説明

繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法

【課題】 成形に要する作業時間の短縮化を図り、特に、最短の樹脂注入時間で強化繊維のもつ利点を十分に発揮した良質の成形品を容易に得る。
【解決手段】 成形型1上に強化繊維基材層2を形成し、注入樹脂の拡散を促進する樹脂拡散ネット4を強化繊維基材層2の上層に敷設して、これらの強化繊維基材層2および樹脂拡散ネット4をバッグフィルム6によって成形型上に気密に被覆して成形部を形成する。さらに、この成形部内を真空減圧する減圧ホース7を強化繊維基材層2の周囲に配設する。ここで、強化繊維基材層2の辺縁部から減圧ホース7までの距離Lは、50mm以上となるように設定する。そして、真空吸引による減圧環境下で注入管5から樹脂注入を行い、強化繊維基材層2に注入樹脂を含浸させて繊維強化樹脂成形品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で高強度な素材として繊維強化プラスチック(FRP)が各種産業分野で注目されており、中でも炭素繊維強化プラスチックはその優れた機械特性等から多用されつつある。そして、このような繊維強化プラスチックは、従来ハンドレイアップ成形法により形成されることが多かったが、比較的大型の成形品を製造するには好ましくなく、コストがかかるとともに、製造中にスチレン等が揮散する問題等もあって、近年では真空吸引による減圧環境下で成形を行う真空注入成形法が採用されつつある。
【0003】
この種の真空注入成形法については、例えば特許文献1にその基本的な技術が開示されており、成形型に繊維レイアップ層を配置し、この上に樹脂分配用の注入管を配設してバッグフィルムで包被するとともに、その周囲をシールして、真空吸引されたバッグフィルム内に未硬化の樹脂を注入して硬化させることにより成形品を得る構成とされている。
【特許文献1】特開平10−504501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の真空注入成形法は、各種の成形法の中でも薄肉の成形品を製造するのに適した技術であるので、ある程度厚みのある成形品や比較的大型の成形品を製造する場合には、前記従来の成形法では繊維レイアップ層に注入樹脂を均一に拡散させて、良好に含浸させることが困難となる。
【0005】
そこで、このような場合には、より真空圧を大きくしたり、樹脂分配用の注入管の配置本数を変えたりするなど、成形するものの大きさや形状に合わせて、注入樹脂を均一に拡散させるための試行錯誤を繰り返し、これにより品質の確保を図っていかなければならず、作業者の熟練度によるところが大きかった。
【0006】
また、前記のように成形する成形品の厚みや大きさが大きくなるほど、樹脂注入や真空吸引、注入樹脂の硬化に要する時間が長くなることは避けられず、効率よく最短の成形時間で成形品を得られるような方法を確立することが求められていた。
【0007】
本発明は、上記のような事情にかんがみてなされたものであり、成形に要する作業時間の短縮化を図り、特に、最短の樹脂注入時間で強化繊維のもつ利点を十分に発揮した良質の成形品を、作業者の熟練度によることなく得られるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、成形型上に強化繊維基材層を形成し、注入樹脂の拡散を促進する樹脂拡散ネットを前記強化繊維基材層の上層に敷設し、強化繊維基材層に樹脂注入するための注入管を配設するとともに、これらの強化繊維基材層、樹脂拡散ネットおよび注入管をバッグフィルムによって成形型上に気密に被覆し、このバッグフィルム内を減圧する減圧源に接続された減圧ホースを強化繊維基材層の周囲に配設して、真空吸引による減圧環境下で樹脂注入を行い、強化繊維基材層に注入樹脂を含浸させて得る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法であって、強化繊維基材層と樹脂拡散ネットとの間には、形成された成形品とバッグフィルムとの離型性を高める離型シートが介装されており、この離型シートの端部は少なくとも前記減圧ホースに接するように配設されていることを特徴とする。
【0009】
さらに具体的には、前記離型シートの端部は、減圧ホースの外周を覆うように配設されても、また、減圧ホースの下部に敷き込まれて配設されてもよい。
【0010】
このような発明により、離型シートのもつ通気性を利用して、減圧ホースによる空気の排気を円滑に行うことができる。これにより、バッグフィルム内の全体を均一に真空吸引して、成形部内を良好な真空状態とすることができ、注入樹脂の流動性を高めて含浸不良を生じることなく、樹脂注入に要する時間も短縮することができる。
【0011】
また、上記目的を達成するため、本発明は、成形型上に強化繊維基材層を形成し、注入樹脂の拡散を促進する樹脂拡散ネットを前記強化繊維基材層の上層に敷設し、強化繊維基材層に樹脂注入するための注入管を配設するとともに、これらの強化繊維基材層、樹脂拡散ネットおよび注入管をバッグフィルムによって成形型上に気密に被覆し、このバッグフィルム内を減圧する減圧源に接続された減圧ホースを強化繊維基材層の周囲に配設して、真空吸引による減圧環境下で樹脂注入を行い、強化繊維基材層に注入樹脂を含浸させて得る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法であって、真空吸引されたバッグフィルム内の圧力が0.035MPa以上となるように設定されることを特徴とする。
【0012】
より好ましくは、前記構成の真空注入成形方法において、真空吸引されたバッグフィルム内の圧力を0.06MPa以上とすることである。
【0013】
このような発明によれば、樹脂注入に最適な減圧環境下で良好に樹脂を強化繊維基材層に含浸させることができ、短時間で樹脂注入を完了させることができる。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明は、成形型上に強化繊維基材層を形成し、注入樹脂の拡散を促進する樹脂拡散ネットを前記強化繊維基材層の上層に敷設し、強化繊維基材層に樹脂注入するための注入管を配設するとともに、これらの強化繊維基材層、樹脂拡散ネットおよび注入管をバッグフィルムによって成形型上に気密に被覆し、このバッグフィルム内を減圧する減圧源に接続された減圧ホースを強化繊維基材層の周囲に配設して、真空吸引による減圧環境下で樹脂注入を行い、強化繊維基材層に注入樹脂を含浸させて得る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法であって、強化繊維基材層の辺縁部から減圧ホースまでの距離は、50mm以上となるように構成されたことを特徴とする。
【0015】
より好ましくは、前記構成の真空注入成形方法において、強化繊維基材層の辺縁部から減圧ホースまでの距離を、80mm以上とすることである。
【0016】
このような発明により、バッグフィルム内の減圧環境を良好に形成することができ、未含浸部位を生じることなく注入樹脂を強化繊維基材層に含浸させて、短時間で樹脂注入を完了させることができる。
【0017】
なお、注入樹脂としては、低粘度であれば特に限定されるものではなく、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。また、現行の樹脂の中では最も低粘度かつ高強度という理由から、ビニルエステル樹脂が好適である。
【発明の効果】
【0018】
上述のように構成される本発明の繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法によれば、注入樹脂を均一に拡散・含浸させて、成形品における樹脂の未含浸部位の発生を抑えつつ、効率よく良質な成形品を得ることができる。また、本発明によれば、成形に要する作業時間の短縮化を図って、特に、樹脂注入に要する時間を最短に抑えつつ、作業者の熟練度によらずとも、強化繊維のもつ利点を十分に発揮した成形品を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法を実施するための最良の形態について実施例を示して説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明に係る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法の実施例1について、図1〜図3を参照しつつ説明する。
【0021】
図1は、実施例1の繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法を模式的に示す上面視概略図、図2および図3は前記成形方法における部分断面図である。
【0022】
本実施例の繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法においては、まず成形型1の上にシート状の強化繊維基材を一枚または複数枚、交互に敷設して、適宜の厚みを有する強化繊維基材層2を形成する。敷設する強化繊維基材には、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維などの繊維からなる織物または不織布等が用いられる。
【0023】
次に、強化繊維基材層2を形成した成形型1の上に、離型シート(ピールプライ)3を重ねて敷設する。この離型シート3は、注入した樹脂が硬化した後、成形品の表面側を被覆している後述のバッグフィルム6との離型性を高めるものであり、注入樹脂に対して非接着性の材料からなるシート材であることが好ましい。
【0024】
次に、離型シート3の上に樹脂拡散ネット4を重ねて敷設する。樹脂拡散ネット4は、注入樹脂の拡散を促進するものであり、注入樹脂を強化繊維基材層2に偏りなく含浸させる樹脂流動抵抗の低い網目状のシート材を用いる。
【0025】
樹脂拡散ネット4は強化繊維基材層2の表面の大きさに対して適宜寸法だけ小さいものが好ましく、強化繊維基材層2の四周の辺縁部よりも内側に配設される。
【0026】
この樹脂拡散ネット4の上には、樹脂注入を行う注入管5を配設する。この注入管5としては、例えば断面中空の多孔導管や、長尺帯状部材を螺旋状に巻回して管状に形成した導管などが好ましく、粘着材料やシールテープ等を用いて固定する。
【0027】
このとき、強化繊維基材層2に対して注入樹脂を迅速に、かつ満遍なく均一に拡散させるために、注入管5を樹脂拡散ネット4上に一定方向に配設する。この注入管5の配設方向としては、例えば強化繊維基材層2に長辺と短辺とある場合には、注入管5を長辺方向に配設することによって、樹脂が強化繊維基材層2に流入する方向(注入管5の管軸方向に対して直交する方向)を短辺方向に設定し、流入に要する距離および含浸時間を短くする。
【0028】
続いて、これらの離型シート3、樹脂拡散ネット4、および注入管5を配設した成形型1を、バッグフィルム6で気密に被覆する。バッグフィルム6は、気密性および可撓性を有する合成樹脂製のフィルム材であれば特に限定されないが、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、PVC、ポリプロピレン等のフィルム材が利用できる。
【0029】
そして、成形型1の周縁部において、粘着材料やシールテープなどのシール材8を用いてバッグフィルム6を成形型1の表面に固着する。これにより、成形型1とバッグフィルム6との間を、気密かつ密閉された成形部として構成する。
【0030】
また、このように被覆するバッグフィルム6内において、強化繊維基材層2の周囲には減圧ホース7を配設している。減圧ホース7は、真空ポンプ等の減圧源に接続してあり、成形部内の空気を排気して所定の真空度まで減圧するものである。前記のバッグフィルム6は、この減圧ホース7の外側までを覆ってその内側を気密に保つように配設されている。
【0031】
樹脂注入にあたっては、減圧ホース7によりバッグフィルム6内(成形部内)を減圧し、真空状態にする。かかる真空吸引による減圧環境下で、注入管5から未硬化の樹脂を注入し、成形部内に拡散させる。この注入樹脂としては、例えば、低粘度系のビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が好ましい。注入樹脂は、樹脂拡散ネット4の上面の注入管5から成形部内に拡散される。
【0032】
本実施例においては、強化繊維基材層2と樹脂拡散ネット4との間に介装している離型シート3を、そのシート端部が少なくとも減圧ホース7に接するように配設することが好ましい。
【0033】
図2では、離型シート3の端部が減圧ホース7の外周を覆うように離型シート3の大きさを選択し、成形型1に配設している。こうすることで、強化繊維基材層2の周囲において、減圧ホース7とバッグフィルム6との間には離型シート3が挟み込まれることになる。
【0034】
バッグフィルム6は、当然、通気性がないため、減圧ホース7の周囲にあると空気の流れを阻害してしまいやすい。このため、例えば離型シート3を強化繊維基材層2とほぼ同寸の大きさにして強化繊維基材層2の表面に積層する場合や、強化繊維基材層2の厚み分だけ大きくして強化繊維基材層2の側面(厚さ)までを覆うように配設する場合など、離型シート3が減圧ホース7に接していない構成で成形を行うと、バッグフィルム6が減圧ホース7に密着することになる。
【0035】
これに対し、減圧ホース7とバッグフィルム6との間に離型シート3を介装しておくことで、離型シート3のもつ通気性を利用して、減圧ホース7による空気の排気を円滑に行うことが可能となる。
【0036】
したがって、図2に例示するように減圧ホース7の外周に巻き付けるように離型シート3を配設した場合には、成形型1と、強化繊維基材層2の辺縁部や減圧ホース7との間に空気の通り道が形成される。これにより、成形部内の真空吸引を容易にすることができ、効率よく減圧することができる。
【0037】
また、図3に例示するように、離型シート3の端部を、減圧ホース7の下部に敷き込むようにして配設してもよい。いずれの場合にも、成形部全体を均一に真空吸引することが可能になり、これにより注入樹脂の流動性を高めることができ、樹脂注入に要する時間を短縮することができる。
【0038】
樹脂注入後、成形部内に拡散した樹脂は、前記真空吸引によって強化繊維基材層2に含浸する。かかる真空吸引は、少なくとも強化繊維基材への樹脂含浸が完了するまで続けることが好ましい。そして、所定の加熱、あるいは放置による室温への冷却等によって注入樹脂を硬化させる。成形部内において注入樹脂が硬化することにより、強化繊維基材層と樹脂とが一体化し、成形品が得られる。成形型1から固化した成形品を脱型した後は、成形品の縁をトリミングして所望の成形品を得ることができる。
【実施例2】
【0039】
次に、本発明の実施例2について図4〜図6を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において前記実施例1と同様の構成となるものについては、説明が重複するのを避け、同符号を用いてその詳細な説明を省略するものとする。
【0040】
図4は、実施例2の繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法を模式的に示す上面視概略図である。
【0041】
図4に示すように、成形型1上には、強化繊維基材層2を形成し、この強化繊維基材層2の周囲には図示しない減圧源(真空ポンプ)に接続した減圧ホース7を配設する。さらに、強化繊維基材層2の上には離型シート(3)を配設しており、その上に注入樹脂の拡散を促進する樹脂拡散ネット4を敷設している。また、樹脂拡散ネット4の上には、強化繊維基材層2に樹脂注入するための注入管5を配設している。
【0042】
さらに、これらの強化繊維基材層2、離型シート、樹脂拡散ネット4および注入管5をバッグフィルム6によって成形型1上に気密に被覆する。樹脂注入にあたっては、減圧ホース7によりバッグフィルム6内(成形部内)を減圧し、真空状態にする。そして、かかる真空吸引による減圧環境下で、注入管5から未硬化の樹脂を注入し、成形部内に拡散させる。
【0043】
ここで、成形部内の圧力は、0.035MPa以上となるように真空吸引される。図5は、真空吸引時の成形部内の圧力を変化させたときの注入樹脂の含浸状態の評価と樹脂注入に要した時間の比較表であり、図6は、樹脂注入に要した時間と成形部内の圧力との関係を示すグラフである。
【0044】
これらの樹脂注入に要する時間の評価は、ガラスロービングクロス、およびガラスチョップストランドマットを積層して構成した強化繊維基材層2を用いて行い、その強化繊維基材層2の厚さを10mm、一辺の大きさWを346mmの正方形状としてすべて共通のものにより実施した。ガラスロービングクロスは、ガラス繊維フィラメントを集束したガラスストランドを引き揃えて形成したロービングを横糸として織物に構成された繊維基材である。また、ガラスチョップストランドマットは、ガラス繊維フィラメントを集束したガラスストランドを所定の長さに切断し、面内に配向させて形成されている。
【0045】
強化繊維基材層2の周囲に配設する減圧ホース7には8mmの管径のものを選択した。また、注入管5は樹脂拡散ネット4の中央部であって、注入管5の配設方向に平行な樹脂拡散ネット4の両辺縁部までの距離が均等となる位置に1本配設した。
【0046】
注入樹脂には、硬化剤が1%、硬化促進剤(ナフテン酸コバルト)が0.80%含まれたビニルエステル樹脂を用いた。また、室温は23℃、注入樹脂の温度は20℃とした。
【0047】
図5,6に示すように、成形部内の圧力を0.02MPaとしたときと、0.03MPaとしたときには、圧力不足のため強化繊維基材層2への注入樹脂の含浸状態が悪く、未含浸部位が発生した。また、圧力が0.02MPaでは注入樹脂の含浸が進まずに樹脂注入を終えることができず、0.03MPaでは樹脂注入に45分を要した。
【0048】
これに対し、成形部内の圧力を0.04MPa、0.05MPaとしたときには、いずれも注入樹脂の含浸状態が良好であり、樹脂注入に要した時間は25分以下であった。さらに、成形部内の圧力を0.06MPaとしたときには、良好な含浸状態であるとともに樹脂注入に要する時間を19分とすることができ、最短時間で樹脂注入を完了させることができた。
【0049】
成形部内の圧力を0.07MPa以上に設定したときも、注入樹脂の含浸状態および樹脂注入に要する時間に好ましい結果が得られたが、圧力が大きいため真空吸引により樹脂を真空ポンプ付近まで吸い込んでしまうおそれがあり、成形部内の最適な圧力環境は0.06MPaであることが確認できた。
【0050】
したがって、成形部内の圧力を0.035〜0.06MPaの範囲に管理することが求められ、これにより、短時間で効率よく、良質な成形品を得ることができる。
【実施例3】
【0051】
次に、本発明の実施例3について図7〜図9を参照しつつ説明する。なお、以下の説明においても、前記実施例1と同様の構成となるものについては、説明が重複するのを避け、同符号を用いてその詳細な説明を省略するものとする。
【0052】
図7は、実施例3の繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法を模式的に示す上面視概略図である。
【0053】
図7に示すように、成形型1上には、強化繊維基材層2を形成し、この強化繊維基材層2の周囲には減圧源(真空ポンプ)に接続した減圧ホース7を、強化繊維基材層2の辺縁部との距離Lを保って配設する。さらに、強化繊維基材層2の上層には、離型シート(3)、および注入樹脂の拡散を促進する樹脂拡散ネット4を順に敷設する。また、樹脂拡散ネット4の上には、強化繊維基材層2に樹脂注入するための注入管5を配設する。
【0054】
さらに、これらの強化繊維基材層2、樹脂拡散ネット4および注入管5をバッグフィルム6によって成形型1上に気密に被覆する。樹脂注入にあたっては、減圧ホース7によりバッグフィルム6内(成形部内)を減圧し、真空状態にする。そして、かかる真空吸引による減圧環境下で、注入管5から未硬化の樹脂を注入し、成形部内に拡散させる。
【0055】
本実施例においては、成形型1上における強化繊維基材層2の辺縁部から減圧ホース7までの距離Lを50mm以上となるように構成している。
【0056】
図8は、強化繊維基材層2の辺縁部から減圧ホース7までの距離Lを0mm〜150mmまで変化させたときの注入樹脂の含浸状態の評価と樹脂注入に要した時間の比較表であり、図9は、樹脂注入に要した時間と強化繊維基材層2の辺縁部から減圧ホース7までの距離との関係を示すグラフである。
【0057】
これらの樹脂注入に要する時間の評価は、ガラスロービングクロス、およびガラスチョップストランドマットを積層して構成した強化繊維基材層2を用い、その強化繊維基材層2の厚さを10mm、強化繊維基材層2の一辺の大きさWを346mmの正方形状としてすべて共通のものにより実施した。ガラスロービングクロスは、ガラス繊維フィラメントを集束したガラスストランドを引き揃えて形成したロービングを横糸として織物に構成された繊維基材である。また、ガラスチョップストランドマットは、ガラス繊維フィラメントを集束したガラスストランドを所定の長さに切断し、面内に配向させて形成されている。
【0058】
強化繊維基材層2の周囲に配設する減圧ホース7には8mmの管径のものを選択した。また、注入管5は樹脂拡散ネット4の中央部であって、注入管5の配設方向に平行な樹脂拡散ネット4の両辺縁部までの距離が均等となる位置に1本配設した。
【0059】
注入樹脂には、硬化剤が1%、硬化促進剤(ナフテン酸コバルト)が0.80%含まれたビニルエステル樹脂を用いた。また、室温は24℃、注入樹脂の温度は22℃とした。
【0060】
図8,9に示すように、強化繊維基材層2と減圧ホース7とが接した状態で両者を配設した場合は、強化繊維基材層2への注入樹脂の含浸状態が悪く、未含浸部位が発生した。また、強化繊維基材層2の辺縁部から減圧ホース7までの距離Lを20mmとした場合には、一部に注入樹脂の未含浸部位を生じ、樹脂注入に50分を要した。
【0061】
これに対し、強化繊維基材層2の辺縁部から減圧ホース7までの距離Lを40mmとしたとき、樹脂注入に48分要したものの、樹脂の含浸状態は良好となった。さらに距離Lを大きくして、60mmとしたときには樹脂の含浸状態が良好であるとともに樹脂注入に要する時間も35分と短縮され、距離Lを80mmとした場合には樹脂注入を30分で完了させることができた。
【0062】
また、強化繊維基材層2の辺縁部から減圧ホース7までの距離Lを80mmよりもさらに大きくしたときにも、良好な含浸状態が得られ注入時間も短縮されたが、距離Lが大きくなるのに比例して、成形型も大型化するため、100mm程度までの距離Lとすることが現実的である。
【0063】
したがって、強化繊維基材層2の辺縁部から減圧ホース7までの距離Lを50mm〜100mmの範囲に管理することが求められ、最適距離が80mmであり、これによって、短時間で効率よく、良質な成形品を得ることが可能となる。
【0064】
以上説明したように、本発明に係る真空注入成形方法をとることにより、樹脂注入に要する時間を短く管理しつつ、注入樹脂の良好な含浸状態が得られ、作業者の熟練度によらずに高品質の繊維強化樹脂成形品を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、短時間で高品質の繊維強化樹脂成形品を成形するのに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法の実施例1を示す上面視概略図である。
【図2】実施例1の成形方法を模式的に示す部分断面図である。
【図3】実施例1の成形方法の他の例を模式的に示す部分断面図である。
【図4】本発明に係る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法の実施例2を示す上面視概略図である。
【図5】実施例2において、真空吸引時の成形部内の圧力を変化させたときの注入樹脂の含浸状態の評価と樹脂注入に要した時間の比較表である。
【図6】実施例2において、樹脂注入に要した時間と成形部内の圧力との関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法の実施例3を示す上面視概略図である。
【図8】実施例3において、強化繊維基材層の辺縁部から減圧ホースまでの距離を変化させたときの注入樹脂の含浸状態の評価と樹脂注入に要した時間の比較表である。
【図9】実施例3において、樹脂注入に要した時間と強化繊維基材層の辺縁部から減圧ホースまでの距離との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1 成形型
2 強化繊維基材層
3 離型シート
4 樹脂拡散ネット
5 注入管
6 バッグフィルム
7 減圧ホース
8 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型上に強化繊維基材層を形成し、注入樹脂の拡散を促進する樹脂拡散ネットを前記強化繊維基材層の上層に敷設し、強化繊維基材層に樹脂注入するための注入管を配設するとともに、これらの強化繊維基材層、樹脂拡散ネットおよび注入管をバッグフィルムによって成形型上に気密に被覆し、このバッグフィルム内を減圧する減圧源に接続された減圧ホースを強化繊維基材層の周囲に配設して、真空吸引による減圧環境下で樹脂注入を行い、強化繊維基材層に注入樹脂を含浸させて得る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法であって、
強化繊維基材層と樹脂拡散ネットとの間には、形成された成形品とバッグフィルムとの離型性を高める離型シートが介装されており、この離型シートの端部は少なくとも前記減圧ホースに接するように配設されていることを特徴とする繊維強化樹脂成型品の真空注入成形方法。
【請求項2】
前記離型シートの端部は、減圧ホースの外周を覆うように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法。
【請求項3】
前記離型シートの端部は、減圧ホースの下部に敷き込まれて配設されていることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法。
【請求項4】
成形型上に強化繊維基材層を形成し、注入樹脂の拡散を促進する樹脂拡散ネットを前記強化繊維基材層の上層に敷設し、強化繊維基材層に樹脂注入するための注入管を配設するとともに、これらの強化繊維基材層、樹脂拡散ネットおよび注入管をバッグフィルムによって成形型上に気密に被覆し、このバッグフィルム内を減圧する減圧源に接続された減圧ホースを強化繊維基材層の周囲に配設して、真空吸引による減圧環境下で樹脂注入を行い、強化繊維基材層に注入樹脂を含浸させて得る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法であって、
真空吸引されたバッグフィルム内の圧力が0.035MPa以上となるように設定されることを特徴とする繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法。
【請求項5】
真空吸引されたバッグフィルム内の圧力が0.06MPa以上となるように設定されることを特徴とする請求項4に記載の繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法。
【請求項6】
成形型上に強化繊維基材層を形成し、注入樹脂の拡散を促進する樹脂拡散ネットを前記強化繊維基材層の上層に敷設し、強化繊維基材層に樹脂注入するための注入管を配設するとともに、これらの強化繊維基材層、樹脂拡散ネットおよび注入管をバッグフィルムによって成形型上に気密に被覆し、このバッグフィルム内を減圧する減圧源に接続された減圧ホースを強化繊維基材層の周囲に配設して、真空吸引による減圧環境下で樹脂注入を行い、強化繊維基材層に注入樹脂を含浸させて得る繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法であって、
強化繊維基材層の辺縁部から減圧ホースまでの距離は、50mm以上となるように構成されたことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法。
【請求項7】
強化繊維基材層の辺縁部から減圧ホースまでの距離は、80mm以上となるように構成されたことを特徴とする請求項6に記載の繊維強化樹脂成形品の真空注入成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−237604(P2007−237604A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64598(P2006−64598)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】