説明

線状部材の塗布装置及び線状部材の塗布方法

【課題】 塗りムラを解消し、塗布する塗布液が飛散することなく、高所においても作業性の極めて良い線状部材の塗布装置と、線状部材の塗布方法を提供する。
【解決手段】 一対の相互に着脱自在な半割形状の半円筒部材から構成され、半円筒部材を相互に緊締することによって、線状部材を挿通した状態となるような塗布装置本体と、半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、半円筒部材内周に形成された塗布液貯留室区画堰部材によって、塗布装置本体内部に画成される塗布液貯留室と、半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体内部に画成され、塗布液貯留室の一端側に形成される塗布液回収室とを備え、塗布装置本体を線状部材に沿って移動させ、線状部材が塗布液貯留室を通過し、線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布する構成で、塗布液貯留室から漏出した塗布液を、塗布液回収室を介して回収するように構成し、線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺形状を有する線状部材に、塗布液を塗布する装置及びその方法に関する。
さらに詳しくは、例えば、送電鉄塔に用いられる亜鉛メッキを施した電力線に、ペースト状の防食塗料を塗布する装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送電線などを張設する鉄塔などにおいて、通電するための目的ではなく、落雷対策用のアース線として、例えば、電力線が用いられ、鉄塔の間に張設されている。
電力線は、鉄で形成されており、表面には、亜鉛メッキを施してあるのが通常である。
【0003】
この亜鉛メッキは、電力線の防食としての効果があるが、鉄塔に張設された電力線は、大変厳しい大気腐食環境下で長時間保持されることから、およそ20年から30年経過すると、老朽化に伴い錆びが発生してしまう。そのため、電力線は、張設より一定期間経過後に、交換作業を行い、新たに交換された電力線が、再びアース線としての役割を担っていた。
【0004】
しかしながら、一般的に高所作業である電力線の交換作業は、莫大な費用と時間を要し、このことを解決する案が模索されていた。
このため、従来、電力線にメッキされた亜鉛による防食状況を定期的に点検し、その点検結果により、電力線に施された亜鉛メッキの劣化が発見されれば電力線の張替え交換を行う場合や防食剤を再塗布するような仕組みが採られている。
【0005】
しかしながら、従来における電力線などの線状部材に防食塗料を塗布する作業は、図示しないが人が鉄塔に登り、電力線に作業用ブランコを架け、そこに人が乗り、吊り下がった状態で図14に示したように刷毛100により塗布を行っていた。
【0006】
このような方法によると、塗料の飛散が発生して、周囲の環境を汚染するおそれがあり、また、作業者が塗布を行う際、塗料の塗りムラが生じるとともに、作業者と逆側に位置する電力線102の表面は塗布作業が困難であり、更なる改善が要望されていた。
【0007】
そこで、図15に示したように、特許文献1(特開2001−95119号公報)では、効率的且つ容易に新品の防食剤を塗布することのできる架空送電線防食材塗布装置が開示されている。
【0008】
この架空送電線防食材塗布装置200は、高い鉄塔間に架設され、防食剤塗布鋼芯アルミ撚線214を自転しながら移動し、防食剤塗布鋼芯アルミ撚線214に、吊下げ支柱204と外周面溝付ローラ202を介して、吊下げ架台206を吊下げている。
【0009】
さらに、吊下げ架台206は、その上に防食剤タンク208を備え、防食剤タンク208からは、防食剤塗布鋼芯アルミ撚線214の上部側に突き出すよう防食剤供給用スクリュー機構内蔵管210が設けられている。
【0010】
また、防食剤供給用スクリュー機構内蔵管210は、内部に駆動モーターによって駆動するスクリュー機構が内蔵されており、軌道モータを駆動させると防食剤タンク208内の防食剤は、防食剤供給用スクリュー機構内蔵管210を昇って防食剤塗布鋼芯アルミ撚線214の上部から落下され塗布されるとともに、過剰に塗られた防食剤は防食剤過剰分
絞りダイス212によって絞り落とされ、絞り落とされた過剰な防食剤は再び防食剤タンク208へ落下し回収されるようなされている。
【特許文献1】特開2001−95119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、過剰に塗布された防食剤を回収する際の防食剤タンク208は、防食剤を回収するために上部が開放されており、夏場のように気温が高く溶剤が帰散し易い環境下で溶剤揮発タイプの塗料を使用すれば、塗料の粘度が急速に上昇し、塗料が塗りにくくなってしまうため、塗布作業を迅速且つ継続的に行う必要がある。
【0012】
しかしながら、一日の作業時間などに制約があるため、作業の中断を余儀なくされる場合もあり、高所での作業者にとって、塗布装置を電力線に着脱する作業を行わなければならず、作業が煩雑であり、再び塗布が可能な状態にすることは極めて作業上不便である。
【0013】
また、上部が開放された防食剤タンク208は、時に強風が吹き荒れる高所において、防食剤タンク208が風を受けて揺さぶりが起こらないよう、常に防食剤タンク208が電力線の下方となるよう常に確認や調整を行う必要があり、作業者の手が自由になり難く作業性が悪く、さらに高所であるため危険を伴う作業となる。
【0014】
さらに、過剰に塗布された防食剤や上部が開放された防食剤タンク208の防食剤は、高所における強風や作業中の揺さぶりにより落下するおそれがあり、特に民家の近隣では、屋根、洗濯物などに防食剤が飛散する場合が考えられる。
【0015】
さらに、スクリュー機構により圧送された防食剤は、防食剤供給用スクリュー機構内蔵管210を介して電力線の上部より流出し、塗布を行うことができるが、粘度の高い防食剤が、電力線を一周して塗布されるには時間がかかり、作業効率が悪い。
【0016】
また、防食剤を塗布された電力線は、外周面溝付きローラ202によって、重力の作用で塗布量が少なくなりがちな電力線上部の防食剤が、再び絞り落とされることになってしまい、塗りムラのおそれを招くこととなっている。
【0017】
本発明は、このような現状に鑑み、塗りムラを解消し、塗布する塗布液が飛散することなく、高所においても作業性の極めて良い線状部材の塗布装置と、線状部材の塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前述したような従来技術における課題及び目的を達成するために発明されたものであって、本発明の線状部材の塗布装置は、線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布するための線状部材の塗布装置であって、
一対の相互に着脱自在な半割形状の半円筒部材から構成され、半円筒部材を相互に緊締することによって、線状部材を挿通した状態となるように、線状部材に対して装着可能な塗布装置本体と、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、半円筒部材内周に形成された塗布液貯留室区画堰部材によって、塗布装置本体内部に画成される塗布液貯留室と、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体内部に画成され、塗布液貯留室の一端側に形成される塗布液回収室とを備え、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体を線状部材に沿って移動させることにより、線状部材が塗布液貯留室を通過し、これにより、線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布するように構成されるとともに、
前記塗布液貯留室から漏出した塗布液を、塗布液回収室を介して回収するように構成したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の線状部材の塗布方法は、線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布するための線状部材の塗布方法であって、
一対の相互に着脱自在な半割形状の半円筒部材から構成され、半円筒部材を相互に緊締することによって、線状部材を挿通した状態となるように、線状部材に対して装着可能な塗布装置本体と、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、半円筒部材内周に形成された塗布液貯留室区画堰部材によって、塗布装置本体内部に画成される塗布液貯留室と、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体内部に画成され、塗布液貯留室の一端側に形成される塗布液回収室とを備え、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体を線状部材に沿って移動させることにより、線状部材が塗布液貯留室を通過させ、これにより、線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布するとともに、
前記塗布液貯留室から漏出した塗布液を、塗布液回収室を介して回収することを特徴とする。
【0020】
このように構成することによって、塗布装置本体が、一対の相互に着脱自在な半割形状の半円筒部材から構成され、半円筒部材を相互に緊締することによって、線状部材を挿通した状態となるので、線状部材の両端部が固定されていても、塗布装置を線状部材に着脱することが容易であるため、特に鉄塔に張設された電力線などの塗布作業に好適である。
【0021】
そして、塗布作業の際は、塗布装置本体を線状部材に沿って移動させるだけで、常に塗布液の満たされた塗布液貯留室内を線上部材が浸りながら通過するため、線状部材の全面に塗布液を効率良く連続的に塗布することが可能で、しかも、塗りムラが発生することがない。
【0022】
また、塗布の際には、塗布液貯留室内で塗布されることになるので、塗布液を飛散させる心配がなく周囲の環境を汚染することがない。
さらに、線状部材に過剰に塗布された塗布液は、塗布液回収室を介して回収されるため、塗布装置の外部に余分な塗布液が漏れ出るおそれがないため、高所での塗布作業の場合、塗布液を飛散させる心配がなく安全である。
【0023】
また、塗布液回収室を介して回収された塗布液は、再利用することも可能であるため経済的である。
また、本発明の線状部材の塗布装置は、前記半円筒部材の一端部には、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、線状部材の下方側に位置して、線状部材表面に塗布された塗布液の液切りを行う液切り部材が設けられていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の線状部材の塗布方法は、前記半円筒部材の一端部には、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、線状部材の下方側に位置して、線状部材表面に塗布された塗布液の液切りを行う液切り部材が設けられており、これにより、線状部材表面に塗布された塗布液の液切りを行うことを特徴とする。
【0025】
このように構成することによって、線状部材を挟み込んだ塗布装置を移動させることにより線状部材に過剰に塗布された、線状部材の下方側の表面に付着する余分な塗布液が、この線状部材の下側の表面に接触する液切り部材によって掻き落とすように液切りされ、過剰に塗布された塗布液を塗布回収室へ回収することが可能である。
【0026】
従って、塗布装置から塗布液が漏れ出るおそれがないため、高所での塗布作業の際には、塗布液が飛散する心配がない。
また、本発明の線状部材の塗布装置および線状部材の塗布方法は、前記液切り部材が、線状部材方向に付勢部材によって付勢されるように構成されていることを特徴とする。
【0027】
このように構成することによって、液切り部材が、線状部材方向に付勢部材によって付勢されているので、線状部材の径が変わった際にも、常に、液切り部材が、線状部材の下側の表面に接触し、液切り作用が確実に行われ、過剰に塗布された塗布液を回収することができる。
【0028】
また、本発明の線状部材の塗布装置および線状部材の塗布方法は、前記半円筒部材の一端部には、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、前記塗布液貯留室から漏出した塗布液を、塗布装置本体から外部に漏出しないようにする液垂れ防止用堰部材が設けられていることを特徴とする。
【0029】
このように構成することによって、塗布液貯留室内に充満されている塗布液が、液垂れ防止用堰部材によって、堰き止められて、塗布装置の外部に漏れ出すことを防止できる。
さらに、塗布装置を線状部材に沿って左右両方向に移動させても、液垂れ防止用堰部材によって塗布装置の外部へ塗布液が漏れ出る心配がないため、良好に塗布作業ができる。
【0030】
また、本発明の線状部材の塗布装置は、前記半円筒部材に形成された塗布液貯留室区画堰部材の内周に、塗布シール部材が付設され、これにより、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布液貯留室をシールするとともに、塗布液貯留室を通過する線状部材の表面に塗布液を塗布するように構成されていることを特徴とする。
【0031】
また、本発明の線状部材の塗布方法は、前記半円筒部材に形成された塗布液貯留室区画堰部材の内周に、塗布シール部材が付設され、これにより、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布液貯留室をシールするとともに、塗布液貯留室を通過する線状部材の表面に塗布液を塗布することを特徴とする。
【0032】
このように構成することによって、塗布液貯留室内に充満された塗布液に浸った線状部材が、塗布シール部材を通過することによって、線状部材に塗布された塗布液が満遍なく、線状部材に塗り広げられて、一定の膜厚で、効率よく塗布されるとともに、塗布液が塗布液貯留室から漏出するのを防止することができる。
【0033】
さらに、線状部材に対して過剰に塗布された塗布液は、塗布シール部材によって予め擦れ落とされるため、液切り部材と併せて良好に塗布液を回収することができ、経済的であるとともに、塗布装置の外部に塗布液を漏れ出す心配がなく作業性も良好である。
【0034】
また、塗布液貯留室内に線状部材全体を浸すことができるだけの塗布液が入っていない場合であっても、線状部材の下方のみに塗られた塗布液を全体に塗り広げることが可能であるため、塗りムラの発生を防ぎ、作業性が極めて良好である。
【0035】
また、本発明の線状部材の塗布装置は、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体内部を通過する線状部材の軸芯方向を装置本体の軸芯に一致する方向に付勢する芯出し部材が、半円筒部材内周に設けられていることを特徴とする。
【0036】
また、本発明の線状部材の塗布方法は、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体内部を通過する線状部材の軸芯方向を装置本体の軸芯に一致する方向に付勢する芯出し部材が、半円筒部材内周に設けられ、これにより線状部材の芯出しを行うこと
を特徴とする。
【0037】
このように構成することによって、線状部材の軸芯方向を装置本体の軸芯に一致する方向に付勢する芯出し部材によって付勢された線状部材は、常に塗布装置の中心部を通過することとなるため、塗りムラの発生を防ぎ、良好に塗布液を塗布することができる。
【0038】
さらに、線状部材に異なる太さの部分があっても、芯出し部材によって線状部材は常に塗布装置の中心部を通過することが可能となるため、塗りムラの発生を防ぎ、良好に塗布液を塗布することができる。
【0039】
また、本発明の線状部材の塗布装置は、前記塗布液貯留室内に、塗布液を導入する塗布液導入口が形成されていることを特徴とする。
また、本発明の線状部材の塗布方法は、前記塗布液貯留室内に、塗布液を導入する塗布液導入口が形成され、前記塗布液導入口を介して塗布液を導入することを特徴とする。
【0040】
このように構成することによって、線状部材に塗布液を塗布する際、塗布液が無くなる度に塗布装置を開き、塗布液を充填する必要がなく、常に塗布液貯留室内を塗布液で満たすことが可能であるため、線状部材に良好に塗布液を塗布することできる。
【0041】
さらに、塗布作業を中断する必要がないため、作業性のよい塗布作業をすることができる。
また、本発明の線状部材の塗布装置は、前記塗布液貯留室内に、塗布物を噴出するための噴出口が形成されていることを特徴とする。
【0042】
また、本発明の線状部材の塗布方法は、前記塗布液貯留室内に、塗布液を噴出するための噴出口が形成され、この噴出口を介して塗布液を塗布液貯留室内に噴出することを特徴とする。
【0043】
このように構成することによって、塗布液を噴出口を介して塗布液貯留室内に噴出することによって、塗布液を線状部材の隅々まで付着させることができ、線状部材に塗布された塗布液は塗りムラを起こすことがなく、良好な塗布作業が可能である。
【0044】
さらに、塗布液の噴出量を調整することにより、線状部材に塗布する必要のある量の塗布液だけを噴出させることができ、過剰に塗布液を塗布することなく塗布作業ができる。
また、本発明の線状部材の塗布装置は、前記塗布液回収室に、塗布液を回収する塗布液回収口が形成されていることを特徴とする。
【0045】
また、本発明の線状部材の塗布方法は、前記塗布液回収室に、塗布液を回収する塗布液回収口が形成され、この塗布液回収口を介して塗布液を回収することを特徴とする。
このように構成することによって、過剰に塗布された塗布液は、付勢部材によって調整された液切り部材によって、線状部材から掻き取られ、塗布液回収室内に流入し、塗布液回収口により無駄なく回収することができる。
【0046】
また、塗布液回収室内に設けられた塗布液回収口で回収された塗布液は、再度塗布液導入口へ戻され再利用することもできるため、経済的である。
また、本発明の線状部材の塗布装置および線状部材の塗布方法は、前記半円筒部材が、半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布液貯留室を構成する塗布液貯留室部分と、塗布液回収室を構成する塗布液回収部分とから構成され、
これらの塗布液貯留室部分と塗布液回収部分とが相互に回転自在に構成されていることを特徴する。
【0047】
このように構成することによって、塗布装置は様々な状況下において、必要に応じて塗布液導入口と塗布液回収口の向きを変え、線状部材に塗布液を塗布することができる。
特に、塗布液貯留室部分に設けられた塗布液導入口が上部、塗布液回収部分に設けられた塗布液回収口が下部となるよう塗布装置を構成すれば、塗布液は自然に流れ落ちて来るため、装置を小型化したい場合や狭い場所において良好に作業することが可能である。
【0048】
また、塗布液貯留室部分と塗布液回収室部分とを数回相互に回転すれば、塗布装置内部に配設された塗布シール部材が、線状部材に塗布された塗布液を良好に擦り広げ、塗りムラの発生を一層防止することができる。
【0049】
また、本発明の線状部材の塗布装置は、前記塗布液が、防食塗料であることを特徴とする。
このように構成することによって、線状部材の表面に、防食塗料を連続的に均一に塗布することができ、例えば、送電鉄塔に用いられる亜鉛メッキを施した電力線に、ペースト状の防食塗料を塗布することが可能である。
【0050】
また、本発明の線状部材の塗布装置は、前記線状部材が、送電鉄塔間に配設される電力線であることを特徴とする。
このように構成することによって、特に送電鉄塔間に張設される電力線に良好に塗布液を塗布することが可能である。
【0051】
さらに、電力線が配設されている高所では危険を伴う場合があるが、塗布装置は電力線を挟持する形で設置されるため作業者の手が自由になり易く、作業性が良好であるばかりでなく、安全性も高く極めて良好である。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、線状部材に取り付けるよう構成されているため、手が自由になり特に高所での塗布作業において作業性が向上するとともに線状部材に対して断面方向、長さ方向のいずれの方向においても塗りムラがない線状部材の塗布装置を提供することができる。
【0053】
さらに、塗布装置は、塗布装置の前後で液切りを行うことができるため、前後双方向に動かしても塗布液を飛散させることなく塗布液を塗布することができる線状部材の塗布装置を提供することができる。
【0054】
また、塗布装置内部の塗料が溶剤揮発系塗料であっても揮発しにくく、さらに作業のインターバルがあっても溶剤の揮発が抑えられているため塗布装置による塗布作業を長時間行うことができ、しかも作業者の手を汚すことがない線状部材の塗布装置を提供することができる。
【0055】
さらに、本発明の塗布装置は塗布液導入口を介して、塗布装置の内部へ塗布液を断続的に送ることができるため、連続的に塗布ができる線状部材の塗布装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は、本発明の塗布装置の実施例を示す分解斜視図、図2は、図1の塗布装置の組み付けた状態の構成斜視図、図3は、図1の塗布装置の使用状況を説明する斜視図、図4(A)は図1の塗布装置の上面図、図4(B)は正面図、図4(C)は左側面図、図4(D
)は右側面図、図5は、図4(C)の左側面図の拡大図、図6は、図4(B)の点線部分の液切り部材の部分拡大図である。
【0057】
図1から図6において、10は、本発明の塗布装置を示している。
図1に示したように塗布装置10は、線状部材32、例えば、送電鉄塔間に張設されるアース線としての役割をなす電力線に防錆処理を施すため防食塗料を塗布するために用いられるものである。
【0058】
すなわち、図1に示したように、塗布装置10は、一対の相互に着脱自在な半割形状の上下一対の半円筒部材12、12を備えている。
これらの半円筒部材12、12は、図2に示したように、半円筒部材12、12を相互に緊締することによって、図3に示したように、線状部材32を挿通した状態となるように、線状部材32に対して装着可能であり、この状態で、塗布装置本体11を構成するようになっている。
【0059】
そして、これらの半円筒部材12、12はそれぞれ、図1および図2に示したように、液垂れ防止用の第1の半円筒部材12aと、塗布液貯留室16を構成する第2の半円筒部材12bと、塗布液貯留室16と塗布液回収室14の間を接続する第3の半円筒部材12cと、塗布液回収室14を構成する第4の半円筒部材12dとから構成されている。
【0060】
この第2の半円筒部材12bの内部には、図1および図2に示したように、半円筒部材12、12を相互に緊締した装着状態で、第1の半円筒部材12aの一端部で構成される第1の塗布液貯留室区画堰部材13と、第3の半円筒部材12cの一端部で構成される第2の塗布液貯留室区画堰部材15とで画成された塗布液貯留室16が形成されている。
【0061】
そして、第1の塗布液貯留室区画堰部材13の内周に、第1の塗布シール部材18aが付設されるとともに、第2の塗布液貯留室区画堰部材15の内周に、第2の塗布シール部材18bが付設されている。
【0062】
これらの第1の塗布シール部材18aと第2の塗布シール部材18bによって、半円筒部材12、12を相互に緊締した装着状態で、塗布液貯留室16をシールするとともに、塗布液貯留室16を通過する線状部材32の表面に塗布液を塗布するように構成されている。
【0063】
このような塗布シール部材18a、18bとしては、塗布液38の種類、線状部材32の種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、シール性能、上記の線状部材32表面への塗布液38の塗布効果などを考慮すれば、塩ビ、シリコンなどの樹脂、ウレタンなどのゴムから構成するのが望ましい。
【0064】
また、塗布シール部材18a、18bの幅としては、特に限定されるものではないが、シール性能、上記の線状部材32表面への塗布液38の塗布効果などを考慮すれば、5mm以上とするのが望ましい。
【0065】
また、塗布液貯留室16には、塗布液貯留室16に塗布液を導入するための塗布液導入口26が設けられている。
そして、第2の半円筒部材12bの外部には、この塗布液導入口26に連通し、図7に示したように、塗布液38を循環する配管に着脱自在に接続するための配管接続部17が形成されている。
【0066】
さらに、第1の半円筒部材12aの一端部の内周面には、塗布液貯留室16内に充満さ
れた塗布液が漏れ出ないよう、液垂れ防止用堰部材21が設置されている。
この液垂れ防止用堰部材21としては、塗布液38の種類、線状部材32の種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、塗布液貯留室16内に充満された塗布液が漏れ出ないようにするためには、塩ビ、ABS、アクリルなどの樹脂、ウレタン
などのゴムから構成するのが望ましい。
【0067】
また、その形状としては、上記の第1の塗布シール部材18aから、漏れ出たごく僅かな量の塗布液38を塗布装置本体11から漏れでないようにすればよく、シール部材状の他、例えば、刷毛状のものであってもよく、特に限定されるものではない。
【0068】
一方、第4の半円筒部材12dには、図2に示したように、半円筒部材12、12を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体11の内部に画成され、塗布液貯留室16の一端側に形成される塗布液回収室14が形成されている。
【0069】
また、塗布液回収室14には、塗布液貯留室16から漏れ出た塗布液38、線状部材32の表面から落下する余分な塗布液38を回収するための塗布液回収口24が設けられている。
【0070】
そして、第2の半円筒部材12bの外部には、この塗布液回収口24に連通し、図7に示したように、塗布液38を循環する配管に着脱自在に接続するための配管接続部19が形成されている。
【0071】
また、下方側の第4の半円筒部材12dの一端部には、半円筒部材12、12を相互に緊締した装着状態で、線状部材32の下方側に位置して、線状部材32の表面に塗布された塗布液38の液切りを行う略半割形状の半円筒形状の液切り部材28が設けられている。
【0072】
この液切り部材28は、図1、図6に示したように、線状部材32の方向に付勢部材30によって付勢されるように構成されている。
すなわち、図6(A)に示したように、下方側の第4の半円筒部材12dの下面に、板バネ形状の付勢部材30が固着されており、付勢部材30の先端部30aが、液切り部材28の裏面の一端部28aを支持するよう固着されている。
【0073】
なお、この付勢部材30は、図6(B)の矢印で示した方向に、液切り部材28の一端部28aを回動するように常に付勢しており、これによって、実際に線状部材32に塗布を行う際には、液切り部材28の他端の線状部材接触部29が、線状部材32の方向に付勢されて、線状部材32の下面に接触するように構成されている。
【0074】
この場合、線状部材接触部29の形状は、線状部材接触部29が線状部材32の下面に接触した際に、線状部材32の下面全体に接触して、線状部材32の下面に余分に付着する塗布液38を掻き取る(払拭)することができるように、その先端部が略円弧状の切欠が形成された形状、すなわち、線状部材32の下面と合致した形状となっている。
【0075】
また、図6に示したように、線状部材接触部29は、その先端部に行くに従って厚さが薄くなるテーパ−形状の刃先形状となっており、線状部材32の下面に余分に付着する塗布液38を掻き取る効果が促進されるようになっている。
【0076】
このように、液切り部材28の線状部材接触部29が、線状部材32の方向に付勢されて、線状部材32の下面に接触するので、異なった径の線状部材32であっても、液切り部材28の線状部材接触部29が、常に線状部材32の下面に接触することになり、過剰
に塗布された塗布液38を回収することができるようなっている。
【0077】
さらに、第3の半円筒部材12cの塗布液回収室14側の内周には、半円筒部材12、12を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体11の内部を通過する線状部材32の中心軸芯方向を塗布装置本体11の中心軸に一致する方向に付勢する3つの芯出し部材20が、第3の半円筒部材12cの内周に一定間隔離間して設けられている。
【0078】
すなわち、この実施例では、図5に示したように、下方の第3の半円筒部材12cの内周に2個の芯出し部材20が配置され、上方の第3の半円筒部材12cの内周に1個の芯出し部材20が配置され、それぞれ中心角度が120度で離間するように配置されている。
【0079】
また、芯出し部材20はそれぞれ、図1に示したように、略板バネ形状のその一端部20aが、第3の半円筒部材12cの塗布液貯留室16側に固定され、他端部20bが装置本体11の中心軸方向に延設されるように配置されている。
【0080】
さらに、第3の半円筒部材12cの一端部の内周面には、第1の半円筒部材12aと同様に、塗布液貯留室16内に充満された塗布液が漏れ出ないよう液垂れ防止用堰部材21が設置されている。
【0081】
なお、第3の半円筒部材12cの一端部の内周面に設けられた液垂れ防止用堰部材21は、基本的には、第1の半円筒部材12aと同じ構成であるので、その詳細な説明を省略する。
【0082】
そして、図4(C)および図5に示したように、半円筒部材12、12を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体11の内部を通過する線状部材32を、外周方向3方から線状部材32を塗布装置本体11の中心軸方向に付勢するよう構成されている。これによって、常に線状部材32が塗布装置本体11の中心を通過することができるようになっている。
【0083】
なお、この実施例において、芯出し部材20は、3方より線状部材32を塗布装置10の中心軸方向に付勢するように構成したが、芯出し部材20の数、離間角度などは、特に限定されるものではなく、同等の機能を果たすよう構成されていれば良い。
【0084】
また、この実施例では、芯出し部材20を板バネとしたが、上記の中心軸へ付勢する作用を有するものであれば、その他のバネ弾性力を有するウレタンなどのゴムであってもよい。
【0085】
このように芯出し部材20を構成することによって、図3の塗布装置10の使用状況を説明する斜視図に記された線状部材32のように、途中に所定間隔をおいて、線状部材32の本体の径と異なる径のリング42が設けられている場合であっても、図1に示したように、バネ性を有する複数の芯出し部材20によって、常に線状部材32が塗布装置本体11の中心部を通過するよう構成されている。
【0086】
従って、線状部材32と、この線状部材32と、リング42とのクリアランスは、芯出し部材20によって解消され、良好に塗布液を塗布することができるようになっている。
また、芯出し部材20は、第3の半円筒部材12cと同様に、第1の半円筒部材12aの内周に設けられているが、基本的には、第3の半円筒部材12cと同じ構成であるので、その詳細な説明を省略する。
【0087】
このように構成される本発明の塗布装置10は、以下のようにして使用される。
先ず、一対の半円筒部材12、12の間に線状部材32を挟み込み、この状態で、半円筒部材12、12を互いに、適宜の緊締手段によって、緊締することによって、図2に示したような円筒形状の装置本体11として、塗布装置10を構成し、これにより、図3に示した状態とする。
【0088】
なお、この場合、緊締手段としては、特に限定されるものではなく、ビニールテープ等の接着テープ、ボルト、螺子、締結リング部材などの締結手段で、半円筒部材12、12を互いを緊締するようにすれば良い。
【0089】
さらに、一対の半円筒部材12、12の間に、弾性部材を挟み込んでから緊締すれば、塗布装置本体11から塗布液が漏れ出るおそれが少なくなり、特に高所での塗布作業の場合において、塗布液を飛散させることがない。
【0090】
このようにして、一対の半円筒部材12、12の間に線状部材32を挟み込み、締結した状態とした塗布装置10は、図3のように、塗布液を線状部材32に塗布するために、矢印の方向に移動させることにより、線状部材32に塗布液を塗布をすることができる。
【0091】
この際、図7に示した塗布液の流れを説明する模式図に示したように、塗布液貯留タンク25から、塗布液導入口26に連結されたポンプ46を介して、一定量の塗布液38が、塗布液貯留室16内に導入されるようになっている。これにより、塗布液貯留室16内に一定量の塗布液38が充満するようになっている。
【0092】
なお、この場合、図示しない流量制御装置によって、常に、一定量の塗布液38が塗布液貯留室16内に充満した状態となるように、図示しない流量制御弁によって、塗布液貯留室16内へ導入される塗布液38の流量を制御するようにするのが望ましい。
【0093】
なお、この際、線状部材32への塗布液の塗布量に合わせて、塗布液38の導入量を調整すれば良い。
そして、塗布作業は図3に示すように、基本的に塗布装置10を矢印方向へと移動することにより行われるものである。
【0094】
この際、図1のように塗布液貯留室16を通過した線状部材32は、塗布液貯留室16内に充満する塗布液38を通過することによって、線状部材32の表面に塗布液38が塗布されるとともに、第2の塗布液貯留室区画堰部材15の内周に付設された第2の塗布シール部材18bによって、塗布液38が線状部材32の表面で一定に塗り広げられるとともに、過剰に塗布された塗布液が取り除かれる。
【0095】
これにより、塗布装置10を通過した線状部材32の表面には、均一な膜厚で塗りムラが発生せずに、連続して塗布液38が塗布されるとともに、塗布装置10から塗布液が飛散されることがないように構成されている。
【0096】
なお、この第2の塗布シール部材18bを通過して塗布液38が塗布された線状部材32は、図6(B)に示したように、塗布液回収室14の端部に設けられた液切り部材28の線状部材接触部29によって、再度、過剰に塗られた塗布液38を線状部材32の下面から掻き落とされる(払拭される)。
【0097】
この液切り部材28の線状部材接触部29によって、線状部材32の下面から掻き落とされた塗布液38は、塗布液回収室14内に落下して、塗布液回収口24を介して、塗布液を回収するよう構成されている。
【0098】
なお、液切り部材28によって回収される線状部材32の塗布液の量は、線状部材32の状況(例えば、新品の状態、腐食が進行した状態など)、使用する環境(例えば、常温常湿の場所、湿度が高い場所、海辺の塩害を被り易い場所、極端に低温・高温な場所、強風の吹き付ける場所など)に応じて適宜調整され、これに応じて、付勢部材30の傾斜角度、すなわち、図6(B)に示したように、液切り部材28の線状部材接触部29が線状部材32の下面と当接する角度を決定するように、付勢部材30による規制角度を決定すれば良い。
【0099】
また、回収された塗布液38は、図7に示したように、ろ過装置36を通過することによって不純物が除去され、再度塗布液導入口26に連結されたポンプ46によって塗布装置本体11の内へと戻される。
【0100】
このように構成されることにより、塗布液は無駄なく循環使用されるため、高所においての塗布作業の際には余計な量の塗布液を所持する必要が減り、作業性が向上する。
このろ過装置36であるが、鉄塔に張設された電力線への防食塗料塗布の際、通常は電力線の清掃作業を終えた後に防食塗料の塗布作業を行うため、塗布装置10の塗布液回収口24に流入した過剰な塗布液は、ろ過装置36を使用せずに直接塗布液貯留タンク25へと送られ、ポンプ46によって塗布装置内へと、戻され再利用してもよい。
【0101】
従って、ろ過装置36は、使用状況に応じて適宜使用するか否かを決めれば良い。
このような本発明の塗布装置10による塗布作業の際には、前述したように、図4(C)および図5に示したように、塗布装置本体11の内部を通過する線状部材32を、外周方向3方から線状部材32を塗布装置本体11の中心軸方向に付勢するよう構成されている。
【0102】
これによって、常に線状部材32が塗布装置本体11の中心を通過することができるようになっており、線状部材32が図3に示したような異なるサイズのリング42が設けられている場合であっても、塗布液を確実にかつ均一に塗布することができるようになっている。
【0103】
なお、本発明の塗布装置10は、図3に示した矢印と反対方向に移動するようにして、塗布作業を行ってもよい。
すなわち、線状部材32に対して、再度塗り重ねたい場合や万が一塗りムラが発生してしまった際には、普段とは逆方向に塗布装置10を移動させる必要がある。
【0104】
そこで、液垂れ防止用堰部材21により、塗布装置10が線状部材32に沿って左右どちらに移動しても、塗布液38を塗布装置10の外部に漏れ出すことがないようになっている。
【0105】
この場合、液切り部材28は、図3のような矢印の方向に塗布装置10を移動して使用する場合において機能するものであり、矢印とは逆方向に塗布装置10を移動させて塗布作業を行う場合には、液切り部材28とは逆の部位にある液垂れ防止用堰部材21によって、過剰に塗布された塗布液38が、塗布装置10の外部に漏れ出ることがないようなっている。
【0106】
図8は、本発明の塗布装置の別の実施例を示す斜視図である。
図8の塗布装置10は、基本的には、図1に示した実施例の塗布装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0107】
この実施例の塗布装置10では、半円筒部材12、12を相互に締結する別の締結方法を採用しており、図8に示したように、互いの半円筒部材12、12をヒンジ44によって固定することにより、塗布装置10の開閉が可能なように構成されている。
【0108】
このように構成することによって、半円筒部材12、12同士が離れることがないため、鉄塔に張設された電力線に防食塗料を塗布する際など高所における作業の場合には、少しでも手が自由になるよう構成されており、このような場合には、最適な構成である。
【0109】
図9は、本発明の塗布装置の別の実施例を示す斜視図である。
図9の塗布装置10は、基本的には、図1に示した実施例の塗布装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0110】
この実施例の塗布装置10では、塗布装置本体11が、半円筒部材12、12を相互に緊締した装着状態で、塗布液貯留室16を構成する塗布液貯留部分27と、塗布液回収室14を構成する塗布液回収部分35とから構成されている。
【0111】
そして、図9の矢印で示したように、これらの塗布液貯留部分27と塗布液回収部分35とが相互に回転自在に構成されている。
図9に示したように、塗布液貯留室16部分に塗布液を流入させる塗布液導入口26が上面を向くように、塗布液貯留部分27を回転させた場合、塗布液38は塗布液貯留室16内に重力の作用によって自然に流入することができる。
【0112】
また、図9に示したように、過剰に塗布された塗布液38を回収するための塗布液回収口24が下面を向くように、塗布液回収部分35を回転させた場合には、塗布液38は重力の作用によって自然に塗布液回収口24内に流入することができる。
【0113】
従って、図示しないが、例えば、塗布液導入口26に連通する配管接続部17に、塗布液を貯留した塗布液カートリッジを直接接続することができるとともに、回収した塗布液を再度、循環使用する場合でなければ、塗布液回収口24に連通する配管接続部19に、直接塗布液回収カートリッジを直接接続でき、塗布装置10を簡素化することが可能である。さらに、塗布装置10は、簡素化されることにより、狭所においても使用できる。
【0114】
また、塗布液貯留室16部分と塗布液回収室14部分とを図9に示した矢印のように数回相互に回転すれば、塗布装置10内部に配設された塗布シール部材18a、18bが、線状部材32に塗布された塗布液を良好に擦り広げ、塗りムラの発生を一層防止することができる。
【0115】
図10は、本発明の塗布装置の別の実施例を示す斜視図である。
図10の塗布装置10は、基本的には、図1に示した実施例の塗布装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0116】
この実施例の塗布装置10では、塗布装置の両端に液切り部材28が設けられており、この塗布装置により塗布液を塗布する際には、この液切り部材28によって過剰に塗られた塗布液を塗布装置内に回収されるよう構成されている。
【0117】
このように構成すれば、線状部材に塗布液を塗布する際に、塗布装置10を前後両方向に移動させても、図6(B)に示したように、塗布装置10の両端部に設けた液切り部材28の線状部材接触部29が線状部材に接触しているため、過剰に塗られた塗布液を効率良く回収することができる。
【0118】
図11は、本発明の塗布装置の別の実施例を示す斜視図である。
図11の塗布装置10は、基本的には、図1に示した実施例の塗布装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0119】
この実施例の塗布装置10では、半円筒部材を相互に緊締した装着状態で把持部を構成するハンドル部40が設けられており、このハンドル部40を把持して線状部材32に塗布液38を塗布するように構成されている。
【0120】
このように構成すれば塗布液の塗布作業が極めて良好となるばかりでなく、線状部材32への塗布方向がハンドル部40によって定まるため、常に一定方向の塗布が可能であり、高所作業においても作業性が向上する。
【0121】
このハンドル部40は、内部に塗布液回収口24を設ければ、塗布装置10に余計な部品を増やす必要がない。
さらに、塗布液導入口26側をハンドル部40にしても良く、塗布液導入口26と塗布液回収口24の両方をハンドル部40にしても良く、ハンドル部40の設置場所は、塗布装置10を使用する環境に応じて適宜設けることが好ましい。
【0122】
また、図示しないがハンドル部40に塗布装置10へ塗布液を送るためのポンプ46のスイッチを設ければ、作業者が適宜、塗布液の流出量を調整することができ、作業性が極めて良いばかりでなく、塗布液が過剰に塗布液貯留室16内に流入した場合にも瞬時にポンプ46を制御することが可能であるため、安全である。
【0123】
図12は本発明の塗布装置の別の実施例を示す断面図である。
この実施例では、図12に示したように、塗布液導入口26に連通するように、塗布液貯留室16内に塗布液を噴出するための複数の噴出口34を形成して、線状部材32に塗布液38を噴出することによって、塗布するよう構成されている。
【0124】
このように噴出口34より噴出された塗布液38は、線状部材32に噴出されるため、塗布液38を隅々まで塗布することができるため、塗りムラを発生させることなく塗布作業ができる。
【0125】
さらに、塗布液貯留室16内を塗布液38で充満させる必要がないため、線状部材32の径、状況、使用環境等に応じて噴出量を調整することにより、良好な塗布作業が可能である。
【0126】
図13は、本発明の塗布装置の別の実施例を示す部分切欠斜視図である。
上記の図1の実施例では、半円筒部材12は、図1および図2に示したように、液垂れ防止用の第1の半円筒部材12aと、塗布液貯留室16を構成する第2の半円筒部材12bと、塗布液貯留室16と塗布液回収室14の間を接続する第3の半円筒部材12cと、塗布液回収室14を構成する第4の半円筒部材12dとから構成している。
【0127】
これに対して、図13の実施例では、半円筒部材12を一つの半円筒部材12から構成し、図1の実施例の第1の塗布液貯留室区画堰部材13の第1の塗布シール部材18a、第2の塗布液貯留室区画堰部材15の第2の塗布シール部材18bの代わりに、以下の構成としている。
【0128】
図13(A)では、半円筒部材12の内壁に、一定間隔離間した堰部材31、31を設け、その間に、シール部材18cを装着している。
さらに、図13(B)では、半円筒部材12の内壁にシール部材装着用凹溝33を形成
して、このシール部材装着用凹溝33の内部に、シール部材18dを装着している。
【0129】
このように構成することによって、塗布液貯留室16を画成するようになっている。
また、本実施例において使用される塗布液38は、ペースト状防食塗料であり、ペースト状防食塗料は樹脂、亜鉛粉および有機溶媒を含有するものである。
【0130】
このように、ペースト状防食塗料中に配合される樹脂は、この塗料中に配合される亜鉛に対して反応性を有していない樹脂であり、この樹脂がゴム弾性を有していることが好ましい。
【0131】
すなわち、ペースト状防食塗料中に含有される樹脂は、この塗料から形成される塗膜を塗布面に密着させると共に、亜鉛粉を分散させるためのマトリックスであり、さらに、この塗膜により防食される送電用鉄塔金物などの表面を保護する被覆材でもある。
【0132】
このため、この樹脂からなる塗膜が硬質であると、たとえば金属との熱膨張係数の相違などにより、被膜にクラックが発生し、また、金属表面に対する密着性などが低下することがある。
【0133】
このため使用される樹脂は、金属表面に対して密着性がよく、熱膨張などによっても追随性を有するようにゴム弾性を有する樹脂を使用することが好ましい。
このような樹脂としては、
プロピレンゴム、ブタジエンゴムなどのようにα-オレフィン構造を有するモノマーから
形成されたゴム弾性を有するオレフィン系弾性樹脂;
SEBS、SEPSのようにスチレンとα-オレフィンとからなるスチレン系弾性樹脂;
アクリル系弾性樹脂;
天然ゴム;
変性シリコーン系弾性樹脂を挙げることができる。
【0134】
これらの弾性樹脂は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
特に本実施例においては、ブタジエンのように共役ジエンから形成されたオレフィン系弾性樹脂を使用することが好ましい。
【0135】
このような弾性樹脂を使用することにより、溶剤として使用される特定の脂肪族炭化水素との親和性がよく、脂肪族炭化水素系の溶媒を使用することにより、本発明のペースト状防食塗料の粘度を急速に上昇し難くするという作用がある。
【0136】
また、ペースト状防食塗料に含有されている亜鉛粉は、粒子径の揃ったものを使用することが好ましく、100〜200μmの範囲内の粒子径を有する粉末の含有率が、亜鉛粉末全体の75〜100重量%の範囲内にある亜鉛粉を使用する。
【0137】
使用する亜鉛粉は、上記のように非常に粒子の揃ったものであるが、さらに、この亜鉛粉中における不純物の量はできるだけ少ないことが好ましく、特に飽和甘こう電極基準の自然電位が鉄と同等若しくは鉄よりも貴である金属を含まないものであることが特に好ましい。
【0138】
さらに、使用する亜鉛粉としては、好適にはアトマイザーなどで粉砕された純亜鉛粉を、風力分級装置、標準篩などの分級装置を用いて粒子径が上記範囲内になるように分級した純亜鉛粉を使用する。
【0139】
このように粒子径の揃った純亜鉛粉を使用することにより、ペースト状防食塗料から得
られる塗膜の均一性が高くなり、この塗膜が良好な防食性を有するようになり、さらに、この塗膜が良好な電気導電性を有するようになる。
【0140】
また、ペースト状防食塗料は、上記のような樹脂とこの樹脂を溶解若しくは分散する有機溶媒と、このような樹脂の有機溶媒溶液あるいは有機溶媒分散液に、亜鉛粉が分散されてなる。
【0141】
ここで使用する有機溶媒中には脂肪族炭化水素系溶媒が含有されている。
この脂肪族炭化水素系溶媒は、沸点が140〜240℃の範囲内、好ましくは140〜220℃の範囲内にある脂肪族炭化水素の混合物である。
【0142】
沸点が140℃以上の脂肪族炭化水素溶媒を使用することにより、塗布に好適な初期粘度を有する樹脂溶液を形成することができる。
なお、この脂肪族炭化水素系溶媒の沸点が240℃を超えると、ペースト状防食塗料を塗布することにより形成された塗布層から有機溶媒が揮散除去して防食性に優れた塗膜を形成するのに要する時間が長くなりすぎることがある。
【0143】
沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒は、ペースト状防食塗料に含有される亜鉛に対して不活性な樹脂との親和性がよく、このような樹脂を高濃度で溶解して、粘度の高く、かつ刷毛塗り塗装可能な粘度の溶液を形成することができる。
【0144】
特にペースト状防食塗料には上記のような亜鉛粉を高濃度で含有しており、貯蔵中にこのような亜鉛粉が缶の底に沈降しても固化し難い粘度を有している。
即ち、ペースト状防食塗料の初期粘度は、この塗料中に含有されている亜鉛粉が沈降し難いように25℃において5000cp以上であり、さらにこの25℃における初期粘度が5000〜12000cpの範囲の範囲内に調整されていることが好ましい。
【0145】
このように初期粘度を調整することにより、亜鉛粉が沈降し難くなり、また、このペースト状防食塗料を刷毛塗り塗工により容易に塗布することができる。
さらに、このようにして形成された塗膜の均一性が高くなる。
【0146】
なお、本実施例で使用される沸点が140℃〜240℃に範囲内にある脂肪族炭化水素系の溶媒は、主に炭素数が8〜11の範囲内にある脂肪族炭化水素であり、このような脂肪族炭化水素系溶媒としては、具体的には、初留点が140℃以上であり、終点が240℃以下である石油留分を使用することができる。
【0147】
このような脂肪族炭化水素系溶媒は、ブチルゴムに対して良好な溶媒であると共に、このような脂肪族炭化水素系溶媒とブチルゴムとを組み合わせて使用することにより、ペースト状防食塗料の経時的な粘度上昇を抑えることができやすくなる。
【0148】
また、ペースト状防食塗料は、25℃で8時間放置した後のこのペースト状防食塗料の粘度の上昇が小さいことが望ましく、上記の初期粘度に対して110〜150%の範囲内の粘度(この25℃で8時間放置した後のこのペースト状防食塗料の粘度を「経時粘度」と記載することもある)になるように調整されている。
【0149】
さら初期粘度に対する経時粘度が110〜145%の範囲内になるように調整されていることが好ましい。
このように初期粘度に対する経時粘度を調整することにより、粘度調整を行うことなく、長時間にわたって刷毛塗り塗工が可能である。
【0150】
そして、このようにして形成された塗膜は均一性が高く、良好な防食性を有すると共に、形成された塗膜が安定した導電性を有する。
なお、ペースト状防食塗料の初期粘度および経時粘度は次のようにして測定した値である。
【0151】
初期粘度は、各成分を配合して調製されたペースト状防食塗料を密封状態で25℃に保存する。
このペースト状防食塗料の25℃に保管したペースト状防食塗料の粘度を測定し、この粘度を初期粘度とする。
【0152】
本発明において経時粘度は、ペースト状防食塗料を容器に入れたまま開口し、25℃で8時間放置した後、このペースト状防食塗料の粘度を測定した値である。
また、ペースト状防食塗料の粘度は、JIS K5400で規定される回転粘度計を用いて測定した値である。
【0153】
上記のようにして測定された次式に従い粘度上昇率を算定する。
粘度上昇率(%)=(経時粘度/初期粘度)×100
そして、ペースト状防食塗料は、上記式により算定される粘度上昇率が110〜150%の範囲内にあり、さらに粘度上昇率が110〜145%の範囲にあることが好ましい。
【0154】
このような粘度上昇率の範囲にあるペースト状防食塗料は、作業途中で粘度調整を行うことなく、刷毛塗り塗装により均一性の高い防食塗膜を形成することができる。
このようにペースト状防食塗料の粘度は、樹脂、亜鉛粉、有機溶媒の含有量および種類により調整することができる。
【0155】
また、ペースト状防食塗料で使用する樹脂は、上述のようにゴム弾性を有する樹脂であり、調製直後におけるペースト状防食塗料(100重量部)中における上記樹脂の含有量を、樹脂固形分換算で、通常は10〜30重量部、好ましくは15〜25重量部の範囲内にする。
【0156】
また、調製直後におけるペースト状防食塗料(100重量部)中における亜鉛粉の含有量を、40〜85重量部、好ましくは45〜70重量部の範囲内にする。
さらに、調製直後におけるペースト状防食塗料(100重量部)中における有機溶剤の含有量を、通常は0.5〜20重量部、好ましくは1〜15重量部の範囲内にする。
【0157】
上記のように樹脂、亜鉛粉、有機溶媒の量を上記のように調整してペースト状防食塗料の初期粘度を5000cp以上、好ましくは5000〜12000cpの範囲内にすることにより、亜鉛粉が沈降し難くなる。
【0158】
本実施例において、上記のような初期粘度を有するペースト状防食塗料の粘度上昇率を初期粘度に対して110〜150%、好ましくは110〜145%の範囲内にするためには、ペースト状防食塗料に含有される有機溶媒中における沸点が140〜240℃の範囲ある脂肪族系炭化水素溶媒を添加して粘度を調整する。
【0159】
さらにペースト状防食塗料中には、粘度を調整するために添加される脂肪族系炭化水素溶媒のほかに、使用する樹脂原料中に含有される有機溶剤がある。
即ち、本実施例で使用される樹脂は、有機溶媒に溶解されて供給される。
【0160】
このような原料樹脂溶液には、樹脂成分が50〜60重量%の量で含有されており、また有機溶剤として、トルエン(bp.110℃)、キシレン(bp.138℃)などの芳
香族系溶媒を10〜15重量%、低沸点脂肪族炭化水素溶媒(例;ペンタン、メチルペンタン、n−へキサン、ヘプタンなどのbp.35〜100℃の脂肪族炭化水素系の溶媒)を20〜45重量%程度含有する。
【0161】
このような樹脂原料を使用すると、ペースト状防食塗料中には樹脂原料由来の有機溶媒が含有されるが、ペースト状防食塗料100重量部中における樹脂量は、固形分換算で、通常は10〜30重量部の範囲内にあるので、ペースト状防食塗料中における、樹脂原料に由来する上記有機溶剤の量は通常は4〜15重量%であり、このような樹脂原料由来の上記有機溶剤が含有されていても経時粘度が著しく変動することはない。
【0162】
また、ペースト状防食塗料を調製するに際しては、有機溶媒に溶解された樹脂原料を通常は10〜50重量部、好ましくは20〜40重量部、上記の亜鉛粉を、通常は40〜87.5重量部、好ましくは51.5〜76.5重量部、さらに、沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒を、通常は2.5〜10重量部、好ましくは3.5〜8.5重量部の範囲内の量で配合することにより、25℃における初期粘度を5000cp以上、好ましくは5000〜9000cpの範囲内に調整することができる。
【0163】
そして、このような量で沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒を使用することにより、経時粘度の上昇を、初期粘度に対して110%〜150%の範囲、好ましくは110%〜145%の範囲内に制御することができる。
【0164】
さらに、ペースト状防食塗料においては、樹脂固形分と亜鉛粉との含有量の比率は、重量比で、通常は10:15〜10:25、好ましくは10:16〜10:24の範囲内に設定する。
【0165】
このような量で樹脂固形分と亜鉛粉の使用量を設定することにより、貯蔵時に亜鉛粉が沈降し難くなると共に、得られる塗膜の防食性能がよくなり、さらに、得られる塗膜が良好な導電性を有するようになる。
【0166】
また、ペースト状防食塗料100重量部中に、樹脂と、沸点が140〜240℃の範囲内にある脂肪族炭化水素系溶媒との配合比率は、重量比で、通常は1:0.18〜1:0.72、好ましくは1:0.25〜1:0.62の範囲内に設定される。
【0167】
また、ペースト状防食塗料中には、通常は、原料樹脂に由来する溶剤と、沸点が140〜240℃の脂肪族炭化水素系溶媒とが含有されているが、このペースト状防食塗料中に含有される有機溶剤100重量部中における、沸点が140〜240℃の脂肪族炭化水素系溶媒の量を通常は2.5〜10重量部の範囲内の量、好ましくは3.5〜8.5重量部の範囲内の量にする。
【0168】
本実施例のペースト状防食塗料の有機溶剤中における沸点が140〜240℃の脂肪族炭化水素系溶媒の量を上記のような範囲内にすることにより、ペースト状防食塗料の粘度変化が、樹脂原料中に含まれる溶剤によって影響され難くなり、ペースト状防食塗料の粘度制御が容易になる。
【0169】
また、ペースト状防食塗料は、原料樹脂成分と、亜鉛粉と、溶剤とを、通常の混合装置を用いて均一に混合することにより製造することができる。
さらに、混練ロール装置などを用いて原料樹脂、亜鉛粉および溶剤を混練することによっても製造することができる。
【0170】
これらの成分の配合順序などは適宜設定することができるが、たとえば、亜鉛粉を溶剤
に分散させて、この分散液と原料樹脂とを混合する方法、原料樹脂と亜鉛粉とを混練して亜鉛粉を原料樹脂に均一に分散させた後、徐々に溶剤を加えて均一に混合する方法などを採用することができる。
【0171】
また、亜鉛粉は分割して徐々に加えることにより、亜鉛粉を良好に分散させることができる。
また、ペースト状防食塗料は、上記のように樹脂、亜鉛および溶剤を含有するものであるが、その他の成分を配合することもできる。
【0172】
たとえば、得られる防食被膜の耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤などの樹脂安定剤を配合することもできる。
さらに、このペースト状防食塗料には亜鉛粉以外の充填材を配合することもできる。
【0173】
このような亜鉛粉以外の充填材の例としては、炭酸カルシウム、微粉末状シリカなどを挙げることができる。
これらの充填材を配合することにより、ペースト状防食塗料の流動性を調整することができ、含有される亜鉛粉を沈降し難くすることが可能である。
【0174】
なお、ペースト状防食塗料に配合することができる充填材は、亜鉛粉による防食性を阻害しないものである。
上記のようなペースト状防食塗料は、25℃における初期粘度が5000cp以上、好ましくは5000〜9000cpの範囲にあり、通常の塗装刷毛を用いて、電力線などに厚塗り塗装することができる。
【0175】
また、ペースト状防食塗料を塗布して得られる防食塗膜は、防食対象物が必要とする防食に程度によってその膜厚を適宜設定することができるが、ペースト状防食塗料は、初期粘度が5000cp以上と比較的高いことから、一般の塗料よりも膜厚が厚くなる傾向があり、通常の場合、ペースト状防食塗料を用いて一回塗りで形成された塗膜の膜厚は、通常は100〜2000μmの範囲内にあり、さらに、重ね塗りすることにより、膜厚が100〜3000μmの防食塗膜を形成することができる。
【0176】
このような防食塗膜は、多量に含有される亜鉛粉により電気的な導通が確保され、導電性を示す。
従って、たとえば鉄などの基材表面にこの防食塗膜を形成すると、基材と防食塗膜とは、電気的に導通しており、鉄などの基材表面の一部にこの防食塗膜のよる被覆が不完全な部分があったとしても、防食塗膜に含有される亜鉛粉が犠牲電極となって、先に酸化されるために、基材である鉄の酸化腐食を防止することができる。
【0177】
このようにペースト状防食塗料から得られた防食塗膜が、上記のように良好な防食性を示すためには、この防食塗膜の体積抵抗率が、通常は0.4〜1.0Ω・cmの範囲内にする。
【0178】
このように塗膜の電気導電率を一定の範囲内にするためには、ペースト状防食塗料から形成される防食塗膜中の亜鉛粉が偏在しないように、ペースト状防食塗料の均一性が高く、さらに塗工作業中における塗布液(塗料)の粘度変化が小さいことが必要である。
【0179】
そして、ペースト状防食塗料は、経時的な粘度変化が小さく、たとえば高所作業のように作業中に粘度調整を行い難い場合であっても、均一性の高い防食塗膜を形成することができる。
【0180】
また、ペースト状防食塗料は、優れた防食性を有しており、飽和甘こう電極基準の自然電位が亜鉛よりも貴な金属の防食に通常の防食塗料と同様に使用することも可能であるが、ペースト状防食塗料から得られる防食塗膜は導電性を有しており、高い防食性を有すると共に防食塗膜が導電性であることを必要とする部材の防食塗料として好適に使用することができる。
【0181】
本実施例のペースト状防食塗料は、含有される亜鉛粉によって、電力線と鉄塔部分との接合部分においても良好な導電性が確立されるので、鉄塔自体をアースすることができる。
【0182】
以上、本発明の好ましい実施の態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることはなく、上記実施例では、線状部材として、電力線を例にとって説明したが、その他、例えば、送水管、ホース、ロープに対しても使用することが可能である。
【0183】
また、上記実施例では、電力線などの線状部材に防食塗料を塗布する塗布装置に対して塗布装置を移動させて使用する際に適用したが、塗布装置を固定して、線状部材を連続的に塗布装置内を通過させて、塗布液を塗布するように使用して用いることも可能である。
【0184】
さらに、本発明の塗布装置には、線状部材上を自動的に移動して塗布液を塗布できるようローラーなどを備えた自動機を取り付けて使用したり、電波発信機を取り付けて遠隔操作ができるようにするなど本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更や機能追加が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】図1は、本発明の塗布装置の実施例を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、図1の塗布装置の構成斜視図である。
【図3】図3は、図1の塗布装置の使用状況を説明する斜視図である。
【図4】図4(A)は図1の塗布装置の上面図、図4(B)は正面図、図4(C)は左側面図、図4(D)は右側面図である。
【図5】図5は、図4(C)の左側面図の拡大図である。
【図6】図6は、図4(B)の点線部分の部分拡大図であり、図6(A)(B)は、液切り部材の構成図である。
【図7】図7は、本発明の塗布装置の塗布液の流れを説明する模式図である。
【図8】図8は、本発明の塗布装置の別の実施例を説明する斜視図である。
【図9】図9は、本発明の塗布装置の別の実施例を説明する斜視図である。
【図10】図10は、本発明の塗布装置の別の実施例を説明する斜視図である。
【図11】図11は、本発明の塗布装置の別の実施例を説明する斜視図である。
【図12】図12は、本発明の塗布装置の別の実施例を説明する構成図である。
【図13】図13は、本発明の塗布装置の別の実施例を説明する部分切欠き斜視図である。
【図14】図14は、従来の塗布装置の実施例を説明する斜視図である。
【図15】図15は、従来の塗布装置の実施例を説明する正面図である。
【符号の説明】
【0186】
10 塗布装置
11 塗布装置本体
12 半円筒部材
12a 第1の半円筒部材
12b 第2の半円筒部材
12c 第3の半円筒部材
12d 第4の半円筒部材
13 第1の塗布液貯留室区画堰部材
14 塗布液回収室
15 第2の塗布液貯留室区画堰部材
16 塗布液貯留室
17 配管接続部
18a 塗布シール部材
18b 塗布シール部材
18c シール部材
18d シール部材
19 配管接続部
20 芯出し部材
20a 一端部
20b 他端部
21 液垂れ防止用堰部材
24 塗布液回収口
25 塗布液貯留タンク
26 塗布液導入口
27 塗布液貯留部分
28a 一端部
28 液切り部材
29 線状部材接触部
30 付勢部材
30a 先端部
31 堰部材
32 線状部材
33 シール部材装着用凹溝
34 噴出口
35 塗布液回収部分
36 ろ過装置
38 塗布液
40 ハンドル部
42 リング
44 ヒンジ
46 ポンプ
100 刷毛
102 電力線
200 架空送電線防食材塗布装置
202 外周面溝付ローラ
204 吊下げ支柱
206 吊下げ架台
208 防食剤タンク
210 防食剤供給用スクリュー機構内蔵管
212 防食剤過剰分絞りダイス
214 防食剤塗布鋼芯アルミ撚線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布するための線状部材の塗布装置であって、
一対の相互に着脱自在な半割形状の半円筒部材から構成され、半円筒部材を相互に緊締することによって、線状部材を挿通した状態となるように、線状部材に対して装着可能な塗布装置本体と、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、半円筒部材内周に形成された塗布液貯留室区画堰部材によって、塗布装置本体内部に画成される塗布液貯留室と、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体内部に画成され、塗布液貯留室の一端側に形成される塗布液回収室とを備え、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体を線状部材に沿って移動させることにより、線状部材が塗布液貯留室を通過し、これにより、線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布するように構成されるとともに、
前記塗布液貯留室から漏出した塗布液を、塗布液回収室を介して回収するように構成したことを特徴とする線状部材の塗布装置。
【請求項2】
前記半円筒部材の一端部には、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、線状部材の下方側に位置して、線状部材表面に塗布された塗布液の液切りを行う液切り部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の線状部材の塗布装置。
【請求項3】
前記液切り部材が、線状部材方向に付勢部材によって付勢されるように構成されていることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項4】
前記半円筒部材の一端部には、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、前記塗布液貯留室から漏出した塗布液を、塗布装置本体から外部に漏出しないようにする液垂れ防止用堰部材が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項5】
前記半円筒部材に形成された塗布液貯留室区画堰部材の内周に、塗布シール部材が付設され、これにより、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布液貯留室をシールするとともに、塗布液貯留室を通過する線状部材の表面に塗布液を塗布するように構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項6】
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体内部を通過する線状部材の中心軸芯方向を塗布装置本体の中心軸に一致する方向に付勢する芯出し部材が、半円筒部材内周に設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項7】
前記塗布液貯留室内に、塗布液を導入する塗布液導入口が形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項8】
前記塗布液貯留室内に、塗布液を噴出するための噴出口が形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項9】
前記塗布液回収室に、塗布液を回収する塗布液回収口が形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項10】
前記半円筒部材が、半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布液貯留室を構成する塗布液貯留室部分と、塗布液回収室を構成する塗布液回収部分とから構成され、
これらの塗布液貯留室部分と塗布液回収部分とが相互に回転自在に構成されていること
を特徴する請求項1から9のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項11】
前記塗布液が、防食塗料であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項12】
前記線状部材が、送電鉄塔間に配設される電力線であることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の線状部材の塗布装置。
【請求項13】
線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布するための線状部材の塗布方法であって、
一対の相互に着脱自在な半割形状の半円筒部材から構成され、半円筒部材を相互に緊締することによって、線状部材を挿通した状態となるように、線状部材に対して装着可能な塗布装置本体と、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、半円筒部材内周に形成された塗布液貯留室区画堰部材によって、塗布装置本体内部に画成される塗布液貯留室と、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体内部に画成され、塗布液貯留室の一端側に形成される塗布液回収室とを備え、
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体を線状部材に沿って移動させることにより、線状部材が塗布液貯留室を通過させ、これにより、線状部材の表面に塗布液を連続的に塗布するとともに、
前記塗布液貯留室から漏出した塗布液を、塗布液回収室を介して回収することを特徴とする線状部材の塗布方法。
【請求項14】
前記半円筒部材の一端部には、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、線状部材の下方側に位置して、線状部材表面に塗布された塗布液の液切りを行う液切り部材が設けられており、これにより、線状部材表面に塗布された塗布液の液切りを行うことを特徴とする請求項13に記載の線状部材の塗布方法。
【請求項15】
前記液切り部材が、線状部材方向に付勢部材によって付勢されるように構成されていることを特徴とする請求項13から14のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。
【請求項16】
前記半円筒部材の一端部には、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、前記塗布液貯留室から漏出した塗布液を、塗布装置本体から外部に漏出しないようにする液垂れ防止用堰部材が設けられていることを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。
【請求項17】
前記半円筒部材に形成された塗布液貯留室区画堰部材の内周に、塗布シール部材が付設され、これにより、前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布液貯留室をシールするとともに、塗布液貯留室を通過する線状部材の表面に塗布液を塗布することを特徴とする請求項13から16のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。
【請求項18】
前記半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布装置本体内部を通過する線状部材の中心軸芯方向を塗布装置本体の中心軸に一致する方向に付勢する芯出し部材が、半円筒部材内周に設けられ、これにより線状部材の芯出しを行うことを特徴とする請求項13から17のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。
【請求項19】
前記塗布液貯留室内に、塗布液を導入する塗布液導入口が形成され、前記塗布液導入口を介して塗布液を導入することを特徴とする請求項13から18のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。
【請求項20】
前記塗布液貯留室内に、塗布液を噴出するための噴出口が形成され、この噴出口を介し
て塗布液を塗布液貯留室内に噴出することを特徴とする請求項13から19のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。
【請求項21】
前記塗布液回収室に、塗布液を回収する塗布液回収口が形成され、この塗布液回収口を介して塗布液を回収することを特徴とする請求項13から20のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。
【請求項22】
前記半円筒部材が、半円筒部材を相互に緊締した装着状態で、塗布液貯留室を構成する塗布液貯留室部分と、塗布液回収室を構成する塗布液回収部分とから構成され、
これらの塗布液貯留室部分と塗布液回収部分とが相互に回転自在に構成されていることを特徴する請求項13から21のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。
【請求項23】
前記塗布液が、防食塗料であることを特徴とする請求項13から22のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。
【請求項24】
前記線状部材が、送電鉄塔間に配設される電力線であることを特徴とする請求項13から23のいずれかに記載の線状部材の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−50350(P2007−50350A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237519(P2005−237519)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】