説明

繊維強化透明樹脂組成物及びその製造方法並びに透明シート

【課題】透明性に優れると共に、強度及び寸法安定性も高い繊維強化透明樹脂組成物を提供する。
【解決手段】最大繊維径が100nm以下であり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比が2000以上である植物由来のセルロース繊維と、透明樹脂とを組み合わせて繊維強化透明樹脂組成物を調製する。前記セルロース繊維の平均繊維長は100〜500μmであってもよい。前記セルロース繊維は、平均繊維径が15〜80nmであり、かつ繊維径分布の標準偏差が80nm以下であってもよい。前記透明樹脂は、アクリル系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種の硬化性樹脂であってもよい。この繊維強化透明樹脂組成物で形成された透明シートは、タッチパネルの表示部を構成するシートであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含有する繊維強化透明樹脂組成物及びその製造方法並びに前記組成物で形成された透明シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶表示装置(LCD)やタッチパネルなどの表示装置の画面には、透明性や寸法安定性が高いガラス基板が使用されていたが、近年の表示装置の小型化や多様化に伴って、柔軟性が低く、薄肉化が困難なガラス基板に代わって透明プラスチックの使用が検討されている。しかし、プラスチックは、ガラスに比べて、耐熱性や寸法安定性が低いため、透明性を確保しつつ、耐熱性や寸法安定性などを保持するための強化材として、ナノメータサイズのセルロース繊維を配合した繊維強化樹脂組成物が提案されている。
【0003】
特開2005−60680号公報(特許文献1)には、平均繊維径が4〜200nmの繊維とマトリックス材料とを含有し、50μm厚換算における波長400〜700nmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料が提案されている。この文献には、平均繊維径が4〜200nmの繊維として、バクテリアセルロース、特に、離解処理されていない三次元交差構造を有するバクテリアセルロース構造体が好ましいと記載されている。また、この文献には、繊維強化複合材料中の繊維の含有率は10重量%以上、特に30重量%以上、とりわけ50重量%以上が好ましいと記載され、実施例における含有率は70重量%である。さらに、この文献には、マトリックス材料としては、非晶質でガラス転移温度の高い合成高分子が好ましいと記載され、実施例では、フェノール樹脂、アクリル樹脂が使用されている。
【0004】
また、特開2006−36926号公報(特許文献2)には、繊維集合体と、この繊維集合体に含浸されたマトリクス材料とを備える繊維強化複合材料であって、前記繊維集合体の走査電子顕微鏡画像を二値化して得た二値画像から作製した一方向ランレングス画像を統計解析して得られる、該繊維集合体の空孔領域に相当する明所領域の線分長さをLとしたとき、L≧4.5μmの線分の合計長さが、全解析長さの30%以下である繊維強化複合材料が提案されている。この文献には、前記繊維集合体として、平均繊維径4〜200nmのバクテリアセルロースが好ましいと記載されている。
【0005】
しかし、これらの複合材料では、繊維長が長く三次元的に交絡した繊維集合体を含むため、マトリックス材料中での繊維の分散性が低い上に、複合材料中における繊維の割合が大きいため、透明性が低い。さらに、繊維とマトリックス材料との相溶性も十分でない上に、バクテリアセルロースは、横断面形状が扁平な形状であり、繊維の分岐度も高いため、光散乱が発生してヘイズが高くなり、シートにもうねりや反りが発生し易い。また、バクテリアセルロースは、培養に長時間を要し、生産性が低い。なお、特許文献2には、バクテリアセルロースで構成された繊維集合体を更に細くするために、解離処理、解繊処理に供すると、短繊維が毛玉状やフィルム状に凝集することが記載されている。
【0006】
特開2006−241450号公報(特許文献3)には、セルロース繊維集合体とマトリックス材料とを備える繊維強化複合材料の製造方法であって、セルロース繊維集合体に含まれる水を親水性有機溶媒に置換する工程を含む製造方法が提案されている。この文献には、セルロース繊維集合体として、バクテリアセルロースの他、パルプを高圧ホモジナイザーで処理した後、さらにグラインダー等で繰り返し摩砕したセルロースも記載され、実施例では、針葉樹クラフトパルプをミクロフィブリル化した繊維径60nmのセルロース34重量%含む紫外線硬化型アクリル系樹脂組成物が記載されている。
【0007】
特開2008−24788号公報(特許文献4)には、ナノファイバーの不織布において、結晶セルロースを主成分とし、前記ナノファイバーシート中のリグニン含有量が10ppm以上10重量%以下であり、前記ナノファイバーシートにトリシクロデカンジメタクリレートを含浸後、20J/cmでUV硬化し、真空中、160℃で2時間熱処理させて得られる繊維樹脂複合材料であって、トリシクロデカンジメタクリレート硬化物の含有量が60重量%、ナノファイバーの含有量が40重量%の繊維樹脂複合材料が提案されている。この文献には、ナノファイバーとして、木粉をリグニン除去工程及びグラインダー処理工程を経て得られたセルロースナノファイバーが記載されている。さらに、この文献では、リグニン及びヘミセルロースを含まないコットン由来のセルロース及びバクテリアセルロースは比較例として記載されている。
【0008】
特開2009−155384号公報(特許文献5)には、セルロース繊維と、マトリクス材料としてのオキセタン樹脂及び光カチオン重合開始剤の残渣とを同一層内に含むセルロース繊維複合体が提案されている。この文献には、セルロース繊維の平均繊維径は4〜400nmが好ましく、平均繊維長さは100nm以上が好ましいと記載されている。
【0009】
特開2008−209595号公報(特許文献6)には、セルロースナノファイバーを含有するアセチル化セルロースからなる組成物を用いることを特徴とする光学フィルムの製造方法が提案されている。この文献には、セルロースナノファイバーの平均繊維径は4〜200nmが好ましく、繊維長は100nm以上であると記載されており、実施例では、針葉樹クラフトパルプを高圧ホモジナイザーで粉砕した後、グラインダーで処理して、平均繊維径150nm、平均繊維長450nmのセルロースナノファイバーが調製されている。
【0010】
しかし、特許文献3〜6の複合材料では、バクテリアセルロースを用いた材料は、特許文献1及び2と同様の問題を有しており、パルプや木粉を用いた材料は、セルロースナノファイバーの繊維径が不均一であり、大きな繊維径も含むため、透明性及び光学特性が十分でない。さらに、パルプや木粉を用いたセルロースは、繊維径に対する繊維長が短いため、機械的特性も十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−60680号公報(特許請求の範囲、段落[0056][0072][0104]、実施例)
【特許文献2】特開2006−36926号公報(特許請求の範囲、段落[0061])
【特許文献3】特開2006−241450号公報(特許請求の範囲、段落[0077]、実施例14)
【特許文献4】特開2008−24788号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献5】特開2009−155384号公報(特許請求の範囲、段落[0024][0025])
【特許文献6】特開2008−209595号公報(特許請求の範囲、段落[0014][0015]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、透明性に優れると共に、強度及び寸法安定性も高い繊維強化透明樹脂組成物及びその製造方法並びに前記組成物で形成された透明シートを提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、耐熱性に優れるとともに、ヘイズが小さく、光学特性に優れた繊維強化透明樹脂組成物及びその製造方法並びに前記組成物で形成された透明シートを提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、樹脂中にナノファイバーが均一に分散し、シート状に成形しても、反りやうねりを抑制できる繊維強化透明樹脂組成物及びその製造方法並びに前記組成物で形成された透明シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、最大繊維径100nm以下のナノメータサイズであり、かつ比較的長繊維である植物由来のセルロース繊維と、透明樹脂とを組み合わせることにより、繊維強化樹脂組成物の透明性を確保しながら、強度及び寸法安定性も向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の繊維強化透明樹脂組成物は、植物由来のセルロース繊維と透明樹脂とを含む繊維強化透明樹脂組成物であって、前記セルロース繊維が、最大繊維径が100nm以下であり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比が2000以上である。前記セルロース繊維の平均繊維長は100〜500μmであってもよい。前記セルロース繊維は、平均繊維径が15〜80nmであり、かつ繊維径分布の標準偏差が80nm以下であってもよい。前記セルロース繊維は、最大繊維径が30〜90nmであり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比が3000〜10000であってもよい。前記セルロース繊維は、木材繊維及び/又は種子毛繊維で構成されたネバードライパルプ由来のセルロース繊維であり、かつカッパー価が30以下であってもよい。前記セルロース繊維の横断面形状は、略等方形状であってもよい。前記セルロース繊維は、原料セルロース繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前記分散液をホモジナイズ処理するホモジナイズ工程を含む製造方法で得られる繊維であってもよい。前記透明樹脂は、硬化性アクリル系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種の硬化性樹脂であってもよい。特に、前記透明樹脂は、ヒドロキシル基を有する光硬化型多官能アクリル系樹脂、脂環式エポキシ樹脂であってもよい。前記セルロース繊維の割合は、透明樹脂100重量部に対して1〜50重量部であってもよい。
【0017】
本発明には、前記繊維強化透明樹脂組成物で形成された透明シートも含まれる。本発明の透明シートは、厚み60μmにおいて、波長400〜700nmの全光線透過率が80%以上であってもよい。本発明の透明シートは、タッチパネルの表示部を構成するシートであってもよい。
【0018】
本発明には、セルロース繊維で構成された不織布に透明樹脂を形成するための液状組成物を含浸させて硬化する前記透明シートの製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、最大繊維径が100nm以下であり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比が2000以上である植物由来のセルロース繊維と、透明樹脂とを組み合わせることにより、繊維強化樹脂組成物の透明性を確保しながら、強度及び寸法安定性も向上できる。この繊維強化透明樹脂組成物は、ナノファイバーの繊維が細くてかつ均一であるため、耐熱性に優れるとともに、ヘイズが小さく、光学特性にも優れる。さらに、樹脂中にナノファイバーが均一に分散しているため、シート状に成形しても、反りやうねりを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、ホモジナイザーを用いて繊維を含む分散液をホモジナイズ処理する工程を示す概略断面図である。
【図2】図2は、破砕型ホモバルブシートとホモバルブとの対向部分の拡大断面図である。
【図3】図3は、破砕型ホモバルブシートの斜視図である。
【図4】図4は、非破砕型ホモバルブシートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の繊維強化透明樹脂組成物は、植物由来のセルロース繊維と透明樹脂とで構成されている。
【0022】
[セルロース繊維]
本発明では、透明性が高く、光散乱を抑制でき、光学特性に優れるとともに、生産性にも優れる点から、セルロース繊維として、植物由来のセルロース繊維を用いる。本発明におけるセルロース繊維は、最大繊維径が100nm以下であるナノメータサイズの繊維であるが、天然の植物由来のセルロース繊維は、ミクロンオーダーであるため、通常、原料セルロース繊維をミクロフィブリル化することにより得られる。
【0023】
原料セルロース繊維としては、β−1,4−グルカン構造を有する多糖類である限り、特に制限されず、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など]、高等植物由来のセルロース繊維を化学的に合成したセルロース繊維[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステル;ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロースなど);カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロースなど);アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロースなど);再生セルロース(レーヨン、セロファンなど)などのセルロース誘導体など]などが挙げられる。なお、前記セルロース繊維は、用途に応じて、α−セルロース含有量の高い高純度セルロース、例えば、α−セルロース含有量70〜100重量%(例えば、95〜100重量%)、好ましくは98〜100重量%程度であってもよい。さらに、本発明では、リグニンやヘミセルロース含量の少ない高純度セルロースを使用することにより、木材繊維や種子毛繊維を使用しても、ナノメータサイズで、かつ均一な繊維径を有するセルロース繊維を調製できる。リグニンやヘミセルロース含量の少ないセルロース繊維は、特に、カッパー価(κ価)が30以下(例えば、0〜30)、好ましくは0〜20、さらに好ましくは0〜10(特に0〜5)程度のセルロース繊維であってもよい。なお、カッパー価は、JIS P8211の「パルプ−カッパー価試験方法」に準拠した方法で測定できる。これらの原料セルロース繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0024】
これらの原料セルロース繊維のうち、生産性などの点から、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)や種子毛繊維(コットンリンターパルプなど)などのパルプが汎用され、パルプを用いる場合、パルプは、機械的方法で得られたパルプ(砕木パルプ、リファイナ・グランド・パルプ、サーモメカニカルパルプ、セミケミカルパルプ、ケミグランドパルプなど)、または化学的方法で得られたパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプなど)などであってもよく、必要に応じて叩解(予備叩解)処理された叩解繊維(叩解パルプなど)であってもよい。なお、原料セルロース繊維は、慣用の精製処理、例えば、脱脂処理などが施された繊維(例えば、脱脂綿など)であってもよい。本発明では、原料繊維同士の絡まりを抑制し、ホモジナイズ処理による効率的なミクロフィブリル化を実現し、均一なナノメータサイズの微小繊維を得る観点から、ネバードライパルプ、すなわち乾燥履歴のないパルプ(乾燥することなく、湿潤状態を保持したパルプ)が特に好ましい。ネバードライパルプは、木材繊維及び/又は種子毛繊維で構成されたパルプであり、かつカッパー価が30以下(特に0〜10程度)のパルプであってもよい。このようなパルプは、木材繊維及び/又は種子毛繊維を塩素で漂白処理することにより調製してもよい。
【0025】
このような原料繊維をミクロフィブリル化して得られるセルロース繊維は、均一なナノメータサイズであり、ミクロンオーダーサイズの繊維を実質的に含有しない。すなわち、セルロース繊維の最大繊維径は100nm以下であり、例えば、20〜100nm、好ましくは30〜90nm、さらに好ましくは40〜80nm(特に50〜70nm)程度である。本発明では、最大繊維径が小さいため、透明性が高く、光散乱も抑制でき、低いヘイズを有する透明シートを調製できる。
【0026】
セルロース繊維の平均繊維径は、例えば、10〜90nm、好ましくは15〜80nm、さらに好ましくは20〜60nm(特に25〜50nm)程度である。さらに、繊維径分布の標準偏差は、例えば、80nm以下(例えば、1〜80nm)、好ましくは3〜50nm、さらに好ましくは5〜40nm(特に10〜30nm)程度である。
【0027】
なお、本発明において、前記平均繊維径、繊維径分布の標準偏差、最大繊維径は、電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径(n=20程度)から算出した値である。
【0028】
セルロース繊維の平均繊維長は10〜1000μm程度の範囲から選択できるが、繊維強化樹脂組成物の機械的特性を向上できる点から、例えば、100〜500μm、好ましくは110〜400μm、さらに好ましくは120〜300μm(特に130〜200μm)程度であってもよい。さらに、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)(平均アスペクト比)は2000以上であり、例えば、2000〜15000、好ましくは3000〜10000、さらに好ましくは4000〜8000(特に5000〜7000)程度である。本発明では、このように、ナノサイズの平均径を有するにも拘わらず、比較的長い繊維長及びアスペクト比を有するセルロース繊維を用いることにより、繊維同士が適度に絡み合うためか、寸法安定性や強度などの機械的特性に優れた樹脂組成物及びシートが得られる。
【0029】
セルロース繊維の横断面形状(繊維の長手方向に垂直な断面形状)は、バクテリアセルロースのような異方形状(扁平形状)であってもよいが、透明性や低ヘイズなどの光学特性の点から、略等方形状が好ましい。略等方形状としては、例えば、真円形状、正多角形状などであり、略円形状の場合、短径に対する長径の比(平均アスペクト比)は、例えば、1〜2、好ましくは1〜1.5、さらに好ましくは1〜1.3(特に1〜1.2)程度である。
【0030】
セルロース繊維の脱水時間は、API規格の脱水量に関する試験方法に準拠して、0.5重量%濃度の繊維スラリーを用いて測定したとき、例えば、1000秒以上であり、好ましくは1200〜10000秒、さらに好ましくは1500〜8000秒(特に1800〜7000秒)程度である。脱水時間が大きいほど、平均繊維長/平均繊維径比の高い繊維形状となり、保水力が高く、少量で機械的特性を向上できる。
【0031】
セルロース繊維は、水に対する分散性が高く、安定な分散液(又は懸濁液)を形成することができる。例えば、セルロース繊維を水に懸濁させて、2重量%濃度にした懸濁液の粘度は、3000mPa・s以上であり、好ましくは4000〜15000mPa・s、さらに好ましくは5000〜10000mPa・s程度である。粘度は、B型粘度計を用いて、ロータNo.4を使用し、60rpmの回転数で、25℃における見かけ粘度として測定される値である。なお、フィブリル化の程度が小さかったり、繊維径が大きいと、水への分散性が低下し、均一な懸濁液が得られず、粘度を測定することができない。
【0032】
[セルロース繊維の製造方法]
本発明では、セルロース繊維は、前述のように、植物由来の原料繊維をミクロフィブリル化することにより得られるが、詳細には、原料繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前記分散液をホモジナイズ処理するホモジナイズ工程を含む製造方法により得られる。本発明では、特に、以下に示す製造方法により原料セルロース繊維をミクロフィブリル化することにより、前述の細くて均一な繊維径を有し、かつ適度な平均アスペクト比を有するセルロース繊維を調製できる。
【0033】
(分散液調製工程)
原料繊維の平均繊維長は、例えば、0.01〜5mm、好ましくは0.03〜4mm、さらに好ましくは0.06〜3mm(特に、0.1〜2mm)程度であり、通常0.1〜5mm程度である。また、原料繊維の平均繊維径は、0.01〜500μm、好ましくは0.05〜400μm、さらに好ましくは0.1〜300μm(特に0.2〜250μm)程度である。
【0034】
溶媒としては、原料繊維に化学的又は物理的損傷を与えない限り特に制限されず、例えば、水、有機溶媒[アルコール類(メタノール、エタノール、2−プロパノール、イソプロパノールなどC1−4アルカノールなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジC1−4アルキルエーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテル(環状C4−6エーテルなど))、エステル類(酢酸エチルなどアルカン酸エステル)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトンなどのジC1−5アルキルケトン、シクロヘキサノンなどのC4−10シクロアルカノンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン系炭化水素類(塩化メチル、フッ化メチルなど)など]などが挙げられる。
【0035】
これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。また、これらの溶媒のうち、生産性、コストの点から、水が好適であり、必要により、水と水性有機溶媒(C1−4アルカノール、アセトンなど)との混合溶媒を用いてもよい。
【0036】
ホモジナイズ処理に供する原料繊維は、溶媒中に少なくとも共存した状態であればよく、ホモジナイズ処理に先だって、原料繊維を溶媒中に分散(又は懸濁)させてもよい。分散は、例えば、慣用の分散機(超音波分散機、ホモディスパー、スリーワンモーターなど)などを用いて行ってもよい。なお、前記分散機は、機械的撹拌手段(撹拌棒、撹拌子など)を備えていてもよい。
【0037】
原料繊維の溶媒中における濃度は、例えば、0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%(特に0.5〜3重量%)程度であってもよい。
【0038】
(ホモジナイズ工程)
ホモジナイズ工程について、図面を参照して説明する。図1は、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前記分散液をホモジナイズ処理する工程を示す概略図であり、図2は、破砕型ホモバルブシートとホモバルブとの対向部分の拡大断面図であり、図3は、破砕型ホモバルブシートの斜視図である。一方、図4は、非破砕型ホモバルブシートの斜視図である。
【0039】
ホモジナイザーは、中空円筒状インパクトリング6と、このインパクトリング6の上流側に挿入して配設されたホモバルブシート2の中空円筒状凸部2bと、前記インパクトリング6の下流側に、前記中空円筒状凸部2bと対向して挿入された円柱状ホモバルブ5とを備えており、前記中空円筒状凸部2bと前記円柱状ホモバルブ5とは同じ外径を有している。また、中空円筒状凸部2bの下流側の内壁は、下流方向に向かって拡がるテーパー部(傾斜面)2dを有し、中空円筒状凸部2bの下流端は、内径d及び端面の厚みtを有する薄肉のリング状端面2cを形成している。さらに、このリング状端面2cと前記ホモバルブ5と前記インパクトリング6とで小径オリフィス(間隙)4を形成している。
【0040】
本発明では、破砕型ホモバルブシート2を使用することが大きな特徴である。破砕型ホモバルブシート2は、内部に円筒状流路3を有する中空部材であり、流入口3aを有する中空円盤状本体部2aと、この円盤状本体部2aの内壁から下流方向に延出し、かつ流出口3bを有する中空円筒状凸部2bとで構成されている。さらに、破砕型ホモバルブシート2は、前述のように、内径が拡大するテーパー部2dを形成することにより、図4に示す一般的な(通常の)非破砕型ホモバルブシート12と比べて、流出口3bを形成するリング状端面2cの厚みを薄く形成している。
【0041】
このようなホモジナイザーによるホモジナイズ処理では、図1に示すように、原料繊維1を含む分散液は、破砕型ホモバルブシート2の流入口3aからホモバルブシート内の流路3に流入し、流路3を通過した後、小径オリフィス4を通過して、微小繊維7を含む分散液となる。詳しくは、ホモジナイザーによる処理では、高圧でホモジナイザー内を圧送される原料繊維1が、狭い間隙である小径オリフィス4を通過する際に、小径オリフィス4の壁面(特にインパクトリング6の壁面)と衝突することにより、剪断応力又は切断作用を受けて分割され、均一なナノメータサイズの微小繊維7となる。特に、ホモバルブシート内の流路3を通過した分散液がホモバルブシート2とホモバルブ5とで形成された間隙を通過する際に、分散液の流速が急激に上昇するのに伴って、流速の上昇に反比例して分散液の圧送圧力が急激に低下する。そのため、分散液の圧力差を大きくでき、前記間隙を通過した分散液のキャビテーションが激しくなり、小径オリフィス4内での壁面との衝突力の上昇や気泡の崩壊により原料繊維1の均一なミクロフィブリル化を実現していると推測できる。
【0042】
このようなミクロフィブリル化を効果的に行うために、破砕型ホモバルブシートの流出口を形成する壁部の端面の厚み(中空円筒状凸部の下流端のリング状端面)を薄くすることが重要であるが、具体的には、破砕型ホモバルブシートにおける中空円筒状凸部の下流端の内径dと、下流端のリング状端面の厚みtとの比を、前者/後者=100/1〜5/1、好ましくは80/1〜6/1(例えば、50/1〜8/1)、さらに好ましくは30/1〜10/1(特に20/1〜12/1)程度に調整する。両者の比率がこの範囲にあると、ホモバルブシートとホモバルブとの間隙を通過する分散液の圧力の急激な低下を実現でき、原料繊維をナノメータサイズで均一な繊維径に分割できる。流出口を形成する壁部の端面の厚みは、流出口の口径に応じて選択できるが、通常、0.01〜2mm、好ましくは0.05〜1.5mm、さらに好ましくは0.1〜1mm(特に0.2〜0.8mm)程度である。
【0043】
小径オリフィスの間隔又はクリアランス(特に、ホモバルブシート凸部の端面とホモバルブとの間隔)は、例えば、5〜50μm、好ましくは10〜40μm、さらに好ましくは15〜35μm(特に20〜30μm)程度である。
【0044】
このようなホモジナイザーにおいて、小径オリフィスを通過させるための圧力(又はホモジナイザーへ分散液を圧送する圧力(又は処理圧力))は、例えば、30〜200MPa程度の範囲から選択でき、好ましくは35〜150MPa、さらに好ましくは40〜140MPa程度であってもよい。本発明では、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーに対して、このような高い圧力で分散液を圧送することにより、ナノメータサイズの繊維径に分割できる。
【0045】
また、小径オリフィスへの通過と壁面への衝突とを繰り返して行うことにより、前記原料繊維の微小化の程度を適宜調整することができる。小径オリフィスを通過させる処理回数(又はパス回数)は、例えば、5〜100回程度の範囲から選択でき、好ましくは、10〜80回、さらに好ましくは12〜60回程度であってもよい。
【0046】
さらに、前記処理圧力は、処理回数に応じて選択してもよく、例えば、処理圧力が高圧処理(例えば、60〜200MPa、好ましくは80〜150MPa、さらに好ましくは100〜130MPa程度)の場合、処理回数は、例えば、5〜50回、好ましくは、10〜40回、さらに好ましくは12〜30回(特に、15〜25回)程度である。一方、処理圧力が低圧処理(例えば、20〜80MPa、好ましくは30〜70MPa、さらに好ましくは40〜60MPa程度)の場合、処理回数は、例えば、10〜100回、好ましくは、20〜80回、さらに好ましくは30〜70回(特に、40〜60回)程度である。
【0047】
一般的にホモジナイズ処理において、処理圧力が高すぎたり、処理回数が多すぎると、繊維が大きな剪断力を受け、繊維の切断、ねじれなどが生じ、繊維の特性が失われたり、フィブリル化が進行し、繊維同士の強固な絡み合いが生じるため、繊維の分散性が低下し易い。これに対して、本発明では、破砕型ホモバルブシートを用いることにより、これらの問題を解消できる。特に、原料繊維として、ネバードライパルプを用いると効果的である。
【0048】
ホモジナイズ工程では、非破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーを用いたホモジナイズ処理を組み合わせてもよい。特に、前記破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーによるホモジナイズ処理(特に60MPa以上の高圧処理)の前工程(予備工程)として、非破砕型ホモジナイザーを備えたホモジナイザーを用いてホモジナイズ処理してもよい。ホモジナイズ工程において、非破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前処理することにより、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーでの処理効率を向上できる。
【0049】
非破砕型ホモバルブシートでは、図4に示されるように、通常、ホモバルブシート12の中空円盤状本体部12aから延出する中空円筒状凸部12bの内壁にはテーパ部が形成されておらず、ホモバルブシートにおける中空円筒状凸部の下流端の内径と、下流端のリング状端面の厚みとの比は、通常、前者/後者=3/1〜1/1(特に2.5/1〜1.5/1)程度である。
【0050】
非破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーにおいて、小径オリフィスを通過させるための圧力(又はホモジナイザーへ分散液を圧送する圧力(又は処理圧力))は、例えば、30〜100MPa、好ましくは35〜80MPa、さらに好ましくは40〜70MPa程度であってもよい。パス回数は、例えば、10〜40回、好ましくは12〜30回、さらに好ましくは15〜25回程度であってもよい。
【0051】
(リファイナー工程)
本発明では、前記ホモジナイズ工程の前工程(予備工程)として、分散液をリファイナー処理してもよい。
【0052】
リファイナー処理では、ディスクリファイナー(シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナーなど)を使用することができる。前記ディスクリファイナーのディスククリアランスは、0.1〜0.3mm、好ましくは0.12〜0.28mm、さらに好ましくは0.13〜0.25mm(例えば、0.14〜0.23mm)程度であってもよい。
【0053】
ディスクの回転数は、特に制限されず、1,000〜10,000rpmの広い範囲から選択でき、例えば、1,000〜8,000rpm、好ましくは1,300〜6,000rpm、さらに好ましくは1,600〜4,000rpm程度であってもよい。
【0054】
前記リファイナー処理では、処理回数(パス回数)は、1〜20回、好ましくは、2〜15回、さらに好ましくは3〜10回(例えば、4〜9回)程度であってもよい。
【0055】
原料繊維の叩解処理の度合いは、ディスククリアランス及びリファイナー処理回数で調節することができる。ディスククリアランスが狭すぎたり、処理回数が多すぎると、原料繊維が大きな剪断力を受け、フィブリル化が進行し、ねじれや表面の荒れが生じ、繊維同士が絡まりやすくなり、リファイナー処理して得られたフィブリル化繊維の分散性が低下する。また、ディスククリアランスが広すぎると、原料繊維に加わる剪断力が小さくなり、未分割部分が残存する。
【0056】
[透明樹脂]
透明樹脂は、透明である限り、特に限定されず、例えば、オレフィン系樹脂(ポリプロピレン、脂環式ポリオレフィンなど)、アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチルなど)、スチレン系樹脂(ポリスチレンなど)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6など)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレートなど)、ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)などの熱可塑性樹脂であってもよいが、比較的長繊維のセルロース繊維に対して含浸可能であり、セルロース繊維が均一に分散した組成物を調製し易く、かつ耐熱性や寸法安定性などにも優れる点から、硬化性樹脂が好ましい。
【0057】
硬化性樹脂(又はその前駆体)は、例えば、熱や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)などにより反応する官能基を有する化合物であり、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋して樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成可能な種々の硬化性化合物が使用できる。これらのうち、生産性が高く、光学特性に優れた透明シートを形成し易い点から、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂が好ましい。
【0058】
硬化性樹脂としては、例えば、硬化性アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂などが挙げられる。これらのうち、透明性及び機械的特性に優れる点から、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂が特に好ましい。
【0059】
透明樹脂の屈折率は、例えば、1.4以上、好ましくは1.4〜1.6、さらに好ましくは1.45〜1.55程度であってもよい。
【0060】
(硬化性アクリル系樹脂)
硬化性アクリル系樹脂は、例えば、重合性アクリル系成分と重合開始剤とを含むアクリル系重合性組成物で構成されていてもよい。
【0061】
(A)重合性アクリル系成分
重合性アクリル系成分は、モノマー及びオリゴマー(又はプレポリマー)のいずれであってもよく、モノマー及びオリゴマーを組み合わせて使用してもよい。アクリル系モノマーには、例えば、1つの重合性基を有する単官能アクリル系モノマーと、少なくとも2つの重合性基を有する多官能アクリル系モノマーとに分類できる。多官能アクリル系モノマーには、2〜8程度の重合性基を有する多官能アクリル系モノマーが含まれる。
【0062】
単官能アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのC1−24アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;ジシクロペンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどの橋架け環式(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレートなどのアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC2−10アルキル(メタ)アクリレート又はC2−10アルカンジオールモノ(メタ)アクリレート;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレートなどのフルオロC1−10アルキル(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート;フェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアリールオキシ(ポリ)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのアリールオキシヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;グリセリンモノ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールモノ(メタ)アクリレート;2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基を有する(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらの単官能アクリル系モノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0063】
2官能アクリル系モノマーとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート;グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシテトラメチレンエーテルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンなどのビスフェノール類(ビスフェノールA、Sなど)のC2−4アルキレンオキサイド付加体のジ(メタ)アクリレート;脂肪酸変性ペンタエリスリトールなどの酸変性アルカンポリオールのジ(メタ)アクリレート;トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アダマンタンジ(メタ)アクリレートなどの橋架け環式ジ(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらの2官能アクリル系モノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0064】
3官能以上のアクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート;前記アルカンポリオールのC2−4アルキレンオキサイド付加体のポリ(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどのトリアジン環を有するトリ(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらの3官能以上のアクリル系モノマーは、通常、3〜8官能アクリル系モノマーであり、例えば、3〜6官能アクリル系モノマー(特に3〜4官能アクリル系モノマー)であってもよい。これらの3官能以上のアクリル系モノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0065】
アクリル系オリゴマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート[例えば、多価カルボン酸とポリオールと(メタ)アクリル酸及び/又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応により生成する脂肪族又は芳香族ポリエステル(メタ)アクリレートなど];アルキド樹脂;エポキシ(メタ)アクリレート[例えば、複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物(多価アルコール型、多価カルボン酸型、ビスフェノールA、F、Sなどのビスフェノール型、ノボラック型などのエポキシ樹脂)に(メタ)アクリル酸が開環付加したエポキシ(メタ)アクリレートなど];ウレタン(メタ)アクリレート[例えば、ポリエステル型ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル型(メタ)アクリレート、ポリカーボネート型(メタ)アクリレートなど];シリコーン(メタ)アクリレート[例えば、シリコーンジ乃至ヘキサ(メタ)アクリレートなど];ポリアクリル(メタ)アクリレート[例えば、(メタ)アクリル系単量体とグリシジル(メタ)アクリレートとの共重合体に(メタ)アクリル酸をエポキシ基に開環付加したポリアクリル(メタ)アクリレートなど];ポリエーテル(メタ)アクリレート[ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加体の(メタ)アクリレートなど];ポリブタジエン系(メタ)アクリレート;メラミン(メタ)アクリレート;ポリアセタール(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらのオリゴマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
重合性アクリル系成分は、硬化性の点から、少なくとも2つの重合性基を有する多官能アクリル系モノマー又はオリゴマー(多官能アクリル系成分)を含むアクリル系成分が好ましい。さらに、多官能アクリル系成分は、用途に応じて選択でき、例えば、セルロース繊維との相溶性及び密着性を高め、光学特性や寸法安定性を向上させる点から、ヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレートを用いてもよく、柔軟性を向上させる点から、ウレタン(メタ)アクリレートを用いてもよい。
【0067】
ヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、2官能(メタ)アクリレート[例えば、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールジ(メタ)アクリレート;前記アルカンポリオールのC2−4アルキレンオキサイド付加体のジ(メタ)アクリレートなど]、3官能以上の(メタ)アクリレート[例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、などのアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート;前記アルカンポリオールのC2−4アルキレンオキサイド付加体のポリ(メタ)アクリレートなど]などが挙げられる。これらのヒドロキシル基含有多官能(メタ)アクリレートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのヒドロキシル基含有多官能(メタ)アクリレートのうち、硬化性及び寸法安定性などに優れる点から、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基を有する3〜8官能(好ましくは3〜6官能、さらに好ましくは3〜4官能)(メタ)アクリレートが好ましい。
【0068】
ウレタン(メタ)アクリレートは、特に限定されず、例えば、ポリイソシアネート成分[又はポリイソシアネート成分とポリオール成分との反応により生成し、遊離のイソシアネート基を有するプレポリマー]に活性水素原子を有する(メタ)アクリレート[例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなど]を反応させることにより得られたウレタン(メタ)アクリレートであってもよい。
【0069】
ポリイソシアネート成分としては、脂肪族ポリイソシアネート[例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)などの脂肪族ジイソシアネート;1,6,11−ウンデカントリイソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネートなどの脂肪族トリイソシアネートなど]、脂環族ポリイソシアネート[例えば、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート、水添ビス(イソシアナトフェニル)メタンなどの脂環族ジイソシアネート;ビシクロヘプタントリイソシアネートなどの脂環族トリイソシアネートなど]、芳香族ポリイソシアネート[例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビス(イソシアナトフェニル)メタン(MDI)、トルイジンジイソシアネート(TODI)、1,3−ビス(イソシアナトフェニル)プロパンなどの芳香族ジイソシアネート;トリフェニルメタントリイソシアネートなどの芳香族トリイソシアネートなど]などが例示できる。これらのポリイソシアネート成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0070】
ポリオール成分としては、特に限定されず、例えば、低分子量ポリオール[脂肪族ポリオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレンエーテルグリコールなどのC2−10アルカンジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのC3−12脂肪族ポリオールなど)、脂環族ポリオール(1,4−シクロヘキサンジオールなどのシクロアルカンジオール類、水添ビスフェノールAなどの水添ビスフェノール類、又はこれらのC2−4アルキレンオキサイド付加体など)、芳香族ポリオール(キシリレングリコールなどの芳香脂肪族ジオール、ビスフェノールA、S、Fなどのビスフェノール類、又はこれらのC2−4アルキレンオキサイド付加体など)]、ポリマーポリオール類[例えば、ポリエーテルポリオール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリC2−4アルキレングリコールなど)、ポリエステルポリオール(アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとのポリエステルポリオールなど)、ポリカーボネートポリオール]などが挙げられる。これらのポリオール成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
ポリイソシアネート成分と活性水素原子を有する(メタ)アクリレート(又はポリオール成分)とは、通常、イソシアネート基と活性水素原子が略当量となる割合(イソシアネート基/活性水素原子=0.8/1〜1.2/1程度)で組み合わせて用いられる。
【0072】
なお、これらのウレタン(メタ)アクリレートの製造方法について、特開2008−74891号公報などが参照できる。
【0073】
ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において、ポリスチレン換算で、500〜10000、好ましくは600〜9000、さらに好ましくは700〜8000程度であってもよい。
【0074】
ヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレート又はウレタン(メタ)アクリレートは、硬度の調整や作業性などの点から、他の重合性アクリル系成分と組み合わせてもよい。他の重合性アクリル系成分としては、寸法安定性や強度を向上させる点から、脂環族又は芳香族(メタ)アクリレートであってもよく、一方、柔軟性を向上させる点から、(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートであってもよい。
【0075】
脂環族又は芳香族(メタ)アクリレートは、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの橋架け環式(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートなどであってもよい。
【0076】
(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートは、(ポリ)C2−6アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが汎用され、柔軟性などの点から、ポリC2−6アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(特に、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリC3−4アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート)が特に好ましい。オキシC3−4アルキレン単位の平均繰り返し数は、分子1分子当たり1.2〜30モル程度の範囲から選択でき、例えば、1.5〜20モル、好ましくは2〜10モル、さらに好ましくは2.5〜8モル(特に3〜5モル)程度であってもよい。
【0077】
さらに、他の重合性アクリル系成分は、セルロース繊維との親和性を向上させるために、ヒドロキシル基を有する単官能(メタ)アクリレート、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC2−6アルキル(メタ)アクリレートなどであってもよい。また、他の重合性アクリル系成分とともに、又は多の重合性アクリル系成分の代わりに、N−ビニルピロリドンなどの他の重合性ビニル系成分を用いてもよい。
【0078】
ヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレート又はウレタン(メタ)アクリレートと、他の重合性アクリル系成分との割合(重量比)は、前者/後者=100/0〜1/99程度の範囲から選択でき、例えば、前者/後者=90/10〜3/97、好ましくは70/30〜5/95、さらに好ましくは50/50〜10/90(特に30/70〜15/85)程度であってもよい。
【0079】
(B)重合開始剤
重合開始剤は、熱重合開始剤(ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物などの熱ラジカル発生剤)であってもよく光重合開始剤(光ラジカル発生剤)であってもよい。好ましい重合開始剤は、光重合開始剤である。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類(ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類など)、フェニルケトン類[例えば、アセトフェノン類(例えば、アセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンなど)、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノンなどのアルキルフェニルケトン類;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのシクロアルキルフェニルケトン類など]、アミノアセトフェノン類{2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノアミノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1など}、アントラキノン類(アントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンなど)、チオキサントン類(2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなど)、ケタール類(アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなど)、ベンゾフェノン類(ベンゾフェノンなど)、キサントン類、ホスフィンオキサイド類(例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなど)などが例示できる。これらの光重合開始剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0080】
重合開始剤の割合は、アクリル系成分100重量部に対して0.01重量部〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜2.5重量部程度である。なお、電子線などの高エネルギー線を使用する場合、重合開始剤は実質的に含んでいなくてもよい。
【0081】
光重合開始剤は、光増感剤と組み合わせてもよい。光増感剤としては、慣用の成分、例えば、第3級アミン類[例えば、トリアルキルアミン、トリアルカノールアミン(トリエタノールアミンなど)、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸アミルなどのジアルキルアミノ安息香酸アルキルエステル、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーズケトン)、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノンなどのビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノンなど]、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類、N,N−ジメチルトルイジンなどのトルイジン類、9,10−ジメトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセンなどのアントラセン類などが挙げられる。光増感剤は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0082】
光増感剤の使用量は、前記光重合開始剤100重量部に対して、例えば、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜80重量部程度であってもよい。
【0083】
(エポキシ系樹脂)
エポキシ系樹脂としては、慣用のエポキシ樹脂、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族エポキシ樹脂などが例示できる。
【0084】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂[例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン骨格を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂など]、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)、脂肪族型エポキシ樹脂(例えば、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロピレングリコールモノ乃至ジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールモノ乃至テトラグリシジルエーテルなど)、単環式エポキシ樹脂(例えば、レゾルシングリシジルエーテルなど)、複素環式エポキシ樹脂(例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、ヒダントイン型エポキシ樹脂など)、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンなどが挙げられる。
【0085】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、脂肪族カルボン酸グリシジルエステル(酢酸グリシジルエステル、酪酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステルなどの飽和C2−24脂肪族カルボン酸グリシジルエステルや、アジピン酸ジグリシジルエステル、ドデカン二酸ジグリシジルエステルなどの脂肪族ジカルボン酸ジグリシジルエステルなど)、不飽和カルボン酸グリシジルエステル[(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステルなどの不飽和C2−24脂肪族カルボン酸グリシジルエステルなど]、芳香族カルボン酸グリシジルエステル(安息香酸グリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸グリシジルエステルなど)、脂環族カルボン酸グリシジルエステル(テトラヒドロフタル酸グリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステルなど)などが挙げられる。
【0086】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、ビニルシクロペンタジエンジオキシド、ビニルシクロヘキセンモノ乃至ジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、3,4−エポキシ−1−[8,9−エポキシ−2,4−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3−イル]−シクロヘキサンなどのエポキシ−[エポキシ−オキサスピロC8−15アルキル]−シクロC5−12アルカン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートや4,5−エポキシシクロオクチルメチル−4′,5′−エポキシシクロオクタンカルボキシレートなどのエポキシC5−12シクロアルキルC1−3アルキル−エポキシC5−12シクロアルカンカルボキシレート、ビス(2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペートなどのビス(C1−3アルキルエポキシC5−12シクロアルキルC1−3アルキル)ジカルボキシレートなどが挙げられる。
【0087】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、アミン類(特にポリアミン類)とエピクロルヒドリンとの反応生成物、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン等が例示できる。
【0088】
長鎖脂肪族エポキシ樹脂しては、例えば、エポキシ化油脂(エポキシ化大豆油、エポキシ化ヒマシ油、エポキシ化アマニ油など)、エポキシ化脂肪酸アルキル(エポキシ化ステアリン酸メチル、エポキシ化ステアリン酸ブチル、エポキシ化ステアリン酸オクチルなどのエポキシ化C8−24脂肪酸C1−12アルキルなど)、エポキシ化ポリブタジエン、長鎖α−オレフィンオキシドなどが挙げられる。
【0089】
これらのエポキシ樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのエポキシ樹脂のうち、光学特性などの点から、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型であってもよいが、耐光性などの点から、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、4,5−エポキシシクロオクチルメチル−4′,5′−エポキシシクロオクタンカルボキシレートなどのエポキシC5−12シクロアルキルC1−3アルキル−エポキシC5−12シクロアルカンカルボキシレートなどの脂環式エポキシ樹脂が好ましい。
【0090】
硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤[例えば、脂肪族ポリアミン(エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミンなど)、脂環族ポリアミン(メンセンジアミン、イソホロンジアミンなど)、芳香族ポリアミン(キシレンジアミン、メタフェニレンジアミンなど)など]、ポリアミノアミド系硬化剤(例えば、ポリエチレンポリアミンと脂肪酸との縮物など)、酸及び酸無水物系硬化剤[例えば、脂肪族カルボン酸無水物(ドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物など)、脂環族カルボン酸無水物(メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミット酸)、芳香族カルボン酸無水物(無水フタル酸、無水トリメット酸など)など]、カチオン重合開始剤[例えば、ブレンステッド酸(例えば、HBF、HPF、HAsF、HSbFなど)のオニウム塩(例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨウドニウム塩など)など]などが例示できる。これらの硬化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの硬化剤のうち、前記アミン系硬化剤又はその変性物(エポキシ付加物、マンニッヒ反応物、ミカエル反応物、チオ尿素反応物など)などのアミン系硬化剤、芳香族スルホニウム塩などのカチオン重合開始剤が好ましい。
【0091】
エポキシ樹脂が光硬化性エポキシ樹脂の場合、光重合開始剤としては、前記カチオン重合開始剤などが利用できる。
【0092】
硬化剤の割合は、エポキシ樹脂100重量部に対して、例えば、1〜30重量部、好ましくは2〜20重量部、さらに好ましくは3〜15重量部(特に5〜10重量部)程度である。
【0093】
[繊維強化透明樹脂組成物]
本発明の繊維強化透明樹脂組成物(透明樹脂が硬化性樹脂の場合、硬化後の繊維強化透明樹脂組成物)は、セルロース繊維の含有量が比較的少ないにも拘わらず、高い寸法安定性や機械的強度を示す。セルロース繊維の割合は、透明樹脂100重量部に対して、例えば、1〜50重量部、好ましくは5〜40重量部、さらに好ましくは10〜30重量部(特に15〜25重量部)程度である。
【0094】
本発明の繊維強化透明樹脂組成物には、透明性を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤などの安定化剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤などを含有していてもよい。さらに、硬化前の繊維強化透明樹脂組成物は、有機溶媒、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などを含有していてもよい。
【0095】
本発明の繊維強化透明樹脂組成物(硬化前の繊維強化樹脂組成物)は、常温で固体であってもよいが、繊維強化樹脂の生産性などの点から、液体であるのが好ましい。液状の繊維強化透明樹脂組成物(透明樹脂が硬化性樹脂の場合、硬化性樹脂前駆体)の粘度(25℃)は、含浸効率を向上させる点から、例えば、10〜1000mPa・s、好ましくは50〜500mPa・s、さらに好ましくは100〜300mPa・s(特に150〜250mPa・s)程度である。
【0096】
本発明の繊維強化透明樹脂組成物(硬化後の繊維強化透明樹脂組成物)は、透明性にも優れており、JIS K7361−1に準拠して測定した波長400〜700nmの全光線透過率(厚み60μm)が80%以上であってもよく、例えば、80〜100%、好ましくは82〜99%、さらに好ましくは85〜98%(特に87〜95%)程度である。さらに、光散乱も抑制されており、JIS K7361−1に準拠して測定したヘイズ(厚み60μm)は30%以下であってもよく、例えば、0.1〜30%、好ましくは0.5〜20%、さらに好ましくは1〜15%(特に2〜10%)程度である。
【0097】
本発明の繊維強化透明樹脂組成物(硬化後の繊維強化透明樹脂組成物)は、寸法安定性にも優れており、JIS K7197に準拠して測定した線膨張係数が50ppm/K以下であってもよく、例えば、1〜40ppm/K、好ましくは5〜30ppm/K、さらに好ましくは10〜25ppm/K(特に15〜20ppm/K)程度である。
【0098】
[透明シート及びその製造方法]
本発明の透明シートは、前記繊維強化透明樹脂組成物で形成されており、通常、予めセルロース繊維で構成された不織布を製造した後、得られた不織布を、透明樹脂を形成するための液状組成物に含浸させて、前記液状組成物を硬化することにより得られる。
【0099】
不織布の製造方法は、特に限定されず、慣用の方法、例えば、湿式抄紙又は乾式抄紙などの抄紙により製造できる。湿式抄紙は、慣用の方法で行うことができ、例えば、手抄き抄紙器や多孔板などを備えた湿式抄紙機などを用いて抄紙してもよい。乾式抄紙も、慣用の方法、例えば、エアレイド製法、カード製法などを用いて抄紙することができる。
【0100】
得られた不織布は、例えば、1〜100μm、好ましくは3〜50μm、さらに好ましくは5〜30μm(特に10〜25μm)程度である。不織布は、目的とする透明シートの厚みに応じて複数の不織布を積層して使用してもよい。積層枚数は、例えば、2〜30枚程度の範囲から選択してもよく、例えば、3〜20枚(特に5〜15枚)程度であってもよい。不織布の積層は、液状組成物の含浸前、含浸後のいずれでもよいが、通常、液状組成物に含浸後に積層される。
【0101】
不織布の坪量は、例えば、0.1〜50g/m、好ましくは1〜30g/m、さらに好ましくは3〜20g/m程度であってもよい。不織布の空隙率は50%以上であってもよく、好ましくは50〜90%、さらに好ましくは60〜80%程度であってもよい。不織布の透気度は100秒/ml以上であり、好ましくは200〜1000秒/ml、さらに好ましくは300〜800秒/ml程度である。不織布の引張強度は、例えば、5N/15mm以上であり、好ましくは5.5〜15N/15mm、さらに好ましくは6〜10N/15mm(特に6.5〜8N/15mm)程度である。
【0102】
含浸方法は、不織布に対して、液状組成物を塗布や流延によりコーティングして含浸させてもよいが、簡便に透明樹脂を均一に含浸できる点から、液状組成物中に不織布を浸漬する方法が好ましい。含浸するための条件は、通常、常温(例えば、10〜40℃、好ましくは15〜35℃)程度の温度で浸漬され、常圧下で浸漬してもよいが、含浸効率を向上させるために、減圧下(例えば、0.9〜0.01MPa、好ましくは0.8〜0.1MPa程度の減圧下)で浸漬してもよい。浸漬時間は、例えば、1〜36時間、好ましくは2〜24時間、さらに好ましくは3〜20時間程度である。
【0103】
液状組成物(繊維強化透明樹脂組成物の前駆体)の硬化方法は、液状組成物の種類に応じて選択でき、液状組成物が硬化性樹脂(重合性組成物)の場合、重合開始剤の種類に応じて加熱して硬化させてもよいが、通常、加熱又は活性エネルギー線を照射することにより硬化できる。活性エネルギー線として、熱及び/又は光エネルギー線を利用でき、特に光エネルギー線を利用するのが有用である。光エネルギー線としては、放射線(ガンマー線、X線など)、紫外線、可視光線、電子線(EB)などが利用でき、通常、紫外線、電子線である場合が多い。特に、重合開始剤を使用せずに重合ができ、高い耐候性を有するシートを製造する場合には、電子線で照射してもよい。
【0104】
光源としては、例えば、紫外線の場合は、Deep UV ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、レーザー光源(ヘリウム−カドミウムレーザー、エキシマレーザーなどの光源)などを用いることができる。紫外線の照度は、塗膜の厚みにより異なるが、例えば、10〜500W/cm、好ましくは50〜300W/cm、さらに好ましくは100〜200W/cm程度である。紫外線の線速は、例えば、1〜20m/分、好ましくは2〜15m/分、さらに好ましくは3〜10m/分程度である。
【0105】
電子線の場合は、電子線照射装置などの露光源によって、電子線を照射する方法が利用できる。照射量(線量)は、塗膜の厚みにより異なるが、例えば、1〜200kGy(グレイ)、好ましくは5〜150kGy、さらに好ましくは10〜100kGy(特に20〜80kGy)程度である。加速電圧は、例えば、10〜1000kV、好ましくは50〜500kV、さらに好ましくは100〜300kV程度である。
【0106】
なお、活性エネルギー線(特に電子線)の照射は、必要であれば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中で行ってもよい。
【実施例】
【0107】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した硬化性樹脂の各成分の略号は下記の通りであり、実施例及び比較例で得られた不織布及び透明シートの評価は以下の方法で測定した。
【0108】
[硬化樹脂の各成分の略号]
EB8402:ダイセル・サイテック(株)製「EBECRYL8402」、2官能ウレタンアクリレート
PETIA:ダイセルサイテック(株)製、商品名「PETIA」、ヒドロキシル基を有する三官能アクリル系モノマー(ペンタエリスリトールトリアクリレート)
TPGDA:ダイセル・サイテック(株)製「TPGDA」、トリプロピレングリコールジアクリレート、プロピレンオキシド付加モル数(約3モル)
EB110:ダイセル・サイテック(株)製「EBECRYL110」、フェノキシエチルアクリレート
CEL2021:ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド2021」
CEL8000:ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド8000」
OXT−211:東亜合成(株)製「OXT−211」、オキタセン樹脂
OXT−221:東亜合成(株)製「OXT−221」、オキタセン樹脂
YX−8000:JER(株)製「YX−8000」、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂
光重合開始剤:チバ・ジャパン(株)製、「イルガキュア(Irgacure)184」
光カチオン重合開始剤:(株)アデカ製「SP170」
熱カチオン重合開始剤:三新化学工業(株)製「サンエイドSI−100L」、芳香族スルホニウム塩。
【0109】
[繊維径]
実施例及び比較例で得られた微小繊維について50000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、撮影した写真上において、写真を横切る任意の位置に2本の線を引き、線と交差する全ての繊維径をカウントして平均繊維径(n=20以上)を算出した。線の引き方は、線と交差する繊維の数が20以上となれば、特に限定されない。さらに、繊維径の測定値から、繊維径分布の最大繊維径を求めた。なお、最大繊維径が1μmを超えるセルロース繊維の場合には、5000倍のSEM写真を用いて算出した。
【0110】
[繊維長]
繊維長は、繊維長測定器(カヤーニ社製「FS−200」)を用いて測定した。
【0111】
[空隙率]
不織布の坪量(g/m)、厚み(μm)、セルロース比重(1.5)から下記式に基づいて算出した。
【0112】
空隙率(%)=[1−(坪量/厚み×1.5)]×100
[透気度]
JIS P8117に準拠して、ガーレー法で空気100mlが透気する時間を測定した。
【0113】
[液状組成物の粘度]
B型粘度計を用いて温度25℃で測定した。
【0114】
[全光線透過率及びヘイズ]
得られた不織布及び透明シートについて、ヘイズメーター(日本電色(株)製、商品名「NDH−5000W」)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。
【0115】
[引張強度]
JIS P8113に準じて、得られた不織布又は透明シートを幅15mm、長さ250mmの短冊状に裁断してサンプルとし、可変速引張試験機((株)東洋精機製作所製)により、チャック間隔100mm、引張速度20mm/分で、引張強度を測定した。引張強度の測定は、長さ方向(又は縦方向)について行った。
【0116】
[曲げ弾性率]
得られた透明シートについて、ISO178に準じて、曲げ弾性率(MPa)を測定した。
【0117】
[線膨張係数]
JIS K7197に準拠して、熱機械分析(TMA)装置を用いて測定した。
【0118】
[繊維含有率]
不織布の含浸に用いた浸漬液(液状組成物)において、含浸後に残存した浸漬液の量から逆算した。
【0119】
実施例1
NBKPパルプ(丸住製紙(株)製、固形分約50重量%、カッパー価約0.3)を用いて、パルプを1重量%の割合で含有するスラリー液を100リットル調製した。次いで、ディスクリファイナー(長谷川鉄工(株)製、SUPERFIBRATER 400−TFS)を用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして10回叩解処理し、リファイナー処理品を得た。このリファイナー処理品を、破砕型ホモバルブシート(中空円筒状凸部の下流端の内径/リング状端面の厚み=16.8/1)を備えたホモジナイザー(ゴーリン社製、15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで50回処理した。得られたセルロース繊維の平均繊維径、最大繊維径、平均繊維長、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)を表1に示す。
【0120】
さらに、得られた繊維スラリーを0.2重量%に希釈し、減圧装置付き抄紙マシーン(東洋精機製作所(株)製「200mm×250mmの標準角型マシン」)を用いて、No.5C濾紙を濾布として抄紙を行った。得られた湿潤状態の湿紙の両面に、吸い取り紙としてNo.5C濾紙を重ねた。次いで、抄紙体を超音波処理しながらイソプロピルアルコールに10分間浸漬して溶媒置換した。さらに、新しいNo.5C濾紙で両面を挟んだ。その後、表面温度が100℃に設定されたドラムドライヤ(熊谷理機工業(株)製)に貼り付けて120秒間乾燥した。得られた不織布の厚み、坪量、空隙率、引張強度、全光線透過率、ヘイズ、透気度を表1に示す。
【0121】
含浸用の樹脂として、ウレタンアクリレート(EB8402)20重量部、ポリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)80重量部、光重合開始剤1重量部を混合し、得られた混合液500mlを金属製バットに充填した。混合液(硬化樹脂前駆体)の粘度は210mPa・sであった。
【0122】
前記不織布を混合液が充填された金属バットに静かに浸漬し、常温減圧下(0.7MPa)で12時間浸漬した。混合液を含浸した不織布を金属製バットから取り出し、余分な含浸液を切ってから、ポリエステル製フィルムで挟み、紫外線を照射した。紫外線の照射条件は、照度160W/cm、線速6m/分、照射ゾーン50cmであった。紫外線を照射後、ポリエステル製フィルムを剥離し、セルロース繊維強化透明樹脂組成物で形成された透明シートを得た。得られた透明シートの繊維含有率、全光線透過率、ヘイズ、引張強度、曲げ弾性率、線膨張係数を表1に示す。
【0123】
実施例2
含浸用樹脂として、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETIA)21重量部、ポリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)79重量部、光重合開始剤1重量部を混合する以外は実施例1と同様にして透明シートを得た。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0124】
実施例3
含浸用樹脂として、ウレタンアクリレート(EB8402)20重量部、フェノキシエチルアクリレート(EB110)80重量部、光重合開始剤1重量部を混合する以外は実施例1と同様にして透明シートを得た。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0125】
実施例4
含浸用樹脂として、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETIA)17重量部、フェノキシエチルアクリレート(EB110)83重量部、光重合開始剤1重量部を混合する以外は実施例1と同様にして透明シートを得た。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0126】
実施例5
実施例1と同様にして、混合液を含浸した不織布を作製し、余分な含浸液を切った後、混合液を含浸した不織布を10枚積層し、ポリエステル製フィルムで挟み、表面及び裏面交互に合計で20回照射する以外は実施例1と同一の照射条件で紫外線を照射した。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0127】
実施例6
含浸用樹脂として、脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド2021」)100重量部、熱カチオン重合開始剤(三新化学工業(株)製「サンエイドSI−100L」)0.6重量部を混合し、得られた混合液500mlを金属製バットに充填した。混合液(硬化樹脂前駆体)の粘度は15mPa・sであった。
【0128】
実施例1で得られた不織布を混合液が充填された金属バットに静かに浸漬し、常温減圧下(0.7MPa)で12時間浸漬した。混合液を含浸した不織布を金属製バットから取り出し、余分な含浸液を切ってから、離型スプレー処理されたステンレス板に挟み、65℃で2時間加熱し、次いで150℃、10MPaの圧力下で1時間加熱した。加熱処理後、ステンレス板を剥離し、セルロース繊維強化透明樹脂組成物で形成された透明シートを得た。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0129】
実施例7
含浸用樹脂として、脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド2021」)の代わりに、脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド8000」)を用いる以外は実施例6と同様にして透明シートを得た。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0130】
比較例1
抄紙前の繊維スラリーとして、セルロース繊維(ダイセル化学工業(株)製、セリッシュKY100G)の0.2重量%スラリーを使用する以外は実施例1と同様にして透明シートを得た。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0131】
比較例2
セルロース繊維(ダイセル化学工業(株)製、セリッシュKY100G)を石臼で20回(20パス)処理した。このセルロース繊維を用いて0.2重量%のスラリーを調製し、実施例1と同様にして不織布及び透明シートを得た。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0132】
比較例3
特開2005−60680号公報の製造例3に準拠してセルロースナノファイバーを調整した。すなわち、NBKPパルプ(丸住製紙(株)製、固形分約50重量%、カッパー価約0.3)を用いて、パルプを1重量%の割合で含有するスラリー液を100リットル調製した。次いで、ディスクリファイナー(長谷川鉄工(株)製、SUPERFIBRATER 400−TFS)を用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして10回叩解処理し、リファイナー処理品を得た。このリファイナー処理品をグラインダー(栗田機械作成所(株)製「ピュアファインミルKMG1−10」)を用いて、ほぼ接触させた状態の1200rpmで回転するディスク間を、中央から外に向かって通過させる操作を30回(30パス)行った。
【0133】
さらに、得られた繊維スラリーを0.2重量%に希釈し、実施例1と同様に抄紙して不織布を製造した後、樹脂を含浸して透明樹脂を得た。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0134】
比較例4
特開2009−155384号公報の実施例1に準拠して透明シートを製造した。すなわち、米松木粉((株)宮下木材製)を炭酸ナトリウム2重量%水溶液で80℃にて6時間脱脂した。この木粉を脱塩水で洗浄した後、0.66重量%の亜塩素酸ナトリウム、0.14重量%の酢酸水溶液に80℃にて5時間浸漬してリグニン除去を行った。脱塩水洗浄した後、濾過し、回収した精製セルロースを脱塩水で洗浄後、5重量%の水酸化カリウム水溶液に16時間浸漬してヘミセルロース除去を行った。さらに、脱塩水洗浄した後に、0.5重量%の水懸濁液とし、超高圧ホモジナイザー(アルティマイザー;スギノマシーン社製)処理を行った。処理時の圧力は245MPaで、10回行った。
【0135】
得られたセルロース分散液を0.2重量%に水で希釈し、孔径1μmのPTFEを用いた90mm径の濾過器に100g投入し、固形分が約5重量%になったところで2−プロパノールを投入して水と置換した。その後、120℃、0.15MPaにて5分間プレス乾燥して、セルロース不織布を得た。得られたセルロース不織布を100mlの無水酢酸に含浸して100℃にて7時間加熱した。その後、蒸留水でよく洗浄し、最後に2−プロパノールに10分浸した後、120℃、0.15MPaにて5分間プレス乾燥して、厚み62μmのアセチル化セルロース不織布を得た。
【0136】
この不織布を用いて、含浸用樹脂として、オキセタン樹脂(OXT−211)50重量部、オキタセン樹脂(OXT−221)40重量部、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂(YX8000)10重量部及び光カチオン重合開始剤5重量部を混合する以外は実施例1と同様にして透明シートを得た。得られた透明シートの評価結果を表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
表1の結果から明らかなように、実施例の透明シートは、全光線透過率が高くてヘイズが低く、繊維含有率が低いにも拘わらず、機械的特性及び寸法安定性が高い。一方、比較例の透明シートは、光学特性と機械的特性とを両立できない。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の繊維強化透明樹脂組成物及び透明シートは、透明でかつ機械的特性にも優れるため、パーソナルコンピューター、テレビ、携帯電話、遊技機器、モバイル機器、時計、電卓などの電気・電子又は精密機器の表示部、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイ装置、有機又は無機EL表示装置などの表示装置の表示部を構成する透明シートとして利用できる。なかでも、本発明の透明シートは、樹脂で構成され、可撓性を有するため、タッチパネルの表示部を構成するシート(特に、上部電極側に位置するシート)として有用である。
【符号の説明】
【0140】
1…原料繊維
2…破砕型ホモバルブシート
3…破砕型ホモバルブシートの流路
4…小径オリフィス
5…ホモバルブ
6…インパクトリング
7…微小繊維
12…非破砕型ホモバルブシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のセルロース繊維と透明樹脂とを含む繊維強化透明樹脂組成物であって、前記セルロース繊維が、最大繊維径が100nm以下であり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比が2000以上である繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項2】
セルロース繊維の平均繊維長が100〜500μmである請求項1記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項3】
セルロース繊維の平均繊維径が15〜80nmであり、かつ繊維径分布の標準偏差が80nm以下である請求項1又は2記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項4】
セルロース繊維の最大繊維径が30〜90nmであり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比が3000〜10000である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項5】
セルロース繊維が、木材繊維及び/又は種子毛繊維で構成されたネバードライパルプ由来のセルロース繊維であり、かつカッパー価が30以下である請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項6】
セルロース繊維の横断面形状が略等方形状である請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項7】
セルロース繊維が、原料セルロース繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前記分散液をホモジナイズ処理するホモジナイズ工程を含む製造方法で得られる請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項8】
透明樹脂が、硬化性アクリル系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種の硬化性樹脂である請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項9】
透明樹脂が、ヒドロキシル基を有する光硬化型多官能アクリル系樹脂である請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項10】
透明樹脂が、脂環式エポキシ樹脂である請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項11】
セルロース繊維の割合が、透明樹脂100重量部に対して1〜50重量部である請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化透明樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化透明樹脂組成物で形成された透明シート。
【請求項13】
厚み60μmにおいて、波長400〜700nmの全光線透過率が80%以上である請求項12記載の透明シート。
【請求項14】
タッチパネルの表示部を構成するシートである請求項13記載の透明シート。
【請求項15】
セルロース繊維で構成された不織布に透明樹脂を形成するための液状組成物を含浸させて硬化する請求項12〜14のいずれかに記載の透明シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25833(P2012−25833A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165139(P2010−165139)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】