説明

繊維強化樹脂部材とその製造方法、および繊維織物の製造装置

【課題】少なくとも曲がり部を有するマンドレル外周において、長手方向糸を滑らせることなく配置することがき、もって長手方向糸と斜向糸がともに均一に配置された高品質な繊維強化樹脂部材とその製造方法、および該繊維強化樹脂部材のための繊維織物の製造装置を提供する。
【解決手段】長尺な繊維織物が、該繊維織物の長手方向に延びる複数の長手方向糸Q,…と、該長手方向に対して所定角度傾斜した複数の斜向糸P,…とが編み込まれて形成されており、該繊維織物に樹脂が含浸硬化してなる繊維強化樹脂部材1であり、この繊維強化樹脂部材1は少なくとも曲がり部1”とを有しており、曲がり部1”において、長手方向糸Q、…が長手方向に対してたとえば10〜15度の範囲の傾斜姿勢で螺旋巻きされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に車両のルーフサイドレールとして使用される繊維強化樹脂部材とその製造方法、および該繊維強化樹脂部材のための繊維織物を製造するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のAピラー(ルーフサイドレールとも言い、ドライバーから見て斜め前方に位置し、フロントウィンドウを支える左右両端の支柱)には静的な強度特性(たとえば曲げ剛性)と車両衝突時の耐クラッシュ特性の双方が要求されており、近時の高安全性および軽量化が追求されているハイブリッド車、電気自動車等に対しては、剛性と軽量化の双方を満足できる繊維強化樹脂部材が好適である。
【0003】
この繊維強化樹脂部材の一例として、炭素繊維強化プラスチック部材(CFRP)を挙げることができる。この繊維強化樹脂部材は、所定の引張強度等を備えた繊維糸を部材の長手方向に延びる長手方向糸と長手方向に対して所定の傾斜角の斜向糸とに使用して双方を編み込むことで多層の巻層構造を形成し、これに樹脂を含浸硬化させることで形成されている。この繊維強化樹脂部材において、曲げ剛性には長手方向糸が寄与しており、耐クラッシュ特性には互いに配向方向の異なる巻層構造が寄与している。
【0004】
上記するルーフサイドレールは、車両のフロントサイドからルーフに沿う形状、すなわち、直線部と曲がり部が連続した形状となっており、この形状に沿って長手方向糸と斜向糸とが巻装されている。
【0005】
ところで、上記する繊維強化樹脂部材を形成する繊維織物を製造するための方法が特許文献1に開示されている。具体的には、軸方向(長手方向)糸供給部とブレーダー糸供給部をそれぞれ装着した2つのブレーダーを有する製造装置を使用して、このブレーダー内で直線状のマンドレルを往復移動させながら、一方のブレーダーが駆動している間は他方の駆動を停止させる制御方法を実行することにより、軸方向(長手方向)糸とブレーダー糸の双方をマンドレル外周に巻装するものである。
【0006】
【特許文献1】特許第3215308号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示の装置では、直線状のマンドレルの外周において長手方向糸とブレーダー糸の双方を巻装することは可能である。しかし、上記ルーフサイドレールのごとく、曲がり部を有するマンドレル外周に長手方向糸を供給した場合に、この曲がり部では長手方向糸がマンドレル上を滑ってしまい、うまくマンドレル外周に均一に長手方向糸を配置することができない。曲がり部で長手方向糸が滑ってしまうと、ある箇所では長手方向糸が集中してしまい、別の箇所では長手方向糸が存在しないといった具合に部位ごとに織り密度が相違することとなり、この曲がり部が強度的弱部となってしまうことは必然である。
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、少なくとも曲がり部を有するマンドレル外周において、長手方向糸を滑らせることなく配置することがき、もって長手方向糸と斜向糸がともに均一に配置された高品質な繊維強化樹脂部材とその製造方法、および該繊維強化樹脂部材のための繊維織物の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による繊維強化樹脂部材は、長尺の繊維織物が、該繊維織物の長手方向に延びる複数の長手方向糸と、該長手方向に対して所定角度傾斜した複数の斜向糸とが編み込まれて形成されており、該繊維織物に樹脂が含浸硬化してなる繊維強化樹脂部材において、前記繊維強化樹脂部材は少なくとも曲がり部を有しており、前記曲がり部において、前記長手方向糸が長手方向に対して所定角度傾斜した姿勢で螺旋巻きされていることを特徴とするものである。
【0010】
この繊維強化樹脂部材は、たとえばその芯材となるマンドレルの外周に該マンドレルの長手方向に延びる長手方向糸からなる巻層とこの長手方向に対して所定角度傾斜してなる斜向糸(ブレーダー糸)からなる巻層とが相互に形成され、この2種類の巻層の組合せがたとえば複数組形成され、これら巻層間に熱硬化性の樹脂が含浸硬化してなるものである。
【0011】
使用されるマンドレルは鋼製、樹脂製など任意素材のものが使用されるが、部材形状によってはこのマンドレルが最終的に引抜かれることなく部材構成要素として残ることになる。なお、既述するAピラーとしてこの繊維強化樹脂部材が適用される場合には、このAピラーの形状が、単なる長尺な筒部材ではなく、例えばその一端が円形断面で中央が凹みを有する楕円形で他端がボルト締結プレートに漸近していく等の複雑形状を呈することから、芯材であるマンドレルはそのまま部材要素として残ることになる。この場合、部材全体の重量を可及的に軽量化すべく、当該マンドレルは軽量でかつ高強度なABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合合成樹脂)等から成形されているのが好ましい。
【0012】
本発明の繊維強化樹脂部材は少なくとも曲がり部を有するものであり、この曲がり部において巻装される長手方向糸が均一に配置されていることを特徴としており、当該均一配置を実現すべく、長手方向糸がこの曲がり部において部材の長手方向に対して所定角度傾斜して螺旋巻きされているものである。
【0013】
本発明者等の経験則および実験によれば、部材の曲がり部において長手方向糸を部材の長手方向に配置しようとするとこの長手方向糸はマンドレル外周を滑ってしまい、結果として均一な長手方向糸配置(均一な密度の長手方向糸)を有する部材を製造することが極めて困難であることが分かっている。
【0014】
そこで、本発明の繊維強化樹脂部材では、曲がり部において長手方向糸が部材の長手方向に対して所定角度に螺旋巻きされたものであり、この角度の好ましい範囲として、10度から15度の範囲を特定した。
【0015】
本発明者等の実験によれば、曲がり部における長手方向糸の角度が10度を下回るとやはりマンドレル上で長手方向糸が滑ってしまうこと、角度が15度を超えると今度は繊維強化樹脂部材の曲げ剛性が急激に低下することから、この加工性と部材強度の双方から上記角度範囲が特定されたものである。なお、部材の直線部における長手方向糸は部材の長手方向に配向した姿勢で配置されていることは言うまでもない。また、部材の長手方向に対する斜向糸の角度は45度程度に設定される。
【0016】
なお、当該繊維強化樹脂部材の強度特性に関し、その曲げ剛性(曲げ強度)は、長手方向糸の巻層からなる硬化樹脂層に依存するところが大きく、その耐クラッシュ(衝撃)性能は、斜向糸と長手方向糸の織り構造に依存するところが大きい。
【0017】
この繊維強化樹脂部材は、マンドレル外周に長手方向糸からなる巻層と斜向糸からなる巻層の組合せが複数組(たとえば4組)形成され、この繊維巻層内に熱硬化性の樹脂が含浸硬化して部材ができている。
【0018】
本発明の繊維強化樹脂部材によれば、これが曲がり部を有する場合でも、マンドレル外周で長手方向糸が滑り、不均一な長手方向糸の巻層が形成されるといった課題が解消される。また、曲がり部における長手方向糸の巻装に際しては、長手方向糸供給部を有するブレーダーの回転速度とマンドレルの移動速度をマンドレルの曲がり部外周にて長手方向糸が10〜15度程度の螺旋巻き角度で巻装されるように調整するだけでよく、曲がり部の加工によって部材全体の加工効率が低下するといった虞もない。
【0019】
また、本発明による繊維強化樹脂部材の製造方法は、少なくとも曲がり部を有するマンドレルに該マンドレルの長手方向に延びる長手方向糸と該長手方向に対して所定角度傾斜した斜向糸を供給することにより、複数の長手方向糸と複数の斜向糸とが編み込まれてなる長尺の繊維織物を製造する第1の工程と、該繊維織物に樹脂を含浸させ、硬化させることによって繊維強化樹脂部材を製造する第2の工程と、からなる繊維強化樹脂部材の製造方法において、前記第1の工程では、マンドレルの曲がり部に長手方向糸を長手方向に対して所定角度傾斜した姿勢で螺旋巻きすることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の製造方法は、上記のごとく曲がり部を有するマンドレル外周に長手方向糸からなる層および斜向糸からなる層をそれぞれ複数編み込んで形成した後に、熱硬化性樹脂を含浸硬化させるものであり、曲がり部において長手方向糸を均一に配置するためにこの曲がり部における長手方向糸の角度を部材の長手方向に対して所定角度螺旋巻きするものである。
【0021】
この螺旋巻きの角度は、既述するように、部材の長手方向に対して10〜15度の範囲で調整される。
【0022】
マンドレル外周に長手方向糸の巻層と斜向糸の巻層からなる組合せを所定数形成して中間体を製造し、これを所定のキャビティ空間を有する金型に移載して当該金型内にて熱硬化樹脂の含浸硬化を実行する。
【0023】
樹脂の含浸硬化方法としては、マンドレル外周に巻層が形成された中間体を金型内に載置し、キャビティ内を真空雰囲気としながら樹脂を充填して加圧成形する、公知のRTM法を適用することができる。なお、キャビティ内の真空吸引に先んじて、マンドレル内部に内圧を付与するための風船や多数のビーズを入れておくといった措置が講じられることもある。また、樹脂をキャビティ内に充填する代わりに、マンドレル外周に予め熱硬化性樹脂のフィルムを巻いておくことで熱処理にてこのフィルムが溶けて繊維巻層内に含浸するといった方法もある。
【0024】
さらに、本発明による繊維織物の製造装置は、長尺の繊維織物が、該繊維織物の長手方向に延びる複数の長手方向糸と、該長手方向に対して所定角度傾斜した複数の斜向糸とが編み込まれて形成されてなる、繊維織物を製造するための製造装置であって、間隔を置いて併設される第1、第2のブレーダーと、前記第1のブレーダーに装着され、斜向糸を供給するための第1のボビン、および、前記第2のブレーダーに装着され、長手方向糸を供給するための第2のボビンと、第2のブレーダーから第1のブレーダーへ向う方向を移動方向として、少なくとも曲がり部を有するマンドレルを第1、第2のブレーダーの内側で移動させる移動手段と、マンドレルの曲がり部においては第1、第2のブレーダーの双方を回転させる制御手段と、を具備するものである。
【0025】
本発明の製造装置は、従来のブレーダー機の構成とは異なり、長手方向糸を供給するボビンを有するブレーダー(第2のブレーダー)と、その前方に位置して斜向糸を供給するボビンを有するブレーダー(第1のブレーダー)とから大略構成されている。
【0026】
たとえば長手方向糸の巻層と斜向糸の巻層を形成する場合には、マンドレルの端部に長手方向糸と斜向糸の端部を巻き付け(またはテープ留め)し、第1のブレーダーは回転させ、第2のブレーダーは回転させない状態でマンドレルを移動させる。これにより、長手方向糸の巻層の上に同時に斜向糸の巻層を形成し、長手方向糸を斜向糸の巻層でマンドレル上に配置固定していく。
【0027】
マンドレルの曲がり部への巻層形成の際には、第2のブレーダーをゆっくり回転させながらマンドレルを移動させる。この際、第2のブレーダーの回転速度は、長手方向糸が10〜15度の傾斜角にて螺旋巻きされるようにマンドレルの移動速度と曲がり部の周長により決定される。
【0028】
マンドレルの曲がり部区間が終了して再度直線部に入った段階で第2のブレーダーの回転を止め、マンドレルの移動を継続することで直線部には部材の長手方向に長手方向糸が配置され、その上に第1のブレーダーにて形成された斜向糸の巻層が同時に形成される。
【0029】
ここで、斜向糸の巻層形成に際して、第1、第2のブレーダーの回転とは、ブレーダー内に多数のギアが関連した姿勢でそのリング方向に内蔵され、さらにリング方向にギヤの回転軸を避けるようなボビン移動溝が形成され、ギヤ同士の回転によってボビンが該移動溝内を移動しながら斜向糸を供給することにより、ブレーダー内を通過するマンドレル外周に斜向糸を巻装することである。
【0030】
また、製造装置には、マンドレルを位置決め固定し、これを上記のごとく移動させる移動手段とマンドレルの長手方向糸の形成と斜向糸の形成ごとに一方または両方のブレーダーを当該マンドレルの移動速度に応じた回転数で回転駆動制御する制御手段が装備されている。
【0031】
上記する本発明の製造装置により、マンドレル外周に所定数の長手方向糸の巻層および斜向糸の巻層を同時に形成することができる。特に、上記構成の製造装置を使用することで、マンドレルの曲がり部において長手方向糸を滑らせることなく、しかも効率的に該長手方向糸の巻層を形成することができる。
【0032】
この製造装置にて中間体を製造後、既述のように金型へ中間体を移載して樹脂の含浸硬化工程に移行する。
【発明の効果】
【0033】
以上の説明から理解できるように、本発明の繊維強化樹脂部材の製造方法、および繊維織物の製造装置によれば、曲がり部を有するマンドレル外周において、長手方向糸を滑らせることなく配置することができ、均一な密度の長手方向糸の巻層を効率的に形成することができる。また、本発明の繊維強化樹脂部材によれば、当該部材が曲がり部を有する場合でも、この曲がり部にて長手方向糸が均一に配置され、均一な密度で巻装されていることで、部材全体の曲げ強度特性に優れた繊維強化樹脂部材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の繊維強化樹脂部材が適用されるAピラーの車載位置を説明した図であり、図2は製造される繊維強化樹脂部材の一実施の形態の斜視図であり、図3は図2のIII−III矢視図である。図4は本発明の製造装置の一実施の形態の斜視図であり、図5は本発明の製造装置の側面図である。図6はマンドレルの全長に形成される長手方向糸の巻装態様を説明した図であり、図7はマンドレルの曲がり部における長手方向糸と斜向糸の巻装態様を説明した図であり、図8は部材の長手方向に対する長手方向糸の傾斜角を説明するための図である。なお、マンドレルの形状や繊維強化樹脂部材を形成する巻層の層数などは図示する実施の形態に限定されるものではない。
【0035】
本発明の繊維強化樹脂部材は、特にその曲げ強度や耐衝撃性能が要求される、車両のAピラーに好適である。このAピラーは、図1で示す車両Cの乗員前方左右に位置するフロントウィンドウの支持部材である。このAピラーに繊維強化樹脂部材1を適用することにより、上記する強度特性が十分に確保できることに加えて、その軽量さゆえに、近時のハイブリッド車等には特に好適と言える。
【0036】
図2は、Aピラーに適用される繊維強化樹脂部材1の一実施の形態を示したものである。この繊維強化樹脂部材1は単なる直線状の筒部材ではなく、これがAピラーに適用されるがゆえにその形状は直線部1’,1’aのみならず曲がり部1”をも有しており、さらには、車両を構成する他の部材との締結用プレート部1’’’をも有している。また、各部の断面形状も均一ではなく、直線部1’は円形断面を呈しており、直線部1’aは楕円形断面を呈しており、曲がり部1”は一部が内方へ窪んだ窪み部1”aを有する楕円形断面を呈しており、締結用プレート部1’’’は扁平断面を呈するとともにボルト孔をも有している。
【0037】
この繊維強化樹脂部材1の構成をその断面図で説明したものが図3である。繊維強化樹脂部材1は、芯材であるABS樹脂製のマンドレル1aと、その外周に巻装される長手方向糸からなる巻層1b、さらにその外周に巻装される斜向糸からなる巻層1c、その外周の長手方向糸からなる巻層1d、その外周の斜向糸からなる巻層1eから構成されており、各巻層内に熱硬化性樹脂が含浸硬化して繊維強化樹脂部材1が形成されている。なお、長手方向糸からなる巻層や斜向糸からなる巻層の層数は図示例に限定されるものではなく、それぞれ3層以上の層数であってもよい。
【0038】
上記繊維強化樹脂部材1の製造に際し、樹脂が含浸硬化される前の中間体(マンドレル外周に各巻層が形成された部材)を製造するための製造装置(ブレーダー機)100をその作動態様を含めて以下で説明する。
【0039】
図4は上記する製造装置100の概要を斜視図で説明した図であり、図5はこれを側面図で説明した図である。
【0040】
この製造装置100は、2つのブレーダーを有しており、第1のブレーダー10、第2のブレーダー20ともに円環状を呈しており、その中央開口をマンドレル1aが往復移動自在となっている。
【0041】
このブレーダー10,20は所定の間隔を置いて相互に配置され、双方の脚部には車輪15,15,22,22が取り付けられている。この車輪15,15の間、および車輪22,22の間には長尺の移動レール30が装着されており、移動レール30の両端から位置決め部材40,40が立ち上がっており、位置決め部材40,40の上端にてマンドレル1aが位置決め固定される。
【0042】
図示する姿勢において、ブレーダー10,20はその円環状部分で定義される平面内(矢印X1,X2に略直交する平面)を、不図示のサーボモータもしくはシリンダ機構にて、双方の間隔を保持した姿勢で移動可能に配置される。サーボモータもしくはシリンダ機構は、マンドレル1aが円環状部分に干渉しないように、すなわち、マンドレル1aが円環状部分の中央開口の略中心を通過するように、ブレーダー10,20を移動させる。ここで、車輪15,15および車輪22,22はそれぞれ、ブレーダー10,20との間隔が、サーボモータやシリンダ機構によりブレーダー10,20が移動されてもレール30に追従できるようになっていてもよい。また、マンドレル1aが位置決め固定された移動レール30は、車輪15,15と車輪22,22の少なくとも一方の回転駆動、または不図示の移動手段により、矢印X1,X2方向に移動できるようになっている。なお、マンドレル1aが円環状部分に干渉する虞がない程度の形状である場合は、サーボモータやシリンダ機構を省略してもよい。
【0043】
第1のブレーダー10の内部には、その周方向に多数のギヤが内蔵されており、そのギヤ回転軸11,…が図示されている。さらに、このギヤ回転軸11,…を回避するように8の字状に蛇行するボビン移動溝12が形成されており、この移動溝12に沿って斜向糸用のボビン13,…が移動しながら、マンドレル外周に斜向糸P,…を供給する。
【0044】
また、第1のブレーダー10,20それぞれの矢印X1の方向側には、不図示の支持手段で案内リング14が配置されている(ブレーダー20の矢印X1方向側の案内リング14は図5にのみ図示)。第1のボビン13、…、第2のボビン21、…から伸びる斜向糸P,…、長手方向糸Q,…がこの案内リング14にそれぞれ案内され、マンドレル外周に供給されるようになっている。
【0045】
図示する製造装置100には、不図示のコンピュータからの各種指令信号が有線もしくは無線回線で送信されるようになっており、当該コンピュータ内にはブレーダー10内のボビン13,…の移動速度やブレーダー20の回転速度、これらの移動速度や回転速度に関連するマンドレル1aの移動速度を制御するための制御部が内蔵されている。
【0046】
まず、マンドレル1aの外周に斜向糸P,…、長手方向糸Q,…からなる巻層を同時形成する際には、当該マンドレル1aを図4,5の右端まで移動させておき、この位置から左方向(X1方向)へ移動させる。なお、マンドレル1aの移動に先んじて、斜向糸P、長手方向糸Qの端部がマンドレル外周にテープ留めされる。
【0047】
このマンドレル1aの直線部における巻層形成においては、ブレーダー20を回転させずにブレーダー10のみ回転させ、マンドレル1aを移動させる。すなわち、マンドレル1aの外周には、その長手方向に長手方向糸Q,…が配置され、その上に斜向糸P,…が配置される。
【0048】
マンドレル1aがブレーダー10の前方の所定位置にきた時点で、ブレーダー20をゆっくり回転させる。この時点でブレーダー10はそのまま回転を続けている。
【0049】
このブレーダー20の回転速度(または回転数)は、マンドレル1aの移動速度に応じて調整されるものであるが、少なくとも、マンドレル1a外周にて長手方向糸Qが長手方向に対して10〜15度に螺旋巻きされるような回転速度に設定される。このブレーダー20の回転速度とマンドレル1aの移動速度の調整は上記する制御部にて実行される。
【0050】
長手方向糸の巻装が進み、マンドレル1aがさらに直線部1’aにきた時点でブレーダー20の回転が止まり、マンドレル1aの長手方向に長手方向糸Q,…が配置され、その上に斜向糸P,…が配置される。
【0051】
上記する一連の制御により、マンドレル1aの外周に長手方向糸Q,…、その上に斜向糸P,…が均一に巻装される。図6は、マンドレル外周に形成された長手方向糸の巻装態様の概要を示したものであり、直線部にはその長手方向に沿うように長手方向糸が配置され、曲がり部では螺旋巻きされた長手方向糸が配置される。
【0052】
ここで、ブレーダーの回転とは、図4のブレーダー10で示すと、第1のブレーダー10内でボビン13,…をボビン移動溝12,…に沿って移動させることである。このボビン13,…は、それぞれが蛇行し、右回り(図4のY1方向)の組みと左回り(図4のY2方向)の組みとが、相互に干渉しないタイミングで移動するものであり、マンドレル1aの移動に同期して所定の移動速度で複数のボビン13,…が移動することにより、たとえばマンドレル1aの長手方向に対して45度の角度で斜向糸P,…が巻装されることになる。ブレーダー20についても同じ構造であるが、マンドレル1aの曲がり部で回転する。
【0053】
図7はマンドレルの曲がり部における長手方向糸Qの巻装形態とその外周に形成される斜向糸Pの巻装形態を示したものである。螺旋巻きされた長手方向糸Qの外周に斜向糸Pが巻装されることにより、あるいはこの組合せが複数あることにより、長手方向糸と斜向糸とが編み込まれた巻装態様が形成される。
【0054】
上記する中間体を所定形状のキャビティ空間を有する金型に移載し、金型内にて熱硬化樹脂の含浸硬化を実行する。ここで、樹脂の含浸硬化方法としては、マンドレル外周に巻層が形成された中間体を金型内に載置し、キャビティ内を真空雰囲気としながら樹脂を充填して加圧成形する、公知のRTM法を適用することができる。
【0055】
[長手方向糸の部材の長手方向からの角度と曲げ部材としての弾性率に関する考察]
本発明者等は、長手方向糸の部材の長手方向からの角度(θ)と曲げ部材としての弾性率との関係を検証し、その結果を以下の表1のように特定した。なお、部材長手方向に対する角度θを図8にて図示している。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より、長手方向糸が0°の場合にそれが部材の曲げ剛性を最も高めることは明らかであり、15°を超えるとその弾性率は急激に落ちる傾向にあることも特定できる。
【0058】
一方、マンドレルの曲がり部にて長手方向糸の螺旋巻き角度を変化させながら加工性を検証した結果、角度θが10°を下回ると当該マンドレル外周で長手方向糸が滑ってしまい、その加工性が格段に低下するなることが特定された。
【0059】
よって、部材の曲げ剛性と加工性の観点から、マンドレルの曲がり部における長手方向糸の螺旋巻き角度は、部材の長手方向に対して10〜15°の範囲に設定されるのがよいと結論付けることができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の繊維強化樹脂部材が適用されるAピラーの車載位置を説明した図である。
【図2】製造される繊維強化樹脂部材の一実施の形態の斜視図である。
【図3】図2のIII−III矢視図である。
【図4】本発明の製造装置の一実施の形態の斜視図である。
【図5】本発明の製造装置の側面図である。
【図6】マンドレルの全長に形成される長手方向糸の巻装態様を説明した図である。
【図7】マンドレルの曲がり部における長手方向糸と斜向糸の巻装態様を説明した図である。
【図8】部材の長手方向に対する長手方向糸の傾斜角を説明するための図である。
【符号の説明】
【0062】
1…繊維強化樹脂部材、1a…マンドレル、1b,1d…長手方向糸の巻層、1c,1e…斜向糸の巻層、1’,1’a…直線部、1”…曲がり部、1’’’…締結プレート部、10…第1のブレーダー、11…ギヤ回転軸、12…ボビン移動溝、13…第1のボビン、14…案内リング、15…車輪、20…第2のブレーダー、21…第2のボビン、22…車輪、30…移動レール、40…位置決め部材、100…製造装置(ブレーダー機)、P…斜向糸、Q…長手方向糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の繊維織物が、該繊維織物の長手方向に延びる複数の長手方向糸と、該長手方向に対して所定角度傾斜した複数の斜向糸とが編み込まれて形成されており、該繊維織物に樹脂が含浸硬化してなる繊維強化樹脂部材において、
前記繊維強化樹脂部材は少なくとも曲がり部を有しており、
前記曲がり部において、前記長手方向糸が長手方向に対して所定角度傾斜した姿勢で螺旋巻きされていることを特徴とする、繊維強化樹脂部材。
【請求項2】
前記長手方向糸の傾斜角度が、長手方向に対して10度から15度の範囲である、請求項1に記載の繊維強化樹脂部材。
【請求項3】
少なくとも曲がり部を有するマンドレルに該マンドレルの長手方向に延びる長手方向糸と該長手方向に対して所定角度傾斜した斜向糸を供給することにより、複数の長手方向糸と複数の斜向糸とが編み込まれてなる長尺の繊維織物を製造する第1の工程と、
該繊維織物に樹脂を含浸させ、硬化させることによって繊維強化樹脂部材を製造する第2の工程と、からなる繊維強化樹脂部材の製造方法において、
前記第1の工程では、マンドレルの曲がり部に長手方向糸を長手方向に対して所定角度傾斜した姿勢で螺旋巻きすることを特徴とする、繊維強化樹脂部材の製造方法。
【請求項4】
前記長手方向糸の傾斜角度が、長手方向に対して10度から15度の範囲である、請求項3に記載の繊維強化樹脂部材の製造方法。
【請求項5】
長尺の繊維織物が、該繊維織物の長手方向に延びる複数の長手方向糸と、該長手方向に対して所定角度傾斜した複数の斜向糸とが編み込まれて形成されてなる、繊維織物を製造するための製造装置であって、
間隔を置いて併設される第1、第2のブレーダーと、
前記第1のブレーダーに装着され、斜向糸を供給するための第1のボビン、および、前記第2のブレーダーに装着され、長手方向糸を供給するための第2のボビンと、
第2のブレーダーから第1のブレーダーへ向う方向を移動方向として、少なくとも曲がり部を有するマンドレルを第1、第2のブレーダーの内側で移動させる移動手段と、
マンドレルの曲がり部においては第1、第2のブレーダーの双方を回転させる制御手段と、を具備する、繊維織物の製造装置。
【請求項6】
長尺の繊維織物が、該繊維織物の長手方向に延びる複数の長手方向糸と、該長手方向に対して所定角度傾斜した複数の斜向糸とが編み込まれて形成されてなる、繊維織物を製造するための製造装置であって、
間隔を置いて併設される第1、第2のブレーダーと、
前記第1のブレーダーに装着され、斜向糸を供給するための第1のボビン、および、前記第2のブレーダーに装着され、長手方向糸を供給するための第2のボビンと、
第2のブレーダーから第1のブレーダーへ向う方向を移動方向として、少なくとも曲がり部を有するマンドレルを第1、第2のブレーダーの内側で移動させる移動手段と、
マンドレルの直線部においては第1のブレーダーのみを回転させ、マンドレルの曲がり部においては第1、第2のブレーダーの双方を回転させる制御手段と、を具備する、繊維織物の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−39999(P2009−39999A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209901(P2007−209901)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】