説明

繊維強化プラスチック、その製造方法、およびその製造キット

【課題】コンクリートなどといった被着体に接着する繊維強化プラスチックを作業現場で簡単な工程で所期の設計どおりに製造する方法を提供すること。
【解決手段】補強繊維の存在下で2液硬化型樹脂を硬化させて、被着体1に接着した繊維強化プラスチック20を製造する方法であって、被着体1上に、2液硬化型樹脂の一方の成分を含有する第1のシート11および2液硬化型樹脂の他方の成分を含有する第2のシート12をこの順序で積層する工程、ならびに、得られた積層体1、11、12を加圧して2液硬化型樹脂の両成分を接触させて硬化反応を生ぜしめる工程、を有し、第1および第2のシート11、12の少なくとも一方は補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の各成分が含浸されてなるものである、上記製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック、繊維強化プラスチックの製造方法、および、繊維強化プラスチック製造キットに関する。本発明は、特に、補修、補強が必要なコンクリート、金属、プラスチック、FRP、セラミック等が表面に存在する構造物の表面に成型する繊維強化プラスチックの製法として好適である。
【背景技術】
【0002】
(1)最も多く利用されている公知の技術では、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等の補強繊維を、エポキシ接着剤、不飽和ポリエステル接着剤、アクリル接着剤等の含浸接着剤により、補修、補強が必要な被着体に貼付した後、同接着剤を補強繊維に気泡が入らないように入念に脱泡ローラー、ヘラ等で含浸、一体化させ、その含浸接着剤が硬化したものを繊維強化プラスチックとしていた。
【0003】
(2)現場での含浸接着剤による補強繊維への含浸作業を軽減、解消する目的で、光硬化型含浸接着剤、湿気硬化型含浸接着剤、熱硬化型含浸接着剤等の、特定の刺激により後硬化が可能な含浸接着剤を、予め補強繊維に含浸させておき、被着体に貼付後、特定の刺激を与えて含浸接着剤を硬化させ、被着体と一体化することによって、繊維強化プラスチックを得ていた。
【0004】
(3)特許文献1によれば、2液硬化型樹脂の第一成分を強化繊維を主体とした補強基材に含浸してなるプリプレグに2液硬化型樹脂の第二成分をそれに塗布して構造物の補強すべき構造要素の表面に貼り付けて硬化させ、繊維強化プラスチックを設定していた。
【0005】
(4)特許文献2によれば、2液常温硬化型接着剤の一方の液(A剤)を被着体に塗布した後、強化繊維からなるシート状物を貼付し、貼付した強化繊維からなるシート状物の表面に2液常温硬化型接着剤のもう一方の液(B剤)を塗布し、そのB液塗布面に更にA液を塗布し、2液硬化型接着剤を硬化せしめて、繊維強化プラスチックを設定していた。
【0006】
(5)特許文献3によれば、炭素繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等の補強繊維からなるシート状基材に、エポキシ含浸接着剤、アクリル系含浸接着剤、不飽和ポリエステル系含浸接着剤等の樹脂含浸接着剤を含浸させて形成した硬化可能な繊維強化プラスチックの少なくとも片面に感圧接着剤層を設けて、補修、補強が必要な被着体に、その感圧接着剤層を介して、硬化可能な繊維強化プラスチックを貼付した後、常温硬化、加熱硬化、光(紫外線、可視光線等)硬化などの硬化方法により、硬化可能な繊維強化プラスチックを硬化せしめて、繊維強化プラスチックを設定していた。
【0007】
(6)特許文献4によれば、補強繊維を不燃難燃ボードの片面に含浸接着剤により含浸接着させた複合パネルを、補強繊維側を、被着体に向かい合うように間隙を設けて固定し、複合パネルの周囲と被着体をパテ状接着剤で目貼りし、その後、複合パネルに注入孔を設けて、接着剤を複合パネルと被着体との間隙に注入し、硬化させ、複合パネルを被着体に設定していた。
【特許文献1】特開平8−253604号公報
【特許文献2】特開平10−110536号公報
【特許文献3】特開2002−47809号公報
【特許文献4】特許3839446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記(1)の技術については、補強繊維を被着体に含浸接着剤により、気泡等を含むことなく接着、含浸させる作業は、労力が多く、作業者の熟練度合いにより、バラツキが発生してしまい、品質、接着剤の使用量が安定しない問題が存在する。又、繊維強化プラスチックを設定する箇所が壁面や天井面の場合、含浸接着剤をその面に塗布すると、含浸接着剤の未硬化時の凝集力や付着力によっては含浸接着剤が落下してしまい、第3者等を汚染してしまう恐れがある。又、設定された繊維強化プラスチック上に塗料を塗布する場合は、含浸接着剤が硬化してからとしている為に、通常、1日以上の間隔を開けて、塗料を塗布することとなるが、都合により、直ちに塗料を塗布する場合は、硬化速度の速い含浸接着剤を使用する。しかし、完全に含浸接着剤が補強繊維に含浸する前に硬化してしまい、繊維補強プラスチックとならない問題がある。又、作業環境が高温であると、含浸接着剤の硬化反応が促進され、完全に含浸する前に硬化してしまい、繊維補強プラスチックとならない問題がある。又、被着体の形状に合わせて、予め補強繊維を切断する場合があるが、繊維種によっては切断が難しい場合や、ガラス不織布の場合は切断によって繊維が大気中に浮遊し、作業者や近隣者の皮膚や呼吸器等を刺激してしまい、衛生上の問題がある。
【0009】
上記(2)の技術については、予め後硬化が可能な含浸接着剤を含浸させた補強繊維を、被着体に貼付し、特定の刺激を与えて、接着硬化させる技術は、作業者の熟練度によらない為、品質の高い施工方法であるが、その刺激方法の多くが、光、湿気、熱によるものである為に、その保管、取扱方法により、施工前に硬化が進んでしまう問題と、ある一定環境下での使用であれば、その刺激の質、量を特定可能であるが、土木構造物への適用の場合は、湿気の高低、屋外、屋内、気温の高低等のさまざまな環境条件がある為、品質が安定しない問題がある。又、被着体へ貼付後、被着体側の逆面より刺激を与えて、ラジカル反応により被着体との界面まで反応を到達させ硬化させる為に、刺激を与えた面付近では硬化しているものの、被着体との界面では未硬化であることもあり、確認が困難という問題がある。又、光硬化含浸接着剤の場合は、補強繊維として最も補強効果が高い炭素繊維、アラミド繊維、PBO繊維等では、光を透過しない為に、採用できない問題がある。
【0010】
上記(3)、すなわち特許文献1の技術については、予め2液硬化型樹脂の第1成分を、強化繊維を主体とした補強基材に含浸させプリプレグとし、補強直前に第2成分をプリプレグに塗布して構造体に貼り付け、繊維強化プラスチックを設定する為、補強基材の透光性や環境温度、湿度等によらずに品質は安定するが、第2成分をプリプレグに塗布することは、視認性の観点より均一に塗布することは難しく、塗布されない箇所も発生してしまうことと、塗布した時点で硬化反応が開始され、被着体へ接着させる前に硬化してしまう恐れがあり、硬化不良、接着不良の原因となる。又、それらを改善する目的と、補強基材を複数層重ねて貼付する場合は、プリプレグに第2成分を塗布して順次重ね、成型した後、被着面に第2成分を塗布し、複数層に成型された繊維強化プラスチックの被着面側に第1成分を塗布して密着させ硬化させることが提案されているが、被着面が平面かつ平滑な場合は良いが、湾曲していたり細かい凸凹がある場合には、繊維強化プラスチックが被着面に密着できずに、補強、補修効果を損なう恐れがある。
【0011】
上記(4)、すなわち特許文献2の技術については、2液常温硬化型接着剤の一方の液(A剤)を被着体に塗布後、強化繊維からなるシート状物を貼付し、もう一方の液(B剤)をシート状物に塗布し、さらにA剤を塗布する為に、硬化反応は速やかで、作業時間は短縮されるが、2液常温硬化型で、2液を混合せずに接触させるだけで硬化する特許文献2で用いる接着剤は、ラジカル重合反応の為、A剤、B剤の量に因らずに速やかに硬化反応が起こってしまう為に、被着体に塗布したA剤とB剤が速やかに硬化反応が進行し、さらに塗布するA剤と反応するB剤が欠乏してしまい、表面が硬化しない恐れがある。
【0012】
上記(5)、すなわち特許文献3の技術については、硬化可能な樹脂が含浸されている連続補強繊維に、予め感圧接着層が積層され、感圧接着層を介して被着体に接着させた後、硬化可能な樹脂を硬化させる為に、気泡等を含むことが無く、品質は安定するが、感圧接着層は、粘着剤の為に、強固に接着させる用途には不向きであったり、又、予め連続繊維に含浸されている硬化可能な樹脂は、温度、光により硬化することとなっているが、補修、補強が必要な構造物の周囲環境はさまざまであり、その保管や取扱が難しい問題がある。又、常温硬化の場合は、硬化速度によっては、被着体に接着させる前に硬化してしまう問題がある。
【0013】
上記(6)、すなわち特許文献4の技術については、複合パネルに積層されている補強繊維は予め含浸接着剤により不燃難燃ボードに固定され繊維強化プラスチックとなっており、それを被着体に仮固定して、被着体と複合パネルの間隙に接着剤を注入し接着固定している為、気泡等を含浸接着剤に含むことなく、品質は安定し、施工も簡便であるが、不燃難燃ボードが積層されている為、複合パネルは硬く、被着面の細かい凸凹や、被着体が湾曲している場合には、その形に追随することは不可能な為、被着面から複合パネルの距離が管理不能となり、接着剤の使用量の設定が難しい問題と、補強効果にバラツク問題がある。又、複合パネルは、それを貫通するボルト孔、注入孔を設ける必要がある為、補強繊維の連続性が損なわれる問題がある。又、複合パネルと被着体との周囲の間隙に予め目貼りしてから接着剤を複合パネルと被着体との間隙に注入するが、目貼りが不完全な場合、不完全な箇所より接着剤が流出する問題がある。
【0014】
これらのことに鑑みて、本発明は、コンクリート、金属、プラスチック、FRP、セラミック等の補修、補強が必要な構造物(被着体)に対して、簡便かつ確実に適用でき、環境条件によらずに品質が安定である繊維強化プラスチック、その製造方法および製造キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者が鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
(1)被着体に接着した繊維強化プラスチックを製造する方法であって、
当該繊維強化プラスチックは補強繊維の存在下で2液硬化型樹脂を硬化させてなるものであり、
被着体上に、2液硬化型樹脂の一方の成分を含有する第1のシートおよび2液硬化型樹脂の他方の成分を含有する第2のシートをこの順序で積層する工程、ならびに、
得られた積層体を加圧して2液硬化型樹脂の両成分を接触させて硬化反応を生ぜしめる工程、を有し、
第1および第2のシートの少なくとも一方は補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の一方または他方の成分が含浸されてなるものである、上記製造方法。
(2)第1のシートが補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の一方の成分が含浸されてなるものであり、第2のシートが補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の他方の成分が含浸されてなるものである(1)記載の製造方法。
(3)第1および第2のシートの一方は2液硬化型樹脂の一方または他方の成分を含有するゲル状物からなりかつ補強繊維を含まないシートである、(1)記載の製造方法。
(4)2液硬化型樹脂が2液主剤型アクリル接着剤である(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)2液硬化型樹脂が2液硬化型エポキシ接着剤である(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(6)積層前の第2のシートの1つの主面には2液硬化型樹脂の各成分の透過を妨げる分離層が設けられていて、前記分離層が第1のシートとは反対側になるような向きで、第1および第2のシートを被着体上に積層し、さらに、前記分離層上に第1および第2のシートを再び積層して加圧することによって、前記分離層を介して2層以上の繊維強化プラスチックの層を形成させる、(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)被着体がコンクリート体である(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法により製造された繊維強化プラスチック。
(9)2液硬化型樹脂の一方の成分を含有する第1のシートと、2液硬化型樹脂の他方の成分を含有する第2のシートとを有する繊維強化プラスチック製造キットであって、第1および第2のシートの少なくとも一方は補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の一方または他方の成分が含浸されてなるものであり、当該キットは2液硬化型樹脂の両成分を接触させて硬化反応を生ぜしめるように、第1および第2のシートを積層して次いで加圧して使用され、補強繊維の存在下で硬化した2液硬化型樹脂が繊維強化プラスチックとなるものである、上記キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、現場での接着剤の計量作業、塗布作業、含浸作業は不要であり、作業の熟練も要さず、品質のバラツキも発生しにくく、接着剤が飛び散ったり、接着剤が落下して第3者を汚染するという不都合が生じにくい。2液硬化型樹脂の各成分は各々のシートとしてあらかじめ成型されているから、現場において樹脂量を管理する必要が無く、使用量管理が容易である。第1および第2のシートの接触界面より硬化反応が開始するため、各シート(特に第2のシート)の接触面とは反対側の面が硬化していることを確認すれば、全体的に硬化していることが容易に判断できる。硬化反応は、各シートの積層作業が終了した後に開始するから、作業の失敗や品質のバラツキが発生しにくい。補強繊維の量と硬化樹脂成分の量は第1および第2のシートを調製することによって設定できるので、作業者の熟練度に依存することなく補強効果に優れる繊維強化型プラスチックを得ることができる。
【0017】
補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の成分が含浸されてなるシートでは、樹脂成分の保液能力が高く、保管時に液剤が鉛直方向へ偏ったり、分離しにくい。布状層は種々の繊維基材から選ぶことができ、種々の被着体の材質や補修、補強の条件、目標品質に適合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明を詳述する。しかし、本発明は図示された態様に限定されない。
図1は、本発明による繊維強化プラスチックの製造の概念図である。図1(A)は第1および第2のシートを被着体に積層した状態を表しており、図1(B)は2液硬化型樹脂が硬化してなる繊維強化プラスチックが被着体に接着している状態を表している。本発明の要点は、2液硬化型樹脂の各々の成分を独立した複数枚のシート11、12に各々含有させておき、それらのシート11、12を積層次いで加圧することによって硬化反応を生ぜしめることにある。本発明によれば、被着体1へ接着した繊維強化プラスチック20を好適に製造できる。本明細書では、被着体1へシート11、12を積層するとき、被着体1に近い方から順に第1のシート、第2のシートと呼ぶ。本発明によれば、繊維強化プラスチックを得るために、第1のシート11および第2のシート12の少なくとも一方は、補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の所定の成分が含浸されてなる形態である。
【0019】
図2は、補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の所定の成分が含浸されてなる形態のシート10の断面図である。このような形態のシートは典型的にはプリプレグと呼ばれるものである。このような形態のシートを第1のシートとしてもよいし、第2のシートとしてもよい。第1および第2のシートを両方とも補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の所定の成分が含浸されてなる形態にしてもよい。図2のシートでは補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の一方または他方の成分が含浸されている。含浸の際には気泡が少ない方がよく、図示されるように離型フィルム2を任意的に有していてもよい。
【0020】
布状層は、織布、編布、組布、不織布や積層布等からなり、好ましくは含浸性に優れ、2液硬化型樹脂の各成分を吸収しやすく保液能力に優れるものが良い。布状層の単位断面積S、その単位断面積に存在する繊維の断面積Sについては、好ましくはS/S×100%≦5%である。前記範囲内であれば、2液硬化型樹脂の各成分を保液しやすく、保管、取扱いが容易である。
【0021】
図2の形態のシートを得る方法としては、2液硬化型樹脂の一方または他方の成分を含み、20℃の環境下での粘度が好ましくは500〜8000mPa・sの範囲である液剤を調製しておき、この液剤を布状層に含浸させる方法が挙げられる。前記粘度範囲であれば、布状層に気泡無く充分に液剤を含浸させやすくなる。液剤の粘度が低いと、布状層にいったん含浸した液剤が布状層から流出しやすい傾向にあり、液剤の粘度が高いと、布状層へ液剤が含浸しにくい傾向があり、結果として、布状層に気泡や空気だまりが残り、最終的に得られる繊維強化プラスチックの一体性に劣る傾向がある。液剤には、2液硬化型樹脂の一方または他方の成分以外の物質が含有されていてもよい。
【0022】
ここで、補強繊維は繊維強化型プラスチックにおける繊維として用いられるものから特に制限なく選択することができ、好適には、炭素繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、PBO繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、セルロース系繊維、ナイロン繊維、オレフィン系繊維、ガラス繊維、鉱物繊維および金属繊維からなる群の中から選ばれる少なくとも1種である。補強繊維からなる布状層の形態は特に限定なく、好適には織布、編布、組布、不織布および積層布からなる群の中から選ばれる少なくとも1種の基材である。また好適には、布状層は繊維基材が2方向以上の糸状を網目状に交差させて積層した多軸積層布であり、そのような構成では、被着体から孕むような変異があるコンクリート片はく落防止効果が高い。
【0023】
積層前のシートには離型フィルム(セパレーター)が設けられていてもよく、その場合は、積層直前に該フィルムを除去することが保管、移送を容易にし、積層作業において周囲や作業者を汚染しにくくなる点で好ましい。離型フィルムは第1および第2のシートの各々の両主面に設けてもよいし、片方の主面のみに設けられていてもよい。好適には、第1のシートのうち、被着体へ接する主面に離型フィルムが設けられ、また、第2のシートのうち、第1のシートに接する主面に離型フィルムが設けられ、積層時にこれら離型フィルムは剥離される。
【0024】
本発明によれば、第1および第2のシートの両方に布状層が存在していてもよいし、どちらか一方には布状層が存在しなくてもよい。
布状層が存在しないシートとしては、2液硬化型樹脂の一方または他方の成分を含有するゲル状物からなるシートが挙げられる。シートとしての成型性や、離型フィルムが存在する場合の離型性などを考慮すると、ゲル状物の凝集力や粘性を向上させる必要がある。その際、ゲル状物にエラストマーや増粘剤等を添加する等、公知の接着剤の凝集力、粘性を向上させる技術を採用することが可能である。ゲル状物からなるシートには離型フィルムが設けられていてもよく、その場合、そのシートと離型フィルムとの付着力Fおよびゲル状物の凝集力Wの間に好ましくはF<Wなる関係が成立する。このような関係が成立すれば、シートから離型フィルムを容易に除去でき、離型フィルムの除去の際に該フィルムへのゲル状物の凝集破壊が生じにくい。
【0025】
本発明によれば、繊維強化プラスチックは上述した補強繊維の存在下で2液硬化型樹脂を硬化させることによって得られる。2液硬化型樹脂は所定の2成分、すなわち「一方の成分」と「他方の成分」とが接触することで硬化する樹脂であり、本発明では、一方の成分と他方の成分とを別々のシートに含有させておくことに特徴がある。ここで、2液硬化型樹脂の各成分は一つの化合物であってもよいし、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0026】
好ましくは、2液硬化型樹脂は2液主剤型アクリル樹脂である。2液主剤型アクリル樹脂は、一方の成分および他方の成分の両方に樹脂成分を含み、それら両成分が接触して硬化してなるアクリル樹脂である。2液主剤型アクリル樹脂はラジカル反応により硬化する。2液主剤型アクリル樹脂によれば、第1および第2のシートを接触させれば、シート全体が速やかに硬化し、施工期間を短縮することが可能である。2液主剤型アクリル樹脂の一方の主剤(成分)には少なくともアクリルモノマー、エラストマーおよび重合開始剤が含まれ、他方の主剤(成分)には、少なくともアクリルモノマー、エラストマー、還元剤が含まれる。このような主剤構成にして、各主剤を第1のシートと第2のシートとに分けて含有させることによって、保管中の不所望な硬化や変質を防止することができる。
【0027】
本発明によれば、2液硬化型樹脂はアクリル樹脂には限定されず、種々の樹脂を用いることができる。2液硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
2液硬化樹脂としてエポキシ樹脂などといった2液混合型の樹脂を用いる場合には、2液硬化型樹脂の両成分を接触させるだけでは全体が硬化しにくいことがあるので、第1および第2のシートの積層後の加圧時に、突起があるローラー等で擦ることが好ましい。
【0028】
積層前の第2のシートには好ましくは保護層が設けられる。保護層は例えば耐侯性を有する層であり、例えば、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等の群から選ばれる、1種又は2種以上の合成樹脂からなる層である。こういった保護層は、屋外にて長期間紫外線に暴露される土木構造物に好適に使用できる。これら保護層は、積層前の第2のシートの片側の主面に設けておき、用時に保護層が第1のシートとは反対側になるような向きで積層すればよい。第2のシートを製造する段階で予め保護層を設けることができるため、作業現場等において保護層を設けるような補修、補強作業を行う必要が無く、大幅に作業を簡略化、短縮することが可能である。
【0029】
別の好ましい態様では、積層前の第2のシートには好ましくは分離層が設けられる。分離層は2液硬化型樹脂の各成分の透過を妨げる層である。分離層は、好ましくは、被覆された金属箔または合成樹脂フィルムであり、前記被覆は繊維基材または紙によるものである。合成樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、オレフィン系フィルムなどが挙げられる。繊維基材としては不織布などが挙げられる。これら分離層は、積層前の第2のシートの片側の主面に設けておき、用時に分離層が第1のシートとは反対側になるような向きで積層すればよい。このように分離層を設けると、繊維補強プラスチックを複数積層させなくてはならない場合において、各層の2液硬化型樹脂の成分が不所望に接触しにくくなるので、硬化不良、硬化異常といった問題が発生しにくい。分離層を設ける別の利点として、施行直後に繊維強化プラスチックに塗料を塗布しなくてはならない場合であっても、2液硬化樹脂の硬化を待つ必要がなく、大幅に作業を短縮することが可能である。さらに、垂直面や天井面への施工においても、2層目以降の樹脂や塗料が垂れたり、品質にバラツキが発生したりする不都合が生じにくい。
【0030】
積層および加圧時に第1および第2のシートの全体にまで2液硬化型樹脂の各成分が浸透して全体を硬化させるためには、シートの厚さは好ましくは10mm以下である。とくに、2液硬化型樹脂が逐次反応により硬化する場合、充分に2つの成分が混合されることが重要であり、シートは薄いほど好ましい。一方、シートの厚さの下限は特に定められるものではないが、取扱いやすさや、製造工程上などの観点から0.1mm程度である。
【0031】
第1および第2のシートの製造方法は特に限定されない。図3は、第1または第2のシートを製造する装置の一例の構成図である。この装置では補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の一方または他方の成分を含浸してなるシートを得ることができる。
【0032】
布状層は、送り出しロール31から送出され、2液硬化型樹脂の一方または他方の成分を含有する液剤40が満たされている液剤貯留槽37に供給される。このとき、布状層に液剤40が含浸される。次に、含浸済みの布状層は、ピンチロール32へと送出される。ピンチロール32では、一対のロールの間隔を調製することで余分な液剤が搾りだされ、液剤の含浸量が調節される。これによって、第1または第2のシートの基本的な構成が成立する。布状層とは別の送り出しロール33から離型フィルム(セパレーター)を送出して、ニップロール35で布状層に積層してもよく、最終的に巻き取りロール36で回収される。必要であれば、さらに別の送り出しロール34から、保護層、補強層や分離層などをシートに積層させることができる。保護層、補強層、それら両方を積層させる場合は、予めそれらの層を積層して、1つの送り出しロールから送出したり、送り出しロールを1つ追加して、それぞれを送出して積層させることも可能である。
【0033】
第1および第2のシートの製造は、図3の装置には限られず、例えば、上記の例において液剤貯留槽37の代わりに接着剤コーター(図示せず)を用い、布状層を送出する速度およびコーターからの液剤量を制御することによって補強繊維に対する2液硬化型樹脂の一方または他方の成分の量を調節することも可能であり、保護層や分離層などはドライラミネート等の公知の技術で形成することも可能である。さらに、補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の一方または他方の成分をより確実に含浸させるために、含浸後のシートを減圧容器に放置してもよい。
【0034】
布状層を有さないシートを製造する場合には、例えば、送り出しロールから離型フィルムを送出し、そのフィルム上に接着剤コーターを用いて、2液硬化型樹脂の一方または他方の成分を含有する液剤を均一に塗布してもよい。塗布後に乾燥することにより、前記液材のゲル状物からなるシートを得ることができる。
【0035】
本発明によれば、被着体1に、上述の第1のシート11および第2のシート12を積層して加圧する。ここで、2液硬化型樹脂の両成分が混合して効果反応を生じるように、積層時には、第1のシート11と第2のシート12とは通常は直接接触するように積層される。加圧の程度は、2液硬化型樹脂の両成分が互いに接触し合う程度でよく、例えば、コンクリートの補修現場においてローラーやヘラなどの工具で押し付けることによる加圧が挙げられる。このような加圧によって、2液硬化型樹脂の両成分が互いに接触して硬化反応が生じ、このとき、少なくとも一方のシートには補強繊維による布状層が存在しているから、硬化物として繊維強化プラスチック20が得られる。このようにして得られた繊維強化プラスチックもまた本発明の範囲内である。
【0036】
第1および第2のシートに離型フィルムが設けられている場合、好ましくは、第1のシートの離型フィルムを剥離して露出した面を被着体に向けて積層し、第2のシートの離型フィルムを剥離して露出した面を第1のシートに向けて積層する。
【0037】
被着体としては、コンクリート、金属、プラスチック、繊維強化プラスチック、セラミック、木材などが挙げられ、制限は特にない。被着体の表面が濡れていたり、鏡面であったり、液状物を吸収してしまうような状態であると、一般的には接着が難しい。そのような場合は、被着体の被着面を乾燥させたり、目粗しをしたり、プライマーを塗布して面を創出するなどといった公知の手法で、良好な被着面を形成しておくことが好ましい。
【0038】
可能であれば、積層前に被着体1と第1のシート11との間で接着性を確認することが好ましい。被着体1から第1のシート11が剥離しやすかったり、被着体1と第1のシート11との間で良好な接着が得られにくい場合には、プライマー塗布、目粗し、化成処理、火炎処理、コロナ放電処理、プラズマ処理などといった公知の表面処理技術を施すことが好ましい。
【0039】
被着体1、第1のシート11および第2のシート12の積層体については、各シートにおける界面に残留する気泡をなるべく少なくするように、ローラー、ヘラ等が好ましく使用される。気泡が残留してしまうと、繊維強化プラスチックとしての一体性に問題が発生したり、2液硬化型樹脂の硬化反応が阻害される恐れがある。
【0040】
第1および第2のシートは互いに同じ形状であることが好ましい。同じ形状で無い場合には、2液硬化型樹脂の一方の成分が対になる他方の成分と接触しない可能性があり、結果として硬化不良や未硬化箇所の発生といった問題が懸念される。このような問題を減らすため、外部刺激により各シート単独で後から硬化させることができるような措置を施しておいてもよい。そういった措置としては、例えば、紫外線等の外部刺激により硬化が可能な物質を第1及び/又は第2のシートに予め添加させることなどが挙げられる。
【0041】
本発明によれば、第1および第2のシートの全体が完全に硬化することが好ましい。両シートの接触界面から遠い部分では硬化が不完全になる可能性は否定できないが、その場合であっても、両シートの接触箇所付近では硬化物としての繊維強化プラスチックが得られていることから、本発明の範囲に属する。
【0042】
本発明によれば、第1および第2のシートは工場等で各成分の種類や量を綿密に調整して製造しておいて、使用現場においては単に両シートを積層して加圧するという簡便な工程によって、所期の設計に近い繊維強化プラスチックを得ることができる。したがって、繊維強化プラスチックの製造キットとして第1および第2のシートを把握することも可能である。すなわち、上述してきた第1および第2のシートを有する繊維強化プラスチック製造キットもまた本発明の範囲内である。当該製造キットには、第1および第2のシートに加えて、例えば、これらのシートを積層して加圧して用いるべきことを記載した説明文書や加圧用のヘラやローラーなどが含まれていてもよい。
【0043】
本発明による繊維強化プラスチックを接着する被着体は特に限定はない。コンクリート体(構造物)は、さまざまな環境で、さまざまな品質が期待されている為、本発明による補修、補強による利点を効果的に享受できる。被着体の材質や補修、補強の目的などに応じて、補強繊維の種類や量を適宜調節することができる。被着体の形状に合わせてシートを予め切断することができ、そのように切断しておけば工事現場における作業も容易である。
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
<コンクリート構造物の補強>
・被着体:コンクリート
・第1のシート
布状層:ポリエステル不織布(国光製紙製 リフロンEP−40)
2液主剤型アクリル接着剤 A剤(アクリルモノマー、エラストマー、重合開始剤含有)粘度4000mPa・s
離型フィルム(両面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
第1のシートの製造:
図3に示す装置にて、上記材料により第1のシートを製造した。A剤の布状層への含浸量は400g/mとした。図4はこのようにして得られたシートの断面図であり、シート10の両主面に離型フィルム2が設けられている。
・第2のシート
布状層:炭素繊維(日石三菱製 TUクロスHT300)
2液主剤型アクリル接着剤 B剤(アクリルモノマー、エラストマー、還元剤含有)粘度4000mPa・s
離型フィルム(両面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
第2のシートの製造:
図3に示す装置にて、上記材料により第2のシートを製造した。B剤の布状含浸層への含浸量は400g/mとした。第2のシートの断面も図4のように表される。
【0046】
コンクリート表面の脆弱部をサンディングにより除去した。第1のシートの両面に設けられた離型フィルムのうちの一枚を除去して、コンクリートの繊維強化プラスチックを設定すべき位置に該シートを貼付した。コンクリートと第1のシートとの界面に気泡が残らないように、ローラーおよびヘラを使用して、第1のシートに残っている離型フィルムの上から押し付けた。その後、第1のシートに残っている離型フィルムを除去した。第2のシートの両面に設けられた離型フィルムのうちの一枚を除去して、該第2のシートを第1のシート上に積層した。気泡等が界面に残留しないように、ローラー、ヘラを使用して積層体の上から押し付けた。
そのまま20℃環境下で30分放置したところ、両シートの樹脂は完全に硬化し、繊維強化プラスチックになって、コンクリートに設定されていることを確認した。
【0047】
得られた繊維強化プラスチックの各種強度を確認した。
(1)建研式接着力試験機による引っ張り試験
試験数3(1.9,3.5,1.9N/mm)全ての試験でコンクリート凝集破壊を認めた。
(2)曲げ強度試験(JIS A1106に準拠)
試験数3(15.6,14.1,15.1N/mm)全ての試験で、繊維強化プラスチック設定箇所での破壊は認められなかった。
上記の結果から被着体の補強効果が認められた。
【実施例2】
【0048】
<FRP小型船の補修>
・被着体:FRP
・第1のシート(図4参照)
布状層:ガラスクロス(日東紡製 WR570 C−100)
2液主剤型アクリル接着剤 A剤(アクリルモノマー、エラストマー、重合開始剤含有)粘度4000mPa・s
離型フィルム(両面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
第1のシートの製造:
図3に示す装置にて、上記材料により第1のシートを製造した。A剤の布状層への含浸量は400g/mとした。
・第2のシート(図4参照)
布状浸:ガラスクロス(日東紡製 WR570 C−100)
2液主剤型アクリル接着剤 B剤(アクリルモノマー、エラストマー、還元剤含有)粘度4000mPa・s
離型フィルム(両面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
第2のシートの製造:
図3に示す装置にて、上記材料により第2のシートを製造した。B剤の布状層への含浸量は400g/mとした。
【0049】
損傷したFRP箇所を小型船から除去し、除去した部分をパテ状接着剤で埋めて周囲と平滑になるように均し、その後、損傷周囲をサンディングして目粗しした。第1のシートの両面に設けられた離型フィルムのうちの一枚を除去して、繊維強化プラスチックで補修すべき位置に該シートを貼付した。補修すべき部位と該シートとの界面に気泡が残らないように、ローラーおよびヘラを使用して、第1のシートに残っている離型フィルムの上から押し付けた。その後、第1のシートに残っている離型フィルムを除去した。第2のシートの両面に設けられた離型フィルムのうちの一枚を除去して、該第2のシートを第1のシート上に積層した。気泡等が界面に残留しないように、ローラー、ヘラを使用して積層体の上から押し付けた。
そのまま屋外で15℃環境下で60分放置したところ、両シートの樹脂は完全に硬化し、繊維強化プラスチックになって、補修が完了していることを確認した。その後、周囲に使用されている同系の塗料を補修箇所に塗布した。
【実施例3】
【0050】
<FRP防水補修>
・被着体:FRP
・第1のシート(図4参照)
布状層:ガラス不織布(日東紡製 MC380A−100)
2液主剤型アクリル接着剤 A剤(アクリルモノマー、エラストマー、重合開始剤含有)粘度4000mPa・s
離型フィルム(両面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
第1のシートの製造:
図3に示す装置にて、上記材料により被着体側接着層を作成した。A剤の布状層への含浸量は550g/mとした。
・第2のシート(図4参照)
布状層:ガラス不織布(日東紡製 MC380A−100)
2液主剤型アクリル接着剤 B剤(アクリルモノマー、エラストマー、還元剤含有)粘度4000mPa・s
離型フィルム(両面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
第2のシートの製造:
第3図に示す装置にて、上記材料により被覆接着層を作成した。B剤の布状層への含浸量は550g/mとした。
【0051】
水槽床面壁面防水に使用されているFRPの補修を実施した。損傷したコンクリートスラブに接着されている防水FRP層を除去した。前記スラブにプライマーを塗布し、プライマーを指触乾燥した。第1のシートの両面に設けられた離型フィルムのうちの一枚を除去して、該スラブの繊維強化プラスチックを設定すべき位置に該シートを貼付した。プライマーと該シートとの界面に気泡が残らないように、ローラーおよびヘラを使用して、第1のシートに残っている離型フィルムの上から押し付けた。その後、第1のシートに残っている離型フィルムを除去した。第2のシートの両面に設けられた離型フィルムのうちの一枚を除去して、該第2のシートを第1のシート上に積層した。気泡等が界面に残留しないように、ローラー、ヘラを使用して積層体の上から押し付けた。そのまま20℃環境下で60分放置したところ、両シートの樹脂は完全に硬化し、繊維強化プラスチックになって、補修が完了していることを確認した。その後、周囲に使用されている同系の塗料を補修箇所に塗布した。
【実施例4】
【0052】
<コンクリート補修>
・被着体:コンクリート
・第1のシート(図4参照)
離型フィルム(両面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
第1のシートの製造:
第1のシートでは布状層を用いなかった。2液硬化型エポキシ接着剤の硬化剤を含有する粘度25000mPa・sの液剤を接着剤コーターを用いて上記離型フィルムに塗布し、次いで、乾燥してゲル状物を得た。その後、ゲル状物の上に離型フィルムを設けた。単位面積あたりの液剤の重量は450g/mとした。
・第2のシート
布状層:ポリエステル不織布(国光製紙製 リフロンEP−40)
2液硬化型エポキシ接着剤(主剤)粘度4000mPa・s
離型フィルム(片面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
保護層:PVFフィルム(デュポン製 38μm厚テドラーフィルム)
補強層:ビニロンメッシュ(ユニチカ製 ビニロン3軸メッシュ TSS1810Y)
第2のシートの製造:
布状層と補強層、保護層をドライラミネート工法により積層した。その後、図3で示す装置にて、上記材料により、第2のシートを製造した。布状層への主剤の含浸量は400g/mとした。図5は得られた第2のシートの模式的な断面図である。離型フィルム2、2液硬化型エポキシ接着剤が含浸したポリエステル不織布10、補強層3、保護層4がこの順序で積層している。
【0053】
コンクリートから剥落するコンクリート片の落下防止とコンクリートの保護を目的とした補修を以下の要領で実施した。コンクリートの補修個所を下地処理して、プライマーを塗布した。第1のシートの両面に設けられた離型フィルムのうちの一枚を除去して、プライマー上に該シートを貼付した。プライマーと該シートとの界面に気泡が残らないように、ローラーおよびヘラを使用して、第1のシートに残っている離型フィルムの上から押し付けた。その後、第1のシートに残っている離型フィルムを除去した。第2のシートに設けられた離型フィルムを除去して、該第2のシートを第1のシート上に積層した。気泡等が界面に残留しないように、突起を有するローラーを使用して積層体の上から充分に押し付けた。
そのまま18℃環境下で300分放置したところ、両シートは完全に硬化し、繊維強化プラスチックになって、コンクリートに設定されていることを確認した。
【実施例5】
【0054】
<コンクリート製電柱の補強>
・被着体:コンクリート
・第1のシート(図4参照)
2液主剤型アクリル接着剤 A剤(アクリルモノマー、エラストマー、重合開始剤、増粘剤含有)粘度25000mPa・s
離型フィルム(両面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
第1のシートの製造:
第1のシートでは布状層を用いなかった。2液硬化型エポキシ接着剤のA剤を接着剤コーターを用いて上記離型フィルムに塗布し、次いで、乾燥してゲル状物を得た。その後、ゲル状物の上に離型フィルムを設けた。単位面積あたりの液剤の重量は450g/mとした。
・第2のシート
布状層:炭素繊維(日石三菱製 TUクロスHT300)
2液主剤型アクリル接着剤 B剤(アクリルモノマー、エラストマー、還元剤含有主剤)粘度4000mPa・s
離型フィルム(片面):25μm厚ポリエステル基材シリコンコーティングフィルム
分離層:16μ厚ポリエステルフィルムと日本バイリーン製の不織布OL150とをドライラミネートし、不織布ラミネートフィルムとした。
第2のシートの製造:
布状層と分離層をドライラミネート工法により積層した。その後、図3で示す装置にて、上記材料により、第2のシートを製造した。布状層へのB剤の含浸量は400g/mとした。
【0055】
炭素繊維に含まれる繊維は、多くの場合は1方向に揃えられていて、その方向のみの補強が可能である。しかし、コンクリート製電柱の補強は高さ方向、胴周方向の2方向の補強が必要な場合がある。その場合は、一度、一方向で繊維補強プラスチックを設定した後、さらにもう一方向で被覆しながら繊維強化プラスチックを設定する。よって、補強繊維は2層となる。図6はコンクリート製電柱への2層の補強を模式的に表す断面図である。電柱6に1層目の繊維強化プラスチック21を設け、分離層5を介して2層目の繊維強化プラスチック22が設けられる。そこで、以下の要領で、上記第1および第2のシートを用いて、高さ方向および胴周方向の2方向に、2層の補強を実施した。
【0056】
電柱6の補修箇所にプライマーを塗布し、指触乾燥した。第1のシートの両面に設けられた離型フィルムのうちの一枚を除去して、プライマー上に該シートを貼付した。プライマーと該シートとの界面に気泡が残らないように、ローラーおよびヘラを使用して、第1のシートに残っている離型フィルムの上から押し付けた。その後、第1のシートに残っている離型フィルムを除去した。第2のシートに設けられた離型フィルムを除去して、該第2のシートを第1のシート上に積層した。このとき、第2のシートの補強繊維が電柱6の高さ方向となるような向きで積層した。気泡等が界面に残留しないように、突起を有するローラーを使用して積層体の上から充分に押し付けた。このようにして、2液硬化型樹脂を硬化させることによって1層目の繊維補強プラスチック21による補強を施した。
【0057】
その後、直ちに、1層目の繊維補強プラスチック21の表面にあらわれている分離層5の上に、別途、第1のシートを貼付した。貼付前に、この第1のシートの片面の離型フィルムを除去した。分離層5と第1のシートとの界面に気泡が残らないように、ローラーおよびヘラを使用して、第1のシートの上に残っている離型フィルムの上から押し付けた。その後、第1のシートに残っている離型フィルムを除去した。第2のシートに設けられた離型フィルムを除去して、該第2のシートを第1のシート上に積層した。このとき、第2のシートの補強繊維が胴周方向となるような向きで積層した。気泡等が界面に残留しないように、突起を有するローラーを使用して積層体の上から充分に押し付けた。さらに、公知の耐候性塗料(フッ素樹脂塗料、図示せず)を分離層の上に塗布して完成した。1層目の繊維補強プラスチック21と2層目の繊維補強プラスチック22とは分離層5で完全に分離されているように認められ、硬化不良、異常硬化等の問題はなかった。分離層は不織布ラミネートフィルムであるから、第1のシートを積層する際や、耐候性塗料を塗布する際に、垂直面であっても垂れることは無く、良好な付着力を発現した。
【0058】
この結果は、コンクリート製電柱の他、補強繊維1層だけでの補強では足りず、2層、3層と複数層を積層する必要がある構造物の補強や、繊維強化プラスチックに塗料を塗布しなくてはならない補修、補強においても好適に使用できることが、容易に推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、コンクリート等の被着物に接着した繊維補強プラスチックを製造する方法、その製造キットが提供され、コンクリート等の補修工事などへの適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による繊維強化プラスチックの製造の概念図である。
【図2】本発明において用いる第1および第2のシートの断面図。
【図3】第1または第2のシートを製造する装置の一例の構成図である。
【図4】両主面に離型フィルムが設けられたシートの断面図である。
【図5】保護層、補強層および離型フィルムが設けられたシートの断面図である。
【図6】コンクリート製電柱への2層の補強を模式的に表す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 被着体
2 離型フィルム
3 補強層
4 保護層
5 分離層
6 コンクリート製電柱
10 シート
11 第1のシート
12 第2のシート
20、21、22 繊維強化プラスチック
31、33、34 送り出しロール
32 ピンチロール
35 ニップロール
36 巻き取りロール36
37 液剤貯留槽
40 液剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着体に接着した繊維強化プラスチックを製造する方法であって、
当該繊維強化プラスチックは補強繊維の存在下で2液硬化型樹脂を硬化させてなるものであり、
被着体上に、2液硬化型樹脂の一方の成分を含有する第1のシートおよび2液硬化型樹脂の他方の成分を含有する第2のシートをこの順序で積層する工程、ならびに、
得られた積層体を加圧して2液硬化型樹脂の両成分を接触させて硬化反応を生ぜしめる工程、を有し、
第1および第2のシートの少なくとも一方は補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の一方または他方の成分が含浸されてなるものである、
上記製造方法。
【請求項2】
第1のシートが補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の一方の成分が含浸されてなるものであり、第2のシートが補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の他方の成分が含浸されてなるものである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
第1および第2のシートの一方は2液硬化型樹脂の一方または他方の成分を含有するゲル状物からなりかつ補強繊維を含まないシートである、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
2液硬化型樹脂が2液主剤型アクリル接着剤である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
2液硬化型樹脂が2液硬化型エポキシ接着剤である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
積層前の第2のシートの1つの主面には2液硬化型樹脂の各成分の透過を妨げる分離層が設けられていて、前記分離層が第1のシートとは反対側になるような向きで、第1および第2のシートを被着体上に積層し、さらに、前記分離層上に第1および第2のシートを再び積層して加圧することによって、前記分離層を介して2層以上の繊維強化プラスチックの層を形成させる、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
被着体がコンクリート体である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造された繊維強化プラスチック。
【請求項9】
2液硬化型樹脂の一方の成分を含有する第1のシートと、2液硬化型樹脂の他方の成分を含有する第2のシートとを有する繊維強化プラスチック製造キットであって、第1および第2のシートの少なくとも一方は補強繊維からなる布状層に2液硬化型樹脂の一方または他方の成分が含浸されてなるものであり、当該キットは2液硬化型樹脂の両成分を接触させて硬化反応を生ぜしめるように、第1および第2のシートを積層して次いで加圧して使用され、補強繊維の存在下で硬化した2液硬化型樹脂が繊維強化プラスチックとなるものである、
上記キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−160878(P2009−160878A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2402(P2008−2402)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(508009493)有限会社アズモ技研 (6)
【Fターム(参考)】