説明

網膜障害の治療用医薬及びその使用

【課題】 中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)又は加齢黄斑変性症等の網膜障害を改善、又は治癒するため、再発の可能性の非常に少ない治療剤とその使用及び治療方法を提供することを目的とする。特に、レーザーによる治療方法を用いることが出来ない場合に有効な治療薬を提供する。
【解決手段】 網膜障害の治療用医薬を得るために抗真菌性物質を使用することを特徴とする。
また、抗真菌性物質を有効成分として含有することを特徴とする網膜障害の治療用医薬を経口(内服)薬または注射薬などとして使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜障害を改善するための治療用医薬及びその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
網膜内浮腫は視力鋭敏性や視力低下を引き起こす。浮腫性網膜障害のなかで、中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)は非常によく知られている。これは、網膜の黄斑部に脈絡膜から出た漿液が溜まり、網膜が浮き上がってしまうによって生じる。すなわち、局所性の網膜剥離が起こる。この様な網膜剥離が起こると正常な像を結ぶことができなくなり、視野の中心部が暗くなったり、歪みが生じてしまう。この網膜症は、自然に治ることもあるが、再発しやすいことが知られている。また、腫れを長期間放置すると治療しても視力が戻らなくなること、像の歪みによる強度の乱視になることがある。浮腫の発生は肉体的又は精神的なストレスが誘因になるともいわれているが、その原因はわかっていない。
【0003】
一方、中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)とよく似た症状を示す加齢黄斑変性症は物を見ようとする中心の一部に見にくい場所があらわれ、やがて物がゆがんで見えるようになる。加齢黄斑変性症は滲出型と萎縮型に分けられる。萎縮型は網膜色素上皮細胞が萎縮していき、長時間を経て視力が低下していく。一方、滲出型は漿液が溜まり、黄斑に障害が生じる。近年、高血圧や心臓病、喫煙、遺伝等との関連がいわれているが、中心性漿液性網脈絡膜能(中心性網膜症)と同様にその原因は解明されていない。
【0004】
中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)の治療法としては、一般に消炎薬や血管増強薬による薬物療法やレーザー治療が行われるが、多くの場合に再発が認められる。薬物療法では、消炎薬を服用して、黄斑部の腫れをとることが行われるが、治癒するまでに最低でも3か月はかかり、50〜60%の人に再発が起こるといわれている。一方、レーザー治療では、黄斑部に腫れをもたらす原因となる網膜色素上皮の障害部位を、レーザーで焼くという方法である。レーザー治療の場合には再発は少ないといわれるが、網膜色素上皮をレーザーで焼くわけであるから、色素細胞は破壊される。また、障害部位が、黄斑部の中心窩に近い場合には、レーザーによる治療を行うことはできない。一方、加齢黄斑変性症の場合、萎縮型の加齢黄斑変性には、よい治療法がない。滲出型ではレーザー光線で病巣を固める光凝固治療、薬による治療方法等が行なわれるが、確実な治療方法はないようである。従って、再発することのない、安全な治療方法が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、中心性網膜症又は加齢黄斑変性症等の網膜障害を改善、又は治癒するため、再発の可能性の非常に少ない治療剤とその使用及び治療方法を提供することを目的とする。特に、レーザーによる治療方法を用いることが出来ない場合に有効な治療薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
多くの抗真菌性物質が各種白癬症やカンジダ症などの真菌症に有効であることは知られているが、網膜障害の治療効果を有することはこれまで全く知られていなかった。本発明者は自身の浮腫性の網膜障害、中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)又は滲出型加齢黄斑変性症を約2年間詳しく観察したところ、症状が周期的(4−6ヶ月周期)に酷くなったり、回復したりを繰り返すことが分かった。さらに、4−6月と9−10月が最も症状が重く、寒い季節の間は比較的症状の軽いことが分かった。この様なことから、「この症状は体内のカビ、すなわち真菌によって引き起こされるものである」との仮説をたて、構造の全く異なる2種の抗真菌性物質を摂取したところ、いずれも明確な治療効果を示し、完治したことから、本発明に至ったものである。
【0007】
本発明は、抗真菌性物質を有効成分として含有することを特徴とする網膜障害の治療用医薬であることを特徴とする。
【0008】
上記網膜障害が中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)又は加齢黄斑変性症であることを特徴とする。
【0009】
上記抗真菌性物質がポリエンマクロライド系;イミダゾール系、トリアゾール系等のアゾール系;アリルアミン系;フッ化ピリミジン系;グリセオフルビン系;キャンディン系等の抗真菌剤の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0010】
本発明は、網膜障害の改善に対して、抗真菌性物質の使用を提供する。
【0011】
上記網膜障害の治療用医薬を該対象者が経口または静脈又は皮下摂取することにより、網膜障害患者の障害改善がなされる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の治療用医薬は、網膜障害の改善に優れた効果を示す。また、本治療用医薬の使用によれば再発の可能性も非常に少ない。レーザーによる治療方法を用いることが出来ない場合には特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
多くの抗真菌性物質が各種白癬症やカンジダ症などの真菌症に有効であることは知られているが、網膜障害の治療効果を有することはこれまで全く知られていなかった。本発明は、網膜障害の治療用医薬を得るために抗真菌性物質を使用することを特徴とする。また本発明の、網膜障害を改善・治癒するための治療用医薬は、抗真菌性物質を含有することを特徴とする。
【0014】
網膜障害の中でも特に浮腫性の網膜障害に対して有効であり、その中でも中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)又は滲出型加齢黄斑変性症等の網膜障害に対して有効である。
【0015】
抗真菌性物質はポリエンマクロライド系、アゾール系、アリルアミン系、フッ化ピリミジン系、グリセオフルビン系、キャンディン系等の抗真菌剤の群から選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
【0016】
ポリエンマクロライド系の抗真菌性物質としては、Amphoterin B(AMPH−B)[製品例ファンギゾン(ブリストル)等]及びAMPH−B リポソーム製剤(L−AMPH−B)、AMPH−B コロイド分散剤及びAMPH−Bのジミリスチジン酸ホスファチジルとジミリスチジン酸ホスファチジルの3.5:1.5とした混合体を担体とする製剤などのAMPH−B脂質担体製剤を挙げることができる。
【0017】
アゾール系の抗真菌性物質としては、イミダゾール系のミコナゾール(MCZ)[製品例フロリードF(持田)、コランゾール,フェミナゾール,ミコウィン等]と,同じく窒素原子を3個有するトリアゾール系のフルコナゾール(FLCZ)[製品例ジフルカン(ファイザー)],イトラコナゾール(ITCZ)[製品例イトリゾール(ヤンセン−協和発酵)]、ボリコナゾール(ファイザー)など、さらに新規アゾール系抗真菌薬(posaconazole,ravuconazole)などを挙げることができる。
【0018】
アリルアミン系の抗真菌性物質としては、テルビナフィン[製品例ラミシール(ノバルティスファーマ)等]を挙げることができる。
【0019】
フッ化ピリミジン系の抗真菌性物質としては、フルシトシン[製品例アンコチル(ロッシュ)等]を挙げることができる。
【0020】
グリセオフルビン系の抗真菌性物質としては、グリセオフルビン[製品例グリソビンFP(グラクソ,三共)、ポンシルFP(武田)等]を挙げることができる。
【0021】
キャンディン系の抗真菌性物質としては、ミカファンギン(藤沢)、カスポファンギン(メルク)等を挙げることができる。
【0022】
これら抗真菌性物質の中でもアリルアミン系のテルビナフィン[製品例ラミシール(ノバルティスファーマ)]、アゾール系のイトラコナゾール(ITCZ)[製品例イトリゾール(ヤンセン−協和発酵)]及びグリセオフルビン系のグリセオフルビン[製品例グリソビンFP(グラクソ,三共)、ポンシルFP(武田)]等が好適である。
【0023】
本治療用医薬は、経口(内服)薬または注射薬などとして用いることが好ましい。投与方法は、特に限定的ではないが、一定量を毎日摂取する方法や多めの量を1週間摂取しその後3週間休薬するというサイクルを何回か繰り返すパルス療法を用いても良い。
【0024】
注射薬とする場合、生食注又は5%ブドウ糖注等に希釈して川いることができる。この時、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、乳酸などを添加しても良い。また、内服薬とする場合には、エチルセルロース、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、乳糖、白糖、部分アルファー化デンプン、マンニトール、リン酸水素カルシウムデンプン等の賦形剤、アラビアゴム末、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、精製ゼラチン、デキストリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ブルラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース等の結合剤、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分アルファー化デンプン等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、メタアクリル酸コポリマー等のコーティング剤、カルナウバロウ、サラシミツロウ、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、湿メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の固結防止剤を添加し、錠剤としても良い。また、ゼラチン、セルロース、でんぷん糖の膜によるカプセル錠としても良い。
【0025】
本治療用医薬に含まれる抗真菌性物質の1日あたりの摂取量は症状、副作用の程度を観察しながら適宜決定しなければならないが、一般には、60Kgの成人一人当たり、50mg〜500mg/日、好ましくは100mg〜300mg/日であり、副作用を考慮した場合、さらに好ましくは100mg/日から200mg/日である。また、一般に3ヶ月〜12ヶ月の摂取期間で効果が現れるが、症状を観察しながら摂取期間を決める必要がある。
【実施例】
【0026】
(1)発症している方の目だけで見ると、物(特に線や格子状のもの)が歪んで見える、
(2)見ようとする場所の中心あたりが暗くまたは白く見える、
(3)特に、明るい所で目を閉じるとその直後に網膜の中心部(黄斑部)の少し外側が明るく光る残像のようなもの(浮腫部が明るく光った残像と思われる)が見える、
等の症状が十数年前に現れた。この症状は周期的(4−6ヶ月周期)に酷くなったり、回復したりを繰り返すことが分かった。
【0027】
そこで、眼科診断を受けたところ中心性漿液性網脈絡膜症(中心製網膜症)又は滲出型加齢黄斑変性症であると診断され、消炎薬や血管増強薬による薬物療法が約2年間行われた。しかし、治療効果は認められず、症状は治療前より悪化した。また、レーザーによる治療は、障害部位が、黄斑部の中心窩からあまり離れていないために行うことができなかった。
【0028】
そこで、眼科医による治療を諦め、その後約2年間症状を詳しく観察したところ、4−6月と9−10月が最も症状が重く、寒い季節の間は比較的症状の軽いことが分かった。この様なことから、「この症状は体内のカビ、すなわち真菌によるものである」との仮説をたて、抗真菌薬を摂取することを考えた。
【0029】
式(1)で示されるアリルアミン系の抗真菌性物質である塩酸テルビナフィン[製品例ラミシール(ノバルティスファーマ)]を1ヶ月間125mg(テルビナフィンとして)/日摂取したところ、「目を閉じると網膜の中心部(黄斑部)の少し外側が明るく光る残像のようなものが見える」という症状がほとんど無くなった。その後摂取を止め約2ヶ月経過後には再び症状が現れた。
【化1】

【0030】
次にその後、式(2)で示されるアゾール系のイトラコナゾール[製品名イトリゾール(ヤンセン・協和発酵)]を1回200mg、1日2回食直後に1週間経口摂取したところ、再び症状が無くなった。
【化2】

【0031】
これらの実験から、全く異なる構造を有する2種の抗真菌性物質が中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)又は滲出型加齢黄斑変性症に明確な効果を示すことが明らかになった。この結果は、中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)又は滲出型加齢黄斑変性症等の網膜障害が真菌によって引き起こされる可能性の非常に高いことを示すものである。
【0032】
そこで、その後2ヶ月間、テルビナフィン[製品例ラミシール(ノバルティスファーマ)]を125mg/日摂取したところ、1)視野の歪みが少なくなり、2)網膜の中心部の暗さも改善した。さらに約2ヶ月間125mg/日摂取した後、これまでの症状が全くなくなったので摂取を中止した。長期間(十数年)浮腫の発生と鎮静を繰り返してきたため視野の歪みは若干残っているが、5年以上経過後の現在も全く再発していない。
【0033】
本実験結果は、中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)又は滲出型加齢黄斑変性症が真菌によって引き起こされ、したがって、抗真菌性物質が治療効果を与えることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は眼疾患の治療用医薬に関するものであり、特に網膜障害の治療用医薬として著しい治療効果を示す。そのため、本発明はレーザーによる治療が不可能な場合に特に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗真菌性物質を有効成分として含有する網膜障害治療薬。
【請求項2】
前記網膜障害が中心性漿液性網脈絡膜症(中心性網膜症)又は加齢黄斑変性症である請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
前記抗真菌性物質がポリエンマクロライド系、イミダゾール系、トリアゾール系、アリルアミン系、フッ化ピリミジン系、グリセオフルビン系、キャンディン系の抗真菌剤の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜2のいずれかに記載の治療薬。
【請求項4】
網膜障害の改善に対して、抗真菌性物質の使用。

【公開番号】特開2007−277213(P2007−277213A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128678(P2006−128678)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(506152014)
【Fターム(参考)】