現の変化を示す遺伝子は、続いてDNA配列解析により、標準の技法を用いて同定し、GenBankなどのデータベースの配列と比較する。
【0136】
例2−RPE細胞内に発現された食作用関連遺伝子の単離および確認
この例は、RPE食作用の間に変化した発現を示す遺伝子の、上記方法を用いた単離について記載する。
約10,000個のRPE由来cDNAを含むアレイをスクリーニングする、「+/−OS」プローブを用いたCHANGE解析から、約60個の差次的に発現された推定遺伝子が最初に得られた。差次的発現のノーザンブロット解析による確認を含む、さらなる詳細な解析により、16個の確認された食作用関連遺伝子の最初のサブセットが、さらなる検討のために提供された。上の表1は、本明細書に記載のCHANGE技法により単離された、確認された食作用遺伝子の識別リストおよび配列リストの表示(すなわち、核酸:配列番号1〜15およびアミノ酸:配列番号71〜101)を提供する。
【0137】
これら遺伝子の、in vitro食作用の間の発現パターンの詳細な解析を、BPEI培養物から抽出したRNAのノーザンブロット法により、細胞にOSを与えた後の種々の時点において行った。食作用の特定ステージが生きている細胞内で観察され、RNA抽出の直前に写真に記録された。図4に見られるように、16個の食作用遺伝子の発現パターンは、食作用プロセスの異なる時間において、すなわち、初期、初期〜中期、後期中期、および遅期において発現のピークを示す、識別できる群にクラスタリングされる。
【0138】
例3−AMDにおいて差次的発現を示すRPE発現遺伝子の単離および確認
本明細書に記載するのは、推定AMD遺伝子のCHANGEによる単離に用いる手順、およびこれらのAMDとの関係を確認するための方法である。
例2に記載されたものと同様のアプローチにおいて、CHANGE技法を用いて、AMDの病因に役割を果たす遺伝子が疾患の経過の間に発現の変化を示すとの仮定に基づき、AMDに関連する遺伝子を同定した。ヒト提供者の眼は、地方のアイバンクから得た。一般に、死後3時間以内に摘出され、12時間以内に処理に利用可能であった眼が受け入れられた。死亡時刻および処理までに経過した時間に関わらず、組織の実際の質は、肉眼的検査による外観、組織切片の微視的評価、並びにノーザンブロット解析およびRT−PCRにより評価される、得られたRNAの量および質を含む、幾つかの基準により評価した。
【0139】
図5を参照すると、それぞれの眼は顕微鏡により、AMD関連の変化について、AMD変化の重篤度の増加を0〜+5のスケールにて、視神経頭および黄斑部を通って周辺から周辺へと走る幅約3〜4mmの網膜/脈絡膜の1片においてグレード付けした。各眼にグレードを付ける際に、次のものを含む幾つかの形態学的基準を考慮した:1)ブルッフ膜の肥厚化の程度;2)任意のドルーゼンの数、大きさおよび位置;3)新生血管形成または脈絡膜新生血管(CNV)膜の有無;および4)ある場合は、RPE/光受容体萎縮。RNA、DNAおよびタンパク質は、各眼の網膜およびRPE/脈絡膜から単離した。
「+AMD」プローブを調製するために、ヒト提供者の眼および+3〜+5(中程度から重篤)のAMD変化を有するプールした複数の眼のRPE/脈絡膜から、全RNAを抽出した。年齢を整合させた、罹患していない眼のRPE/脈絡膜からプールされたRNAを用いて、「−AMD」対照プローブを調製した。+/−プローブは、上に記したように、差次的に発現される遺伝子をCHANGEにより同定するために用いた。罹患していない個人と比較して、AMDを有する対象において差次的発現を示す約200個のRPE発現遺伝子が、最初に同定された。
【0140】
AMDにおいて差次的に発現される食作用関連遺伝子のサブセット(すなわち、「AMDP遺伝子」)を得るために、食作用関連遺伝子についてのCHANGEスクリーニングの結果(上記例2)およびAMD関連遺伝子についてのCHANGEスクリーニングの結果(本例)を比較して、食作用およびAMDの両方において差次的発現を示すCHANGEパネル上のRPE遺伝子を同定した。本解析の結果から、両方の基準を満たす6個の遺伝子の最初のサブセット、すなわち、プロスタグランジンD2合成酵素(配列番号2)、カゼインキナーゼ1エプシロン(配列番号9)、フェリチン重ポリペプチド1(配列番号10)、MT1−MMP(配列番号15)、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質(配列番号16)、およびヒト未知AMDP−3(配列番号17)が産生された。(上の表2も参照。)
【0141】
例4−AMD関連および食作用関連(AMDP)遺伝子としてのMT1−MMPの単離および特徴づけ
この例は、CHANGEにより食作用およびAMDの両方において差次的に発現されることが見出された例示の遺伝子(すなわち、「AMD関連食作用遺伝子」または「AMDP遺伝子」)である、MT1−MMP(配列番号15)の同定について記載する。
AMDおよびOS食作用の両方に関連する遺伝子を同定するために、2つのCHANGE解析の結果を上記のようにして比較した。両方のスクリーンにおいて差次的に発現された候補遺伝子の中で、クローン91−40が、メタロプロテイナーゼの比較的新しいタイプであるとして、すなわち、AMDへの関与が疑われる遺伝子の要求を合理的に満たすような機能を有するMT1−MMP(Sato et al., 1994)として、選ばれた。これらの機能は、OS食作用における役割(本明細書に記載のもの)、およびプロゲラチナーゼAの活性化および種々の細胞外基質成分に対する分解活性(degradative activity)(Sato et al., 1994; Cao et al., 1995; Pei and Weiss, 1996)を含む。
【0142】
種々の組織におけるMT1−MMPの発現のノーザンブロット解析では、RPE、脈絡膜、および網膜において最高レベルの発現が示され、続いて肺および副腎であった。MT1−MMPが食作用遺伝子であることの推定は、in vitroでのOS食作用の間にCHANGEにより検出された、その差次的発現に基づく。機能的な確認のため、この遺伝子の発現のパターンを、ノーザンブロット解析を用いてOS食作用の独立した解析において試験した。図6を参照すると、MT1−MMP発現の増加が、食作用の開始の13時間後、すなわちCHANGEにより検出された増加と同じ時間に確認された。MT1−MMPの、in vivoで日周的に制御されるOS食作用への関与は、MT1−MMP mRNAの発現が、RPEおよび網膜の両方において、in vivoにおける最大の脱離およびOS食作用に約1〜2時間先立つ時刻である6AMにピークとなる日周パターンに従うとのさらなる所見により、強く支持された(図7)。
【0143】
ここで図8を参照すると、日周サイクル中の幾つかの時点におけるラット網膜のMT1−MMPの免疫蛍光の局在は、網膜の光受容体OSおよびRPEにおける最強のシグナルを、6AMに固定して示した。ヒト網膜におけるMT1−MMPタンパク質の免疫局在は、桿体先端、そして特に錐体、外節においてシグナルを示し、これは光受容体OS膜とRPE先端突起の間の境界における活性と整合しており、ここにおいてMT1−MMPタンパク質は、RPEによる脱離および食作用のためにOS先端を調整する中で役割を果たしている可能性がある(図9)。
【0144】
OS食作用におけるMT1−MMPの関与の機能的確認を得るために、MT1−MMPに対する抗体(Chemicon International, Temecula, CA)を、in vitroでBPEI−1細胞によるOS食作用を抑制するその能力について試験した。図10に見られるように、結果は、OS食作用がこの抗体によっては抑制されたが、無関係の(X−アレスチン)抗体によっては抑制されないことを明確に示し、OS食作用のプロセスに対するMT1−MMPの機能的要件が確認された。さらに、in vivoでの機能アッセイにおいて、正常なラットの眼へのMT1−MMP抗体の網膜下注射は、毎日の食作用プロセスによる干渉と整合して、4日後に顕著な構造的破壊およびOSの延長をもたらしたが、X−アレスチン抗体はこれをもたらさなかった(図11A、B)。このように、豊富な証拠により、RPE細胞によるOS食作用における、MT1−MMPの関与が提示された。
【0145】
MT1−MMPはまた、AMDにおける差次的発現(すなわち、増加)に基づき、CHANGEにより、推定AMD遺伝子としても同定された。この遺伝子の発現は、AMDに罹患した人および正常なヒト提供者の眼のRPE/脈絡膜および網膜からのRNAのノーザンブロット解析により、個別に試験された。結果は増加を確認し、RPEより網膜においてより大きい増加を示した(図12)。図13に示すように、種々の程度のAMD関連変化を有する眼からの一連のRNAサンプルを試験した場合、網膜におけるMT1−MMP発現の増加と、眼における病変の増加の間に正の相関が観察された(図13)。この結果は、AMDの病因におけるこの遺伝子の役割の可能性を強く支持した。さらに、同じくMT1−MMP発現の増加を示すAMDのサルモデルでノーザン解析により試験すると、MT1−MMPが、高度に破壊されたOSの中で光受容体間マトリックス(IPM)に局在していることが見出された。
【0146】
MT1−MMPが、日周的に調節されるOS食作用において役割を果たしていることが発見されたため、発明者らは次に、AMDにおける発現の増加が、最大の脱離および食作用の時点において起こるかどうかを試験した。AMD変化を有するヒトの眼に見られる、MT1−MMP発現の増加は、この可能性を支持しなかったが、これは、死亡後の多くの異なる時点で得られた眼において、増加が存在したためである。この結果に対する信憑性のある説明は、MT1−MMP発現の調節異常が存在する可能性であり、MT1−MMPの発現は、正常な場合にはおよそ6AMのみでピークとなるが、AMDにおいては、他の時点でも極めて活性化されている。OS脱離および食作用の厳密に制御された日周プロセスに対する、MT1−MMP発現の調節異常がもたらす機能的結果は、時間とともに極めて有害となりえる。
【0147】
例5−AMDおよび黄斑変性状態を有する対象におけるMT1−MMPの遺伝的スクリーニング
この例は、AMDおよび黄斑変性患者並びに正常対照集団の遺伝解析のための方法、およびAMDを含む黄斑変性と相関する、MT1−MMP多型の発見を示す結果について記載する。
AMDおよび他の黄斑疾患に罹患した高齢の患者および正常な高齢患者から、末梢血を採集した。白血球からDNAを抽出した。DNAは、地方のアイバンクの提供者の眼の網膜およびRPE/脈絡膜からも、抽出した。提供者の眼における病変の程度は、眼底撮影で記録し、例3に記載された基準を用いて顕微鏡的にグレード付けした。MT1−MMPにおける多型についてのスクリーニングを可能とするために、ヒトMT1−MMPの全10個のエクソンを、公開されたマウス遺伝子構造(Apte et al. 1997)から決定し、下の表3に示されたヒトのエクソン特異的アンプリマー(すなわち、配列番号18〜37)を用いてPCRにより増幅した。
【0148】
【表3】
【0149】
【表4】
【0150】
【表5】
【0151】
例として、ヒトMT1−MMP遺伝子のエクソン5を、本明細書で配列番号26および27として示された核酸配列を有するアンプリマーを用いてPCRにより増幅し、図14に示すDNA配列(配列番号59)を有する、285bpの野生型PCR産物を得た。この産物を得るための、好適なPCR増幅プロトコルは以下である:95℃で3分間、その後95℃で1分間、62℃で30秒間、72℃で30秒間を30サイクル、そして72℃で5分間。285bpのPCR産物は、ゲル電気泳動法および抽出により精製し、DNA配列決定を行った。
【0152】
表3に示すアンプリマーを用いて、MT1−MMP遺伝子を、AMDおよび家族性黄斑疾患に罹患した患者並びに罹患していない対照の対象からのDNAにおける、突然変異および多型についてスクリーニングした。スクリーニングは、黄斑変性患者の3つの群から得たDNAを用いて行った:1)地方のクリニックにおいて見られた、臨床的に記録された56人のAMD患者;2)眼科遺伝子クリニックにおいて見られた、22人の散発的および家族性黄斑変性患者;および3)6人のアイバンクの提供者からの眼であって、+2〜+5の範囲のAMD関連変化を示すもの。家族性黄斑変性の患者群における臨床的疾患診断は、家族性黄斑ジストロフィー、卵黄様黄斑ジストロフィー、傍中心窩毛細血管拡張症、優性ドルーゼン、結晶性ドルーゼン、輪状黄斑ジストロフィー、および脈絡膜萎縮症を含んでいた。
【0153】
正常者および黄斑変性に罹患した患者からのDNAのスクリーニング結果は、MT1−MMPのエクソン5内に、幾つかの多型変異体を含む「ホットスポット」を明らかにした。第1の変異体は、本明細書においてP259Pと指定された同義多型として同定され、これは、MT1−MMPcDNA配列におけるコドン259内でCとGヌクレオチドが異なっていた(すなわち、CCCプロリンvsCCGプロリン)。P259P変異体塩基は、図14に示す285bpのエクソン5断片の143番目の塩基位置であった。図14を参照すると、コドン259の位置は下線によって示され、P259P多型変異体塩基の位置は太字で示されている。PCRにより上記のプライマー対を用いて得た、ヒトMT1−MMPエクソン5産物に対する野生型DNA配列は、ここに配列番号59としてリストされ、P259P変異体を含むエクソン5配列は、配列番号60としてリストされている。
【0154】
ヒトMT1−MMP遺伝子配列における、潜在的なスプライスドナー(GT)およびスプライスアクセプター(AG)部位の解析は、P259P多型が、MT1−MMPに対するmRNAのスプライス変異体をもたらす可能性があることを明らかにした。野生型遺伝子配列からイントロンを取り除く正常のスプライシングは、エクソン5によりコードされる53個のアミノ酸(ここで配列番号121として示される)を含む、582個アミノ酸の完全長MT1−MMPタンパク質産物(配列番号100)をもたらす。
【0155】
図14を再度参照すると、第2の変異体が同定され、ここでD273Nとして指定され、これはMT1−MMPコドン273におけるミスセンス多型であり、GとAヌクレオチドで異なっている(GATアスパラギン酸vsAATアスパラギン)。この多型は、285bpエクソン5断片内の183番目の塩基位置に位置する(図14では、コドン273は下線で、変異体塩基は太字で示される)。D273Nミスセンス変異体は、野生型荷電アミノ酸(すなわち、アスパラギン酸)を、無荷電アミノ酸(すなわちアスパラギン)に変換する。D273N多型を有する対象において、PCRにより得たヒトMT1−MMPエクソン5産物の核酸配列は、ここでは配列番号61として、およびエクソン5からの対応する予想される変異体タンパク質産物は、配列番号123としてリストされる。
【0156】
ここで表4を参照すると、P259P同義多型についてのMT1−MMPスクリーニング解析の結果によれば、黄斑疾患を有する全患者においてこの変異体が27.4%の頻度を示し、一方正常集団においては10.5%の頻度であった。
【0157】
【表6】
【0158】
罹患していない個人(21.1%)と比較して、D273Nミスセンス多型のより高い頻度(すなわち、31%)は、全ての黄斑疾患において見出された。MT1−MMPの2つの多型変異体のうちの1つを有する対象の総数は、それぞれの位置における野生型塩基とは対照的に、正常集団(31%;p=0.043)より、黄斑疾患の対象(58.3%)においてより高かった。
【0159】
家族性黄斑疾患に対するAMDの別の解析では、AMDおよび黄斑変性の家族性形態の両方において、MT1−MMPの多型変異体の頻度の増加が明らかにされた(表4)。AMDを有する対象においては、MT1−MMPの2つの多型変異体のうちの1つを見出す頻度は54.8%であり、一方、一般の集団においてはこの頻度は31.6%である。家族性黄斑変性症の対象においては、このパーセンテージはより高い(68.2%;p=0.029)。これらの結果は、MT1−MMPの多型変異体の存在が、AMDを含む黄斑変性症を発症するリスクの増加と相関することを強く示唆する。注目すべきは、黄斑疾患の対象の4.8%はD273Nミスセンス多型について同型であるが、対照群においては0%であることである(表4)。
【0160】
例6−MT1−MMPポリペプチドに結合する剤による網膜変性の遅延
この例は、動物(ラット)モデルにおける遺伝性の網膜変性の速度を、MT1−MMPタンパク質を中和する剤を用いて遅らせることを示す研究について、記載する。
上の例4に記載したように、MT1−MMPは、AMDを有するヒトの眼において、AMDのサルモデルにおいて、およびRPEに基づく遺伝性網膜変性の動物モデルであるRCSラットにおいて、過剰発現されることが見出された。MERTK遺伝子の突然変異によるRCSラットの突然変異体の表現型は、RPE細胞による食作用の摂取相における欠陥を特徴とする。別の研究において、MT1−MMPはCHANGE解析で再度単離され、ここで+/−プローブは突然変異体および年齢を整合させた対照RCSラットの網膜RNAから調製した。RCSラット網膜におけるMT1−MMP発現のノーザンブロット解析は、MT1−MMP mRNAの発現が、このモデルにおいて網膜変性の進行と共に増加したことを、明らかにした。この結果は、MT1−MMPが、網膜変性、特に第一にRPE細胞に影響すると考えられる欠陥に基づく疾患の多くの形態の病因において、共通の役割を果たす可能性があることを示唆する。
【0161】
RCSラットにおける網膜変性の病因におけるMT1−MMPの機能的関与を試験するために、2μl容量の(製造業者により供給された)MT1−MMPに対する抗体(Chemicon, Temecula, CA)を、未成熟のRCSラット(7日齢)の眼の網膜下に注射した。網膜変性の経過を、続く2ヶ月間追跡した。図15を参照すると、注射の1ヶ月後に観察された外核層の厚さにより決定されるように、網膜変性において50%までの顕著な遅延が示された。疑注射、または無関連(すなわち、X−アレスチン)抗体の注射は、この効果をもたらさなかった。この結果は、網膜変性の発症機序におけるMT1−MMPの関与をさらに増強し、これを、MT1−MMPの過剰発現が関与する網膜変性状態に対する、魅力ある治療標的としている。
【0162】
例7−AMDにおいて上方制御される遺伝子を過剰発現するAMDの動物モデル
AMDの病因の研究は、例えば候補の治療化合物およびアプローチを試験するのに有用な、適切で実用的な動物モデルの欠如によって妨げられている。この例は、本明細書においてAMDで上方制御されることが示された遺伝子を過剰発現する、マウスにおける、AMDの動物モデルの作成について記載する。好ましい態様において、過剰発現される遺伝子は、プロスタグランジンD2合成酵素(PD2S)、MT1−MMP、およびAMDP−3であり、それぞれ本明細書において配列番号2、15、および17と同定されたcDNA配列を含む。幾つかの態様において、遺伝子は条件付きで過剰発現され、幾つかの種類において、遺伝子は、動物の光受容体、RPE細胞、および/または脈絡膜細胞においてのみ、過剰発現される。
【0163】
上の例に記載されたように、MT1−MMPの過剰発現または過剰活性は、AMDを有するヒトおよびサルの眼、およびRPEに基づく遺伝性網膜変性を有するRCSラットにおいて、観察される。マウスなどの小型の実験室のげっ歯類において過剰発現の表現型をモデル化するために、例えばMT1−MMPを過剰発現するトランスジェニックマウスを作成する。特に好ましい態様は、これらの動物の完全に発達した網膜、および老化した網膜において、MT1−MMPを条件付きで過剰発現する特徴を有するトランスジェニックマウスモデルであり、これは、発達の胚形成期または出生早期の間にMT1−MMPを過剰発現することから生じ得る有害な効果を、有利に避けることができる。
【0164】
MT1−MMPを条件付きで過剰発現する動物モデルの作成のために、例えば、Tet Gene Expression System(BD Biosciences, Palo Alto, CA)などの、条件付き発現系を用いることができる。この系を用いて、1000倍またはそれ以上のトランス遺伝子の過剰発現が、ドキシサイクリンによる活性化の何時間かの間に報告されている(Gossen et al., 1995)。条件付き発現系は、MT1−MMPの過剰発現などの、遺伝子発現の時間的制御に有利であり、MT1−MMPトランス遺伝子の発現が、動物の寿命の選択された時点において、例えば、完全に発達した網膜を有する成人のみで、始まるようにすることができる。
【0165】
トランスジェニックマウスは、例えばヒトまたはマウスのMT1−MMPを過剰発現する、当業者に知られた技法を用いて作成される。任意の好適な過剰発現系を用いることができる。Tet系を用いる態様においてトランスジェニックマウスが作成され、これは、好適なプロモーターからのキメラのテトラサイクリン調節性トランス活性化因子rtTA(Tet−on)と、第2トランス遺伝子であって、例えば、トランス活性化因子に応答するTet応答性要素サイレントプロモーターに結合したヒトまたはマウスMT1−MMPcDNAを含む該トランス遺伝子とを発現する。こうして作成されたダブルトランスジェニックマウスへの、ドキシサイクリンの投与は、ドキシサイクリンによるトランス活性化因子の活性化と、続くサイレントプロモーターの結合および活性化を通して、例えばMT1−MMPなどのトランス遺伝子の過剰発現をもたらす。
【0166】
PD2S、MT1−MMPおよびAMDP−3などの目的遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウスの幾つかの態様において、トランス遺伝子の発現は、選択された細胞または組織型に限定される。分子生物学の分野で知られているように、トランス遺伝子発現の細胞部位は、組織または細胞特異的プロモーターの選択により制御することができる。従って、1つの好ましい態様において、トランスジェニックモデルは、MT1−MMPトランス遺伝子を、光受容体特異的様式において過剰発現する。この目的のための例示のプロモーターは、ウシのロドプシンプロモーター(Zack et al., 1991)であり、これは、例えば、トランスジェニックマウスモデルにおいて、HRG4(UNC119)の光受容体特異的発現に好適であることが示されている(Kobayashi et al., 2000)。トランスジェニックマウスの他の態様は、PRE細胞内で、MT1−MMP、PD2SまたはAMDP−3などのトランス遺伝子を選択的に過剰発現する。RPE細胞特異的発現は、例えば、RPE65(Boulanger et al, 2000)または、細胞内レチンアルデヒド結合タンパク質(Kennedy et al., 1998)をコードする遺伝子のプロモーター領域に由来するものなどの、RPE細胞特異的プロモーターにより導かれる。さらに他の態様は、脈絡膜の細胞型において、トランス遺伝子を選択的に発現するよう設計されており、例えば、内皮細胞内で内皮細胞特異的プロモーター(Cho et al., 2003)を用いる、またはメラノサイトおよびRPE細胞内で、色素細胞型(Giraldo et al, 2003)におけるチロシナーゼの発現を駆動するプロモーターを用いる、などである。
【0167】
トランスジェニックマウスは、分子生物学の当業者に知られた技法を用いた、トランス遺伝子含有ベクターの、卵母細胞への注入により作成される。(例えば、Kobayashi et al., 2000を参照)。選択されたトランス遺伝子の過剰発現は、トランスジェニック動物の適当な組織または細胞内で(例えば、網膜内で、または特に光受容体もしくはRPE細胞内で、または1つもしくは2つ以上の脈絡膜細胞型において)、当業者に知られており、上の例で示されている技法、例えばノーザン解析により、またはトランス遺伝子に特異的な、適当なプローブもしくはプライマーを用いるRT−PCRにより、適当な抗体を用いるタンパク質のウェスタンブロット解析により、および種々の免疫局在化技法により、確認される。
【0168】
トランスジェニック動物において、例えばこれらの動物の網膜および/またはRPE/脈絡膜において発達する病変は、多くの既知の技法により評価され、これには例えば、網膜の眼底検査による試験、網膜電図写真(ERG)検査、および動物の寿命を通して選択された間隔において、光学顕微鏡および電子顕微鏡検査により、ドキシサイクリンの投与によるトランス遺伝子の活性化の前および後において、例えば、日齢が5、10、15、20、25および30日、(ドキシサイクリンの投与を30日齢において)、およびドキシサイクリンによる活性化後の日数が1、2、5、10、20、30、60、80、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、520、540、560、580、600、620、640、660、680および700日において、評価される。AMD関連の病変、例えば、リポフスチン蓄積、ブラッフ膜の肥厚化、基底層および線形沈着物(basal laminar and linear deposit)、ドルーゼン形成、新生血管形成、CNV膜形成、光受容体/RPE萎縮または脈絡膜萎縮は、当分野に知られた標準の技法によりモニタリングする。
【0169】
例8−食作用関連および/またはAMD関連遺伝子の多型変異体を発現するAMDの動物モデル
この例は、食作用関連またはAMD関連遺伝子の1つまたは2つ以上の多型変異体を発現する、AMDおよび他の網膜変性のマウスモデルの作成について記載する。
上に示したように、MT1−MMPを含む遺伝子のある多型変異体は、AMDを有する患者のDNAにおいてより高い頻度で見出される。ヒトの状態をモデル化するために、例えばMT1−MMPなどのヒト遺伝子の多型および野生型を発現するトランスジェニックマウスモデルを、以下のように作成する。最初に、マウスMT1−MMP遺伝子のベースライン状態を好ましくは決定する。例えば、ヒトMT1−MMP DNA配列のD273N多型の位置に位置する野生型のアミノ酸残基は、ヒトおよびマウスにおいて保全されることが決定された。この残基における多型は、マウスにおいては示されていない(マウスゲノムプロジェクト)。野生型残基の存在は、トランスジェニック作成に用いられるマウスにおいて、尾の生検、DNA単離、および遺伝子型決定により確認される。
【0170】
MT1−MMPなどの目的ヒト遺伝子の多型および野生型変異体をそれぞれ発現する、多型および対照(野生型)トランスジェニックマウスモデルを作成するために、ヒトの多型変異体および野生型MT1−MMP残基を含むcDNAを、所望の組織または細胞においてトランス遺伝子の発現を駆動するのに好適なプロモーター配列に結合する。身体全体でのトランス遺伝子の発現のための、例示のプロモーター配列は、例えば、ヒトゲノムDNAからPCR増幅され、遺伝子の堅固な発現を駆動することが以前に決定された(Lohi et al., 2000)、385bpのヒトMT1−MMPプロモーター配列である。トランス遺伝子の同定を支援するために、幾つかの態様において、MT1−MMP遺伝子は、緑色蛍光タンパク質(GFP)融合タンパク質として、好適なベクターコンストラクト、例えば、BioSignalベクター(InVitrogen, Carlsbad, CA)を用いて発現される。他の態様では、トランス遺伝子が、上記のように組織または細胞型特異的プロモーターにより駆動されて、特定の組織または細胞型において選択的に発現される。
【0171】
トランスジェニックマウスは、既知の技法を用いて、ベクターの卵母細胞注射により作成される。例えばMT1−MMPなどの、ヒト多型および野生型変異体の発現は、トランスジェニック体においては例えば対立遺伝子特異的プライマーを用いたRT−PCRにより、そしてGFP融合タンパク質を発現するバージョンにおいてはGFP発現の解析により、例えば、蛍光顕微鏡法、ウェスタンブロッティング解析、または免疫検出によって確認される。トランスジェニック体は、上の例7において記載したように、AMD関連病変の存在について解析される。
AMDおよび他の網膜変性の動物モデルの他の態様は、AMDと既知の関連を有する少なくとも2つの遺伝子の多型変異体を発現する、ポリトランスジェニックマウスである。好ましい態様において、動物は、食作用および/またはAMDと相関を示す少なくとも1つの他の多型遺伝子変異体と組み合わせて、MT1−MMPの多型変異体を発現する。
【0172】
動物モデルのポリトランスジェニック版は、AMDの複雑な多数遺伝子理論に基づいており、この理論は、一般に「多型性」と呼ばれる多数遺伝子における僅かな突然変異が協働して、疾患の原因となるか、または疾患への感受性を生成することを仮定する。従って、AMDの完全な表現型は、少なくとも2つ、そしておそらくは多数の病因遺伝子が、適当な多型性の組合せと協働することを要求すると考えられる。原因となる遺伝子は、「集団的に(collectively)」(例えば、共通の機能によって関連する場合は、例えばOS食作用の経路における関与)、または「累積的に」、例えば、機能によっては関連していないが、各々がAMDを導く病原性のプロセスの別々の側面において関わって寄与することにより、AMDの発症方向にスケールを傾けることができる。
【0173】
AMDのポリトランスジェニックモデルの好ましい態様は、MT1−MMPの第1の多型変異体および、少なくとも1つの他の食作用関連および/またはAMD関連遺伝子の少なくとも第2の多型変異体を共同発現する、ポリトランスジェニック動物である。AMDと相関する多型変異体を示す任意の他の第2またはそれ以上の遺伝子は、MT1−MMPの任意の多型変異体と組み合わせることができる。AMDと相関する変異体を有することが現在報告されている遺伝子を、表5にリストする。
【0174】
【表7】
【0175】
従って、好ましい態様の1つの形態において、MT1−MMPの多型形態は、ABCR、アポリポタンパク質E、C−Cケモカイン受容体2、シスタチンC、ヘミセンチン/FIBL−6、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ、C−Cケモカインリガンド/単球走化性因子タンパク質1、およびパラオキソナーゼを含む、少なくとも1つの他の遺伝子の多型形態と組み合わされる。
同様に、AMDの「集団(collective)」病因論を反映するポリトランスジェニックモデルは、重要な機能(例えばOS食作用)のメカニズムにおける既知の関与を有する遺伝子の多型変異体と、MT1−MMP(本明細書に開示された、実証された食作用関連遺伝子;野生型cDNA配列:配列番号15;野生型アミノ酸配列:配列番号100)の多型変異体を組み合わせる。かかる遺伝子は、例えば、本明細書に開示された(上の表1および2を参照)、食作用関連遺伝子PHG−1〜PHG−15(配列番号1〜14)並びにAMDP−2および3(配列番号16および17)の多型変異体を含む。
【0176】
モデル作成のために、選択された遺伝子の報告された多型変異体(複数含む)を含むDNAを、AMDの患者および罹患していない年齢を整合させた個人(例えば、上の例5においてMT1−MMPについて記載したように)のDNAから、適当なアンプリマーを用いて最初に単離し、これを、報告された多型、例えば、ABCR(すなわち、D2177N、G1961E);マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(すなわち、V47A);アポリポタンパク質E(すなわち、エプシロン2);シスタチンC(すなわち、AlaおよびThr変化を含むAおよびB対立遺伝子);およびパラオキソナーゼ(すなわち、Q192R,L54M)の存在を確認するために用いる。遺伝子型決定および突然変異解析は、確立された方法を用いて行う(例えば、Mashima et al., 1994を参照)。多型とAMDとの関連を確認し、任意の検出されたAMDとの相関の統計的有意性を、例えばカイ二乗検定により決定する。AMDとの関連を示す多型遺伝子については、次にMT1−MMPにおける多型の共出現について確認する。
【0177】
例えばAMDP−3などの選択された遺伝子の多型変異体を発現するトランスジェニックマウスは、上に一般に記載されたように初めに作成される。ポリトランスジェニックモデルを作成するために、例えばMT1−MMPなどの目的の第1遺伝子の多型変異体を発現するトランスジェニックマウスを、AMDP−3などの目的の第2の食作用/AMD関連遺伝子の多型変異体を発現するトランスジェニックマウスと交配させる。種々のトランス遺伝子の発現の確認は、例えば網膜、RPEまたは脈絡膜などの目的組織において、例えばRNAの対立遺伝子特異的RT−PCRおよび/または目的の多型トランス遺伝子タンパク質の免疫検出などの、当分野に標準の技法により、例えばタンパク質の特定の多型形態に特異的な抗体を用いて行う。代替的に、特異的なタグタンパク質配列がトランス遺伝子タンパク質に付着している態様においては、タグ配列の同定を用いて、トランスジェニック多型変異体タンパク質の同定および、これの野生型形態からの識別を促進する。ポリトランスジェニックマウスは、上記したように、AMD関連変化の証拠について解析する。
【0178】
引用文献
本明細書に引用した文献を便宜上以下にリストし、これらはその全体を、本明細書に参照として組み込む。
【0179】
【表8】
【0180】
【表9】
【0181】
【表10】
【0182】
【表11】
【0183】
【表12】
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】二重のCHANGEアレイパネルであって、本発明の態様に従って、各々が、「+」および「−」プローブ(プローブ1および2)とハイブリダイズした96個の遺伝子(スポット)を含む、前記アレイを示す写真である。上向きおよび下向きの矢印は、プローブ1vsプローブ2とハイブリダイズした場合に、それぞれ発現の増加および減少を示す遺伝子を示す。
【図2】上の図は、培養されたRPE細胞による桿体外節(ROS)食作用のバイタルアッセイの模式図である。下の図は、本発明の態様により、ROSの供給後に食作用を受けている、生きているBPEI−1 RPE細胞の白黒写真である。蛍光顕微鏡で観察すると、RPE細胞のリソソームはスルホロダミン(SR)染色のために赤く見え、FITC染色されたROSは緑色に見える。食作用のその後のステージの間、ROSは細胞表面に結合し、次にRPE細胞により摂取され、初めにファゴソーム(貪食胞)となり、次にリソソームと融合してファゴリソソーム(黄−オレンジ色の蛍光により識別される)となる。
【0185】
【図3】本発明の1つの態様により、FITC−ROSを与えた後の指定時点における、生きているBPEI−1 RPE細胞の大規模培養物中に見られる、ROS食作用の異なるステージを示す、一連の写真である。上の4つの図は、供給後の初めの9〜10時間の間の、ROSの細胞表面への大規模な結合を示す。下の4つの図は、ROS供給のおよそ11時間後に始まる、同調したROS摂取およびファゴリソソームの形成を示す。
【図4】本発明の1つの態様により、CHANGEにより発見された、RPE細胞により発現された16個の食作用関連遺伝子(「食作用遺伝子」)のmRNA発現プロファイルを示すグラフである。食作用遺伝子の発現レベルは、in vitroでのROS食作用の経過の間の選択された時点において、RPE細胞内で変化する。食作用遺伝子(PHG−1〜16)の識別は、上の表1に提供される。
【0186】
【図5】本発明の1つの態様により、網膜におけるAMD関連の変化について、ヒト提供者の眼を分類するために用いたグレード付けシステムを示す3枚の写真である。示されたグレード:0〜+1、ブラッフ膜の最少の肥厚化;+2〜+3、複数の小〜中サイズのドルーゼンと、肥厚化したブラッフ膜;+3〜+4、大きく合着したドルーゼン。
【図6】ROS供給の4時間後および13時間後における、培養されたRPE細胞による食作用の間の、MT1−MMPおよびアクチンmRNAの発現を示す、2つのノーザンブロットおよびグラフを示す図である。4時間後に発現の減少および、13時間後に発現の増加が見られ、CHANGEにより得られた結果が確認された。各レーンに存在するRNAの量は、MT1−MMPハイブリダイゼーションシグナルを正規化するために用いたアクチンハイブリダイゼーションにより推定される。
【0187】
【図7】本発明の1つの態様により、正常なラット網膜における、MT1−MMP mRNAの発現の変化する(日周)パターンを示すグラフである。最高レベルのMT1−MMP発現は、in vivoでの最大の脱離および光受容体(OS)食作用の約1〜2時間前である、6AMに起こる。
【図8】本発明の1つの態様により、1日の種々の時点において固定され、抗MT1−MMP抗体で免疫染色された、正常ラット網膜の免疫蛍光染色を示す、8枚の顕微鏡写真(位相差および蛍光)である。OSおよびRPEに存在するMT1−MMPタンパク質の免疫蛍光レベルには、日周変化が見られ、最高レベルのシグナルは6AMに観察され、10AMには少し低く、そして10PMには全くシグナルがなく、これは図7に示されたMT1−MMP mRNA発現の日周パターンと整合する。
【0188】
【図9】抗MT1−MMP抗体で染色されたヒト網膜の切片の蛍光顕微鏡写真であり、本発明の1つの態様により、桿体および錐体光受容体のOSにおける、並びにRPE細胞内のファゴソームにおける、MT1−MMPタンパク質の局在を示す。
【図10】本発明の1つの態様により、培養物中のRPE細胞によるROS食作用におよぼす、抗MT1−MMP抗体の効果を示す3枚の蛍光顕微鏡写真である。供給されたROSの摂取は、抗体でインキュベートされない対照細胞内(B)のサイトプラズマおよび、非関連(X−アレスチン)抗体でインキュベートされた細胞内(C)のサイトプラズマに顕著であり、一方、ROS結合および食作用は、ROSを供給する前に抗MT1−MMP抗体でインキュベートされた細胞内(A)では起こらない。
【0189】
【図11】正常ラット網膜のH&E染色したパラフィン切片の4枚の顕微鏡写真であり、抗MT1−MMP抗体の網膜下注射の、網膜外側の構造に及ぼす効果を示す。抑制されたOS食作用と整合して、OSの顕著な延長と異常な配置が、抗MT1−MMP抗体を注射した左眼、O.S.に観察される(A、B)。対照的に、同じ動物の注射していない右目(O.D.)では、網膜の構造は正常である(C)。非関連(X−アレスチン)抗体の網膜下注射は、効果を示さない(D)。
【図12】AMDに罹患した対象のRPE/脈絡膜および網膜における、MT1−MMP mRNA発現レベルのノーザンブロット解析(A)を、正常な対照(N)と比較して示した図である。罹患した網膜において、MT1−MMP mRNAレベルの5.5倍の増加が見られ、同時にこの対象のRPE/脈絡膜において、1.2倍の増加が見られた。ノーザンブロットハイブリダイゼーションシグナルは、各レーンに存在するRNAの量に関して、アクチンハイブリダイゼーションを参照として用いて正規化されている。
【0190】
【図13】AMDに罹患した対象の網膜における、MT1−MMP mRNAの発現レベルと、AMD関連病変の重篤度の増加(グレード0〜+4の変化)の正の相関を示すグラフである。
【図14】ヒトMT1−MMPのエクソン5を含む285bpのPCR産物の核酸配列を示す図である。コドン259および273の位置は下線で示されている。AMDおよび黄班変性患者に見出されるP259PおよびD273Nの多型の変化を示す塩基は、太字で示されている。
【図15】出生後7日に抗MT1−MMP抗体を網膜下に注射され、30日齢で固定されたRCSラットにおける、遺伝性網膜変性の遅延を示す、2枚の顕微鏡写真である。網膜変性の遅延は、注射された眼(A)の外核層に残留する光受容体核数の高い値(約2倍)を、同じ動物の注射なしの対照の眼(B)の比較可能な中央領域と比べることにより、証拠付けられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を、遅延または逆転させるための方法であって、網膜もしくは脈絡膜変性疾患もしくは状態を有する、またはこれを発症するリスクのある対象の網膜または脈絡膜細胞を、AMDP関連または食作用関連遺伝子の発現または活性を調節する剤と接触させることを含む、前記方法。
【請求項2】
AMDP関連または食作用関連遺伝子が、ヒト未知PHG−1;プロスタグランジンD2合成酵素;ミエリン塩基性タンパク質;ヒト未知PHG−4;ヒト未知PHG−5;ヒトピーナッツ様2/セプチン4;コアクトシン様1;クラステリン;カゼインキナーゼ1エプシロン;フェリチン重ポリペプチド1;メタルギジン;ヒト未知PHG−13;レチンアルデヒド結合タンパク質1;アクチンガンマ1;膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP);SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質;およびヒト未知AMDP−3からなる群から選択され、前記AMDP関連または食作用関連遺伝子が、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、および17と同定されたそれぞれのヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
AMDP関連または食作用関連遺伝子が、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)であり、前記遺伝子が配列番号15で表わされるヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
網膜または脈絡膜変性疾患または状態が、加齢黄班変性(AMD)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
対象がAMDを患っている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
対象が、AMDを発症するリスクを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
方法が、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を遅延させる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
方法が、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を逆転させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
細胞が、光受容体、RPE細胞、ミュラー細胞、または、内皮細胞、平滑筋細胞、白血球、マクロファージ、メラノサイトおよび繊維芽細胞からなる群から選択される脈絡膜の細胞型である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
AMDP関連または食作用関連遺伝子がMT1−MMPであり、前記MT1−MMPが細胞内に位置する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
AMDP関連または食作用関連遺伝子がMT1−MMPであり、前記MT1−MMPが細胞外基質に位置する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
細胞外基質が、光受容体間マトリックスである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
剤が、AMDP関連または食作用関連遺伝子の核酸またはアミノ酸配列の発現を下方制御し、前記遺伝子が、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素およびAMDP−3からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
剤が、リボザイム、アンチセンスRNA、干渉RNA(RNAi)分子および三重らせん形成性分子からなる群から選択されるオリゴヌクレオチドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
剤が、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3タンパク質もしくはペプチドに特異的に結合する抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
抗体が、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3の少なくとも1つの生物活性を中和する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
AMDP関連または食作用関連遺伝子がMT1−MMPであり、生物活性が、プロゲラチナーゼAの活性化または細胞外基質の分解である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
剤が小分子である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
対象の、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を発症するリスクを決定する方法であって、該方法が、前記対象の核酸配列を、少なくとも1つの食作用関連またはAMDP関連遺伝子中の少なくとも1つの多型の存在についてスクリーニングすることを含み、ここで少なくとも1つの前記遺伝子中の多型の存在が、前記対象が前記多型のない対象より、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を発症するより高いリスクを有することを示す、前記方法。
【請求項20】
食作用関連遺伝子が、配列番号1〜17からなる群から選択される核酸配列を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
AMDP関連遺伝子が、配列番号2、9、10、16および17からなる群から選択される核酸配列を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
多型が、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の、イントロン、エクソンまたはプロモーター配列内にある、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
多型が、配列番号18および19;20および21;22および23;24および25;26および27;28および29;30および31;32および33;34および35;36および37;38および39;40および41;42および43;44および45;46および47;48および49;50および51;52および53;54および55;56および57;並びに57および58からなる群から選択される核酸配列を有するアンプリマー対を用いてPCRにより増幅可能な、ヒトMT1−MMP遺伝子の領域内にある、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
多型が、ヒトMT1−MMP遺伝子のエクソン5の285bp断片内にある、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
多型が、D273Nミスセンス多型である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
多型が、P259P同義多型である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を処置する方法であって、前記対象の網膜または脈絡膜細胞を、AMDP関連または食作用関連遺伝子の核酸またはアミノ酸配列の発現を下方制御または阻害する剤をコードする核酸を含むベクターと接触させることを含む、前記方法。
【請求項28】
AMDP関連または食作用関連遺伝子が、プロスタグランジンD2合成酵素、MT1−MMP、およびAMDP−3からなる群から選択され、前記遺伝子が、配列番号2、15および17で表わされるそれぞれの核酸配列を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
剤が、リボザイム、アンチセンスRNA、または干渉RNA(RNAi)分子からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を処置する方法であって、前記対象の網膜または脈絡膜細胞を、AMDP関連または食作用関連タンパク質の野生型または多型変異体をコードする核酸を含むベクターと接触させることを含む、前記方法。
【請求項31】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態の予防または処置のための組成物であって、AMDP関連または食作用関連タンパク質の発現または活性をブロックする剤を含む、前記組成物。
【請求項32】
タンパク質が、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3である、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態の予防または処置のための組成物であって、AMDP関連または食作用関連タンパク質の野生型または多型形態をコードする核酸を含むベクターを含む、前記組成物。
【請求項34】
AMDP関連または食作用関連タンパク質が、MT1−MMPである、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
単離された核酸コンストラクトを含む非ヒトトランスジェニック動物であって、前記コンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3を過剰発現させる、前記トランスジェニック動物。
【請求項36】
過剰発現が、条件付きで制御される、請求項35に記載のトランスジェニック動物。
【請求項37】
細胞型が、光受容体、RPE細胞およびミュラー細胞からなる群から選択される網膜細胞型か、または、内皮細胞、平滑筋細胞、白血球、マクロファージ、メラノサイト、および繊維芽細胞からなる群から選択される脈絡膜細胞型である、請求項36に記載のトランスジェニック動物。
【請求項38】
単離された核酸コンストラクトを含む非ヒトトランスジェニック動物であって、前記コンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に、AMDP関連または食作用関連核酸および/またはタンパク質の多型変異体を発現させる、前記トランスジェニック動物。
【請求項39】
多型変異体が、正常な対照集団と比べて、AMDを有するヒトの集団における発生率の増加に相関する、請求項38に記載のトランスジェニック動物。
【請求項40】
少なくとも第1の単離核酸コンストラクトおよび少なくとも第2の単離核酸コンストラクトを含む非ヒトポリトランスジェニック動物であって、前記第1のコンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に第1遺伝子の第1多型変異体を発現させ、前記第1変異体が、正常な対照集団と比べて、AMDを有するヒトの集団において増加した発生率を有し;前記第2の核酸コンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に第2遺伝子の第2多型変異体を発現させ、前記第2変異体が、正常な対照集団と比べて、AMDを有するヒトの集団において増加した発生率を有するか、またはRPE食作用と関連を有する、前記ポリトランスジェニック動物。
【請求項41】
第1遺伝子がMT1−MMPである、請求項40に記載のポリトランスジェニック動物。
【請求項42】
第2遺伝子が、ABCR、アポリポタンパク質E、C−Cケモカイン受容体2、シスタチンC、ヘミセンチン/FIBL−6、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ、C−Cケモカインリガンド/単球走化性因子タンパク質1、およびパラオキソナーゼからなる群から選択される、請求項41に記載のポリトランスジェニック動物。
【請求項43】
第2遺伝子が、RPE食作用と関連し、ヒト未知PHG−1、プロスタグランジンD2合成酵素、ミエリン塩基性タンパク質、ヒト未知PHG−4、ヒト未知PHG−5、ヒトピーナッツ様2/セプチン4、コアクトシン様1、クラステリン、カゼインキナーゼ1エプシロン、フェリチン重ポリペプチド1、メタルギジン、ヒト未知PHG−13、レチンアルデヒド結合タンパク質1、アクチンガンマ1、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質、およびヒト未知AMDP−3からなる群から選択される、請求項41に記載のポリトランスジェニック動物。
【請求項44】
動物がマウスである、請求項35、38または40に記載のトランスジェニック動物。
【請求項45】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号1を含む、単離された核酸。
【請求項46】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号4を含む、単離された核酸。
【請求項47】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号5を含む、単離された核酸。
【請求項48】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号12を含む、単離された核酸。
【請求項49】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号17を含む、単離された核酸。
【請求項50】
複数の単離されたオリゴヌクレオチド配列を含む遺伝子アレイであって、前記配列は、天然のヒトAMD関連または食作用関連遺伝子のイントロン、エクソンまたはプロモーター配列内に位置し、ここで前記アレイ内で前記オリゴヌクレオチド配列により表わされる遺伝子が、配列番号1〜17および配列番号62〜69で表わされる核酸配列を含むcDNAをコードする、前記遺伝子アレイ。
【請求項51】
少なくとも1つの遺伝子がMT1−MMPであり、オリゴヌクレオチド配列が、MT1−MMP遺伝子配列のP259PまたはD273N多型変異体を含む、請求項50に記載の遺伝子アレイ。
【請求項52】
ABCR(D217N;G1961E)、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(V47A)、アポリポタンパク質E(C130、R176CおよびC130R、R176)、シスタチンC(A25T)およびパラオキソナーゼ(Q192R、L54M)からなる群から選択されるAMD関連遺伝子の少なくとも1つの多型変異体を含む少なくとも1つのオリゴヌクレオチド配列をさらに含む、請求項51に記載の遺伝子アレイ。
【請求項1】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を、遅延または逆転させるための方法であって、網膜もしくは脈絡膜変性疾患もしくは状態を有する、またはこれを発症するリスクのある対象の網膜または脈絡膜細胞を、AMDP関連または食作用関連遺伝子の発現または活性を調節する剤と接触させることを含む、前記方法。
【請求項2】
AMDP関連または食作用関連遺伝子が、ヒト未知PHG−1;プロスタグランジンD2合成酵素;ミエリン塩基性タンパク質;ヒト未知PHG−4;ヒト未知PHG−5;ヒトピーナッツ様2/セプチン4;コアクトシン様1;クラステリン;カゼインキナーゼ1エプシロン;フェリチン重ポリペプチド1;メタルギジン;ヒト未知PHG−13;レチンアルデヒド結合タンパク質1;アクチンガンマ1;膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP);SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質;およびヒト未知AMDP−3からなる群から選択され、前記AMDP関連または食作用関連遺伝子が、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、および17と同定されたそれぞれのヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
AMDP関連または食作用関連遺伝子が、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1−MMP)であり、前記遺伝子が配列番号15で表わされるヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
網膜または脈絡膜変性疾患または状態が、加齢黄班変性(AMD)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
対象がAMDを患っている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
対象が、AMDを発症するリスクを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
方法が、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を遅延させる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
方法が、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を逆転させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
細胞が、光受容体、RPE細胞、ミュラー細胞、または、内皮細胞、平滑筋細胞、白血球、マクロファージ、メラノサイトおよび繊維芽細胞からなる群から選択される脈絡膜の細胞型である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
AMDP関連または食作用関連遺伝子がMT1−MMPであり、前記MT1−MMPが細胞内に位置する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
AMDP関連または食作用関連遺伝子がMT1−MMPであり、前記MT1−MMPが細胞外基質に位置する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
細胞外基質が、光受容体間マトリックスである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
剤が、AMDP関連または食作用関連遺伝子の核酸またはアミノ酸配列の発現を下方制御し、前記遺伝子が、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素およびAMDP−3からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
剤が、リボザイム、アンチセンスRNA、干渉RNA(RNAi)分子および三重らせん形成性分子からなる群から選択されるオリゴヌクレオチドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
剤が、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3タンパク質もしくはペプチドに特異的に結合する抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
抗体が、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3の少なくとも1つの生物活性を中和する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
AMDP関連または食作用関連遺伝子がMT1−MMPであり、生物活性が、プロゲラチナーゼAの活性化または細胞外基質の分解である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
剤が小分子である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
対象の、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を発症するリスクを決定する方法であって、該方法が、前記対象の核酸配列を、少なくとも1つの食作用関連またはAMDP関連遺伝子中の少なくとも1つの多型の存在についてスクリーニングすることを含み、ここで少なくとも1つの前記遺伝子中の多型の存在が、前記対象が前記多型のない対象より、網膜または脈絡膜変性疾患または状態を発症するより高いリスクを有することを示す、前記方法。
【請求項20】
食作用関連遺伝子が、配列番号1〜17からなる群から選択される核酸配列を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
AMDP関連遺伝子が、配列番号2、9、10、16および17からなる群から選択される核酸配列を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
多型が、食作用関連またはAMDP関連遺伝子の、イントロン、エクソンまたはプロモーター配列内にある、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
多型が、配列番号18および19;20および21;22および23;24および25;26および27;28および29;30および31;32および33;34および35;36および37;38および39;40および41;42および43;44および45;46および47;48および49;50および51;52および53;54および55;56および57;並びに57および58からなる群から選択される核酸配列を有するアンプリマー対を用いてPCRにより増幅可能な、ヒトMT1−MMP遺伝子の領域内にある、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
多型が、ヒトMT1−MMP遺伝子のエクソン5の285bp断片内にある、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
多型が、D273Nミスセンス多型である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
多型が、P259P同義多型である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を処置する方法であって、前記対象の網膜または脈絡膜細胞を、AMDP関連または食作用関連遺伝子の核酸またはアミノ酸配列の発現を下方制御または阻害する剤をコードする核酸を含むベクターと接触させることを含む、前記方法。
【請求項28】
AMDP関連または食作用関連遺伝子が、プロスタグランジンD2合成酵素、MT1−MMP、およびAMDP−3からなる群から選択され、前記遺伝子が、配列番号2、15および17で表わされるそれぞれの核酸配列を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
剤が、リボザイム、アンチセンスRNA、または干渉RNA(RNAi)分子からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態を処置する方法であって、前記対象の網膜または脈絡膜細胞を、AMDP関連または食作用関連タンパク質の野生型または多型変異体をコードする核酸を含むベクターと接触させることを含む、前記方法。
【請求項31】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態の予防または処置のための組成物であって、AMDP関連または食作用関連タンパク質の発現または活性をブロックする剤を含む、前記組成物。
【請求項32】
タンパク質が、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3である、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
対象における網膜または脈絡膜変性疾患または状態の予防または処置のための組成物であって、AMDP関連または食作用関連タンパク質の野生型または多型形態をコードする核酸を含むベクターを含む、前記組成物。
【請求項34】
AMDP関連または食作用関連タンパク質が、MT1−MMPである、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
単離された核酸コンストラクトを含む非ヒトトランスジェニック動物であって、前記コンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に、MT1−MMP、プロスタグランジンD2合成酵素またはAMDP−3を過剰発現させる、前記トランスジェニック動物。
【請求項36】
過剰発現が、条件付きで制御される、請求項35に記載のトランスジェニック動物。
【請求項37】
細胞型が、光受容体、RPE細胞およびミュラー細胞からなる群から選択される網膜細胞型か、または、内皮細胞、平滑筋細胞、白血球、マクロファージ、メラノサイト、および繊維芽細胞からなる群から選択される脈絡膜細胞型である、請求項36に記載のトランスジェニック動物。
【請求項38】
単離された核酸コンストラクトを含む非ヒトトランスジェニック動物であって、前記コンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に、AMDP関連または食作用関連核酸および/またはタンパク質の多型変異体を発現させる、前記トランスジェニック動物。
【請求項39】
多型変異体が、正常な対照集団と比べて、AMDを有するヒトの集団における発生率の増加に相関する、請求項38に記載のトランスジェニック動物。
【請求項40】
少なくとも第1の単離核酸コンストラクトおよび少なくとも第2の単離核酸コンストラクトを含む非ヒトポリトランスジェニック動物であって、前記第1のコンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に第1遺伝子の第1多型変異体を発現させ、前記第1変異体が、正常な対照集団と比べて、AMDを有するヒトの集団において増加した発生率を有し;前記第2の核酸コンストラクトが、前記動物の少なくとも1つの細胞型に第2遺伝子の第2多型変異体を発現させ、前記第2変異体が、正常な対照集団と比べて、AMDを有するヒトの集団において増加した発生率を有するか、またはRPE食作用と関連を有する、前記ポリトランスジェニック動物。
【請求項41】
第1遺伝子がMT1−MMPである、請求項40に記載のポリトランスジェニック動物。
【請求項42】
第2遺伝子が、ABCR、アポリポタンパク質E、C−Cケモカイン受容体2、シスタチンC、ヘミセンチン/FIBL−6、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ、C−Cケモカインリガンド/単球走化性因子タンパク質1、およびパラオキソナーゼからなる群から選択される、請求項41に記載のポリトランスジェニック動物。
【請求項43】
第2遺伝子が、RPE食作用と関連し、ヒト未知PHG−1、プロスタグランジンD2合成酵素、ミエリン塩基性タンパク質、ヒト未知PHG−4、ヒト未知PHG−5、ヒトピーナッツ様2/セプチン4、コアクトシン様1、クラステリン、カゼインキナーゼ1エプシロン、フェリチン重ポリペプチド1、メタルギジン、ヒト未知PHG−13、レチンアルデヒド結合タンパク質1、アクチンガンマ1、SWI/SNF関連/OSA−1核タンパク質、およびヒト未知AMDP−3からなる群から選択される、請求項41に記載のポリトランスジェニック動物。
【請求項44】
動物がマウスである、請求項35、38または40に記載のトランスジェニック動物。
【請求項45】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号1を含む、単離された核酸。
【請求項46】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号4を含む、単離された核酸。
【請求項47】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号5を含む、単離された核酸。
【請求項48】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号12を含む、単離された核酸。
【請求項49】
食作用関連タンパク質をコードし、配列番号17を含む、単離された核酸。
【請求項50】
複数の単離されたオリゴヌクレオチド配列を含む遺伝子アレイであって、前記配列は、天然のヒトAMD関連または食作用関連遺伝子のイントロン、エクソンまたはプロモーター配列内に位置し、ここで前記アレイ内で前記オリゴヌクレオチド配列により表わされる遺伝子が、配列番号1〜17および配列番号62〜69で表わされる核酸配列を含むcDNAをコードする、前記遺伝子アレイ。
【請求項51】
少なくとも1つの遺伝子がMT1−MMPであり、オリゴヌクレオチド配列が、MT1−MMP遺伝子配列のP259PまたはD273N多型変異体を含む、請求項50に記載の遺伝子アレイ。
【請求項52】
ABCR(D217N;G1961E)、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(V47A)、アポリポタンパク質E(C130、R176CおよびC130R、R176)、シスタチンC(A25T)およびパラオキソナーゼ(Q192R、L54M)からなる群から選択されるAMD関連遺伝子の少なくとも1つの多型変異体を含む少なくとも1つのオリゴヌクレオチド配列をさらに含む、請求項51に記載の遺伝子アレイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2007−528371(P2007−528371A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552338(P2006−552338)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/003880
【国際公開番号】WO2005/077006
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(506336647)
【出願人】(506336935)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/003880
【国際公開番号】WO2005/077006
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(506336647)
【出願人】(506336935)
【Fターム(参考)】
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