説明

繊維強化プラスチック製円筒体

【課題】
軽量高強度高剛性であり、かつ長期使用に際してフィーリングの変化がおこらないという耐久性に優れた、特にゴルフクラブ用シャフトに好適に使用することができる、繊維強化プラスチック製円筒体を提供すること。
【解決手段】
繊維強化プラスチック製円筒体であって、繊維強化プラスチックのマトリックスは、最大粒径が10μm以下のフラーレン類を含むエポキシ樹脂硬化物であり、かつ、繊維強化プラスチックは、その90度曲げ剛性保持率が0.9以上であることを特徴とする繊維強化プラスチック製円筒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期使用に際してフィーリングの変化がおこらないという耐久性に優れた、特にゴルフクラブ用シャフトに好適に使用することができる、繊維強化プラスチック製円筒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチック(以下FRPと略すこともある)は、比剛性と比強度に優れるため、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバトミントン等のラケット、ホッケー等のスティックなど、スポーツ用途をはじめ、航空宇宙用途、自動車・船舶、浴槽、ヘルメット等の一般産業用途などに広く用いられている。近年、特にスポーツ用途においては、さらなる軽量化要求に応えるため、かかる材料の強度特性を向上させる技術が必要とされており、特にゴルフクラブ用シャフトや釣竿といった、スポーツ用途の円筒体としての曲げ強さやねじり強さが必要とされている。
【0003】
これらの要求に対しては、例えば特許文献1のように、カーボン短繊維を配合したエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用い、FRPの力学物性を向上させる手法が知られている。また、特許文献2のように、フラーレン類を配合したエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用い、FRPの剛性を向上させる手法も知られている。一方で、特許文献3のように、樹脂硬化物の圧縮降伏応力、圧縮降伏呼び歪み、圧縮弾性率、および圧縮破壊呼び歪みを一定の範囲内に制御して、FRP製円筒体の曲げ強さやねじり強さを向上する手法も知られている。いずれの方法においても一定の効果が認められており、上述した課題は解決されたかに思われた。
【0004】
ところが近年、特にゴルフ業界において、プロフェッショナルプレーヤーや上級プレーヤーが増加するにつれて、ゴルフクラブの耐久性に注目が集まっている。ここでいう耐久性とはゴルフクラブが破損するなどの物理的な損失ではなく、スウィング時のフィーリングや打感の変化に対する要求であり、具体的には数十回のスウィング後には明らかにそれまでとフィーリングや打感が変化するというものである。
【0005】
フィーリングに関するこれまでの技術としては、例えば特許文献4にはゴルフクラブ用シャフトの剛性配分を最適にすることで、ゴルフクラブ用シャフトの塑性変形を防止しフィーリングの変化を防ぐ技術が開示されているが、かかる技術は、女性や初心者向けの低フレックスのシャフトにのみ適用可能であり、本来フィーリング変化に最も敏感なプロフェッショナルプレーヤーや上級ゴルファー向けの高フレックス品には適用できなかった。また、特許文献5では、ゴルフクラブ用シャフトの製造工程で発生する巻き付け段差を統一することによりゴルフクラブ用シャフトのフィーリングばらつきを抑制する技術が開示されているが、これもシャフト間のフィーリング差異を抑制する技術であって、シャフト1個体のフィーリング変化を抑制する技術ではなかった。
【0006】
一般的にFRP製円筒体のフィーリングや打感の変化は、クラックや塑性変形による材料そのものの非繊維方向弾性率、特に90度方向の弾性率変化が全体の剛性の変化に結びつき、その剛性変化に起因すると考えられている。そのため、材料そのものの強度の絶対値を上げることにより、材料の弾性率変化を防ぐ方法が考えられるが、先の特許文献1や特許文献2の技術を持ってしても、大幅な材料物性値の向上は望めず、ひいてはフィーリングの変化を抑制する抜本的な技術とはなりえなかった。一方で、フィーリング変化に対するユーザーの要望は年々高まっており、これらに応える発明が望まれて久しかったのである。
【特許文献1】特開2003−201388号公報
【特許文献2】特開2005−105152号公報
【特許文献3】特開2003−277471号公報
【特許文献4】特開2005−34550号公報
【特許文献5】特開2005−80719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述した問題点を解決し、長期使用に際してフィーリングの変化がおこらないという耐久性に優れた、特にゴルフクラブ用シャフトに好適に使用することができる、繊維強化プラスチック製円筒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述した目的を達成するために以下の構成を有する。すなわち、繊維強化プラスチック製円筒体であって、繊維強化プラスチックのマトリックスは、最大粒径が10μm以下のフラーレン類を含むエポキシ樹脂硬化物であり、かつ、繊維強化プラスチックは、その90度曲げ剛性保持率が0.9以上であることを特徴とする繊維強化プラスチック製円筒体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のFRP製円筒体は、特にゴルフクラブ用シャフトや釣り竿などに好適に使用でき、かつ、フィーリングや打感の変化がおこらないという耐久性に優れた機能を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のFRP製円筒体は、繊維強化プラスチックのマトリックスが、最大粒径が10μm以下のフラーレン類を含むエポキシ樹脂硬化物であり、かつ、後で定義する90度曲げ剛性保持率が0.9以上であるFRPで構成されている。そしてそのようなマトリックスは、フラーレン類を、その最大粒径が10μm以下となるように分散配合させたエポキシ樹脂組成物を硬化することで得られる。たとえば、かかるエポキシ樹脂組成物を補強繊維に含浸させてなるプリプレグなどを円筒状に賦形し硬化することにより、本発明のFRP製円筒体を好適に得ることができる。
【0011】
エポキシ樹脂としては、分子内に平均して1個を超えるエポキシ基を有する化合物である。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂などを使用することができる。これらのエポキシ樹脂は、単独、または2種類以上を併用して使用することが出来、さらには液状のものから固体状のものまで使用することができる。そして、本発明のFRP製円筒体に用いるには、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂の組み合わせが、成形性やFRP製円筒体に必要な力学特性並びにTgを得やすく特に好ましい。
【0012】
エポキシ樹脂としては、粘度の低いエポキシ樹脂を用いることが好ましい。粘度の低いエポキシ樹脂を含むことで、フラーレン類の粒度分布をシャープにでき、最大粒径を小さくすることができ、具体的には、25℃における粘度が10000mPa・s以下のエポキシ樹脂を、エポキシ樹脂組成物中に5〜80重量%含むと良く、好ましくは、4000mPa・s以下、さらに好ましくは1000mPa・s以下、特に好ましくは400mPa・s以下のエポキシ樹脂を、エポキシ樹脂組成物中に5〜80重量%含むと良い。また、25℃における粘度が10000mPa・s以下のエポキシ樹脂としては、グリシジルアミノ基を有することが特に好ましく、さらにその配合量が、エポキシ樹脂組成物中に5〜80重量%であると、フラーレン類の最大粒径が小さくなる効果がより著しくなり好ましい。しかし、グリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂がエポキシ樹脂組成物中に80重量%を超えて含まれると、エポキシ樹脂組成物のライフが悪くなり、結果としてFRP製円筒体に成形した後の力学特性が低下することがある。25℃における粘度が10000mPa・s以下のグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂としては、MY0500(Vantico Inc製、5000mPa・s)、Ep630(ジャパンエポキシレジン(株)製、1000mPa・s)、MY0510(Vantico Inc製、800mPa・s)、GAN(日本化薬(株)製、160mPa・s)、GOT(日本化薬(株)製、80mPa・s)などが挙げられる。
【0013】
本発明で用いるエポキシ樹脂全てのエポキシ当量は200〜400であることが好ましい。かかるエポキシ当量となるように原料樹脂を配合することで、得られる樹脂硬化物の架橋密度を好ましい範囲とすることができる。即ち、エポキシ当量が大きいほど架橋点となるエポキシ基の密度が低下し、硬化物の架橋密度は小さくなるため、塑性変形能力を高めることができ、フラーレン類との相乗効果で、90度曲げ剛性保持率を高めることができる。かかるエポキシ当量が200未満では樹脂硬化物の塑性変形能力が不十分で、FRP製円筒体としたときの力学特性や90度曲げ剛性保持率が不十分となることがある。一方、400を超えると、樹脂硬化物の耐熱性が不十分になる。エポキシ当量が大きい方が、フラーレン類配合による力学特性向上の効果が相乗的に大きくなるが、耐熱性とのバランスから、エポキシ樹脂全てのエポキシ当量は、より好ましくは220〜390、さらに好ましくは240〜380とするのが良い。ここで、エポキシ当量とは、エポキシ樹脂の質量(g)を樹脂に含まれる全エポキシ基のモル数で除した値である。樹脂の混合物のエポキシ当量は、混合物の直接滴定により定量化できるが、個々のエポキシ樹脂成分のエポキシ当量とその配合量から計算によって求めることもできる。
【0014】
また、本発明で用いるエポキシ樹脂には、エポキシ当量450以上、10000以下の2官能エポキシ樹脂を5重量%以上、60重量%以下含むことが、フラーレン類との相乗効果により、FRP製円筒体としたときの力学特性や90度曲げ剛性保持率を向上できるため好ましい。エポキシ当量750以上の2官能エポキシ樹脂を5重量%以上、60重量%以下含むことがより好ましく、エポキシ当量1000以上、5000以下の2官能エポキシ樹脂を5重量%以上60重量%以下含むことがさらに好ましい。エポキシ樹脂は液状成分を含んでいるため、エポキシ当量が450以上、10000以下のエポキシ樹脂が5重量%未満であると、エポキシ樹脂全体としてのエポキシ当量を200以上とすることができず、塑性変形能力の向上効果が不十分となることがあり、一方で60重量%を超えて存在すると、例えば、FRP製円筒体をプリプレグを介して成形するときなど、樹脂の含浸性が不十分となることがある。

エポキシ樹脂を硬化させるために、エポキシ樹脂組成物には硬化剤を含有させるのが一般的である。硬化剤としては、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ノボラック樹脂、ポリメルカプタン、及びフッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などを使用することができる。中でもジシアンジアミドを含むことが熱安定性の点から好ましい。また、これら硬化剤とエポキシ樹脂とを反応させて得られる硬化活性を有する付加物も、硬化剤に代用させて使用することができる。さらに、これら硬化剤をマイクロカプセル化したものは、例えば本発明のFRP製円筒体をプリプレグを介して成形するときなどは、プリプレグの保存安定性を高めるために、好ましく用いられる。さらに、硬化性を向上させるために、硬化剤に加えて、硬化促進剤を用いることもでき、硬化促進剤としては、特に限定されないが、イミダゾール化合物、ウレア化合物、3級アミン等を挙げることができる。樹脂組成物の貯蔵安定性を高めるために、表面が樹脂被覆されているマイクロカプセル型の硬化促進剤を用いても良い。中でも硬化促進剤としてウレア化合物を含むことが、樹脂組成物の貯蔵安定性をほとんど損なうこと無く、十分な促進効果が得られるという理由から、好ましく用いられる。
【0015】
エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、エラストマー、無機粒子等の添加剤を添加して含有させることができ、かかる添加剤はエポキシ樹脂に可溶なものが好ましいが、エポキシ樹脂に不溶のものであっても、粉砕し、微粒子化したものは好ましく配合することができる。特に分子内に水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂は、例えばポリアミドは硬化物の弾性率をほとんど損なわずに、靭性及び耐衝撃性を向上させるのに有効であり、また、特にポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンは、硬化物の耐熱性を損なうことなく、炭素繊維との接着性を改善するのに有効である。さらに、ポリビニルアセタール、およびポリビニルホルマールは、加熱によりエポキシ樹脂に容易に可溶し、硬化物の耐熱性を損なうことなく炭素繊維との接着性を改善すると共に、粘度調整が可能であるため、本発明で用いる熱可塑性樹脂として特に好ましい。なお、本発明において、エポキシ樹脂組成物における熱可塑性樹脂の配合量は、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部とすることが好ましく、0.1〜8重量部、さらには、0.1〜5重量部とすることがより好ましい。熱可塑性樹脂の配合量が少なすぎると、熱可塑性樹脂を配合した効果が十分に発現されないおそれがあり、あまりに多いと、例えばプリプレグ製造工程において、強化繊維への樹脂の含浸性が不十分となり、成形後のFRP製管状体の物性が低下する場合がある。

本発明に用いられるフラーレン類としては、C60、C70、C76、C86、C116等挙げられ、単独、または2種類以上を混合して使用することができる。例えば、C60単独としては、“ナノムパープル(登録商標)”(C60(98%含有))[フロンティアカーボン(株)社製]などがあげられ、C60とC70の混合品としては、“ナノムミックス(登録商標)”(C60(60%)、C70(25%)含有))[フロンティアカーボン(株)社製]などがあげられる。また、上記フラーレン類を官能基化、水素化したものを用いても良く、水素化フラーレンや水酸化フラーレンの例としては、“ナノムスペクトラ(登録商標)”[フロンティアカーボン(株)社製]
などがあげられる。
【0016】
本発明において、エポキシ樹脂硬化物やエポキシ樹脂組成物に含まれるフラーレン類の最大粒径は10μm以下であることが必要である。好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。かかる最大粒径が大きいとFRPとして成形したとき、粒径の大きなフラーレン類が強化繊維を屈曲ないしは損傷させ、FRPの物性値を低下させるおそれが大きいからである。したがって、平均粒径ではなく、最大粒径が小さいことが重要である。
【0017】
ここで、本発明において、最大粒径が10μm以下のフラーレン類を含むエポキシ樹脂硬化物は、最大粒径が10μm以下のフラーレン類を含むエポキシ樹脂組成物を硬化することにより得ることができるが、最大粒径が10μm以下のフラーレン類を含むエポキシ樹脂組成物は、フラーレン類を予め液状エポキシ樹脂など分散媒に分散処理する工程と、フラーレン類が分散したエポキシ樹脂に、さらにエポキシ樹脂、硬化剤の硬化剤、その他の硬化促進剤や熱可塑性樹脂などの成分を配合して製造する方法が好ましく用いられる。分散処理工程では、ニーダー、プラネタリーミキサー、二軸押出機、三本ロール、ホモミキサー、ディゾルバー、ボールミル、ビーズミル、超音波分散装置等を用いることができる。特に、ホモミキサー、ビーズミル、超音波分散装置を用いると最大粒径が小さくなるため好ましく、ビーズミル、超音波分散装置を用いるとより好ましい。さらに、ビーズミルで粒径を小さくした後に超音波分散装置を用いると最も好ましい。分散処理工程で分散媒に添加するフラーレンの配合量は、分散媒100重量部に対して0.001〜4重量部、好ましくは0.001〜0.5、さらに好ましくは、0.01〜0.05重量部である。かかる配合量が少なすぎると、後述する90度曲げ剛性保持率向上への効果が小さいことがあり、かかる配合量があまりに多いと、分散処理工程で多大な時間を要したり、2次凝集などにより最大粒径が大きくなり、先に述べた理由でFRPの物性値を低下させるおそれがある。
【0018】
ビーズミル分散においては、ビーズの直径は小さいものを使用することが分散性の観点から好ましい。ビーズ直径は1mm以下が好ましく、0.5mm以下であるとより好ましく、0.3mm以下であるとさらに好ましい。
【0019】
超音波分散装置を用いる場合には、超音波の周波数は10kHz以上、100kHz以下であることが好ましく、20kHz以上、50kHz以下であることがさらに好ましい。周波数が小さすぎると、分散能力が小さく粒径が小さくなりにくい場合があり、周波数が大きすぎると、化学作用が起き、エポキシ樹脂の分子鎖が切断されるなど物性の低下に繋がる可能性がある。また、超音波の振幅は1μm以上、100μm以下であることが好ましい。振幅が小さすぎると、粒径が小さくなりにくい場合があり、振幅が大きすぎると、エポキシ樹脂の分子が切断されるなどの物性低下に繋がる可能性がある。
【0020】
分散処理工程で使用する分散媒としては、粘度が小さいことが好ましい。高い粘度の分散媒を用いると、フラーレン類の粒度分布がブロードになり最大粒径が小さくならず、物性の低下に繋がる可能性が有る。効率的に粒径を小さくする為には、分散媒の粘度をある一定値以下にすることが好ましい。具体的には、25℃における粘度が好ましくは10000mPa・s以下、より好ましくは、4000mPa・s以下、さらに好ましくは1000mPa・s以下、最も好ましくは400mPa・s以下である分散媒を用いるのが良い。
【0021】
分散媒としては、エポキシ樹脂、もしくは硬化剤と反応しうる官能基を有する化合物を用いるのが好ましく、特にエポキシ樹脂を用いるのが好ましい。エポキシ樹脂組成物を硬化する際に、分散媒がエポキシ樹脂もしくは硬化剤と反応し系中に取り込まれないと、耐熱性や物性低下の可能性があるため好ましくない。
【0022】
分散媒は2種類以上の化合物の混合品でも良く、高粘度の分散媒と低粘度の分散媒との組み合わせによって低粘度化しても良い。その場合、常圧における沸点が200℃以上の化合物であることが好ましい。沸点200℃未満の化合物と混合し低粘度化した場合、硬化時にボイドの原因となり物性低下に繋がることがある。
【0023】
分散媒としては、特に、グリシジルアミノ基を有する化合物を用いるのが好ましい。かかる化合物の粘度も低いことが好ましく、25℃における粘度が10000mPa・s以下が良く、好ましくは4000mPa・s以下、さらにこのましくは1000mPa・s以下、最も好ましくは400mPa・s以下であるのが良い。グリシジルアミノ基を有する化合物としては、MY0500(Vantico Inc製、5000mPa・s)、Ep630(ジャパンエポキシレジン(株)製、1000mPa・s)、MY0510(Vantico Inc製、800mPa・s)、GAN(日本化薬(株)製、160mPa・s)、GOT(日本化薬(株)製、80mPa・s)などが具体的に挙げられる。
【0024】

なお、エポキシ樹脂硬化物やエポキシ樹脂組成物におけるフラーレン類の最大粒径は、後述の実施例で述べるように、SEM観察により測定することが可能である。
【0025】
一方で、本発明のFRP製円筒体において、FRPのマトリックス樹脂に含まれるフラーレン類の体積含有率は0.01%以上3%以下であることが好ましい。この範囲内であるとフラーレン類の剛性向上硬化とマトリックス樹脂の塑性変形能力のバランスがとれ、成形後のFRPの90度曲げ剛性保持率をより高くすることができるからである。かかる体積含有率が大きすぎるとフラーレン類の効果が高すぎでクラックの進展を誘発し90度曲げ剛性保持率が低下してしまうおそれがあり、逆に少なすぎるとフラーレン類の効果が十分あらわれず、結果として90度曲げ剛性保持率が十分高く発現されないおそれがある。なお、FRPにおけるフラーレン類の体積含有率は以下に示す方法で計算により求めることができる。すなわち、円筒体を構成するFRPから、2mm角程度の大きさで任意の位置100点をサンプリングし、透過型顕微鏡で観察する。観察倍率は、まずマイクロオーダーのフラーレン類を観察するために1000倍で観察し、次にフラーレン類が観察されない領域を選び30000倍で観察する。観察結果を、例えば、キーエンス社製画像処理ソフトVk−Viewer等の画像処理ソフトで取り込み、画像を白黒のグレースケール化したのち、フラーレン類の輪郭をエッジ抽出機能で抽出化する。ここで2値化する値は1000倍の観察結果はレベル100〜190の範囲で、30000倍の観察結果はレベル130〜160の範囲で行い、抽出化されたフラーレン類の総面積を面積計算機能で算出したのち、全面積で割り体積含有率を測定する。

本発明のFRP製円筒体を構成するFRPは以下に定義する90度曲げ剛性保持率が0.9以上である。ここで、図1を用いて、90度曲げ剛性保持率に関し、より詳細に説明する。図1は90度曲げ剛性保持率を説明するための、3点曲げ荷重−たわみ量線図である。今、試験片に3点曲げ荷重をかけたとき、荷重は線1のように上昇していく。そして、試験片にたとえばクラックが入るなどの損傷が起こり、剛性の低下がおきたときは、荷重曲線はポイント2のように屈曲点を示し(図1では分かりやすく大きな屈曲点が一つだけあるケースを示したが、実際には微少な損傷がかさなり曲線を描くケースもある)、その後、線3のように損傷が入った後の低下した剛性を保持しながら荷重は上昇する。そして、完全破断する前に荷重を除荷していくと、戻り荷重は線4のように低下後の剛性の傾きを一様に示しながら低下していく。本発明でいう90度曲げ剛性保持率とは、最初に荷重をかけた直後の戻り荷重の傾き(以後初期剛性と呼称することもある)と、50回の繰り返し荷重をかけた直後の、戻り荷重時の傾き(以後50サイクル後の剛性と呼称することもある)との比と定義し、具体的には戻り荷重時の傾きは、(最大荷重の90%―最大荷重の10%)/(最大荷重の90%時のたわみ量−最大荷重の10%のたわみ量)の式で算出し、90度曲げ剛性保持率は、(初期剛性/50サイクル後の剛性)の式で算出した値と規定する。90度曲げ剛性保持率が高いと、繰り返し荷重に対する剛性の劣化が小さいことを示しており、0.9以上であると円筒体にしたときの剛性の変化はほとんどなくなる。0.97以上であるとさらに好ましく、理想的には1である(1の場合は剛性の劣化が全くおこらないことを意味する)。逆に繰り返し荷重によって破断した場合には90度曲げ剛性保持率は0となる。
【0026】
これまでも、例えば塑性変形能力の高いマトリックス樹脂を硬化してなるFRPなどは、90度曲げ剛性保持率が高かったが、0.9以上というさらに高い保持率を示すマトリックス樹脂は剛性などの力学特性が不足していたり、Tgが低いなどの欠点があり、FRP製円筒体として好適に用いることが難しかった。本発明では、特定の最大粒径を有するフラーレン類を含んでいるため、
これまでなしえなかった高い90度曲げ剛性保持率を発現することが可能となったものである。これはナノスケールのフラーレン類がマトリックス中に分散することにより、マトリックス樹脂自身の剛性保持能力が高まったものと推測される。
【0027】
本発明の円筒体は、特に使用中の剛性低下がフィーリングの変化として如実に現れるゴルフクラブ用シャフトとして好適に使用することができる。本発明の円筒体の構成は、必要とされる設計要件を満たせば特に限定されるものではないが、ゴルフクラブ用シャフトとして使用する場合は、主軸に対する巻角度が0度以上15度以下の範囲にあるストレート層と、主軸に対する巻角度が16度以上74度以下のバイアス層とで構成されていると、ゴルフクラブ用シャフトとして必要な曲げ強さやねじり強さを満たすことが容易となり好ましい。また、ストレート層とバイアス層に加えて、主軸に対する巻角度が75度以上90度以下のフープ層を有していると、特に軽量なゴルフクラブ用シャフトの場合は円筒体の主軸に直行する方向にかかる圧縮強度(以下、押しつぶし強度と表現することもある)が向上し好ましい。ここで主軸に対する巻角度とは、主軸を含む平面と、その平面を通る強化繊維がなす角度の絶対値である。
【0028】
そして、ゴルフクラブ用シャフトを構成するストレート層が、90度曲げ剛性保持率0.9以上のFRPで構成されていると、ゴルフクラブ用シャフトの曲げ剛性の変化率が小さく、ひいては、フィーリングの変化を押さえることができ、特に好ましい。ストレート層に、90度曲げ剛性保持率0.9以上のFRPを用いた場合の効果を図2を用いてより詳細に説明する。図2は本発明を用いたゴルフクラブ用シャフト5でスウィングをした時の模式図であり、図3はその根元部分6を拡大し、シャフト軸方向を水平にした拡大図である。図2、図3を見ても明らかなように、根元には大きな曲げ応力7がかかっている。そして、ストレート層はこの曲げ応力に抗するために最外層に配するのが効果的であるが、大部分の荷重は強化繊維が受け持つため、90度方向の剛性は大きな影響は与えないと考えられていた。しかしながら、シャフト根元部分をシャフト先端方向からみた断面図4をみても明らかなように、シャフトには軸方向の曲げと同時に、軸方向に垂直な方向に押しつぶし応力10がかかっており、最外のストレート層には押しつぶし応力のため強化繊維の90度方向に変形する応力がかかっていることが分かる。この変形に対してはストレート層の90度方向曲げ剛性が抗しており、ストレート層方向の90度方向曲げ剛性が低下した場合は、押しつぶし応力に抗する剛性が低下し、断面が扁平化してしまう(図4に、扁平化前の形状を点線8で、扁平化後の形状を実線9で示す)。断面が扁平化すると、曲げに対する断面二次モーメントが低下し、曲げ剛性が低下し、結果、曲げに対する変形が大きくなってしまう。これはフィーリングが変化することを意味している。以上説明したメカニズムにより、ストレート層に90度曲げ剛性保持率0.9以上のFRPを用いると、上述した断面扁平化を防ぎ、最終的には曲げ変形増大によるフィーリング変化を防ぐことができるのである。
【0029】
本発明をフープ層を有するゴルフクラブ用シャフトに用いる場合には、そのフープ層が、90度曲げ剛性保持率0.9以上のFRPで構成されていると、やはり曲げ剛性の変化率を小さく押さえることができ特に好ましい。フープ層は円筒の径が大きくなりかつ薄肉になりやすい根元に配すると、先に述べた押しつぶし強度が向上するために好ましいが、根元には、同時に、図2、図3で述べたようにスウィング時には大きな曲げ応力がかかる。特にフープ層が根元に配されているときは、曲げ応力が、フープ層のFRPが最も弱い強化繊維の90度方向にかかるため、より一層、剛性の低下ひいてはフィーリングの変化を引き起こすおそれがある。このため、フープ層に90度曲げ剛性保持率0.9以上のFRPを用いると、先に述べた押しつぶし強度を向上させかつフィーリングの変化を防ぐことができるのである。なお、曲げ応力は根元に特に大きくかかるので、フープ層は実質的に根元にのみ配する構成を用いても良く、この場合は必要最小限のFRPを用いるだけでよいので軽量化も望めることから特に好ましい。
【0030】
なお、本発明をゴルフクラブ用シャフトに用いる場合は、その先端に補強層としてさらにストレート層やフープ層を巻く構成も好ましく用いることができる。なお、各層は、プリプレグを積層して成形されることが多い。
【0031】
本発明において、FRPに用いられる強化繊維は、特に限定されるものではないが、炭素繊維やガラス繊維などの無機繊維、そして、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリウレタン繊維などの有機繊維を用いることができる。特に炭素繊維は高い引張強度と弾性率を共に有しており好ましい。そして、本発明をゴルフクラブ用シャフトに用いるときは、各層の機能に即して炭素繊維の種類を代えることができる。例えば、ストレート層には引張弾性率250GPa以上の炭素繊維を用いると、スウィング時の曲げ変形に耐え得る最低限の剛性を満たすことが容易となり好ましい。またバイアス層には引張弾性率350GPa以上の炭素繊維を用いると、ボールインパクト時のねじり変形に耐えうる最低限の剛性を満たすことが容易となり好ましい。そしてフープ層には引張弾性率250GPa以上の炭素繊維を用いると押しつぶし変形に耐えうる最低限の剛性を満たすことができて好ましい。ここで炭素繊維の引張弾性率はJIS R 7601に従って測定できる値をさす。
【0032】
円筒体を層構造を有して構成し、なおかつ、層構造をプリプレグを積層して形成する場合には、個々のプリプレグにおける強化繊維量は、特に限定されるものではないものの、10〜300g/mであると、円筒体に必要とされる力学特性と成形性とのバランスがとりやすく好ましい。また、本発明をゴルフクラブ用シャフトに用いる場合は、ストレート層には80〜200g/m、バイアス層には50〜150g/m、フープ層には20〜80g/mの範囲内の強化繊維量を有するプリプレグを用いると、必要な強度剛性と重量とのバランスがとりやすく特に好ましい。
【0033】
また、円筒体を層構造を有して構成する場合には、各層における繊維含有率は、必要とされる力学特性と、成形の容易さとのかねあいから、40以上80以下の範囲内の体積%が良く、好ましくは50以上80以下の範囲内である。
【0034】
本発明のFRP製円筒体はいかなる技術をもって成形しても良いが、上述したエポキシ組成物を強化繊維に含浸させてなるプリプレグを介し、マンドレルに巻き付けた後、ラッピングテープを巻き付けて硬化炉などで成形した後、脱芯してラッピングテープを除去するシートワインド法の技術は、簡便であり好ましい。また、内圧成形法は、熱可塑性樹脂よりなる内圧付与体の外側にプリプレグを巻き付けたプリフォームを金型内にセットし、内圧付与体に高圧空気を導入して加圧し、同時に金型を加熱することによりFRP製円筒体を成形する方法であり、特殊形状のゴルフシャフトやバット、特にテニスやバトミントンなどのラケットのような複雑な形状を成形する際に好適に用いることができる。また、強化繊維に樹脂を含浸させた後、直接マンドレルに巻き付け硬化炉などで成形するフィラメントワインド法も簡便で好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明で用いる評価方法もあわせて説明する。
【0036】
A.エポキシ樹脂組成物の調製
エポキシ樹脂組成物Aに用いた原料およびその組成を次に示す。
エポキシ樹脂
エピコート828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液体、粘度14000mPa・s、平均エポキシ当量189) 10重量部
エピコート807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、液体、粘度3500mPa・s、平均エポキシ当量168) 15重量部
GAN(グリシジルアミン含有エポキシ樹脂、液体、粘度160mPa・s、平均エポキシ当量125) 15重量部
エピコート1002(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、固体、平均エポキシ当量650) 20重量部
エピコート1007(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、固体、平均エポキシ当量1950) 40重量部
硬化剤
ジシアンジアミド 5重量部
硬化促進剤
3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア 3重量部
フラーレン類
ナノムミックス(C60とC70の混合品) 0.02重量部
その他添加剤:熱可塑性樹脂
ビニレックK(ポリビニルホルマール) 3重量部
まず、エポキシ樹脂のうち、15重量部のエピコート807の中にナノムミックス0.02重量部を配合し、60℃の温度下でホモミキサー分散を行った後、超音波分散(周波数40kHz、振幅50μm)をおこない、その後、残りのエポキシ樹脂原料、およびその他添加剤として熱可塑性樹脂を上記した量で配合して加熱溶解して混練物を得た。この混練物に、60℃温度下で、硬化剤としてジシアンジアミドと、硬化促進剤として3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレアを、上記した量で配合しエポキシ樹脂組成物Aを得た。
また、エポキシ樹脂組成物Aと同様の方法で、ナノムミックスを配合しなかった点のみ異なるエポキシ樹脂組成物Bと、ナノムミックスの配合量を0.02重量部から5重量部に変更した点のみ異なるエポキシ樹脂組成物Cを得た。
【0037】
B.樹脂硬化物およびFRPにおけるフラーレン類の最大粒径測定
樹脂硬化物またはFRPの断面を断面研磨した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、以下の測定条件にて1000倍で観察する。樹脂硬化物中に存在するフラーレン類の凝集粒子100個の粒径の最長径を測定し、その中で最も大きい粒子径を本発明における最大粒径とする。なお、本実施例では、SEMとして日立株式会社製System S−4100を用いた。

加速電圧:3kV
蒸着:Pt−Pd 約4μm
なお、前記のようにして得られたエポキシ樹脂組成物Aとエポキシ樹脂組成物Cを、80℃に加熱して真空ポンプにて脱泡後、モールドに注入し、130℃で90分間、加熱処理することにより、樹脂硬化物の板を作製し、その樹脂硬化物について測定した結果、エポキシ樹脂組成物Aではフラーレン類の最大粒径は9μmであり、エポキシ樹脂組成物Cではフラーレン類の最大粒径は20μmであった。また、同様に、後述する方法で成形したFRP製円筒体についてフラーレン類の最大粒径を測定したところ、エポキシ樹脂組成物Aをマトリックスとしたプリプレグから成形されたFRP中のフラーレン類の最大粒径はやはり9μmで、エポキシ樹脂組成物Cをマトリックスとしたプリプレグから成形されたFRP中のフラーレン類の最大粒径もやはり20μmであった。

C.プリプレグの作製
a.バイアス材の作製
エポキシ樹脂組成物Aを、リバースロールコーターを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。次に、一方向に配列させた引張弾性率392GPaの炭素繊維“トレカ(登録商標)”M40SC−12K(東レ(株)製)の両側面に樹脂フィルムを重ね、加熱加圧(130℃、0.4MPa)することによって、樹脂を含浸させ、プリプレグの単位面積あたりの繊維重量が69g/m、繊維重量含有率が76%の一方向プリプレグAを作製した。また、同様の方法で、エポキシ樹脂組成物Aをエポキシ樹脂組成物B、エポキシ樹脂組成物Cにかえてプリプレグを作製し、それぞれプリプレグD、プリプレグGとした。各プリプレグにおいて、使用したエポキシ樹脂組成物と炭素繊維との組み合わせを表1に示した。
【0038】
b.ストレート材の作製
エポキシ樹脂組成物Aを、リバースロールコーターを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。次に、一方向に配列させた引張弾性率295GPaの炭素繊維“トレカ(登録商標)”T800H−12K(東レ(株)製)の両側面に樹脂フィルムを重ね、加熱加圧(130℃、0.4MPa)することによって、樹脂を含浸させ、プリプレグ単位面積あたりの繊維重量が100g/m、繊維重量含有率が76%の一方向プリプレグBを作製した。また、同様の方法で、エポキシ樹脂組成物Aをエポキシ樹脂組成物B、エポキシ樹脂組成物Cにかえてプリプレグを作製し、それぞれプリプレグE、プリプレグHとした。各プリプレグにおいて、使用したエポキシ樹脂組成物と炭素繊維との組み合わせを表1に示した。
【0039】
c.フープ材の作製
エポキシ樹脂組成物Aを、リバースロールコーターを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。次に、一方向に配列させた引張弾性率295GPaの炭素繊維“トレカ(登録商標)”M30SC−12K(東レ(株)製)の両側面に樹脂フィルムを重ね、加熱加圧(130℃、0.4MPa)することによって、樹脂を含浸させ、プリプレグ単位面積あたりの繊維重量が55g/m、繊維重量含有率が70%の一方向プリプレグCを作製した。また、同様の方法で、エポキシ樹脂組成物Aをエポキシ樹脂組成物B、エポキシ樹脂組成物Cにかえてプリプレグを作製し、それぞれプリプレグF、プリプレグIとした。各プリプレグにおいて、使用したエポキシ樹脂組成物と炭素繊維との組み合わせを表1に示した。
【0040】
【表1】

【0041】
D.90度曲げ剛性保持率の測定
作製したプリプレグを30cm×30cm角にカットしたのち、成形後の板厚が1.2mmとなる枚数(バイアス材は20枚、ストレート材は15枚、フープ材は24枚)を一方向に引き揃えて積層し、オートクレーブを用いて130℃、0.6MPaで加圧硬化させる。得られた硬化板を繊維方向が幅方向になるように幅15cm×長さ6cmの寸法でカットし、90度曲げ剛性保持率測定用の試験片を得る。これら試験片をASTMD790−03(2003)に従い、スパン長さ40mmで3点曲げ試験を行い、サンプルが破断するまで荷重をかけ、ASTMD790−03(2003)に記載されている方法で破断曲げ歪みを算出する。ここで、塑性域が大きく、曲げ歪み1.6%を大きく超えるサンプルについては1.6%を超えた時点で適時試験を中止しても構わない。これは、一般的なゴルフシャフト構成においてスウィング時にかかる最大曲げ歪みが1.5%程度であるからである。次に、各試験片で曲げ歪み1.5%に相当する荷重を最大荷重、最大荷重の1/10の荷重を最小荷重として、図5に示すような繰り返し荷重を50サイクルかけ、荷重とたわみ量の値を記録した。記録した荷重−たわみ量曲線から1回目の負荷サイクルと50回目の負荷サイクルを分析し、各サイクルでの試験片の曲げ剛性として、戻り荷重において(最大荷重の90%―最大荷重の10%)/(最大荷重の90%時のたわみ量−最大荷重の10%のたわみ量)を算出し、50サイクル後剛性/1サイクル後剛性(初期剛性)を90度曲げ剛性保持率とする。
プリプレグA〜Iのそれぞれについて上記のようにして得られた硬化板を繊維強化プラスチックA〜Iと呼称する。繊維強化プラスチックA〜Iについて、上記条件で3点曲げを行ったところ、表2のような結果を得て、曲げ歪み1.5%までの範囲では全ての試験片は破断しないことを確認した。各硬化板について、90度曲げ剛性保持率を測定した結果を表2に示す。表2に示すとおり、繊維強化プラスチックA〜Cは高い90度曲げ剛性保持率を示したが繊維強化プラスチックD〜Fは90度曲げ剛性保持率が低めであった。また、繊維強化プラスチックG〜Iはそれぞれ22、11、8サイクル目に破断したため90度曲げ剛性保持率は0となった。
【0042】
【表2】

【0043】
E.ゴルフクラブ用シャフトの作製
使用材(バイアス層、ストレート層、フープ層、フープ根元)として表3に示すプリプレグを用いて、下記(a)〜(e)の操作により、円筒軸方向に対して[0/±45](すなわち、円筒内側より、+45°の繊維方向と−45°の繊維方向を交互に各3層した外側に0°の繊維方向を3層)の積層構成を有し、内径が先端で4.2mm、根元で14.5mmの一様にテーパーのかかったゴルフクラブ用シャフトを作製した(実施例1〜5、比較例1〜6)。マンドレルには上述のようなテーパーのかかった長さ1400mmのステンレス製マンドレルを使用した。なお、実施例3ではフープ層を含むため[0/90/±45]の構成とし、さらに実施例4では根元のみフープ層を含むため、根元500mmの領域のみ90°層を配した。
(a)一方向プリプレグを繊維の方向がマンドレルの軸方向に対して45°になるように、縦1200mm×横64mmの長方形に2枚切り出した。この2枚の離型フィルムを剥いだ直後に繊維方向が互いに交差するように、かつ横方向に一方の端は10mm、もう一方の端は24mm(マンドレル半周分に対応)ずらして貼り合わせた。
(b)貼り合わせたプリプレグ(バイアス材)の離型紙をはぎ取り、離型処理したマンドレルに、プリプレグの縦方向とマンドレルの軸方向が一致するように巻き付けた。
(c)その上に、プリプレグ(ストレート材)を繊維の方向が縦方向になるように、縦1200mm×横は一方の端が68mm、もう一方の端が155mmの長方形に切り出したものをプリプレグの縦方向とマンドレルの軸方向が一致するように巻き付けた。
(d)ラッピングテープ(耐熱性フィルムテープ)を巻きつけ、硬化炉中で130℃、2時間加熱成形した。
(e)成形後、マンドレルを抜き取り、ラッピングテープを除去してゴルフクラブ用シャフトを得た。
【0044】
F.ゴルフクラブ用シャフトのフレックスの測定
得られたゴルフクラブ用シャフトの根元から全長が1168mmになるようにカットし、フレックス測定用のゴルフクラブ用シャフトを用意した。次に先端から925mmの部分と1065mmの部分を保持し、先端から175mmの部分に重さ2.7kgfの重りをつるし、その状態での、先端から200mmの部分での変位量をフレックスとして規定した(表3ではフレックス(キャノン試験前)と表記する)。次にゴルフクラブ用シャフトの先端にヘッドを取り付け、キャノン試験機によって、時速40km/secの高速で50回ボールをクラブにヒットさせ、その後、ヘッドを取り除き、同様にしてフレックスを測定した(表3ではフレックス(キャノン試験後)と表記する)。結果を表3に示す。
【0045】
G.フィーリング変化の測定
実施例1〜5、比較例1〜6で得られたゴルフクラブ用シャフトのそれぞれについて、ヘッドを取り付け、モニターとしてハンディシングルクラスの上級ゴルファーに50スウィングしてもらい、フィーリングの変化をヒアリングしたところ表3のようになった。
【0046】
表3より、ゴルフクラブ用シャフトに用いた繊維強化プラスチックの90度曲げ剛性保持率が0.9以上のゴルフクラブ用シャフトはフレックス(キャノン試験前)とフレックス(キャノン試験後)でほとんど変化が無かった。特に実施例4のようにフープ層を用いたゴルフクラブ用シャフトはフレックスが全く変化しなかった。また実施例5のようにフープ層を根元だけに配したゴルフクラブ用シャフトでも使用量が少ないにも関わらず、フレックスの変化率は極小であった。これに対し、90度曲げ剛性保持率が0の繊維強化プラスチックを用いたゴルフクラブ用シャフトは比較例1〜3のように、フレックス変化率が大きかった。ゴルフクラブ用シャフトの構成という視点から見ても、例えば実施例1と比較例2を比較した場合、比較例2ではフープ層を用いているにも関わらず実施例1にくらべてフレックス変化率が大きかった。同様の結果は実施例2と比較例3を比べても明らかになった。また、ゴルフクラブ用シャフトの構成が同じで、90度曲げ剛性保持率のみが異なる場合は、実施例1と比較例1との比較、実施例2と比較例2との比較、実施例3と比較例3との比較からもあきらかなように、フレックス変化率の差は顕著であった。また、上級ゴルファーによるフィーリングの変化をヒアリングした結果もフレックス変化率と同様の結果が得られた。一方で、90度曲げ剛性保持率が0ではないものの、フラーレン類を含まず、90度曲げ剛性保持率が0.9に満たない繊維強化プラスチックを用いたゴルフクラブ用シャフトは比較例4〜6のように、比較例1〜3ほどではないもののやはりフレックスの変化率は大きく、上級ゴルファーによるフィーリングの変化のヒアリング結果も中程度の変化が感じられるというものであった。
【0047】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、軽量高強度高剛性であるとともに、長期使用に際してフィーリングの変化がおこらないという耐久性に優れた、特にゴルフクラブ用シャフトに代表される円筒体として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明における90度曲げ剛性保持率を説明するための荷重−たわみ量曲線図である。
【図2】本発明を用いたゴルフクラブ用シャフトでスウィングをした時の模式図である。
【図3】図2のゴルフクラブ用シャフト根元部分6を拡大し、シャフト軸方向を水平にした拡大図である。
【図4】図2のゴルフクラブ用シャフト根元部分6をシャフト先端方向からみた断面拡大図である。
【図5】本発明において90度曲げ剛性保持率を測定するための繰り返し荷重のプロファイルである。
【符号の説明】
【0050】
1 剛性低下前の荷重−たわみ量線
2 剛性変化ポイント
3 剛性低下後の荷重−たわみ量線
4 除荷時の荷重−たわみ量線
5 本発明の円筒体を用いたゴルフクラブ用シャフト
6 図5のゴルフクラブ用シャフトの根元部分
7 変形前のゴルフクラブ用シャフト
8 変形後のゴルフクラブ用シャフト
9 ストレート層に働く曲げ応力
10 ストレート層に働く押しつぶし応力


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチック製円筒体であって、繊維強化プラスチックのマトリックスは、最大粒径が10μm以下のフラーレン類を含むエポキシ樹脂硬化物であり、かつ、繊維強化プラスチックは、その90度曲げ剛性保持率が0.9以上であることを特徴とする繊維強化プラスチック製円筒体。
【請求項2】
繊維強化プラスチックのマトリックスに含まれるフラーレン類の体積含有率が0.01%以上3%以下である請求項1に記載の繊維強化プラスチック製円筒体。
【請求項3】
円筒体がゴルフクラブ用シャフトである請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック製円筒体。
【請求項4】
主軸に対する巻角度が0度以上15度以下の範囲にあるストレート層が、90度曲げ剛性保持率0.9以上の繊維強化プラスチックで構成されている請求項3に記載の繊維強化プラスチック製円筒体。
【請求項5】
主軸に対する巻角度が75度以上90度以下の範囲にあるフープ層が、90度曲げ剛性保持率0.9以上の繊維強化プラスチックで構成されている請求項3に記載の繊維強化プラスチック製円筒体。
【請求項6】
前記フープ層が、実質的にゴルフクラブ用シャフトの根元にのみ配されている、請求項5に記載の繊維強化プラスチック製円筒体。
【請求項7】
円筒体が釣り竿である請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック製円筒体。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂硬化物は、エポキシ樹脂100重量部に対し、前記フラーレン類を0.001〜4重量部含むエポキシ樹脂組成物を硬化してなる請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化プラスチック製円筒体。
【請求項9】
繊維強化プラスチックのマトリックスは、25℃における粘度が10000mPa・s以下であるエポキシ樹脂を5〜80重量%含むエポキシ樹脂組成物を硬化してなる請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化プラスチック製円筒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−224172(P2007−224172A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47988(P2006−47988)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】